JP2008073673A - 赤外多光子分解に基づく炭素及びケイ素の同位体の分離・濃縮に用いられる有効物質 - Google Patents

赤外多光子分解に基づく炭素及びケイ素の同位体の分離・濃縮に用いられる有効物質 Download PDF

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Abstract

【課題】 炭酸ガスレーザーの照射によって誘起される同位体選択的な赤外多光子分解を用いて、2つの元素、すなわち炭素及びケイ素の同位体を高選択性かつ高収量で分離・濃縮することが出来る有効な物質を探索する。
【解決手段】 CFSiF、CFCFSiFなどで代表される分子内にC−FとSi−Fの化学結合を有する物質。
【選択図】図1

Description

適切な物質に赤外領域の強いレーザーパルス光を照射することよって誘起される赤外多光子分解において、同位体間の波長依存性の違いを利用して2つの元素、すなわち炭素及びケイ素の同位体を、分解生成物あるいは未反応物質中に高濃縮する目的に用いられる極めて有効な物質を提示した特許であり、レーザー光化学反応を利用する同位体の分離・濃縮法に関する技術分野に属する。
炭酸ガスレーザーは900〜1100cm−1の波数の領域で多数の強い赤外光を発振する。光は励起した振動及び回転状態にある炭酸ガス分子の量子状態間の光学遷移によるものであり、その波数は炭酸ガスレーザーに固有である。特にTEAと呼ばれる励起方式(transversely excited atmospheric、訳して大気圧横励起型)を採用している炭酸ガスレーザーは、通常、数〜10Jほどのエネルギーの光パルスを、数マイクロ秒の短い時間内に発振する。ここで赤外領域の強いパルス光を発振するレーザーでは、現状ではTEA炭酸ガスレーザーが最も経済的、かつ実用的であることを述べて置く。
炭酸ガスレーザーの発振領域に赤外吸収を持つ物質に、低圧の気体の状態でTEA炭酸ガスレーザーの強いパルス光を照射すると、個々の分子が次々にレーザーの光子を吸収し、非常に高い励起振動状態に上がる。個々の分子に吸収される光子の数は、照射条件さえ選べば容易に10個から50個以上に達する。
赤外のレーザー光の吸収という過程を通じて分子に十分なエネルギーが注入されると、分子は分解する。分子が多数の赤外のレーザー光子を次々に吸収する過程は、赤外多光子吸収と呼ばれている。引続き分解する過程を含めた全体の過程は、赤外多光子分解と呼ばれている。
1970年代の中頃、ロシアのLetokhovらは赤外多光子分解に大きな同位体効果のあることを見出し(非特許文献1参照)、世界の注目を集めた。
元来、赤外吸収は分子の振動運動に関係したエネルギー準位間の光学遷移に対応する。エネルギー準位の値は分子内で振動している原子の質量によって異なり、これが同位体による赤外吸収の波長もしくは波数に関するずれ、すなわち同位体シフトの原因となっている。赤外吸収が多数の回数繰り返される赤外多光子吸収、さらに引続き起こる分解も含め所謂赤外多光子分解にも同位体効果が生ずる。
その後赤外多光子分解に対する同位体効果は、多数の元素の同位体について研究され、同位体の実用的な分離・濃縮に応用される段階にまで発展している(例えば非特許文献2、3を参照)。
特に炭素並びにケイ素の実用的なレーザー同位体分離に関しては優れた研究がある。例えば炭酸ガスレーザーによるCHClFの赤外多光子分解による12C及び13Cの分離・濃縮(特許文献1及び非特許文献4、5を参照)であり、さらに炭酸ガスレーザーによるSiの赤外多光子分解による28Si、29Siおよび30Siなどの分離・濃縮(特許文献2、3及び非特許文献6、7を参照)である。
R.V.Ambartsumyan,V.S.Letokhov,E.A.Ryabov,and N.V.Chekalin,JETP Lett.,20,273(1974) V.S.Letokhov,Appl.Phys.,B46,237(1988) 日本化学会編、荒井重義著、第4版実験化学講座11、反応と速度、光化学、同位体分離、丸善(1992)、p.274 S.Arai,K.Sugita,P.Ma,Y.Ishikawa,H.Kaetsu,and S.Isomura,Chem.Phys.Lett.,151,516(1988) M.M.Ivanenko,H.Handreck,J.Gothel,W.Fuss,K.−L.Kompa,and P.Herring,Appl.Phys.,B65,577(1997) M.Kamioka,Y.Ishikawa,H.Kaetsu,S.Isomura,and S.Arai,J.Phys.Chem.,90,5727(1986) S.Arai,H.Kaetsu,and S.Isomura,Appl.Phys.,B53,199(1991) 特許公報、平5−80246 特許公報、平2−56133 特開2003−53153
発明が解決しようとする課題
同位体選択的な赤外多光子分解を用いて実用的な同位体の分離・濃縮を実現するには、その基礎となる優れた多光子分解過程を見出さなければならない。優れた多光子分解過程とはその過程の同位体選択性が高く、かつ収量が大きいことを意味する。
われわれは炭酸ガスレーザーで誘起される赤外多光子分解を数多く研究し、その結果、2つの元素すなわち炭素とケイ素の同位体分離・濃縮に関して、高い選択性と高い分解収量を与える極めて優れた物質に思い至った。本発明はその物質及び関連物質を提示し、さらにこれらの物質の同位体選択的な赤外多光子分解の過程ついて具体的に説明する。
ここで炭素およびケイ素の同位体について述べて置く。同位体には放射能を持った放射性同位体と放射能を持たない安定同位体との2種類があり、安定同位体は天然の多くの元素に一定の割合で含まれている。本特許で対象としているものは後者の安定同位体である。まず天然の炭素は12Cと13Cの2つの安定同位体からなり、存在度の比は12C:13C=98.9%:1.1%である。また天然のケイ素は28Si、29Si、30Siの3つの安定同位体からなり、存在度の比は28Si:29Si:30Si=92.2%:4.7%:3.1%である。本発明では13C、28Si、29Si、30Siなどの同位体を炭酸ガスレーザーで誘起される赤外多光子分解を用いて、天然存在度から大幅に濃縮し、分離する。
発明を解決するための手段
赤外吸収との関係
物質が炭酸ガスレーザーの照射によって赤外多光子吸収と引続く赤外多光子分解を起こすためには、炭酸ガスレーザーの発振領域である900〜1100cm−1の波数領域あるいはその近傍に赤外吸収を持つ必要がある。
分子内にC−F、Si−Fなどの化学結合を持つ物質は、この波数領域あるいはその近傍に強い吸収を持つことが知られている。例えばCFCl、CFBr、CHClFなどの物質であり、SiF、Siなどの物質である。いずれも上記の波数領域あるいはその近傍に強い赤外吸収を持ち、炭酸ガスレーザーを照射すると赤外多光子吸収および赤外多光子分解を起こすことが知られている。特にCHClF13Cの、またSi28Si、29Siおよび30Siなどの同位体の実用的な分離・濃縮に利用されている。
同位体分子の振動に関する理論的な考察から12Cと13CのC−Fの振動に対する赤外吸収は26cm−1程度の同位体シフトを、また28Siと29Si並びに29Siと30SiのSi−Fの振動に対する赤外吸収は約8cm−1程度の同位体シフトを示すことが予想される。実際の観測においてもこの程度の同位体シフトが見出されている。
さらに1光子吸収と多光子吸収のピークの位置を比較すると、後者が数十cm−1程低エネルギー側にずれることが知られている。ただしこのシフトはレーザーのフルエンス(レーザーパルスの単位面積当りのエネルギー値、一般的な単位はJ/cmである)などによっても変化する。
熱分解との関係
熱分解においては、加熱の結果各振動モードに十分な量のエネルギーを保有する分子が生じ、その分子が分解チャンネルに沿って分解する。そこでは各振動モードに分散しているエネルギーが分解チャンネルに集中する必要がある。熱分解を起こす上で必要なエネルギーの最小値は、分解チャンネルの活性化エネルギーに相当する。
赤外多光子分解においても、多光子吸収の結果、各振動モードに十分な量のエネルギーを保有する分子が生じ、分解を起こす。分解を起こす上で必要かつ十分なエネルギーは、熱分解の活性化エネルギーと一致すると考えられている。
熱分解の活性化エネルギーは、一般に分解速度の温度依存性から求められる。CHClFのCFとHClへの熱分解の活性化エネルギーは約53kcal/mol、またSiのSiFとSiEへの熱分解の活性化エネルギーは約49kcal/molと報告されている。
赤外多光子分解においても、活性化エネルギーの小さい分解チャンネルに沿った分解はそもそも吸収すべきレーザー光子の数が少なくて済み、結果として極めて起こり易いと考えられている。
分子設計
われわれは赤外吸収と活性化エネルギーの関係から考察を進め、理想的な分子としてCFSiFの化学構造の分子に思い至った。この化合物は分子内にC−FとSi−Fの化学結合を持ち、炭酸ガスレーザーの発振領域あるいはその近傍に赤外吸収があると予想される。
この化合物の赤外吸収スペクトルはすでに報告されており、1133cm−1及び1023cm−1の波数の位置にピークを示す強い赤外吸収バンドがある(非特許論文8を参照)。前者はC−Fの化学結合に関係した振動、後者はSi−Fの化学結合に関係した振動に対応すると推定される。
さらにこれらの赤外吸収バンドに対して12Cと13Cの炭素同位体間に約26cm−1程度の同位体シフトが、また28Si、29Si、30Siなどのケイ素同位体間にも約8cm−1程度の同位体シフトがあるものと予想される。
CFSiFは室温では安定であるが、80℃を越える温度から熱分解を起こし始めることが報告されている(非特許文献9を参照)。この開始温度は極めて低く、熱分解を起こし易い分子と見なされる。一般にトリフルオロアルキルシラン(RSiF)の中でケイ素原子に対してα位の炭素がフッ素化されている化合物は容易に熱分解を起こし、SiFとカルベンラジカルを生成する。分解の活性化エネルギーは30kcal/mol内外である。これは前に述べたCHClF及びSiなどの熱分解の活性化エネルギーよりも大幅に小さい。従がって分解に際し、予め吸収すべき赤外レーザー光子の数も少なく、赤外多光子分解も起こし易いと考えられる。
.G.Sharp and T.D.Coyle,J.Fluorine Chem.,1,249(1971/72) K.G.Sharp and T.D.Coyle,Inorganic Chem.,11,1259(1972)
発明を実施するための形態
以上の考察から本発明を実施する形態として、炭酸ガスレーザーによる炭素及びケイ素の各同位体に対する選択的なCFSiFの赤外多光子分解に注目した。この物質の赤外多光子分解は次ぎの化学反応式で表される。
Figure 2008073673
ここでnは分解した分子に多光子吸収されるレーザー光子の数、hはプランク定数、νはレーザー光子の振動数を表す。また会合過程の2個のCFは、2個の原料分子の赤外多光子分解から生成する。
典型的な原料分子CFSiFの赤外多光子分解に基づく炭素及びケイ素の同位体の分離・濃縮を具体的に説明するために模式図(図1)を示す。また装置を引用する場合は、括弧内に図中の装置の番号を示す。
原料CFSiF用ボンベ(2)中のCFSiFを気体の状態で炭酸ガスレーザー照射用の反応容器(10)に採取する。圧力は数十トル以下、さらに励起分子の衝突による脱活性、あるいは励起移動などの効果を避けるために、5トル以下の低圧が良いと思われる。ここで励起分子の衝突による脱活性あるいは励起移動は、赤外多光子分解の収量あるいは同位体選択性の低下を招く要因と考えられる。
最初にC−F結合の振動に関連した1133cm−1の赤外吸収バンドに着目し、炭素同位体の分離・濃縮を試みる。まずTEA炭酸ガスレーザー(9)のパルス光は、多光子吸収と1光子吸収のずれに加え、12Cと13Cの赤外吸収の同位体シフトを考慮し、赤外吸収バンドより低波数側の9Pか9Rの発振線から選ぶ。例えば1080cm−1付近の波数の線に設定する。(これより以後、TEA炭酸ガスレーザーはTEAを省略し、単に炭酸ガスレーザーと記すことにする。)
赤外多光子分解を誘起するためには、通常レーザー光を光学レンズで集光し、フルエンスを高める必要がある。現在、特に大型の炭酸ガスレーザーは10J/pulseのエネルギーで、1J/cm程度のフルエンスのパルス光を発振し得るが、この値に近いフルエンスであればレーザー光を集光せず、平行光のまま照射しても、CFSiFは十分に赤外多光子分解を起こす。
例えば2トルのCFSiFに炭酸ガスレーザーの9R(20)発振線(1078.6cm−1)のレーザーパルス光を1J/cmあるいはこれ以下の適切なフルエンスで照射すると、親分子の赤外多光子分解が起こり、CとSiFが生成する。照射するパルスの数を適切に定め、親分子の分解を0.3%以内に留めると生成物C中に13Cが約40%以上に高濃縮される。しかし同時に生成するSiF中のケイ素には顕著な同位体濃縮は認められない。
次ぎにSi−F結合の振動に関連した1023cm−1の赤外吸収バンドに着目し、ケイ素の同位体の分離・濃縮を試みる。炭酸ガスレーザーのパルス光の波数は1光子吸収からのずれ及び同位体シフトを考慮し、1023cm−1よりはかなり低波数側に設定する。炭酸ガスレーザーにはこの波数領域に10Pあるいは10Rに属する多数の発振線がある。
例えば2トルのCFSiFに炭酸ガスレーザーの10R(20)線(975.9cm−1)のレーザーパルス光を1J/cmあるいはこれ以下の適切なフルエンスで照射すると、親分子の赤外多光子分解が起こり、CとSiFが生成する。照射するパルスの数を適切に定め、親分子の分解を1%以内に止めると生成物SiFにケイ素の同位体が濃縮される。29Siを15%以上に、また30Siを40%以上に濃縮することは容易である。一方、同じ発振線で照射するパルス数を増し、親分子の分解を促進すると、残存するCFSiF中の28Siの濃度は徐々に増し、遂には99%を凌駕する。しかし同時に生成するC中の炭素には顕著な同位体濃縮の結果は認められない。
ここで模式図(図1)を用いて実験操作を簡略に反復する。炭酸ガスレーザーは、13Cの濃縮と28Si、29Si、30Siなどの濃縮とでは、使用する光の波数が異なる。そこで炭酸ガスレーザー(9)の光を、目的とする同位体の濃縮に適した波数に、レーザーに内臓する回折格子を回転して設定する。反応容器(10)を排気システム(7)を作動させて十分に排気した後、これに所定の圧のCFSiFをボンベ(2)から採取する。圧力は反応容器に取りつけた圧力計(8)で測定する。続いて所定の波数に設定したレーザーの光パルスを必要な数だけ照射する。パルスのエネルギーは、反応容器の後に置いたパワーメーター(12)で、試料充填の前後で測定する。その差が気体の原料分子に吸収されたエネルギーに相当する。照射後、容器内の気体を分離システム(13)に移し、生成物C、生成物SiF、残存する原料CFSiFに分離する。
分離する気体の量が少ない場合は分取用ガスクロマトグラフ、多い場合は低温精留装置などの分離装量の利用が考えられる。分離した成分は、分析システム(14)に送り、物質の同定と定量、さらに同位体の純度の定量を行う。分析機器としてはガスクロマトグラフ、赤外分光光度計、質量分析計、ガスクロマトグラフ質量分析計等から適切な器機を選択し、利用する。同定と定量を終えた各分離成分は、13Cが濃縮されているC29Si並びに30Siが濃縮されているSiF28Siが濃縮されているCFSiF等であるが、それぞれを専用のガスボンベ(4〜6)に保存する。分離したCFSiFは、再び反応容器に戻し、レーザー照射を重ねて28Siの純度をさらに高める場合もある。
発明の展開
CFSiFに類似した化合物であるCFCFSiFの赤外吸収スペクトルは、1020cm−1と1105cm−1にピークを示す赤外吸収を持つ。前者はSi−Fの結合の伸縮振動に、また後者はC−F結合の伸縮振動に関係している(非特許文献9を参照)。この物質も熱分解を起こし易く、その活性化エネルギーは比較的小さく、28kcal/molという値が報告されている。この活性化エネルギーの値からみて、赤外多光子分解は起こし易いと推定される。CFCFSiFに適切な波数かつ適切なフルエンスの炭酸ガスレーザーのパルス光を照射すると、同位体選択的な赤外多光子分解を起こし、SiFとCを生成すると思われる。1105cm−1の赤外吸収バンドに対して1040〜1080cm−1の波数領域の炭酸ガスレーザーのパルス光を照射すると、生成物C中に13Cが濃縮され、一方、1020cm−1の赤外吸収バンドに対して980cm−1付近あるいはそれ以下の波数の炭酸ガスレーザーのパルス光を照射すると、SiF中に29Si及び30Siが濃縮される。さらにこの波数領域のパルス光を照射し続けると、原料CFCFSiF中の28Siの濃度は次第に高まって行く。
CFCFSiFの赤外多光子分解は次の反応式で表される。
Figure 2008073673
ただしCFCFSiFは分子内に炭素原子を2個含み、1つの炭素原子はレーザー同位体分離・濃縮の対象となるが、他方の炭素原子は対象とはならず、13Cの同位体の高濃縮を期待することは無理である。
ここで化学式RSiFで表される化合物を考える。ただしRはアルキル基を表す。Si原子に対してαの位置にある炭素原子に1個以上のフッ素原子が結合している分子は、赤外多光子分解を起こしてSiFとオレフィンを生成すると考えられる。またその赤外吸収スペクトルはC−F結合及びSi−F結合の振動に関係した赤外吸収が1100cm−1及び1000cm−1の波数付近に存在すると予想され、それぞれの吸収の低エネルギー側を炭酸ガスレーザーのパルス光で照射すると同位体選択的な赤外多光子分解を起こし、炭素あるいはシリコンの同位体の分離・濃縮が可能である。
ここでSi原子に対してβの位置にある炭素原子にフッ素原子が結合している分子でも、赤外多光子分解においてSiFとオレフィンの生成が考えられるが、本特許はこの様な分子を除外するものではない。
分子内にC−F結合とSi−F結合を持った分子であれば、それぞれの結合の伸縮振動に由来する赤外吸収が1100cm−1及び1000cm−1の波数の近傍に予想され、炭酸ガスレーザーのパルス光で赤外多光子分解を誘起しうる可能性が高い。分解においては炭素及びシリコンの同位体効果が十分に予想される。赤外多光子分解の起こり易さ、あるいは同位体効果の大小には分子によって差を生ずるが、本特許はこれらの化合物を除外するものではない。
発明の効果
CFSiFでは、C−F結合の伸縮に対応する1133cm−1の赤外吸収に着目して炭酸ガスレーザーの9Pあるいは9Rの発振線のレーザーパルスを照射すると、炭素の同位体の分離濃縮が可能であり、次ぎにSi−F結合の伸縮に対応する1023cm−1の赤外吸収に着目して炭酸ガスレーザーの10Pあるいは10Rの発振線のレーザーパルスを照射すると、ケイ素の同位体の分離・濃縮が可能である。いずれの同位体に対しても分離・濃縮の選択性は高く、収量も大きい。レーザー光の波数を変えるだけで一つの物質から二つの元素の同位体が効率良く分離・濃縮される例は外には見られない。本特許は誠に特異な物質を見出した発明であることを強調したい。
ケイ素のレーザー同位体分離ではSiの赤外多光子分解が有名である(非特許文献4を参照)。しかしこの化合物は1分子中に2個のケイ素の原子を含み、一方のケイ素原子に関して同位体選択的に分離・濃縮しても、他の原子は分離・濃縮の対象にはなし得ず、全体としてケイ素の同位体の分離・濃縮の選択性を十分に高くすることが出来ない。これに対しCFSiFは1個のケイ素原子を含むのみで、この原子を対象に分離・濃縮が可能で、その結果高い選択性が得られるものと推察される。現在まで分子中に1個のみのケイ素原子を含む物質の赤外多光子分解による同位体の分離・濃縮は数多く試みられているが、いずれの場合も選択性が低く、収量も小さく、本発明と較べて問題にならない。まして実用的な分離・濃縮法として取り上げる余地は無いと思う。
Siの赤外多光子分解に基づくケイ素の同位体分離では、分解生成物SiFから生成したと思われる白色の微粒子が大量に生成し、これが反応容器の窓、流通系の隘路等に付着し、分離・濃縮の操作の妨げとなる。しかしCFSiFの赤外多光子分解に基づく分離・濃縮では白色の微粒子は生成せず、操作の妨げとなることはない。これは大規模な分離・濃縮を行う際に非常に好都合である。
特に同一の原料であるCFSiFから、天然存在度が小さい13C、29Si、30Siなどの同位体が赤外多光子分解の生成物中に分離・濃縮され、また天然存在度が大きい28Siが残存する原料CFSiF中に分離・濃縮される。このことは同位体分離において原料が無駄なく利用され、コストの低廉化に好都合である。通常、特定の同位体の分離・濃縮後、大量の劣化した原料が残り、分離・濃縮のコストを押し上げているが、本同位体分離・濃縮では劣化した原料から高純度28Siが分離・濃縮される。高純度28Siの結晶は熱伝導度が著しく高くなることから注目を集めている電子材料で、今後需要が確実に拡大するものと期待されている。
CFSiFの赤外多光子分解ではケイ素の同位体と共に炭素の同位体までも濃縮できる。将に一石二鳥である。ケイ素の同位体分離の部分に関しては、従来法であるSiの赤外多光子分解と較べ、同位体の選択性ならびに収量も十分に高く、また操作の過程で光化学実験の遂行に不都合な白色の微粒子の生成も認められない。さらに29Si及び30Siに関して劣化している原料から28Siを分離・濃縮すると、原料にあまり無駄が起こらない。これらの点は実用化に際しては大きな利点となることは明らかである。
本発明において提示した物質、特にCFSiFは優秀な原料物質と目され、上記の様に炭素及びケイ素の同位体のレーザー濃縮法において、従来法に較べて様々な利点がある。われわれは本発明がレーザー同位体分離・濃縮の実用化に大きな貢献を果たすものと固く信じている。
最後に分離・濃縮された同位体の具体的な利用に関して説明を付け加えるが、例えばCFSiFを用いた分離・濃縮では13Cは生成物C中に、また29Si並びに30Siは生成物SiF中に濃縮され、一方28Siは残存する原料CFSiF中に濃縮される。続いてこれら濃縮された同位体をそれぞれの多様な用途に利用することになるが、その際、各同位体を含む化合物を用途に応じて都合の良い化合物に化学変換する必要が生ずる。その化学変換は、本発明で扱われた同位体の分離・濃縮の次ぎの段階として別途考えることになる。
炭酸ガスレーザーによるCFSiFの赤外多光子分解に基づく炭素及びケイ素の同位体の分離・濃縮に関する模式図。
符号の説明
1 開閉コック
2 原料CFSiF用ボンベ
3 予備ボンベ
13C濃縮済みC用ボンベ
29Si及び30Si濃縮済みSiF用ボンベ
28Si濃縮済みCFSiF用ボンベ
7 排気システム
8 圧力計
9 TEA炭酸ガスレーザー
10 反応容器
11 ガス凝縮用低温トラップ
12 パワーメーター
13 分離システム(例えば分取用ガスクロマトグラフ、低温精留装置等)
14 分析システム(例えばガスクロマトグラフ、赤外分光光度計、質量分析計、ガスクロマトグラフ質量分析計等)

Claims (2)

  1. 炭酸ガスレーザーで誘起される赤外多光子分解を利用して、2つ以上の元素の同位体、すなわち炭素及びケイ素などの同位体を、照射波数を変えて分離・濃縮する方法に用いられる有効な物質であり、分子内にC−F及びSi−Fの化学結合を有する物質。
  2. 上記の同位体の分離・濃縮に用いられるCFSiFおよびCFCFSiFなどで代表される物質。
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