JP2006230201A - 培養装置 - Google Patents

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井 尚 生 永
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    • C12M41/14Incubators; Climatic chambers

Abstract

【課題】生体から切除した組織の細胞、特に繊維芽細胞を、必要量だけ培養することが出来る様な細胞培養用の培養装置の提供を目的としている。
【解決手段】ケーシング(シャーレ20)の内部に培地(哺乳類細胞培養基本培地24)を充填し、係る培地には、培養しようとする皮膚細胞を有する生体から採取した血液(自己血26)が加えられている。
【選択図】 図3

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、生体から切除された部分の細胞、特に皮膚の真皮組織の繊維芽細胞の培養に適した培養容器に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、生体の皮膚に何等かの理由で凹部(傷、シワ、事故による陥没等)が発生した場合に、当該凹部が形成される以前の状態に復元或いは修復することは、医療分野、特に美容を主目的とする施術(シワの線を取る、事故等で凹んだ箇所の修復)として、非常に意義がある。
【0003】
その様な施術を行うために、人工皮膚(例えば、特許文献1)を用いて行うことが考えられる。
しかし、生体に人工皮膚の様な人造物を取り込むことは、拒絶反応を惹起する可能性があり、好ましくはない。
【0004】
これに対して、近年、皮膚の凹部の修復を目的とする生体(患者)の皮膚の細胞を培養し、培養された皮膚細胞を上述した様な凹部に充填して、当該凹部を周辺と同一のレベルまで盛り上げて修復する技術(いわゆる「再移植」)が行われている。
係る技術であれば、再移植後に拒絶反応の問題が発生せずに好都合である。
【0005】
しかし、従来の培養技術では、生体(患者)に充填して前記凹部を修復するのに十分な程度まで、当該生体(患者)の皮膚細胞を培養することが困難であった。
培養に際しては、培養しようとする細胞を有する小片(例えば、皮膚片)を培地と呼ばれる物質に載置して、生体内に近似した環境中で培養する。この培地は、多種多様のものが市販されており、例えば、ヒトの皮膚細胞を培養する場合には、哺乳類細胞培養基本培地と呼ばれるものを使用する。
ここで、係る培地に包含される栄養素を、生体中の皮膚組織に供給される栄養素と完全に同一にすることが困難であり、そのため、従来の培養技術では十分な量の皮膚細胞が培養できなかったのである。
【0006】
【特許文献】
特開2001−104346号
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、生体から切除した組織の細胞、特に繊維芽細胞を、必要量だけ培養することが出来る様な細胞培養用の培養装置の提供を目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の培養装置は、ケーシング(例えばガラスや合成樹脂製の市販のシャーレ:20)の内部に培地(哺乳類細胞培養基本培地24:例えばDMEM)を充填し、係る培地には、培養しようとする皮膚細胞を有する生体から採取した血液(自己血26)が加えられている(培地と生体から採取した血液とが不可分一体となる様に混合される)ことを特徴としている(請求項1)。
ここで、培地としては市販の哺乳類細胞培養基本培地が適用できる。
また、培地(24)に対する血液(自己血26)の比率は、4%〜50%であるのが好ましい。培地(24)に対する生体から採取した血液(自己血26)の量が少な過ぎると、血液中に含まれるたんぱく質や、血液や培養液の浸透圧を維持するのに必要な成分(アルブミン)が不足してしまう。一方、培地(24)に対する生体から採取した血液(自己血26)の量が多すぎる場合には、相対的に培地(24)の量が少なくなり、培地中に含まれる皮膚細胞の培養に必要な幾つかの栄養素、例えばアミノ酸や糖質等の液体栄養素、が不足してしまう。
係る理由により、培地(24)に対する血液(自己血26)の上述した比率(4%〜50%)が好ましい。
【0009】
係る構成を具備する本発明の培養装置によれば、培養しようとする皮膚細胞(繊維芽細胞)を有する生体から採取した血液を培地に加えることにより、従来の培地には添加することが不可能であった血液中に含まれるたんぱく質や、血液や培養液の浸透圧を維持するのに必要な成分(アルブミン)が、培養装置内に提供されることとなる。
従って、皮膚細胞の内、特に再生力が旺盛な繊維芽細胞は、極めて良く生長し、増殖する。
【0010】
ここで、血液中に含まれるたんぱく質や、血液や培養液の浸透圧を維持するのに必要な成分(アルブミン)を、他の生体から採取した血液や、牛の血清などにより供給することも考えられる。しかし、その場合、他の生体から採取した血液や、牛の血清に包含されている病原体や、その他により、増殖した細胞が汚染されてしまう恐れがある。
その様な事態は、特に当該細胞を再移植する場合、必ず防止しなければならない。
本発明の培養装置を用いれば、培養しようとする皮膚細胞(繊維芽細胞)を有する生体から採取した血液(自己血)を培地に加えているので、他の生体の血液や他の動物(牛等)の血液経由で感染する可能性は、完全に排除される。
【0011】
本発明において、培地及び自己血を充填した前記ケーシングを収納する培養ケースを有し、該培養ケースは、その内部の温度が約37℃で且つ約5%の二酸化炭素を含有する雰囲気となる様に構成されているのが好ましい(請求項2)。
係る構成を採用すれば、培養しようとする細胞は、生体内の環境に近い雰囲気下で培養されるので、増殖する条件が整うのである。
【0012】
また、本発明において、前記ケーシング(シャーレ20)の底部には、高分子材料(例えば、フィブリン)製のシートが敷き詰められていることが好ましい(請求項3)。
【0013】
皮膚細胞、特に繊維芽細胞は培養されて増殖すると、培地の下方に伸長して、ケーシング(シャーレ20)の底部に到着して、付着する可能性がある。増殖した細胞がシャーレ底部に付着してしまうと、本発明の培養装置から回収することが困難となってしまう可能性が存在する。
しかし、上述した様な構成とすれば、細胞は高分子材料性のシート(例えばフィブリンシート)を貫通して、ケーシング(シャーレ20)底部に付着することはないので、培養した細胞は、培養装置から極めて容易に回収されるのである。
【0014】
ここで、前記高分子材料としてフィブリンを選択することが好ましい。
そして、フィブリンによりシートを形成して前記ケーシング(シャーレ20)に敷き詰めるための本発明の方法においては、培養しようとする皮膚細胞(繊維芽細胞)を有する生体から血液(自己血)を採取する工程と、その血液(自己血)を凝固する工程と、凝固した血液を(例えば遠心分離機にかけて)回収する工程と、回収された(凝固した)血液(自己血)を(例えば注射器内に吸引し、注射針から押し出すことにより物理的に)破砕する工程と、回収された(凝固した)血液を(例えば注射針から押し出された血液を)培養装置のケーシング(シャーレ20)の底部に敷き詰める工程、とを備えることを特徴としている(請求項4)。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0016】
上述した様に、皮膚に生じた凹部を充填する施術(美容目的の施術:例えば、シワの線を取る、事故等で凹んだ箇所の修復)を行うに際しては、拒絶反応等の不都合が生じないため、係る施術を行う患者自身の皮膚の細胞で当該凹部を充填することが望ましい。
係る見地より、当該施術を行う患者の皮膚の細胞を培養する必要がある。
【0017】
皮膚の細胞を培養するに際して、図1で示す様に、当該施術を行う患者の耳Yの後ろの部分(耳Yと髪の毛の生え際Hとの間:図1では符号12で示す)から3mm四方の皮膚片(図1では符号10で示す)を採取或いは切除する。
当該皮膚片10は、真皮層を含む様に採取(或いは切除)される。後述する様に、真皮層から培養により遊走する繊維芽細胞を単離するためである。
【0018】
ここで、当該皮膚片10を採取する箇所として「耳Yの後ろの部分」(12)としたのは、通常、紫外線の影響を受けない箇所であるため、繊維芽細胞を含む皮膚の細胞の状態が良好に保たれている箇所だからである。それと同時に、皮膚片を採取した跡(傷)が目立たない部分だからである。
換言すれば、紫外線の影響を受けず、繊維芽細胞を含む皮膚の細胞の状態が良好に保たれている箇所であって、皮膚片を採取した跡(傷)が目立たない部分であれば、耳Yの後ろの部分以外の箇所から、3mm四方の皮膚片10を採取しても良い。
【0019】
ここで、余りに多量の皮膚を採取してしまうと、採取した跡が患者に残存してしまう可能性がある。また、上述した耳Yの後ろの部分からは、あまりに大きな皮膚片を採取することは不可能である。従って、採取する皮膚片10の面積を必要以上に大きくすることは出来ない。
一方、皮膚片にある程度の大きさが無いと、後述する前処理を行って培養を行う際に、十分な量の繊維芽細胞が確保出来なくなる可能性がある。
以上の理由により、採取するべき皮膚片10を「3mm四方」とした。しかしながら、上述の理由に基き、大き過ぎず且つ小さ過ぎない範囲であれば、採取するべき皮膚片のサイズは「3mm四方」に限定するものではない。
【0020】
次に、採取(切除)した皮膚片10を、図2で示す様な手順にて、前処理を行う。
先ず、採取された皮膚片10を洗浄液(RINSE液)20ml中で2回洗浄する(図2:ステップS1)。
皮膚片10に付着した異物、特に外皮に付着した異物を洗浄して除去するためである。
【0021】
ここで洗浄液(RINSE液)は、皮膚片の洗浄のために調整された液体であり、浸透圧とミネラル組成が、採取された皮膚片の細胞と合致する様に調整されている。
当該RINSE液を、ケース・バイ・ケースで調整することが出来るが、市販品を用いることも可能である。
【0022】
ステップS1において、RINSE液の量「20ml」は、採取された皮膚片10に付着した異物を洗浄除去するのに必要且つ十分な量として例示された量である。余り少な過ぎると皮膚片10を十分に洗浄することが出来なくなる。但し、余りに使用量を増加すると、洗浄の対象である皮膚片10が3mm四方という微小なサイズであるため、不経済である。
但し、皮膚片10を十分に洗浄して付着物を除去することが出来て、しかも、不経済とならない程度の量であれば、RINSE液の量は20mlに限定されるものではない。
【0023】
洗浄後、RINSE液3mlの入った内径60mmのディシュに、洗浄により付着物が除去された皮膚片10を移動する(ステップS2)。
このRINSE液は、皮膚片が乾燥して細胞が死滅してしまうのを防止するために添加されている。但し、RINSE液の量が多過ぎると、処理するべき皮膚片がRINSE液に沈んでしまい、処理が難しくなる。係る見地により、「60mmのディシュ」に対して「3ml」というRINSE液の量を設定した。
なお、処理作業が短時間であれば、生理食塩水を代用することが可能であるが、長時間に亘る作業の際には、栄養素を包含するRINSE液の使用が好適である。
【0024】
そして、手術用のメス等を用いて、洗浄された皮膚片10を、直径1mm程度の細片に切断する(ステップS3)。
皮膚片を細切後、RINSE液と共に細切された皮膚片を他の容器(例えば、容量50mlのserum tube)に移し、10mlピペットでピペッティングする(ステップS4)。
【0025】
そして、遠心分離機(図示せず)で、1000rpmにて5分間の遠心分離を行う(ステップS5)。当該遠心分離が終了したならば、上清を捨てて、新しいRINSE液10mlを入れて(ステップS6)、再度、遠心分離機にかけて、1000rpmにて5分間の遠心分離を行う(ステップS7)。
【0026】
ステップS5〜S7で示す工程は、ステップS3で手術用メスにより細断された皮膚片を回収するために行われる。
細断された皮膚片は、RINSE液中に点在しているので、そのままでは回収が困難である。しかし、テップS5〜S7で示す工程で遠心分離を行えば、細断された皮膚片はRINSE液その他から分離され、極めて容易に回収される。
【0027】
ここで、3mm四方の皮膚片10を洗浄後、直ちに培地で培養せずに、直径1mm程度の細片に細断して回収するのは、3mm四方の皮膚片10を培地上に設置して培養する場合に比較して、直径1mm程度の皮膚細片を(後述する様に)培地上に分散させる方が真皮層の細胞における自由度が大きく、繊維芽細胞が遊走する可能性が高くなるからである。
【0028】
ステップS7の遠心分離が終了したならば、RINSE液3mlを細胞を含むペレットに添加し(ステップS8)、細胞培養用のシャーレに細胞を含むペレットとRINSE液の全量を移す(ステップS9)。細胞培養用のシャーレについては、詳細に後述する。
これで、前処理が完了する。
【0029】
ステップS9が行われて前処理が完了したならば、温度37℃、5%CO2の雰囲気下で2日以上静置し、その後、2週間以上、シャーレ内の細胞を無菌培養する(ステップS10)。
ここで、ステップS10は既に細胞を培養する段階であり、前処理とは言い得ない。その意味で、図2において、ステップS10には括弧を付するのみで、四角い枠で囲まれているステップS1〜S9とは明確に異なって表現されている。
【0030】
ここで、回収された皮膚細片が移された細胞培養用のシャーレ(ステップS9)は、本発明の培養装置を構成する。係る培養装置について、図3を参照して説明する。
断面図として表現されている図3において、本発明に係る培養装置は全体を符号10で示されており、ガラスや合成樹脂などを材料とする市販のシャーレ20に、高分子材料(例えばフィブリンシート)22、細胞培養用の培地24と自己血26との混合物を収容して構成されている。
【0031】
より詳細には、培養装置のケーシングとなるシャーレ20の底部には、高分子材料(例えばフィブリン、コラーゲン、多血小板血漿、CMC等)22から成る層が形成されており、高分子材料22の層上に皮膚細片30が載置されている。そして、細胞培養用の培地(哺乳類細胞培養基本培地:以下、本明細書では、単に、「培地」と記載する)24と、図1で示す工程で皮膚片10を採取した患者自身の血液(自己血)26とが分離不能に混合された混合物25が、皮膚細片30が載置されている高分子材料22の層から上方の領域に充填されている。自己血26はヘパリン採血した血清成分だけなので、凝固することは無い。
ここで、培地24と自己血26とを混合するに際して、培地24に対する自己血26の比率は、4%〜50%である。
なお、図3において、符号27は、遊走している繊維芽細胞を示す。
【0032】
上述した構成を有する培養容器を、図4で示す様な培養ケース100内に収容し、培養ケース100内の雰囲気を、図2のステップS10に関連して説明したような各種条件を充足する雰囲気、すなわち、温度が37℃、5%CO2という雰囲気下に調節する。
かかる雰囲気下(温度37℃、5%CO2)で2日以上静置し、その後、2週間以上、シャーレ内の細胞を無菌培養する。その結果、皮膚細片30の真皮層から繊維芽細胞が遊走する。
ここで、2日以上静置するのは、繊維芽細胞が遊離して足場を固めて落ち着くようにするためであり、「2週間」という期間は、繊維芽細胞の培養に最低限必要である。係る培養期間の最中は、最低でも1週間に2回、好ましくは毎日、上記混合物25を新鮮なものに交換する。
【0033】
図4において、培養ケース100の内部に、上述した自己血を加えた培地を充填して繊維芽細胞を培養しているシャーレ20が、複数収納されている。このシャーレ20は、ドア102を経由して、培養ケース100の底部104に載置される。
培養ケース100は温度センサ106を有しており、培養ケース100内部は、ケース100内の空気組成を分析する分析手段108に連通している。
そして、培養ケース100の内部温度及び組成を所定の値(37℃、5%CO2)に維持するための調設手段110が設けられている。
【0034】
調設手段110は、二酸化炭素供給源112と管路114を介して連通しており、管路114には調整弁116が介装されている。
分析手段108は、培養ケース100内の空気組成の分析結果に基いて制御信号を発信して、調整弁116はその制御信号を受信して、開度を決定する。その結果、培養ケース100内の二酸化炭素濃度が5%に維持されるように、二酸化炭素供給源112から二酸化炭素が供給されるのである。
【0035】
また、温度センサ106の計測結果が調設手段110のコントロールユニット118に送信される。ここで、調設手段110は、除菌能力を有するフィルタ(例えばHEPAフィルタ)120と、温度調節手段(例えば空調機)122とを有しており、加熱用ヒータ122の加熱量は、コントロールユニット118で制御される。
【0036】
調設手段110には、図示しないブロワにより、外気が供給される。調設手段110内に供給された空気(外気)は、フィルタ120で除菌、除塵されて清浄化される。一方、管路114を介して二酸化炭素供給源112から供給された二酸化炭素は、正常化された空気と混合する。
そして、正常化された空気及び二酸化炭素は、空調機122により37℃に温度調節される。そして、管路124を通って、培養ケース100内部に供給される。
その結果、培養ケース100内部は、37℃、5%CO2という雰囲気に維持されるのである。
【0037】
なお、培養ケース100については、図4で示すサイズに限定されるものではない。例えば、部屋(無菌室)全体を培養ケース100とする場合も含まれる。
【0038】
この場合、増殖するのは繊維芽細胞のみである。表皮細胞や真皮成分が仮に混入していても、この条件下で生存し且つ増殖するだけの活性は持たない。従って、繊維芽細胞のみが培養、増殖する。
【0039】
繊維芽細胞は増殖能力が高く、各臓器の実質細胞の間に介在する間質組織を構成し、紡錘型をしており、間葉系由来の(将来的に間質細胞となる)細胞であり、主にコラーゲンたんぱく質を産出する。
【0040】
繊維芽細胞は分化して繊維細胞になるが、通常、繊維芽細胞及び繊維細胞は混在しており、何れもコラーゲン繊維を作り、分泌する。
繊維芽細胞の生体内での機能としては、間質組織の修復や維持であり、そして、傷や炎症の修復過程では旺盛に増殖し、コラーゲンやプロテオグリカン等の弾性繊維を作り出して、修復や生態の防衛反応に応答する。
そして、繊維芽細胞は、それが生存すれば、その場に留まってコラーゲンの供給源となるものである。
係る性質は、上述した施術、すなわち皮膚に生じた凹部を充填する施術(美容目的の施術:例えば、シワの線を取る、事故等で凹んだ箇所の修復)に好都合である。
【0041】
ここで、培地24は、皮膚細胞の培養に必要な幾つかの栄養素を含んでいる。具体的には、アミノ酸や糖質等の液体栄養素を包含する。
しかし、従来の培地24には、血液中に含まれるたんぱく質や、血液や培養液の浸透圧を維持するのに必要な成分(アルブミン)は、包含されていない。
そのため、自己血26が充填されているのである。
換言すれば、培地24、自己血26の何れか一方のみでは、皮膚細胞(繊維芽細胞)の培養に必要な条件は充足しない。
【0042】
培地24としては、DMEM(Dulbecco´s Modified Eagle Medium:インビトロジェン株式会社発売:市販品)を使用した。
ここで、表1に、使用可能な培地DMEMの組成を示す。
表1
Figure 2006230201
【0043】
但し、グルコースの量、アミノ酸(特にグルタミン酸)の量、ビタミン、ミネラル等、培地の組成が繊維芽細胞の条件に合致していれば、DMEM以外の培地、例えばMEM(インビトロジェン株式会社発売:市販品)、RPM11640(インビトロジェン株式会社発売:市販品)、HANKS(インビトロジェン株式会社発売:市販品)等を使用することも可能である。
【0044】
発明者は、図示の実施形態に加えて、培地(DMEM)のみで培養した場合と、自己血のみで培養した場合についても、実験した。
係る実験の結果と、図3で示す様に培地24に自己血26を加えて繊維芽細胞を培養した場合とを比較して、以下の表2で示す。
表2
Figure 2006230201
【0045】
表3から明らかな様に、培地24に自己血26を加えた(図3参照)場合における繊維芽細胞の培養結果が極めて良好であるのに対して、培地24のみ、或いは自己血26のみでは、繊維芽細胞の培養は失敗している。
【0046】
自己血26を用いることにより、培養される皮膚細細片を構成する細胞が、拒絶反応等を起こすという不都合を防止することが出来る。また、増殖した繊維芽細胞が、血液を媒介とする各種感染症等の各種病気(或いは、その病原体)に感染してしまうことも防止できる。
さらに、自己血26を用いる結果として、従来の牛の血清を用いて培養する手法とは異なり、いわゆる「狂牛病」(BSE)感染の恐れが皆無となる。
【0047】
自己血26の量は、10mlで十分であることが、発明者の過去における実験結果より分かっている。自己血26の量は、10ml以下でも良い場合があるが、繊維芽細胞の培養中に、たんぱく質や、血液や培養液の浸透圧を維持するのに必要な成分(アルブミン)が不足する事態を未然に防止するため、10mlの自己血26を用いる。
【0048】
上述した様に、図3で示す様なシャーレ20は、培養ケース100(図4)内で温度37℃、5%CO2の雰囲気下(人間の生体内の環境と類似した雰囲気)で2日以上静置し、その後、約2週間、無菌培養される。
無菌培養されている間に、皮膚細片30の繊維芽細胞が分裂し増殖して、真皮層から遊走する。
【0049】
ここで、繊維芽細胞が分裂、増殖すると、下方に延びて(いわゆる「脚を伸ばした」状態)、シャーレ20の底部まで到達する。そして、さらに分裂、増殖すると、培養された繊維芽細胞をシャーレ20から回収する際に、当該培養された繊維芽細胞が、シャーレ20の底部に付着して、そこから外れなくなってしまう。そして、係る事態が生じて培養した繊維芽細胞が回収できなくなった場合や、シャーレ20の底部に付着した繊維芽細胞を無理に外した際に繊維芽細胞を破壊してしまった場合には、長時間をかけて培養した繊維芽細胞を有効利用することが出来なくなってしまう。
そのため、従来は係る事態になった場合は、酵素(トリプシン、リガーゼ)を用いて、培養された繊維芽細胞をシャーレの底部から剥がしていた。しかし、前記酵素を用いた処理を行うために、多大な労力を費やさなければならなかった。
【0050】
これに対して、図示の実施形態では、図3で示す様に、シャーレ20の底部には高分子材料(例えばフィブリンシート)22から成る層が形成されている。増殖した繊維芽細胞が下方に生長して、高分子材料(例えばフィブリンシート)22から成る層の上で付着する。高分子材料22の層を貫通してシャーレ20の底部に到達する繊維芽細胞は殆ど存在しない。
従って、図3の容器において、増殖して下方へ生長した繊維芽細胞がシャーレ20の底部に付着することによる不都合は防止される。
【0051】
その結果、増殖した繊維芽細胞を潰してしまうこと無く、シャーレ20から容易に剥離して、回収することが出来る。
表3に、シャーレ20の底部にフィブリンシート22を敷き詰めた場合における(増殖した)繊維芽細胞の回収結果と、シャーレ20に直接培地24を充填し、フィブリンシート22を敷き詰めなかった場合における回収結果とを、比較して示す。
【0052】
表3において、「回収率」は、繊維芽細胞を培養したシャーレを、フィブリンシートを敷き詰めたものとフィブリンシートを有していないものとを、それぞれ20個用意して、肉眼で判別できる範囲で培養した繊維芽細胞を回収できたシャーレの個数を、全シャーレ数(20個)に対する百分率で表現したものである。同様に、「潰れた細胞の比率」は、繊維芽細胞が底壁や側壁に付着して剥離、回収できなかったシャーレの個数を、全シャーレ数(20個)に対する百分率で表現している。
表3
Figure 2006230201
表3から明らかに、フィブリンシートを有している方が、細胞が潰れてしまうと言う不都合が抑制されている。
【0053】
次に、高分子材料22から成る層を、いわゆる「フィブリンシート」で形成する態様について、説明する。
図3において、シャーレ20の底部にフィブリンシート22(高分子材料)の層を作成するには、自己血から採取したフィブリンをシャーレ20の底へ膜状に敷き詰め、フィブリンシートとして作成するのである。
【0054】
具体的には、10mlの自己血を凝固させ、凝固した自己血を遠心分離によって回収する。ここで、「10ml」という数値は、必要且つ十分と思われる数値として例示したものであり、限定的な意味は有さない。
回収された(凝固した)自己血を注射器の中に入れ、注射針から押し出すことにより物理的に破砕する。
その状態で、シャーレの底に敷き詰めれば、シャーレの底部にフィブリンシート22の層が形成される。
【0055】
この様な手法でフィブリンシート22を形成する場合、フィブリンシート作成のために凝固させる自己血の量は、実験的に、10mlで十分なことが判明している。すなわち、皮膚片を採取した患者の自己血は、前述した培養用に必要な10mlと合わせて、合計で20mlが採血される。
なお、培地24と共に培養に用いられる自己血26(図3)については、凝固させない様に「ヘパリン採血」を行う。
【0056】
次に、フィブリンシート作成の他の形態を説明する。
皮膚片を採取した患者の血液を採決し、採血後2〜3時間経過して凝固が始まった段階で、遠心分離にかける。採血された血液の凝固した塊(凝固塊)が下方に沈降したならば、上方にある凝固していない成分を培地(例えば、一般的なアミノ酸等の栄養培地)上に撒く。
【0057】
前記「凝固していない成分」は、大部分が血清であり、血漿、その他少量の白血球、血小板、赤血球をふくんでおり、血清中には未だに凝固していない成分(フィブリンを含む)が、必要且つ十分な量だけ残存している。
従って、前記「凝固していない成分」を培地上に撒けば、前記「凝固していない成分」に包含されているフィブリンの残存量が培地上で徐々に凝固して、薄い膜、すなわちフィブリンシートが形成されるのである。
そして、この様に形成されたフィブリンシートを、図3で示す様に、シャーレ20の底部に敷き詰めれば良い。
【0058】
(皮膚細片30の)繊維芽細胞の培養は、細胞数が1000万個程度から1億個程度に増殖するまで行われる。しかし、増殖した細胞数は、培養期間を決定するための厳密な条件ではない。細胞数のオーダーが一桁違っても、容量的には殆ど変化がないからである。
なお、培養当初は、繊維芽細胞は数100個程度であり、この数100個の繊維芽細胞が遊離して、上述した細胞数になるまで十分に増殖してから、生体(皮膚片を採取した患者)に戻される。
【0059】
すなわち、培養或いは増殖された繊維芽細胞は、図3で示す様なシャーレ20から、患者の傷やシワ、事故等で凹んだ箇所の皮下に注入される。注入された繊維芽細胞は、注入された箇所で生長し、コラーゲンを産生して、患者の傷やシワ、その他の凹んだ箇所を修復する。
【0060】
ここで、繊維芽細胞が生長するためには、患者(生体)内に注入された後においても、「足場」となるような立体的な構造(マトリックス)を必要とする。換言すれば、係る立体的な構造を提供せずに、繊維芽細胞のみを患者(生体)内に注入しても、注入された繊維芽細胞は十分に生長せず、コラーゲン産生量も少なくなってしまう。
【0061】
そのため、培養された繊維芽細胞のみを患者(生体)内に注入する以前に、繊維芽細胞生育のための立体的な構造(マトリックス)を提供するための基材と混合する。
使用する基材は次の通りである。
(1) Hespander(ヘスパンダー:商品名:杏林製薬株式会社の製品)/Dextran(デキストラン:商品名:大塚製薬株式会社の製品)
(2) コラーゲン(Collagen)或いはヒアルロン酸(Hyaluronic acid)
(3) フィブリン(Fibrin)
(4) PRP(多血小板血漿:Platelet Rich Plasma)
(5) CMC(Carboxy Methyl Cellulose:カルボキシ・メチル・セルロース)
【0062】
上記(1)の「Hespander/Dextran」は、浸透圧が血液と同等以上に設定されているもので、代用血漿として市販されている。使用の際には、繊維芽細胞生育のための栄養素として市販のアミノ酸製剤、例えばモリプロン(moripron:商品名:味の素フォルマ株式会社の製品)、ハイプレアミン(Hy―pleamin:商品名:扶桑薬品工業株式会社の製品)等を混合して使用することが好ましい。
【0063】
上記(2)のコラーゲン或いはヒアルロン酸は、シワへの注入に用いられている一般的な注入剤である。繊維芽細胞が増殖しなくても、一次的に抗シワ効果が得られるという利点を有する。
従来技術で用いられているものは動物由来であるため、感染症、その他の病原体による汚染を防止する十分な処理が必須であった。これに対して、本発明においても繊維芽細胞がコラーゲンを産生するが、患者自身の繊維芽細胞を患者自身の血液(自己血)で培養しており、そのようにして増殖した繊維芽細胞が産生したコラーゲンであるため、「感染症、その他の病原体による汚染」の恐れが無い。
【0064】
上記(3)のフィブリン、特に患者の自己血から生成したフィブリンは、基材として最適である。
【0065】
上記(4)のPRPは、自己血中に含まれる血小板及び血小板由来の成長因子を多量に含む血漿である。
血小板が産生する増殖因子により、繊維芽細胞の分裂、増殖が助長されるので、PRPを基材とすれば、注入材自体が繊維芽細胞の増殖に良好な環境を提供することが出来る、という利点を有している。
【0066】
なお、上記項目(5)のCMCは、例えば豊胸術で用いられる素材である。生体との馴染みが良いというメリットを有する。
【0067】
繊維芽細胞と上述した基材との比率は、1:4〜4:1程度まで可能であり、例えば1:1で混合することが出来る。但し、これは基材の種類やその他の条件により変動する。例えば、ヒアルロン酸の様に粘調な基材の混合量は、少なくて済む。
上述した基材を培養された繊維芽細胞と混合するに際しては、人手による振とうで行われる。振とう機等の機械による振とうでは、繊維芽細胞が潰れてしまうおそれがあることによる。勿論、細胞が潰れない程度の低速の振とうが可能であり、衛生面での配慮が十分に為され、且つ、人手で行うよりも労力が低減できるのであれば、機械による振とうを行っても良い。
【0068】
基材(或いはマトリックス)及び繊維芽細胞は、混合された後、所定の時間内(6時間以内)、好ましくは混合した直後に、注射器により、生体の所定箇所(きず、シワ、凹部、その他)の皮下へ注入され、充填される。
培地24上から回収された状態の繊維芽細胞は、(自己血を加えた培地24上とは異なり)必要な栄養素が供給されている状態でなくなるため、培地24から回収すると細胞活性が衰えてしまう。したがって、生体内に戻された繊維芽細胞が十分に成育して機能するためには、培地24から回収された後、生体内に戻されるまでの時間が短ければ短い程、好都合である。
発明者等の実験によれば、自己血26を加えた培地24で培養された繊維芽細胞は、培地から回収された後、6時間以上経過すると、生体内に戻された後に成長するのに必要な細胞活性が失われた。
【0069】
但し、基材としてフィブリンやPRPを使用する場合には、係る基材は細胞が増殖するための好条件を提供することが出来るため、細胞活性の劣化を減衰して、培地から繊維芽細胞を回収した後、生体内に戻すまでの臨界時間を長くすることが可能である。
係る臨界時間に関する実験結果を表4で示す。
【0070】
表4は、繊維芽細胞が培地から回収後、必要な活性を失うまでの時間を比較して示している。
表4
Figure 2006230201
【0071】
表4で示す実験結果から明らかな様に、基材としてコラーゲン、ヒアルロン酸、フィブリン或いはPRPを用いれば、繊維芽細胞を培地から回収後、必要な活性を失うまでの時間を長期化することが出来る。
従って、培地から回収された繊維芽細胞の保存も容易となる。
【0072】
培地から回収された繊維芽細胞と基材との混合物は、冷凍保存することが可能である。すなわち、培養された繊維芽細胞、自己血から得られた細胞保存用の血清、DMSO(ジメチルスルホキシド:Dimetyl Sulfoxide)、フィブリンシート(基材)とを混合し、液体窒素により急速冷凍すれば、その状態で冷凍保存が可能となる。
【0073】
自己血から得られた細胞保存用の血清は、血清に「非働化」という操作を加えることにより得られる。「非働化」という操作は、血清を例えば55℃で30分加熱する操作であり、係る操作により、細胞増殖を抑制する因子(例えばTGF−beta等)を不活性化して、血清中の成分を栄養素としての利用効率を高めることが出来る。
冷凍保存に際しては、保存用の血清10%、培地、DMSO10%の保存液中に増殖した繊維芽細胞を入れて、1分間に1℃ずつ冷やして、最終的には液体窒素中に保存するのである。
【0074】
なお、DMSOに代えて、グリセリン(grycerin、glycerol)や、HES(Hydroxy Ethyl Starch)を使用することも可能である。
【0075】
足場となる基材と混合されて生体内の所定箇所に注入された後、繊維芽細胞は順調に生育して、増殖すると共に、コラーゲンを産生して、傷やシワ、怪我で生じた凹部等の内部空間を充填し、係る傷、シワ、凹部が出来る以前の(生体の)状態に修復するのである。
【0076】
図3の符号22で示す高分子シート(例えばフィブリンシート)を使用しない場合には、遊走してきた繊維芽細胞は、シャーレ20の底部に張り付き、足場を固めながら生育する。
所定の培養期間が経過したならば、シャーレ20の底部から生育した繊維芽細胞を剥がすが、その際には、酵素トリプシン(Trypsin:商品名「トリプシンレコンビナント」としてRoche社が製造、販売)を、直径が10cmのシャーレ20であれば25mg程度添加し、10℃〜37℃で10〜20分保温すれば、当該酵素の作用により、繊維芽細胞はシャーレ20の底部から剥離する。
なお、トリプシンは長時間作用させると細胞毒性が出てくるので、必要最小限に使用する。例えば、シャーレの底部から繊維芽細胞を剥がすタイミングについては、温度や時間をパラメータとせずに、顕微鏡で観察しながら、繊維芽細胞が丸くなったならば、シャーレの底部から剥離する。
【0077】
剥離した繊維芽細胞をピペットで吸引して回収し、遠心分離機で800rpmで5分間回転する。繊維芽細胞は沈降するので、これを回収して新たに培地で混濁する(約5〜10ml)。新たに培地で混濁された繊維芽細胞は、例えば10枚の別のシャーレへ撒くことによって、相対的な濃度を調整し、増殖した細胞を回収すれば、10倍に増殖させることが出来る。
以下、回収、遠心分離、混濁、複数の別のシャーレで培養、という上記手順を繰り返して、所定数の繊維芽細胞を得るのである。
【0078】
高分子シート22を用いて培養する場合において、シート22上で培養された細胞が注射器の針を通らず、回収が困難となってしまう場合が存在する。上述した様に、トリプシンを用いれば回収することは可能であるが、出来る限りトリプシンは使用したくないという要請が存在する。
係る場合に対処するには、例えば、高分子シート22を、低温感受性ポリマーにすれば良い。以下、図5〜図7を参照して、低温感受性ポリマーを高分子シート22にした場合について、説明する。
【0079】
図3及び図4で示す様な状態で培養した結果、図5で示す様に高分子シート22の表面全域に亘って繊維芽細胞27が増殖したのであれば、図4のコントロールユニット118から加熱用ヒータ122へ制御信号を送出して、シャーレ20が配置されている培養ケース100の内部温度(シャーレ20が配置されている雰囲気温度)を37℃から32℃まで降温する。
雰囲気温度を32℃まで降温すると、低温感受性ポリマーの特性に基いて、図6で示す様に、繊維芽細胞27のシート22に対する付着状態が解除され、培養された繊維芽細胞は、培地と自己血の混合物25(液相)中を浮上する。
図6では、シート22から剥離して浮上した繊維芽細胞は符号27Aで示されている。
【0080】
そして、図7で示す様に、増殖した繊維芽細胞の全量が低温感受性ポリマーのシート22から剥離して浮上したならば(符号「27A」で示す繊維芽細胞)、ピペットのような大径の器具64により、浮上した繊維芽細胞27Aを回収すればよい。
【0081】
図3に関する上述した説明において、本発明に係る培養装置10に収容される細胞培養用の培地24と自己血26との混合物は、培地24に対する自己血26の比率は、4%〜50%である旨を述べたが、係る比率は、表5で示す実験結果から求められた。
表5で示す実験では、培地24に対する自己血26の比率を1%毎に、2%から52%の範囲で実験を行った。そして、7%〜48%の結果については、何れも「良好」であるため、表5では省略してある。
なお、移植に必要な量だけ培養が出来た場合が「良好」、必要量が得られなかった場合を「不良」と判定している。
表5
Figure 2006230201
【0082】
表5から明らかな様に、培地24に対する自己血26の比率が4%未満であるか、或いは50%より大きいと、繊維芽細胞の培養は上手くいかなかった。その理由は、以下の様に推察される。
すなわち、培地24に対する自己血26の比率が4%未満であると、培地24に対する生体から採取した血液(自己血26)の量が少な過ぎて、血液中に含まれるたんぱく質や、血液や培養液の浸透圧を維持するのに必要な成分(アルブミン)が不足してしまう。一方、培地24に対する自己血26の比率が50%より大きいと、培地24に対する生体から採取した血液(自己血26)の量が多すぎて、相対的に培地24の量が少なくなり、培地中に含まれる皮膚細胞の培養に必要な幾つかの栄養素、例えばアミノ酸や糖質等の液体栄養素、が不足してしまう。
そのため、培地24に対する自己血26の比率は、4%〜50%が好適なのである。
【0083】
また、培養された繊維芽細胞のみを患者(生体)内に注入する以前に、繊維芽細胞生育のための立体的な構造(マトリックス)を提供するための基材と混合するが、繊維芽細胞と上述した基材との比率は、1:4〜4:1程度まで可能である旨を上述したが、係る比率は、表6で示す結果から得られた。
表6では、繊維芽細胞と上述した基材との比率を、繊維芽細胞と基材との混合物に対する繊維芽細胞の百分率で示し、係る百分率を5%毎に、10%(繊維芽細胞と上述した基材との比率が1:9)から90%(繊維芽細胞と上述した基材との比率が9:1)の範囲で実験を行った。そして、35%〜65%の結果については、何れも「良好」であるため、表6では省略してある。
なお、移植後に再生箇所が他の領域と同一のレベルを維持することが出来た場合が「良好」、肉眼で判別できる程度の凹みが発生した場合を「不良」と判定している。
表6
Figure 2006230201
【0084】
このように、繊維芽細胞と基材との比率が1:4(繊維芽細胞と基材との混合物における繊維芽細胞の比率が20%)〜4:1(繊維芽細胞と基材との混合物における繊維芽細胞の比率が80%)程度であるのは、次の理由によるものと推測される。
すなわち、繊維芽細胞の比率が80%よりも多いと、相対的に基材の量が少なすぎて、繊維芽細胞が生長するために必要な「足場」となるような立体的な構造(マトリックス)が不十分となり、生体内に注入された繊維芽細胞は十分に生長せず、コラーゲン産生量も少なくなってしまう。一方、繊維芽細胞の比率が20%未満であると、そもそも繊維芽細胞の絶対量が少ない為、コラーゲン産生量も少なくなってしまう。
そのため、上述した繊維芽細胞と基材との比率が1:4(繊維芽細胞と基材との混合物における繊維芽細胞の比率が20%)〜4:1(繊維芽細胞と基材との混合物における繊維芽細胞の比率が80%)が好ましいのである。
なお、表6では示されていないが、繊維芽細胞と基材との割合が1:1(繊維芽細胞と基材との混合物における繊維芽細胞の比率が50%)の場合は、特に良好な結果を示した。
【0085】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨ではない。
【0086】
【発明の効果】
上述した本発明の作用効果を以下に列挙する。
(1) 培養しようとする繊維芽細胞を有する生体の血液(自己血)を市販の培地に加えて構成しているので、必要な栄養素やアミノ酸、浸透圧を維持するのに必要な成分(アルブミン)が存在する環境下で、繊維芽細胞を培養することが出来る。
(2) 自己血を用いるため、例えば他の生体の血液を媒介とする各種感染症や病原体が、培養容器内で増殖した繊維芽細胞を汚染してしまうことを、確実に防止することが出来る。
(3) 繊維芽細胞を培養しようとする培養容器の底部に高分子(フィブリン)のシートを敷き詰めておくことにより、培養された繊維芽細胞が培養容器の底部に付着して、剥離することが出来なくなることが防止される。
(4) 「足場」となるような立体的な構造(マトリックス)を培養した繊維芽細胞と混合すれば、培養容器から剥離した繊維芽細胞を生体内に戻した際に、当該繊維芽細胞が順調に生長する。
【図面の簡単な説明】
【図1】皮膚片採取の態様を説明する図。
【図2】培養前の処理手順を説明する工程図。
【図3】本発明の培養装置の要部を説明する断面図。
【図4】本発明で用いられる培養ケースの構造を説明する斜視図。
【図5】増殖した繊維芽細胞を回収する態様を示す図。
【図6】図5で示す繊維芽細胞を回収する態様であって、図5とは別の段階を示す図。
【図7】図5、図6で示す繊維芽細胞を回収する態様であって、図5、図6とは別の段階を示す図。
【符号の説明】
10・・・培養装置
20・・・シャーレ
22・・・高分子材料(フィブリンシート)
24・・・培地
25・・・培地と自己血との混合物
26・・・自己血
30・・・皮膚細片
100・・・培養ケース
102・・・培養ケースのドア
104・・・培養ケースの底部
106・・・温度センサ
108・・・分析手段
110・・・調設手段
112・・・二酸化炭素供給源
114,124・・・管路
116・・・調整弁
118・・・コントロールユニット
120・・・フィルタ
122・・・温度調節手段

Claims (4)

  1. ケーシングの内部に培地を充填し、係る培地には、培養しようとする皮膚細胞を有する生体から採取した血液が加えられていることを特徴とする培養装置。
  2. 培地及び自己血を充填した前記ケーシングを収納する培養ケースを有し、該培養ケースは、その内部の温度が約37℃で且つ約5%の二酸化炭素を含有する雰囲気となる様に構成されている請求項1の培養装置。
  3. 前記ケーシングの底部には、高分子材料製のシートが敷き詰められている請求項1、2の何れかの培養装置。
  4. 培養しようとする皮膚細胞を有する生体から血液を採取する工程と、その血液を凝固する工程と、凝固した血液を回収する工程と、回収された血液を破砕する工程と、回収された血液を培養装置のケーシングの底部に敷き詰める工程、とを有することを特徴とするフィブリンによりシートを形成する方法。
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