JP2007264353A - 波長選択性薄膜 - Google Patents
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Abstract
【課題】以下に示す課題があった。
1)
太陽光発電用電池セルに赤外線等が入射すると、電池セル本体の温度が上昇し、光を電力に変換する変換効率が低下していた。
2)
夜間照明に蝿などの昆虫が集まり不快感を余儀なくされ、照明を覆ったり、照度を下げるなどで対処していた。
3)
集魚灯等において魚等が好む波長以外の広範囲の波長が発光されるために、夜間の天文観測に支障を来たしたり、夜景の趣を損ねていた。
【解決手段】
各種の材料から成る誘電体薄膜をスパッタリング法で形成し、高い反射率で選択的に反射する波長領域と高い透過率で透過する波長領域を有し、且つ反射領域から透過領域への遷移領域の波長が狭い波長選択性薄膜を提供する。
【選択図】 図2
Description
本発明は、太陽光を始めとする各種光源からの広範囲に亘る光波長から、所望する波長域のみを選択的に反射し、必要な波長域のみを透過して活用する波長選択性薄膜の技術に関する。
一例として、太陽光の波長から、近赤外線、赤外線並びに遠赤外線(以降、単に赤外線等と称す)の波長のみを選択的に反射して太陽電池セルの温度上昇を阻止し、以って太陽電池の変換効率を向上せしめ、年間を通した積算発電量を増大する技術が挙げられる。
他の例として、照明用光源からの光波長から、昆虫が好む波長域の光を反射し、人間の視覚に必要な波長域のみを透過させることにより、有害な昆虫を寄せ付けない照明技術が挙げられる。
さらに他の例としては、漁業分野において烏賊(イカ)などの漁に用いられている集魚灯として、魚が好む波長域のみを透過することにより、集魚量を向上させると共に、当該照明による障害(例えば星空の観測や景観保護)を抑制する技術などが挙げられる。
以下、本発明の適用先の一例として、当該発明を太陽電池セルの温度上昇を阻止し、以って太陽電池の変換効率を向上せしめ、年間を通した積算発電量を増大する技術に関して詳述するものである。
太陽電池は電池セルの温度が上昇すると、変換効率が低下する特性を有している(非特許文献1、2参照)。
具体的には、多結晶型シリコン太陽電池セルは外気温が低い冬季では、変換効率が14〜15%であるが、夏季になって気温が30℃程度になると、太陽電池セルの表面温度は60〜80℃程度にまで上昇するために、変換効率は12%程度にまで低下し、その低下率は20%に達する。(非特許文献3参照)
シリコン多結晶系は、他の種類よりも安価で且つ変換効率が前記したように15%程度と高いために、汎用として用いられている。しかしながら、電池セルの温度が1℃上昇することにより、変換効率の低下率は0.4〜0.45%となっている。したがって、日射量が大きくて温暖な地域よりも、日射量はやや少ないが、冷涼な地域の方が、年間を通した発電量が高くなることもある。
この課題に対処するために、例えば、特許文献1には、波長により変換効率が異なる種類の電池セルを上下に配して設置面積当たりの発電量を増大させ、且つ、前記したセルの中間に赤外線等を吸収する集光器を設けて、下方に位置するシリコン系電池セルの温度上昇を抑制して変換効率低下を防ぐなどして、発電量を確保する技術が公開されており、巧みな発想ではあるが、構造が複雑である難を免れない。
一方、ガラスの表面処理やフィルムを加工して、赤外線等を遮蔽する技術も従来から提案されている。一例として、特許文献2には、ガラス基板にフッ素含有ITO微粒子とマトリックス成分とを含む塗布液を塗布することにより、赤外線遮蔽膜が形成される技術が公開されている。当該技術は、電磁波透過性を有するなどの貴重な技術を含んではいるが、可視光線透過率がやや劣り、熱線である波長1000nmにおける透過率が35%以下となっており、完全に遮断はできていない。
シリコン系多結晶型の電池セルの変換効率を最大に発揮するには、可視光線を100%近く取り込み、温度上昇の原因である赤外線等をほぼ完全に遮断する波長選択特性を有する必要があり、前記した技術等では該要求を満足することができず、結論として電池セルには適用できない。
さらに太陽電池セルに要求される波長選択性能は、反射して遮断する波長域と透過する波長域との境界が出来るだけステップ状に鋭利に変化する高精度の性能を有していることである。
本発明は、上述したように太陽電池セルの光/電変換効率を低下させる諸問題を解決すべく、電池セル温度上昇の原因となる赤外線等を遮断し、且つ可視光線の透過性が高い薄膜の提供を目的とする。
上記課題解決の目的を達成するために、本願発明者は、誘電体を材料とし、当該材料で製膜した薄膜が光の波長を選択的に反射する現象に着目し、所望の波長域のみを効果的に反射する各種の誘電体材料を探索し、製膜手段と方法、基体材料、製膜厚さ、積層順位と積層数、等々と反射・透過特性との関連について理論的研究を鋭意進め、ナノテクノロジーを駆使した実験により実証した結果、本願発明が成された。
本発明を適用すれば、光が有する広範囲の波長から、反射させたい波長領域を高い反射率で選択できる、換言すれば必要とする波長領域のみを高い透過率で透過できる。したがって、当該薄膜を適用することで、被適用物には、当該被適用物が必要とする波長領域のみが前記薄膜から透過し、従来当該被適用物には負の作用をもたらしていた波長領域が排除されるために、当該被適用物の性能を十分に発揮できる効果がある。
以下、本発明の実施例について、図を用いて詳述する。
図3は太陽光のスペクトルの一般的な状況を示したグラフで、波長300〜1100nmの範囲を示してある。波長300nm程度の紫外線領域から強度は急激に増大し、450nm付近でピークを示し以降漸次減少している。
図3は太陽光のスペクトルの一般的な状況を示したグラフで、波長300〜1100nmの範囲を示してある。波長300nm程度の紫外線領域から強度は急激に増大し、450nm付近でピークを示し以降漸次減少している。
図4はシリコン系多結晶型電池セルの波長と感度の関係を示したグラフで、波長400nmから波長が長くなるにしたがって漸次感度が増し、波長900nm付近にピークを有しており、その後は急激に低下している。
図1は、本発明から成る波長選択性薄膜の光透過特性を実測した結果の一例を示すグラフで、厳密な条件下で製膜したガラス(以降、薄膜付ガラスと称する)に、波長300〜1100nmの光を照射し、各波長の透過率を分光光度計を用いて測定した結果であり、横軸に波長を、縦軸に透過率を採って示している。
図1から分かるように、薄膜付ガラスは、波長400nm以下と690nm以上の光はほぼ100%反射している。他方、波長410〜680nmの範囲にある光の90%以上は透過している。したがって、当該波長選択性薄膜を電池セルの表面に設置すれば、電池セルの温度上昇の原因となる波長700nm以上の光が到達できない事が分かる。
物質が赤外線等を吸収すると当該物質の温度が上昇し、且つ当該物質の温度上昇の程度は、波長が長くなるほど顕著になる現象は周知の事実である。
図9はシリコン系多結晶型電池セルの温度と変換効率を示したグラフである。横軸に太陽電池セルの温度を、縦軸には0℃における変化効率を100%として示してある。
図9から分かるように、電池セルの温度が高くなるにしたがって、変換効率が低下しており、特に電池セルの温度が30℃程度から著しい低下となっている。
したがって、当該発明から成る波長選択性薄膜を電池セルの前面に設置すると波長700nm以上の光が電池セルに到達しないために、当該電池セルの温度上昇が防止され、温度上昇に起因する変換効率の低下を防止できる。
図5は、図6に示すように太陽電池セル本体を保護する目的で設置されている強化ガラス20の前面に当該発明から成る波長選択性薄膜10を適用した場合と未適用の場合の、発電量の時間変化状況を示したグラフである。
図5に実線で示したように、電池セルの前面に波長選択性薄膜を適用した電池セルの発電量は、太陽の光を受け、時間の経過と共に漸次増加し、太陽光の照射が減少するに従って、発電量も低下する。
一方、図5に破線で示したように波長選択性薄膜を適用していない電池セルの発電量は、初期においては、適用した場合よりも発電量は多いが、時間が経過すると急激に発電量が低下し、波長選択性薄膜を適用した電池セルよりも、大幅に発電量が低下する。
初期の時間において未適用電池セルの方が発電量が適用した電池セルより多い理由は、図1に示したように、適用した電池セルでは発電に有用な波長400〜680nmの範囲にある光の約10%弱が遮断されている事、さらに、完全に遮断されている波長700nm以上の光による発電ができない事の二つである。
しかしながら、波長選択性薄膜未適用の電池セルは、ある時間から急激に発電量が減少する。これは、波長700nm以上の光が電池セルに到達してセルの温度を上昇せしめ、変換効率が急激に低下するためである。
図5に示したように、電池セルへ波長選択性薄膜適用・未適用における発電量の差は、時々刻々と変化しているが、本願発明による発電量の優位性は、夫々の特性線で囲まれる領域100と領域101の面積の差で示される。
領域100、101が示す面積は波長選択性薄膜の適用と未適用との積算電力量の差を示しており、領域100の面積は波長選択性薄膜を適用したことによる積算電力量の減少分であり、領域101の面積は波長選択性薄膜を適用したことによる積算電力の増加分である。
当該波長選択性薄膜を電池セルの前面に設置した場合には、図5から明らかなように、領域101の方が、領域100より面積が広くなっており、波長選択性薄膜を適用していない場合よりも、積算電力量が多いことが分かる。
以上が本発明を太陽電池セルに適用した場合の効果の一例であり、電池セルの冷却環境が劣悪である気温の高い地域や夏季においてより絶大な効果を発揮する。
図6は波長選択性薄膜を電池セル本体に設置した状況の一例を示す。太陽電池セル基板40の表面は反射防止膜30が形成されており、さらに上面には強化ガラス20が設置されて、基板40と反射防止膜30を保護している。
本発明から成る波長選択性薄膜10は、前記した強化ガラス20の表面に形成されている。波長選択性薄膜10は入射してくる光波長から、赤外線等を一早く遮断して強化ガラス20の温度上昇を阻止し、当該ガラスの温度上昇に伴う熱伝導による電池セル基板40の温度上昇を防止する目的で、波長選択性薄膜10は最前面に位置している。
波長選択性薄膜10を形成する位置は、図6に示した位置に限定するものではなく、図7(a)(b)(c)に示す位置に形成することも本発明に含まれる。
図7(a)は波長選択性薄膜10を反射防止膜30に形成したもので、波長選択性薄膜10は強化ガラス20により保護されている。したがって、先に述べたように強化ガラス20には赤外線等が入射して当該ガラスの温度を上昇せしめるが、当該波長選択性薄膜10の耐久性を著しく劣化させる環境下で使用する際には好適である。
図7(b)は波長選択性薄膜10を電池セル基板40表面に形成してある。当該位置に設置するより反射防止膜30を省略することが可能となり、さらに図7(a)で述べた効果もある。
しかしながら、当該波長選択性薄膜10の厚さは先述しているように、ナノメータレベルで制御して製膜しているために、電池セル基板40の表面粗さにより、波長選択性薄膜を製膜する際の支障となることから、電池セル基板40の表面研磨等の前処理が不可欠である。
図7(c)は波長選択性薄膜10を強化ガラス20の表面に形成してある。当該位置に設置するより反射防止膜30を省略でき、さらに赤外線等を一早く遮断することができるために、図6で記述した効果が得られる。
さらに、図8は本発明を電池パネルに適用した他の実施例を示す。波長選択性薄膜10が形成されている膜付ガラス50を、通常の電池パネル完成品の前面に設置したものである。強化ガラス20と前記薄膜付ガラス50との空隙部60の距離は無くても良く、特に限定するものではない。
本実施例は、別途薄膜付ガラス50を製作しておき、完成品の電池セル表面に設置するのみで、当初の効果を得ることが可能であり、既に設置してある太陽電池パネルに適用できる。
図2は本発明から成る波長選択性薄膜による透過特性の他の実測結果を示す。前述の図1に示したと同様の操作を実施して得られた波長選択性薄膜であるが、図1の製膜操作条件と異なる箇所は、スパッタリングの時間を長くして、薄膜厚さを厚く製膜したもので、具体的な薄膜材料と薄膜厚さを図10に示す。
図10の縦軸は薄膜層の番号と材質を、横軸には製膜した薄膜厚さを示している。 図10から分かるように、二酸化珪素(SiO2)薄膜と五酸化ニオブ(Nb2O5)薄膜とを交互に積層し、20層形成している。
前記した20層から成る薄膜の製作条件としては、スパッタリング装置の真空度1×10−3(Pa)、キャリアーガスとしてアルゴン(Ar)と酸素(O2)を用い、事前に把握している照射時間と膜厚の関係を基に、各材料に照射する時間を厳密に管理して所望の膜厚を得た。
図2は前記方法により製膜した薄膜の光透過特性の実測結果である。波長域190nm〜3000nmにおける透過率を示したもので、当該波長選択性薄膜の光透過特性の特徴は、波長域400nm〜1000nmは透過率90%以上を確保している一方、1000nm〜1400nmの波長域をほぼ完全に反射して遮断していることである。
当該波長選択性薄膜は波長域400nm〜1000nmにおいて高い透過率を有しているために、シリコン系多結晶型電池セルの感度が良好な波長域(図4参照)のほぼ全てを電池セルに入射させることが可能となる。
その結果、図1に示した特性を有する波長選択性薄膜を設置した電池セルよりも発電量は大きくなり、当該波長選択性薄膜を設置していない電池セルとほぼ同様の発電量が確保できる。しかしながら、赤外線等の領域に及ぶ700nm〜1000nmの波長を透過しているために、温度上昇に起因する変換効率の低下の程度は、図1に示した特性を有する波長選択性薄膜よりも大きい。
本発明は、上述したように波長選択性薄膜の膜厚を極めて厳密に制御することで、光が反射並びに透過する波長を調整できるので、当該電池セルを設置する地域の気温条件に適した特性を持った波長選択性薄膜を採用することで、最も効果的に積算発電量を確保できる。
具体的には、図1に示した特性を有する波長選択性薄膜はより気温の高い地方に、図2に示した特性を有する波長選択性薄膜は比較的気温の低い地方に適している。
本発明は前述の図1と図2に示した特性を有する波長選択性薄膜のみに限定するものではなく、任意の波長域を反射・透過する特性を有し、且つ当該特性が高い反射率と透過率を有し、さらに反射域から透過域へ移行する波長域が極めて狭い特性を有している波長選択性薄膜である。
本発明は、上述した太陽電池セルの積算発電量増大へ寄与するのみならず、広域な波長の光から所望する波長域のみを選択的に高反射率で反射し、他は高透過率で透過する特性を必要とする分野に利用できる。
10:波長選択性薄膜、20:強化ガラス、30:反射防止膜、40:太陽電池セル基板
50:薄膜付ガラス、
100:波長選択性薄膜未設置の電池セルの方が発電量が多い領域
101:波長選択性薄膜設置の電池セル方が発電量が多い領域
50:薄膜付ガラス、
100:波長選択性薄膜未設置の電池セルの方が発電量が多い領域
101:波長選択性薄膜設置の電池セル方が発電量が多い領域
Claims (6)
- 光透過性を有する固体表面に、誘電体物質の薄膜を形成し、所望の波長域のみを高い反射率で反射せしめ、他の波長域は高い透過率で透過する特性を有し、且つ反射域から透過域若しくは透過域から反射域への移行が鋭敏であることを特徴とする波長選択性薄膜。
- 請求項1に示した光透過性を有する基体が透明なガラスであることを特徴とする請求項1に記載した波長選択性薄膜。
- 請求項1に示した誘電体物質が、ニオブ、珪素、チタン等の酸化物であることを特徴とする請求項1に記載した波長選択性薄膜。
- 請求項1に示した薄膜が、請求項3に示した各種誘電体の組合せ薄膜を基本単位層とし、当該基本単位層が複数層であることを特徴とする請求項1に記載した波長選択性薄膜。
- 請求項1に示した薄膜の形成に、スパッタ法を用い、且つ薄膜厚さをナノメータ(nm)単位で制御することを特徴とする請求項1に記載した波長選択性薄膜。
- 透明なガラス表面上に、スパッタ法により、二酸化珪素(SiO2)薄膜と五酸化ニオブ(Nb2O5)薄膜とを交互に積層し、当該薄膜を20層形成して成る薄膜であって、第1、3、5・・・の奇数層が前記した二酸化珪素の薄膜、第2、4、6・・・の偶数層が前記した五酸化ニオブの薄膜であることを特徴とする請求項1に記載した波長選択性薄膜。
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