JP2007063062A - 貝殻から球状の炭酸カルシウムを製造する方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 貝殻から球状の炭酸カルシウムを比較的容易に製造することができる方法を提供することである。
【解決手段】 貝殻を強酸に溶解する溶解工程と、溶解工程において得られた溶解液に炭酸アンモニウム水溶液又は炭酸水素アンモニウム水溶液を添加して沈殿物を生成する沈殿工程とを含むことを特徴とする球状の炭酸カルシウムの製造方法が提供される。好ましくは、沈殿工程において生成した沈殿物を窒素雰囲気において焼成する焼成工程を更に含む。
【選択図】 図1
【解決手段】 貝殻を強酸に溶解する溶解工程と、溶解工程において得られた溶解液に炭酸アンモニウム水溶液又は炭酸水素アンモニウム水溶液を添加して沈殿物を生成する沈殿工程とを含むことを特徴とする球状の炭酸カルシウムの製造方法が提供される。好ましくは、沈殿工程において生成した沈殿物を窒素雰囲気において焼成する焼成工程を更に含む。
【選択図】 図1
Description
本発明は、貝殻から球状の炭酸カルシウムを製造する方法に関する。
炭酸カルシウムは、カルサイト型、アラゴナイト型、バテライト型の3種類の結晶構造をとり得るが、カルサイト型結晶構造が最も安定している。炭酸カルシウムは、アラゴナイト型結晶構造をとるものも一部にあるが、常温の下で安定なカルサイト型結晶構造をとるものが多い。バテライト型結晶構造をもつ純粋な炭酸カルシウムは、自然界では存在しない。また、カルサイト型結晶は角柱状、アラゴナイト型結晶はアラレ状、バテライト型結晶は球状であることが知られている。
一方、貝殻は、炭酸カルシウムを主成分としており、無機成分としてMg、Sr、Mnなどの金属イオン、有機成分としてタンパク質を含むが、貝殻の種類や産地によって金属イオンやタンパク質の含有は多種多様である。自然界から例えば石灰岩として産出された炭酸カルシウムは重質炭酸カルシウムと呼ばれ、化学的に合成された炭酸カルシウムは軽質炭酸カルシウムと呼ばれる。軽質炭酸カルシウムは、使用目的に応じた性質を付与することができるので、重要である。
炭酸カルシウムの結晶構造や形状の制御に関して、下記の方法が提案されている。
(1)水/油エマルジョンを利用して球状化する方法(非特許文献1)
(2)合成炭酸カルシウム系球状多孔質の製造に関する方法(特許文献1)
(3)板状炭酸カルシウムを球状に成長させる方法(特許文献2)
(4)合成炭酸カルシウムの成形体を粉砕、整粒する方法(特許文献3)
(5)炭酸カルシウム溶解液にマグネシウムイオンを加えることでアラゴナイトを形成する方法(特許文献4)
(6)有機化合物(デントリマー)を利用したバテライト構造の作成に関する方法(特許文献5)
(1)水/油エマルジョンを利用して球状化する方法(非特許文献1)
(2)合成炭酸カルシウム系球状多孔質の製造に関する方法(特許文献1)
(3)板状炭酸カルシウムを球状に成長させる方法(特許文献2)
(4)合成炭酸カルシウムの成形体を粉砕、整粒する方法(特許文献3)
(5)炭酸カルシウム溶解液にマグネシウムイオンを加えることでアラゴナイトを形成する方法(特許文献4)
(6)有機化合物(デントリマー)を利用したバテライト構造の作成に関する方法(特許文献5)
しかしながら、上述の従来の方法には、下記のような課題がある。すなわち、非特許文献1の方法は、合成に手間がかかり、調製に用いた有機物の除去や大量生産が困難である。また、特許文献1の方法は、球状化を実現しているが、石灰石を主成分としており、球状化に際して金属塩試薬を添加する必要がある。また、特許文献2の方法は、複雑な製造工程を必要とし、大量生産が困難で製造コストが高い。また、特許文献3の方法は、粒子径を揃えることはできるが、球状にすることはできない。また、特許文献4の方法は、通常カルサイトが形成される方法にマグネシウムイオンを共存させてアラゴナイト型結晶にしたものであるが、球状にすることはできない。さらに、特許文献5の方法は、製造工程に手間がかかり、大量生産は困難である。このように、いずれの方法にも一長一短があり、満足すべき方法がないのが現状である。
本発明は、このような状況に鑑みて開発されたものであって、貝殻から球状の炭酸カルシウムを比較的容易に製造することができる方法を提供することを目的としている。
本願請求項1に記載の球状の炭酸カルシウムを製造する方法は、貝殻を強酸に溶解する溶解工程と、前記溶解工程において得られた溶解液に炭酸アンモニウム水溶液又は炭酸水素アンモニウム水溶液を添加して沈殿物を生成する沈殿工程とを含むことを特徴とするものである。
本願請求項2に記載の球状の炭酸カルシウムを製造する方法は、前記請求項1の方法において、前記強酸が、濃硝酸、濃塩酸、又は濃硫酸のいずれかであることを特徴とするものである。
本願請求項3に記載の球状の炭酸カルシウムを製造する方法は、前記請求項1又は2の方法において、前記溶解工程によって得られた溶解液に無機アルカリ水溶液を添加してpHを調整するアルカリ水溶液添加工程を更に含むことを特徴とするものである。
本願請求項4に記載の球状の炭酸カルシウムを製造する方法は、前記請求項1から請求項3までのいずれか1項の方法において、前記沈殿工程において生成した沈殿物を窒素雰囲気において焼成する焼成工程を更に含むことを特徴とするものである。
本発明の方法により、従来は産業廃棄物となっている貝殻から、球状の炭酸カルシウムを比較的容易に製造することが可能になる。球状の炭酸カルシウムは、流動性や平滑性が重要な機能となる顔料や建材等の材料として有用である。すなわち、粒子が球状であることにより、目的とする性能への制御が容易となることが予想される。例えば、粒径がほぼ同一であっても、球状に近い形態の炭酸カルシウム粒子の方が低い粘度を示すため、紙への塗工時の乾燥コストの低減に寄与する。また、炭酸カルシウムは、歯磨き粉や化粧品等にも用いられているが、これらの製品特性も、粒子形状等の影響を受ける。
次に図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態に係る球状の炭酸カルシウムの製造方法について詳細に説明する。まず、原材料となる貝殻を準備する。貝殻の種類は、特に限定されない。
準備した貝殻を強酸に溶解する(以下「溶解工程」という)。強酸の種類は、濃硝酸、濃塩酸、濃硫酸等の無機強酸であれば特に限定されないが、貝殻に含まれるタンバク質構造を分解するには、濃硝酸を用いるのが最も好ましい。
また、使用する貝殻の種類によって若干相違するが、通常、8.5N以上の濃硝酸に溶解するのが好ましい。酸性度がこれより低くなると、角柱状のカルサイト型結晶構造が混在するようになるからである。純粋な球状のバテライト型結晶構造を得るためは、酸性度が高い方がよい。
強酸への溶解方法は、特に限定されないが、合成される炭酸カルシウムの純度や貝殻の溶解速度を向上させるため、溶解する貝殻を予め洗浄・粉砕しておくのが好ましい。
強酸に飽和するまで貝殻を溶解させた場合には、合成される炭酸カルシウムは、角柱状のものが主となるが、一部に球状のカルサイト型結晶構造のものも混在するようになる。
溶解工程の後、溶解せずに残存する貝殻、タンパク質、貝殻付着物等を濾過し、濾液を以後の工程に用いるのがよい。取り除いた未溶解の貝殻を用いて、再度、上述の溶解工程に供することもできる。
溶解工程に引き続き、溶解工程によって得られた溶解液にアンモニア水等の無機アルカリ水溶液を添加して、pHが10程度のアルカリ側に調整する(以下「アルカリ水溶液添加工程」という)。なお、溶解工程において用いた酸の濃度が低い場合には、アルカリ水溶液添加工程を省略してもよい。
次いで、0.1モル/リットル程度の炭酸アンモニウム水溶液又は炭酸水素アンモニウム水溶液を溶解液に添加して、沈殿物を生成させる(以下「沈殿工程」という)。沈殿物は、白色又は黄色味がかった色である。炭酸アンモニウム水溶液又は炭酸水素アンモニウム水溶液の添加は、沈殿物が生成されなくなるまで、行うのがよい。
なお、予めアンモニア水等でのpH調整を行わずに、十分な炭酸アンモニウム水溶液又は炭酸水素アンモニウム水溶液を先に添加した後にアンモニア水等を滴下し、アルカリ性側に調整することによって、沈殿物を生成させてもよい。
次いで、生成した沈殿物を窒素雰囲気において焼成する(以下「焼成工程」という)。焼成工程は、例えば、管状炉を用いて窒素を流通させながら500°C程度で約1時間焼成することによって行われる。焼成工程を経ることによって、カルサイト型結晶構造をもつ球状の炭酸カルシウムが得られる。
焼成工程を経ることによって、球状を保持した状態で、バテライト型炭酸カルシウムがカルサイト型炭酸カルシウムになるのは、以下の理由によるものと推測される。バテライト型炭酸カルシウムは、空気中では400°C位から安定なカルサイト型炭酸カルシウムになることが知られている。この際、粒子は、本発明によらなければ、球状を保持することはできず、角柱状になるはずである。しかしながら、窒素ガスという不活性雰囲気中で熱処理することにより、粒子の最表面部分の一次粒子だけは空気と触れることがないためバテライト型結晶構造が維持され、内部がカルサイト型結晶構造になったものと推測される。このことは、後述する実施例におけるX線解析において、カルサイト型結晶構造のものが100%ではなく、僅かではあるがバテライト型結晶構造のものも検出されていることからも裏付けられる。
なお、焼成工程に先立って、沈殿物を濾過して乾燥させるのが好ましい。乾燥は、100°C程度で行うのがよい。沈殿物を空気中で600°C以上に加熱すると、脱炭酸し酸化カルシウムに変化する。これは、空気中の水分と反応して水酸化カルシウムになってしまう。
原材料となる貝殻として、北海道森町産のホタテ貝殻を用いた。無機主成分は、カルサイト型炭酸カルシウムである。まず、貝殻を洗浄した後、振動式ミルで粗粉砕し、4gを秤量した。そして、10Nの濃硝酸40ミリリットルに、秤量した貝殻粉砕物を加え、攪拌し溶解した。次いで、溶解液を吸引濾過し、未溶解の有機成分等を取り除いた濾液を得た。次いで、濾液に約30重量%のアンモニア水を滴下し、pHを約8に調整した。次いで、濾液に0.1モル/リットルの炭酸アンモニウム水溶液を過剰に加え、沈殿物を生成させた。そして、生成した沈殿物を含む懸濁液を吸引濾過し、濾過によって得られた粉末を100°Cで24時間乾燥させ、軽質炭酸カルシウムを得た。
図1は、上述の実施例において得られた軽質炭酸カルシウムの走査電子顕微鏡写真を示したものである。この実施例では、炭酸カルシウム粒子の粒径が1〜5μmの球状粒子になっていることが分かる。この実施例と比較するため、市販の99重量%カルサイト型炭酸カルシウムを1Nの硝酸に溶解し、アンモニア水を添加してpHを調整した後、炭酸アンモニウム水溶液を添加して沈殿物を形成させたものを図2に示す。図2に示す例では、炭酸カルシウムの結晶が角柱状に成長しているのが分かる。
図3は、上述のようにして得られた軽質炭酸カルシウム粒子を、500°Cで1時間、窒素を流通させながら焼成することによって得られた軽質炭酸カルシウムの走査電子顕微鏡写真を示したものである。
図4は、図1〜図3に示される軽質炭酸カルシウム粒子のX線回折実験の結果を示したグラフである。図4から、図1の球状粒子がバテライト型結晶構造の炭酸カルシウム粒子であり、図2の角柱状粒子および図3の球状粒子がカルサイト型結晶構造の炭酸カルシウム粒子であることが分かる。本発明の方法において焼成工程を経ることによって、大部分が、球状のバテライト型結晶構造の粒子から、安定な状態である角柱状にならずに球状の形態を保持したまま、カルサイト型結晶構造の粒子になっていることを確認することができる。
上述のように、本発明の方法において焼成工程を経ることによって、カルサイト型結晶構造の球状の炭酸カルシウム粒子の製造が可能であることを確認することができた。炭酸カルシウムの安定相は、上述のように、カルサイト型結晶構造であるため、使用目的によっては、球状のバテライト型結晶構造の粒子よりも、球状のカルサイト型結晶構造の粒子の方が好ましいと考えられる。すなわち、球状のバテライト型結晶構造の粒子の場合には、外的要因(例えば、熱の付加)によって安定相であるカルサイト型結晶構造に変化する可能性があるので、使用期間中にわたって安定な球状形態であることが望まれる用途(例えば、紙への塗工用)では、球状のカルサイト型結晶構造の粒子が好ましい。一方、例えば、コンクリートに使用する場合には、施工時に炭酸カルシウム粒子が球状であることが良好な作業性の保持等の観点から重要であるが、コンクリート硬化後にも球状である必要性は大きくはないと考えられるので、球状のバテライト型結晶構造の粒子でもよい。
本発明は、以上の発明の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
Claims (4)
- 貝殻から球状の炭酸カルシウムを製造する方法であって、
貝殻を強酸に溶解する溶解工程と、
前記溶解工程において得られた溶解液に炭酸アンモニウム水溶液又は炭酸水素アンモニウム水溶液を添加して沈殿物を生成する沈殿工程と、
を含むことを特徴とする方法。 - 前記強酸が、濃硝酸、濃塩酸、又は濃硫酸のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
- 前記溶解工程によって得られた溶解液に無機アルカリ水溶液を添加してpHを調整するアルカリ水溶液添加工程を更に含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
- 前記沈殿工程において生成した沈殿物を窒素雰囲気において焼成する焼成工程を更に含むことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の方法。
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2005
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