JP2008134191A - 球形粒子の硬さ測定方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】数十μm以下の寸法の球形粒子であっても、より高い精度で降伏応力が測定できるようにする。
【解決手段】下部圧縮部102と上部圧縮部103との間に測定対象の球形粒子Bを配置して挟み、荷重印加部107を動作させ、上部圧縮部103をステージ101の方向に変位させ、球形粒子Bを押しつぶす。このとき、荷重検出部106で測定されている荷重が、設定されている値(荷重F)となるように、荷重制御部108が荷重印加部107の動作を制御する。次に、上部圧縮部103の変位量を変位計測部105により測定し、この測定値を変形後の粒子高さhとする。これらのことにより、得られた粒子径D,荷重F,及び粒子高さhを用い、測定対象の球形粒子の実効降伏応力σyを算出し、この算出した実効降伏応力σyを球形粒子の硬さとする。
【選択図】 図1
【解決手段】下部圧縮部102と上部圧縮部103との間に測定対象の球形粒子Bを配置して挟み、荷重印加部107を動作させ、上部圧縮部103をステージ101の方向に変位させ、球形粒子Bを押しつぶす。このとき、荷重検出部106で測定されている荷重が、設定されている値(荷重F)となるように、荷重制御部108が荷重印加部107の動作を制御する。次に、上部圧縮部103の変位量を変位計測部105により測定し、この測定値を変形後の粒子高さhとする。これらのことにより、得られた粒子径D,荷重F,及び粒子高さhを用い、測定対象の球形粒子の実効降伏応力σyを算出し、この算出した実効降伏応力σyを球形粒子の硬さとする。
【選択図】 図1
Description
本発明は、フリップチップ実装などに用いられる球形の接続部の硬さを測定する球形粒子の硬さ測定方法に関するものである。
近年、BGA(Ball Grid Array),フリップチップ(Flip Chip),及びFOB(Flex on Board)などの電子部品の接続技術では、ボールやバンプあるいは導電粒子などの金属接続体を介して電極間の電気的な接続をとり、また、電極間の機械的な接続状態の保持を行う接続構造が多く採用されている。このような接続構造の形成段階や形成後の機械的特性を把握するためには、金属接続体などを構成する材料の基本的な機械物性である降伏応力の把握が重要となる。降伏応力は、降伏値とも呼ばれ、弾性変形から塑性変形に移行する変化点を示すものである。
例えば、金属粒子を熱圧着して塑性変形させることで接合する固相接合においては、圧縮荷重と金属粒子の変形量との関係を把握することが、接合プロセス条件の決定に重要である。また、BGAなど金属粒子を一旦溶融させて電極間をはんだ付けする接続法においても、形成された接続体(金属粒子)の耐荷重を把握することは、信頼性を予測する上で重要である。従来、これらの状態の把握は、実際の使用状態を模擬した試験体を作成し、実際に荷重を加えるなどの評価試験を繰り返し、実験的に接続体の挙動を把握することが行われていた。
また、設計段階から材料工学の各種理論を用いて機械的な強度や信頼性を予測する、あるいはバラツキの少ない材料製造を行うための品質管理の指標として、材料物性である降伏応力の把握が不可欠である。このため、JISなどの公知規格が設定され、多くの材料データブックにおいて降伏応力に関して記載されている。ただし、ここで定義される値は、特定寸法の試験片に対して加工法を規定し、1軸引張によって測定されたものである。
しかし、降伏応力は、金属の微細組織と密接な関係があるため、凝固速度や機械加工の有無などの加工状態や大きさによって異なった値となることが知られている。また、金属粒子の製造段階における加工条件によっても機械物性が変化する。これらのことから、接合における金属粒子の機械的挙動を把握するためには、あくまでも実際に近い大きさと加工状態で測定することが望ましく、特に微細化が進む電子部品用途の金属材料においては、数〜数十μmサイズの金属形成体の実使用状態における降伏応力を測定する方法が模索されている。
従来このような小型金属材料の試験片に対する降伏応力の測定においては、ビッカース硬度試験が用いられることが多い。この方法は、平面に対して圧子を押し付けた打痕の寸法で塑性変形した寸法より材料の硬度を測定し、この硬度と降伏応力との相関表から降伏応力を推定していた。
しかし、この方法も平面に圧子を押し込み陥没した打痕を付けなければならず、圧子の押し込みに影響が出ない程度の広い面積が必要となるため、数十μm程度の微小サイズの金属部材(粒子)については、正確に測定することが容易ではない。また、測定対象が曲面体の場合には、研磨又は切断して断面を出すことが必要であった。また、近年マイクロビッカースと呼ばれる測定装置が開発され、数μm以下の微小領域の硬度が測定可能とされている。しかしながら、この装置を用いてる場合、圧子を押し込む深さも数μm又はそれ以下であり、極最表面の物性を測定しているに過ぎず、微小片全体の機械物性を測定する観点からは問題があった。
一方、微小材料全体の圧縮強度を測定する方法として、圧縮破壊法も提案され既に実用化されているが、この圧縮破壊法では、圧縮率P(初期粒径Dに対する変形後の高さhの比;P=h/D)が変化すると圧縮破壊に必要な荷重Fが変わるため、ある一定の圧縮率を基準としてそれに必要な荷重を測定することが必要であった。さらに、試験片の大きさによっても荷重が変わるため、同等寸法の材料間における比較評価が主体の試験であり、ここで得られた測定値と降伏応力の関係については明確には明らかになっていなかった。
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、数十μm以下の寸法の球形粒子であっても、より高い精度で降伏応力が測定できるようにすることを目的とする。
本発明に係る球形粒子の硬さ測定方法は、対向配置された2つの圧縮部材の間に、測定対象の直径Dの球形の粒子を配置し、荷重Fを加えて2つの圧縮部材の距離を縮めて粒子を圧縮し、圧縮により変形した粒子の高さhを測定し、式(1)を用い、直径D,荷重F,高さh,及び圧縮部材と粒子との間の摩擦係数μをもとに実効降伏応力σyを算出し、算出した実効降伏応力σyを粒子の硬さとするようにしたものである。
上記球形粒子の硬さ測定方法において、摩擦係数μは、式(1)を用い、直径D,荷重F,及び高さhをもとに決定すればよい。例えば、同一の直径Dの球形の3つの粒子について、荷重Fの圧縮による粒子の高さhを測定し、式(1)を用い、直径Dと荷重Fと、測定された3つの高さhをもとに、摩擦係数μを決定すればよい。
以上説明したように、本発明によれば、対向配置された2つの圧縮部材の間に、測定対象の直径Dの球形の粒子を配置し、荷重Fを加えて2つの圧縮部材の距離を縮めて粒子を圧縮し、圧縮により変形した粒子の高さhを測定し、式(1)を用い、直径D,荷重F,高さh,及び圧縮部材と粒子との間の摩擦係数μをもとに実効降伏応力σyを算出し、算出した実効降伏応力σyを粒子の硬さとするようにしたので、数十μm以下の寸法の球形粒子であっても、より高い精度で降伏応力が測定できるようになるという優れた効果が得られる。
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。本発明では、直径(粒子径)Dの球形粒子に所定の荷重Fを加えて圧縮変形させたときの変形後の粒子高さhを測定し、初期状態の粒子径Dと加えた荷重Fと測定された変形後の粒子高さhとを用い、以下の式(1)により、球形粒子の常温(25℃)における実効降伏応力σyを求める(算出する)ようにした。より詳しくは、粒子径D,荷重F,及び変形後の粒子高さhの複数の測定値より、式(1)における摩擦係数μを決定し、決定した摩擦係数μを用いて実効降伏応力σyを算出し、これを球形粒子の硬さとする。
例えば、球形粒子に荷重Fを加えたときの変形後の高さhの測定は、図1に示す測定装置を用いればよい。図1は、本実施の形態における球形粒子の硬さ測定方法を実現するための測定装置の構成を示す構成図である。本測定装置は、まず、ステージ101,下部圧縮部(圧縮部材)102,上部圧縮部(圧縮部材)103,断熱部104,変位計測部105,荷重検出部106,荷重印加部107,及び荷重制御部108を備える。下部圧縮部102は、ステージ101の上に固定され、上部圧縮部103は、断熱部104及び変位計測部105とともに、ステージ101の方向に変位可能に支持されている。
また、本測定装置は、ステージ101に内蔵された断熱部111,下部圧縮部102に内蔵された温度制御部121,及び上部圧縮部103に内蔵された温度制御部131を備える。温度制御部121及び温度制御部131は、例えば電熱ヒータ及び熱電対を備え、熱電対で計測された温度をもとに、設定されている温度となるように電熱ヒータを制御する。これらにより制御された温度の状態は、断熱部104及び断熱部111により保温された状態となる。
上述した測定装置において、まず、下部圧縮部102と上部圧縮部103との間に測定対象の球形粒子Bを配置して挟み、温度制御部121及び温度制御部131を動作させ、下部圧縮部102及び上部圧縮部103が例えば25℃程度に制御された状態とする。球形粒子Bは、例えば、Auなどの金属から構成された球である。
次に、荷重印加部107を動作させ、上部圧縮部103をステージ101(下部圧縮部102)の方向に変位させ、球形粒子Bを押しつぶす。このとき、荷重検出部106で測定されている荷重が、設定されている値(荷重F)となるように、荷重制御部108が荷重印加部107の動作を制御する。このことにより、下部圧縮部102と上部圧縮部103との距離が縮まり、球形粒子Bが圧縮されて押しつぶされることになる。
次に、所定の荷重Fにより球形粒子Bを押しつぶした後、上部圧縮部103の変位量を変位計測部105により測定し、この測定値を変形後の粒子高さhとする。なお、変位計測部105としては、非接触レーザ変位計,触針型変位計が適用可能である。また、光切断法などによる変位計測であっても良い。
これらのことにより、初期状態の粒子径Dと加えた荷重Fと測定された変形後の粒子高さhとが得られたことになり、得られた粒子径D,荷重F,及び粒子高さhを用い、前述した式(1)により、測定対象の球形粒子の実効降伏応力σyを算出し、この算出した実効降伏応力σyを球形粒子の硬さとする。
また、摩擦係数μの決定と実効降伏応力σyの算出は、コンピュータにより処理させることで実施できる。例えば、演算処理部と、主記憶部、外部記憶部と、入力部と、表示部と、プリンターとを備えたコンピュータを用いればよい。このコンピュータにおいて、例えば、磁気記録装置である外部記憶部に、入力された初期状態の粒子径Dと加えた荷重Fと測定された変形後の粒子高さhとの組の複数のデータより、式(1)により、摩擦係数μを決定して実効降伏応力σyの算出とを行うプログラムなどが記憶されている。
このように外部記憶部に記憶されているプログラムが、演算処理部により、主記憶部に展開して実行され、この実行の結果が表示部に表示され、また、プリンターにより印刷出力される。また、処理結果は、外部記憶部に記憶される。また、演算処理に必要な初期状態の粒子径Dと加えた荷重Fと測定された変形後の粒子高さhとの組などの情報(データ)は、操作者の操作により入力部より入力され、主記憶部に一時記憶され、また、外部記憶部に記憶される。これらの記憶された実験値などのデータを用い、主記憶部に展開されたプログラムを実行することで、演算処理部は、実効降伏応力σyを算出する。
なお、荷重Fの印加と、変形させた粒子高さhの測定は、図2に示す測定装置を用いるようにしても良い。本測定装置は、まず、ステージ101,下部圧縮部102,上部圧縮部103,断熱部104,荷重検出部106,荷重印加部107,及び荷重制御部108を備える。下部圧縮部102は、ステージ101の上に固定され、上部圧縮部103は、断熱部104及び変位計測部105とともに、ステージ101の方向に変位可能に支持されている。本測定装置は、前述した測定装置と異なり、下部圧縮部102及び上部圧縮部103に挟まれている球形粒子Bの状態を撮像する撮像部205を備えるようにしたものである。撮像部205は、上部圧縮部103の変位方向(圧縮方向)に対して垂直な方向より、球形粒子Bの変形状態を撮像する。
また、本測定装置においても、ステージ101に内蔵された断熱部111,下部圧縮部102に内蔵された温度制御部121,及び上部圧縮部103に内蔵された温度制御部131を備える。温度制御部121及び温度制御部131は、例えば電熱ヒータ及び熱電対を備え、熱電対で計測された温度をもとに、設定されている温度となるように電熱ヒータを制御する。これらにより制御された温度の状態は、断熱部104及び断熱部111により保温された状態となる。
上述した測定装置において、まず、下部圧縮部102と上部圧縮部103との間に測定対象の球形粒子Bを配置して挟み、温度制御部121及び温度制御部131を動作させ、下部圧縮部102及び上部圧縮部103が25℃程度に制御された状態とする。
次に、荷重印加部107を動作させ、上部圧縮部103をステージ101(下部圧縮部102)の方向に変位させ、球形粒子Bを押しつぶす。このとき、荷重検出部106で測定されている荷重が、設定されている値(荷重F)となるように、荷重制御部108が荷重印加部107の動作を制御する。また、これら圧縮動作中の球形粒子Bの変形状態を撮像部205により撮像し、撮像した画像データより押しつぶされた球形粒子Bの高さhを計測する。
これらのことにより、初期状態の粒子径Dと加えた荷重Fと測定された変形後の粒子高さhとが得られたことになり、得られた粒子径D,荷重F,及び粒子高さhを用い、前述した式(1)により、測定対象の球形粒子の実効降伏応力σyを算出し、この算出した実効降伏応力σyを球形粒子の硬さとする。
なお、球形粒子を押しつぶした後、押しつぶされた球形粒子の寸法を、他の測定手段により直接計測するようにしても良い。この場合、圧縮変形した粒子を、圧縮した装置より取り外すことになるが、上述した装置を用いて球形粒子を圧縮変形させる場合、球形粒子の材料によっては、下部圧縮部102もしくは上部圧縮部103の接触面に凝着し、測定に支障を来す場合がある。このような場合は、例えば、上部圧縮部103の接触面に表面処理加工を加え、上記凝着が抑制されるようにすればよい。例えば、上部圧縮部103の接触面に、窒化処理などによる離型性の高い状態とされた膜を形成すればよい。また、上部圧縮部103自体を、セラミックス,酸化物結晶,窒化ボロン結晶などから構成し、球形粒子との凝着が抑制されるようにしても良い。
以下、金属などから構成された球形粒子の圧縮による変形挙動について考察する。まず、変形過程においては、球形粒子を円柱型に近似すればよい。ここでまず、円柱形における変形過程について検討する。はじめに、円柱形における圧縮変形のモデルを考える。このモデルの構築においては、鍛造加工に必要な荷重を理論推定する際に用いられるスラブ法を用いる。この方法は、変形領域を板状微小要素(slab)に分割し、分割した要素に対して垂直に作用する応力を主応力として力の釣り合い条件と降伏条件を連立して解くものである。また、ここでは、圧縮による粒子の変形を解析することを目的としているため、具体的には「円柱の圧縮変形」として、非特許文献1に詳細な記述のある「平面ひずみのすべり変形解析」より得られた式を使用する。円柱形における変形過程を示すモデル式の概要は以下のとおりである。
例えば、図3(a)及び図3(b)の斜視図に示すような構成とされた微小要素の場合、半径方向の力、円周方向からの力、上下面から圧縮圧力pを加えられた面における摩擦(摩擦係数μ)で釣り合っており、さらにミーゼス降伏条件を用いて連立して整理すると式(2)が得られる。
これを積分して境界条件(rが円柱形状の粒子の半径aとなる場所でσr=0)を用いて整理し、1軸引張方向の実効降伏応力σy とすれば、半径方向の位置に対する圧力pの分布式となる式(3)が得られる。
さらに、圧縮面全体の平均的な圧力Pは、半径方向に圧力分布を積分したものを面積で割ればよいので、以下の式(4)が得られる。この圧力Pは、変形状態における圧縮部との接触界面の平均圧力を意味するので、実効降伏圧力σyieldと表すことにする。
式(4)に示すように、圧縮変形における降伏圧力(荷重と面積)及び高さの関係を、摩擦係数と降伏応力という一般的に用いられている材料物性を使って表すことで汎用化できる。逆に言えば、材料物性として広く知られる1軸引張方向の降伏応力を、実際の圧縮状態の応力方向における降伏点に変換(換算)したものが、式(4)で表す降伏圧力であると言える。なお、このような、応力方向を変換して基準となる応力を推定する解析手法は、自動車用など応力が加わる構造部品における解析(非特許文献2参照)などでは良く用いられているが、接合技術に適用して紹介される例は少ない。
次に、圧縮する物体を、図4に示すような円柱形状の粒子401とし、粒子401の径を高さ及び断面積が等しい等価径Dとして定義すれば、式(4)は次の式(5)で示されるものとなる。なお、等価径とは、高さがhである円柱と角柱とにおいて、圧縮方向に垂直な断面の面積が、角柱に等しい円柱の径を示すものである。角柱の横幅をW,奥行きをLとし、円柱の直径をD0とすると「π(D0/2)2=L・W→D0=2(L・W/π)1/2」のようにして求めることができる。
次に、荷重を加えて粒子の変形が進行している過程において、体積Vは常に一定であるから、変形面積S,及び粒子径Dと変形後の粒子の高さhは、以下の式(6)の関係式が得られる。ここで、S0は変形開始時の面積、D0は変形開始時の初期粒子径、h0は変形開始時の初期高さである。従って、圧縮部と接している接触面積が、この変形面積Sと等しいと仮定すれば、粒子高さh(圧縮により変形した場合の高さ)より、圧縮部との接触面積を求めることができる。
この式(6)を式(5)に代入して整理すると、以下の式(7)が得られる。
従って、材料の1軸引張の実効降伏応力σyと摩擦係数μ及び変形前の寸法がわかれば、粒子高さが変化(減少)していく際の実効降伏圧力σyieldを求めることができる。
図5は、式(7)の具体的計算例として、変形前に径60μm、高さ60μmの円柱形粒子が圧縮変形して高さが減少していく場合における降伏比を示したものである。これによれば、一般的な摩擦係数としてμ=0.5前後と見込めば、粒子高さが半分程度となる30μmまでは、変形に必要な降伏圧力が降伏応力の1.2から1.7倍程度へ僅かに上昇する程度だが、初期高さの1/3程度となる20μmまで変形させると変形抵抗が著しく増し、降伏応力の3倍程度の降伏圧力を必要とすることがわかる。すなわち、十分に変形が行える荷重で加圧しても、粒子の変形が進むにつれて変形抵抗が大きくなり、いずれは変形が止まるということが示されている。
次に、実効降伏圧力σyieldは、荷重Fと変形面積S(マクロ的な接触面積)との比であるから、以下に示す式(8)と表せる。従って、式(6)、式(7)より以下の式(9)が得られる。つまり、初期形状(初期粒子径D0と初期高さh0)が与えられれば、粒子の変形に必要な荷重Fは、材料物性(降伏応力と摩擦係数)を用いて粒子の変形後の高さhを変数として一義的に表すことができる。逆に、式(9)の逆関数を用いれば、荷重Fから変形後の高さhが求まり、これによって変形面積(マクロ的な接触面積)Sも計算(推定)できる。
ここで、実効降伏応力σyと摩擦係数μとの2つが未知数となる。従って、1組だけの荷重Fと高さのデータから、一義的に摩擦係数μを決定して実効降伏応力σyを算出することはできない。このため、最低でも、2組の荷重Fと高さのデータを測定し、摩擦係数μを決定して実効降伏応力σyを算出する。また、式(9)よりわかるとおり、荷重Fを横軸、変形後の高さhを縦軸として図示するとすれば、実効降伏応力σyは縦軸方向の位置を決め、摩擦係数μは曲線の曲率を決めている。従って、例えば、荷重範囲を広く変更した多くの水準の実験データを取得すれば、最小二乗法などによって摩擦係数μが決定され、同時に実効降伏応力σyが求められる。
なお、十分に荷重範囲の広いデータが得られない場合には、実測プロットの曲率を考慮しつつ摩擦係数をある値に仮定しておき、残された未知数である降伏応力は実測プロットの位置から近似計算に比較的合う値を推定してもよい。一般的に、大気中の摩擦係数は幅広い値ではなく、金同士は2.0以上とやや高めではあるものの、他の金属同士では概ね0.3〜0.8程度の範囲となっており(非特許文献3参照)、これから類推すれば、金と他金属又は酸化物間は他金属同士の場合もこの範囲にあると考えてよい。
実際の金めっき粒子の変形に関して、植田らが実験的に得た荷重と粒子の高さ変化量の相関関係に関する実験データ(非特許文献4参照)を本モデル式で解析すると、図6(プロットが実験値、曲線が本数式モデル)に示すとおり、摩擦係数0.4とした場合の降伏応力が212MPaと、ほぼ妥当な結果となる。なお、212MPaは、ビッカース硬度Hv65に相当している(Hv≒3.0σyとする)(非特許文献5参照)。
なお、図6において、荷重1.0Nの条件では、計算上は降伏条件に達していないため変形が開始する荷重ではないが、実際の粒子では表面凹凸範囲に相当する程度の僅かな変形は低荷重から開始することを示唆しているものと考えられる。
また、図6では、Δh(粒子の高さ変化量)と荷重Fの関係を示したが、初期粒子の高さ25μm、径79μm、硬度65Hv、摩擦係数0.4として、荷重と粒子の高さの関係を数値計算によって示すと、図7及び図8に示すとおりとなり、正確には非線形ではあるが、荷重範囲が狭ければ実験的には粒子の変形後の高さhは荷重の逆対数ln(1/F)にほぼ比例することが予測される。
以上に説明したように、円柱の場合には変形面積が増加し、高さが減少する相関を体積一定の関係から単純な式(6)で表すことができる。しかし、初期形状が球の場合には、変形面積と高さの関係を与える式を仮定する必要がある。
ここで、発明者は、1軸圧縮における球体の変形において、図9(a),図9(b),図9(c)に示すとおり、変形部の外周円を粒子の中心からの半径rとして表した場合に、この径が粒子全体の曲率半径にほぼ等しいものと考えた。つまり、粒子表面は、常に同じ曲率半径rの中心を持つ(曲率半径自体は粒子の変形とともに増加する)ことを意味するから式(10)に示すh、r、dの相関式が得られる。
また、変形前の体積V1と変形後の体積V2とは等しいから、式(10)を用いて整理すると、以下の式(11)が得られ、変形部径dを初期粒子径D、変形後の高さhのみで表すことができる。すなわち、変形面積は変形部径dより求めることができるから、変形後の高さhより変形面積(接触面積)Sを求めることができる。
また、変形過程の実効降伏圧力σyieldは、荷重Fと変形面積S(マクロ的な接触面積)との比(式(8)参照)なので、式(5)を書き改めた式(12)に式(11)を代入して整理すると式(13)、すなわち前述した式(1)が得られる。
このように、球形粒子の場合も、材料物性(実効降伏応力と摩擦係数)を仮定すれば、変形に必要な荷重Fは粒子の変形後の高さhを変数として、初期粒子径Dが与えられれば一義的に表すことができる。また、前述したように、逆関数として荷重Fから粒子の変形後の高さh、変形面積Sを計算できる。
ところで、初期粒子径Dと変形後の高さh又は変形部径dとの比を、各々圧縮率P、扁平率Bとした以下に示す式(14)、式(15)として定義して無次元化し、荷重との関係について近似計算結果と実験値を比較すると、図10に示すとおりとなる。図10では、近似計算の結果かを実線で示している。図10からわかるとおり、扁平率が1以上、すなわち変形部径が初期粒子径以上になるためには、材料物性や大きさに係わらず圧縮率を0.55以下にすることが必要となる。つまり、接合部材に球形粒子を使用した場合、導電路となる接合面積(接触面積)を、使用する球形粒子径以上にするためには、球形粒子の径が初期の半分以下になるまで押しつぶせばよいことが分かる。
なお、摩擦係数を前述のような最小二乗法を用いて求める場合には、変形範囲を広く採り、曲線の曲率に差が出やすいデータを得る必要があるが、図10からわかるとおり圧縮率0.4付近で曲線の接線に大きな変化が生じるため、この点を中心とする圧縮率0.75〜0.25において少なくとも3点以上、望ましくは計5点以上のデータを取得することが必要であることがわかる。
なお、本モデルの基本式となる式(4)は公知の近似式であるが、球形粒子の変形挙動を表すために用いた式(10)は、発明者が独自に仮定したものであるため、実験値と比較してこの妥当性を検証する。この検証は、実験において、高さhとともに圧縮変形部径d及び最外径2rを実測し、これと式(11)及び式(10)より得られる近似値を比較することにより行う。この結果、図11に示す圧縮による変形部径近似値dについては、変形初期においては実測値とのズレが大きいが、変形の進行とともに近似値に近づき実際の接合に用いられるようなアスペクト比0.5〜0.2程度の範囲では、実験値により近い値を与えることがわかる。また、図12に示す最外径近似値2rについては、実測した全領域で近似値とよい一致を示していることがわかる。
なお、図11における変形初期における実験値との差については、図12がよい一致を示していることから、変形量が小さい場合には、弾性変形や局部変形の影響を受けており、実際の塑性変形面積が小さいことが示唆される。しかし、変形初期において高さに関する近似に多少の差異があったとしても、変形初期においては降伏圧力比の変化は少ない。つまり、高さに多少の誤差が生じても、変形抵抗に及ぼす影響が少ないため、荷重と高さの関係として表せば、近似値と実験値は良く一致したものになるものと考えられる。
以上に説明した球形粒子の圧縮変形モデルを用いれば、従来では直接測定が困難であった微小金属球形粒子の硬さを、実効降伏応力として測定することに応用可能である。球形粒子の硬さ測定において、式(1)による圧縮変形モデルを適用することで、実際の接合状態に近い試験方法で材料の実効降伏応力を推定(算出)することが可能である。
101…ステージ、102…下部圧縮部、103…上部圧縮部、104…断熱部、105…変位計測部、106…荷重検出部、107…荷重印加部、108…荷重制御部、111…断熱部、121…温度制御部、131…温度制御部、B…球形粒子。
Claims (3)
- 対向配置された2つの圧縮部材の間に、測定対象の直径Dの球形の粒子を配置し、
荷重Fを加えて2つの前記圧縮部材の距離を縮めて前記粒子を圧縮し、
圧縮により変形した前記粒子の高さhを測定し、
式(1)を用い、直径D,荷重F,高さh,及び前記圧縮部材と前記粒子との間の摩擦係数μをもとに実効降伏応力σyを算出し、
算出した実効降伏応力σyを前記粒子の硬さとする
ことを特徴とする球形粒子の硬さ測定方法。 - 請求項1記載の球形粒子の硬さ測定方法において、
摩擦係数μは、
式(1)を用い、直径D,荷重F,及び高さhをもとに決定する
ことを特徴とする球形粒子の硬さ測定方法。
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