JP2008082715A - 特定物質と相互作用するペプチドのスクリーニング方法 - Google Patents

特定物質と相互作用するペプチドのスクリーニング方法 Download PDF

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Abstract

【課題】支持体の表面に固定化した特定物質と複合物質表面に存在するペプチドとの相互作用を近接場光を利用して解析する場合に、特定物質とペプチドが十分に相互作用することができ、かつ各部材への非特異的な吸着を抑制できる方法を提供すること。
【解決手段】支持体の表面を2種類以上の自己組織化膜形成分子で被覆して自己組織化膜を形成し、この自己組織化膜に特定物質を固定化し、次いで、ペプチドを表面に保有し、かつ該ペプチドをコードした核酸を内部に包含する、もしくは該ペプチドと該核酸が結合した複合物質を、上記の自己組織化膜に固定化した特定物質に接触させ、その結合・解離挙動を近接場光を利用して解析することによって、特定物質と相互作用するペプチドをスクリーニングする。
【選択図】なし

Description

本発明は、特定物質と相互作用するペプチドのスクリーニング方法に関する。より詳細には、本発明は、近接場光を利用した解析によって、ペプチドを表面に保有し、かつ該ペプチドをコードした核酸を内部に包含する、もしくは該ペプチドと該核酸が結合した複合物質を解析することによって、特定物質と相互作用するペプチドをスクリーニングする方法に関する。
特定の物質と相互作用を示すペプチドをその複数の候補の中から選択する方法として、該ペプチドを表面に保有し、更に該ペプチドをコードする遺伝子を内部に包含する、もしくは該ペプチドと該核酸が結合した複合物質を利用したスクリーニング方法が知られている。複合物質としては、ファージや酵母、リボソームなどが特に利用されているが、いずれにおいても特定物質と相互作用を示すペプチドを保有する複合物質を回収した後に、その保有する核酸を基に該複合物質を増幅させることができる。更に、その増幅させた回収複合物質を用いて、同操作を繰り返すことによって、効率の良いスクリーニングを行うことができる。
例えば、非特許文献1には、複合物質としてファージを用い、ペプチドとして抗体の様々な可変領域を提示したファージを利用し、スクリーニングを複数回行うことによって、抗原に結合する抗体可変領域を有するペプチドを単離する方法が記載されている。
一方、特定物質に対して、任意の相互作用性を有するペプチドを保有する複合物質を得る有効な手段として、スクリーニングの操作中に、これらの相互作用を近接場光を利用して計測し、その評価に基いて回収を行う方法が挙げられる。例えば、特許文献1には、目的タンパク質と他のタンパク質又は低分子化合物との相互作用を表面プラズモン共鳴により解析する方法(以後SPR解析と呼ぶ)であって、下記の工程:(a)金属薄膜を底面に有しSPR解析が可能なセンサーカップの該金属薄膜表面にタンパク質又は低分子化合物を固定化する工程;及び(b)細胞表面に目的タンパク質を発現させた細胞の懸濁液を上記センサーカップに加え、固定化された上記タンパク質又は低分子化合物と上記目的タンパク質との相互作用をSPR解析により決定する工程を含む方法が記載されている。また、非特許文献2には、酵素処理条件下で切断されないペプチドをスクリーニングする方法として、ファージをその表面に提示させたペプチドを介して基板表面に固定化し、該基板表面上におけるSPR解析を行いながら、酵素処理条件下において切断されないファージの回収・増幅を繰り返す概念が提示されている。
ただし、このような相互作用を計測して任意の相互作用を示すペプチドを保有する複合物質の回収を試みても、実際は検出面以外への非特異的な吸着によるコンタミネーションがあり、目的物質の回収効率が悪い。また、近接場光測定としてSPR解析を用いた系で、従来使用されてきたデキストラン膜では、複合物質の相互作用効率自体が非常に悪い。そのため、回収・増幅を繰り返す中で目的ではないペプチドが優先的に増幅してしまうという問題があった。
Nature 348, 552-554 (1990) Biochemistry 38, 11604-11612 (1999) 特開2004−271188号公報
本発明は上記した従来技術の問題を解消することを解決すべき課題とした。即ち本発明は、支持体の表面に固定化した特定物質と複合物質表面に存在するペプチドとの相互作用を近接場光を利用して解析し、任意の相互作用性を示すペプチドのスクリーニングを行う場合に、特定物質とペプチドが十分に相互作用することができ、かつ該複合物質の特定物質以外への非特異的な吸着を抑制できる方法を提供することを解決すべき課題とした。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、支持体の表面に固定化した特定物質と複合物質表面に存在するペプチドとの相互作用を近接場光を利用して解析する際に、支持体の表面を2種類以上の自己組織化膜形成分子で被覆して自己組織化膜を形成し、この自己組織化膜に特定物質を固定化し、次いで、ペプチドを表面に保有し、かつ該ペプチドをコードした核酸を内部に包含する、もしくは該ペプチドと該核酸が結合した複合物質を、上記の自己組織化膜に固定化した特定物質に接触させることによって、特定物質と相互作用するペプチドをスクリーニングできることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明によれば、特定物質と相互作用するペプチドのスクリーニング方法であって、
(1)近接場光を利用した解析が可能な表面を有する支持体の表面の少なくとも一部を、2種類以上の自己組織化膜形成分子で被覆して自己組織化膜を形成する工程;
(2)自己組織化膜に、特定物質を固定化する工程;
(3)ペプチドを表面に保有し、かつ該ペプチドをコードした核酸を内部に包含する、もしくは該ペプチドと該核酸が結合した複合物質を、自己組織化膜に固定化した特定物質に接触させる工程;
(4)前記支持体の表面における近接場光を利用した解析をする工程;
(5)前記支持体に固定化された特定物質に接触した前記複合物質を回収する工程;
(6)近接場光を利用した解析の結果に基づいて、回収した複合物質のうちの一部を選択する工程;及び
(7)工程(6)で選択した複合物質を、生体由来のシステムもしくはPCRを利用して増幅させる工程;
(8)工程(7)の後に(3)から(6)の工程を更に一回以上繰り返すこと
を含むスクリーニング方法が提供される。
好ましくは、特定物質が固定化される支持体表面の面積に対する、前記接触工程と回収工程において複合物質が接触する全表面の面積の比は、1以上10以下であり、また、更に好ましくは1以上8以下である。
好ましくは、近接場光を利用した解析は、SPR解析である。
好ましくは、複合物質はウイルスである。
好ましくは、ペプチドは、抗体又はその一部である。
好ましくは、増幅工程はウイルスを宿主へ感染させる工程を含む。
好ましくは、2種類以上の自己組織化膜形成分子は、夫々独立して、下記一般式(I)で表される分子である。
一般式(I):X−R−Y
(式中、Xは支持体表面に対する結合性を有する基を示し、Rはアルキル鎖を示し、Yは特定物質を結合するための官能基、又は特定物質と相互作用するペプチドを有する複合物質以外の非特異吸着を抑制する官能基を示す。)
好ましくは、2種類以上の自己組織化膜形成分子のうちの少なくとも1種以上の自己組織化膜形成分子は、一般式(I)においてYで示される非特異吸着を抑制する官能基が水酸基又はポリエチレングリコール基である分子である。
好ましくは、2種類以上の自己組織化膜形成分子のうちの少なくとも1種以上の自己組織化膜形成分子は、一般式(I)においてYで示される特定物質を結合するための官能基がカルボキシル基である分子である。
好ましくは、アルキル鎖の鎖長は炭素原子数4以上23以下である。
好ましくは、2種類以上の自己組織化膜形成分子において、最長の分子と最短の分子の主鎖原子数差は2以上である。
従来、複合物質の表面に存在するペプチドと特定物質との相互作用を、近接場光を利用して解析する場合、特定物質を固定化する膜として、デキストラン膜、又は末端にアルキル基を有する自己組織化膜(SAM)が用いられてきた。ところが、デキストラン膜では膜上の特定物質と複合物質が、十分に相互作用することができず、また、末端にアルキル基を有する自己組織化膜(SAM)では非特異的な吸着の抑制が十分ではなかった。
本発明では、特定物質を固定化する膜として2種類以上の自己組織化膜形成分子からなるSAM(混合SAMとも言う)を用いることによって、複合物質の相互作用能(アクセサビリティ)を高め、また非特異的な吸着を抑制することが可能になった。これにより、近接場光を利用した相互作用の詳細な解析を有効に活用して、特定物質と相互作用するペプチドを回収することが可能になり、その結果、効率の良いスクリーニングが回収になった。更に、回収に用いないサンプル接触表面積を減らすことにより、その効率が高まった。
本発明は、特定物質と相互作用するペプチドのスクリーニング方法に関するものである。本発明においては、近接場光を利用した解析が可能な表面を有する支持体の表面の少なくとも一部を、2種類以上の自己組織化膜形成分子で被覆して自己組織化膜を形成し、次いで、この自己組織化膜に、特定物質を固定化し、その後、ペプチドを表面に保有し、かつ該ペプチドをコードした核酸を内部に包含する、もしくは該ペプチドと該核酸が結合した複合物質を、自己組織化膜に固定化した特定物質に接触させる。
本発明で言う自己組織化膜とは、外からの細かい制御を加えていない状態で、膜形成分子そのものがもつ物性によって形成される一定の秩序をもつ組織をもった単分子膜やLB膜などの超薄膜のことを言う。この自己組織化により、非平衡な状況で長距離にわたって秩序がある構造やパターンが形成される。
チオールやジスルフィド類などの含硫黄化合物は金等の貴金属基板上に自発的に吸着し単分子サイズの超薄膜を与える。またその集合体は基板の結晶格子や吸着分子の分子構造に依存した配列を示すことから自己組織化膜と呼ばれている。
例えば、自己組織化膜は、含硫黄化合物により形成することができる。含硫黄化合物によって金表面に自己組織化膜を形成することは、例えば、Journal of American Chemical Society, 105, 4481-4483(1983) Nuzzo RGら(p4482, 右段5行目)、Journal of American Chemical Society, 109, 3559-3568(1987)Porter MDら(p3567, 右段62行目)、Langmuir, 4, 365-385(1988)Troughton EBら(p377 右段18行目)、などに記載されている。また、非特異吸着を抑制可能な自己組織化膜に関しては、Whitesides教授らにより詳細に検討されており、親水性基を有するアルカンチオールから形成された自己組織化膜が非特異吸着抑制に有効であることが報告されている(Langmuir,17,2841-2850(p2847左段27行目), 5605-5620(p5616,右段1行目), 6336-6343 (p6341,右段26行目)(2001))。本発明において、自己組織化膜形成分子は前記論文に記載された化合物を好ましく用いることが可能である。
自己組織化膜を構成する分子としては、X−R−Y、及び/又はY1−R1−Z−R2−Y2で示される化合物を2種類以上混合して使用することができる。以下、X、R(以下、Rという場合には、R1及びR2を包含する)、Y(以下、Yという場合には、Y1及びY2を包含する)、Zについて説明する。
X及びZは支持体表面、例えば金属に対する結合性を有する基である。Xは、具体的には、チオール(−SH)、ニトリル(−CN)、イソニトリル、ニトロ(−NO2)、セレノール(−SeH)、3価リン化合物、イソチオシアネート、キサンテート、チオカルバメート、ホスフィン、チオ酸またはジチオ酸(−COSH、−CSSH)が好ましく用いられ、Zは、具体的には、ジスルフィド(−S−S−)、スルフィド(−S−)、ジセレニド(−Se−Se−)、セレニド(−Se−)が好ましく用いられる。
Yは非特異的な吸着を抑制するための官能基YAと、特定物質を結合するための官能基YBの混合物であることが好ましい。YAは水酸基、ポリエチレングリコール基、ホスホリルコリン基、単糖、オリゴ糖、ポリオールなどを用いることができ、水酸基及び/又はポリエチレングリコール基であることがより好ましい。YBは特定物質に直接又は活性化後結合でき、具体的にはカルボキシル、アミノ、アルデヒド、マレイミド、ヒドラジノ、ヒドラジド、カルボニル、エポキシ、ヒドロキシル、又はビニル基などを用いることができ、カルボキシル基であることがより好ましい。また、Y1、Y2は、同一の官能基であっても、異なる官能基であってもよい。
本発明において非特異吸着抑制の対象となる物質は、特定物質を固定する工程では特定物質以外の物質を指し、複合物質を接触させる工程では、特定物質と相互作用するペプチドを保有した複合物質以外の物質及び、複合体物質自体(保有ペプチド以外の部分)の吸着抑制が求められる。具体的には、薬物(医薬品、抗生物質、麻薬など)、界面活性剤、脂質、タンパク質、抗体、核酸(DNA、RNA)、多糖類などを挙げることができる。
Rはアルキル鎖であることが好ましく、場合によりヘテロ原子により中断されており、好ましくは適当に密な詰め込みのため直鎖(枝分かれしていない)であり、場合により二重及び/又は三重結合を含んでいても良い。また、R1、R2は、同一であっても、異なっていてもよい。
アルキル鎖の長さは4原子以上23原子以下であることが好ましく、好ましくは4原子以上18原子以下であることが好ましく、更に好ましくは6原子以上16原子以下が良い。炭素鎖は場合により過弗素化されることができる。
2種類以上の自己組織化膜形成分子の主鎖原子数はそれぞれ異なることが好ましい。更に好ましくは、最長の主鎖原子数と最短の主鎖原子数の差が2原子以上であることが良い。ここで主鎖とは、自己組織化膜形成分子において、XからY、もしくはZからYまでの距離が最も長い原子鎖を指す。
有機分子X−R−Yの具体例としては、10-カルボキシ-1-デカンチオール、11-ヒドロキシ-1-ウンデカンチオール、11-アミノ-1-ウンデカンチオール、7−カルボキシ−1−へプタンチオール、16-メルカプトヘキサデカン酸などが挙げられる。有機分子Y1−R1−Z−R2−Y2の具体例としては4,4'-ジチオジブチル酸、11,11'-チオジウンデカン酸などが挙げられる。
2種類以上の自己組織化膜形成分子で被覆した自己組織化膜は、特定物質を結合させるための官能基を有する分子のみで自己組織化膜を形成させた後に、該官能基に対して適切な化学的処理を施すことにより、非特異的な吸着を抑制するための官能基を付加することで、混合物を使用した場合と実質的に同じ自己組織化膜を形成しても良い。該化学的処理は非特異的な吸着を抑制する官能基を有する分子を前記自己組織化膜に結合させても良く、またエポキシ基の開環反応によって水酸基を形成させるように結合用官能基自体を非特異的吸着抑制用官能基に変化させても良い。
本発明で用いる特定物質は、ペプチドと相互作用する物質であれば特に限定されず、好ましくはタンパク質、ペプチド、又は低分子化合物などを挙げることができる。具体的にはNature Biotechnology23, 9, 1105-1116(2005)のp1110 Table2に記載されている物質を利用することができる。また、メリチン、マストパランX、マガイニン2などの毒性を示す物質やビスフェノールA、FITC、4-ヒドロキシ-3-ニトロフェンアセチルなどの低分子化合物やGPCRなどの膜タンパク質など、動物の免疫反応によって作製することが困難な物質を利用することができるが、これらに限定されるものではない。
特定物質の固定化方法は、前記接触工程や選別工程において該特定物質が解離すると、複合物質の結合・解離の信号のノイズとなるために、前記接触工程や選別工程において解離しにくい強固な結合が好ましい。更に好ましくは、前記自己組織化膜上の官能基と共有結合することが良い。
本発明では、ペプチドを表面に保有し、かつ該ペプチドをコードした核酸を内部に包含する複合物質を使用する。このような複合物質としては、例えば、ウイルス、酵母を用いることができる。また、複合物質としては該ペプチドと該核酸が結合したものも使用することができる。この場合、該ペプチドと該核酸は直接結合していても良く、リボソームなどを介して間接的に結合していても良い。複合物質の表面に保有するペプチドの種類は特に限定されないが、例えば、抗体又はその一部などを挙げることができる。
本発明において複合物質がウイルスの一種であるファージである場合、ファージディスプレイ法を用いることができる。ファージディスプレイ法については、例えば、 Science 228, 1315-1317 (1985)、Methods in Molecular Biology178, 1-37 (2002)などに詳細に記載されている。また、ファージライブラリーとしては、Phage Display Peptide Library Kit (New EnglandBiolab社製)等の市販品を用いることもできる。また、酵母を利用する方法に関してはNature Biotechnology15, 553-557 (1997)に、リボソームを利用する方法に関してはJournal of Immunological Methods 290, 51-67 (2004)に詳細が記載されている。
ファージディスプレイ法においては、外来核酸をファージのコートタンパク質をコードする遺伝子に挿入し、当該外来核酸によってコードされるペプチドをコートタンパク質との融合タンパク質としてファージの表面に提示させる。外来核酸として、多様な核酸を用いることによって、表面に多様なペプチドが提示されたファージを得ることができる。特定物質を用いて、このファージをスクリーニングすることによって、特定物質と相互作用するペプチドを提示するファージを回収することができる。このファージ中に含まれるベクターなどの核酸を利用してPCRなどの増幅操作とそれに続く形質転換などを行うことでファージを増幅することができる。またより好ましくは、回収されたファージを大腸菌などの微生物に感染させて増殖させることができる。続いて、得られたファージを用いて特定物質に対してスクリーニングを繰り返すことによって、効率の良いスクリーニングを行うことができる。更に、本増殖操作を行う際に故意に核酸の配列に変異を加えても良い。また、このファージクローンを単離することにより、そのファージが提示しているペプチドをコードする遺伝子を取得し、その配列から、特定物質と相互作用するペプチドのアミノ酸配列を決定することができる。
酵母を利用する方法においては回収された多様なペプチドを提示した酵母の混合液をそのまま培養して増殖させ、それを次のスクリーニング操作に用いても良い。また、回収された酵母中に含まれる核酸をPCRなどの手法で増幅させ、その増幅核酸を発現する酵母を作製しても良い。また、リボソームを利用する方法においては、タンパク質に結合しているRNAを逆転写工程を挟んだ後にPCRなどの操作で増幅、それに続く転写、翻訳工程を経てリボソームを含む複合物質を形成させても良い。更には、これらの増幅工程において故意に変異を加えても良いとする。
本発明で用いることができるファージの種類は特に限定されず、例えば、繊維状ファージ(例えば、M13ファージ、fdファージなど)、ラムダファージ、T4ファージ、T7ファージなどが挙げられる。繊維状ファージでは、一本鎖のゲノムDNAが、5種類のコートタンパク質に直接覆われた構造を持ち、一本鎖DNAを大量に調製することができることから、ファージとしては、繊維状ファージを使用することが好ましい。
前記ペプチドは任意の配列の混合物を利用することができる。また該ペプチドは抗体もしくは抗体の一部であることが好ましい。任意の配列のペプチドは完全にアトランダムな配列を利用することもでき、また特定物質に一定の相互作用を示すことが既知な配列のペプチドの部分的に配列が異なるペプチドを利用することもできる。
近接場光を利用した解析としては、例えば、SPR解析、漏洩モード測定、ローカル・プラズモン・共鳴分析、グレーティング・カップルド・レゾナンス分析、二面偏波式干渉分析、近接場蛍光測定、表面増強ラマン散乱測定などを挙げることができる。本発明においては、簡便かつ高感度に経時的な相互作用量を監視することが可能なSPR解析を使用することが好ましい。
SPR解析などの近接場光を利用した解析が可能な表面としては、金属表面を挙げることができる。金属表面を構成する金属としては、例えば、SPRバイオセンサー用を考えた場合、SPRが生じ得るようなものであれば特に限定されない。好ましくは金、銀、銅、アルミニウム、白金等の自由電子金属が挙げられ、特に金が好ましい。それらの金属は単独又は組み合わせて使用することができる。また、上記支持体への付着性を考慮して、基板と金属からなる層との間にクロム等からなる介在層を設けてもよい。
金属を薄膜として利用する場合、膜厚は任意であるが、例えば、SPRバイオセンサー用を考えた場合、0.1nm以上500nm以下であるのが好ましく、特に1nm以上200nm以下であるのが好ましい。500nmを超えると、媒質の表面プラズモン現象を十分検出することができない。また、クロム等からなる介在層を設ける場合、その介在層の厚さは、0.1nm以上10nm以下であるのが好ましい。また、金属の形態は各解析法に適した形態をとることができ、ナノ微粒子やナノホール構造をとっていても良い。
金属の薄膜などの特定構造形成は常法によって行えばよく、例えば、スパッタ法、蒸着法、イオンプレーティング法、電気めっき法、無電解めっき法等によって行うことができる。
金属は好ましくは支持体上に配置されている。ここで、「支持体上に配置される」とは、金属膜が支持体上に直接接触するように配置されている場合のほか、金属膜が支持体に直接接触することなく、他の層を介して配置されている場合をも含む。本発明で使用することができる支持体としては例えば、SPRバイオセンサー用を考えた場合、一般的にはBK7等の光学ガラス、あるいは合成樹脂、具体的にはポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマーなどの光学的に透明な材料からなるものが使用できる。このような基板は、好ましくは、偏光に対して異方性を示さずかつ加工性の優れた材料が望ましい。
SPRの現象は、ガラス等の光学的に透明な物質と金属薄膜層との境界から反射された単色光の強度が、金属の出射側にある試料の屈折率に依存することによるものであり、従って、反射された単色光の強度を測定することにより、試料を分析することができる。上記の系を用いるSPR解析装置は、例えばプリズム状に形成された誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一面に形成されて試料液などの被測定物質に接触させられる金属膜と、光ビームを発生させる光源と、上記光ビームを誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックと金属膜との界面で全反射条件が得られるように種々の角度で入射させる光学系と、上記界面で全反射した光ビームの強度を測定して表面プラズモン共鳴の状態、つまり全反射減衰の状態を検出する光検出手段とを備えてなるものである(例えば特開平6−167443号公報参照)。
この装置を用いることによって、検出された全反射減衰の状態から、支持体上の固定化特定物質と複合物質との相互作用量を表す信号を検出することができる。この検出信号は、固定化特定物質に相互作用する複合物質の量に応じて変化する。即ち、固定化特定物質と複合物質とを接触させると、検出信号は飽和量まで上昇し、それに続く洗浄工程によって非特異的に相互作用する複合物質や弱い結合力で結合する複合物質が支持体から解離することによって、検出信号は低下する。
上述したように、検出信号は比較的弱い結合力で結合する複合物質が固定化特定物質から解離することによって低下するため、複合物質の選別は、検出信号の変化量として容易に評価することができる。
選別工程を終了すべき程度まで選別が行われたか否かの評価は、しきい値となる特定の検出信号値を予め設定して行ってもよく、また接触工程直後の最大検出信号からの変化率を用いた場合のしきい値となる特定の変化率を用いて行ってもよい。また、前回の選別工程で得られた変化率との比較として評価してもよい。更には本操作を自動で行うために、前回の選別工程における信号変化率を参考に各サイクルごとに予め設定しておいても良い。
これらの評価に用いられる値の設定は、選別工程終了時で得られる目的複合物質の所望量に応じて適宜設定することができる。例えば、本スクリーニング方法は、選別工程を繰り返し行うことによって効率よく目的複合物質を選別することができるため、1回の選別工程で相互作用量の少ない複合物質の含有率を極端に下げる必要はない。このため、強い洗浄によって目的複合物質を失ってしまう危険性を低くすることができる。
選別工程において効率よく選別を行うために、バッファー液等を流して、弱く相互作用する複合物質を積極的に解離させてもよい。このようなバッファー液の供給は、所望されるスクリーニングの精度に応じて、選別の時間や流速等を調製することができ、これにより、固定化特定物質と相互作用している複合物質の量を調整することができる。
選別工程によって固定化特定物質と相互作用することによって選別された複合物質は、その後、固定化特定物質から強制的に分離させることによって回収することができる。相互作用している複合物質を分離するには、両者の相互作用を解消するための分離手段を用いることができる。このような分離手段としては、例えば繊維状ファージならpH2のグリシンバッファーを使用することができる。また、酵母のように比較的刺激に弱い複合物質の場合、過剰量の特定物質を加えることや、プロテアーゼに接触させることによって、支持体から分離することができる。
本発明のスクリーニング方法では、回収された複合物質を、生体由来のシステム、もしくはPCRによって増幅する増幅工程を行うことが好ましい。これにより、特定物質に相互作用する複合物質の量を増やすことができる。増幅工程で用いられる生体由来のシステムとは、例えば複合物質がウイルスなら大腸菌などの宿主に対する感染と、それに続く宿主の生命活動を利用したウイルスの増殖を利用することができる。また、酵母のようにそれ自体の生命活動によって増殖が可能である場合、それを利用することができる。PCRによって増幅する場合、複合物質に含まれる核酸をポリメラーゼ、プライマー及びモノヌクレオチドを用いた反応によって核酸を増幅し、その増幅された核酸を基きにして複合物質を構築することができる。また、含まれる核酸がRNAの場合には逆転写酵素を用いたDNAへの逆転写工程を採用することができる。
また本発明のスクリーニング方法では、増幅工程において増幅された複合物質を、再度接触工程、回収工程、及び選別工程(以下、この3工程をまとめて「スクリーニング工程」という)、場合によっては、これら3工程に加えて更に増幅工程を含めた4工程を、少なくとも1回、場合によって複数回、繰り返すことが好ましい。
図1には、増幅工程を含むスクリーニング工程を繰り返し行う場合の概念図が示されている。図1に示されるように、最初の接触工程では、核酸試料液中には多様なペプチドを提示する複合物質が混在しているが、選別工程を経ることにより、特定物質に特異的に相互作用する複合物質が選別される。このとき、最初の選別工程で回収された複合物質混合液に非特異的複合物質が存在していたとしても、2回目のスクリーニング工程で再度選別され、排除される結果、2回目のスクリーニング工程後の混合液中における目的複合物質の比率は、1回目のスクリーニング工程後の混合液中での比率よりも高くなる。従って、これを繰り返すことにより、目的とする複合物質をより一層効率よく且つ大量に得ることができる。
また、スクリーニング工程を繰り返し行うことにより一層効率よく複合物質の選別を行うことができるので、選別工程における非特異的複合物質の除去を長時間かけて行う必要がなく、さらに短時間で効率よく目的の複合物質を得ることができる。
スクリーニング工程の繰り返し回数は、特定物質や複合物質の種類等によって適宜変更することができるが、得られた複合物質の量や、スクリーニング工程後の混合液中に存在する非特異的複合物質の量に基づいて判断することができる。
本発明において特定物質を固定化する表面を2種類以上の分子で自己組織化膜を形成させ前記表面を被覆することによって複合物質の特異的な結合能を向上させ、かつ非特異的に吸着する量を減少させることができる。一方、非特異的な吸着は特定物質を固定化した表面以外の表面においても起こりうるため、そのような表面は少ない方が好ましい。特に、特定物質が固定化される支持体表面の表面積に対する、前記接触工程、選別工程と回収工程において複合物質が接触する全表面の面積の比が、1以上10以下であることが好ましい。
前記特定物質を固定化する表面は、前記近接場光の解析が可能な表面のみである必要はなく、ウェルの壁面や流路表面などに固定化しても良い。また、前記複合物質が接触する表面のうち特定物質が固定化されない表面は、非特異的な吸着を抑制する表面処理を施しても良いとする。
本スクリーニング方法には、市販のSPR装置をそのまま適用することができる。また、適用可能な一例を、以下に図面を参照しながら説明する。
図3には、上述したスクリーニング装置中のSPR部として好適なバイオセンサー10が示されている。
バイオセンサー10は、金属膜の表面に発生する表面プラズモンを利用して、特定物質Pと複合物質との相互作用を測定する、いわゆる表面プラズモンセンサーである。
図3に示すように、バイオセンサー10は、トレイ保持部12、搬送部14、容器載置台16、液体吸排部20、光学測定部54及び制御部60を備えている。
トレイ保持部12は、載置台12A及びベルト12Bを含んで構成されている。載置台12Aは、矢印Y方向に架け渡されたベルト12Bに取り付けられており、ベルト12Bの回転により矢印Y方向に移動可能とされている。載置台12A上には、2枚のトレイTが位置決めして載置される。トレイTには、センサースティック40が8本収納されている。センサースティック40は、特定物質Pが固定されるチップであり、詳細については後述する。載置台12Aの下には、センサースティック40を後述するスティック保持部材14Cの位置まで押し上げるための図示しない押上機構が配置されている。
センサースティック40は、図4及び図5に示すように、誘電体ブロック42、流路部材44、保持部材46、接着部材48及び蒸発防止部材49で構成されている。
誘電体ブロック42は、光ビームに対して透明な透明樹脂等で構成されており、断面が台形の棒状とされたプリズム部42Aと、プリズム部42Aの両端部にプリズム部42Aに対して一体的に形成された被保持部42Bとを備えている。プリズム部42Aの互いに平行な2面の内の広い側の上面には、図6にも示すように金属膜50が形成されている。誘電体ブロック42は、いわゆるプリズムとして機能し、バイオセンサー10での測定の際には、プリズム部42Aの対向する互いに平行でない2つの側面の内の一方から光ビームが入射され、他方から金属膜50との界面で全反射された光ビームが出射される。
金属膜50の表面には、図6に示すように、固定化膜50Aが形成されている。固定化膜50Aは、特定物質Pを金属膜50上に固定化するためのものである。固定化膜50Aは、固定する特定物質Pの種類に応じて選択される。
固定化膜50A上には、特定物質Pが固定された測定領域E1と、特定物質Pが固定されず、測定領域E1の信号測定に際しての参照信号を得るための参照領域E2とが形成される。即ち、参照領域E2は、特定物質Pが固定された測定領域E1から得られるデータを補正するために設けられた領域である。この参照領域E2は、上述した固定化膜50Aを製膜する際に形成される。形成方法としては、例えば、固定化膜50Aに対して表面処理を施して、特定物質Pと結合する結合基を失活させる。これにより、固定化膜50Aの一部が測定領域E1となり、残りの部分が参照領域E2となる。
図7にも示すように、参照領域E2と、参照領域E2よりも上流側に位置する測定領域E1とには、各々光ビームL2、L1が入射される。
プリズム部42Aの両側面には、上側の端辺に沿って保持部材46と係合される係合凸部42Cが、下側の端辺に沿ってプリズム部42Aの上面と垂直な仮想面の延長上に構成される垂直凸部42Dが、各々7箇所に形成されている。また、誘電体ブロック42の下面の長手方向に沿った中央部には、係合溝42Eが形成されている。
流路部材44は、誘電体ブロック42よりもわずかに狭幅の直方体状とされ、図5に示すように、誘電体ブロック42の金属膜50上に6個並べて配置されている。各々の流路部材44の下面には流路溝44Aが形成されており、上面に形成された供給口45A及び排出口45Bと連通されて、金属膜50との間に、液体流路45が構成される。したがって、1本のセンサースティック40には、独立した6個の液体流路45が構成される。流路部材44の側壁には、保持部材46の内側の図示しない凹部に圧入されて保持部材46との密着性を確保するための凸部44Bが形成されている。
保持部材46は、長尺とされ、上面板46A及び2枚の側面板46Bで構成されている。側面板46Bには、誘電体ブロック42の係合凸部42Cと係合される係合孔46Cが形成されている。保持部材46は、6個の流路部材44を間に挟んで係合孔46Cと係合凸部42Cとが係合されて、誘電体ブロック42に取り付けられる。これにより、流路部材44は、誘電体ブロック42に取り付けられる。上面板46Aには、流路部材44の供給口45A及び排出口45Bと対向する位置に、流路部材44に向けて狭くなるテーパー状のピペット挿入孔46Dが形成されている。また、隣り合うピペット挿入孔46Dとピペット挿入孔46Dとの間には、位置決め用のボス46Eが形成されている。
保持部材46の上面には、蒸発防止部材49が接着部材48を介して接着されている。接着部材48のピペット挿入孔46Dと対向する位置にはピペット挿入用の孔48Dが形成され、ボス46Eと対向する位置には位置決め用の孔48Eが形成されている。また、蒸発防止部材49のピペット挿入孔46Dと対向する位置には十字状の切り込みであるスリット49Dが形成され、ボス46Eと対向する位置には位置決め用の孔49Eが形成されている。ボス46Eを孔48E及び49Eに挿通させて、蒸発防止部材49を保持部材52の上面に接着することにより、蒸発防止部材49のスリット49Dと流路部材44の供給口45A及び排出口45Bとが対向するように構成される。ピペットチップCPの非挿入時には、スリット49D部分が供給口45Bを覆い、液体流路45に供給されている液体の蒸発が防止される。
図3に示すように、バイオセンサー10の搬送部14は、上部ガイドレール14A、下部ガイドレール14B及びスティック保持部材14C、を含んで構成されている。上部ガイドレール14A及び下部ガイドレール14Bは、トレイ保持部12及び光学測定部54の上部で、矢印Y方向と直交する矢印X方向に水平に配置されている。上部ガイドレール14Aには、スティック保持部材14Cが取り付けられている。スティック保持部材14Cは、センサースティック40の両端部の被保持部42Bを保持可能とされていると共に、上部ガイドレール14Aに沿って移動可能とされている。スティック保持部材14Cに保持されたセンサースティック40の係合溝42Eと下部ガイドレール14Bとが係合され、スティック保持部材14Cが矢印X方向に移動することにより、センサースティック40が光学測定部54上の測定部56に搬送される。
容器載置台16には、化合物溶液プレート17、バッファー液ストック容器18、廃棄液容器19及び図示しない分離液容器が載置されている。化合物溶液プレート17は、96に区画されており、核酸試料液をストック可能とされている。バッファー液ストック容器18は、容器18A〜18Eで構成されており、容器18A〜18Eには、後述するピペットチップCPを挿入可能な開口Kが形成されている。
廃棄液容器19は、複数の容器19A〜19Eで構成されており、容器18A〜18Eと同様にピペットチップCPを挿入可能な開口Kが形成されている。
液体吸排部20は、上部ガイドレール14Aと、ガイドレール16Bよりも上方で、矢印Y方向に架け渡された横断レール22と、ヘッド24とを含んで構成されている。横断レール22は、図示しない駆動機構により、矢印X方向へ移動可能とされている。また、ヘッド24は、横断レール22に取り付けられ、矢印Y方向に移動可能とされている。また、ヘッド24は、図示しない駆動機構により、鉛直方向(矢印Z方向)にも移動可能とされている。ヘッド24は、図8に示すように、2本のピペット部24A、24Bを備えている。ピペット部24A、24Bには、先端部にピペットチップCPが取り付けられ、個々にZ方向の長さを調整可能とされている(図8(A)〜(B)参照)。ピペットチップCPは、図示しないピペットチップストッカーに多数ストックされており、必要に応じて交換可能とされている。
なお、本バイオセンサー10においてはセンサースティック40への液体供給はピペットチップCPにより行われるが、ピペットチップの代わりに、一端が上記各溶液プレートに接続され、他端がセンサースティック40に接続可能とされたインジェクションチューブを設け、送液ポンプにより液体の供給を行ってもよい。
光学測定部54は、図9に示すように、光源54A、第1光学系54B、第2光学系54C、受光部54D、信号処理部54Eを含んで構成されている。光源54Aからは、発散状態の光ビームLが出射される。光ビームLは、第1光学系54Bを介して、2本の光ビームL1、L2となり、測定部56に配置された誘電体ブロック42の測定領域E1と参照領域E2に入射される。測定領域E1及び参照領域E2において、光ビームL1、L2は、金属膜50と誘電体ブロック42との界面に対して種々の入射角成分を含み、かつ全反射角以上の角度で入射される。光ビームL1、L2は、誘電体ブロック42と金属膜50との界面で全反射される。全反射された光ビームL1、L2も、種々の反射角成分をもって反射される。この全反射された光ビームL1、L2は、第2光学系54Cを経て受光部54Dで受光されて、各々光電変換され、光検出信号が信号処理部54Eへ出力される。信号処理部54Eでは、入力された光検出信号に基づいて所定の処理が行なわれ、測定領域E1の測定データG1と参照領域E2の参照データG2とが求められる。この測定データG1、参照データG2が制御部60へ出力される。
制御部60は、PCR部104と共に、SPR部102であるバイオセンサー10の全体を制御する機能を有し、図9に示すように、光源54A、信号処理部54E及びバイオセンサー10の図示しない駆動系と接続されている。制御部60には、図2に示されるように、各種の情報を表示する表示部62と、各種の指示、情報を入力するための入力部64と接続されている。
制御部60には図示しないメモリが備えられており、バイオセンサー10を制御するための各種プログラムや、各種データ及び、スクリーニングプログラムが記憶されている。
制御部60に記憶される参照データG2は、特定物質Pが固定化されていない固定化膜50A上にランニングバッファーを供給した際に求められる基準点と、核酸分子Aを供給した際に求められる信号との変化量RU(Resonance Unit、およそ1RU=1pg/mm2に相当)で示されている。
このように、本バイオセンサー10では、センサースティック40が測定部56へ搬送され、入力部64から測定開始の指示が入力されると、制御部60では、測定処理が実行される。この相互作用量測定処理では、複合物質含有液を液体流路45へ供給し、光源54A、信号処理部54E及び図示しない駆動系を駆動して、測定領域E1から測定データG1を取得し、参照領域E2から参照データG2を取得する。次いで、測定データG1を参照データG2で補正して、相互作用量データG3を算出する。複合物質含有液の供給が終了するとバッファー液の供給を開始する。その間、相互作用量データG3の算出を継続し、得られた相互作用量データG3が経時的に記憶される。ここでは、バッファー液の供給によって非特異的複合物質の排除が行われて選別が進むため、相互作用量データG3は時間と共に小さい値になる。
制御部60では、得られた相互作用量データG3が、所定の測定終了値になった場合又は外部から停止の信号が入力された場合に測定処理を終了し、バッファー液に代えて分離溶液を液体流路45へ供給すると共に、測定領域E1から分離した核酸分子を回収する。
なお、測定処理の終了を指示するために用いられる所定の測定終了値は、経時的に算出される相互作用量データG3に対するしきい値としてもよく、相互作用量データG3の変化率に対するしきい値としてもよい。
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
比較例1(Biacore3000, CM5)
(1)CM5への抗M13ファージ IgGの固定化
特定物質を固定化する表面としてカルボキシメチルデキストランが被覆されている金チップ、CM5を利用した。金チップをBiacore3000にセットし、Running BufferとしてHBS-P(ビアコア株式会社製)を10μl/min.の流速で流した。活性化液(0.4MのEDCと0.1MのNHSの等量混合溶液:各ビアコア株式会社製)を7分間流して接触させた。続けて、特定物質としてSodium Acetate Buffer, pH5.0で10μg/mlに調製した抗M13 IgG(Abcam Limited製)を7分間流してIgGをCM5表面に固定化した。続いて、活性化されている残りのカルボン酸をマスクするために、エタノールアミン(1M、pH8.5)を7分間流した。続いて、Glycine/HCl バッファー(0.2M pH2.2)を1分間流して洗浄した。本操作をフローセル2〜4において行い3つのフローセルに抗M13ファージIgGを固定化した。フローセル1に対しては同様にEDC、NHSで活性化を行い、IgGの接触を行わずにエタノールアミンのみでマスクした。
(2)ファージ溶液の接触と回収
複合物質として、1013[pfu]に調製したλファージのHBS-P溶液と109[pfu]に調製したM13ファージのHBS-P溶液をそれぞれ100μlずつ混合し、λファージ:M13ファージ=10,000:1の混合溶液を作製した。本溶液を抗M13ファージ IgGを固定化したフローセル、そしてマスク処理のみを行ったフローセルに同時に15分間流した。この時、フローセル2〜4において得られる信号からフローセル1において得られる信号を差し引いた値を結合信号とする。
非特異的に結合したファージを洗浄するために3分間HBS-Pを接触させた。この時、結合信号が低下するのが観察された。また、この時フローセル以外の流路を10mM NaOHで洗浄を行った。HBS-Pによる3分間のフローセルの洗浄が終了したら2μlの溶出バッファー(0.2M Gly-HClバッファー pH2.2)をセンサー表面に1分間接触させ、溶出バッファーを回収した。本回収操作を5回繰り返すことによりセンサー表面に存在するファージを回収した。
(3)回収したファージの増殖
得られたファージ混合液に対して0.2M Tris-HClバッファー pH8.0を90μl加えてpHを調整した。ファージ混合液100μlを指数関数的に増殖している大腸菌XL1-Blue 1mlに混合した。1時間37℃でインキュベーションした。ファージ含有大腸菌液をアガロース培地にまいた。37℃で1昼夜更にインキュベーションした。プラークが形成されたプレートに回収溶液(20mM Tris-HCl pH8.0, 20mM MgCl2)を3ml加え、室温で1〜2時間シェーキングした後、回収液を回収し4,000gで遠心した上清を得た。
ファージ溶液3mlに対して800μlの氷冷させたPEG/NaCl溶液を添加して氷上で1時間インキュベーションした。本溶液を4℃、5,600g、15分間遠心してファージ沈殿物を得た。沈殿物に対して、HBS-Pバッファーを200μl加えて溶解させ、限外ろ過を利用して脱塩を行った。本操作によって得られるファージ溶液を1次スクリーニングファージ溶液と呼ぶ。
(4)スクリーニング工程の繰り返し
1次スクリーニングファージ溶液を用いて(1)〜(3)の工程を繰り返す。ただし、(2)におけるファージの洗浄時間は前回のスクリーニング操作におけるファージの解離速度を参考にして決定する。今回はスクリーニング工程を繰り返しても明確な解離速度の差は検出されなかたので、2、3回目とも3分で行った。
(5)得られたファージの評価
3次スクリーニング溶液の評価を行うために抗M13ファージIgGを固定化したフローセルと抗λファージIgG(Abcam Limited製)を固定化したフローセルに対して、本溶液を10μl/min.で5分間接触させた後でHBS-Pバッファーで3分間洗浄行った後の信号値(マスクのみのフローセルの値をリファレンスとして引いた値)をそのファージの結合量とした。なお、IgGの固定化方法は(1)に従い、センサー表面膜は後で述べる混合SAMを用いた。
比較例2(Biacore3000, 末端アルキルSAM)
(6)末端アルキルSAMの作製
ドデカンチオール2.4μlをエタノール10ml に溶解し、金被覆センサーチップ(ビアコア株式会社製)を浸漬させた。24時間冷蔵庫中で反応させる。センサーチップをエタノールから取り出し、水100μlで10回洗浄した。
(7)末端アルキルSAMへの抗M13ファージ IgGの固定化
ドデカンチオール被覆金チップをBiacore3000の装置にセットした。この時バッファーはHBS-Nを用いた。フローセル2〜4に対して、特定物質として、それぞれHBS-Nで50μg/mlに調製した抗M13ファージを5μl/min.で15分間接触させてIgGを固定化した。続いて、フローセル1〜4全てにHBS-Nで0.5mg/mlに調製したBSA溶液を15分間接触させてIgGが固定化されていない表面にマスクを行った。HBS-Nを3分間流して固定化されていないBSAを洗浄した。続いてランニングバッファーをHBS-NからHBS-Pに切り替えた。
(8)ファージスクリーングとその評価
(1)〜(5)と同じ操作を行い、ファージのスクリーニングを行った。ただし、非特異的なファージの洗浄条件に関して、スクリーング工程を繰り返すにつれて解離速度が遅くなるのが観測されたので、3分、4分、5分と洗浄時間を長くしていった。
実施例1(Biacore3000, 混合SAM)
(9)混合SAMの作製
11-ヒドロキシ-1-ウンデカンチオール(4.5mM)、16-メルカプトヘキサデカン酸(0.5mM)を80%エタノール(20%純水)溶液で調製した。金被覆センサーチップをSAM作製溶液に浸漬した。40℃で1時間静置しておく。SAM作製溶液から取り出し、エタノール、純水の順で洗浄を行った。窒素で洗浄液を吹き飛ばした。
(10) 混合SAMへの抗M13ファージの固定化
混合SAM被覆金チップをBiacore3000にセットし、Running BufferとしてHBS-P(ビアコア株式会社製)を10μl/min.の流速で流した。活性化液(0.4MのEDCと0.1MのSulfo-NHS(PIERCE製)の等量混合溶液)を7分間流して接触させた。続けて、特定物質としてSodium Acetate Buffer, pH5.0で10μg/mlに調製した抗M13 IgG(Abcam Limited製)を7分間流してIgGを混合SAM表面に固定化した。続いて、活性化されている残りのカルボン酸をマスクするために、エタノールアミン(1M、pH8.5)を7分間流した。続いて、Glycine/HCl バッファー(0.2M pH2.2)を1分間流して洗浄した。本操作をフローセル2〜4において行い3つのフローセルに抗M13ファージIgGを固定化した。フローセル1に対しては同様にEDC、Sulfo-NHSで活性化を行い、IgGの接触を行わずにエタノールアミンのみでマスクした。
なお、Biacore3000における、特定物質を固定化する表面積に対する、複合物質が触れる全表面積の比(全表面/固定化表面)は、使用する液量などにもよるが少なくとも30以上である。
(11)ファージスクリーングとその評価
(1)〜(5)と同じ操作を行い、ファージのスクリーニングを行った。ただし、非特異的なファージの洗浄条件に関して、スクリーング工程を繰り返すにつれて解離速度が著しく遅くなったので、他の手法と回収ファージ量を揃えるため、かつ効率的なスクリーニングを行うために洗浄条件を3分、7分、15分と長くしていった。
実施例2(明細中記載のセンサースティック、装置, 混合SAM)
(12)明細中記載のセンサースティックへの混合SAM被覆
本明細書中で例に挙げたセンサースティック40を利用しその金被覆表面に対して、混合SAMを作製した。基本的に(9)で述べた方法と同じ方法で被覆を行った。ただし、スティックの形状に合わせて浸漬するための容器は長さ13cm程度の試験管とした。
(13)センサースティック上混合SAMへの抗M13ファージIgGの固定化
センサースティックに測定領域E1と参照領域E2を空間的に分断するウェルを形成する敷居をセットした。HBS-Pバッファーでウェルを満たした。バッファーを除き、(10)と同じ活性化液100μlをウェルに1秒間で注入し、30分静置した。続けて、活性化液を除き、HBS-Pバッファー100μlをウェルに1秒間で注入し、そのあと速やかにバッファーを除いて測定領域E1には特定物質として抗M13ファージIgG(10μg/ml、AcetateバッファーpH5.0希釈)100μlを、参照領域E2にはHBS-Pをウェルに1秒間で注入し、30分静置した。続けて、IgG溶液を除き、HBS-Pバッファー100μlをウェルに1秒間で注入し、そのあと、バッファーを除き、エタノールアミン(1M、pH8.5)100μlをウェルに1秒間で注入し、30分静置した。続けて、エタノールアミンを除き、HBS-Pバッファー100μlをウェルに1秒間で注入し、続いて、Glycine/HCl バッファー(0.2M pH2.2)とHBS-P各100μlで順に洗浄した。
(14)ファージスクリーング
IgGを固定化したセンサースティックからウェルを形成する敷居を取り外し、バイオセンサー10にセットした。流路をHBS-Pバッファーで満たし、その状態で、複合物質含有液として(2)と同じファージ混合液100μlを流路に1秒間で注入しファージをセンサースティックに接触させ、10分静置した。更に、同じファージ混合液を流路に50μlを1秒間で注入し半分の液を置換させ、更に5分間静置した。
次いで、HBS-Pバッファー100μlを流路に1秒間で注入し、その後、HBS-Pバッファー30μlを3分間かけて注入していった。この時、SPR信号により相互作用の測定を行った。続いて溶出バッファー(0.2M Gly-HClバッファー pH2.2)を100μl供給し、10分間静置した。溶出バッファーを回収しそこに2M Tris-HClバッファー(pH8.0)を100μl添加した。
続いて(3)と同じ方法によって回収されたファージを増幅させ、1次スクリーニングファージ溶液を作製する。
(15)スクリーニング工程の繰り返しとその評価
1次スクリーニングファージ溶液を用いて(13)〜(14)の工程を繰り返した。ただし、(14)におけるファージの洗浄条件は前回のスクリーニング操作におけるファージの解離速度を参考にして決定した。今回はスクリーング工程を繰り返すにつれて解離速度が著しく遅くなったので、他の手法と回収ファージ量を揃えるため、かつ効率的なスクリーニングを行うために洗浄条件を30μlを3分、70μlを7分、150μlを15分と長くしていった。
得られた3次スクリーニングファージ溶液を(5)と同じ手法によって評価した。
なお、本装置とセンサースティックを用いた場合の、特定物質を固定化する表面積に対する、ファージが触れる全表面積の比(全表面/固定化表面)は、8以下である。
次に(1)〜(15)で得られた結果を示す。ただし単位は[RU]であり、およそ1pg/mm2である。
Figure 2008082715
実施例1及び2の結果より、本発明の方法によって効率良くファージの回収が行えたことが分かる。また、実施例2の結果より、特定物質を固定化する表面積に対する、複合物質が触れる全表面積の比が、1以上10以下である場合に、更に効率良く回収が行えたことが分かる。
本発明のスクリーニング方法を説明する概念図である。 本発明に適用可能なスクリーニング装置の概略ブロック図である。 本発明において使用可能なSPR部の全体斜視図である。 本発明において使用可能なセンサースティックの斜視図である。 本発明において使用可能なセンサースティックの分解斜視図である。 本発明において使用可能なセンサースティックの1の液体流路部分の断面図である。 本発明において使用可能なセンサースティックの測定領域、参照領域へ光ビームが入射している状態を示す図である。 (A)〜(C)は本発明において使用可能な液体供給部を構成するピペット部の側面図である。 本発明において使用可能なSPR部の光学測定部付近の概略図である。
符号の説明
10 バイオセンサー
40 センサースティック
50 金属膜
50A 固定化膜
54 光学測定部
60D メモリ
60 制御部
62 表示部
64 入力部
P 断片ペプチド
E1 測定領域
E2 参照領域
100 スクリーニング装置
102 SPR部

Claims (11)

  1. 特定物質と相互作用するペプチドのスクリーニング方法であって、
    (1)近接場光を利用した解析が可能な表面を有する支持体の表面の少なくとも一部を、2種類以上の自己組織化膜形成分子で被覆して自己組織化膜を形成する工程;
    (2)自己組織化膜に、特定物質を固定化する工程;
    (3)ペプチドを表面に保有し、かつ該ペプチドをコードした核酸を内部に包含する、もしくは該ペプチドと該核酸が結合した複合物質を、自己組織化膜に固定化した特定物質に接触させる工程;
    (4)前記支持体の表面における近接場光を利用した解析を行う工程;
    (5)前記支持体に固定化された特定物質に接触した前記複合物質を回収する工程;
    (6)近接場光を利用した解析の結果に基づいて、回収した複合物質のうちの一部を選別する工程;及び
    (7)工程(6)で選択した複合物質を、生体由来のシステム、もしくはPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を利用して増幅させる工程;
    (8)工程(7)の後に(3)から(6)の工程を更に一回以上繰り返すこと、
    を含むスクリーニング方法。
  2. 特定物質が固定化される支持体表面の面積に対する、前記接触工程と回収工程において複合物質が接触する全表面の面積の比が、1以上10以下である、請求項1に記載のスクリーニング方法。
  3. 近接場光を利用した解析が、表面プラズモン共鳴解析である、請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
  4. 複合物質がウイルスである、請求項1から3のいずれかに記載のスクリーニング方法。
  5. ペプチドが、抗体又はその一部である、請求項1から4のいずれかに記載のスクリーニング方法。
  6. 増幅工程がウイルスを宿主へ感染させる工程を含む、請求項4に記載のスクリーニング方法。
  7. 2種類以上の自己組織化膜形成分子が、夫々独立して、下記一般式(I)で表される分子である、請求項1から6のいずれかに記載のスクリーニング方法。
    一般式(I):X−R−Y
    (式中、Xは支持体表面に対する結合性を有する基を示し、Rはアルキル鎖を示し、Yは特定物質を結合するための官能基、又は特定物質と相互作用するペプチドを有する複合物質以外の非特異吸着を抑制する官能基を示す。)
  8. 2種類以上の自己組織化膜形成分子のうちの少なくとも1種以上の自己組織化膜形成分子が、一般式(I)においてYで示される非特異吸着を抑制する官能基が水酸基又はポリエチレングリコール基である分子である、請求項7に記載のスクリーニング方法。
  9. 2種類以上の自己組織化膜形成分子のうちの少なくとも1種以上の自己組織化膜形成分子が、一般式(I)においてYで示される特定物質を結合するための官能基がカルボキシル基である分子である、請求項7又は8に記載のスクリーニング方法。
  10. アルキル鎖の鎖長が炭素原子数4以上23以下である、請求項7から9のいずれかに記載のスクリーニング方法。
  11. 2種類以上の自己組織化膜形成分子において、最長の分子と最短の分子の主鎖原子数差が2以上である、請求項10に記載のスクリーニング方法。
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JP (1) JP2008082715A (ja)

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