JP2006290783A - 超分子錯体、ポリリン酸化合物検出用プローブ及びそれを用いたポリリン酸化合物検出方法並びに、シグナル伝達阻害剤 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 下記式で表されるサイクレン環含有錯体とルテニウムなどリンカー原子よりなる超分子錯体。
式中、A1及びA2は、リンカー原子に配位可能な含窒素環を表す。
【選択図】 なし
Description
今日までに、カルシウムイオンに対する多くの蛍光プローブが開発されており、細胞内の遊離カルシウムイオン濃度の上昇に伴う細胞内現象を研究するために用いられてきた。しかしながら、IP3は発色団を有していないため、IP3及び関連するリン酸に対する生物学的及び化学的検知システムはごくわずかしかない。
化学的IP3センサーとしては、非蛍光レセプターと5−カルボキシフルオレセイン(5−CF)の組み合わせを用いた置換主体アッセイシステムが開発されている(非特許文献2及び3)。このシステムでは、グアニジニウムカチオンを有するC3対称性リセプターが5−CFに強く結合すると共に、IP3にも結合する。5−CFの蛍光発光は1:1コンプレックスを形成すると増強するが、IP3が存在すると5−CFがIP3と置換し、蛍光発光が弱くなって、この減少幅からIP3の検出が可能となる。
従って、本発明の目的は、ポリリン酸化合物を直接かつ選択的に捕捉し精度よく検出可能な検出用プローブ及び検出方法を提供することである。また、このような化合物を利用したシグナル伝達阻害剤を提供することである。
X(Z)m ・・・・(I)
式中、Xは、ルテニウム、ロジウム、鉄、ニッケル、コバルト、ランタノイドイオンからなる群から選択されたリンカー原子であり、Zは、含窒素環を介してリンカー原子に配位する下記式(II)で表されるサイクレン環含有錯体であり、mは2から3までの整数を表す。
また、前記サイクレン環錯体において、前記Zが下記式(III)で表される化合物であり、且つ前記mが3であることが好ましい。
本発明のポリリン酸化合物の検出方法は、上記一般式(I)で表されるポリリン酸化合物検出用プローブを用いることを特徴としている。
本発明のシグナル伝達阻害剤は、上記一般式(I)で表されるサイクレン環含有超分子錯体を含むものである。
また、本発明の超分子錯体はリン酸基に対して強い結合力を有するので、細胞内シグナル伝達機構における重要な役割を担っているイノシトール三リン酸(IP3)などのポリリン酸化合物に対して強く結合し、その作用を阻害する。その結果、シグナル伝達そのものを阻害することができる。
X(Z)m ・・・・(I)
式中、Xは、ルテニウム、ロジウム、鉄、ニッケル、コバルト、ランタノイドイオンからなる群から選択されたリンカー原子であり、Zは、含窒素環を介してリンカー原子に配位する下記式(II)で表されるサイクレン環含有錯体であり、mは2から3までの整数を表す。
本超分子錯体は、式中Zで表される複数の超分子錯体を、リンカー原子によって連結した構造を有している(図1参照)。
A1及びA2は同じであっても異なってもよいが、合成効率の観点から同じであることが好ましい。
また式(II)中のp及びqは、本発明の化合物における連結部の長さを決定する繰り返し単位の数であり、それぞれ独立に、合成効率及び生理活性の観点から1〜2の整数を示し、合成効率、IP3に対する選択的識別の観点から1であることが特に好ましい。
超分子錯体に含まれる複数のサイクレン環含有錯体は互いに、同一であっても異なってもよい。
なお、m=2の場合には、リンカー原子に配位可能な窒素原子の数(6)を満たすように他の含窒素化合物を組み合わせてもよい。
まず、2,2’−ビピリジル誘導体と、4つの窒素原子のうち3つをt−ブチルオキシカルボニル(Boc)で保護されたサイクレン誘導体とを反応させ、脱保護した後、亜鉛(II)イオンを加えることにより、サイクレン環含有錯体(Zn2L4)を得る。次いで、得られたサイクレン環含有錯体(Zn2L)に、ハロゲン化ルテニウム化合物またはその誘導体を加熱しながら添加し、サイクレン環含有錯体とルテニウム化合物を3:1で反応させ、本発明の超分子錯体(Ru(Zn2L4)3)を得ることができる。
或いは、保護基を有するサイクレン環含有錯体をそのまま、ハロゲン化ルテニウム化合物と3:1で反応させた後に脱保護を行い、本発明の超分子錯体を得ることもできる。
超分子錯体では、前述したように、超分子錯体に含まれるサイクレン環含有錯体の数(一般式(I)中のm)に対応したサイクレン環が超分子錯体の一方の面に配置される。この結果、検出対象のポリリン酸化合物を錯体の上面及び下面において合計2つのポリリン酸化合物と結合することができる。
特に、前述したようにサイクレン環含有錯体を3つ有する超分子錯体では、6個のサイクレン環をそれぞれ3つずつ、超分子錯体の一方の面に有する(図1参照)。このとき、この面に配置された3つのサイクレン環間の距離と、3つのリン酸基を有するポリリン酸化合物、特にIP3におけるリン酸基の距離とが一致するため、非常に効率よく、2つのIP3と結合する。従って、本超分子錯体は、このようなポリリン酸化合物、特にIP3に対して精度よい検出用プローブとして非常に有効である。
これにより、例えば細胞内のポリリン酸を直接、精度よく検出することができる。
ポリリン酸化合物の検出を行うには、上記一般式(I)で表される超分子錯体を試料に対して適量添加すること及び検出用プローブに応じた指標に基づいて検出をすることによって、容易に検出することができる。例えば、発色性の鉄等の原子をX原子として含む検出用プローブの場合には、発色の程度によってポリリン酸化合物を容易に検出することができる。
上述したように、本超分子錯体は、ポリリン酸化合物に対して強い結合力を有するので、細胞内に存在し、特定の生理活性を有するポリリン酸化合物に結合すると、その生理活性を阻害することができる。特に、細胞内シグナル伝達機構に関与するポリリン酸に結合することによって、細胞内シグナル伝達機構そのものを阻害することができる。
シグナル伝達阻害剤として用いる場合には、本超分子錯体を、有効量、例えば、1μM〜1mMの濃度で試料に添加すればよい。
また、本シグナル伝達阻害剤は、本超分子錯体のみで構成してもよく、対象物の種類によって各種の添加剤を含めてもよい。
超分子錯体の合成
本発明の化合物の合成方法を、代表的な化合物を例に、以下に説明する。実施例中の化合物番号は、下記のスキーム中の化合物番号に対応している。
なお、IRスペクトルは、室温でホリバ FTIR-710 スペクトロフォトメータを用いて記録した。油状サンプルのIRスペクトルは、IRカード(3M、タイプ62、ポリテトラフルオロエチレン19mmアパチャー)において実施した。1H(500MHz)、13C(125MHz)及び31P(200MHz)NMRスペクトルは、35±0.1℃で、JEOL Delta 500 スペクトロメータを用いて記録した。元素分析には、Perkin-Elmer CHN 2400 アナライザーを用いて行った。薄層(TLC)及びシリカゲルカラムクロマトグラフィーは、Merck 5554(シリカゲル) TLC プレート及びFuji silysia Chemical FL-100Dをそれぞれ使用した。
(1) [5,5’−ビス(4,7,10−トリス(tert−ブチルオキシカルボニル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1−イルメチル]−2,2’−ビピリジン[16]の合成
1,4,7−トリス(tert−ブチルオキシカルボニル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン[15](J. Am. Chem. Soc. 1997, Vol.119, p.3068-3076)(3.3g,7.0mmol)を、5,5’−ビス(ブロモメチル)−2,2’−ビピリジル[14](1.1g,3.2mmol)及びNa2CO3(1.7g,16.0mmol)の混合物を、70℃で一晩撹拌した。不溶性の無機物を濾去した後、濾液を減圧留去した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(溶出液:ヘキサン:AcOEt=1:3)で分離精製し、無色のアモルファス固体として得た(2.69g,63%収率)。
47%のHBr(30mL)をゆっくりと、メタノール(40mL)中の[16]の溶液(2.0g、1.74mmol)に0℃で添加した。室温で一晩撹拌した後、反応液を減圧下で濃縮した。得られた粗粉末を20%HBr水溶液によって結晶化し、無色の粉末として[17]を得た(1.85g、90%収率)。融点:221−222℃。
17・7HBr・5H2O(1.6g、1.35mmol)の水溶液(10mL)を1NのNaOH溶液でpH>12に調整した。このアルカリ溶液をCHCl3によって抽出した(50mL)。複合有機相を無水Na2SO4において乾燥し、精製して、減圧下で濃縮した。残渣をEtOH/H2O(1/1、5mL)に溶解して、これにエタノール中のZn(NO3)2・6H2Oの溶液を添加した。この溶液を、一晩70℃で撹拌し、溶媒を留去した後、残渣をH2O/EtOHで結晶化して、無色粉末として[8]を得た(1.2g、90%収率)。融点は250℃以上であった。
[8]・4NO3・5H2O・EtOH(0.4g、0.38mmol)と、EtOH/H2O(1:1、40mL)中のRu(DMSO)4Cl2(62mg、0.13mmol、J. Chem. Soc. Dalton Trans., 1973, p.204-209)の混合物を80℃で3日間撹拌した。反応液を冷却して濾過した後、濾過物を減圧下で濃縮した。残渣粉末をEtOH/H2O(100mgのNaNO3を含有)によって1週間にわたり再結晶化して、本実施例にかかる超分子錯体[9]・14(NO3)・21H2O・3EtOHをオレンジ粉末として得た(186mg、42%収率)。融点は250℃以上。
(1) [16]からのトリス[5,5’−[(4,7,10−トリス(tert−ブチルオキシカルボニル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1−イルメチル)]−2,2’−ビピリジン]ルテニウム(II)二亜鉛([18]・Cl2)の合成
[16](1.15g、1.0mmol)とRu(DMSO)4Cl2(150mg、0.31mmol)をエタノール(75mL)に溶解して、5日間還流し、減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(溶出液:ヘキサン:AcOEtで分離精製し、赤色のアモルファス固体として[18]・Cl2を得た(1.1g,97%収率)。
47%のHBr(5mL)をゆっくりと、メタノール(20mL)中の[18]・Cl2の溶液(784mg、0.22mmol)に、アルゴン雰囲気下、0℃で添加した。室温で一晩撹拌した後、反応液を減圧下で濃縮した。残渣をH2O/EtOHで再結晶化して、オレンジの粉末として[19]・Br2・21HBrを得た(551mg、71%収率)。融点:>250℃。
[19]・Br2・21HBr(350mg、0.0099mmol)を、イオン交換樹脂(IRA−400、HO-フォーム)を通して酸フリー型に転換した。得られた酸フリー[18]をエタノール(15mL)に溶かし、この溶液に、エタノール(10mL)中のZn(NO3)2・6H2O(206mg。0.69mmol)を添加し、一日室温で撹拌した。反応混合物を減圧下で濃縮し、残渣をEtOH/H2Oで再結晶化して、オレンジの粉末として[9]・14(NO3)・21H2O・3EtOHを得た(246mg、72%収率)。
超分子錯体によるUV吸収
実施例1で合成された超分子錯体(Ru(Zn2L4)3)の蛍光特性について調べた。
ポリリン酸化合物としては、下記に示されるシクロヘキサントリオール三リン酸(CTP3)を用いた。CTP3は、以下のようにして合成したものを使用した。ジベンジル−N,N−ジイソプロピルホスホルアミダイト(3.70g、10.7mmol)を、CH2Cl2(3mL)中のcis,cis−1,3,5−シクロヘキサントリオール(アルドリッヒ社製、300mg、1.78mmol)及び1−H−テトラゾール(1.112g、16.0mmol)の懸濁液に添加し、3時間後に反応溶液を−40℃まで冷やし、m−CPBAの溶液(2.77g、15.05mmol)に滴下した。反応溶液を、5%Na2S2O3水溶液及び飽和NaHCO3で数回洗浄したのちに、有機抽出物を飽和NaClで、乾燥して、精製し、得られた有機相を減圧下で除去して得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフで精製して、無色油状物質としてcis,cis−1,3,5−シクロヘキサントリオールのトリス(ジベンジルリン酸)エステル)を得た。この化合物をメタノール(5mL)に溶解し、10%パラジウム-炭素(20mg)を加えたのち、水素ガス雰囲気下、室温で10時間攪拌した。パラジウム-炭素をセライトで濾去した後、濾液を減圧下濃縮した。残渣を極少量の水に溶解し、1NのNaOH水溶液(6等量)を加え、減圧下濃縮し、939mg(86%)のシクロヘキサントリオール三リン酸(CTP3)[23]を無色粉末化合物として得た。
また、超分子錯体Ru(Zn2L4)3とCTP3との錯体化は、図4に示されるように、584nmの発光を生じる。このとき、非結合状態での発光が610nmであるため、CTP3の結合に伴って発光が変化した。このため、蛍光発光のピークを調べることによって精度よくポリリン酸化合物の検出を行うことができることが明らかとなった。また、この発光強度はCTP3の量に依存して強度が上昇する。従って、定量的な検出についても、本超分子錯体Ru(Zn2L4)3が有効であることが明らかとなった。
超分子錯体Ru(Zn2L4)3の発光特性
次に、本実施例の超分子錯体Ru(Zn2L4)3と、Zn2L(440nm)及びRu(bpy)(590nm)とで発光特性の違いを調べた。それぞれ(pH7.4(10mMのHEPES、I=0.1(NaNO3))及び25℃の条件下で反応させ、各化合物に対して適切な励起光を照射して、発光強度、本超分子錯体[9]のCTP3非存在下での584nmでの発光強度をI0とした相対強度で比較した。
次に、超分子錯体Ru(Zn2L4)3とポリリン酸化合物中のリン酸基との関係について調べた。本超分子錯体は、3つのサイクレン環含有錯体とルテニウム原子とで構成されているので、理論上、三リン酸化合物に対して高い親和性を有する。これを確認するために、本超分子錯体[9](10μM)を一リン酸化合物(フェニルホスフェート、D−グルコース−6リン酸:白丸)、二リン酸化合物(CDP2、D−フルクトース−1,6二リン酸:白四角)及び三リン酸化合物(CTP3:黒丸)と反応させた。それぞれ(pH7.4(10mMのHEPES、I=0.1(NaNO3))及び25℃の条件下で、反応させ、300nmで励起させた。本超分子錯体[9]のCTP3非存在下での584nmでの発光強度をI0とした相対強度で比較した。結果を図6に示す。
超分子錯体Ru(Zn2L4)3とイノシトール三リン酸との結合
本実施例の超分子錯体が、CTP3以外の他の三リン酸化合物、キラルなIP3に対しても同様に強い結合力を有するか次に調べた。超分子錯体10μMと、IP3(20μM)、CTP3(20μM)又はHOPO3 2-(100μM)をそれぞれ、pH7.4(pH7.4(10mMのHEPES、I=0.1(NaNO3))及び25℃の条件下で、反応させて、超分子錯体[9]、即ちRu(Zn2L4)3の発光(励起光365nm)を調べた。結果を図7に示す。
また、IP3との反応による発光強度は、CTP3との反応による発光強度の約半分であることが示された。これは、IP3がキラリティを有することから、本実施例の超分子錯体(ラセミ体)と反応させたときに、約半数の超分子錯体とのみ結合するためである。このため、IP3を検出する際には、IP3のキラリティを認識するのに適したエナンチオマーを用いることが効率的であり精度がよいことを示唆している。
また、本発明の超分子錯体は、ポリリン酸化合物に対して強い結合力を有するので、細胞内に存在し特有の生理活性を有するポリリン酸化合物と結合したときには、ポリリン酸化合物の生理活性を阻害することができる。特に、細胞内シグナル伝達機構で重要な役割を果たしているポリリン酸化合物、特に、IP3に対して本発明の超分子錯体を用いた場合には、シグナル伝達の阻害剤としても機能することができる。
Claims (9)
- 下記一般式で表されるサイクレン環含有超分子錯体。
X(Z)m ・・・・(I)
(式中、Xは、ルテニウム、ロジウム、鉄、ニッケル、コバルト、ランタノイドイオンからなる群から選択されたリンカー原子であり、Zは、含窒素環を介してリンカー原子に配位する下記式(II)で表されるサイクレン環含有錯体であり、mは2から3までの整数を表す。)
- 前記リンカー原子がルテニウムであることを特徴とする請求項1記載の超分子錯体。
- 前記Zが下記式(III)で表される化合物であり、且つ前記mが3であることを特徴とする請求項1又は2記載の超分子錯体。
- 下記一般式で表されるポリリン酸化合物検出用プローブ。
X(Z)m ・・・・(I)
(式中、Xは、ルテニウム、ロジウム、鉄、ニッケル、コバルト、ランタノイドイオンからなる群から選択されたリンカー原子であり、Zは、含窒素環を介してリンカー原子に配位する下記式(II)で表されるサイクレン環含有錯体であり、mは2から3までの整数を表す。)
- 前記リンカー原子がルテニウムであることを特徴とする請求項4記載のポリリン酸化合物検出用プローブ。
- 前記Zが下記式(III)で表される化合物であり、且つ前記mが3であることを特徴とする請求項4又は5記載のポリリン酸化合物検出用プローブ。
- イノシトール三リン酸検出用である請求項4乃至6のいずれか1項記載のポリリン酸化合物検出用プローブ。
- 請求項4記載のポリリン酸化合物検出用プローブを用いてポリリン酸化合物を検出するポリリン酸化合物検出方法。
- 下記一般式(I)で表されるサイクレン環含有超分子錯体を含むシグナル伝達阻害剤。
X(Z)m ・・・・(I)
(式中、Xは、ルテニウム、ロジウム、鉄、ニッケル、コバルト、ランタノイドイオンからなる群から選択されたリンカー原子であり、Zは、含窒素環を介してリンカー原子に配位する下記式(II)で表されるサイクレン環含有錯体であり、mは2から3までの整数を表す。)
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