この発明の実施例を図面に基づいて説明する。まず、この発明を適用した車両の駆動系を図4に示す。図4は、この発明を適用した車両Veが、例えば四輪駆動車両Veである例を示している。図4に示す車両Veにおいて、動力源1の出力側には、動力源1の回転出力を変速する変速機2が配置され、その変速機2の出力側には、変速機2から伝達される駆動力を前輪側の駆動軸3と後輪側の駆動軸4とに分配するトランスファ(副変速機)5が設けられている。
動力源1としては、例えば、内燃機関または電動機の少なくとも一方を用いることができる。電動機としては、例えば電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを有するモータ・ジェネレータを用いることが可能である。この実施例では、動力源1として、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンあるいは天然ガスエンジンなどのエンジン1が用いられている場合について説明する。また、変速機2としては、手動変速機、あるいは自動変速機、あるいは無段変速機などの各種の変速機を用いることが可能である。
トランスファ5は、例えば、変速機2の回転出力を減速することなく駆動軸3,4へ伝達する高速側のハイギヤ列と、変速機2の回転出力をさらに減速して駆動軸3,4へ伝達する低速側のローギヤ列との二つのギヤ列を備えており、トランスファ5用のシフトレバー(図示せず)の操作によって、ハイギヤ列とローギヤ列とを選択的に切り換えて使用することができるように構成されている。また、このトランスファ5は、その内部に差動装置(センターデファレンシャル)(図示せず)を備えており、車両Veの旋回時に生じる前輪と後輪との回転差を吸収することができるように構成されている。
前輪側の駆動軸3は、フロントデファレンシャル6を介して左右の前輪駆動軸7,8に連結されていて、前輪駆動軸7,8には、左右前輪となる車輪9,10が連結されている。また、後輪側の駆動軸4は、リヤデファレンシャル11を介して左右の後輪駆動軸12,13に連結されていて、後輪駆動軸12,13には、左右後輪となる車輪14,15が連結されている。このような各機構により形成される動力伝達系統を介して、エンジン1の出力トルクが各車輪9,10,14,15に伝達される構成となっている。
そして、各車輪9,10,14,15には、制動装置16がそれぞれに設けられている。また、制動装置16を構成するホイールシリンダ17と、マスタシリンダ18とを接続する作動液の液圧系には、例えばブレーキペダル19の踏み込み操作などの運転者のブレーキ操作(制動操作)とは別にホイールシリンダ17内の液圧を増減し、各車輪9,10,14,15に付与する制動力を制御するブレーキアクチュエータ20が設けられている。
マスタシリンダ18は、運転者のブレーキ操作に応じて作動液に液圧を発生させる役目を果たしている。一方、ホイールシリンダ17は、運転者のブレーキ操作によってマスタシリンダ18から圧送される作動液の液圧により、各車輪9,10,14,15に制動力を付与するように動作する構成となっている。なお、ディスクブレーキが採用される場合には、そのディスクブレーキのキャリパに備えられているシリンダが上記のホイールシリンダ17に相当し、同様に作用させることができる。
図5に、ブレーキアクチュエータ20の構成を概略的に示す。なお、ブレーキアクチュエータ20は、各車輪9,10,14,15の各制動装置16毎に、独立して液圧を制御することが可能なように構成されていて、図5には、各車輪9,10,14,15のうちの一つの車輪に関するブレーキアクチュエータ20の構成を代表的に示している。したがって他の車輪についても同様の構成となっている。
ブレーキアクチュエータ20を構成する液圧系統には、モータ21によって回転駆動される液圧ポンプ22が設けられている。この液圧ポンプ22は、制動力を制御する際の液圧源として機能し、液圧ポンプ22の吐出口22aは、管路23を介して管路24に接続されている。なお、液圧ポンプ22の吐出口22a側には、液圧ポンプ22の吐出方向とは逆方向の作動液の流れを阻止する逆止弁25が設けられている。
一方、液圧ポンプ22の吸入口22bは、管路26を介してリザーバ27に接続されていて、管路26には、液圧ポンプ22の吸入方向とは逆方向の作動液の流れを阻止する逆止弁28,29が設けられている。この逆止弁28,29の間の管路26は、管路30を介してリザーバタンク31に接続されていて、リザーバタンク31内の作動液が、管路26を介して液圧ポンプ22に吸い込まれるように構成されている。また、管路30の途中には、この管路30を開閉させる、ノーマルクローズ形(通電時に開弁する形式)の吸込弁32が設けられている。
前述のマスタシリンダ18とホイールシリンダ17とを接続する管路24には、ノーマルオープン形(通電時に閉弁する形式)の遮断弁33が設けられており、作動液の液圧制御が実行される際に閉弁されてマスタシリンダ18とホイールシリンダ17との間の管路24を遮断するように構成されている。また、遮断弁33よりもホイールシリンダ17側の管路24には、ノーマルオープン形の保持弁34が設けられており、この保持弁34が閉弁されることにより、保持弁34からホイールシリンダ17側の液圧系を閉塞状態にするように、すなわち保持弁34からホイールシリンダ17側の液圧系の液圧を保持するように構成されている。
したがって、保持弁34を閉弁状態に制御することにより、保持弁34からホイールシリンダ17側の液圧系の液圧、すなわちブレーキ液圧を保持することができ、その結果、各車輪9,10,14,15に付与された制動力をそれぞれ保持することができる。
そして、保持弁34とホイールシリンダ17との間の管路24は、管路35によってリザーバ27に接続されている。この管路35には、ノーマルクローズ形の減圧弁36が設けられている。この減圧弁36は、例えばリニアソレノイドバルブもしくはデューティソレノイドバルブなどの電磁弁によって構成され、減圧弁36をデューティ比駆動させることにより、管路35の連通状態をデューティ比に応じて変化させることができる。
したがって、減圧弁36の開閉状態を制御することにより、管路35の連通状態を変化させ、保持弁34からホイールシリンダ17側の液圧系の液圧(ブレーキ液圧)を変化させることができる。例えば上記のように、ブレーキ液圧を保持していた状態、すなわち各車輪9,10,14,15に付与された制動力をそれぞれ保持していた状態から、減圧弁36を開弁状態に制御して管路35を連通状態にし、ブレーキ液圧を減圧させることによって、各車輪9,10,14,15に付与された制動力の保持状態を解除することができる。
このように、液圧ポンプ22および各種の弁装置等によって構成されるブレーキアクチュエータ20は、電子制御装置100によってその動作が制御される。すなわち、電子制御装置100により、ブレーキアクチュエータ20の動作を制御し、制動装置16のホイールシリンダ17内のブレーキ液圧が増減制御される。したがって、電子制御装置100から出力される信号に基づいて、各車輪9,10,14,15に設けられた制動装置16をそれぞれ制御すること、すなわち各車輪9,10,14,15に付与される制動力をそれぞれ制御することができる。例えば、各車輪9,10,14,15に付与された制動力を保持する制御、その保持状態を解除する制御、あるいは制動力の保持を禁止する制御を実行することができる。
図6に、電子制御装置100の構成を概略的に示す。電子制御装置100には、各車輪9,10,14,15の回転速度をそれぞれ検出する車輪速センサ101、シフトレバーのシフトポジションを検知するシフトポジションセンサ102、ブレーキペダル19の踏み込み量(踏み込みストローク)あるいは踏み込み圧力を検出するブレーキペダルセンサ103、アクセルペダル(図示せず)の踏み込み量(踏み込みストローク)あるいは踏み込み圧力あるいは踏み込み時間などを検出するアクセルペダルセンサ104、各車輪(駆動輪)9,10,14,15の駆動トルクをそれぞれ検出する駆動トルクセンサ105、車両Veの前後方向の加速度を検出する前後加速度センサ106、路面の傾斜角を検出する傾斜角センサ107、車両Veのヨーレートを検出するヨーレートセンサ108、車両Veに搭載されたナビゲーションシステム109などの各種センサ・装置類が設けられており、それらの各センサ・装置の出力信号が電子制御装置100に入力されるように構成されている。
また、電子制御装置100には、各種のデータが記憶されており、電子制御装置100に入力される信号、および記憶されているデータに基づいて、電子制御装置100からブレーキアクチュエータ20を制御する信号が出力されるように構成されている。
そして、車両Veには、アンチロックブレーキ(ABS)装置110およびトラクションコントロール(TRC)装置111が搭載されていて、電子制御装置100および上記の各種センサ・装置類と連動するように構成されている。ABS装置110は、例えば雪道や凍結路などの低μ路で急激に運転者によるブレーキ操作が行われた場合であっても、各車輪9,10,14,15のロックを防止するための装置であり、従来一般に知られている装置を使用することができる。すなわち、このABS装置110は、制動時に各車輪9,10,14,15のホイールシリンダ17に供給するブレーキ液圧を、各車輪9,10,14,15がロックしないように電子制御装置100からの出力信号に基づいて制御するよう構成されている。具体的には、各車輪9,10,14,15に取付けた車輪速センサ101からの信号および前後加速度センサ106から入力される前後加速度信号などに基づいて、各車輪9,10,14,15のブレーキ液圧を、電子制御装置100で演算するよう構成されている。
一方、TRC装置111は、例えば雪道や凍結路などの低μ路で急激なアクセル操作が行われた場合であっても、各車輪9,10,14,15のスリップを防止するために駆動力を抑制する装置であり、従来一般に知られている装置を使用することができる。すなわち、このTRC装置111は、例えば低μ路でアクセルペダル19が急激に踏み込まれて加速される際に各車輪9,10,14,15のいずれかにスリップが発生した場合、スリップが生じていない非スリップ輪の車輪速度とスリップが生じているスリップ輪の車輪速度との回転速度差からスリップ輪のスリップ状態を判断し、そのスリップ状態に応じて車両Veの駆動力を抑制するように構成されている。具体的には、スリップ輪で検出されたスリップの状態に応じて、例えば、エンジン1の点火プラグ(図示せず)を制御して点火時期を遅延させること、エンジン1のフューエルインジェクタ(図示せず)を制御して燃料噴射量を低減させること、エンジン1のスロットルアクチュエータ(図示せず)を制御してスロットルバルブ(図示せず)の開度を調節することなどによってエンジン1の出力が抑制され、車両Veの駆動トルクが抑制されるように構成されている。
ここで、車両Veが制動されて停止する際に、上記のヨーレートセンサ108により検出される車両Veのヨーレートの検出値を基に電子制御装置100で演算処理することによって、走行予定方向に対する車両Veの前後方向(すなわち車両Veのローリング軸方向)の向き、もしくは偏向角度を推定もしくは検出することができる。また、ナビゲーションシステム109により得られる道路情報に基づいて、もしくはその道路情報を基に電子制御装置100で演算処理することによって、車両Veの走行予定方向を検出することができる。したがって、電子制御装置100、ヨーレートセンサ108、ナビゲーションシステム109がこの発明における停止姿勢検出手段として機能する。
さらに、前述の各車輪9,10,14,15のホイールシリンダ17、マスタシリンダ18、ブレーキアクチュエータ20、それらを接続する液圧系などによって構成される制動装置、およびその制動装置へ制御信号を出力して各車輪9,10,14,15に付与する制動力の保持・解除状態を制御し、あるいは制動力の保持を禁止する電子制御装置100が、この発明における制動力保持手段および制動力保持禁止手段として機能する。
前述したように、この発明は、運転者によるブレーキペダル19の踏み込み操作が解放された後も制動力を保持する制動力保持制御が実行されるのに先立って、車両Veが走行している道路の進行方向に対する車両Veの姿勢を判断し、道路の進行方向に対して車両Veが偏向して停止したもしくは停止すると判断された場合に、制動力保持制御の実行を禁止すること目的としていて、そのために、この発明の制御装置は以下の制御を実行するように構成されている。
(第1の制御例)
図1は、その第1の制御例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図1のフローチャートにおいて、先ず、運転者の意志によるブレーキ操作によって、車両Veが停止した状態であるか否かが判断される(ステップS101)。具体的には、運転者の意志によるブレーキ操作、例えば運転者よるブレーキペダル19の踏み込み操作がおこなわれ、その際にブレーキペダルセンサ103によって検出されるブレーキペダル19の踏み込み量(もしくは踏み込みストローク)、あるいはブレーキペダル19の踏み込み量(踏み込みストローク)に応じて圧力を発生させるマスタシリンダ18のマスタシリンダ圧などに基づいて各車輪9,10,14,15に制動力が付与されて、その制動力により車両Veが停止した状態であるか否かが判断される。なお、この場合の車両Veの停止状態の判断は、例えば各車輪9,10,14,15の回転速度をそれぞれ検出する車輪速センサ101の検出結果が全て所定車速(例えばほぼ0km/h)以下であることにより判断することができる。
車両Veが停止状態でないこと、例えば各車輪速センサ101の検出結果の少なくともいずれか一つが所定車速以下でないことにより、このステップS101で否定的に判断された場合は、以降の制御は実行されずに、このルーチンを一旦終了する。
一方、車両Veが停止状態にあることにより、ステップS101で肯定的に判断された場合には、ステップS102へ進み、ヨーレートセンサ108により車両Veのヨーレート(実測ヨーレート)が検出され、その実測ヨーレートが基準ヨーレートよりも大きいか否かが判断される。走行予定方向、例えば車両Veの走行予定道路の走行車線方向と、車両Veの向き、すなわち車両Veの前後方向とが平行な状態で制動された場合は、車両Veにヨーレートはほとんど発生しないが、走行予定方向に対して車両Veの向きが傾きを持った状態で制動された場合には、車両Veの向きの傾きの大きさに応じて車両Veにヨーレートが発生する。そのため、車両Veが制動されて停止する際のヨーレートを検出することによって、その際の走行予定方向に対する車両Veの向き、すなわち走行予定方向に対する車両Veの前後方向の偏向角度を推定して判断することができる。
また、ここでの基準ヨーレートとは、実測ヨーレートによって走行予定方向に対する車両Veの向きを判断する場合に、その場合に判断される車両Veの向きの状態で制動力が保持されて車両Veが停止されても、例えば後続車両の走行を妨げたり、あるいはその状態から発進する際に不安定な挙動を起こしやすいなどの支障が生じない方向もしくは角度の範囲として定められた所定の基準範囲に相当するヨーレートの値を判断するために予め定められた閾値である。
したがって、実測ヨーレートが基準ヨーレート以下であることによって、このステップS102で否定的に判断された場合、すなわち、実測ヨーレートにより推定される停止時の車両Veの走行予定方向に対する偏向角度が、その状態で制動力が保持されても支障のない偏向角度の範囲内であると判断された場合は、ステップS103へ進み、車両Veの制動力が保持される。すなわち制動力保持制御が実行される。具体的には、車両Veの停止状態を維持するために必要な制動力が求められ、その制動力が各車輪9,10,14,15に付与された状態で保持される。すなわち、前述したように、ブレーキアクチュエータ20の保持弁34が閉弁状態となるように制御されることにより、ブレーキ液圧が保持され、各車輪9,10,14,15に付与された制動力がそれぞれ保持される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、実測ヨーレートが基準ヨーレートよりも大きいことことによって、ステップS102で肯定的に判断された場合、すなわち、実測ヨーレートにより推定される停止時の車両Veの走行予定方向に対する偏向角度が、その状態で制動力が保持されても支障のない偏向角度の範囲外であると判断された場合には、ステップS104へ進み、制動力保持制御の実行が禁止されるとともに、そのことを運転者に認識させるための警報が発信され、あるいは警告が表示され、あるいは警報の発信と警告の表示との両方が行われる。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
このように、車両Veが制動されて停止した際に、制動力保持制御の実行に先立って、車両Veの実測ヨーレートが検出され、走行予定方向に対する車両Veの向きが判断され、その車両Veの向きが、その向きで車両Veの制動力が保持されて停止されると、他車両の走行の妨げになったり、あるいは発進時の車両挙動が不安定になったりすることなどの支障をきたす可能性があると判断された場合に、制動力保持制御の実行が禁止されることによって、上記のような支障をきたす可能性がある状態で車両Veの制動力が保持されることを回避できる。また、制動力保持制御の実行が禁止される場合に、警報の発信あるいは警告の表示が行われることにより、そのことを運転者に認識させるとともに、その際の車両Veの停止状態もしくは停止姿勢が他車両の走行や自車両の発進時に支障をきたす可能性がある状態であることを運転者に認識させて、車両Veの停止姿勢の修正を促すことができる。
(第2の制御例)
図2は、この発明の制御装置による第2の制御例を説明するためのフローチャートであって、この図2のフローチャートで示されるルーチンは、前述の図1に示す第1の制御例と同様に、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図2のフローチャートにおいて、先ず、ナビゲーションシステム109により得られる情報により、車両Veの現在位置、および走行中の道路形状が検出される(ステップS201)。具体的には、車両Veの現在位置が求められ、その現在位置を基に車両Veの進行方向前方の走行予定道路の走行車線方向(すなわち車両Veの走行予定方向)が検出される。
つぎに、ヨーレートセンサ108により車両Veのヨーレートが検出され、そのヨーレートの検出値が所定時間の範囲で積分されて車両Veのヨー角が算出される。そしてそのデータが保存される(ステップS202)。ヨーレートの検出値を積分してヨー角を算出する際には、ヨー角の零点のずれ(零ドリフト)が生じる場合があるが、ナビゲーションシステム109の道路情報から走行道路の直線部分を検出し、その直線部分におけるヨー角の算出値を零として再設定することで、ヨー角の零ドリフトを補正することができる。
また、ワインディングロードのようなカーブが連続する道路においては、後述のステップS203での演算処理と同様に、車両Veの走行予定方向と車両Veのヨー角との偏差が求められ、その偏差の所定時間の間の平均値が所定値以上に大きくなった場合、ナビゲーションシステム109による車両Veの走行予定方向が車両Veのヨー角として設定される補正が行われる。
続いて、ナビゲーションシステム109により検出された車両Veの走行予定方向と、ヨーレートの検出値を積分して得られた車両Veのヨー角との偏差が求められ、その偏差の所定時間の平均値が算出されて、そのデータが保存される(ステップS203)。
そして、運転者の意志によるブレーキ操作によって、車両Veが停止した状態であるか否かが判断される(ステップS204)。車両Veが停止状態でないことにより、このステップS204で否定的に判断された場合は、以降の制御は実行されずに、このルーチンを一旦終了する
一方、車両Veが停止状態にあることにより、ステップS204で肯定的に判断された場合には、ステップS205へ進み、車両Veが停止した時点から所定時間ΔT前までの期間における車両Veの走行予定方向と車両Veのヨー角との偏差と、所定時間ΔT以前における車両Veの走行予定方向と車両Veのヨー角との偏差の平均値との差分の絶対値が、基準値αより大きいか否かが判断される。
ここでの基準値αは、車両Veが停止した時点から所定時間ΔT前までの期間における車両Veの走行予定方向と車両Veのヨー角との偏差と、所定時間ΔT以前における車両Veの走行予定方向と車両Veのヨー角との偏差の平均値との差分の絶対値に基づいて判断される車両Veの停止姿勢、すなわち車両Veが制動されて停止した際の走行予定方向に対する車両Veの向き、言い換えると車両Veが停止した際の走行予定方向に対する車両Veの偏向角度が、その状態で制動力が保持されて車両Veが停止されると、他車両の走行や自車両の発進時に支障をきたす可能性がある状態であることを判断するために予め定められた閾値である。
したがって、車両Veが停止した時点から所定時間ΔT前までの期間における車両Veの走行予定方向と車両Veのヨー角との偏差と、所定時間ΔT以前における車両Veの走行予定方向と車両Veのヨー角との偏差の平均値との差分の絶対値が、基準値αよりも大きいことによって、このステップS205で肯定的に判断された場合、すなわち制動されて停止した際の車両Veの向き(停止状態)が、他車両の走行や自車両の発進時に支障をきたす可能性がある状態であると判断された場合は、ステップS206へ進み、制動力保持制御の実行が禁止されるとともに、そのことを運転者に認識させるための警報が発信され、あるいは警告が表示され、あるいは警報の発信と警告の表示との両方が行われる。そして、車両Veの停止状態が修正されると(ステップS207)、前述のステップS204へ戻り、それ以降の制御が同様に実行される。
これに対して、車両Veが停止した時点から所定時間ΔT前までの期間における車両Veの走行予定方向と車両Veのヨー角との偏差と、所定時間ΔT以前における車両Veの走行予定方向と車両Veのヨー角との偏差の平均値との差分の絶対値が、基準値α以下であることによって、ステップS205で否定的に判断された場合、すなわち制動されて停止した際の車両Veの向き(停止状態)が、他車両の走行や自車両の発進時に支障をきたすことのない状態であると判断された場合には、ステップS208へ進み、車両Veの制動力が保持される。すなわち各車輪9,10,14,15のホイールシリンダ17に供給するブレーキ液圧を保持する制動力保持制御が実行される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
(第3の制御例)
図3は、この発明の制御装置による第2の制御例を説明するためのフローチャートであって、この図3のフローチャートで示されるルーチンは、前述の第1,第2の制御例と同様に、所定の短時間毎に繰り返し実行される。なお、この図3のフローチャートに示す第3の制御例は、前述した図2のフローチャートに示す第2の制御例を一部変更したものであって、図2のフローチャートに示す制御例と同じ制御内容のステップについては、図2と同様の参照符号を付してその詳細な説明を省略する。
図3のフローチャートにおいて、前述の第2の制御例と同様に、ステップS201ないしS203で、ナビゲーションシステム109により検出された車両Veの走行予定方向と、ヨーレートの検出値を積分して得られた車両Veのヨー角との偏差が求められ、その偏差の所定時間の平均値が算出されて、そのデータが保存されると、運転者によるブレーキ操作が検出されるとともに、そのブレーキ操作による制動時に、アンチロックブレーキ(ABS)装置110あるいはトラクションコントロール(TRC)装置111の作動状況が検出され、それらの検出結果に基づいて走行路面の摩擦係数が推定される(ステップS301)。例えば、制動時にABS装置110が作動した場合は、その場合の走行路面は摩擦係数の小さいいわゆる低μ路であると判断することができる。
そして、車両Veが停止した状態であるか否かが判断される(ステップS302)。車両Veが停止状態でないことにより、このステップS302で否定的に判断された場合は、以降の制御は実行されずに、このルーチンを一旦終了する。
一方、車両Veが停止状態にあることにより、ステップS302で肯定的に判断された場合には、ステップS303へ進み、車両Veが停止した時点から所定時間ΔT前までの期間における車両Veの走行予定方向と車両Veのヨー角との偏差と、所定時間ΔT以前における車両Veの走行予定方向と車両Veのヨー角との偏差の平均値との差分の絶対値が、基準値βより大きいか否かが判断される。
ここでの基準値βは、前述の基準値αと同様に、車両Veが停止した際の走行予定方向に対する車両Veの偏向角度が、その状態で制動力が保持されて車両Veが停止されると、他車両の走行や自車両の発進時に支障をきたす可能性がある状態であることを判断するための閾値であるが、この基準値βは、走行路面の摩擦係数の大きさに応じてその値が変更されて設定される。例えば、制動時にABS装置110が作動したことなどにより、走行路面が低μ路であると判断された場合は、通常の摩擦係数の路面を走行している場合よりも基準値βの値は小さく設定される。走行路面が低μ路である場合は、通常の路面と比べて他車両の走行や自車両の発進時に支障をきたす可能性が高くなるため、基準値βの値を小さくして閾値を低く設定するためである。
したがって、車両Veが停止した時点から所定時間ΔT前までの期間における車両Veの走行予定方向と車両Veのヨー角との偏差と、所定時間ΔT以前における車両Veの走行予定方向と車両Veのヨー角との偏差の平均値との差分の絶対値が、基準値βよりも大きいことによって、このステップS303で肯定的に判断された場合は、ステップS206へ進み、それ以降の制御が同様に実行される。
これに対して、車両Veが停止した時点から所定時間ΔT前までの期間における車両Veの走行予定方向と車両Veのヨー角との偏差と、所定時間ΔT以前における車両Veの走行予定方向と車両Veのヨー角との偏差の平均値との差分の絶対値が、基準値β以下であることによって、ステップS303で否定的に判断された場合には、ステップS208へ進み、同様の制御が実行され、その後、このルーチンを一旦終了する。
以上のように、この発明の制御装置による制御が実行されることによって、運転者のブレーキ操作により車両Veが制動されて停止する際(すなわち停止する直前、もしくは停止時、もしくは停止した直後)に、車両Veに発生するヨーレートが検出され、そのヨーレートの検出値に基づいて、車両Veが停止する際の走行予定方向に対する車両Veの向き(もしくは偏向角度)、すなわち車両Veの前後方向(ローリング軸方向)の向き(もしくは偏向角度)が検出される。そしてその車両Veの向きが、その状態で制動力が保持されても支障のない方向の範囲として定められた所定の基準方向(もしくは基準角度)の範囲から外れていると判断された場合は、制動力保持制御の実行が禁止される。そのため、車両Veが停止する際に、走行予定方向に対して車両Veの向きが傾いた停止状態、言い換えると、走行予定方向に対する車両Veの向きの偏向角度が大きくなった停止状態で制動力が保持されてしまい、その停止状態が継続されてしまうことを回避できる。その結果、その停止状態が継続されることによって、例えば、後続車両の走行を妨げたり、交通上の安全を阻害してしまうことを防止することができる。また、その停止状態のまま車両Veが発進された場合に、車両Veの進行方向と操舵方向とが一致しないことにより、車両の偏向角度が増加したり、車輪がスリップし易くなるなどの発進時の車両挙動が不安定になってしまうことを防止することができる。
ここで、上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、上述したステップS103の機能的手段が、この発明の制動力保持手段に相当し、ステップS102,S201ないしS205,S303の機能的手段が、この発明の停止姿勢検出手段に相当し、ステップS102,S104,S205,S206,S303の機能的手段が、この発明の制動力保持禁止手段に相当する。
なお、この発明は、上記の具体例に限定されないのであって、上記の具体例では、この発明を適用した車両が四輪駆動車両である例を示しているが、二輪駆動車両であってもよい。
また、上記の具体例では、車輪に付与する制動力を制御するためのブレーキアクチュエータは、図5に示すように、作動液の液圧によりホールシリンダを動作させるアクチュエータとして例示しているが、例えば電動式のサーボモータにより車輪に制動力を付与するように動作するアクチュエータであってもよく、要は、ブレーキペダルの踏み込み操作などの運転者のブレーキ操作とは別に、車輪に付与する制動力を制御する機構であればよい。
そして、上記の具体例では、ナビゲーションシステムにより得られる情報により、車両の走行予定方向が検出される例を示しているが、それに限らず、例えば、車両に搭載されたCCDカメラを備えた画像処理装置により、車両前方の画像を随時連続的に収集してその画像を解析することによって、車両の走行予定方向を検出することもできる。
1…動力源(エンジン)、 9,10,14,15…車輪、 16…制動装置、 17…ホイールシリンダ、 18…マスタシリンダ、 19…ブレーキペダル、 20…ブレーキアクチュエータ、 100…電子制御装置、 101…車輪速センサ、 103…ブレーキペダルセンサ、 104…アクセルペダルセンサ、 105…駆動トルクセンサ、 106…前後加速度センサ、 108…ヨーレートセンサ、 109…ナビゲーションシステム、 Ve…車両。