JP2008025989A - 局在表面プラズモン共鳴法と質量分析法によるリガンドの分析方法及びそのためのセンサー素子 - Google Patents
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Abstract
【課題】ある物質に結合するリガンドを質量分析により分析する操作を、簡便かつ高感度に、さらに高い再現性をもって行なうことができる、リガンドの分析方法及びそのためのセンサー素子を提供すること。
【解決手段】リガンドの分析方法は、基板と、該基板上に設けられた、複数のナノサイズ金属領域と、該ナノサイズ金属領域上に固定化された選択結合性物質とを具備するセンサー素子上の、前記選択結合性物質と、被検試料中の、前記選択結合性物質と選択的に結合するリガンドとを接触させる工程と、前記選択結合性物質と前記リガンドとの結合を局在表面プラズモン共鳴法により測定する工程と、次いで、前記センサー素子をそのまま質量分析法にかけて前記リガンドを質量分析する工程とを含む。
【選択図】なし
【解決手段】リガンドの分析方法は、基板と、該基板上に設けられた、複数のナノサイズ金属領域と、該ナノサイズ金属領域上に固定化された選択結合性物質とを具備するセンサー素子上の、前記選択結合性物質と、被検試料中の、前記選択結合性物質と選択的に結合するリガンドとを接触させる工程と、前記選択結合性物質と前記リガンドとの結合を局在表面プラズモン共鳴法により測定する工程と、次いで、前記センサー素子をそのまま質量分析法にかけて前記リガンドを質量分析する工程とを含む。
【選択図】なし
Description
本発明は、局在表面プラズモン共鳴法(以下、「局在SPR」ということがある)とMALDI-TOF MSによるリガンドの分析方法及びそのためのセンサー素子に関する。
ヒトの全ゲノムシーケンスが解読され、遺伝子配列はあるものの、機能が未知のタンパク質については、遺伝子発現を行い、それらの機能を知ることが望まれる。機能を知るためにそのタンパク質と相互作用する物質を同定することが重要である。相互作用を用いる方法としてSPRが知られる。一方タンパク質同定の方法として、質量分析法が知られる。
表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance、SPR)は物質間相互作用の測定に用いられる。質量分析は分子量測定ならびに分子の同定に用いられる。分子間相互作用の確認、ならびに物質の同定は特にタンパク質網羅的解析において重要である。現在、物質間相互作用のためのSPRの測定法としてはBIAcore(商品名)をはじめとする装置が販売されている。表面プラズモン共鳴は屈折率から特異的結合を検出する方法であり、抗原や抗体を金属薄膜に固定し、これとリガンド分子が特異結合すると、金属薄膜表面の屈折率が変化することを利用して検出する。SPR法としてはクレッチマン光学系を用いるものが最も一般的である。クレッチマン光学系では、金属薄膜の背面にプリズムを付して、単色光を照射し、全反射光を測定し、反射率最小入射角を求めて、この角度から屈折率を決定する。質量分析としてはMALDI法、ESI法などのイオン化法を用いる装置が販売されており、特にMALDI法あるいはESI法はタンパク質やDNAなどの高分子の質量分析に汎用されている。特にタンパク質の解析の分野においては、タンパク質を電気泳動で分離した後に、ゲル上の目的箇所を酵素消化し、これを質量分析計で測定し、得られるスペクトルから、タンパク質を同定する方法がよく用いられる。
現段階ではSPR法と質量分析法を統合するためのインターフェースとして非特許文献1の例がある。しかし、これはピン状のインターフェースをSPR測定ならびに質量分析のために付け替えて用いるもので、毎回つけはずしを行う必要があり、網羅的解析の際は簡便性に劣る。また、特許文献1は、SPRと質量分析を同時に行う装置の発明を開示するが、これは光学系が複雑であり、専用装置が必要である。
現段階ではSPR法と質量分析法を統合するためのインターフェースとして非特許文献1の例がある。しかし、これはピン状のインターフェースをSPR測定ならびに質量分析のために付け替えて用いるもので、毎回つけはずしを行う必要があり、網羅的解析の際は簡便性に劣る。また、特許文献1は、SPRと質量分析を同時に行う装置の発明を開示するが、これは光学系が複雑であり、専用装置が必要である。
一方、局在表面プラズモン共鳴(局在SPR)と呼ばれる、上記した通常のSPRとは異なる現象を利用した分析方法も知られている(非特許文献2)。局在SPR法は、光の波長よりも小さい、数nm〜100nm程度の金属微細構造(ナノサイズ金属領域)中の電子が、特定の波長の光と相互作用して共鳴する現象を利用したものである。例えば、透明な基板上にナノサイズ金属領域を形成し、これに選択結合性物質を固定化し、これをリガンドと結合させると、基板を通過した透過光の吸光度が、未結合の場合と変化するので、該吸光度を結合反応の前後で吸光光度計などで測定することにより、被検試料中のリガンドを測定することができる。局在SPRと質量分析の組合せは知られていない。
Anal Chem. 2005 Feb 15;77(4):1157-62
応用物理 第72巻 第12号(2003)
特表平11-512518号公報
本発明の目的は、ある物質に結合するリガンドを質量分析により分析する操作を、簡便かつ高感度に、さらに高い再現性をもって行なうことができる、リガンドの分析方法及びそのためのセンサー素子を提供することである。
本願発明者らは、鋭意研究の結果、局在SPRにより、ある物質と選択的に結合するリガンドを検出し、その局在SPRに用いたセンサー素子をそのまま質量分析にかけることが可能であることを見出し、また、それによって、質量分析の再現性が高まることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、基板と、該基板上に設けられた、複数のナノサイズ金属領域と、該ナノサイズ金属領域上に固定化された選択結合性物質とを具備するセンサー素子上の、前記選択結合性物質と、被検試料中の、前記選択結合性物質と選択的に結合するリガンドとを接触させる工程と、前記選択結合性物質と前記リガンドとの結合を局在表面プラズモン共鳴法により測定する工程と、次いで、前記センサー素子をそのまま質量分析法にかけて前記リガンドを質量分析する工程とを含む、前記リガンドの分析方法を提供する。また、本発明は、基板と、該基板上に設けられた、複数のナノ金属領域と、該ナノ金属領域上に固定化した選択結合性物質とを具備する、前記本発明の方法に用いるための、局在表面プラズモン共鳴法と質量分析法の共通センサー素子を提供する。
本発明により、ある物質に結合するリガンドを質量分析により分析する操作を、簡便かつ高感度に、さらに高い再現性をもって行なうことができる、リガンドの新規な分析方法が提供された。本発明の方法によれば、物質とリガンドとの結合を局在SPRにより測定するので、通常のSPRのようなプリズム光学系が不要であり、簡便に、かつ、高感度に物質とリガンドとの結合を測定することができる。また、局在SPRに供したセンサー素子をそのまま質量分析にかけるので、質量分析を簡便に行なうことができるのみならず、リガンドを物質から離脱させる操作が不要であり、それによるリガンドの変性や損失を回避することができる。さらに、本発明の方法によれば、質量分析の再現性が、通常の質量分析よりも高くなる。また、本発明の方法によれば、SPRの結果と、質量分析の結果を総合して、結合定数を求めることが可能となる。
上記の通り、本発明のセンサー素子は、基板上に設けられた、複数のナノサイズ金属領域と、該ナノサイズ金属領域上に固定化された選択結合性物質とを具備する。
局在プラズモンの測定は、吸光、散乱、反射などによって測定され、基板の材質、厚さなどは限定されないが、局在SPRを透過光の吸光測定により行う場合は、基板は光を透過する材質である必要がある。光を透過する材料としては、局在SPRの測定に最適な光の700nmから900nmの波長域の光を透過する材料、例えば透明なガラスやポリスチレン等の透明なプラスチックなどが望ましい。
基板上には、複数のナノサイズ金属領域が形成される。ここで、「ナノサイズ金属領域」とは、直径が1μm未満、好ましくは10nm〜150nm程度、さらに好ましくは20nm〜40nm程度の金属の微小領域を意味する。なお、ナノサイズ金属領域の形状は円形に限られず、三角形、正方形、長方形、五角形、六角形、八角形などの多角形や楕円等、他の形状でもよい。円形以外の場合には、長径又は最も長い辺が上記の大きさであれば本願発明でいう「ナノサイズ金属領域」に包含される。短径又は最も短い辺も上記範囲に含まれるものが好ましい。なお、長径又は最も長い辺が400nm以上の場合には、短径又は最も短い辺が10nm〜150nmの範囲であることが好ましい。
ナノサイズ金属領域を形成する金属としては、SPR現象を生じうる金属である金、銀、銅、アルミニウムが含まれていればよく、これらのうち複数の金属が含まれていてもよい。これらの中でも金は、耐食性が高く安定な検出素子を作製することができる上、チオールやアミノ基等用いた表面修飾や固定化が容易であるといった利点があることから、好適に用いられる。一方、銀を用いると、感度が高いSPR現象が生じるため、好適に用いられる。
ナノサイズ金属領域は、測定感度を高めるために、1のセンサー素子上に、複数形成され、通常、103個から1014個程度形成される。ナノサイズ金属領域を複数形成する場合に、その配列の周期(隣接するナノサイズ金属領域の中心間の距離)は、特に限定されないが、周期を小さくすることにより高密度化が可能である。このため、周期は、1000nm以下が好ましく、さらには600nm以下が好ましい。また、縦方向と横方向の周期は異なっていてもよい。また、各ナノサイズ金属領域は、互いに分離しており、隣接するナノサイズ金属領域の各端部間の最短距離は、通常、5nm以上であり、好ましくは10nm以上である。
また、本明細書において、局在SPR測定に用いるプレートリーダーや質量分析装置に装填する、上記センサー素子を含む板状のものを「プレート」と呼ぶ。プレートは、その全体が上記センサー素子から成っていてもよいし、その一部にセンサー素子を含むものであってもよい。また、1枚のプレート中に複数のセンサー素子が形成されていてもよい。プレートのサイズは、特に限定されないが、プレートリーダーや質量分析で常用されている縦80 mm〜87 mm、横が123 mm〜130 mmとすれば、広く用いられているプレートリーダーや市販の質量分析装置にそのまま適用することができるので有利である。プレートの素材はプレートリーダーや、質量分析装置に用いられるものであれば、限定されない。
また一方で吸光光度計または質量分析装置に用いられる規格が異なる場合は、アダプターを用いてそれぞれのサイズに合わせることができる。本発明に用いられるプレートの例を図1に示す。斜線で示すセンサー素子は厚さ1 mmのガラスにナノサイズ金属領域を施したものであり、周囲がアダプター部位で、全体として縦8.2 cm、横が12.3 cmとなっている。厚さも図で示されるように、ナノサイズ金属領域形成部位とアダプター部位で厚さが異なってもよいし、あるいは均一でもよい。なお、アダプターに組み込んだプレートを、アダプターをも含めて「プレート」と呼ぶこともある。
図2には、プレートの1例を示す。このプレートは全部が光を透過する材料で作製されており、表面にセンサー素子が斜線部分に付されている。すなわち、このプレートには、384個のセンサー素子が形成されている。
図2.1には、別のプレートの1例を示す。このプレートは全部が光を透過する材料で作製されており、表面全体に金属ナノドット領域(多数のナノサイズ金属領域形成した部分を「ナノドット領域」ということがある)が付されており、すなわち全面がセンサー素子を形成しているといえる。
また、図2.2には、別のプレートの例を示す。このプレートは下部はスチールなどの光を透過しない材料で、斜線部は穴が貫通している。上部の基板は透明であり、表面に金属ナノドット領域からなるセンサー素子が斜線部に形成されている。非光透過性材料よりなる下部分には、質量分析計において位置合わせ等に用いるための磁気メモリが装着されている。
ナノサイズ金属領域を含むセンサー素子は、公知の方法により形成することができる。例えば、フォトレジストや電子線レジストを用いた真空蒸着等により容易に形成することができる。真空蒸着としては、均一な膜を作製し易い電子ビーム(EB)蒸着が好ましい。なお、ナノサイズ金属領域は、全体が金属で構成されている必要はなく、少なくとも該領域の表面が金属で形成されていればよい。従って、例えば、プラスチックの粒子の表面に金属を蒸着したものを配置すること等も可能である。また、接着性をあげるために、金属と基板との間にクロムあるいはチタンなどの薄膜を介してもよい。
ナノサイズ金属領域には、選択結合性物質が固定化されている。ここで、「選択結合性物質」とは、これと選択的に結合する物質(リガンド)が存在する物質を意味する。また、「リガンド」は、通常、この分野で用いられている最も広い意味で用いており、選択結合性物質と選択的に結合する物質はいずれも本発明でいう「リガンド」に包含される。選択結合性物質とリガンドの組合せとしては、抗体又はその抗原結合性断片と抗原、レセプター又は生理活性を有するタンパク質とそのリガンド、酵素と基質、酵素と補欠分子族、その他アビジン又はその類似体(ストレプトアビジン等)とビオチン等のように選択的に結合する任意の化合物同士を挙げることができる。なお、選択結合性物質は、それと選択的に結合するリガンド(以下、ある特定の選択結合性物質と選択的に結合するリガンドを「対応リガンド」ということがある)の存在が知られていないものであってもよく、本発明の方法に従って、局在SPRを行なった結果、初めてリガンドの存在が確認されるものであってもよい。例えば、既にヒトゲノムは、解読が完了しているので、これまでに全く知られていない、又は存在は知られていても機能は知られていないタンパク質を遺伝子工学的に作製することが可能であるが、このようにして作製したタンパク質を、本発明における「選択結合性物質」として用い、局在SPRにより対応リガンドの有無を調べてもよい。本発明の方法では、局在SPRにより対応リガンドとの結合が確認されたものについて、該対応リガンドの質量分析を行なうことができる。
ナノサイズ金属領域への選択結合性物質の固定化は、周知の方法により行なうことができる。固定化は、選択結合性物質を、単にナノサイズ金属領域に物理吸着させることによって行なってもよいが、質量分析において、リガンドのみが離脱してリガンドのみが質量分析に付されることを確保するために、共有結合により行なうことが好ましい。金属への有機化合物の共有結合方法も周知である。例えば、本発明において好ましい金属である金の場合、チオール化合物が金に共有結合するので、アミノ基やカルボキシル基等を一端に有するチオール化合物を金に共有結合させ、次いで、該アミノ基やカルボキシル基を選択結合性物質のカルボキシル基やアミノ基と共有結合させること等により、容易に任意の選択結合性物質を共有結合により金に結合することができる。なお、タンパク質やポリペプチドのように、カルボキシル基を有する化合物を金に共有結合するために用いられる、アルキレン基の一端にチオール基、他端にアミノ基を結合したリンカーが市販されており、このような市販のリンカーを用いて容易にタンパク質やポリペプチドを金に共有結合することができる。また、非特異吸着を防ぐ目的で、金属領域に選択結合性物質を固定化する前に、金属表面を自己組織化単分子膜などで修飾してもよい。なお、物理吸着により固定化する場合には、通常の免疫測定における固相化と同様、選択結合性物質の溶液をナノサイズ金属領域と接触させることにより行なうことができる。
本発明の方法では、上記したセンサー素子を用い、局在SPRを測定する。局在SPR自体は、公知の方法と全く同様にして測定することができる。すなわち、センサー素子の一方側から光を照射し、前記センサー素子を透過した光の吸光度を測定する。なお、不透明なセンサー素子を用た場合でも、反射光を測定することにより局在SPRを測定することも可能であるが、透過光を測定する方が、広く用いられているプレートリーダーを利用することができるので有利である。吸光度をリアルタイムで測定しながら、被検試料中のリガンドと、ナノサイズ金属領域上の上記選択結合性物質とを接触させる。これは、通常、液体の被検試料を、複数のナノサイズ金属領域を含むセンサー素子全体に滴下することにより行なわれる。ナノサイズ金属領域は、光学顕微鏡で見えない小さなものであるので、ナノサイズ金属領域上にのみ選択的に被検試料を点着することは困難であり、ナノサイズ金属領域を含むより広い領域一帯に被検試料が施される。センサー素子に施す被検試料の量は、特に限定されないが、通常、0.5〜5μL程度、特に1〜2μL程度である。
被検試料が、対応リガンドを含んでいる場合には、ナノサイズ金属領域上の選択結合性物質と、被検試料中の対応リガンドが選択的に結合するので、局在SPR現象により透過光の吸光度が変化する。従って、この変化を測定することにより、被検試料中の対応リガンドを測定することができる。なお、「測定」には、検出、定量及び半定量のいずれもが包含される。吸光度の変化の大きさは、被検試料中の対応リガンドの濃度に依存するので、局在SPR測定により、対応リガンドの検出のみならず、定量や半定量も可能である。
被検試料はセンサー素子に滴下する方式でもよいが、センサー素子に接するように流路を形成しておいて、これを通過する、選択結合物質、試薬、被検体などをセンサー素子に接触させてもよい。流路を用いて局在SPRを測定できれば、それらが結合していく様子を局在SPRとしてリアルタイムで測定することができ、速度論解析を行うことができるから、特に被検体と選択結合物質との解離結合定数などを算出する際には有利である
なお、被検試料は、対応リガンドを含む可能性があるものであればいずれのものでもよく、例えば、血液(血清、血漿、全血等)、尿、リンパ液、髄液、唾液、ぬぐい液等の体液、生体の組織や細胞の破砕液、飲食物やその抽出物、これらの希釈物等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。なお、被検試料は、対応リガンドを含んでいるか含んでいないか不明なものであってもよい。含んでいない場合には、ナノサイズ金属領域上の選択結合性物質と対応リガンドとの結合が検出されない。
局在SPR測定の後、局在SPR測定に用いた上記センサー素子をそのまま質量分析にかける。局在SPR測定に用いたセンサー素子をそのまま質量分析にかけても、質量分析を行なうことが可能であり、しかも、質量分析の再現性が通常の質量分析よりも高まることが本願発明者らにより見出された。
質量分析法自体は、周知であり、周知のいずれの質量分析法をも採用することができるが、MALDI-TOF MSが好ましい。MALDI-TOF MS(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization-Time Of Flight Mass Spectrometry、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析)は、生体高分子等の質量分析に広く用いられている方法である。MALDIは、被検試料とマトリックス(レーザー光を吸収する化合物)を混合し、数ナノ秒という短時間のレーザー光を照射することにより被検試料をイオン化する手法であり、タンパク質、多糖類、脂質などの幅広い生体関連物質をほとんど分解しない緩和な条件でイオン化する特徴を有する。TOF MSは、イオン化した試料を高電圧の電極間で加速し、高真空無電場領域のフライトチューブと呼ばれる管中へ導入して等速度飛行させ、一定距離を飛行するのに要する時間を測定して質量を算出する手法である。原理的には質量が大きい場合でも、測定条件としては時間が長くなるだけで理論上の測定限界がないので、高分子に適した質量分析手法である。
MALDI-TOF MSを行なう場合には、常法に従い、センサー素子にマトリックスを添加し、質量分析を行なう。マトリックスを添加する工程は質量分析の一部であるから、センサー素子にマトリックスを添加してから質量分析を行なう場合も、本発明で規定する「そのまま質量分析法にかけ」る場合に包含される。なお、用いるマトリックスやその添加方法は常法通りでよい。常法どおりに質量分析法を行なえば、対応リガンドは、ナノサイズ金属領域上の選択結合性物質から離脱し、対応リガンドについて質量分析が行なわれる。
本発明の方法によれば、簡便、高感度に対応リガンドを測定することができ、また、質量分析の再現性が向上する。質量分析の再現性が向上するのは、通常の質量分析の場合と異なり、質量分析の分析対象(すなわち、対応リガンド)が、ナノサイズ金属領域上にのみ存在することに起因すると考えられる。
被検体は、局在SPR測定を行った後に、酵素消化を行ってから質量分析を行ってもよい。質量分析計では分子量が大きくなると感度などが悪くなる傾向があるが、消化断片として測定することにより、そのような障壁を防ぐことができると共に、複数の消化断片の質量からもとの試料を同定する、いわゆるフィンガーマスプリント法を用いることができる。
本発明の方法は、対応リガンドがわかっている場合、例えば、通常の免疫測定法等の場合にはもちろん適用することができるし、対応リガンドの存否が不明な場合でも本発明の方法を適用することができる。被検試料中に対応リガンドが存在すれば、局在SPR測定により該対応リガンドが検出され、質量分析によりそのm/zが測定される。従って、本発明は、例えば、これまでに全く知られていない、又は存在は知られていても機能は知られていないタンパク質を遺伝子工学的に作製し、作製したタンパク質を、本発明における「選択結合性物質」として用いて本発明の方法を行なうことにより、未知の対応リガンドを同定することに役立つ。従って、本発明の方法は、プロテオーム解析に有用である。
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
ナノサイズ金領域の形成(その1)
8.2 cm x 12.3 cmの大きさの厚さ0.5mmのガラス板に、図2に示す384穴のパターンで、各円形領域内に金でナノサイズ領域を形成した。ナノサイズ金領域は、一辺が30nmの正方形状であり、隣接する正方形の中心同士の間隔は70nmであった。ナノサイズ金領域は、市販の装置を用いた常法に従い、電子ビーム(EB)蒸着により形成した。上記の正方形を6個x6個配列した正方形の領域を複数形成した。形成したナノサイズ金領域の操作電子顕微鏡写真を図3に示す。
8.2 cm x 12.3 cmの大きさの厚さ0.5mmのガラス板に、図2に示す384穴のパターンで、各円形領域内に金でナノサイズ領域を形成した。ナノサイズ金領域は、一辺が30nmの正方形状であり、隣接する正方形の中心同士の間隔は70nmであった。ナノサイズ金領域は、市販の装置を用いた常法に従い、電子ビーム(EB)蒸着により形成した。上記の正方形を6個x6個配列した正方形の領域を複数形成した。形成したナノサイズ金領域の操作電子顕微鏡写真を図3に示す。
ナノサイズ金領域の形成(その2)
ナノサイズ金領域の形状を、長径が500nm、短径が60nmの楕円形とし、隣接するナノサイズ金領域との間隔(端部と端部の間の最短距離)を、長径方向は140nm、短径方向は10nmとしたこと以外は実施例1と同様にして、複数のナノサイズ金領域を形成した。形成したナノサイズ金領域の操作電子顕微鏡写真を図4に示す。
ナノサイズ金領域の形状を、長径が500nm、短径が60nmの楕円形とし、隣接するナノサイズ金領域との間隔(端部と端部の間の最短距離)を、長径方向は140nm、短径方向は10nmとしたこと以外は実施例1と同様にして、複数のナノサイズ金領域を形成した。形成したナノサイズ金領域の操作電子顕微鏡写真を図4に示す。
分析
1. 抗インターロイキン1b(IL-1b)抗体の結合
抗IL-1b(SIGMA社製 I3642) をPBSに溶かし、100μg/mLとした。ナノサイズ金領域を形成した各部位を液滴で覆った。15分静置し、PBSで洗った。
1. 抗インターロイキン1b(IL-1b)抗体の結合
抗IL-1b(SIGMA社製 I3642) をPBSに溶かし、100μg/mLとした。ナノサイズ金領域を形成した各部位を液滴で覆った。15分静置し、PBSで洗った。
2.ブロッキング
12.2 mg/mLのオバルブミンの液滴でナノサイズ金領域を形成した各部分を覆い、15分静置し、PBSで洗った。
12.2 mg/mLのオバルブミンの液滴でナノサイズ金領域を形成した各部分を覆い、15分静置し、PBSで洗った。
3.抗原との相互作用
IL-1溶液(100 μg/ml)でナノサイズ金属領域を形成した各部分を覆い、15分静置し、PBSで洗った。
IL-1溶液(100 μg/ml)でナノサイズ金属領域を形成した各部分を覆い、15分静置し、PBSで洗った。
4.局在SPR測定(図5)
センサー素子を含むプレートをアダプターに組み込み、市販のプレートリーダーであるSpectraMax(商品名)に装填し、商品の指示書に記載された通りの操作を行いスペクトルを得た。
センサー素子を含むプレートをアダプターに組み込み、市販のプレートリーダーであるSpectraMax(商品名)に装填し、商品の指示書に記載された通りの操作を行いスペクトルを得た。
結果を図5に示す。図5中、bareは、抗IL-1b抗体を固定化する前の吸光スペクトル、Anti IL1bは、ナノサイズ金領域に抗IL-1b抗体を固定化した後の吸光スペクトル、IL1bは、さらにIL-1bを添加した後の吸光スペクトルを示す。IL-1bの添加により吸光度が変化していることがわかる。
5. 質量分析測定(図6)
プレートリーダーからプレート取り出し、センサー素子部にMALDI-TOF MS用の市販のマトリックスである飽和CHCA(α−ヒドロキシ桂皮酸)溶液を1μL滴下し、風乾したのち、市販のMALDI-TOF MS装置であるUltraFlex (Bruker Daltonics) にて、MALDI-TOF MSを行った。
プレートリーダーからプレート取り出し、センサー素子部にMALDI-TOF MS用の市販のマトリックスである飽和CHCA(α−ヒドロキシ桂皮酸)溶液を1μL滴下し、風乾したのち、市販のMALDI-TOF MS装置であるUltraFlex (Bruker Daltonics) にて、MALDI-TOF MSを行った。
結果を図6に示す。図6に示されるように、m/zのピークが得られ、質量分析が可能であった。また、ピークm/zは、予想されるIL-1bのm/zのピークと一致していた。
実施例3の質量分析の際のスペクトルの取得率を求めた。S / N比が5 以上、解像度 (m/Δm)が250 以上、シグナル強度が300 以上のものをシグナルとしてとらえ、20箇所をランダムに選び、1箇所あたり500ショットのレーザーを照射したところ、14箇所でシグナルが得られた(シグナル取得率70%)。
比較例1
シリコンウェーハー上に、スパッタ法により全面を金で覆ったものを作製し、これを用いて上記と同様に抗IL-1b抗体を固定し、IL-1bのMALDI-TOF MSを行なった。20箇所を照射して、スペクトルの取得率を求めたところ、1箇所のみでスペクトルが得られた(スペクトルの取得率は5%)。これにより、ナノサイズ金属領域を形成した本発明のセンサー素子を用いることにより、ナノ構造を有さないものを用いた場合よりも質量分析の再現性が向上することが確認された。
シリコンウェーハー上に、スパッタ法により全面を金で覆ったものを作製し、これを用いて上記と同様に抗IL-1b抗体を固定し、IL-1bのMALDI-TOF MSを行なった。20箇所を照射して、スペクトルの取得率を求めたところ、1箇所のみでスペクトルが得られた(スペクトルの取得率は5%)。これにより、ナノサイズ金属領域を形成した本発明のセンサー素子を用いることにより、ナノ構造を有さないものを用いた場合よりも質量分析の再現性が向上することが確認された。
自己組織化単分子膜の形成:実施例2で作製した、ナノサイズ金領域を形成したガラス板を自己組織化単分子である1mM の5-Carboxypentyl disulfideのエタノール溶液に1時間浸漬した後エタノールで洗浄した。MES(〔2-(N-Morpholino)ethanesulfonic Acid〕)バッファーに溶解した100mM、EDC((1-Ethyl-3-[3-dimethylaminopropyl]carbodiimide Hydrochloride)),100mM、NHS(N-hydroxysuccinimide)に30分浸漬。
抗体の固定:MESバッファーに溶解した100μg/mLの抗体溶液を滴下し、2時間放置し、PBSで洗浄。
ブロッキング:12.2 mg/mLのオバルブミンの液滴で各センサー素子を覆い、15分静置し、PBSで洗浄。
抗原との相互作用:IL-1溶液(100 μg/ml)で各センサー素子を覆い、15分静置し、PBSで洗った。
局在SPR測定:
プレートを市販のプレートリーダーであるSpectraMax(商品名)に装填し、商品の指示書に記載された通りの操作を行いスペクトルを得た(図7)。
プレートを市販のプレートリーダーであるSpectraMax(商品名)に装填し、商品の指示書に記載された通りの操作を行いスペクトルを得た(図7)。
Claims (10)
- 基板と、該基板上に設けられた、複数のナノサイズ金属領域と、該ナノサイズ金属領域上に固定化された選択結合性物質とを具備するセンサー素子上の、前記選択結合性物質と、被検試料中の、前記選択結合性物質と選択的に結合するリガンドとを接触させる工程と、前記選択結合性物質と前記リガンドとの結合を局在表面プラズモン共鳴法により測定する工程と、次いで、前記センサー素子をそのまま質量分析法にかけて前記リガンドを質量分析する工程とを含む、前記リガンドの分析方法。
- 前記質量分析法がMALDI-TOF MSである請求項1記載の方法。
- 前記金属が金である請求項1又は2記載の方法。
- 前記基板が透明であり、前記局在表面プラズモン共鳴法は、前記センサー素子の一方側から光を照射し、前記基板を透過した光の吸光度を測定することにより行われる請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
- 前記センサー素子を含むプレートの寸法が、縦が80 mm乃至87 mm、横が123 mm乃至130 mmである請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。
- 基板と、該基板上に設けられた、複数のナノサイズ金属領域と、該ナノサイズ金属領域上に固定化した選択結合性物質とを具備する、前記請求項1ないし5のいずれか1項に記載の方法に用いるための、局在表面プラズモン共鳴法と質量分析法の共通センサー素子。
- 請求項6記載のセンサー素子を1個又は複数個含む、局在表面プラズモン共鳴法と質量分析法の共通プレート。
- 複数のナノサイズ金属領域を含むセンサー素子であって、吸光光度測定装置ならびに質量分析装置に用いられるセンサー素子。
- 前記ナノサイズ領域は光を透過する材質の上に設けられている請求項8のセンサー素子。
- 前記センサー素子を含んでなるプレートであって、その寸法が、縦が80 mm乃至87 mm、横が123 mm乃至130 mmであるプレート。
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