JP2007159473A - 内因性オピオイドペプチド産生ニューロンの可視化に利用可能なトランスジェニック非ヒト動物およびその利用 - Google Patents

内因性オピオイドペプチド産生ニューロンの可視化に利用可能なトランスジェニック非ヒト動物およびその利用 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、生きた状態の内因性オピオイドペプチド産生ニューロンを可視化するために利用可能なトランスジェニック非ヒト動物およびその利用を提供する。
【解決手段】内因性オピオイドペプチド前駆体遺伝子の発現制御領域と蛍光タンパク質遺伝子とが連結された遺伝子をBAC法にて形質転換することにより、蛍光タンパク質が内因性オピオイドペプチド産生ニューロンで特異的に発現するトランスジェニック非ヒト動物を製造することができる。
【選択図】なし

Description

本発明は、内因性オピオイドペプチド産生ニューロンの可視化に利用可能なトランスジェニック非ヒト動物およびその利用に関するものであり、特に、生きた状態の内因性オピオイドペプチド産生ニューロンの可視化に利用可能なトランスジェニック非ヒト動物およびその利用に関するものである。
脊椎動物の神経系は、神経細胞、及びグリア細胞から構成されている。これらはいずれも神経幹細胞より分化してくるものと考えられている。このうち、神経細胞は、細胞体並びに樹状突起と軸策の2種の突起からなる細胞である。神経細胞は、他の神経細胞や刺激受容細胞からの刺激を受け、この刺激を統合した後に軸策に伝達する。その後、軸策末端の神経終末にあるシナプスを介して他の神経細胞や筋あるいは腺細胞などのシナプス後細胞に伝達する。
中枢神経系の神経細胞には、さまざまな機能を有する神経細胞が存在する。それらの神経細胞は、様々な情報を伝達するために複雑に連関して相互作用している。そのため、その相互作用や動態などを解析することは様々な脳機能のメカニズムを明らかにする上で重要である。そこで、これまでに中枢神経系における様々な神経細胞を分別、同定する方法が提案されている。
上記の神経細胞の分別、同定方法としては、具体的には、神経細胞に特異的なマーカーを用いて当該神経細胞を染色する方法や、神経細胞に特異的なマーカータンパク質とレポータータンパク質との融合タンパク質を生体内で発現させ、上記レポータータンパク質の活性を用いて当該神経細胞を染色する方法等が挙げられる。このような方法しては、例えば、特許文献1に開示される方法が挙げられる。
具体的には、特許文献1には、GAP−43タンパク質のN端のアミノ酸を大腸菌βガラクトシダーゼ(lacZ)のN端に融合させたGAP−lacZリポーター遺伝子をGAP−43タンパク質のプロモーターとは異なる神経細胞特異的なプロモーターのコントロール下で発現するトランスジェニック非ヒト動物を用いて、特定の神経回路パターンを可視化する方法が開示されている。
一方、生きた状態の神経細胞を分別、同定方法としては、神経細胞に特異的なマーカータンパク質を蛍光タンパク質との融合タンパク質として生体内で発現させる方法などが提案されている。このような方法としては、例えば、特許文献2および3に開示される方法が挙げられる。
具体的には、特許文献2には、ノックイン法により、グリーン蛍光タンパク質遺伝子をグルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子のエクソンと同一の読み取り枠に挿入したトランスジェニック動物(以下、ノックイン法により製造されたトランスジェニック動物を「ノックイン動物」ともいう)を用いてγ−アミノ酪酸作動性ニューロンを生体で可視化する方法が開示されている。
また、特許文献3には、小胞性GABA/グリシントランスポーターをコードする遺伝子の発現制御領域と、その制御下におかれるように連結された蛍光タンパク質をコードする遺伝子を含む比較的短い15kbp長のDNA、その遺伝子をBacterial artificial chromosome(以下、「BAC」ともいう)を用いない方法(以下、「非Bacterial artificial chromosome法(非BAC法)」ともいう)で導入した非ヒト哺乳動物において、上記蛍光タンパク質が発する蛍光を用いて、神経細胞およびシナプスをその機能に応じて分離可視化する方法が開示されている。
ところで、中枢神経細胞において機能するエンケファリンの前駆体であるプレプロエンケファリンペプチドと、レポータータンパク質である大腸菌βガラクトシダーゼあるいはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)とを結合させて発現させた従来の非BAC法によるトランスジェニック動物では、上記レポータータンパク質は、精巣で強く発現するが、中枢神経ではあまり発現しないことが知られている(非特許文献1〜4を参照)。
特開2002−34386号公報(平成14(2002)年2月5日公開) 特開2003−88272号公報(平成15(2003)年3月25日公開) 特開2003−204796号公報(平成15(2003)年7月22日公開) Zinn et al., J Biol Chem 266, 23850-23855 (1991) Borsook et al., Mol Endocrynol 6, 1502-1512 (1992) Donovan et al., Proc Natl Acad Sci USA 89, 2345-2349 (1992) O'Hara et al., Mol Reprod Dev 38, 275-284 (1994)
神経細胞における異常は様々な疾患と関連していることが知られている。さらに、これら疾患の治療薬は、当該神経細胞を標的とするものが多い。そのため、神経細胞が関与する疾患のメカニズムの解明、および当該疾患の治療薬の開発の観点から、生きた状態の神経細胞を可視化する技術が、各機能を有する神経細胞について求められている。
しかしながら、上述した特許文献1あるいは非特許文献1〜4のような方法では、組織を固定した後、マーカーを用いて染色を行うため、生体の神経細胞の活動を生きた状態で解析することはできない。
一方、特許文献2および3に開示される方法は、グルタミン酸脱炭酸酵素や小胞性GABA/グリシントランスポーターをマーカーとして用いて、生きた状態の神経細胞を可視化する技術である。
このような状況下において、一見すると、特有の機能分子が既知の神経細胞であれば、特許文献1〜3の技術を適宜組み合わせて用いることにより、生きた状態の当該神経細胞を可視化できるように思われる。ところが、神経細胞には、機能が異なるものが多数存在し、それぞれの機能を有する神経細胞により、神経細胞の可視化に用いることができる機能分子が異なる。また、これらの機能分子の発現もしくは蓄積は、それぞれ異なる遺伝子により制御されている。さらに、それらの遺伝子の発現もまた、遺伝子ごとに異なる制御を受けている。そのため、特許文献1〜3の技術を単に組み合わせるのみでは、それに特有の機能分子が既知の神経細胞であっても、当該神経細胞を生きた状態で可視化することは困難である。
より具体的にいえば、生きた状態の神経細胞を可視化するには、その神経細胞に特有の機能分子の発現、または蓄積に寄与する遺伝子が本来受けている制御様式で、レポータータンパク質を発現させる必要がある。しかし、生体内でそれぞれの遺伝子は、それぞれ異なる発現制御を受けており、特許文献3でいうところの発現制御領域は、遺伝子ごとに異なっている。そのため、機能分子の発現、または蓄積に寄与する遺伝子が本来受けている制御様式で、レポータータンパク質を発現させることは容易ではない。例えば、非特許文献1〜4に記載されたような短いプレプロエンケファリン遺伝子制御部位を用いた非BACトランスジェニック法を用いると、レポータータンパク質は、精巣で強く発現するが、中枢神経ではあまり発現しなかった。これは、本来のプレプロエンケファリン遺伝子の発現制御と、上記非BAC法トランスジェニック動物におけるレポータータンパク質の発現制御とが異なることを意味している。したがって、特定の機能を有する神経細胞を可視化するには、それぞれの神経細胞における機能分子に対して、発現特異性の点で最適化した可視化方法を開発する必要がある。
中枢神経内での発現特異性が確保できなかったことと、神経細胞を殺さずに同定できるレポータータンパク質を用いてこなかったこととの2点のために、痛覚制御を担う内因性オピオイドペプチド産生ニューロンを生きた状態で可視化する技術は開発されていない。そこで、現在、上記内因性オピオイドペプチド産生ニューロンを生きた状態で可視化することが、医療分野、薬学分野、および医学分野において強く求められている。
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、生きた状態の内因性オピオイドペプチド産生ニューロンを可視化するために利用可能なトランスジェニック非ヒト動物およびその利用を提供することにある。
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、プレプロエンケファリン遺伝子の発現制御領域と、蛍光タンパク質遺伝子とが連結されたBACベクターを用いて形質転換することにより、蛍光タンパク質が内因性オピオイドペプチド産生ニューロンで特異的に発現するトランスジェニック動物を作製できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下の産業上有用な発明(1)〜(8)を包含する。
(1)蛍光タンパク質が内因性オピオイドペプチド産生ニューロンで特異的に発現することを特徴とするトランスジェニック非ヒト動物。
(2)内因性オピオイドペプチド前駆体遺伝子のタンパク質コード領域の上流域および下流域と上記のタンパク質コード領域中のイントロン領域とを十分に含み、当該遺伝子の特異的発現制御能を有するBacterial artificial chromosome(以下、「BAC」ともいう)を用いて、内因性オピオイドペプチド前駆体をコードするDNAの一部を、蛍光タンパク質をコードするDNAと置き換えることにより得られる、組み換えBAC DNAを遺伝子導入して得られることを特徴とする(1)に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
(3)上記内因性オピオイドペプチド前駆体が、プレプロエンケファリンであることを特徴とする(2)に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
(4)内因性オピオイドペプチド前駆体をコードする遺伝子の発現制御領域と、蛍光タンパク質をコードする遺伝子とが連結されたDNAを含むことを特徴とするBAC。
(5)上記内因性オピオイドペプチド前駆体が、プレプロエンケファリンであることを特徴とする(4)に記載のBAC。
(6)(4)または(5)に記載のBACを用いることを特徴とするトランスジェニック非ヒト動物の製造方法。
(7)(1)〜(3)のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物における上記蛍光タンパク質から発せされる蛍光を検出する工程を含むことを特徴とする内因性オピオイドペプチド産生ニューロンの可視化方法。
(8)生きた状態の内因性オピオイドペプチド産生ニューロンを可視化することを特徴とする(7)に記載の内因性オピオイドペプチド産生ニューロンの可視化方法。
本発明にかかるトランスジェニック非ヒト動物は、以上のように、内因性オピオイドペプチド前駆体をコードする遺伝子の発現制御領域と蛍光タンパク質遺伝子とが連結された遺伝子をBAC法により形質転換して得られるため、当該蛍光タンパク質が内因性オピオイドペプチド産生ニューロンでノックイン動物に匹敵する特異性を有して発現される。また、当該トランスジェニック動物に導入された遺伝子は遺伝子コピー数1個のノックイン動物より多くのコピー数を有するので、蛍光タンパク質を大量に発現できる。それゆえ、大量の当該蛍光タンパク質が発する蛍光を検出することにより、内因性オピオイドペプチド産生ニューロンを特異的にかつ高感度に可視化できるという効果を奏する。
さらに、上記蛍光タンパク質が発する蛍光の検出には、組織の固定処理などが必要ないため、本発明によれば、生きた状態の内因性オピオイドペプチド産生ニューロンを特異的に可視化できるという効果を奏する。
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
<I.本発明にかかるトランスジェニック非ヒト動物>
本発明にかかるトランスジェニック非ヒト動物は、蛍光タンパク質が内因性オピオイドペプチド産生ニューロンで特異的に発現するものであればよく、その製造方法やその他の特性などは特に限定されるものではない。具体的には、当該非ヒト動物の内因性の内因性オピオイドペプチドまたはその前駆体が受けている発現制御と同一の制御様式で、蛍光タンパク質の発現が制御されていることが好ましい。例えば、内因性オピオイドペプチド前駆体をコードする遺伝子の発現制御領域と蛍光タンパク質をコードする遺伝子とが連結された遺伝子(導入遺伝子)を用いて、形質転換して得られたトランスジェニック非ヒト動物を挙げることができる。
上記非ヒト動物としては、脊椎動物であることが好ましく、哺乳動物であることがより好ましい。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ等が挙げられる。これらの中で、マウス、ラット、モルモット等のげっ歯類が好ましく、マウスまたはラットがより好ましい。
以下、上記内因性オピオイドペプチドおよびその前駆体をコードする遺伝子、蛍光タンパク質およびそれをコードする遺伝子、導入遺伝子の作製方法、並びにトランスジェニック非ヒト動物の製造方法について、詳細に述べる。
(I−1.内因性オピオイドペプチドおよびその前駆体をコードする遺伝子)
本明細書において「内因性オピオイドペプチド」とは、エンケファリンのような生体内で産生される内因性内因性オピオイドペプチドをいう。内因性オピオイドペプチドは、ヒトなど哺乳動物の脳に広く分布し、脊髄をはじめとする脳以外の神経系にも存在することが知られている。内因性オピオイドペプチドの作用としては、オピオイド受容体に結合し、例えば、鎮痛作用を示す。すなわち、内因性オピオイドペプチド産生ニューロンは、痛覚抑制作用をもつニューロンである。
より具体的には、内因性オピオイドペプチドは、以下に示す作用を示す。
(1)中脳中心灰白質のμ受容体と結合し、下行性疼痛抑制系を活性化する。
(2)大脳基底核の線条体ニューロンにより産生され、ドーパミンニューロンに対する抑制を解除する働きがあり、報酬による強化学習というドーパミンニューロンの機能を促進する。
(3)脊髄後角で侵害情報を伝達するニューロンに作用し、末梢からの痛み情報の伝達を遮断する。
(4)末梢侵害受容器由来の神経終末のオピオイド受容体に結合し、痛覚を伝達するCおよびAδ線維の活動を低下させる。
上記内因性オピオイドペプチドの具体的な例としては、内因性モルヒネ様分子であるエンケファリンが挙げられる。エンケファリンは、5個のアミノ酸から構成されるペンタペプチドであり、メチオニンエンケファリン、ロイシンエンケファリンの2種類がある。
上記内因性オピオイドペプチドは、生体内で内因性オピオイドペプチド前駆体から産生される。上記内因性オピオイドペプチド前駆体には、プレプロオピオメラノコルチン、プレプロエンケファリン(プレプロエンケファリンA)、およびプレプロダイノルフィン(プレプロエンケファリンB)の3種類がある。プレプロオピオメラノノコルチンを前駆体とする内因性オピオイドペプチドとしては、β−エンドルフィンが挙げられる。また、プレプロエンケファリンAを前駆体とする内因性オピオイドペプチドとしては、メチオニンエンケファリン、およびロイシンエンケファリンが挙げられる。さらに、プレプロダイノルフィンを前駆体とする内因性オピオイドペプチドとしては、αネオエンドルフィン、βネオエンドルフィン、ダイノルフィンA(1−8)、ダイノルフィンA、およびダイノルフィンBが挙げられる。
本発明にかかる内因性オピオイドペプチド前駆体をコードする遺伝子(以下、は、上記例示したような内因性オピオイドペプチド前駆体をコードする遺伝子であればよく、その由来や具体的な配列は特に限定されるものではない。例えば、上記内因性オピオイドペプチド前駆体をコードする遺伝子としては、マウス由来のプレプロエンケファリン1(以下、「PPE」ともいう)遺伝子(NCBIアクセッション番号:BC049766およびNM_001002927)、プレプロダイノルフィン遺伝子(NCBIアクセション番号:NM_018863)、およびプレプロオピオメラノノコルチン遺伝子(NCBIアクセション番号:NM_008895)を例示することができる。
上記PPE遺伝子は、NCBIアクセション番号AAH49766に登録されているアミノ酸配列からなるプレプロエンケファリンをコードする遺伝子である。上記PPE遺伝子において、NCBIアクセッション番号BC049766に登録されている塩基配列の303番目から305番目までの塩基配列が開始コドン(ATG)であり、1107番目から1109番目の塩基配列が終止コドン(GAA)である。したがって、上記PPE遺伝子は、NCBIアクセッション番号BC049766に登録されている塩基配列のうち、303番目から1109番目までの塩基配列をオープンリーディングフレーム(ORF)として有している。すなわち、上記PPE遺伝子のORFは、807塩基対(約0.81kbp)のサイズを有している。
本明細書において、内因性オピオイドペプチド前駆体をコードする遺伝子の発現制御領域(以下、単に「発現制御領域」ともいう)とは、これを宿主細胞に導入した場合、その遺伝子の形質発現に影響を及ぼす領域を意味する。具体的には、プロモーター、エンハンサー領域等が挙げられる。
上記発現制御領域には、当該遺伝子のプロモーター等発現制御領域が確定していれば、その領域のみのDNA断片を用いることが望まれるが、一般に遺伝子制御領域を確定できないことが多い。したがって、当該発現制御領域を導入する系において、内因性オピオイドペプチド前駆体の発現や動態を再現するために、当該発現制御領域を含むできるだけ長いゲノムDNAを用いることが好ましい。これにより、上記発現制御領域の下流に連結した遺伝子(外来遺伝子)の発現を、上記内因性オピオイドペプチド前駆体が元来受けている発現制御と同一の制御様式で制御することができる。
このような領域のDNA(以下、「発現制御領域DNA」ともいう)を取得するには、BAC、YAC等のゲノムライブラリー等から公知の通常用いられる方法により当該遺伝子を有するクローンを選抜し、当該遺伝子のタンパク質コード領域の上流域、イントロンおよび下流域をできるだけ長く利用する。
また、このようなDNAの由来は、宿主細胞内で導入されたDNAが機能できるものであればよく、特に限定されるものではないが、宿主細胞内で機能する可能性が高いことから、上記DNAの由来は、当該DNAを導入する宿主と同種のものが好ましい。
上記DNAの発現制御活性を解析する方法は、特に限定されるものではない。例えば、取得したDNAの翻訳領域(以下、「ORF」ともいう)をルシフェラーゼや緑色蛍光タンパク質(以下、「GFP」ともいう)等のレポーター遺伝子DNAを結合し、これを宿主として用いる細胞、またはこれと類縁の適当な細胞等に導入した後に、当該細胞内で発現しているレポータータンパク質の量を解析することにより確認することができる。
上記発現制御領域DNAについて、マウス由来の上記PPE遺伝子を例として、より具体的に説明すると以下の通りである。
PPE遺伝子は、脳や精巣などの複数の臓器で発現しており、多様な発現制御を受けていると考えられる。PPE遺伝子の発現制御領域について、これまでに、遺伝子近傍のプロモーター領域について解析が行われている(Terao M et al., ENBO J 2, 2223-2228 (1983)、Zinn et al., JBC 266, 23850-23855 (1991)、Donovan et al.,PNAS 89, 2345-2349 (1992)、 O’Hara et al., Mol Reprod Dev 38, 275-284 (1994))を参照)。しかし、PPE遺伝子の遠位に存在するエンハンサー領域等については解析が十分になされていない。よって、特異的なPPE遺伝子の発現にどの程度の長さのDNA配列が必要であるかは、定かではない。このような状況下において、本発明者らは、後述の実施例に示すように、PPE遺伝子の上流約79kbp、コード領域約5kbp、下流約53kbpを含むBACクローン(RP23−365K8)を用いてトランスジェニックマウスを作製した。他の利用可能なBACクローンと比較しても、このクローンはPPE遺伝子の上流および下流の配列を十分に長く含んでいるので、未知の遺伝子発現制御領域があったとしても、特異的なPPE遺伝子の発現が得られる。
すなわち、本発明において用いるBACクローンは、PPE遺伝子コード領域の上流域および下流域、並びにPPE遺伝子コード領域中のイントロン領域の塩基配列を広範囲に含んでいることが好ましい。具体的には、上流および下流ともに50kbp以上を確保し、イントロン領域は出来るだけ元のまま保存して使用することが好ましい。これにより、レポーター遺伝子GFPの発現特異性を内在性PPE遺伝子の発現特異性により近づけることが可能となる。
なお、本明細書中で使用される場合、用語「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「核酸」又は「核酸分子」と交換可能に使用される。「ポリヌクレオチド」はヌクレオチドの重合体を意味する。したがって、本明細書での用語「遺伝子」には、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖及びアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAやRNA(mRNA等)を包含する。アンチセンス鎖は、プローブとして又はアンチセンス薬剤として利用できる。「DNA」には、例えばクローニングや化学合成技術、又はそれらの組み合わせで得られるようなcDNAやゲノムDNA等が含まれる。すなわち、DNAとは、動物のゲノム中に含まれる形態であるイントロンなどの非コード配列を含む「ゲノム」形DNAであってもよいし、また逆転写酵素やポリメラーゼを用いてmRNAを経て得られるcDNA、すなわちイントロンなどの非コード配列を含まない「転写」形DNAであってもよい。
また、本明細書中で使用される場合、用語「遺伝子」には、タンパク質コード領域(すなわち、エクソンとイントロン)と、制御領域とが含まれる。上記制御領域は、タンパク質コード領域の上流にあるもの、タンパク質コード領域の下流にあるもの、およびイントロン中にあるものを全て含有する。
なお、本明細書において、「核酸」なる語には、任意の単純ヌクレオチド及び/又は修飾ヌクレオチドからなるポリヌクレオチド、例えばcDNA、mRNA、全RNA、hnRNA、等が含まれる。「修飾ヌクレオチド」には、イノシン、アセチルシチジン、メチルシチジン、メチルアデノシン、メチルグアノシンを含むリン酸エステルの他、紫外線や化学物質の作用で後天的に発生し得るヌクレオチドも含まれる。
(I−2.蛍光タンパク質およびそれをコードする遺伝子)
上記蛍光タンパク質としては、観察可能な蛍光を発するものであればよく、特に限定されるものではない。具体的には、生体において特に基質等を加えなくても自家発光を呈するものがより好ましい。例えば、緑色蛍光タンパク質(以下、「GFP」ともいう)、およびmonomeric Red Fluorescent Protein(以下、「mRFP」ともいう)を挙げることができる。上記緑色蛍光タンパク質としては、オワンクラゲのGFP等を例示することができる。なお、オワンクラゲのGFPについては、Prasher,D.C.,et al., Gene, 111, 229-233 (1992)を参照されたい。
上記のような蛍光タンパク質をコードする遺伝子(以下、「蛍光タンパク質遺伝子|ともいう)を含むDNA断片の取得方法は、特に限定されるものでない。例えば、PCR等で増幅するなど、従来公知の方法を用いて取得することができる。また、市販のものを用いることもできる。
(I−3.導入遺伝子およびその作製方法)
本発明にかかる導入遺伝子は、内因性オピオイドペプチド前駆体をコードする遺伝子の発現制御領域と蛍光タンパク質遺伝子とが連結された遺伝子(本明細書中では、これを「導入遺伝子」ともいう)であればよく、具体的な構成、およびその作製方法などは特に限定されるものではない。
上記蛍光タンパク質遺伝子は、内因性オピオイドペプチド前駆体遺伝子のORF領域に挿入されていることが好ましい。これにより、上記発現制御と連結した蛍光タンパク質遺伝子の発現を、発現制御領域の固有の遺伝子、すなわち、内因性オピオイドペプチド前駆体遺伝子が元来受けている発現制御と同一の制御様式で制御することができる。
また、導入遺伝子には、蛍光タンパク質遺伝子遺伝子以外に、ネオマイシン耐性(neo)遺伝子やハイグロマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子、あるいは、lacZ(β−ガラクトシダーゼ遺伝子)やcat(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子)等のレポーター遺伝子等が連結されていてもよい。
上記導入遺伝子においては、上述の発現制御領域DNA断片に蛍光タンパク質遺伝子が、当該発現制御領域の制御下におかれるように結合されている。それゆえ、上記導入遺伝子を適当な宿主に導入することにより、当該宿主内で当該発現制御領域の活性化により発現した蛍光タンパク質の存在を生体において観察することができるようなモデル系を作製することができる。
本発明に用いる蛍光タンパク質遺伝子は、上述したように、PCR等で増幅して取得することもできるし、市販のものを用いることもできる。本発明において、蛍光タンパク質遺伝子は上記内因性オピオイドペプチド前駆体遺伝子のORF開始コドン以下に通常の方法を用いて挿入する。このとき、制御領域である可能性を持つイントロンができるだけ含まれるようにすることが好ましい。
また、上記発現制御領域DNAと蛍光タンパク質遺伝子との間には、上記内因性オピオイドペプチド前駆体遺伝子のORFの塩基配列の一部、例えば、内因性オピオイドペプチド前駆体のN末数残基をコードするDNAが挿入されてもよい。この場合、上記ORFの塩基配列の一部と蛍光タンパク質遺伝子とは、お互いの読みとり枠(トリプレットコドン)がずれないように結合する。ここで、固有の遺伝子を含むDNAは、cDNAライブラリー等からPCR等の方法により取得したcDNAでもよいし、ゲノムライブラリー等から取得したゲノムDNAでもよい。
また、上記発現制御領域DNAと蛍光タンパク質遺伝子との間に、上記内因性オピオイドペプチド前駆体遺伝子のORFの塩基配列の一部の配列が全く含まれなくてもよい。具体的には、上記内因性オピオイドペプチド前駆体遺伝子の開始コドンが、上記蛍光タンパク質遺伝子の開始コドンとなるように結合してもよい。
上記蛍光グンパク質遺伝子としては、ターミネーターを含むものを用い、その3’下流側には、poly Aシグナルを付与する配列を連結することが好ましい。
本発明にかかる導入遺伝子の作製方法は、特に限定されるものではなく、例えば、上記内因性オピオイドペプチド前駆体遺伝子のゲノムDNAを適当なゲノムDNAライブラリーから取得し、このDNAの上述したような位置に蛍光タンパク質遺伝子を挿入する方法等が挙げられる。なお、後述の実施例では、図1に示すように、相同組み換えにより、蛍光タンパク質遺伝子を挿入している。
より具体的にいえば、まず、本発明にかかる内因性オピオイドペプチド前駆体遺伝子およびその発現制御領域DNAを含むBACクローンを適当なゲノムDNAライブラリーから取得する。上記BACクローンを取得する方法は、特に限定されるものではない。例えば、従来公知の方法で作製されたBACライブラリー、市販されたBACライブラリーなどから、公知の方法を用いてスクリーニングすることにより取得することができる。また、上記BACクローンとして、市販されているものを用いることもできる。
次に、上記BACクローンを鋳型として、上記発現制御領域と蛍光タンパク質遺伝子とを連結したDNAをPCR等の方法を用いて増幅し、そのDNA断片を得る。そして、従来公知のクローニングベクターなどを用いて、従来公知の方法により、発現制御領域DNA、蛍光タンパク質遺伝子、および上記蛍光タンパク質遺伝子の3’下流に連結する領域のDNAが5’側から順に並んだDNA断片(以下、「導入遺伝子断片」ともいう)を作製する。
上記クローニングベクターとしては、例えば、pCRベクター、pBS(ストラタジーン社製)、pBluescriptII(ストラタジーン社製)、pBR322(TAKARA社製)、pUC18及びpUC19(TAKARA社製)等が挙げられる。また、λフアージ等のバクテリオファージ、モロニー白血病ウイルスなどのレトロウイルス、ワクシニアウイルスまたはアデノウイルスベクター、バキュロウイルス、ウシ乳頭腫ウイルス、へルペスウイルス群のウイルス、またはエプスタイン・バー・ウイルス等の動物ウイルス等が用いられる。
次に、上記のようにして得られた導入遺伝子断片を、上記BAC DNAに相同組換えにより導入するためのシャトルベクターにサブクローニングする。上記シャトルベクターとしては、従来公知のものを用いることができる。例えば、pSV1.RecAベクターや、pLD53.RecAベクター、pLD53.SC−ABベクターを用いることができる。
次に、上記BACをもつコンピテントセルに、上記導入遺伝子断片が挿入されたシャトルベクターを形質転換し、その後、相同組換えによりBACに上記導入遺伝子断片が挿入されたクローンを選抜する。その選抜方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。例えば、抗生物質による選抜や、サザンブロットやPCRのような分子生物学的な手法による選抜を用いることができる。迅速に目的のクローンを選抜する観点から、これらの選抜方法は、組み合わせて用いることが好ましい。
なお、BAC DNAの任意の位置に、特定の遺伝子を挿入する方法の詳細については、後述の実施例、Gong S et al. Genome Res. 12, 1992-1998 (2002)、およびAbe K et al. Exp. Anim. 53(4), 311-320 (2004)を参照されたい。
このようにして得られる改変されたBACでは、内因性オピオイドペプチド前駆体遺伝子の発現制御領域と蛍光タンパク質遺伝子とが連結されている。また、上記蛍光タンパク質遺伝子の配列を除いて、内因性オピオイドペプチド前駆体遺伝子近傍のゲノム配列がそのまま保存されている。したがって、このような改変されたBACを用いて、適当な宿主の形質転換を行うことにより、上記発現制御領域と上記蛍光タンパク質遺伝子とが連結したDNAが挿入されていることを除いて、その他は全く本来のゲノムである形質転換体を得ることができる。それゆえ、本来内因性オピオイドペプチド前駆体がもつ発現様式で蛍光タンパク質を発現するトランスジェニック非ヒト動物を製造することができる。
(I−4.トランスジェニック非ヒト動物の製造方法)
上記のように作製(構築)した導入遺伝子を、ヒト以外の動物生殖細胞にトランスジーン法により導入してトランスジェニック動物細胞を作製し、さらにこれを発生させることによりヒト以外のトランスジェニック動物を作製することができる。
上記「トランスジーン法」とは、当該導入遺伝子を宿主が有するゲノムDNAの不特定の位置に複数コピー挿入する方法である。本発明においては、導入遺伝子としてBACを用いるトランスジーン法を用いることが好ましい。導入遺伝子として用いる上記BACは、特に、目的とする内因性オピオイドペプチド前駆体遺伝子の発現制御領域(ORFコード領域の十分な長さの上流域と下流域、およびイントロン等)を含むゲノムDNAを含有するBACのORF領域に上記蛍光タンパク質遺伝子が挿入されていることが好ましい。上記方法によれば、このようなトランスジェニック非ヒト動物では、本来内因性オピオイドペプチド前駆体がもつ発現様式で蛍光タンパク質が発現するため、上記蛍光タンパク質が発する蛍光を検出することにより、内因性オピオイドペプチド前駆体および内因性オピオイドペプチドが発現、蓄積する細胞組織を同定することができる。また、このようにして得られるトランスジェニック非ヒト動物は、ノックイン動物と違ってホモ動物であっても上記内因性オピオイドペプチド前駆体をコードする遺伝子が破壊されることはなく、また、1つの遺伝子導入部位にタンデムに複数のトランスジーンが挿入されることが起こりうるので、ホモ動物個体の1細胞において2個以上のトランスジーンが働くことになり、上記蛍光タンパク質を強く発現させることができる。なお、本明細書において、「BAC法」とは、BACを用いて導入遺伝子を構築し、当該導入遺伝子をトランスジーン法により宿主細胞に形質転換する方法をいう。
また、上記のような方法で、宿主に上述の導入遺伝子を導入する際、導入効率を向上させるために、導入遺伝子を直鎖状にしてから導入することが好ましい。直鎖状にするための切断箇所は転写、翻訳に必要な領域の外部であればいずれの場所であってよい。例えば、後述の実施例の場合には、図1におけるBAC clone の担体プラスミド(マウスDNAが挿入された元の大腸菌プラスミド)のAscI制限酵素部位で切断して、直鎖化することができる。
上記導入遺伝子を直鎖状にする方法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。例えば、導入遺伝子として、BACを用いる場合、まず、BACをもつ細胞からBAC DNAを従来公知の方法を用いて抽出する。抽出したBAC DNAをλ−ターミナーゼや制限酵素を用いて直鎖化する。このようにして得られる直鎖化したBAC DNAを、パルスフィールド電気泳動(以下、「PFGE」ともいう)により分離後、ゲルからβ−アガラーゼ等を用いて直鎖状のBAC DNAを回収する。これにより直鎖状のBAC DNAを取得することができる。なお、BAC DNAの抽出および直鎖化の方法の詳細については、後述の実施例、およびAbe K et al. Exp. Anim. 53(4), 311-320 (2004)を参照されたい。
本発明において、宿主として用いる細胞は非ヒト細胞であればよく、特に限定されるものではない。例えば、ヒト以外の受精卵を用いることができる。以下に、ヒト以外の受精卵に導入遺伝子を導入する方法をより詳細に説明する。
本発明で用いるヒト以外の受精卵は、これらに上記導入遺伝子を導入して発生・成育させることにより、発現制御領域の活性により蛍光タンパク質遣伝子を発現するヒト以外のトランスジェニック動物を作製できるものであればよく、特に限定されるものではない。
このような受精卵は、ヒト以外の動物の雄と雌を交配させることによって得られる。受精卵は、自然交配によっても得られるが、動物の雌の性周期を人工的に調節した後、雄と交配させる方法が好ましい。
動物の雌の性周期を人工的に調節する方法としては、例えば、初めに卵胞刺激ホルモン(妊馬血清性性腺刺激ホルモン;PMSG)、次いで黄体形成ホルモン(ヒト繊毛性性腺刺激ホルモン;hCG)を投与する方法が挙げられる。上記ホルモンの投与方法は、特に限定されるものではなく、例えば、腹腔注射等により投与する方法が挙げられる。これらのホルモンの投与量、投与間隔等は、当該動物の種類により適宜決定すればよい。上記の通り動物の雌にホルモン投与を行って過剰排卵させ、交配後1日目の卵管から摘出すること等によって受精卵を得ることができる。得られた受精卵は、上記導入遺伝子をマイクロインジェクション法等により注入して、動物の雌の輸卵管に人工的に移植、着床させて出産させることにより、トランスジェニック動物を得ることができる。
また、動物の雌に黄体形成ホルモン放出ホルモン(以下、「LHRH」ともいう)あるいはその類縁体を投与した後に、動物の雄と交配させて、受精能を誘起させた偽妊娠雌動物を作製し、得られた偽妊娠雌動物に受精卵を人工的に移植、着床する方法を用いることもできる。LHRH、又はその類縁体の投与量等は、ヒト以外の動物の種類によりそれぞれ異なる。さらに、上記のヒト以外の動物の雌の性周期を人工的に調節して受精卵を取得する方法と、受精能を誘起させた偽妊娠雌動物にこの受精卵を人工的に移植・着床させる方法とを組み合わせて用いることが好ましい。
上記導入遺伝子が導入されたヒト以外の受精卵を用いて本発明のヒト以外のトランスジェニック動物を作製する方法を、マウス受精卵を用いてトランスジェニックマウスを作製する場合を例に挙げてより具体的に説明する。
まず、採卵用の雌マウスに卵胞刺激ホルモン(妊馬血清性性腺刺激ホルモン;PMSG)及び黄体形成ホルモン(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン;hCG)を投与して過剰排卵させ、雄マウスと交配して、膣栓確認後に卵管から受精卵を採取する。得られた受精卵の雄性前核に前記導入遺伝子をマイクロインジェクション法等により導入して、得られる卵細胞をWhitten'sの培地等で培養した後、偽妊娠させた雌マウスの輸卵管に移植して被移植動物を飼育し、出産させる。生まれた仔マウスから蛍光タンパク質遺伝子を発現した仔マウスを選択することにより、本発明のトランスジェニックマウスを得ることができる。
上記マウスの受精卵としては、例えば、C57BL/6、129/sv、BALB/c、C3H、SJL/Wt等に由来するマウスの交配により得られるものを用いることができる。なかでも、前核段階で細胞質内において雄性前核と雌性前核が独立したときに識別が可能であること、受精卵を多く採取できること、また、マイクロインジェクション操作に好適で産仔の発生率が高いことなどから、C57BL/6(B6)系マウス同士の交配によって得られるマウスの受精卵を用いるのが好ましい。
また、導入遺伝子の量は100〜3,000コピーが適当である。導入遺伝子の導入方法としては、マイクロインジェクション法やエレクトロポレーション法等の通常用いられる方法を挙げることができる。ここで、上記導入遺伝子が導入された仔マウスの選択は、マウスの尾の先を切り取って、高分子DNA抽出法(発生工学実験マニュアル、野村達次監修・勝木元也編、講談社(1987))又はDNAeasy Tissue Kit(QIAGEN社製)等の市販のキットを用いることによりゲノムDNAを抽出し、サザンブロット法やPCR法等の通常用いられる方法により当該DNA中の蛍光タンパク質遺伝子の存在を確認することによって行うことができる。
また、実際にその個体内で導入された蛍光タンパク質遺伝子が発現され、蛍光タンパク質が産生されていることは、ノーザンブロット法やウェスタンブロット法等の通常用いられる方法により確認することができる。また、本発明においては、蛍光の発光量の測定や、蛍光顕微鏡等による観察によっても行うことができる。
本発明にかかるトランスジェニック非ヒト動物は、上述したように、BAC法を用いることにより、好適に製造することができるが、本発明のトランスジェニック非ヒト動物の製造方法は、上記に限定されるものではない。具体的には、ノックイン法によっても製造することができる。上記「ノックイン法」とは、導入遺伝子を、宿主のゲノム中に存在する導入遺伝子に含まれる遺伝子の相同体と入れ替わるように導入する方法のことをいう。
<II.内因性オピオイドペプチド産生ニューロンの可視化方法>
本発明にかかる内因性オピオイドペプチド産生ニューロンの可視化方法は、上述の本発明にかかるトランスジェニック非ヒト動物を用いて、内因性オピオイドペプチド産生ニューロンを可視化する方法であればよく、具体的な構成は特に限定されるものではない。
本発明にかかるトランスジェニック非ヒト動物では、上述の通り、上記蛍光タンパク質は、野生型の当該動物において内因性オピオイドペプチドが発現、蓄積するニューロンでのみ発現する。すなわち、上記蛍光タンパク質が発現している部位が、内因性オピオイドペプチドを産生するニューロンである。一方、上記蛍光タンパク質は、励起光を照射することにより、蛍光を発する。したがって、上記蛍光を検出することにより、内因性オピオイドペプチド産生ニューロンを可視化することができる。
また、上述したように、内因性オピオイドペプチド産生ニューロンは、痛覚抑制作用を有するため、本発明は、痛覚抑制作用をもつニューロンの可視化方法して用いることもできる。
上記内因性オピオイドペプチド産生ニューロンの可視化方法は、具体的には、本発明にかかるトランスジェニック非ヒト動物において、蛍光タンパク質から発せされる蛍光を検出する工程(以下、「蛍光検出工程」ともいう)を含むことが好ましい。
上記蛍光検出工程において、上記蛍光を検出する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の蛍光検出方法を用いることができる。例えば、蛍光顕微鏡下で、上記トランスジェニック非ヒト動物の脳などの組織もしくは組織切片を観察することにより、上記蛍光を検出することができる。また、in vivoで蛍光を観察する方法としては、多光子励起共焦点レーザー顕微鏡を用いて、脳の表面からの蛍光を観察する方法を挙げることができる。また、組織を固定した後では、蛍光タンパク質に対する抗体を用いて免疫組織化学的に可視化することもできる。
<III.本発明のその他の利用>
(III−1.トランスジェニック非ヒト動物を用いたニューロン、およびシナプスの機能解析)
上述のトランスジェニック非ヒ卜動物、あるいは当該動物から得られる神経組織は、そのニューロン、あるいはシナプス中に発現している蛍光タンパク質を指標として、当該ニューロンあるいはシナプスが内因性オピオイドペプチドを産生するニューロンであるか否かを同定することができる。
蛍光タンパク質の発現量は、蛍光量として観察、測定することができる。蛍光量の測定の方法は、蛍光顕微鏡等による可視化やFRET(F1uorescenceResonance Energy Transfer)等による定量化、二光子励起法、あるいはフローサイトメトリー等によることができる。
ニューロンあるいはシナプスの機能の同定方法としては、例えば、発現制御領域およびそのORFとしてPPE遺伝子を用いた場合には、PPEは特定のニューロンまたはシナプスに特異的に存在するものであるので、あるニューロンまたはシナプスにおいて蛍光が観察された場合、当該ニューロンまたはシナプスはPPEを産生するニューロンであると同定することができる。
また、上記の方法によれば、蛍光タンパク質の発現量を定量することも可能である。それゆえ、本発明の動物に由来するある神経組織に対して、電気的、あるいは薬物等の刺激を与え、この刺激により内因性オピオイドペプチドを産生するニューロンまたはシナプス中の蛍光強度の変化を観察することにより、当該刺激に対するニューロンあるいはシナプスの機能的あるいは形態的変化を解析することができる。このような解析によれば、中枢神経系における内因性オピオイドペプチドを産生するニューロンあるいはシナプスに対する刺激や薬物によって誘発される生理薬理効果の作用機構や相互作用等を解明することができる。これらの解析から得られる知見は、神経伝達や薬理作用のメカニズムの解明につながるものである。
また、本発明にかかるトランスジェニック非ヒト動物の脊髄後角、線条体あるいは大脳皮質などからニューロンを分離し、そこからGFPが発現している(GFP由来の蛍光を発している)ニューロンを選び、ホールセルクランプ法を用いて電気的性質・薬理学的性質を検討することが可能である。これによれば、痛覚に抑制的に制御するニューロンの特性を判定することができる。それゆえ、本発明は、痛覚制御を解明するための新たな方法論を開発する手法として用いることができる。
(III−2.神経伝達調節薬のスクリーニング法)
本発明のトランスジェニック非ヒト動物は、内因性オピオイドペプチド産生ニューロンまたはシナプスを生体において可視化することができるので、内因性オピオイドペプチド産生ニューロンあるいはシナプスにおける神経伝達調節薬のスクリーニングを行うことができる。
本発明のスクリーニング方法は、本発明のトランスジェニック非ヒト動物を用いて、当該動物を被検物質で処理し、当該動物におけるニューロン、あるいはシナプスに現れる変化を解析し、これを無処理の対照動物と比較することにより神経伝達調節薬をスクリーニングするものである。上記被検物質としては、例えば、ペプチド、タンパク、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液等が挙げられる。また、これらの物質は新規な物質であってもよいし、公知の物質であってもよい。
当該動物を被検物質で処理する方法としては、例えば、経口投与、静脈注射等の通常用いられる公知の方法が挙げられる。これらは、試験動物の症状、被検物質の性質等に合わせて適宜選択すればよい。また、被検物質の投与量についても、投与方法、被検物質の性質等に合わせて適宜選択することができる。
また、本発明のスクリーニング方法は、本発明のトランスジェニック非ヒト動物から得られる神経組織を用いて行うこともできる。ニューロン、あるいはシナプスに現れる変化としては、蛍光タンパク質の発現量や、シナプスの数の変化を伴う構造的、あるいは形態的な効果等が挙げられる。これらの解析方法としては上記(III−1)で述べた方法を同様に用いることができる。
なお本発明は以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
本発明について、実施例および図1〜図5に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。なお、本実施例において、組織免疫化学的染色は以下のようにして行った。
〔組織免疫化学的染色〕
各抗体の反応液には、PBS-XCD(0.3%(v/v) Triton X-100, 0.25%(w/v) λ-carrageenan, 5%(v/v) Normal donkey serum, and 0.02% (w/v) NaN3in PBS)を用いた。また、各洗浄ステップでは、PBS-X(0.3% (v/v) Triton X-100 and 0.02% (w/v) Sodium ethylmercurithiosalicylate in PBS)を洗浄液として用いた。1次抗体には、0.05または0.1 μg/mlのanti-GFP rabbit抗体を用いた。1次抗体反応は、室温で一晩行った。2次抗体には、100倍希釈したbiotinylated anti-rabbit IgG donkey抗体(Chemicon international)を用いた。2次抗体反応は、室温で2時間行った。それから、PBS-Xで50倍希釈したavidin-biotinylated peroxidase (ABC-Elite, vector)を用いて、室温、1時間反応させた。発色反応は、DAB反応液(0.02% (w/v) diaminobenzidine-4HCl and 0.001% (v/v) H2O2 in 50 mM Tris-HCl (pH 7.6))を用いて、室温で、1時間行った。発色した切片をスライドガラスに貼り付けてxyleneによる脱脂を行い、封入した。
〔実施例1:BAC導入遺伝子の構築〕
(1)組換えカセットが挿入されたシャトルベクターの構築
pCR-Blunt II (TOPO cloning kit, Invitrogen)にPCRで増幅した断片A(以下、「fA」ともいう)及び断片B(以下、「fB」ともいう)、並びにSV40由来のポリA付加シグナルが結合したenhanced GFP(EGFP)をサブクローニングした(図1を参照)。なお、上記断片Aは、プレプロエンケファリン(PPE)の開始コドンから、その583bp上流までのPCR増幅産物である。断片Bは、PPEのexon 1の直後から、その532bp下流までのPCR増幅産物である。断片A及び断片BのPCR増幅には、以下のプライマーを用いた。
fA upper primer:5'-GCCGCTTTACACTTGCCTTC-3' (配列番号1)
fA lower primer:5'-GGGCTGTAGGAGAGAAGAACG-3' (配列番号2)
fB upper primer:5'-ACTAGTGAGTTGAATTTGCGGTGAGG-3' (配列番号3)
fB lower primer:5'-GGATCCCAGTCAAGACAAGGCAAAGG-3' (配列番号4)
次に、シャトルベクターであるpSV1.RecAのHindIIIサイトにそのfA-EGFP pA-fBの組換えカセットをサブクローニングした(図1を参照)。
(2)相同組換えによるBACクローンの修飾
まず、以下の方法により、BACコンピテントセルを作製した。
BACクローンRP23-365K8 (Invitrogen)のグリセロールストックから5 mlのクロラムフェニコールを含むLB培地(1% (w/v) Bacto tryptone, 0.5% Yeast extract, 1% NaCl, 12.5 μg/ml chloramphenicol)に植菌し、37℃で、一晩、振盪培養した。一晩振盪した培養液の500 μlを50 mlの上述のクロラムフェニコールを含むLB培地に移し、37℃で振盪培養した。600nmの吸光度(OD600)の値が0.6に達した後、培養液を10分間氷上に置いた。その後、培養液を50 mlの遠沈チューブ(コーニング社製)に移し、3000 rpm、10分間、4℃で遠心分離した。上清を除去した後、16 mlの冷却したTB培地(10 mM Pipes, 55 mM MnCl2, 15 mM CaCl2, and 250 mM KCl, pH 6.7 with KOH, filtration with 0.45 μm)に菌体を懸濁し、氷上に10分間置いた。その後、上記の条件で、再度、遠心分離を行い、上清を除去した。280 μlのDMSO(終濃度7%)を加えた4 mlのTB培地に菌体を懸濁し、10分間氷上に置いた。それから、保存チューブに500 μlずつ分注してすぐに液体窒素に浸し、その後-80℃で保存した。
上記のようにして得られたBACコンピテントセル200 μlに100 ngのpSV.RecA-fA-EGFPpA-fBを用いて形質転換した。テトラサイクリンおよびクロラムフェニコールを含むLB寒天培地(1%(w/v) Bacto tryptone, 0.5% Yeast extract, 1% NaCl, 1.5% Bacto agar, 10 μg/ml tetracycline, 12.5 μg/ml chloramphenicol)に播種し、30℃で一晩培養した。単一コロニーを1 mlのLB培地に植菌し、ボルテックスを用いて撹拌した。その1 mlの内、100 μlを上述のテトラサイクリンおよびクロラムフェニコールを含むLB寒天培地に播種し、43℃で、一晩培養した。小さいコロニーを除く通常の大きさのコロニーを5 mlのテトラサイクリンおよびクロラムフェニコールを含むLB培地(10 μg/ml tetracycline, 12.5 μg/ml chloramphenicol)に植菌し、この一部をテトラサイクリンおよびクロラムフェニコールを含むLB寒天培地(tet. plus chl. master plate)上で、43℃で、一晩線画培養した。また、残りを43℃で、一晩振盪培養した。QIAprep Spin Miniprep kit (QIAGEN)を用いてDNAを回収した。上記キットを用いて抽出したDNAをHindIIIおよびSpeIで制限酵素消化した。その後、当該DNAを電気泳動により分離後、Hybond-N+ (Amersham Bioscience)にブロットし、southern blot解析を行った。プローブにはAlkPhos Direct (Amersham Bioscience)でラベルしたfAまたはfBを用いた。CDP-star (Amersham Bioscience)を用いて発色反応を行い、Hyperfilm ECL (Amersham Bioscience)を用いて検出した。
次に、1度目の組換えを起こしたクローンの上記tet. plus chl. master plateから単一コロニーを採り、クロラムフェニコール(12.5 μg/ml)を含むLB寒天培地上で、43℃で、一晩線画培養した。その後、単一コロニーを採り、フサル酸およびクロラムフェニコールを含むTB寒天培地(1%(w/v) Bacto tryptone, 0.1% Yeast extract, 0.1% Glucose, 0.8% NaCl, 50 μM ZnCl2, 50.4 μg/ml Chlorotetracycline, 1.5% Bacto agar, After autoclave : 72 mM NaH2PO4, 12 μg/ml Fusaric acid, 12.5 μg/ml Chloramphenicol)上で、37℃で、2〜3日間線画培養した。上記と同様にDNAを回収し、southern blot解析をした。このようにして、図2に示す遺伝子構成のBACクローンを取得した。
〔実施例2:トランスジェニックマウスの製造〕
(1)マイクロインジェクション用のBAC DNAの調製
実施例1で作製したBAC導入遺伝子をもつ菌体を、500 mlのクロラムフェニコール(12.5 μg/ml)を含むLB培地を用いて、30℃で、一晩培養した。その後、得られた菌体から、NucleoBond BAC 100 (MACHEREY-NAGEL)を用いてBAC DNAを回収した。
このようにして得られた溶液状態のBAC DNA 10 μgをAscIで制限酵素消化し、パルスフィールドゲル電気泳動(Palsed field gel electrophoresis、以下「PFGE」ともいう)により分離した。PFGEには、電気泳動用緩衝液として、0.5×TBE buffer (25 mM Tris, 24.25 mM Boric acid, 1 mM EDTA)を用いた。また、ゲルには、1% agarose gel (SeaPlaque GTG Agarose, CAMBREX)を用いた。電気泳動は5.7 V/cmでPPI-200 Programmable Power Inverter (MJ Research, INC)のプログラム5 (Initial reverse time: 0.1 sec, Reverse increment: 0.01 sec, Initial forward time: 0.3 sec, Forward increment: 0.03 sec, Number of steps: 45, Reverse increment increment: 0.01 sec, Forward increment increment: 0.03 sec)を用いた。
PFGE後のゲルから、目的のBAC DNAを含む部分を切り出し、そのゲルの重さの10倍量のYAC buffer(10 mM Tris-HCl (pH 8.0), 0.1 mM EDTA (pH 8.0), 100 mM NaCl, 30 μM spermine, 70 μM spermidine)を加えて、室温で30分間放置した。YAC bufferを交換し、4℃で一晩放置した。その後、YAC bufferを除去し、ゲルを小さく切り刻んだ。70℃で15分間保温した後に、42℃で15分間保温し、ゲル量100μlあたりの酵素活性が4 uになるようにβ-Agarase I (NEW ENGLAND BioLabs)を加え、さらに42 ℃で3時間保温した。その後、室温に15分間放置した後、5000 rpm、5分間、室温で遠心分離を行い、得られた上清を2 mlチューブに回収した。
このようにして回収したBAC DNA溶液をMICROCON YM-100 (MILLIPORE)に移して、3000 rpm、室温でスピンダウンし、下のバイアルに溜まった溶液を廃棄した。その後、YAC bufferによる洗浄を3回繰り返した。次に、フィルターの付いた装置を逆さまにして新しいバイアルに装着し、3000 rpm、3分間、室温で遠心分離を行った。バイアルに溜まった溶液から、上清を回収してマイクロインジェクション用のBAC DNAとした。
(2)BAC DNAの受精卵への注入
BAC DNAの受精卵への注入は鈴木 操氏(熊本大学生命資源研究・支援センター 動物資源開発研究部門 技術開発分野)に依頼し、マイクロインジェクション法により行った。まず、BAC DNA溶液をDNA注入用キャピラリーに吸引し、そのキャピラリーをC57BL/6マウス受精卵の雄性前核まで挿し、DNA溶液を注入した。次に、BAC DNAを注入した受精卵を移植用キャピラリーに吸引し、仮親マウスの切開して露出させた卵管開口部に注入した。最後に、卵管などを腹腔に戻して縫合し、仮親マウスをケージで飼育した。
(3)トランスジェニックマウスのPCR法による選別
上記BAC DNAを受精卵に注入して得られたマウスから、Penk1-GFPトランスジェニックマウス(以下、「Tgマウス」ともいう)を選別するために、挿入遺伝子のEGFPをPCR法によって確認した。なお、PCRには、以下のプライマーを用いた。
EGFP upper primer:5'-ATGGTGAGCAAGGGCGAGGA-3' (配列番号5)
EGFP lower primer:5'-CTTGTACAGCTCGTCCATGC-3' (配列番号6)
その結果、上記BAC DNAを受精卵に注入して得られた37匹のマウスのうち、12匹が(Tgマウス)であった。
さらに、BAC DNAの全長が挿入されている個体をPCRによって選別した。BAC DNAのベクター部分を制限酵素AscIで切断したため、挿入されたBAC DNAの両端にはBAC DNAのベクター部分が残っている。そこで、そのベクター部分を増幅するプライマーを設計してPCRを行った。なお、当該プライマーは以下の通りである。
BAC vector1 upper primer:5'-AAGGAGCTGACTGGGTTGAA-3' (配列番号7)
BAC vector1 lower primer:5'-TCCTCTCCCTATAGTGAGTCGT-3' (配列番号8)
BAC vector2 upper primer:5'-TACAACAGTACTGCGATGAG-3' (配列番号9)
BAC vector2 lower primer:5'-CGAATTTCTGCCATTCATCC-3' (配列番号10)
その結果、7匹のTgマウスにおいて、増幅されたDNAのバンド(BAC DNAの両端のベクター部分)が検出された。このことから、これらの7匹のマウスは、BAC DNAの全長が挿入されていると判断した。
このようにして得られた、BAC DNAの全長が挿入されているTgマウスを親マウス(progenitor mouse)して、F1世代のマウスを製造した。具体的には、上記親マウスとCL57B/6とを交配させ、F1世代のマウスを得た。
(4)F1世代のトランスジェニックマウスの免疫組織化学的手法による選別
EGFPの自家蛍光や免疫組織化学的手法によってF1世代のマウスの選別を行った。8週齢のPenk1GFP Tgマウスを固定液(4% (v/v) Formaldehyde and 75% Saturated picric acid in 0.1 M Na2HPO4, (pH7.4))を用いて潅流固定した。同じ固定液を用いて、4℃で、2時間の後固定を行った。その後、cryoprotective buffer(30% (w/v) Sucrose and 0.02% NaN3 in PBS}に溶液を置換して、4℃で、一晩撹拌振盪した。凍結ミクロトーム(freezing microtome)で30 μmの厚さの前頭面切片を作製した。
このようにして得られた組織切片を用いて、上述した方法に従い、EGFPの自家蛍光観察や免疫組織化学的染色を行い、EGFPを、PPE産生ニューロンで特異的に発現するトランスジェニックマウスを選別し、選別した系統を兄妹交配により維持した。
〔実施例3:トランスジェニックマウスにおけるGFPの発現特異性の検証〕
実施例2で製造したマウスの脳組織を、抗PPE抗体と抗GFP抗体とを用いて蛍光二重染色を行い、EGFPの脳組織における発現特異性を確認した。各抗体の反応液には、PBS-XCD(0.3%(v/v) Triton X-100, 0.25%(w/v) λ-carrageenan, 5%(v/v) Normal donkey serum, and 0.02% (w/v) NaN3 in PBS)を用いた。また、各洗浄ステップでは、PBS-X(0.3% (v/v) Triton X-100 and 0.02% (w/v) Sodium ethylmercurithiosalicylate in PBS)を洗浄液として用いた。1次抗体には、1 μg/mlのanti-EGFP rabbit IgG抗体および2 μg/mlのanti-PPE guinea pig IgG抗体を用いた。
まず、1次抗体反応は、室温で一晩行った。その後、2次抗体反応は、まず、100倍希釈したbiotinylated anti-guinea pig IgG donkey抗体 (Chemicon international)を用いて室温で2時間行った。次に、予め10% Normal goat serumと1時間反応させておいた10 μg/mlのAlexa488-conjugated anti-rabbit goat IgG (Molecular probes)を用いて室温で2時間行った。それから、発色反応は、10 μg/mlのAlexa594-conjugated streptavidin (Molecular probes)を用いて室温で1時間行った。抗体反応を終えた切片をスライドグラス(APS-coated glass, Matsunami)に貼り付け、蛍光観察用封入剤(50% (v/v) Glycerin and 2.5% (w/v) triethylenediamine in Phosphate-buffered saline (PBS))を用いて封入し、共焦点レーザー顕微鏡(LSM Pascal; Zeiss)で観察した。
その結果、図3(b)に示すように、EGFPの発現している部位と、PPEが蓄積する部位が、一致することが分かった。すなわち、実施例2で製造したマウスは、PPE産生ニューロンでGFPを特異的に発現することが明らかとなった。
〔実施例4:PPE産生ニューロンの可視化およびPPE産生ニューロンの機能解析〕
実施例2で製造したトランスジェニックマウスの線条体の切片を作製した。当該切片をスライドグラス(APS-coated glass, Matsunami)に貼り付け、蛍光観察用封入剤(50% (v/v) Glycerin and 2.5% (w/v) triethylenediamine in Phosphate-buffered saline (PBS))を用いて封入し、線条体(CPu)におけるGFPの発現を共焦点レーザー顕微鏡(LSM Pascal; Zeiss)で観察した。その結果、図3(a)に示すように、GFPの蛍光が観察された。
さらに、当該線条体を用いて、PPE抗体を用いて、間接路ニューロンを免疫組織化学的に染色した。その結果、図3(b)に示すように、線条体の出力ニューロンのうち約半数を構成する間接路ニューロンにおいて、GFPの発現が見られた。また、線条体のpatchおよびmatrixのモザイク構造を比較すると、patchでは、GFPを発現するニューロンはほとんど認められなかった。これまでの研究において、patchには、エンケファリン受容体であるmu-opioid receptorが強く発現していることが知られている。すなわち、patchとmatrixとの間には、直接の神経連絡がないと考えられている。したがって、上記図3の結果は、エンケファリンは拡散により移動し、patchに存在するエンケファリン受容体に結合する可能性を示唆するものである。
〔実施例5:PPE産生ニューロンの可視化およびPPE産生ニューロンの機能解析〕
実施例2で製造したトランスジェニックマウスの脊髄後角の切片を作製した。当該切片をスライドグラス(APS-coated glass, Matsunami)に貼り付け、蛍光観察用封入剤(50% (v/v) Glycerin and 2.5% (w/v) triethylenediamine in Phosphate-buffered saline (PBS))を用いて封入し、脊髄後角第2層におけるGFPの発現を共焦点レーザー顕微鏡(LSM Pascal; Zeiss)で観察した。
その結果、図4(a)に示すように、GFPを発現しているニューロンが多数認められた。また、図4(b)では、全てのニューロンを染色した図と、GFPの蛍光図とを重ね合わせた。その結果、GFPを発現しているニューロンは、全ニューロンの一部であることが分かった。すなわち、これは、エンケファリンを産生するニューロンで特異的にGFPが発現していることを示している。
なお、上記脊髄後角は、痛覚の制御部位として知られている。この部位にモルヒネを投与すると、痛覚が効果的に遮断される。この効果は、臨床でも用いられているものである。また、この部位の内的機構として、エンケファリンニューロンとその受容体とが、脊髄後角に存在することは既に証明されている。
〔実施例6:生きた状態のPPE産生ニューロンの可視化〕
実施例2で製造したトランスジェニックマウスの線条体を通る脳切片(0.5mm)を作製した。当該切片をコートされていないスライドグラスにのせ、線条体におけるGFPの発現を蛍光顕微鏡(Axiophoto, Zeiss; BX50, Olympus)で観察した。
その結果、図5に示すように、多数のGFP陽性の生きている線条体ニューロンを観察できた。なお、図5(a)は、蛍光顕微鏡下に20倍の対物レンズで観察された像である。また、図5(b)は、40倍の対物レンズを用いて、図5(a)の矢印で示されたニューロンの動きをビデオ撮影したときの画像の1ショットを示す図である。図5(a)および図5(b)において、矢印で示されるニューロンは、同一のニューロンである。
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
以上のように、本発明では、蛍光タンパク質が内因性オピオイドペプチド産生ニューロンで特異的に発現するトランスジェニック非ヒト動物を得ることができるため、上記蛍光タンパク質が発する蛍光を検出することにより、生きた状態の内因性オピオイドペプチド産生ニューロンを可視化することができる。そのため、内因性オピオイドペプチド産生ニューロンの異常に起因する疾患の治療薬の開発や治療効果の評価といった医薬品分野に利用することができる。さらには、内因性オピオイドペプチド産生ニューロンのモニタリングが必要な医療分野に広く用いることができる。
図1は、本実施例におけるシャトルベクター、BACクローン、および導入遺伝子をもつBACクローンの遺伝子地図を模式的に表す図である。 図2は、本実施例におけるBAC導入遺伝子の構成の要部を示す図である。 図3(a)は、本実施例にかかるトランスジェニックマウスの線条体におけるGFPの発現を示す図である。図3(b)は、線条体におけるGFPの発現部位と、PPEの蓄積部位とを比較する図である。 図4(a)は、本実施例にかかるトランスジェニックマウスの脊髄後角におけるGFPの発現を示す図である。図4(b)は、脊髄後角におけるGFPの発現部位と、PPEの蓄積部位とを比較する図である。 図5は、本実施例にかかるトランスジェニックマウスから摘出し、作製した脳スライス内で、GFPを発現して蛍光を発している生きた状態の線条体ニューロンを示す図である。図5(a)および図5(b)は、それぞれ20倍および40倍の対物レンズを用いて観察したときの図である。

Claims (8)

  1. 蛍光タンパク質が内因性オピオイドペプチド産生ニューロンで特異的に発現することを特徴とするトランスジェニック非ヒト動物。
  2. 内因性オピオイドペプチド前駆体遺伝子のタンパク質コード領域の上流域および下流域と、上記のタンパク質コード領域中のイントロン領域とを十分に含み、当該遺伝子の特異的発現制御能を有するBacterial artificial chromosomeを用いて、内因性オピオイドペプチド前駆体をコードするDNAの一部を、蛍光タンパク質をコードするDNAと置き換えることにより得られる、組み換えBacterial artificial chromosome DNAを遺伝子導入して得られることを特徴とする請求項1に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
  3. 上記内因性オピオイドペプチド前駆体が、プレプロエンケファリンであることを特徴とする請求項2に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
  4. 内因性オピオイドペプチド前駆体をコードする遺伝子の発現制御領域と蛍光タンパク質をコードする遺伝子とが連結されたDNAを含むことを特徴とするBacterial artificial chromosome。
  5. 上記内因性オピオイドペプチド前駆体が、プレプロエンケファリンであることを特徴とする請求項4に記載のBacterial artificial chromosome。
  6. 請求項4または5に記載のBacterial artificial chromosomeを用いることを特徴とするトランスジェニック非ヒト動物の製造方法。
  7. 請求項1〜3のいずれか1項に記載のトランスジェニック非ヒト動物における上記蛍光タンパク質から発せされる蛍光を検出する工程を含むことを特徴とする内因性オピオイドペプチド産生ニューロンの可視化方法。
  8. 生きた状態の内因性オピオイドペプチド産生ニューロンを可視化することを特徴とする請求項7に記載の内因性オピオイドペプチド産生ニューロンの可視化方法。
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