JP2008067717A - 核酸導入を促進させる方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】コラーゲンまたはコラーゲン誘導体と所望の核酸とを含む複合体粒子及びその使用。
【選択図】なし
Description
このように、本発明はコラーゲンまたはコラーゲン誘導体の新規な用途を基礎とするものである。
(1)コラーゲンまたはコラーゲン誘導体を含有する、標的細胞への核酸導入促進剤;
(2)コラーゲンまたはコラーゲン誘導体が所望の核酸と複合体を形成して含有されている核酸導入促進剤、好ましくは該複合体が粒子である核酸導入促進剤、より好ましくは該複合体粒子の長径が300nm〜300μm、より好ましくは300nm〜100μm、さらに好ましくは300nm〜50μm、さらに好ましく300nm〜30μmの複合体を含有する核酸導入促進剤;具体的には核酸がプラスミドDNAである場合、該複合体におけるコラーゲンまたはコラーゲン誘導体分子数とプラスミドDNAのヌクレオチドモノマー数の比が1:20〜1:プラスミドDNAのヌクレオチドモノマー数、好ましくは1:50〜1:プラスミドDNAのヌクレオチドモノマー数、より好ましくは1:50〜1:4000、さらに好ましくは1:50〜1:2000、より好ましくは1:50〜1:1000である、または核酸がオリゴヌクレオチドである場合、該複合体におけるコラーゲンまたはコラーゲン誘導体分子数とオリゴヌクレオチドのヌクレオチドモノマー数の比が1:1〜1:200、好ましくは1:3〜1:150、より好ましくは1:20〜1:120、さらに好ましくは1:50〜1:120である、核酸導入促進剤;
(3)コラーゲンまたはコラーゲン誘導体と所望の核酸とを含む複合体粒子;
(4)コラーゲンの会合体形成を抑制する物質を含有する溶液中にて、コラーゲンまたはコラーゲン誘導体と所望の核酸とを混合することを特徴とする、本発明の複合体粒子を調製する方法;
(5)上記(3)の複合体粒子が表面に塗布されている医療用具、または該複合体粒子が細胞培養面に塗布されている細胞培養器具;
(6)上記(3)の複合体粒子を使用することを特徴とする、所望の核酸を標的細胞に導入するための、または所望の核酸の標的細胞における発現効率を向上させるための方法;
(7)標的細胞における遺伝子またはタンパク質の機能を調べる方法であって、該遺伝子もしくは該タンパク質をコードする核酸または該遺伝子もしくは該タンパク質の発現を細胞内で阻害する核酸を含む上記(3)の複合体粒子を固相表面に塗布し、その固相表面上で該標的細胞を培養し、該標的細胞における該核酸の発現レベルまたは該遺伝子もしくは該タンパク質の発現レベル、または細胞の増殖率もしくは表現型を調べることを特徴とする方法;
(8)ある疾患に関与する遺伝子の発現を細胞内で阻害する核酸の候補核酸を含む上記(3)の複合体粒子を固相表面に塗布し、その固相表面上にて該疾患状態にある細胞を培養し、各候補核酸によって阻害される該遺伝子の発現レベル、または細胞の増殖率もしくは表現型を調べることを特徴とする、該疾患を処置できる核酸をスクリーニングする方法;に関する。
第1の態様における本発明は、コラーゲンまたはコラーゲン誘導体を含有する標的細胞への核酸導入促進剤である。本態様は、標的細胞への核酸導入を促進させるというコラーゲンまたはコラーゲン誘導体における、今回初めて見出された作用を利用するものである。即ち、本態様では、標的細胞への核酸導入を促進するための、コラーゲンまたはコラーゲン誘導体の新規な用途を提供する。
第2の態様における本発明は、所望の核酸とコラーゲンまたはコラーゲン誘導体を含む複合体、好ましくは複合体粒子を必須成分として含有する、標的細胞への核酸導入促進剤である。
核酸は単独ではインビトロの細胞に血清存在下に投与してもほとんど細胞に導入できない。コラーゲンまたはコラーゲン誘導体と複合体を形成することにより、初めて効率的に核酸を細胞に導入することができる。
本発明の核酸導入促進剤中には、別個の所望の核酸を組み込んだ数種類のベクターが同時に存在してもよい。また、一つのベクターには複数の遺伝情報がコードされていてもよい。導入促進剤中に含有されるベクターの量に特に制限はない。
本発明の核酸導入促進剤の性状は固体状であっても溶液状であってもよい。本発明の促進剤が固体状である場合、核酸導入を促進させる際には、そのままの状態あるいは精製水、生理的食塩水、生体と等張な緩衝液等を用いて溶液状とし、所望の細胞に負荷する。このような溶液状の核酸導入促進剤も本発明の一部を構成する。
(1)所望の核酸とコラーゲンまたはコラーゲン誘導体を含む複合体、好ましくは複合体粒子を必須成分として含有する、標的細胞への核酸導入促進剤(ここに、該複合体粒子の長径は好ましくはが300nm〜300μm、より好ましくは300nm〜100μm、さらに好ましくは300nm〜50μm、さらに好ましくは300nm〜30μmである)、
(2)標的細胞が動物細胞である前記(1)記載の核酸導入促進剤、
(3)標的細胞が治療を必要とする臓器あるいは組織またはその付近の細胞である前記(2)記載の核酸導入促進剤、
(4)コラーゲンがアテロコラーゲンである前記(1)〜(3)のいずれかに記載の核酸導入促進剤、
(5)コラーゲンの分子量が約30万〜約90万である前記(1)〜(4)のいずれかに記載の核酸導入促進剤、
(6)コラーゲン誘導体がゼラチンまたはゼラチンの架橋体である前記(1)〜(5)いずれかに記載の核酸導入促進剤、
(7)コラーゲン誘導体がコラーゲンの架橋体である前記(1)〜(5)記載の核酸導入促進剤、
(8)核酸がオリゴヌクレオチドである前記(1)〜(7)いずれかに記載の核酸導入促進剤、
(9)オリゴヌクレオチドが5量体以上30量体以下の前記(8)記載の核酸導入促進製剤、
(10)オリゴヌクレオチドがDNAあるいはDNA誘導体である前記(8)または(9)記載の核酸導入促進剤、
(11)オリゴヌクレオチドがRNAあるいはRNA誘導体である前記(8)または(9)記載の核酸導入促進剤、
(12)DNA誘導体あるいはRNA誘導体が分子内に少なくとも1つ以上のホスホロチオエート結合を有する前記(10)または(11)記載の核酸導入促進剤、
(13)核酸がリボザイムまたはオリゴヌクレオチドである前記(1)〜(7)いずれかに記載の核酸導入促進剤、
(14)核酸がプラスミドDNAである前記(1)〜(7)いずれかに記載の核酸導入促進剤、
(15)プラスミドDNAが疾患症状の治療あるいは改善効果のある生理活性を有するタンパク質をコードしている前記(13)記載の核酸導入促進剤、および
(16)プラスミドDNAが疾患症状の予防、治療あるいは改善効果のある免疫反応を誘導するタンパク質をコードしている前記(13)記載の核酸導入促進剤。
(17)核酸導入促進剤が溶液であり、複合体成分として核酸を10mg/ml以下含有する前記(1)〜(16)記載の核酸導入促進剤、
(18)複合体成分として核酸を1mg/ml以下含有する前記(17)記載の核酸導入促進剤、
(19)複合体成分として核酸を500μg/ml以下含有する前記(18)記載の核酸導入促進剤、
(20)pH5〜pH9、好ましくはpH6〜pH8である前記(1)〜(19)記載の核酸導入促進剤、
(21)リン酸を0.001M以上0.1M以下含有する前記(1)〜(20)記載の核酸導入促進剤、
(22)リン酸を0.01M以上0.1M以下含有する前記(21)記載の核酸導入促進剤、
(23)コラーゲンの会合体形成を抑制する物質、例えばシュクロースまたはアルギニンを含有する前記(1)〜(22)記載の核酸導入促進剤、
(24)医薬上許容される添加剤を適量含有する前記(1)〜(23)記載の核酸導入促進剤。
本発明の第3の態様は、コラーゲンまたはコラーゲン誘導体と所望の核酸とを含む複合体である。この複合体には、静電的な力により結合して複合体を形成する静電的複合体と疎水結合等の物理的な力により複合体を形成する物理的複合体が含まれる。場合によっては、両方の結合様式が混在する場合があるが、そのような複合体も本発明における複合体に含まれる。
本発明において「静電的複合体」とは、分子中に多数の荷電を有するコラーゲンまたはコラーゲン誘導体と核酸のポリイオン複合体、詳細には正電荷を帯びたコラーゲンまたはコラーゲン誘導体が負電荷を帯びた核酸と電気的に引き合った結合体を意味する。ポリイオン複合体は複合体形成時に分子内の荷電のカウンターイオンを多数フリーにすることから、非常に大きなエントロピーの増大が生じる。このような静電的複合体の形態から考えると、実施例にて認められた核酸発現の持続は複合体形成による細胞内での核酸の安定化によってもたらされると考えられる。
本発明の複合体は粒子であることが好ましい。本発明において、「粒子」とはコラーゲンまたはコラーゲン誘導体がとり得る形状であり、必ずしも球状を意味するものでない。本発明の複合体粒子のサイズは、一分子のコラーゲンが形成する複合体の長径300nmが最少であり、核酸導入効率を考慮し、その長径が300nm〜1mmであり、長径300nm〜300μmである粒子が好ましく、より好ましくは長径300nm〜100μmであり、さらに好ましくは長径300nm〜50μm、さらに好ましくは長径300nm〜30μmである。
(1)所望の核酸とコラーゲンまたはコラーゲン誘導体を含む複合体粒子、
(2)長径が300nm〜300μmである、前記(1)記載の複合体粒子、
(3)長径が300nm〜100μmである、前記(2)記載の複合体粒子、
(4)長径が300nm〜50μm、好ましくは300nm〜30μmである、前記(3)記載の複合体粒子、
(5)核酸がプラスミドDNAである前記(1)〜(4)記載の複合体粒子、
(6)コラーゲンまたはコラーゲン誘導体分子数とプラスミドDNAのヌクレオチドモノマー数の比が1:20〜1:プラスミドDNAのヌクレオチドモノマー数、好ましくは1:50〜1:プラスミドDNAのヌクレオチドモノマー数、より好ましくは1:50〜1:4000、さらに好ましくは1:50〜1:2000、より好ましくは1:50〜1:1000である、前記(5)記載の複合体粒子、
(7)1:96〜1:プラスミドDNAのヌクレオチドモノマー数である前記(6)記載の複合体粒子、
(8)1:96〜1:1122である前記(7)記載の複合体粒子、
(9)1:96〜1:701である前記(8)記載の複合体粒子、
(10)核酸がオリゴヌクレオチドである前記(1)〜(4)記載の複合体粒子、
(11)該複合体におけるコラーゲンまたはコラーゲン誘導体分子数とオリゴヌクレオチドのヌクレオチドモノマー数の比が1:1〜1:200、好ましくは1:3〜1:150、より好ましくは1:3〜1:120である前記(10)記載の複合体粒子、
(12)1:20〜1:120である前記(11)記載の複合体粒子、
(13)1:50〜1:120である前記(12)記載の複合体粒子、
(14)pH5〜pH9、好ましくはpH6〜pH8である溶液中に存在する、前記(1)〜(13)記載の複合体粒子、
(15)10℃以下に冷却した溶液中でコラーゲンまたはコラーゲン誘導体と核酸を混合することで前記(1)〜(13)記載の複合体粒子を調製する方法、
(16)リン酸を0.001M以上0.1M以下含有する溶液中でコラーゲンまたはコラーゲン誘導体と核酸を混合することで前記(1)〜(13)記載の複合体粒子を調製する方法、
(17)リン酸を0.01M以上0.1M以下含有する溶液中でコラーゲンまたはコラーゲン誘導体と核酸を混合することで前記(1)〜(13)記載の複合体粒子を調製する方法、
(18)コラーゲンの会合体形成を抑制する物質、例えばシュクロースあるいはアルギニンを含有する溶液中でコラーゲンまたはコラーゲン誘導体と核酸を混合することで前記(1)〜(13)記載の複合体粒子を調製する方法、
(19)医薬上許容される添加剤を適量含有する溶液中でコラーゲンまたはコラーゲン誘導体と核酸を混合することで前記(1)〜(13)記載の複合体粒子を調製する方法(ここに、医薬上許容される添加剤とは上記記載のもの)、
(20)前記(14)〜(19)記載の方法を2以上組み合わせて前記(1)〜(13)記載の複合体粒子を調製する方法、
(21)100μm以下の孔径のフィルターを通過させて整粒する工程をさらに含む、前記(1)〜(13)記載の複合体粒子を調製する方法、
(22)10μm以下の孔径のフィルターを通過させて整粒する前記(21)記載の方法、
(23)10,000回転以上の速さで遠心することで複合体を濃縮、単離する工程をさらに含む、前記(1)〜(13)記載の複合体を調製する方法、
(24)50,000回転以上の速さで遠心する前記(23)記載の方法。
本発明の複合体粒子は、本発明の核酸導入促進剤に含有させることができる。
本発明の第4の態様は、本発明の複合体粒子が表面に塗布されている医療用具または細胞培養器具である。
本発明の複合体粒子を固相表面に塗布し、そこへ標的細胞を接触させると、標的細胞の上から本発明複合体粒子を滴加するよりも、核酸の導入効率が向上する、即ち複合体粒子の固相塗布法が滴加法よりも導入効率の点で優れていることが見出された(以下の実施例6参照)。
所望の核酸とコラーゲンまたはコラーゲン誘導体を含む複合体粒子が細胞培養面に塗布されている細胞培養器具としては、細胞培養実験に通常用いられているシャーレ、フラスコ、96穴マイクロプレート等が挙げられる。本発明の複合体粒子を固相表面に塗布する場合、単位面積あたりに塗布する複合体粒子の量は細胞への核酸の導入量に大きく影響することが以下の実施例6にて示されている。従って単位面積あたりに塗布する複合体粒子の量も本発明の重要な要件である。
(1)所望の核酸とコラーゲンまたはコラーゲン誘導体を含む複合体粒子が塗布された医療用具または細胞培養器具、
(2)1平方センチメートルあたり0.1μg以上50μg以下の核酸を含有する複合体粒子が塗布された前記(1)記載の医療用具または細胞培養器具、
(3)1平方センチメートルあたり0.5μg以上50μg以下の核酸を含有する複合体粒子が塗布された前記(2)記載の医療用具または細胞培養器具、
(4)1平方センチメートルあたり1μg以上10μg以下の核酸を含有する複合体粒子が塗布された前記(3)記載の医療用具または細胞培養器具、
(5)生体と等張の溶液に暴露した場合、長径が300nm〜300μmである複合体粒子が固相表面より遊離する前記(1)記載の医療用具または細胞培養器具、および
(6)生体と等張の溶液が塩化ナトリウムを含むリン酸緩衝液である前記(5)記載の医療用具または細胞培養器具。
上記のように、本発明の複合体粒子を使用すれば、所望の核酸の標的細胞への導入を促進させることができる。よって、本発明は第5の態様として、本発明の複合体粒子を使用することを特徴とする、所望の核酸を標的細胞に導入するための、または所望の核酸の標的細胞における発現効率を向上させるための方法を提供する。本発明において、「発現効率を向上させる」とは、所望の核酸の発現量を増大させ、または発現期間を延長させることを意味する。
(1)所望の核酸とコラーゲンまたはコラーゲン誘導体を含む上記の複合体粒子を使用することを特徴とする、所望の核酸を標的細胞に導入するための方法、
(2)所望の核酸とコラーゲンまたはコラーゲン誘導体を含む上記の複合体粒子を使用することを特徴とする、所望の核酸の標的細胞における発現効率を向上させるための方法、
(3)発現量を増大させる、または発現期間を延長させるための、前記(2)記載の方法、および
(4)前記複合体粒子を固相表面に塗布し、その固相表面上にて標的細胞を培養することを特徴とする、前記(1)〜(3)までのいずれかに記載の方法。
核酸の細胞への導入が促進される本発明に従えば、遺伝子またはタンパク質の標的細胞内での機能を容易に調べることができる。例えば、ヒトゲノムプロジェクトによって非常に多くの遺伝子が同定され、その塩基配列が明らかになった。しかしこれらの情報を実際に医療あるいは食品産業で生かすには、同定された遺伝子の機能を解明する必要がある。しかしながら同定された遺伝子の数は膨大であり、従来のように一つ一つの遺伝子からタンパク質を産生かつ精製して機能を調べる方法では、時間がかかりすぎて現実的でないことが明らかになってきている。従って、細胞内に機能を調べたい遺伝子を組み込んだプラスミドDNAを導入して発現させることによってその遺伝子の機能を調べる方法、あるいは機能を調べたい遺伝子の発現を抑制するアンチセンスオリゴヌクレオチドを細胞内に導入して遺伝子の発現を抑制することによってその遺伝子の機能を調べる方法が有用である。また、このように細胞の表現型によって遺伝子の機能を調べる場合、プラスミドDNAおよびアンチセンスDNAを細胞に導入する方法は、細胞に影響を極力与えない方法で行うことは必須である。従って細胞障害性の高いリポソームを用いることは、得られる情報にリポソームによる細胞障害の影響が加わることとなる。一方、本発明のコラーゲンは元来生体内に存在し、細胞と接触している物質であることから細胞への影響は極めて低く、遺伝子の機能をノイズなく測定することが可能である。具体的な測定方法としては、機能を解明したい遺伝子を発現するプラスミドDNA、アデノウイルスベクターあるいは機能を解明したい遺伝子の発現を抑制するアンチセンスオリゴヌクレオチドとコラーゲンを混合し、複合体粒子を形成した後、培養プレート固相上に塗布、整列配置する。ここで使用する固相プレートは96穴のマルチウエルプレートや、さらにミクロなプレートなどである。塗布した複合体粒子を乾燥して固相上に固定した後、細胞を播種し、数日間プレート上で培養する。塗布された複合体粒子は塗布された部分に接着した細胞に効率的に導入され、機能を調べたい遺伝子を発現あるいはその発現を長期間抑制する。数日後、細胞の形態や細胞内での遺伝子発現の状態、あるいは細胞から産生されたタンパク質の種類や量を調べることによって標的とした遺伝子の機能を明らかにすることができる。本方法の特徴は固相上に塗布された複合体粒子が、塗布された部分に接着した細胞に選択的かつ効率的に取り込まれることも挙げられる。すなわち細胞をウェルで区切って培養する必要がなく、ミクロプレート上で多数の遺伝子の機能を一度に解析することが可能となる。
(1)標的細胞における遺伝子またはタンパク質の機能を調べる方法であって、該遺伝子もしくは該タンパク質をコードする核酸または該遺伝子もしくは該タンパク質の発現を細胞内で阻害する核酸を含む本発明の複合体粒子を固相表面に塗布し、その固相表面上で該標的細胞を培養し、該標的細胞における該核酸の発現レベルまたは該遺伝子もしくは該タンパク質の発現レベル、または細胞の増殖率もしくは表現型を調べることを特徴とする方法、
(2)該遺伝子または該タンパク質をコードする核酸がプラスミドDNAであり、該核酸の発現レベルを調べる、前記(1)記載の方法、および
(3)該遺伝子または該タンパク質の発現を細胞内で阻害する核酸がアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはリボザイムであり、該遺伝子または該タンパク質の発現レベルを調べる、前記(1)記載の方法。
核酸の細胞への導入が促進される本発明に従えば、遺伝子疾患、癌、AIDS、慢性関節リウマチ、生活習慣病など、正常な遺伝子を補ったり、遺伝子の欠陥を修復、修正すること処置できる様々な疾患を処置し得る核酸をスクリーニングすることができる。例えば、6)で記述したのと同じ方法で固相上に疾患の治療効果を調べたい核酸をコラーゲンと複合体粒子を形成させて塗布、乾燥して固定化し、この上で病態を呈した細胞を培養することにより、核酸が病態を呈した細胞に効率的に導入される。核酸の効果は、細胞の表現型の変化、細胞死、細胞の増殖、細胞内での遺伝子発現のパターン、産生されるタンパク質の種類や量により解析することができる。また、この核酸導入においても、導入ベクターによる影響を最小限に抑制すべきことは自明であり、コラーゲンを用いる本発明はノイズなく病態に対する核酸の効果を調べることができる。機能を調べたい核酸は微小な面積の細胞培養固相担体上に多数整列固定化することができることから、一度に多数の核酸を評価できることも本発明の特徴である。
(1)ある疾患に関与する遺伝子の発現を細胞内で阻害する核酸の候補核酸を含む本発明の複合体粒子を固相表面に塗布し、その固相表面上にて該疾患状態にある細胞を培養し、各候補核酸によって阻害される該遺伝子の発現レベル、または細胞の増殖率もしくは表現型を調べることを特徴とする、該疾患を処置できる核酸をスクリーニングする方法、
(2)ある疾患に関与する遺伝子の発現を細胞内で阻害すると期待される核酸を含む本発明の複合体粒子を固相表面に塗布し、その固相表面上にて該疾患状態にある細胞を培養し、該遺伝子の発現レベル、または細胞の増殖率もしくは表現型を調べることを特徴とする、該核酸の該疾患に対する治療効果を調べる方法、
(3)該核酸が疾患に関与する遺伝子の発現を細胞内で阻害する核酸、または疾患に関与する遺伝子の発現を細胞内で阻害する機能を有する核酸である前記(1)または(2)記載の方法、および
(4)疾患に関与する遺伝子の発現を細胞内で阻害する核酸が該遺伝子をコードするプラスミドDNA、あるいは疾患に関与する遺伝子の発現を細胞内で阻害する機能を有する核酸がオリゴヌクレオチドまたはリボザイムである前記(3)記載の方法。
この態様では、以下の発明が提供できる。
(1)所望の核酸をコラーゲンまたはコラーゲン誘導体と共に細胞培養面に固定化した細胞培養器具;好ましくは核酸がコラーゲンまたはコラーゲン誘導体と複合体粒子を形成している該細胞培養器具;
(2)所望の核酸を含有するコラーゲンまたはコラーゲン誘導体を含むフィルムを細胞培養面に敷いた細胞培養器具;好ましくは所望の核酸がコラーゲンまたはコラーゲン誘導体と複合体粒子を形成している該細胞培養器具;
(3)コラーゲンまたはコラーゲン誘導体と所望の核酸とを含む複合体粒子を含有するフィルムを細胞培養面に敷いた細胞培養器具;
(4)核酸がライブラリ化されている前記(1)〜(3)記載の細胞培養器具;
(5)核酸がライブラリ化されているcDNAまたはオリゴヌクレオチドである前記4記載の細胞培養器具;
(6)ライブラリ化された核酸がそれぞれ隔てられた位置毎に分画されている前記(4)または(5)記載の細胞培養器具;
(7)コラーゲンまたはコラーゲン誘導体と所望の核酸とを含有するフィルムであって、ライブラリ化された核酸がそれぞれ隔てられた位置毎に分画されているフィルム;好ましくは核酸がコラーゲンまたはコラーゲン誘導体と複合体粒子を形成している該フィルム;
(8)核酸がcDNAまたはオリゴヌクレオチドである前記(7)記載のフィルム;
(9)前記(7)または(8)記載のフィルムを細胞培養表面に敷いた前記(2)または(3)に記載の細胞培養器具;
(10)タンパク質発現用の前記(9)記載の細胞培養器具;
(11)遺伝子発現抑制用の前記(9)記載の細胞培養器具;
(12)細胞における任意の遺伝子の機能を調べる方法であって、該遺伝子のcDNAを含有した核酸を固定化した前記(1)〜(6)記載の細胞培養器具上で細胞を培養し、細胞の増殖率、表現型、特定のタンパク質の産生量を調べることを特徴とする方法;
(13)細胞における任意の遺伝子の機能を調べる方法であって、該遺伝子の伝令RNAと相補な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを固定化した前記(1)〜(6)記載の細胞培養器具上で細胞を培養し、細胞の増殖率、表現型、特定のタンパク質の産生量を調べることを特徴とする方法;および
(14)核酸を固定化した部分以外の細胞培養表面が、細胞が接着できない高い親水性あるいは疎水性表面である前記(1)〜(6)記載の細胞培養器具。
プラスミドDNAとコラーゲンとの複合体の形成
繊維芽細胞増殖因子HST-1(FGF4)の遺伝子(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 2980-2984 (1987))を組み込んだプラスミドDNA(pCAHST-1: 7.9Kbp)を10μg/ml含む水溶液と200, 60, 20, 6, 2, 0.6, 0μgのアテロコラーゲン((株)高研)を含む中性水溶液とを等量混合し、アガロースゲル電気泳動で分析した。アガロースゲル電気泳動は水平型電気泳動ユニット(Mupid、(株)アドバンス)にて、TAE(トリス・酢酸)緩衝液中0.8%アガロースゲルを用いて行った。電気泳動後、エチジウムブロマイドでゲルを染色し、トランスイルミネーター上で撮影を行った。結果を図1に示す。pCAHST-1は10μg/ml以上の濃度のコラーゲン存在下では泳動されずウェルに残留した。この結果は5μg/mlのpCAHST-1が10μg/mlのコラーゲンと複合体を形成することを示している。
複合体の顕微鏡観察結果
200μg/mlのpCAHST-1水溶液と0, 20, 200, 1000μg/mlのアテロコラーゲン水溶液を等量混合し、得られた混合液にPicoGreen dsDNA Quantitation Reagent (Molecular Probes)を添加してpCAHST-1を染色して蛍光顕微鏡で観察した。得られた結果を図4に示す。混合後のコラーゲン濃度が500μg/ml(図中、コラーゲン0.05%)の場合、主として長径1mmを超える線維状複合体が観察されたが、コラーゲン濃度が100μg/ml(図中、コラーゲン0.01%)の場合、主として10〜100μmの粒子状複合体が、さらに10μg/ml(図中、コラーゲン0.001%)の場合には、主として10μm以下の微粒子状複合体が観察された。この結果は、混合時のプラスミドDNAとコラーゲンの濃度によって複合体の形状を制御できることを示している。また、この複合体は5℃に保管することで1週以上安定にその形状が保持された(図5)。この結果は、この複合体が長期間にわたって貯蔵することが可能であり、用時調製する必要がなく複合体の状態で流通できることを示している。
複合体による発現期間の延長効果
蛍光を発するタンパク質(EGFP)をコードするプラスミドDNA(pCMV-EGFP/ pEGFP-N1, クローンテック株式会社)200μg/mlを含有する水溶液と0.02%(w/w)のアテロコラーゲン水溶液を等量混合することにより、ゲル状製剤を調製した。
直径6cmの培養皿で培養したヒト胎児腎臓細胞株293細胞に無血清培地2ml存在下、調製したゲル状製剤を100μl(pCMV-EGFP10μg含有)添加した。添加後、37℃で一晩培養した後、細胞表面をPBSで洗浄して無血清培地と製剤を除去し、10%の子牛血清を含む培地中で培養した。経時的に細胞を蛍光顕微鏡で観察し、EGFPの発現を観察した。対照として同量のpCMV-EGFPを含有するPBS溶液およびカチオニックリポソーム製剤とpCMV-EGFPの複合体を293細胞にそれぞれ添加した。
複合体の組成におけるプラスミドDNA導入効率に対する効果
以下の表1に示す各種組成の複合体を、プラスミドDNAとしてpCMV-EGFPを用いて調製した。
プラスミドDNA導入効率に対するプラスミドDNA量の影響
実施例4にて最も導入効率が高かったEGFG-3複合体(アテロコラーゲン0.01%、pCMV-EGFP100μg/ml)0、10、50、100、250および500μlを、6穴培養皿で培養した293細胞に無血清培地1ml存在下、滴加した。滴加後、37℃で一晩培養した後、細胞表面をPBSで洗浄して無血清培地と複合体を除去し、10%FBS(10%牛胎児血清を含む)培地と培地交換した。6日間経時的に細胞を蛍光顕微鏡で観察し、EGFPの発現を観察した。
プラスミドDNA量を増大させると導入効率も向上した。具体的データは次の通りである。表中、発現効率は、顕微鏡で観察できる決まった区画に存在する全細胞数を計数し、その中でEGFPを発現して蛍光を発する細胞数を計数して算出した。
複合体による発現期間の延長効果における複合体滴加法と固相塗布法の比較
まず、最も導入効率が高かったEGFG-3複合体(アテロコラーゲン0.01%、pCMV-EGFP100μg/ml)の組成に基づき、コラーゲンおよびプラスミドDNA組成の最適化を図りつつ、滴加法および固相塗布法による発現期間を比較した。
(1)以下の表3に示す各種アテロコラーゲン濃度組成の複合体を、プラスミドDNAとしてpCMV-EGFPを用いて調製した。
6穴培養皿で培養した293細胞に無血清培地存在下、調製した複合体を滴加した。滴加後、37℃で一晩培養した後、細胞表面をPBSで洗浄して無血清培地と複合体を除去し、10%FBSを含む培地と培地交換した。7日後に蛍光顕微鏡で観察してEGFPを発現している細胞数を計数した。結果を図7に示す。またEGFG-3B、3D、3Eについては、発現したEGFPの蛍光強度を測定した(Array Scan II System, Cellomics社)。各サンプルの相対的な蛍光強度を図8に示す。
滴加法による結果を示す図7および固相塗布法による結果を示す図9は、コラーゲン濃度が導入効率に影響を与えること、および固相塗布法が滴加法よりも導入効率の点で優れていることを示している。
固相塗布法のスクリーニングへの応用
線維芽細胞増殖因子HST-1(FGF4)の遺伝子(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 2890-2984 (1987)に記載)の4196bから4216bまでの配列に相補的な配列を有したホスホロチオエート型アンチセンスオリゴヌクレオチド(5’-CTCGTAGGCGTTGTAGTTGT-3’, 分子量:約6500、配列番号2) (5)(サワデー株式会社)10μMと0.05%アテロコラーゲン液を混合して複合体を形成した。得られた複合体を細胞培養用96穴プレートの底部に塗布し風乾し、複合体が底部に塗布された細胞培養器具を得た。同様にHST-1遺伝子と同じ配列を有するホスホロチオエート型センスオリゴヌクレオチド(5’-GAGCATCCGCAACATCAACA-3’、配列番号3) (1)およびアンチセンスオリゴヌクレオチドの配列をスクランブルさせた配列(5’-AGTCGCATGCACACAACACA-3’、配列番号4) (2)および3種のランダムな配列(5’-GACCATCGTCGATTCCAGT-3’、配列番号5) (3)、(5’-CATGAACATCCTGAGCATCC-3’配列番号6) (4)、(5’-GTTCACGAAGAAAGAAGGCT-3’、配列番号7) (6)を有するホスホロチオエート型アンチセンスオリゴヌクレオチドをそれぞれコラーゲンと複合体を形成させてプレートの底部に塗布、乾燥させた。これらのオリゴヌクレオチドを塗布したプレートにHST-1が過剰に発現することによって増殖が促進されているNEC8細胞とHST-1以外の遺伝子で増殖が促進されているHepG2細胞を0.5x105個/ウェルの濃度で播種し、4日間培養した。培養後、細胞の増殖抑制をテトラカラーワン細胞増殖アッセイ試薬(生化学工業)を用いて測定した。具体的には着色したサンプル液を650nmの吸光度を対照として450nmの吸光度を測定した(図13)。
アテロコラーゲンによるアデノウイルスベクターの風乾保存
(固相塗布法による調製)
1x108 pfu/mlアデノウイルスベクターAdCMVEGFP(K. Aoki, et al., Mol. Ther. (2000) 1 (6): 555-565)のDMEM溶液中溶液10μlを、アテロコラーゲンのPBS(−)中2%溶液5μlと混合した。この混合物50μlを24ウェル培養プレート(非被覆)(コーニング社)に添加し、冷セットのドライヤーにより室温にて15分間風乾し、固相塗布を行った。
得られた培養プレートを室温に放置しつつ、放置後1日、7日および14日目にヒト肝癌細胞株HepG2細胞を2x105細胞/ウェルで加え、それぞれの2日後にGFPの発現量を蛍光顕微鏡によって確認した。対照として、アデノウイルスベクターのみ、およびアテロコラーゲンのみを培養プレートに固相塗布し、同様に実験を行った。
得られた結果を表5に示す。
表5は、保存後14日においてもアデノウイルスベクターが生育していることを示しており、これは本発明の固相塗布法によって、簡便に流通可能なアデノウイルスベクターを用いたスクリーニング用プレートを提供できることを示している。
固相塗布法での遺伝子導入効果のアデノウイルス用量依存性
4x104, 4x105, 4x106, 4x107 pfu/mlのアデノウイルスベクターAdCMVEGFP (K. Aoki, et al. Mol. Ther. (2000) 1 (6): 555-565)のDMEM溶液を160μg/mlのアテロコラーゲン溶液と等量混合した。この混合物は4℃で長期間活性を低下することなく保存できた。混合物50μlを96ウェル培養プレート(非被覆、コーニング社)に添加し、風乾し固相塗布を行った。このプレートは活性を低下させることなく、少なくとも2週間から4週間の間保存可能である。得られた培養プレートに胚幹細胞(ES細胞)を播種し、3日後にGFPの発現を蛍光顕微鏡で確認すると共に、蛍光強度を測定した。結果、GFPの蛍光強度はアデノウイルスの投与量と正の相関があった(図14)。この結果は、本発明がアデノウイルスを用いたES細胞のハイスループットスクリーニングに有用な技術であり、アデノウイルスとコラーゲンが形成した複合体を塗布したハイスループットスクリーニング用プレートが提供できることを示している。
プラスミドDNAを含有する複合体の組成と平均長径との関係
10℃以下に冷却した蛍光を発するタンパク質(EGFP)をコードするプラスミドDNA(pCMV-EGFP/pEGFP-N1、4.7kbp、クローンテック株式会社)200μg/mlを含有する水溶液、0.1Mリン酸緩衝液(PB)、塩化ナトリウムを含む0.01Mリン酸緩衝液(PBS)と、10℃以下に冷却した0.002〜0.2%(w/w)のアテロコラーゲン((株)高研)を含有する水溶液、0.1Mリン酸緩衝液、塩化ナトリウムを含む0.01Mリン酸緩衝液をそれぞれ10℃以下で等量混合し、一晩10℃以下で静置することによりゲル状製剤を調製した。得られたゲル状製剤を70μm、あるいは10μmの孔径を有するフィルターを通過させ、整粒したゲル状製剤を調製した。
また、一旦プラスミドDNAとコラーゲンを混合して得られたゲル状製剤を70μmあるいは10μmの孔径を有するフィルターでろ過することによって、より平均長径の小さい複合体に整粒して得ることができた。
オリゴヌクレオチドを含有する複合体の組成と平均長径との関係
線維芽細胞増殖因子HST-1(FGF4)の遺伝子(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 2890-2984 (1987)に記載)の4196bから4216bまでの配列に相補的な配列を有したホスホロチオエート型アンチセンスオリゴヌクレオチド(5’-CTCGTAGGCGTTGTAGTTGT-3’, 分子量:約6500、配列番号8)(エスペック株式会社)を2.0μM〜40.0μMの濃度で含有し、10℃以下に冷却した水溶液、0.1Mリン酸緩衝液(PB)と、10℃以下に冷却した0.02〜3.0%(w/w)のアテロコラーゲン((株)高研)を含有する水溶液、0.1Mリン酸緩衝液をそれぞれ10℃以下で等量混合し、10℃以下で一晩静置するとによりゲル状製剤を調製した。得られたゲル状製剤中でコラーゲンと複合体を形成したオリゴヌクレオチド量は、ゲル状製剤を5℃で1時間15万回転で遠心して複合体を沈殿させ、上澄み液中の遊離したオリゴヌクレオチド量をHPLC(カラム:Puresil C18 5 (Waters), 移動相:1mMのEDTA, 5mMのテトラブチルアンモニウムを含有する0.1M酢酸アンモニウム(pH 7.0)中のアセトニトリル含量を35分間で24.5%から35%に変化, 流速:1ml/min, 検出波長:260nm)で定量して算出した。得られた製剤に単鎖核酸蛍光染色試薬YOYO (Molecular Probes)を添加してオリゴヌクレオチドを染色し蛍光顕微鏡で観察することにより、複合体の長径を測定した。結果を表7に示す。
オリゴヌクレオチドを含有する複合体を塗布した細胞培養器具
実施例11で調製したゲル状製剤(11-3、実施例7における製剤の組成)50μlを96穴マイクロプレートの底部に滴下し、冷風を直接吹き付ける方法(室温、2時間)あるいはデシケーター中にシリカゲルと共に静置する方法(室温、2日間)で乾燥し、複合体を細胞培養表面に塗布した細胞培養器具を調製した。細胞培養器具のウェルに塩化ナトリウムにより生体と等張に調整した0.01Mリン酸緩衝液(PBS)100μlを添加し、直ちに軽くピペッティングして液を採取した。また、細胞培養器具のウェルに塩化ナトリウムにより生体と等張に調整した0.01Mリン酸緩衝液100μlを添加し、37℃で一晩静置した後、軽くピペティングして液を採取した。得られた液10μlに単鎖核酸蛍光染色試薬YOYO (Molecular Probes)2μlを添加してオリゴヌクレオチドを染色し、細胞培養器具表面から遊離した複合体を蛍光顕微鏡で観察した。得られた蛍光顕微鏡像を図18に示した。採取したすべての液で、50μm以下の長径を有する複合体が確認された。これはPBSに暴露することで、細胞培養器具表面から複合体が遊離されることを示している。遊離した複合体の形状は、乾燥方法、PBSへの暴露の状態に関わらず、細胞培養器具表面に塗布する前と変化がなかった。この結果は、乾燥方法に依らず複合体が形状を保持した状態で細胞培養器具表面で保持されたことを示しており、更に一般に細胞培養に使用される37℃という温度条件においても複合体の形状が変化しないことを示している。
プラスミドDNAを含有する複合体を塗布した細胞培養器具
実施例10で調製したゲル状製剤(10-3;実施例6にて良好な導入効率が確認された組成)50μlを96穴マイクロプレートの底部に滴下し、冷風を直接吹き付ける方法(室温、2時間)あるいはデシケーター中にシリカゲルと共に静置する方法(室温、2日間)で乾燥し、複合体を細胞培養表面に塗布した細胞培養器具を調製した。細胞培養器具のウェルに塩化ナトリウムにより生体と等張に調整した0.01Mリン酸緩衝液(PBS)100μlを添加し、直ちに軽くピペッティングして液を採取した。また、細胞培養器具のウェルに塩化ナトリウムにより生体と等張に調整した0.01Mリン酸緩衝液100μlを添加し、37℃で一晩静置した後、軽くピペティングして液を採取した。得られた液10μlにPicoGreen dsDNA Quantitation Reagent (Molecular Probes) 2μlを添加してプラスミドDNAを染色し、細胞培養器具表面から遊離した複合体を蛍光顕微鏡で観察した。得られた蛍光顕微鏡像を図19に示した。採取したすべての液で、100μm以下の長径を有する複合体が確認された。これはPBSに暴露することで、細胞培養器具表面から複合体が遊離されることを示している。遊離した複合体の形状は、乾燥方法、PBSへの暴露の状態に関わらず、細胞培養器具表面に塗布する前と変化がなかった。この結果は、乾燥方法に依らず複合体が形状を保持した状態で細胞培養器具表面で保持されたことを示しており、更に一般に細胞培養に使用される37℃という温度条件においても複合体の形状が変化しないことを示している。
複合体を塗布した細胞培養器具による遺伝子導入
6ウェルの細胞培養プレートに実施例10で調製したpCMV-EGFPを含有したゲル状製剤10-1、10-4、10-7を300μl添加し、冷風を吹きかける方法で乾燥してpCMV-EGFを含有した複合体が塗布された細胞培養器具を調製した。対照群として100μg/mlのpCMV-EGFPを含有する水溶液300μlをプレート上に添加し、同様に乾燥させた。各ウェルに293細胞7.5x104個を播種し、10%FBSを含むDMEM培地を加えて37℃で培養した。培養開始後、4、5日おきに培地を新鮮な培地に交換した。細胞播種11日後、蛍光顕微鏡で細胞を観察してGFPを発現している細胞数を計測し、導入効率を算出した。
同様に6ウェルの細胞培養プレートに実施例10で調製したpCMV-HST-1-IL-2を含有したゲル状製剤10-13〜22,24を300μlあるいは500μl添加し、冷風を吹きかける方法で乾燥してpCMV-HST-1-IL-2を含有した複合体が塗布された細胞培養器具を調製した。対照群として100μg/mlのpCMV-HST-1-IL-2を含有する水溶液、PB液、PBS液300μlあるいは500μlをプレート上に添加し、同様に乾燥させた。
1)293細胞へのプラスミドDNAの導入
10-14〜17を500μl塗布したウェルにNIH3T3細胞5x104個を播種し、10%FBSを含むDMEM培地を加えて37℃で培養した。細胞播種8日後に培地を採取して培地中のIL-2濃度をELISAで測定した。
上記1)および2)にて得られた結果を表8と表9にまとめた。pCMV-EGFP、pCMV-HST-1-IL-2共にコラーゲンと複合体を形成して細胞培養器具に塗布することによって遺伝子を効率的に293細胞並びにNIH3T3細胞に導入できた。この結果は、本発明の複合体による遺伝子導入促進効果がプラスミドDNAの種類、細胞種および培養液中の血清の有無に依らないことを示している。また、プラスミドDNAの場合、コラーゲン1分子あたりのヌクレオチドモノマー数が1112以下で複合体平均粒子径が151μm以下の複合体を塗布した場合、優れた導入効率および遺伝子発現が確認された。
複合体添加による細胞への遺伝子導入
6ウェルの細胞培養プレートに293細胞5x104個を播種し、10%FBSを含むDMEM培地存在下37℃で培養した。播種3日後実施例10で調製したpCMV-EGFPを含有したゲル状製剤10-1、10-4、10-7、10-8、10-9、10-10と対照として100μg/mlのpCMV-EGFPを含有する水あるいはPB溶液をそれぞれ300μl添加し、10%FBSを含むDMEM培地存在下37℃で一晩培養した。翌日、新鮮な培地に交換して、10-1、10-4、10-7については13日間、10-8、10-9、10-10については5日間培養後、蛍光顕微鏡で細胞を観察してGFPを発現している細胞数を計測した。
得られた結果を表10、11、12にまとめた。pCMV-EGFP、pCMV-HST-1-IL-2共にコラーゲンと複合体を形成して細胞に添加することによって遺伝子を効率的に細胞に導入できた。本実施例のように複合体の平均長径が53μm以下の場合、コラーゲン1分子あたりのヌクレオチドモノマー数が2406以下、更には701以下の複合体を細胞に添加した場合、優れた導入効率及び遺伝子発現が確認された。
本発明によれば、細胞の増殖、細胞の形態またはサイトカインやレセプターの発現量などを測定することでアンチセンスオリゴヌクレオチドにより発現が抑制された遺伝子またはタンパク質の機能を容易に解明することができる。加えて、コラーゲンと複合体を形成させてプレート上に塗布できるのはアンチセンスオリゴヌクレオチドに限られず、リボザイムの場合にはアンチセンスオリゴヌクレオチドと同様のスクリーニングが可能であり、さらにプラスミドDNAあるいはアデノウイルスの場合は特定の遺伝子の発現による細胞の変化を測定して遺伝子またはタンパク質の機能を解析することが可能となる。特に本複合体を構成しているコラーゲンあるいはコラーゲン誘導体は、細胞に障害を与えないことが知られていることから、本発明の複合体を用いたスクリーニングでは、一般の遺伝子導入剤を用いた時に生じる非特異的な細胞への影響を極力排した遺伝子機能の解析を行うことが可能である。
Claims (21)
- コラーゲンまたはコラーゲン誘導体を含有する、標的細胞への核酸導入促進剤。
- コラーゲンまたはコラーゲン誘導体が所望の核酸と複合体を形成して含有されている、請求項1記載の標的細胞への核酸導入促進剤。
- 該複合体が粒子である、請求項2記載の核酸導入促進剤。
- 該複合体粒子の長径が300nm〜300μmである、請求項2記載の核酸導入促進剤。
- 所望の核酸がプラスミドDNAである、請求項2から4までのいずれか記載の核酸導入促進剤。
- 該複合体におけるコラーゲンまたはコラーゲン誘導体分子数とプラスミドDNAのヌクレオチドモノマー数の比が1:20〜1:プラスミドDNAのヌクレオチドモノマー数である、請求項5記載の核酸導入促進剤。
- 所望の核酸がオリゴヌクレオチドである、請求項2から4までのいずれか記載の核酸導入促進剤。
- 該複合体におけるコラーゲンまたはコラーゲン誘導体分子数とオリゴヌクレオチドのヌクレオチドモノマー数の比が1:1〜1:200である、請求項7記載の核酸導入促進剤。
- コラーゲンまたはコラーゲン誘導体と所望の核酸とを含む複合体粒子。
- 長径が300nm〜300μmである、請求項9記載の複合体粒子。
- 所望の核酸がプラスミドDNAである、請求項9または10記載の複合体粒子。
- 該複合体におけるコラーゲンまたはコラーゲン誘導体分子数とプラスミドDNAのヌクレオチドモノマー数の比が1:20〜1:プラスミドDNAのヌクレオチドモノマー数である、請求項11記載の複合体粒子。
- 所望の核酸がオリゴヌクレオチドである、請求項9または10記載の複合体粒子。
- 該複合体におけるコラーゲンまたはコラーゲン誘導体分子数とオリゴヌクレオチドのヌクレオチドモノマー数の比が1:1〜1:200である、請求項13記載の複合体粒子。
- コラーゲンの会合体形成を抑制する物質を含有する溶液中にて、コラーゲンまたはコラーゲン誘導体と所望の核酸とを混合することを特徴とする、請求項9から14までのいずれか記載の複合体粒子を調製する方法。
- 請求項9から14までのいずれか記載の複合体粒子が表面に塗布されている医療用具。
- 請求項9から14までのいずれか記載の複合体粒子が細胞培養面に塗布されている細胞培養器具。
- 請求項9から14までのいずれか記載の複合体粒子を使用することを特徴とする、所望の核酸を標的細胞に導入するための方法。
- 請求項9から14までのいずれか記載の複合体粒子を使用することを特徴とする、所望の核酸の標的細胞における発現効率を向上させるための方法。
- 標的細胞における遺伝子またはタンパク質の機能を調べる方法であって、該遺伝子もしくは該タンパク質をコードする核酸または該遺伝子もしくは該タンパク質の発現を細胞内で阻害する核酸を含む請求項9から14までのいずれか記載の複合体粒子を固相表面に塗布し、その固相表面上で該標的細胞を培養し、該標的細胞における該核酸の発現レベルまたは該遺伝子もしくは該タンパク質の発現レベル、または細胞の増殖率もしくは表現型を調べることを特徴とする方法。
- ある疾患に関与する遺伝子の発現を細胞内で阻害する核酸の候補核酸を含む請求項9から14までのいずれか記載の複合体粒子を固相表面に塗布し、その固相表面上にて該疾患状態にある細胞を培養し、各候補核酸によって阻害される該遺伝子の発現レベル、または細胞の増殖率もしくは表現型を調べることを特徴とする、該疾患を処置できる核酸をスクリーニングする方法。
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