以下、本発明の自動音場補正システムの実施の形態を図面を参照して説明する。図1は、本実施形態の自動音場補正システムを備えたオーディオシステムの構成を示すブロック図、図2ないし図4は、本自動音場補正システムの構成を示すブロック図である。
図1において、本オーディオシステムには、CD(Compact disk)プレーヤやDVD(Digital Video Disk又はDigital Versatile Disk)プレーヤ等の音源1から複数チャンネルの信号伝送路を通じてデジタルオーディオ信号SFL,SFR,SC,SRL,SRR,SWFが供給される信号処理回路2と、ノイズ発生器3が設けられている。
更に、信号処理回路2によりチャンネル毎に信号処理されたデジタル出力DFL,DFR,DC,DRL,DRR,DWFをアナログ信号に変換するD/A変換器4FL,4FR,4C,4RL,4RR,4WFと、これらのD/A変換器から出力される各アナログオーディオ信号を増幅する増幅器5FL,5FR,5C,5RL,5RR,5WFが備えられている。これらの増幅器で増幅した各アナログオーディオ信号SPFL,SPFR,SPC,SPRL,SPRR,SPWFを、図7に示すようなリスニングルーム7等に配置された複数チャンネルのスピーカ6FL,6FR,6C,6RL,6RR,6WFに供給して鳴動させるようになっている。
また、受聴位置RVにおける再生音を集音するマイクロホン8と、マイクロホン8から出力される集音信号SMを増幅する増幅器9と、増幅器9の出力をデジタルの集音データDMに変換して信号処理回路2に供給するA/D変換器10が備えられている。
ここで、本オーディオシステムは、オーディオ周波数帯域のほぼ全域にわたって再生可能な周波数特性を有する全帯域型のスピーカ6FL,6FR,6C,6RL,6RRと所謂重低音だけを再生するための周波数特性を有する低域再生専用のスピーカ6WFとを鳴動させることで、受聴位置RVにおける受聴者に対して臨場感のある音場空間を提供する。
例えば、図7に示すように、受聴者が好みに応じて、受聴位置RVの前方に、左右2チャンネルのフロントスピーカ(前方左側スピーカ、前方右側スピーカ)6FL,6FRとセンタースピーカ6Cを配置し、受聴位置RVの後方に、左右2チャンネルのサラウンドスピーカ(後方左側スピーカ、後方右側スピーカ)6RL,6RRを配置し、更に、任意の位置に低域再生専用のサブウーハ6WFを配置した場合、本オーディオシステムに備えられた自動音場補正システムが、周波数特性と位相特性を補正したアナログオーディオ信号SPFL,SPFR,SPC,SPRL,SPRR,SPWFをこれら6個のスピーカ6FL,6FR,6C,6RL,6RR,6WFに供給して鳴動させることで、臨場感のある音場空間を実現する。
信号処理回路2は、デジタルシグナルプロセッサ(Digital Signal Processor:DSP)等で形成されている。このデジタルシグナルプロセッサ等により、ノイズ発生器3と増幅器9とA/D変換器10と協働して音場補正を行う自動音場補正システムが構成されている。
すなわち、信号処理回路2には、図2に示す各チャンネルの信号伝送路に設けられたほぼ同じ構成の系統回路CQT1,CQT2,CQT3,CQT4,CQT5,CQTkと、図3に示す周波数特性補正部11、チャンネル間レベル補正部12、位相特性補正部13、フラット化補正部14が備えられている。そして自動音場補正システムは、周波数特性補正部11とチャンネル間レベル補正部12と位相特性補正部13及びフラット化補正部14が系統回路CQT1,CQT2,CQT3,CQT4,CQT5,CQTkを制御するように構成されている。尚、以下の説明では、各チャンネルを番号x(1≦x≦k)で示すこととする。
第1番目のチャンネル(x=1)に設けられた系統回路CQT1の構成を代表して説明すると、音源1からのデジタルオーディオ信号SFLの入力をオン/オフ制御するスイッチ素子SW12と、ノイズ発生器3からのノイズ信号DNの入力をオン/オフ制御するスイッチ素子SW11が備えられている。また、スイッチ素子SW11はスイッチ素子SWNを介してノイズ発生器3に接続されている。
ここで、スイッチ素子SW11,SW12,SWNは、後述のマイクロプロセッサで形成されたシステムコントローラMPUによって制御される。オーディオ再生時には、スイッチ素子SW12がオン(導通)、スイッチ素子SW11とSWNがオフ(非導通)となり、音場補正時には、スイッチ素子SW12がオフ、スイッチ素子SW11とSWNがオンとなる。
スイッチ素子SW11,SW12の出力接点には、複数個jの周波数弁別手段としてバンドパスフィルタBPF11〜BPF1jが並列接続され、これらバンドパスフィルタBPF11〜BPF1j全体により、入力される信号を周波数分割する周波数分割手段が構成されている。
尚、BPF11〜BPF1jに付されているサフィックス11〜1jは、第1チャンネル(x=1)における各バンドパスフィルタBPF11〜BPF1jの中心周波数f1〜fjの順番を示している。
各バンドパスフィルタBPF11〜BPF1jの出力接点には、帯域間アッテネータと呼ばれるアッテネータATF11〜ATF1jがそれぞれ接続されている。これにより、帯域間アッテネータATF11〜ATF1jは、各バンドパスフィルタBPF11〜BPF1jの各出力のレベルを調整する伝送路内レベル調整手段となっている。
また、各バンドパスフィルタBPF11〜BPF1jに各帯域間アッテネータATF11〜ATF1jが対応付けて設けられることで、互いに対応するバンドパスフィルタと帯域間アッテネータによって可変利得型周波数弁別手段が構成されている。つまり、BPF11とATF11が第1の可変利得型周波数弁別手段、BPF12とATF12が第2の可変利得型周波数弁別手段、以下同様にして、BPF1jとATF1jが第jの可変利得型可変利得型周波数弁別手段となっている。
また、帯域間アッテネータATF11〜ATF1jの出力接点には加算器ADD1が接続され、加算器ADD1の出力接点には、チャンネル間アッテネータと呼ばれるアッテネータATG1が接続され、チャンネル間アッテネータATG1の出力接点には遅延回路DLY1が接続されている。そして、遅延回路DLY1の出力DFLが、図1中のD/A変換器4FLに供給されるようになっている。
ここで、各バンドパスフィルタBPF11〜BPF1jは、図5の周波数特性図に示すように、それぞれ中心周波数f1,f2〜fi〜fjに設定された狭帯域通型の2次のバターワースフィルタで形成されている。
つまり、低域から中高域にわたって再生可能なスピーカ6FLの全周波数帯域を任意の数jで分割することで予め決められた各周波数f1,f2〜fi〜fjをそれぞれの中心周波数とするバンドパスフィルタBPF11〜BPF1jが設けられている。具体的には、約0.2KHz以下の低域を6個程度に分割すると共に、約0.2KHz以上の中高域を7個程度に分割し、分割したそれぞれの狭周波数範囲の中心の周波数を、バンドパスフィルタBPF11〜BPF1jの中心周波数f1,f2〜fi〜fjとしている。更に、バンドパスフィルタBPF11〜BPF1jの各通過周波数帯域間に隙間が生じることなく且つ各通過周波数帯域間が実質的に重ならないように設定することで、全周波数帯域を漏れなくカバーするようにしている。
また、バンドパスフィルタBPF11〜BPF1jは、システムコントローラMPUの制御下で、互いに排他的に導通/非道通の切替えが可能となっている。また、オーディオ再生時には、バンドパスフィルタBPF11〜BPF1jは全て導通状態となるように切替えられるようになっている。
アッテネータATF11〜ATF1jは、デジタルアッテネータで形成されており、周波数特性補正部11からの調整信号SF11〜SF1jに従って、0dBからマイナス側の範囲で減衰率を変化させる。
加算器ADD1は、バンドパスフィルタBPF11〜BPF1jを通過してアッテネータATF11〜ATF1jで減衰された信号を加算し、その加算した信号をアッテネータATG1に供給する。
チャンネル間アッテネータATG1は、デジタルアッテネータで形成されており、詳細については動作説明で述べるが、チャンネル間レベル補正部12からの調整信号SG1に従って、0dBからマイナス側の範囲で減衰率を変化させる。
遅延回路DLY1は、デジタル遅延回路で形成されており、位相特性補正部13からの調整信号SDL1に従って、その遅延時間を変化させる。
そして、残余のチャンネルx=2〜5の系統回路CQT2,CQT3,CQT4,CQT5も、系統回路CQT1と同様の構成となっている。
つまり、図2中には簡略化して示しているが、第2番目のチャンネル(x=2)の系統回路CQT2には、スイッチ素子SW21,SW22に続いて、上記の中心周波数f1〜fjに設定されたj個のバンドパスフィルタBPF21〜BPF2jと、周波数特性補正部11からの調整信号SF21〜SF2jに従って0dBからマイナス側の範囲で減衰率を変化させる帯域間アッテネータATF21〜ATF2jとによって構成されるj個の可変利得型周波数弁別手段が備えられ、更に、加算器ADD2と、チャンネル間レベル補正部12からの調整信号SG2に従って0dBからマイナス側の範囲で減衰率を変化させるチャンネル間アッテネータATG2と、位相特性補正部13からの調整信号SDL2に従ってその遅延時間を変化させる遅延回路DLY2が備えられている。
第3番目のチャンネル(x=3)の系統回路CQT3には、スイッチ素子SW31,SW32に続いて、上記の中心周波数f1〜fjに設定されたj個のバンドパスフィルタBPF31〜BPF3jと、帯域間アッテネータATF31〜ATF3jとによって構成されるj個の可変利得型周波数弁別手段が備えられ、更に、加算器ADD3、チャンネル間アッテネータATG3、遅延回路DLY3が備えられている。そして、系統回路CQT1と同様に、周波数特性補正部11からの調整信号SF31〜SF3jと、チャンネル間レベル補正部12からの調整信号SG3と、位相特性補正部13からの調整信号SDL3によって、帯域間アッテネータATF31〜ATF3jとチャンネル間アッテネータATG3と遅延回路DLY3がそれぞれ調整される。
第4番目のチャンネル(x=4))の系統回路CQT4には、スイッチ素子SW41,SW42に続いて、上記の中心周波数f1〜fjに設定されたj個のバンドパスフィルタBPF41〜BPF4jと、帯域間アッテネータATF41〜ATF4jとによって構成されるj個の可変利得型周波数弁別手段が備えられ、更に、加算器ADD4、チャンネル間アッテネータATG4、遅延回路DLY4が備えられている。そして、系統回路CQT1と同様に、周波数特性補正部11からの調整信号SF41〜SF4jと、チャンネル間レベル補正部12からの調整信号SG4と、位相特性補正部13からの調整信号SDL4によって、帯域間アッテネータATF41〜ATF4jとチャンネル間アッテネータATG4と遅延回路DLY4がそれぞれ調整される。
第5番目のチャンネル(x=5))の系統回路CQT5には、スイッチ素子SW51,SW52に続いて、上記の中心周波数f1〜fjに設定されたj個のバンドパスフィルタBPF51〜BPF5jと、帯域間アッテネータATF51〜ATF5jとによって構成されるj個の可変利得型周波数弁別手段が備えられ、更に、加算器ADD5、チャンネル間アッテネータATG5、遅延回路DLY5が備えられている。そして、系統回路CQT1と同様に、周波数特性補正部11からの調整信号SF51〜SF5jと、チャンネル間レベル補正部12からの調整信号SG5と、位相特性補正部13からの調整信号SDL5によって、帯域間アッテネータATF51〜ATF5jとチャンネル間アッテネータATG5と遅延回路DLY5がそれぞれ調整される。
ただし、第6番目のサブウーハチャンネル(x=k)の系統回路CQTkは、図5に示した低域周波数(約0.2KHz以下の周波数)だけを周波数分割して通過させるi個(i<j)のバンドパスフィルタBPFk1〜BPFkiと帯域間アッテネータATFk1〜ATFkiが、スイッチ素子SWk1,SWk2に続いて並列接続れ、アッテネータATFk1〜ATFkiの出力を加算器ADDkが加算し、その加算結果の出力をチャンネル間アッテネータATGkと遅延回路DLYkに通し、遅延回路DLYkの出力DWFを図1中のD/A変換器4WFに供給するようになっている。
尚、バンドパスフィルタBPFk1〜BPFkiと帯域間アッテネータATFk1〜ATFkiによって、i個の可変利得型周波数弁別手段が構成されている。
次に、図3において、周波数特性補正部11は、ノイズ発生器3から出力されるノイズ信号(ピンクノイズ)DNによって各スピーカ6FL,6FR,6C,6RL,6RR,6WFを個別に鳴動させたときに得られる各集音データDMを入力し、その集音データDMに基づいて、受聴位置RVにおける各スピーカの再生音のレベルを演算する。そして、それら演算結果に基づいて、調整信号SF11〜SF1j,SF21〜SF2j,〜,SFk1〜SFkiを生成し、帯域間アッテネータATF11〜ATF1j,ATF21〜ATF2j,〜,ATFk1〜ATFkiの減衰率を個々に自動補正する。
この周波数特性補正部11による上記減衰率の補正によって、各チャンネル毎に、系統回路CQT1〜CQTkに備えられているバンドパスフィルタBPF11〜BPFkiの各通過周波数に対するゲイン補正が行われる。
つまり、周波数特性補正部11は、伝送路内レベル調整手段としての帯域間アッテネータATF11〜ATFkiのゲイン補正を行うことで、バンドパスフィルタBPF11〜BPFkiから出力される各信号のレベルを調整し、それによって周波数特性を設定する伝送路内レベル補正手段となっている。
チャンネル間レベル補正部12は、ノイズ発生器3から出力されるノイズ信号(ピンクノイズ)DNによって全帯域型のスピーカ6FL,6FR,6C,6RL,6RRを個別に鳴動させたときに得られる各集音データDMを入力し、その集音データDMに基づいて、受聴位置RVにおける各スピーカの再生音のレベルを演算する。そして、その演算結果に基づいて調整信号SG1〜SG5を生成し、調整信号SG1〜SG5によってチャンネル間アッテネータATG1〜ATG5の減衰率を自動補正する。
このチャンネル間レベル補正部12の減衰率補正により、第1〜第5チャンネルの系統回路CQT1〜CQT5間のレベル調整(利得調整)が行われる。
つまり、チャンネル間レベル補正部12は、チャンネル(信号伝送路)毎に転送されるオーディオ信号のレベルをチャンネル間で補正する伝送路間レベル補正手段となっている。
ただし、チャンネル間レベル補正部12は、サブウーハチャンネルの系統回路CQTkに備えられているチャンネル間アッテネータATGkの減衰率を調整せず、フラット化補正部14がチャンネル間アッテネータATGkの減衰率を調整するようになっている。
位相特性補正部13は、ノイズ発生器3から出力されるノイズ信号(無相関ノイズ)DNを各チャンネルの系統回路CQT1〜CQTkに供給することで各スピーカ6FL,6FR,6C,6RL,6RR,6WFを個別に鳴動させたときに得られるそれぞれの集音データDMに基づいて各チャンネルの位相特性を測定し、その測定結果に基づいて音場空間の位相特性を補正する。
より具体的には、ノイズ信号DNによって各チャンネルのスピーカ6FL,6FR,6C,6RL,6RR,6WFを周期Tの期間ずつ鳴動させ、それによって生じる各チャンネルの集音データDM1,DM2,DM3,DM4,DM5,DMkを相互相関演算する。ここで、集音データDM2とDM1の相互相関、集音データDM3とDM1の相互相関、以下同様にして、集音データDMkとDM1の相互相関を演算し、それぞれの相関値のピーク間隔(位相差)を、各系統回路CQT2〜CQTkにおける遅延時間τ2〜τkとする。つまり、系統回路CQT1から得られる集音データDM1の位相を基準(すなわち、位相差0、τ1=0)として、残余の系統回路CQT2〜CQTkの遅延時間τ2〜τkを求めている。これらの遅延時間τ1〜τkの計測結果に基づいて調整信号SDL1〜SDLkを生成し、これらの調整信号SDL1〜SDLkによって遅延回路DLY1〜DLYkの各遅延時間を自動調整することによって、音場空間の位相特性を補正する。尚、本実施形態では、位相特性を補正するのに無相関ノイズを用いるが、ピンクノイズを用いてもよいし他のノイズ信号を用いてもよい。
フラット化補正部14は、周波数特性補正部11とチャンネル間レベル補正部12と位相特性補正部13による調整が終了した後、チャンネル間レベル補正部12では調整されない系統回路CQTk中のチャンネル間アッテネータATGkの減衰率を調整する。
すなわち、フラット化補正部14は、図4に示すように、中高域処理部15a、低域処理部15b、サブウーハ低域処理部15c、演算部15dを備えて構成されている。
中高域処理部15aは、系統回路CQT1〜CQT5に備えられている低域のバンドパスフィルタBPF11〜BPF1i,BPF21〜BPF2i,BPF31〜BPF3i,BPF41〜BPF4i,BPF51〜BPF5iを非導通、残りの中高域のバンドパスフィルタを導通にした状態で、ノイズ発生器3から出力されるノイズ信号(無相関ノイズ)DNに基づいて全帯域型のスピーカ6FL,6FR,6C,6RL,6RRを同時に鳴動させたときに得られる集音データDM(以下、中高域集音データDMHという)から、中高域の再生音のスペクトル平均レベルPMHを計測する。
低域処理部15bは、系統回路CQT1〜CQT5に備えられている低域のバンドパスフィルタBPF11〜BPF1i,BPF21〜BPF2i,BPF31〜BPF3i,BPF41〜BPF4i,BPF51〜BPF5iを導通、残りの中高域のバンドパスフィルタを非導通にした状態で、ノイズ発生器3から出力されるノイズ信号(無相関ノイズ)DNに基づいて全帯域型のスピーカ6FL,6FR,6C,6RL,6RRを同時に鳴動させたときに得られる集音データDM(以下、低域集音データDLという)から、低域の再生音のスペクトル平均レベルPLを計測する。
サブウーハ低域処理部15cは、サブウーハチャンネルの系統回路CQTkに備えられているバンドパスフィルタBPFk1〜BPFkiを全て導通状態にして、ノイズ発生器3から出力されるノイズ信号(ピンクノイズ)DNに基づいて低域再生専用のスピーカ6WFを鳴動させたときに得られる集音データDM(以下、サブウーハ集音データDWFLという)から、スピーカ6WFのみで再生された低音のスペクトル平均レベルPWFLを計測する。
演算部15dは、上記の中高域のスペクトル平均レベルPMHと低域のスペクトル平均レベルPL,PWFLに基づいて、後述の動作説明で詳述する所定の演算処理を行うことで、全てのスピーカ6FL,6FR,6C,6RL,6RR,6WFを同時に鳴動させた際に、受聴位置RVにおける再生音の周波数特性を全オーディオ周波数帯域にわたってフラットにするための調整信号SGkを生成する。
つまり、図6の周波数特性図に示すように、全帯域型のスピーカ6FL,6FR,6C,6RL,6RRは、中高域だけでなく低域周波数の再生能力を有しているため、これらのスピーカ6FL,6FR,6C,6RL,6RRと低域専用のスピーカ6WFを鳴動させた場合に、例えばスピーカ6FL,6FR,6C,6RL,6RRによって再生される低域音とスピーカ6WFによって再生される低域音とのスペクトル平均レベルが、中高域の再生音のスペクトル平均レベルより高くなる場合があり、耳障りになったり不快感を与えるという問題を生じる。そこで、演算部15dは、上記低域音のスペクトル平均レベルと中高域のスペクトル平均レベルをフラットにするように、調整信号SGkによってチャンネル間アッテネータATGkの減衰率を調整する。
したがって、フラット化補正部14は、チャンネル間レベル補正部12と共にチャンネル(信号伝送路)毎に転送されるオーディオ信号のレベルをチャンネル間で補正する伝送路間レベル補正手段となっている。
尚、自動音場補正システムの構成を説明したが、より詳細な機能については、動作説明において詳述することとする。
次に、かかる構成を有する自動音場補正システムの動作を図8〜図12に示すフローチャートを参照して説明する。
受聴者が、例えば図7に示したように複数のスピーカ6FL〜6WFをリスニングルーム7等に配置して本オーディオシステムに接続した後、本オーディオシステムに備えられているリモートコントローラ(図示省略)等を操作して音場補正開始の指示をすると、システムコントローラMPUがこの指示に従って、自動音場補正システムを動作させる。
まず、図8を参照して自動音場補正システムの動作の概要を説明する。ステップS10の周波数特性補正処理では、周波数特性補正部11により、系統回路CQT1,CQT2,CQT3,CQT4,CQT5,CQTkに設けられている全ての帯域間アッテネータATF11〜ATFkjの減衰率を調節するための処理が行われる。
次のステップS20のチャンネル間レベル補正処理では、チャンネル間レベル補正部12により、系統回路CQT1,CQT2,CQT3,CQT4,CQT5に設けられているチャンネル間アッテネータATG1〜ATG5の減衰率を調節するための処理が行われる。すなわち、ステップS20では、サブウーハチャンネルの系統回路CQTkに設けられているチャンネル間アッテネータATGkの調整は行われない。
次のステップS30の位相特性補正処理では、位相特性補正部13により、系統回路CQT1,CQT2,CQT3,CQT4,CQT5,CQTkに設けられている全ての遅延回路DLY1〜DLYkの遅延時間を調整するための処理が行われる。すなわち、全てのスピーカ6FL〜6WFで再生される再生音の位相特性を補正するための処理が行われる。
次のステップS40のフラット化補正処理では、フラット化補正部14により、受聴位置RVにおける再生音の周波数特性をオーディオ周波数帯域全体においてフラットにするための処理が行われる。
このように、本自動音場補正システムは、4段階に大別された補正処理を順に行うことで、音場補正を行うようになっている。
次に、ステップS10〜S40の各処理を順を追って説明する。まず、ステップS10の周波数特性補正処理を詳述する。ステップS10の処理は図9に示す詳細なフローに従って行われる。
ステップS100において、初期化処理が行われ、図2に示す系統回路CQT1,CQT2,CQT3,CQT4,CQT5,CQTkの全ての帯域間アッテネータATF11〜ATFkiとチャンネル間アッテネータATG1〜ATGkの減衰率を0dBに設定する。また、全ての遅延回路DLY1〜DLYkの遅延時間を0にすると共に、図1に示した増幅器5FL〜5WFの増幅率を等しくする。
更に、スイッチ素子SW12,SW22,SW32,SW42,SW52,SWk2をオフ(非導通)にすることで、音源1からの入力を遮断すると共に、スイッチ素子SWNをオン(導通)にする。これにより、ノイズ発生器3で生成されるノイズ信号(ピンクノイズ)DNが各系統回路CQT1,CQT2,CQT3,CQT4,CQT5,CQTkに供給される状態に設定する。
次にステップS102に移行し、システムコントローラMPUに内蔵されているフラグレジスタ(図示省略)にn=0のフラグデータをセットする。
次に、ステップS104において音場特性測定処理が行われる。このステップS104では、スイッチ素子SW11,SW21,SW32,SW41,SW51,SWk1を所定周期Tの期間ずつ排他的にオンさせることで、系統回路CQT1〜CQTkに順番にノイズ信号DNを供給し、更にノイズ信号DNが供給されている系統回路のバンドパスフィルタを低域側から中高域側に順番に且つ排他的に導通させる。
これにより、系統回路CQT1のバンドパスフィルタBPF11〜BPF1jで周波数分割されたノイズ信号DNが順次にスピーカ6FLに供給され、それによって聴取位置RVに生じる周波数分割されたノイズ音をマイクロホン8が集音すると共に、D/A変換器10が周波数特性補正部11にそれらの集音データDM(以下、DM11〜DM1jとする)を供給し、更に、周波数特性補正部11が、これらの集音データDM11〜DM1jを所定の記憶部(図示省略)に記憶する。
また、同様に残りの系統回路CQT2〜CQTkを介して周波数分割されたノイズ信号DNがスピーカ6FR〜6WFに供給され、それによって生じるチャンネル毎の集音データDM(以下、DM21〜DM2j,DM31〜DM3j,DM41〜DM4j,DM51〜DM5j,DMk1〜DMkiとする)を所定の記憶部(図示省略)に記憶する。
こうして、音場特性測定処理が行われることで、周波数特性補正部11には、次式(1)の行列で表される集音データ[DAxJ]が記憶される。尚、[DAxJ]中のサフィックスxはチャンネル番号(1≦x≦k)、サフィックスJは中心周波数f1〜fjの低域から中高域への順番(1≦J≦j)を示している。
更に、ステップS104では、チャンネル毎に集音データ[DAxJ]と所定の閾値THDCHとを比較し、その比較結果に基づいて各チャンネルのスピーカの6FL〜6WFのサイズを判定する。つまり、スピーカによる再生音の音圧はスピーカサイズに応じて変わるので、ここで、各チャンネルのスピーカの大きさを判定する。
具体的な判定手段としては、上記式(1)中の第1チャンネルの集音データDM11〜DM1jの平均値と閾値THDCHと比較する。その平均値が閾値THDCHより小さい場合には、スピーカ6FLを小さいスピーカと判定し、その平均値が閾値THDCHより大きい場合には、スピーカ6FLを大きいスピーカと判定する。また、残余のスピーカ6FR,6FR,6C,6RL,6RR,6WFについても同様に判定する。
そして、小さいと判定したスピーカが接続されているチャンネルについては、次の述べるステップS106〜S124の処理を行わず、大きいと判定したスピーカが接続されているチャンネルについてだけ、ステップS106〜S124の処理を行う。
尚、説明を分かりやすくするため、スピーカ6FL,6FR,6FR,6C,6RL,6RR,6WFが全て大きなスピーカであったものとして、ステップS106〜S124の処理を説明することとする。
次に、ステップS106において、受聴者が本オーディオシステムに予め設定したターゲットカーブデータ[TGxJ]を周波数特性補正部11にセットする。ここで、ターゲットカーブとは、受聴者が嗜好する再生音の周波数特性を言い、本オーディオシステムには、クラシック音楽に適した周波数特性の再生音を生成するためのターゲットカーブの他、ロック音楽やポップス、ボーカル等に適した周波数特性の再生音を生成するための各種ターゲットカーブデータ[TGxJ]がシステムコントローラMPUに記憶されている。また、これらターゲットカーブデータ[TGxJ]は次式(2)の行列で示すように、帯域間アッテネータATF11〜ATFkiと同数のデータの集合で構成され、チャンネル毎に独立して選択できるようになっている。
そして、受聴者がリモートコントローラの所定操作釦を操作すると、これらのターゲットカーブを任意に選択でき、システムコントローラMPUが、選択されたターゲットカーブデータ[TGxJ]を周波数特性補正部11にセットする。
但し、受聴者がターゲットカーブを選択せずに音場補正を指示した場合には、全てのデータTG11〜TGkiは予め決められた値、例えば1に設定される。
次に、ステップS108において、周波数特性補正部11が、第1チャンネルの番号(x=1)と最初の中心周波数の順番(J=1)を設定した後、ステップS110〜S114の処理を繰り返すことで、帯域間アッテネータATF11〜ATF1jを調整するための調整値F0(1,1)〜F0(1,j)を演算する。
すなわち、フラグデータnを0、チャンネルを表す変数xを1とし、ステップS112及びS114において変数Jを1ないしjで変化させつつ、上記式(1)(2)に示した集音データ[DAxJ]中の第1行目のデータDM11〜DM1jとターゲットカーブデータ[TGAxJ]中の第1行目のデータTG11〜TG1jを次式(3)に適用することで、第1チャンネルに該当する帯域間アッテネータATF11〜ATF1jの調整値F0(1,1)〜F0(1,j)を演算する。ただし、式(3)で演算した値TGxJ/DMxJが予め定められた閾値THDより小さな値の演算誤差となったときは、その値TGxJ/DMxJを強制的に0にして、調整精度の向上を図ることにしている。
次に、ステップS112において、第1チャンネルの帯域間アッテネータATF11〜ATF1jの調整値F0(1,1)〜F0(1,j)を全て演算したと判断すると、ステップS116に移行し、第2〜第6チャンネル(x=2〜k)までの全ての帯域間アッテネータの調整値を演算したか判断する。未だであれば、ステップS118において、変数xを1インクリメントし且つ変数jを1に設定して、ステップS110からの処理を繰り返す。そして、全ての帯域間アッテネータの調整値を演算し終えると、ステップS120に移行する。
これにより、次式(4)の行列で表される全ての帯域間アッテネータATF11〜ATF1jの調整値[F0xJ]が求まる。
次に、ステップS120では、次式(5)の行列で表される演算を行うことで調整値[F0xJ]を正規化し、得られた正規化調整値[FN0xJ]を新たなターゲットカーブデータ[TGxJ]=[FN0xJ]とする。即ち、上記式(2)のターゲットカーブデータ[TGxJ]を正規化調整値[FN0xJ]で置換する。
尚、式(5)中のサフィックスmaxが付された値F01max〜F0kmaxは、フラグデータnがn=1のときの各チャンネルx=1〜kにおける調整値の最大値である。
次に、ステップS122において、フラグデータnが1か否かを判断し、否(NO)であればステップS124においてフラグデータnを1に設定した後、ステップS104からの処理を繰り返す。
こうしてステップS104からの処理を繰り返し、ステップS122においてフラグデータnが1であると判断するとステップS126に移行する。ここで、ステップS104からの処理が繰り返えされると、フラグデータをn=1として、上記式(1)〜(5)の演算が再度行われることとなり、上記式(5)に対応する次式(6)の正規化調整値[FN1xJ]が求まる。
次に、ステップS126において、正規化調整値[FN0xJ]と[FN1xJ]の各行列の値同士を掛け算することにより、式(7)に示す系統回路CQT1〜CQTkの全ての帯域間アッテネータATF11〜ATF1j,〜,ATFk1〜ATFkiの減衰率を調整するための調整データ[SFxJ]を求める。
つまり、式(5)(6)に示した正規化調整値[FN0xJ]と[FN1xJ]の第1行第1列目の値F0(1,1)/F01maxとF1(1,1)/F11maxを掛け算することによって、式(7)の行列の第1行第1列目の値SF11を求め、第2行第1列目の値F0(2,1)/F02maxとF1(2,1)/F12maxを掛け算することによって、式(7)の第2行第1列目の値SF21を求め、以下同様の演算を行うことによって、式(7)の行列で表される減衰率調整用の調整データ[SFxJ]を求める。
そして、調整データ[SFxJ]に基づく各調整信号SF11〜SF1j,〜,SFk1〜SFkiによって帯域間アッテネータATF11〜ATF1j,〜,ATFk1〜ATFkiの減衰率を調整した後、図8のステップS20へ移行する。
また、前述したステップS104の音場特性測定の処理において、小さなスピーカが接続されているチャンネルを判定した場合には、そのチャンネルに設けられている帯域間アッテネータの減衰率を0dBに調整し、大きなスピーカが接続されているチャンネルの帯域間アッテネータの減衰率は調整データ[SFxJ]に基づいて調整する。
尚、ステップS104において、全チャンネルのスピーカ6FL,6FR,6FR,6C,6RL,6RR,6WFが全て小さいスピーカであると判定した場合には、ステップS106〜S124の処理を行わずに、ステップS104からステップS126の処理に直接移行し、ステップS126において、全チャンネルの帯域間アッテネータの減衰率を0dBに調整するようになっている。
このように、周波数特性補正部11によって帯域間アッテネータATF11〜ATFkiの減衰率を調整することで各チャンネル毎の周波数特性を補正し、音場空間の周波数特性を適正化する。
また、ステップS104の音場特性測定処理において、ピンクノイズによって各スピーカ6FL,6FR,6C,6RL,6RR,6WFを時分割して鳴動させるので、実際のオーディオ信号に基づいて音場空間を生じさせるときとほぼ同じ条件の下で各スピーカの周波数特性と再生能力(出力パワー)を検出することができる。このため、各スピーカの周波数特性と再生能力を考慮して周波数特性の総合的な補正が可能となっている。
次に、ステップS20のチャンネル間レベル補正処理は、図10に示すフローに従って行われる。
まず、ステップS200の初期化処理が行われ、スイッチ素子SW11〜SW52を切り替えてノイズ発生器3からのノイズ信号DNの入力可能状態にする。ただし、サブウーハチャンネルのスイッチ素子SWk1,SWk2はオフにしておく。また、チャンネル間アッテネータATG1〜ATGkの減衰率を0dBに設定する。更に、全ての遅延回路DLY1〜DLY5の遅延時間を0に設定する。更に又、図1に示した増幅器5FL〜5WFの増幅率を等しくする。
更に、帯域間アッネータATF11〜ATF1j,ATF21〜ATF2j,〜,ATFk1〜ATFkiの減衰率を、上記周波数特性補正処理で調整したままの固定状態にする。
次に、ステップS202において、チャンネル番号を表す変数xを1に設定した後、ステップS204の音場特性測定処理を行い、更に、第1〜第5チャンネル分の音場特性測定が終了するまで、ステップS204〜S208の処理を繰り返す。
ここでは、バンドパスフィルタBPF11〜BPF1j,〜,BPF51〜BPF5jを常にオン(導通)状態に固定したままで、スイッチ素子SW11,SW21,SW31,SW41,SW51を所定周期Tずつ排他的にオンさせ、系統回路CQT1〜CQT5に順番にノイズ信号(ピンクノイズ)DNを供給する(ステップS206,S208)。
この繰り返し処理により、各スピーカ6FL,6FR,6C,6RL,6RRで再生される各再生音をマイクロフォン8が集音し、それによって得られる第1〜第5チャンネル毎の集音データDM(=DM1〜DM5)をチャンネル間レベル調整部13内のメモリ部(図示省略)に記憶する。即ち、次式(8)の行列で表される集音データ[DBx]を記憶する。
次に、第1〜第5チャンネルの音場特性を測定し終えると、ステップS210に移行し、集音データDM1〜DM5の中から最小値の集音データを1つ抽出し、その抽出したデータをチャンネル間レベル調整用のターゲットデータTGCHとする。
次に、ステップS212において、上記式(8)の行列をチャンネル間レベル調整用のターゲットデータTGCHで正規化演算することで、次式(9)に示す各チャンネル間アッテネータATG1〜ATG5の減衰率調整値[SGx]を求めた後、ステップS214において、減衰率調整値[SGx]に基づく調整信号SG1〜SG5によってチャンネル間アッテネータATG1〜ATG5の減衰率を調整する。
以上の処理によって、サブウーハチャンネルを除く、全帯域型のスピーカが接続される第1〜第5チャンネル間だけのレベル調整が完了し、これに続いて図8のステップS30に移行する。
このように、チャンネル間レベル補正部12によってチャンネル間アッテネータATG1〜ATGkの減衰率を補正することで各チャンネル毎のレベル特性を適正化して、受聴位置RVにおける各スピーカの再生音のレベルを適正化する。
また、ステップS204の音場特性測定処理において、各スピーカ6FL,6FR,6C,6RL,6RRを時分割して鳴動させ、それによって生じる再生音を集音するので、各スピーカの再生能力(出力パワー)を検出することができる。このため、各スピーカの再生能力も考慮した総合的な適正化が可能となっている。
次に、ステップS30の位相特性補正処理が、図11に示すフローに従って行われる。
まず、ステップS300の初期化処理が行われ、スイッチ素子SW11〜SWk2を切り替えて、ノイズ発生器3から出力されるノイズ信号(無相関ノイズ)DNを入力可能状態にする。また、帯域間アッテネータATF11〜ATFkiとチャンネル間アッテネータATG1〜ATGkを既に調整された減衰率のままに固定すると共に、遅延回路DLY1〜DLYkの遅延時間を0に設定する。更に又、図1に示した増幅器5FL〜5WFの増幅率を等しくする。
次に、ステップS302において、チャンネル番号を表す変数xを1、変数AVGを0に設定した後、ステップS304の遅延時間を測定するための音場特性測定処理を行い、更に、第1〜第kチャンネル分の音場特性測定が終了するまで、ステップS304〜S308の処理を繰り返す。
ここでは、スイッチ素子SW11,SW21,SW31,SW41,SWk1を所定周期Tずつ排他的にオンさせ、系統回路CQT1〜CQTkに、周期Tの期間ずつノイズ信号(無相関ノイズ)DNを供給する。
この繰り返し処理により、連続したノイズ信号DNが各スピーカ6FL,6FR,6C,6RL,6RR,6WFに周期Tの期間ずつ供給され、各周期Tの期間ずつ再生されるノイズ信号DNの各再生音をマクロロフォン8が集音する。更に、A/D変換器10から周期Tずつ出力される各集音データDM(以下、DM1,DM2,DM3,DM4,DM5,DMkで表すこととする)を位相特性補正部13が入力する。尚、周期Tの期間ずつA/D変換器10によって高速サンプリングが行われるため、これらの集音データDM1,DM2,DM3,DM4,DM5,DMkは、それぞれ複数のサンプリングデータとなる。
この測定が終わると、次にステップS310に移行し、各チャンネルの位相特性を演算する。ここでは、集音データDM2とDM1を相互相関演算し、それによって得られる相関値のピーク間隔(位相差)を、系統回路CQT2における遅延時間τ2とする。また、残余の集音データDM3〜DMkについてもそれぞれ集音データDM1との相互相関を演算し、それによって得られるそれぞれの相関値のピーク間隔(位相差)を、系統回路CQT3〜CQTkにおける遅延時間τ3〜τkとする。つまり、系統回路CQT1から得られる集音データDM1の位相を基準(すなわち、位相差0)として、残余の系統回路CQT2〜CQTkの遅延時間τ2〜τkを演算する。
次に、ステップS312に移行して変数AVGを1加算した後、ステップS314において変数AVGが所定値AVRAGEになったか否か判断し、未だであればステップS304からの処理を繰り返す。
ここで、所定値AVRAGEは、ステップS304〜S312の繰り返し処理回数を示す定数であり、本実施形態ではAVRAGE=4に設定されている。
こうして4回の測定処理を繰り返すことで、各系統回路CQT1〜CQTkの遅延時間τ1〜τkをそれぞれ4個ずつ求め、次にステップS316において、4個ずつの遅延時間τ1〜τkのそれぞれの平均値τ1’〜τk’を求め、これらの平均値τ1’〜τk’を各系統回路CQT1〜CQTkの遅延時間とする。遅延時間SDL1〜SDLkとする。
次に、ステップS318において、遅延時間τ1’〜τk’に対応する調整信号SDL1〜SDLkに基づいて各遅延回路DLY1〜DLYkの遅延時間を調整して、位相特性補正処理を完了する。
このように、位相特性補正処理では、系統回路CQT1〜CQTkを通じて、遅延時間を測定するためのノイズ信号を各スピーカに供給して鳴動させ、それによって生じる再生音の集音結果から位相特性を求めるので、単に再生音の伝搬遅延時間のみから遅延回路DLY1〜DLYkの遅延時間を調整(補正)するのではなく、各スピーカの再生能力と系統回路CQT1〜CQTkの特性も考慮した総合的な適正化が可能となっている。
次に、位相特性補正処理を完了すると、図2中のステップS40のフラット化補正処理に移行する。ステップS40の処理は、図12に示すフローに従って行われる。まず、ステップS400において、スイッチ素子SW11〜SWk1を切り替えてノイズ発生器3から出力されるノイズ信号(無相関ノイズ)DNを入力可能状態にする。また、増幅器5FL〜5WFの増幅率を等しくする。
次に、ステップS402において、帯域間アッテネータATF11〜ATFkiと、チャンネル間アッテネータATG1〜ATG5と、遅延回路DLY1〜DLYkは既に調整されたままの状態に固定する。但し、ステップS404において、系統回路CQTk内のチャンネル間アッテネータATGkの減衰率を0dBに設定する。
次に、ステップS406において、系統回路CQTkを除き、系統回路CQT1〜CQT5にノイズ信号(無相関ノイズ)DNを同時に供給する。ここで、系統回路CQT1〜CQT5中の帯域間アッテネータATF11〜ATF1j,〜,ATF51〜ATF5jのうち、低域に係わる帯域間アッテネータATF11〜ATF1i,〜,ATF51〜ATF5iはオフ(非導通)状態にして、上記ノイズ信号DNを供給する。
これにより、中高域のノイズ信号DNによって全帯域型のスピーカ6FL,6FR,6C,6RL,6RRを同時に鳴動させ、それによって得られる中高域集音データDMH(図4参照)を中高域処理部15aが入力し、更に、この中高域集音データDMHに基づいて、スピーカ6FL,6FR,6C,6RL,6RRによる中高域の再生音のスペクトル平均レベルPMHを演算する。
次に、ステップS408において、系統回路CQTkを除き、系統回路CQT1〜CQT5にノイズ信号(無相関ノイズ)DNを同時に供給する。ここで、系統回路CQT1〜CQT5中の帯域間アッテネータATF11〜ATF1j,〜,ATF51〜ATF5jのうち、低域に係わる帯域間アッテネータATF11〜ATF1i,〜,ATF51〜ATF5iはオン(導通)状態にし、残りの帯域間アッテネータはオフ(非導通)の状態に設定して、上記ノイズ信号DNを供給する。
これにより、低域のノイズ信号DNによって全帯域型のスピーカ6FL,6FR,6C,6RL,6RRを同時に鳴動させ、それによって得られる低域集音データDL(図4参照)を低域処理部15bが入力し、更に、この低域集音データDLに基づいて、スピーカ6FL,6FR,6C,6RL,6RRによる低域の再生音のスペクトル平均レベルPLを演算する。
次に、ステップS410において、系統回路CQTkだけにノイズ信号(ピンクノイズ)DNを供給する。ここで、ATF11〜ATF1j,〜,ATF51〜ATF5jのうち、低域に係わる帯域間アッテネータATF11〜ATF1i,〜,ATF51〜ATF5iはオン(導通)状態にし、残りの帯域間アッテネータはオフ(非導通)の状態に設定して、上記ノイズ信号DNを供給する。
これにより、ノイズ信号DNによって低域再生専用のスピーカ6WFのみを鳴動させ、それによって得られるサブウーハ集音データDWFL(図4参照)をサブウーハ低域処理部15cが入力し、更に、このサブウーハ集音データDWFLに基づいて、スピーカ6WFによる低域の再生音のスペクトル平均レベルPWFLを演算する。
次に、ステップS412において、演算部14が、次式(10)で表される演算を行うことで、系統回路CQTkのチャンネル間アッテネータATGkの減衰率を調整するための調整信号SGkを求める。
すなわち、上記式10の演算を行うことにより、全てのスピーカ6FL,6FR,6C,6RL,6RR,6WFでオーディオ再生を行った場合に、音場空間における再生音の周波数特性をフラットにするための調整信号SGkを求める。
より詳細に述べれば、全帯域型スピーカ6FL,6FR,6C,6RL,6RRで同時再生される再生音のうちの低域の再生音のレベルと低域専用のサブウーハ6WFで再生される再生音のレベルとの和と、全帯域型スピーカ6FL,6FR,6C,6RL,6RRで同時再生される再生音のうちの中高域の再生音のレベルをターゲット特性(ターゲットカーブデータで表される特性)の比に等しくなるように、チャンネル間アッテネータATGkの減衰率を調整するための調整信号SGkを求めている。
尚、上記式(10)の係数TGMHは、上記式(2)に示したターゲットカーブデータ[TGxJ]の中から受聴者が選択したターゲットカーブデータ又は受聴者が選択しなかった場合のデフォルトのターゲットカーブデータのうち、中高域に該当するターゲットカーブデータの平均値である。また、係数TGLは、低域に該当するターゲットカーブデータの平均値である。
次に、ステップS414において、調整信号SGkによりチャンネル間アッテネータATGkの減衰率を調整して、自動音場補正処理を完了する。
このように、フラット化補正部14によって最終的にチャンネル間のレベル補正を行うと、全てのスピーカ6FL,6FR,6C,6RL,6RR,6WFでオーディオ再生を行った場合に、音場空間における再生音の周波数特性を全オーディオ周波数帯域においてフラットにすることができる。このため、図6に示した低域のレベルが大きくなるというような従来の問題を解消することができる。
また、ステップS404〜S410の音場特性測定処理において、各スピーカ6FL,6FR,6C,6RL,6RR,6WFを時分割して鳴動させ、それによって生じる再生音を集音するので、各スピーカの再生能力(出力パワー)を検出することができる。このため、各スピーカの再生能力も考慮した総合的な適正化が可能となっている。
そして、スイッチ素子SWNをオフ、そのスイッチ素子に接続されているスイッチ素子SW11,SW21,SW31,SW41,SW51,SWk1をオフにし、スイッチ素子SW12,SW22,SW32,SW42,SW52,SWk2をオンにすることで、音源1からのオーディオ信号SFL,SFR,SC,SRL,SRR,SWFを入力可能状態に設定し、本オーディオシステムは通常のオーディオ再生状態となる。
以上説明したように、本実施形態によれば、オーディオシステムとスピーカの特性を総合的に考慮して音場空間の周波数特性と位相特性を補正するので、極めて高品位且つ臨場感のある音場空間を提供することができる。
また、オーディオ周波数帯域のある周波数の再生音のレベルが大きくなったり小さくなるという問題、例えば図6に示した低域レベルが大きくなるという問題を解消することができる。つまり、各スピーカで再生される再生音の周波数特性をオーディオ周波数帯域全体にわたってフラットにするので、ある周波数の再生音が強くなって耳障りな音が聞こえたり不快感を与えるてしまうというような問題を解消して、極めて高品位且つ臨場感のある音場空間を実現することができる。
また、図8に示したステップS10〜S40の順に音場補正処理を行うことで、極めて高品位且つ臨場感のある音場空間を実現する補正を可能としている。
また、受聴者が指定したターゲットカーブに合わせた音場補正を行うので、利便性の向上などを可能にする。
また、周波数特性の補正とチャンネル間レベルの補正及びフラット化の際に、オーディオ信号の周波数特性に類似したピンクノイズを用いるので、実際にオーディオ再生を行う場合に合わせた精度の良い補正を可能にしている。
尚、本実施形態では、5チャンネル分の広域スピーカ6FL〜6RRと低域専用のスピーカ6WFを備える所謂5.1チャンネルのマルチチャンネルオーディオシステムの自動音場補正システムについて示したが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の自動音場補正システムは、本実施形態より多数のスピーカを備えるマルチチャンネルオーディオシステムにも適用可能であり、また、本実施形態より少数のスピーカを備えるオーディオシステムにも適用可能である。
つまり、本発明は、1又は2以上のスピーカを備えるオーディオシステムに適用可能である。
また、低域再生専用のスピーカ(サブウーハ)6WFを備えたオーディオシステムにおける音場補正について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。サブウーハを備えず、全帯域型スピーカのみを備えるオーディオシステムにおいても高品位且つ臨場感のある音場空間を提供することができる。この場合、フラット化補正部14を備えず、チャンネル間レベル補正部12によって全てのチャンネルの特性を補正するようにしてもよい。
また、本実施形態では、図12に示すステップS412では、前記式(10)から明らかな通り、全帯域型のスピーカ6FL〜6RRの再生音のレベルを基準にして、チャンネル間アッテネータATGkの減衰率の適正化を行っている。すなわち、前記式(10)の分母を、中高域のターゲットデータTGMHと低域専用のスピーカ6WFの再生音のスペクトル平均レベルに相当する変数PWFLの積とすることで、全帯域型のスピーカ6FL〜6RRの再生音のレベルを基準にしている。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、低域専用のスピーカ6WFの再生音のレベルを基準にして、チャンネル間アッテネータAT1〜AT5の減衰率の適正化を行ってもよい。
つまり、本実施形態では、フラット化補正部14がチャンネル間アッテネータATGkの減衰率を補正するが、これとは逆に、低域専用のスピーカ6WFの再生音のレベルを計測して、その計測結果に基づいてチャンネル間アッテネータATGkの減衰率を設定し、チャンネル間アッテネータATGkの減衰率を基準にして、チャンネル間アッテネータATG1〜ATG5の減衰率を補正するようにしてもよい。
また、図2に示す各系統回路CQT1〜CQTkは、上記したように、バンドパスフィルタ、帯域間アッテネータ、加算器、チャンネル間アッテネータ、遅延回路の順に接続されて構成されているが、かかる構成は典型例として示したものであり、本発明はかかる構成に限定されるものではない。
例えば、チャンネル間アッテネータに従属接続されている遅延回路をバンドパスフィルタの入力側に配置したり、帯域間アッテネータの入力側に配置してもよい。また、チャンネル間アッテネータと遅延回路の位置を入れ替えてもよい。また、チャンネル間アッテネータと遅延回路を共にバンドパスフィルタの入力側に配置してもよい。
本発明がこうした構成要素の位置を適宜に替えた構成とすることが可能なのは、周波数特性の補正と位相特性の補正をそれぞれの構成要素毎に切り離して行う従来のオーディオシステムとは異なり、ノイズ発生器からのノイズ信号を音場補正システムの入力段から入力するようにし、音場補正システム全体の周波数特性と位相特性を総合的に補正するようにしたからである。この結果、本発明の音場補正システムは、オーディオシステム全体の周波数特性と位相特性を適切に補正することが可能となる他、設計の自由度を高めることも可能となっている。