JP2006305588A - 溶接工程能力指数算出方法、工程能力指数算出システム、及び、工程能力指数算出プログラム - Google Patents
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Abstract
【課題】工程能力を正確に判断できる溶接工程能力指数算出方法、工程能力指数算出システム、及び、工程能力指数算出プログラムを提供すること。
【解決手段】特定の溶接工程により溶接されたワーク53のプラグ破断、母材破断、せん断破断に関する、溶接引っ張り強度の統計データから、該溶接工程の工程能力指数を算出する溶接工程能力指数算出方法において、統計データの分布が正規分布に対して歪む歪度を算出する歪度算出ステップ(S1)と、歪度算出ステップで算出した歪度が基準値を超えているか否かを判断する歪度判断ステップ(S2)と、歪度判断ステップで歪度が基準値を超えていると判断したときに、歪んだ分布の工程能力指数で工程能力を算出する第1工程能力算出ステップ(S5)と、を設ける。
【選択図】 図2
【解決手段】特定の溶接工程により溶接されたワーク53のプラグ破断、母材破断、せん断破断に関する、溶接引っ張り強度の統計データから、該溶接工程の工程能力指数を算出する溶接工程能力指数算出方法において、統計データの分布が正規分布に対して歪む歪度を算出する歪度算出ステップ(S1)と、歪度算出ステップで算出した歪度が基準値を超えているか否かを判断する歪度判断ステップ(S2)と、歪度判断ステップで歪度が基準値を超えていると判断したときに、歪んだ分布の工程能力指数で工程能力を算出する第1工程能力算出ステップ(S5)と、を設ける。
【選択図】 図2
Description
本発明は、特定の溶接工程により溶接されたワークに関する、溶接引っ張り強度の統計データから、該溶接工程の工程能力指数を算出する溶接工程能力指数算出方法、工程能力指数算出システム、及び、工程能力指数算出プログラムに関する。
従来より、例えば、自動車の製造プロセスの中で、プレス加工で製作された鋼板のボディパーツを溶接で組み上げ、車体の形を作ってゆくことが知られている。溶接は、溶融している金属同士を溶かして結合部分を作る加工をいう。溶接するためには、金属を溶融温度まで加熱する必要があるが、その方法として、スポット溶接、シーム溶接、アーク溶接、ろう接などが知られている。これらの溶接は、製品品質の向上を図るため、自動車の製造プロセスの中で溶接引っ張り強度を測定され、品質管理されている。以下では、前述した各種溶接のうち、簡単で作業性がよく、自動化しやすいため、自動車の量産でよく使われるスポット溶接を例に挙げて、溶接の品質管理について説明する。
スポット溶接は、金属板を重ねて、電極で挟み、大電流を流すことにより、電極で挟んだ部分の金属を電気抵抗で発熱させて部分的に溶融し、接合するものである。スポット溶接は、溶接部分に引張りせん断力が作用すると、図32に示すプラグ破断、図33に示す母材破断、図34に示すせん断破断を生じるおそれがある。
ここで、図32に示すプラグ破断とは、溶接部Pの周辺で破断が起き、ボタンのような形で片方の板に溶接部Pが残るものをいう(図中Q1参照)。プラグ破断は、スポット溶接部の引張りせん断試験において最もよく起こる典型的な破断様式である。
また、図33に示す母材破断とは、溶接部Pから離れた部分で、材料の引張り試験のような母材の破断が起こるものをいう(図中Q2参照)。母材破断は、十分な接合径を有する幅が狭い軟鋼の試験片で発生することが多い。なお、母材の幅や板厚が増すと起こらなくなる傾向がある。
さらに、図34に示すせん断破断とは、ナゲット部分で起こることが多く、試験片が剥れたような状態になるものをいう(図中Q3参照)。せん断破断は、溶接径が小さい試験片においてよく観察される破断様式である。また、一般的に破断荷重は低い。
ここで、図32に示すプラグ破断とは、溶接部Pの周辺で破断が起き、ボタンのような形で片方の板に溶接部Pが残るものをいう(図中Q1参照)。プラグ破断は、スポット溶接部の引張りせん断試験において最もよく起こる典型的な破断様式である。
また、図33に示す母材破断とは、溶接部Pから離れた部分で、材料の引張り試験のような母材の破断が起こるものをいう(図中Q2参照)。母材破断は、十分な接合径を有する幅が狭い軟鋼の試験片で発生することが多い。なお、母材の幅や板厚が増すと起こらなくなる傾向がある。
さらに、図34に示すせん断破断とは、ナゲット部分で起こることが多く、試験片が剥れたような状態になるものをいう(図中Q3参照)。せん断破断は、溶接径が小さい試験片においてよく観察される破断様式である。また、一般的に破断荷重は低い。
スポット溶接の品質管理は、例えば、規格に対する満足度を表す指標に工程能力指数を用いて行う。「工程能力」とは、管理状態にある工程においてその工程の持つ品質達成能力をいい、「工程能力指数」とは、工程能力を数値化したものをいう。スポット溶接の工程能力指数は、プラグ破断、母材破断、せん断破断の何れも、溶接引っ張り強度の分布が正規分布になるもと仮定して算出される(例えば、特許文献1、参照)。
しかしながら、従来の溶接工程能力指数算出方法では、プラグ破断、母材破断、せん断破断の何れも溶接引っ張り強度の分布が正規分布になるものと仮定しているが、実際には、図35に示すように破断様式によって強度が正規分布するものと、図36に示すように強度が正規分布せずに歪んだ分布になるものとがあり、図36に示すように歪んだ分布を正規分布として仮定し、工程能力指数を算出したときに、評価精度が低いことがあった。
一般的に強度の分布は歪んだ分布をする。接合部の一番弱い所から破断するという理論から歪んだ分布(二重指数分布)が導かれる(図36参照)。せん断破断のみの場合とプラグ破断とせん断破断が混ざった場合、母材破断とプラグ破断が混ざった場合、母材破断とせん断破断が混ざった場合、母材破断のみの場合がこれに当たる。一方、プラグ破断は破断の際に曲げモーメントが働き、接合部の一番弱い所から破断するという図式が崩れ、プラグ破断のみの場合は引張り強度の分布は歪んだ分布とならず、統計の世界で一番ポピュラーな分布である正規分布となる(図35参照)。溶接工程の工程能力指数を算出する場合には、歪んだ分布に対応できるソフトウエアが存在しないため、品質特性値の分布に正規分布を仮定するが、図36に示す溶接引っ張り強度の様に、歪んだ正規分布となる品質特性値も多い。歪んだ分布を正規分布と仮定した工程能力指数を適用すると過大評価する事になる。
一般的に、正規分布を仮定した工程能力指数Cpは、図37に示す式に基づいて算出される。正規分布の評価指標では、図38に示すように、工程能力指数Cpが「1.33より大きい」場合には、「工程能力は十分に満足している」と判定し、工程能力指数Cpが「1以上1.33以下」である場合には、「工程能力はあるが管理に注意が必要」と判定し、工程能力指数Cpが「1未満」である場合には、「工程能力は不十分」と判定する。図37で算出した工程能力指数Cpは、図38に示す正規分布の評価指数をそのまま照合して工程能力を判定するが、溶接工程における統計データの分布が正規分布に対して歪んでいる場合には、工程能力指数Cpをそのまま図38に示す正規分布の評価指標に照合しても、工程能力を正確に判定できない。
具体例を挙げて説明すると、例えば、品質特性値の分布が自由度3のχ2分布に従っていて、上側規格12が与えられている場合、自由度3のχ2分布の平均Xbarが「3」、標準偏差Sxが「2.45」、歪度β3が「1.63」となる。これらの値を図37に示す式に代入すると、正規分布を仮定した工程能力指数Cpとして「1.22」という値が得られる。これを図38に基づいて判定すると、工程能力指数Cp(=1.22)が「1以上1.33以下」の範囲内であるため、「工程能力はあるが管理に注意必要」と判定される。これに対して、自由度3のχ2分布のパーセント点12より求められる不良率の実測値は「0.74%」であり、不良率「0.74%」に対応する正規分布を仮定した工程能力指数Cpは「0.81」となる。この実測値に基づく工程能力指数「0.81」を図38に基づいて判定すると、「工程能力は不十分」と判定されるべきである。それにもかかわらず、従来の溶接工程能力指数算出方法では、当該溶接工程を「工程能力はあるが管理に注意必要」と過大評価してしまい、正確な評価を行うことができない。
そこで、本発明は、上記課題を解決するために、工程能力を正確に判断できる溶接工程能力指数算出方法、工程能力指数算出システム、及び、工程能力指数算出プログラムを提供することを目的とする。
本発明に係る溶接工程能力指数算出方法は、上記目的を達成するために、以下の構成を有する。
(1)特定の溶接工程により溶接されたワークのプラグ破断、母材破断、せん断破断に関する、溶接引っ張り強度の統計データから、該溶接工程の工程能力指数を算出する溶接工程能力指数算出方法において、統計データの分布が正規分布に対して歪む歪度を算出する歪度算出ステップと、歪度算出ステップで算出した歪度が基準値を超えているか否かを判断する歪度判断ステップと、歪度判断ステップで歪度が基準値を超えていると判断したときに、歪んだ分布の工程能力指数で工程能力を算出する第1工程能力算出ステップと、を有することを特徴とする。
(2)(1)に記載の発明において、歪度判断ステップは、ワークが母材破断又はせん断破断の少なくとも一つを含む破断を生じたときに、統計データの歪度が基準値を超えると判断することを特徴とする。
(3)(1)又は(2)に記載の発明において、第1工程能力算出ステップは、歪度と対数正規分布のパラメータとの回帰直線に、統計データの分布より求めた歪度を代入することにより、対数正規分布のパラメータを推定し、歪度と対数正規分布のパラメータ推定値とに基づいて工程能力指数を算出することを特徴とする。
(4)(1)乃至(3)の何れか一つに記載の発明において、歪度判断ステップで歪度が基準値以下であると判断したときに、正規分布と仮定した工程能力指数で工程能力を算出する第2工程能力算出ステップを有することを特徴とする。
(5)(4)に記載の発明において、第1工程能力算出ステップで算出した工程能力指数、又は、第2工程能力指数算出ステップで算出した工程能力指数を、同一の評価指標に照合して、溶接工程能力の評価を判定する判定ステップを有することを特徴とする。
(1)特定の溶接工程により溶接されたワークのプラグ破断、母材破断、せん断破断に関する、溶接引っ張り強度の統計データから、該溶接工程の工程能力指数を算出する溶接工程能力指数算出方法において、統計データの分布が正規分布に対して歪む歪度を算出する歪度算出ステップと、歪度算出ステップで算出した歪度が基準値を超えているか否かを判断する歪度判断ステップと、歪度判断ステップで歪度が基準値を超えていると判断したときに、歪んだ分布の工程能力指数で工程能力を算出する第1工程能力算出ステップと、を有することを特徴とする。
(2)(1)に記載の発明において、歪度判断ステップは、ワークが母材破断又はせん断破断の少なくとも一つを含む破断を生じたときに、統計データの歪度が基準値を超えると判断することを特徴とする。
(3)(1)又は(2)に記載の発明において、第1工程能力算出ステップは、歪度と対数正規分布のパラメータとの回帰直線に、統計データの分布より求めた歪度を代入することにより、対数正規分布のパラメータを推定し、歪度と対数正規分布のパラメータ推定値とに基づいて工程能力指数を算出することを特徴とする。
(4)(1)乃至(3)の何れか一つに記載の発明において、歪度判断ステップで歪度が基準値以下であると判断したときに、正規分布と仮定した工程能力指数で工程能力を算出する第2工程能力算出ステップを有することを特徴とする。
(5)(4)に記載の発明において、第1工程能力算出ステップで算出した工程能力指数、又は、第2工程能力指数算出ステップで算出した工程能力指数を、同一の評価指標に照合して、溶接工程能力の評価を判定する判定ステップを有することを特徴とする。
本発明に係る工程能力指数算出システムは、上記目的を達成するために、以下の構成を有する。
(6)特定の生産工程により生産された製品に関する統計データから、該生産工程の工程能力指数を算出し、工程能力指数に基づく評価結果を出力手段に出力する工程能力指数算出システムにおいて、統計データの分布が正規分布に対して歪む歪度を算出する歪度算出手段と、歪度と対数正規分布のパラメータとの関係を回帰直線として記憶する回帰直線記憶手段と、回帰直線記憶手段に記憶されている回帰直線に歪度を代入して対数正規分布のパラメータを推定し、歪度と対数正規分布のパラメータ推定値に基づいて工程能力指数を算出する第1工程能力指数算出手段と、を有することを特徴とする。
(7)(6)に記載の発明において、正規分布に仮定した工程能力指数を算出する第2工程能力指数算出手段と、歪度を基準値と比較し、歪度が基準値を超えるときに、第1工程能力指数算出手段を選択し、歪度が基準値以下であるときに、第2工程能力指数算出手段を選択する選択手段とを有することを特徴とする。
(6)特定の生産工程により生産された製品に関する統計データから、該生産工程の工程能力指数を算出し、工程能力指数に基づく評価結果を出力手段に出力する工程能力指数算出システムにおいて、統計データの分布が正規分布に対して歪む歪度を算出する歪度算出手段と、歪度と対数正規分布のパラメータとの関係を回帰直線として記憶する回帰直線記憶手段と、回帰直線記憶手段に記憶されている回帰直線に歪度を代入して対数正規分布のパラメータを推定し、歪度と対数正規分布のパラメータ推定値に基づいて工程能力指数を算出する第1工程能力指数算出手段と、を有することを特徴とする。
(7)(6)に記載の発明において、正規分布に仮定した工程能力指数を算出する第2工程能力指数算出手段と、歪度を基準値と比較し、歪度が基準値を超えるときに、第1工程能力指数算出手段を選択し、歪度が基準値以下であるときに、第2工程能力指数算出手段を選択する選択手段とを有することを特徴とする。
(8)本発明に係る工程能力指数算出プログラムは、上記目的を達成するために、以下の構成を有する。
コンピュータを用いて、特定の生産工程により生産された製品に関する統計データから、該生産工程の工程能力指数を算出する工程能力指数算出プログラムにおいて、コンピュータを、統計データの分布が正規分布に対して歪む歪度を算出し、歪度と対数正規分布のパラメータとを関係付ける回帰直線に歪度を代入して対数正規分布のパラメータを推定し、歪度と対数正規分布のパラメータ推定値に基づいて工程能力指数を算出するものとして機能させることを特徴とする。
コンピュータを用いて、特定の生産工程により生産された製品に関する統計データから、該生産工程の工程能力指数を算出する工程能力指数算出プログラムにおいて、コンピュータを、統計データの分布が正規分布に対して歪む歪度を算出し、歪度と対数正規分布のパラメータとを関係付ける回帰直線に歪度を代入して対数正規分布のパラメータを推定し、歪度と対数正規分布のパラメータ推定値に基づいて工程能力指数を算出するものとして機能させることを特徴とする。
上記構成を有する溶接工程能力算出方法、工程能力指数算出システム、及び、工程能力指数算出プログラムは、以下の作用効果を奏する。
本発明の溶接工程能力算出方法によれば、溶接されたワークのプラグ破断、母材破断、せん断破断に関する溶接引っ張り強度の統計データを取得し、統計データの分布が正規分布に対して歪む歪度を算出し、例えばワークが母材破断又はせん断破断の少なくとも一つを含む破断を生じた場合のように、歪度が基準値を超えるときに、統計データの分布が歪んだ分布であると判断し、歪んだ分布の工程能力指数で工程能力を算出することにより、歪んだ分布を正規分布に仮定して工程能力指数を算出し、溶接工程の工程能力を過大評価もしくは過小評価することがないので、溶接工程の工程能力を正確に判断することができる。
本発明の溶接工程能力算出方法によれば、溶接されたワークのプラグ破断、母材破断、せん断破断に関する溶接引っ張り強度の統計データを取得し、統計データの分布が正規分布に対して歪む歪度を算出し、例えばワークが母材破断又はせん断破断の少なくとも一つを含む破断を生じた場合のように、歪度が基準値を超えるときに、統計データの分布が歪んだ分布であると判断し、歪んだ分布の工程能力指数で工程能力を算出することにより、歪んだ分布を正規分布に仮定して工程能力指数を算出し、溶接工程の工程能力を過大評価もしくは過小評価することがないので、溶接工程の工程能力を正確に判断することができる。
また、本発明の工程能力指数算出方法によれば、歪んだ分布の工程能力指数を算出するときには、歪度と対数正規分布のパラメータとを関係付ける回帰直線に、統計データの分布より求めた歪度を代入して対数正規分布のパラメータを推定し、歪度と対数正規分布のパラメータ推定値に基づいて工程能力指数を算出することにより、歪んだ分布を対数正規分布に近似させた後、その対数正規分布を対数変換して正規分布に変換するので、統計データの分布が歪んだ分布であっても、歪みを簡単に是正して溶接工程の工程能力を評価することができる。
また、本発明の工程能力指数算出方法によれば、例えばワークがプラグ破断のみを生じた場合のように、歪度が基準値以下である場合には、正規分布と仮定した工程能力指数で工程能力を算出するので、歪度の基準値を基準にして、統計データの分布に適した工程能力指数の算出方法を選択することができる。
また、本発明の工程能力指数算出方法によれば、歪んだ分布を正規分布に変換して工程能力指数を算出するため、歪んだ分布で算出した工程能力指数と、正規分布に仮定して算出した工程能力指数とを、同一の評価指標に照合して、溶接工程能力の評価を判定するので、溶接工程能力の判定基準を均一化することができる。
また、本発明の工程能力指数算出方法によれば、歪んだ分布を正規分布に変換して工程能力指数を算出するため、歪んだ分布で算出した工程能力指数と、正規分布に仮定して算出した工程能力指数とを、同一の評価指標に照合して、溶接工程能力の評価を判定するので、溶接工程能力の判定基準を均一化することができる。
ここで、溶接工程能力指数算出方法、工程能力指数算出システム、工程能力指数算出プログラムは、同一の発明をカテゴリを変えて多面的に保護を求めるものであるから、同様の作用効果を奏する。
なお、上記発明の説明では、溶接工程の工程能力指数を算出する場合について説明したが、特定の生産工程で生産する製品の工程能力を評価する場合にも、工程能力指数算出システムや工程能力指数算出プログラムを適用することが可能である。
なお、上記発明の説明では、溶接工程の工程能力指数を算出する場合について説明したが、特定の生産工程で生産する製品の工程能力を評価する場合にも、工程能力指数算出システムや工程能力指数算出プログラムを適用することが可能である。
次に、本発明に係る溶接工程能力指数算出方法、工程能力指数算出システム、及び、工程能力指数算出プログラムの一実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、工程能力指数算出システムの概略構成図である。
本実施形態の工程能力算出システム1は、制御装置2に溶接引っ張り強度測定装置3、入力装置4、出力装置(出力手段)5が接続している。
本実施形態の工程能力算出システム1は、制御装置2に溶接引っ張り強度測定装置3、入力装置4、出力装置(出力手段)5が接続している。
図2は、溶接引っ張り強度試験方法を示す図である。
溶接引っ張り強度測定装置3は、図2に示すように、第1金属板51と第2金属板52を重ね合わせた部分を溶接(図中P部参照)したワーク(製品)53の溶接引っ張り強度を測定するものである。溶接引っ張り強度測定装置3は、第1金属板51と第2金属板52をそれぞれ把持して反対方向M1,M2へ引っ張り、ワーク53が破断したときの引っ張り強度を測定し、その測定結果を制御装置2に送信するよう構成されている。
溶接引っ張り強度測定装置3は、図2に示すように、第1金属板51と第2金属板52を重ね合わせた部分を溶接(図中P部参照)したワーク(製品)53の溶接引っ張り強度を測定するものである。溶接引っ張り強度測定装置3は、第1金属板51と第2金属板52をそれぞれ把持して反対方向M1,M2へ引っ張り、ワーク53が破断したときの引っ張り強度を測定し、その測定結果を制御装置2に送信するよう構成されている。
図3に示すように、入力装置4は、歪度の基準値など各種データを制御装置2に入力する装置である。入力装置4としては、例えば、パーソナルコンピュータ、作業者が持ち運び可能な携帯端末装置、制御装置2と無線通信可能な遠隔装置などが考えられる。
出力装置5は、工程能力判定結果などのデータや制御命令を外部に出力する装置である。出力装置5としては、例えば、工程能力判定結果に応じて警報を鳴らしたり、アナウンスを流すスピーカ、工程能力の判定結果を発光色を変えて知らせる判定結果表示ランプ、工程能力判定結果を表示するディスプレイ、工程能力判定結果を印刷するプリンタなどが考えられる。
出力装置5は、工程能力判定結果などのデータや制御命令を外部に出力する装置である。出力装置5としては、例えば、工程能力判定結果に応じて警報を鳴らしたり、アナウンスを流すスピーカ、工程能力の判定結果を発光色を変えて知らせる判定結果表示ランプ、工程能力判定結果を表示するディスプレイ、工程能力判定結果を印刷するプリンタなどが考えられる。
制御装置2は、パーソナルコンピュータやマイクロコンピュータなどのコンピュータで構成されている。制御装置2は、電源6から供給される電力で駆動する。制御装置2は、溶接引っ張り強度測定装置3、入力装置4、出力装置5に接続してデータを入出力する入出力インターフェース7を備え、その入出力インターフェース7にCPU8が接続している。CPU8は、メモリ14にデータを入出力しながら、データの加工、演算を行うものであり、サンプリング部9、演算部(歪度算出手段)10、歪度判断部(選択手段)11、工程能力指数算出部(第1工程能力指数算出手段、第2工程能力指数算出手段)12、判定部13を備える。メモリ14は、データを記憶するものであり、統計データの歪度に応じて算出式を選択し、工程能力を算出する工程能力指数プログラム15や、歪んだ分布に対する対数正規分布のパラメータσを推定するための回帰直線を記憶する回帰直線記憶部(回帰直線記憶手段)16などを備える。制御装置2は、電源6をONすると、メモリ14から工程能力指数算出プログラム15を読み出して実行する。
図3は、図1に示す工程能力指数算出システム1に格納される工程能力指数算出プログラム15のフロー図である。
工程能力算出システム1の制御装置2が工程能力指数算出プログラム15を読み出して実行すると、まず、ステップ1(以下「S1」と略記する。)において、サンプリング部9が溶接引っ張り強度測定装置3から溶接引っ張り強度に関するデータを入力して統計化し、その統計データをもとに演算部10が基本統計量を計算する。ここで、「基本統計量」とは、工程能力指数を算出するために必要な統計量をいい、例えば統計データの平均値、標準偏差、歪度などを含む。次に、S2において、歪度判断部11が、演算部10で算出された歪度を用いて正規性を検定する。「歪度」は統計データの分布が正規分布に対して歪む程度をいう。歪度は、有意水準(基準値)α(本実施形態では5%とする)と比較され、有意水準αが5%以下の場合には、正規性を有する分布であると判断し、歪度の有意水準αが5%を超える場合には、歪んだ分布であると判断する。S2において正規性を有する分布であると判断した場合には、S3に進んで、正規分布を仮定した工程能力指数で工程能力を算出し、S4において不良率を算出する。一方、S2において歪んだ分布であると判断した場合には、S5に進んで、歪んだ分布の工程能力指数で工程能力を算出し、S6において、不良率を算出する。算出された不良率は、出力装置5に出力される。
工程能力算出システム1の制御装置2が工程能力指数算出プログラム15を読み出して実行すると、まず、ステップ1(以下「S1」と略記する。)において、サンプリング部9が溶接引っ張り強度測定装置3から溶接引っ張り強度に関するデータを入力して統計化し、その統計データをもとに演算部10が基本統計量を計算する。ここで、「基本統計量」とは、工程能力指数を算出するために必要な統計量をいい、例えば統計データの平均値、標準偏差、歪度などを含む。次に、S2において、歪度判断部11が、演算部10で算出された歪度を用いて正規性を検定する。「歪度」は統計データの分布が正規分布に対して歪む程度をいう。歪度は、有意水準(基準値)α(本実施形態では5%とする)と比較され、有意水準αが5%以下の場合には、正規性を有する分布であると判断し、歪度の有意水準αが5%を超える場合には、歪んだ分布であると判断する。S2において正規性を有する分布であると判断した場合には、S3に進んで、正規分布を仮定した工程能力指数で工程能力を算出し、S4において不良率を算出する。一方、S2において歪んだ分布であると判断した場合には、S5に進んで、歪んだ分布の工程能力指数で工程能力を算出し、S6において、不良率を算出する。算出された不良率は、出力装置5に出力される。
S3において正規分布を仮定した工程能力指数で工程能力を算出する方法とは、従来技術で説明した方法である。簡単に説明すると、正規分布の平均値Suと下限値SL、パラメータσを求め、それらを図37の式に代入して工程能力指数を算出する。そして、算出した工程能力指数を図38に示す評価指標に照合し、溶接工程の工程能力を判定する。
一方、S5において歪んだ分布の工程能力指数で工程能力を算出する方法とは、歪度と対数正規分布のパラメータとの回帰直線に、溶接引っ張り強度に関する統計データの分布より求めた歪度を代入することにより、対数正規分布のパラメータを推定し、歪度と対数正規分布のパラメータ推定値とに基づいて工程能力指数を算出して、溶接工程の工程能力を判定するものであり、本発明の特徴をなす。
対数正規分布の確率密度関数は,図4に示す式で表される。パラメータμ,σの対数正規分布をLN(μ,σ)とする。μ = 0の時の対数正規分布の平均E(X)と標準偏差D(X)は,図5に示す式となる。
図6は、対数正規分布LN(0,σ)の分布形状を示す図である。図7は、対数正規分布の歪度と尖度に関する表を示す図である。
図6及び図7に示すように、μ = 0を前提としてパラメータσを変えると、対数正規分布が歪みの小さい分布から大きい分布まで変わることが分かる。
図6及び図7に示すように、μ = 0を前提としてパラメータσを変えると、対数正規分布が歪みの小さい分布から大きい分布まで変わることが分かる。
歪んだ分布における歪度β3の推定値を用いてパラメータσを推定する際には、そのバラツキが影響しにくいようなパラメータσの推定法を考える必要がある。歪度は3次のモーメントを用いているため、歪度β3の推定量はバラツキが大きくなる。対数正規分布の歪度β3は、図8に示す式により求められるものであり、モーメント法では計算が複雑で歪度β3からパラメータσを求められない。
図9は、図7に示す表の対数正規分布のパラメータσと歪度の値を用いて作成した散布図である。
歪度と対数正規分布のパラメータσの関係は、図9に示すようになり、明白な直線関係ではない。しかし、図7に示すように、対数正規分布のパラメータσと歪度β3とは、パラメータσが増加すると、歪度β3も増加する関係がある。そのため、目的変数を対数正規分布のパラメータσとし、説明変数を歪度β3として最小二乗法により回帰直線を求めることが可能である。但し、パーソナルコンピュータに格納されるエクセルなどで簡単に溶接工程の工程能力指数Cpを算出するためには、図9に示す散布図をそのままメモリ14に記憶したり、図9に示す散布図から複数の直線関係を導き出すよりも、図9に示す散布図より1種類の回帰直線を導き出して適用することが望ましい。この場合に求める回帰直線は、図7に示す表において対数正規分布のパラメータσと歪度の値をどこまで用いて回帰するかにより異なってくる。
歪度と対数正規分布のパラメータσの関係は、図9に示すようになり、明白な直線関係ではない。しかし、図7に示すように、対数正規分布のパラメータσと歪度β3とは、パラメータσが増加すると、歪度β3も増加する関係がある。そのため、目的変数を対数正規分布のパラメータσとし、説明変数を歪度β3として最小二乗法により回帰直線を求めることが可能である。但し、パーソナルコンピュータに格納されるエクセルなどで簡単に溶接工程の工程能力指数Cpを算出するためには、図9に示す散布図をそのままメモリ14に記憶したり、図9に示す散布図から複数の直線関係を導き出すよりも、図9に示す散布図より1種類の回帰直線を導き出して適用することが望ましい。この場合に求める回帰直線は、図7に示す表において対数正規分布のパラメータσと歪度の値をどこまで用いて回帰するかにより異なってくる。
図10は、対数正規分布のパラメータσの値の範囲を変えて回帰した結果及び寄与率を示す図である。図11は、図10に示す回帰直線A,B,C,Dを図9に示す散布図上に描いた図である。
本実施形態では、歪度が「2」程度までの歪んだ分布を対象とする。したがって、単純には図10及び図11に示す回帰直線Aが最適であると考えられる。しかし、歪度β3の推定値は平均や標準偏差の推定値と比べて大きくバラつくので、そのバラツキが対数正規分布のパラメータσの推定値に影響しないように、なおかつ、真値とのズレが大きくならないような回帰直線を選択する必要がある。
本実施形態では、歪度が「2」程度までの歪んだ分布を対象とする。したがって、単純には図10及び図11に示す回帰直線Aが最適であると考えられる。しかし、歪度β3の推定値は平均や標準偏差の推定値と比べて大きくバラつくので、そのバラツキが対数正規分布のパラメータσの推定値に影響しないように、なおかつ、真値とのズレが大きくならないような回帰直線を選択する必要がある。
図12は、図11に示す散布図の拡大図である。
歪度の推定値が対数正規分布のパラメータσの推定値にどの程度影響するかは,回帰直線の傾きの大きさによる。溶接の場合、溶接強度が小さいことが破断の要因になるため、対数正規分布のパラメータσが小さい領域における歪度β3のバラツキが問題となる。例えば、図12の回帰直線A,Bに示すように、同じ歪度のバラツキに対しても傾きが小さいほど対数正規分布のパラメータσへの影響が小さくなる。図10に示す表によれば、回帰直線Aの傾きが一番大きく、回帰直線B,C,Dの順に傾きが小さくなっている。よって、直線の傾きが小さいほど対数正規分布のパラメータσに与える影響を小さくなることだけを考慮すれば、回帰直線Dが最適であるとも考えられる。
歪度の推定値が対数正規分布のパラメータσの推定値にどの程度影響するかは,回帰直線の傾きの大きさによる。溶接の場合、溶接強度が小さいことが破断の要因になるため、対数正規分布のパラメータσが小さい領域における歪度β3のバラツキが問題となる。例えば、図12の回帰直線A,Bに示すように、同じ歪度のバラツキに対しても傾きが小さいほど対数正規分布のパラメータσへの影響が小さくなる。図10に示す表によれば、回帰直線Aの傾きが一番大きく、回帰直線B,C,Dの順に傾きが小さくなっている。よって、直線の傾きが小さいほど対数正規分布のパラメータσに与える影響を小さくなることだけを考慮すれば、回帰直線Dが最適であるとも考えられる。
しかし、図10に示すように、直線の傾きが小さくなるにつれて寄与率が下がっている。寄与率が下がるということは、真値からのズレが大きくなることを意味する。従って、図10に示す表の情報だけでは、どの直線が最適な直線かを判断することは難しい。そこで、シミュレーションを行って最適な回帰直線を選択する必要がある。
そこで、出願人らはシミュレーションを以下の手順で実行した。すなわち、まず、対数正規分布LN(0,σ)の乱数を発生させ、次に、データより歪度を推定し、その後、データより推定した歪度を用いて図10に示す回帰直線A,B,C,Dにより対数正規分布のパラメータσを推定する。これら一連の試験を5000回繰り返す。
本実施形態では、歪度が「2」程度までの分布を対象とするので、対数正規分布のパラメータσは0.1〜0.5とする。試験で求めた対数正規分布のパラメータσの推定値がどの程度真値σに近く、かつ、バラツキが小さいかを測りたいので、評価は平均二乗誤差(以下「MSE」という。)を用いて行った。MSEは,シミュレーションの第i試行の結果をσiとすると、図13に示す式で定義される。図13に示す式で定義づけられるMSEは、推定量の真値からのズレとバラツキの両方を考慮したものであり,偏りのある推定量の精度を表す。
本実施形態では、歪度が「2」程度までの分布を対象とするので、対数正規分布のパラメータσは0.1〜0.5とする。試験で求めた対数正規分布のパラメータσの推定値がどの程度真値σに近く、かつ、バラツキが小さいかを測りたいので、評価は平均二乗誤差(以下「MSE」という。)を用いて行った。MSEは,シミュレーションの第i試行の結果をσiとすると、図13に示す式で定義される。図13に示す式で定義づけられるMSEは、推定量の真値からのズレとバラツキの両方を考慮したものであり,偏りのある推定量の精度を表す。
図14は、シミュレーションの結果を示す図である。図15は、図14に示すシミュレーション結果をグラフにしたものである。
図14及び図15から分かるように、回帰直線Cは、パラメータσの0.1〜0.5の領域内で平均して、MSEが他の回帰直線A,B,Dより小さく、歪度β3の推定誤差に対して最もロバストであることが判明した。よって、本実施形態では、図16に示す式(回帰直線C)を用いて対数正規分布のパラメータσを推定することにし、図16に示す回帰直線を回帰直線記憶部16に記憶している。
図14及び図15から分かるように、回帰直線Cは、パラメータσの0.1〜0.5の領域内で平均して、MSEが他の回帰直線A,B,Dより小さく、歪度β3の推定誤差に対して最もロバストであることが判明した。よって、本実施形態では、図16に示す式(回帰直線C)を用いて対数正規分布のパラメータσを推定することにし、図16に示す回帰直線を回帰直線記憶部16に記憶している。
次に、歪度β3と回帰直線Cを用いて推定した対数正規分布のパラメータσを用いて、歪んだ分布を対数正規分布へ変換する。
まず最初に、正規分布に対して右(上側)に歪んだ分布に対して、上側にのみ規格が存在する場合を考える。
まず最初に、正規分布に対して右(上側)に歪んだ分布に対して、上側にのみ規格が存在する場合を考える。
歪んだ分布の上側規格SUを対数正規分布のパーセント点に変換する。対数正規分布へ図16に示す式より求まる対数正規分布のパラメータσと歪んだ分布の平均Xbar、標準偏差Sxを用いて、歪んだ分布の上側規格SUを図17に示す式のように変換する。
対数正規分布LN(0,σ)を対数変換すると正規分布N(0,σ)に変換されることから、図17に示す式で表される対数正規分布のパーセント点を対数変換すると、正規分布N(0,σ)のパーセント点に変換される。したがって、歪んだ分布の工程能力指数Cpは、図16及び図17に示す式を用いて、図18に示す式で求められる。
対数正規分布LN(0,σ)を対数変換すると正規分布N(0,σ)に変換されることから、図17に示す式で表される対数正規分布のパーセント点を対数変換すると、正規分布N(0,σ)のパーセント点に変換される。したがって、歪んだ分布の工程能力指数Cpは、図16及び図17に示す式を用いて、図18に示す式で求められる。
右(上側)に歪んだ分布に対して、上側にのみ規格が存在する場合の提案する方法の手順を以下に示す。
まず、引っ張り強度測定装置3からサンプリングして統計化した統計データを入力して、図19に示す式に代入し、平均値Xbarを求める。また、引っ張り強度測定装置3からサンプリングして統計化した統計データや図19に示す式より算出した平均値Xbarを図20に示す式に代入し、標準偏差Sxを求める。また、引っ張り強度測定装置3からサンプリングした統計化した統計データや図19に示す式より算出した平均値Xbarを図21に示す式に代入し、歪度β3の推定値を求める。ここで、図19〜図21に示すnはサンプル数である。サンプル数については後述する。
次に、図16に示す式に、図21に示す式より求めた歪度β3の推定値を代入して、対数正規分布のパラメータσを推定する。
次に、上記手順で求めた値Xbar、Sxや歪度β3、パラメータσの推定値を図18に示す式に代入して工程能力指数を求める。
まず、引っ張り強度測定装置3からサンプリングして統計化した統計データを入力して、図19に示す式に代入し、平均値Xbarを求める。また、引っ張り強度測定装置3からサンプリングして統計化した統計データや図19に示す式より算出した平均値Xbarを図20に示す式に代入し、標準偏差Sxを求める。また、引っ張り強度測定装置3からサンプリングした統計化した統計データや図19に示す式より算出した平均値Xbarを図21に示す式に代入し、歪度β3の推定値を求める。ここで、図19〜図21に示すnはサンプル数である。サンプル数については後述する。
次に、図16に示す式に、図21に示す式より求めた歪度β3の推定値を代入して、対数正規分布のパラメータσを推定する。
次に、上記手順で求めた値Xbar、Sxや歪度β3、パラメータσの推定値を図18に示す式に代入して工程能力指数を求める。
ここで、簡単な数値例を与えて右に歪んだ分布の工程能力を算出する方法を説明する。図22〜図24は、本実施形態である溶接工程能力指数算出方法の上限規格の変化を示す図である。
図22に示すように、例えば、溶接引っ張り強度の統計データの分布が、自由度3のχ2分布に従っていて、上側規格12が与えられているとする。自由度3のχ2分布の平均Xbarは図19に示す式より「3」と求められ、標準偏差Sxは図20に示す式より「2.45」と求められ、歪度β3は図21に示す式より「1.63」と求められる。このようにして求めた値Xbar(3)、Sx(2.45)、β3(1.63)を図37に示す式に当てはめると、正規分布を仮定した工程能力指数Cpとして「1.22」という値が得られる。
図22に示すように、例えば、溶接引っ張り強度の統計データの分布が、自由度3のχ2分布に従っていて、上側規格12が与えられているとする。自由度3のχ2分布の平均Xbarは図19に示す式より「3」と求められ、標準偏差Sxは図20に示す式より「2.45」と求められ、歪度β3は図21に示す式より「1.63」と求められる。このようにして求めた値Xbar(3)、Sx(2.45)、β3(1.63)を図37に示す式に当てはめると、正規分布を仮定した工程能力指数Cpとして「1.22」という値が得られる。
一方、歪んだ分布の工程能力指数で工程能力を算出する方法では、歪度β3が図21に示す式より「1.63」と求められ、この歪度β3を図16に示す式に代入すると、対数正規分布のパラメータσが「0.39」と推定される。また、図17に示す式より求められる上側規格は「2.69」と求められる。これにより、図22に示す歪んだ分布が図23に示す対数正規分布に近似される。図23に示す対数正規分布を対数変換すると、図24に示すように、上限規格が「0.99」と求められる。したがって、歪んだ分布の工程能力指数で工程能力を算出する方法より求められる工程能力指数は、対数正規分布のパラメータσの推定値(0.39)と上側規格(0.99)を図18に示す式に代入することにより、「0.84」と求められる。
自由度3のχ2分布のパーセント点12より求められる不良率の実測値は0.74%であり、不良率0.74%に対応する正規分布を仮定した工程能力指数は「0.81」となる。したがって、正規分布を仮定した工程能力指数は、「1.22」であり、実際の工程能力を過大評価するのに対し、歪んだ分布で算出した工程能力指数は、「0.87」であり、実際の工程能力に近い状態で評価できる。従って、本実施形態の溶接工程能力指数算出方法、工程能力指数算出システム1、工程能力算出プログラム15によれば、歪んだ分布の工程能力指数が、歪みによる過大評価を是正していることが分かる。
次に、左(下側)に歪んだ分布に対して下側規格SLのみ存在する場合について考える。この場合は、対数正規分布のパラメータσを図25に示す式より推定し、下側規格SLを図26に示す式で対数正規分布の上側規格に変換して、工程能力指数を図27に示す式で求める。なお、図25〜図27に示す式に代入する平均値Xbar、標準偏差Sx、歪度β3の推定値、パラメータσの推定値などは、右(上側)に歪んだ分布で工程能力指数を算出する場合と同様であるので、説明を省略する。
ここで、簡単な数値例を与えて左に歪んだ分布の工程能力を算出する方法を説明する。図28は、データから作ったヒストグラムを示す図である。
図28に示すヒストグラムの下側規格が「50」で与えられたと仮定して、図3に示すプログラムの手順に沿って工程能力指数を計算する。
まず、サンプリングしたデータより、基本統計量となる平均Xbar、標準偏差Sx、歪度β3を図19、図20、図21に示す式に基づいて計算する。このとき、歪度β3が「-1.6」であると推定する(図3のS1参照)。図28に示すヒストグラムより、データ分布が有意水準5%を超えて左に歪んでいる場合には(S2:歪んだ分布と判定)、図25の式より対数正規分布のパラメータσを推定する。すなわち、推定した歪度「-1.6」を図25に示す式に代入して対数正規分布のパラメータσを「0.39」と推定する。そして、平均値Xbar、標準偏差Sx、歪度β3、対数正規分布のパラメータσの推定値を図27の式に代入することにより、工程能力指数Cpを「0.96」と算出する(図3のS5参照)。これを図38に示す評価指数に照合すると、工程能力指数Cp「0.96」が「1より小さい」ので、「工程能力は不十分」と判定する(図3のS6参照)。
図28に示すヒストグラムの下側規格が「50」で与えられたと仮定して、図3に示すプログラムの手順に沿って工程能力指数を計算する。
まず、サンプリングしたデータより、基本統計量となる平均Xbar、標準偏差Sx、歪度β3を図19、図20、図21に示す式に基づいて計算する。このとき、歪度β3が「-1.6」であると推定する(図3のS1参照)。図28に示すヒストグラムより、データ分布が有意水準5%を超えて左に歪んでいる場合には(S2:歪んだ分布と判定)、図25の式より対数正規分布のパラメータσを推定する。すなわち、推定した歪度「-1.6」を図25に示す式に代入して対数正規分布のパラメータσを「0.39」と推定する。そして、平均値Xbar、標準偏差Sx、歪度β3、対数正規分布のパラメータσの推定値を図27の式に代入することにより、工程能力指数Cpを「0.96」と算出する(図3のS5参照)。これを図38に示す評価指数に照合すると、工程能力指数Cp「0.96」が「1より小さい」ので、「工程能力は不十分」と判定する(図3のS6参照)。
一方、図28に示す歪んだ分布を正規分布と仮定して工程能力指数Cpを算出すると、工程能力指数Cpは「1.5」と算出される。この工程能力指数Cpを図38に示す評価指数に照合すると、工程能力指数Cp「1.5」が「1.33より大きい」ので、「工程能力は十分満足している」と過大評価される。
従って、本実施形態の溶接工程能力指数算出方法、工程能力指数算出システム1、工程能力算出プログラム15によれば、歪んだ分布の工程能力指数が、歪みによる過大評価を是正していることが分かる。
従って、本実施形態の溶接工程能力指数算出方法、工程能力指数算出システム1、工程能力算出プログラム15によれば、歪んだ分布の工程能力指数が、歪みによる過大評価を是正していることが分かる。
ところで、工程能力指数を算出する場合、どれだけのサンプリング値をサンプリングすればよいか問題となる。計算速度、データ取得時間等を考慮すれば、サンプリング値の数はできるだけ少ないことが望ましい。
正規分布を仮定した工程能力指数では、通常、統計データを「30〜50個」程度サンプリングすることが多い。図29は、シミュレーション回数「2000」、サンプル数「30」として正規分布に正規分布を仮定した工程能力指数を適用した時のシミュレーション結果を示す図である。図30は、シミュレーション回数「2000」、サンプル数「50」として正規分布に正規分布を仮定した工程能力指数を適用した時のシミュレーション結果を示す図である。
シミュレーションでは、歪んだ分布の工程能力指数を算出する方法を説明した場合と同様、工程能力指数Cpの真値が「1.3」の時の値を用いて評価する。サンプル数「30」の時の精度を要求するとすれば、図29のR1に示すように、MSEは「0.0374」となる。また、サンプル数「50」の時の精度を要求するならば、図30のR2に示すように、MSEは「0.0207」となる。従って、サンプル数が多いほど、精度の高い評価をすることが可能である。
正規分布を仮定した工程能力指数では、通常、統計データを「30〜50個」程度サンプリングすることが多い。図29は、シミュレーション回数「2000」、サンプル数「30」として正規分布に正規分布を仮定した工程能力指数を適用した時のシミュレーション結果を示す図である。図30は、シミュレーション回数「2000」、サンプル数「50」として正規分布に正規分布を仮定した工程能力指数を適用した時のシミュレーション結果を示す図である。
シミュレーションでは、歪んだ分布の工程能力指数を算出する方法を説明した場合と同様、工程能力指数Cpの真値が「1.3」の時の値を用いて評価する。サンプル数「30」の時の精度を要求するとすれば、図29のR1に示すように、MSEは「0.0374」となる。また、サンプル数「50」の時の精度を要求するならば、図30のR2に示すように、MSEは「0.0207」となる。従って、サンプル数が多いほど、精度の高い評価をすることが可能である。
図31は、工程能力指数Cpの真値が所定値(本実施形態では「1.3」)の時、歪んだ分布の工程能力指数で工程能力を算出する方法のサンプル数を「50」,「75」,「100」,「125」,「150」と変えた時のMSEを示す図である。シミュレーション回数はいずれも「2000回」であるとする。
本実施形態における歪んだ分布の工程能力指数で工程能力を算出する方法は、図31に示すように、正規分布に通常の工程能力指数Cpをサンプル数30で用いた時の精度(MSE「0.0374」(図29のR1参照))を、サンプル数「50」では満たせないが、サンプル数「75」ではほぼ全ての分布において満たすことが可能である。しかし、本実施形態における歪んだ分布の工程能力指数で工程能力を算出する方法は、図31に示すように、サンプル数50で用いた時の精度(MSE=0.0207(図30のR2参照))を、サンプル数を150取っても全ての分布で満たすことができない。これは、χ分布において、サンプル数を100以上にしても分散はさほど小さくならず、バイアスが大きくなって行くだけとなるからである。よって、本実施形態における歪んだ分布の工程能力指数で工程能力を算出する方法では、サンプル数を50より多く100未満の範囲内で設定することが望ましい。本実施形態ではサンプル数を75回に設定している。
本実施形態における歪んだ分布の工程能力指数で工程能力を算出する方法は、図31に示すように、正規分布に通常の工程能力指数Cpをサンプル数30で用いた時の精度(MSE「0.0374」(図29のR1参照))を、サンプル数「50」では満たせないが、サンプル数「75」ではほぼ全ての分布において満たすことが可能である。しかし、本実施形態における歪んだ分布の工程能力指数で工程能力を算出する方法は、図31に示すように、サンプル数50で用いた時の精度(MSE=0.0207(図30のR2参照))を、サンプル数を150取っても全ての分布で満たすことができない。これは、χ分布において、サンプル数を100以上にしても分散はさほど小さくならず、バイアスが大きくなって行くだけとなるからである。よって、本実施形態における歪んだ分布の工程能力指数で工程能力を算出する方法では、サンプル数を50より多く100未満の範囲内で設定することが望ましい。本実施形態ではサンプル数を75回に設定している。
以上説明した通り、本実施形態の溶接工程能力指数算出方法によれば、溶接されたワーク53のプラグ破断(図32参照)、母材破断(図33参照)、せん断破断(図34参照)に関する溶接引っ張り強度の統計データの分布が正規分布に対して歪む歪度を算出し(図3のS1参照)、ワーク53が母材破断又はせん断破断の少なくとも一つを含む破断を生じた場合(具体的には、せん断破断のみの場合とプラグ破断とせん断破断が混ざった場合、母材破断とプラグ破断が混ざった場合、母材破断とせん断破断が混ざった場合、母材破断のみの場合)のように、歪度が有意水準5%(基準値)を超えるときに(例えば図36参照)、統計データの分布が歪んだ分布であると判断し(図3のS2参照)、歪んだ分布の工程能力指数で工程能力を算出することにより(図3のS5参照)、歪んだ分布を正規分布に仮定して工程能力指数を算出し、溶接工程の工程能力を過大評価もしくは過小評価することがないので、溶接工程の工程能力を正確に判断することができる。
また、本実施形態の溶接工程能力指数算出方法によれば、歪んだ分布の工程能力指数を算出するときには、歪度β3と対数正規分布のパラメータσとを関係付ける回帰直線(図16参照)に、統計データの分布より求めた歪度β3を代入して対数正規分布のパラメータσを推定し、歪度β3と対数正規分布のパラメータσの推定値に基づいて工程能力指数Cpを算出することにより(図18参照)、歪んだ分布を対数正規分布に近似させた後(図22、図23参照)、その対数正規分布を対数変換して正規分布に変換するので(図24参照)、統計データの分布が歪んだ分布であっても、歪みを簡単に是正して溶接工程の工程能力を評価することができる。
また、本実施形態の溶接工程能力指数算出方法によれば、ワーク53がプラグ破断(図32参照)のみを生じた場合のように、歪度β3が基準値以下である場合には(例えば図35参照)、正規分布と仮定した工程能力指数Cpで工程能力を算出するので(図3のS2、S3参照)、歪度β3の基準値を基準にして、統計データの分布に適した工程能力指数Cpの算出方法を選択することができる。
また、本実施形態の溶接工程能力指数算出方法によれば、歪んだ分布を正規分布に変換して工程能力指数Cpを算出するため、歪んだ分布で算出した工程能力指数Cpと、正規分布に仮定して算出した工程能力指数Cpとを、同一の評価指標に照合して、溶接工程能力の評価を判定するので(図38参照)、溶接工程能力の判定基準を均一化することができる。
また、本実施形態の溶接工程能力指数算出方法によれば、歪んだ分布を正規分布に変換して工程能力指数Cpを算出するため、歪んだ分布で算出した工程能力指数Cpと、正規分布に仮定して算出した工程能力指数Cpとを、同一の評価指標に照合して、溶接工程能力の評価を判定するので(図38参照)、溶接工程能力の判定基準を均一化することができる。
なお、溶接工程能力指数算出方法、工程能力指数算出システム1、工程能力指数算出プログラム15は、同一の発明をカテゴリを変えて多面的に保護を求めるものであるから、同様の作用効果を奏する。
尚、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されることなく、色々な応用が可能である。
また、上記実施形態では、溶接工程の工程能力指数を算出する場合について説明したが、特定の生産工程で生産する製品の工程能力を評価する場合にも、工程能力指数算出システム1や工程能力指数算出プログラム15を適用することができる。
また、上記実施形態では2枚の金属板51,52を重ね合わせて溶接したワーク53を対象としているが、3個以上の部材を溶接したワークを対象にしてもよい。
また、上記実施形態では、溶接工程の工程能力指数を算出する場合について説明したが、特定の生産工程で生産する製品の工程能力を評価する場合にも、工程能力指数算出システム1や工程能力指数算出プログラム15を適用することができる。
また、上記実施形態では2枚の金属板51,52を重ね合わせて溶接したワーク53を対象としているが、3個以上の部材を溶接したワークを対象にしてもよい。
1 工程能力指数算出システム
5 出力装置(出力手段)
9 サンプリング部
10 演算部(歪度算出手段)
11 歪度判断部(選択手段)
12 工程能力指数算出(第1工程能力指数算出手段、第2工程能力指数算出手段)
13 判定部
14 工程能力指数算出プログラム
15 回帰直線記憶部(回帰直線記憶手段)
5 出力装置(出力手段)
9 サンプリング部
10 演算部(歪度算出手段)
11 歪度判断部(選択手段)
12 工程能力指数算出(第1工程能力指数算出手段、第2工程能力指数算出手段)
13 判定部
14 工程能力指数算出プログラム
15 回帰直線記憶部(回帰直線記憶手段)
Claims (8)
- 特定の溶接工程により溶接されたワークのプラグ破断、母材破断、せん断破断に関する、溶接引っ張り強度の統計データから、該溶接工程の工程能力指数を算出する溶接工程能力指数算出方法において、
前記統計データの分布が正規分布に対して歪む歪度を算出する歪度算出ステップと、
前記歪度算出ステップで算出した歪度が基準値を超えているか否かを判断する歪度判断ステップと、
前記歪度判断ステップで歪度が基準値を超えていると判断したときに、歪んだ分布の工程能力指数で工程能力を算出する第1工程能力算出ステップと、を有することを特徴とする溶接工程能力指数算出方法。 - 請求項1に記載する溶接工程能力指数算出方法において、
前記歪度判断ステップは、
前記ワークが前記母材破断又は前記せん断破断の少なくとも一つを含む破断を生じたときに、前記統計データの歪度が基準値を超えると判断することを特徴とする溶接工程能力指数算出方法。 - 請求項1又は請求項2に記載する溶接工程能力指数算出方法において、
前記第1工程能力算出ステップは、
歪度と対数正規分布のパラメータとの回帰直線に、前記統計データの分布より求めた歪度を代入することにより、対数正規分布のパラメータを推定し、前記歪度と前記対数正規分布のパラメータ推定値とに基づいて工程能力指数を算出することを特徴とする溶接工程能力指数算出方法。 - 請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載する溶接工程能力指数算出方法において、
前記歪度判断ステップで歪度が基準値以下であると判断したときに、正規分布と仮定した工程能力指数で工程能力を算出する第2工程能力算出ステップを有することを特徴とする溶接工程能力指数算出方法。 - 請求項4に記載する溶接工程能力指数算出方法において、
第1工程能力算出ステップで算出した工程能力指数、又は、前記第2工程能力指数算出ステップで算出した工程能力指数を、同一の評価指標に照合して、溶接工程能力の評価を判定する判定ステップを有することを特徴とする溶接工程能力指数算出方法。 - 特定の生産工程により生産された製品に関する統計データから、該生産工程の工程能力指数を算出し、前記工程能力指数に基づく評価結果を出力手段に出力する工程能力指数算出システムにおいて、
前記統計データの分布が正規分布に対して歪む歪度を算出する歪度算出手段と、
歪度と対数正規分布のパラメータとの関係を回帰直線として記憶する回帰直線記憶手段と、
前記回帰直線記憶手段に記憶されている回帰直線に前記歪度を代入して対数正規分布のパラメータを推定し、前記歪度と対数正規分布のパラメータ推定値に基づいて工程能力指数を算出する第1工程能力指数算出手段と、を有することを特徴とする工程能力指数算出システム。 - 請求項6に記載する工程能力指数算出システムにおいて、
正規分布に仮定した工程能力指数を算出する第2工程能力指数算出手段と、
前記歪度を基準値と比較し、前記歪度が基準値を超えるときに、前記第1工程能力指数算出手段を選択し、前記歪度が基準値以下であるときに、前記第2工程能力指数算出手段を選択する選択手段とを有することを特徴とする工程能力指数算出システム。 - コンピュータを用いて、特定の生産工程により生産された製品に関する統計データから、該生産工程の工程能力指数を算出する工程能力指数算出プログラムにおいて、
前記コンピュータを、前記統計データの分布が正規分布に対して歪む歪度を算出し、歪度と対数正規分布のパラメータとを関係付ける回帰直線に前記歪度を代入して対数正規分布のパラメータを推定し、前記歪度と対数正規分布のパラメータ推定値に基づいて工程能力指数を算出するものとして機能させることを特徴とする工程能力指数算出プログラム。
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