JP2008209274A - 電気化学センサ - Google Patents

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克好 相原
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福島  瑞惠
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Abstract

【課題】電子受容体を用いた電気化学センサは、アスコルビン酸などの酸化性物質も容易に電極表面で酸化してしまうため妨害物質除去部を設けたものも存在するが、血液などの生体試料をそのまま使用するためヘマトクリット値などの他の誤差要因を実質除去することができなかった。
【解決手段】本発明によれば、妨害物質除去などの前処理部と電極反応が起こる電極系とを完全に分離した構造であり、前処理後の試料は遠心力等の外力を用いて電極系に移動させる。しかも遠心力を用いれば、生体試料の比重の差を利用して血球成分と血漿成分に分離させることができ、電極系配置を分析対象に合わせて適切に設計することによって自動分析器で行う生化学検査と同様な高精度な濃度測定が電気化学的に実現できる。
【選択図】図1

Description

本発明は、血液等の生体試料中に含まれる特定成分濃度を電気化学的に測定するための電気化学センサに関するものである。
従来、血液などの生体試料中に含まれる特定物質の濃度を稀釈や攪拌或いは、成分分離などの特別な処理を行うことなく簡易に定量する方法としてディスポージャブル型のバイオセンサが提案されている。
バイオセンサは、絶縁性基板上にスクリーン印刷技術によってカーボンなどからなる電極を形成し、この電極に酸化還元酵素、電子受容体、親水性高分子とからなる酵素反応層を形成したものである。
センサとしての構造は、この絶縁性基板上に血液等の容量を決めるスペーサとカバー部材とを順に貼り合わせる。
スペーサは、基材を挟んだ両面粘着剤等やプラスチックフィルム等に粘着剤を付加したものを用いる。また、カバー部材はプラスチックフィルム等が用いられる。
例えば、カバー部材の一部に空気孔を設けることによって毛管現象によって吸引部から血液等の生体試料などを吸引する。
このように吸引量は、毛管現象を利用して絶縁性基板とスペーサ及びカバー部材及び空気孔の位置からなる空間によって決定することができる。
吸引された血液等の生体試料は、電極上に形成した酵素反応層を溶解させ、電極に一定の電位を印加しておくことによって酸化還元反応を起こさせ、その結果生じる酸化還元電流を測定する。この酸化還元電流は、酵素と反応した基質の濃度に比例することから、目的物質にあった酵素を選択することによって目的物質の定量を行うことができる。
一例として、糖尿病患者の血糖コントロールに用いられているグルコースセンサについて説明する。
電極系を構成する各電極は、例えばポリエチレンテレフタレート(Poly Ethy−lene Terephtalate:PET 以下、PETと記述する)にスクリーン印刷技術によって印刷された導電性インクで形成されている。
ここでは、作用極及び対極はカーボン微粒子とバインダと溶剤とからなるカーボンペーストを主原料とする導電性インクで印刷され、印刷後、約120℃で30分程度の加熱工程を経て溶剤を揮発させ形成した電極である。
次にこの電極系を部分的に覆い、作用極と対極の電気化学的に作用する部分以外に絶縁性ペーストを同様にスクリーン印刷技術によって印刷し加熱処理をして絶縁層を形成する。
この電極系にグルコース酸化酵素と電子受容体であるフェリシアン化カリウムと親水性高分子であるカルボキシメチルセルロース(以下、CMCと記述する)とを混合し、この水溶液を電極系に滴下し乾燥させる。
グルコース酸化酵素は、例えばグルコースオキシダーゼ(以下、GODと記述する)を用いる。
GODは、酸素を電子伝達体として基質であるβ−D−グルコースをD−グルコノ−δ−ラクトンに選択的に酸化する。
これがさらに電子受容体を還元しフェリシアン化カリウムを生成する。
電極系を構成する作用極と対極間にフェリシアン化カリウムが酸化できる電位を印加することによって、フェリシアン化カリウムは電極表面で酸化され、酸化体であるフェロシアン化カリウムに変換する。
この際、酸化電流として流れる電流量が試料中に含まれるグルコース濃度に比例することからグルコース濃度を求めることができる。
しかし、電子受容体を用いた場合、血液などの生体試料に含まれるアスコルビン酸や尿酸などの酸化性妨害物質も還元性電子受容体と同様に電極表面で容易に酸化されてしまう。
そして、この酸化性妨害物質の酸化反応が測定結果に加算されて誤差を与える原因になることが知られている。
そこで、この酸化性妨害物質を電極での反応前にあらかじめ除去することを目的とした妨害物質除去部を付加したバイオセンサが特許文献1に提案されている。
吸引部から吸引した生体試料は、妨害物質除去部を通過し電極系に到達するが、妨害物質除去部と電極系は同一空間に存在し、吸引後、両者は常に生体試料で満たされる構造である。
このように、たとえ酸化性妨害物質を除去しても試料に全血を用いている限り、一般的に行われる健康診断等で採血した静脈血を自動分析器で分析する生化学検査とは根本的に精度が低いことが指摘されている。
一般的なデスポージャブル型のグルコースセンサは、生化学検査で行う遠心分離をはじめとする前処理を行わず簡易である一方、精度の問題は未だ十分に解決されているとは言えない。
試料に全血を用いる場合の問題の一つは、全血中に含まれる血球の割合を示すヘマトクリット値である。
ヘマトクリット値が高いことは血球成分が多いことを示すが、この血球成分が電気化学的平衡反応を遅くする原因となったり、粘度増加によって酵素反応速度を遅くし、電流応答の経時的変化に誤差を生じることが高精度化への弊害になっている。
前述したデスポージャブル型のグルコースセンサでは、ヘマトクリット値の影響を種々の方法を用いて補正している。
一例を挙げると、予めヘマトクリット値に対する補正係数を求めておき参照する方法、コール酸ナトリウムなどの溶血剤を用いて血球の影響を低減する方法が特許文献2に記載されている。
また、血球分離膜を用いて血漿成分のみに分離して血球の影響を除去する方法なども提案されている。
しかし、ソフトウェアで補正計算する方法では、測定濃度範囲でヘマトクリット値の影響が変化するため広範囲の濃度に対応するのは難しい、また溶血剤を用いたり、血球分離膜を用いる方法のようにセンサ構造を改良する方法では、十分に血球成分の影響を除去しきれないばかりかセンサ構造を複雑化させているという問題がある。
特公平8−20400号公報(4頁、第2図) 特開2005−114359号公報(1頁、第1図)
上記課題を解決するために、本発明の電気化学センサは次のような構成を採用する。
毛管現象によって水溶液を吸引し、水溶液内に含まれる特定成分を定量するための電気化学センサであって、吸引部から連続した流路の途中に空気孔を有し、空気孔に対して吸引部側に前処理部を有し、前処理部と連続した流路の延長領域に電極系を有し、電極系は少なくとも作用極と対極とを有することを特徴とする。
吸引部から流入する水溶液は、前処理部で任意量を吸引し、その後、任意時間後に外力を加えることによって、電極系に移動することが好ましい。
電極系を設けた絶縁性基板と、流路を設けたスペーサと、前処理部に配置した親水性繊維部材と、天板とを有し、親水性繊維部材に少なくとも第1の酵素を担持した第1の反応層を設け、電極系の表面に第2の酵素と電子受容体と親水性高分子とを有する第2の反応層を設ける。
天板は、少なくとも前処理部の領域が透明であることが好ましい。
前処理部にカバー部材を有することが好ましい。
天板は吸引部から空気孔に向けて溝を設け、溝と空気孔の領域をカバー部材で覆うことが好ましい。
カバー部材は透明であることが好ましい。
前処理部に吸引される水溶液の量は、前処理部を形成する容積と親水性繊維部材の空隙率によって決定することが好ましい。
水溶液の流動方向に対し、少なくとも前処理部以降の一部の流路が狭窄していることが好ましい。
電極系は参照極を有することことが好ましい。
作用極は対極に対して、少なくとも前処理部側に配置することが好ましい。
本発明の電気化学センサは、吸引部から連続した流路の途中に空気孔を有し、空気孔に対して吸引部側に前処理部を有し、前処理部と連続した流路の延長領域に電極系を有している。
本発明の構成によれば、酸化性妨害物質の除去をはじめとする前処理と、電気化学計測により目的とする特定成分濃度の分析を行う電極系とが完全に分離している。
前処理部から電極系への試料の移動は、電気化学センサ本体に外力を加えることで可能にする。
前述した外力に遠心力を用いれば、生体試料の比重の差を利用して血球成分と血漿成分に分離させることができ、電極系配置を分析対象に合わせて適切に設計することによって自動分析器で行う生化学検査等と同様に高精度な濃度測定が電気化学的に簡易に実現できるという優れた効果がある。
(第1の実施形態)
以下、図面を用いて本発明の実施形態における電気化学センサの構成について説明する。
図1は、本発明の電気化学センサの構成を平面図及び断面図として示した概略図である。
平面図のA−A’方向に切断した断面図を位置関係を含めて示している。
図1(a)は、本発明の電気化学センサ全体の平面図を示したものである。
図1(b)は電気化学センサ全体の平面図から天板を取り除いた平面図である。
図1(c)は図1(a)をA−A’方向に切断した断面図を示したものである。
1は絶縁性基板、2は親水性繊維部材、3はスペーサ、4は天板、5は吸引口、6は空
気孔、7は作用極、8は対極、9は絶縁層、10は前処理部、11は電極系、30は配線、31はコネクタ端子である。
電極系11は、作用極7と対極8から構成され、測定の際はこの2電極間に任意の電位を印加し両極間に流れる電流を求める2電極式の構成である。作用極7は対極8に対して、前処理部10に近い側に配置する。
まず、厚さ250μmの絶縁性基板1であるPET板上に電極となる導電性ペーストをスクリーン印刷技術を用いて印刷する。
PET板は、例えばA4シート状のものを用意して印刷前に150℃で数時間のベーキングを施す。
これは予めPET板を収縮させておくための工程で、導電性ペーストを印刷した後の乾燥温度で寸法変換差が起きないようにその温度よりも高温で行う。
150℃のベーキングの後は、まず銀微粒子とバインダと溶剤とからなる銀ペーストを主原料とする導電性インクをスクリーン印刷技術を用いて印刷する。
その後、配線30以外の領域の銀パターンを覆うようにカーボン微粒子とバインダと溶剤とからなるカーボンペーストを主原料とする導電性インクを同様にスクリーン印刷技術を用いて印刷し、その後、約120℃で30分程度の加熱工程を経て溶剤を揮発させる。
最初に印刷した銀の導電性インクは、カーボンと比較して低抵抗であるためカーボンパターンの下地として用いることで配線抵抗を低くする効果がある。
次に作用極7と対極8で構成される電極系11の電気化学的に作用する部分以外の領域に一般的にレジストと呼ばれる絶縁性ペーストを同様にスクリーン印刷技術を用いて印刷し、加熱処理をして絶縁層9を形成する。
絶縁性ペーストは、一般的に印刷後、温度を加えることで硬化する熱硬化性のものと紫外線等の光を照射することで硬化する光硬化性のものがある。
どちらでも使用できるが、ここでは熱硬化性の絶縁性ペーストを用いた。
絶縁性基板1は、上記のようにすべての印刷が終了した後に任意の形状に打ち抜く。
図2は、図1に対して前処理部10及び電極系11に第1の反応層20及び第2の反応層21を形成した時の平面図及びその断面図を示している。
図2(a)は電気化学センサ全体の平面図から天板を取り除いた平面図である。
図2(b)は図2(a)をB−B’方向に切断した断面図を示したものである。
この前処理部10に形成する第1の反応層20と電極系11に形成する第2の反応層21について説明する。
この絶縁性基板1に印刷した電極系11の表面にグルコース酸化酵素であるGODと電子受容体であるフェリシアン化カリウムと親水性高分子であるCMCとを任意割合で混合した水溶液を滴下する。
GODとフェリシアン化カリウムの濃度は、吸引する血液量に対して目的とするグルコースの検出可能濃度を考慮して決定する。
CMCは、GODとフェリシアン化カリウムを電極近傍に担持するために使用し濃度は1%程度に希釈した水溶液を用いる。
その後25℃で送風乾燥させ、さらに水分を完全に除去するために真空乾燥を行い、続いて窒素雰囲気中で保管しておく。
窒素雰囲気中での保管は、CMCの吸湿の影響を低減するためである。
このようにして作製した電極系11が第2の反応層21であり、ここで最終的に生体試料中のグルコース濃度を検出する。
アスコルビン酸、尿酸などの酸化性妨害物質の除去は前処理部10で行う。
ここでは、酸化性妨害物質をアスコルビン酸を例にして説明する。
アスコルビン酸は、生体内に存在しており、健常者が豊富に摂取することで血液中や尿
中にも容易に存在する物質である。
生体内には、最大で100mM程度存在すると言われており、非常に酸化力が強く電子受容体であるフェリシアン化カリウムを直接酸化してしまう。
アスコルビン酸の除去は、アスコルビン酸の酸化酵素であるアスコルビン酸オキシダーゼ(以下、ASODと記述する)を任意濃度に調整し、予め前処理部10の形状に合わせて切断された親水性繊維部材2に塗布乾燥させ担持させる。
ASODの濃度は、生体内に存在する最大濃度100mMが除去できる濃度とする。
親水性繊維部材2には不織布或いはメンブレンなどを使用することができる。
例えば、親水性繊維部材2自体には疎水的で吸水性がなく、表面に親水的な特性をもつ材料が適している。
このような特性の材料を用いることによって、吸引した試料を効率良く電極系11へ移動させることができ、試料液量が安定し、再現性にも優れる。
一般に吸引量は絶縁性基板1とスペーサ3及び天板4で囲まれる空間と空気孔6の位置で決定できるが、本発明の構成では親水性繊維部材2を前処理部10に配置することで前処理部10の容積と親水性繊維部材2の空隙率のみから決定することもできる。
親水性繊維部材2を囲む空間を疎水的にすることでこの効果が顕著に現われる。
空気孔6の位置を前処理部10よりも電極系11側に移動させても親水性繊維部材2が水溶液を吸収しきった時点で吸引は停止した。
このようにして作製した親水性繊維部材2が第1の反応層20となり前処理部10に配置される。
スペーサ3は厚さ30μmのPET基板に片側厚さ75μmの両面粘着材を貼り合せ総厚180μmの部材から異型に切断したものを作製した。
このスペーサ3は、絶縁性基板1のコネクタ端子31の領域以外の外形に合わせたものでかつ、流路を任意の形状に作製したものである。
図1に示すように前処理部10以降に連続する生体試料の流動方向に対する流路は、前処理部10の領域よりも狭窄している。すなわち、前処理部10より先における流路の幅が少なくとも一部において小さくなっている。
前処理部10に配置された第1の反応層20では、親水性繊維部材2として前述した不織布が配置されるが、吸引口5から吸引した生体試料は一旦、この第1の反応層20で満たされ停止する。
親水性繊維部材2である不織布の繊維方向は、生体試料の流動方向と一致しており、吸引口5から空気孔6によって起こる毛管現象と表面が親水化処理されている不織布の展開能によって任意の容量を吸引させることができる。
前述のように、この吸引量は、前処理部10の空間を決める絶縁性基板1とスペーサ3と天板4と不織布の空隙率によって設計が可能である。
この第1の反応層20で前処理であるアスコルビン酸の除去が一定時間内に行われ、その後、遠心力などの外力によって生体試料を第2の反応層21である電極系11側に移動させる。
前述した前処理部10とそれ以降に連続する流路形状の違いは、このように遠心力を加えた際に、前処理部10に配置した不織布が電極系11方向に移動しないようにしており、前処理部10以降の連続した流路を狭窄する。
その結果、遠心力による不織布の移動がなく生体試料のみを効率良く遠心力方向に移動させることが可能となった。
天板4は、絶縁性基板1と異型形状のスペーサ3の上部に貼り付けてこの3つの部材によって空間を作製する。
この天板4は、任意の位置に空気孔6が形成されている。
親水性繊維部材2が配置されない場合は、吸引口5から空気孔6までの空間が毛管現象
によって水溶液で満たされるが、親水性繊維部材2を配置することで空気孔6の位置が親水性繊維部材2を配置した位置よりも電極系11側にあれば、前処理部10の容積と親水性繊維部材2の空隙率で吸引量を制御することができる。
天板4は、血液等の生体試料が吸引したかどうかを目視で確認できるように少なくとも前処理部10の領域は透明であることが望ましい。
生体試料が電極系11に移動した後は、被験者が自ら確認する必要がないため前処理部以外の領域は必ずしも透明である必要はない。
センサの作製は、第2の反応層21を形成し、窒素雰囲気中に保管した絶縁性基板1に流路が形成されているスペーサ3を貼り合わせ、第1の酵素を担持した不織布などの親水性繊維部材2を第1の反応層20に配置する。
その後、天板4を一定の圧力を加えて貼り合わせて再度窒素雰囲気中に保管する。
次に各部材の実際の寸法を明記し説明する。
実質の吸引量を3.5μl、スペーサ3の厚さを180μmとする。
使用した不織布は、繊維そのものには吸収はなく、繊維表面が親水化処理されたものである。
つまり不織布の繊維間の空隙に水溶液が浸水し、不織布の体積分を差し引いた量が実質の吸収量となる。
前処理部10に配置する不織布の厚さは、スペーサ3と同じく180μmで前処理部10の容積の約20%を不織布の繊維が占めるものとする。
これらから、前処理部10の面積を求めると、24.25mm2となる。
この前処理部10に配置される不織布すべてに3.5μlの試料を吸引し、停止させるために不織布の最底部位置に0.5mmφの空気孔6を形成した。
吸引及び前処理後の遠心条件を600Gで30sとした場合、前処理部からの試料回収率は約91%であった。
上記から、3.5μl吸引した場合、電極系11近傍に移動すると3.185μlが残る計算になる。
電極系11近傍の流路幅は2mmとする。
まず、上記の条件で試料に人血清を用いてセンサの吸引口5から自発吸引させ、吸引停止後、600Gで30s間遠心力を加えて電極系11方向へ試料を移動させる。
流路の最底部からの液面を測定することによって、センサの構造的な安定性を評価した。
ここでは、自発吸引量と遠心後の液面高との関係を測定するため天板4は全体が透明のものを用いた。
図3は、同様に作製したセンサ10個に対して前述の評価を行った場合の結果をまとめたものである。
平均値8.69mm、変動係数3.16%であり、安定した液面が実現できている。
平均値8.69mmは、流路幅2mm、スペーサ高180μmから、3.12μlが遠心後の回収量と計算できる。
この数値から計算される吸引量に対する遠心後の回収率は89%となる。
設計値とは、若干異なるがほぼ一致する値が得られた。
前述したように吸引口5からの自発吸引量は、前処理部10の空間に配置された不織布の容積と不織布の繊維量によって決定され、これらのパラメータから目的とする吸引量を設計値として決めることができる。
尚、本センサ構造において自発吸引時或いは遠心力を加えたことによる空気孔6からの試料液の漏出は認められなかった。
次に同一人及び同一日時に採血した人静脈血を用いて、人血清を用いた時と同様に透明な天板4を用いて測定を行った。
今回は、全血を用いるため予め血液が凝固しないようにヘパリン入りの容器に静脈血を採取し数回の転倒混和を行ったものを試料とした。
この試料を吸引口6から毛管現象により自発吸引させ、600Gで1分間遠心後、試料である血液を電極系11へ移動させた。
血清の移動と違って、今回は血球成分と血漿成分を遠心分離するため遠心時間を1分間とした。
血液比重は1.055〜1,066、血漿比重は1.030程度であるので、遠心分離を行うことによって、血漿成分は血液全体の上方に上澄みとして分離される。
このようにして遠心分離した後の流路底面からの液面及び血球と血漿の境界面からの液面、つまり血漿量を測長器により測定した数値をまとめたものを図4に示す。
遠心後の血液全体の液面高の平均値は8.51mm、変動係数3.48%と血清同様に安定した液面が再現されている。
また、血球と血漿との境界面からの液面は平均値4.59mmで変動係数3.75%となった。
血液全体の液面と血漿の液面の変動係数が若干異なるが、遠心分離の変動分と考えられこれを含めても安定して血球と血漿が分離できていることが示された。
また、この場合の全血液量に対する血球の割合を示すヘマトクリット値は約46%と計算できるが、生化学検査における正常基準値は、男性38〜50%、女性34〜45%である。
実際は、ヘマトクリット値30%〜60%の範囲で対応できるように電極系11の位置を最適な位置に配置する。
本例の場合は、対極8を基準にして作用極7に電位を印加する場合、作用極7が電気化学的な反応が起こる。対極8は、作用極7での電気化学反応を律速しない程度に電極面積を大きく設定する必要がある。
また、電気化学反応を起こす作用極7が必ず血漿に浸漬されるように電極配置を設定する。
流路幅2mm、スペーサ3による液面を180μm、作用極7の面積を2.8mm2とすると、前述した遠心後の液面が流路最底部から8.69mmを仮定すると、対極8の最大面積は、スクリーン印刷精度を考慮して約3倍の8.6mm2とした。
作用極7の面積は、設定したヘマトクリット値の最大値60%に対応したときの最大値とした。
このようにして作製したセンサを用いて、全血を吸引し、アスコルビン酸の除去を一定時間行った後、規定の条件で遠心分離して電極系11上が血漿で浸漬するようにする。
その後、対極8を基準にして作用極7に0.5Vを印加し定電測定を行うことによって再現性よく電流曲線が描けることを確認した。
印加電位は、フェリシアン化カリウムの酸化電位から決定したもので、対極8及び作用極7両電極にカーボンを用いた場合、両極間の電位を挿引し酸化還元電流を測定するサイクリックボルタンメトリの結果から酸化電位はほぼ0Vであることが判った。
この結果から、対極8に対して作用極7の電位をこの酸化電位以上で印加することによって作用極7の表面でフェリシアン化カリウムを酸化することができる。
(第2の実施形態)
以下、図面を用いて第2の実施形態を説明する。
図5は、本発明の第2の電気化学センサの構成を平面図及び断面図として示した概略図
である。
図5(a)は、本発明の第2の電気化学センサ全体の平面図を示したものである。
図5(b)は第2の電気化学センサ全体の平面図から天板を取り除いた平面図である。
図5(c)は図5(a)をC−C’方向に切断した断面図を示したものである。
図1で説明した符号については重複するので省略する。
本実施例は、天板4に形成する空気孔6の形状についてである。
図5に示すように、天板4の上面から下面に向かってセンサ底面に対して鋭角になるように空気孔6を形成する。
第1の実施例で説明したように、試料をセンサの吸引口5から自発吸引させる場合は問題とならないが、静脈血をシリンジ等で一旦採血し、このシリンジから直接吸引させる場合、シリンジ圧が吸引力に加わることになる。
これは、ディスポージャブル型の指尖器具で自己採血する以外に、病院内で看護士が患者から採血をして測定する場合を想定しているものである。
この場合、試料をセンサに導入する際、空気孔6に至って吸引される可能性がある。
この状態になると、遠心時に空気孔6に吸引された試料が空気孔6からある割合で漏出する可能性がある。
そのため、天板4の上面から下面に向かってセンサ底部に対して鋭角になるように空気孔6を形成することによって、空気孔6に導入された試料も遠心力方向に移動させることができることが判った。
(第3の実施形態)
以下、図面を用いて第3の実施形態を説明する。
図6は、本発明の第3の電気化学センサの構成を平面図及び断面図として示した概略図である。
図6(a)は、本発明の第3の電気化学センサ全体の平面図を示したものである。
図6(b)は第3の電気化学センサ全体の平面図から天板を取り除いた平面図である。
図6(c)は図6(a)をD−D’方向に切断した断面図を示したものである。
図1で説明した符号については重複するので省略する。
40はカバー部材である。
本実施例は、天板4に吸引口5から空気孔6までの距離に天板4の上面から溝41を形成し、その天板4の上面にさらにカバー部材40を貼り合せた構造をとる。
第2の実施形態と同様に、静脈血等をシリンジで吸引させる場合を想定している。
第2の実施例と同様に、仮に空気孔6に試料が導入されてもセンサの外部には液が漏出しない構造になっている。
本構造において吸引時に圧力を加えて空気孔6に試料を導入しても、初期における遠心力によるセンサ外部への液漏出を防止し汚染しないことが確認できた。
上記は、電極系11が作用極7と対極8で構成される2電極式についての説明であるが、電気化学測定において一般的に行われる基準となる参照極を用いる3電極式についても同様な効果がある。
3電極式の場合は、参照極に対して作用極7の電位が一定になるように対極8の電位を制御する方法で、参照極は吸引口5から流動方向に対して作用極7以前或いは以後のいずれに配置しても問題とならず、作用極7がすべて血漿に浸漬されればよい。
以上説明したように、電子受容体を用いたディスポージャブル型の電気化学センサは、アスコルビン酸などの酸化性物質も容易に電極表面で酸化してしまうため妨害物質除去部を設けたものも存在した。
しかし、血液などの生体試料をそのまま使用するためヘマトクリット値などの他の誤差
要因を実質除去することができなかった。
本発明によれば、妨害物質除去などの前処理部と電極反応が起こる電極系とを完全に分離した構造であり、前処理後の試料は遠心力等の外力を用いて電極系に移動させる。
しかも遠心力を用いれば、生体試料の比重の差を利用して血球成分と血漿成分に分離させることができ、電極系配置を分析対象に合わせて適切に設計することによって自動分析器で行う生化学検査と同様な高精度な濃度測定が電気化学的に実現でき、本発明を用いることの効果は非常に高い。
本発明の第1の実施形態の電気化学センサを示す概略図である。 本発明の第1の実施形態の電気化学センサを示す概略図である。 本発明の第1の実施形態の測定結果を示す図である。 本発明の第1の実施形態の測定結果を示す図である。 本発明の第2の実施形態の電気化学センサを示す概略図である。 本発明の第3の実施形態の電気化学センサを示す概略図である。
符号の説明
1 絶縁性基板
2 親水性繊維部材
3 スペーサ
4 天板
5 吸引口
6 空気孔
7 作用極
8 対極
9 絶縁層
10 前処理部
11 電極系
20 第1の反応層
21 第2の反応層
30 配線
31 コネクタ端子
40 カバー部材

Claims (11)

  1. 毛管現象によって水溶液を吸引し、該水溶液内に含まれる特定成分を定量するための電気化学センサであって、吸引部から連続した流路の途中に空気孔を有し、該空気孔に対して前記吸引部側に前処理部を有し、該前処理部と連続した流路の延長領域に電極系を有し、該電極系は少なくとも作用極と対極とを有する電気化学センサ。
  2. 前記吸引部から流入する前記水溶液は、前記前処理部で任意量吸引され、任意時間後に外力を加えることによって、前記電極系に移動することを特徴とする請求項1に記載の電気化学センサ。
  3. 前記電極系を設けた絶縁性基板と、前記流路を設けたスペーサと、前記前処理部に配置した親水性繊維部材と、天板とを有し、前記親水性繊維部材に少なくとも第1の酵素を担持した第1の反応層を設け、前記電極系の表面に第2の酵素と電子受容体と親水性高分子とを有する第2の反応層を設けたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電気化学センサ。
  4. 前記天板は、前記前処理部の領域が透明であることを特徴とする請求項3に記載の電気化学センサ。
  5. 前記前処理部にカバー部材を有することを特徴とする請求項3または請求項4に記載の電気化学センサ。
  6. 前記天板は前記吸引部から前記空気孔に向けて溝を設け、該溝と前記空気孔を前記カバー部材で覆うことを特徴とする請求項5に記載の電気化学センサ。
  7. 前記カバー部材は透明であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の電気化学センサ。
  8. 前記前処理部に吸引される前記水溶液の量は、前記前処理部を形成する容積と前記親水性繊維部材の空隙率とによって決定されることを特徴とする請求項3から請求項7のいずれか一項に記載の電気化学センサ。
  9. 前記水溶液の流動方向に対し、前記前処理部における流路の幅より前記前処理部より先における流路の幅が少なくとも一部において小さいことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の電気化学センサ。
  10. 前記電極系は参照極を有することを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の電気化学センサ。
  11. 前記作用極は前記対極に対して、前記前処理部に近い側に配置することを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の電気化学センサ。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2012133633A1 (ja) * 2011-03-29 2012-10-04 株式会社テクノメデイカ 使い捨てリジンセンサ

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