しかしながら,従来の方法は,いずれの場合も製造時の波長フィルタの位置あわせが難しく,非常に工数を要する作業が問題となっている。
波長フィルタの実装には,通常,液状の樹脂等の接着剤(以下,接着樹脂という。)が用いられ,その取り付けの際には,シリコン基板等の台の上に接着樹脂を塗布し,波長フィルタを所定の取り付け位置に押し付けることが行われるが,このように接着樹脂を使用すると,樹脂の硬化でフィルタが固定されるまでの間に波長フィルタがすべり,当初予定していた場所と異なる位置で固定されるという実装誤差が発生しやすい。
このような誤差は,一芯双方向光通信モジュールにおいて極めて致命的な問題になる。即ち,送信光と受信光は波長フィルタによって分岐し,それぞれ光ファイバと受光素子とに所定の光が到達するように設計されているため,実装誤差によっては,両方又は一方の光信号が正確に到達しなくなってしまう。
この問題を防ぐため,接着樹脂の量を少なくする方法があるが,その場合,樹脂塗布量が少なすぎて接着強度が減少し,波長フィルタが実装後,剥離しやすくなるという新たな問題発生が懸念される。
本発明は,上記背景技術が有する問題点に鑑みてなされたものであり,波長フィルタを支持基板に実装する際に,簡単に取り付けることができ,パッシブアライメントに好適に対応できる上,実装精度を向上させるとともに,実装後の剥離強度を向上させた波長フィルタを有する,新規かつ改良された一芯双方向光通信モジュールを提供することである。
上記課題を解決するため,本発明によれば,支持基板(100)に,光を波長に応じて透過または反射する波長フィルタ(113)と,レンズ素子(105),(106)と,発光素子(107)と,受光素子とを配設してなる一芯双方向通信モジュールであって,前記支持基板上に凹部(103)を具備すると共に,該凹部内に前記波長フィルタ(113)を配設してなることを特徴とする一芯双方向光通信モジュールが提供される(請求項1)。
上記において,構成要素に付随して括弧書きで記した参照符号は,理解を容易にするため,後述の実施形態および図面における対応する構成要素を一例として記したに過ぎず,本発明がこれに限定されるものではない。以下も同様である。
かかる一芯双方向光通信モジュールによれば,従来技術における問題点である実装時の樹脂によるすべりおよび波長フィルタの光軸ずれを解消することが可能である。
ここで,一芯双方向光通信モジュールの光軸ずれについて,本発明者が先に改良した一芯双方向光通信モジュールの図面を参照して原理とすべりについて説明する。
まず,図16〜図18に本発明者が先に改良した基板に光学部品を搭載した所謂一体型の一芯双方向光通信モジュールの支持基板であるシリコン基板を示す。図16は,シリコン基板500の斜視図であり,図17(a)は図16の支持基板を(a)方向から見た側面図であり,図17(b)は図16の支持基板を(b)方向から見た側面図である。また,図18は図16の支持基板の上面図である。支持基板であるシリコン基板500上には,横方向から見た断面形状がV字形状となるV溝501,502が形成されており,この例ではV溝は異方性エッチングにより形成されている。
このシリコン基板500は,図19〜図21に示すように,各光学素子が実装されるものである。各光学素子としては,図19に示したように,シリコン基板500上に,レーザチップ(この例ではレーザダイオード,以下LDと略す)504と,レンズ505と,レンズ506と,受光素子(この例ではフォトダイオード,以下PDと略す。)507と,ガラス素子508と,反射面513が形成された波長フィルタ509とが挙げられ,これらをそれぞれ所定の位置に表面実装法により実装し,一芯双方向光通信モジュールを作製する。図20(a)は図19の一芯双方向光通信モジュールを(a)方向から見た側面図であり,図20(b)は図19の一芯双方向光通信モジュールを(b)方向から見た側面図である。また,図21は図19の一芯双方向光通信モジュールの上面図である。
この一芯双方向光通信モジュールによる送信・受信の双方向通信の方式について図22を参照しながら説明する。これは大別すると,(1)LDから光ファイバへの光の送信と,(2)光ファイバからPDへの光の受信に分けられる。(1)はLD504から送信光が出射され,該LD近傍に設けたレンズ505によってコリメートされ,コリメートされた光は更に波長フィルタ509を介してボールレンズ511によって光ファイバ512に集光される。(2)は光ファイバ512から受信光が出射され,ボールレンズ511を介して波長フィルタの反射面513によって90°曲がり,PD近傍に設けたレンズ506により回折した後,V溝502の所定位置に形成した反射面(図示せず)で反射し,ガラス素子508を介してその上面に配置されたPD507の受光面に到達する。なお,510は,波長フィルタ509を取り付けることが許容される部分(以下,波長フィルタ取付許容部分という)で,本発明者の先の提案によれば,その形状を平面にし,波長フィルタ509を安定して保持できるよう波長フィルタ509の取り付け面よりも広い面積をもって構成している。
本発明の解決課題は,このように波長フィルタの取付許容部分510が大きい場合に特に問題視される,製造時に波長フィルタ509をシリコン基板500に実装する工程における問題発生を回避することにある。即ち,波長フィルタ509を接着樹脂に押し付ける工程において,接着樹脂を波長フィルタ509を取り付ける位置以上,即ち,波長フィルタの取付許容部分510内に収まるように比較的広い面積に塗布することが行われるため(例えば,図22の参照符号514で示される部分)に,樹脂が硬化するまでの間に波長フィルタがこの接着樹脂が塗布された広い面積514上をすべり,図23に示すように,所望の位置からおおきくずれて固定され,光ファイバからの受信光が正確にPDに到達しないという問題発生が懸念される。なお,図23においては,本願の問題点を分かりやすくするために非常に大きい角度でずれを示しているが,実際には,目視しづらいわずかな角度のずれでもこのような問題は致命的に発生する。
本発明においては,このように支持基板に光学素子が取り付けられた所謂一体型で,光を波長に応じて透過または反射する波長フィルタと,レンズ素子と,発光素子と,受光素子とを配設してなる一芯双方向通信モジュールに対し,上記支持基板に波長フィルタを実装するための凹部を形成することで,波長フィルタの側面と凹部の側面が接触することによりすべりを抑制する。ここで波長フィルタの反射膜面の位置及び角度については,凹部の形成時に前もって位置を調整することができるため,受信光軸と送信光軸の交点と,波長フィルタの反射膜面とを一致させて配置することができるので,受信光軸および送信光軸と反射膜面との角度を45°に保った状態で波長フィルタを実装することができる。なお,本発明において,角度調整は各光学素子の配置に応じて適宜選択されるものであり,本発明で例示する角度に制限されるものではない。
また本発明においては,従来技術で波長フィルタと基板間の接着樹脂の塗布量を減らしたり,基板平面と波長フィルタ底面の1箇所のみで行い実装後の強度が弱く,剥離する例に対しても効果的に作用し,波長フィルタと支持基板間の接着は,波長フィルタの底面と凹部の底面の他に,波長フィルタの側面と凹部の側面との間も接着面として使用することができるため,波長フィルタの実装後の強度を向上させることが可能である。
上記本発明にかかる一芯双方向光通信モジュールにおいて,前記凹部を含む前記支持基板の一部を,前記支持基板とは別体に構成することが可能である。かかる構成によれば,基板に直接凹部を作る場合と比較して,支持基板の強度の劣化を抑制することができる。更に別体として設けた凹部を着脱可能に設けることにより,形状の異なる波長フィルタを実装する際にも支持基板そのものは共通して使用し,シリコン基板の一部として別体で構成された凹部だけを交換して対応することが可能となる。従って,波長フィルタの形状などにバリエーションを持たせることができる上,波長フィルタの部品交換だけで実装も容易にできるのでコスト増や製造工程の複雑化を抑えることができる。さらにまた,支持基板と別体部分との接着時にオフセットをかけることにより,光学素子を任意位置に僅かにずらした形での実装が可能であり,設計変更が容易で特に,板形状の波長フィルタを用いた場合に有利である。即ち,キューブ型のように垂直に入射した場合送信光が直進するのに対し,板状フィルタでは入射した際に送信光が屈折するため,曲がった分だけ光軸がずれ,フィルタ膜面をその分ずらした実装を行う必要が有るが,このずれ量を凹部実装時のオフセットに入れることでフィルタ実装工程を変更しなくて済むようにできる。なお,凹部と枠部をそれぞれ着脱可能に設ける方法は公知の方法を採用することができ,特に制限されるものではない。
また,本発明にかかる他の一芯双方向光通信モジュールは,前記凹部を含む前記支持基板の一部が,前記波長フィルタを実装可能な枠で構成することもできる(請求項3)。
かかる一芯双方向光通信モジュールによれば,支持基板とは別体に構成された枠を基板に取り付けた際に,該枠の内側の側壁と,該枠の配設される基板の部分であって該内側の側壁で囲まれた基板の部分とで波長フィルタを配設するための凹部を構成することができるので,上記凹部を別体とする場合と同様の効果を得ることができ,更に枠を着脱可能に設ける場合も同様の効果を得ることができる。この場合,基板を部分的に利用するので,凹部全部を別体として構成する場合と比較して,上記効果を得ることができると共に,よりコストの削減を図ることができる。
上記本発明にかかる一芯双方向光通信モジュールにおいて,レンズが配設される溝は,断面がV字形状であってもよい(請求項4)。かかるV字形状の溝(V溝)によれば,V溝に実装される光学素子(レンズ素子等)を精度良く実装することが可能で,特に,本発明者が先に提案している一芯双方向光通信モジュールで好適に使用できる複雑な形状のレンズ,即ち,円形のレンズ部分と,該レンズ部分を上方から指示して構成する特殊な形状のレンズであって,該レンズ部分周縁部の円形部分を固定する際に特に好適である。
また,前記波長フィルタは,接着樹脂により固着されるようにしてもよい(請求項5)。この場合,前記接着樹脂は,前記凹部内面と該内面に対向する前記波長フィルタの一部側面とで構成される隙間を充填するようにしてもよい(請求項6)。また,前記接着樹脂は,例えば,液状の樹脂である(請求項7)。本発明によれば,接着樹脂を使用した場合でも,波長フィルタの実装時のすべりおよび波長フィルタの光軸ずれ(図23)を解消することが可能である。なお,本願発明でいう「液状」の接着樹脂とは,粘性のある接着樹脂をも含むものとし,塗布した際に傾けても塗布面からはみ出ないものも含むものとする。
また,前記溝および前記凹部は,異方性エッチングにより形成されるようにしてもよい(請求項8)。前記溝および前記凹部を精度良く形成することが可能である。
また,前記波長フィルタ,前記レンズ素子,前記発光素子,および前記受光素子は,表面実装方式により前記支持基板上に実装されるようにしてもよい(請求項9)。これにより,本発明の優れた一芯双方向通信モジュールを簡単かつ確実に製造でき,大量生産に好適に対応させることができる。
また,前記凹部の内側面は,前記波長フィルタと所定の隙間を構成するよう形成されたものであることが推奨される(請求項10)。これにより,接着樹脂の塗布状態に関わらず,波長フィルタを確実に許容できる実装範囲内に確実に実装することが可能である。
前記凹部の形状や前記波長フィルタの形状は様々なものを用いることができる。例えば,前記凹部の内側面で囲まれる部分の形状は正方形や長方形にすることができ,前記波長フィルタは,それに応じて前記凹部の内側面と所定の隙間を持って形成される構成とすることができ,具体的には直方体や立方体(以下,キューブ型ともいう。)とすることができる(請求項11)。この形状にすることにより,固定時の安定化が図れる上,一芯双方向モジュールのニーズにおける波長フィルタの種々のバリエーションに好適に対応することができる。
本発明の一芯双方向光通信モジュールの製造方法は,種々の方法を採用できるが,支持基板に波長フィルタを実装するための凹部を形成する工程と,前記凹部内に接着樹脂を塗布する工程と,波長に応じて光を透過または反射する波長フィルタを前記凹部内に配設する工程とを含むことが推奨される。
かかる製造方法によれば,上述の優れた効果を有する一芯双方向光通信モジュールを容易且つ確実に製造することが可能である。
また,本発明にかかる他の一芯双方向光通信モジュールは,波長フィルタを実装するための凹部が形成された部品又は凹部形成用枠を支持基板上に実装する工程と,前記部品又は枠を取り付けることによって形成された凹部内に接着樹脂を塗布する工程と,波長に応じて光を透過または反射する波長フィルタを前記凹部に配設する工程とを含む工程を採用することにより製造することができる。
かかる製造方法によれば,上述の凹部を含む部分を支持基板とは別体あるいは一部を利用して構成したので,容易且つ確実に波長フィルタの実装後の強度を向上させた一芯双方向光通信モジュールを製造することができる。
以上のように,本発明によれば,波長フィルタを支持基板に実装する際に,実装精度を向上させるとともに,実装後の強度を向上させた一芯双方向光通信モジュールを好適に得ることが可能である。
以下に添付図面を参照しながら,本発明にかかる一芯双方向光通信モジュールおよびその製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。なお,本明細書および図面において,実質的に同一の機能構成を有する構成要素については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態について説明する。まず,図1〜図7を参照しながら,本実施形態にかかる一芯双方向光通信モジュールの構造について説明する。次いで,図8,図9を参照しながら,本実施形態にかかる一芯双方向光通信モジュールの製造方法について説明する。
(一芯双方向光通信モジュールの構造)
図1〜図3は,本実施形態にかかる一芯双方向光通信モジュールの支持基板を示す説明図である。本実施形態では支持基板としてシリコン基板を使用する。図1に示すように,支持基板であるシリコン基板100上には,溝101,102が形成されている。また,シリコン基板100は4つの部分に分割されそのうちの1つの面110(図1において網掛けを付した面)には,凹部103が形成されている。面110には後述のように波長フィルタが実装されることから,以下,波長フィルタ実装面110という。
図2は,図1の側面図であり,図2(a)は図1を(a)方向から見た側面図であり,図2(b)は図1を(b)方向から見た側面図である。図2(a)に示したように,溝101は,図1の(a)方向から見るとV字形状となっている。また,溝102は,図2(b)に示したように,図1の(b)方向から見るとV字形状となっている。以下,これら溝101,102をV溝と称する。V溝101,102は異方性エッチングによりこのような形状に形成することが可能である。
図3は,図1の上面図である。凹部103は,その内側面に囲まれる形状が正方形でその深さは適宜調整されるが,接着樹脂が安定に保持されるように調整された深さになっている(通常45μm以上であるが適宜調整される)。凹部103は,V溝101,102と同様に,異方性エッチングにより所望の形状に形成することが可能である。
図4は,シリコン基板100上に,本実施形態の一例にかかる一芯双方向光通信モジュールを構成する光学素子が実装された状態を示す説明図である。シリコン基板100上に,LD(Laser Diode:発光素子の一例)104と,レンズ105と,レンズ106と,PD(Photo Diode:受光素子の一例)107と,ガラス素子108と,波長フィルタ109が実装された状態を示している。シリコン基板100上への各光学素子の配置,固定には表面実装方式を用いることができ,シリコン基板100と各光学素子との接着には,はんだあるいは樹脂を適宜用いている。
LD104は,V溝101の一端部近傍に実装されている。レンズ105は,このV溝101内に実装されている。LD104から出射された光は,レンズ105および波長フィルタ109を介して,外部に出射される。PD107は,ガラス素子108上に実装される。ガラス素子108は,V溝102の一端部近傍に実装されている。レンズ106は,V溝102内に実装されている。外部から入射された光は,波長フィルタ109およびレンズ106を介し,さらにガラス素子108を介して,PD107に入射される。なお,外部に出射された光,外部より入射された光は,例えば図7に示されるボールレンズ111と,光ファイバ112とが送受信に介在するが,その流れについては後述する。
波長フィルタ109は,反射面113を有しており,送信する光と受信する光を分岐して送信信号と受信信号に分ける機能を有する(このことから波長フィルタは波長分波器とも称され,本発明においては波長分波器も波長フィルタというものとする。)。本実施形態においては,波長フィルタ109は,1辺1mmのキューブ型形状のものを使用している。
波長フィルタ109は,凹部103内の所定位置に配設されている。この取り付けは,実装位置に波長フィルタの形状に合わせた凹部103を設け,この凹部103の内部に波長フィルタ109を実装することにより行われる。実装は接着樹脂を使用して行われる。接着樹脂の塗布面が凹部103の内側面で安定に保持されるので,接着樹脂の広がりを防ぐと共に,実装の際に接着樹脂により波長フィルタ109にすべりが発生しても,該凹部103の内側面が波長フィルタ109の移動を防ぐ。凹部103の内側面と波長フィルタの側面の一部も接着面として機能するので,接着強度も向上する。
次に,本実施形態に特徴的な構成要素である凹部103と波長フィルタ109との関係について図4〜図6を参照して説明する。まず,波長フィルタ109は,波長フィルタ実装面110に形成された凹部103内に,実装されている。図5(a)は図4を(a)方向から見た側面図であり,図5(b)は図4を(b)方向から見た側面図である。図4,図5においては,説明の便宜上,内部構造等を部分的に破線で表している。また,図6は図4の上面図である。
凹部103は,図6に示したように,波長フィルタ109の外周よりも所定間隔を以て大きくなるように形成されており,この凹部103内に波長フィルタ109が実装されている。凹部103の一辺は,波長フィルタ109の一辺の長さ(通常1mm)に対して,例えば,10〜20μm,特に15μm大きくなるように構成することができる。この隙間については,さらに後述する。なお図6では便宜上,波長フィルタ109と凹部103との間隔を強調して表している。また,凹部103の深さは,波長フィルタ実装面110の高さと,V溝101,102の形状等によって決定され,一辺1mmの波長フィルタを用いる場合には,45μm以上,特に50μm以上で,浅すぎると樹脂と不よりもすべり抑制としての意味をなさないことや,側壁を用いた強度向上の効果が十分に得られず,深すぎると凹部の形成時に異方性エッチングで精度よく作ることができない場合がある。
ここで,凹部103の内側面の形状,深さの決定方法について,図7を参照して説明する。図7は送受信の光路を示す説明図であり,本実施形態の一例にかかる一芯双方向光通信モジュールとともに,該モジュール周辺の外部の構成として,ボールレンズ111と,光の入出力のための光ファイバ112を示している。波長フィルタ109が凹部103の内側に実装された際,シリコン基板100の送信側光軸Aおよび受信側光軸Bの交点Cと,波長フィルタ109内の反射膜113とが重なり,また光軸A,Bと反射膜面113のなす角度が所定の値(この場合は45°)になるように凹部103を設計する必要がある。
また,実装する波長フィルタ109は,許容実装誤差範囲で設計し,本実施形態においては,送信側光軸Aおよび受信側光軸B方向について±20μm以内を想定している。従って,凹部103の波長フィルタ109の一辺の長さに対して10〜20μmを想定している。波長フィルタ109の実装時にずれが発生した際には,波長フィルタ109がキューブ形状のため凹部103の4隅のいずれかに突き当たるようになっている。
従って,凹部103の内側面の長さは,波長フィルタ109の一辺の長さに対して許容実装誤差の分だけ大きく取る(波長フィルタの1辺が1mmであれば,1mm+15μmの各辺を有する正方形)ことにより,波長フィルタ109を確実に許容実装誤差範囲内に実装することが可能である。
以上,本実施形態にかかる一芯双方向光通信モジュールの構造について説明した。次いで,図7〜図9を参照しながら,本実施形態の一例にかかる一芯双方向光通信モジュールを製造する第1の製造方法について説明する。図7に示される一芯双方向光通信モジュールは,双方向の通信を実現するために,シリコン基板100上に実装される各光学素子を基板上の設計位置に正確に搭載する必要があり,中でも送信受信光を分岐する機能を持つ波長フィルタ109については,特に高い実装精度が必要とされるため,この要求を満たすことができるものである。
図7において,波長フィルタ109の接着面と凹部103の接着面はともに平らな面となっている。これは図8に示すように,実装機114を用いて波長フィルタ109を実装する際,凹部103の所定位置に液状の接着樹脂を塗布し,接着樹脂部分115を用意した後,実装機114による位置合わせをした波長フィルタ109を接着樹脂部分115に合わせて矢印方向に下ろす。そして,図9(a)に示したように,波長フィルタ109を凹部103の接着樹脂部分115に押し付ける。図9(b)は図9(a)のA部分を拡大した説明図であり,接着樹脂部分115が波長フィルタに押されて延ばされた状態を示している。そして,接着樹脂部分115が延ばされた後,UV光を当てて硬化させ,凹部103と波長フィルタ109との固定を行った。
これにより,図7に示したように,送信側のV溝101を中心軸とする送信光軸111と,受信側のV溝102を中心軸とする受信光軸112との交点Cが,波長フィルタ109の反射膜面106の線上に存在し,また送信光軸A,受信光軸Bと反射膜面106がなす角度がそれぞれ45°になるように波長フィルタ109が固定された。LD104から出射される送信光108は光ファイバ112に到達し,一方,光ファイバ112からの受信光107は反射膜113によって90°反射され,PD107に到達することができる。
以上のように,本実施形態によれば,実装時の樹脂によるすべりおよび波長フィルタの光軸ずれを解消することが可能である。すなわち,支持基板に波長フィルタ109を実装するための凹部103を形成することで,波長フィルタ109の側面と凹部103の内側面が接触することによりすべりが抑制される。また,波長フィルタ109の反射膜113の位置及び角度については,凹部103の形成時に前もって位置を調整してあるため,図7に示したように,受信光軸Aと送信光軸Bの交点Cと,波長フィルタ109の反射膜面113とを一致させて配置することができる。これにより,受信光軸および送信光軸と反射膜面との角度を45°に保った状態で波長フィルタ109を容易かつ確実に実装することができる。
また本実施形態にかかるシリコン基板100を用いた場合,波長フィルタ109とシリコン基板100間の接着は,波長フィルタ109の底面と凹部103の底面の他に,波長フィルタ109の側面と凹部103の内側面との間も接着面として使用することができるため,波長フィルタ109の実装後の強度を向上させることが可能である。
本実施形態のように,シリコン基板100上に深さ100μmの凹部103を形成し,その内側に波長フィルタ109を実装した一芯双方向光通信モジュールを作成したところ,実装後の波長フィルタ109のシェア強度を500gf以上に向上することができた。
次に本発明の第2の製造方法について説明する。図10に示すように,波長フィルタを実装するために,シリコン基板200上に基板平面の大きさに合わせたシリコン製の枠210を予め実装する。この枠210には実装する波長フィルタの形状に合わせてシリコン基板200の一部と凹部203を形成するようにこの枠210は,実装する波長フィルタの形状に合わせてシリコン基板200の一部と枠210とで凹部203を形成するように形状,大きさ,深さが調整されており,枠210を基板に取り付けることにより,上記第1の製造方法にかかる凹部203と同様の凹部を形成するようになっている。
枠210をシリコン基板200上に表面実装法で実装した後,図11に示したように,凹部203に,反射面213が形成された波長フィルタ209を上記第1の製造方法と同様に実装する。本実施形態において,波長フィルタ209は上記第1の製造方法と同様の立法体のキューブ型形状のものを使用している。
一芯双方向光通信モジュールの第2の製造方法は,シリコン基板200にシリコン製枠210を実装する工程が追加されるのみで,その後工程は上記第1の実施形態と実質的に同様である。シリコン基板200にシリコン製枠210を実装した状態では,第1の実施形態にかかるシリコン基板100と実質的に同様の構成となる。従って,第1の実施形態で説明した方法(図8,図9)により,凹部203に波長フィルタ209を実装することが可能である。
以上のように,本実施形態によれば,上記第1の実施形態と同様に,実装時の樹脂によるすべりおよび波長フィルタの光軸ずれを解消することが可能であるとともに,波長フィルタ209の実装後の強度を向上させることが可能である。
第2の製造方法のように,厚みが100μmの枠210をシリコン基板の所定部分に取り付けることにより,凹部203を形成し,その内側に波長フィルタ209を実装した一芯双方向光通信モジュールを作成したところ,実装後の波長フィルタ209のシェア強度を500gf以上に向上することができた。
さらに,第2の製造方法では,第1の製造方法と異なり,シリコン基板上に凹部を直接形成せず,凹部203の形成された枠210を実装することとしたため,形状の異なる波長フィルタを実装する際にもシリコン基板200を共通して使用し,枠だけを交換することが可能となる。このため,波長フィルタの形状の交換が枠を変えるだけででき,使用する波長フィルタの種類にバリエーションを持たせることができる上,このような作業のコスト増や製造工程の複雑化を抑えることが可能である。
また,シリコン基板上に直接凹部を形成することによるシリコン基板の局所に応力が集中することを回避できるので強度低下を防ぐことができる。
さらに,シリコン基板200と枠210の接着時にオフセットを掛けることにより,光学素子を任意位置に僅かにずらした形での実装が可能であり,設計変更が容易である。
第3の製造方法について説明する。本製造方法は,直方体(板状)の波長フィルタを使用するものである。まず,図12に示したように,実装される波長フィルタの形状に合わせて,シリコン基板300の波長フィルタ実装許容面310に,長方形形状の凹部303を形成する。凹部303の深さや遊び等については,上記第1の製造方法と同様に設計することができるのでその説明は省略する。また,V溝301,302についても,第1の製造方法のV溝101,102と同様に形成することができる。
そして,図13に示したように,凹部303に,反射面313が形成された波長フィルタ309を実装する。この波長フィルタ309は,接着面が長方形になっており,全体として直方体になっている。反射面(反射膜)313は,波長フィルタ309の内部または側面に形成される。
なお,図13に示したその他の光学素子については第1の製造方法と実質的に同様であるため,同一の参照符号を付して重複説明を省略する。
一芯双方向光通信モジュールの第3の製造方法は,波長フィルタ309とその実装用の凹部303の形状が異なるのみで,その他は上記第1の実施形態と実質的に同様である。すなわち,第1の製造方法で説明した方法(図8,図9)により,凹部303に波長フィルタ309を実装することが可能である。
以上のように,本実施形態によれば,上記第1の製造方法と同様の効果が得られる。すなわち,実装時の樹脂によるすべりおよび波長フィルタの光軸ずれを解消することが可能であるとともに,波長フィルタ309の実装後の強度を向上させることが可能である等の効果が得られる。
さらに,波長フィルタの形状にバリエーションを持たせることができ,かつコスト増や製造工程の複雑化を抑えることが可能である。
本発明の第4の製造方法について説明する。図15に示すように,波長フィルタを実装するために,シリコン基板400上に基板平面の大きさに合わせたシリコン製の枠410を予め実装する。この枠410は,実装する波長フィルタの形状に合わせてシリコン基板400の一部と枠410とで凹部403を形成するように形状,大きさ,深さが調整されており,枠を基板に取り付けることにより,上記第1の製造方法にかかる凹部403と同様の凹部を形成するようになっている。本製造方法では,直方体(板状)の波長フィルタを使用するものである。
まず,図14に示したように,実装される波長フィルタの形状に合わせて,シリコン基板400の波長フィルタ実装許容面410に,長方形形状の凹部403を形成する。凹部403の深さや遊び等については,上記第2の製造方法と同様に設計することができるのでその説明は省略する。また,V溝401,402についても,第1の製造方法のV溝101,102と同様に形成することができる。
そして,図15に示したように,凹部403に,反射面413が形成された波長フィルタ409を実装する。この波長フィルタ409は,接着面が長方形になっており,全体として直方体になっている。反射面(反射膜)413は,波長フィルタ409の内部または側面に形成される。
なお,図15に示したその他の光学素子については第1の製造方法と実質的に同様であるため,同一の参照符号を付して重複説明を省略する。
一芯双方向光通信モジュールの第4の製造方法は,上記第2の製造方法と同様にシリコン基板400に枠410を実装する工程が追加されるのみで,その後工程は上記第3の製造方法と実質的に同様である。
以上のように,第4の製造方法によれば,上記第1〜第3の実施形態と同様の効果が得られる。すなわち,従来技術における問題点である実装時の樹脂によるすべりおよび波長フィルタの光軸ずれ(図23)を解消することが可能であるとともに,波長フィルタ409の実装後の強度を向上させることが可能である等の効果が得られる。
さらに,波長フィルタの形状にバリエーションを持たせることができ,かつコスト増や製造工程の複雑化を抑えることが可能である。
なお,上記製造方法で説明した波長フィルタはあくまで一例に過ぎず,任意の形状の波長フィルタを使用することができる。その際にも,波長フィルタの形状に合わせてシリコン基板上の凹部の形状を調整することができる。
以上,添付図面を参照しながら本発明にかかる一芯双方向光通信モジュールおよびその製造方法の好適な実施形態について説明したが,本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。