JP2008036643A - 非晶質金属材料の加工方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】非晶質金属材料を、高い加工精度で効率よく切断することができる非晶質金属材料の加工方法を提供すること。
【解決手段】本発明の非晶質金属材料の加工方法は、非晶質金属材料で構成された板状の母材3を切断する加工方法であって、母材3の所定領域にレーザー光Lを照射して、母材3の厚さの一部を溶融し、溶融部分31を冷却して結晶化させる第1の工程と、結晶化に伴って非晶質金属材料が脆化することを利用して、結晶化部分33に応力を加えることにより、結晶化部分33を起点にして前記第1の工程で溶融しなかった残部32を分断するように、母材3を厚さ方向に破断させる第2の工程とを有することを特徴とする。また、第1の工程において、残部32の厚さ(残部厚さR)は、母材3の厚さの1〜20%であるのが好ましい。
【選択図】図2

Description

本発明は、非晶質金属材料の加工方法に関するものである。
特定の金属材料を主成分とし、所定の条件を満たす元素を含む材料とを混合した原材料を、溶融状態から極めて急速に冷却すると、結晶が形成される前のランダムな非晶質状態の合金が形成される場合がある。このような合金は、「非晶質金属」と呼ばれる。
このような非晶質金属は、高強度、低ヤング率、高耐食性等の優れた機械的特性と、優れた磁気的特性を備えていることから、歯車のような各種の機械部品や、磁心のような磁性部品を構成する材料として期待されている。
かかる機械部品や磁性部品は、一般に、母材から目的の形状に切り出す加工を行うことによって得られる。この加工手段としては、例えば、エッチング加工、プレス抜き加工、ワイヤ放電加工、切削加工等が挙げられる。
特許文献1には、エッチング加工により、非晶質金属材料に加工を施す方法が開示されている。
エッチング加工では、非晶質金属材料をレジストマスクで覆い、レジストマスクに形成された開口部を選択的にエッチングすることにより、非晶質金属材料を切断する。
しかしながら、このようなエッチング加工では、レジストマスクの寸法精度が十分ではなく、また、エッチング液の濃度にバラツキが生じ易いため、エッチングによる加工精度が低いという問題がある。
さらに、エッチング加工では、レジストマスクやエッチング液等を用いる煩雑な作業を伴うため、加工効率が低いという問題もある。
特許文献2には、プレス抜き加工により加工を施す方法が開示されている。
プレス抜き加工では、金型を用いて局所的に引張荷重を加えることにより、非晶質金属材料を破断させて切断する。
しかしながら、前述したように、非晶質金属材料は優れた機械的特性を有しているため、金型に著しい負荷や磨耗を生じることになる。このため、金型の寿命が著しく短くなるという問題がある。
また、ワイヤ放電加工では、加工面の寸法精度や表面粗さが低いという問題があり、切削加工では、非晶質金属の優れた機械的特性によって、切削工具の寿命が著しく短くなるという問題がある。
特開平7−191157号公報 特開2005−229793号公報
本発明の目的は、非晶質金属材料を、高い加工精度で効率よく切断することができる非晶質金属材料の加工方法を提供することにある。
上記目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の非晶質金属材料の加工方法は、非晶質金属で構成された板状の材料の一方の面の所定領域にレーザー光を照射して、前記材料の厚さの一部を溶融し、該溶融した部分を冷却して結晶化させる第1の工程と、
前記結晶化に伴って前記材料が脆化することを利用して、前記結晶化させた部分に応力を加えることにより、前記結晶化させた部分を起点に前記材料を厚さ方向に沿って破断させる第2の工程とを有することを特徴とする。
これにより、前記材料を、高い加工精度で効率よく切断することができる。
本発明の非晶質金属材料の加工方法は、非晶質金属で構成された板状の材料の一方の面の所定領域にレーザー光を照射して、前記材料の厚さの一部を溶融し、該溶融した部分を冷却して結晶化させる工程と、前記材料の他方の面のうち、前記所定領域の裏側に位置する領域にレーザー光を照射して、結晶化されていない部分の厚さの一部を溶融し、該溶融した部分を冷却して結晶化させる工程とを有する第1の工程と、
前記結晶化に伴って前記材料が脆化することを利用して、前記結晶化させた部分に応力を加えることにより、前記結晶化させた部分を起点に前記材料を厚さ方向に沿って破断させる第2の工程とを有することを特徴とする。
これにより、前記材料を、高い加工精度で効率よく切断することができる。また、前記溶融した部分の面積、いわゆる「加工しろ」を小さくすることができる。これにより、加工精度を高めることができる。さらに、前記結晶化に伴い前記溶融した部分の体積が減少することにより形成される凹部の曲率半径が小さくなるので、形状効果により、凹部の底部を起点に亀裂がより発生し易くなる。これにより、加工精度をさらに高めることができる。
本発明の非晶質金属材料の加工方法では、前記第1の工程において、前記レーザー光の照射によって溶融されず残る部分の厚さは、前記材料の厚さの1〜20%であることが好ましい。
これにより、レーザー光照射後、前記第2の工程に至るまでの間、前記材料が不本意に変形することがないように、前記材料の形状を確実に保持することができる。また、前記第2の工程において、前記材料に応力を加えたとき、前記溶融されない部分を確実に破断させることができる。
本発明の非晶質金属材料の加工方法では、前記第1の工程において、前記レーザー光を前記材料に対して相対的に走査しつつ照射することにより、該走査の軌跡に沿って前記材料を溶融することが好ましい。
これにより、レーザー光の走査の軌跡に沿って、前記材料を溶融し、切断することができる。
本発明の非晶質金属材料の加工方法では、前記レーザー光の走査速度は、1〜200mm/secであることが好ましい。
これにより、前記溶融した部分の面積、いわゆる「加工しろ」の著しい拡大を防止しつつ、前記材料を適正な溶融深さで効率よく溶融することができる。その結果、加工精度を高めることができる。
本発明の非晶質金属材料の加工方法では、前記第1の工程における冷却は、自然冷却であることが好ましい。
これにより、冷却装置等を用いることなく結晶化させ易い比較的遅い冷却速度で冷却を行うことができるので、製造コストの低減を図ることができる。また、前記材料の溶融した部分をムラなく冷却することができるので、冷却速度のバラツキに伴う体積減少率のバラツキを防止することができる。その結果、前記結晶化に伴い前記溶融した部分の体積が減少することにより形成される凹部を複数形成した場合、その形状の均一化を図ることができる。
本発明の非晶質金属材料の加工方法では、前記冷却における冷却速度は、0.1〜100K/secであることが好ましい。
このような比較的遅い冷却速度で冷却することにより、前記材料の溶融した部分を確実に、かつ効率よく結晶化させることができる。
本発明の非晶質金属材料の加工方法では、不活性雰囲気中で前記レーザー光を照射することが好ましい。
これにより、溶融した前記材料が酸化するのを確実に防止することができるので、切断面が劣化するのを防止することができる。さらに、不活性雰囲気は、爆発したり、人体に害を及ぼすことがなく、減圧手段を用いる必要もないので、取り扱いが容易であるという利点もある。
本発明の非晶質金属材料の加工方法では、前記材料の厚さは、5〜50μmであることが好ましい。
これにより、比較的短い照射時間、または、比較的速い走査速度でレーザー光を照射しても、前記材料の切断を確実に行うことができる。そして、照射時間が短い、または、走査速度が速いと、前記材料の溶融する領域の面積、いわゆる「加工しろ」が小さくなるという利点があり、これにより、加工精度を高めることができる。また、前記材料の厚さが前記範囲内であれば、前記材料は非常に柔軟性に富んだものとなるので、前記第2の工程において、前記材料に応力を加える作業を容易に行うことができる。これにより、前記材料の切断作業を効率よく行うことができる。
本発明の非晶質金属材料の加工方法では、前記レーザー光の照射領域の外径は、5〜100μmであることが好ましい。
これにより、微小で複雑なパターンで前記材料を切断することができる。さらに、前記材料の溶融する領域の面積、いわゆる「加工しろ」は、前記外径とほぼ同等か若干大きい程度になるので、前記外径が前記範囲内であれば、極めて少ない加工しろで前記材料の切断を行うことができる。
本発明の非晶質金属材料の加工方法では、前記レーザー光の発光エネルギーは、1〜100μJ/パルスであることが好ましい。
これにより、前記材料の厚さの全部が溶融してしまうのを防止しつつ、前記材料の厚さの一部を確実に溶融することができる。
本発明の非晶質金属材料の加工方法では、前記レーザー光のピーク波長は、193nm〜10.6μmであることが好ましい。
このようなピーク波長のレーザー光は、金属に対する吸収率が比較的高いので、照射領域を効率よく加熱することができる。その結果、比較的短時間に前記材料を溶融することができる。
本発明の非晶質金属材料の加工方法では、前記材料は帯状をなしており、
前記第2の工程において、前記材料を巻き取ることにより、前記結晶化させた部分に応力を加えることが好ましい。
これにより、前記材料を回収する作業と前記材料に応力を加える作業とを同時に行うことができるので、加工工程の簡略化および低コスト化を図ることができる。
以下、本発明の非晶質金属材料の加工方法について、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
<第1実施形態>
まず、本発明の非晶質金属材料の加工方法の第1実施形態について説明する。
図1は、本発明の非晶質金属材料の加工方法の第1実施形態を説明するための図(斜視図)、図2は、本発明の非晶質金属材料の加工方法の第1実施形態を説明するための図(図1のA−A線断面図)、図3は、磁心用材料および磁心を示す斜視図である。なお、以下の説明では、図2中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
本発明の非晶質金属材料の加工方法は、非晶質金属で構成された板状の材料を、所定の形状で切断する方法である。
このような非晶質金属材料を切断するような加工を施す場合、従来は、エッチング加工、プレス抜き加工、ワイヤ放電加工、切削加工等の方法により加工が行われていた。
しかしながら、これらの加工方法は、加工精度が低かったり、煩雑な作業を伴うといった問題を有していた。
そこで、本発明の非晶質金属材料の加工方法は、非晶質金属材料の一方の面の所定領域にレーザー光を照射して、非晶質金属材料の厚さの一部を溶融し、溶融した部分を冷却して結晶化させる第1の工程と、結晶化に伴って非晶質金属材料が脆化することを利用して、前記結晶化させた部分に応力を加えることにより、前記結晶化させた部分を起点に非晶質金属材料を厚さ方向に破断させる第2の工程とを有することを特徴とする。
かかる方法によれば、非晶質金属材料を、高い加工精度で、かつ効率よく切断することができる。
以下、本実施形態の非晶質金属材料の加工方法の各工程について、順次説明する。
なお、以下の説明では、代表的に、本発明の非晶質金属材料の加工方法を用いて、母材から図3(a)に示す磁心用材料1を切り出す方法について説明する。この磁心用材料1は、例えば、複数枚を積層した積層体とすることにより、図3(b)に示すような磁心10にすることができる。
[1]まず、図1(a)に示すように、磁心用材料1を形成するための非晶質金属で構成された母材(材料)3を用意する。
母材3を構成する非晶質金属としては、例えば、Fe基、Co基、Ni基、Cu基、Ti基、Zr基、Hf基、Mg基、Ca基、La基、Y基、Pt基、Pd基等の金属ガラス合金やアモルファス金属等が挙げられる。
このうち、母材3を構成する非晶質金属としては、Coを主成分としたもの(Co基)が好ましい。Co基非晶質金属は、結晶化させた際に、特に脆化し易い傾向を示すため、後述する第3の工程において、結晶化させた部分を起点として母材3をより容易に破断させることができる。
母材3のレーザー光の照射方向における厚さ、すなわち、母材3の図1(a)の上下方向における厚さ(以下、省略して「母材3の厚さ」とも言う。)は、特に限定されないが、5〜50μm程度であるのが好ましく、10〜30μm程度であるのがより好ましい。母材3の厚さが前記範囲内であれば、比較的短い照射時間、または、比較的速い走査速度でレーザー光を照射しても、母材3の切断を確実に行うことができる。そして、照射時間が短い、または、走査速度が速いと、母材3の溶融する領域の面積、いわゆる「加工しろ」が小さくなるという利点があり、これにより、加工精度を高めることができる。
また、母材3の厚さが前記範囲内であれば、母材3は非常に柔軟性に富んだものとなるので、後述する工程において、母材3に応力を加える作業を容易に行うことができる。これにより、母材3の切断作業を効率よく行うことができる。
非晶質金属で構成された母材3には、いかなる方法で製造されたものを用いてもよく、例えば、鋳造法、単ロール急冷法、双ロール急冷法等の方法で製造されたものを用いることができるが、特に、単ロール急冷法または双ロール急冷法により製造されたものが好適に用いられる。これらの方法によれば、前述のような比較的厚さの薄い母材3を効率よく製造することができる。
このような方法で得られた母材3における本発明の加工方法を適用する面(被加工面)に対し、必要に応じて、被加工面を平滑化する平滑化処理を施してもよい。
かかる平滑化処理としては、例えば、研削、研磨等の物理的処理、エッチング等の化学的処理等が挙げられる。
[2]次に、図1(b)に示すように、母材3の上面(被加工面)の所定領域に、レーザー光Lを照射する。そして、母材3のレーザー光Lを照射した領域に存在する非晶質金属のうち、レーザー光Lの照射方向における厚さ、すなわち、本実施形態では母材3の図2(c)の上下方向における厚さの一部を溶融する。
ここでは、図1(b)に示すように、磁心用材料1の輪郭形状に沿って、レーザー光源Sを走査させつつ、レーザー光Lを照射する。これにより、図2(c)に示すように、照射位置を中心にほぼ半球状に拡がる領域に存在する非晶質金属が溶融し、溶融部分31が形成される。また、溶融部分31の下方は、溶融しないで残った残部32となる。
ここで、レーザー光Lは、その発光エネルギー、ピーク波長、走査速度等の照射条件を適宜設定することにより、母材3の溶融深さD(図2(c)参照)、換言すれば、溶融部分31の厚さを調整することができる。具体的には、発光エネルギーを大きくすること、ピーク波長を小さくすること、走査速度を小さくすること等により、母材3の溶融深さDを大きくすることができる。
なお、レーザー光Lの照射条件を上記のように設定することにより、母材3の溶融深さDが大きくなるとともに、母材3の上面の溶融する領域の面積(以下、「加工しろ」とも言う。)が拡大し、加工精度が低下することとなる。したがって、溶融深さDと加工精度の両方を考慮しつつ、レーザー光Lの前記照射条件を設定するのが好ましい。
また、このとき、レーザー光Lの照射により、溶融せず残る部分の厚さ、すなわち、図2(c)に示す残部32の厚さ(残部厚さR)が、母材3の厚さの1〜20%程度となるように前記照射条件を設定するのが好ましく、5〜15%程度となるように設定するのがより好ましい。残部厚さRが前記範囲内であれば、レーザー光Lの照射後、後述する第2の工程に至るまでの間、母材3が不本意に変形することがないように、母材3の形状を確実に保持することができる。
さらに、残部厚さRが前記範囲内であれば、後述する第2の工程において、母材3に応力を加えたとき、この残部32が確実に破断して、母材3を切断することができる。
レーザー光Lの発光エネルギーは、非晶質金属の組成、母材3の厚さ等によって若干異なるが、パルス発振の場合、1〜100μJ/パルス程度に設定されるのが好ましく、5〜80μJ/パルス程度に設定されるのがより好ましい。これにより、母材3の厚さの全部が溶融してしまうのを防止しつつ、母材3の厚さの一部を確実に溶融することができる。なお、発光エネルギーが前記上限値を超えると、母材3が爆発的に溶融(爆飛)したり、溶融した母材3が照射領域からはみ出し、加工精度が低下するおそれがある。
また、レーザー光Lの発振モードがパルス発振である場合、その発振周波数は、0.1〜10kHz程度であるのが好ましく、1〜10kHz程度であるのがより好ましい。
また、レーザー光Lのピーク波長は、193nm〜10.6μm程度に設定されるのが好ましく、500〜600nm程度に設定されるのがより好ましい。このようなピーク波長のレーザー光Lは、金属に対する吸収率が比較的高いので、照射領域を効率よく加熱することができる。その結果、比較的短時間に母材3を溶融することができる。
また、レーザー光Lの走査速度は、非晶質金属の組成、母材3の厚さ等によって若干異なるが、1〜200mm/sec程度に設定されるのが好ましく、5〜150mm/sec程度に設定されるのがより好ましい。これにより、加工しろの著しい拡大を防止しつつ、母材3を適正な溶融深さで効率よく溶融することができる。その結果、加工精度を高めることができる。
なお、レーザー光Lの走査速度は、レーザー光Lの発振周波数に応じて適宜変更するのが好ましい。具体的には、例えば、発振周波数が1kHzの場合、5〜20mm/sec程度にするのが好ましく、10kHzの場合、50〜150mm/sec程度にするのが好ましい。
また、レーザー光Lを照射する雰囲気としては、酸化性雰囲気(大気雰囲気)、還元性雰囲気、不活性雰囲気、減圧雰囲気等が挙げられ、特に限定されないが、不活性雰囲気が好適に用いられる。不活性雰囲気では、溶融した非晶質金属が酸化するのを確実に防止することができるので、切断面が劣化するのを防止することができる。さらに、不活性雰囲気は、爆発したり、人体に害を及ぼすことがなく、減圧手段を用いる必要もないので、取り扱いが容易であるという利点もある。
また、レーザー光Lの照射領域の外径(ビーム径)は、特に限定されないが、5〜100μm程度であるのが好ましく、10〜50μm程度であるのがより好ましい。これにより、微小で複雑なパターンで母材3を切断することができる。さらに、本発明によって生じる加工しろは、ビーム径とほぼ同等か若干大きい程度になるので、ビーム径が前記範囲内であれば、極めて少ない加工しろで母材3の切断を行うことができる。
なお、レーザー光Lとしては、特に、YAGレーザーを用いるのが好ましい。YAGレーザーは、そのレーザー光Lのピーク波長が1064nmであるが、波長変換光学素子等を通過させることにより、ピーク波長を、532nm(第2高調波)に容易に変換することができる。このピーク波長のレーザー光は、前述したように、金属に対する吸収率が比較的高いので、本発明に用いるレーザー光として好適である。
[3]次に、母材3の少なくとも溶融部分31を冷却する。これにより、母材3の溶融部分31を結晶化させ、図2(d)に示す結晶化部分33が形成される(第1の工程)。
非晶質金属で構成された母材3は、融点より高温側にある状態、すなわち、溶融状態から、融点より低温側に冷却されることにより固化する。
この冷却の際、その冷却速度によって、固化した部分が非晶質状態になる場合と、結晶状態になる場合とに分かれる。
具体的には、母材3を融点の高温側から低温側に冷却する際の冷却速度が比較的速い場合は、母材3の溶融部分31が、固化後に非晶質状態になる。これは、次のような過程を経て行われる。
まず、母材3が溶融状態にあるとき、含まれる原子の配列は秩序性を有しない。
この状態から、母材3を、融点の高温側から低温側に冷却する際に、冷却速度が速いと、原子が移動するために十分な時間が確保されない。このため、母材3の溶融部分31中の原子は、固化後も、溶融状態における無秩序な配列を維持することとなる。
その結果、母材3の溶融部分31は、原子配列が無秩序な非晶質状態となって固化する。
一方、母材3を融点の高温側から低温側に冷却する際の冷却速度が比較的遅い場合は、母材3の溶融部分31が、固化後に結晶状態になる。これは、次のような過程を経て行われる。
まず、母材3が溶融状態にあるとき、含まれる原子の配列は秩序性を有しない。
この状態から、母材3を、融点の高温側から低温側に冷却する際に、冷却速度が遅いと、原子が移動するために十分な時間が確保される。このため、原子がよりエネルギー安定的な状態を目指し、固化後は、秩序性をもって配列する。
これにより、母材3の溶融部分31は、結晶化がなされ、結晶化部分33に変化する。
したがって、本発明では、母材3の溶融部分31が結晶化するように冷却する。
このように冷却する冷却方法としては、特に限定されないが、自然冷却の他、冷却液、冷却ガスを用いた強制冷却等が挙げられる。
このうち、冷却方法としては、特に自然冷却が好ましい。自然冷却によれば、冷却装置等を用いることなく結晶化させ易い比較的遅い冷却速度で冷却を行うことができるので、製造コストの低減を図ることができる。
また、自然冷却によれば、母材3の溶融部分31をムラなく冷却することができるので、冷却速度のバラツキに伴う体積減少率のバラツキを防止することができる。これにより、後述する凹部35を複数形成した場合、その形状の均一化を図ることができる。
また、冷却速度は、母材3の組成によっても若干異なるが、0.1〜100K/sec程度であるのが好ましく、1〜10K/sec程度であるのがより好ましい。このような比較的遅い冷却速度で冷却することにより、母材3の溶融部分31を確実に、かつ効率よく結晶化させることができる。
なお、溶融部分31は、結晶化する際に、その体積が不連続的に減少する。これは、溶融部分31が結晶化する際、含まれる原子の配列が無秩序状態から秩序のある状態に移行するため、原子が占める体積が必然的に減少することにより生じる現象である。
このような現象により、溶融部分31は、結晶化する際に凹むこととなり、結晶化部分33の上方には、凹部35が形成される。これにより、母材3の結晶化部分33が存在する部分の厚さは、他の部分より薄くなる。
[4]次に、図2(e)に示すように、母材3の少なくとも結晶化部分33に応力を加える。これにより、結晶化部分33を起点として残部32を破断させ、図2(f)に示すように母材3を切断することができる(第2の工程)。
ここで、非晶質金属は、含まれる原子の配列が無秩序になっているため、結晶金属に存在する結晶粒界や結晶粒内転位のような不連続部位が存在しない。このため、高強度、高靭性等の優れた機械的特性を示す。
これに対し、結晶金属は、前述したような不連続部位を有するため、この部位を起点として亀裂が進展し易い。このため、非晶質金属に比べ、機械的特性に劣る。
かかる観点から、結晶化部分33を含む母材3に応力を加えると、機械的特性に劣る結晶化部分33が選択的に破断し、さらに、結晶化部分33を起点として、母材3の厚さに比べて薄くなっている残部32を分断するように亀裂34が進展する。これにより、残部32を選択的に破断させることができる。その結果、レーザー光Lを照射した領域に沿って、母材3を高い寸法精度で効率よく切断することができる。
また、母材3に応力を加えた際、形状効果により凹部35に応力集中し易い。このため、凹部35が形成されることにより、凹部35の底部を起点に亀裂が発生し易くなる。その結果、母材3の加工精度をより高めることができる。
さらに、本発明では、母材3の厚さの一部を溶融し、その後、残部32を破断させることにより切断する方法を用いているため、母材3の厚さの全部を溶融する加工方法、いわゆる「溶断」のように、溶融物(ドロス)が切断面付近に付着することがない。したがって、切断の加工精度が極めて高くなるとともに、切断面に付着した溶融物を除去する作業を省略することができる。
なお、母材3に応力を加える方法は、特に限定されず、例えば、引張荷重や圧縮荷重を加えればよい。
また、母材3が前述した単ロール急冷法または双ロール急冷法により製造されたものであれば、一般に母材3は、帯状(リボン状)をなしている。
このような形状の母材3に応力を加える場合には、例えば、母材3をリール等で巻き取ることにより、副次的に、母材3に応力を加えることができる。かかる方法によれば、母材3を回収する作業と母材3に応力を加える作業とを同時に行うことができるので、加工工程の簡略化および低コスト化を図ることができる。
以上のようにして、母材3をレーザー光Lの走査の軌跡に沿って、所定の形状に切断し、母材3から目的の形状の磁心用材料1を切り出すことができる。
このような方法で形成された磁心用材料1は、寸法精度が高いため、複数枚の磁心用材料1を積層した場合に、各磁心用材料1の寸法のバラツキが小さくなる。これにより、複数枚の磁心用材料1の積層体で構成された磁心10は、寸法精度が高く、表面の凹凸が少ないものとなる。
<第2実施形態>
次に、本発明の非晶質金属材料の加工方法の第2実施形態について説明する。
図4および図5は、本発明の非晶質金属材料の加工方法の第2実施形態を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図4および図5中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
以下、第2実施形態について説明するが、前記第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
本実施形態の非晶質金属材料の加工方法は、第1の工程において、非晶質金属で構成された板状の材料の両面にレーザー光を照射するようにした以外は、前記第1実施形態と同様である。
すなわち、本実施形態の非晶質金属材料の加工方法は、非晶質金属材料の一方の面の所定領域にレーザー光を照射して、非晶質金属材料の厚さの一部を溶融し、溶融した部分を冷却して結晶化させる工程と、非晶質金属材料の他方の面のうち、前記所定領域の裏側に位置する領域にレーザー光を照射して、結晶化されていない部分の厚さの一部を溶融し、溶融した部分を冷却して結晶化させる工程とを有する第1の工程と、結晶化に伴って非晶質金属材料が脆化することを利用して、結晶化された部分に応力を加えることにより、結晶化された部分を起点に非晶質金属材料を厚さ方向に沿って破断させる第2の工程とを有することを特徴とした。
以下、本実施形態の非晶質金属材料の加工方法の各工程について、順次説明する。
[1]まず、図4(a)に示すように、母材3の上面の所定領域Pに、レーザー光Lを照射する。そして、母材3のレーザー光Lを照射した領域に存在する非晶質金属のうち、レーザー光Lの照射方向における厚さ、すなわち、本実施形態では母材3の図4(a)の上下方向における厚さの一部を溶融する。
これにより、非晶質金属が溶融した溶融部分31が形成される。また、溶融部分31の下方は、溶融しないで残った未溶融部分311となる。
なお、レーザー光Lの走査は、数値制御(NC)により行われるのが好ましい。これにより、後述する工程[3]において、本工程の走査パターンを反転させた走査パターンでレーザー光Lを容易に走査することができる。
[2]次いで、母材3の少なくとも溶融部分31を冷却する。これにより、母材3の溶融部分31を結晶化させ、図4(b)に示す結晶化部分33が形成される。また、結晶化部分33の上方には、凹部35が形成される。
[3]次に、母材3の上下を反転させ、次いで、図4(c)に示すように、前記所定領域Pの裏側に位置する所定領域P’に、レーザー光Lを照射する。そして、所定領域P’に存在し、前記工程[1]で結晶化されていない部分(未溶融部分311)の厚さの一部を溶融する。
これにより、未溶融部分311の一部が溶融した溶融部分31’が形成される。また、溶融部分31’と結晶化部分33との間の部分は、溶融しないで残った残部32’となる。
[4]次いで、母材3の少なくとも溶融部分31’を冷却する。これにより、母材3の溶融部分31’を結晶化させ、図4(d)に示す結晶化部分33’が形成される。また、結晶化部分33’の上方には、凹部35’が形成される。
これにより、母材3の両面に、結晶化部分33と結晶化部分33’が形成される(第1の工程)。
[5]次に、図5(e)に示すように、母材3の少なくとも結晶化部分33、33’に応力を加える。これにより、結晶化部分33、33’を起点として、母材3の厚さに比べて薄くなっている残部32’を分断するように亀裂34’が進展する。その結果、残部32’を破断させ、図5(f)に示すように母材3を切断することができる(第2の工程)。
本実施形態では、母材3の両面からレーザー光Lを照射するので、溶融部分31および溶融部分31’の各溶融深さは、前記第1実施形態の溶融部分31の溶融深さより小さくすることができる。
ここで、この溶融深さは、溶融部分の面積に比例するので、本実施形態では、前記第1実施形態に比べ、溶融部分の面積、いわゆる加工しろを小さくすることができる。これにより、加工精度をさらに高めることができる。
また、加工しろが小さくなると、凹部35、35’の開口の面積が小さくなり、さらに、凹部35、35’の湾曲形状の曲率半径が小さくなる。これにより、母材3に応力を加えた際、形状効果により凹部35への応力集中がより顕著なものとなる。その結果、応力が凹部35、35’の底部に集中し易くなり、この底部を起点に亀裂が発生し易くなる。その結果、母材3の加工精度をさらに高めることができる。
このような傾向は、母材3の厚さが厚いほど、より顕著なものとなる。換言すれば、本実施形態の加工方法によれば、厚さが厚い母材3でも、高い加工精度で加工することができる。
なお、本実施形態では、前記工程[3]において、母材3の上下を反転させたが、母材3を反転させることなく、母材3の下方からレーザー光Lを照射するようにしてもよい。
また、本実施形態では、母材3の一方の面にレーザー光Lを照射する工程と、他方の面にレーザー光Lを照射する工程とを順次行うようにしているが、これらの工程は、同時または時間的に一部重複して行うようにしてもよい。
以上、本発明の非晶質金属材料の加工方法について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、前記実施形態では、母材から磁心用材料を切り出す加工を例に説明したが、本発明の加工方法は、非晶質金属材料で構成された母材を、単に切断する加工を施す場合にも適用することができる。
また、本発明の非晶質金属材料の加工方法は、必要に応じて、任意の工程を追加することもできる。
本発明の非晶質金属材料の加工方法の第1実施形態を説明するための図(斜視図)である。 本発明の非晶質金属材料の加工方法の第1実施形態を説明するための図(図1のA−A線断面図)である。 磁心用材料および磁心を示す斜視図である。 本発明の非晶質金属材料の加工方法の第2実施形態を説明するための図(縦断面図)である。 本発明の非晶質金属材料の加工方法の第2実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
符号の説明
1……磁心用材料 3……母材 31、31’……溶融部分 311……未溶融部分 32、32’……残部 33、33’……結晶化部分 34、34’……亀裂 35、35’……凹部 10……磁心 L……レーザー光 S……レーザー光源 P、P’……所定領域 D……溶融深さ R……残部厚さ

Claims (13)

  1. 非晶質金属で構成された板状の材料の一方の面の所定領域にレーザー光を照射して、前記材料の厚さの一部を溶融し、該溶融した部分を冷却して結晶化させる第1の工程と、
    前記結晶化に伴って前記材料が脆化することを利用して、前記結晶化させた部分に応力を加えることにより、前記結晶化させた部分を起点に前記材料を厚さ方向に沿って破断させる第2の工程とを有することを特徴とする非晶質金属材料の加工方法。
  2. 非晶質金属で構成された板状の材料の一方の面の所定領域にレーザー光を照射して、前記材料の厚さの一部を溶融し、該溶融した部分を冷却して結晶化させる工程と、前記材料の他方の面のうち、前記所定領域の裏側に位置する領域にレーザー光を照射して、結晶化されていない部分の厚さの一部を溶融し、該溶融した部分を冷却して結晶化させる工程とを有する第1の工程と、
    前記結晶化に伴って前記材料が脆化することを利用して、前記結晶化させた部分に応力を加えることにより、前記結晶化させた部分を起点に前記材料を厚さ方向に沿って破断させる第2の工程とを有することを特徴とする非晶質金属材料の加工方法。
  3. 前記第1の工程において、前記レーザー光の照射によって溶融されず残る部分の厚さは、前記材料の厚さの1〜20%である請求項1または2に記載の非晶質金属材料の加工方法。
  4. 前記第1の工程において、前記レーザー光を前記材料に対して相対的に走査しつつ照射することにより、該走査の軌跡に沿って前記材料を溶融する請求項1ないし3のいずれかに記載の非晶質金属材料の加工方法。
  5. 前記レーザー光の走査速度は、1〜200mm/secである請求項4に記載の非晶質金属材料の加工方法。
  6. 前記第1の工程における冷却は、自然冷却である請求項1ないし5のいずれかに記載の非晶質金属材料の加工方法。
  7. 前記冷却における冷却速度は、0.1〜100K/secである請求項1ないし6のいずれかに記載の非晶質金属材料の加工方法。
  8. 不活性雰囲気中で前記レーザー光を照射する請求項1ないし7のいずれかに記載の非晶質金属材料の加工方法。
  9. 前記材料の厚さは、5〜50μmである請求項1ないし8のいずれかに記載の非晶質金属材料の加工方法。
  10. 前記レーザー光の照射領域の外径は、5〜100μmである請求項1ないし9のいずれかに記載の非晶質金属材料の加工方法。
  11. 前記レーザー光の発光エネルギーは、1〜100μJ/パルスである請求項1ないし10のいずれかに記載の非晶質金属材料の加工方法。
  12. 前記レーザー光のピーク波長は、193nm〜10.6μmである請求項1ないし11のいずれかに記載の非晶質金属材料の加工方法。
  13. 前記材料は帯状をなしており、
    前記第2の工程において、前記材料を巻き取ることにより、前記結晶化させた部分に応力を加える請求項1ないし12のいずれかに記載の非晶質金属材料の加工方法。
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Cited By (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2014052200A (ja) * 2012-09-05 2014-03-20 Seiko Epson Corp アモルファスバネの製造方法、アモルファスバネ、および時計
CN106271108A (zh) * 2016-09-14 2017-01-04 东莞市逸昊金属材料科技有限公司 一种非晶合金件的激光切割方法
CN109773429A (zh) * 2019-03-01 2019-05-21 东莞市逸昊金属材料科技有限公司 一种非晶合金精密切割工艺
CN110695540A (zh) * 2018-07-10 2020-01-17 青岛云路先进材料技术股份有限公司 一种非晶带材的激光切割方法

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