JP2007302640A - 抗放射線被ばく障害剤 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】放射線被ばくによる生体障害を効果的に予防または抑制する薬剤として、ラクトフェリンが有効であることを見出した。ラクトフェリンは通常食品としても流通しているものであるため、安価であり、かつ副作用がほとんど見られないという非常に大きな利点を奏する。
【選択図】なし
Description
一方、原子力発電に携わる作業者・技術者、放射線を利用する測定機器類の取扱者、および癌の放射線治療を行う医師・技術者は常に放射線被ばくによる健康障害に直面している。また、航空機の操縦士や乗務員の宇宙線被ばくが問題になっている。さらに、放射線治療を受けている癌患者は吐き気や下痢などの副作用に悩まされる場合が多い。X線CTなど放射線を利用して健康診断を受ける人の微量の放射線被ばくによる発癌リスクが問題になっている。このように、職業人と一般人とを問わず、放射線被ばくによる生体障害リスクを克服する抗放射線被ばく障害剤の開発研究は社会の重要な課題である。しかしながら、放射線被ばくによる生体障害を予防および治療するための抗放射線被ばく障害剤で実用化されている薬剤は極めて少ない。例えば、米国ではアミフォスチン(Amifostine)が頭頚部の放射線癌治療において口腔乾燥症の予防に認可されている(非特許文献1参照)。また、放射線被ばくによる生体障害を効果的に防御する放射線防護剤として各種アミノチオール類が報告されている(非特許文献2参照)。また乳酸桿菌の放射線防護剤としての有効性も報告されている(非特許文献3参照)。
また、本発明の目的は、放射線被ばく、および癌の治療や診断における放射線による障害を有効に予防または抑制あるいは治療するための安価な薬剤を提供することにある。
すなわち本発明は、ラクトフェリンを有効成分とする抗放射線被ばく障害剤に関する。
また、ラクトフェリンは、通常食品としても流通しているものであるため、安価であり、かつ副作用がほとんど見られないという非常に大きな利点を奏する。
本明細書において、“抗放射線被ばく障害剤”とは、放射線照射前あるいは放射線照射前から放照射中にかけて投与することにより放射線の被ばくによる生体障害を予防する効果を奏する薬剤、放射線照射後に投与することにより放射線の被ばくによる生体障害を抑制あるいは治療する薬剤を意味する。放射線とは、放射性崩壊によって放出される粒子(光子を含む)のつくるビームであって、α線、β線、γ線などがあり、さらにX線や、核反応、素粒子の相互転換で放出される粒子線、宇宙線なども含む。
ラクトフェリンは分子量が約80000程度の糖蛋白質である。ラクトフェリンは、トランスフェリンファミリー蛋白質と呼ばれる一群の蛋白質であり、鉄、銅、アルミニウム、バナジウム、亜鉛、ガリウム等の金属イオン、特に鉄イオンと結合する蛋白質である。ラクトフェリンは金属飽和型のホロ型、金属不飽和型或いは遊離型のアポ型のいずれのタイプであってもよい。また、部分的に飽和されていてもよい。また、ラクトフェリンの加水分解物、ラクトフェリン由来ペプチドも同様な抗放射線被ばく障害作用を示す範囲において、本発明の範囲とする。
本発明において、ラクトフェリンを有効成分として含む抗放射線被ばく障害剤は様々な剤型とすることができる。投与経路は例えば、経口、静脈、皮下、筋肉投与等が挙げられる。予防効果という観点からは投与法が簡便である経口投与が好ましい。また、放射線被ばく後に効果を迅速に得るという観点からは動物実験では腹腔内投与で効果があるため、腹腔あるいはこれと同等の効果を奏する経路による投与が好ましい。
剤型としては、例えば、粉末、液剤、散剤、顆粒剤、錠剤、腸溶剤およびカプセル剤などの経口剤や、静脈、皮下、筋肉、腹腔内用等の注射剤、坐剤などの非経口剤が挙げられる。経口投与剤、注射剤等の形態で用いる場合には、本発明の効果を阻害しない範囲内で、これらの剤形に通常使用される様々な賦形剤や添加剤を使用することができる。
実験として、0.1%のラクトフェリンを加えた飼料と通常の飼料(コントロール)をそれぞれ用いたマウス群を1ヶ月間飼育した後、6.8GyのX線を1回全身照射し、照射後、30日間の生存率を観察したところ、照射30日後の生存率は、コントロール群が62%であったのに対し、ラクトフェリン投与群では85%という高い生存率を示した。このような高い生存率を示した(図1)。また、マウス群に対して6.8GyのX線を1回全身照射した後、ラクトフェリンを腹腔内投与したところ、照射30日後の生存率は、コントロール群が約50%であったのに対し、ラクトフェリン投与群では90%以上もの高い生存率を示した(図6)。
一般的に放射線抵抗性は抗酸化作用による活性酸素抑制および免疫機能の活性化により生ずるものと考えられている。生体の約70%は水分であるが、水に放射線があたるとフリーラジカルが発生する。放射線の生体に対する作用の多くは生体中の水の放射線分解によって生成する活性酸素やフリーラジカルによるものである。水の放射線照射により、スーパーオキシドアニオンラジカル(O2 -)とヒドロキシラジカル(・OH)という二つのフリーラジカルが生成する。生体には活性酸素やフリーラジカルを消去し、生体膜の過酸化を防ぐ強力な化学的な防御機構が存在しているが、このフリーラジカルを消去させることが生命の維持に不可欠となる。これらの障害から生体を防御するには、(1)スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)やカタラーゼのようにヒドロキシラジカルの発生源を阻止する、(2)鉄や銅などの金属をトラップし、ヒドロキシラジカルの発生を阻止する、(3)発生したヒドロキシラジカルをトラップして生体構成成分への障害を防ぐ、といったことが考えられる。
コントロール群と比べてラクトフェリン投与群の照射後の腸内細菌数は、コントロール群は菌数が増加し、ラクトフェリン投与群は菌数が減少する傾向にあった(図4)。
また、コントロール群では10日後に菌数が増加したのに対し、ラクトフェリン投与群では30日後に菌数増加が見られた。すなわち、ラクトフェリン投与群では細菌の増殖が抑制された(図5)。
特に腸内細菌組成に関して、コントロール群では、Enterobavteriaceaeの割合が有意に多くなったのに対し、ラクトフェリン投与群ではEnterobavteriaceaeの増加は見られなかった。一方、Lactobacillusはコントロール群に対してラクトフェリン投与群では有意に増加した。Enterobavteriaceaeは、Escherichia coliなども含まれることから、著しい増加は身体にとって好ましくない。放射線照射により免疫機能が低下している期間に、Lactobacillusの増加によりEnterobavteriaceaeの増殖が抑制され、これが、生存率の向上に寄与していることが考えられる。
実施例1
ラクトフェリンの抗放射線被ばく障害作用の測定
0.1%のLF(ラクトフェリン、株式会社森永乳業製)を含む完全精製飼料(AIN-93、飼料1kgの基礎組成は、(i)AIN-93ビタミン混合(酒石酸コリン添加)10g、(ii)AIN-93Gミネラル混合35g、(iii)コーンスターチ532g、(iv)カゼイン200g、(v)セルロースパウダー50g(いずれもオリエンタル酵母KK)、(vi)大豆油70g、(vii)L-シスチン3g、(viii)グラニュー糖100gを混合したものである。これにラクトフェリンを加える場合、コーンスターチ重量で調整する)を作成した。またコントロール飼料としてLFを加えないAIN-93飼料を調製した。ラクトフェリン投与群及びコントロール群の各群25匹の6週齢のC3H/Heマウスを、それぞれの飼料で一ヶ月間飼育した。
6.8GyのX線を一回全身照射し、照射後、30日間の生存率を観察した。なお、飼料はそれぞれ照射前と同じ飼料で飼育を続けた。結果を図1に示す。
図1から明らかなように、照射後30日目の生存率は、コントロール群では62%であったのに対し、ラクトフェリン含有飼料を用いた群では85%と高い生存率を示した。
ラクトフェリンのラジカルスカベンジャー能の測定
(i)Cu(en)2反応で発生させた・OH(ヒドロキシラジカル)の50%を阻害するラクトフェリン濃度(IC50)をスピントラップ法により測定した。すなわち、活性酸素やラジカルの寿命は非常に短いため、スピントラップ剤を用いて安定なDMPO-O2-体ならびにDMPO-OH体とし、これをESR(日本電子製、JES-FR30S ESR分光器)で測定した。その結果、ラクトフェリンのIC50は0.0035mMであった(図2)。なお、・OH消去能を有することが知られているTroloxのIC50は15mM、GSH(グルタチオン)のIC50は0.17mMである。従って、ラクトフェリンは非常に低濃度で・OH消去能を示すといえる。
(ii)過酸化水素と紫外線を用いて発生させた・OHに対するラクトフェリンのIC50を同様に測定した。その結果、IC50は0.025mMであった(図3)。なお、コントロールとして用いたGSHのIC50は2.8mMである。従って、ラクトフェリンは非常に低濃度で・OH消去能を示し、(i)の結果を支持している。
放射線照射による腸内細菌数及び細菌組成の変化
実施例1と同じラクトフェリン投与群及びコントロール群のマウスを作成し、5Gy放射線を照射した。照射前、照射5日後、10日後及び30日後における各マウスの腸内細菌数と細菌組成を以下のようにして測定した。
<腸内容物の取り出し・細菌の培養>
マウスをエーテル蒸気で麻酔、不動化後、大腸(結腸、直腸)を取り出した。大腸部分の内容物(糞)をピンセットで搾り出し、9倍量の滅菌生理食塩水(0.9%NaCl)を加えドリル型ホモジナイザーでホモジナイズした。なお、内容物の搾り出しからホモジナイズまでの操作は、CO2を充満させた箱の中で行った。
上記懸濁液を試料原液とし、常法に従って10段階希釈液を作り、ヘム鉄を加えたトリプトソイ寒天培地およびBL寒天培地表面に塗抹し、それぞれ好気、嫌気状態で培養(37℃)した。
培養24時間目に、発生コロニー(集落)数を計測した。生菌数は、腸内容物1gあたりの数値で示した。開腹から培養までの操作は、30分以内に行った。
ヘム鉄入りのトリプトソイ寒天培地およびBL寒天培地から、TSI寒天培地、LIM寒天培地へと釣菌し、コロニーの形態、グラム染色、各性状試験などを行い、Bergey's Manual に従い同定を行った。嫌気性細菌の場合、TSI 寒天培地、LIM寒天培地での培養試験は、試験管を嫌気条件下におき、37 ℃で、24時間行った。
なお、偏性嫌気性細菌の確認は、嫌気培養を行ったBL寒天培地から新たなBL寒天培地へと20個のコロニーを白金耳で釣菌し、好気条件下におき、37 ℃で、24時間培養することにより行った。
JMP(米国SASインスティチュート社、バージョン5)を使用し、分析を行った。交互作用があったものは、最小2乗平均差のTukeyの検定にかけて比較を行った。危険率p<0.05を有意差ありとした。
腸内細菌数は、コントロール群では照射後10日目に有意に増加した。ただし、コントロールでは10日目に菌数は著しく増加したのに対し、ラクトフェリン投与群では細菌の増殖が起こるまで(30日)に時間を要した。ラクトフェリンの投与は、動物の免疫活性を高めることが知られていることから、放射線の照射により免疫力の低下した時期に、腸内細菌数の増加を抑制すると共に、有用菌数を増加し、悪玉菌数を抑制したと考えられる。これにより、消化管を経由した細菌の体内への侵入を抑えると共に、体内に侵入した細菌や異物の処理能を高めることによって、生残率を高めていることが考えられる。
Latobacillus sp.については、照射前では、コントロール群に比べ、ラクトフェリン投与群で有意に高かったほか、照射後5日目および30日目にもラクトフェリン投与群に高い値がみられた。
Enterobacteriaceaeの割合については、照射前にはコントロール群、ラクトフェリン投与群の間に有意な差はみられなかったが、照射後にはコントロール群においてもラクトフェリン投与群においても菌数が増加した。30日目では、ラクトフェリン投与群において、コントロール群に比べて有意に低い値が認められた。
後投与によるラクトフェリンの抗放射線被ばく障害作用の測定
6週齢のC3H/Heマウス(雄)52匹を、AIN-93完全精製飼料(ラクトフェリンなし)で2週間飼育した後、6.8GyのX線を全身照射した。照射したマウスの26匹には、照射後直ちに生理食塩水で溶解したLF、0.3ml(ラクトフェリン量は4mg/匹)を腹腔内投与した。残りの26匹はコントロールとした。照射後、両群のマウスとも、AIN-93完全精製飼料(ラクトフェリンなし)で飼育し、生存率を観察した。結果を図6に示す。
図6から明らかなように、放射線投与後にラクトフェリンを投与した場合にも、コントロール群と比較して生存率が大幅に向上した。
Claims (1)
- ラクトフェリンを有効成分とする抗放射線被ばく障害剤。
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JP2006135194A JP2007302640A (ja) | 2006-05-15 | 2006-05-15 | 抗放射線被ばく障害剤 |
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-
2006
- 2006-05-15 JP JP2006135194A patent/JP2007302640A/ja active Pending
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