JP2008247765A - Nfat2発現抑制剤および破骨細胞形成抑制剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】骨代謝異常疾患の治療薬となり得るNFAT2発現抑制剤および破骨細胞形成抑制剤を提供する。また当該破骨細胞形成抑制剤を探索するスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】本発明のNFAT2発現抑制剤および破骨細胞形成抑制剤は、いずれもスフィンゴシンキナーゼ阻害剤を有効成分とする。また、破骨細胞形成抑制剤のスクリーニング方法は、スフィンゴシンキナーゼの阻害活性を有する被験物質を破骨細胞形成抑制剤として選択する工程を有するように構成される。
【選択図】なし

Description

本発明は、破骨細胞分化過程における転写因子であるNFAT2の発現を抑制する方法ならびに当該NFAT2の発現を抑制する物質(NFAT2発現抑制剤)に関する。また、本発明は、破骨細胞の形成を抑制する方法ならびに当該破骨細胞の形成を抑制する物質(破骨細胞形成抑制剤)に関する。さらに本発明は、上記の方法を利用して、NFAT2の発現亢進または破骨細胞形成亢進に起因して生じる骨代謝異常疾患の予防または治療剤、ならびに当該疾患の予防または治療に有効な成分をスクリーニングする方法に関する。
骨は、生体の支持組織であると同時に、骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収が絶えず繰り返されている動的組織である。通常は、骨形成と骨吸収のバランスが保たれているが、骨芽細胞と破骨細胞の機能バランスに異常が生じると、この動的平衡状態が破綻し、様々な骨疾患を引き起こす。骨疾患としては、例えば、閉経後骨粗鬆症、老人性骨粗鬆症、ステロイド治療による骨粗鬆症、慢性関節リウマチ、変形関節炎、関節炎、変形性腰椎症、全身性エリテマトーデス、糖尿病における骨減少症、慢性腎不全における骨密度低下、骨大理石病等を挙げることができる。これらの骨疾患に罹患すると、その進行に伴って身体活動能力が低下し、ひいては腰痛・関節痛等の痛みを伴い、日常生活に支障をきたす場合も多い。近年、高齢化に伴って骨粗鬆症等の骨疾患が注目されつつあり、QOL(Quality of life)向上のためにも、患者の症状に合わせた治療を行うべく、多様な治療薬が求められている。
従来、骨粗鬆症の治療法としては、カルシウム剤の直接投与、カルシトニン、ビスホスホネートの使用、副甲状腺ホルモン、成長ホルモンなどのホルモン剤の投与、ビタミンD3の投与などが行われてきたが、いずれも決定的な治療方法とはいえない。カルシウム剤は非常に大量に摂取する必要があり、カルシトニンは抗体の出現や経口投与が不可能であり、ホルモン剤は副作用が強く、ビタミンD3は効果が低いという欠点があった。また、破骨細胞分化因子(Receptor activator of NF-κB ligand、以下「RANKL」ともいう)に対する抗RANKL抗体なども候補にあがっているが、タンパク質の場合には抗原性の問題や経口投与できないといった問題がある。そこで、新規な骨粗鬆症の治療薬の開発が求められていた。
骨粗鬆症は骨吸収と骨再生のバランスが崩れ、骨分解を担う破骨細胞の形成が亢進することによって引き起こされる。この成熟破骨細胞は多核の細胞であるが、細胞が融合する過程でNFAT2(NFATc1)遺伝子が必須であることが知られている(特許文献1参照)。そこでNFAT2遺伝子の発現を抑制することができれば、破骨細胞の成熟を抑制でき、骨粗鬆症を予防または治療できる可能性がある。かかるシグナル伝達を利用して破骨細胞形成を抑制する技術としては、Ca2+シグナル伝達を促進または制御する方法(特許文献1参照)、IFNシグナル伝達を促進または抑制する工程を含む方法(特許文献2、3参照)などが知られている。しかし、これらの方法は、Ca2+のシグナル伝達を制御することから局所的に投与する必要があり、あるいは、タンパク質を投与することから抗原性の問題や、経口投与不可などといった問題があった。そこで新規な機構に基づく新規なスクリーニング方法の開発が求められているのが現状である。
特開2004−154132号公報 国際公開第2002/024228号パンフレット 国際公開第2002/024229号パンフレット 国際公開第2006/068133号パンフレット
本発明は、新規なメカニズムに基づくNFAT2発現抑制剤または破骨細胞形成抑制剤を提供することを目的とする。また本発明は、NFAT2遺伝子の発現亢進または破骨細胞の形成亢進に起因して生じる骨代謝異常疾患、例えば骨粗鬆症の予防または治療剤を提供することを目的とする。さらに本発明は、これらの疾患の予防または治療剤の有効成分をスクリーニングするための方法を提供することを目的とする。
破骨細胞分化過程において、破骨細胞前駆細胞ではRANKLからのシグナルを受けて分化の進行を担う様々な遺伝子が発現する。本発明者はすでに、マウス細胞株RAW264と分化誘導因子RANKLタンパク質からなる破骨細胞分化誘導系を用いて、RANKLにより発現が誘導される転写制御因子NFAT2が、多核細胞、すなわち破骨細胞の形成に重要であることを明らかにした。通常、破骨細胞前駆細胞では、NFAT2は細胞質でリン酸化されており、不活性な状態であるが、RANKLからのシグナルを受け取ると、Ca2+とCa2+−CaMが結合して活性化されたカルシニューリンによりNFAT2は脱リン酸化される。脱リン酸化されたNFAT2はRANKLによる刺激後約24〜48時間で核内へ移行し、細胞融合や骨分解反応を担う諸酵素群など破骨細胞の形成や機能発現に関わる遺伝子発現を誘導する。逆に、NFAT2の阻害剤であるタクロリムス(FK506)やシクロスポリンで処理した破骨細胞前駆細胞は、破骨細胞へと分化しない。すなわち、破骨細胞への分化形成には、分化誘導因子であるRANKL刺激による転写因子NFAT2の発現誘導が必須である。
また本発明者らは、上記と同じ実験系を用いて、培地成分中のアミノ酸L−セリンがRANKLによるNFAT2の誘導に必須であることを見出し、さらにL−セリンのアナログであるD−セリンやL−ホモセリンがL−セリンの活性を拮抗阻害し、NFAT2の誘導ならびにそれによる多核細胞(破骨細胞)の形成を抑制することを明らかにした(特許文献4参照)。
今回、本発明者は、かかるL−セリンの作用機序を解析する過程で、セリン代謝経路に位置し、スフィンゴシンをリン酸化してスフィンゴシン−1−リン酸を生じる酵素(スフィンゴシンキナーゼ)の活性を阻害すると、NFAT2遺伝子の発現ならびに破骨細胞の分化形成が抑制されることを見出した。先に述べるように、破骨細胞の相対的な活性化による骨吸収の乱れは骨粗鬆症などの骨疾患の要因となる。NFAT2遺伝子の発現および破骨細胞の形成においてスフィンゴシンキナーゼが重要な役割を果たすとの知見は今回初めて得られたものであり、骨代謝異常疾患、特に破骨細胞の形成亢進が要因となる骨減少性疾患(例えば、骨粗鬆症など)に対する新しい分子標的薬への道を開くものと考えられる。
斯くして本発明者は、スフィンゴシンキナーゼがNFAT2遺伝子の発現に必須であること、そして、スフィンゴシンキナーゼの活性/機能が阻害された状態ではNFAT2遺伝子が発現せず、その結果、破骨細胞の分化融合がおこらず破骨細胞が成熟しないことを確認し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、破骨細胞形成に必須のNFAT2遺伝子の発現を抑制する方法、および当該NFAT2遺伝子の発現を抑制するために専ら用いられる製剤(NFAT2発現抑制剤);破骨細胞形成を抑制する方法、および当該破骨細胞形成を抑制するために専ら用いられる製剤(破骨細胞形成抑制剤);NFAT2遺伝子の発現亢進または破骨細胞の形成亢進に起因して生じる骨代謝異常疾患の予防または治療薬;ならびに破骨細胞形成抑制剤、特に上記骨代謝異常疾患の予防または治療薬の有効成分をスクリーニングする方法に関する。
より具体的には、本発明は下記の態様を包含する:
I.NFAT2の発現抑制剤
(I-1)スフィンゴシンキナーゼ阻害剤を有効成分とするNFAT2の発現抑制剤。
(I-2)スフィンゴシンキナーゼ阻害剤が、スフィンゴシンとスフィンゴシンキナーゼとの反応においてスフィンゴシンと拮抗する物質である(I-1)に記載するNFAT2の発現抑制剤。
(I-3)スフィンゴシンキナーゼ阻害剤が、ジヒドロスフィンゴシン、または2-(p-ヒドロキシアニリノ)-4-(p-クロロフェニル)チアゾールである(I-1)に記載するNFAT2の発現抑制剤。
II.NFAT2の発現抑制方法
(II-1)セリン代謝経路においてスフィンゴシンキナーゼ活性を阻害することを特徴とするNFAT2の発現抑制方法。
(II-2)スフィンゴシンキナーゼ活性の阻害を、スフィンゴシンキナーゼにスフィンゴシンキナーゼ阻害剤を接触させることによって行う(II-1)に記載するNFAT2の発現抑制方法。
(II-3)スフィンゴシンキナーゼ阻害剤が、ジヒドロスフィンゴシン、または2-(p-ヒドロキシアニリノ)-4-(p-クロロフェニル)チアゾールである(II-1)に記載するNFAT2の発現抑制方法。
III.破骨細胞形成抑制剤
(III-1)スフィンゴシンキナーゼ阻害剤を有効成分とする破骨細胞形成抑制剤。
(III-2)スフィンゴシンキナーゼ阻害剤が、スフィンゴシンとスフィンゴシンキナーゼとの反応においてスフィンゴシンと拮抗する物質である(III-1)に記載する破骨細胞形成抑制剤。
(III-3)スフィンゴシンキナーゼ阻害剤が、ジヒドロスフィンゴシン、または2-(p-ヒドロキシアニリノ)-4-(p-クロロフェニル)チアゾールである(III-1)に記載する破骨細胞形成抑制剤。
IV.破骨細胞形成抑制方法
(IV-1)セリン代謝経路においてスフィンゴシンキナーゼ活性を阻害することを特徴とする破骨細胞形成抑制方法。
(IV-2)スフィンゴシンキナーゼ活性の阻害を、スフィンゴシンキナーゼにスフィンゴシンキナーゼ阻害剤を接触させることによって行う(IV-1)に記載する破骨細胞形成抑制方法。
(IV-3)スフィンゴシンキナーゼ阻害剤が、ジヒドロスフィンゴシン、または2-(p-ヒドロキシアニリノ)-4-(p-クロロフェニル)チアゾールである(IV-1)に記載する破骨細胞形成抑制方法。
V.骨代謝異常疾患の予防または治療剤
(V-1)スフィンゴシンキナーゼ阻害剤を有効成分とする、破骨細胞形成に起因する骨代謝異常疾患の予防または治療剤。
(V-2)破骨細胞分化に起因する骨代謝異常疾患が、骨粗鬆症である(V-1)に記載する予防または治療剤。
(V-3)スフィンゴシンキナーゼ阻害剤が、スフィンゴシンとスフィンゴシンキナーゼとの反応においてスフィンゴシンと拮抗する化合物である(V-1)または(V-2)に記載する予防または治療剤。
(V-4)スフィンゴシンキナーゼ阻害剤が、ジヒドロスフィンゴシン、または2-(p-ヒドロキシアニリノ)-4-(p-クロロフェニル)チアゾールである(V-1)または(V-2)に記載する予防または治療剤。
VI.破骨細胞形成抑制剤のスクリーニング方法
(VI-1)スフィンゴシンキナーゼの阻害活性を指標とする破骨細胞形成抑制剤のスクリーニング方法。
(VI-2)下記の工程を有する、(VI-1)に記載するスクリーニング方法:
(a) 被験物質の存在下でスフィンゴシンとスフィンゴシンキナーゼを反応させて、生じるスフィンゴシン−1−リン酸の量を測定する工程、
(b) 上記で得られたスフィンゴシン−1−リン酸の生成量(被験値)を、被験物質の非存在下で同様に測定した対照のスフィンゴシン−1−リン酸の生成量(対照値)と対比する工程、
(c) 対照値よりも被験値が低い場合における被験物質を、破骨細胞形成抑制剤の候補物質として選択する工程。
(VI-3)下記の工程を有する、(VI-1)に記載するスクリーニング方法:
(A)被験物質の存在下、破骨細胞前駆細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ活性を測定する工程、
(B)上記で得られたスフィンゴシンキナーゼ活性(被験活性)を、被験物質の非存在下で同様に測定した破骨細胞前駆細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ活性(対照活性)と対比する工程、
(C)対照活性よりも被験活性が低い場合における被験物質を、破骨細胞形成抑制剤の候補物質として選択する工程。
(VI-4)下記の工程を有する、(VI-1)に記載するスクリーニング方法:
(1)被験物質および破骨細胞分化誘導剤の存在下、破骨細胞前駆細胞を培養する工程、
(2)上記破骨細胞前駆細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ活性(被験活性)を測定する工程、
(3)上記で得られたスフィンゴシンキナーゼ活性(被験活性)を、被験物質の非存在下で同様に測定した対照の破骨細胞前駆細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ活性(対照活性)と対比する工程、
(4)対照活性よりも被験活性が低い場合における被験物質を、破骨細胞形成抑制剤の候補物質として選択する工程。
(VI-5)スフィンゴシンキナーゼがスフィンゴシンキナーゼ2である、(VI-1)乃至(VI-4)のいずれかに記載するスクリーニング方法。
(VI-6)破骨細胞形成に起因する骨代謝異常疾患の予防または治療薬の有効成分となる破骨細胞形成抑制剤をスクリーニングする方法である、(VI-1)乃至(VI-5)いずれかに記載するスクリーニング方法。
(VI-7)破骨細胞形成に起因する骨代謝異常疾患が骨粗鬆症である、(VI-6)に記載するスクリーニング方法。
本発明により、NFAT2遺伝子の発現を抑制することができるので、破骨細胞前駆細胞から破骨細胞への分化形成を抑制することができる。その結果、破骨細胞による骨吸収亢進による骨破壊を効果的に抑制することができるので、本発明は正常に石灰化された骨基質が量的に減少する骨粗鬆症、自己免疫性関節炎、バジェット病もしくは関節リウマチを含むさまざまな骨減少性疾患の予防または治療に有効に利用することができる。
また、本発明のスクリーニング方法によれば、スフィンゴシンキナーゼ活性の低下を指標とすることにより簡便に破骨細胞の形成抑制作用を有する物質、すなわち破骨細胞形成抑制剤を選別し取得することができる。前述するように破骨細胞形成抑制作用を有する物質は、破骨細胞による骨吸収亢進による骨破壊を効果的に抑制することができるので、骨粗鬆症、自己免疫性関節炎、バジェット病もしくは関節リウマチを含むさまざまな骨減少性疾患の予防または治療の有効成分として有用である。すなわち、本発明のスクリーニング方法は、かかる骨減少性疾患の予防または治療の有効成分を探索する方法として有効に利用することができる。
I.NFAT2の発現抑制剤およびNFAT2の発現抑制方法
本発明のNFAT2の発現抑制剤は、スフィンゴシンキナーゼの働きを阻害する物質、すなわちスフィンゴシンキナーゼ阻害剤を有効成分とするものである。
NFAT2は、Ca2+−カルシニューリン依存的に脱リン酸化されて核移行し、活性化される転写因子の1つである。NFAT2は、当初T細胞におけるサイトカイン産生を制御する因子として発見されたが、現在では多くの細胞の機能又は分化において重要な役割を果たすことが知られている(Crabtree,G.R. and Olson,E.N., Cell, 第109巻:S67-S79,2000年)。このため、本発明のNFAT2の発現抑制剤を用いることにより、NFAT2の発現を抑制して上記NFAT2の作用に基づく細胞の機能や分化を抑制することができる。なお、NFAT2の例としては、具体的にはヒトNFAT2やマウスNFAT2を挙げることができる。かかるヒトNFAT2のアミノ酸配列はGenbank Accession number NPOO6153として、またそのmRNAの塩基配列はGenbank Accession number NM-006162としていずれも公知である。またマウスNFAT2のアミノ酸配列もGenbank Accession number AAC36725(アイソフォームa)及びAACO550(アイソフォームb)として、またそれらのmRNAの塩基配列はGenbank Accession number AF239169およびAFO87434(以上、アイソフォームa)、並びにAFO49606(アイソフォームb)として公知である。
スフィンゴシンキナーゼは、図1に示すセリン代謝経路において、スフィンゴシンをリン酸化してスフィンゴシン−1−リン酸を生成する反応を担う酵素である。後述する実験例で示すように、NFAT2を発現し得る細胞において、スフィンゴシンキナーゼの働きを阻害することによって、当該細胞におけるNFAT2遺伝子の発現を抑制することができる。
なお、NFAT2を発現し得る細胞としては、例えば破骨細胞への分化が可能な破骨細胞前駆細胞を挙げることができる。かかる破骨細胞前駆細胞として、好ましくは骨髄マクロファージ系細胞である。より具体的には、BMMs、RAW264.7細胞(マクロファージ様細胞;以下、単位「RAW264細胞」とも略記する。)、又は胚性幹細胞(ES細胞)等を挙げることができる。好ましくはRAW264細胞である。特に、マウスRAW264細胞(RIKEN Cell Bank;HYPERLINK HYPERLINK “http://www.rtc.riken.go.jp/CELL/HTML/RIKEN”http://www.rtc.riken.go,jp/CELL/HTML/RIKEN Cell Bank. Htmlから入手可能)は、分化誘導物質であるRANKLの添加で破骨細胞に分化することが知られている細胞であり(Biochem. Biophys. Res. Commun. 282, 278-283(2001))、NFAT2を発現し得る細胞として好適に用いることができる。
NFAT2の発現抑制剤としては、スフィンゴシンをリン酸化してスフィンゴシン−1−リン酸を生成するというスフィンゴシンキナーゼの働きを結果として阻害する物質であれば、その作用機序は特に制限されない。例えば、ジヒドロスフィンゴシンなどのように、スフィンゴシンとスフィンゴシンキナーゼとの反応においてスフィンゴシンと拮抗する物質;2-(p-ヒドロキシアニリノ)-4-(p-クロロフェニル)チアゾールなどのように、キナーゼ活性を抑制する物質を挙げることができる(French KJ et al. Cancer Res63:5962-5969 (2003))。また、その他、スフィンゴシンキナーゼを阻害する作用を有する化合物として、(i)D-erythro-Sphingosine、およびそのDihydro体、(ii)L-threo-Sphingosine、およびそのDihydro体、(iii)D-erythro-Sphingosine、並びにそのDihydro体およびN-Acetyl体(C2Dihydroceramide)、(iv)D-erythro-Sphingosine(trans-D-erythro-2-Amino-4-octadecene-2,3-diol:Cerebroside)などが知られている。好ましくは、スフィンゴシンキナーゼを特異的に作用してその働きを阻害する物質であり、かかるものとして、ジヒドロスフィンゴシンおよび2-(p-ヒドロキシアニリノ)-4-(p-クロロフェニル)チアゾールを好適に例示することができる。
スフィンゴシンと拮抗する物質には、スフィンゴシンを基質とするスフィンゴシンキナーゼの酵素反応を、スフィンゴシンと競合することによって阻害する物質が含まれる。例えば、ジヒドロスフィンゴシンなどのようにスフィンゴシンと構造の全部または一部が機能的に類似するスフィンゴシンのアナログを挙げることができる。
なお、かかるジヒドロスフィンゴシン等のスフィンゴシンアナログ;または2-(p-ヒドロキシアニリノ)-4-(p-クロロフェニル)チアゾールなど、前述するNFAT2発現抑制剤は、塩またはエステルの形態を有するものであってもよい。当該塩には、薬学的に許容される塩が含まれる。
なお、ここで「NFAT2発現抑制」とは、NFAT2、特にNFAT2遺伝子の発現を100%抑制(阻止)する場合と、100%阻止しなくても、NFAT2の発現を低減させる場合の両方を含む。
NFAT2の発現は、例えばNFAT2と特異的に結合する抗体を用いて、ウエスタンブロット、ドットブロット又はスロットブロット等の公知の方法を用いて測定することができる。具体的には、例えばウエスタンブロット法は、一次抗体としてNFAT2抗体を用いた後、二次抗体として例えばHRP(西洋わさびパーオキシダーゼ)等の化学発光試薬、125I等の放射性同位元素、蛍光物質等で標識した標識抗体(一次抗体に結合する抗体)を用い、得られる標識化合物の化学発光、放射性同位元素、蛍光物質等に由来するシグナルを化学発光検出器、放射線測定器、蛍光検出器等で検出し、測定することによって実施できる。また、NFAT2の発現は、前記した蛋白質を指標とする以外に、遺伝子発現レベルの検出を指標とすることもできる。遺伝子発現レベルのNFAT2遺伝子の検出は、前記細胞から調製したRNA又は当該RNAから転写された当該RNAに対して相補的なポリヌクレチドと、例えば、NFAT2遺伝子又はNFAT2遣伝子のプロモーター領域等を用いて、例えばノーザンブロット法、RT−PCR(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction)等の公知方法の他、DNAチップ等を利用して実施できる。前記遺伝子としては、NFAT2結合配列(Macian,F. et al., Oncogene,第20巻,p.2476-2489,2001年)を含むDNA、好ましくはさらにNFAT2及び転写因子AP−1(アクチベータープロテイン−1)結合配列(Bio Science新用語ライブラリー「転写因子」、実験医学 別冊,羊士社,pp.204-205)を含むDNAが好ましい。また、前記DNAの下流に所望のレポーター遺伝子を結合したものも好ましく用いることができる。レポーター遺伝子を結合することにより、レポーター活性等を指標としてレポーター遺伝子の発現量を定量することによりNFAT2プロモーターからの転写をモニターできる。具体的なプロモーター配列としては、TRAPプロモーター、又はカルシトニンプロモーター(P3プロモーター)等が挙げられる。レポーター遺伝子としてはルシフェラーゼ遺伝子、蛍光蛋白質遣伝子(GFP,YFP,BFP等)、クロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ遺伝子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子等が挙げられる。また、NFAT2により誘導される遺伝子としては、NFAT2に依存的な、例えばTRAP、カルシトニンレセプター(calcitonin receptor)、カテプシンK(cathepsin K)、カルボニックアンヒドラーゼII(carbonic anhydrase II;CA II)、又はマトリックスメタロプロテイナーゼ(matrix metallo proteinase;MMP)−9等の遺伝子が挙げられる。これらの遺伝子のNFAT2結合部位を含むプロモーター配列を前記レポーターに連結するプロモーターとして好適に用いることができる。これらの遺伝子は破骨細胞の最終分化において誘導され、複数のNFAT2及びAP−1結合部位を含む(Anusaksathien,0.et al., J Biol.,第276巻,p.22663-22674, 2001年;David,J.P.et al.,J.Cell Physiol.,第88巻,p.89-97,2001年;Motyckova,G.et al., Proc.Nat. Acad. Sci、USA,第98巻, p.5798-5803,2001年; Reddy,S.V.et al., J.Bone Miner Res.,第10巻,p.601-606,1995年)。
またNFAT2遺伝子の発現レベルの検出及び定量は、NFAT2遺伝子の発現を制御する遺伝子領域(発現制御領域)に、例えばルシフェラーゼ遺伝子等のマーカー遺伝子をつないだ融合遺伝子を導入した細胞株を用いて、マーカー遺伝子由来の蛋白質の活性を測定することで実施することもできる。
また本発明のNFAT2の発現抑制方法は、セリン代謝経路においてスフィンゴシンキナーゼの働きを阻害することによって実施することができる。具体的には、NFAT2を発現し得る細胞を、前述するNFAT2の発現抑制剤、すなわちスフィンゴシンキナーゼ阻害剤で処理することによって実施することができる。
スフィンゴシンキナーゼの働きを阻害する方法には、基質となるスフィンゴシンに対する拮抗物質を投与して生成するスフィンゴシン−1−リン酸の実効濃度を低下させる方法、スフィンゴシンの代謝、修飾及び/又は分解を促進することにより実質的にスフィンゴシン−1−リン酸の濃度を低下させる方法、ならびにスフィンゴシンキナーゼの代謝、修飾及び/又は分解を促進することにより実質的にスフィンゴシン−1−リン酸の濃度を低下させる方法が含まれるが、これらに限られない。なお、細胞内のスフィンゴシン−1−リン酸の含有量を記載する文献として、KJ French et al Cancer Res 63:5962-5969(2003)を挙げることができる。
本発明の方法によれば、セリン代謝経路において、スフィンゴシンキナーゼの働きを阻害することにより(例えば、、スフィンゴシンからスフィンゴシン−1−リン酸への生成を阻害することにより)、NFAT2の発現、特にNFAT2遺伝子の発現を抑制することができる。NFAT2の発現が抑制されると、破骨細胞の形成が阻害される。前述するように、破骨細胞は骨を吸収する細胞であり、その細胞の分化形成が亢進すると骨吸収性が亢進して、例えば骨粗鬆症等の骨減少性の疾患や免疫疾患の原因となる。このため、本発明の方法は、破骨細胞の形成亢進に起因して生じる骨代謝異常疾患、特に骨粗鬆症などの骨減少性疾患や免疫疾患を予防又は治療する方法に用いることができる。また、NFAT2は破骨細胞の成熟以外にもインターロイキン−2(IL-2)等のように免疫反応を活性化するサイトカインの誘導活性を有することが知られていることから、本発明の方法は免疫抑制にも利用することができる。
本発明の方法は、NFAT2を発現し得る細胞、具体的には破骨細胞前駆細胞にスフィンゴシンキナーゼ阻害剤を接触及び/又は導入させることによって行われる。本発明の方法は、哺乳動物(但し、ヒトを除く)に有効量のスフィンゴシンキナーゼ阻害剤を投与する方法を含む。該投与は、生体内のセリン代謝経路におけるスフィンゴシンキナーゼの機能を阻止する投与方法であればよく、その限りにおいて経口投与又は非経口投与の別を問わない。
また、本発明のNFAT2発現の抑制、特にNFAT2遺伝子の発現を抑制する方法は、スフィンゴシンキナーゼ阻害剤を破骨細胞の形成を阻害する薬剤等と併用して用いることができる。破骨細胞の形成を阻害する薬剤としては、例えばカルシニューリンの阻害剤等が挙げられる。カルシニューリンの阻害剤としては、FK506、シクロスポリンA(CyA/CsA)及びそれらの類似体等が挙げられる。これらのカルシニューリン阻害剤と、本発明にかかるスフィンゴシンキナーゼ阻害剤を同時に投与することにより、NFAT2の発現、特にNFAT2遺伝子の発現をより効率よく抑制することが可能となる。
II.破骨細胞形成抑制剤および破骨細胞形成抑制方法
本発明の破骨細胞形成抑制剤は、スフィンゴシンキナーゼの働きを阻害する物質、すなわち前述のスフィンゴシンキナーゼ阻害剤を有効成分とするものである。
本発明の破骨細胞形成抑制剤が対象とする「破骨細胞(osteoclast)」は、造血幹細胞を起源とする単球・マクロファージ系細胞(以下、CFU−Mと略記する。)より分化した単核の破骨細胞前駆細胞が融合して形成される多核巨細胞(Suda.T. et al., Endocr., Rev.第20巻, p.345,1999年)をいう。ヒトまたはヒト以外の哺乳動物を含む脊椎動物の破骨細胞であれば特に限定されない。破骨細胞は、骨の表面に密着し、活性化に伴い骨基質を消化する酸やコラゲナーゼなどの酵素を分泌し、骨吸収能を示す。
一般に成熟した破骨細胞には、酒石酸抵抗性酸フォスファターゼ(以下、TRAPと略記する。)、カルシトニン受容体、ビトロネクチン受容体が発現する。このため、コラゲナーゼ、TRAP又はカルシトニン受容体、ビトロネクチン受容体を破骨細胞形成の指標(骨吸収マーカー)とすることができるので、破骨細胞形成は、これらの指標のうち、少なくとも1つの測定に基づいて判断することができる。
破骨細胞は、TRAP陽性であって、かつ骨吸収活性を持つ細胞が好ましい。破骨細胞は、上記したようにCFU−Mから分化する。当該分化は、具体的には、例えば、骨髄単球・マクロファージ系前駆細胞(bone marrow monocyte/macrophage precursor cells;BMMs)等が、マクロファージコロニー刺激因子(macrophage-colony stimulating factor;M−CSF)、インターロイキン−3(IL−3)、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(granulocyte-macrophage colony-stimulating factor;GM−CSF)、1,25−ジヒドロキシビタミンD3(1,25(OH))等の存在下でRANKLの刺激により行なわれ得る。
本発明でいう「破骨細胞の形成」には、破骨細胞前駆細胞が細胞融合による多核化など形態的に破骨細胞の性質を示すように分化形成されること、または、その形態学的な変化を経て活性化され骨吸収作用を示すように分化形成されることが含まれる。破骨細胞の形成は、例えば、文献(Yasuda,H. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 第95巻, p.3597-602(1998年))に従って観察することができる。具体的には、例えば個体であれば、骨切片を作成して骨吸収を観察することができる。また、顕微鏡観察により多核巨細胞を同定したり、TRAP染色や、カルシトニン受容体又はビトロネクチン受容体の発現の検出等の公知の検出方法等により、in vivo及びin vitroの両方で破骨細胞形成を検出することができる。骨吸収能は、公知の方法、例えば象牙切片上のピット形成面積を測定するPit formation assay法等により評価することができる。
前記「破骨細胞前駆細胞(Osteoclast precursor cell)」は、破骨細胞に分化し得る単球・マクロファージ系細胞を含み、より特定すれば、M−CSF等に応答して増殖が促進される細胞が好ましい。なお、破骨細胞前駆細胞は、骨髄又は脾臓に含まれる細胞であってもよく、不死化した細胞株であってもよい。また、破骨細胞前駆細胞は造血幹細胞からin vitroで分化させることもできる。
なお、本発明で「破骨細胞の形成抑制」とは、破骨細胞前駆細胞が成熟破骨細胞に分化形成することを100%抑制(阻止)する場合と、100%阻止しなくても破骨細胞前駆細胞が本来有する破骨細胞への分化形成能を低減させる場合の両方を含む。成熟破骨細胞への分化は、破骨細胞の特徴である多核細胞の形成を観察することにより測定することができる。破骨細胞への分化形成を測定する方法としては、破骨細胞のマーカーである酒石酸耐性酸ホスファターゼ(TRAP)染色法を用いることができるが、これに限定されない。
かかる破骨細胞形成抑制作用を有する物質、すなわち本発明の破骨細胞形成抑制剤の有効成分としては、スフィンゴシンキナーゼの活性または機能を阻害する作用を有する物質(スフィンゴシンキナーゼ阻害剤)を挙げることができる。
かかるスフィンゴシンキナーゼ阻害剤には、スフィンゴシンとスフィンゴシンキナーゼとの反応を阻害して生成するスフィンゴシン−1−リン酸の実効濃度を低下させることのできるものであれば特に制限されない。例えば、スフィンゴシンとスフィンゴシンキナーゼとの反応においてスフィンゴシンと拮抗する物質、スフィンゴシンの代謝、修飾及び/又は分解を促進することにより実質的にスフィンゴシン1−リン酸の濃度を低下させるもの、ならびにスフィンゴシンキナーゼの代謝、修飾及び/又は分解を促進することにより実質的にスフィンゴシン−1−リン酸の濃度を低下させるものが含まれる。例えば、ジヒドロスフィンゴシンなどのように、スフィンゴシンとスフィンゴシンキナーゼとの反応においてスフィンゴシンと拮抗する物質;2-(p-ヒドロキシアニリノ)-4-(p-クロロフェニル)チアゾールなどのように、キナーゼ活性を抑制する物質を挙げることができる(French KJ et al. Cancer Res63:5962-5969 (2003))。また、その他、スフィンゴシンキナーゼを阻害する作用を有する化合物として、(i)D-erythro-Sphingosine、およびそのDihydro体、(ii)L-threo-Sphingosine、およびそのDihydro体、(iii)D-erythro-Sphingosine、並びにそのDihydro体およびN-Acetyl体(C2Dihydroceramide)、(iv)D-erythro-Sphingosine(trans-D-erythro-2-Amino-4-octadecene-2,3-diol:Cerebroside)などが知られている。好ましくは、スフィンゴシンキナーゼを特異的に作用してその働きを阻害する物質であり、かかるものとして、ジヒドロスフィンゴシンおよび2-(p-ヒドロキシアニリノ)-4-(p-クロロフェニル)チアゾールを好適に例示することができる。
また本発明の破骨細胞形成抑制方法は、セリン代謝経路、特にそのスフィンゴシンの代謝においてスフィンゴシンキナーゼの働きを阻害することによって実施することができる。具体的には、NFAT2を発現し得る細胞を、前述する破骨細胞形成抑制剤で処理することによって実施することができる。なお、NFAT2を発現し得る細胞としては、前述するように破骨細胞前駆細胞を好適に用いることができる。
本発明の破骨細胞形成抑制方法には、in vitroにおける破骨細胞の分化形成抑制方法、およびin vivoにおける破骨細胞の分化形成抑制方法の両方が含まれる。後者の場合、骨代謝異常またはその前状態にある被験者について、破骨細胞の分化形成を抑制して、骨代謝異常疾患の発生またはその進展を予防するか、骨代謝異常疾患を改善・治療する方法としても有効に使用することができる。なお、被験者としては、ヒトやヒト以外の哺乳動物を含む脊椎動物を挙げることができる。かかる哺乳動物としては、具体的にマウス、ニワトリ、ラット、ハムスター、モルモット、イヌ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタなどを制限なく例示することができる。
III.骨代謝異常疾患の予防または治療剤
前述するように、NFAT2発現の亢進、ならびに破骨細胞の分化形成の亢進は、骨粗鬆症等の骨代謝異常疾患の要因になることが知られている。よって、前述するNFAT2発現抑制剤および破骨細胞形成抑制剤は、破骨細胞の分化形成を抑制する作用を有することに基づいて、骨代謝異常疾患の発症を予防し、また治療する薬物として有効に使用することができる。
ここで骨代謝異常疾患としては、破骨細胞の形成亢進に起因して生じる疾患、特に破骨細胞による骨吸収が関与する骨減少性疾患を挙げることができる。具体的には、骨粗鬆症、慢性関節リウマチ、変形関節炎、関節炎、変形性腰椎症、全身性エリテマトーデス、糖尿病における骨減少症、慢性腎不全における骨密度低下、骨髄腫、バーキットリンパ腫、悪性リンパ腫、家族性骨ページェット病、家族性拡張性骨溶解症(familial expansile osteolysis:FEO)、または歯周疾患を例示することができる。好ましくは骨粗鬆症である。
本発明の骨代謝異常疾患の予防または治療剤は、スフィンゴシンキナーゼの活性または機能を阻害する物質、すなわち前述するNFAT2発現抑制剤または破骨細胞形成抑制剤の有効成分であるスフィンゴシンキナーゼ阻害剤を有効成分として含む。かかる有効成分として好ましくは、ジヒドロスフィンゴシンなどのスフィンゴシンの拮抗物質;2-(p-ヒドロキシアニリノ)-4-(p-クロロフェニル)チアゾールなどのキナーゼ活性を抑制する物質を挙げることができる。
本発明の医薬組成物は、有効量のスフィンゴシンキナーゼ阻害剤とともに、その種類に応じて、自体公知の薬学的に許容される担体や添加剤を含んでいてもよい。当該医薬組成物は、所望の投与方法、例えば経口投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、経肺投与、経鼻投与、経腸投与、腹腔内投与、または冠動脈もしくは冠状静脈洞投与などによって投与することができ、その投与経路に応じて、錠剤、丸剤、散剤、粉末剤、顆粒剤、及びカプセル剤などの固体投与形態;溶液、懸濁剤、乳剤、シロップ、リポソーム製剤、注射剤、静注剤、点滴剤及びエリキシルなどの液剤投与形態;貼付剤、軟膏、クレーム及び噴霧剤などの外用投与形態に、調合、成形乃至調製することができる。
これらの医薬組成物(医薬製剤)の調製に利用される担体としては、製剤の投与形態に応じて通常使用される賦形剤(例えば乳糖、白糖、ブドウ糖、デンプン、結晶セルロース等)、結合剤(例えばデンプン糊、ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、アラビアゴム、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム)、希釈剤や溶剤(例えば注射用水、滅菌精製水、生理食塩水、緩衝液、植物油等)、付湿剤、崩壊剤(例えばデンプン、カルメロースナトリウム、炭酸カルシウム等)、崩壊抑制剤、吸収促進剤、滑沢剤(例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム等)、溶解補助剤、緩衝剤、乳化剤(例えば、ステアリン酸ポリオキシル40、セスキオレイン酸ソルビタン、ポリソルベート80、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウロマクロゴール、アラビアガム、ポピドン等)、懸濁剤(例えば、カルメロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポピドン等)などが例示できる。また添加剤としては、製剤の投与形態に応じて通常使用される安定化剤(例えば亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン等)、保存剤(例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノール、ベンジルアルコール、塩化ベンザルコニウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、ホウ酸、ホウ砂等)、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、pH調整剤、界面活性剤(例えばポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等)、着色剤、香料、風味剤、甘味剤などが例示できる。
また、当該医薬組成物は、放出制御物質などを配合することによって徐放性製剤、またはDDS(ドラッグデリバリー)製剤の形態に調製することもできる。かかる放出制御物質としては、自体公知の例えばα−ヒドロキシカルボン酸類(例えば、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシ酪酸等)、ヒドロキシジカルボン酸類(例えば、リンゴ酸等)、ヒドロキシトリカルボン酸(例えば、クエン酸等)などの1種以上から無触媒脱水重縮合で合成された重合体、共重合体あるいはこれらの混合物;ポリ−α−シアノアクリル酸エステル、ポリアミノ酸(例えば、ポリ−γ−ベンジル−L−グルタミン酸等)、無水マレイン酸系共重合体(例、スチレン−マレイン酸共重合体等)などの生体内分解性高分子物質等が挙げられる。
本発明の医薬組成物は、通常、総組成物100重量%あたり、約0.1〜90重量%の割合で有効成分(スフィンゴシンキナーゼ阻害剤)を含む。この割合およびその投与量は、具体的には、所望の治療効果、投与法、治療期間、患者の年齢、性別その他の条件などに応じて広範囲より適宜選択される。
投与量は、有効成分の種類、投与経路、投与対象又は患者の年齢、体重、症状等によって異なり一概に規定できないが、非経口投与では、一日当たり体重1kg当たり約0.0001〜1000mg、好ましくは約0.001〜300mg、より 好ましくは約0.01〜100mgである。投与は1〜数回に分けて行うことができ、一日約1〜5回投与することができる。投与対象となる個体としては、例えばヒト又はマウス、ラット、ウサギ、イヌもしくはサル等の非ヒト哺乳動物、及びその他の脊椎動物が挙げられる。非ヒト哺乳動物への適用は、ヒト骨代謝異常、特に骨減少性疾患に対する予防法又は治療法を開発するためのモデルとする上でも有用である。これにより、NFAT2発現の亢進または破骨細胞形成亢進に起因して生じる、例えば骨粗鬆症などの骨代謝異常疾患を予防する新たな治療プロトコールを開発することができる。
また本発明の医薬組成物は、他のNFAT2発現抑制剤や破骨細胞形成抑制剤と併用することもできる。そのような併用例としては、例えば、骨減少性疾患の治療のためのキットであって、本発明の有効成分(スフィンゴシンキナーゼ阻害剤)に加えて、カルシニューリン阻害剤または/およびD−セリンを含むキットが挙げられる。カルシニューリン阻害剤または/およびD−セリンを併用することによって、破骨細胞形成に関して相乗的な抑制効果を得ることが期待できる。カルシニューリン阻害剤としては、特にシクロスポリンA及びFK506を好適に例示することができる。
IV.骨代謝異常疾患の予防または治療方法
本発明の骨代謝異常疾患の予防または治療方法は、NFAT2の発現を抑制し、また破骨細胞の分化形成を抑制する作用を有する物質、すなわち前述するスフィンゴシンキナーゼ阻害剤を有効量、骨代謝異常またはその前状態にある被験者に投与することによって実施される。
スフィンゴシンキナーゼ阻害剤として好ましくは、ジヒドロスフィンゴシンなどのスフィンゴシンの拮抗物質;2-(p-ヒドロキシアニリノ)-4-(p-クロロフェニル)チアゾールなどのキナーゼ活性を抑制する物質を挙げることができる。
当該スフィンゴシンキナーゼ阻害剤は、破骨細胞の分化形成を抑制して、骨代謝異常疾患の発生またはその進展を予防するか、骨代謝異常疾患を改善または治療するための有効な量を、薬学的に許容される担体もしくはその他の添加剤ととともに、医薬組成物の形態で使用することができる。これら医薬組成物の投与形態、投与経路、投与方法並びに当該医薬組成物の投与用量(有効成分の投与量)はIIIに前述する通りである。
対象とする骨代謝異常疾患は、IIIに記載するように、破骨細胞の形成亢進に起因して生じる疾患、特に破骨細胞による骨吸収が関与する骨減少性疾患を挙げることができる。具体的には、骨粗鬆症、慢性関節リウマチ、変形関節炎、関節炎、変形性腰椎症、全身性エリテマトーデス、糖尿病における骨減少症、慢性腎不全における骨密度低下、骨髄腫、バーキットリンパ腫、悪性リンパ腫、家族性骨ページェット病、家族性拡張性骨溶解症(familial expansile osteolysis:FEO)、または歯周疾患を例示することができる。好ましくは骨粗鬆症である。
また、投与対象とする被験者としても、IIIに記載する、ヒトやヒト以外の哺乳動物を含む脊椎動物(マウス、ニワトリ、ラット、ハムスター、モルモット、イヌ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタなど)を挙げることができる。
V.スクリーニング方法
本発明は、破骨細胞の分化形成を抑制する物質(破骨細胞形成阻害剤)をスクリーニングする方法を提供する。本発明の方法で探索取得される物質は、破骨細胞前駆細胞においてスフィンゴシンキナーゼの活性または機能を阻害する作用を有することによって、破骨細胞の分化形成(破骨細胞の成熟)を抑制することができる。このため当該物質によれば、破骨細胞の形成亢進に起因する骨代謝異常疾患、特に骨粗鬆症などの骨減少性疾患を予防または治療することができると期待される。従って、本発明の方法は、かかる骨代謝異常疾患の予防または治療剤の有効成分をスクリーニングする方法であるともいえる。
本発明のスクリーニング方法は、基本的にはスフィンゴシンキナーゼの活性またはその機能を阻害する作用を有する物質を探索することからなる。
当該方法は、簡便には下記の方法により実施することができる:
(a) 被験物質の存在下でスフィンゴシンとスフィンゴシンキナーゼを反応させて、生じるスフィンゴシン−1−リン酸の量を測定する工程、
(b) 上記で得られたスフィンゴシン−1−リン酸の生成量(被験値)を、被験物質の非存在下で同様に測定した対照のスフィンゴシン−1−リン酸の生成量(対照値)と対比する工程、
(c) 対照値よりも被験値が低い場合における被験物質を、破骨細胞形成抑制剤の候補物質として選択する工程。
なお、ここで(a)の工程は、Louie DDらの方法(Louie DD et al. JBC 251:4557-4564 (1976))またはFrench KJらの方法(French KJ et al. Cancer Res 63:5962-5969 (2003))に従って行うことができる。具体的には、下記の操作を例示することができるが、これに限定されるものではない。
(i)スフィンゴキナーゼ、希釈された[3H]スフィンゴシンを含む12nMスフィンゴシン、1mM ATP、1mM MgCl2を、被験物質の存在下、反応緩衝液(20mM Tris-HCl(pH7.4)、20% glycerol、1mM β-MeSH、1mM EDTA、20mM ZnCl2、1mM Na-Va、15mM NaF、0.5mM 4-deoxypyrisoxine)中で反応させる(25℃、30分間)。
(ii)反応後、水酸化アンモニウムを加えて反応を停止し、さらにクロロホルム:メタノール(2:1)で抽出を行う。
(iii)生成したスフィンゴシン−1−リン酸は水溶液に移るため、抽出液の水層をシンチレーションカウンターで定量する。
また、他の方法として下記の方法を用いることができる。なお、下記方法によるスクリーニングは、上記方法でスフィンゴシンキナーゼ阻害活性を有すると認められた被験物質(候補物質)を対象として行うことができ、斯くしてより優れた破骨細胞形成抑制剤の候補物質を選別することが可能となる。
(A) 被験物質の存在下で、破骨細胞前駆細胞におけるスフィンゴキナーゼ活性を測定する工程、
(B) 上記で得られたスフィンゴキナーゼ活性(被験活性)を、被験物質の非存在下で同様に測定した破骨細胞前駆細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ活性(対照活性)と対比する工程、
(C) 対照活性よりも被験活性が低い場合における被験物質を、破骨細胞形成抑制剤の候補物質として選択する工程。
上記のスクリーニング方法に用いられる細胞としては、破骨細胞への分化が可能である破骨細胞前駆細胞を挙げることができる。破骨細胞への分化が可能な破骨細胞前駆細胞であれば何れの細胞であっても制限なく用いることができるが、好適には、骨髄マクロファージ系細胞を挙げることができる。より具体的には、BMMs、RAW264.7細胞(マクロファージ様細胞;以下、単位「RAW264細胞」とも略記する。)、又は胚性幹細胞(ES細胞)等が挙げられる。好ましくはRAW264細胞である。特に、マウスRAW264細胞(RIKEN Cell Bank;HYPERLINK HYPERLINK “http://www.rtc.riken.go.jp/CELL/HTML/RIKEN”http://www.rtc.riken.go,jp/CELL/HTML/RIKEN Cell Bank. Htmlから入手可能)は、分化誘導物質であるRANKLの添加で破骨細胞に分化することが知られている細胞であり(Biochem. Biophys. Res. Commun. 282, 278-283(2001))、好適に用いることができる。
スクリーニングに際して採用される被験物質と破骨細胞前駆細胞との接触条件は、破骨細胞前駆細胞が正常に破骨細胞に分化形成するする条件であれば特に制限されないが、通常、生理的環境下におけるin vitro実験系、特に破骨細胞分化誘導系で行うことが好ましい。
ゆえに、本発明のスクリーニング方法において被験物質と破骨細胞前駆細胞との接触は、分化誘導物質であるRANKLの存在下で行うことが好ましい。また、RANKLに加えてM-CSFの存在下で行うこともできる。M-CSFの存在下で破骨細胞前駆細胞をRANKLで刺激することにより、当該前駆細胞が破骨細胞へと分化形成する状態を作成することができる。この場合、M-CSFおよびRANKLの濃度は適宜調節することができる。例えば、M-CSFの濃度としては、制限はされないが、通常約1〜20ng/mL、好ましく約5〜15ng/mL、より好ましくは約8〜12ng/mL程度である。また、RANKLの濃度は約10〜200ng/mL、好ましく約50〜150ng/mL、より好ましくは約80〜120ng/mL程度である。また、M-CSF非依存的にRANKLに応答して破骨細胞に分化する細胞、例えばRAW264細胞等は、破骨細胞形成においてM-CSFが存在しなくても破骨細胞に分化できるので、かかる細胞を用いる場合はRANKL刺激のみを行なえばよい。この場合のRANKLも、上記と同様な濃度範囲で用いることができる。また、本発明のスクリーニング方法においては、例えば凍結ラット破骨細胞前駆細胞(骨髄由来)とM-CSFおよびRANKLを含有した専用培地、またはPit formation assay用に象牙質切片をセットした破骨細胞培養キット(株式会社ホクドー製)等も用いることができる。
被験物質としては、制限はされないが、核酸、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、有機化合物、または無機化合物などであり、スクリーニングは、具体的には、これらの被験物質またはこれらを含む組成物(例えば、細胞培養液、細胞抽出物、植物抽出物、遺伝子ライブラリーの発現産物等を含む)を、破骨細胞前駆細胞と接触させることにより行うことができる。
破骨細胞形成抑制剤の候補物質の選別は、上記破骨細胞分化誘導系におけるスフィンゴシンキナーゼの活性/機能が被験物質の存在によって抑制されることを指標にして実施できる。
すなわち、発現誘導物質存在下で被験物質を接触させた破骨細胞前駆細胞におけるスフィンゴシンキナーゼの活性(被験活性)が、発現誘導物質存在下で被験物質を接触させない対照の破骨細胞前駆細胞におけるスフィンゴシンキナーゼの活性(対照活性)に比して低くなることをもって、当該被験物質を候補物質として選択することができる。なお、発現誘導物質存在下で被験物質を接触処理した破骨細胞前駆細胞ならびに発現誘導物質存在下で被験物質を接触処理しない破骨細胞前駆細胞における各スフィンゴシンキナーゼの活性(被験活性、対照活性)は、これらの細胞抽出液中のスフィンゴシンおよびスフィンゴシン−1−リン酸などを、HPLCで定量することによって評価することができる。
対照の実験は、該被験物質を含まないか、あるいはより低用量で含むことを除いて、他の条件は上記被験物質を含む場合と同じ条件に設定して行うことができる。典型的には、被験物質の非存在下(例えば被検物質の添加に用いた担体のみの添加)で行う以外、他の条件は上記被験物質を含む場合と同じ条件に設定して行われる。また、対照実験として、被検物質をより低い用量で配合する条件を用いることにより、被験物質の用量依存性を判定することができる。また、発現誘導物質存在下で被験物質を接触させた破骨細胞前駆細胞におけるスフィンゴシンキナーゼの活性が、破骨細胞形成を抑制する公知の化合物を接触させた陽性対照細胞におけるスフィンゴシンキナーゼの活性に比して、それと同等かまたは低くなることを指標として、当該被験物質を、破骨細胞形成抑制剤の候補物質として選択することもできる。かかるスクリーニングによれば、陽性対照とした従来公知の破骨細胞形成抑制剤と同等か、またはそれよりも高い破骨細胞形成抑制作用を有する物質を得ることができる。
なお、本発明のスクリーニング方法に用いられる培地としては、天然培地、半合成培地、合成培地、固形培地、半固形培地、液体培地などが挙げられる。いずれも破骨細胞前駆細胞を破骨細胞に分化させるために用いられるものであり、動物細胞、特に造血幹細胞の培養に用いられる栄養培地であればいずれも好ましく用いることができる。このような培地としては、例えばダルベッコ改変イーグル培地(Du1becco’s Modified Eagles’s Medium;DMEM)、ハムF12培地(Ham’s Nutrient Mixture F12)、マツコイ5A培地(McCoy’s 5A medium)、最小MEM培地(Minimum Essential Medium:MEM)、α−MEM培地(α−modified Minimum Essential Medium;α−MEM)、RPMI1640培地、イスコフ改変ダルベッコ培地(Isocove’s Modified Dulbecco’s Medium;IMDM)、StemPro34(インビトロジェン社)、X−VIVO 10(ケンブレックス社)、X−VIVO 15(ケンブレックス社)、HPGM(ケンブレックス社)、StemSpan H3000(ステムセルテクノロジー社)、StemlineII(シグマアルドリッチ社)、又はQBSF-60(クオリティバイオロジカル社)などが挙げられる。
本発明のスクリーニング方法は、破骨細胞形成のin vitro系またはin vivo系のいずれでも実施することができる。例えば破骨細胞形成のin vitro系を用いる場合は、具体的には、非接触性骨髄細胞(24穴プレートの1ウエル当たり5×10細胞)を、約10ng/mLのM−CSFを含む、例えばα−MEM培地で2日間培養し、次いで約100ng/mLの可溶性RANKL、および約10ng/mLのM−CSFの存在下でさらに3日間培養して破骨細胞を形成させる系を利用して実施することができる。この系に被験物質を添加して培養する。また、in vivo系を用いる場合は、例えば 卵巣摘出等による骨粗総症モデルマウスやエンドトキシン誘導性骨吸収動物モデルを用いて行うことができる。さらには、ES細胞からの破骨細胞形成系を利用することもできる。
斯くして本発明の方法によるスクリーニングの結果、被験物質を含む試料の添加により、対照の条件下と比較してスフィンゴシンキナーゼの活性/機能が有意に抑制されれば、用いた被験物質は破骨細胞形成を抑制する作用を有する物質、すなわち破骨細胞形成抑制剤の候補となる。このスクリーニング方法により選別され取得される物質は、破骨細胞形成を抑制する作用を有するため、破骨細胞形成亢進に起因して生じる骨代謝異常疾患の予防または治療剤の有効成分となり得る。ゆえに、本発明のスクリーニング方法は、骨代謝異常疾患の予防薬や治療薬を開発する上でも有用である。
なお、骨代謝異常疾患としては、破骨細胞の形成亢進に起因して生じる疾患、特に破骨細胞による骨吸収が関与する骨減少性疾患を挙げることができる。具体的には、骨粗鬆症、慢性関節リウマチ、変形関節炎、関節炎、変形性腰椎症、全身性エリテマトーデス、糖尿病における骨減少症、慢性腎不全における骨密度低下、骨髄腫、バーキットリンパ腫、悪性リンパ腫、家族性骨ページェット病、家族性拡張性骨溶解症(familial expansile osteolysis:FEO)、または歯周疾患などの骨減少性の疾患を挙げることができる。好ましくは骨粗鬆症である。
上記のスクリーニング方法によって選別された候補物質は、さらに骨代謝異常疾患、特に骨減少性の疾患を有するモデル非ヒト動物を用いてスクリーニングをかけることもできる。かくして選別される候補物質は、さらに骨代謝異常疾患、特に骨減少性の疾患を有する病態非ヒト動物を用いた薬効試験、安全性試験、さらに骨代謝異常疾患、特に骨減少性の疾患を有する患者(ヒト)もしくはその前状態にある患者(ヒト)への臨床試験に供してもよく、これらの試験を実施することによって、より実用的な骨代謝異常疾患の予防または治療剤の有効成分を選別取得することができる。
このようにして選別された物質は、必要に応じて構造解析を行った後、その物質の種類に応じて、化学的合成、生物学的合成(発酵を含む)または遺伝子工学的操作によって、工業的に製造することができ、破骨細胞分化形成抑制剤または骨代謝異常疾患予防または治療剤の調製に使用することができる。
以下、本発明をより詳細に示すために実験例を示す。
(1)培地の調製
(1-1) RAW264細胞のための培地
9.4gのEagle’s MEM(ニッスイ社製)を1Lの培養用蒸留水に溶かし、120℃、15分間、高圧蒸気滅菌した。高圧蒸気滅菌後、室温まで冷ました培地に、10mLの滅菌済みの培養用蒸留水で溶かした0.292gのL−グルタミン(ニッスイ社製)、25mLの7.5%炭酸水素ナトリウム、10mLの非必須アミノ酸混合液(non-essential amno acid:NEAA;L−セリン,L−アラニン,L−グリシン,L−アスパラギン酸,L−グルタミン酸,L−プロリン及びL−アスパラギン各10mM)(GIBCO-BRL社製)、l00mLのウシ胎児血清(FBS)を添加する。血清の透析にはSpectra/Por(登録商標)6 再生ニトロセルロース透析膜(MWCO1000)(Spectrum Laboratories Inc.製)を用いる。まず、10cm程度に透析膜を切って培養用蒸留水で簡単に濯ぐ。次に、透析膜を10mM EDTAを含む5% 炭酸水素ナトリウム溶液に浸し、60℃、1時間洗浄した後に1Lの培養用蒸留水で5分間洗浄する。この培養用蒸留水での洗浄を3回繰り返す。洗浄後は、透析膜に血清を入れ、4℃で一晩透析処理を行う。
(1-2) 破骨細胞前駆細胞誘導のための培地
マウス骨髄細胞からの破骨細胞前駆細胞誘導のための培地は、α-MEM(シグマ社製)を1Lの培養用蒸留水に溶かし、120℃で15分間、高圧蒸気滅菌する。高圧蒸気滅菌後、室温まで冷却した培地にl00mLのウシ胎児血清(FBS)を添加し、終濃度5ng/mLになるようにM−CSF(シグマ社製)を添加する。
(2)細胞の培養と維持
マウスの単球マクロファージ由来細胞株RAW264を10cmプレートに播種し、37℃、CO濃度5%の条件で、10mLの上記培地で培養する。プレート一面に細胞が増えたら、増殖した細胞の1/10を継代し、以後、3日ごとに継代を行う。マウス骨髄細胞1×106個/ウェルを24ウエルプレートに播種し、10% FBS、5ng/mL M-CSF入りのα−MEM中で37℃、CO2濃度5%で一日培養し、非接着性の細胞のみを回収する。これをさらに100ng/mLのM-CSF存在下で培養し、3日間培養後に浮遊細胞を除去したものを破骨細胞前駆細胞とする。
(3)可溶性RANKLの調製
可溶性組み換えRANKL(Receptor activator of NF-κB ligand)は、文献(Meiyanto, E., et al., (2001) Biochem. Biophys. Res. Commun. 282, 278-283)の記載に従って調製する。
具体的にはRANKL遺伝子を有するマウスストローマ細胞ST2からRNAを抽出し、次いで抽出したRNA3μgから作成したcDNA1μgを鋳型として、配列番号1に示す配列(5’-CAATTGCGCATCCTAACAGAATATCAG-3’)を有するオリゴヌクレオチドをセンスプライマー、配列番号2に示す配列(5’−CAATTGGAAATGAGTCTCAGTCAATG-3)を有するオリゴヌクレオチドをアンチセンスブライマーとしてPCRを行って、RANKL遺伝子を増幅した。なお、PCRはPfx DNA polymerase(GIBCO-BRL社製)を用い、付属のプロトコールに従って50μlの系で94℃15秒、52℃30秒、及び68℃1分のサイクルを5サイクル行った後、94℃15秒、56℃30秒、68℃1分のサイクルを15サイクルレ行うことによって実施する。かかるPCRで増幅させて得られたRANKL遺伝子を制限酵素MnuIで切断し、RANKLのC末端領域244アミノ酸をpGEX-2TKベクター(Amersham Pharmacia Biotech社製)のGST(glutathione S-transferase)のコード領域の下流に位置するBam HIとEco RI部位に挿入してベクターpGEX-2TK-RANKLを作製する。このpGEX-2TK-RANKL(可溶性GST-RANKL)及び、標準ベクターであるpGEX−2TK(GST蛋白質)をそれぞれ大腸菌JM109へ導入して組換え蛋白質の発現に用いる。これらの大腸菌を最終濃度50ng/mLになるようにアンピシリンを添加したSuper Broth(Tryptone Peptone(DIFCO社製)25g、Bact Yeast Extract(DIFCO社製)15g、NaCl 5g/1L水)培地に入れて37℃で一夜前培養し、続いてOD600Super Broth培地500mLあたり、前培養液5mL加えて37℃で、培地の吸光度(波長2600nm)が0.6〜0.8の範囲になるまで主培養を行う。その後IPTG(Isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside)を最終濃度0.25Mになるように添加し、蛋白質の発現誘導を開始し、18℃で約12時間培養する。
上記で培養した大腸菌を集菌後、上清を捨ててから菌体をNET緩衝液(20mM Tris-HCl pH8.0、100mM NaCl、1mM EDTA)で2回洗浄する。再び上清を捨て、氷上にて本培養液の1/250量のNETN緩衝液(20mM Tris-HCl pH8.0、100mM NaCl、1mM ESTA、0.5% NP-40 [シグマ社製])に大腸菌を懸濁し、超音波破砕器(トミー精工 UR-20P)による超音波処理(30秒,2回)を行って大腸菌を破壊する。主培養液量の1/1000量のGlutathione Sepharose(登録商標)4B(50% lurry[Amersham Pharmacia Biotech AB社製]をあらかじめNETN緩衝液で平衡化させておき、先の上清に加え4℃で8時間反応させた。Wash buffer(20mM NaCl, 4mM MgCl2・6H2O,1mM 2-メルカプトエタノール,20mM HEPES pH7.4[ナカライテスク社製])で3回洗い、ビーズ1mLあたり1.6mLのGlutathione-NaCl buffer(100mM Tris-HCl pH8.0,100mM NaCl,20mM glutathione[ナカライテスク社製];pHがアルカリ側であることを確認する。)を加え、1時間以上反応させて可溶性RANKLを溶出する。破骨細胞分化誘導に対するLPSの影響を極力防ぐために内毒素除去カラム(Detoxi-Gel Endotoxin Removing Gel[PIERCE])に通す。得られた可溶性RANKLは適量を分注して液体窒素で凍結して-80℃で保存する。分化誘導を行う際は適宜解凍して用いる。
(4)RAW264細胞の分化誘導
RAW264細胞は24穴プレートには2.5×104個、3.5cmプレートには10×10個、6cmプレートには20×104個、10cmプレートには50×104個になるように播種し、37℃、CO2濃度5%において24時間培養する。その後、可溶性RANKLを含む培地と交換し(0時間)、37℃、CO2濃度5%で培養する。72時間後、再び新しく調製した可溶性GST-RANKLを含む新鮮培地と交換し、37℃、CO2濃度5%で24時間培養する。この一連の操作により、RANKL添加から96時間後にプレート一面に破骨細胞の形成を確認することができる。
(5)骨髄細胞からの破骨細胞の分化誘導
骨髄細胞から破骨細胞への分化誘導はTakahashi,N. et al.,Generating murine osteoclasts form bone marrow Methods Mol. Med.(2003),pp.129-144に示す方法に従って行うことができる。
骨髄細胞から、上記の[細胞の培養と維持]で示す方法によって調製した破骨細胞前駆細胞を24ウェルプレートに1×104個/ウエルで播種し、一日培養する。その後500ng/mLのRANKLと100ng/mLのM−CSFを添加し誘導する。3日毎に前述の量のRANKLとM-CSFを含む新鮮培地に交換する。
(6)細胞固定とTRAP染色
上記(5)で破骨細胞が形成されたプレートの培地をサクションで除き、500μlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を加えてプレートを洗い、PBSを完全に取り除く。この操作をもう一度繰り返した後に、500μlのメタノールを静かに加え、30秒経過後にメタノールを除いてプレートをよく乾かす。
0.1M酢酸(pH5.2)を含む0.026M酒石酸と、0.1M酢酸(pH5.2)を含む12.5mg/mL naphthol AS-BI phosphateを24:1の割合で混合した溶液に、FAST GARNET GBCを適量加え、0.8μmフィルターに通したものをTRAP染色液とした。細胞固定したプレートに500μlのTRAP染色液を加え、37℃で1時間以上反応を行う。この時点で、TRAP活性を有する細胞は赤紫色を呈する。反応後、TRAP染色液を除き、超純水でプレートを洗浄する。
(7)骨吸収活性
形成された多核細胞が骨吸収活性を有することを確認できる。ヒドロキシアパタイトプレート[BD Bio Coat(BD Bioscience製)]上で分化誘導を行い、多核細胞形成後に、von kossa染色法により、分解されたリン酸カルシウムを測定した。リン酸カルシウムが分解された領域が白く見える。
(8)細胞抽出液の調製
特記しない場合は、一定時間後培養プレートを氷上に移し、培地上清を除去する。4℃に冷やしたPBSで細胞を2回洗浄後、適量のEBC Lysis buffer(50mM Tris-HCl pH8.0、120mM NaCl,0.5% NP-40,1mM EDTA, 0.5mM PMSF, 100KIU/mL Aprotinine,20mM NaF,2mM Na3VO4)を加えて 細胞を掻き取り、氷上で30分間静置した。その後、ピペッテイングにより細胞を破壊し、遠心(15,000rpm,4℃,10分)後、上清のみを氷上のエッペンドルフチューブに移し、これを細胞抽出液とした。細胞抽出液は液体窒素で凍結して、-80℃で保存した。
(9)ウエスタンブロッティング
調製した細胞抽出液の蛋白質量をBradford法により測定し、各サンプルの蛋白質量を同一にした後、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS-PAGE)により分離した。泳動後、ブロッテイングタンクを用いて、ウエット式ブロッティングによりPVDF膜(PolyVinyliDene F1uoride;Millipore社製)に蛋白質を転写した。転写後、PVDF膜をPBSで5分間洗浄し、5% Skim Milk/PBSで1時間、ブロッキングした。PBSで5分間、PBSTで10分間、PBSで5分間、PBSで5分間の順でPVDF膜を洗浄した後、5%BSA/PBSで希釈した一次抗体を2時間以上反応させる。反応後、PBSで5分間、PBSTで10分間、PBSで5分間の順でPVDF膜を洗浄する。次に、PVDF膜を、5%Skim Milk/PBSで希釈した二次抗体を室温で45分間反応させた後、PBSで5分間、PBST(Phosphatc Buffered Saline/Tween)で10分間、PBSで5分間の順でPVDF膜を洗浄し、ECL(Amersham Bioscience社製)、又はECL Plus(Amcrsham Biosciencc社製)で分離された蛋白質を検出する。
実験例1 NFAT2の発現抑制
RAW264細胞を1.25×104 cells/cm2の密度に調製し、37℃、CO2濃度5%で一晩〜24時間培養した。その後、L-セリン0.1mMを含む培地と含まない培地各々に、D-erythro-dihydrosphingosine(SIGMA D-3314)を0、0.3、1.0、3.0μMになるように添加し、これに可溶性組み換えRANKL(Receptor activator of NF-κB ligand)を最終濃度が500ng/mlとなるように添加した(Ishida, N., et al., (2002) J. Biol. Chem. 277, 41147-41156.)。72時間培養した後、これを新鮮な培地に交換し、さらに24時間培養を継続した(培養条件:37℃、CO2濃度5%)。
RANKL刺激から24時間後に、各々の細胞の抽出液中のNFAT2タンパク質の発現量をウェスタンブロッティングにより測定し、比較した。尚、β-actinはウェスタンブロッティングに使用したタンパク質の量を示している。
なお、上記細胞抽出液の回収は以下の手順で行なった。まず、培養後のプレートを氷上に移し、培地上清を除去した。4℃のPBSで2回洗浄した後に、RIPA buffer (50mM Tris-HCl pH7.2, 150mM NaCl, 1.0% Triton X-100, 1mM EDTA, 1.0% Sodium deoxyxholate, 0.1% SDS, 1.0mM PMSF, 100KIU/ml Aprotinine, 20mM NaF, 1.0mM Na3VO4)を加えて細胞を剥離・回収し、氷上で30分静置した。静置後、ピペッティングによる細胞破壊と遠心(15,000rpm, 4℃ 10分)後、上清を細胞抽出液として回収した。ウェスタンブロッティングには、各々の細胞抽出液間で、含有するタンパク質量が同一になるように調整して用いた。
SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法によりタンパク質を分離し、ブロッティングタンクを用いてウェット式ブロッティングによりPVDF膜にタンパク質を転写した。転写後、PBSで5分間洗浄し、5% Skim Milk/PBSでブロッキングを1時間行ない、PBSで5分間、PBSTで10分間、PBSで5分間×2回の順で洗浄を行なった。これを5%BSA/PBSで希釈した一次抗体と2時間以上反応させた後、PBSで5分間、PBSTで10分間、PBSで5分間の順で当該PVDF膜を洗浄し、次いで5% Skim Milk/PBSで希釈した二次抗体を室温で45分間反応させた。PBSで5分間、PBSTで10分間、PBSで5分間の順でPVDF膜を洗浄し、ECL(Amersham Bioscience社製)あるいはECL plus(Amersham Bioscience社製)を用いてタンパク質を検出した。
なお、上記で使用した一次抗体および二次抗体は下記の通りである:
<一次抗体>
マウスモノクローナル抗マウスNFAT2抗体[NFATc1(7A-6)](Santa Cruz社 #sc-7294)1/500希釈
マウスモノクローナル抗マウスβ-actin抗体(AC-74)(シグマ社)1/8000希釈
<二次抗体>
ヒツジ抗マウスigG HRP conjugated(Amersham Bioscience社製)
希釈倍率: NFAT2 (1/20,000)、β-actin (1/5,000)。
結果を図2に示す。
これからわかるように、D-erythro-dihydrosphingosineにより、濃度依存的にNFAT2の発現が抑制され、D-erythro-dihydrosphingosineがNFAT2の発現抑制剤として作用することが判明した。
実験例2 NFAT2の発現抑制および破骨細胞形成の抑制
RAW264細胞を前記同様1.3×104 cells/cm2の密度に調製して24時間培養した後、L-セリンを含む培地と含まない培地各々に、スフィンゴシンキナーゼ阻害剤〔2-(p-hydroxyanilino)-4-(p-chlorophenyl)thiazole〕(CALBIOCHEM #567731)を0、0.5、2.0、8.0μMになるように添加し、それぞれの培地条件下で、実験例1の方法に準じてRANKLによる分化誘導を行なった。24時間培養した後、スフィンゴシンキナーゼ阻害剤を含まない新鮮な培地に交換し、さらに72時間培養を継続した(図3参照)。
培養後、細胞を固定してTRAP染色を行ない、多核の破骨細胞の形成を確認した。具体的には、培養後、培地を除去してPBSで2回洗浄した後、これに500μlのメタノールを加えて30秒静置し、メタノールを除去した。次いでメタノールを完全に揮発させプレートを乾かした後、TRAP染色液を300μL添加し、37℃で1時間以上反応させた。反応後、TRAP染色液を除去し、超純水で洗浄し、顕微鏡観察を行なった。
また、上記と同様の実験を行なった細胞から実験例1と同様の方法で、細胞抽出液を調整し、NFAT2とc-Fosに対する抗体を用いてウェスタンブロッティングを行なった。
<一次抗体>
マウスモノクローナル抗マウスNFAT2抗体[NFATc1(7A-6)](Santa Cruz社 #sc-7294)1/500希釈
ラビットポリクローナル抗マウスc-Fos抗体[c-Fos94]](Santa Cruz社 #sc-52)1/5000希釈
マウスモノクローナル抗マウスβ-actin抗体(AC-74)(シグマ社)1/8000希釈
<二次抗体>
ヒツジ抗マウスigG HRP conjugated(Amersham Bioscience社製)
希釈倍率: NFAT2 (1/20,000)、β-actin (1/5,000)
Protein A HRP conjugated(Amersham Bioscience社製)
希釈倍率:c-Fos (1/20,000)。
顕微鏡観察の結果を図4に、ウェスタンブロッティングの結果を図5に示す。
この結果からわかるように、スフィンゴシンキナーゼ阻害剤により、濃度依存的に破骨細胞の形成(成熟化)が抑制され、またNFAT2の発現が抑制されることが判明した。
実施例3 NFAT2の発現抑制および破骨細胞形成の抑制
RAW264細胞に代えて骨髄細胞から分化誘導させた破骨細胞を用いて、実験例2と同様にして、スフィンゴシンキナーゼ阻害剤の作用を調べた。
具体的には、骨髄細胞を96ウェルプレート中で4×10cells/ウェル密度に調製して24時間培養した後、L-セリンを含む培地に、スフィンゴシンキナーゼ阻害剤〔2-(p-hydroxyanilino)-4-(p-chlorophenyl)thiazole〕(CALBIOCHEM #567731)を0、0.5、2.0、4.0、8.0μMになるように添加し、それぞれの培地条件下で、実験例1の方法に準じて3日間培養してRANKLによる分化誘導を行なった。
培養後、細胞を固定してTRAP染色を行ない、多核の破骨細胞の形成を確認した。具体的には、培養後、培地を除去してPBSで2回洗浄した後、これに500μlのメタノールを加えて30秒静置し、メタノールを除去した。次いでメタノールを完全に揮発させプレートを乾かした後、TRAP染色液を300μL添加し、37℃で1時間以上反応させた。反応後、TRAP染色液を除去し、超純水で洗浄し、顕微鏡観察を行なった。同時に、上記処理によりTRAP染色により陽性を示した細胞(多核の破骨細胞)の数を顕微鏡下測定した。
顕微鏡観察の結果を図6に、分化誘導された破骨細胞数を図7に示す。この結果からわかるように、スフィンゴシンキナーゼ阻害剤により、濃度依存的に、骨髄細胞による破骨細胞分化誘導も抑制されることが判明した。
実験例4 分化誘導時におけるSphK1とSphK2の発現解析
RAW264細胞を用いてRANKL刺激による分化誘導を行い、経時的(0,24,48,96時間)に細胞を採取して、スフィンゴシンキナーゼ1(SphK1)およびスフィンゴシンキナーゼ2(SphK2)の量を測定した。なお、細胞中のSphK1とSphK2の量は、それぞれSphK1およびSphK2に対する下記配列からなるプライマーを用いてRT-PCRを行うことで測定した。
<プライマー>
SphK1に対するプライマー
フォワードプライマー:AGC CGC CGT TAC CTC TAG CA (配列番号3)
リバースプライマー: GTT CAG CAG CAC CAG CAC TC (配列番号4)
SphK2に対するプライマー
フォワードプライマー:TGA GGA GAA TCG TGC AGA GG (配列番号5)
リバースプライマー:GCA GCA ATT CAG GGG TGA TT (配列番号6)。
結果を図8に示す。この結果から、RAW264細胞(破骨細胞前駆細胞)においてスフィンゴシンキナーゼ1(SphK1)は常に一定して発現しているのに対して、スフィンゴシンキナーゼ2(SphK2)は破骨細胞の分化誘導によって発現が誘導されることがわかる。
セリン代謝経路におけるスフィンゴシンの代謝ルートを示す模式図である。 RAW264細胞を、L-セリン存在下(+L-Ser)または非存在下(-L-Ser)で、D-erythro-dihydrosphingosine(Dihydrosphingosine)を0、0.3、1.0、3.0μMの条件で培養した時の、NFAT2の発現量を測定した結果を示す電気泳動像である(実験例1)。 実験例2で行った、RANKLによる分化誘導実験のタイムスケジュールを示す模式図である。RAW264細胞は1.3×104cells/cm2の密度に調整して24時間培養したものを用いた。 RAW264細胞を用いたRANKLによる分化誘導実験(実験例2)において、破骨細胞形成の有無を示す顕微鏡観察図である。 RAW264細胞を用いたRANKLによる分化誘導実験(実験例2)において、NFAT2とc-Fosの発現を示すウエスタンブロッティングの結果を示す。 骨髄細胞から分化誘導させた破骨細胞を用いたRANKLによる分化誘導実験(実験例3)において、破骨細胞形成の有無を示す顕微鏡観察図である。RAW264細胞は4×104cells/cm2の密度に調整して24時間培養したものを用いた。 骨髄細胞から分化誘導させた破骨細胞を用いたRANKLによる分化誘導実験(実験例3)において、培地に添加したSKI濃度を横軸、各々のSKI濃度条件下で分化誘導された破骨細胞数を縦軸に示す。 RAW264細胞を用いたRANKLによる分化誘導実験(実験例4)において、スフィンゴシンキナーゼ1(SphK1)と2(SphK2)の発現量を経時的に示す図である。
配列番号1は、RANKL遺伝子を増幅するために用いたセンスプライマーの塩基配列を示す。
配列番号2は、RANKL遺伝子を増幅するために用いたアンチセンスプライマーの塩基配列を示す。
配列番号3は、SphK1の発現量を測定するために用いたフォワードプライマーの塩基配列を示す。
配列番号4は、SphK1の発現量を測定するために用いたリバースプライマーの塩基配列を示す。
配列番号5は、SphK2の発現量を測定するために用いたフォワードプライマーの塩基配列を示す。
配列番号6は、SphK2の発現量を測定するために用いたリバースプライマーの塩基配列を示す。

Claims (17)

  1. スフィンゴシンキナーゼ阻害剤を有効成分とするNFAT2の発現抑制剤。
  2. スフィンゴシンキナーゼ阻害剤が、スフィンゴシンとスフィンゴシンキナーゼとの反応においてスフィンゴシンと拮抗する物質である請求項1に記載するNFAT2の発現抑制剤。
  3. スフィンゴシンキナーゼ阻害剤が、ジヒドロスフィンゴシン、または2-(p-ヒドロキシアニリノ)-4-(p-クロロフェニル)チアゾールである請求項1に記載するNFAT2の発現抑制剤。
  4. スフィンゴシンキナーゼ阻害剤を有効成分とする破骨細胞形成抑制剤。
  5. スフィンゴシンキナーゼ阻害剤が、スフィンゴシンとスフィンゴシンキナーゼとの反応においてスフィンゴシンと拮抗する物質である請求項4に記載する破骨細胞形成抑制剤。
  6. スフィンゴシンキナーゼ阻害剤が、ジヒドロスフィンゴシン、または2-(p-ヒドロキシアニリノ)-4-(p-クロロフェニル)チアゾールである請求項4に記載する破骨細胞形成抑制剤。
  7. スフィンゴシンキナーゼ阻害剤を有効成分とする、破骨細胞形成に起因する骨代謝異常疾患の予防または治療剤。
  8. 破骨細胞形成に起因する骨代謝異常疾患が、骨粗鬆症である請求項7に記載する予防または治療剤。
  9. スフィンゴシンキナーゼ阻害剤が、スフィンゴシンとスフィンゴシンキナーゼとの反応においてスフィンゴシンと拮抗する物質である請求項7または8に記載する予防または治療剤。
  10. スフィンゴシンキナーゼ阻害剤が、ジヒドロスフィンゴシン、または2-(p-ヒドロキシアニリノ)-4-(p-クロロフェニル)チアゾールである請求項7または8に記載する予防または治療剤。
  11. スフィンゴシンキナーゼの阻害活性を指標とする破骨細胞形成抑制剤のスクリーニング方法。
  12. 下記の工程を有する、請求項11に記載するスクリーニング方法:
    (a) 被験物質の存在下でスフィンゴシンとスフィンゴシンキナーゼを反応させて、生じるスフィンゴシン−1−リン酸の量を測定する工程、
    (b) 上記で得られたスフィンゴシン−1−リン酸の生成量(被験値)を、被験物質の非存在下で同様に測定した対照のスフィンゴシン−1−リン酸の生成量(対照値)と対比する工程、
    (c) 対照値よりも被験値が低い場合における被験物質を、破骨細胞形成抑制剤の候補物質として選択する工程。
  13. 下記の工程を有する、請求項11に記載するスクリーニング方法:
    (A)被験物質の存在下、破骨細胞前駆細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ活性を測定する工程、
    (B)上記で得られたスフィンゴシンキナーゼ活性(被験活性)を、被験物質の非存在下で同様に測定した破骨細胞前駆細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ活性(対照活性)と対比する工程、
    (C)対照活性よりも被験活性が低い場合における被験物質を、破骨細胞形成抑制剤の候補物質として選択する工程。
  14. 下記の工程を有する、請求項11に記載するスクリーニング方法:
    (1)被験物質および破骨細胞分化誘導剤の存在下、破骨細胞前駆細胞を培養する工程、
    (2)上記破骨細胞前駆細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ活性(被験活性)を測定する工程、
    (3)上記で得られたスフィンゴシンキナーゼ活性(被験活性)を、被験物質の非存在下で同様に測定した対照の破骨細胞前駆細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ活性(対照活性)と対比する工程、
    (4)対照活性よりも被験活性が低い場合における被験物質を、破骨細胞形成抑制剤の候補物質として選択する工程。
  15. スフィンゴシンキナーゼがスフィンゴシンキナーゼ2である、請求項11乃至14のいずれかに記載するスクリーニング方法。
  16. 破骨細胞形成に起因する骨代謝異常疾患の予防または治療薬の有効成分となる破骨細胞形成抑制剤をスクリーニングする方法である、請求項11乃至15のいずれかに記載するスクリーニング方法。
  17. 破骨細胞形成に起因する骨代謝異常疾患が骨粗鬆症である、請求項16に記載するスクリーニング方法。
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