JP2007019173A - 不純物拡散シミュレーション方法、不純物拡散シミュレーション装置、及び、不純物拡散シミュレーションプログラム - Google Patents
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Abstract
【課題】 広い範囲の製造条件下での正確な不純物拡散シミュレーションを容易に行うことができる方法、装置、プログラムを提供する。
【解決手段】 半導体基板中のイオン注入直後の不純物原子の濃度分布を演算し、当該演算された注入直後の不純物濃度分布の最大濃度に基づいて、イオン注入された1つの不純物原子により半導体基板中に生成される格子間原子の数を設定する。続いて、演算された注入直後の不純物濃度分布と、格子間原子の発生数とに基づいて、半導体基板中に生成された格子間原子の濃度分布を演算し、演算された注入直後の不純物濃度分布と前記格子間原子の濃度分布とに基づいて、熱処理後の不純物原子の濃度分布を演算する。
上記1つの不純物原子により生成される格子間原子の数は、上記最大濃度が予め設定された特定の閾値以上である場合には、不純物原子種に応じて、当該最大濃度のみに依存して一義的に定まる値が設定される。
【選択図】 図2
【解決手段】 半導体基板中のイオン注入直後の不純物原子の濃度分布を演算し、当該演算された注入直後の不純物濃度分布の最大濃度に基づいて、イオン注入された1つの不純物原子により半導体基板中に生成される格子間原子の数を設定する。続いて、演算された注入直後の不純物濃度分布と、格子間原子の発生数とに基づいて、半導体基板中に生成された格子間原子の濃度分布を演算し、演算された注入直後の不純物濃度分布と前記格子間原子の濃度分布とに基づいて、熱処理後の不純物原子の濃度分布を演算する。
上記1つの不純物原子により生成される格子間原子の数は、上記最大濃度が予め設定された特定の閾値以上である場合には、不純物原子種に応じて、当該最大濃度のみに依存して一義的に定まる値が設定される。
【選択図】 図2
Description
本発明は、不純物拡散シミュレーション方法、不純物拡散シミュレーション装置、及び、不純物拡散シミュレーションプログラムに関し、特に、イオン注入法により不純物原子をシリコンに導入する際に発生する点欠陥を考慮して熱処理後の不純物原子の濃度分布を予測する不純物拡散シミュレーション方法、不純物拡散シミュレーション装置、及び不純物拡散シミュレーションプログラムに関する。
一般に広く使用されているTSUPREM4(商品名)のようなプロセスシミュレータでは、半導体基板に導入された不純物原子の熱処理後の濃度分布を予測する不純物拡散シミュレーションにおいて、不純物原子と半導体基板中の点欠陥との相互作用を考慮した不純物拡散方程式が使用されている。
上記点欠陥とは、格子間に存在する半導体原子である格子間点欠陥、及び、格子位置に半導体原子が存在しない空孔点欠陥であり、半導体基板に導入された不純物原子は、熱処理の過程で、このような点欠陥との相互作用により拡散する(いわゆる、増速拡散。)。
一般に、不純物原子と点欠陥との相互作用として、キックアウト機構、フランク−ターンブル(Frank-Turnbull)機構、及び通常空孔拡散機構の3つの機構が知られている。キックアウト機構は、不純物原子が格子間半導体原子(以下、格子間原子という。)を介して、格子位置と格子間の位置を変えながら移動する拡散であり、シリコンよりも共有結合半径の小さいボロン(B)やリン(P)の主な拡散機構とされている。これに対し、格子間の不純物原子が空孔の位置に移動することで格子位置に納まるフランク−ターンブル機構と、不純物原子が隣接する空孔と位置を交換しながら拡散する通常空孔拡散機構とは、シリコンよりも共有結合半径が大きいヒ素(As)の主な拡散機構とされている。
このような、格子間原子と不純物原子との相互作用による拡散の流速をJiとし、空孔と不純物原子との相互作用による拡散の流速をJvとすると、各流速は、次式に示すように、活性化し移動することが可能な不純物原子の濃度Cmの位置に対する差分に比例することが知られている。
ここで、数1におけるDipは格子間原子と不純物原子との相互作用による拡散係数であり、Kiは格子間原子と不純物原子との相互作用に関わる反応速度に比例した係数である。また、数2におけるDvpは空孔と不純物原子との相互作用による拡散係数であり、Kvは空孔と不純物原子との相互作用に関わる反応速度に比例した係数である。
また、上記2つの式を微小領域における粒子数保存則に拡張することにより、不純物原子濃度Cの時間依存性である次式が得られる。
さらに、点欠陥自体の拡散方程式は、格子間原子の濃度をCi、空孔の濃度をCvとすると次式で表される。
ここで、数4にけるDiは、格子間原子の拡散係数であり、Ci *は格子間原子の平衡濃度である。また、数5におけるDvは、空孔の拡散係数であり、Cv *は空孔の平衡濃度である。ここで、平衡濃度とは、高温熱処理中の点欠陥の生成と消滅とが平衡するときの点欠陥濃度を意味する。
以上示した式に対して、格子間原子の濃度分布や空孔の濃度分布等の初期条件や境界条件を与え、任意時間における半導体基板中の不純物原子の濃度分布(以下、不純物プロファイルという。)を求めることができる。また、当該不純物プロファイルを求める際には、基板表面に形成された酸化膜と基板との界面、及び基板中における、格子間原子と空孔の再結合等のモデルが併用され、点欠陥の消滅が考慮される。
さて、不純物原子がイオン注入法により半導体基板内に導入される場合、上記初期条件として、イオン注入工程で発生する格子間原子を与える必要がある。このような、イオン注入工程において発生する格子間原子の発生数は、”+1”モデルや、”+N”モデルとして表現される。
”+1”モデルとは、1個の不純物原子を半導体基板中に注入した場合、不純物原子は結晶構造を破壊しながら基板中に進入するが、その後の熱処理により結晶性が回復された際に、格子位置に不純物原子が納まり、格子間原子が1個発生するモデルである。
また、”+N”モデルは、イオン注入される元素の質量が重くなるにつれて、イオン注入時にシリコン原子を基板の深くまではじきとばすようになり、熱処理により結晶性が回復された場合でも、格子位置にシリコン原子が納まらず、基板中にN個の格子間原子が発生するモデルである。”+N”モデルのおける格子間原子の発生数Nは次式で表現される。
ここで、Rpは不純物原子の投影飛程、Eは不純物原子の運動エネルギー、mは不純物原子の質量である。
一方、上述した不純物プロファイルのシミュレーションにおいては、予測された不純物プロファイルと現実の不純物プロファイルとが一致するように、上記拡散方程式の拡散係数や平衡濃度等の拡散パラメータの合わせ込みが行われている。
しかしながら、例えば、基板中の不純物濃度が比較的低い状態で拡散パラメータの合わせ込みを行った場合に、基板中の不純物濃度が比較的高い状態の不純物プロファイルの予測を行うと、予測された不純物プロファイルは、現実の不純物プロファイルよりも深く拡散する傾向にある。このため、高精度のシミュレーションを行うためには、上述の拡散パラメータを不純物注入条件や熱処理温度等の製造プロセスに応じて合わせ込む必要があった。
また、このような不純物プロファイルの不一致が生じる理由は、上述した拡散方程式では、不純物濃度が比較的高い状態での不純物拡散に関与する物理現象が十分に表現されていないことにある。
例えば、基板中の不純物濃度が1×1020cm-3程度になると、シリコン結晶の{311}面に沿って格子間原子クラスタが形成されると考えられている。このような{311}クラスタは、熱処理の際に移動せず、その位置で格子間原子の供給源として機能する。したがって、{311}クラスタが形成された場合、クラスタ化した格子間原子は不純物原子の拡散に寄与しなくなり、結果として、不純物原子の拡散が抑制されることになる。
上記{311}クラスタを不純物拡散シミュレーションに反映させるため、指定濃度以上の格子間原子を不動とするモデルや、不純物注入直後の不純物プロファイルに対し、ある一定の比率を掛けた形状の不動の格子間原子を分布させ、{311}クラスタが解離するための時定数を導入したモデル等が考案されている(例えば、特許文献1等参照。)。
また、上記{311}クラスタモデルの導入により、不純物原子の拡散は抑制されることになる。このため、上述のような不純物濃度が比較的高い場合のシミュレーションの不一致を改善する目的で、{311}クラスタが形成されていないと考えられる1×1020cm-3よりも小さい不純物濃度の場合でも、{311}クラスタモデルを導入して不純物プロファイルのシミュレーションが行われることも多い。
しかしながら、{311}クラスタモデルを導入することで、合わせ込むべきパラメータ数が増加するため、これらのパラメータをプロセス毎に合わせ込むことなしに、高精度のシミュレーションを行うことは困難である。
そこで、後掲の特許文献2には、製造プロセスに依存せず、シミュレーションの精度を高めることを目的として、ヒ素原子をイオン注入装置を用いて注入する場合、注入されるヒ素1個あたりに発生する格子間原子数を、ドーズ量が1×1015cm-2を超えない場合には0.8〜1.2個とし、1×1015cm-2を超える場合には0.25〜0.35個とするモデルが提案されている。
このモデルでは、ドーズ量が大きくなった場合に、格子間原子の発生量を低下させるため、結果として、不純物濃度が高い場合の拡散が抑制される。また、本モデルでは、合わせ込むべきパラメータも増加していないため、”+1”モデルや”+N”を適用した場合に比べて、広い製造条件の範囲で容易にかつ高精度で不純物プロファイルを求めることができるとされている。
特開2000−91263号公報
特開平11−97378号公報
しかしながら、上記特許文献2に開示された技術では、注入直後の不純物濃度分布に基づいて演算が行われる不純物拡散において、ドーズ量を閾値とすることの物理的根拠が希薄であることに加え、注入ドーズ量を基準とした場合、注入ドーズ量が同一で注入直後の不純物プロファイルが異なる状況下では、予測された熱処理後の不純物プロファイルに、必然的に誤差が生じることになる。例えば、注入エネルギー、注入角度、あるいは、基板表面の酸化膜を通してイオン注入を行う場合の酸化膜厚等が異なると、注入ドーズ量が同一であっても注入直後の不純物プロファイルは異なるものとなる。
また、現実の半導体装置の製造にはボロンやリンが広く用いられるが、これらの元素に対して高精度な不純物分布を得ることができるモデルは報告はされていない。上記特許文献2にもボロン、リンに対する適用は開示されていない。
本発明は、上記従来の事情を鑑みて提案されたものであって、汎用性が高く、広い範囲の製造条件下において、不純物プロファイルを高精度に予測することができる不純物拡散シミュレーション方法、不純物拡散シミュレーション装置、及び、不純物拡散シミュレーションプログラムを提供することを目的としている。
上記目的を達成するために、本発明は以下の技術的手段を採用している。まず、本発明は、半導体基板にイオン注入により導入された不純物原子の熱処理後の濃度分布を、点欠陥を考慮した不純物拡散方程式に基づいて予測する不純物拡散シミュレーション方法を前提としている。そして、本発明に係る不純物拡散シミュレーション方法は、半導体基板中のイオン注入直後の不純物原子の濃度分布を演算し、当該演算された注入直後の不純物濃度分布の最大濃度に基づいて、イオン注入により導入された1つの不純物原子により半導体基板中に生成される格子間原子の数を設定する。続いて、演算された注入直後の不純物濃度分布と、格子間原子の発生数とに基づいて、半導体基板中に生成された格子間原子の濃度分布を演算し、演算された注入直後の不純物濃度分布と前記格子間原子の濃度分布とに基づいて、熱処理後の不純物原子の濃度分布を演算する。
上記1つの不純物原子により生成される格子間原子の数は、上記最大濃度が予め設定された特定の閾値以上である場合には、不純物原子種に応じて、当該最大濃度のみに依存して一義的に定まる値が設定され、上記最大濃度が閾値未満の場合には、不純物原子の運動エネルギー、質量、及び投影飛程に基づいて一義的に定まる値が設定される。また、上記構成に代えて、上記最大濃度が閾値未満の場合には、特定値が設定される構成としてもよい。
なお、上記不純物拡散方程式の拡散係数、及び平衡濃度は、注入直後の不純物原子の最大濃度が前記閾値未満である現実の半導体基板の熱処理後の不純物濃度分布に基づいて求めることができる。
一方、他の観点では、本発明は、上述のシミュレーション方法を実施する不純物拡散シミュレーションシステムを提供することができる。すなわち、本発明に係る不純物拡散シミュレーションシステムは、半導体基板中のイオン注入直後の不純物原子の濃度分布を演算する手段と、演算された注入直後の不純物濃度分布の最大濃度に基づいて、イオン注入により導入された1つの不純物原子により半導体基板中に生成される格子間原子の数を設定する手段とを備える。さらに、演算された注入直後の不純物濃度分布と、設定された格子間原子発生数とに基づいて、半導体基板中に生成された格子間原子の濃度分布を演算する手段と、前記演算された不純物濃度分布と、前記格子間原子の濃度分布とに基づいて、熱処理後の不純物原子の濃度分布を演算する手段とを備える。なお、明細書中では、イオン注入直後の不純物原子の濃度分布を演算する手段が注入プロファイル演算部に対応し、1つの不純物原子により半導体基板中に生成される格子間原子の数を設定する手段が格子間原子発生数設定部に対応する。また、半導体基板中に生成された格子間原子の濃度分布を演算する手段は、格子間原子プロファイル演算部に対応し、熱処理後の不純物原子の濃度分布を演算する手段は、拡散演算部に対応する。
さらに他の観点では、本発明は、上記不純物拡散シミュレーション方法をコンピュータに実行させるプログラムを提供することもできる。
本発明は、注入直後の不純物原子の最大濃度が特定の閾値を越える高濃度領域において、1つの不純物原子の注入により発生する格子間原子の数を、不純物原子種、及び最大濃度のみに基づいて一義的に定まる値に設定する。そして、従来から用いられている格子間点欠陥を考慮した拡散方程式を解くことにより、熱処理後の不純物原子の濃度分布を予測する。このため、半導体の製造条件に依存せず、正確な不純物拡散シミュレーションを容易に行うことができる。また、高濃度領域の格子間原子発生数の最大濃度依存性を、低濃度領域で合わせ込んだ拡散パラメータの最適値を使用しながら最適化しているため、低濃度領域から高濃度領域まで広い範囲の製造条件の下で、熱処理後の不純物原子の濃度分布を正確に予測することができる。
以下、本発明に係る一実施形態を、シリコン基板中にボロンをイオン注入した際の不純物プロファイルを演算する事例に基づいて、図面を参照しながら詳細に説明する。図1、及び図2は、本発明に係る不純物拡散シミュレーション方法の処理手順を示すフロー図である。また、図3は、本発明に係る不純物拡散シミュレーション装置の概略機能ブロック図である。
図3に示すように、本実施形態に係る不純物拡散シミュレーション装置10は、注入プロファイル演算部11と、格子間原子発生数設定部12と、格子間原子プロファイル演算部13と、拡散演算部14とを備えている。
注入プロファイル演算部11は、イオン注入により導入される不純物原子種、注入エネルギー、注入ドーズ量、イオン注入時の注入角(シリコン基板のチルト角やツイスト角)、及びシリコン基板表面の酸化膜厚等の注入条件に応じたシリコン基板内の注入直後の不純物原子の濃度分布(不純物プロファイル)を演算する。このような演算は、例えば、二次イオン質量分析器(SIMS:Secondary Ion Mass Spectroscopy)により取得されたデータに基づいて求められたピアソン(Pearson)関数等の分布関数や、モンテカルロ(Monte Carlo)法等を使用して行われる。なお、ここでは、上記注入条件は、入力部21を介してユーザにより、直接あるいは、不純物拡散シミュレーション装置10が認識可能なファイルの状態で入力され、条件格納部22に記憶されているものとする。
また、格子間原子発生数設定部12は、注入プロファイル演算部11が演算した注入直後の不純物プロファイルの最大濃度に基づいて、イオン注入により導入された1つの不純物原子によりシリコン基板中に発生する格子間シリコン原子を設定する。本発明では、格子間原子発生数設定部12は、注入プロファイル演算部11が演算した注入直後の不純物プロファイルの最大濃度が所定の閾値未満である場合(以下、低濃度領域という。)、上述した”+N”モデル、すなわち、上記数6に示した式に基づいて、格子間原子の発生数を設定する。一方、注入プロファイル演算部11が演算した注入直後の不純物プロファイルの最大濃度が、所定の閾値以上である場合(以下、高濃度領域という。)、格子間原子発生数設定部12は、不純物原子種に応じて、当該最大濃度のみに依存して一義的に定まる値を設定する。
格子間原子プロファイル演算部13は、格子間原子発生数設定部12が設定した不純物原子1つあたりの格子間シリコン原子の発生数に基づいて、シリコン基板中の格子間シリコン原子の濃度分布を演算する。そして、拡散演算部14は、イオン注入後に実施される熱処理の熱処理温度、及び熱処理時間に基づいて、上記数1から数5に示した各拡散方程式を、ニュートン法等の数値解析手法を用いて解くことにより、熱処理後のシリコン基板中の不純物プロファイルを演算する。このとき、注入プロファイル演算部11が演算した注入直後の不純物プロファイルと、格子間原子プロファイル演算部13が演算した格子間シリコン原子の濃度分布が初期条件となる。また、当該不純物プロファイルを求める際には、基板表面に形成された酸化膜と基板との界面、及び基板中における、格子間原子と空孔の再結合等のモデルが併用され、点欠陥の消滅が考慮されるが、本発明に直接関与するものではないため、ここでの詳細な説明は省略する。
なお、上記熱処理条件も、上記注入条件と同様に、入力部21を介してユーザにより、直接あるいは、不純物拡散シミュレーション装置10が認識可能なファイルの状態で入力され、条件格納部22に記憶されているものとする。また、拡散パラメータ照合部16及び、最大濃度依存性照合部17については、以下で詳述する。
さて、上記構成の不純物分布シミュレーション装置10において、不純物拡散シミュレーションを行う場合、従来と同様、シミュレーションの実施に先立ってパラメータの合わせ込み(以下、キャリブレーションという。)が行われる。図1は、本発明の不純物拡散シミュレーション装置10において実施されるキャリブレーションの処理を示すフロー図である。
当該キャリブレーション処理では、拡散演算部14において、演算に使用される格子間シリコン原子の拡散パラメータの合わせ込み(図1 ステップS1)、及び格子間原子発生数設定部12が高濃度領域で使用する格子間シリコン原子発生数の最大濃度に対する依存式の導出(図1 ステップS2)が行われる。ここで、拡散パラメータとは、上記数4に示した式中の拡散係数Diと平衡濃度Ci *である。
まず、拡散パラメータの合わせ込みは、現実の熱処理後の不純物プロファイルと、拡散演算部14が演算した不純物プロファイルとを、拡散パラメータ照合部16が照合することにより行われる。例えば、このような照合は、拡散係数Diと平衡濃度Ci *とを変数とし、現実の半導体基板の熱処理後の不純物プロファイルと、同一の注入条件を用いて不純物拡散シミュレータ装置10により演算された熱処理後の不純物プロファイルとを、最小2乗法を用いて一致させることにより行うことができる。なお、現実のシリコン基板中の不純物プロファイルは、SIMS等により求められ、実測値格納部15に格納されているものする。
上述したように、イオン注入により半導体基板中に不純物原子を導入した場合、熱処理を行った場合の半導体基板中の不純物原子の拡散は増速拡散が支配的となる。また、不純物原子がボロンである場合、不純物原子の主な拡散機構はキックアウト機構である。このため、上述の数1から数5に示した式において、格子間原子の拡散係数Diと平衡濃度Ci *の合わせ込みを行うことで、半導体基板中の不純物原子の拡散を十分に表現することができる。このとき、空孔の拡散係数Dvや平衡濃度Cv *等の他のパラメータは、一般的に使用されている値から逸脱しない値を用いればよい。例えば、上述のプロセスシミュレータTSUPREM4のデフォルトパラメータ値を使用することができる。
また、このような拡散パラメータの合わせ込みは、イオン注入直後の不純物原子の最大濃度が、例えば、5×1018cm-3以下の比較的低濃度である条件で行われる。上述したように、シリコン基板中の不純物原子の最大濃度が約1020cm-3になると{311}クラスタが形成される。また、シリコン基板中の不純物原子の最大濃度が2×1019cm-3を超えるようなイオン注入を行うと、シリコン基板が非晶質化することも報告されている。このように、{311}クラスタが形成されたシリコン基板中の拡散や、非晶質化したシリコン基板中の拡散は、上記数1から数5に示した拡散方程式では正確に表現されない。したがって、このような条件で上記拡散パラメータを求めた場合、当該パラメータには、{311}クラスタや非晶質化の作用が含まれることになるため、適切な拡散パラメータを求めることが困難となるからである。
このため、本実施の形態では、上述のように5×1018cm-3の濃度を上記高濃度領域と、上記低濃度領域とを区分する閾値として、当該閾値以下の濃度の不純物原子が注入されたシリコン基板により、拡散パラメータの合わせ込みを行っている。ここでは、ボロンを、注入エネルギーを15keV、注入ドーズ量を5.8×1012cm-2として、注入した現実のシリコン基板(以下、試料基板という。)により、上記拡散パラメータの合わせ込みを行っている。この場合、注入直後のシリコン基板中のボロンの最大濃度は8×1017cm-3である。
また、上記熱処理としては、上記試料基板に、850℃でのアニール処理と、850℃で10nmの酸化膜を形成し、この後一旦酸化膜を除去し、1050℃で3nmの酸化膜を形成する酸化処理を実施している。
一方、拡散演算部14が、上記拡散パラメータの合わせ込みに用いられる熱処理後の不純物プロファイルを演算する際には、条件格納部22に記憶された上記注入条件に基づいて注入プロファイル演算部11が注入直後の不純物プロファイルを演算する(図1 ステップS11)。次に、格子間原子プロファイル演算部13が、格子間シリコン原子の濃度分布を、演算された注入直後の不純物プロファイルと、格子間原子発生数設定部12が設定した格子間シリコン原子発生数とに基づいて演算する。この場合、シリコン基板中のボロンの最大濃度は低濃度領域にあるので、格子間原子発生数設定部12は、”+N”モデル(上記数6に示した式)に基づいて、格子間シリコン原子の発生数を設定する(図1 ステップS12)。この事例では、格子間シリコン原子の発生数は1.6個となる。
そして、拡散演算部14は、拡散係数Di、及び平衡濃度Ci *を変数として、上記試料基板に対して実施された熱処理の熱処理温度及び熱処理時間に基づいて、注入直後の不純物プロファイル及び格子間シリコンの濃度分布とを初期条件として、熱処理後の不純物プロファイルを演算する(図1 ステップS13)。
このように演算された不純物プロファイルと、上記試料基板から得られた現実の不純物プロファイルとの誤差(ここでは、平均2乗誤差)が演算され、拡散係数Di、及び平衡濃度Ci *の最適値が求められる(図1 ステップS14)。このとき、拡散係数Di、及び平衡濃度Ci *の初期値は、一般的に使用されている値から逸脱しない値を用いればよい。例えば、上述のプロセスシミュレータTSUPREM4のデフォルトパラメータ値を使用することができる。
本事例の場合、拡散パラメータである、拡散係数Di、及び平衡濃度Ci *の最適値は、次式に示す値になる。
数7及び数8において、kはボルツマン定数、Tは絶対温度である。
図4に、SIMSにより取得した上記試料基板のボロンの不純物プロファイル(以下、実測値という。)、及び、上記数7、数8に示した拡散パラメータを用いて不純物拡散シミュレーション装置10が演算した不純物プロファイル(以下、予測値という。)を示す。なお、本明細書では、不純物プロファイルデータの深さ方向の原点を、イオン注入時に半導体基板に存在していた表面酸化膜の下面に固定している。したがって、酸化処理等により表面酸化膜の膜厚が増大した場合、不純物プロファイルのデータは、当該酸化膜の下面(図4では、破線33)より深い位置のデータだけを示す図となる。
図4に示すように、実測値31と予測値32とは、良好に一致しており、数7及び数8に示した拡散パラメータの最適値は妥当であるといえる。また、実施例として後述するが、注入直後のシリコン基板中のボロンの最大濃度が5×1018cm-3以下である場合は、数7及び数8に示した拡散パラメータにより、他の注入条件、並びに、他の熱処理条件での不純物プロファイルの予測値も、実測値と良好な一致を示している。
上述のようにして、格子間シリコン原子の拡散パラメータの合わせ込み(図1 ステップS1)が完了すると、続いて、格子間原子発生数設定部12において、高濃度領域で使用される格子間シリコン原子発生数の最大濃度に対する依存式の導出が行われる(図1 ステップS2)。
この高濃度領域の格子間シリコン原子発生数の最大濃度に対する依存式の導出は、高濃度領域の熱処理後の不純物プロファイルと、拡散演算部14が演算した不純物プロファイルとを、最大濃度依存性照合部17が照合することにより行われる。当該照合は、格子間シリコンの発生数Nを変数とし、現実の半導体基板の熱処理後の不純物プロファイルと、同一の注入条件を用いて不純物拡散シミュレータ装置10により演算された熱処理後の不純物プロファイルとを、最小2乗法等により一致させることで行うことができる。なお、現実の不純物プロファイルは、実測値格納部15に記憶されているものとする。
ここでは、ボロンを、注入エネルギーを15keV、注入ドーズ量を1.0×1014cm-2として、シリコン基板中に注入した場合の、試料基板の実測値を使用する。この場合、注入直後のシリコン基板中のボロンの最大濃度は1.4×1019cm-3である。また、熱処理として、850℃のアニール処理を行っている。
また、拡散演算部14が、上記拡散パラメータの合わせ込みに用いられる熱処理後の不純物プロファイルを演算する際には、上述の低濃度領域での拡散パラメータの合わせ込みと同様に、上記注入条件に基づいて注入プロファイル演算部11が演算した注入直後の不純物プロファイル(図1 ステップS21)と、格子間原子プロファイル演算部13が演算した格子間シリコン原子の濃度分布とが初期条件となる。このとき、拡散係数Di、及び平衡濃度Ci *には、低濃度領域で合わせ込みを行った結果得られた上記最適値が使用される。また、格子間シリコン原子の濃度分布を求めるために、格子間シリコン原子の発生数を設定する必要があるが、ここでは、初期値として”+N”モデル(上記数6に示した式)に基づいて算出された値を使用する(図1 ステップS22)。この事例では、格子間シリコン原子の発生数は1.1個となる。
そして、拡散演算部14は、格子間シリコン原子発生数Nを変数として、上記試料基板に対して実施された熱処理の熱処理温度及び熱処理時間に基づいて、熱処理後の不純物プロファイルを演算する(図1 ステップS23)。このように演算された不純物プロファイルと、上記試料基板から得られた現実の不純物プロファイルとの誤差(ここでは、平均2乗誤差)が演算され、格子間シリコン原子発生数Nの最適値が求められる(図1 ステップS24)。本事例の場合、格子間シリコン原子発生数Nの最適値は、0.15である。
図5に、SIMSにより取得したボロンの最大濃度が1.4×1019cm-3の試料基板の実測値41、及び、上記式7、式8に示した拡散パラメータを用いて不純物拡散シミュレーション装置10が演算した予測値42を示す。また、比較例として、格子間シリコン発生数Nが、”+N”モデルにより算出された1.1である場合の不純物プロファイル43を破線で示す。図5に示すように、比較例の不純物プロファイル43は、実測値41比べて深く拡散しているのに対し、実測値41と予測値42とは、良好に一致していることが理解できる。これは、高濃度領域において生じるシリコン基板の非晶質化等の影響により不純物原子の拡散が抑制された状態を、格子間シリコン原子の発生数を低下させることで表現できていることを示している。
図6は、シリコン基板中の不純物原子の最大濃度を変えて、上述のような格子間シリコン原子発生数Nの合わせ込みを行うことで得られた格子間シリコン原子の発生数Nの最大濃度に対する依存性を示す図である。当該合わせ込みにより、図6に示すように、高濃度領域では、格子間原子発生数は、注入直後の不純物原子の最大濃度が5×1018cm-3から2×1019cm-3までの間で、次第に低下し、2×1019cm-3以上ではゼロとすれば良いという結果が得られた。なお、最大濃度が5×1018cm-3以下の低濃度領域では、上述したように”+N”モデルにより算出される格子間シリコン原子発生数を用いることができる。
この結果より、高濃度領域における、格子間シリコン原子発生数Nの最大濃度に対する依存式は、最大濃度が5×1018cm-3のときに1.166(”+N”モデルから得られる値)、最大濃度が2×1019cm-3以上のときに0、そして、最大濃度がこれらの間にあるときは、上記実測値との照合により取得された格子間シリコン原子発生量の値の補間式(例えば、直線補間式)として得ることができる。
このようにして得られた、高濃度領域における格子間シリコン原子発生数の最大濃度依存性は、高濃度領域において生じるシリコン基板の非晶質化や、{311}クラスタの生成等の影響により、拡散可能な格子間シリコン原子が減少することに加えて、実測値と予測値が一致することからも、妥当であるといえる。なお、上記高濃度領域における、格子間シリコン原子発生数Nの最大濃度に対する依存式は、格子間原子発生数設定部12に記憶される。なお、格子間原子発生数設定部12には、ボロンのみの格子間シリコン原子発生数Nの最大濃度に対する依存式だけでなく、不純物原子種に応じた依存式が記憶される。
以上のようにして、キャリブレーションが完了すると、任意の注入条件、及び熱処理条件での不純物拡散のシミュレーションを行うことが可能となる。図2は、キャリブレーションの終了後に可能となる、不純物拡散シミュレーションの手順を示すフロー図である。
まず、ユーザは、半導体シミュレーション装置10の入力部21を介して、不純物原子種、不純物注入エネルギー、注入ドーズ量、注入時の表面酸化膜厚、注入角度等の注入条件、及び、イオン注入時に破壊された結晶構造を回復するアニール処理、酸化膜を形成する酸化処理等の熱処理における、熱処理温度、及び熱処理時間等の熱処理条件を入力し、条件格納部22に記憶させる。
注入プロファイル演算部11は、条件格納部22に記憶されている注入条件に基づいて、注入直後の不純物プロファイルを演算する。そして、注入プロファイル演算部11は、演算された不純物プロファイルの最大濃度を抽出する(図2 ステップS31)。
次に、格子間原子発生量設定部12は、当該注入直後の不純物プロファイルの最大濃度に基づいて、格子間シリコン原子発生数を設定する。すなわち、最大濃度が低濃度領域にある場合には、”+N”モデルにより算出された値が設定され(図2 ステップS32No→S33)、最大濃度が高濃度領域にある場合には、上述のようにして、不純物原子種に応じて導出した格子間シリコン原子発生数の最大濃度依存式により算出された、不純物原子種及び最大濃度のみにより一義的に定まる値が設定される(図2 ステップS32Yes→S36)。
格子間原子発生量設定部12が設定した格子間シリコン原子発生数及び注入プロファイル演算部11が演算した注入直後の不純物プロファイルに基づいて、格子間原子プロファイル演算部13が、格子間シリコン原子の濃度分布を演算する(図2 ステップS34)。
そして、拡散演算部14が、注入プロファイル演算部11が演算した注入直後の不純物プロファイルと、格子間原子プロファイル演算部13が演算した格子間シリコン原子の濃度分布とを初期条件として、数1から数5に示す拡散方程式を上記熱処理条件にしたがって演算し、熱処理後の不純物プロファイルが求められる(図1 ステップS35)。このとき、式4の拡散係数Di、及び平衡濃度Ci *として、上述の最適値が使用される。そして、演算された熱処理後の不純物プロファイルは、ディスプレイ上の表示、あるいは、ファイル出力等として、出力部23から出力される。
以上説明したように、本発明は、イオン注入法により不純物原子を半導体基板中に導入する際に発生する格子間原子の発生量を、注入直後の不純物原子の最大濃度が、例えば、5×1018cm-3以上であるような高濃度領域では、不純物原子種及び注入直後の不純物プロファイルの最大濃度のみに基づいて一義的に定まる値に設定し、従来から使用されている格子間点欠陥を考慮した不純物拡散方程式を解いて、熱処理後の不純物プロファイルを予測する。このため、不純物注入条件や熱処理条件等の製造方法を任意に変化させた場合であっても、パラメータを再び最適化し直す必要がなく正確な不純物分布の予測が可能となる。また、以上述べた本発明のシミュレーション方法は、一般に広く使用されている、TSUPREM4のような、格子点欠陥を考慮した拡散方程式を解くことにより、熱処理後の不純物プロファイルを予測するプロセスシミュレータに容易に適用することが可能である。
なお、注入プロファイル演算部11、格子間原子発生量設定部12、格子間原子プロファイル演算部13、拡散演算部14、拡散パラメータ照合部16、及び、最大濃度依存性照合部17は、例えば、専用の演算回路や、プロセッサとRAMやROM等のメモリとを備えたハードウェア、及び当該メモリに格納され、プロセッサ上で動作するソフトウェア等として実現することができる。
また、このような不純物拡散シミュレーションの手順をコンピュータに実行させるためのプログラムは、インターネットなどの電気通信回線を用いたり、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納したりすることで、関係者や第三者に提供することができる。例えばプログラムの指令を電気信号や光信号、磁気信号などで表現し、その信号を搬送波に載せて送信することで、同軸ケーブルや銅線、光ファイバのような伝送媒体でそのプログラムを提供することができる。またコンピュータ読み取り可能な記録媒体としては、CD−ROMやDVD−ROMなどの光学メディアや、フレキシブルディスクのような磁気メディア、フラッシュメモリやRAMのような半導体メモリを利用することができる。
以下、上記で説明したシミュレーション装置10において予測された熱処理後の不純物プロファイル(予測値)と、SIMSにより取得された、同一の注入条件、及び熱処理条件により形成された現実の試料基板の不純物プロファイルとを、様々な条件下で比較した結果を示す。
(実施例1)
図7は、シリコン基板に、注入エネルギーを50keV、注入ドーズ量を3.2×1013cm-2として二フッ化ボロンを注入した場合の実測値及び予測値を示す図である。図7(a)は、注入直後の実測値71と予測値72を示しており、図7(b)は、熱処理後の実測値73と予測値74を示している。本実施例では、熱処理として、850℃において10秒間、及び1020℃において5秒間のアニール処理が実施されている。本実施例の場合、注入直後の不純物プロファイルの最大濃度は、図7(a)に示すように、5×1018cm-3以上であり高濃度領域である。したがって、上述の最大濃度依存式により算出された値が、格子間原子の発生数として設定される。
図7は、シリコン基板に、注入エネルギーを50keV、注入ドーズ量を3.2×1013cm-2として二フッ化ボロンを注入した場合の実測値及び予測値を示す図である。図7(a)は、注入直後の実測値71と予測値72を示しており、図7(b)は、熱処理後の実測値73と予測値74を示している。本実施例では、熱処理として、850℃において10秒間、及び1020℃において5秒間のアニール処理が実施されている。本実施例の場合、注入直後の不純物プロファイルの最大濃度は、図7(a)に示すように、5×1018cm-3以上であり高濃度領域である。したがって、上述の最大濃度依存式により算出された値が、格子間原子の発生数として設定される。
図7(b)より、実測値73に一致した予測値74が得られていることが理解できる。
(実施例2)
図8は、シリコン基板に、注入エネルギーを25keV、注入ドーズ量を1.2×1013cm-2としてボロンを注入した場合の実測値及び予測値を示す図である。図8(a)は、注入直後の実測値81と予測値82を示しており、図8(b)は、熱処理後の実測値83と予測値84を示している。本実施例では、熱処理として、850℃において10秒間、及び1020℃において5秒間のアニール処理が実施されている。本実施例の場合、注入直後の不純物プロファイルの最大濃度は、図8(a)に示すように、5×1018cm-3未満であり低濃度領域である。したがって、”+N”モデル(数6に示した式)により算出された値が、格子間原子の発生数として設定される。
図8は、シリコン基板に、注入エネルギーを25keV、注入ドーズ量を1.2×1013cm-2としてボロンを注入した場合の実測値及び予測値を示す図である。図8(a)は、注入直後の実測値81と予測値82を示しており、図8(b)は、熱処理後の実測値83と予測値84を示している。本実施例では、熱処理として、850℃において10秒間、及び1020℃において5秒間のアニール処理が実施されている。本実施例の場合、注入直後の不純物プロファイルの最大濃度は、図8(a)に示すように、5×1018cm-3未満であり低濃度領域である。したがって、”+N”モデル(数6に示した式)により算出された値が、格子間原子の発生数として設定される。
図8(b)より、実測値83に一致した予測値84が得られていることが理解できる。
(実施例3)
図9は、シリコン基板に、注入エネルギーを10keV、注入ドーズ量を1.6×1012cm-2、注入エネルギーを100keV、注入ドーズ量を8.0×1011cm-2、及び、注入エネルギーを300keV、注入ドーズ量を4.0×1011cm-2としてボロンを注入した場合の実測値及び予測値を示す図である。図9(a)は、注入直後の実測値91と予測値92を示しており、図9(b)は、熱処理後の実測値93と予測値94を示している。本実施例では、熱処理として、850℃において60分間のアニール処理、及び900℃において7.7分間の酸化処理(9nmの酸化膜形成)が実施されている。本実施例の場合、注入直後の不純物プロファイルの最大濃度は、図9(a)に示すように、5×1018cm-3未満であり低濃度領域である。したがって、”+N”モデルにより算出された値が、格子間原子の発生数として設定される。
図9は、シリコン基板に、注入エネルギーを10keV、注入ドーズ量を1.6×1012cm-2、注入エネルギーを100keV、注入ドーズ量を8.0×1011cm-2、及び、注入エネルギーを300keV、注入ドーズ量を4.0×1011cm-2としてボロンを注入した場合の実測値及び予測値を示す図である。図9(a)は、注入直後の実測値91と予測値92を示しており、図9(b)は、熱処理後の実測値93と予測値94を示している。本実施例では、熱処理として、850℃において60分間のアニール処理、及び900℃において7.7分間の酸化処理(9nmの酸化膜形成)が実施されている。本実施例の場合、注入直後の不純物プロファイルの最大濃度は、図9(a)に示すように、5×1018cm-3未満であり低濃度領域である。したがって、”+N”モデルにより算出された値が、格子間原子の発生数として設定される。
図9(b)より、実測値93に一致した予測値94が得られていることが理解できる。
(実施例4)
図10は、シリコン基板に、注入エネルギーを20keV、注入ドーズ量を4.0×1012cm-2、注入エネルギーを120keV、注入ドーズ量を6.0×1012cm-2、及び、注入エネルギーを280keV、注入ドーズ量を1.0×1013cm-2としてボロンを注入した場合の実測値及び予測値を示す図である。図10(a)は、注入直後の実測値101と予測値102を示しており、図10(b)は、熱処理後の実測値103と予測値104を示している。本実施例では、熱処理として、850℃において60分間のアニール処理、及び900℃において7.7分間の酸化処理(9nmの酸化膜形成)が実施されている。本実施例の場合、注入直後の不純物プロファイルの最大濃度は、図10(a)に示すように、5×1018cm-3未満であり低濃度領域である。したがって、”+N”モデルにより算出された値が、格子間原子の発生数として設定される。
図10は、シリコン基板に、注入エネルギーを20keV、注入ドーズ量を4.0×1012cm-2、注入エネルギーを120keV、注入ドーズ量を6.0×1012cm-2、及び、注入エネルギーを280keV、注入ドーズ量を1.0×1013cm-2としてボロンを注入した場合の実測値及び予測値を示す図である。図10(a)は、注入直後の実測値101と予測値102を示しており、図10(b)は、熱処理後の実測値103と予測値104を示している。本実施例では、熱処理として、850℃において60分間のアニール処理、及び900℃において7.7分間の酸化処理(9nmの酸化膜形成)が実施されている。本実施例の場合、注入直後の不純物プロファイルの最大濃度は、図10(a)に示すように、5×1018cm-3未満であり低濃度領域である。したがって、”+N”モデルにより算出された値が、格子間原子の発生数として設定される。
図10(b)より、実測値103に一致した予測値104が得られていることが理解できる。
(実施例5)
図11は、シリコン基板に、注入エネルギーを8keV、注入ドーズ量を1.0×1014cm-2、及び、注入エネルギーを30keV、注入ドーズ量を1.0×1013cm-2としてボロンを注入した場合の実測値及び予測値を示す図である。図11(a)は、注入直後の実測値111と予測値112を示しており、図11(b)は、熱処理後の実測値113と予測値114を示している。本実施例では、熱処理として、850℃において45分間のアニール処理が実施されている。本実施例の場合、注入直後の不純物プロファイルの最大濃度は、図11(a)に示すように、5×1018cm-3以上であり高濃度領域である。したがって、上述の最大濃度依存式により算出された値が、格子間原子の発生数として設定される。
図11は、シリコン基板に、注入エネルギーを8keV、注入ドーズ量を1.0×1014cm-2、及び、注入エネルギーを30keV、注入ドーズ量を1.0×1013cm-2としてボロンを注入した場合の実測値及び予測値を示す図である。図11(a)は、注入直後の実測値111と予測値112を示しており、図11(b)は、熱処理後の実測値113と予測値114を示している。本実施例では、熱処理として、850℃において45分間のアニール処理が実施されている。本実施例の場合、注入直後の不純物プロファイルの最大濃度は、図11(a)に示すように、5×1018cm-3以上であり高濃度領域である。したがって、上述の最大濃度依存式により算出された値が、格子間原子の発生数として設定される。
図11(b)より、実測値113に一致した予測値114が得られていることが理解できる。
(実施例6)
図12は、シリコン基板に、注入エネルギーを30keV、注入ドーズ量を6.0×1013cm-2としてリンを注入した場合の実測値及び予測値を示す図である。図12(a)は、注入直後の実測値121と予測値122を示しており、図12(b)は、熱処理後の実測値123と予測値124を示している。本実施例では、熱処理として、850℃において10秒間、及び1020℃において5秒間のアニール処理が実施されている。本実施例の場合、注入直後の不純物プロファイルの最大濃度は、図12(a)に示すように、5×1018cm-3以上であり高濃度領域である。したがって、リンに対して求められた最大濃度依存式により算出された値が、格子間原子の発生数として設定される。
図12は、シリコン基板に、注入エネルギーを30keV、注入ドーズ量を6.0×1013cm-2としてリンを注入した場合の実測値及び予測値を示す図である。図12(a)は、注入直後の実測値121と予測値122を示しており、図12(b)は、熱処理後の実測値123と予測値124を示している。本実施例では、熱処理として、850℃において10秒間、及び1020℃において5秒間のアニール処理が実施されている。本実施例の場合、注入直後の不純物プロファイルの最大濃度は、図12(a)に示すように、5×1018cm-3以上であり高濃度領域である。したがって、リンに対して求められた最大濃度依存式により算出された値が、格子間原子の発生数として設定される。
図12(b)より、実測値123に一致した予測値124が得られていることが理解できる。
(実施例7)
図13は、シリコン基板に、注入エネルギーを50keV、注入ドーズ量を8.0×1013cm-2としてリンを注入した場合の実測値及び予測値を示す図である。図13(a)は、注入直後の実測値131と予測値132を示しており、図13(b)は、熱処理後の実測値133と予測値134を示している。本実施例では、熱処理として、850℃において45分間のアニール処理が実施されている。本実施例の場合、注入直後の不純物プロファイルの最大濃度は、図13(a)に示すように、5×1018cm-3以上であり高濃度領域である。したがって、リンに対して求められた最大濃度依存式により算出された値が、格子間原子の発生数として設定される。
図13は、シリコン基板に、注入エネルギーを50keV、注入ドーズ量を8.0×1013cm-2としてリンを注入した場合の実測値及び予測値を示す図である。図13(a)は、注入直後の実測値131と予測値132を示しており、図13(b)は、熱処理後の実測値133と予測値134を示している。本実施例では、熱処理として、850℃において45分間のアニール処理が実施されている。本実施例の場合、注入直後の不純物プロファイルの最大濃度は、図13(a)に示すように、5×1018cm-3以上であり高濃度領域である。したがって、リンに対して求められた最大濃度依存式により算出された値が、格子間原子の発生数として設定される。
図13(b)より、実測値133に一致した予測値134が得られていることが理解できる。
(実施例8)
図14は、シリコン基板に、注入エネルギーを35keV、注入ドーズ量を1.4×1013cm-2としてリンを注入した場合の実測値及び予測値を示す図である。図14(a)は、注入直後の実測値141と予測値142を示しており、図14(b)は、熱処理後の実測値143と予測値144を示している。本実施例では、熱処理として、850℃において60分間のアニール処理、及び900℃において7.7分間の酸化処理(9nmの酸化膜形成)が実施されている。本実施例の場合、注入直後の不純物プロファイルの最大濃度は、図14(a)に示すように、5×1018cm-3未満であり低濃度領域である。”+N”モデルにより算出された値が、格子間原子の発生数として設定される。
図14は、シリコン基板に、注入エネルギーを35keV、注入ドーズ量を1.4×1013cm-2としてリンを注入した場合の実測値及び予測値を示す図である。図14(a)は、注入直後の実測値141と予測値142を示しており、図14(b)は、熱処理後の実測値143と予測値144を示している。本実施例では、熱処理として、850℃において60分間のアニール処理、及び900℃において7.7分間の酸化処理(9nmの酸化膜形成)が実施されている。本実施例の場合、注入直後の不純物プロファイルの最大濃度は、図14(a)に示すように、5×1018cm-3未満であり低濃度領域である。”+N”モデルにより算出された値が、格子間原子の発生数として設定される。
図14(b)より、実測値143に一致した予測値144が得られていることが理解できる。
以上のように、本発明は、注入直後の不純物原子の最大濃度が特定の閾値を越える高濃度領域において、1つの不純物原子の注入により発生する格子間原子の数を、不純物原子種、及び最大濃度のみに基づいて一義的に定まる値に設定する。そして、従来から用いられている格子間点欠陥を考慮した拡散方程式を解くことにより、熱処理後の不純物原子の濃度分布を予測する。すなわち、半導体装置の製造条件が、注入直後の不純物原子の濃度分布として反映されるため、半導体の製造条件に依存せず、正確な不純物拡散シミュレーションを容易に行うことができる。
また、本発明は、高精度な不純物プロファイルを得ることが困難であったボロンやリンに対して、高精度な不純物プロファイルを得ることができる。
なお、本発明は、以上で説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲において、種々の変形及び応用が可能である。例えば、上記では、低濃度領域の格子間原子発生数を”+N”モデルを使用して算出する事例を説明したが、”+N”モデルに代えて、”+1”モデルを使用することも可能である。
本発明は、不純物注入条件や熱処理条件等の製造方法を任意に変化させた場合であっても、パラメータを再度最適化することなく、不純物プロファイルを性格に予測することが可能であり、半導体プロセスシミュレータ等の不純物の拡散を演算する半導体プロセスシミュレータに適用可能である。
10 不純物拡散シミュレーション装置
11 注入プロファイル演算部
12 格子間原子発生数設定部
13 格子間原子プロファイル演算部
14 拡散演算部
16 拡散パラメータ照合部
17 最大濃度依存性照合部
11 注入プロファイル演算部
12 格子間原子発生数設定部
13 格子間原子プロファイル演算部
14 拡散演算部
16 拡散パラメータ照合部
17 最大濃度依存性照合部
Claims (9)
- 半導体基板にイオン注入により導入された不純物原子の熱処理後の濃度分布を、点欠陥を考慮した不純物拡散方程式に基づいて予測する不純物拡散シミュレーション方法において、
半導体基板中のイオン注入直後の不純物原子の濃度分布を演算するステップと、
前記演算された注入直後の不純物濃度分布の最大濃度に基づいて、イオン注入により導入された1つの不純物原子により半導体基板中に生成される格子間原子の数を設定するステップと、
前記演算された注入直後の不純物濃度分布と、前記格子間原子の発生数とに基づいて、半導体基板中に生成された格子間原子の濃度分布を演算するステップと、
前記演算された注入直後の不純物濃度分布と、前記格子間原子の濃度分布とに基づいて、熱処理後の不純物原子の濃度分布を演算するステップと、
を有することを特徴とする不純物拡散シミュレーション方法。 - 前記1つの不純物原子により生成される格子間原子の数は、
前記最大濃度が予め設定された特定の閾値以上である場合には、不純物原子種に応じて、当該最大濃度のみに依存して一義的に定まる値が設定され、
前記最大濃度が前記閾値未満の場合には、不純物原子の運動エネルギー、質量、及び投影飛程に基づいて一義的に定まる値が設定される請求項1に記載の不純物拡散シミュレーション方法。 - 前記1つの不純物原子により生成される格子間原子の数は、
前記最大濃度が予め設定された特定の閾値以上である場合には、不純物原子種に応じて、当該最大濃度のみに依存して一義的に定まる値が設定され、
前記最大濃度が前記閾値未満の場合には、特定値が設定される請求項1に記載の不純物拡散シミュレーション方法。 - 前記不純物拡散方程式の拡散係数、及び平衡濃度が、注入直後の不純物原子の最大濃度が前記閾値未満である現実の半導体基板の熱処理後の不純物濃度分布に基づいて求められる請求項2または3に記載の不純物拡散シミュレーション方法。
- 前記閾値が、5×1018cm-3である請求項2から4のいずれかに記載の不純物拡散シミュレーション方法。
- 半導体基板にイオン注入により導入された不純物原子の熱処理後の濃度分布を、点欠陥を考慮した不純物拡散方程式に基づいて予測する不純物拡散シミュレーション装置において、
半導体基板中のイオン注入直後の不純物原子の濃度分布を演算する手段と、
前記演算された注入直後の不純物濃度分布の最大濃度に基づいて、イオン注入により導入された1つの不純物原子により半導体基板中に生成される格子間原子の数を設定する手段と、
前記演算された注入直後の不純物濃度分布と、前記設定された格子間原子発生数とに基づいて、半導体基板中に生成された格子間原子の濃度分布を演算する手段と、
前記演算された不純物濃度分布と、前記格子間原子の濃度分布とに基づいて、熱処理後の不純物原子の濃度分布を演算する手段とを備えたことを特徴とする不純物拡散シミュレーション装置。 - 前記格子間原子の発生数を設定する手段は、
前記最大濃度が予め設定された特定の閾値以上である場合には、不純物原子種に応じて、当該最大濃度のみに依存して一義的に定まる値を設定し、
前記最大濃度が前記閾値未満の場合には、不純物原子の運動エネルギー、質量、及び投影飛程に基づいて一義的に定まる値を設定する請求項6に記載の不純物拡散シミュレーション装置。 - 前記格子間原子の発生数を設定する手段は、
前記最大濃度が予め設定された特定の閾値以上である場合には、不純物原子種に応じて、当該最大濃度のみに依存して一義的に定まる値を設定し、
前記最大濃度が前記閾値未満の場合には、特定値を設定する請求項6に記載の不純物拡散シミュレーション装置。 - 点欠陥を考慮した不純物拡散方程式に基づいて、半導体基板にイオン注入により導入された不純物原子の熱処理後の濃度分布を予測する処理を、コンピュータに実行させる不純物拡散シミュレーションプログラムにおいて、
前記コンピュータに、
半導体基板中のイオン注入直後の不純物原子の濃度分布を演算するステップと、
前記演算された注入直後の不純物濃度分布の最大濃度に基づいて、イオン注入により導入された1つの不純物原子により半導体基板中に生成される格子間原子の数を設定するステップと、
前記演算された注入直後の不純物濃度分布と、前記格子間原子の発生数とに基づいて、半導体基板中に生成された格子間原子の濃度分布を演算するステップと、
前記演算された注入直後の不純物濃度分布と、前記格子間原子の濃度分布とに基づいて、熱処理後の不純物原子の濃度分布を演算するステップと、
を実行させることを特徴とする不純物拡散シミュレーションプログラム。
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