毛根部で活発に増殖している毛母細胞が、毛髪特異的ケラチンを細胞内に貯め込み、互いの接着を強め、乾燥して死細胞と化すことにより、毛髪が形成される。外毛根鞘の立毛筋が付着している部分(バルジ)には毛幹細胞が存在しており、毛幹細胞は毛乳頭細胞の作用によって毛母細胞に分化すると考えられている。
毛根を包む毛包(hair follicle)が形成される間、外胚葉の肥厚によって生ずるプラコード(hair placode)及び間葉(mesenchyme)において、骨形成タンパク質(Bone morphogenetic protein:BPM)が発現し、毛包(hair follicle)形成の促進に関与する。例えば、BMPファミリーのメンバーであるBMP2、3、4及び7は、胚形成期から成人において皮膚及び毛包で発現することが報告されている(非特許文献1〜5)。また、BMP中和タンパク質(BMP-neutralizing protein)であるノギン(Noggin)は、BMP4と相互作用し、毛包形成を誘起することが報告されており(非特許文献6〜8)、このことは、BMPのダウンレギュレーション(downregulation)が毛包誘導の合図であることを示唆する。さらに、毛包形成の後、1A型BMP受容体を介したBMPシグナルは、内毛根鞘(inner root sheath:IRS)の形成に必須であることが報告されている(非特許文献9〜11)。さらに、マウスで過剰に発現させたノジンが毛周期及び成長期から退行期に至る毛包サイクル(hair follicle cycling)を短縮することが報告されている(非特許文献12)。
一方、薬物、核酸、ペプチド、タンパク質、糖等を標的部位に確実に送達するためのベクターの開発が盛んに行われている。例えば、遺伝子治療においては、目的の遺伝子を標的細胞へ導入するためのベクターとして、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス等のウイルスベクターが開発されている。しかしながら、ウイルスベクターは、大量生産の困難性、抗原性、毒性等の問題があるため、このような問題点が少ないリポソームベクターが注目を集めている。リポソームベクターは、その表面に抗体、タンパク質、糖鎖等の機能性分子を導入することにより、標的部位に対する指向性を向上させることができるという利点も有している。
リポソームベクターに関し、凝縮化DNA封入リポソームの表面をステアリル化オクタアルギニンで修飾することにより、凝縮化DNAの細胞導入効率が1000倍、凝縮化DNA封入リポソームの細胞への導入効率が100倍向上したことが報告されている(非特許文献13)。
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以下、本発明について詳細に説明する。
〔第1の毛髪用組成物〕
本発明の第1の毛髪用組成物は、1型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体をコードするDNAを有する発現ベクターを含有する。
1型骨形成タンパク質受容体は、1型骨形成タンパク質受容体に属するいずれのタイプの骨形成タンパク質受容体であってもよい。1型骨形成タンパク質受容体としては、例えば、1A型骨形成タンパク質受容体(Bone morphogenetic protein receptor type IA:BMPR1A)、1B型骨形成タンパク質受容体(Bone morphogenetic protein receptor type IB:BMPR1B)、アクチビン受容体様キナーゼ2(Aktivne-receptor Like Kinase 2:ALK2)等が挙げられるが、1A型骨形成タンパク質受容体であることが好ましい。なお、1A型骨形成タンパク質受容体の別名は、アクチビン受容体様キナーゼ3(Aktivne-receptor Like Kinase 3:ALK3)であり、1B型骨形成タンパク質受容体の別名は、アクチビン受容体様キナーゼ6(Aktivne-receptor Like Kinase 6:ALK6)である。
野生型(正常型)の1型骨形成タンパク質受容体は、骨形成タンパク質2(BMP2)、骨形成タンパク質4(BMP4)等の内因性リガンドとの結合により活性化し、リガンド依存的に生理作用を発揮する。これに対して、1型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体は、骨形成タンパク質2(BMP2)、骨形成タンパク質4(BMP4)等の内因性リガンドとの結合の有無に関わらず、構成的(恒常的)に活性化しており、リガンド非依存的に生理作用を発揮する。1型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体が発揮する生理作用は、野生型の1型骨形成タンパク質受容体が発揮する生理作用と同様であり、例えば、細胞内伝達に関与する核移行タンパク質smad1のリン酸化の促進等が挙げられる。
1型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体は、骨形成タンパク質2(BMP2)、骨形成タンパク質4(BMP4)等の内因性リガンドとの結合能を保持していてもよいし、保持していなくてもよい。
1型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体は、本発明の第1の毛髪用組成物が適用される動物の毛母細胞又は毛幹細胞内で生理作用を発揮し得る限り、いかなる動物由来の1型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体であってもよいが、1型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体が由来する動物は、本発明の第1の毛髪用組成物が適用される動物と同種であることが好ましい。例えば、本発明の第1の毛髪用組成物が適用される動物がヒトである場合、1型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体が由来する動物はヒトであることが好ましい。
1型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体は、野生型の1型骨形成タンパク質受容体のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなる。野生型の1型骨形成タンパク質受容体のアミノ酸配列において欠失、置換又は付加されるアミノ酸の個数及び位置は、構成的活性型変異体が作製され得る限り特に限定されるものではない。
例えば、ヒト、マウス、ラット等に由来する1A型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体は、ヒト、マウス、ラット等に由来する野生型の1A型骨形成タンパク質受容体の233番目のアミノ酸をグルタミン(Gln)からアスパラギン酸(Asp)へ置換することにより作製することができる(Chen D. et al., J Cell Biol. 1998, 13, 142(1), p.295-305.)。
ヒト、マウス、ラット等に由来する1B型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体は、ヒト、マウス、ラット等に由来する野生型の1B型骨形成タンパク質受容体の203番目のアミノ酸をグルタミン(Gln)からアスパラギン酸(Asp)へ置換することにより作製することができる(Wieser, R. et al., EMBO J. 1995, 14, p.2199-2208.)。
ヒト、マウス、ラット等に由来するアクチビン受容体様キナーゼ2の構成的活性型変異体は、ヒト、マウス、ラット等に由来する野生型のアクチビン受容体様キナーゼ2の207番目のアミノ酸をグルタミン(Gln)からアスパラギン酸(Asp)へ置換することにより作製することができる(Wieser, R. et al., EMBO J. 1995, 14, p.2199-2208.)。
1A型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体としては、例えば、下記(a)又は(b)のアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。
(a)配列番号4記載のアミノ酸配列からなるタンパク質(以下「タンパク質(a)」という。)
(b)配列番号4記載のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質(以下「タンパク質(b)」という。)
1B型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体としては、例えば、下記(c)又は(d)のアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。
(c)配列番号8記載のアミノ酸配列からなるタンパク質(以下「タンパク質(c)」という。)
(d)配列番号8記載のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質(以下「タンパク質(d)」という。)
アクチビン受容体様キナーゼ2の構成的活性型変異体としては、例えば、下記(e)又は(f)のアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。
(e)配列番号12記載のアミノ酸配列からなるタンパク質(以下「タンパク質(e)」という。)
(f)配列番号12記載のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質(以下「タンパク質(f)」という。)
タンパク質(a)は、ヒト由来の野生型の1A型骨形成タンパク質受容体(配列番号6)のうち、233番目のアミノ酸であるグルタミン(Gln)をアスパラギン酸(Asp)に変異させることにより作製された、ヒト由来の1A型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体であり、タンパク質(c)は、ヒト由来の野生型の1B型骨形成タンパク質受容体(配列番号10)のうち、203番目のアミノ酸であるグルタミン(Gln)をアスパラギン酸(Asp)に変異させることにより作製された、ヒト由来の1B型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体であり、タンパク質(e)は、ヒト由来の野生型のアクチビン受容体様キナーゼ2(配列番号14)のうち、207番目のアミノ酸であるグルタミン(Gln)をアスパラギン酸(Asp)に変異させることにより作製された、ヒト由来のアクチビン受容体様キナーゼ2の構成的活性型変異体である。
タンパク質(b)には、構成的活性型の1A型骨形成タンパク質受容体としての機能を有する限り、ヒト由来の1A型骨形成タンパク質受容体の変異体に加え、ヒト以外の哺乳動物(例えば、サル、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ、ラクダ、ウサギ、イヌ、ネコ、ラット、マウス)由来の1A型骨形成タンパク質受容体の変異体が含まれ、タンパク質(d)には、構成的活性型の1B型骨形成タンパク質受容体としての機能を有する限り、ヒト由来の1B型骨形成タンパク質受容体の変異体に加え、ヒト以外の哺乳動物(例えば、サル、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ、ラクダ、ウサギ、イヌ、ネコ、ラット、マウス)由来の1B型骨形成タンパク質受容体の変異体が含まれ、タンパク質(f)には、構成的活性型のアクチビン受容体様キナーゼ2としての機能を有する限り、ヒト由来のアクチビン受容体様キナーゼ2の変異体に加え、ヒト以外の哺乳動物(例えば、サル、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ、ラクダ、ウサギ、イヌ、ネコ、ラット、マウス)由来のアクチビン受容体様キナーゼ2の変異体が含まれる。
配列番号4、8及び12記載のアミノ酸配列において欠失、置換、挿入又は付加されるアミノ酸の個数及び位置は、タンパク質(b)、(d)及び(f)が構成的活性型の1型骨形成タンパク質受容体としての機能を有する限り特に限定されるものではない。
配列番号4、8及び12記載のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は挿入される位置としては、例えば、シグナルペプチド、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン等が挙げられる。シグナルペプチド、細胞外ドメイン又は膜貫通ドメインは、1型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体を作製する上で特に必要ない。配列番号4記載のアミノ酸配列のうち、1〜20番目のアミノ酸からなる部分がシグナルペプチドに相当し、21〜152番目のアミノ酸からなる部分が細胞外ドメインに相当し、153〜180番目のアミノ酸からなる部分が膜貫通ドメインに相当する。配列番号8記載のアミノ酸配列のうち、1〜14番目のアミノ酸からなる部分がシグナルペプチドに相当し、15〜126番目のアミノ酸からなる部分が細胞外ドメインに相当し、127〜148番目のアミノ酸からなる部分が膜貫通ドメインに相当する。配列番号12記載のアミノ酸配列のうち、1〜20番目のアミノ酸からなる部分がシグナルペプチドに相当し、21〜123番目のアミノ酸からなる部分が細胞外ドメインに相当し、124〜146番目のアミノ酸からなる部分が膜貫通ドメインに相当する。配列番号4、8及び12記載のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が付加される位置は特に限定されるものではなく、例えば、N末端、C末端等が挙げられる。
配列番号4、8及び12記載のアミノ酸配列において欠失、置換又は付加されるアミノ酸の個数は1又は複数個である。
配列番号4、8及び12記載のアミノ酸配列のうち、細胞外ドメイン又は膜貫通ドメインに相当する部分において欠失又は置換されるアミノ酸の個数は適宜調節することができ、細胞外ドメイン又は膜貫通ドメインに相当する部分の一部が欠失又は置換されてもよいし、細胞外ドメイン又は膜貫通ドメインに相当する部分の全体が欠失又は置換されてもよいが、細胞外ドメイン又は膜貫通ドメインに相当する部分において欠失又は置換されるアミノ酸の個数は、通常1〜10個、好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜3個である。
配列番号4、8及び12記載のアミノ酸配列のうち、細胞外ドメイン及び膜貫通ドメイン以外の部分において欠失又は置換されるアミノ酸の個数は、通常1〜10個、好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜3個である。
配列番号4、8及び12記載のアミノ酸配列のうち、細胞外ドメイン又は膜貫通ドメインに相当する部分において挿入されるアミノ酸の個数は、通常1〜10個、好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜3個であり、それ以外の部分において挿入されるアミノ酸の個数は通常1〜10個、好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜3個である。
配列番号4、8及び12記載のアミノ酸配列において付加されるアミノ酸の個数は、付加の方法等によって適宜調節することができる。例えば、他のタンパク質又はペプチドと融合させる場合、配列番号4、8及び12記載のアミノ酸配列において付加されるアミノ酸の個数は、融合させるタンパク質又はペプチドの種類等に応じて適宜調節することができる。例えば、βガラクトシダーゼを融合させる場合には1048個のアミノ酸が付加され、グリーン・フルオレセント・プロテイン(GFP)を融合させる場合には238個のアミノ酸が付加され、ポリヒスチジン鎖(His−tag)を融合させる場合には6個のアミノ酸が付加される。部位特異的変異誘発法等を利用する場合、配列番号4、8及び12記載のアミノ酸配列において付加されるアミノ酸の個数は、通常1〜10個、好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜3個である。
1型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体をコードするDNAは、1骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体をコードするオープンリーディングフレームとその3'末端に位置する終止コドンとを含む。1型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体をコードするDNAは、オープンリーディングフレームの5'末端及び/又は3'末端に非翻訳領域(UTR)を含むことができる。
タンパク質(a)をコードするDNAとしては、例えば、配列番号3記載の塩基配列からなるDNAが挙げられ、タンパク質(c)をコードするDNAとしては、例えば、配列番号7記載の塩基配列からなるDNAが挙げられ、タンパク質(e)をコードするDNAとしては、例えば、配列番号11記載の塩基配列からなるDNAが挙げられる。
1型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体をコードするDNAは、野生型の1型骨形成タンパク質受容体をコードするDNAに、部位特異的変異誘発法等によって人為的に変異を導入することにより得ることができる。変異の導入は、例えば、変異導入用キット、例えば、Mutant-K(TaKaRa社製)、Mutant-G(TaKaRa社製)、TaKaRa社のLA-PCR in vitro Mutagenesis シリーズキットを用いて行うことができる。
ヒト由来の野生型の1A型骨形成タンパク質受容体をコードするDNAとしては、例えば、配列番号5記載の塩基配列からなるDNAが挙げられ、その他の哺乳動物由来の野生型の1A型骨形成タンパク質受容体をコードするDNAとしては、例えば、配列番号5記載の塩基配列からなるDNAと相補的なDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAが挙げられる。ヒト由来の野生型の1B型骨形成タンパク質受容体をコードするDNAとしては、例えば、配列番号9記載の塩基配列からなるDNAが挙げられ、その他の哺乳動物由来の野生型の1B型骨形成タンパク質受容体をコードするDNAとしては、例えば、配列番号9記載の塩基配列からなるDNAと相補的なDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAが挙げられる。ヒト由来の野生型のアクチビン受容体様キナーゼ2をコードするDNAとしては、例えば、配列番号13記載の塩基配列からなるDNAが挙げられ、その他の哺乳動物由来の野生型のアクチビン受容体様キナーゼ2をコードするDNAとしては、例えば、配列番号13記載の塩基配列からなるDNAと相補的なDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAが挙げられる。
「ストリンジェントな条件」としては、例えば、42℃、2×SSC及び0.1%SDSの条件、好ましくは65℃、0.1×SSC及び0.1%SDSの条件が挙げられ、配列番号5、9又は13記載の塩基配列からなるDNAと相補的なDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAとしては、配列番号5、9又は13記載の塩基配列からなるDNAと90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の相同性を有するDNAが挙げられる。
塩基配列が既に決定されているDNAについては化学合成によって得ることもできる。DNAの化学合成は、市販のDNA合成機、例えば、チオホスファイト法を利用したDNA合成機(島津製作所社製)、フォスフォアミダイト法を利用したDNA合成機(パーキン・エルマー社製)を用いて行うことができる。
ヒト由来の野生型の1型骨形成タンパク質受容体をコードするDNAは、脳、肝臓、血液、皮膚等の組織から抽出したmRNAを用いてcDNAライブラリーを作製し、配列番号5、9又は13記載の塩基配列に基づいて合成したプローブを用いて、cDNAライブラリーから目的のDNAを含むクローンをスクリーニングすることにより得ることができる。
cDNAライブラリーを作製する際には、脳、肝臓、血液、皮膚等の組織から全RNAを得た後、オリゴdT−セルロースやポリU−セファロース等を用いたアフィニティーカラム法、バッチ法等によりポリ(A)+RNA(mRNA)を得る。この際、ショ糖密度勾配遠心法等によりポリ(A)+RNA(mRNA)を分画してもよい。次いで、得られたmRNAを鋳型として、オリゴdTプライマー及び逆転写酵素を用いて一本鎖cDNAを合成した後、該一本鎖cDNAから二本鎖cDNAを合成する。このようにして得られた二本鎖cDNAを適当なクローニングベクターに組み込んで組換えベクターを作製し、該組換えベクターを用いて大腸菌等の宿主細胞を形質転換し、テトラサイクリン耐性、アンピシリン耐性を指標として形質転換体を選択することにより、cDNAのライブラリーを得ることができる。cDNAライブラリーを作製するためのクローニングベクターは、宿主細胞中で自立複製できるものであればよく、例えば、ファージベクター、プラスミドベクター等を使用することができる。宿主細胞としては、例えば、大腸菌(Escherichia coli)等を使用することができる。
大腸菌等の宿主細胞の形質転換は、塩化カルシウム、塩化マグネシウム又は塩化ルビジウムを共存させて調製したコンピテント細胞に、組換えベクターを加える方法等により行うことができる。なお、ベクターとしてプラスミドを用いる場合は、テトラサイクリン、アンピシリン等の薬剤耐性遺伝子を含有させておくことが好ましい。
cDNAライブラリーの作製にあたっては、市販のキット、例えば、SuperScript Plasmid System for cDNA Synthesis and Plasmid Cloning(Gibco BRL社製)、ZAP-cDNA Synthesis Kit(ストラタジーン社製)等を使用することができる。
cDNAライブラリーから目的のDNAを含むクローンをスクリーニングする際には、配列番号5、9又は13記載の塩基配列に基づいてプライマーを合成し、これを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行い、PCR増幅断片を得る。PCR増幅断片は、適当なプラスミドベクターを用いてサブクローニングしてもよい。次いで、cDNAライブラリーに対して、PCR増幅断片をプローブとしてコロニーハイブリダイゼーション又はプラークハイブリダイゼーションを行うことにより、目的のDNAを得ることができる。プローブとしては、PCR増幅断片をアイソトープ(例えば、32P、35S)、ビオチン、ジゴキシゲニン等で標識したものを使用することができる。目的のDNAを含むクローンは、抗体を用いたイムノスクリーニング等の発現スクリーニングによっても得ることができる。
取得されたDNAの塩基配列は、DNA断片をそのまま、又は適当な制限酵素等で切断した後、常法によりベクターに組み込み、通常用いられる塩基配列解析方法、例えば、マキサム−ギルバートの化学修飾法、ジデオキシヌクレオチド鎖終結法を用いて決定できるが、通常は、373A DNAシークエンサー(Perkin Elmer社製)等の塩基配列分析装置を用いて配列決定する。
以上のようにして、ヒト由来の野生型の1型骨形成タンパク質受容体をコードするDNAを得ることができる。その他の哺乳動物由来の野生型の1型骨形成タンパク質受容体をコードするDNAは、例えば、サル、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ、ラクダ、ウサギ、イヌ、ネコ、ラット、マウス等の哺乳動物由来のcDNAライブラリーから、配列番号5、9又は13記載の塩基配列からなるDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAをスクリーニングすることにより得ることができる。
1型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体をコードするDNAを有する発現ベクターは、本発明の第1の毛髪用組成物が適用される動物の毛母細胞又は毛幹細胞内で1型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体をコードするDNAを発現し得る限り特に限定されるものではなく、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクター等が挙げられるが、プラスミドベクターであることが好ましい。プラスミドベクターとしては、例えば、大腸菌由来のプラスミド(例えば、pRSET、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19)、枯草菌由来のプラスミド(例えば、pUB110、pTP5)、酵母由来のプラスミド(例えば、YEp13、YEp24、YCp50)等が挙げられ、ウイルスベクターとしては、例えば、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、シンリンセムリキウイルス等の動物ウイルスが挙げられる。
1型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体をコードするDNAを有する発現ベクターは、1型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体をコードするDNAを発現ベクターのプロモーターの下流に挿入することにより作製することができる。1型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体をコードするDNAは、その機能が発揮されるように発現ベクターに組み込まれることが必要であり、発現ベクターは、プロモーターの他、エンハンサー等のシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー(例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子)、リボソーム結合配列(SD配列)等を有していてもよい。
発現ベクターが有するプロモーターは、本発明の第1の毛髪用組成物が適用される動物の毛母細胞又は毛幹細胞内で機能し得る限り特に限定されるものではなく、例えば、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTR(Long Terminal Repeat)プロモーター、CMVプロモーター、ヒトサイトメガロウイルスの初期遺伝子プロモーター等が挙げられる。
1型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体をコードするDNAを有する発現ベクターは、1型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体を単一のタンパク質として発現することが好ましいが、1型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体を融合タンパク質として発現してもよい。1型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体と融合させるタンパク質としては、例えば、β−ガラクトシダーゼ、プロテインA、プロテインAのIgG結合領域、クロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ、ポリ(Arg)、ポリ(Glu)、プロテインG、マルトース結合タンパク質、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、ポリヒスチジン鎖(His−tag)、Sペプチド、DNA結合タンパク質ドメイン、Tac抗原、チオレドキシン、グリーン・フルオレセント・プロテイン(Green Fluorescent Protein:GFP)、ヘマグルチニンタンパク質(HA)−tag、FLAG−tag、Myc−tag、T7遺伝子10タンパク質、ウシパピローマウイルスL1タンパク質、VSV−G−tag等が挙げられる。
発現ベクターが細胞内移行性を有する場合(例えばウイルスベクターである場合)、本発明の第1の毛髪用組成物は発現ベクターをそのまま含有することができるが、発現ベクターが細胞内移行性を有しない場合(例えばプラスミドベクターである場合)、本発明の第1の毛髪用組成物は発現ベクターをリポソームの内部に封入された状態で含有することが好ましい。
発現ベクターを内部に封入するリポソームは、本発明の第1の毛髪用組成物が適用される動物の毛母細胞又は毛幹細胞内への移行性を有する限り特に限定されるものではないが、連続した複数個のアルギニン残基を含むペプチドを表面に有するリポソームであることが好ましい。なお、連続した複数個のアルギニン残基を含むペプチドを表面に有するリポソームについては、〔第2の毛髪用組成物〕の項で詳細に説明する。
本発明の第1の毛髪用組成物は、1型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体をコードするDNAを有する発現ベクターのみから構成されていてもよいし、薬学的に許容される担体及び/又は添加剤とともに常法に従って製剤化されていてもよい。本発明の第1の毛髪用組成物がとり得る剤形は特に限定されるものではないが、外用剤であることが好ましい。外用剤としては、例えば、軟膏剤、クリーム剤、ムース剤、懸濁剤、乳剤、ローション剤、エアゾル剤等が挙げられる。本発明の第1の毛髪用組成物は、保湿剤、界面活性剤、乳化剤、増粘剤、保存剤、pH調整剤、着色剤、着香剤、殺菌剤、清涼刺激剤、止痒剤、フケ止め剤等を含有することができる。本発明の第1の毛髪用組成物に含有される1型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体をコードするDNAを有する発現ベクターの量は、毛髪用組成物の剤形等に応じて適宜調節することができる。
本発明の第1の毛髪用組成物を適用できる動物は、毛髪を有する動物である限り特に限定されるものではなく、ヒト、サル、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ、ラクダ、ウサギ、イヌ、ネコ、ラット、マウス等の哺乳動物が挙げられる。本発明の第1の毛髪用組成物は、動物体のうちいかなる部分の毛髪に対しても適用することができる。
本発明の第1の毛髪用組成物を使用する際、毛髪が生えている部位(例えば頭皮)又は毛髪が生えてくる部位(例えば頭皮)に本発明の第1の毛髪用組成物を適当量塗布、噴霧等する。これにより、本発明の第1の毛髪用組成物に含有される発現ベクターは、毛穴を通じて毛母細胞又は毛幹細胞に到達する。発現ベクターが毛穴を通じて毛母細胞又は毛幹細胞に到達しやすいように、本発明の第1の毛髪用組成物にワセリン等の油脂を含有させておくことが好ましい。毛母細胞又は毛幹細胞に到達した発現ベクターは細胞内に移行し、細胞内で1型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体を発現する。これにより、毛周期における成長期から退行期への移行を遅らせることができる。したがって、本発明の第1の毛髪用組成物は、脱毛症の予防又は治療に有用である。
本発明の第1の毛髪用組成物によって予防又は治療可能な脱毛症は特に限定されるものではなく、例えば、円形脱毛症、男性型脱毛症、壮年性脱毛症、トリコチロマニア、休止期脱毛、全身病による脱毛、皮膚感染症による脱毛、皮膚腫瘍による脱毛、瘢痕性脱毛、薬品・化学物質による脱毛等が挙げられる。
〔第2の毛髪用組成物〕
本発明の第2の毛髪用組成物は、連続した複数個のアルギニン残基を含むペプチドを表面に有し、毛母細胞又は毛幹細胞に送達すべき目的物質が内部に封入されたリポソームを含有する。なお、以下、「連続した複数個のアルギニン残基を含むペプチド」を「本発明のペプチド」といい、「連続した複数個のアルギニン残基を含むペプチドを表面に有し、毛母細胞又は毛幹細胞に送達すべき目的物質が内部に封入されたリポソーム」を「本発明のリポソーム」という。
本発明のリポソームは、脂質二重層膜構造を有する閉鎖小胞である限り、脂質二重層膜の数は特に限定されるものではなく、多重膜リポソーム(MLV)であってもよいし、SUV(small unilamella vesicle)、LUV(large unilamella vesicle)、GUV(giant unilamella vesicle)等の一枚膜リポソームであってもよい。
一枚膜リポソームについてはリポソーム膜の外表面がリポソームの表面であり、多重膜リポソームについては最外層のリポソーム膜の外表面がリポソームの表面である。本発明のリポソームは、表面以外の部分(例えば、リポソーム膜の内表面)に本発明のペプチドを有していてもよい。
本発明のリポソームのサイズは特に限定されるものではないが、直径50〜800nmであることが好ましく、直径250〜400nmであることがさらに好ましい。
本発明のリポソームにおいて、リポソーム膜を構成する脂質の種類は特に限定されるものではなく、その具体例としては、ホスファチジルコリン(例えば、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン等)、ホスファチジルグリセロール(例えば、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ジラウロイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジグリセロール)、ホスファチジルエタノールアミン(例えば、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジラウロイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジエタノールアミン)、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、カルジオリピン等のリン脂質又はこれらの水素添加物;スフィンゴミエリン、ガングリオシド等の糖脂質が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を用いることができる。リン脂質は、卵黄、大豆その他の動植物に由来する天然脂質(例えば、卵黄レシチン、大豆レシチン等)、合成脂質又は半合成脂質のいずれであってもよい。なお、リポソーム膜に含有される脂質量は、リポソーム膜を構成する総物質量の通常70〜100%(モル比)、好ましくは75〜100%(モル比)、さらに好ましくは80〜100%(モル比)である。
リポソーム膜には、リポソーム膜を物理的又は化学的に安定させたり、リポソーム膜の流動性を調節したりするために、例えば、コレステロール、コレステロールコハク酸、ラノステロール、ジヒドロラノステロール、デスモステロール、ジヒドロコレステロール等の動物由来のステロール;スチグマステロール、シトステロール、カンペステロール、ブラシカステロール等の植物由来のステロール(フィトステロール);チモステロール、エルゴステロール等の微生物由来のステロール;グリセロール、シュクロース等の糖類;トリオレイン、トリオクタノイン等のグリセリン脂肪酸エステルのうち、1種又は2種以上を含有させることができる。その含有量は特に限定されるものでないが、リポソーム膜を構成する総脂質に対して5〜40%(モル比)であることが好ましく、10〜30%(モル比)であることがさらに好ましい。
本発明のペプチドに含まれる連続したアルギニン残基の個数は複数個である限り特に限定されるものではないが、通常4〜20個であり、好ましくは6〜12個、さらに好ましくは7〜10個である。本発明のペプチド全体を構成するアミノ酸残基の個数は特に限定されるものではないが、通常4〜35個、好ましくは6〜30個、さらに好ましくは8〜23個である。本発明のペプチドは、連続した複数個のアルギニン残基のC末端及び/又はN末端に任意のアミノ酸配列を含むことができるが、本発明のペプチドを構成する全てのアミノ酸残基がアルギニン残基であることが好ましい。
連続した複数個のアルギニン残基のC末端又はN末端に付加されるアミノ酸配列は、剛直性を有するアミノ酸配列(例えば、ポリプロリン)であることが好ましい。ポリプロリンは、柔らかくて不規則な形をとっているポリエチレングリコールと異なり、直線的で、ある程度の堅さを保持している。また、連続した複数個のアルギニン残基のC末端又はN末端に付加されるアミノ酸配列に含まれるアミノ酸残基は酸性アミノ酸以外のアミノ酸残基であることが好ましい。負電荷を有する酸性アミノ酸残基が、正電荷を有するアルギニン残基と静電的に相互作用し、アルギニン残基の効果を減弱させる可能性があるためである。
本発明のリポソームの表面に存在する本発明のペプチドの量は、リポソーム膜を構成する総脂質に対して通常0.1〜30%(モル比)、好ましくは1〜25%(モル比)、さらに好ましくは2〜20%(モル比)である。
本発明のリポソームは、その表面に有する本発明のペプチドを介して細胞内へ移行することができる。リポソームの細胞内移行経路がエンドサイトーシスに依存する場合、リポソーム膜はその主要成分としてカチオン性脂質を含む必要があるが、本発明のリポソームの細胞内移行経路は、エンドサイトーシスにのみ依存するわけではないので、リポソーム膜にカチオン性脂質が含まれている必要はない。すなわち、本発明のリポソームにおいて、リポソーム膜は、カチオン性脂質及び非カチオン性脂質のいずれか一方で構成されていてもよいし、両方で構成されていてもよい。但し、カチオン性脂質は細胞毒性を有するので、本発明のリポソームの細胞毒性を低減させる点からは、リポソーム膜に含まれるカチオン性脂質の量を出来る限り少なくすることが好ましく、リポソーム膜を構成する総脂質に対するカチオン性脂質の割合は0〜40%(モル比)であることが好ましく、0〜20%(モル比)であることがさらに好ましい。
カチオン性脂質としては、例えば、DODAC(dioctadecyldimethylammonium chloride)、DOTMA(N-(2,3-dioleyloxy)propyl-N,N,N-trimethylammonium)、DDAB(didodecylammonium bromide)、DOTAP(1,2-dioleoyloxy-3-trimethylammonio propane)、DC−Chol(3β-N-(N',N',-dimethyl-aminoethane)-carbamol cholesterol)、DMRIE(1,2-dimyristoyloxypropyl-3-dimethylhydroxyethyl ammonium)、DOSPA(2,3-dioleyloxy-N-[2(sperminecarboxamido)ethyl]-N,N-dimethyl-1-propanaminum trifluoroacetate)等が挙げられる。
「非カチオン性脂質」とは、中性脂質又はアニオン性脂質を意味し、中性脂質としては、例えば、ジアシルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、コレステロール、セラミド、スフィンゴミエリン、セファリン、セレブロシド等が挙げられ、アニオン性脂質としては、例えば、カルジオリピン、ジアシルホスファチジルセリン、ジアシルホスファチジン酸、N−スクシニルホスファチジルエタノールアミン(N−スクシニルPE)、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルエチレングリコール、コレステロールコハク酸等が挙げられる。
本発明のリポソームの好ましい態様として、本発明のペプチドが疎水性基で修飾されており、疎水性基が脂質二重層に挿入され、本発明のペプチドが脂質二重層から露出しているリポソームを例示することができる。なお、本態様において、「ペプチドが脂質二重層から露出している」には、ペプチドが脂質二重層の外表面又は内表面のいずれか一方から露出している場合、両方から露出している場合が含まれる。
疎水性基は、脂質二重層に挿入され得る限り特に限定されるものでない。疎水性基としては、例えば、ステアリル基等の飽和又は不飽和の脂肪酸基、コレステロール残基等のステロール残基、リン脂質残基、糖脂質残基、長鎖脂肪族アルコール残基(例えば、ホスファチジルエタノールアミン残基等)、ポリオキシプロピレンアルキル基、グリセリン脂肪酸エステル残基等が挙げられるが、これらのうち特に炭素数10〜20の脂肪酸基(例えば、パルミトイル基、オレイル基、ステアリル基、アラキドイル基等)が好ましい。
本発明のリポソームは、例えば、水和法、超音波処理法、エタノール注入法、エーテル注入法、逆相蒸発法、界面活性剤法、凍結・融解法等の公知の方法を用いて作製することができる。
水和法によるリポソームの製造例を以下に示す。
リポソーム膜の構成成分である脂質と、疎水性基で修飾された本発明のペプチドとを有機溶剤に溶解した後、有機溶剤を蒸発除去することにより脂質膜を得る。この際、有機溶剤としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール等の低級アルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;アセトン等のケトン類等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。次いで、脂質膜を水和させ、攪拌又は超音波処理することにより、本発明のペプチドを表面に有するリポソームを製造する。
また、水和法による別の製造例を以下に示す。
脂質二重層の構成成分である脂質を有機溶剤に溶解した後、有機溶剤を蒸発除去することにより脂質膜を得、この脂質膜を水和させ、攪拌又は超音波処理することによりリポソームを製造する。次いで、このリポソームの外液に、疎水性基で修飾された本発明のペプチドを添加することにより、リポソームの表面に本発明のペプチドを導入することができる。
リポソームを所定のポアサイズのフィルターで通過させることにより、一定の粒度分布を持ったリポソームを得ることができる。また、公知の方法に従って、多重膜リポソームから一枚膜リポソームへの転換、一枚膜リポソームから多重膜リポソームへの転換を行うことができる。
本発明のリポソームの内部に封入される、毛母細胞又は毛幹細胞に送達すべき目的物質としては、例えば、薬物、核酸、ペプチド、タンパク質、糖又はこれらの複合体等が挙げられ、診断、治療等の目的に応じて適宜選択することができる。なお、「核酸」には、DNA又はRNAに加え、これらの類似体又は誘導体(例えば、ペプチド核酸(PNA)、ホスホロチオエートDNA等)が含まれる。また、核酸は一本鎖又は二本鎖のいずれであってもよいし、線状又は環状のいずれであってもよい。
目的物質が水溶性である場合には、リポソームの製造にあたり脂質膜を水和する際に使用される水性溶媒に目的物質を添加することにより、リポソーム内部の水相に目的物質を封入することができる。また、目的物質が脂溶性である場合には、リポソームの製造にあたり使用される有機溶剤に目的物質を添加することにより、リポソームの脂質二重層に目的物質を封入することができる。
目的物質が核酸(例えば、1型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体をコードするDNAを有するプラスミドベクター)である場合、封入すべき核酸を予めカチオン性物質と複合体化させておくことが好ましい。核酸とカチオン性物質との複合体の存在下、脂質膜を水和し、次いで攪拌又は超音波処理することにより、核酸とカチオン性物質との複合体が封入されたリポソームを簡便かつ効率よく製造することができる。
「カチオン性物質」とは、その分子中にカチオン性基を有する物質を意味し、静電的相互作用により核酸と複合体を形成することができる。カチオン性物質の種類は核酸と複合体を形成し得る限り特に限定されるものではなく、例えば、カチオン性脂質(例えば、Lipofectamine(Invitrogen社製));カチオン性基を有する高分子;ポリリジン、ポリアルギニン、リジンとアルギニンの共重合体等の塩基性アミノ酸の単独重合体若しくは共重合体又はこれらの誘導体(例えばステアリル化誘導体);ポリエチレンイミン等のポリカチオン性ポリマー;プロタミン又はその誘導体(例えば硫酸プロタミン)等が挙げられるが、これらのうち特にプロタミン又はその誘導体が好ましい。カチオン性基は正に荷電し得る限り特に限定されるものではなく、例えば、アミノ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基等のモノアルキルアミノ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;イミノ基;グアニジノ基等が挙げられる。
核酸とカチオン性物質との複合体は、その構成比率によって全体としてプラス電荷又はマイナス電荷を帯びているので、非カチオン性脂質又はカチオン性脂質との静電的相互作用により、リポソーム内部に複合体を効率よく封入することができる。
脂質二重層の構成成分である脂質と、疎水性基で修飾された本発明のペプチドとを有機溶剤に溶解した後、有機溶剤を蒸発除去することにより得られる脂質膜は、カチオン性物質である本発明のペプチドを含有しているので、その組成によっては上記複合体と脂質膜との静電的相互作用が弱くなる場合がある。そのような場合には、本発明のペプチドを含有しない脂質膜を使用することが好ましい。本発明のペプチドを含有しない脂質膜は、疎水性基で修飾された本発明のペプチドを有機溶剤に溶解することなく、脂質二重層の構成成分である脂質を有機溶剤に溶解した後、有機溶剤を蒸発除去することにより得られる。リポソーム表面への本発明のペプチドの導入は、複合体が封入されたリポソームの形成の後に行われる。
本発明の第2の毛髪用組成物は、本発明のリポソームのみから構成されていてもよいし、薬学的に許容される1種以上の担体及び/又は添加剤とともに常法に従って製剤化されていてもよい。本発明の第2の毛髪用組成物がとり得る剤形は特に限定されるものではないが、外用剤であることが好ましい。外用剤としては、例えば、軟膏剤、クリーム剤、ムース剤、懸濁剤、乳剤、ローション剤、エアゾル剤等が挙げられる。本発明の第2の毛髪用組成物は、保湿剤、界面活性剤、乳化剤、増粘剤、保存剤、pH調整剤、着色剤、着香剤、殺菌剤、清涼刺激剤、止痒剤、フケ止め剤等を含有することができる。本発明の第2の毛髪用組成物に含有される本発明のリポソームの含有量は、毛髪用組成物の剤形等に応じて適宜調節することができる。
本発明の第2の毛髪用組成物を適用できる動物は、毛髪を有する動物である限り特に限定されるものではなく、ヒト、サル、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ、ラクダ、ウサギ、イヌ、ネコ、ラット、マウス等の哺乳動物が挙げられる。本発明の第2の毛髪用組成物は、動物体のうちいかなる部分の毛髪に対しても適用することができる。
本発明の第2の毛髪用組成物を使用する際、毛髪が生えている部位又は毛髪が生えてくる部位に本発明の第2の毛髪用組成物を適当量塗布、噴霧等する。これにより、本発明の第2の毛髪用組成物に含有される本発明のリポソームは、毛穴を通じて毛母細胞又は毛幹細胞に到達する。本発明のリポソームが毛穴を通じて毛母細胞又は毛幹細胞に到達しやすいように、本発明の第2の毛髪用組成物にワセリン等の油脂を含有させておくことが好ましい。毛母細胞又は毛幹細胞に到達した本発明のリポソームが細胞内に移行することにより、本発明のリポソームの内部に封入されていた目的物質は細胞内に放出される。これにより、目的物質を毛母細胞又は幹細胞の細胞内に送達することができる。
目的物質が、1型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体をコードするDNAを有する発現ベクターである場合、目的物質を毛母細胞又は毛幹細胞の細胞内に送達することにより、毛周期における成長期から退行期への移行を遅らせることができる。したがって、本発明の第2の毛髪用組成物は、脱毛症の予防又は治療に有用である。本発明の第2の毛髪用組成物によって予防又は治療可能な脱毛症は特に限定されるものではなく、例えば、円形脱毛症、男性型脱毛症、壮年性脱毛症、トリコチロマニア、休止期脱毛、全身病による脱毛、皮膚感染症による脱毛、皮膚腫瘍による脱毛、瘢痕性脱毛、薬品・化学物質による脱毛等が挙げられる。
目的物質が染毛剤である場合、目的物質を毛母細胞又は毛幹細胞の細胞内に送達することにより、毛髪を染色することができる。
目的物質がケラチン遺伝子を有する発現ベクターである場合、目的物質を毛母細胞又は毛幹細胞の細胞内に送達することにより、毛髪をコートするキューティクルを増加させることができる。
〔実施例1〕
1.リポソームの調製
(1)硫酸プロタミン溶液1.5mL(硫酸プロタミン濃度:0.1mg/mL,溶媒:10mM HEPES緩衝液(pH7.4))に、CMVプロモーターの下流に連結されたLacZ遺伝子を有するプラスミドpCMVβ(Clontech社製)溶液1mL(プラスミド濃度:0.1mg/mL,溶媒:10mM HEPES緩衝液(pH7.4))をボルテックス条件下で滴下し、硫酸プロタミンとプラスミドとを静電的に相互作用させ、プラスミドを凝縮化させた。なお、硫酸プロタミンとプラスミドとの比を調節することにより(硫酸プロタミン:プラスミド=1.5:1(重量比))、凝縮化プラスミドを正に帯電させた。
(2)負電荷を有する脂質を含む脂質混合物(ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン:コレステロールコハク酸=9:2(モル比))をクロロホルムに溶解した後、クロロホルムを蒸発除去することにより脂質膜を得た。負電荷を有する脂質を含む脂質薄膜(1.375μモル)に、正に帯電した凝縮化プラスミド懸濁液2.5mL(凝集化プラスミド濃度:0.04mg/mL,溶媒:10mM HEPES緩衝液(pH7.4))を添加して水和することにより、脂質膜表面に凝縮化プラスミドを静電的に結合させた。
(3)穏やかな超音波で処理することにより、凝縮化プラスミドを脂質膜中に封入し、プラスミド封入リポソームを調製した。
(4)プラスミド封入リポソーム懸濁液に、ステアリル化オクタアルギニン溶液61μL(ステアリル化オクタアルギニン濃度:2mg/mL,溶媒:水)を添加し、室温で一定時間インキュベートすることにより、リポソーム表面にステアリル化オクタアルギニンを分配させた(ステアリル化オクタアルギニンの分配量:脂質量の5モル%)。このようにして、オクタアルギニンを表面に有するプラスミド封入リポソームを調製した。
2.動物への塗布
(1)ケタミン(200mg/kg体重)及びキシラジン(10mg/kg体重)の混合物の腹腔内投与により4週令ICRマウス(毛周期は生後最初の成長期にある)を麻酔し、麻酔下ICRマウスの背側の毛髪をバリカンで剃髪し、オクタアルギニンを表面に有するプラスミド封入リポソーム懸濁液(DNA濃度:40μg/mL,溶媒:水)を剃髪部へ塗布した。塗布量はDNA量に換算して2μg/cm2とした。また、コントロールとして、リポフェクトアミン(Invitogen社製,カタログ番号18324-111)とプラスミドとの複合体(リポフェクトアミン:プラスミド=5:1(重量比))懸濁液を剃髪部へ塗布した。塗布後、乾燥防止の為にマウス1個体あたり0.1〜0.2gのワセリンを剃髪部に塗抹した。
(2)2週間後に背側の皮膚サンプルを採取し、4%パラホルムアルデヒドで固定した凍結切片(15μm)を作製した。
(3)凍結切片をX-gal染色し、青色に染まった毛髪を陽性としてカウントし、観察した毛髪の総数に対する陽性毛髪の数の割合を求め、これをプラスミドの取り込み効率とした。この際、内因性のガラクトシダーゼ活性により青色に染まる部分が皮膚内(特に皮脂腺及び毛根周囲)に存在していたため、内因性のガラクトシダーゼ活性の影響が少ない部分を選択した。
X-gal染色は次のようにして行った。凍結切片を0.01% デオキシコール酸ナトリウム(sodium deoxycholate)、0.02% NP40及び1mM MgCl2を含むPBSでインキュベート後、1mg/mL X-gal(5-bromo-4-chloro-3-indoyl-βD-galactopyranoside)、5mM K-フェロシアニド(K-ferrocyanide)、5mM K-フェリシアニド(K-ferricyanide)、0.01% デオキシコール酸ナトリウム(sodium deoxycholate)、0.02% NP40及び1mM MgCl2を含むPBS中で染色した。
プラスミドの取り込み効率の測定結果を表1に示す。なお、表1中、「アルギニン修飾リポソーム」は、オクタアルギニンを表面に有するプラスミド封入リポソーム懸濁液を塗布した場合の結果であり、「コントロール」は、リポフェクトアミンとプラスミドとの複合体懸濁液を塗布した場合の結果であり、「未処理」は、いずれの懸濁液も塗布しなかった場合の結果である。
表1に示すように、オクタアルギニンを表面に有するプラスミド封入リポソーム懸濁液を塗布した場合のプラスミドの取り込み効率は、リポフェクトアミンとプラスミドとの複合体懸濁液を塗布した場合のプラスミドの取り込み効率よりも顕著に大きかった。毛髪は、毛母細胞又は毛幹細胞から形成されるものであるので、オクタアルギニンを表面に有するリポソームによれば、リポソームの内部に封入された物質を毛母細胞又は毛幹細胞内へ効率よく送達できることが明らかとなった。
また、X-gal染色後の毛髪の様子を図1に示す。なお、図1中、「Non-treatment」は、いずれの懸濁液も塗布しなかった場合の毛髪の様子(陰性)を示し、「MEND-LacZ」は、オクタアルギニンを表面に有するプラスミド封入リポソーム懸濁液を塗布した場合の毛髪の様子(陽性)を示す。図1に示すように、オクタアルギニンを表面に有するプラスミド封入リポソーム懸濁液を塗布した後も、毛周期は成長期にあった。
〔実施例2〕
1.リポソームの調製
(1)硫酸プロタミン溶液1.5mL(硫酸プロタミン濃度:0.1mg/mL,溶媒:10mM HEPES緩衝液(pH7.4))に、プラスミド溶液1mL(プラスミド濃度:0.1mg/mL,溶媒:10mM HEPES緩衝液(pH7.4))をボルテックス条件下で滴下し、硫酸プロタミンとプラスミドとを静電的に相互作用させ、プラスミドを凝縮化させた。なお、硫酸プロタミンとプラスミドとの比を調節することにより(硫酸プロタミン:プラスミド=1.5:1(重量比))、凝縮化プラスミドを正に帯電させた。
プラスミドとしては、マウス由来の1A型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体(配列番号2)をコードするDNA(配列番号1,図2中「ca-BMPR1A」と記載)を導入したプラスミドpIRES2-EGFP(Clontech社製,図2参照)を使用した(以下「caBmpr1a-pIRES2-EGFP」という)。また、コントロールとして、ヒト由来の1A型骨形成タンパク質受容体の構成的活性型変異体をコードするDNAを導入していないプラスミドpIRES2-EGFPを使用した(以下「pIRES2-EGFP」という)。
(2)負電荷を有する脂質を含む脂質混合物(ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン/コレステロールコハク酸=9:2(モル比))をクロロホルムに溶解した後、クロロホルムを蒸発除去することにより脂質膜を得た。負電荷を有する脂質を含む脂質薄膜(1.375μモル)に、正に帯電した凝縮化プラスミド懸濁液2.5mL(凝集化プラスミド濃度:0.04mg/mL,溶媒:10mM HEPES緩衝液(pH7.4))を添加し水和することにより、脂質膜表面に凝縮化プラスミドを静電的に結合させた。
(3)穏やかな超音波で処理することにより、凝縮化プラスミドを脂質膜中に封入し、プラスミド封入リポソームを調製した。
(4)プラスミド封入リポソーム懸濁液に、ステアリル化オクタアルギニン溶液61μL(ステアリル化オクタアルギニン濃度:2mg/mL,溶媒:水)を添加し、室温で一定時間インキュベートすることにより、リポソーム表面にステアリル化オクタアルギニンを分配させた(ステアリル化オクタアルギニンの分配量:脂質量の5モル%)。このようにして、オクタアルギニンを表面に有するプラスミド封入リポソームを調製した。以下、caBmpr1a-pIRES2-EGFPを封入したリポソームを「MEND-caBmpr1a」といい、pIRES2-EGFPを封入したリポソームを「MEND-Control」という。
2.動物への塗布
(1)ケタミン(200mg/kg体重)及びキシラジン(10mg/kg体重)の混合物の腹腔内投与により4週令ICRマウス(毛周期は生後最初の成長期にある)を麻酔し、麻酔下ICRマウスの背側の毛髪をバリカンで剃髪し、オクタアルギニンを表面に有するプラスミド封入リポソーム懸濁液(DNA濃度:40μg/mL,溶媒:水)を剃髪部へ塗布した。塗布量はDNA量に換算して2μg/cm2とした。塗布後、乾燥防止の為にマウス1個体あたり0.1〜0.2gのワセリンを剃髪部に塗抹した。
(2)塗布後2週間経過時点で背側の皮膚サンプルを採取し、4%パラホルムアルデヒドで固定した凍結切片(15μm)を作製した。
(3)凍結切片をヘマトキシン・エオジン(HE)染色、外毛根鞘(outer root sheath:ORS)染色又はアルカリフォスファターゼ(AP)染色した結果を図3に示す。図3中、「HE」はHE染色の染色像、「ORS」はORS染色の染色像、「AP」はアルカリフォスファターゼ染色の染色像を表す。HE染色の染色像において、黒色矢印は、塗布前から休止期であった毛包を示し、白色矢印は、塗布時に成長期であった毛包を示す。AP染色の染色像において、黒色矢印は脂腺(sebaceous gland)を示し、灰色矢印は真皮乳頭(dermal papillae)を示す。
ORS染色は次のようにして行った。凍結切片をブロッキング液(0.01% TritonX及び1.5%正常ヤギ血清を含有するPBS)中でインキュベーションし、抗ケラチン5ウサギポリクローナル抗体(COVANCE社製)と4℃で一晩反応させた後、VECTASTAIN ABC-GOキット(Vector社製)を用いて染色した。
アルカリフォスファターゼ染色は次のようにして行った。凍結切片をPBSにて洗浄(5分×3回)後、AP用発色溶液を添加して室温で10分間反応させた。なお、AP用発色溶液は、0.15mg/mLニトロブルーテトラゾリウム(Nitro Blue Tetrazolium(NBT))の70%N,N-ジメチルホルムアミド溶液、及び0.188mg/mL 5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸p-トルイジン塩(5-Bromo-4-chloro-3-indolyl Phosphate p-Toluidine Salt(BCIP))のN,N-ジメチルホルムアミド溶液をAP用発色バッファー(100mM Tris-HCl(pH9.5),100mM NaCl,50mM MgCl2,0.1% Tween20)に加えたものである。
図3に示すように、MEND-caBmpr1a塗布後2週間経過時において、白色矢印で示される毛包(塗布時に成長期にあった毛包)は真皮(dermis,図3中「d」で示す層)で観察されたが、MEND-Control塗布後2週間経過時において、白色矢印で示される毛包(塗布時に成長期にあった毛包)は、皮下(subcutaneous space,図3中「s」で示す層)で観察された。すなわち、MEND−caBmpr1aを塗布することにより、毛周期における成長期から退行期への移行を遅らせることができた。
また、図3に示すように、MEND-Control塗布後2週間経過時におけるAP活性は、脂腺及び真皮乳頭において観察されたが、MEND−caBmpr1a塗布後2週間経過時におけるAP活性は、外毛根鞘で観察された。真皮乳頭では毛周期全体を通じて強いアルカリホスファターゼ(AP)活性が観察され、外毛根鞘では後期成長期(late anagen)及び初期退行期(early catagen)においてAP活性が観察され、脂腺では退行期及び休止期においてAP活性が観察されることが知られている。したがって、MEND-Control塗布後2週間経過時における毛周期は退行期又は休止期であり、MEND−caBmpr1aを塗布したマウスの毛周期は、成長期から退行期への移行途中であった。すなわち、MEND−caBmpr1aを塗布することにより、毛周期における成長期から退行期への移行を遅らせることができた。
(4)塗布後7週間経過時点で、(2)と同様にして凍結切片を作製し、これを(3)と同様にしてHE染色及びAP染色した。凍結切片をHE染色又はAP染色した結果を図4に示す。
図4に示すように、MEND-caBmpr1a塗布後7週間経過時における毛包は、MEND-Control塗布後2週間経過時における毛包と同様の形態を示した。このことから、MEND−caBmpr1aを塗布することにより、毛周期における成長期から退行期への移行が遅れることが確認された。
(5)データは示さないが、MEND-caBmpr1a塗布2週間後の毛包においては、細胞周期M期のマーカーであるリン酸化ヒストン3の免疫染色が陽性であり、細胞増殖マーカーPCNAの免疫染色も陽性であった。一方、MEND−Control塗布2週間後の毛根においては、いずれのマーカーの免疫染色も陰性であった。このことから、MEND−Controlを塗布したマウスの毛周期は退行期又は休止期であり、MEND−caBmpr1aを塗布したマウスの毛周期は、成長期から退行期への移行途中であることが確認された。