本発明は、非グルココルチコイドステロイド(例えばデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)、硫酸DHEA、その塩)とβ2-作用薬含有気管支拡張薬とを含む組成物に関する。この組成物は、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、または他の呼吸器疾患の治療に役立つ。
さまざまな症状を伴う呼吸器疾患は、一般の人に極めてよく見られる。その呼吸器疾患には炎症が伴っていることがあり、そのことによって肺の状態が悪化する。呼吸器疾患としては、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、これら以外の上気道と下気道の呼吸器疾患(例えばアレルギー性鼻炎、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、肺線維症)などがある。
例えば喘息は、工業国において最も一般的な疾患の1つである。アメリカ合衆国では、喘息がヘルスケアの全費用の約1%を占める。過去10年間に喘息の罹患率と死亡率が警戒すべき上昇を示していることが報告されており、喘息は今後の10年間における圧倒的に多い職業性肺疾患になると予測されている。喘息は、気道のさまざまな閉塞(多くの場合に可逆性である)を特徴とする疾患である。このプロセスは肺炎と関係しており、ときには肺のアレルギーと関係していることもある。多くの患者には“喘息発作”と呼ばれる急性エピソードがあり、そうでない人は慢性の疾患に悩んでいる。喘息プロセスは、過敏な人が抗原を吸い込むことによって始まる場合があると考えられている。この疾患は、一般に“外因性喘息”と呼ばれている。他の喘息患者は生まれつき喘息になりやすい傾向を持っているため、その喘息は“内因性喘息”と呼ばれている。その中には、アデノシン受容体を媒介とした疾患や、IgEを媒介とした免疫応答によるアレルギー疾患など、さまざまな原因による疾患が含まれる。どの喘息患者も、この疾患に特徴的な一群の症状を有する。それは、気管支収縮、肺炎、肺の界面活性物質の減少である。既存の気管支拡張薬と抗炎症薬が現在市販されており、喘息の治療に処方されている。最も一般的な抗炎症薬であるコルチコステロイドにはかなり副作用があるが、それでも一般に処方されている。より重要なことだが、喘息の治療に利用できるたいていの薬は、多くの患者にほとんど効果がない。
COPDは気道の閉塞を特徴とし、それは一般に慢性気管支炎と肺気腫の一方または両方によって起こる。一般に、気道の閉塞が可逆性であることはほとんどないが、患者の10〜20%は治療によって気道の閉塞が幾分か改善する。慢性気管支炎では、気道の閉塞が、気道粘液の慢性的かつ過剰な異常分泌、炎症、気管支痙攣、感染によって起こる。慢性気管支炎は、慢性の咳と粘液産生の一方または両方が、少なくとも連続した2年間に少なくとも3ヶ月にわたって続くという特徴も持っている(ただし、他の原因による慢性の咳は除く)。肺気腫では、終末細気管支の構造要素(エラスチン)が破壊されて気道の壁が崩壊し、“古くなった”空気を吐き出せなくなる。肺気腫では、肺胞の永久的な破壊が起こっている。肺気腫の特徴は、終末細気管支から離れた空間が永久的に異常に拡張すること、終末細気管支の壁が破壊されること、明らかな線維症がないことである。COPDは、二次的肺性高血圧も引き起こす可能性がある。二次的肺性高血圧それ自体は、肺動脈の血圧が異常に高い疾患である。重症の場合には、血圧に逆らって血液を吸い上げるため、心臓の右側が通常よりも多く働かなくてはならない。この状態が長期にわたって続くと右心室が拡大して機能が低下し、体液が足首(浮腫)と腹部に集まる。場合によっては左心室もおかしくなり始める。肺疾患によって起こる心不全は、肺性心と呼ばれている。
COPDは、特に中年および老年の人に起こり、世界中で罹患率と死亡率が最も大きい疾患の1つである。アメリカ合衆国では約1400万人がこの疾患にかかっており、死因の第4位であると同時に、身体障害になる原因の第3位である。しかし罹患率と死亡率の両方が上昇している。アメリカ合衆国におけるこの疾患の推定罹患率は1982年から41%増え、年齢調整死亡率は、1966年から1985年の間に71%増えた。これは、同じ期間にあらゆる原因による年齢調整死亡率が低下したこと(22%低下)および心臓血管疾患による年齢調整死亡率が低下したこと(45%低下)とは対照的である。1998年には、アメリカ合衆国において112,584人がCOPDで死亡している。
しかしCOPDは予防可能である。なぜなら、その主因はタバコの煙に曝露されることであると考えられているからである。長期の喫煙がCOPDの最大の原因であり、全体の80〜90%がそれで説明される。喫煙者は、COPDで死ぬ確率が非喫煙者よりも10倍大きい。この疾患は生涯を通じて喫煙しない人では稀であり、このような人の気道閉塞の少なくとも一部は、環境中でのタバコの煙への曝露によって説明されよう。提案されている他の疫学因子としては、気道の過剰応答または過敏、周囲の大気汚染、アレルギーなどがある。COPDにおける気道閉塞は、喫煙を続けている人では通常進行していく。その結果、早い段階で身体障害が起こり、余命が短くなる。喫煙を停止すると疾病率が非喫煙者と同じ疾病率になることがわかっているが、喫煙による損傷は不可逆性である。他のリスク因子としては、遺伝、間接喫煙、仕事場や環境での大気汚染への曝露、子供時代の呼吸器感染症歴などがある。COPDの症状としては、慢性の咳、胸部圧迫感、安静時および運動時の息切れ、努力が必要な呼吸、粘液産生の増大、頻繁な咳払いなどがある。
COPDの症状を緩和したり、悪化を予防したり、最適な肺機能を維持したり、毎日の活動や生活の質を向上させたりするのに現在利用できるものはほとんどない。多くの患者は、薬を利用して残りの人生を過ごすことになるが、悪化すると投薬量を増やしたり別の薬を追加したりする必要がある。COPDの患者に現在処方されている薬としては、即効性β2-作用薬、抗コリン作用性気管支拡張薬、長期作用性気管支拡張薬、抗生物質、去痰薬などがある。COPDに関して現在利用できる治療法のうち、抗コリン作用薬、β2アドレナリン作用薬、経口ステロイドを投与するという方法には、COPDの進行に対して長期の効果ではなく短期の利点があることが見いだされた。急性の悪化には経口ステロイドだけが推奨されているが、長期にわたって使用すると死亡率と罹患率が大きくなる。
短期および長期にわたって作用する吸入式β2アドレナリン作用薬を用いると、短期間の気管支拡張が実現され、COPDの患者に症状の緩和がもたらされるが、この疾患の進行に対して意味のある継続的な効果はない。短期作用性のβ2アドレナリン作用薬を用いると、COPDの患者の症状が改善し(例えば運動能力の向上)、幾分かの気管支拡張がもたらされ、重症のケースでは肺機能が向上することさえある。より新しい長期作用性の吸入式β2アドレナリン作用薬の最大の効果は、短期作用性β2アドレナリン作用薬の効果に匹敵することが見いだされた。サルメテロールは、症状と生活の質を改善することが見いだされたが、肺機能にはほんのわずかな変化があるか、変化がまったくない。β2-作用薬を使用すると、心臓血管に効果を及ぼすことができる。例えば心拍数、血圧、心電図が変化する。稀なケースでは、β2-作用薬を使用すると過敏反応(例えば蕁麻疹、血管性浮腫、発疹、咽頭浮腫)を生じることがある。その場合、β2-作用薬の使用を止めるべきである。喘息とCOPDの患者を気管支拡張薬である臭化イプラトロピウムまたはフェノテロールで治療し続けることは、必要に応じて治療するよりも優れているわけではないため、継続した治療には適していない。ところでβ2アドレナリン作用薬で最も一般的な即時的副作用は、震えである。投与量が多いと、血清カリウムの急降下、律動異常、動脈酸素分圧の低下が起こる可能性がある。β2アドレナリン作用薬を抗コリン作用薬と組み合わせでも、いずれか一方だけの薬の場合と比べて気管支がさらに拡張することはほとんどない。しかし吸入式β2アドレナリン作用薬の標準的な投与量にイプラトロピウムを約90日間にわたって追加すると、いずれか一方だけの薬の場合と比べ、安定したCOPDの患者に幾分かの改善が生じる。結局、β2アドレナリン作用薬を用いた副作用(例えば震え、律動異常)の発生が、抗コリン作用薬を用いた場合よりも頻繁になる。したがって抗コリン作用薬も、β2アドレナリン作用薬も、COPDのあらゆる患者に効果があるわけではなく、これら2つの薬を組み合わせた場合も同様である。
抗コリン作用薬では短期間の気管支拡張が実現し、COPDの患者に症状の緩和が幾分かもたらされるが、長期にわたる予後の改善は見られない。たいていのCOPDの患者には少なくともいくらかの気道閉塞があり、臭化イプラトロピウムによってそれが幾分か緩和される。“肺の健康の研究”により、男女の喫煙者で肺活量測定の結果に初期COPDの徴候が現われることがわかり、彼らを5年間にわたって追跡した。5年間にわたって3種類の治療法を比較した。その結果から、臭化イプラトロピウムは患者の肺の機能的有効体積の減少に対して有意な効果をもたらさないが、喫煙の停止によって肺の機能的有効体積の減少が遅くなることがわかった。しかし臭化イプラトロピウムは副作用(例えば心臓の症状、高血圧、皮膚の発疹、尿の残留)を生じさせた。
テオフィリンは、COPDの患者に穏やかな気管支拡張をもたらす一方で、副作用をしばしば引き起こすとともに、治療範囲が狭い。最適な効果を得るには15〜20mg/lという血清濃度が必要であるため、血清レベルを注意深くモニターせねばならない。副作用としては、吐き気、下痢、頭痛、被刺激性、痙攣、不整脈などがあり、それが広い範囲の血中濃度で起こり、しかも多くの人においてそれが治療範囲内でさえ起こる。テオフィリンの投与量は、喫煙習慣、感染症、受けている他の治療を考慮して個別に調節する必要があり、わずらわしい。テオフィリンは、特に少ない投与量だと喘息において抗炎症効果があるとこれまで主張されてきたが、COPDでは何も報告されていない。テオフィリンは、副作用があることと、頻繁にモニターせねばならないことのため、有効性が限られている。
経口コルチコステロイドは、COPDの急な悪化に関して短期的な改善をもたらすが、経口ステロイドを長期にわたって投与すると深刻な副作用(例えば骨粗鬆症、明らかな糖尿病の誘発)が生じることがわかっている。吸入式コルチコステロイドは、ヒスタミンに対する気道の過剰応答に関して短期の実質的な効果はないことがわかっている。吸入式フルチカゾンを用いて3年間にわたる治療を行なった2つの研究では、中程度の悪化と深刻な悪化が有意に減少するとともに、生活の質がわずかに向上したが、肺機能には影響がなかった。より可逆性のあるCOPDの患者は、吸入式フルチカゾンを用いた治療の恩恵をより多く受けるように見える。
粘液溶解物質は、悪化の頻度と継続期間に対してわずかにプラスの効果があるが、肺機能に対してはマイナスの効果をもたらす。しかしN-アセチルシステインも、他の粘液溶解物質も、悪化の頻度を大きく低下させるという証拠があるにもかかわらず、重いCOPDの患者(機能的有効体積が50%未満)では有意な効果がない。N-アセチルシステインは、胃腸に副作用を引き起こした。低酸素血COPDと鬱血性心不全の患者に長期酸素治療を行なっても最初の500日間ほどは死亡率にほとんど影響がなかったが、男性の生存率はその後に上昇し、続く5年間にわたって一定の値を維持した。しかし女性では、酸素が研究期間全体を通じて死亡率を低下させた。低酸素血COPDの患者に19.3年間にわたって連続して酸素治療を行なうと、死亡のリスクが全体として低下した。しかし現在までのところ、ライフスタイルの変化、喫煙の停止、(低酸素血症における)長期にわたる酸素治療だけが、COPDの長期にわたる進行を変化させることが見いだされている。
呼吸器感染症の最初の徴候が現われたとき、病気の肺にさらなるダメージと感染が起こることを防止するため、抗生物質もしばしば投与される。去痰薬は、気道からの粘液分泌を減らして除去するのに役立つため、呼吸を楽にするのに役立つ可能性がある。さらに、COPDに関連するさまざまな疾患に対処するのに他の薬を処方することもできる。その中には、利尿薬(右心不全に伴う過剰な水分滞留を避けるための治療法として投与される)、ジギタリス(心拍を強くする)、咳止めなどがある。ここに挙げた一連の薬はCOPDに伴う症状を緩和するのに役立つが、COPDを治療するわけではない。したがって、COPDの症状を緩和したり、悪化を防いだり、最適な肺機能を維持したり、日常の活動と生活の質を向上させたりするのに現在利用できる薬はほとんどない。
急性呼吸促迫症候群(ARDS)、または硬化肺、ショック肺、ポンプ肺、鬱血性無気肺は、体液が肺の中に蓄積することによって起こると考えられており、それが原因で肺を硬化させる。この疾患は、肺を損傷させるさまざまな原因(例えば外傷、頭部の怪我、ショック、敗血症、多数回の輸血、薬、肺塞栓症、重い肺炎、煙の吸入、放射線、高地、溺死に近い状態など)が発生してから48時間以内に始まる。一般に、ARDSは医学的緊急事態として起こり、血管が“漏れて”体液を直接的または間接的に肺に入り込ませる他の疾患によって起こる可能性がある。ARDSでは、肺拡張能力が大きく低下し、肺胞嚢と肺のライニングまたは内皮とが広範に損傷する。ARDSの最も一般的な症状は、苦しそうな早い呼吸、赤い鼻、組織に酸素が欠乏して起こるチアノーゼによる青白い皮膚や唇や爪、不安、一時的呼吸停止である。ARDSであるという仮の診断は、胸部X線撮影と動脈血のガス測定によって確認できる。例えばシトシンアラビノシドを用いた治療の後に進行する他の疾患(例えば急性骨髄性白血病、腫瘍溶解症候群(ATLS))に伴ってARDSが起こるように見える場合がある。しかしARDSは、一般に、外傷、重い血液感染症(例えば敗血症)、他の全身性の病気、大きな線量の放射線治療、化学療法に伴って起こるように見え、その結果として炎症応答から多臓器不全に至り、多くの場合には死が待っている。未熟児(“早産児”)では、肺組織も界面活性物質も十分に発達していない。呼吸窮迫症候群(RDS)が早産児に起こった場合には、極めて深刻な問題である。RDSになった早産児は、現在は、換気と、酸素および界面活性物質の投与によって治療される。早産児がRDSから生き延びても、気管支肺形成異常(BPD)になることがしばしばある。これは乳児期慢性肺疾患とも呼ばれており、致命的であることが多い。
アレルギー性鼻炎はアメリカ人の5人に1人がかかっており、ヘルスケアのコストが毎年40〜100億ドルになると見積もられている。しかもアレルギー性鼻炎は全年齢層で起こる。多くの人がその症状をしつこいカゼまたは副鼻腔の問題であると間違えるため、アレルギー性鼻炎と診断された人の数はおそらく実際よりも少ない。一般に、鼻の中でIgEがアレルゲンと組み一緒になって化学的メディエータを産生させ、細胞プロセスを誘導し、神経を刺激し、裏に隠れている炎症を引き起こす。症状としては、目および鼻の鬱血、分泌物、くしゃみ、かゆみなどがある。アレルギー性鼻炎に苦しんでいる人は、時間が経つと、副鼻腔炎、浸出液を伴った中耳炎、鼻ポリポーシスへと進行することが多い。アレルギー性鼻炎になっている患者の約60%が喘息も持っており、アレルギー性鼻炎の発赤が喘息を悪化させる。あらかじめ形成されたメディエータがマスト細胞の脱顆粒によって放出されてさまざまな細胞、血管、粘液腺と相互作用し、典型的な鼻炎の症状を生じさせる。アレルゲンに曝されると最初期相の反応と後期相の反応が鼻で起こる。後期相の反応は、慢性アレルギー性鼻炎で見られ、最も一般的な症状は過剰分泌と鬱血である。アレルゲンに繰り返して曝されると、1種類または多種類のアレルゲンに対して過敏反応が起こる。患者は、非特異的トリガー(例えば冷たい空気、強いにおい)に対して過敏になる可能性もある。非アレルギー性鼻炎は、アスピリン特異体質の患者でのように、感染(例えばウイルス)によって、または鼻ポリープに伴って誘発される可能性がある。
身体の状態(例えば妊娠や甲状腺機能低下)や、職業的因子および薬への曝露が、鼻炎を引き起こす可能性がある。いわゆるNARES症候群(好酸球増加症を伴う非アレルギー性鼻炎症候群)は非アレルギー・タイプの鼻炎であり、鼻分泌物の中に好酸球が混じっている。この症候群は一般に中年に起こり、幾分かの嗅覚喪失を伴う。アレルギー性鼻炎と非アレルギー性鼻炎の治療は満足のゆくものではない。自己投与する生理食塩水は、鼻詰まり、くしゃみ、鬱血を改善し、通常は副作用がないため、妊娠している患者で試みる最初の治療法である。生理食塩水のスプレーは、一般に、さまざまな鼻疾患に伴う粘膜の反応や乾燥を緩和すること、粘膜の萎縮を最少にすること、固まった粘液またはネバネバした粘液を除去することを目的として用いられている。鼻腔内にコルチコステロイドを投与する直前に生理食塩水のスプレーを用いると、薬によって誘導される局所的な反応を阻止するのに役立つ可能性がある。抗ヒスタミン(例えばテルフェナジンやアステミゾール)もアレルギー性鼻炎の治療に用いられる。しかし抗ヒスタミンを使用する場合には、通常は他の薬(例えばケトコナゾールやエリスロマイシン)と相互作用することにより、あるいは裏に隠れている心臓の問題に付随して、トルサード・ド・ポワントとして知られている心室頻脈も起こっている。ロラタジン(別の非鎮静抗ヒスタミン)やセチリジンを用いる場合には、QT間隔に対する悪い影響や、心臓血管イベントへの深刻な悪影響が見られている。しかしセチリジンは極端なウトウト状態を引き起こすため、広く処方されてはいない。非鎮静抗ヒスタミン(例えばクラリチン)は、くしゃみ、流れる鼻水、鼻のかゆみ、目のかゆみ、口蓋のかゆみを幾分か緩和する可能性があるが、喘息や他のより特別な疾患ではテストされていない。他方、テルフェナジン、ロラタジン、アステミゾールは、気管支拡張効果が極めて少なく、ヒスタミンに対する気管支の過剰反応を低下させ、運動や抗原によって誘発される気管支痙攣から保護してくれる。しかしこれらの利点のいくつかを得るには、通常推奨されているよりも多い投与量が必要とされる。鎮静タイプの抗ヒスタミンは夜眠りに入るのを助けてくれるが、眠気を誘うため、日中に摂取する場合には、その性能がマイナスに働く。抗ヒスタミンを使用する場合には、一般に鬱血除去薬と組み合わせ、鼻の鬱血を緩和する。交感神経様作用薬は、血管収縮薬や鬱血除去薬として使用される。一般に処方される3つの全身性鬱血除去薬プソイドエフェドリン、フェニルプロパノールアミン、フェニルエフリンは、高血圧、動悸、頻脈、不安感、不眠、頭痛を引き起こす。フェニルプロパノールアミンが2杯または3杯のコーヒーに含まれている量のカフェインと相互作用すると、血圧が顕著に上昇する可能性がある。さらに、プソイドエフェドリンなどの薬は、子どもを過敏症にする可能性がある。それに対して局所的鬱血除去薬は、過度に使用するとリバウンドで鼻腔が拡張するため、決められた期間だけ使用される。抗コリン作用薬は、重度の鼻漏や“味覚性鼻炎”(通常はスパイスの効いた食品を摂取することによって起こる)などの特別な疾患になった患者に投与されるが、普通のカゼにも幾分か効果がある可能性がある。例えばクロモリンは、鼻腔スプレーとして予防的に使用する場合には、くしゃみ、鼻漏、鼻のかゆみを減らし、早発過敏反応と遅延過敏反応の両方を阻止するが、くしゃみ、一時的頭痛を引き起こし、鼻のほてりさえ起こすことがある。局所用コルチコステロイド(例えばバンセナーゼ)は、鼻炎(特にかゆみの症状)、くしゃみ、流れる鼻水の治療には有効だが、鼻の硬化に対する有効性はそれほどではない。しかしコルチコステロイド鼻腔スプレーは、どのような製剤であるかにもよるが、刺激に対する反応、ちくちくした感じ、ほてり、くしゃみも引き起こす可能性がある。特にエーロゾルが標的に適切に向かわない場合には、局所的な出血や中隔の穿孔もときに起こる可能性がある。アレルギー性鼻炎の治療では、局所用ステロイドのほうがクロモリンナトリウムよりも一般に効果が大きい。免疫療法は、高価で不便であるが、他の薬の副作用を経験している入院患者に特に有効であることがしばしばある。いわゆるブロッキング抗体や、細胞からのヒスタミン放出を変化させる薬により、IgEが減少するとともに、他の多くの生理学的変化が起こることがある。この効果は、IgEを媒介とした疾患(例えば再発性中耳感染症のあるアトピー患者の過敏症)に役立つ。
肺線維症、間質性肺疾患(ILD)、間質性肺線維症には、肺組織を損傷させることによって肺を侵す130種類を超える慢性肺疾患が含まれており、その疾患によって肺の肺胞の壁に炎症が起こり、間質(すなわち肺胞相互間の組織)に瘢痕または線維症が生じ、肺が硬化する。運動時の息切れは、これらの疾患になっていることの初期症状の1つである可能性があり、乾いた咳が存在していることもある。さまざまなタイプの肺線維症を区別するのに症状やX線撮影では十分でないことがしばしばある。ある肺線維症患者は原因がわかっており、別の肺線維症患者は原因が不明であったり特発性だったりする。この疾患の進行は一般に予測不能であり、死が不可避である。進行すると、肺組織が厚くなって硬化し、炎症を起こし、呼吸困難になる。たいていの人で酸素治療が必要となる可能性があるが、唯一の利用法は肺移植である。
肺がんは世界で最も多いがんである。2003年には、アメリカ合衆国だけで約171,900人の新しい肺がん患者(そのうちで男性は91,800人、女性は80,100人)が誕生し、ヨーロッパではその数が約375,000人になるであろう。肺がんは、男女両方でがんによる死の第1位である。2003年には、肺がんによる死者が157,200人になると推定され、これはアメリカ合衆国だけでのあらゆるがんによる死者数の28%を占める。肺がんで亡くなる人の数は、大腸がん、乳がん、前立腺がんによる死者数を合わせたよりも多い(アメリカがん協会ウェブ・サイト、2003年、「詳細なガイド:肺がん:カギとなる統計は何か?」)。喫煙が肺がんの主な原因であることは明確になっており、原因の約90%はタバコに関連していると考えられている。肺がんのリスクと、1日に吸ったタバコの数、吸入の程度、喫煙開始年齢との間にははっきりとした量-応答関係が存在している。一生を通じて喫煙する人は、肺がんのリスクが非喫煙者の20〜30倍になる。しかし肺がんのリスクは、喫煙を止めてからの時間が長くなるほど低下する。男性のかつての喫煙者での相対リスクは、タバコの煙への曝露が終わってからの時間とともに急速に低下するが、非喫煙者と同程度のリスクに到達することはなく、女性のかつての喫煙者ほど低下するわけでもない(Tyczynski他、Lancer Oncol.、第4巻(1)、45〜55ページ、2003年)。
COPDと肺がんに同時に罹患することがしばしばあり、裏に隠れているCOPDの程度が、特定の患者が外科手術の候補となるかどうかを示している。NSCLC(非小細胞肺がん)は、手術(それに加えて放射線治療または補助的化学療法を行なう場合と行なわない場合がある)によってだけ完治する。
・肺がんの1年生存率(がんと診断されてから少なくとも1年間生きる人の数)は、1998年に42%であった。これは、主として外科手術の技術向上による。
・非小細胞肺がんの全ステージを合わせた5年生存率は、わずか15%である。小細胞肺がんの5年生存率は約6%である。小細胞肺がんでは、5年相対生存率は、約6%である。
・NSCLCが見つかってリンパ節や他の臓器に広がる前の段階で外科治療を受けた人では、5年生存率が約50%である。しかし肺がんになった人のうちでこの初期局在段階で診断がつくのは、わずか15%である。
明らかに、肺がんの化学的予防法と治療には改善の余地が多くある。
デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)(3β-ヒドロキシアンドロスト-5-エン-17-オン)は、副腎皮質から分泌される天然のステロイドであり、明らかに化学的保護特性を持っている。疫学研究により、内在性DHEAのレベルの低さと、ある形態のがん(例えば女性における閉経期前の乳がんや、男女両方の膀胱がん)が増殖するリスクの増大とが相関していることがわかった。DHEAおよびDHEAアナログ(例えばDHEA-S(硫酸DHEA))が発癌を阻止する能力は、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PDH)という酵素の活性が非競合的に阻害されることによって生じると考えられている。G6PDHは、リボース-5-リン酸とNADPHの細胞内供給源であるヘキソース一リン酸経路の律速酵素である。リボース-5-リン酸は、リボヌクレオチドとデオキシリボヌクレオチドの両方を合成するのに必要な基質である。NADPHは、核酸の生合成と、ヒドロキシメチルグルタリル補酵素Aレダクターゼ(HMG CoAレダクターゼ)の合成にも関係する補因子である。HMG CoAレダクターゼは通常とは異なる酵素であり、生成物であるメバロネート1モルが生成するごとに2モルのNADPHが必要とされる。したがってHMG CoAレダクターゼは、DHEAを媒介としたNADPHの欠乏に極めて敏感である可能性があり、DHEAで処理した細胞では、細胞内に貯えられたメバロネートがすぐに欠乏する可能性があると考えられる。メバロネートはDNAの合成に必要とされる。DHEAは、直接的なHMG CoAと非常によく似たやり方でヒト細胞を細胞サイクルのG1期に停止させる。タンパク質のイソプレニル化やドリコール(糖タンパク質を生合成するための前駆体)の合成といった細胞プロセスで使用されるメバロン酸を産生させるにはG6PDHが必要とされるため、DHEAは、メバロン酸を欠乏させることによって発癌を阻止し、その結果としてタンパク質のイソプレニル化と糖タンパク質の合成を阻止する。メバロネートは、コレステロールの合成においてと、タンパク質の翻訳後修飾に関与するさまざまな非ステロール化合物(例えばピロリン酸ファルネシル、ピロリン酸ゲラニル)の合成においてと、細胞-細胞コミュニケーションや細胞構造に関与する糖タンパク質の合成に必要なドリコールの合成において、中心的な役割を果たす前駆体である。副腎皮質起源のステロイド・ホルモンを医薬的に適切な量投与されている患者では、感染性疾患の発生数が多いことがかなり以前から知られている。アメリカ合衆国特許第5,527,789号には、患者にDHEAとユビキノンを投与することにより、DHEAに対する感受性のあるがんと闘う方法が開示されている。
DHEAは、哺乳動物で見つかった主要な副腎ステロイドホルモンの1つである17-ケトステロイドである。DHEAはステロイド合成において中間体として機能するように見えるが、DHEAの主要な生理学的機能は十分にわかっていない。しかしこのホルモンのレベルが10代に低下し始めることが知られている(老年期には元のレベルの5%になる)。DHEAは、臨床的には、乾癬、通風、高脂血症を患っている患者を治療するために全身および/または局所で使用されてきた。さらに、DHEAは心臓発作後の患者にも投与されてきた。哺乳動物では、DHEAが体重を最適化する効果と抗発癌効果を持つことがわかっており、ヨーロッパでは、臨床において、閉経期の症状を逆転させる薬としてのエストロゲンと組み合わせて使用されるとともに、躁鬱病、統合失調症、アルツハイマー病の治療にも用いられてきた。DHEAは、臨床において、進行がんや多発性硬化症の治療に40mg/kg/日の割合で使用されてきた。穏やかなアンドロゲン効果、多毛、性欲増進が、観察された副作用であった。これらの副作用は、投与量をモニターすることによって、および/またはアナログを使用することによって克服できる。DHEAを皮下投与または経口投与すると、感染に対する宿主の応答が改善することが知られている。DHEAを送達するのにパッチを用いる場合も同様である。DHEAは代謝経路における前駆体であり、それが最終的には哺乳動物で免疫応答を増大させるより強力な薬になることも知られている。つまりDHEAはプロドラッグとして作用する。DHEAは、アンドロステンジオールすなわちアンドロスト-5-エン-3β,17β-ジオール(βAED)、またはアンドロステントリオールすなわちアンドロスト-5-エン-3β,7β,17β-トリオール(βAET)に変換されると免疫調節因子として作用する。しかし試験管内では、DHEAは、βAEDおよび/またはβAETに変換される前は細胞増殖に対するリンパ球毒性効果と抑制効果を幾分か持っている。したがってDHEAの投与によって得られる優れた免疫増大特性は、より活性な代謝産物に変換されることによって生じると考えられている。
アデノシンは中間代謝に関与するプリンであり、肺においてさまざまな疾患(例えば気管支喘息、COPD、CF、RDS、鼻炎、肺線維症など)の重要なメディエータとなる可能性がある。喘息患者はエーロゾル化されたアデノシンに反応して顕著な気管支収縮を起こすのに対し、正常な人ではそうならないという発見から、アデノシン受容体の潜在的な役割が示唆された。モデル動物としての喘息のウサギ(ヒト喘息のモデルである、ホコリダニに対するアレルギーのあるウサギ)は、エーロゾル化されたアデノシンに同様に反応して顕著な気管支収縮を起こしたのに対し、喘息でないウサギは反応しなかった。このモデル動物を用いたより最近の研究によると、喘息においてアデノシンによって誘導される気管支収縮と気管支過敏応答は、主にアデノシン受容体が刺激されることによって起こる可能性のあることが示唆されている。アデノシンは、以前に過剰応答性気道であると明確に診断されなかった患者で他の疾患の治療に投与した場合に好ましくない効果(例えば死)を引き起こすもわかっている。アデノシンは、体内で細胞代謝の調節因子として独自の役割を果たしている。アデノシンは、細胞のエネルギー媒介役であるAMP、ADP、ATPのレベルを細胞内で上昇させることができる。アデノシンは、アデニル酸シクラーゼの活性を上方調節または下方調節することができるため、cAMPのレベルを調節できる。するとcAMPは、神経伝達物質の放出、細胞分裂、ホルモンの放出においてある役割を演じる。アデノシンの主要な役割は、損傷から保護するオータコイドとして作用することであるように見える。虚血、低酸素圧、外傷が起こるような疾患において、アデノシンはある役割を果たしているように見える。アデノシンの合成、放出、作用、分解における欠陥は、脳を興奮させるアミノ酸神経伝達物質を過度に活性化し、したがってさまざまな病的状態に関与すると推測されている。アデノシンは、気管支喘息やそれ以外の呼吸器疾患の症状、気管支収縮の誘導、気道平滑筋の収縮の裏にある主要な決定因子としても関与している。さらに、アデノシンは、喘息患者では気管支収縮を引き起こすが、非喘息患者では気管支収縮を引き起こさない。別のデータによると、アデノシン受容体も、中枢ドーパミン作用系の機能亢進を低下させることによってアレルギー応答と炎症応答に関与している可能性のあることが示唆されている。炎症細胞の表面におけるシグナル伝達の状態が変化すると急性の炎症に影響があると推測されている。アデノシンは、刺激を受けた好中球によるスーパーオキシドの産生を阻止すると言われている。最近の証拠によると、アデノシンは、脳卒中、CNS外傷、癲癇、虚血性心疾患、冠状動脈バイパス、放射線への曝露、炎症から保護する役割も持っている可能性のあることが示唆される。結局、アデノシンは、ATPを通じて細胞代謝を調節し、メチオニンの担体として機能し、細胞が要求する酸素を減らし、細胞を虚血性の損傷から保護しているように見える。アデノシンは、細胞が虚血、低酸素、ストレス、負荷増大の状態になったときや、要求されるATPが供給を超えたときに放出される組織ホルモン、または細胞間メッセンジャーである。アデノシンはプリンの1つであり、アデノシンの形成は、ATPの異化と直接結びついている。アデノシンは、いろいろな生理学的プロセス(例えば血管の緊張、ホルモンの作用、ニューロンの機能、血小板の凝集、リンパ球の分化)を調節しているように見える。アデノシンは、DNAの形成、ATPの生合成、一般的な中間代謝においてもある役割を演じている可能性がある。アデノシンは、脳やさまざまな末梢組織におけるcAMPの形成を調節していることが示唆されている。アデノシンは、2つの受容体A1とA2を通じてcAMPの形成を調節している。アデノシンは、A1受容体を通じてアデニル酸シクラーゼの活性を低下させる一方で、A2受容体ではアデニル酸シクラーゼを刺激する。アデノシンのA1受容体は、A2受容体よりもアデノシンに敏感である。アデノシンのCNS効果はA1受容体が媒介になっていると一般に考えられているのに対し、末梢効果(例えば低血圧、徐脈)は、A2受容体が媒介になっていると言われている。
呼吸器疾患を治療するのに少数の薬が使用されているが、一般に、そのどれにも制約がある。そのような薬として、グルココルチコイドステロイド、ロイコトリエン阻害薬、抗コリン作用薬、抗ヒスタミン、酸素治療、テオフィリン、粘液溶解物質などがある。グルココルチコイドステロイドは、副作用を生じさせることがよく知られているにもかかわらず、最も広く使用されている。しかし利用できるたいていの薬は、少数のケースにしか有効ではなく、喘息の治療に関してはまったく有効でない。他の呼吸器疾患の多くで現在利用できる治療法はない。喘息の治療にとって重要な薬の1つであるテオフィリンはアデノシン受容体拮抗薬であることが知られており、喘息のウサギにおいてアデノシンを媒介とした気管支収縮をなくしたことが報告されている。選択的アデノシンA1受容体拮抗薬である8-シクロペンチル-1,3-ジプロピルキサンチン(DPCPX)も、アレルギーのウサギにおいてアデノシンを媒介とした気管支収縮と気管支過剰反応を阻止したことが報告されている。しかし現在利用できるアデノシンA1受容体特異的拮抗薬は、その毒性のために利用が制限される。例えばテオフィリンは、喘息の治療に広く用いられてきたが、治療での投与量の範囲が狭いために大きな毒性を伴うことがしばしばある(胃腸障害、心臓血管障害、神経障害、生物学的障害)。DPCPXは、臨床で用いるには毒性が強すぎる。何十年にもわたって精力的に研究が続けられてきたにもかかわらず、特異的なアデノシン受容体拮抗薬を臨床で利用できないという事実が、これらの薬が一般に毒性を持っていることを証明している。
現在、喘息およびCOPD(その中には慢性気管支炎、肺気腫、ならびにこれら以外の肺疾患が含まれる)によって起こる喘鳴、息切れ、呼吸の乱れを治療するのにβ2-作用薬含有気管支拡張薬であるサルメテロールが市販されている。サルメテロールは、運動時の呼吸困難(気管支痙攣)を予防するのにも用いられている。サルメテロールは、口からの吸入によって用いるエーロゾルとして提供される。イギリスでは、セレベント(登録商標)アキュハラー(登録商標)、セレベント(登録商標)ディスクハラー(登録商標)、セレベント(登録商標)吸入器として市販されている(グラクソ・ウエルカム社、イギリス国)。
現在、COPD(その中には慢性気管支炎、肺気腫が含まれる)を抱える気管支収縮の入院患者を治療するのにβ2-作用薬含有気管支拡張薬であるホルモテロールが市販されている。このホルモテロールは、12μgのフマル酸ホルモテロールと25mgのラクトースを含む乾燥粉末製剤(フォラディル(登録商標))を収容したカプセルの形態で市販されており、口から吸入するのにエーロライザー(登録商標)吸入器(シェリング社、ケニルワース、ニュージーランド国)だけが用いられる。
アメリカ合衆国特許第5,660,835号(と、対応するPCT出願WO 96/25935)には、対象にデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)またはDHEA関連化合物を投与することにより、その対象の喘息またはアデノシンの欠乏を治療する新規な方法が開示されている。この特許には、吸い込み可能な粒子サイズになったDHEAまたはDHEA関連化合物を含む吸入可能な製剤または吸い込み可能な製剤に関する新規な医薬組成物も開示されている。
アメリカ合衆国特許第5,527,789号には、対象にDHEAまたはDHEA関連化合物とユビキノンとを投与してそのDHEAまたはDHEA関連化合物によって誘導される心不全と闘うことにより、がんと闘う方法が開示されている。
アメリカ合衆国特許第6,087,351号には、対象にDHEAまたはDHEA関連化合物を投与することにより、その対象の組織におけるアデノシンを低下または欠乏させるインビボ法が開示されている。
2003年6月3日に出願されたアメリカ合衆国出願シリアル番号第10/454,061号には、対象にDHEAまたはDHEA関連化合物を投与することにより、その対象のCOPDを治療する方法が開示されている。
2003年6月17日に出願されたアメリカ合衆国出願シリアル番号第10/462,901号には、安定な乾燥DHEA粉末製剤が噴霧可能な形態で容器の中に密封されたものが開示されている。
2003年6月17日に出願されたアメリカ合衆国出願シリアル番号第10/462,927号には、喘息とCOPDの治療に適した結晶形態のDHEA-S二水和物を安定な乾燥粉末製剤にしたものが開示されている。
上記の特許と特許出願は、参考としてその全体がこの明細書に組み込まれているものとする。
現在のところ治療できないか、大きな副作用のない効果的な治療法が少なくとも利用できない呼吸器疾患、肺疾患、がんを治療するための新規で有効な方法が、明らかに必要とされている。それは、呼吸管が侵される疾患、より詳細には、肺と肺気道が侵される疾患の場合であり、そのような疾患としては、息切れ、喘息、気管支収縮、肺炎、アレルギー、界面活性物質の欠乏または低分泌などがある。さらに、予防と治療に応用できて、しかも活性剤の量が少なくて済むため、より低コストで副作用がより少ない治療法が明らかに必要とされている。
さらに、薬の摂取に関して患者のコンプライアンスを確実に向上させることと、喘息、COPD、あるいは他の呼吸器疾患を予防または治療するのに必要な複数の化合物の摂取を容易にすることが必要とされている。
定義
本発明の文脈では、“アデノシン”および“界面活性剤”の欠乏という用語には、対象の体内でのレベルが以前と比べて低下または不足していることと、その対象におけるレベルが以前と実質的に同じであることが含まれるものとする。後者が含まれるのは、他の何らかの理由でこれら物質のレベルが以前のレベルと比べて変化することにより、患者の体内で好ましい治療効果が実現する可能性があるからである。
この明細書では、“気道”という用語は、対象の呼吸系で空気に曝されている部分の全体または一部を意味する。気道には、喉、気管気管支系、鼻道、副鼻腔などが含まれる。気道には、気管、気管支、細気管支、終末細気管支、呼吸細気管支、肺胞管、肺胞嚢も含まれる。
この明細書では、“気道炎”という用語は、対象の気道の炎症に関する疾患または症状を意味する。気道炎は、アレルギー、喘息、つかえた呼吸、嚢胞性線維症(CF)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アレルギー性鼻炎(AR)、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、微生物感染、ウイルス感染、肺性高血圧、肺炎、気管支炎、がん、気道閉塞、気管支収縮によって起こる可能性、またはこれらの原因に付随して起こる可能性がある。
この明細書では、“基剤”という用語は、生物学的に許容可能な基剤が、意図するさまざまな投与経路に適するように気体、液体、固体の形態になったもの、またはこれらの混合物となったものを意味する。基剤は、医薬的または獣医学的に許容可能であることが好ましい。
この明細書では、“有効な量”という用語は、治療または予防にプラスの効果がある量を意味する。
“他の治療薬”という用語は、組成物の第1の活性剤でも第2の活性剤でもないあらゆる治療薬を意味する。
この明細書では、“予防”という用語は、対象が、疾患を経験する前、または以前に診断されていた症状の悪化を経験する前になされる予防的治療を意味する。そのためその対象は、関係する疾患の症状または病状を回避すること、阻止すること、そうなる確率を低下させることができる。その対象は、その疾患になったり、以前に診断されていた症状が悪化したりするリスクが大きい人である。
この明細書では、“呼吸器疾患”という用語は、呼吸系に関係する疾患または症状を意味する。具体的には、気道炎、アレルギー、つかえた呼吸、嚢胞性線維症(CF)、アレルギー性鼻炎(AR)、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、がん、肺性高血圧、肺炎、気管支炎、気道閉塞、気管支収縮、微生物感染、ウイルス感染(例えばSARS)などが挙げられる。
この明細書では、“治療する”、“治療している”、“治療”という用語は、疾患になる可能性または他の病気の症状を示す可能性を低下させる処置を対象に対して施すこと意味する。
本発明により、非グルココルチコイドステロイド(例えばエピアンドロステロン(EA)、そのアナログ、その塩)を含む第1の活性剤を、β2-作用薬含有気管支拡張薬を含む第2の活性剤と組み合わせて含む組成物が提供される。この組成物は、医薬的に、または獣医学的に許容可能な基剤、希釈剤、賦形剤、生物活性のある薬または成分をさらに含むことができる。この組成物は、喘息、COPD、または他の呼吸器疾患の治療に役立つ。この組成物がやはり治療に役立つ他の呼吸器疾患は、気管支収縮、および/または肺炎、および/またはアレルギーに伴う肺疾患および呼吸器疾患と、肺がんである。
第1の活性剤は、エピアンドロステロン、そのアナログ、その医薬的に許容可能な塩、その獣医学的に許容可能な塩である。エピアンドロステロン、そのアナログ、その医薬的に許容可能な塩、その獣医学的に許容可能な塩の選択は、
化学式(I):
(式中、破線は、単結合または二重結合を表わし;Rは、水素またはハロゲンであり;5位のHは、α配置またはβ配置で存在するか、化学式(I)の化合物が両方の配置のラセミ混合物を含んでおり;R
1は、水素であるか、この化合物に共有結合した多価の無機ジカルボン酸または有機ジカルボン酸である)
の非グルココルチコイドステロイド;
化学式(III)の非グルココルチコイドステロイド:
;
化学式(IV)の非グルココルチコイドステロイド:
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
7、R
8、R
9、R
10、R
12、R
13、R
14及びR
19は、独立に、H、OR、ハロゲン、(C
1〜C
10)アルキルまたは(C
1〜C
10)アルコキシのいずれかであり、R
5とR
11は、独立に、OH、SH、H、ハロゲン、医薬的に許容可能なエステル、医薬的に許容可能なチオエステル、医薬的に許容可能なエーテル、医薬的に許容可能なチオエーテル、医薬的に許容可能な無機エステル、医薬的に許容可能な単糖、医薬的に許容可能な二糖、医薬的に許容可能なオリゴ糖、スピロオキシラン、スピロチラン、-OSO
2R
20、-OPOR
20R
21または(C
1〜C
10)アルキルのいずれかであり、あるいはR
5とR
6は、一緒になって=Oとなり、あるいはR
10とR
11は、一緒になって=Oとなり;R
15は、(1)R
16が-C(O)OR
22である場合に、H、ハロゲン、(C
1〜C
10)アルキル、または(C
1〜C
10)アルコキシのいずれかであり、(2)R
16がハロゲン、OHまたは(C
1〜C
10)アルキルのいずれかである場合に、H、ハロゲン、OHまたは(C
1〜C
10)アルキルであり、(3)R
16がOHである場合に、H、ハロゲン、(C
1〜C
10)アルキル、(C
1〜C
10)アルケニル、(C
1〜C
10)アルキニル、ホルミル、(C
1〜C
10)アルカノイル、またはエポキシのいずれかであり、(4)R
16がHである場合に、OR、SH、H、ハロゲン、医薬的に許容可能なエステル、医薬的に許容可能なチオエステル、医薬的に許容可能なエーテル、医薬的に許容可能なチオエーテル、医薬的に許容可能な無機エステル、医薬的に許容可能な単糖、医薬的に許容可能な二糖または医薬的に許容可能なオリゴ糖、スピロオキシラン、スピロチラン、-OSO
2R
20または-OPOR
20R
21のいずれかであり、あるいはR
15とR
16は一緒になって=Oとなり;R
17とR
18は、独立に、(1)R
6がH、OR、ハロゲン、(C
1〜C
10)アルキルまたは-C(O)OR
22のいずれかである場合に、H、-OH、ハロゲン、(C
1〜C
10)アルキル、(C
1〜C
10)アルコキシのいずれかであり、(2)R
15とR
16が一緒になって=Oとなっている場合に、H、(C
1〜C
10)アルキル)アミノ、((C
1〜C
10)アルキル)
nアミノ-(C
1〜C
10)アルキル、(C
1〜C
10)アルコキシ、ヒドロキシ-(C
1〜C
10)アルキル、(C
1〜C
10)アルコキシ-(C
1〜C
10)アルキル、(ハロゲン)
m(C
1〜C
10)アルキル、(C
1〜C
10)アルカノイル、ホルミル、(C
1〜C
10)カルバルコキシまたは(C
1〜C
10)アルカノイルオキシのいずれかであり、あるいは(3)R
17とR
18は、一緒になって=Oとなり、(4)R
17またはR
18は、これらの基が結合する炭素原子と一緒になって、酸素原子を0個または1個含む3〜6員の環を形成し、あるいは(5)R
15とR
17は、これらの基が結合する炭素原子と一緒になって、エポキシド環を形成し;R
20とR
21は、独立に、OH、医薬的に許容可能なエステルまたは医薬的に許容可能なエーテルのいずれかであり;R
22は、H、(ハロゲン)
m(C
1〜C
10)アルキルまたは(C
1〜C
10)アルキルのいずれかであり;nは、0、1または2のいずれかであり;そしてmは、1、2、3のいずれかである)
;これらの組み合わせ;その医薬的に許容可能な塩、その獣医学的に許容可能な塩の中から行なう。
化学式(I)の化合物では、多価の有機ジカルボン酸は、SO
2OM(ただしMは対イオンを含んでいる)、リン酸、炭酸のいずれかであることが好ましい。対イオンの具体例は、H、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、カルシウム、リチウム、アンモニウム、アミン、アルギニン、リシン、ヒスチジン、トリエチルアミン、エタノールアミン、コリン、トリエタノールアミン、プロカイン、ベンザチン、トロメタミン、ピロリジン、ピペラジン、ジエチルアミン、スルファチド:
、
ホスファチド:
(ただしR
2とR
3は、同じでも異なっていてもよく、直鎖または分岐鎖の(C
1〜C
14)アルキル、またはグルクロニド:
である)のいずれかである)
である。
化学式(I)の化合物の5位の水素原子は、α配置またはβ配置で存在することができる。あるいはこのDHEA化合物は、両方の配置を持つ化合物の混合物として提供することもできる。上記の化学式(I)で表わされる代表的な化合物としては、RとR1がそれぞれ水素であり、二重結合を含んでいるDHEA;RがBrであり、R1がHであり、二重結合を含んでいる16-αブロモエピアンドロステロン;RがFであり、R1がHであり、二重結合を含んでいる16-αフルオロエピアンドロステロン;RとR1がそれぞれ水素であり、二重結合を含まないエチオコラノロン;RがHであり、R1がSO2OMであり、Mが上に定義したスルファチド基であり、二重結合を含まない硫酸デヒドロエピアンドロステロンなどがある。しかし他のものも挙げられる。化学式(I)で表わされる別の好ましい化合物としては、Rがハロゲン(例えばブロモ、クロロ、フルオロ)であり、R1が水素であり、二重結合が存在している化合物もある。非常に好ましい化学式(I)の1つの化合物は、16-αフルオロエピアンドロステロンである。他の好ましい化合物は、DHEAとDHEA塩(例えば硫酸塩であるDHEA-S)である。
一般に、非グルココルチコイドステロイド(例えば化学式(I)、(III)、(IV)の非グルココルチコイドステロイド)、その誘導体、その塩は、体重1kgにつき約0.05mg、約0.1mg、約1mg、約5mg、約20mg〜約100mg、約500mg、約1000mg、約1500mg、約1800mg、約2500mg、約3000mg、約3600mgが投与される。しかし他の投与量も適切であり、本明細書で考慮される。化学式(I)、(III)、(IV)で表わされる第1の活性剤は、公知の方法で製造すること、または当業者には明らかなその変形法で製造することができる。例えば、アメリカ合衆国特許第4,956,355号;イギリス国特許第2,240,472号;EPO特許出願第429,187号;PCT特許出願公開WO 91/04030;アメリカ合衆国特許第5,859,000号;Abou-Gharbia他、J. Pharm. Sci.、第70巻、1154〜1157ページ、1981年;『メルク・インデックス・モノグラフ』第7710号(第11版、1989年)などを特に参照のこと。
本発明のいくつかの実施態様では、第1の活性剤をエピアンドロステロンのアナログまたはその誘導体にすることができる。エピアンドロステロンのプロドラッグと活性な代謝産物も、本発明の範囲に含まれる。当業者であれば、この明細書に記載した化合物が互変異性、配座異性、幾何異性、光学異性という現象を示す可能性のあることが理解できよう。本発明には、この明細書に記載した1つ以上の用途を持つ化合物のあらゆる互変異性体、配座異性体、光学異性体、幾何異性体と、このようなさまざまな形態の混合物が含まれることを理解する必要がある。
エピアンドロステロンの代謝産物(例えば以下の参考文献に記載されているもの)を第1の活性剤として用いることができよう(「テルブタリンで治療した喘息の子どもの尿ステロイドに関する毛管ガス・クロマトグラフィ」、Chromatographia、1998年、第48巻(1/2)、163〜165ページ;「ヒト肺線維芽細胞におけるアンドロステンジオンの代謝」、Journal of Steroid Biochemistry、1986年、第24巻(4)、893〜897ページ;「培養したヒトの肺組織と肺内皮細胞におけるアンドロステロンと5α-アンドロスタン-3α,17β-ジオールの代謝」、Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism、1985年、第60巻(2)、244〜250ページ;「ヒト肺組織によるテストステロンの代謝」、Journal of Steroid Biochemistry、1978年、第9巻(1)、29〜32ページ;「培養したヒトの肺組織と肺内皮細胞におけるアンドロステロンと5α-アンドロスタン-3α,17β-ジオールの代謝」、Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism、1985年2月、第60巻(2)、44〜50ページ;「培養したヒト肺内皮細胞におけるデヒドロイソアンドロステロンとアンドロステンジオンの代謝」、Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism、1983年5月、第56巻(5)、930〜935ページ;「試験管内のヒト肺によるデヒドロイソアンドロステロンとアンドロステンジオンの代謝」、Journal of Steroid Biochemistry、1977年4月、第8巻(4)、277〜284ページ;「試験管内のイヌ肺におけるテストステロンの代謝」、Steroids and Lipids Research、1973年、第4巻(1)、17〜23ページ。なおこれら参考文献は、その全体がこの明細書に組み込まれているものとする)。
DHEAの他のアナログで第1の活性剤として使用可能な適切なものをこの明細書に記載してある。図20には、DHEAの適切ないくつかのアナログが示してあり、その中に化学式(IA)、(IB)、(IC)、(ID)の化合物が含まれる。この明細書で適切なR基を説明する際に、結合点をCH2基または星印を付けた原子で示してある。R1およびR3としては直鎖または分岐鎖のアルキルが可能であり、具体例としては、ベンジル、場合によっては置換されているアルキル(アミノアルキルなど)、ヒドロキシアルキル、エーテル、カルボン酸、場合によっては置換されているアリール、ヘテロアリールなどがある。R1およびR3としては、例えば以下のものが可能である。
化学式(IA)の化合物の具体例としては以下のものがある。
R2は、二酸またはアミノ酸に由来する置換基であることが好ましく、可能なものとして、クロロアセチル誘導体、アクリル酸誘導体、場合によっては置換されているアリール(例えばベンジル、ヘテロベンゾイル)などがある。化学式(IB)の化合物の具体例としては以下のものがある。
化学式(IC)の化合物の具体例としては以下のものがある。
R4としては芳香族性のものが可能であり、化学式(ID)の適切な化合物の具体例としては以下のものがある。
他の適切なアナログとしては、OHを保持することによって、またはOHをNHで置換することによってC-3位を修飾したアナログがある。そのアナログは、一般に、図21に示したように、C-17アセタールが保護されたアンドロスト-4-エン-3,17-ジオンを出発物質として作られる。化学式(IE)の化合物は、グリニャール試薬とおそらくアリール-リチウム試薬(例えば芳香族性のもの)から得ることができ、アルキニル、アルケニル、アルキルも化学式(IE)の化合物として可能である。R5の具体例は以下のものである。
化学式(IE)の化合物としては以下のものがある。
R6とR8は、独立に、さまざまなアミンにすることができ、R6およびR8として、例えばR1基に関して説明した官能基を有するアミンが挙げられる。化学式(IF)の適切な化合物としては以下のものがある。
適切なR7基はグリニャール/有機リチウム試薬から得ることができるため、R7基として、R5に関して説明した官能基が挙げられる。化学式(IG)の化合物の具体例としては以下のものがある。
化学式(IH)の化合物の具体例としては以下のものがある。
他の適切なアナログとしては、DHEAのC-2位が修飾された化合物がある。適切な修飾を図22に示してある。R9としては、アルキル化剤に由来するもの(例えばアルキル、ベンジル、ヘテロベンジル)や、他の活性化したハロゲン化物の誘導体が可能である。R9の具体例としては以下のものがある。
化学式(IJ)の化合物の具体例としては以下のものがある。
R10としては、芳香族エステル(例えばアリール環またはヘテロアリール環を持つもの)やエノール化可能なアルキルエステルが可能である。化学式(IK)の化合物の具体例としては以下のものがある。
R11としては、一連の芳香族アルデヒドとヘテロ芳香族アルデヒドが可能であり、例えばベンゼンカルボキシアルデヒドとその置換された変異体、ピリジンカルボキシアルデヒド、エノール化不能なアルデヒド(例えば(CH3)3CCH=O)などがある。化学式(IL)の化合物の具体例としては以下のものがある。
R12としては、一部のアミン(例えばR6に関して説明したもの)が可能である。化学式(IN)の化合物の具体例としては以下のものがある。
DHEAのC-17ケトンに対する適切な修飾を図23に示してある。図23に示した化合物は、第1の活性剤としても使用できる。
DHEAの他の適切なアナログは、アメリカ合衆国特許第6,635,629号;ヨーロッパ特許第934745号;「デヒドロエピアンドロステロンとそのアナログは、AP-1へのDNAの結合と気道平滑筋の増殖を阻止する」、Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics、1998年、第285巻(2)、876〜883ページ;「デヒドロエピアンドロステロンと関連ステロイドは、試験管内でミトコンドリアの呼吸を阻止する」、International Journal of Biochemistry、1989年、第21巻(10)、1103〜1107ページに記載されている。なおこれら文献の内容全体が、参考としてこの明細書に組み込まれているものとする。
第2の活性剤は、長期作用性のβ2-作用薬を含む気管支拡張薬である。気管支拡張薬は、気道の周囲を取り巻いている筋肉帯を弛緩させ、そのことによってより多くの空気が肺に出入りできるようにして呼吸を改善する。気管支拡張薬は、肺から粘液を除去するのにも役立つ。気道が開くと粘液はより自由に動けるようになるため、その粘液が咳によって外に出たり、その粘液を取り出したりすることがより簡単になる。気管支拡張薬には短期作用性の形態と長期作用性の形態がある。短期作用性の形態は、喘息の症状を緩和または停止させるのに対し、長期作用性の形態は、喘息の症状を制御したり、喘息の発作を予防したりする。
本発明の範囲に含まれるβ2-作用薬として、アメリカ合衆国特許第3,994,974号、第4,600,710号、第4,894,219号、第4,992,474号、第5,108,363号、第5,126,375号、第5,225,445号、第5,234,404号、第5,258,385号、第5,286,252号、第5,460,605号、第5,684,199号、第6,156,503号、第6,297,382号、第6,441,181号(参考としてその全体がこの明細書に組み込まれているものとする)に記載されている化合物がある。β2-作用薬の具体例は、エフェドリン、イソプロテレノール、イソエタリン、エピネフリン、メタプロテレノール(短期作用形態:アルペント(登録商標)、ベーリンガー・インゲルハイム社(カナダ)、メタプレル)、テルブタリン(短期作用形態:ブレテール、ライカー・ラボラトリーズ社、ブレチン、ノバルティス社)、フェノテロール、プロカテロール、アルブテロール(短期作用形態:アルブテロール(ジェネリック、IVAX社;ベントリン、アレン&バンベリーズ社、プロベンティル、シェリング社、プロベンティルHFA、キー・ファーマシューティカルズ社;長期作用形態:プロベンティル・レペタブズ、シェリング社、ボルマックス、ムロ・ファーマシューティカル社))、サルメテロール(長期作用形態:セレベント、グラクソスミスクライン社、セレベントディスカス、グラクソ・ウエルカム社)、ピルブテロール(短期作用形態:マックスエア、3Mファーマシューティカルズ社)、ホルモテロール(長期作用形態:フォラディル・エーロライザー、シェリング社)、ビトルテロール(短期作用形態:トルナレート、エラン・ファーマシューティカルズ社とサノフィ社)、レバルブテロール(短期作用形態:キソポネックス、セプラコール社)、バンブテロール、サルブタモール、セレチドなどである。長期作用性β2-作用薬は、サルメテロールまたはホルモテロールであることが好ましい。
サルメテロールは、化学式(V)と(VI)で定義される化合物を含んでいる。化学式(V)で定義される化合物(イギリス国特許明細書第1200886号)は以下のものである。
。
この化学式(V)において、X
1がヒドロキシアルキルであり、R
1とR
2がそれぞれ水素原子であり、R
3が直鎖または分岐鎖のC
1〜6アルキル、アラルキル、アリールオキシアルキルのいずれかであるものが特に挙げられる。この特別なグループに属する化合物が1つ、臨床用に開発されている。それは、サルブタモール[(α1-t-ブチルアミノモチル)-4-ヒドロキシ-m-キシレン-α1,α3-ジオール]であり、上記の化学式において、X
1=CH
2OH、R
1=-H、R
2=-H、R
3=t-ブチルになっている。現在のところ、気管支喘息と慢性気管支炎などの疾患を治療するのにこのサルブタモールが広く処方されている。サルブタモールの成功は、その作用プロファイル(特に効力)が、β2-アドレナリン受容体に対する選択的刺激作用と組み合わさることによって生じる。
臨床の現場で現在使用されているどのβ2-作用薬にも欠点がある。それは、吸入投与したときに作用期間が短いことである。したがって作用期間が比較的長いβ2-作用薬があれば、気管支喘息とその関連疾患を治療する上で大きな進歩となる。
長期作用性β2-作用薬としては、化学式(VI)の化合物:
(ただし、mは2〜8の整数であり、nは1〜7の整数であるが、和m+nは4〜12であり;Arは、場合によっては1個または2個の置換基で置換されているフェニル基(置換基の選択は、ハロゲン原子、C
1〜3アルキル基、C
1〜3アルコキシ基の中から行なう)、または化学式-O(CH
2)
pO-(pは1または2)のアルキレンジオキシ基で置換されているフェニル基を表わし;R
1とR
2は、それぞれ、水素原子またはC
1〜3アルキル基を表わすが、R
1とR
2の炭素原子の合計数は4以下である)と、その生理学的に許容可能な塩および溶媒和物(例えば水和物)もある。
化学式(VI)の化合物は、1個または2個の不斉炭素原子を含んでいる。それは、以下に示す基:
の炭素原子である。R
1とR
2が異なる基である場合には、これらの基に結合している炭素原子が不斉炭素原子である。
したがって本発明の化合物には、あらゆる鏡像異性体、ジアステレオ異性体、その混合物(例えばラセミ化合物)が含まれる。以下に示す基:
の炭素原子がR配置になっている化合物が好ましい。
化学式(VI)において、鎖部-(CH2)m-としては、例えば、-(CH2)3-、-(CH2)4-、-(CH2)5-、-(CH2)6-、-(CH2)7-のいずれかが可能であり、鎖部-(CH2)n-としては、例えば、-(CH2)2-、-(CH2) 3-、-(CH2)4-、-(CH2)5-、-(CH2)6-のいずれかが可能である。
鎖部-(CH2)m-と-(CH2)n-に含まれる炭素原子の合計数は6〜12であることが好ましく、例えば7、8、9、10にすることができる。m+nの和が7、8、9のいずれかである化合物が特に好ましい。
化学式(VI)の好ましい化合物は、mが3でnが6である化合物、mが4でnが3、4、5のいずれかである化合物、mが5でnが2、3、4、5のいずれかである化合物、mが6でnが2または3の化合物である。
R1およびR2としては、それぞれ、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基のいずれかが可能であるが、R1とR2の一方がプロピル基またはイソプロピル基である場合には、他方は水素原子またはメチル基である。したがってR1としては、例えば水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基のいずれかが可能である。R2としては、例えば水素原子またはメチル基が可能である。
R1とR2は、それぞれ、水素原子またはメチル基であることが好ましい。
好ましい一群の化合物は、R1とR2の両方が水素原子である化合物である。好ましい別の一群の化合物は、R1が水素原子で、R2がC1〜3アルキル基(特にメチル基)である化合物である。好ましいさらに別の一群の化合物は、R1とR2の両方がメチル基である化合物である。
化学式(VI)に含まれる鎖部:
としては、例えば、-(CH
2)
4O(CH
2)
4-、-(CH
2)
5O(CH
2)
2-、-(CH
2)
5O(CH
2)
3-、-(CH
2)
5O(CH
2)
4-、
(ただしR
1は、メチル、エチル、プロピルのいずれかである)が可能である。
Arで表示したフェニル基に存在しうる最適な置換基の具体例としては、臭素原子、ヨウ素原子、塩素原子、フッ素原子、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基などがある(中でも塩素原子、フッ素原子、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基が好ましい)。一般に、Arは、置換されていないフェニル基であることが好ましい。別の好ましい一実施態様によれば、Arは、1個の置換基(特にフッ素原子、塩素原子、メトキシ基、メチル基、)で置換されたフェニル基である。
化学式(V)で表わされる化合物の生理学的に許容可能な塩で適切なものとしては、無機酸と有機酸に由来する酸添加塩がある。具体的には、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、安息香酸塩、4-メトキシ安息香酸塩、2-ヒドロキシ安息香酸塩、4-ヒドロキシ安息香酸塩、4-クロロ安息香酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、アスコルビン酸塩、サリチル酸塩、酢酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、乳酸塩、グルタル酸塩、グルコン酸塩、トリカルバリル酸塩、ヒドロキシナフタレンカルボン酸塩(例えば1-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸塩、3-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸塩)、オレイン酸塩などがある。化学式(V)の化合物は、適切な塩基と塩を形成することもできる。そのような塩の具体例は、アルカリ金属(例えばナトリウム、カリウム)の塩とアルカリ土類金属(例えばカルシウム、マグネシウム)の塩である。
第2の活性剤となる化合物は、β2-アドレナリン受容体に対する選択的刺激作用を有する。これは、さらに別の特に好ましいプロファイルである。その刺激作用はモルモットで証明されており、この化合物は、分離した気管がPGF2αによって収縮するのを弛緩させることがわかっている。別のテストでは、意識のあるモルモットに吸入または経口経路によって本発明の化合物を投与すると、ヒスタミンによって誘導される気管支収縮から保護されることがわかっている。両方のテストにおいて、本発明の化合物が特に長い作用期間を持つことがわかった。この化合物の作用は、ラットまたはモルモットで証明されている。この化合物は、分離した気管がPGF2αによって収縮するのを弛緩させる濃度では、ラットまたはモルモットから分離した左心房(β1-アドレナリン受容体組織)に対してほとんど効果を持たないか、まったく効果を持たないことがわかった。本発明の化合物は、感作したヒト組織(例えば肺の断片)からのスパスモーゲンや炎症物質のアナフィラキシー的な放出を阻止することもわかっている(アメリカ合衆国特許第4,992,474号、第5,126,475号、第5,225,445号;その全体が、この明細書に参考として組み込まれているものとする)。
本発明の化合物は、可逆的な気道閉塞に関連する疾患(例えば喘息、COPD、慢性気管支炎)の治療に用いることができる。
本発明の化合物は、早産、鬱病、鬱血性心不全の治療にも用いることができ、炎症性疾患、アレルギー性皮膚疾患、乾癬、増殖性皮膚疾患、緑内障の治療や、特に胃潰瘍と消化性潰瘍において胃酸を減らすことが有利である疾患の治療にも適応がある。
好ましいことに作用期間が長いことがわかっている特に重要な一群の化合物(アメリカ合衆国特許第4,992,474号、第5,126,375号、第5,225,445号;その全体が、この明細書に参考として組み込まれているものとする)は、化学式(VII):
を持つもの(ただし、R
1とR
2は化学式(VI)で定義したのと同じものであり;mは3〜6の整数であり;nは2〜6の整数であり;Arは、フェニルであるか、あるいはメトキシ基、メチル基、フッ素原子、塩素原子(フッ素原子または塩素原子のほうが好ましい)のいずれかで置換されたフェニルである)と、その生理学的に許容可能な塩および溶媒和物である。なおそれぞれの場合に鎖部-(CH
2)
m-と-(CH
2)
n-に含まれる炭素原子の合計数は、7〜10、特に7、8、9である。
化学式(VII)の好ましい一群の化合物は、R1とR2がそれぞれ水素原子になっている化合物である。
化学式(VII)の好ましい別の一群の化合物では、R1が水素原子またはメチル基であり、R2がメチル基である。
化学式(VII)のさらに好ましい別の一群の化合物では、R1とR2がそれぞれ水素原子であり、Arがフェニルであるか、あるいはメトキシ基、フッ素原子、塩素原子(フッ素原子または塩素原子のほうが好ましい)のいずれかで置換されたフェニルである。
特に好ましい一群の化合物は、化学式(VII)において、R1とR2がそれぞれ水素原子またはメチル基であり、mが4または5であり、nが2、3、4のいずれかであり、Arがフェニルであるか、あるいは塩素原子、フッ素原子、メトキシ基、メチル基のいずれかで置換されたフェニルである化合物と、その生理学的に許容可能な塩および溶媒和物である。
特に重要な化合物は、
4-ヒドロキシ-α1-[[[6-(4-フェニルブトキシ)ヘキシル]アミノ]メチル]-1,3-ベンゼンジメタノールと;その生理学的に許容可能な塩;
4-ヒドロキシ-α1-[[[6-(3-フェニルプロポキシ)ヘキシル]アミノ]メチル]-1,3-ベンゼンジメタノールと;その生理学的に許容可能な塩;
4-ヒドロキシ-α1-[[[6-(2-フェニルエトキシ)ヘキシル]アミノ]メチル]-1,3-ベンゼンジメタノールと;その生理学的に許容可能な塩;
4-ヒドロキシ-α1-[[[5-(4-フェニルブトキシ)ペンチル]アミノ]メチル]-1,3-ベンゼンジメタノールと;その生理学的に許容可能な塩;
4-ヒドロキシ-α1-[[[1-メチル-6-(2-フェニルエトキシ)ヘキシル]アミノ]メチル]-1,3-ベンゼンジメタノールと;その生理学的に許容可能な塩;
4-ヒドロキシ-α1-[[[1-メチル-5-(3-フェニルプロポキシ)ペンチル]アミノ]メチル]-1,3-ベンゼンジメタノールと;その生理学的に許容可能な塩;
4-ヒドロキシ-α1-[[[1-メチル-5-(4-フェニルブトキシ)ペンチル]アミノ]メチル]-1,3-ベンゼンジメタノールと;その生理学的に許容可能な塩;
4-ヒドロキシ-α1-[[[1-エチル-6-(2-フェニルエトキシ)ヘキシル]アミノ]メチル]-1,3-ベンゼンジメタノールと;その生理学的に許容可能な塩;
α1-[[[1,1-ジメチル-6-(2-フェニルエトキシ)ヘキシル]アミノ]メチル]-4-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジメタノールと;その生理学的に許容可能な塩;
α1-[[[6-[2-(4-フルオロフェニル)エトキシ]-1-メチルヘキシル]アミノ]メチル]-4-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジメタノールと;その生理学的に許容可能な塩;
4-ヒドロキシ-α1-[[[6-[3-(4-メトキシフェニル)プロポキシ]-1-メチルヘキシル]アミノ]メチル]-1,3-ベンゼンジメタノールと;その生理学的に許容可能な塩;
4-ヒドロキシ-α1-[[[1-メチル-6-(4-フェニルブトキシ)ヘキシル]アミノ]メチル]-1,3-ベンゼンジメタノールと;その生理学的に許容可能な塩;
4-ヒドロキシ-α1-[[[6-[2-(4-メトキシフェニル)エトキシ]ヘキシル]アミノ]メチル]-1,3-ベンゼンジメタノールと;その生理学的に許容可能な塩;
α1-[[[6-[2-(3-クロロフェニル)エトキシ]ヘキシル]アミノ]メチル]-4-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジメタノールと;その生理学的に許容可能な塩;
4-ヒドロキシ-α1-[[[6-[2-(4-メトキシフェニル)エトキシ]ヘキシル]アミノ]メチル]-1,3-ベンゼンジメタノールと;その生理学的に許容可能な塩;
α1-[[[6-[3-(4-フルオロフェニル)プロポキシ]ヘキシル]アミノ]メチル]-4-ヒドロキシ-1,3-ベンゼンジメタノールと;その生理学的に許容可能な塩である。
したがって本発明により、ヒトまたは動物における可逆性気道閉塞と関連した疾患の治療または予防に使用する化学式(V)の化合物と、その生理学的に許容可能な塩および溶媒和物がさらに提供される。本発明により、化学式(V)の化合物と、その生理学的に許容可能な塩および溶媒和物に加え、これらを含む組成物と、ヒトまたは動物における可逆性気道閉塞と関連した疾患の治療または予防にこの組成物を使用するための指示書も提供される。
本発明の化合物は、使いやすい方法で投与するために製剤化することができる。したがって本発明の範囲には、ヒトの医学または獣医学で使用するために製剤化した医薬組成物であって、化学式(V)の少なくとも1種類の化合物か、その生理学的に許容可能な塩または溶媒和物を含有するものが含まれる。このような組成物を使用する際には、生理学的に許容可能な基剤または賦形剤のほか、場合によってはそれに加えて補助薬と組み合わせて提供することができる。
第2の活性剤に関して提案されている1日の投与量は、0.0005mg〜100mgである。この量を1回または2回で投与するとよい。使用する正確な投与量は、もちろん、患者の年齢や状態と、投与経路に応じて異なることになろう。適切な投与量は、例えば吸入による場合には0.0005mg〜10mgであり、経口投与による場合には0.02mg〜100mgであり、非経口投与による場合には0.001mg〜2mgである。
サルメテロール化合物は、アメリカ合衆国特許第4,992,474号、第5,126,375号、第5,225,445号(その開示内容が、参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)に記載されている方法で調製して分離する。
ホルモテロールは、化学式(VIII)で表わされるα-アミノメチルベンジルアルコール誘導体:
を含んでいる(ただし、AとBの一方は水素原子またはヒドロキシル基を表わし、他方は基:
を表わし(ただしR
1は、R
2と異なっていて、水素原子またはC
1〜7アルキルを表わし、R
2は、水素原子または-CO-R
4基を表わし(ここにR
4は、水素原子、C
1〜7ヒドロキシアルキル、C
2〜10アルカノイルアミノアルキルのいずれかである)、R
3は、C
3〜7アルキル、C
6〜12シクロアルキルアルキル、基:
(ここにAlkは、直鎖または分岐鎖のC
1〜7アルキレンであり、X、Y、Zは、互いに同じでも異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、ヒドロキシ基、C
1〜7アルカノイルアミノ、C
1〜7アルキル、C
1〜7アルコキシのいずれかを表わす)のいずれかを表わす)。
ホルモテロールは、β-アドレナリン作用薬としての用途があるため、呼吸器の平滑筋に対する大きな活性があり、気管支拡張薬として適している。
気管支拡張効果を有する化合物はこれまでにさまざまなものが知られており、特に、イソプロテレノール、トリメトキノールがある。これらの化合物は強力な効果のために気管支拡張薬の中でもよく知られており、広く販売されている。さらに、気管支拡張薬は心臓に対して悪い効果があってはならない。すなわち気管支拡張薬は、高い選択性を持っていなくてはならない。サルブタモールはこの条件を満たすため、やはり広く販売されている。
さらに、本発明の化合物と似た構造の化合物として、公知の3-アミノ-4-ヒドロキシ-α-イソプロピルアミノメチルベンジルアルコール(オランダ国特許第85197号:“ケミカル・アブストラクト”、第52巻、11121d、1958年)、3-エトキシカルボニルアミノ-4-ヒドロキシ-α-イソプロピルアミノメチルベンジルアルコール(ベルギー国特許第765,986号)、α-(イソプロピルアミノメチル)-4-ヒドロキシ-3-ウレイドベンジルアルコール(日本国特開昭46-2676号)がある。これらの特許と特許出願は、参考としてその全体がこの明細書に組み込まれているものとする。
本発明の化合物を表わす化学式(VIII)において、R1の具体例は、水素原子、アルキル基(例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、1,3-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルペンチル基、2,3-ジメチルブチル基、2,3,3-トリブチル基など)であり;R4の具体例は、水素原子、ヒドロキシアルキル基(例えばヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基など)、アルカノイルアミノアルキル基(例えばホルムアミドメチル基、アセチルアミノメチル基、アセチルアミノエチル基、アセチルアミノプロピル基、ブチリルアミノエチル基など)である。R3のアルキル基の具体例は、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、1,3-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルペンチル基、2,3-ジメチルブチル基、2,3,3-トリメチルブチル基などであり;R3のシクロアルキル基の具体例は、シクロペンチルメチル基、2-シクロエチル基、シクロヘキシルメチル基、2-シクロヘキシルエチル基、3-シクロヘキシル-1-メチルプロピル基などである。Alkの具体例は、アルキレン基(例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、1-メチルエチレン基、1-エチルエチレン基、1-メチルプロピレン基、1-エチルプロピレン基、2-メチルプロピレン基、3-メチルブチレン基、2-エチルブチレン基などである。X、Y、Zの具体例は、水素原子、ヒドロキシ基、アルカノイルアミノ基(例えばホルムアミド基、アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基、ブチリルアミノ基など)、アルキル基(例えばメチル基、エチル基、プロピオニル基、イソプロピル基、イソブチル基、t-ブチル基など)、アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基など)である。
本発明の特に有用な化合物は、3-ホルムアミド-4-ヒドロキシ-α-[N-(1-メチル-2-p-ヒドロキシフェニルエチル)アミノ-メチル]ベンジルアルコール、3-ホルムアミド-4-ヒドロキシ-α-[N-(1-メチル-2-p-メトキシフェニルエチル)アミノメチル]ベンジルアルコール、4-ヒドロキシ-3-メチルアミノ-α-(N-t-ブチルアミノメチル)ベンジルアルコールなどである。
本発明の化合物を表わす化学式(VIII)のAがヒドロキシル基であり、Bが基:
である場合には、化学式(VIII)で表わされる本発明の化合物は、
となる(ただし、R
1、R
2、R
3は、化学式(VII)と同じ意味である)。より詳細には、化学式(VIII)には、以下の3つの化学式が含まれる:
。
これら化学式において、R
3とR
4は、化学式(VII)と同じ意味である。
ホルモテロールは、N-[2-ヒドロキシ-5-(1-ヒドロキシ-2-((2-(4-メトキシフェニル)-1-メチルエチル)アミノ)エチル)フェニル]ホルムアミドまたはその医薬的に許容可能な塩であるか、ホルモテロールまたはその塩の溶媒和物であることが好ましい。ホルモテロールはフマル酸塩の形態であることが好ましい。ホルモテロールは、炎症性気道疾患または閉塞性気道疾患の治療に用いられる気管支拡張薬である。
特に好ましいホルモテロールは、以下の化学式を持つフマル酸ホルモテロール:
である。
ホルモテロールの医薬的に許容可能な塩としては、例えば、無機酸の塩と有機酸の塩が挙げられる。無機酸としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸などがあり、有機酸としては、フマル酸、マレイン酸、酢酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、グルコン酸、トリカルバリル酸、オレイン酸、安息香酸、p-メトキシ安息香酸、サリチル酸、o-ヒドロキシ安息香酸、p-ヒドロキシ安息香酸、p-クロロ安息香酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、3-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸などがある。
ホルモテロールは、どのような形態の異性体でもよいし、複数の異性体の混合物でもよい(例えば純粋な鏡像体、鏡像体の混合物、ラセミ化合物またはその混合物)。ホルモテロールは、アメリカ合衆国特許第3,994,974号または第5,684,199号に記載されているように溶媒和物の形態になっていてもよく(例えばホルモテロールの水和物)、特別な結晶形態で存在していてもよい(例えばWO 95/05805に記載されている形態)。なおこれら特許と特許出願の内容全体は、参考としてこの明細書に組み込まれているものとする。ホルモテロールは、フマル酸ホルモテロールであることが好ましく、特に二水和物の形態であることが好ましい。
ホルモテロールまたはその塩、またはその溶媒和物(特にフマル酸ホルモテロール二水和物)を吸入する場合の適切な1日の投与量は、1〜72μgにすることができる(例えば1〜60μgであり、一般には3〜50μgであり、6〜48μgが好ましく、例えば6〜24μgにするとよい)。使用する正確な投与量は、治療する疾患、患者、吸入器の効率によって異なることになろう。ホルモテロールの単位用量とその投与頻度は、これらの条件を考慮して選択することができる。ホルモテロールの適切な単位用量は、特にフマル酸ホルモテロール二水和物の場合、1〜72μgにすることができる(例えば1〜60μgであり、一般には3〜48μgであり、6〜36μgが好ましく、特に12〜24μgにするとよい)。上記の適切な1日の投与量に従って単位用量を1日に1回または2回投与するとよい。必要に応じて使用する場合、ホルモテロールが6μg〜12μgという単位用量が好ましい。
ホルモテロール化合物は、アメリカ合衆国特許第3,994,974号、第5,684,199号(その全体が、参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)に記載されている方法で調製して分離する。フマル酸ホルモテロールは市場で入手することができる。このフマル酸ホルモテロールは、12μgのフマル酸ホルモテロールと25mgのラクトースを含む乾燥粉末製剤(フォラディル(登録商標))を収容したカプセルの形態で市販されており、口から吸入するのにエーロライザー(登録商標)吸入器(シェリング社、ケニルワース、ニュージーランド国)だけが用いられる。
フォラディル(登録商標)エーロライザー(登録商標)が長期用には使用され、可逆性閉塞性気道疾患を抱えている成人および5歳以上の子ども(例えば夜間性喘息の症状があり、短期作用性β2-作用薬を用いた定期的な治療が必要な患者)の喘息の治療と気管支痙攣の予防に1日に2回投与される(朝と晩)。フォラディル(登録商標)エーロライザー(登録商標)は、成人および12歳以上の子どもで運動によって誘発される気管支痙攣を短期間阻止するのにも用いられる。フォラディル(登録商標)エーロライザー(登録商標)は、短期作用性β2-作用薬、吸入用コルチコステロイドまたは全身用コルチコステロイド、テオフィリンと同時に用いて喘息を治療するのにも用いられる。フォラディル(登録商標)エーロライザー(登録商標)は、COPD(例えば慢性気管支炎や肺気腫)になっている気管支収縮の入院患者の維持治療において1日に2回ずつ(朝と晩)長期にわたって投与するのにも用いられる。
第1の活性剤と第2の活性剤は呼吸器疾患と肺疾患の治療に用いられ、以下に示す追加の任意の薬を、上に説明したように、医薬的に許容可能な塩の形態で経口投与することができる。なおこれらをすべて、“活性化合物または活性剤”と呼ぶ。第1の活性剤と第2の活性剤は、互いに組み合わせ、医薬的に、または獣医学的に許容可能な製剤として投与することもできる。そのとき、別々の形態で、または一体の形態で投与する。活性化合物またはその塩は、以下に説明するように、全身投与することも、局所投与することもできる。
本発明により、喘息、COPD、または他の呼吸器疾患を治療する方法であって、そのような治療を必要としている対象に本発明の組成物を投与する操作を含む方法も提供される。この方法は、予防または治療を目的とする。この方法は、インビボ法も含んでいる。この方法は、複数の疾患を、原因(例えば、ステロイドの投与、アデノシンまたはアデノシン受容体の代謝異常または合成異常、または他のあらゆる原因)に関係なく治療するのに有効である。この方法に含まれるのは、特に肺、肝臓、心臓、脳、または治療を必要とする他のあらゆる臓器において、アデノシンまたはアデノシン受容体のレベルを低下させることによって、またはアデノシンに対する過敏性を低下させることによって、または他のあらゆるメカニズムによって、呼吸器疾患と肺疾患を治療する方法である。この明細書で言及する他の呼吸器疾患としては、嚢胞性線維症(CF)、呼吸困難症、気腫、喘鳴、肺性高血圧、肺性線維症、肺がん、過剰応答気道、アデノシンまたはアデノシン受容体のレベル上昇(特に感染性疾患に伴うもの)、肺性気管支収縮、肺炎、肺アレルギー、界面活性物質の欠乏、慢性気管支炎、気管支収縮、息切れ、肺気道のつっかえまたは閉塞、心機能のためのアデノシン試験、肺血管収縮、つかえた呼吸、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、ある種の薬(例えばアデノシンや、アデノシンのレベルを上昇させる薬、他の薬(例えば上室頻拍症(SVT)を治療するための薬))の投与、アデノシン・ストレス試験の実施、乳児呼吸窮迫症候群(乳児RDS)、痛み、アレルギー性鼻炎、減少した肺の界面活性物質、重症急性呼吸器症候群(SARS)などがある。
本発明の一実施態様は、喘息を予防または治療する方法であって、そのような治療を必要としている対象に、喘息の予防または治療に十分な量の組成物を投与する操作を含む方法である。
本発明の一実施態様は、COPDを予防または治療する方法であって、そのような治療を必要としている対象に、COPDの予防または治療に十分な量の組成物を投与する操作を含む方法である。
本発明の一実施態様は、気管支収縮、肺炎、肺アレルギーを予防または治療する方法であって、そのような治療を必要としている対象に、気管支収縮、肺炎、肺アレルギーの予防または治療に十分な量の組成物を投与する操作を含む方法である。
本発明の一実施態様は、対象の組織においてアデノシンを減少または欠乏させる方法であって、対象の組織においてアデノシンを減少または欠乏させるのに十分な量の組成物を投与する操作を含む方法である。
本発明により、喘息、COPD、または他の呼吸器疾患(その中に肺がんも含まれる)を治療するため、第1の活性剤と第2の活性剤を用いて製造した薬も提供される。この薬は、この明細書全体を通じて説明した組成物を含んでいる。
対象に投与する第1の活性剤と第2の活性剤の毎日の投与量は、全体の治療計画、使用する第1の活性剤と第2の活性剤が何であるか、製剤のタイプ、投与経路、患者の状態によって異なることになる。実施例11〜18には、呼吸器または鼻に投与するための装置、または吸入による投与装置を用いて送達するための本発明によるエーロゾル製剤が示してある。肺内投与のためには、液体製剤が好ましい。他の生物活性剤の場合には、例えばビタミンやミネラルのように人が食事に補足して摂取する生物活性剤に関してFDAが推奨している量がある。しかし特定の疾患を治療したり、対象の免疫応答を改善したりするのに用いる場合には、数百倍〜数千倍多い投与量にすることができる。たいていの場合、薬局方には非常に広い範囲の投与量が推奨されているため、医師はその範囲を手がかりにできる。この明細書に記載した具体的な薬の量は、毎日摂取する薬に関して現在推奨されている範囲内、それよりも少ない量、それよりも多い量のいずれかにすることができる。治療は、一般に、少ない用量の気管支拡張薬を非グルココルチコイドステロイドまたは他の適切な生物活性剤と組み合わせて使用するところから始まり、その後、各患者に合った用量まで増やす。しかし、本発明の範囲内で、初期量を含め、より多い量またはより少ない量を投与することもできる。
この明細書で使用する第1の活性剤と第2の活性剤、または他の治療薬の好ましい範囲は、投与経路と、使用する製剤のタイプによって異なることになろう。その製剤は、当業者であれば、公知の方法と成分を利用して製造することができよう。活性化合物は、一度に(1日に1回)、または数回に分けて(1日に数回)投与することができる。呼吸器疾患、心疾患、心臓血管疾患を予防・治療するための組成物と方法を利用し、成人および子どもと、そのような疾患を患っているヒト以外の動物を治療することができる。本発明は主にヒト患者の治療に関するが、獣医学でヒト以外の哺乳動物(例えばイヌやネコのほか、大きな家畜や野生動物)を治療するのにも利用できる。“アデノシン”、“アデノシン受容体”のレベルが“高い”、“低い”という表現や、“アデノシンの欠乏”という表現には、同一の対象において、アデノシンのレベルが、アデノシンの以前のレベルと比べて高い状態または低い(欠乏してさえいる)状態と、アデノシンのレベルは正常な範囲内にあるものの、その対象における他の何らかの状態または変化が理由で、アデノシンまたはアデノシン受容体のレベルを低下または上昇させると、または過敏さを調節すると、治療による利益が得られるであろう状態の両方が含まれるものとする。したがってこの治療法は、患者に合わせた調節(治療)に役立つ。第1の活性剤を投与することにより、アデノシンのレベルが治療前には正常であるか高かった対象において、そのレベルを低下させること、または欠乏させることさえできるが、さらに第2の活性剤を投与すると、短期間にその対象の呼吸が改善する。本発明の治療薬を投与すると、適切な投与量による最適な治療が実現するまでは特にアデノシンが望ましくないほど低レベルになることが観察される可能性があるが、他の治療薬をさらに添加すると、その事態を避けるのに役立つであろう。
本発明の組成物に組み込むことのできる他の治療薬は、ヒトと動物に投与されるいろいろな治療薬のうちの1つ以上の治療薬である。
本発明の組成物は、第1の活性剤と第2の活性剤に加え、ユビキノンおよび/またはフォリン酸をさらに含むことができる。ユビキノンは、以下の化学式:
で表わされる化合物、またはその医薬的に許容可能な塩である。
ユビキノンは、上記の化学式において、n=1〜10(補酵素Q1〜10)の化合物、より好ましくはn=6〜10(補酵素Q6〜10)の化合物、最も好ましくはn=10(補酵素Q10)の化合物である。ユビキノンは、標的とする疾患または症状を治療するための量が投与され、その投与量は、対象の状態、投与されている他の薬、使用する製剤のタイプ、投与経路に応じて異なる。ユビキノンは、1日の合計投与量が、体重1kgにつき約0.1mg、約1mg、約3mg、約5mg、約10mg、約15mg、約30mg〜約50mg、約100mg、約150mg、約300mg、約600mg、約900mg、約1200mgであることが好ましい。1日当たりのより好ましい合計投与量は、約1〜約150mg/kg、約30〜約100mg/kgであり、約5〜約50mg/kgが最も好ましい。ユビキノンは天然の物質であり、市販されている。
本発明の活性剤は、組成物の中にさまざまな量で含まれる。例えば活性剤は、組成物中に約0.001%、約1%、約2%、約5%、約10%、約20%、約40%、約90%、約98%、約99.999%の量が含まれていてよい。各活性剤の量は、この明細書に説明してあるように、活性が重複する別の薬が含まれている場合には、変えることができる。しかし活性化合物の投与量は、対象の年齢、体重、状態に応じて異なる可能性がある。治療は、本発明の第1の活性剤を少量投与すること(例えば最適な投与量よりも少ない量)から始めるとよい。この操作は、第2の活性剤でも、望むレベルに達するまで、同様にして行なうことができる。あるいは逆に、例えばマルチビタミンおよび/またはミネラルの場合には、対象におけるこれらの製品のレベルを望ましい値に安定させた後、第1の活性化合物を投与することができる。投与量は、所定の条件下で望ましい効果および/または最適な効果が得られるまで増やすことができる。一般に、活性剤は、何らかの有害な副作用を起こすことなく効果的な結果が得られるような濃度で投与することが好ましく、単一ユニットとして投与すること、あるいは望むのであれば便利な複数のサブユニットにして、1日のうちの適切ないろいろなときに投与することができる。第2の治療薬または診断薬は、目的とする用途において有効であることが従来技術で知られている量を投与する。第2の活性剤の活性が主要な薬と重複する場合には、その一方または両方の投与量を調節し、不都合な副作用が出ない投与量の範囲を超えることなく望む効果が実現されるようにする。したがって、例えば他の鎮静薬や抗炎症薬を本発明の組成物に添加する場合には、目的とする用途に関して従来技術で知られている量を添加するか、それだけを投与するときよりも幾分か少ない量を添加するとよい。
医薬的に許容可能な塩は、薬理学的または獣医学的に許容可能でなくてはならず、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩として調製することができる(例えばナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩)。有機塩とエステルも、本発明で用いるのに適している。活性化合物は、対象に医薬組成物または獣医学用組成物として投与することが好ましい。なお組成物としては、全身製剤と局所製剤がある。そのうちで好ましいのは、特に、吸入投与、呼吸投与、口腔投与、経口投与、直腸投与、膣投与、鼻への投与、肺内投与、目への投与、耳への投与、洞内投与、気管内投与、臓器内投与、局所投与(例えば口腔、舌下、皮膚、眼内)、非経口投与(例えば皮下、皮内、筋肉内、静脈内、関節内)、経皮投与に適した製剤である。
本発明により、本発明の組成物と送達装置を含むキットも提供される。本発明の組成物は、単一の単位用量または複数の単位用量の形態、またはバルクの状態で提供することができる。本発明の組成物は、薬学の分野でよく知られている任意の方法で調製することができる。本発明の組成物がすでに製剤にされた状態でキットに含まれる場合もあれば、第1の活性剤と第2の活性剤が他の成分とともに別々に提供され、製剤化と投与計画に関する指示書がキットに添付されている場合もある。キットにはこの明細書に記載したような他の薬も含まれていてよく、例えば非経口投与用である場合には、その薬を、別の容器に入れた殺菌した基剤とともに提供することができる。本発明の組成物は、凍結乾燥させた形態で殺菌した別の容器に入れて提供することもでき、その場合には投与する前に液体基剤をその容器に添加する。例えば、アメリカ合衆国特許第4,956,355号;イギリス国特許第2,240,472号;EPO特許出願シリアル番号第429,187号;PCT特許出願公開WO 91/04030;Mortensen, S.A.他、Int. J. Tiss. Reac.、第XII(3)巻、155〜162ページ、1990年;Greenberg, S.他、J. Clin. Pharm.、第30巻、596〜608ページ;Folkers, K.他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第87巻、8931〜8934ページなどを参照のこと。なお、これら文献の中で調製と化合物に関係する部分は、参考としてこの明細書に含まれているものとする。
本発明の組成物は、さまざまな全身用組成物および局所用組成物として提供される。本発明の全身用製剤または局所用製剤の選択は、経口製剤、口内製剤、肺内製剤、直腸製剤、子宮内製剤、皮内製剤、局所製剤、皮膚製剤、非経口製剤、腫瘍内製剤、頭蓋内製剤、口腔製剤、舌下製剤、鼻用製剤、皮下製剤、血管内製剤、硬膜下腔製剤、吸入製剤、呼吸製剤、関節内製剤、洞内製剤、埋め込み製剤、経皮製剤、イオン導入製剤、眼内製剤、目のための製剤、膣のための製剤、耳のための製剤、静脈内製剤、筋肉内製剤、腺内製剤、臓器内製剤、リンパ節内製剤、徐放製剤、腸溶コーティング製剤からなるグループの中から行なう。これらのさまざまな製剤を実際に調製して化合物にする方法は従来技術で知られているため、ここで詳細に説明する必要はない。本発明の組成物は、1日に1回または数回投与することができる。
呼吸による投与、鼻への投与、肺内投与、吸入による投与に適した製剤と、局所製剤、経口製剤、非経口製剤が好ましい。どの調製方法も、活性化合物を、1種類以上の補助成分となる基剤と組み合わせるステップを含んでいる。一般に、製剤は、活性化合物を、液体基剤と細かく砕いた固体基剤の一方または両方と均一かつ密に混合することによって調製され、その後、必要な場合にはその生成物を望む製剤にする。
経口投与に適した組成物は、所定量の活性化合物が含まれた個別のユニット(例えばカプセル、カシェ、ロゼンジ、錠剤);粉末または顆粒;水性または非水性の液体中の溶液または懸濁液;水中油型エマルジョンまたは油中水型エマルジョンとして提供することができる。
非経口投与に適した組成物は、活性化合物の注射用殺菌水溶液または注射用殺菌非水性溶液を含んでいる。このようにして調製された組成物は、予定しているレシピエントの血液と等張であることが好ましい。この組成物は、酸化防止剤、緩衝液、静菌剤のほか、予定しているレシピエントの血液とこの組成物を等張にする溶質を含むことができる。水性と非水性の殺菌懸濁液は、懸濁剤と増粘剤を含むことができる。この組成物は、単位用量または複数用量の容器(例えば封をしたアンプルやバイアル)に入れて提供することや、凍結乾燥状態で保管することができる。凍結乾燥状態だと、使用の直前に殺菌液体基剤(例えば生理食塩水または注射用の水)を添加するだけでよい。
鼻用製剤と点滴製剤は、活性化合物の精製水溶液のほか、保存剤と等張剤を含んでいる。このような製剤は、鼻粘膜に適合したpH状態と等張状態になるように調節されていることが好ましい。
直腸または膣に投与するための製剤は、適切な基剤(例えばカカオバター、水素を添加した脂肪、水素を添加した脂肪族カルボン酸)を用いた座薬として提供することができる。
目のための製剤は、鼻用スプレーと同様の方法で調製するが、pHと等張因子を目に合うように調節すると好ましい点が異なっている。耳のための製剤は、一般に、従来技術で知られているように粘性のある基剤(例えば油など)の中で調製し、こぼれることなく耳に容易に投与できるようにする。
皮膚への局所塗布に適した組成物は、軟膏、クリーム、ローション、ペースト、ゲル、スプレー、エーロゾル、油の形態を取ることが好ましい。使用可能な基剤としては、ワセリン、ラノリン、ポリエチレングリコール、アルコール、経皮エンハンサー、ならびにこれらの2つ以上の組み合わせがある。経皮投与に適した組成物は、レシピエントの表皮と長時間にわたって密に接触したままにできるようにした個別のパッチとして提供することができる。
この明細書に開示した第1の活性剤と第2の活性剤は、適切な手段で吸入、呼吸、鼻への投与、肺内点滴を行なうことによって対象の呼吸系(肺の中)に投与できるが、鼻用の粒子、肺内への粒子、吸い込み可能な粒子、吸入可能な粒子が粉末または液体の状態になったエーロゾルまたはスプレーを生成させることによって投与することが好ましい。活性化合物を含む吸い込み可能な粒子または吸入可能な粒子は、対象によって、すなわち鼻への投与または呼吸管または肺そのものへの点滴によって吸入される。製剤は、活性化合物からなる吸い込み可能な粒子または吸入可能な粒子が液体または固体になったものを含むことができる。本発明によると、その粒子は、例えばサイズが十分に小さくて吸入したときに口や喉頭を通過してその先の気管支や肺胞に入る吸い込み可能な粒子または吸入可能な粒子である。一般に、粒子のサイズは、直径が約0.05ミクロン、約0.1ミクロン、約0.5ミクロン、約1ミクロン、約2〜約4ミクロン、約6ミクロン、約8ミクロン、約10ミクロンである。直径が約0.5μm以上で約5μm未満だと、吸い込み可能または吸入可能である。エーロゾルまたはスプレーに含まれている呼吸できないサイズの粒子は、喉に堆積して飲み込まれる傾向がある。したがってエーロゾルに含まれる呼吸できないサイズの粒子の量はできるだけ少なくすることが好ましい。鼻への投与または肺内点滴の場合には、鼻腔への保持、または肺への点滴または直接的な堆積が確実になされるためには、粒子サイズ(直径)が約8μm、約10μm、約20μm、約25μm〜約35μm、約50μm、約100μm、約150μm、約250μm、約500μmの範囲であることが好ましい。特に新生児や幼児に投与する場合には、液体製剤を呼吸管(鼻)や肺の中に注入することができる。
エーロゾルを作るための活性化合物の液体医薬組成物は、活性化合物を安定なビヒクル(例えば発熱物質を含まない殺菌水)と組み合わせることによって調製できる。微粉化した活性化合物を吸い込み可能な乾燥粒子にしたものを含む固体粒子状組成物は、乾燥活性化合物を乳鉢と乳棒を用いて粉砕した後、微粉化したその組成物を400メッシュのスクリーンを通過させて大きな凝集体を破壊または分離することによって調製できる。活性化合物からなる固体粒子状組成物は、場合によっては、エーロゾルの形成を容易にする分散剤を含むことができる。適切な分散剤はラクトースであり、それを活性化合物と適切な任意の比(例えば重量比が1:1)で混合する。アメリカ合衆国特許出願シリアル番号第10/462,901号と第10/462,927号には、DHEAの安定な乾燥粉末製剤が開示されている。
活性化合物を含む液体粒子のエーロゾルは、適切な任意の方法で(例えば噴霧器を用いて)作り出すことができる。例えばアメリカ合衆国特許第4,501,729号を参照のこと(その開示内容は、参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)。噴霧器は市販されている装置であり、圧縮ガス(一般に空気または酸素)の加速手段によって、または狭いベンチュリ穴を通過させることによって、または超音波撹拌手段によって、活性成分の溶液または懸濁液を治療用エーロゾル・ミストに変換する。噴霧器で用いるのに適した組成物は、液体基剤に含まれた活性成分で構成され、その活性成分は組成物の40%w/wまでを占めている。しかし基剤は20%w/w未満であることが好ましい。基剤は、一般に水または希釈したアルコール水溶液であるが、例えば塩化ナトリウムを添加して体液と等張にすることが好ましい。オプションの添加剤としては、組成物が殺菌されていない場合の保存剤(例えばヒドロキシ安息香酸メチル)、酸化防止剤、着香剤、揮発油、緩衝剤、界面活性剤などがある。活性化合物を含む固体粒子エーロゾルは、粒子状の薬のエーロゾルを生成させる市販の装置を用いて同様にして作ることができる。固体粒子状の薬を対象に投与するためのエーロゾル生成器は、すでに説明したように吸い込み可能な粒子を生成させ、計量された所定量の薬を含むある体積のエーロゾルを、ヒトに投与するのに適した速度で発生させる。このようなエーロゾル生成器の具体例としては、定量吸入器や定量注入器がある。
本発明の組成物は、液体粒子または固体粒子のエーロゾルを生成させる任意の送達装置(例えばエーロゾル生成装置またはスプレー生成装置)を用いて送達することができる。このような装置は、すでに説明したように吸い込み可能な粒子を生成させ、計量された所定量の薬を含むある体積のエーロゾルを、ヒトまたは動物に投与するのに適した速度で発生させる。固体粒子エーロゾル生成器または固体粒子スプレー生成器の代表的な一例は注入器であり、細かく砕いた粉末の投与に適している。注入器では、粉末(例えばこの明細書に説明した治療を行なうのに有効な量の組成物)は、カプセルまたはカートリッジに収容されている。カプセルまたはカートリッジは、一般に、ゼラチン、ホイル、プラスチックでできており、その場で穴を開けたり破ったりすることができる。すると、吸入したときや手動のポンプを操作したとき、粉末が、装置から引き出されて空気によって運ばれる。注入器で用いる組成物は、第1の活性剤と第2の活性剤だけで構成すること、または第1の活性剤と第2の活性剤を含む粉末混合物にすることができる。粉末混合物には、組成物が一般に0.01〜100%w/w含まれる。組成物は、一般に、第1の活性剤と第2の活性剤を、約0.01%w/w、約1%w/w、約5%w/w〜約20%w/w、約40%w/w、約99.99%w/wの量含んでいる。しかし本発明の範囲において、他の成分を含むことや、活性剤の量を別の値にすることも可能である。
一実施態様では、組成物を噴霧器で送達する。この手段は、自分自身で組成物を吸入したり吸い込んだりできない患者または対象にとって特に役に立つ。深刻なケースでは、患者または対象は人口呼吸器によって生命を維持している。噴霧器では、医薬的に、または獣医学的に許容可能なあらゆる基剤(例えば弱い生理食塩水)を用いることができる。噴霧器は、粉末医薬組成物を患者または対象の気道を通じて標的に送達する手段である。
本発明の組成物は、いろいろな投与方法や送達経路のそれぞれに合わせたさまざまな形態でも提供される。一実施態様では、組成物は、吸い込み可能な製剤(例えばエーロゾルまたはスプレー)を含んでいる。本発明の組成物は、バルクまたはユニットの形態で提供したり、従来技術で知られているように破ったり穴を開けたりすることのできるインプラント、カプセル、ブリスター、カートリッジの形態で提供したりする。キットも提供される。このキットは、送達装置と、別の容器に入った本発明の組成物と、場合によっては他の賦形剤や治療薬と、このキットの諸要素を利用するための指示書を備えている。
一実施態様では、組成物は、定量吸入(MDI)懸濁製剤を用いて送達する。このようなMDI製剤は、送達装置を用いて推進剤(例えばヒドロフルオロアルカン(HFA))によって送達することができる。推進剤HFAに含まれる水は100ppmであることが好ましい。
一実施態様では、送達装置は、1回分または複数回分の組成物を供給する乾燥粉末吸入器(DPI)を備えている。1回用量用吸入器は、1回使用するのに十分な製剤を殺菌してあらかじめ充填した使い捨てキットとして提供できる。吸入器は、加圧式吸入器として提供でき、製剤は、穴を開けること、または破ることのできるカプセルまたはカートリッジに収容する。キットは、場合によっては別の容器の中に、さまざまな製剤の添加剤として適切な、他の治療用化合物、賦形剤、界面活性剤(治療薬および製剤成分として)、酸化防止剤、着香剤、着色剤、充填剤、揮発油、緩衝剤、分散剤、推進剤、保存剤なども含むことができる。
これで本発明の全体的な説明が終了したが、いくつかの特別な実施例を参照することによって本発明をさらによく理解できよう。その実施例は、説明だけを目的としてこの明細書に記載されており、特に断わらない限り、本発明またはそのあらゆる実施態様がその実施例に限定されることは想定していない。
実施例1と2
フォリン酸とDHEAが生体内でアデノシンのレベルに及ぼす効果
若いオスのフィッシャー344ラット(120グラム)に、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)(300mg/kg)またはメチルテストステロン(40mg/kg)を含むカルボキシメチルセルロースを、1日に1回、強制飼養によって14日間にわたって投与した。フォリン酸(50mg/kg)を1日に1回、14日間にわたって腹腔内投与した。15日目、マイクロ波パルス(1.33キロワット、2450メガヘルツ、6.5秒間)を頭蓋に当ててラットを安楽死させた。このようにすると、すべての脳タンパク質が直ちに変性し、アデノシンがそれ以上代謝されない。死後10秒の間にラットから心臓を取り出し、液体窒素の中で瞬間凍結させた。死後30秒の間に肝臓と肺を取り出して瞬間凍結させた。次に脳組織を切除した。組織のアデノシンを抽出し、誘導体化して1,N6-エテノアデノシンにし、ClarkとDarの方法(J. of Neuroscience Methods、第25巻、243ページ、1988年)に従った分光蛍光法を利用して高性能液体クロマトグラフィ(HPLC)で分析した。この実験の結果を以下の表1にまとめてある。結果は平均値±標準誤差(SEM)として表現し、κは、対照群と比べてp<0.05であることを表わし、ψは、DHEAまたはメチルテストステロンで処理した群と比べてp<0.05であることを表わす。
この実験結果から、2週間にわたってDHEAまたはメチルテストステロンを毎日投与したラットでは、多数の臓器でアデノシンが欠乏していることがわかる。欠乏は脳(DHEAだと60%欠乏し、大きな投与量のメチルテストステロンだと34%欠乏した)と心臓(DHEAだと37%欠乏し、大きな投与量のメチルテストステロンだと43%欠乏した)で劇的であった。フォリン酸を同時に投与すると、ステロイドを媒介としたアデノシンの欠乏が完全に阻止された。フォリン酸だけを投与すると、調べたすべての臓器でアデノシンのレベルが上昇した。
実施例3
空気ジェットによる無水DHEA-Sの粉砕と、吸い込み可能な量の測定
DHEA-Sを喘息治療薬として評価する。硫酸デヒドロエピアンドロステロンナトリウム(NaDHEA-S)の固体状態での安定性が、バルク材料と粉砕した材料の両方に関して調べられている(Nakagawa, H.、Yoshiteru, T.、Fujimoto, Y.、1981年、Chem. Pharm. Bull.、第29巻(5)、1466〜1469ページ;Nakagawa, H.、Yoshiteru, T.、Sugimoto, I.、1982年、Chem. Pharm. Bull.、第30巻(1)、242〜248ページ)。DHEA-Sは、二水和物の形態のときに最も安定であり、結晶化している。無水DHEA-Sの形態は結晶度が低く、非常に吸湿性がある。無水DHEA-Sの形態は、保管中に水を吸収しない限りは安定である。水分のない部分的に結晶化した状態を維持するには、特別な製造・包装技術が必要とされる。たくましい製品にするためには、開発プロセスにおいて水分に対する感度を最小にすることが重要である。
(1)DHEA-Sの微粉化
ジェット粉砕(ジェット-O-マイザー、シリーズ#00、100〜120psiの窒素)を利用して無水DHEA-Sを微粉化した。約1gのサンプルを1回ジェット・ミルを通過させ、約2gのサンプルを2回ジェット・ミルを通過させた。それぞれの粉砕操作によって得られた粒子をヘキサンに懸濁させた。DHEA-Sはヘキサンに溶けなかったため、スパ85界面活性剤を添加して凝集を阻止した。得られた溶液を3分間にわたって超音波処理すると、完全に分散したように見えた。この分散溶液を、小容積のサンプラー(SVS)が付いたマルヴェルン・マスターサイザーXでテストした。1つの分散材料サンプルを5回テストした。粉砕していない材料の粒子サイズの中間値、すなわちD (v, 0.5)は52.56μmであり、%RSD(相対標準偏差)は、5つの値に関して7.61であった。ジェット・ミルを1回通過させた場合のD (v, 0.5)は3.90μmであり、%RSD(相対標準偏差)は1.27であった。ジェット・ミルを2回通過させた場合のD (v, 0.5)は3.25μmであり、%RSD(相対標準偏差)は3.10であった。この結果から、DHEA-Sに対してジェット・ミル操作を行なうと吸入に適したサイズの粒子にできることがわかる。
(2)HPLC分析
微粉化した薬を入れた2つのバイアルA(1回通過;150mg)とB(2回通過;600mg)を利用し、ジェット・ミルで微粉化している間の薬の分解を調べた。バイアルAとBからの計量したDHEA-Sのアリコートを、粉砕していないDHEA-S(10mg/ml)を含むアセトニトリル-水(1:1)標準溶液と比較した。粉砕していない薬の標準溶液(10mg/ml)に関するHPLCアッセイでのクロマトグラフのピーク面積は、23,427であった。バイアルAとBから計量した微粉化DHEA-Sのアリコート(5mg/ml)をアセトニトリル-水(1:1)溶液の中に調製した。バイアルAとBに関するクロマトグラフのピーク面積は、それぞれ、11,979と11,677であった。明らかに、ジェット・ミルで微粉化している間の薬の分解は検出できなかった。
(3)薬の放出量の研究
DHEA-Sの粉末をネフェレ管に回収し、HPLCで調べた。実験は3回行なった。テストした3つの乾燥粉末吸入器(ロタハラー、ディスクハラー、IDL社のDPI吸入器)それぞれについて、空気の流速がそれぞれの値のときに実験を3回行なった。ネフェレ管の一端をガラス・フィルタ(ゲルマン・サイエンシーズ社、タイプA/E、25μm)に装着し、そのフィルタを今度は空気を流すラインに接続し、テストしている各乾燥粉末吸入器から放出された薬を回収した。テストしている各乾燥粉末吸入器のマウスピースをネフェレ管の他方の側に受け入れるための開口部を有するシリコーン・アダプタを固定した。ネフェレ管を通じて望む流速(30、60、90リットル/分)の空気流を実現した。次に各乾燥粉末吸入器のマウスピースをシリコーン・ゴム製のアダプタに挿入し、空気流を約4秒間にわたって流し続けた後、ネフェレ管を取り外し、各ネフェレ管の端部にキャップをねじ込んだ。フィルタを備えていないネフェレ管のキャップを取り外し、HPLCグレードのアセトニトリル-水(1:1)溶液10mlをネフェレ管に添加し、キャップを再び取り付け、ネフェレ管を1〜2分間揺すった。次にキャップをネフェレ管から取り外し、溶液を、フィルタ(カメオ13N注射器フィルタ、ナイロン、0.22μm)付きの10mlのプラスチック製注射器に移した。この溶液のアリコートを直接濾過してHPLC用バイアルに入れ、あとでHPLCによって薬をテストした。微粉化したDHEA-S(約12.5mgまたは25mg)をゼラチン・カプセル(ロタハラー)またはヴェントディスク・ブリスター(ディスクハラーと、1回用量DPI(IDL))の中に入れ、放出量の実験を行なった。ゼラチン・カプセルまたはブリスターの中に入れるために微粉化DHEA-S(バイアルBだけを使用)を計量したとき、微粉化した粉末の凝集体がいくつか存在していたようであった。空気流の速度を30、60、87.8リットル/分にして実施した放出量テストの結果を表2に示してある。表2には、異なる3つの流速でのロタハラーの実験結果と、異なる3つの流速でのディスクハラーの実験結果と、異なる3つの流速での多数回用量用吸入器の実験結果がまとめてある。
(4)吸い込み可能な薬の量の研究
標準的なサンプラー・カスケード式インパクターを用い、吸い込み可能な薬の量(吸い込み可能な割合)の研究を行なった。このインパクターは、円錐形の入口(ここでは代わりにインパクターの予備分離装置にした)と、9つの段と、8枚の回収プレートと、3つのバネ式クランプおよびガスケットO-リング・シールによって一体にされた8つのアルミニウム段の中にあるバックアップ・フィルタとで構成されており、このインパクターの各段には、正確にドリルで開けられた多数の穴が存在している。サンプラーを通じて空気を取り込むと、各段の多数の空気ジェットが、空中のあらゆる粒子をその段の回収プレートの表面に向かわせる。ジェットのサイズは各段で一定であるが、次の段に進むにつれて小さくなっていく。粒子が所定の段で圧縮されるかどうかは、その空気力学的直径に依存する。各段で回収される粒子のサイズの範囲は、その段のジェットの速度と、前の段のカットオフ点とに依存する。第1段で回収されなかったあらゆる粒子は、プレートの縁部付近の空気流に乗って次の段に送られ、そこで圧縮されるか、さらに次の段へと送られるかする。以後、ジェットの速度が圧縮に十分な値になるまで、同様のことが続く。カスケード式インパクター試験の間に粒子が弾むのを阻止するため、インパクターの個々のプレートをヘキサン-グリース(高真空)溶液(比が100:1)でコーティングした。すでに指摘したように、インパクターのプレート上での粒子サイズのカットオフ点は、空気流の速度が異なると変化した。例えば段2は、60リットル/分では6.2μmよりも大きな粒子のカットオフ点に対応し、30リットル/分では5.8μmよりも大きな粒子のカットオフ点に対応し、段3は、90リットル/分だと粒子サイズのカットオフ値が5.6μmよりも大きかった。したがって空気流の速度が同じような値のときは、同様の粒子カットオフ値、すなわち5.6〜6.2μmの範囲の値を用いることが好ましい。乾燥粉末吸入器のテストに関してアメリカ合衆国薬局方が推奨している設備は、ガラス製スロート(50mlの丸底フラスコを改変したもの)に取り付けたマウスピース・アダプタ(この場合にはシリコーン)と、予備分離装置およびアンダーセン・サンプラーの頂部に通じるガラス製の遠位咽頭部(誘導ポート)とからなる。予備分離装置用サンプルには、マウスピース・アダプタ、ガラス製スロート、ガラス製の遠位咽頭部、予備分離装置からの洗浄液が含まれている。5mlのアセトニトリル:水(比は1:1)溶液を予備分離装置に入れた後、カスケード式インパクターでの実験を行なった。この実験は、3つの異なる乾燥粉末吸入器を用い、空気流の速度を30、60、90リットル/分の3通りにして2回実施した。カスケード式インパクターのプレートに回収された薬をHPLCで調べ、ディスクハラーと多数回用量用吸入器のそれぞれについてカスケード式インパクターの実験を行なうことにより、どこにどれだけの割合で薬が残るかを明らかにした。この実験は、ブリスターの中に残った薬の量と、吸入器の中に残った薬の量(ディスクハラーのみ)と、シリコーン・ゴム製のマウスピース・アダプタ、ガラス製スロート、ガラス製の遠位咽頭部、予備分離装置に保持されている吸い込み不能な薬の量と(これら4つに保持されている量を1つにまとめる)、吸い込み可能な薬の量とを明らかにすること、すなわち、空気流の速度30リットル/分と60リットル/分については段2から先のフィルタ・インパクターのプレートで、空気流の速度90リットル/分については段1から先のフィルタ・インパクターのプレートで実験を行なうことからなる。
薬の放出とカスケード式インパクターの実験の結果に基づくと、カスケード式インパクターの実験で吸い込み可能な薬の量が少なかったのは、薬粒子が凝集し、テストした空気流の速度が最大のときでも分離できなかったことが原因である。薬粒子の凝集は、粒子のサイズを小さくするのに利用した機械的な粉砕プロセスの間に蓄積される静電荷の結果である。そしてこの状況は、その後粒子が水分を吸収することによってさらに進行する。静電荷がより少ないか、吸湿性がより小さく、十分に水和した結晶形態のDHEA-S(すなわち二水和物の形態)を作る微粉化法があれば、凝集する可能性が小さいより自由な浮遊粉末を提供できるはずである。
実施例4
無水DHEA-Sのスプレー乾燥と、吸い込み可能な薬の量の測定
(1)薬の微粉化
1.5gの無水DHEA-Sを100mlの50%エタノール:水に溶かし、1.5%の溶液を作った。入口の温度が55℃、出口の温度が40℃であるB-191ミニ・スプレー-乾燥機(ブヒ社、フラヴィル、スイス国)を用い、100%アスピレータ、10%ポンプ、窒素流40ミリバール、スプレー流600単位の状態で、この溶液をスプレー乾燥させた。スプレー乾燥させた生成物をヘキサンの中に懸濁させ、スパン85界面活性剤を添加して凝集を減らした。この分散液を冷却しながら3〜5分間にわたって超音波処理して完全な分散液にした後、この分散液を、小容積のサンプラー(SVS)が付いたマルヴェルン・マスターサイザーXでテストした。スプレー乾燥させた材料の2つのバッチは、平均粒子サイズが5.07±0.70μmと6.66±0.91μmであることがわかった。各バッチの分散液を光学顕微鏡で調べると、スプレー乾燥によって吸い込み可能な小サイズの粒子が得られたことが確認できた。平均粒子サイズは、それぞれのバッチで2.4μmと2.0μmであった。これは、DHEA-Sをスプレー乾燥させることにより、吸入に適した粒子サイズにできることを示している。
(2)吸い込み可能な薬の量の研究
カスケード式インパクターの実験を実施例3に記載したようにして実施した。カスケード式インパクターの実験を4回行なった。そのうちの3回はIDL多数回用量用吸入器を用い、1回はディスクハラーを用い、流量はすべて90リットル/分にした。カスケード式インパクターでの実験結果を以下の表4に示してある。この実験においてスプレー乾燥させた無水材料では、微粉化した無水DHEA-Sと比べて吸い込み可能な薬の量が2倍になっていた。スプレー乾燥により、ジェット粉砕よりも吸い込み可能な薬の量が多くなったように見える。しかし吸い込み可能な薬の量の割合はそれでも少なかった。それは、無水形態が水分を吸収した結果であると考えられる。
DHEA-S二水和物(DHEA-S・2H2O)の空気ジェット粉砕と、吸い込み可能な薬の量の測定
(1)DHEA-S二水和物の再結晶化
無水DHEA-Sを沸騰している90%エタノール/水混合物の中に溶かす。この溶液をドライアイス/メタノール浴の中で急冷し、DHEA-Sを再結晶化させる。結晶を濾過し、冷たいエタノールで2回洗浄した後、真空デシケータの中で室温にて36時間にわたって乾燥させる。この乾燥プロセスの間、材料を定期的にへらで混合し、大きな凝集体を壊す。この材料を乾燥させた後、500μmの篩を通過させる。
(2)微粉化と物理化学的テスト
ジェット・ミルの中で、窒素ガスを用い、ベンチュリ圧を40psi、ミルの圧力を80psi、供給の設定を25、材料の供給速度を約120〜175g/時にして、DHEA-S二水和物を微粉化する。5点BET解析による表面積の測定を、吸着ガスとして窒素(P/P0=0.05〜0.30)を用い、マイクロメリティックス・トライスター表面積分析装置で行なう。粒子サイズの分布を、マイクロメリティックス・サターン・ディジタイザーを用いたレーザー回折によって測定する。そのとき粒子は、分散剤としてスルホコハク酸ジオクチルナトリウムを用いて鉱物油の中に懸濁させる。カール・フィッシャー滴定(ショット・ティトロラインKF社)によって薬の含水量を測定する。純水を基準として用いる。3回の測定における基準からの相対偏差は1%未満である。粉末を滴定媒体に直接添加する。微粉化の前後におけるDHEA-S二水和物の物理化学的性質を表5にまとめてある。
測定された唯一の顕著な変化は粒子サイズである。顕著な水分の損失も、不純物の増加もない。微粉化した材料の表面積は、サイズの中央値が3〜4ミクロンの不規則な形の粒子と一致している。微粉化により、粒子サイズが小さくなって吸入に適した範囲にうまく入り、しかも固体状態の化合物の測定値に変化はない。
(3)DHEA-S二水和物のエーロゾル化
1回用量用のアキュ-ブリーズ吸入器を用いてDHEA-S二水和物を評価する。純粋なDHEA-S二水和物の粉末約10mgをホイル・ブリスターに充填して封をする。そのブリスターを、アンダーセン8段カスケード式インパクターの中に、ガラス製の2インピンジャー-スロートを用い、流速を30〜75リットル/分にして入れる。アンダーセン・インパクターの段1〜5を同時に洗浄すると、微粒子の割合の推定値が得られる。多数の段から回収した薬をまとめて1回のアッセイを行なうと、この方法の感度がはるかによくなる。一連の実験で得られた結果を図1に示してある。すべての流速において、二水和物は、実質的に無水の材料よりも微粒子の割合が多くなる。この二水和物の粉末を1回用量用吸入器を用いてエーロゾル化するゆえ、そのエーロゾルの性質が実質的に無水の材料を用いる場合よりもはるかに優れていると結論するのは非常に合理的である。二水和物のほうがエーロゾルの性質が優れていることに寄与する最も可能性の高い因子は、結晶度がより高いことと、含水量が安定していることである。DHEA-S二水和物のこのユニークな性質は、以前のどの文献にも報告されたことがない。二水和物の形態のほうがDHEA-Sのエーロゾルの性能が顕著に優れているとはいえ、純粋な薬物質は最適な製剤でない可能性がある。より大きな粒子サイズの基剤を用いると、一般に、微粉化した薬物質のエーロゾルの性能が改善される。
実施例6
ラクトースがある場合とない場合の無水DHEA-SとDHEA-S二水和物の安定性
高圧液体クロマトグラフィ(HPLC)により、無水DHEA-SとDHEA-S二水和物について最初の純度(時間=0)を測定した。次に、DHEA-Sの両方の形態をラクトースと50:50の比で混合するか、純粋な粉末として使用し、開放されたガラス製バイアルの中に入れ、50℃にて4週間まで保管した。製剤にストレスを与えるのにこの条件を用い、長期安定性の結果を予測した。DHEA-S(無水または二水和物)だけを入れた対照バイアルに封をし、25℃にて4週間まで保管した。サンプルを0、1、2、4週間の時点でも取り出してHPLCで分析することにより、分解された量をDHEAの形成から明らかにした。実質的に無水のDHEA-Sは、ラクトース(名目上50%w/w)と混合して封をしたガラス製バイアルの中で50℃にて保管すると1週間後に茶色になっており、この色は、このラクトース混合物のほうが濃かった。図2に示したように、色のこの変化には、クロマトグラフにおける顕著な変化が伴っている。主要な分解生成物はDHEAである。混合物中のDHEAの量が他の2つのサンプルよりも多いことが、図2から定性的にわかる。サンプル中のDHEAの割合を定量的に評価するため、DHEAのピークの面積を、DHEA-SとDHEAのピークの合計面積で割る(表6を参照)。混合物のほうが分解率が大きいというのは、ラクトースと実質的に無水のDHEA-Sの間に特異的な相互作用があることを示している。DHEAの増加と並行して、粉末の茶色が、加速保管することで時間経過とともに濃くなった。加速保管した材料は、時間経過とともに粘着性が増大する。そのことは、化学的分析のためにサンプルを計量している間の凝集によってわかる。これらの結果に基づくと、実質的に無水のDHEA-Sをラクトースと製剤にすることはできない。これはかなり大きな欠点である。なぜなら、ラクトースは、乾燥粉末製剤に関して最も一般的に用いられている吸入用賦形剤だからである。実質的に無水の形態のままにするというのは、製剤を純粋な粉末に制限すること、または新規な賦形剤を用いるためにより包括的な安全性の研究を行なうことを意味するであろう。
DHEA-S二水和物の場合には、図2とは異なり、50℃で1週間にわたって保管した後にDHEAが実質的に生成しない(図3を参照のこと)。さらに、この材料は色が変化しない。DHEA-S二水和物の含水量は、50℃で1週間経過した後も実質的に変化しないままである。加速保管後の含水量は8.66%であり、それに対して開始時の値は8.8%である。この安定性実験の間に測定したDHEAの割合を表7に示してある。
図1と図2、表6と表7を比較することにより、DHEA-Sは二水和物のほうが安定な形態であることがわかる。そこで二水和物についてさらに研究を行なう。DHEA-S二水和物のほうが実質的に無水のDHEA-Sよりもラクトースと相性がよいことは、これまで特許や研究論文で報告されたことがない。この物質の溶解度は、次のセクションで、噴霧器用溶液の開発作業の一部として報告する。
実施例7
DHEA-S二水和物/ラクトース混合物、吸い込み可能な薬の量、安定性
(1)DHEA-S二水和物/ラクトース混合物
DHEA-Sと吸入グレードのラクトース(フォーモースト・アエロ・フロ95)を同じ重量用意して手で混合した後、500μmのスクリーンを通過させて予備混合物を得る。次にこの予備混合物を残ったラクトースとともにベルアート・マクロ-ミルの中に入れ、DHEA-Sの10%w/w混合物にする。この混合装置には可変電圧源が接続されており、羽根車の速度を調節することができる。この混合装置の電圧は、全電圧の30%を1分間、40%を3分間、45%を1.5分間、30%を1.5分間とサイクルさせる。混合物に含まれる量の均一性は、HPLC分析によって調べた。表8には、この混合物の各サンプルに含まれる量の均一性についての結果を示してある。目標とする値は、DHEA-Sが10%w/wである。ここに示した含有量は、目的とする値に近いことと、均一であることに関して満足のゆくものである。
(2)DHEA-S二水和物/ラクトース混合物のエーロゾル化
この粉末約25mgをホイル・ブリスターに充填して封をし、1回用量用吸入器を用いて60リットル/分でエーロゾル化する。それぞれのテストで2つのブリスターを使用する。微粒子の割合に関する結果(段1〜5にある材料)を表9に示してある。この予備粉末混合物をエーロゾルにした結果は、呼吸器に薬を送達するシステムとして満足できるものである。粉末混合物とブリスター/装置の構成を最適化すると、微粒子の割合がより多くなる。テスト2での粒子サイズ分布の全体像を表10に示してある。このエーロゾルでは、DHEA-Sの直径の中央値は約2.5μmである。この直径は、微粉化したDHEA-S二水和物をレーザー回折によって測定した場合の中央値よりも小さい。不規則な形状の粒子は、長い辺が空気流の場と揃う傾向があるため、空気力学的により小さな粒子として振る舞う可能性がある。したがって2つの方法の間の差を見るのが一般的である。回折測定は、入力材料の品質制御テストであるのに対し、カスケード式圧縮は、最終製品の品質制御テストである。
(3)DHEA-S二水和物/ラクトース混合物の安定性
このラクトース製剤に対しては、50℃で加速化した安定性プログラムも実施した。DHEA-Sの含有量に関する結果を表11に示してある。対照は、室温で保管した混合物である。どちらの条件でもDHEA-Sの含有量が経時変化する傾向はなく、すべての結果は、含有量均一性テストのために回収したサンプルの範囲内である(表11を参照のこと)。さらに、色の変化もなく、クロマトグラムには不規則性も観察されない。この混合物は、化学的に安定であるように見える。
噴霧器用のDHEA-S製剤
DHEA-Sの溶解度
“DHEA-S二水和物の再結晶化(実施例5)”に従って調製した過剰なDHEA-S二水和物を溶媒に添加し、ある程度定期的に揺すりながら少なくとも14時間にわたって平衡させた。次に、得られた懸濁液を0.2ミクロンのシリンジ・フィルタで濾過して直ちに希釈し、HPLC分析を行なった。冷却したサンプルを調製するため、使用する前にシリンジとフィルタを冷蔵庫の中に少なくとも1時間半にわたって保管する。純水の吸入が刺激となって咳が出る可能性がある。したがってハロゲン化物のイオンを噴霧器用の製剤に添加することが重要である。そのとき最も一般的に使用される塩はNaClである。DHEA-Sはナトリウム塩であるため、NaClは共通イオンの効果で溶解度を小さくする可能性がある。室温(24〜26℃)と低温(7〜8℃)におけるDHEA-Sの溶解度をNaClの濃度の関数として図4に示してある。DHEA-Sの溶解度は、NaClの濃度が大きくなるにつれて小さくなる。保管温度を下げると、NaClのすべての濃度で溶解度が小さくなる。温度効果は、NaClの濃度が大きいほど弱い。3回の測定に関し、約25℃でNaClが0%のときの溶解度は、16.5〜17.4mg/mlであり、相対標準偏差は2.7%である。低温でNaClが0.9%の場合には、3回の測定での範囲は1.1〜1.3mg/mlであり、相対標準偏差は8.3%である。
固体状態のDHEA-Sと溶液状態の間の平衡は、以下のようになる。
NaDHEA-S固体 ←→ DHEA-S- + Na+
K = [DHEA-S-][Na+]/[NaDHEA-S固体]
固体状態のDHEA-Sの濃度は一定(すなわち物理的に安定な二水和物)であるため、平衡の式は簡単化されて以下のようになる。
Ksp = [DHEA-S-][Na+]
この仮定に基づき、DHEA-Sの溶解度を全ナトリウム陽イオンの濃度の逆数に関してプロットすると、勾配がKspに等しい直線になる。そのことを、室温と低温での平衡に関してそれぞれ図5と図6に示してある。相関係数に基づくと、このモデルは、室温と低温の両方でデータによくフィットする。なお平衡定数は、それぞれ2236と665mM2である。溶解度を最大にするためには、NaClのレベルをできるだけ低くする必要がある。噴霧器用溶液のためのハロゲン化物イオンの最少含有量は、20mM、または0.12%NaClでなくてはならない。
この溶液中のDHEA-Sの濃度を推定するため、噴霧器の使用中に温度を10℃下げることを仮定する(すなわち15℃にする)。絶対温度の逆数に関して上記の平衡定数をプロットしてその間を内挿すると、15℃におけるKspは約1316mM2となる。1モルのDHEA-Sは、溶液に対して1モルのナトリウム陽イオンとして寄与する。したがって以下のようになる。
Ksp = [DHEA-S-][Na+] = Ksp = [DHEA-S-][Na++DHEA-S-]
= [DHEA-S-]2+[Na+][DHEA-S-]
これは、[DHEA-S-]に関して二次方程式の解の公式を用いると解ける。Kspが1316mM2である20mMのNa+溶液は、27.5mMのDHEA-S-または10.7mg/mlである。したがって、0.12%NaClの中にDHEA-Sが10mg/mlの割合で溶けた溶液が、さらにテストをするための優れた候補製剤として選択される。この公式による推定では、噴霧器から水が蒸発することに起因する濃度効果はまったく説明されない。0.12% NaClの中にDHEA-Sが10mg/mlの割合で溶けた溶液のpHは、4.7〜5.6である。これは吸入製剤として許容できるpHのレベルであろうが、それでも20mMのリン酸緩衝液を用いた効果を調べる。緩衝溶液がある場合とない場合について、室温における溶解度を調べた結果を図7に示してある。製剤中に緩衝液が存在していると、特にNaClのレベルが低いときに溶解度が小さくなる。図8に示したように、緩衝液が存在している場合の溶解度の数値は、緩衝液が存在していない場合と同じ平衡曲線に従って低下する。緩衝液を用いると溶解度が小さくなるのは、ナトリウム陽イオンの含有量が増えることが原因である。溶解度をできるだけ大きくすることは1つの重要な目標であり、製剤を緩衝すると溶解度が小さくなることがわかる。さらに、IshiharaとSugimoto(1979年、Drug Dev. Indust. Pharm.、第5巻(3)、263〜275ページ)は、中性pHではNaDHEA-Sの安定性に有意な改善を見いださなかった。
安定性の研究
短期間の溶液安定性実験を行なうため、10mg/mlのDHEA-S製剤を0.12%NaClの中に調製する。この溶液のアリコートを透明なガラス製バイアルに充填し、室温(24〜26℃)と40℃で保管する。これらサンプルのDHEA-S含有量、DHEA含有量、外観を、毎日チェックする。それぞれの時点で各バイアルからサンプルを2回にわたって取り出して希釈する。この研究の全期間を通じたDHEA-S含有量を図9と図10に示してある。加速条件では、溶液がより早く分解し、2日間保管した後に濁った。室温で保管した溶液はより安定であり、3日目にわずかな沈殿物が観察された。3日目にこの研究を中止する。図10に示したように、DHEA-Sが分解するとDHEAの含有量が増加する。DHEAは水に溶けないため、製剤中に少量含まれているだけで濁った溶液になったり(加速条件での保管)、結晶が沈殿したりする(室温での保管)。DHEA-Sの溶解度を早い段階で目で見て評価すると、この化合物の溶解度がひどく過小評価されることが、これで説明される。つまり、少量のDHEAから、DHEA-Sの溶解度の限界を超えたと結論してしまう可能性がある。臨床試験において再構成する日に備え、溶液は容易に安定化する必要がある。次のセクションでこの製剤のエーロゾル特性について説明する。
噴霧器の研究
パリ・プロネブ・ウルトラ・コンプレッサとLCプラス噴霧器を用いてDHEA-S溶液を噴霧化する。実験設備の概略を図11に示してある。噴霧器に溶液を5ml充填し、出力が目で見てわずかな量になるまで噴霧化を継続する(4.5〜5分間)。噴霧器用溶液は、USPスロートを備えたカリフォルニア・インスツルメンツ社のAS-6 6段インパクターを用いてテストする。噴霧化を1分間行なった後にこのインパクターを30リットル/分で8秒間作動させてサンプルを回収する。実験を行なっている他の全期間は、エーロゾルをバイパス回収装置を通じて約33リットル/分で引き出す。移動相を用いてこの回収装置、噴霧器、インパクターを洗浄し、HPLCで調べる。噴霧器では、DHEA-Sを含む0.12%NaClを5ml使用する。この量を選択したのは、臨床試験で用いる実際的な上限だからである。最初の5回の噴霧化実験の結果を以下に示す。
噴霧器#1は約5分間で乾燥したのに対し、噴霧器#2の乾燥時間は4.5分間よりもわずかに短い。それぞれの場合に噴霧器の中に残る液体の体積は、約2mlである。この液体は、噴霧器から取り出した最初のうちは濁っていたが、3〜5分以内に透明になる。この時間が経過した後でさえ、10mg/mlの溶液には大きな沈殿物が少量残っているように見える。液体中の細かい空気の泡が、最初の濁りを引き起こしたように見える。DHEA-Sは、界面活性を持っているように見え(すなわち発泡を促進する)、そのことによって空気の泡が液体中で安定する。10mg/mlの溶液に沈殿物が生じたということは、薬物質の溶解度が噴霧器環境の限度を超えたことを示している。したがって、より低い濃度で表13に示した別の噴霧化実験を実施する。表13には、“薬の量”が溶液の濃度に対して直線になる別のデータが示してある。
噴霧器#3は、乾燥するまでの時間が4.5分間よりもわずかに短い。バイパス回収装置に堆積した重量を初期溶液濃度に対してプロットしたグラフが図12である。0〜7.5mg/mlでよく直線になっており、その後、回収量が減少し始めるように見える。冷却による溶解度の低下は10mg/mlの溶液の計算に含まれているが、薬とNaClの含有量に対するあらゆる濃度効果は無視した。したがって噴霧器用液体が過飽和によって沈殿物を形成することが可能である。図12のデータと、噴霧化の後に10mg/mlの溶液にいくらか沈殿物が生じたという観察結果は、臨床試験用製剤をテストするための溶液の最大濃度が約7.5mg/mlであることを示している。エーロゾルのサンプルをカスケード式インパクターの中に取り込んで粒子サイズを分析する。粒子サイズの分布が溶液の濃度や噴霧器の番号に依存する傾向は見いだせない。すべての噴霧化実験に関する平均粒子サイズの分布を図13に示してある。エーロゾルの粒子サイズの測定結果は、この噴霧器について公開されている/公表されている結果と一致している(すなわち直径の中央値が約2μm)。試験管内での実験により、噴霧器用製剤は吸い込み可能なDHEA-Sエーロゾルを送達できること、この製剤は不安定であること、製剤を連続的に噴霧化するのに4〜5分かかることがわかる。したがって安定なDPI製剤には大きな利点がある。DHEA-S二水和物は、DPI製剤ににとって最も安定な固体状態であることがわかった。DHEA-Sを臨床試験するための最適な噴霧器用製剤は、0.12%NaClの中にDHEA-Sが7.5mg/mlの割合で含まれたものである。この製剤のpHは、緩衝系なしでも許容できる値である。DHEA-Sの水溶性は、ナトリウム陽イオンの濃度を最小にすると最大になる。緩衝液なしで塩化ナトリウムが最低レベルのときにこの目標が実現される。これは、Cl-が20mMのとき、噴霧化の間に沈澱しない薬の最大濃度である。この製剤は、室温で少なくとも1日間は安定である。
実施例9
実験モデルの調製
細胞培養物として、HT-29 SF細胞を入手した。このHT-29 SF細胞は、HY-29細胞(ATCC、ロックヴィル、メリーランド州)の下位系であり、完全に決められた無血清PC-1培地(ヴェントレックス社、ポートランド、メーン州)の中で増殖させるのに適している。貯蔵培養物を(5%CO2を含む湿潤な大気中にある)この培地の中で37℃にて維持した。集密培養物をトリプシン/EDTA(ギブコ社、グランド・アイランド、ニューヨーク州)を用いて解離させた後に再びプレートに植え、24時間ごとにこの集密培養物を供給した。この条件下で対数増殖期にHT-29 SF細胞が2倍になる時間は24時間であった。
フローサイトメトリー
60mmの皿に細胞を105個植えたものを2通り用意した。細胞周期の分布を分析するため、培養物を0μM、25μM、50μM、200μMのDHEAに曝露した。細胞周期に対するDHEAの効果を打ち消す効果を分析するため、培養物を0μMまたは25μMのDHEAに曝露し、培地には、MVA、CH、RN、MVA+CH、MVA+CH+RNのいずれかを補足するか、何も補足しなかった。Bauer他、Cancer Res.、第46巻、3173〜3178ページ、1986年の方法を改変した方法を利用し、0、24、48、74時間後、培地をトリプシンで処理し、固定し、染色した。簡単に説明すると、細胞を遠心分離で回収し、冷たいリン酸緩衝化生理食塩水に再び懸濁させた。細胞を70%エタノールの中で固定し、洗浄し、リン酸緩衝化生理食塩水に再び懸濁させた。次に、1mlの低張染色溶液(50μg/mlのヨウ化プロピジウム(シグマ・ケミカル社)、20μg/mlのRNアーゼA(ベーリンガー・マンハイム社、インディアナポリス、インディアナ州)、30mg/mlのポリエチレングリコール、0.1%トリトンX-100を含む5mMのクエン酸緩衝液)を添加し、室温にして10分後、1mlの等張染色溶液(ヨウ化プロピジウム、ポリエチレングリコール、トリトンX-100を含む0.4MのNaCl)を添加し、パルス幅/パルス面積の両方を識別する装置(ベクトン・ディキンソン・イムノサイトメトリー・システムズ社、サンノゼ、カリフォルニア州)を備えたフローサイトメーターを用いて細胞を分析した。蛍光ビーズを用いて較正した後、サンプル1つにつき最低で2×104個の細胞を分析し、データを、蛍光強度が大きくなっていく1024チャネルそれぞれでの細胞の合計数として表示した。得られたヒストグラムをセルフィット分析プログラム(ベクトン・ディキンソン社)を用いて分析した。
細胞増殖に対するDHEAの効果
30mmの皿に細胞を25,000個植えたものを4通り用意し、2日後に、0μM、12.5μM、25μM、50μM、200μMいずれかのDHEAを与えた。コールター・カウンター(モデルZ、コールター・エレクトロニクス社、ハイアリーア、フロリダ州)を用い、細胞の数を0、24、48、72時間後に測定した。DHEA(アクゾ社、バーゼル、スイス国)をジメチルスルホキシドに溶かし、殺菌濾過し、使用するときまで-20℃で保管した。
図14は、HT-29細胞の増殖がDHEAによって阻止されることを示している。点は細胞の数を表わしており、棒はSEMである。各データ点は4つ取得し、実験は3回繰り返した。SEMを示す棒は明らかではなく、記号よりも小さい。DHEAに曝露したときに対照と比べて細胞の数が減少したのは、DHEAが12.5μMのときの72時間後、25μMまたは50μMのときの48時間後、200μMのときの24時間後である。DHEAにより、増殖が時間と投与量に依存して抑制された。
細胞周期に対するDHEAの効果
DHEAが細胞周期の分布に及ぼす効果を調べるため、HT-29 SF細胞を植え(60mmの皿に105個の細胞)、48時間後に0μM、25μM、50μM、200μMいずれかのDHEAで処理した。図15は、HT-29 SF細胞においてDHEAが細胞周期の分布に及ぼす効果を示している。24、48、72時間後、細胞を回収し、エタノールの中で固定し、ヨウ化プロピジウムで染色し、細胞1個当たりのDNA含有量をフローサイトメトリー分析によって明らかにした。G1期、S期、G2M期にある細胞の割合は、セルフィット細胞周期分析プログラムを用いて計算した。S期は、明らかに四角形であることを特徴とする。2通りのサンプルで測定した代表的なヒストグラムを示してある。実験は3回繰り返した。
25μMまたは50μMのDHEAで処理した培養物中の細胞周期の分布は、最初の24時間が経過しても変化しなかった。しかしDHEAに曝露する時間が長くなるにつれ、S期にある細胞の割合が徐々に減った。G1期、S期、G2M期にある細胞の割合は、セルフィット細胞周期分析プログラムを用いて計算した。S期は、明らかに四角形であることを特徴とする。2通りのサンプルで測定した代表的なヒストグラムを示してある。実験は3回繰り返した。
25μMまたは50μMのDHEAで処理した培養物中の細胞周期の分布は、最初の24時間が経過しても変化しなかった。しかしDHEAに曝露する時間が長くなるにつれ、S期にある細胞の割合が徐々に減り、72時間後にはG1期にある細胞の割合が増えた。G2M期にある細胞の一時的な増加が48時間後に明らかになった。200μMのDHEAに曝露すると同様のことが起こったが、G1期にある細胞の割合の増加はより急であり、24時間後にS期にある細胞の割合が低下した。この傾向が処理期間を通じて継続した。これは、DHEAにより、HT-29 SF細胞においてG1期に停止するという状況が時間と投与量に依存して起こったことを示している。
実施例10
増殖と細胞周期に対するDHEAの効果の打ち消し
DHEAによる増殖抑制の打ち消し
細胞を上記のようにして植え、2日後に、0μMまたは25μMのDHEA含有培地を与えた。この培地には、メバロン酸(“MVA”;2μM)、スクワレン(SQ;80μM)、コレステロール(CH;15μg/ml)、MVA+CH、リボヌクレオシド(RN;ウリジン、シチジン、アデノシン、グアノシンのそれぞれの最終濃度30μM)、デオキシリボヌクレオシド(DN;チミジン、デオキシシチジン、デオキシアデノシン、デオキシグアノシンのそれぞれの最終濃度20μM)、RN+DN、MVA+CH+RNのいずれかを補足するか、何も補足しなかった。どの化合物も、シグマ・ケミカルズ社(セントルイス、ミズーリ州)から入手した。コレステロールを使用の直前にエタノールに溶かした。RNとDNは、DHEAがないと増殖に対する効果のないことがわかっている最大濃度で使用した。
図16は、HT-29細胞においてDHEAによって誘導される増殖阻害が打ち消されることを示している。Aでは、培地に2μMのMVAと、80μMのSQと、15μg/mlのCHとを補足するか、MVAとCH(MVA+CH)を補足するか、何も補足しなかった(CON)。Bでは、培地に、ウリジン、シチジン、アデノシン、グアノシンそれぞれの最終濃度が30μMであるRN混合物;チミジン、デオキシシチジン、デオキシアデノシン、デオキシグアノシンそれぞれの最終濃度が20μMであるDN混合物;RNとDN(RN+DN);MVAとCHとRN(MVA+CH+RN)のいずれかを補足した。処理前と48時間にわたって処理した後で細胞の数を調べ、培地の増殖を、48時間にわたって処理している間の細胞数の増加として計算した。太い棒は、処理していない対照での細胞増殖の割合を表わし;細い棒は、SEMを表わしている。処理していない対照での細胞数の増加は、173,370"6518であった。各データ点は、4つの皿で4回の独立した実験を行なった結果を表わしている。スチューデントのt検定を利用して統計的分析を行なった。κは対照と比べてp<0.01であることを表わし;Ψは対照と比べてp<0.001であることを表わす。DHEAがないと、補足した化合物は、培養物の増殖に対する効果がほとんどなかったことに注意されたい。
このような条件下では、MVAを添加した場合とMVA+CHを添加した場合に、DHEAによって誘導される増殖の阻止が部分的に妨げられる。SQまたはCHだけを添加した場合にはこのような効果はなかった。これは、DHEAの細胞増殖抑制活性の一部が、内在性メバロン酸塩の欠乏と、それに続く、細胞増殖に不可欠なコレステロール経路における初期中間体の生合成阻止によることを示唆している。さらに、増殖の部分的再開がRNを添加した後とRN+DNを添加した後に見られたが、DNを添加した後には見られなかった。これは、メバロン酸塩のプールとヌクレオチドのプールの両方の欠乏が、DHEAの増殖阻止作用に関与していることを示している。しかしどの再開条件(例えばMVAとCHとRNを組み合わせた添加)も、DHEAの阻止作用に完全に打ち勝つことはなかった。これは、細胞毒性効果と追加の生化学的経路のいずれか、おそらくは後者が関与していることを示唆している。
細胞周期に対するDHEAの効果の打ち消し
25FMのDHEAに多数の化合物(例えばMVA、CH、RN)を組み合わせてHT-29 SF細胞を処理し、その化合物がDHEAの細胞周期特異的効果を抑制する能力をテストした。細胞周期の分布を48時間後と72時間後にフローサイトメトリーを利用して測定した。
図17は、HT-29 SF細胞においてDHEAによって誘導される停止状態が解かれることを示している。細胞を植え(60mmの皿に105個の細胞)、48時間後に0FMまたは25FMのDHEAで処理した。培地に、2FMのMVA;15Fg/mlのCH;ウリジン、シチジン、アデノシン、グアノシンそれぞれの最終濃度が30FMであるRN混合物;MVAとCH(MVA+CH);MVAとCHとRN(MVA+CH+RN)のいずれかを補足するか、何も補足しなかった。細胞を48時間後または72時間後に回収し、エタノールの中で固定し、ヨウ化プロピジウムで染色し、細胞1個当たりのDNA含有量をフローサイトメトリー分析によって明らかにした。G1期、S期、G2M期にある細胞の割合は、セルフィット細胞周期分析プログラムを用いて計算した。S期は、明らかに四角形であることを特徴とする。2通りのサンプルで測定した代表的なヒストグラムを示してある。実験は2回繰り返した。DHEAがないと、補足した化合物は、培養物の増殖に対して効果がほとんどなかったことに注意されたい。
DHEAへの曝露時間が長くなるにつれ、S期にある細胞の割合が徐々に減った。MVAが含まれていると、この効果が最初の48時間に一部阻止されたが72時間後はそうではなかった。それに対してMVA+CHを添加すると、72時間後のS期細胞の欠乏をやはり一部阻止することができた。これは、DHEAへの曝露時間が長いとMVAとCHの両方が細胞増殖に必要とされることを示唆している。MVA+CH+RNの添加が細胞周期の再開には明らかに最も効果的だったが、S期にある細胞の割合が、処理していない対照培養物で見られた値に回復することはなかった。CHまたはRNが単独の場合には、48時間後にはほとんど効果がなく、72時間後にはまったく効果がなかった。形態的には、細胞は、丸い形を獲得することによってDHEAに応答し、培地にMVAを添加することによってだけ、それが阻止された。72時間にわたってDHEAに曝露した後のDNAヒストグラム(図17)のいくつかは、DNA含有量が明らかに減った細胞集団が存在していることも示している。HT-29細胞系はいろいろな数の染色体(68〜72;ATCC)を持つ細胞の集団を含んでいることが知られているため、この結果は、染色体の数がより少ない選択された一部の細胞を代表している可能性がある。
結論
上記の実施例9と10は、内在性メバロン酸塩を欠乏させることが知られているDHEAを試験管内でいろいろな濃度にした中にHT-29 SFヒト大腸腺癌細胞を曝すと、増殖が阻止されてG1期に停止することと、MVAを培地に添加するとその効果が一部阻止されることの証拠を提供する。DHEAは、タンパク質のイソプレニル化に影響を与えた。その影響は、多くの点で、特異的3-ヒドロキシ-3-メチル-グルタリル-CoAレダクターゼ阻害剤(例えばロバスタチンやコンパクチン)で観察されたのと同様であった。しかしDHEAは、メバロン酸生合成の直接的な阻害剤とは異なり、多面発現的なやり方で、細胞周期の進行と細胞増殖に影響を与える。その多面発現的なやり方には、リボヌクレオチドやデオキシリボヌクレオチドの生合成と、おそらく他の因子も関係している。
実施例11
定量吸入器
定量吸入器
定量吸入器
定量吸入器
以下の実施例15〜18では、第1の活性剤と第2の活性剤を微粉化し、バルクのラクトースと上記の比で混合する。この混合物を硬性ゼラチン・カプセルまたはカートリッジに充填するか、特別に構成した二重ホイル・ブリスター・パックに充填し、吸入器によって投与する。吸入器としては、例えばロタハラー吸入器(グラクソ(登録商標))を使用し、ブリスター・パックの場合にはディスクハラー吸入器(グラクソ(登録商標))を用いる。
実施例15
定量乾燥粉末製剤
定量乾燥粉末製剤
定量乾燥粉末製剤
定量乾燥粉末製剤
喘息のヒト気道平滑筋の細胞機能にcAMPが及ぼす効果
以下の研究では、cAMPを通じてヒトASM細胞の増殖を阻止する作用を及ぼす薬の効果をDHEA-Sがいかにして大きくできるかを調べた。この研究のために選択したマイトジェン(EGF)を、喘息患者またはアレルゲンの挑戦を受けた喘息の人の気管支肺胞洗浄液(BAL)の中で増やす。使用する濃度は、このような研究においてBAL流体で見いだされた値とほぼ同じにする。
ヒトASM細胞は、ペンシルヴェニア大学の制度審査委員会の承認を得て移植ドナーの遠位気管から入手した。結合組織のない遠位気管筋を切除して酵素で消化させると、約1×104個のASM細胞が得られた。次にその細胞を10%胎仔血清中で増殖させて集密させ、1%ウシ血清アルブミンを含む無血清培地の中で24時間にわたって処理して不活性化した。その後、細胞を希釈液またはEGF(1ng/ml)とともに24時間にわたってインキュベートした。この最初のインキュベーションが終わった後、細胞を[3H]-チミジンに曝露し、チミジンの取り込みを利用してDNAの合成を24時間にわたって測定した。細胞を分離してフィルタの上に載せ、β線カウンタを用いてカウントした。どの実験も、最低3つのヒトASM細胞系で繰り返して行なった。1回の実験のすべての条件を6回繰り返した。データは、平均値±平均値の標準誤差として表わし、ボンフェローニ-ダン補正と分散分析を利用して統計的分析を行なった。有意性はP<0.05であることがわかった。
いくつかの実験では、細胞を特別な増殖因子(EGF)および10μMのDHEAとともにインキュベートした。DNAを上記のようにして合成した。DNAの合成は、チミジンの取り込みによって測定した。増殖因子によって誘導されるDNA合成を50%阻止する濃度を計算し、IC50として表現した。
ASMの分裂促進に関係するcAMPの濃度をDHEA-Sが変化させる役割も調べた。cAMPは、平滑筋の増殖に関する二次的シグナル伝達経路として重要であることが知られている。cAMPの濃度および/またはアデノシンの濃度を変化させるのに一般に使用されている抗喘息薬には3つのクラスがある。それは、メチルキサンチン、β-作用薬、ホスホジエステラーゼ阻害薬である。それぞれのクラスの薬について、平滑筋の増殖促進ツールとなる化合物としてイソブチルメチルキサンチン(IBMX)を使用した。これらの実験では、IBMXで処理した細胞にIC50の濃度のDHEA-Sを同時に添加し、増殖因子によって誘導されるDNA合成に対する効果を調べた。
図18は、ヒト平滑筋培養物への3H-チミジンの取り込みにEGF、IBMX、DHEAが及ぼす効果を示している。このデータは、IBMXとDHEAのどちらも、単独でも組み合わせても平滑筋の増殖を阻止しないことを示している。EGFの濃度が1ng/mlだと、3H-チミジンの取り込みが約10倍になった。
この一連の実験においては、EGFによって促進された増殖能力の抑制に関し、単独のDHEA-Sの能力と、IBMXと組み合わせたDHEA-Sの能力を調べた。図19からわかるように、濃度が10μMのDHEA-Sは、ASMの増殖を約11%減少させた(欄2と3を比較)。チミジンの取り込みに対するIBMX(0.1〜100μM)の効果はさまざまであった(欄8〜11)。しかし10μMのDHEA-Sの存在下でこの実験を繰り返すと、平滑筋の増殖はIBMXの濃度に依存して阻止され、IC50は約10μMであった(欄4〜7)。
これらのデータから、DHEA-SとIBMXを組み合わせると、どちらかの薬が単独の場合よりも平滑筋の増殖に大きな影響があったことがわかる。cAMPの作用を調べるためのツールとなる化合物として、IBMXを使用した。したがって3つの実験から、呼吸器疾患の治療では、cAMPを変化させる薬(例えばメチルキサンチン)をDHEA-Sと組み合わせて使用できることがわかる。作用メカニズムを1つに限定するつもりはないが、平滑筋の増殖を阻止することにより、中程度から重度の喘息を抱えている患者において進行している気道のリモデリングが阻止されることが期待されよう。この結果は、DHEA-SをcAMPのモジュレータ(例えばメチルキサンチン)と組み合わせると、気道の平滑筋のリモデリングを減らせる可能性があることを示している。
実施例20
ヒスタミンの放出に対するDHEA-Sとサルブタモールの効果
モデル1:ラットの腹膜マスト細胞
単離したばかりのラットの腹膜マスト細胞(2×105個の細胞)を、150mMのNaCl(pH7.4)と、2.7mMのKClと、0.9mMのCaCl2と、4mMのNa2HPO4と、2.7mMのKH2PO4と、1.75mg/mlのBSAと、0.1μg/mlの化合物48/80とを含む平衡塩類溶液の中で、37℃にて5分間にわたってあらかじめインキュベートした。その後、DHEA-S、DHEA-Sとサルブタモールの組み合わせ、水(対照)のいずれかを添加し、その混合物を37℃にて2分間にわたってインキュベートした。
インキュベーションの後、混合物を4℃に冷却し、次いで4500rpmで5分間にわたって遠心分離した。上清を回収し、4℃にて5%TCA(トリクロロ酢酸)と30分間にわたって混合し、タンパク質を沈澱させた。9500×gで15分間にわたって遠心分離した後、上清を回収し、0.25MのHClと混合した。その後、サンプルを2MのNaOHおよび0.2%OPT(オルト-フタルアルデヒド)と混合し、暗所で4℃にて30分間にわたってインキュベートした後、0.5MのH2SO4を添加して反応を停止させた。
分泌されるヒスタミンの量は、分光蛍光計(ジェミニXS、モレキュラー・デバイシーズ社)を用いてλex=360nmとλem=450nmで蛍光強度を測定することによってわかる。結果は、対照でのヒスタミン分泌を基準として阻止された割合(%)として表わる。
サルブタモールの濃度を1pM、10pM、100pMにして調べた。この濃度範囲には、β2アドレナリン受容体への結合に関するEC50が含まれることが知られている。これらの濃度では、化合物48/80によって誘導されるヒスタミンの放出が阻止されることはなかった(以下の表を参照のこと)。DHEA-Sが30μMだとマスト細胞からの放出が46%抑制された。30μMのDHEA-Sを10pMまたは100pMのサルブタモールと組み合わせると相乗効果が観察され、93%が抑制された。この値は、どちらか一方の薬を単独で用いた場合よりも大きい。
β-作用薬は呼吸器疾患に有効であることが明確になっているため、上記の知見から、硫酸DHEAをβ作用薬と組み合わせると乗算的または相乗的に作用し、アレルギー患者におけるヒスタミン放出の有害な面が減るであろうことが結論される。したがって患者は、これら2つの薬の組み合わせから臨床上の利益を得ることになる。
第1の活性剤として、硫酸DHEAに加え、他の適切な非グルココルチコイドステロイド(例えばエピアンドロステロン、その誘導体、そのアナログ、その医薬的に許容可能な塩)も使用できる。そのような化合物は、例えばこの明細書の化学式(I)、(III)、(IV)に示してある。
上記の好ましい実施態様を参照して本発明を説明してきたが、本発明の精神を逸脱することなく、さまざまな変更をなしうることを理解せねばならない。
あらゆる出版物、特許、特許出願、ウェブ・サイトは、その全体が、個々の出版物、特許、特許出願、ウェブ・サイトの全体が具体的かつ個別に参考として組み込まれているかのようにして、この明細書に組み込まれているものとする。