JP2008144588A - 亜酸化窒素を用いたスラスタ装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】貯蔵性液体推進剤の毒性の低減ひいては無毒化を進めるとともに、貯蔵性液体推進剤を用いた推進システムの低温環境適合性を改善することを可能とするスラスタ装置を提供する。
【解決手段】亜酸化窒素分解触媒で亜酸化窒素を触媒分解することにより得られる触媒分解ガスを利用して推力を発生させる、スラスタ装置。
【選択図】図3

Description

本発明は、ロケット、人工衛星、宇宙探査機等に搭載され、これらの軌道制御や姿勢制御に用いられる推進システムに使用し得るスラスタ装置に関する。特に本発明は、スラスタ装置で使用する常温で貯蔵可能な液体推進剤(貯蔵性液体推進剤)として亜酸化窒素(N2O)を使用することにより、液体推進剤の毒性の低減ひいては無毒化を進めるとともに、推進システムの低温環境適合性を改善することを可能とするスラスタ装置に関する。
従来、人工衛星等の軌道制御や姿勢制御に使用されるスラスタ装置は、そこで使用される液体推進剤の組成により、一液式のスラスタ装置(単一の推進剤を使用するもの)と二液式のスラスタ装置(酸化剤及び燃料を含む推進剤を使用するもの)とに分類することができる。
従来型の一液式のスラスタ装置の例を、図1に示す。このスラスタ装置1では、常温で貯蔵可能な単一の液体推進剤として、例えばヒドラジン(N24)を燃料バルブ2からスラスタ燃焼室3へ供給し、スラスタ燃焼室3の内部に設けられたヒドラジン分解触媒層4でヒドラジンを分解して発熱的に分解ガスを発生させ、これを噴射することにより、推力を得ている。例えば、特開2001−20808号公報は、一液式推進薬の触媒分解反応により高温、高圧のガスを発生させて、衛星のミッション達成に必要な推力を発生させることのできる触媒分解一液式ヒドラジンエンジンスラスタであって、格子構造に形成された触媒が燃焼室に設置されているものを開示している。
また、従来型の二液式のスラスタ装置の例を、図2に示す。このスラスタ装置1では、液体推進剤として、例えばヒドラジン(N24)あるいはモノメチルヒドラジン(MMH)を燃料バルブ2からスラスタ燃焼室3へ供給するとともに、酸化剤として、例えば四酸化二窒素(N24)を酸化剤バルブ5からスラスタ燃焼室3へ供給して、スラスタ燃焼室3の内部で燃料と酸化剤とを衝突させて自己着火させることにより、推力を得ている。
これら従来型のスラスタ装置は、単独であるいは組み合わせて、ロケット用の推進システム等に使用されている。例えば、特開2000−190899号公報は、姿勢制御のための複数の一元推進剤ヒドラジンリアクションコントロールスラスタと、速度制御のための複数の二元推進剤(例えばヒドラジンと四酸化二窒素)SCAT(二次燃焼拡大スラスタ)とを備える推進装置を開示している。
上記従来型のスラスタ装置は、いずれも強い毒性を有する推進剤を使用するものであるため、これらのスラスタ装置を備える推進システムを地上で運用する際には、環境への配慮および取扱いの安全性の確保が必須であった。したがって、毒性の低いあるいは無毒の推進剤を使用することのできるスラスタ装置の開発に対する要求が存在した。
さらに、特に現在人工衛星や宇宙探査機の姿勢制御スラスタ装置に推進剤として用いられているヒドラジンは凝固点が高いため(約1℃)、人工衛星や宇宙探査機を低温の宇宙環境で使用する場合には、スラスタ装置内の推進剤の供給系全体に凍結防止用のヒータを設けることが必要であった。さらに、低温環境下で何らかの理由によりヒドラジンが凍結してしまうと、スラスタ装置は推進力を発生することが出来なくなってしまうという問題点があった。したがって、低温環境下で使用することのできる推進剤を利用したスラスタ装置の開発に対する要求が存在した。
このようなスラスタ装置の開発に関する試みとして、例えば、"Catalytic Decomposition of Nitrous Oxide for Spacecraft Propulsion Applications. (Phase 1)", Surrey Satellite Technology, Ltd., SPC 99-4100 (AD-A392935)(2000年9月30日)は、亜酸化窒素の触媒分解または持続的な自己分解によって発生したガスを噴射するモノプロペラントスラスタの概念として、電熱式の触媒ワイヤ(ロジウム製、白金-ロジウム製、ニッケル-クロム合金製、ステンレス製)で発生させた触媒分解ガスで触媒本体(NiOをZrO2に担持、Shell405/LCH-212、Rh2O3をAl2O3に担持)の初期加熱を行い、持続的な触媒分解を促すことについて開示しており、亜酸化窒素の蒸気圧による自己加圧供給システムの可能性及び亜酸化窒素を酸化剤とする2液スラスタの可能性について検討し、亜酸化窒素ガス、亜酸化窒素分解ガス、亜酸化窒素と燃料を組み合わせた2液スラスタによるマルチモードスラスタについて開示するとともに、超小型衛星に搭載するスラスタ要素の設計について検討している。また、"The Nitrous Oxide Propane Rocket Engine", Allied Aerospace Industries Inc., GASL TR No. 387(2001年8月16日)は、触媒分解ガスを使った点火装置の概念と実証試験及び分解触媒の選定について開示している。しかしながら、従来技術が有する問題点を解消したスラスタ装置は得られていないのが現状であった。
特開2001−20808号公報 特開2000−190899号公報 "Catalytic Decomposition of Nitrous Oxide for Spacecraft Propulsion Applications. (Phase 1)", Surrey Satellite Technology, Ltd., SPC 99-4100 (AD-A392935)(2000年9月30日) "The Nitrous Oxide Propane Rocket Engine", Allied Aerospace Industries Inc., GASL TR No. 387(2001年8月16日)
したがって、本発明は、スラスタ装置で使用する常温で貯蔵可能な液体推進剤(貯蔵性液体推進剤)の毒性の低減ひいては無毒化を進めるとともに、貯蔵性液体推進剤を用いた推進システムの低温環境適合性を改善することを可能とする、スラスタ装置を提供することを目的とするものである。
上記課題を解決するにあたり、本発明者らは、鋭意研究した結果、推進剤、すなわち、一液式スラスタ装置に使用する単一推進剤、あるいは二液式スラスタ装置に使用する酸化剤として、毒性の低い亜酸化窒素(N2O)を採用することに思い至った。
すなわち、亜酸化窒素は、化学的に安定で人体に取り入れてもほとんど害が無い物質で、食品添加物としても認可されている(厚生労働省令第三十四号,平成17年3月22日)。したがって、一液式スラスタに使用する単一推進剤として亜酸化窒素を使用して、これを触媒分解することにより得られる触媒分解ガスを利用して推力を発生させることにより、スラスタ装置で使用する推進剤を実質的に無毒化することができる。
また、低毒性燃料としては、アルコール類やLPGなど選択肢は多いため、これらの燃料と酸化剤としての亜酸化窒素とを組み合わせて使用することにより、二液式スラスタ装置に使用する推進剤の毒性を低減させることが可能となる。この場合、亜酸化窒素は、従来の二液式スラスタ装置に使用されていた有毒の四酸化二窒素(N24)/ヒドラジン(N24)系推進剤のように、常温で自発着火する性質を有するものではないが、高いエネルギーを内蔵する高エネルギー物質である(自己分解ガスの温度は約1600℃)ことを利用して、亜酸化窒素を触媒分解することにより得られる熱を着火エネルギーとして利用することが可能となる。
さらに、近い将来実施の可能性がある深宇宙探査ミッションでは、おおよそ−50℃の低温環境が想定されているが、亜酸化窒素の凝固点は−91℃と十分に低い。したがって、このような低温環境において使用する推進システムであっても、推進剤として亜酸化窒素を使用する場合には、スラスタ装置内の推進剤の供給系に凍結防止用のヒータを設ける必要はない。また、亜酸化窒素と組み合わせて使用する低毒性燃料として、例えばエタノール(凝固点−114℃)を選択すれば、低温環境においてもヒータを設けることなく利用可能な二液式スラスタ装置を備える推進システムを得ることができる。
なお、亜酸化窒素の飽和蒸気圧が比較的高い(例えば−50℃では約6.4気圧)ことに鑑みれば、従来のスラスタ装置では推進剤の加圧供給用ガス(所謂押しガス)として高圧ヘリウムガスが用いられていたところ、推進剤として亜酸化窒素を使用する場合には、亜酸化窒素ガス自体を加圧供給用ガスとして使用することにより、他の加圧供給用ガスを使用することを不要とすることが可能になると考えられる。また、二液式スラスタ装置の場合には、燃料として飽和蒸気圧の高いものを採用すれば、加圧供給用ガスを使用しない推進剤供給系を有するスラスタ装置とすることができ、また燃料の飽和蒸気圧がさほど高いものではない場合であっても、燃料を亜酸化窒素ガスの蒸気圧を利用して供給することとすれば、他の加圧供給用ガスを使用することを不要となる。
本発明者らは、これらの知見に基づき、本発明に到ったものである。
すなわち、本発明は、亜酸化窒素分解触媒で亜酸化窒素を触媒分解することにより得られる触媒分解ガスを利用して、推力を発生させる、スラスタ装置を提供する。
1つの観点において、本発明は、上記のようなスラスタ装置であって、触媒分解ガスをスラスタ装置の外部に直接噴射することにより推力を発生させる一液式のスラスタ装置であるものを提供する。
他の1つの観点において、本発明は、上記のようなスラスタ装置であって、触媒分解ガスが有する熱エネルギーで追加の亜酸化窒素を自己分解させることにより得られる熱分解ガスを、スラスタ装置の外部に噴射することにより推力を発生させる一液式のスラスタ装置であるものを提供する。
本発明の1つの実施形態によれば、上記スラスタ装置は、亜酸化窒素分解触媒を加熱するための加熱手段を備えるものである。
1つの態様として、この加熱手段は、触媒分解ガスに燃料を混合して生成した燃焼ガスを前記亜酸化窒素分解触媒に向けるものであってよい。
他の1つの態様として、この加熱手段は、亜酸化窒素分解触媒に取り付けられたヒータであってよい。
さらに別の態様として、この加熱手段は、亜酸化窒素分解触媒で構成されているヒータであってよい。
さらに別の観点において、本発明は、上記のようなスラスタ装置であって、触媒分解ガス及び/又は触媒分解ガスに燃料を混合して生成した燃焼ガスを用いて、亜酸化窒素と燃料との混合物を燃焼させることにより得られる燃焼ガスを、スラスタ装置の外部に噴射することにより推力を発生させる二液式のスラスタ装置であるものを提供する。
本発明の1つの実施形態によれば、上記燃料は、アルコール類及びLPGからなる群から選ばれる、無毒または低毒性の燃料である。なお、上記燃料としては、ニトロメタン類を使用することも可能である。
また別の観点において、本発明は、上記のようなスラスタ装置であって、亜酸化窒素及び/又は燃料の加圧供給用ガスとして亜酸化窒素ガスを使用するものを提供する。
本発明によれば、推進剤として毒性の低い亜酸化窒素を使用するスラスタ装置が得られるため、推進システムの安全性、運用性を向上させることができる。また、亜酸化窒素は低い凝固点を有することから、近い将来の深宇宙探査ミッションで想定される低温環境にも適合し得る推進システムとすることが可能となる。さらには、亜酸化窒素の飽和蒸気圧が比較的高いことを利用して、従来使用されていた推進剤の加圧供給用ガスの搭載量を削減した推進システムとすることも期待できる。
本発明によるスラスタ装置で使用する亜酸化窒素は、分解触媒によってほぼ完全に酸素と窒素とに分解されるので、宇宙船やステーションなどの閉鎖系において、生命維持のための酸素ガスや熱エネルギーの供給源としても活用することが可能であると考えられる。また、亜酸化窒素の触媒分解により得られた酸素を水素やメタノールなどの適当な燃料と合わせて、燃料電池に適用することも考えられる。
(1)亜酸化窒素分解触媒
本発明のスラスタ装置において亜酸化窒素を分解するために使用する亜酸化窒素分解触媒としては、亜酸化窒素を高い効率で酸素ガスと窒素ガスとに分解可能なものであれば特に制限はないが、例えば、特開2002−153734号公報に、工場や焼却設備などから排出される排ガス中に含まれる亜酸化窒素を分解除去するために用いられる触媒として記載されているような、アルミニウム、マグネシウム及びロジウムが担体に担持されている触媒、あるいは、亜鉛、鉄、マンガン及びニッケルからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属、アルミニウム及びロジウムが担体に担持されている触媒などを、好適に使用することができる。同様に、特開2002−253967号公報に、手術室から排出される余剰麻酔ガス中に含まれる亜酸化窒素を分解する触媒として記載されているような、シリカまたはシリカアルミナから選ばれる担体に、ロジウム、ルテニウムおよびパラジウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの貴金属を担持してなる触媒なども、好適に使用することができる。これらの触媒を用いることにより、亜酸化窒素を100%に近い分解効率で酸素ガスと窒素ガスとに分解することができる。さらに具体的には、アルミナをウォッシュコートしたコージェライトおよびメタルハニカムまたは多孔質セラミクスの担体に、窒素酸化物の分解に有効なロジウムを、質量分率で2〜3%含浸させた触媒などが有用である。スラスタに使用する観点から好ましい触媒の具体例としては、アルミナやコージェライトあるいは炭化珪素のセラミックス製ハニカム構造体にアルミナからなる担体層を形成させ、当該担体層に窒素酸化物の分解に有効なロジウムなどが担持されている触媒を挙げることができる。
(2)一液式スラスタ
本発明のスラスタ装置が一液式のスラスタ装置である場合、亜酸化窒素を触媒分解することにより得られる1000℃を超える高温の酸素と窒素の混合ガスを、スラスタ装置の外部に直接噴射することにより、推力を発生させることができる。
また、亜酸化窒素の触媒分解により得られる上記混合ガスが、大きな熱エネルギーを有するものであることを利用して、触媒分解ガスが有する熱エネルギーで追加の亜酸化窒素を自己分解させることにより得られる熱分解ガスを、スラスタ装置の外部に噴射することにより、推力を発生させることもできる。
特に本発明のスラスタ装置が一液式のスラスタ装置である場合には、亜酸化窒素分解触媒を加熱するための加熱手段を設けることにより、分解触媒を予備加熱することができるようにしておくのが望ましい。このような加熱手段を備える一液式のスラスタ装置としては、次のようなものが考えられる。
a.予備燃焼加熱型:
このタイプの一液式のスラスタ装置の概略断面図を、図3に示す。
スラスタ装置11は、主分解室12内に設けられた亜酸化窒素分解触媒層13で亜酸化窒素を分解させるに先立ち、予め亜酸化窒素分解触媒層13を加熱しておくために主分解室12に供給する燃焼ガスを生成するための、副分解室14を備えている。この副分解室14は、外部から亜酸化窒素を供給するための亜酸化窒素インレット15を備えるとともに、供給された亜酸化窒素を搬送することができるように、主分解室12と連通している。また、副分解室14の内部には、少量の亜酸化窒素を分解して触媒分解ガスを生成することのできる小型亜酸化窒素分解触媒層16が設けられている。この小型亜酸化窒素分解触媒層16には、亜酸化窒素の触媒分解を効率的に行うことができるように、電力供給ライン17を通じて外部から電力の供給を受けて小型亜酸化窒素分解触媒層16を加熱することのできる、耐熱性の高いグラファイト等の炭素素材に耐酸化性のSiC等をコーティングしたものなどで作製されたヒータ18が取り付けられている。さらに、副分解室14は、副分解室14内の小型亜酸化窒素分解触媒層16で生成された触媒分解ガスと混合して主分解室12に供給する燃焼ガスを生成するための燃料を供給する燃料インレット19を備えている。
スラスタ装置11を操作する場合、まず亜酸化窒素インレット15から副分解室14へ少量の亜酸化窒素を供給し、これを小型亜酸化窒素分解触媒層16で触媒分解し少量の亜酸化窒素分解ガスを発生させる。この触媒分解ガスに、燃料インレット19から供給した少量の燃料を混合して燃焼させ、少量の燃焼ガスを発生させる。この燃焼ガスを主分解室12内に設けられた亜酸化窒素分解触媒層13に向けて当て、これを予備加熱する。主分解室12内の亜酸化窒素分解触媒層13が十分に昇温したら、亜酸化窒素インレット15から副分解室14を介して主分解室12へ必要な量の亜酸化窒素を供給して、亜酸化窒素分解触媒層13で触媒分解ガスを生成して、推力を発生させる。
分解触媒層の構造・寸法としては、内径10mmの耐熱合金製または炭化珪素を基材とするセラミック基複合材(CMC)製の管内に充填した直径10mm、長さ20mm程度の円柱状の正方ハニカム構造体を採用できる。触媒の種類は、アルミナあるいは炭化珪素のセラミックス製ハニカム構造体にアルミナからなる担体層を形成させ、当該担体層に窒素酸化物の分解に有効なロジウムなどが担持されている触媒等である。反応温度として、ヒータにより加熱される触媒の初期温度は350℃(推奨温度)である。亜酸化窒素、燃料の流量は、亜酸化窒素約2g/s以下、燃料(エタノール)約1g/s以下程度である。燃料の種類は、上述のとおり、エタノール、プロパンなど、無毒または毒性の低い燃料である。
b.触媒加熱型:
このタイプの一液式のスラスタ装置の概略断面図を、図4に示す。
スラスタ装置11の分解室12内に設けられた亜酸化窒素分解触媒層13には、亜酸化窒素インレット15から供給される亜酸化窒素の触媒分解を効率的に行うことができるように、電力供給ライン17を通じて外部から電力の供給を受けて亜酸化窒素分解触媒層13を加熱することのできる内部ヒータ18’が取り付けられている。
スラスタ装置11を操作する場合、まず内部ヒータ18’により亜酸化窒素分解触媒層13を加熱しておく。分解室12内の亜酸化窒素分解触媒層13が十分に昇温したら、亜酸化窒素インレット15から分解室12へ必要な量の亜酸化窒素を供給して、亜酸化窒素分解触媒層13で触媒分解ガスを生成して、推力を発生させる。
c.ヒータ触媒担体型:
このタイプの一液式のスラスタ装置の概略断面図を、図5に示す。
スラスタ装置11の分解室12内に設けられた亜酸化窒素分解触媒層13’は、亜酸化窒素インレット15から供給される亜酸化窒素の触媒分解を効率的に行うことができるように、電力供給ライン17を通じて外部から電力を供給して昇温させることのできるヒータを構成している。
スラスタ装置11を操作する場合、まず亜酸化窒素分解触媒層13’に電力を供給してこれを加熱しておく。分解室12内の亜酸化窒素分解触媒層13’が十分に昇温したら、亜酸化窒素インレット15から分解室12へ必要な量の亜酸化窒素を供給して、亜酸化窒素分解触媒層13’で触媒分解ガスを生成して、推力を発生させる。
炭化珪素(SiC)は耐酸化性が高く、約1600℃までの耐熱性があるため、亜酸化窒素分解触媒用のヒータ兼担体として、炭化珪素の構造体を担体として用いるのが望ましい。
この態様では、触媒全体を一様に加熱できるため熱損失が小さく、電力を節約できる。
(3)二液式スラスタ
亜酸化窒素を酸化剤として使用することにより、これと燃料との混合物を燃焼させることにより得られる燃焼ガスをスラスタ装置の外部に噴射して推力を発生させる二液式のスラスタ装置とすることができる。この場合、亜酸化窒素は、従来の二液式スラスタ装置に使用されていた有毒の四酸化二窒素(N24)/ヒドラジン(N24)系推進剤のように、常温で自発着火する性質を有するものではないので、着火(点火)手段が必要となる。この着火手段として、亜酸化窒素の一部あるいは全部を亜酸化窒素分解触媒で分解して得られる、酸素ガスを含む高温の触媒分解ガス、この触媒分解ガスで追加の亜酸化窒素を分解させた自己分解ガス、あるいは、この触媒分解ガスに燃料を混合して生成した燃焼ガスを使用することができる。このように、少量の亜酸化窒素を触媒分解して発生させた熱エネルギーによって、連鎖反応的に全量を熱分解させる方式を実現すれば、燃料の着火のために外部から投入するエネルギー量を減らすことができるため、省電力化を図ることが可能となる。
本発明による二液式のスラスタ装置の概略断面図を、図6に示す。
スラスタ装置21は、ノズルを有する燃焼器31と点火器41から構成されている。燃焼器31は、そのスラスタ燃焼室22に外部からそれぞれ亜酸化窒素及び燃料を供給するための亜酸化窒素インレット32及び燃料インレット33を備えている。亜酸化窒素インレット32から供給される亜酸化窒素は、燃料インレット33から供給される燃料と燃焼器31中常温で混合しても自発着火しないため、点火器41が必要となる。
点火器41は、その点火器燃焼室24に外部から亜酸化窒素を供給するための亜酸化窒素インレット25を備えるとともに、供給された亜酸化窒素を搬送することができるように、スラスタ燃焼室22と連通している。また、点火器燃焼室24の内部には、少量の亜酸化窒素を分解して触媒分解ガスを生成することのできる小型亜酸化窒素分解触媒層26が設けられている。この小型亜酸化窒素分解触媒層26には、亜酸化窒素の触媒分解を効率的に行うことができるように、電力供給ライン27を通じて外部から電力の供給を受けて小型亜酸化窒素分解触媒層26を加熱することのできる、耐熱性の高いグラファイト等の炭素素材に耐酸化性のSiC等をコーティングしたものなどで作製されたヒータ28が取り付けられている。さらに、点火器燃焼室24は、点火器燃焼室24内の小型亜酸化窒素分解触媒層26で生成された触媒分解ガスと混合してスラスタ燃焼室22に供給する燃焼ガスを生成するための燃料を供給する燃料インレット29を備えている。
スラスタ装置21を操作する場合、まず点火器41において、高温の触媒分解ガスからなる高温ガス、あるいはこれと燃料とを混合することにより生成される燃焼ガスを、スラスタ装置21の燃焼器31に噴射する。一方、燃焼器31には、亜酸化窒素インレット32及び燃料インレット33からそれぞれ亜酸化窒素及び燃料を供給し、これらを混合しながら、点火器41から噴射される高温ガス/燃焼ガスによって着火燃焼させる。生成した燃焼ガスを従来型の液体ロケットと同様に噴射器から噴射することにより、推力を発生させる。
図7に、本発明による一液式のスラスタ装置11及び二液式のスラスタ装置21を使用して構築できる推進システム51の概念図を示す。この推進システム51によれば、比較的推力が大きい軌道制御用エンジンなどとして二液式のスラスタ装置21を使用する一方、小推力の姿勢制御用エンジンなどとして一液式のスラスタ装置11を使用することができる。図示されているとおり、推進システム51は、一液式のスラスタ装置11及び二液式のスラスタ装置21をそれぞれ1基ずつ備えるものとすることもできるが、1基の二液式のスラスタ装置21及び複数基の一液式のスラスタ装置11で構成するのが好ましく、さらには一液式のスラスタ装置11及び二液式のスラスタ装置21をそれぞれ複数基備えるものとすることもできる。これらのスラスタ装置へは、各々排気ポート55及び充填ポート56を備える亜酸化窒素タンク52及び燃料タンク53から、それぞれ亜酸化窒素及び燃料が供給されるようになっている。その際、加圧ガスタンク54から窒素ガスあるいはヘリウムガスを供給して、これを加圧供給ガスとして使用する。一方、亜酸化窒素の有する蒸気圧(20℃で5MPa)を利用して、亜酸化窒素を加圧供給ガスとして使用する完全な自己加圧供給システムを構築することも可能であると考えられる。
本発明によるスラスタ装置の特徴を従来のものと対比すると、次表のとおりとなる。
Figure 2008144588
* 推進剤の密度。二液式の場合は酸化剤密度と燃料密度を平均化した値。
**比推力は推進剤の搭載質量に反比例する。一液式の場合亜酸化窒素でN2H4と同じ能力を得るためには質量で220s/190s=1.16倍搭載する必要がある。タンクの容積はほぼ推進剤密度に反比例するので、タンク容積は1.16×1.0/0.78=1.5倍になる。
(比推力[s])=(推力[N])/(推進剤質量流量率[kg/s])/(重力加速度9.807[m/s2])
上記のとおり、本発明のスラスタ装置は、従来のものの性能を著しく低下させることなく、高い分解性能(ほぼ100%分解可能)を有する触媒を使用することにより、優れた取扱い安全性を担保するとともに無毒化を推進し、低温環境適合性を達成したものである。本発明のスラスタ装置は、射場運用性の向上(ロケット発射場での運用作業の時間短縮、安全性向上、コスト低減)が図られており、一液式スラスタ、二液式スラスタ(及びコールドガスジェット)のマルチモードで使用可能である一方、実用可能な水準の性能を持ち、常温〜低温環境で貯蔵可能であって、かつ無毒であることから、特にアカデミックユーザーや外惑星探査ミッションなどでその利用価値を見出すことが期待される。
本発明は、従来法と比較して、貯蔵性液体推進剤の毒性の低減ひいては無毒化を進めるとともに、貯蔵性液体推進剤を用いた推進システムの低温環境適合性を改善することを可能とするものである。
従来の一液式スラスタ装置の断面模式図である。 従来の二液式スラスタ装置の断面模式図である。 本発明による一液式スラスタ装置の一態様の概略断面図である。 本発明による一液式スラスタ装置の別の態様の概略断面図である。 本発明による一液式スラスタ装置のさらに別の態様の概略断面図である。 本発明による二液式スラスタ装置の一態様の概略断面図である。 本発明によるスラスタ装置を使用した推進システムの概念図である。
符号の説明
11 スラスタ装置
12 主分解室
13 亜酸化窒素分解触媒層
14 副分解室
15 亜酸化窒素インレット
16 小型亜酸化窒素分解触媒層
17 電力供給ライン
18 ヒータ
19 燃料インレット

Claims (10)

  1. 亜酸化窒素分解触媒で亜酸化窒素を触媒分解することにより得られる触媒分解ガスを利用して、推力を発生させることを特徴とする、スラスタ装置。
  2. 前記スラスタ装置は、前記触媒分解ガスを前記スラスタ装置の外部に直接噴射することにより推力を発生させる一液式のスラスタ装置であることを特徴とする、請求項1に記載のスラスタ装置。
  3. 前記スラスタ装置は、前記触媒分解ガスが有する熱エネルギーで追加の亜酸化窒素を自己分解させることにより得られる熱分解ガスを、前記スラスタ装置の外部に噴射することにより推力を発生させる一液式のスラスタ装置であることを特徴とする、請求項1に記載のスラスタ装置。
  4. 前記亜酸化窒素分解触媒を加熱するための加熱手段を備えることを特徴とする、請求項2又は3に記載のスラスタ装置。
  5. 前記加熱手段は、前記触媒分解ガスに燃料を混合して生成した燃焼ガスを前記亜酸化窒素分解触媒に向けるものであることを特徴とする、請求項4に記載のスラスタ装置。
  6. 前記加熱手段は、前記亜酸化窒素分解触媒に取り付けられたヒータであることを特徴とする、請求項4に記載のスラスタ装置。
  7. 前記加熱手段が亜酸化窒素分解触媒で構成されているヒータであることを特徴とする、請求項4に記載のスラスタ装置。
  8. 前記スラスタ装置は、前記触媒分解ガス及び/又は前記触媒分解ガスに燃料を混合して生成した燃焼ガスを用いて、亜酸化窒素と燃料との混合物を燃焼させることにより得られる燃焼ガスを、前記スラスタ装置の外部に噴射することにより推力を発生させる二液式のスラスタ装置であることを特徴とする、請求項1に記載のスラスタ装置。
  9. 前記燃料は、アルコール類及びLPGからなる群から選ばれる、無毒または低毒性の燃料であることを特徴とする、請求項8に記載のスラスタ装置。
  10. 前記亜酸化窒素及び/又は前記燃料の加圧供給用ガスとして亜酸化窒素ガスを使用することを特徴とする、請求項1〜9に記載のスラスタ装置。
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