JP2007295925A - ニューロライシンの発現およびその利用 - Google Patents

ニューロライシンの発現およびその利用 Download PDF

Info

Publication number
JP2007295925A
JP2007295925A JP2007077782A JP2007077782A JP2007295925A JP 2007295925 A JP2007295925 A JP 2007295925A JP 2007077782 A JP2007077782 A JP 2007077782A JP 2007077782 A JP2007077782 A JP 2007077782A JP 2007295925 A JP2007295925 A JP 2007295925A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
neurolysin
yeast
mmp
sequence encoding
base sequence
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP2007077782A
Other languages
English (en)
Inventor
Atsumi Ueda
充美 植田
Tetsuya Kadonosono
哲哉 門之園
Tomoko Kato
倫子 加藤
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Kyoto University NUC
Original Assignee
Kyoto University NUC
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Kyoto University NUC filed Critical Kyoto University NUC
Priority to JP2007077782A priority Critical patent/JP2007295925A/ja
Publication of JP2007295925A publication Critical patent/JP2007295925A/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Landscapes

  • Measuring Or Testing Involving Enzymes Or Micro-Organisms (AREA)
  • Micro-Organisms Or Cultivation Processes Thereof (AREA)

Abstract

【課題】MMPの阻害剤の候補物質の探索を安全かつ効率的に行い得る手法を提供すること。
【解決手段】ニューロライシンは、ある種のMMPと同様の基質特異性を有するので、MMPの阻害剤の評価および探索に用いられ得る。ニューロライシンを細胞表層に有する酵母は、酵素の基質特異性の解析に有用である。この酵母は、分泌シグナルをコードする配列、ニューロライシンの構造遺伝子の塩基配列、細胞表層局在タンパク質の一部をコードする配列およびGPIアンカー付着認識シグナルをコードする配列をこの順で有するDNAを導入して得られ得る。
【選択図】なし

Description

本発明は、ニューロライシンの発現およびその利用に関する。
マトリックスメタロプロテアーゼ(以下、「MMP」ともいう)は、主として細胞外マトリックスを基質とする一群のメタロプロテアーゼからなる遺伝子ファミリーである。MMPは、基質特異性またはドメイン構造の違いから、5つの群に分けられる。ヒトでは23種類のMMPが同定されており、それぞれコラゲナーゼ群(MMP−1、MMP−8、MMP−13)、ゼラチナーゼ群(MMP−2、MMP−9)、ストロムライシン群(MMP−3、MMP−10)、膜型MMP群(MT−MMP:MMP−14、MMP−15、MMP−16、MMP−17、MMP−24、MMP−25)、その他の群(MMP−7、MMP−11、MMP−12、MMP−19、MMP−20、MMP−21、MMP−23、MMP−26、MMP−27、MMP−28)に分類される。
これらのMMPのメンバーは、関節炎、歯周病、腫瘍細胞浸潤および転移のような症状に関与することが公知である(非特許文献1)。非特許文献1では、上記メンバーのうち、MMP−1、MMP−2、MMP−3、およびMMP−9における基質特異性の違いを検証している。また、MMP−2およびMMP−9のゼラチナーゼ群は、大腸癌の進行および転移における関与が示唆されている(非特許文献2)。
このように、MMPは、癌細胞の浸潤、成長、転移を促進させる酵素であることが知られる。この酵素活性を阻害する物質は抗癌剤として有用であると考えられ、阻害物質の探索が行われている。しかし、MMPは、毒性が非常に高いため、酵素の精製および評価が非常に困難である。
種々のタンパク質(酵素を含む)について、該タンパク質を細胞表層に提示した酵母が作出されている(例えば、特許文献1〜11)。目的とするタンパク質を酵母細胞表層に提示させることにより、タンパク質の取り扱いが容易になる。
ところで、ニューロライシン[EC3.4.24.16]は、メタロエンドペプチダーゼの1種であり、活性部位に亜鉛原子を必要とし、そしてその配列は、亜鉛メタロペプチダーゼに代表的なHEXXH(Xは任意のアミノ酸である)を含む。この酵素は、thimetオリゴペプチダーゼ[EC3.4.24.15]と類似の生化学特性、細胞生物学特性、および生理学特性を示すことが知られている(非特許文献3)。非特許文献3には、ニューロライシンの天然基質に対する切断部位が示されているが、ニューロライシンの基質を認識する配列は分かっておらず、基質特異性に関しても、未だ検討中である。
特開平11−290078号公報 特開2002−17368号公報 特開2002−176979号公報 特開2002−253267号公報 特開2003−235579号公報 特開2004−49014号公報 特開2004−305096号公報 特開2004−305097号公報 特開2005−58010号公報 特開2005−176605号公報 特開2005−245335号公報 Nagase H.ら、J. Biol. Chem., 1994年, 269巻, 20952-20957頁 Mookら、Biochimica et Biophysica Acta, 2004年, 1705巻, 69-89頁 Shrimptonら、Endocrine Reviews, 2002年10月, 23巻5号, 647-664頁
本発明は、MMPの阻害剤の候補物質の探索を安全かつ効率的に行い得る手法を提供することを目的とする。
本発明者らは、ニューロライシンがある種のMMPと同様の基質特異性を有すること、およびさらにニューロライシンがMMPの阻害剤の候補物質の探索に用いられ得ることを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、ニューロライシンを細胞表層に発現し得るDNAを提供し、このDNAは、分泌シグナルをコードする塩基配列、ニューロライシンの構造遺伝子の塩基配列、細胞表層局在タンパク質の一部をコードする塩基配列およびGPIアンカー付着シグナルをコードする塩基配列をこの順で有する。
1つの実施態様では、上記細胞表層局在タンパク質の一部をコードする塩基配列およびGPIアンカー付着シグナルをコードする塩基配列を有する塩基配列が、酵母のα−アグルチニンをコードする塩基配列である。
さらなる実施態様では、上記細胞表層局在タンパク質の一部をコードする塩基配列およびGPIアンカー付着シグナルをコードする塩基配列を有する塩基配列が、α−アグルチニンのC末端から320アミノ酸をコードする塩基配列である。
1つの実施態様では、上記DNAはプラスミドの形態である。
本発明はまた、ニューロライシンを細胞表層に有する酵母を提供し、この酵母は、上記DNAを有する。
本発明は、マトリックスメタロプロテアーゼの阻害剤の阻害効果を評価する方法を提供し、該方法は、
(a)ニューロライシン、該マトリックスメタロプロテアーゼのペプチド基質、および該阻害剤を反応させる工程、および
(b)該ペプチド基質の残存量または分解量を測定する工程
を含む。
1つの実施態様では、上記工程(a)は、上記酵母、上記ペプチド基質、および上記阻害剤を混合することにより行われる。
本発明はまた、マトリックスメタロプロテアーゼの活性を阻害する候補物質をスクリーニングする方法を提供し、該方法は、
(a)ニューロライシン、該マトリックスメタロプロテアーゼのペプチド基質、および該候補物質を反応させる工程、および
(b)該ペプチド基質の残存量または分解量を測定する工程
を含む。
1つの実施態様では、上記工程(a)は、上記酵母、上記ペプチド基質、および上記候補物質を混合することにより行われる。
本発明はまた、マトリックスメタロプロテアーゼの阻害剤の阻害効果を評価するため、または該マトリックスメタロプロテアーゼの活性を阻害する候補物質をスクリーニングするためのキットを提供し、該キットは、上記酵母およびマトリックスメタロプロテアーゼのペプチド基質を備える。
1つの実施態様では、上記ペプチド基質は、Arg−Pro−Lys−Pro−Tyr−Ala−Nva−Trp−Met−Lys(配列番号1)からなるアミノ酸配列を有するペプチドである。
本発明によれば、MMPと同様の基質特異性を有するニューロライシンを、MMPの阻害剤の評価またはスクリーニングに利用し得る。特に、ニューロライシンが細胞表層に提示された酵母は、取り扱いが容易であり、その基質特異性の解析に有用である。さらに、この酵母を用いることにより、酵素活性の測定を簡便かつ高速にできる。
(ニューロライシンを細胞表層に発現し得るDNA)
ニューロライシンを細胞表層に発現し得るDNAは、分泌シグナルをコードする塩基配列、ニューロライシンの構造遺伝子の塩基配列、細胞表層局在タンパク質の一部をコードする塩基配列およびGPIアンカー付着認識シグナルをコードする塩基配列をこの順で有し得る。
分泌シグナルは、一般に細胞外(ペリプラズムも含む)に分泌されるタンパク質(分泌性タンパク質)のN末端に結合している、疎水性に富んだアミノ酸を多く含むアミノ酸配列であり、通常、分泌性タンパク質が細胞内から細胞膜を通過して細胞外へ分泌される際に除去される。
ニューロライシンを細胞外に分泌(移動)させることができる分泌シグナルであれば、どのような分泌シグナルでも用いられ、起源は問わない。例えば、分泌シグナルとしては、ニューロライシンの分泌シグナル、酵母のα−またはa−アグルチニンのシグナル、グルコアミラーゼの分泌シグナルなどが好適に用いられる。ニューロライシンの活性に影響を与えないのであれば、分泌シグナルの一部または全部がニューロライシンのN末端に残ってもよい。
細胞表層局在タンパク質は、細胞表層に固定され、細胞表層に存在するタンパク質をいう。例えば、性凝集タンパク質であるα−またはa−アグルチニンが挙げられる。このようなタンパク質は、分泌シグナルを有する点で分泌タンパク質と同様であるが、GPIアンカーを介して細胞膜に固定されて輸送される点で分泌タンパク質とは異なる。細胞表層局在タンパク質は、C末端にGPIアンカー付着認識シグナルを有しており、その認識配列を選択的に切断されたC末端部分でGPIアンカーと結合して細胞膜に固定され、その後、PI−PLCにより、GPIアンカーの根元部が切断され、細胞壁に組み込まれて細胞表層に固定され、細胞表層に局在する。
ここで、GPIアンカーとは、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)と呼ばれるエタノールアミンリン酸−6マンノースα1−2マンノースα1−6マンノースα1−4グルコサミンα1−6イノシトールリン脂質を基本構造とする糖脂質をいい、PI−PLCとは、ホスファチジルイノシトール依存性ホスホリパーゼCをいう。
細胞表層局在タンパク質の一部をコードする塩基配列とは、酵母の細胞表面に提示されるタンパク質(例えば、α−またはa−アグルチニン)の一部をコードする塩基配列をいい、主にC末端部分をコードする塩基配列をいうが、ニューロライシンの活性に悪影響を与えなければ、どのような配列でもよい。好適には、α−アグルチニンのC末端から320アミノ酸の配列をコードする塩基配列が用いられる(アミノ酸配列およびこれをコードする塩基配列は、特許文献1に記載)。このアミノ酸配列中には4個所の糖鎖結合部位がある。GPIアンカーがPI−PLCで切断された後に、この糖鎖と細胞壁を構成する多糖類とが共有結合することにより、α−アグルチニンのC末端配列部分が細胞壁と結合して保持されるので、特に有用である。
GPIアンカー付着認識シグナルとは、GPIアンカーが細胞表層局在タンパク質と結合する際に認識されるアミノ酸配列であり、通常、細胞表層局在タンパク質のC末端あるいはその近傍に位置するアミノ酸配列である。酵母のα−アグルチニンアミノ酸配列のC末端部分をコードする塩基配列が好適に用いられる。上記α−アグルチニンのC末端から320アミノ酸のアミノ酸配列をコードする塩基配列の3’末端側には、GPIアンカー付着認識シグナルをコードする塩基配列が含まれるので、このC末端から320アミノ酸のアミノ酸配列をコードする塩基配列が有用である。
ニューロライシンの構造遺伝子の取得または調製は、当業者が通常用いる方法(例えば、PCR、ハイブリダイズスクリーニングなど)によって行われ得る。ニューロライシン自身の分泌シグナルを用いる場合、分泌シグナルコード配列とともに構造遺伝子を取得し得る。
ニューロライシンは、例えば、非特許文献3に記載のアミノ酸配列(該文献の図3中のEP24.16の配列)を有する酵素(ラット由来ニューロライシン)であり得るが、これに限定されない。ニューロライシンは、もともとラットシナプス膜から、および後にラット回腸および腎臓から、ニューロテンシン(NT)の10番目のプロリン残基と11番目のチロシン残基との間の結合を切断して、不活性の断片NT1−10およびNT11−13を生成することによって、特徴付けられそして精製された酵素である(非特許文献3)。この切断は、thimetオリゴペプチダーゼと区別可能な、ニューロライシン特有の性質である。したがって、このような切断特性を有していれば、起源は問わず、任意の動物および動物組織に由来するニューロライシンが利用できる。また、ニューロライシンの基質特異性は、他の天然基質(例えば、ブラジキニン、ダイノルフィンA1−8、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)、アンギオテンシンI、およびソマトスタチン)に対して公知の部位で切断可能であることによっても検証され得る。例えば、以下の実施例に記載のように、ニューロライシンの天然基質として公知のブラジキニンに類似したペプチド基質(一例として、Arg−Pro−Pro−Gly−Phe−Ser−Ala−Phe−Lys(配列番号2)が挙げられるが、これに限定されない)を作製し、このペプチド基質に対する加水分解活性を測定することにより、ニューロライシン活性が評価できる。
ニューロライシンの基質特異性を変更しない限り、この酵素は、置換・欠失・付加などによって、上記アミノ酸配列と1つ以上のアミノ酸が異なるように改変されていてもよい。このような改変は、天然に生じるものであっても、または人工的に行うもの(例えば、部位特異的変異誘発)であってもよい。好適には、ニューロライシンは、Arg−Pro−Lys−Pro−Tyr−Ala−Nva−Trp−Met−Lys(配列番号1)からなるアミノ酸配列を有するペプチドを切断可能である限り、任意の改変が行われていてもよい。
既知および未知のニューロライシンとも、それをコードする遺伝子の塩基配列は、当業者が通常用いる方法により決定できる。また、上記のようなアミノ酸残基の置換に用いられる核酸は、ニューロライシンを発現させるための宿主のコドン使用頻度に合わせ、設計され得る。
塩基配列情報に基づいて、目的とする遺伝子を、ニューロライシンを有する生物から取得することができる。遺伝子の取得には、PCRやハイブリダイズスクリーニングが用いられる。また、DNA合成によって遺伝子の全長を化学的に合成することもできる。例えば、上記塩基配列もしくはその一部の配列を用いてプローブを設計し、他の生物から調製したDNAに対してハイブリダイゼーションを行うことにより、種々の生物由来のニューロライシンをコードする塩基配列を単離することができる。上記塩基配列情報に基づいて、DNA Databank of JAPAN(DDBJ)、EMBL、Gene-BankなどのDNAに関するデータベースに登録されている配列情報を用いて、ホモロジーの高い領域からPCR用のプライマーを設計することもできる。このようなプライマーを用い、染色体DNAもしくはcDNAを鋳型としてPCRを行うことにより、ニューロライシンをコードする塩基配列を種々の生物から単離することもできる。
分泌シグナルをコードする塩基配列、ニューロライシンの構造遺伝子の塩基配列、細胞表層局在タンパク質の一部をコードする配列およびGPIアンカー付着認識シグナルをコードする配列をこの順で有するDNAの合成は、当業者には周知の技術によって行われ得る。例えば、分泌シグナルをコードする配列とニューロライシンの構造遺伝子との結合は、部位特異的突然変異法を用いて行うことができ、正確な分泌シグナルの切断と活性なニューロライシンが発現できる。さらにこの配列と、細胞表層局在タンパク質の一部をコードする配列およびGPIアンカー付着認識シグナルをコードする配列とを結合すればよい。結合は、適切な制限酵素、リンカーなどを用いて行うことができる。
上記ニューロライシンを細胞表層に発現し得るDNAは、プラスミドの形態であることが望ましい。DNAの取得の簡易化の点からは、大腸菌とのシャトルベクターであることが好ましい。プラスミドの形態のDNAの出発材料としては、例えば、酵母の2μmプラスミドの複製開始点(Ori)とColE1の複製開始点とを有しており、酵母選択マーカー(例えば、薬剤耐性遺伝子、TRP、LEU2など)および大腸菌の選択マーカー(薬剤耐性遺伝子など)を有することがさらに好ましい。また、ニューロライシン構造遺伝子を発現させるために、この遺伝子の発現を調節するオペレーター、プロモーター、ターミネーター、エンハンサーなどのいわゆる調節配列をも含んでいることが望ましい。例えば、グリセルアルデヒド3’−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)のプロモーターおよびターミネーターが挙げられる。このような出発材料のプラスミドとして、pYE22m、pYGA2270などが挙げられる。
ベクターpGA11(Uedaら、Ann. NY. Acad. Sci., 1998年, 864巻, 528-537頁)に、ベクターpICAS1(Muraiら、Appl. Environ. Microbiol., 1998年, 64巻, 4857-4861頁)由来の断片(この断片には、グルコアミラーゼ遺伝子の分泌シグナルをコードする配列、制限酵素SacII、BglII、NcoI、XhoIが認識できるマルチクローニング部位、さらにα−アグルチニンのC末端から320アミノ酸をコードする配列が含まれる)を連結することにより得られるプラスミドベクターpCASは、酵母細胞表層提示用カセットベクターとして好適に使用される。
上記ニューロライシンを細胞表層に発現し得るDNAは、プラスミド中でプロモーターとターミネーターとの間に、分泌シグナルをコードする塩基配列、ニューロライシンの構造遺伝子の塩基配列、細胞表層局在タンパク質の一部をコードする塩基配列およびGPIアンカー付着認識シグナルをコードする塩基配列が挿入された形態であり得る。
上記プラスミドが導入された宿主細胞において、ニューロライシンが細胞表層に固定されていることを確認するために、タグ(例えば、FLAGタグ)を発現させるようにすることもできる。このようなタグは、ニューロライシンの構造遺伝子の塩基配列と細胞表層局在タンパク質の一部をコードする塩基配列との間に挿入し得、リンカーを用いて連結し得る。このようなリンカーの設計は、当業者が通常用いる手順に基づいて実施できる。
好適には、上記ニューロライシンを細胞表層に発現し得るDNAは、GAPDHプロモーターとGAPDHターミネーターとの間に、分泌シグナルをコードする塩基配列、ニューロライシンの構造遺伝子の塩基配列、FLAGタグをコードする塩基配列(必要に応じて)、およびα−アグルチニンのC末端から320アミノ酸をコードする塩基配列が、この順で挿入された、プラスミドの形態であり得る(例えば、図2のpGAP−NFL)。
(ニューロライシンを細胞表層に有する酵母)
ニューロライシンを細胞表層に有する酵母は、上記DNAを酵母細胞に導入することにより得られる。「DNAの導入」とは、細胞の中にDNAを導入し、発現させることを意味する。DNAの導入には、形質転換、形質導入、トランスフェクション、コトランスフェクション、エレクトロポレーションなどの方法がある。酵母細胞への導入の場合、具体的には、例えば、酢酸リチウムを用いる方法、プロトプラスト法などがある。
導入されるDNAは、プラスミドの形態で、あるいは宿主の遺伝子に挿入して、または宿主の遺伝子と相同組換えを起こして染色体に取り込まれてもよい。
宿主の酵母としては、プラスミド発現のためのマーカーを有し、ニューロライシンを細胞表層に提示し得る株であれば、特に限定されない。例えば、Saccharomyces cerevisiaeBJ2168株(プロテアーゼA、プロテアーゼB、カルボキシペプチダーゼY欠損)を実施例で用いているが、これに限定されない。
DNAが導入された酵母は、選択マーカー(例えば、薬剤耐性遺伝子、TRP、LEU2など)で選択され得、ニューロライシン活性を測定することにより選択される。ニューロライシンが細胞表層に固定されていることを確認するには、上記のように、タグ(例えば、FLAGタグ)をコードする配列を予めプラスミド中に挿入し、抗タグ抗体(および必要に応じて蛍光標識抗体)を用いる免疫抗体法を用い得る。
ニューロライシンを細胞表層に有する酵母は、細胞表層にニューロライシンが活性型で提示されているので、該酵素をさらに精製することなく利用できる。
ニューロライシンを細胞表層に有する酵母は、担体に固定化されていてもよい。連続反応あるいは回分式培養において、繰り返し使用できるからである。担体への固定化は、例えば、特許文献1の記載に基づいて行われ得る。
(ニューロライシンの活性測定方法)
ニューロライシンの活性測定方法として、蛍光消光性ペプチド基質を利用した測定法が挙げられる。例えば、ニューロライシンを細胞表層に有する酵母を蛍光消光性ペプチド基質と反応させ、該ペプチド基質の分解に伴う蛍光の増加を測定するだけでよい。酵母の培養のための培地および培養条件は、当業者により適宜決定され得る。酵母の培養後、集菌および洗浄は、適宜行われ得る。ペプチド基質の選定および設計は、非特許文献3に記載のような基質切断部位の情報に基づいて行われ得る。ペプチド基質としては、例えば、MOCAc−Arg−Pro−Pro−Gly−Phe−Ser−Ala−Phe−Lys(Dnp)−OH(ここで、MOCAcは、7−メトキシクマリン−4−イル−アセチル基を表し、この基は蛍光基であり、そしてDnpは2,4−ジニトロフェニル基を表し、この基は消光基である:配列番号2)が好適に使用され得る。酵母とペプチド基質との反応は、これらの反応を妨害しない任意の溶液(例えば、PBSのようなリン酸緩衝液)中で、適宜行われ得る。蛍光の測定は、当業者が通常用いる方法に従って行われ得る。
上記ニューロライシン表層提示酵母は、ニューロライシンの基質特異性の決定にも用いられ得る。基質特異性の決定は、ニューロライシンを細胞表層に有する酵母を蛍光消光性候補ペプチド基質と反応させ、該ペプチド基質の分解に伴う蛍光の増加を測定するだけでよい。候補ペプチド基質は、ペプチドライブラリーとして提供され得る。ライブラリーの作製は、当業者が通常用いる技術手段に基づいて実施され得る。酵母の培養、酵母とペプチド基質との反応、および蛍光の測定は、上記と同様である。
ニューロライシンを細胞表層に有する酵母と候補ペプチド基質とをインキュベートし、蛍光の増大を測定することにより、ニューロライシンは、Arg−Pro−Lys−Pro−Tyr−Ala−Nva−Trp−Met−Lys(配列番号1)からなるアミノ酸配列を有するペプチドを基質として分解し得ることが判明した。このペプチドは、上記活性測定方法の基質ペプチド(必要に応じて、該ペプチドを構成するアミノ酸残基に蛍光基および消光基を結合させる)としても好適に使用できる。
ところで、このペプチドは、MMP−2およびMMP−9の基質でもある(非特許文献1)。MMP−2またはMMP−9の活性阻害剤のうち基質認識機構を利用して阻害するものは、同様にニューロライシンの活性を効果的に阻害すると考えられる。したがって、MMP−2およびMMP−9の基質に対するニューロライシンの活性を、MMP−2またはMMP−9の阻害剤の阻害効果の評価、および阻害剤のスクリーニングのために利用することができる。
(ニューロライシンを利用するMMP阻害剤の評価または探索方法)
本発明によれば、マトリックスメタロプロテアーゼ(例えば、MMP−2またはMMP−9)の阻害剤の阻害効果の評価方法が提供され、この方法は、ニューロライシン、該マトリックスメタロプロテアーゼのペプチド基質(例えば、Arg−Pro−Lys−Pro−Tyr−Ala−Nva−Trp−Met−Lys(配列番号1)からなるアミノ酸配列を有するペプチド)および該阻害剤を反応させ、そして該ペプチド基質の残存量または分解量を測定することにより行われ得る。また、マトリックスメタロプロテアーゼ(例えば、MMP−2またはMMP−9)の活性を阻害する候補物質のスクリーニング方法が提供され、この方法は、ニューロライシン、該マトリックスメタロプロテアーゼのペプチド基質(例えば、Arg−Pro−Lys−Pro−Tyr−Ala−Nva−Trp−Met−Lys(配列番号1)からなるアミノ酸配列を有するペプチド)および該候補物質を反応させ、そして該ペプチド基質の残存量または分解量を測定することにより行われ得る。阻害剤または阻害剤の候補物質は、反応後のペプチド基質が多く残存し、消費が少ない場合、阻害効果を有すると判断され得る。例えば、阻害剤または阻害剤の候補物質が、ニューロライシンとArg−Pro−Lys−Pro−Tyr−Ala−Nva−Trp−Met−Lys(配列番号1)からなるアミノ酸配列を有するペプチドとの反応を阻害する場合、この阻害剤または阻害剤の候補物質は、MMP−2またはMMP−9に対する阻害効果を有すると判断され得る。
上記評価およびスクリーニングには、単離されたニューロライシン、ニューロライシン産生菌などの任意の形態のニューロライシンを用いることができる。ニューロライシンを細胞表層に有する酵母を用いると、該ニューロライシンをさらに精製する必要がないので、簡便かつ高速に実施することが可能となり得る。
ペプチド基質の残存量または分解量の測定は、当業者が通常用いる任意の手段が使用され得る。また、上述したニューロライシンの活性測定方法に従って、阻害剤または阻害剤の候補物質の存在下でマトリックスメタロプロテアーゼのペプチド基質に対するニューロライシンの加水分解活性を測定し、阻害剤または阻害剤の候補物質の存在していない場合に比べて活性が低下しているか否かで阻害効果を決定することもできる。
(ニューロライシンを細胞表層に有する酵母を備えるキット)
本発明によれば、ニューロライシンを細胞表層に有する酵母およびマトリックスメタロプロテアーゼのペプチド基質を備えるキットもまた提供される。上記ペプチド基質としては、以下の実施例4または実施例6に記載されるようなアミノ酸配列を有するMMP特異的ペプチド基質が挙げられる。特に、MMP−2またはMMP−9に特異的なペプチド基質としては、Arg−Pro−Lys−Pro−Tyr−Ala−Nva−Trp−Met−Lys(配列番号1)からなるアミノ酸配列を有するペプチドが挙げられる。このようなペプチド基質は、阻害効果の指標となるニューロライシンの酵素活性の測定を容易にするために適切な蛍光基および消光基を結合し得る。
本発明のキットは、マトリックスメタロプロテアーゼ(例えば、MMP−2またはMMP−9)の阻害剤の阻害効果を評価するため、および阻害剤のスクリーニングのための両方に用い得る。このキットに阻害剤を供することにより、阻害剤のマトリックスプロテアーゼの阻害効果を評価し得る。阻害剤の候補物質を供することにより、該候補物質がマトリックスプロテアーゼの阻害効果を有するか否かを判定し得る。
(実施例1:ニューロライシンを細胞表層に発現し得るベクターの作製)
(1−1.ニューロライシン遺伝子を有するベクターの構築)
ニューロライシン遺伝子を有するベクターを構築する手順を図1に示す。
ラット脳のcDNAライブラリー(Seegene)を鋳型としてプライマー(配列番号4および配列番号5、ならびに配列番号6および配列番号7)を用いて、KOD Dash(登録商標)(TOYOBO)にてPCRを行い、ニューロライシン遺伝子の5’側の1.1kbの断片および3’側の1.0kbの断片を得た。これらの断片をpGEMクローニングベクター(Promegaより入手)のSacII部位とSpeI部位との間にTAクローニングにより連結し、上記5’側の1.1kbを挿入したベクターpGEM−NEU1および3’側の1.0kbを挿入したベクターpGEM−NEU2を得た。ベクターpGEM−NEU2からBfrIおよびSpeIで切断して切り出した断片を、予めBfrIおよびSpeIで切断しておいたベクターpGEM−NEU1に連結した。これにより、ニューロライシン遺伝子の全長2.1kbが挿入されたプラスミドベクターpGEM−NEUを得た。
ベクターpGEM−NEUを鋳型としてプライマー(配列番号8および配列番号9)を用いて、KOD Dash(登録商標)(TOYOBO)にてPCRを行い、ニューロライシン遺伝子中のXhoI部位を消去したベクターpGEM−NEUM1を得た。この部位特異的変異は、ニューロライシン遺伝子がコードするアミノ酸配列を変化させないものであった。さらにこのベクターを鋳型として、プライマー(配列番号10および配列番号11)を用いて、KOD Dash(登録商標)(TOYOBO)にてPCRを行い、ニューロライシン遺伝子の3’末端の下流にXhoI部位を挿入したベクターpGEM−NEUM2を得た。この部位特異的変異は、ニューロライシン遺伝子の発現に影響しない変異であった。
(1−2.酵母細胞表層提示用カセットベクターの構築)
ベクターpICAS1(Muraiら、Appl. Environ. Microbiol., 1998年, 64巻, 4857-4861頁)を制限酵素EcoRIおよびKpnIで消化して、EcoRI−KpnI断片を得た。このEcoRI−KpnI断片には、グルコアミラーゼ遺伝子の分泌シグナルをコードする配列、制限酵素SacII、BglII、NcoI、XhoIが認識できるマルチクローニング部位、さらにα−アグルチニンのC末端から320アミノ酸をコードする配列を含んでおり、この配列中にGPIアンカー付着認識シグナルをコードする塩基配列が含まれる。この断片を、EcoRIおよびKpnIで消化したベクターpGA11(Uedaら、Ann. NY. Acad. Sci., 1998年, 864巻, 528-537頁)に連結した。これにより、酵母細胞表層提示用カセットベクターpCASを得た(図2)。
(1−3.分泌シグナルをコードする塩基配列、ニューロライシンの構造遺伝子の塩基配列、α−アグルチニンの一部をコードする塩基配列およびGPIアンカー付着認識シグナルをコードする塩基配列をこの順で有する発現ベクターの構築)
上記1−1で得たプラスミドベクターpGEM−NEUM2および上記1−2で得た酵母細胞表層提示用カセットベクターpCASから、ニューロライシンを細胞表層に提示し得るベクターを構築する手順を図2に示す。
酵母細胞表層提示用カセットベクターpCASを制限酵素SacIIおよびXhoIで切断し、上記1−1で得たプラスミドベクターpGEM−NEUM2から同じ制限酵素SacIIおよびXhoIで切断して切り出した断片を連結した。これにより、ニューロライシン遺伝子およびα−アグルチニンの3’Half領域を有するプラスミドベクターpCAS−NEUを得た。
次いで、細胞表層上にタンパク質が提示されることを確認するためのFLAGタグを挿入するために、ニューロライシン遺伝子とα−アグルチニンの3’Half領域との間にFLAGタグコード配列およびリンカーコード配列の挿入を試みた。このために、リンカーでつながった3つのFLAGタグ(このアミノ酸配列を配列番号12に示す)をコードする塩基配列を設計した。リンカーでつながった3つのFLAGタグをコードする塩基配列を挿入するために、4つのプライマーを設計した(配列番号13〜16)。プラスミドベクターpCAS−NEUを鋳型として、配列番号13、配列番号14、配列番号15、および配列番号16のプライマーを用いて、KOD Dash(登録商標)(TOYOBO)にてPCRを行い、リンカーでつながった3つのFLAGタグをコードする塩基配列が挿入されたプラスミドベクターpCAS−NFLを得た。さらに、分泌シグナルコード配列とニューロライシン遺伝子との間の余分な配列を除去するために、pCAS−NFLを鋳型として、プライマー(配列番号17および配列番号18)を用いて、KOD Dash(登録商標)(TOYOBO)にてPCRを行い、発現ベクターpGAP−NFLを得た(図2)。
発現ベクターpGAP−NFLは、12.3kbpの大きさであり、そして分泌シグナルをコードする塩基配列、ニューロライシンの構造遺伝子の塩基配列、FLAGタグをコードする塩基配列、およびα−アグルチニンの3’Half領域(α−アグルチニンの一部をコードする塩基配列およびGPIアンカー付着認識シグナルをコードする塩基配列を含む)をこの順で有する。したがって、本発現ベクターは、ニューロライシン、FLAGタグ、およびα−アグルチニンのC末領域をこの順に1つの融合タンパク質として酵母細胞表層に提示させ得る。
一方、コントロールプラスミドとして、発現ベクターpGAP−Cを作製した。細胞表層提示用カセットベクターpCASは、それ自体を酵母に導入してもフレームシフトにより細胞表層にα−アグルチニンは提示されない。そこで、pCASのマルチクローニングサイトにシトシンを一塩基導入してフレームを合わせるために、pCASを鋳型として、プライマー(配列番号19および配列番号20)を用いて、KOD Dash(登録商標)(TOYOBO)にてPCRを行った。得られたプラスミドpGAP−Cは、グルコアミラーゼ遺伝子の分泌シグナルをコードする配列、制限酵素SacII、BglII、NcoI、XhoIが認識できる21塩基対からなるマルチクローニング部位、さらにα−アグルチニンのC末端から320アミノ酸をコードする配列を含む。本発現ベクターは、7アミノ酸からなるポリペプチドがN末端に付加されたα−アグルチニンのC末領域を酵母細胞表層に提示させ得る。
(実施例2:発現ベクターpGAP−NFL導入酵母の作製および蛍光の確認)
上記実施例1で得た発現ベクターpGAP−NFLを、酢酸リチウム法で酵母Saccharomyces cerevisiae BJ2168株(プロテアーゼA、プロテアーゼB、カルボキシペプチダーゼY欠損)(Yeast Genetic Stock Center)に導入した。以下、この酵母を「発現ベクターpGAP−NFL導入酵母」という。この発現ベクターpGAP−NFL導入酵母を、SDC+U培地(0.002%のウラシルを含む、0.7% Yeast nitrogen base without amino acids、2%グルコース、1.5%カザミノ酸培地)中で30℃にて2日間(またはOD600=4まで)培養した。培養後の酵母を抗FLAG抗体(Sigma-Aldrich)と反応させ、さらに蛍光基が結合した抗IgG抗体(Invitrogen)と反応させ、蛍光顕微鏡下で観察した。同様に、コントロールとして、ニューロライシンをコードする塩基およびFLAGタグをコードする塩基を含まない発現ベクターpGAP−Cを導入した酵母Saccharomyces cerevisiae BJ2168株を用いた(以下、コントロール酵母または非提示酵母という)。これらの蛍光顕微鏡写真を図3の右側に示す(上が発現ベクターpGAP−NFL導入酵母(図3中「Neurolysin提示酵母」)であり、下がコントロール酵母(図3中「非提示酵母」)である)。対応する位相差像を図3の左側にそれぞれ示す。これらの写真を合わせて検討したところ、発現ベクターpGAP−NFL導入酵母では、細胞の表層部分が蛍光を発していたが、コントロール酵母では蛍光が見られなかった。したがって、発現ベクターpGAP−NFLを酵母に導入すると、提示されるべきタンパク質が細胞表層に提示されたことが示された。
(実施例3:発現ベクターpGAP−NFL導入酵母におけるニューロライシンの発現)
上記実施例2で得た発現ベクターpGAP−NFL導入酵母をSDC+U培地中で常法により30℃にて2日間(またはOD600=4まで)培養し、遠心分離により集菌し、リン酸緩衝液(PBS)で洗浄した。得られた酵母をリン酸緩衝液(PBS)中に再懸濁し、蛍光消光性ペプチド基質を添加し、37℃で30分間インキュベートし、Fluoroscan Ascent FL(Labsystems)を用いて蛍光を測定した。添加した蛍光消光性ペプチド基質には、ニューロライシンの天然基質であるブラジキニン類似の蛍光消光性ペプチド基質MOCAc−Arg−Pro−Pro−Gly−Phe−Ser−Ala−Phe−Lys(Dnp)−OH(ここで、MOCAcおよびDnpは上で定義したとおりである:配列番号2)をペプチド研究所より購入し、これを用いた。コントロールとして、実施例2と同じコントロール酵母を用いた。この結果、発現ベクターpGAP−NFL導入酵母において強い蛍光が示された。これは、発現ベクターpGAP−NFL導入酵母において基質が分解されたことを示し、したがって、発現ベクターpGAP−NFL導入酵母において、ニューロライシンが発現されていることが示された。
実施例2および3の結果から、実施例1で得た発現ベクターpGAP−NFLを酵母に導入することにより、ニューロライシンが細胞表層に提示された酵母が得られたことが確認できる。
(実施例4:発現ベクターpGAP−NFL導入酵母の基質特異性の決定)
蛍光消光性ペプチド基質としてMOCAc−Arg−Pro−Lys−Pro−Tyr−Ala−Nva−Trp−Met−Lys(Dnp)−NH(ここで、MOCAcおよびDnpは上で定義したとおりである:配列番号1)(以下、「基質1」という)およびMOCAc−Arg−Pro−Lys−Pro−Val−Glu−Nva−Trp−Arg−Lys(Dnp)−NH(ここで、MOCAcおよびDnpは上で定義したとおりである:配列番号3)(以下、「基質2」という)をペプチド研究所より購入し、これらのそれぞれを用いたこと以外は、上記実施例3と同様にして、発現ベクターpGAP−NFL導入酵母により発現されて細胞表層に提示されるニューロライシンの基質ペプチドに対する特異性を評価した。
結果を図4に示す。白のバーは、コントロール酵母(非提示酵母)の結果を表し、黒のバーは、発現ベクターpGAP−NFL導入酵母(ニューロライシン提示酵母)の結果を表す。縦軸は、蛍光強度(RFU)を示す。蛍光強度が強いほど、酵素による加水分解活性が強いことが示される。基質2ではコントロール酵母および発現ベクターpGAP−NFL導入酵母とも同様に低い蛍光しか観察されなかったが、基質1では、発現ベクターpGAP−NFL導入酵母においてコントロール酵母よりも顕著に高い蛍光が観察された。したがって、発現ベクターpGAP−NFL導入酵母により発現されて細胞表層に提示されるニューロライシンは、基質2に比較して基質1への強い加水分解活性を示し、基質1に対する反応特異性を示した。
(実施例5:発現ベクターpGAP−NFL導入酵母とマトリックスメタロプロテアーゼとの間の基質特異性相関)
上記実施例4で用いた基質1または基質2に対する種々のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP−1、MMP−2、MMP−3、およびMMP−9)の加水分解活性を示すグラフを作成した(図5)。図5に示すグラフは、非特許文献1の結果を元に作成した。図5中、基質1に対する結果をより薄い色のバーで左側に表し、基質2に対する結果をより濃い色のバーで右側に表す。MMP−2およびMMP−9は、基質1に特異的な加水分解活性を示した。MMP−1はいずれの基質とも反応せず、MMP−3は、基質1に比べて基質2に対する反応性が高かった。
上記実施例4における結果と合わせると、発現ベクターpGAP−NFL導入酵母により発現されて細胞表層に提示されたニューロライシンは、MMP−2およびMMP−9と同様の基質特異性を有することが示された。
(実施例6:発現ベクターpGAP−NFL導入酵母とマトリックスメタロプロテアーゼとの間の基質特異性相関)
各MMPに特異的な蛍光消光性ペプチド基質をAnaspec社より購入した。これらのペプチド基質のアミノ酸配列は以下の通りである:
MMP−1特異的蛍光消光性ペプチド基質:5−FAM−Pro−Leu−Ala−Nva−Dap(QXLTM520)−Ala−Arg−NH(配列番号21);
MMP−8特異的蛍光消光性ペプチド基質:QXLTM520−Pro−Leu−Ala−Tyr−Trp−Ala−Arg−Lys(5−FAM)−NH(配列番号22);
MMP−13特異的蛍光消光性ペプチド基質:5−FAM−Pro−Cha−Gly−Nva−His−Ala−Dap(QXLTM520)−NH(配列番号23);
MMP−2/9特異的蛍光消光性ペプチド基質:5−FAM−Arg−Pro−Lys−Pro−Tyr−Ala−Nva−Trp−Met−Lys(QXLTM520)−NH(配列番号1);
MMP−3特異的蛍光消光性ペプチド基質:5−FAM−Arg−Pro−Lys−Pro−Val−Glu−Nva−Trp−Arg−Lys(QXLTM520)−NH(配列番号3);および
MMP−3特異的蛍光消光性ペプチド基質(2):QXLTM520−Arg−Pro−Lys−Pro−Gln−Gln−Phe−Trp−Lys(5−FAM)−NH(配列番号24)
(ここで、5−FAMは蛍光基であり、5−カルボキシフルオレセインを表し、QXLTM520はAnaspec社製の消光基である。Nvaはノルバリンであり、Dap(配列表中は「Dpm」)はジアミノピメリン酸であり、ChaはNα−tert−Boc−Nω−メシチレンスルホニル−L−アルギニンモノシクロヘキシルアンモニウム塩であり、ここで、Bocはブトキシカルボニル基である)。
上記MMP特異的蛍光消光性ペプチド基質を用いたこと以外は上記実施例3と同様にして、発現ベクターpGAP−NFL導入酵母により発現されて細胞表層に提示されるニューロライシンの基質ペプチドに対する特異性を評価した。
結果を図6に示す。黒のバーは、発現ベクターpGAP−NFL導入酵母の結果を表す。縦軸は蛍光強度(RFU)を表し、基質の加水分解特性が高いほど高い蛍光を示す。横軸は、順に、MMP−1特異的蛍光消光性ペプチド基質、MMP−8特異的蛍光消光性ペプチド基質、MMP−13特異的蛍光消光性ペプチド基質、MMP−2/9特異的蛍光消光性ペプチド基質、MMP−3特異的蛍光消光性ペプチド基質およびMMP−3特異的蛍光消光性ペプチド基質(2)のそれぞれについての結果を示す。発現ベクターpGAP−NFL導入酵母により発現されて細胞表層に提示されるニューロライシンは、これらのMMPのうちMMP−2/9特異的基質に対して最も高い加水分解活性を示した。
したがって、本実施例においても、上記実施例5と同様に、ニューロライシンがMMP−2およびMMP−9と同様の基質反応性を示していることが示された。
(実施例7:MMP−2/9の活性阻害剤による発現ベクターpGAP−NFL導入酵母の活性阻害)
MMP−2およびMMP−9が加水分解活性を示すペプチドである上記実施例4で用いた基質1;MOCAc−Arg−Pro−Lys−Pro−Tyr−Ala−Nva−Trp−Met−Lys(Dnp)−NH(ここで、MOCAcおよびDnpは上で定義したとおりである:配列番号1)に加えて、MMP−2/9の活性阻害剤の存在下でのニューロライシンの活性を測定した。
阻害剤としては、市販の4種のMMP−2/9活性阻害剤(いずれもCalBiochem社製)を用い、具体的にはそれぞれ以下の通りである:
阻害剤1:(2R)−2−[(4−ビフェニリルスルホニル)アミノ]−3−フェニルプロピオン酸;
阻害剤2:(2R)−[(4−ビフェニリルスルホニル)アミノ]−N−ヒドロキシ−3−フェニルプロピオンアミド;
阻害剤3:H−Cys−Thr−Thr−His−Trp−Gly−Phe−Thr−Leu−Cys10−OH(1位のシステインと10位のシステインとはジスルフィド結合により環を形成している:配列番号25);および
阻害剤4:3−(4−フェノキシフェニルスルホニル)−プロピルチイラン(propylthiirane)。
上記阻害剤を0nM、100nM、または500nM(但し、阻害剤2は、0nM、10nM、または500nM)の濃度で、上記実施例4の基質1のペプチド基質50μMおよび発現ベクターpGAP−NFL導入酵母OD600=20を含む反応液300μLに添加したこと以外は、上記実施例3と同様にして、発現ベクターpGAP−NFL導入酵母により発現されて細胞表層に提示されるニューロライシンの基質ペプチドに対する特異性を評価した。
結果を図7に示す。横軸は阻害剤の濃度(nM)を示し、縦軸は阻害剤を添加せずに測定したときに活性を100%としたときの相対活性(%)を示す。各阻害剤の結果をグラフ中に表す。黒丸は阻害剤1、黒四角は阻害剤2、白丸は阻害剤3、そして白四角は阻害剤4を表す。どの阻害剤を用いた場合でも、発現ベクターpGAP−NFL導入酵母により発現されて細胞表層に提示されるニューロライシンの活性は、濃度依存的に抑制されることが分かった。
本発明によれば、ニューロライシンがマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP−2およびMMP−9)と同様の基質特異性を有することが判明した。MMP−2またはMMP−9の活性阻害剤のうち基質認識機構を利用して阻害するものは、同様にニューロライシンの活性を効果的に阻害すると考えられるので、ニューロライシンの阻害物質の探索が、MMPの阻害物質スクリーニングに役立ち得る。ニューロライシンはペプチダーゼであるので、MMPよりも高感度に阻害活性を検出でき、また、毒性のあるMMPを用いるよりも簡便に操作することができると考えられる。さらに、ニューロライシンを細胞表層に有する酵母は、培養するだけで酵素の精製を行うことなく酵素活性測定が可能であり、網羅的な一次スクリーニングをハイスループットに行うことができる。本発明は、癌組織における血管新生または癌転移の抑制などによって、癌疾患の予防および治療に有用な薬剤をスクリーニングするための一助となり得る。
ニューロライシン遺伝子を有するベクターを構築する手順を示す模式図である。 ニューロライシン遺伝子を有するベクターおよび酵母細胞表層提示用カセットベクターから、ニューロライシンを細胞表層に発現し得るベクターを構築する手順を示す模式図である。 発現ベクターpGAP−NFL導入酵母(ニューロライシン提示酵母)およびコントロール酵母(非提示酵母)の形態を示す位相差顕微鏡写真および蛍光顕微鏡写真である。 基質1または基質2に対する、発現ベクターpGAP−NFL導入酵母(ニューロライシン提示酵母)およびコントロール酵母(非提示酵母)の加水分解活性の測定結果を示すグラフである。 基質1または基質2に対する、MMP−1、MMP−2、MMP−3、およびMMP−9の加水分解活性を示すグラフである。 MMP−1特異的蛍光消光性ペプチド基質、MMP−8特異的蛍光消光性ペプチド基質、MMP−13特異的蛍光消光性ペプチド基質、MMP−2/9特異的蛍光消光性ペプチド基質、MMP−3特異的蛍光消光性ペプチド基質およびMMP−3特異的蛍光消光性ペプチド基質(2)のそれぞれに対する、発現ベクターpGAP−NFL導入酵母(ニューロライシン提示酵母)の加水分解活性を示すグラフである。 種々の濃度での4種の各MMP−2/9活性阻害剤の存在下における、MMP−2および9が加水分解活性を示すペプチドである基質1に対する、発現ベクターpGAP−NFL導入酵母(ニューロライシン提示酵母)の加水分解活性を示すグラフである。

Claims (13)

  1. 分泌シグナルをコードする塩基配列、ニューロライシンの構造遺伝子の塩基配列、細胞表層局在タンパク質の一部をコードする塩基配列およびGPIアンカー付着シグナルをコードする塩基配列をこの順で有するDNAであって、ニューロライシンを細胞表層に発現し得るDNA。
  2. 前記細胞表層局在タンパク質の一部をコードする塩基配列およびGPIアンカー付着シグナルをコードする塩基配列を有する塩基配列が、酵母のα−アグルチニンをコードする塩基配列である、請求項1に記載のDNA。
  3. 前記細胞表層局在タンパク質の一部をコードする塩基配列およびGPIアンカー付着シグナルをコードする塩基配列を有する塩基配列が、α−アグルチニンのC末端から320アミノ酸をコードする塩基配列である、請求項2に記載のDNA。
  4. 前記DNAがプラスミドの形態である、請求項1から3のいずれかの項に記載のDNA。
  5. ニューロライシンを細胞表層に有する酵母であって、請求項1から4のいずれかの項に記載のDNAを有する、酵母。
  6. マトリックスメタロプロテアーゼの阻害剤の阻害効果を評価する方法であって、該方法が、
    (a)ニューロライシン、該マトリックスメタロプロテアーゼのペプチド基質、および該阻害剤を反応させる工程、および
    (b)該ペプチド基質の残存量または分解量を測定する工程
    を含む、方法。
  7. 前記工程(a)が、請求項5に記載の酵母、前記ペプチド基質、および前記阻害剤を混合することにより行われる、請求項6に記載の方法。
  8. 前記ペプチド基質が、Arg−Pro−Lys−Pro−Tyr−Ala−Nva−Trp−Met−Lys(配列番号1)からなるアミノ酸配列を有するペプチドである、請求項6または7に記載の方法。
  9. マトリックスメタロプロテアーゼの活性を阻害する候補物質をスクリーニングする方法であって、該方法が、
    (a)ニューロライシン、該マトリックスメタロプロテアーゼのペプチド基質、および該候補物質を反応させる工程、および
    (b)該ペプチド基質の残存量または分解量を測定する工程
    を含む、方法。
  10. 前記工程(a)が、請求項5に記載の酵母、前記ペプチド基質、および前記候補物質を混合することにより行われる、請求項9に記載の方法。
  11. 前記ペプチド基質が、Arg−Pro−Lys−Pro−Tyr−Ala−Nva−Trp−Met−Lys(配列番号1)からなるアミノ酸配列を有するペプチドである、請求項9または10に記載の方法。
  12. マトリックスメタロプロテアーゼの阻害剤の阻害効果を評価するため、または該マトリックスメタロプロテアーゼの活性を阻害する候補物質をスクリーニングするためのキットであって、該キットが、請求項5に記載の酵母およびマトリックスメタロプロテアーゼのペプチド基質を備える、キット。
  13. 前記ペプチド基質が、Arg−Pro−Lys−Pro−Tyr−Ala−Nva−Trp−Met−Lys(配列番号1)からなるアミノ酸配列を有するペプチドである、請求項12に記載のキット。
JP2007077782A 2006-04-06 2007-03-23 ニューロライシンの発現およびその利用 Pending JP2007295925A (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2007077782A JP2007295925A (ja) 2006-04-06 2007-03-23 ニューロライシンの発現およびその利用

Applications Claiming Priority (2)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2006105459 2006-04-06
JP2007077782A JP2007295925A (ja) 2006-04-06 2007-03-23 ニューロライシンの発現およびその利用

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JP2007295925A true JP2007295925A (ja) 2007-11-15

Family

ID=38765970

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2007077782A Pending JP2007295925A (ja) 2006-04-06 2007-03-23 ニューロライシンの発現およびその利用

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP2007295925A (ja)

Similar Documents

Publication Publication Date Title
KR101778174B1 (ko) 프로테아제 스크리닝 방법 및 이에 의해 확인된 프로테아제
CN101517074B (zh) 蛋白酶筛选方法及由此鉴别的蛋白酶
US20050175581A1 (en) Biological entities and the pharmaceutical and diagnostic use thereof
CN109321480B (zh) 用于控制重组胶原羟基化的酵母菌株和方法
WO2000047750B1 (en) Metalloproteases of the neprilysin family
JP2008503219A5 (ja)
Leytus et al. Activation of plasminogen to plasmin by a protease associated with the outer membrane of Escherichia coli.
Schultheiss et al. Esterase autodisplay: enzyme engineering and whole-cell activity determination in microplates with pH sensors
JP6421977B2 (ja) 検出特性を向上させた変異プロテアーゼバイオセンサー
US20040072276A1 (en) Process for generating sequence-specific proteases by directed evolution and use thereof
ES2289288T3 (es) Procedimiento para generar proteasas especificas de secuencia mediante evolucion dirigida.
EP3207150B1 (en) Methods for generating engineered enzymes
US8507207B2 (en) Recombinant nucleotide sequence, cell or vector containing the same and method for using cell containing the same to encode anti-polyethylene glycol monoclonal antibodies
WO2006067198A2 (en) Targeted use of engineered enzymes
Koo et al. Refolding of the catalytic and hinge domains of human MT1-mMP expressed in Escherichia coli and its characterization
CA2415458A1 (en) Two coloured fluorimetric protease assay
JP2007295925A (ja) ニューロライシンの発現およびその利用
EA007273B1 (ru) Выделенный полипептид, связывающийся с каспазой -8, и способы его применения
EP1474526B1 (en) Enzyme activation protease assay
US7452690B2 (en) Protease EFC cell surface fusion protein assay
KR101674447B1 (ko) 프로테아제 센서 및 이를 이용한 프로테아제의 활성 측정 방법
JPWO2004022600A1 (ja) 分泌型又は膜結合型キメラ蛋白質
EP4377453A1 (en) Compositions and methods for in vivo protease profiling by immune cell display
RU2378376C1 (ru) ГЕН MMP8opt МЕТАЛЛОПРОТЕИНАЗЫ 8
WO2016127302A1 (zh) 检测细胞外基质mmp13的bret探针、基因、表达载体和构建方法