以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
先ず、本発明を適用した量子ドットを用いた光接続装置1の構成について説明をする。光接続装置1は、例えば図1に示すように、互いに周波数の異なる複数の光信号を多重化させた伝搬光Mが供給されるものであり、例えばNaCl、KCl又はCaF2等の材料により構成される誘電性の基板11と、この基板11上に形成された量子ドット12,13,14からなる量子ドットグループ20とを備えている。
量子ドットグループ20を構成する各量子ドット12,13,14は、励起子を三次元的に閉じ込めることにより形成される離散的なエネルギー準位に基づき、単一電子(励起子)を制御する。この量子ドット12,13,14においては、励起子の閉じ込め系により、量子ドット内のキャリアのエネルギー準位が離散的になり、状態密度をデルタ関数的に尖鋭化させることができる。なお、この量子ドット12,13,14において扱う励起子は、電子、正孔等のいかなる光励起担体に代替することが可能となる。
量子ドットグループ20を構成する各量子ドット12,13,14は、CuCl、GaN又はZnO等の材料系からなり、各量子ドット12,13,14を構成する材料系がCuClである場合に、これらは立方体として構成され、また各量子ドット12,13,14を構成する材料系がGaNやZnOである場合に、これらは球形或いは円盤形として構成される。この各量子ドット12,13,14の辺長や径は、それぞれ4nm〜10nm程度で構成することも可能となり、光の波長λと比較してより小さいサイズで基板11上に形成させることも可能となる。
この量子ドットグループ20は、基板11上において複数グループに亘り離散的に複製されてなる。この量子ドットグループ20が形成された基板11上には、光ファイバ等で伝送可能な遠視野光としての伝搬光がそのまま供給されてくる。このため、かかる伝搬光に多重化された各光信号は、そのまま量子ドットグループ20を構成する各量子ドット12,13,14へと供給されることになる。
図2は、かかる量子ドットグループ20の詳細を示している。この量子ドットグループ20は、上述した伝搬光に多重化された光信号がそれぞれ供給される第1の量子ドット12並びに第2の量子ドット13と、これらの近傍に形成された第3の量子ドット14とを備えている。即ち、これら光信号が供給される第1の量子ドット12並びに第2の量子ドット13をいわゆる入力側の量子ドットとした場合に、この第3の量子ドット14は、これらとの近接場−近接場相互作用に基づいて発光する、いわゆる出力側の量子ドットとして定義することが可能となる。
この量子ドットグループ20を構成する量子ドット12,13,14がそれぞれ立方体として構成されている場合において、第1の量子ドット12の辺長Lとしたとき、第2の量子ドット13の辺長は2Lであり、第3の量子ドット14の辺長は、√2Lとなる。
これら各量子ドット12,13,14は以下のブリッジマン法を用いることにより、例えば母結晶として構成される基板11上に形成させることができる。各量子ドット12,13,14を構成する材料系として上記CuClを用いる場合において、先ずCuClの粉末と、NaClの粉末を混合して約800℃の温度で融解する。次に、上下方向に温度勾配が施された炉内へ上記融解した混合粉末をつり下げ、数mm/hの速度で炉内を上下移動させることにより、混合粉末内部に温度勾配を作り出して序々に結晶化させてゆく。そして約200℃程度の温度で数分から数10分間熱処理をすると、CuClの量子ドット12,13,14を包含したNaCl結晶を作製することができる。ちなみに、このブリッジマン法では、熱処理温度や熱処理時間を変えることにより、生成する量子ドット12,13,14のサイズを自在に制御することもでき、これらを100nm以下の領域に並べて形成させることも可能となる。
なお、これら各量子ドット12,13,14は、更に分子エピタキシー(MBE)成長法に基づいて基板11上に作製してもよいし、また近接場光CVDを利用して量子ドットの形成位置を精度よく制御してもよい。
各量子ドット12,13,14における量子準位E(nx,ny,nz)は、粒子の質量をmとし、また量子ドットの辺長をLとしたときに、以下の式(1)により定義される。
E(nx,ny,nz)=h2/8π2m(π/L)2(nx 2+ny 2+nz 2)・・・・・(1)
なお、本発明では、量子ドットの形状や材質に応じて、この式(1)で定義される量子準位E(nx,ny,nz)の式以外に、他の一般的な量子準位の式が適用される場合もある。
この式(1)に基づき、各量子ドット12,13,14のE(nx,ny,nz)を計算する。ここで第1の量子ドット12と、第2の量子ドット13と、第3の量子ドット14との辺長比は、上述の如く1:2:√2であるとき、図3に示すように、第1の量子ドット12における量子準位が(1,1,1)であるときのE(111)と、第3の量子ドット14における量子準位が(2,1,1)であるときのE(211)と、第2の量子ドット13における量子準位が(2,2,2)であるときのE(222)とが等しくなる。また第2の量子ドット13における量子準位が(2,1,1)であるときのE(211)と、第3の量子ドット14における量子準位が(1,1,1)であるときのE(111)とが等しくなる。即ち、第1の量子ドット12の量子準位(1,1,1)は、第3の量子ドット14における量子準位(2,1,1)及び第2の量子ドット13における量子準位(2,2,2)と、また第2の量子ドット13の量子準位(2,1,1)は、第3の量子ドット14における各量子準位(1,1,1)と、それぞれ励起子の励起エネルギー準位が共鳴する関係にある。
実際これらの間で共鳴を起こさせるためには、第1の量子ドット12における量子準位(1,1,1)に対応する周波数ω1の光信号A、第2の量子ドット13における量子準位(1,1,1)に対応する周波数ω2の光信号Bをそれぞれ供給することにより、かかる量子準位へ励起子を励起させることができる。
仮に周波数ω1の光信号Aを供給することにより、第1の量子ドット12における量子準位(1,1,1)へ励起子を励起させた場合には、かかる量子準位(1,1,1)と第3の量子ドット14における量子準位(2,1,1)との間で共鳴が生じる。その結果、第1の量子ドット12における量子準位(1,1,1)に存在する励起子が、第3の量子ドット14の量子準位(2,1,1)へ移動し、さらに第3の量子ドット14の量子準位(1,1,1)へ遷移する。この結果、見かけ上第1の量子ドット12から第3の量子ドット14へ励起子が移動することになる。
また、第1の量子ドット12における量子準位(1,1,1)と第2の量子ドット13における量子準位(2,2,2)との間で共鳴が生じる。その結果、第1の量子ドット12における量子準位(1,1,1)に存在する励起子が、第2の量子ドット13の量子準位(2,2,2)へ移動し、さらにこの第2の量子ドット13における量子準位(2,1,1)、(1,1,1)へと遷移していくことになる。即ち、見かけ上第1の量子ドット12から第2の量子ドット13へ励起子が移動することになる。
これに対して、周波数ω2の光信号Bを供給した場合には、第2の量子ドット13における量子準位(1,1,1)のみに対して励起子が励起される。換言すれば、かかる光信号Bを受けたときには、第2の量子ドット13における量子準位(1,1,1)のみ励起子が埋められることになる。かかる場合には、第1の量子ドット12における量子準位(1,1,1)に存在する励起子が、第2の量子ドット13の量子準位(2,2,2)に移動しても、後述する励起子の伝送原理に基づき、第2の量子ドット13の量子準位(1,1,1)に移動することはできない。
ここで第1の量子ドット12から第3の量子ドット14における量子準位(2,1,1)を経て量子準位(1,1,1)へ移動した励起子は、かかる準位から発光することになる。この第3の量子ドット14の量子準位(1,1,1)からの発光は、出力信号としての出力光として取り出されることになるが、その周波数ω11は、周波数ω1より低く、周波数ω2より高くなる。これは、第3の量子ドット14のサイズが、第1の量子ドット12より大きく、第2の量子ドット13より小さいからである。従って、この周波数ω11の出力光のみを選択的に検出することで、他の周波数成分が混ざることなく、出力光の光強度を正確に測ることも可能となる。
ここで、仮に周波数ω1の光信号Aが伝搬光Mに多重化される一方で、周波数ω2の光信号Bが伝搬光Mに多重化されていない場合には、かかる周波数ω1からなる光信号Aを受けて第1の量子ドット12における量子準位(1,1,1)のみへ励起子が励起される。この第1の量子ドット12における量子準位(1,1,1)へ励起された励起子は、第3の量子ドット14における量子準位(2,1,1)へ移動するとともに、第2の量子ドット13における量子準位(2,2,2)へ移動することになる。ここで、第3の量子ドット14における量子準位(2,1,1)へ移動した励起子は、下位にある量子準位(1,1,1)へ遷移する。
ちなみに、この第3の量子ドット14における量子準位(1,1,1)から周波数ω11からなる出力光として放出され得るが、かかる量子準位(1,1,1)は、第2の量子ドット13の量子準位(2,1,1)とも近接場による相互作用があるため、第3の量子ドット14における量子準位(1,1,1)から第2の量子ドット13における量子準位(2,1,1)へ励起子が移動することになる。
この第3の量子ドット14における量子準位(1,1,1)から第2の量子ドット13における量子準位(2,1,1)への励起子の移動速度は、第3の量子ドット14の量子準位(1,1,1)からの出力光の放出過程より高速である。そのため、第3の量子ドット14の量子準位(1,1,1)の励起子は、さらに第2の量子ドット13の量子準位(2,1,1)に移動し、さらに第2の量子ドット13の量子準位(1,1,1)に緩和し、かかる準位より、周波数ω2の出力光となる。
ちなみに、第1の量子ドット12において励起された励起子のうち、全てが第2の量子ドット13における量子準位(1,1,1)へ移動するわけではなく、第3の量子ドット14における量子準位(1,1,1)より発光する確率も存在する。しかしながら、この第3の量子ドット14における量子準位(1,1,1)から発光する確率は、かかる量子準位から第2の量子ドット13へ励起子が移動する確率と比較して著しく小さい。
これに対して、周波数ω1の光信号Aと周波数ω2の光信号Bがともに伝搬光Mに多重化されている場合には、かかる周波数ω1からなる光信号Aを受けて第1の量子ドット12における量子準位(1,1,1)へ励起子が励起されるとともに、周波数ω2からなる光信号Bを受けて第2の量子ドット13における量子準位(1,1,1)へ励起子が励起される。
その結果、第1の量子ドット12における量子準位(1,1,1)へ励起された励起子は、第3の量子ドット14における量子準位(2,1,1)へ移動し、さらにこの第3の量子ドット14における量子準位(1,1,1)に移動した後、第3の量子ドット14の量子準位(1,1,1)と第2の量子ドット13の(2,1,1)の間の近接場−近接場相互作用により第2の量子ドット13の量子準位(2,1,1)に移動することは可能である。しかしながら、第2の量子ドット13では、光信号Bに基づいて励起された励起子が既に量子準位(1,1,1)において埋められているため、かかる第3の量子ドット14から第2の量子ドット13における量子準位(2,1,1)へ移動した励起子は、その下位準位としての量子準位(1,1,1)への緩和ができない。このため、第3の量子ドット14の量子準位(1,1,1)へ移動してきた励起子は、第3の量子ドットの量子準位(1,1,1)より出力光として発光する確率がより高くなる。
同様に、第1の量子ドット12から第2の量子ドット13の量子準位(2,2,2)へ移動した励起子は、かかる第2の量子ドット13の量子準位(2,1,1)へ緩和することになるが、さらに下位にある量子準位(1,1,1)は光信号Bに基づく励起子で既に埋められているため、当該量子準位へ緩和されることはない。しかしながら、第2の量子ドット13の量子準位(2,1,1)と第3の量子ドット14の量子準位(1,1,1)は共鳴準位であることから、第2の量子ドット(2,1,1)の励起子は、第3の量子ドット14の量子準位(1,1,1)に移動し、かかる準位より出力光として発光することになる。
即ち、この第3の量子ドット14からの出力光の光強度は、第3の量子ドット14における下位準位への励起子の放出量に応じたものであり、かかる励起子の放出量は第1の量子ドット12から伝送される励起子の量に支配される。即ち、第1の量子ドット12,第2の量子ドット13の双方に光信号A,Bがそれぞれ供給された場合には、第1の量子ドット12から第3の量子ドット14へ伝送される励起子の多くをこの第3の量子ドット14から放出させることができ、さらにこの第1の量子ドット12から第2の量子ドット13へ伝送される励起子の多くを第3の量子ドット14へ移動させて放出させることも可能となる。その結果、かかる第3の量子ドット14からの励起子の放出に基づく、出力光の光強度は大きくなる。
これに対して、第1の量子ドット12,第2の量子ドット13の何れかにしか光信号A,Bが供給されなかった場合には、第3の量子ドット14の量子準位(1,1,1)からの放出に基づく出力光の光強度は小さくなる。これは、光信号A,Bの入力側の量子ドット12、13に対する供給状態を制御することにより、出力光の光強度を変化させることができることを意味している。
この光接続装置1では、周波数ω1からなる光信号Aを受けて量子準位(1,1,1)へ励起子が励起されるようにサイズを制御された第1の量子ドット12と、周波数ω2からなる光信号Bを受けて量子準位(1,1,1)へ励起子が励起されるようにサイズを制御された第2の量子ドット13とを基板11上に形成させる。このとき、この第1の量子ドット12と第2の量子ドット13間において、ともに共鳴する量子準位ができるようにサイズを制御する。さらに、これら第1の量子ドット12、第2の量子ドット13と同一の量子準位を持つ第3の量子ドット14をその近傍に形成させる。これにより、第1の量子ドット12に対して、第2の量子ドット13と第3の量子ドット14内に共鳴準位を持たせることが可能となる。その結果、光信号A、Bの供給状態に応じて第1の量子ドット12から第3の量子ドット14へ伝送させる励起子の量を制御することが可能となり、ひいては第3の量子ドット14からの出力光の光強度を変化させることができる。
この第3の量子ドット14では、かかる伝送された励起子を下位準位へ放出することにより出力光を生成するが、この生成する出力光は、近接場光として生成される場合もあり、又は伝搬光として生成される場合もある。出力光が近接場光として発光される場合には、第3の量子ドット14へ図示しない近接場光プローブを近接してこれを取り出す。また、出力光が伝搬光として発光される場合には、そのまま基板11を介してこれを取り出すことになる。
また、光接続装置1に供給される伝搬光に多重化される各光信号をデジタル信号の各ビットを表すものとした場合に、各光信号を構成する周波数の光が供給されている状態をHレベルとし、当該各周波数の光が供給されていない状態をLレベルとした場合に、供給されている光信号の数に応じて出力光の光強度が増加することから、これを識別することにより、供給されてきた伝搬光に多重化された光信号の数をカウントすることができる。
このため、第1の量子ドット12,第2の量子ドット13に対して光信号A,光信号Bが共に供給された場合における第3の量子ドット14における出力光の光強度を予め調査しておき、光信号A,光信号Bの双方が供給されたときのみ閾値を越えるように予め設定しておく。実際の演算時において第3の量子ドット14からの出力光の光強度を測定し、これが上記設定した閾値を越えた場合には、第1の量子ドット12,第2の量子ドット13に対してそれぞれ光信号A,光信号Bが供給されたものと識別し、出力があったものとみなす。これにより、基板11に対して光信号A,光信号Bが共に供給されてきた場合のみ出力信号を発生させる、いわゆる積算回路として光接続装置1を構成することが可能となる。
このように、本発明を適用した光接続装置1では、積算すべきデジタル信号の各ビットに対応した互いに異なる波長の光信号が供給され、当該供給された光信号に応じてそれぞれ励起子が励起される複数の第1の量子ドット12と、これらの量子準位から励起子が注入される共鳴エネルギー準位を有する第2の量子ドット13を基板11上に形成させ、さらにこれらの近傍において第3の量子ドット14を配置させている。
このため、積算すべきデジタル信号のビットに対応した光信号の供給状態を制御することにより、第1の量子ドット12から第2の量子ドット13や第3の量子ドット14へ流れ込むエネルギーの合計を制御することができ、放出される出力信号としての出力光の光強度がこれに支配され、かかる出力光の光強度を識別することにより、光信号A,光信号Bがともに基板11上に供給されたこと判別することが可能な積算回路を実現することが可能となる。
特に本発明を適用した光接続装置1では、光の回折限界に支配されることなく、ナノメータサイズの量子ドット間で積算を行うことができ、これを用いることにより、周波数多重光通信における演算回路をナノ寸法で実現することも可能となる。
また、本発明を適用した光接続装置1は、近接場光プローブ等を用いて各量子ドット12,13,14に対してピンポイントで互いに周波数の異なる光信号をそれぞれ供給するのではなく、これら光信号をあくまで伝搬光Mに重畳させて供給する。このため、伝搬光Mに多重化させられた互いに異なる周波数からなる光信号のうち、第1の量子ドット12、又は第2の量子ドット13における量子準位(1,1,1)に対応する周波数からなる光信号A、Bは、これら第1の量子ドット12、又は第2の量子ドット13により吸収されることになり、上述の励起子の励起へ寄与することになる。
このため、伝搬光に周波数を多重化させてこれをそのまま上記基板11上へ供給するのみで、上記第1の量子ドット12、第2の量子ドット13のバンドギャップに対応する周波数ω1、ω2の光信号をそのまま光接続装置1によって演算処理させることが可能となる。即ち、本発明では、入力側の量子ドット12,13に対して近接場プローブにより光信号を供給することなく、周波数が多重化された伝搬光を供給することにより動作可能な構成であるため、デバイス全体の構成が複雑化することがなくなり、作製コストを大幅に低減させることも可能となる。
また、本発明を適用した光接続装置1では、例えば図1に示すように量子ドットグループ20につき、基板11上において複数グループに亘り離散的に複製されている。このため、基板11上の何れの方向から伝搬光が供給されてきても、又は何れの箇所から伝搬光が供給されてきても、基板11上に形成された少なくとも一の量子ドットグループでこれらを受けることが可能となる。また、各量子ドットグループ20からの出力光を合計すると、大きな光出力を得ることが可能となることから、後段における回路のS/N比の改善をも図ることが可能となる。
なお、上述した実施の形態では、あくまで周波数ω1と周波数ω2の光信号が多重化された伝搬光が供給される場合を例にとり説明をしたが、かかる構成に限定されるものではなく、例えば図4に示すように多数の周波数帯域が多重化された伝搬光が供給されるものであってもよい。
この図4の例では、周波数ω1〜周波数ω6の光信号A〜Fが多重化された伝搬光Mが基板11上に供給される。この基板上11には、互いに入力側の量子ドットにおいて励起子を励起させる光信号の周波数が互いに異なる複数の量子ドットグループ20a,20b,20cが形成されている。量子ドットグループ20aは、この周波数ω1、ω2からなる光信号を演算するものであり、量子ドットグループ20bは、この周波数ω3、ω4からなる光信号を演算するものであり、さらに、この量子ドットグループ20cは、周波数ω5、ω6からなる光信号を演算するものである。
量子ドットグループ20aは、周波数ω1、周波数ω2の光信号を演算処理するために基板11上に形成されたものであり、第1の量子ドット12aと、第2の量子ドット13aと、第3の量子ドット14aとからなる。第1の量子ドット12aは、周波数ω1からなる光信号Aを受けて量子準位(1,1,1)へ励起子が励起されるようにサイズが制御されてなる。第2の量子ドット13aは、周波数ω2からなる光信号Bを受けて量子準位(1,1,1)へ励起子が励起されるようにサイズが制御されてなる。第3の量子ドット14aは、上述と同様のプロセスに基づき、周波数ω11からなる出力光を発光する。
量子ドットグループ20bは、周波数ω3、周波数ω4の光信号を演算処理するために基板11上に形成されたものであり、第1の量子ドット12bと、第2の量子ドット13bと、第3の量子ドット14bとからなる。第1の量子ドット12bは、周波数ω3からなる光信号Cを受けて量子準位(1,1,1)へ励起子が励起されるようにサイズが制御されてなる。第2の量子ドット13bは、周波数ω4からなる光信号Dを受けて量子準位(1,1,1)へ励起子が励起されるようにサイズが制御されてなる。第3の量子ドット14bは、上述と同様のプロセスに基づき、周波数ω12からなる出力光を発光する。
量子ドットグループ20cは、周波数ω5、周波数ω6の光信号を演算処理するために基板11上に形成されたものであり、第1の量子ドット12cと、第2の量子ドット13cと、第3の量子ドット14cとからなる。第1の量子ドット12cは、周波数ω5からなる光信号Eを受けて量子準位(1,1,1)へ励起子が励起されるようにサイズが制御されてなる。第2の量子ドット13cは、周波数ω6からなる光信号Fを受けて量子準位(1,1,1)へ励起子が励起されるようにサイズが制御されてなる。第3の量子ドット14cは、上述と同様のプロセスに基づき、周波数ω13からなる出力光を発光する。
この第1の量子ドット12a,12b,12c、第2の量子ドット13a,13b,13c、第3の量子ドット14a,14b,14cの詳細な構成は、上述した説明を引用することにより、ここでの説明を省略する。
図5は、これら各量子ドットグループ20a,20b,20cを構成する量子ドットの各量子準位に対応する周波数ωの関係を示している。量子ドットグループ20aは、辺長Lからなる第1の量子ドット12aと、辺長2Lからなる第2の量子ドット13aと、辺長√2Lからなる第3の量子ドット14aとからなる。斜線で示されている量子準位は、励起子が励起可能な準位を示している。即ち、周波数ω1の光信号Aの供給に応じて、励起子が励起されるのは、この辺長Lからなる第1の量子ドット12aの量子準位(1,1,1)であることが、また周波数ω2の光信号Bの供給に応じて励起子が励起されるのは、辺長2Lからなる第2の量子ドット13aの量子準位(1,1,1)であることが示されている。
この量子ドットグループ20aにおいては、上述したメカニズムに基づき、第1の量子ドット12aにおける量子準位(1,1,1)から第3の量子ドット14aにおける量子準位(2,1,1)を経て第3の量子ドットにおける量子準位(1,1,1)へ矢印の順で励起子が遷移していくことになる。同様に、第2の量子ドット13aに対して周波数ω2からなる光信号が供給された場合には、第2の量子ドット13aにおける量子準位(1,1,1)に励起子が満たされる。その結果、第1の量子ドット12aにおける量子準位(1,1,1)にある励起子は、第2の量子ドット13aにおける量子準位(2,2,2)へ移動した後、その下位準位にあたる量子準位(2,1,1)を介して第3の量子ドット14aにおける量子準位(1,1,1)へ移動し、さらには、第3の量子ドット14aにおける量子準位(1,1,1)にある励起子は、第2の量子ドット13aにおける量子準位(2,1,1)へ移動することなく、その殆どは下位準位へ発光されることになる。
同様に、量子ドットグループ20bは、辺長2√2Lからなる第1の量子ドット12bと、辺長4√2Lからなる第2の量子ドット13bと、辺長4Lからなる第3の量子ドット14bとからなる。周波数ω3からなる光信号Cの供給に応じて、励起子が励起されるのは、この辺長2√2Lからなる第1の量子ドット12bの量子準位(1,1,1)であることが、また周波数ω4の光信号Dの供給に応じて励起子が励起されるのは、辺長4√2Lからなる第2の量子ドット13bの量子準位(1,1,1)であることが示されている。この量子ドットグループ20bにおいても、上述した量子ドットグループ20aと同様に、出力側の辺長4Lからなる第3の量子ドット14から周波数ω12の出力光が量子準位(1,1,1)から発光されることになる。
このように各量子ドットグループ20a,20bを構成する入力側の量子ドット12a,13a, 12b,13bの各量子準位(1,1,1)において励起子が励起される周波数ω1,ω2,ω3,ω4が互いに異なるように、量子ドットの辺長(サイズ)が最適化されている。また、これに応じた第3の量子ドット14a,14bからの出力光の周波数ω11,ω12も互いに異なるように、量子ドットの辺長を最適化されている。
このため、光信号A〜Dの間で互いに周波数ω1〜ω4が干渉することがなくなる。その結果、光信号A,Bは、量子ドットグループ20aの入力側の量子ドット12a,13aに、また、光信号C,Dは、量子ドットグループ20bの入力側の量子ドット12b,13bに着実に吸収されることになる。従って、これらの周波数ω1〜ω4の光信号A〜Dをそれぞれ伝搬光に多重化させ、これを伝搬光のまま基板11に供給してもこれら光信号同士で影響を及ぼし合うこともなくなる。
なお、量子ドットグループ20cに関しても、同様に量子ドットグループ20a,20bを構成する量子ドットとの間で励起子を励起させる周波数を異ならせるべく、その量子ドットのサイズを互いに異ならせ、ひいては互いに周波数が重複することによる相互干渉を抑える必要がある。このとき、量子ドットグループ20cを構成する量子ドットにつき、辺長√4/3Lからなる第1の量子ドット12cと、辺長√16/3Lからなる第2の量子ドット13cと、辺長√8/3Lからなる第3の量子ドット14cで構成するようにしてもよい。
この第1の量子ドット12cにおける量子準位(1,1,1)は、(1)式より、辺長2Lの量子ドットにおける量子準位(2,2,1)と同エネルギーレベルとなり、この第2の量子ドット13cにおける量子準位(1,1,1)は、辺長4Lの量子ドットにおける量子準位(2,2,1)と同エネルギーレベルとなり、第3の量子ドット14cにおける量子準位(1,1,1)は、辺長2√2Lの量子ドットにおける量子準位(2,2,1)と同エネルギーレベルとなる。
一般的に量子準位(nx,ny,nz)を構成する各量子数nx,ny,nzのうち一つでも偶数が含まれている場合には、当該量子準位において励起子を励起させることはできない。従って、辺長2Lの量子ドットにおける量子準位(2,2,1)、辺長2√2Lの量子ドットにおける量子準位(2,2,1)、辺長4Lからなる量子ドットにおける量子準位(2,2,1)を構成する各量子数には、偶数が含まれているところ、励起子を励起させることができない。
しかしながら、量子準位を構成する量子数を全て奇数とし、かつ上述した各量子準位と同エネルギーレベルとなるようにサイズ調整された第1の量子ドット12c、第2の量子ドット13cでは、それぞれ周波数ω5の光信号E、周波数ω6の光信号Fを受けて、励起子を励起させることが可能となる。この周波数ω5は、周波数ω1より低く、周波数ω11より高い。また、この周波数ω6は、周波数ω2より低く、周波数ω3より高い。このように、量子ドットグループ20a,20bにおいて使用される周波数帯域の間にある周波数ω5,ω6を、光信号E,Fの周波数として利用し、かかる周波数の光に対して励起子を励起させることができるようにサイズ制御された第1の量子ドット12c、第2の量子ドット13cを基板11上に形成させることにより、他の量子ドットとの間で互いに周波数が重複することがなくなり、ひいてはこれらの相互干渉を抑えることも可能となる。また、他の量子ドットグループにおいて使用している周波数の中間帯域を利用することも可能となるため、より高密度に光信号を多重化することも可能となる。さらにこれら量子ドットの内部に介在している周波数の光との間で干渉をも回避させることが可能となる。
また、第3の量子ドット14cから発光される出力光についても、その周波数ω13は、周波数ω2より高く、周波数ω11より低い。このため、他の量子ドットとの間で周波数が相互に干渉することを防ぐことも可能となる。
なお、この量子ドットグループ20cにおける入力側量子ドット12c,13cの例として、あくまで量子準位(1,1,1)に対して励起子を励起させる場合を例に挙げて説明をしたが、かかる場合に限定されるものではなく、量子準位E(nx,ny,nz)を構成する各量子数nx,ny,nzが、奇数からなるものであれば、いかなる量子準位で構成されていてもよい。また、量子ドットグループ20cに限らず、他の量子ドットグループ20a,20bに関しても同様に、各量子数nx,ny,nzが奇数からなるものであれば、いかなる量子準位で構成されていてもよい。
さらに、上述した例では、ω1〜ω6を多重化させた伝搬光Mを基板11上に供給する場合を例にとり説明をしたが、かかる場合に限定されるものではなく、複数であれば、いかなる数の光信号が多重化されていてもよい。かかる場合には、かかる多重化された光信号の周波数に応じて励起子が励起されるように量子ドットのサイズ等が微調整されていることが必要となる。
このように入力側の量子ドット12、13において励起子を励起させる光信号の周波数が互いに異なる複数の量子ドットグループ20a,20b,20cに対して近接場プローブにより光信号を供給することなく、各量子ドットグループ20a,20b,20cの入力側の量子ドット12,13に対応する周波数ω1〜ω6が多重化された伝搬光を供給することにより所定の演算を行うことが可能となり、デバイス全体の構成が複雑化することがなくなり、作製コストを大幅に低減させることも可能となる。
ちなみに、各量子ドットグループ20a,20b,20cは、基板11上において複数に亘り離散的に複製されていてもよい。これにより、基板11上の何れの方向から伝搬光Mが供給されてきても、又は何れの箇所から伝搬光Mが供給されてきても、基板11上に形成された何れかの量子ドットグループ20a,20b,20cでこれらを受けることが可能となる。
なお、本発明は、上述の如き複数の入力信号の積を求める積算回路としての光接続装置1に限定されるものではなく、例えば、複数の入力信号の積和として表される出力信号を生成する光接続装置2に適用してもよい。
光接続装置2は、例えば図6に示すように、例えばNaCl、KCl又はCaF2等の導電性材料により構成される基板11と、基板11の表面上において形成されている1つの出力側の第3の量子ドット14と、当該第3の量子ドット14の周囲において離散的に形成されている第1の量子ドット12、第2の量子ドット13からなる量子ドットグループ20とを備え、さらにこの量子ドットグループ20の近傍において、第4の量子ドット15が形成されている。
この量子ドットグループ20は、周波数ω1の光信号A、周波数ω2の光信号Bをそれぞれ上述の如く積算するための演算処理を行う。
第4の量子ドット15は、励起子を三次元的に閉じ込めることにより形成される離散的なエネルギー準位に基づき、単一電子(励起子)を制御する。この第4の量子ドット15において、励起子の閉じ込め系により、量子ドット内のキャリアのエネルギー準位が離散的になり、状態密度をデルタ関数的に尖鋭化させることができる。
ちなみに、この量子ドットグループ20を構成する量子ドット12,13,14がそれぞれ立方体として構成されている場合において、第1の量子ドット12の辺長Lとしたとき、第2の量子ドット13の辺長は2Lであり、第3の量子ドット14の辺長は、√2Lとなる。さらに、この第4の量子ドット15における辺長を4Lで構成する。
この量子ドットグループ20を構成する入力側の量子ドット12,13には、伝搬光として多重化された光信号がそれぞれ供給される。この供給された光信号のうち、光信号Aは、この第1の量子ドット12により吸収され、光信号Bは、第2の量子ドット13により吸収されることになる。
その結果、図7、8に示すように、第1の量子ドット12における量子準位(1,1,1)において励起された励起子は、第2の量子ドット13と第3の量子ドット14とに供給される可能性があるが、第2の量子ドット13において励起子が蓄積されている場合には、第1の量子ドット12から最終的に第3の量子ドット14における量子準位(1,1,1)へ励起子の殆どが移動することになる。
この第3の量子ドット14における量子準位(1,1,1)は、第4の量子ドット15における量子準位(4,2,2)と同準位であるため、励起子は、かかる第4の量子ドット15へと移動することになる。そして、この第4の量子ドット15における量子準位(4,2,2)に移動した励起子は、その下位準位としての量子準位(1,1,1)へ遷移する。その結果、第4の量子ドット15から周波数ω21の出力光が量子準位(1,1,1)から発光されることになる。
この光接続装置2において、供給される光信号として用いられる周波数は、周波数ω1と周波数ω2であり、また、出力信号としての出力光は、周波数ω21である。このため、第3の量子ドット14における量子準位(1,1,1)に対応する周波数ω13は、入力にも出力にも用いられていない、いわゆる内部的に介在する周波数といえる。
逆に、この内部的に介在する周波数ω13につき、供給される光信号の周波数として用いた場合には、この周波数ω13に基づくエネルギーレベルと伝搬光との光信号とが結合することになり、かかる第3の量子ドット14に対して、伝搬光が直接的に飛び込んでくることになる。その結果、上述の如く2変数の積を得ることができなくなってしまう。
このため、これら内部的に介在する周波数ω13はあえて、供給される光信号の周波数ω1、ω2や出力光の周波数ω21と互いに異なるように、量子ドットのサイズが調整されることになる。
ちなみに、この光接続装置2は、図9に示すような積和回路に適用することも可能となる。この図9に示す例においては、第4の量子ドット15の近傍において、量子ドットグループ20a_1、量子ドットグループ20a_2、量子ドットグループ20a_3を形成させる。量子ドットグループ20a_1は、供給される光信号A1、B1を吸収して演算処理を行うものであり、量子ドットグループ20a_2は、供給される光信号A2、B2を吸収して演算処理を行うものであり、量子ドットグループ20a_3は、供給される光信号A3、B3を吸収して演算処理を行うものである。ちなみに、これら光信号A1、B1、A2、B2、A3、B3は、互いに異なる周波数を構成するものであってもよく、かかる場合において量子ドットグループ20を構成する各量子ドット12,13は、これら光信号を吸収することができるようにサイズが適宜調整されている。
量子ドットグループ20a_1は、第1の量子ドット12a_1と、第2の量子ドット13a_1と、第3の量子ドット14a_1とを備えている。また、量子ドットグループ20a_2は、第1の量子ドット12a_2と、第2の量子ドット13a_2と、第3の量子ドット14a_2とを備えている。量子ドットグループ20a_3は、第1の量子ドット12a_3と、第2の量子ドット13a_3と、第3の量子ドット14a_3とを備えている。これら量子ドットグループ20aを構成する量子ドット12、13、14の辺長比は、上述と同様に1:2:√2である。
これらの量子ドットグループ20a_1〜量子ドットグループ20a_3は、それぞれ入力される光信号を上述と同様のメカニズムに基づいて積算する。このため、これら量子ドットグループ20a_1〜量子ドットグループ20a_3から第4の量子ドット14への励起子の供給は、積算された演算結果が反映されたものといえる。即ち、量子ドットグループ20a_1からは、光信号A1、B1の積が、量子ドットグループ20a_2からは、光信号A2、B2の積が、さらに量子ドットグループ20a_3からは、光信号A3、B3の積が、それぞれ第4の量子ドット15へ供給されることになる。
第4の量子ドット15は、これら各量子ドットグループ20a_1〜量子ドットグループ20a_3から供給される励起子の量に応じて出力光の光強度はほぼ線形に増加していく。これはつまり、第4量子ドット15からの出力光の光強度は、供給される信号の数を加算した和として表されることを示唆しており、これを出力信号として取り出すことができれば、上記量子ドットグループ20a_1〜量子ドットグループ20a_3との間で、光信号A1,B1の積、光信号A2,B2の積、光信号A3,B3の積をそれぞれ和算するいわゆる積和演算回路として動作させることも可能となる。
このため、この第4の量子ドット15から出力される出力光の光強度は、下記(2)式で表すことが可能となる。
[式2]
このように、本発明を適用した光接続装置2では、積和演算すべき信号に対応した互いに異なる周波数の信号光が多重化された伝搬光として供給され、当該供給された信号光に応じてそれぞれ励起子が励起される第1の量子ドット12、第2の量子ドット13と、これらの量子ドット12,13から励起子が注入される共鳴エネルギー準位を有する第3の量子ドット14からなる量子ドットグループ20を基板11上に形成させている。また、この量子ドットグループ20における第3の量子ドット14における共鳴エネルギー準位と同一準位を有する第4の量子ドットを形成させている。
このため、積和演算すべき信号に対応した信号光の供給状態を制御することにより、各量子ドットグループ20から第4の量子ドット15へ流れ込むエネルギーの合計を制御することができ、放出される出力信号としての出力光の光強度がこれに支配されることから、供給される信号数をカウントした積和演算回路を実現することができる。
特に本発明を適用した光接続装置2では、光の回折限界に支配されることなく、ナノメータサイズの量子ドット間で和算を行うことができ、これを用いることにより、高機能光デバイスをナノ寸法で実現することも可能となる。
また、本発明を適用した光接続装置2は、伝搬光に周波数を多重化させてこれをそのまま上記基板11上へ供給するのみで、上記第1の量子ドット12、第2の量子ドット13のバンドギャップに対応する周波数の光信号をそのまま光接続装置2によって積和演算処理させることが可能となる。即ち、この光接続装置2によっても、量子ドットグループ20を構成する各量子ドットに対して近接場プローブにより光信号を供給することなく、周波数が多重化された伝搬光を供給することにより動作可能な構成であるため、デバイス全体の構成が複雑化することがなくなり、作製コストを大幅に低減させることも可能となる。