JP2008154521A - 塩素化エチレン分解菌の塩化ビニル分解能の判定方法、及び該方法に用いられる塩素化エチレン分解菌の塩化ビニル分解能判定用キット - Google Patents

塩素化エチレン分解菌の塩化ビニル分解能の判定方法、及び該方法に用いられる塩素化エチレン分解菌の塩化ビニル分解能判定用キット Download PDF

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Abstract

【課題】塩化ビニルを分解する能力を有する微生物を、簡便に検出することのできる方法の提供。
【解決手段】塩素化エチレン分解細菌 Dehalococcoidesの、特定の塩基配列を有する16s rDNAの一部を鋳型としてPCRを行ない、その産物の融解曲線分析を行う工程を有する、該細菌の塩化ビニル分解能の判定方法及び上記PCRプライマー用オリゴヌクレオチドを含む判定用キット。更に土壌等の試料に上記方法を適用する汚染土壌等浄化手段の決定方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、塩素化エチレン分解細菌の塩素化エチレン分解能を簡便に判定する方法に関する。
近年において科学技術が発展し、それに伴い、種々の化学物質が利用されるようになってきており、土壌や地下水が各種の有害難分解物質によって汚染されることが問題となっている。特に、テトラクロロエチレン(以下、「PCE」ともいう)、トリクロロエチレン(以下、「TCE」ともいう)、シス−1,2−ジクロロエチレン(以下、「cDCE」ともいう)、塩化ビニル(以下、「VC」ともいう)等の塩素化エチレンによる環境汚染、特に地下水、土壌の汚染は世界的に深刻な問題となっている。これらの塩素化エチレンは、土壌中に残留したものが雨水等によって地下水中に溶解して、周辺に広がるものとされている。このような塩素化エチレンは、水に対する溶解性が低く、また化学的に安定な化合物であることから、いったん環境中に放出されると、長期間にわたって土壌や地下水中に蓄積してしまう。
一方で、塩素化エチレンのヒトに対する毒性が指摘されており、PCE、TCE及びcDCEについてはppbレベルでの環境基準値が設定されており、これらの塩素化エチレンによって汚染された土壌、地下水の浄化方法について、様々な研究がなされている。そのような研究の中でも、微生物を用いた浄化方法は、物理・化学的方法に比べて浄化コストが低いこと、また大がかりな掘削をする必要がなく、稼働中の工場等に隣接した場所における浄化が可能であること等の理由から、近年特に注目されている。塩素化エチレンを無害化することのできる微生物には、好気性微生物と嫌気性微生物との両者が存在する。前者は、メタン、トルエン、フェノール等の誘導物質の存在下に、共酸化的に塩素化エチレンを分解するものであり、現場での適用には通気を必要とするため、コスト高となることから、現場で実施する例は少ない。これに対し、嫌気性微生物を用いる浄化には通気の必要がなく、かつ分解微生物がエネルギー源として塩素化エチレンを必要とするため、誘導物質を添加する必要がないことから、低コストでの浄化が可能となり、近年注目されつつある。
嫌気性微生物による塩素化エチレンの分解(脱塩素化反応)は、一般的にテトラクロロエチレン→トリクロロエチレン→シス−1,2−ジクロロエチレン→塩化ビニル(以下、「VC」ともいう)→エチレンの順に進行する。塩素化エチレンを分解することのできる微生物の中で、cDCEをVC、エチレンにまで分解できる微生物として、現在知られているのは、Dehalococcoides属の微生物のみである。しかし、Dehalococcoides属の微生物の中にも、種々の種類が存在しており、VCをエネルギー源として利用して生育できるものと、できないものとがあることが報告されている(非特許文献1、2及び3参照)。VCをエネルギー源として利用することのできないDehalococcoides属の場合は、VCの分解はコメタボリズムによるものであり、その分解は非常に遅く進行することが報告されている(非特許文献4)。
従って、VCをエネルギー源として利用できないDehalococcoides属微生物が優占化している塩素化エチレン汚染現場においては、バイオスティミュレーションによる浄化を試みても、塩素化エチレンの分解がVCで停止してしまうことが予想される。
塩化ビニルについては、現在のところ、環境基準値が設定されていないが、塩素化エチレンの中では、唯一、発癌性が証明されている物質であり、浄化工程においては、当然ながら残存することは好ましくない。また、VCに対しては、「水質汚濁に関わる要監視項目」として、0.002mg/L以下という低い指針値が設定されている。
従来より、塩素化エチレン分解菌であるDehalococcoides属微生物を検出する方法として、Dehalococcoides属の16S rDNAの解析が行われているが、16S rDNAの配列と、塩素化エチレン分解能との関連性は明確ではない。
さらに、TCE分解酵素遺伝子であるtceAの配列および検出に関する報告もなされている(非特許文献4)が、本遺伝子がコードする酵素であるTceAのVC分解能は非常に低く、浄化現場地下水、土壌においてtceA遺伝子を有する微生物が検出されたとしても、塩素化エチレンの分解はVCで停止してしまうという事態が起こり得ると考えられる。
近年、VC分解遺伝子に関し、相次いで2例の報告がなされている。一方はDehalococcoides sp. VS株のvcrA(非特許文献5)であり、他方はDehalococcoides sp. BAV1株のbvcA(非特許文献6)である。これら2つの報告には、特定のDehalococcoides属微生物株のVC分解遺伝子の存在およびその配列について記載されている。さらに近年、vcrA遺伝子およびbvcA遺伝子の定量検出方法についても提案がなされている(非特許文献7)。しかし、VC分解酵素遺伝子を持つDehalococcoides属微生物が環境中にどの程度存在しているのか、これらのVC分解酵素遺伝子の塩基配列に多様性はあるのか、またVC分解遺伝子としてはこれら2種類以外には存在しないのか、といった点についてはまだ、明らかとなっていない。
上記のとおり、Dehalococcoides属細菌にはVCを分解できるものと、できないものとが存在することが明らかになりつつある。そのため、地下水、土壌を汚染している塩素化エチレンをバイオレメディエーションにより確実にエチレンにまで分解させるためには、浄化開始前にあらかじめVC分解菌が汚染現場に存在するか確認することが好ましく、このための簡便な方法の確立が望まれている。
しかし、VC分解菌および分解遺伝子に関する報告例、知見はまだ数少ないため、限定された知見に基づき特定の配列を有する遺伝子のみを調べることで、塩素化エチレン汚染現場でのバイオレメディエーションの適用性を判断することには不安があった。
上記非特許文献7の定量検出法によるVC分解遺伝子の検出においては、当然ながら対象とする遺伝子と塩基配列が異なるVC分解遺伝子を検出することはできず、VC分解能を有するDehalococcoides属微生物の存在を過小評価してしまう可能性がある。さらに、定量検出に用いるプライマーやプローブ等の塩基配列が少しでも測定対象の塩基配列と異なっていれば原理的に検出不可能となる恐れがある。
He et al., Nature, vol.424, 62-65 Szewzyk et al., Nature, vol.408, 580-583 Maymo-Gatell et al., Applied and Environmental Microbiology, vol.65, 3108-3113, 1999 Magnunson, J. K. et al., Applied and Environmental Microbiology, vol.66, 5141-5147, 2000 Muller J. A. et al., Applied and Environmental Microbiology, vol.70, 4880-4888, 2004 Krajmalnik-Brown R. et al., Applied and Environmental Microbiology, vol.70, 6347-6351, 2004 Sung Y. et al., Applied and Environmental Microbiology, vol.72, 2765-2774, 2006
従来の特定のVC分解遺伝子に着目した定量検出法による、バイオレメディエーションの適用可否判断においては、当然ながら対象とする遺伝子とは塩基配列が異なるVC分解遺伝子を検出することはできず、VC分解能を有するDehalococcoides属細菌の存在を過小評価してしまう可能性があるとともに、定量検出に用いられるプライマーやプローブ等の塩基配列が少しでも測定対象の塩基配列と異なっていると、原理的に検出不可能となる恐れがある。
また、VC分解遺伝子としては、これまでに2タイプのみが知られているが、これらが環境中に存在するVC分解遺伝子の主要なタイプであるのか、あるいは2タイプの環境中での存在割合はどの程度かといった点については明らかにされていない。
浄化現場地下水や回分バイアル試験の培養液中におけるVCの分解性と、その時に優占的に存在するDehalococcoides属細菌のタイプの関連性を調べ、VC分解能を有するDehalococcoides属細菌の存在を簡便かつ短時間で調べることのできる方法はこれまで考案されていなかった。
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意検討した結果、特定の塩基配列を有するDNAを用いることにより、簡便にVC分解細菌を検出することが可能であるという知見を得た。
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、塩素化エチレン分解細菌の16s rDNAを鋳型としてPCRを行い、得られた合成産物の融解曲線分析を行うことを含む、塩素化エチレン分解菌の塩化ビニル分解能の判定方法を提供するものである。
また、本発明は、配列番号7で表わされる塩基配列の一部であって、配列番号7で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの5’末端側から起算して1〜944番目の塩基の少なくとも10塩基を含むオリゴヌクレオチド、及び配列番号7で表わされる塩基配列の一部であって、配列番号7で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの5’末端側から起算して995〜1419番目の塩基の少なくとも10塩基を含むオリゴヌクレオチドに相補的な配列を有する少なくとも10塩基を含むオリゴヌクレオチドをプライマーとして用い、配列番号7で表わされる塩基配列を有するDNAの5’末端側から起算して954番目、962番目、983番目又は984番目の塩基のうちの少なくとも1個の塩基を含む少なくとも10塩基の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをハイブリダイゼーションプローブとして用いて、検体から抽出したDNAを鋳型としてリアルタイムPCR法を行ってオリゴヌクレオチドを合成し、得られたオリゴヌクレオチドの融解曲線分析を行い、検体中の塩化ビニル分解能を有する塩素化エチレン分解菌の有無を判定することを特徴とする、塩素化エチレン分解菌の塩化ビニル分解能の判定方法を提供する。
また、本発明は、配列番号1で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチド及び配列番号2で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用い、配列番号3で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチド及び配列番号4で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをハイブリダイゼーションプローブとして用い、検体から抽出したDNAを鋳型としてリアルタイムPCR法を行ってオリゴヌクレオチドを合成し、得られたオリゴヌクレオチドの融解曲線分析を行い、検体中の塩化ビニル分解能を有する塩素化エチレン分解菌の有無を判定することを特徴とする、塩素化エチレン分解菌の塩化ビニル分解能の判定方法を提供する。
また、本発明は、配列番号7で表わされる塩基配列を有するDNAの5’末端側から起算して954番目、962番目、983番目又は984番目の塩基のうちの少なくとも1個の塩基を含む少なくとも10塩基の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号7で表わされる塩基配列の一部であって、配列番号7で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの5’末端側から起算して1〜944番目の塩基の少なくとも10塩基を含むオリゴヌクレオチド、及び配列番号7で表わされる塩基配列の一部であって、配列番号7で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの5’末端側から起算して 995〜1419番目の塩基の少なくとも10塩基を含むオリゴヌクレオチドに相補的な配列を有する少なくとも10塩基を含むオリゴヌクレオチドとを含む、塩素化エチレン分解菌の塩化ビニル分解能判定用キットを提供する。
また、本発明は、配列番号7で表わされる塩基配列を有するDNAの5’末端側から起算して954番目、962番目、983番目又は984番目の塩基のうちの少なくとも1個の塩基を含む少なくとも10塩基の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、 配列番号1で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチド及び配列番号2で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドとを含む、塩素化エチレン分解菌の塩化ビニル分解能判定用キットを提供する。
また、本発明は、配列番号1で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチド、配列番号2で表わされる塩基配列を有するDNA、配列番号3で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチド、及び配列番号4で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを含む、塩素化エチレン分解菌の塩化ビニル分解能判定用キットを提供する。
また、本発明は、地下水又は土壌を試料として、前記方法を行い、得られたTm値分布の特徴から、バイオスティミュレーション又はバイオオーグメンテーションの適用好適性を判断することを含む、嫌気的バイオレメディエーションにより汚染地下水又は土壌を浄化するための浄化手段決定方法を提供する。
本発明の塩素化エチレン分解菌の塩化ビニル分解能の判定方法によれば、PCR合成により得られた16s rDNAの塩基配列を決定し、Dehalococcoides属細菌のタイプを調べたり、またvcrAやbvcA等の、個々のVC分解酵素遺伝子の定量解析を行うといった煩雑な手順を踏むことなく、塩素化エチレン汚染地下水、土壌中に存在するDehalococcoides属細菌のVC分解能を調べることが可能となる。また、調べた結果に基づき、その地下水、土壌のバイスティミュレーションによる浄化が可能であるか、又はVC分解細菌を利用したバイオオーグメンテーションの適用が好ましいかの判断をすることが可能となる。
以下、先ず本発明の塩素化エチレン分解菌の塩化ビニル分解能の判定方法について説明する。
まず、本明細書において使用される用語についての定義を説明する。
本明細書において、用語「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」及び「核酸」は、同じ意味で使用されるものとし、任意の長さのヌクレオチドのポリマーを意味する。
本明細書において、「核酸」は、遺伝子、DNA、cDNA、mRNA、オリゴヌクレオチド、及びポリヌクレオチドと互換可能に用いられる。
本明細書において、「ヌクレオチド」は、天然のものであっても非天然のものであってもよい。
本明細書において、「プライマー」、「ハイブリダイゼーションプローブ」とは、適切な条件下(例えば、4種類の異なるヌクレオシド三リン酸及びポリメライゼーション剤(例えば、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、又は逆転写酵素)の存在下)で、適切な緩衝液中、適切な温度の下、鋳型指向性のDNA合成を開始する点として作用する一本鎖オリゴヌクレオチドをいう。プライマーの適切な長さは、プライマーの意図される用途に依存するが、少なくとも10オリゴヌクレオチドの長さであり、好ましくは15ヌクレオチド以上の長さであり、より好ましくは17ヌクレオチド以上の長さである。また、長さの上限は、通常は40ヌクレオチド以下であり、好ましくは30ヌクレオチド以下である。更に好ましくは、本発明のプライマー又はハイブリダイゼーションプローブは、長さが18〜29ヌクレオチドの範囲である。
発明者らはこれまで、日本国内各所における塩素化エチレン汚染現場に存在するDehalococcoides属細菌の16S rDNAの解析を行ってきた。その結果、国内の汚染現場においてはVCを分解できるDehalococcoides属細菌と、分解できないDehalococcoides属細菌の16S rDNAの配列の一部に、明確な違いが存在することを見出した。そこで、この違いを利用してVC分解能の有無を評価できるよう、この部分の配列をハイブリダイゼーションプローブ配列として利用することを考えた。その結果、リアルタイムPCR法に融解曲線分析を組み合わせることにより、Tm値の相違からVC分解能を判定することが可能であることを見出した。
すなわち、本発明は、塩素化エチレン分解細菌の16s rDNAを鋳型としてPCRを行い、得られた合成産物の融解曲線分析を行うことを含む、塩素化エチレン分解菌の塩化ビニル分解能の判定方法を提供する。
以下に、VCを分解できるタイプのDehalococcoides属細菌(配列番号5)及びVCを分解できないタイプのDehalococcoides属細菌(配列番号6)の16S rDNAの一部を示す。該当部分の配列を示す
GTAGTGAACTGAAAGGGGAACGACCTGTTAAGTCAGGAACTTGCACAGGTG(配列番号5)
GTAGTGAACCGAAAGGGAAACGACCTGTTAAGTCAGGAGTTTGCACAGGTG(配列番号6)
両者の相違点は、10番目の塩基が配列番号5においてはTであるのに対し、配列番号6においてはCになっている点、18番目の塩基が配列番号5においてはGであるのに対し、配列番号6においてはAになっている点、39番目の塩基が配列番号5においてはAであるのに対し、配列番号6においてはGになっている点、及び40番目の塩基が配列番号5においてはCであるのに対し、配列番号6においてはTになっている点である。
また、既に報告されている、Dehalococcoides ethenogenes 195株(上野俊洋ら, 地下水・土壌汚染とその防止対策に関する第8回講演集, pp361〜362, 2002)(Maymo-Gatellら、Science, 276, 1568-1571)の16s rDNA(Accession Number:AF004928)の配列、及び独自に流動床式塩素化エチレン連続処理リアクターより採取した16s rDNAクローンの塩基配列を元にプライマーを設計した(以下の配列番号1及び配列番号2)。なお、Dehalococcoidesethenogenes 195株の16s rDNAの塩基配列を、配列番号7に示す。
CAGCAGGAGAAAACGGAATT(配列番号1)
GACAGCTTTGGGGATTAGC(配列番号2)
本発明において用いられるプライマーとしては、上記配列番号1及び配列番号2で表わされるオリゴヌクレオチドに限定されず、配列番号7で表わされる塩基配列の一部であって、配列番号7で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの5’末端側から起算して1〜944番目の塩基の少なくとも10塩基を含むオリゴヌクレオチド、及び配列番号7で表わされる塩基配列の一部であって、配列番号7で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの5’末端側から起算して995〜1419番目の塩基の少なくとも10塩基を含むオリゴヌクレオチドに相補的な配列を有する少なくとも10塩基を含むオリゴヌクレオチドが用いられる。すなわち、特異性が確認されているものであれば、特に制限なく用いることが可能である。用いられるプライマーは、より好ましくは17塩基以上の長さであり、また長さの上限は、通常は40ヌクレオチド以下であり、好ましくは30ヌクレオチド以下である。更に好ましくは、本発明のプライマーは、長さが18〜29ヌクレオチドの範囲である。
なお、上述した、配列番号5で表わされる塩基配列と、配列番号6で表わされる塩基配列との相違箇所は、配列番号7においては、それぞれ、954番目、962番目、983番目及び984番目となる。すなわち、本発明の塩素化エチレン分解菌の塩化ビニル分解能の判定方法においては、配列番号7で表わされる塩基配列を有するDNAの5’末端側から起算して954番目、962番目、983番目又は984番目の塩基のうちの少なくとも1個の塩基を含む少なくとも10塩基の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをハイブリダイゼーションプローブとして用いている。本発明において用いられるプローブとしては、少なくとも10ヌクレオチドの長さのものが用いられ、好ましくは15ヌクレオチド以上の長さであり、より好ましくは17ヌクレオチド以上の長さである。また、長さの上限は、通常は40ヌクレオチド以下であり、好ましくは30ヌクレオチド以下である。更に好ましくは、本発明のハイブリダイゼーションプローブは、長さが18〜29ヌクレオチドの範囲である。
本発明において用いられるハイブリダイゼーションプローブとしては、例えば、以下の配列番号3で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチド、及び配列番号4で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドが挙げられる。
GTAGTGAACTGAAAGGGGAACGACC (配列番号3)
GTTAAGTCAGGAACTTGCACAGGTG (配列番号4)
本発明の塩素化エチレン分解菌の塩化ビニル分解能の判定方法は、配列番号7で表わされる塩基配列を有するDNAの5’末端側から起算して954番目、962番目、983番目又は984番目の塩基のうちの少なくとも1個の塩基を含む少なくとも10塩基の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをハイブリダイゼーションプローブとして用いて、検体から抽出したDNAを鋳型としてリアルタイムPCR法を行ってオリゴヌクレオチドを合成し、得られたオリゴヌクレオチドの融解曲線分析を行い、検体中の塩化ビニル分解能を有する塩素化エチレン分解菌の有無を判定することを特徴とする。
また、本発明の塩素化エチレン分解菌の塩化ビニル分解能の判定方法は、配列番号1で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチド及び配列番号2で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用い、配列番号3で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチド及び配列番号4で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをハイブリダイゼーションプローブとして用い、検体から抽出したDNAを鋳型としてリアルタイムPCR法を行ってオリゴヌクレオチドを合成し、得られたオリゴヌクレオチドの融解曲線分析を行い、検体中の塩化ビニル分解能を有する塩素化エチレン分解菌の有無を判定することを特徴とする。
本発明においては、上記構成を有することにより、リアルタイムPCR法及び融解曲線分析を組み合わせて、検体中の塩化ビニル分解能を有する塩素化エチレン分解菌の有無の判定が可能となる。すなわち、リアルタイムPCR法により得られるオリゴヌクレオチドの融解曲線分析を行った場合、VC分解能を有するDehalococcoides属細菌においては、Tm値が66〜67℃を示すのに対し、VC分解能を有しないものの場合には、そのTm値が57〜58℃であることから、容易に区別をすることができる。VC分解能を有するDehalococcoides属細菌の場合、配列番号5で表わされる塩基配列を、その16s rDNA中に有しており、従って、上記ハイブリダイゼーションプローブからヌクレオチドが増幅され、この産物を検出することになる。一方、VC分解能を有しないDehalococcoides属細菌の場合、配列番号5で表わされる塩基配列を、その16s rDNA中に有していないため、上記ハイブリダイゼーションプローブからヌクレオチドが増幅されない。このため、両者では、増幅されるPCR産物の長さと塩基配列が異なっており、両者の融解温度が異なるため、融解曲線分析を実施することにより、両者を区別することが可能となる。VC分解能を有するDehalococcoides属細菌と、VC分解能を有しないDehalococcoides属細菌とが共存するサンプルの場合は、その融解曲線分析を行った場合、2種の顕著のピークが出現する。
なお、リアルタイムPCRによる定量の例としては、二本鎖に特異的に結合し、かつ結合することにより蛍光強度が増大する蛍光色素を反応液に存在させてPCRを行い、PCR反応サイクル毎に反応液の蛍光を測定することにより増幅産物の量を定量するものが挙げられる。PCR合成産物の融解曲線分析を行うためには、サーマルサイクラー(PCR合成装置)及び蛍光検出器より構成された「リアルタイムPCR装置」を利用するのが最も便利である。このようなリアルタイムPCR装置は、市販品としても入手可能であり、例えば、LightCycler(ロシュ)、Thermal Cycler(タカラバイオ(株))、Smart Cycler(Cepheid社)、Fast Real Time PCR System(アプライドバイオシステムズ)などが使用可能であり、いずれを利用しても良い。さらに、検出フォーマットについても、サイバーグリーン法、ハイブリダイゼーションプローブ法のいずれかが利用可能である。
サイバーグリーンを用いた場合を例として説明すると、以下の通りである。PCR増幅による二本鎖の副溝(minor groove)に、反応液中のサイバーグリーンが結合して蛍光を発する。PCRによりDNAが増幅されると、増幅されたDNAにサイバーグリーンが結合し、蛍光強度が増大する。そして、融解曲線分析における昇温とともに2本鎖DNAは分離し、その結果としてサイバーグリーン分子が遊離するため、蛍光値は減少していく。
一方、ハイブリダイゼーションプローブ法では、昇温にともない2つのハイブリダイゼーションプローブが解離するため、蛍光強度は減少していく。これら融解曲線分析により、サンプル中に含まれるDNA(PCR反応により合成されたDNA断片)配列に特有な融解曲線、Tm値を得ることができる。したがって、VC分解能を有するDehalococcoides属細菌、VCを分解できないDehalococcoides属細菌に特有のTm値を予め決定しておくことにより、VC分解能が異なるDehalococcoides属細菌がサンプル中にどの程度存在しているか、定性的に判断することが可能となる。すなわち、リアルタイムPCR法により得られるオリゴヌクレオチドの融解曲線分析を行った場合、Tm値が65〜66℃を示す場合には、検体のDehalococcoides属細菌はVC分解能を有し、一方、Tm値が57〜58℃を示す場合には、検体のDehalococcoides属細菌がVC分解能を有していないと判定できる。
本発明の塩素化エチレン分解菌の塩化ビニル分解能の判定方法においては、前述した通りのプライマー及びハイブリダイゼーションプローブを用いるが、その他については、通常のリアルタイムPCR法、及び融解曲線分析の説明が適用される。
次に、本発明の塩素化エチレン分解菌の塩化ビニル分解能判定用キットは、前述した、本発明の塩素化エチレン分解菌の塩化ビニル分解能の判定方法に用いられるものであり、配列番号7で表わされる塩基配列を有するDNAの5’末端側から起算して954番目、962番目、983番目又は984番目の塩基のうちの少なくとも1個の塩基を含む少なくとも10塩基の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、
配列番号7で表わされる塩基配列の一部であって、配列番号7で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの5’末端側から起算して1〜944番目の塩基の少なくとも10塩基を含むオリゴヌクレオチド、及び配列番号7で表わされる塩基配列の一部であって、配列番号7で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの5’末端側から起算して995〜1419番目の塩基の少なくとも10塩基を含むオリゴヌクレオチドに相補的な配列を有する少なくとも10塩基を含むオリゴヌクレオチドとを含む。
本発明の第二の実施の形態にかかる塩素化エチレン分解菌の塩化ビニル分解能判定用キットは、配列番号7で表わされる塩基配列を有するDNAの5’末端側から起算して954番目、962番目、983番目又は984番目の塩基のうちの少なくとも1個の塩基を含む少なくとも10塩基の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、 配列番号1で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチド及び配列番号2で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドとを含む。
本発明の第三の実施の形態にかかる塩素化エチレン分解菌の塩化ビニル分解能判定用キットは、配列番号1で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチド、配列番号2で表わされる塩基配列を有するDNA、配列番号3で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチド、及び配列番号4で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを含む。
上述した、本発明の塩素化エチレン分解菌の塩化ビニル分解能判定用キットは、前述した、本発明の塩素化エチレン分解菌の塩化ビニル分解能の判定方法を実施する際に用いることができる。
次に、本発明の汚染地下水又は土壌を浄化するための浄化手段決定方法について説明する。
本発明の汚染地下水又は土壌を浄化するための浄化手段決定方法は、地下水又は土壌を試料として、前述した、本発明の塩素化エチレン分解菌の塩化ビニル分解能の判定方法を行い、得られたTm値分布の特徴から、バイオスティミュレーション又はバイオオーグメンテーションの適用好適性を判断することを含む、嫌気的バイオレメディエーションにより汚染地下水又は土壌を浄化するための浄化手段決定方法である。
本発明の塩素化エチレン分解菌の塩化ビニル分解能の判定方法を実施し、検体から抽出したDNAを鋳型としてリアルタイムPCR法を行ってオリゴヌクレオチドを合成し、得られたオリゴヌクレオチドの融解曲線分析により得られたTm値によって、検体のDehalococcoides属細菌がVC分解能を有するものか否かを調べることができる。すなわち、リアルタイムPCR法により得られるオリゴヌクレオチドの融解曲線分析を行った場合、Tm値が66〜67℃を示す場合には、検体のDehalococcoides属細菌はVC分解能を有し、一方、Tm値が57〜58℃を示す場合には、検体のDehalococcoides属細菌がVC分解能を有していないと判定できる。
この結果に基づき、検体がVC分解能を有する場合には、その地下水、土壌のバイスティミュレーションによる浄化が可能であると判定できる。また、VC分解能を有しない場合には、VC分解細菌を利用したバイオオーグメンテーションの適用が好ましいかの判断をすることが可能となる。
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。なお、本発明の範囲は、かかる実施例に限定されないことはいうまでもない。
参考例1
Dehalococcoides ethenogenes 195株(Maymo-Gatellら, Science, 276, 1568-1571, 1997)の16S rDNA(Accession Number: AF004928)配列、および独自に流動床式塩素化エチレン連続処理リアクターより採取した16S rDNAクローンの塩基配列をもとに、Dehalococcoides属細菌の16S rDNAの一部をPCRにより合成するためのプライマーペアをデザインした。
このプライマーを利用して、バイアル試験によりTCEの分解を検討した14種類(14ヶ所の異なる現場の汚染土壌と地下水を植種して得られた検体)のサンプルから抽出されたDNAをテンプレートにPCRを行った結果、TCEからエチレンまでの完全分解が認められた7つのバイアルではPCRによりDNAの増幅が認められた。これに対し、エチレンまでの脱塩素化が認められなかった残り7つバイアルについては、DNAの明瞭な増幅は確認できなかった。さらにDNAの増幅が認められたサンプルについては、その上下流域もPCR合成を行い、最終的に16S rDNAのほぼ全域の配列を決定した。その結果、配列番号7で表わされる塩基配列を有するDNAの5’末端側から起算して148番目の塩基がA又はGであることを除いて、全てのサンプル由来のDNAの塩基配列は同じであった。
この結果より、配列番号7で表わされる塩基配列を有する16s rDNAを保有したDehalococcoides属細菌が優占化している場合には、TCE以降の脱塩素化が順調に進むことが示唆された。
実施例1
cDCE集積培養体によるcDCEおよびVCの分解挙動とTm値の変化
塩素化エチレン汚染現場より採取した地下水を植種源とし、cDCE(濃度:6mg/L)および有機物を含む合成培地(下記組成を有する)で複数回植え継ぐことにより得られた集積培養体を前培養液として本試験に利用した。
培地組成
H(OH)(COONa) 500mg/L
酵母エキス 100mg/L
CaCl・2HO 15mg/L
NaHCO 2,520mg/L
Tris 2,290mg/L
レザズリン 1mg/L
MgCl・6HO 500mg/L
NaCl 500mg/L
KHPO 200mg/L
NHCl 300mg/L
KCl 300mg/L
NaS・9HO 480mg/L
FeCl・4HO 200mg/L
MnCl・4HO 1mg/L
CoCl・2HO 1.9mg/L
ZnCl 0.7mg/L
CuSO・5HO 0.04mg/L
BO 0.06mg/L
NiCl・6HO 0.25mg/L
NaMoO・2HO 0.44mg/L
HCl 1μL/L
液中濃度が約6 mg/LとなるようcDCEを加えた100 mLの嫌気合成培地に1 mLの前培養液を加え、30 ℃条件下に静置した。適宜、マイクロシリンジを用いてヘッドスペースの気相を採取し、ガスクロマトグラフにてcDCE、VCおよびエチレンの定量分析を行った。またDehalococcoides属細菌の定量は、1 mLの培養液から抽出したDNAを用い、特異的なプライマー(配列番号1、2)およびハイブリダイゼーションプローブ(配列番号3の3’末端をFITC標識したもの、および配列番号4の3’末端をリン酸化、5’末端をLCRed640標識したもの)を用いたリアルタイムPCR法を行って、DNAを合成し、得られたDNAの融解曲線分析を行い、Tm値を求めた。融解曲線分析は、培養開始後5、13、15、20、29、34日目に測定した。cDCE、VCおよびエチレンの濃度、Dehalococcoides属細菌の16S rDNA濃度の経時変化を図1に、またTm値(メルティングピーク)の経時変化を図2に示す。
なお、16s rDNAの抽出は以下のように行った。
1mLの培養液を、孔径0.2μmのフィルター(MILLIPORE製、GTBP2500)でろ過し、このフィルターを2mL容のエッペンドルフチューブに入れた。次いで、エッペンドルフチューブに、BIOSPEC-CSC社製 Zirconia/Silica Beads(直径0.1 mm)1mL及びExtraction Buffer(100 mM Tris-HCl [pH8.0], 100 mM sodium EDTA [pH8.0], 100 mM sodium phosphate [pH8.0], 1.5 M NaCl)1 mLを加え、細胞破砕機Bead Beater(BIOSPEC-CSC社製、Mini-Bead-Beater-8)により、ダイヤルHomogenizeにて2分間処理して細胞を破砕した。次いで、破砕した細胞について凍結融解を3回繰り返した後、10 μLのProteinaseK(10 mg/mL)を加え、37 ℃にて30分間保温した。次いで、この液に250 μLの10% SDS溶液を加え、65 ℃で2時間保温す、再び上記のBead Beater処理を行った。その後、8,000×gにて室温で10分間遠心分離し、上清を採取した。上清をクロロホルム抽出し、等量のイソプロパノールを添加した後、室温で60分間静置し、8,000×gにて室温で20分間遠心分離し、DNAを沈殿させた。沈殿を70%エタノールを用いて洗浄した後、乾燥させ、50μLの滅菌蒸留水に溶解し、16s rDNAを得た。
リアルタイムPCRの条件は以下の通りである。
リアルタイムPCRの反応にはロシュ・ダイアグノスティックス社製のLightCyclerを用いた。また、検出にはハイブリダイゼーションプローブ法を利用した。反応液の全容量は20μLとし、サンプル1 μLに対して0.5UのEx Taq DNAポリメラーゼ(宝酒造製)、添付緩衝液(MgCl2を含まず)2 μLおよび10 pmolのプライマーを使用した。その他、dNTP 200 μM、DMSO 5%(v/v)、MgCl2 3 mM、BSA 250 μg/mL、蛍光標識プライマー2種類(3’FITC標識、5’LC Red 640標識および3’リン酸化)をそれぞれ4 pmolの濃度になるように添加した。なお、プライマーとしてはDe624f(配列番号1で表される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド)、De1232r(配列番号2で表される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド)を、またハイブリダイゼーションプローブとしてはDe971fL (3’FITC標識した、配列番号3で表される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド)、De997fR (5’LC Red 640標識, 3'-リン酸化した、配列番号4で表される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド)を用いた。リアルタイムPCRの反応条件を下記表1に示す。なお測定に利用するスタンダードDNAとしては、PCE分解流動床式リアクターより得られた16S rDNAクローンを利用した。
Figure 2008154521
融解曲線分析方法は以下の通りに実施した。
LightCyclerのマニュアルにしたがい、融解曲線取得のための測定プログラムを作成し、(上表のMeltの項)測定を行った。測定終了後、LightCyclerのTmコーリング機能を利用して、Tm値の自動計算を実施した。
図1において、横軸は培養開始時からの日数を表わし、縦軸は、塩素化エチレンの濃度を表す。図1より、cDCEとVCの脱塩素化は同時には起こらず、ほぼ全てのcDCEがVCへ脱塩素化された20日目前後より、VCからエチレンへの脱塩素化が始まっていることがわかる。一方、図2から明らかなように、培養開始から20日目までは57〜58 ℃にTm値の顕著なピークが認められているが、その後このピークは除々に小さくなり、相対的に65〜66 ℃のピークが大きくなっていくことがわかる。このことからcDCEからVCの脱塩素化には57〜58 ℃のTm値を有するDehalococcoides属細菌が、またVCからエチレンまでの脱塩素化には65〜66 ℃のTm値を有するDehalococcoides属細菌が、それぞれ優占的に働いていることが容易に予想される。
上記結果より、例えば塩素化エチレン汚染現場にバイオレメディエーションを適用しようと考えた場合、まず現場地下水から抽出したDNAを用いて上記同様の手順で、リアルタイムPCR及び融解曲線分析を行い、メルティングピークを検出する。汚染の主体がcDCEであり、かつ顕著なメルティングピークが57〜58 ℃のみ1つであった場合、VCを脱塩素化できるタイプのDehalococcoides属細菌を利用したバイオオーグメンテーションの実施の検討を行う、といった対応が可能となる。
参考例1
VCを脱塩素化できない集積培養体によるcDCEの分解挙動とTm値の変化
基本的な実験操作は実施例1の項に記したとおりに実施した。ただし本集積培養体の場合、cDCEをVCにまで脱塩素化できるDehalococcoides属細菌のみを含んでおり、VCはエチレンにまで脱塩素化されることなく、培養液中に蓄積していくことが分かっている。本集積培養体によるcDCEの脱塩素化と、Tm値(メルティングピーク)の経時変化をそれぞれ図3、図4に示す。なお、融解曲線分析は、培養開始後4、20、25、32、47日目に測定した。
図3から明らかなように、培養開始後から、cDCE濃度が減少し、VC濃度が上昇していくが、エチレンの検出はできなかった。図4から明らかなように、Tm値は、57〜58 ℃にの顕著なピークが認められており、65〜66℃のピークは認められなかった。このことから、本参考例で用いた菌株は、VCを分解する能力を有していないことがわかる。また、この菌株の16s rDNAのTm値は57〜58℃であることがわかった。すなわち、VCを分解する能力を有しないDehalococcoides属細菌から抽出したDNAを鋳型としてリアルタイムPCR法を行ってオリゴヌクレオチドを合成し、得られたオリゴヌクレオチドの融解曲線により得られたTm値は57〜58℃であることがわかった。
参考例2
VCを脱塩素可能な集積培養体によるVCの分解挙動とTm値の変化
基本的な実験操作は実施例1の項に記したとおりに実施した。ただし、培地中には、cDCEに代えVCを含ませ、また、本集積培養体は、VCを単一の塩素化エチレン源として利用、脱塩素化できることが分かっているものである。VCの脱塩素化と、Tm値(メルティングピーク)の経時変化をそれぞれ図5、図6に示す。なお、融解曲線分析は、培養開始後1、6、8、13日目に測定した。
図5から明らかなように、培養開始後から、VC濃度が減少し、エチレン濃度が上昇していくことがわかった。また、図6から明らかなように、Tm値は、65〜68 ℃に顕著なピークが認められており、57〜58℃のピークは認められなかった。このことから、本参考例で用いた菌株は、VCを分解する能力を有することがわかる。また、この菌株の16s rDNAのTm値は65〜66℃であることがわかった。すなわち、VCを分解する能力を有するDehalococcoides属細菌から抽出したDNAを鋳型としてリアルタイムPCR法を行ってオリゴヌクレオチドを合成し、得られたオリゴヌクレオチドの融解曲線により得られたTm値は65〜66℃であることがわかった。
上記参考例の結果より、本発明の塩素化エチレン分解菌の塩化ビニル分解能の判定方法によれば、検体である菌株が塩化ビニル分解能を有するか否かの判定が可能であることがわかった。
塩素化エチレンの分解の経時変化を表すグラフである。 Tm値の測定結果を示すグラフである。 塩素化エチレンの分解の経時変化を表すグラフである。 Tm値の測定結果を示すグラフである。 塩素化エチレンの分解の経時変化を表すグラフである。 Tm値の測定結果を示すグラフである。

Claims (7)

  1. 塩素化エチレン分解細菌の16s rDNAを鋳型としてPCRを行い、得られた合成産物の融解曲線分析を行うことを含む、塩素化エチレン分解菌の塩化ビニル分解能の判定方法。
  2. 配列番号7で表わされる塩基配列の一部であって、配列番号7で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの5’末端側から起算して1〜944番目の塩基の少なくとも10塩基を含むオリゴヌクレオチド、及び配列番号7で表わされる塩基配列の一部であって、配列番号7で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの5’末端側から起算して995〜1419番目の塩基の少なくとも10塩基を含むオリゴヌクレオチドに相補的な配列を有する少なくとも10塩基を含むオリゴヌクレオチドをプライマーとして用い、
    配列番号7で表わされる塩基配列を有するDNAの5’末端側から起算して954番目、962番目、983番目又は984番目の塩基のうちの少なくとも1個の塩基を含む少なくとも10塩基の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをハイブリダイゼーションプローブとして用いて、検体から抽出したDNAを鋳型としてリアルタイムPCR法を行ってオリゴヌクレオチドを合成し、得られたオリゴヌクレオチドの融解曲線分析を行い、検体中の塩化ビニル分解能を有する塩素化エチレン分解菌の有無を判定することを特徴とする、塩素化エチレン分解菌の塩化ビニル分解能の判定方法。
  3. 配列番号1で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチド及び配列番号2で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用い、配列番号3で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチド及び配列番号4で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをハイブリダイゼーションプローブとして用い、検体から抽出したDNAを鋳型としてリアルタイムPCR法を行ってオリゴヌクレオチドを合成し、得られたオリゴヌクレオチドの融解曲線分析を行い、検体中の塩化ビニル分解能を有する塩素化エチレン分解菌の有無を判定することを特徴とする、塩素化エチレン分解菌の塩化ビニル分解能の判定方法。
  4. 配列番号7で表わされる塩基配列を有するDNAの5’末端側から起算して954番目、962番目、983番目又は984番目の塩基のうちの少なくとも1個の塩基を含む少なくとも10塩基の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、
    配列番号7で表わされる塩基配列の一部であって、配列番号7で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの5’末端側から起算して1〜944番目の塩基の少なくとも10塩基を含むオリゴヌクレオチド、及び配列番号7で表わされる塩基配列の一部であって、配列番号7で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの5’末端側から起算して995〜1419番目の塩基の少なくとも10塩基を含むオリゴヌクレオチドに相補的な配列を有する少なくとも10塩基を含むオリゴヌクレオチドとを含む、塩素化エチレン分解菌の塩化ビニル分解能判定用キット。
  5. 配列番号7で表わされる塩基配列を有するDNAの5’末端側から起算して954番目、962番目、983番目又は984番目の塩基のうちの少なくとも1個の塩基を含む少なくとも10塩基の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと、配列番号1で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチド及び配列番号2で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドとを含む、塩素化エチレン分解菌の塩化ビニル分解能判定用キット。
  6. 配列番号1で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチド、配列番号2で表わされる塩基配列を有するDNA、配列番号3で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチド、及び配列番号4で表わされる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを含む、塩素化エチレン分解菌の塩化ビニル分解能判定用キット。
  7. 地下水又は土壌を試料として、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法を行い、得られたTm値分布の特徴から、バイオスティミュレーション又はバイオオーグメンテーションの適用好適性を判断することを含む、嫌気的バイオレメディエーションにより汚染地下水又は土壌を浄化するための浄化手段決定方法。
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