JP2006201420A - 液晶素子、その製造方法および調光パネル - Google Patents

液晶素子、その製造方法および調光パネル Download PDF

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Abstract

【課題】 外部電場により光散乱状態と透明状態が制御可能であり、かつ、外部電場が無印加であっても光散乱状態の異なるパターンが同一素子内に形成され、信頼性の高い液晶素子、その製造方法及び該液晶素子を用いた調光パネルを提供すること。
【解決手段】 第一の基板23と第二の基板24との間に調光層を有する液晶素子において、前記基板の少なくとも一方は、臨界表面張力の異なる少なくとも2つの臨界表面張力パターンの表面層21,22を有する基板であり、前記調光層は、外部電場により光散乱状態と透明状態が制御可能な高分子マトリックス中に液晶を分散させた構造であるとともに、前記臨界表面張力パターンに対応して異なる高分子マトリックス構造を有し、かつ、前記表面層21,22は、絶縁機能とエネルギー付与により臨界表面張力が変化する機能とを共に有する絶縁性濡れ性変化材料層である液晶素子、その製造方法および調光パネル。
【選択図】 図2

Description

本発明は、外部電場により光散乱状態と透明状態が制御可能であり、かつ、外部電場が無印加であっても光散乱状態の異なるパターンを同一素子内に形成した液晶素子、その製造方法および調光パネルに関するものである。
従来、外部電場により光散乱状態と透明状態が制御可能な液晶素子としては、高分子分散型液晶カプセル(以下NCAPという。特許文献1参照)、高分子マトリックス中に液晶を分散させた方式(以下PNLCという。特許文献2参照)、及びネマチック液晶のDSM方式等がある。
ただし、NCAP及びPNLCは電界無印加で光散乱状態を示し、電界印加で光透過状態になる方式である。DSM方式は、この逆に動作し、電界印加で光散乱、電界無印加で光透過となる。
図5は、NCAP方式の液晶層構造を示す模式図である。透明電極を有する透明な基板53の間に、高分子樹脂52に囲まれて液晶カプセル51が分散した構造となっており、電界無印加では液晶カプセル51内の液晶分子配向が均一でないために、高分子樹脂の屈折率と不整合とすることで入射光が散乱され、その後方散乱光により白色状態として観測される。電界を印加すると液晶分子が電界方向に配列し(図5の基板53間に平行に配列する)、この状態で液晶カプセルの屈折率と高分子樹脂の屈折率が同等になるために光透過状態とすることができる。
図6は、PNLC方式の液晶層構造を示す模式図である。透明電極を有する透明な基板53の間に、高分子マトリックス樹脂62の中に液晶61が連続相として分散した構造となっており、NCAPの場合と同様に、電界無印加では液晶分子配向が均一でないために、高分子マトリックス樹脂の屈折率と不整合とすることで入射光が散乱され、その後方散乱光により白色状態として観測される。電界を印加すると液晶分子が電界方向に配列し(図6の基板53間に平行に配列する)、この状態で液晶の屈折率と高分子マトリックス樹脂の屈折率が同等になるために光透過状態とすることができる。
NCAPの作製方法には、カプセル化法、重合相分離法、熱相分離法及び溶媒蒸発相分離法等、様々な技術がある。特に光重合を用いる重合相分離法は大面積に対応できる方式とされている。
光重合相分離法とは、光重合性モノマーもしくはオリゴマー、液晶材料及び重合開始剤を混合した溶液(以後、調光層前駆体と呼ぶ)に紫外線(UV)を照射することで、その重合反応過程において高分子樹脂と液晶の相分離をさせながら液晶カプセルを形成する方法である。UVの強度が大きいほど直径が小さくなり、逆にUVの強度が小さいほど直径の大きな液晶カプセルが形成される。同一組成の場合、液晶カプセルの直径をUV照射強度により制御することで、電界無印加時の光散乱の度合いが異なる。一般に、光の波長レベルの直径に近いほど散乱性が強くなり、高い白色状態として観測できる。
図6に示すPNLCの液晶相の作製方法としては、光重合相分離法が用いられる。この方法はNCAPでの光重合相分離法と同様で、光重合性モノマーもしくはオリゴマー、液晶材料及び重合開始剤を混合した溶液にUVを照射することで、その重合反応過程において高分子樹脂と液晶の相分離をさせながら高分子マトリックスを形成し、そのマトリックス中に液晶を連続相として分散させる方法である。
同一組成であっても、PNLC作製時の、UVの強度が大きいほど高分子マトリックスが細かく密に形成され、逆にUVの強度が小さいほど高分子マトリックスが粗く疎に形成される。この高分子マトリックスのメッシュ径をUV照射強度により制御することで、電界無印加時の光散乱の度合いが異なる。一般に、光の波長レベルのメッシュ径に近いほど散乱性が強くなり、高い白色状態として観測できる。
光散乱型の液晶素子において、大面積で均一な表示を可能にするため、例えば特許文献3では一対の基板間に挟持された、電界印加により光散乱性が変化する液晶層を有する液晶表示装置であって、基板の屈折率より高い屈折率を有する層を、観察者に対して裏面側の基板外側に密接して設ける等の方法が提案されている。この従来例に見られるような、素子全面の明るさを改善する方法はいくつか出願されている。
外部電場により光散乱状態と透明状態が制御可能なNCAP及びPNLCのような液晶素子において、無電界状態で同一素子内に光散乱状態の異なるパターンを形成しようとする場合、
(1)光散乱状態の異なるパターンに対応して、調光層材料が異なる;
(2)調光層形成時のUV照射を多段階照射する;
(3)パターンに合わせたUV光の透過率の異なるマスクを使用する;
等の方法が考えられるが、
しかし、(1)の方法では、2枚の対向する基板間に異なる材料を混じり合わないように配置することは、生産性上、非常に困難が伴うため現実的ではない。
(2)の方法では、例えば2つの光散乱性の異なるパターンを実現するため、あらかじめ一方の光散乱性を持つパターンのマスクでUV照射後、改めて残りのパターンに合わせたマスクでUV照射する方法が考えられるが、一段階時の照射部では、その境界部の外側にも調光層前駆体が存在するため、高分子樹脂と液晶の相分離がうまく進まず、高分子樹脂が支配的に存在する構造ができることにより、外部電界への応答が悪く(例えば極めて駆動電圧が高い)、散乱性がほとんどないパターンになる。
(3)の方法では、調光層前駆体に、ある異なる強度パターンのUV光が同時に照射されることになる。UV照射強度が異なる場合、高分子が重合し始めると同時に開始される相分離の速度が異なるためパターン境界での、構造が不均一になってしまい解像度が低いパターンとなってしまう。
また、従来のPNLCの応用例では、例えば、特許文献2に記載されているように、視野の遮断、開放及び明かりもしくは照明光の透過制限、遮断、透過を電気的に操作するものであり、広告板、案内板等が提示されている。しかしながら、これらの応用では、電圧無印加では全面が均一な遮光面となるために、文字や図形を表示するためには、電極パターンを形成する必要があるし、また、例えば常時表示する文字や図形であっても、電界を印加するためエネルギー消費が大きい。
特公平7−36068号公報 特許第2724596号明細書 特開平7−253570号公報
本発明は、外部電場により光散乱状態と透明状態が制御可能であり、かつ、外部電場が無印加であっても光散乱状態の異なるパターンが同一素子内に形成され、さらに信頼性の高い液晶素子、製造方法及び該液晶素子を用いた調光パネルを提供することを目的とする。
請求項1の発明は、第一の基板と第二の基板との間に調光層を有する液晶素子において、前記基板の少なくとも一方は、臨界表面張力の異なる少なくとも2つの臨界表面張力パターンの表面層を有する基板であり、前記調光層は、外部電場により光散乱状態と透明状態が制御可能な高分子マトリックス中に液晶を分散させた構造であるとともに、前記臨界表面張力パターンに対応して異なる高分子マトリックス構造を有し、かつ、前記表面層は、絶縁機能とエネルギー付与により臨界表面張力が変化する機能とを共に有する絶縁性濡れ性変化材料層であることを特徴とする液晶素子である。
請求項2の発明は、前記絶縁性濡れ性変化材料層が、2種類以上の材料からなることを特徴とする請求項1に記載の液晶素子である。
請求項3の発明は、前記絶縁性濡れ性変化材料層が少なくとも第一の材料と第二の材料からなり、前記第一の材料は、前記第二の材料と比較してエネルギー付与により臨界表面張力が大きく変化する材料であり、前記第二の材料は、前記第一の材料とは別の性質を有する材料であり、前記第一の材料および第二の材料は、膜厚方向に対して濃度が分布しているとともに、最表層部における第一の材料の濃度が第二の材料の濃度よりも高いことを特徴とする請求項2に記載の液晶素子である。
請求項4の発明は、前記第二の材料が、前記第一の材料と比較して高い電気絶縁性を有することを特徴とする請求項3に記載の液晶素子である。
請求項5の発明は、前記第二の材料が、前記第一の材料と比較して低誘電率であることを特徴とする請求項3に記載の液晶素子である。
請求項6の発明は、前記第一の材料が、側鎖に疎水性基を含む高分子材料からなることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の液晶素子である。
請求項7の発明は、前記側鎖に疎水性基を有する高分子材料は、ポリイミドを含む高分子材料からなることを特徴とする請求項6に記載の液晶素子である。
請求項8の発明は、臨界表面張力を変化させるエネルギーの付与が紫外線照射であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の液晶素子である。
請求項9の発明は、第一の基板と第二の基板との間に調光層を有する液晶素子の製造方法において、
前記第一の基板に、絶縁機能とエネルギー付与により臨界表面張力が変化する機能とを共に有する材料からなる表面層を形成する工程と、
前記第一の基板の表面層の一部にエネルギー付与することにより臨界表面張力の小さい低表面エネルギー部とより臨界表面張力の大きい高表面エネルギー部とからなる臨界表面張力の異なるパターンを形成する工程と、
前記第二の基板にも同様に絶縁機能とエネルギー付与により臨界表面張力が変化する機能とを共に有する材料からなる表面層を形成し、該表面層に、前記第一の基板と略対向するように同様の臨界表面張力の異なるパターンを形成する工程と、
前記第一の基板および第二の基板を表面層が対向するように配置する工程と、
前記2枚の基板間に、紫外線硬化型の高分子モノマーもしくはオリゴマー、液晶材料、および重合開始剤を含有する調光層構成材料を介在させ、少なくとも一方の基板を通して紫外線を照射し、外部電場により光散乱状態と透明状態が制御可能な高分子マトリックス中に液晶を分散させた構造を有する調光層を形成する工程と
を有することを特徴とする液晶素子の製造方法である。
請求項10の発明は、第一の基板と第二の基板との間に調光層を有する液晶素子の製造方法において、
前記第一の基板に、絶縁機能とエネルギー付与により臨界表面張力が変化する機能とを共に有する材料からなる表面層を形成する工程と、
前記第一の基板の表面層の一部にエネルギー付与することにより臨界表面張力の小さい低表面エネルギー部とより臨界表面張力の大きい高表面エネルギー部とからなる臨界表面張力の異なるパターンを形成する工程と、
前記第二の基板の全面に、均一な臨界表面張力を有する表面層を形成する工程と、
前記第一の基板および第二の基板を表面層が対向するように配置する工程と、
前記2枚の基板間に、紫外線硬化型の高分子モノマーもしくはオリゴマー、正の誘電異方性を有する液晶材料、および重合開始剤を含有する調光層構成材料を介在させ、少なくとも一方の基板を通して紫外線を照射し、外部電場により光散乱状態と透明状態が制御可能な高分子マトリックス中に液晶を分散させた構造を有する調光層を形成する工程と
を有することを特徴とする液晶素子の製造方法である。
請求項11の発明は、前記第二の基板の全面に、均一な臨界表面張力を有する表面層を形成する工程が、
前記第二の基板に絶縁機能とエネルギー付与により臨界表面張力が変化する機能とを共に有する材料からなる表面層を形成し、該表面層にエネルギーを付与しない、もしくは全面に均一にエネルギー付与することからなる請求項10に記載の製造方法である。
請求項12の発明は、請求項1〜8のいずれかに記載の液晶素子を備えたことを特徴とする調光パネルである。
請求項1の発明によれば、第一の基板と第二の基板との間に調光層を有する液晶素子において、前記基板の少なくとも一方は、臨界表面張力の異なる少なくとも2つの臨界表面張力パターンの表面層を有する基板であり、前記調光層は、外部電場により光散乱状態と透明状態が制御可能な高分子マトリックス中に液晶を分散させた構造であるとともに、前記臨界表面張力パターンに対応して異なる高分子マトリックス構造を有し、かつ、前記表面層は、絶縁機能とエネルギー付与により臨界表面張力が変化する機能とを共に有する絶縁性濡れ性変化材料層であることを特徴としているので、外部電場により光散乱状態と透明状態が制御可能であり、外部電場が無印加であっても光散乱状態の異なるパターンが同一素子内に形成され、高い信頼性を有するとともに、容易に任意の臨界表面張力を実現し、これに対応して白色度が制御され、さらに絶縁性能に優れた液晶素子を提供することができる。
請求項2の発明によれば、前記絶縁性濡れ性変化材料層が、2種類以上の材料からなることを特徴としているので、材料選択性が高く、信頼性が高い液晶素子を提供することができる。
請求項3の発明によれば、前記絶縁性濡れ性変化材料層が少なくとも第一の材料と第二の材料からなり、前記第一の材料は、前記第二の材料と比較してエネルギー付与により臨界表面張力が大きく変化する材料であり、前記第二の材料は、前記第一の材料とは別の性質を有する材料であり、前記第一の材料および第二の材料は、膜厚方向に対して濃度が分布しているとともに、最表層部における第一の材料の濃度が第二の材料の濃度よりも高いことを特徴としているので、任意の臨界表面張力に対応した白色度の制御が可能な液晶素子を提供することができる。
請求項4の発明によれば、前記第二の材料が、前記第一の材料と比較して高い電気絶縁性を有することを特徴としているので、任意の臨界表面張力に対応して白色度が制御され、さらに絶縁性能に優れた液晶素子を提供することができる。
請求項5の発明によれば、前記第二の材料が、前記第一の材料と比較して低誘電率であることを特徴としているので、任意の臨界表面張力に対応して白色度が制御され、さらに絶縁性能に優れた電圧降下のない駆動特性の液晶素子を提供することができる。
請求項6の発明によれば、前記第一の材料が、側鎖に疎水性基を含む高分子材料からなることを特徴としているので、任意の臨界表面張力に対応して、白色度を制御できる液晶素子を提供することができる。
請求項7の発明によれば、前記側鎖に疎水性基を有する高分子材料は、ポリイミドを含む高分子材料からなることを特徴としているので、より信頼性の高い液晶素子を提供することができる。
請求項8の発明によれば、臨界表面張力を変化させるエネルギーの付与が紫外線照射であることを特徴としているので、高精細で、生産性の高い液晶素子を提供することができる。
請求項9の発明によれば、第一の基板と第二の基板との間に調光層を有する液晶素子の製造方法において、
前記第一の基板に、絶縁機能とエネルギー付与により臨界表面張力が変化する機能とを共に有する材料からなる表面層を形成する工程と、
前記第一の基板の表面層の一部にエネルギー付与することにより臨界表面張力の小さい低表面エネルギー部とより臨界表面張力の大きい高表面エネルギー部とからなる臨界表面張力の異なるパターンを形成する工程と、
前記第二の基板にも同様に絶縁機能とエネルギー付与により臨界表面張力が変化する機能とを共に有する材料からなる表面層を形成し、該表面層に、前記第一の基板と略対向するように同様の臨界表面張力の異なるパターンを形成する工程と、
前記第一の基板および第二の基板を表面層が対向するように配置する工程と、
前記2枚の基板間に、紫外線硬化型の高分子モノマーもしくはオリゴマー、液晶材料、および重合開始剤を含有する調光層構成材料を介在させ、少なくとも一方の基板を通して紫外線を照射し、外部電場により光散乱状態と透明状態が制御可能な高分子マトリックス中に液晶を分散させた構造を有する調光層を形成する工程と
を有することを特徴としているので、高精細で、高い生産性で液晶素子を製造することができる。
請求項10の発明によれば、第一の基板と第二の基板との間に調光層を有する液晶素子の製造方法において、
前記第一の基板に、絶縁機能とエネルギー付与により臨界表面張力が変化する機能とを共に有する材料からなる表面層を形成する工程と、
前記第一の基板の表面層の一部にエネルギー付与することにより臨界表面張力の小さい低表面エネルギー部とより臨界表面張力の大きい高表面エネルギー部とからなる臨界表面張力の異なるパターンを形成する工程と、
前記第二の基板の全面に、均一な臨界表面張力を有する表面層を形成する工程と、
前記第一の基板および第二の基板を表面層が対向するように配置する工程と、
前記2枚の基板間に、紫外線硬化型の高分子モノマーもしくはオリゴマー、正の誘電異方性を有する液晶材料、および重合開始剤を含有する調光層構成材料を介在させ、少なくとも一方の基板を通して紫外線を照射し、外部電場により光散乱状態と透明状態が制御可能な高分子マトリックス中に液晶を分散させた構造を有する調光層を形成する工程と
を有することを特徴としているので、低コストで高い生産性でもって液晶素子を製造することができる。
請求項11の発明によれば、前記第二の基板の全面に、均一な臨界表面張力を有する表面層を形成する工程が、
前記第二の基板に絶縁機能とエネルギー付与により臨界表面張力が変化する機能とを共に有する材料からなる表面層を形成し、該表面層にエネルギーを付与しない、もしくは全面に均一にエネルギー付与することからなるので、表面層に同一の材料が用いられ、低コストで高い生産性でもって液晶素子を製造することができる。
請求項12の発明によれば、請求項1〜8のいずれかに記載の液晶素子を備えたことを特徴とする調光パネルであるので、省エネルギーの調光パネルを提供することができる。
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明は、第一の基板と第二の基板との間に調光層を有する液晶素子において、前記基板に臨界表面張力の異なる表面層を形成した場合、これらの基板間に形成されるPNLCは、その臨界表面張力が大きいほど、光散乱性が高くなることを実験的に見いだしたことに基づいている。
一般的に、2枚の基板間での液晶分子の均一な分子配向を制御することで種々の動作モードの液晶素子が用いられている。この液晶分子の配向には、配向剤と呼ばれる高分子材料であるポリイミド樹脂が用いられている。液晶分子を基板にホモジニアス配向もしくはホメオトロピック配向させる、さらには基板に対してある角度(プレチルト角と呼ぶ)で傾いた配向を実現することのできる種々の配向剤が開発されている。これらのポリイミド材料において、その臨界表面張力の違いが液晶分子の配向に大きく寄与していることは良く知られている。つまり液晶のポリイミド表面に対する濡れ性が大きく関与しているといえる。
本発明者は、臨界表面張力の異なるポリイミド樹脂を表面層として、PNLCの反射率に対する表面層の影響を検討し、以下の知見を得ることができた。
図1は、評価した液晶素子の断面図である。透明電極を有する2枚の透明電極基板11の表面に表面層12を配置したセル間に調光層13としてPNLCが形成されている。なお本発明においてこの液晶素子の反射率は、図3に示す測定系で測定した。すなわち、黒色板31上に液晶素子32をおき、光源33から液晶素子32に対し30度の角度で光を入射する。その入射光に対する反射光を受光ユニット34で感知し、反射率を測定するものである。用いたポリイミド樹脂は、チッソ石油化学製のPIA-X491、PIA-5310とJSR製のAL-3046の3種類である。それぞれのポリイミド樹脂を用いた表面層の臨界表面張力、PNLC素子としての反射率及びPNLC調光層の高分子マトリックスのメッシュ径(SEM観察)を表1に示した。参考のため臨界表面張力測定時の純水の接触角(濡れ性の目安となる)も提示した。2枚の基板に同一の材料により表面層を形成した液晶素子であり、基板間の厚み(セル厚)は22μmとした。
Figure 2006201420
臨界表面張力の大きな表面層(高エネルギー表面)を配したPNLC構造が、その高分子マトリックスのメッシュ径が小さく、反射率が高いことがわかる。PNLCの反射率を高くするためには、高分子マトリックスのメッシュ径が光の波長レベルのサイズに近い場合が最も高くなることは、良く知られている事実であり、上記の結果は整合するものである。しかしながら、表面層の違いでメッシュ径が異なる要因は明確でないが、その臨界表面張力がPNLC調光層形成時のUV照射による相分離過程に何らかの相関を有していると考えている。さらに、一方の基板に臨界表面張力の小さなPIA-X491、他方の基板に臨界表面張力の大きなAL-3046の表面層を形成して、同様の液晶素子を作製し評価したところ、反射率13.7%、メッシュ径約2μm程度であった。これは、PIA-X491同士の表面層を持つ反射率10.6%とAL-3046での反射率15.3%の中間的な特性であり、高分子マトリックス構造も、この特性を反映している。このことは、2枚の基板に異なる臨界表面張力を持つ材料の表面層を配置することで、任意の構造を持つ、つまりは任意の反射率(白色度)を持つ液晶素子が得られることを示唆している。
上記の知見をもとに、本発明の構成を説明する。
図2は、本発明の液晶素子の基本構成を説明するための図である。図2(a)は正面図、(b)はA−A’の断面図である、一方の基板(第一の基板)における透明電極基板23上に、臨界表面張力の大きな表面層21の部分と、表面層21に比して臨界表面張力の小さな表面層22を形成する。この、臨界表面張力の異なる少なくとも2つの臨界表面張力パターンの形成方法としては、例えば、基板全面に表面層21をスピンコーティング法により形成したのち、この上に、所定のパターンの版を用いて表面層22を、フレキソ印刷法で形成することができる。この、スピンコーティング法、フレキソ印刷法、の組合せ以外にも、ディッピング法、インクジェット法、キャスト法、バーコート法等の塗布方法を適宜、組み合わせることによりパターン形成できる。
さて、他方の基板(第二の基板)にも同様の表面層の臨界表面張力パターンを対向するように形成し、該第一の基板と所望の間隔で重ね合わせることで、調光層のない空のセルが作製される。この基板間に調光層前駆体を封入し、高圧水銀ランプにより波長365nm中心(300nm以下の短波長の紫外線は、調光層前駆体が分解する可能性があるためカットした)の紫外線を全面に照射することで、PNLC調光層を形成する。PNLC形成時の紫外線に対して、表面層の材料が極端に吸収がないものを使用することで、表面層21及び22のパターン部での紫外線透過率をほぼ同等にできるので、パターン部間での調光層前駆体への照射強度のばらつきがなくなり、調光層前駆体が重合し始めると同時に開始される相分離の速度を均一にできる。このため、表面層21及び22の臨界表面張力の違いにより制御される、解像度の優れた高分子マトリックス構造の異なるパターンを有する液晶素子とすることができる。なお符号23,24は透明電極基板、25はスペーサ、26はシール部である。
ここで、PNLC形成時の紫外線に対して、表面層の材料が極端に吸収がないものを使用することはもとより、表面層の違いによる紫外線透過率を、より均一にするためには表面層の層厚を30nm〜3μmにすることが好ましい。
また、一方の基板に表面層21,22の臨界表面張力の異なるパターンを形成し、他方の基板には全面にある臨界表面張力を有する材料の表面層を形成しても良い。所望する反射率(白色度)のパターンに対応した、臨界表面張力の異なる表面層の組合せを用いることができる。
さらに、本発明者らは、エネルギー付与により臨界表面張力が変化する機能を有する材料からなる表面層であって、該表面層に所望のパターンに紫外線等のエネルギービームを照射することで得られる臨界表面張力パターンを形成した基板を用いることで、前記と同様の液晶素子を作製できることを見いだした。
異なる臨界表面張力パターンにおいて、その異なる臨界表面張力の差が大きいほど、液晶素子での反射率(白色度)のコントラストが取れるので、エネルギーの付与により、より大きく臨界表面張力が変化する材料が好ましい。
本発明においては、エネルギー付与により臨界表面張力が大きく変化する材料が、側鎖に疎水性基を含む高分子材料からなるのが好ましい。
図4は、側鎖に疎水性基を含む高分子材料を説明するための概念図である。図4に示すように、ポリイミドや(メタ)アクリレート等の骨格を有する主鎖Lに直接或いは図示しない結合基を介して疎水性基を有する側鎖Rが結合しているものを挙げることができる。
疎水性基としては、末端構造が−CF2CH3、−CF2CF3、−CF(CF3) 2、−C(CF3) 3、−CF2H、−CFH2等である基が挙げられる。分子鎖同士を配向しやすくするためには炭素鎖長の長い基が好ましく、炭素数4以上のものがより好ましい。さらには、アルキル基の水素原子の2個以上がフッ素原子に置換されたポリフルオロアルキル基(以下、「Rf基」と記す。)が好ましく、特に炭素数4〜20のRf基が好ましく、とりわけ、炭素数6〜12のRf基が好ましい。Rf基は直鎖構造であっても分岐構造であってもよいが、直鎖構造の方が好ましい。さらに、疎水性基は、アルキル基の水素原子の実質的に全てがフッ素原子に置換されたパーフルオロアルキル基が好ましい。パーフルオロアルキル基はCn2n+1−(ただし、nは4〜16の整数)で表わされる基が好ましく、特に、nが6〜12の整数である場合の該基が好ましい。パーフルオロアルキル基は直鎖構造であっても分岐構造であってもよく、直鎖構造が好ましい。
上記材料については特開平3−178478号公報等に詳しく記載されて周知であり、加熱状態で液体又は固体と接触させたときに親液性となり、空気中で加熱すると疎液性となる性質を有する。即ち、(接触媒体の選択と)熱エネルギーの付与によって臨界表面張力を変化させることができる。
さらに、疎水性基としては、フッ素原子を含まない−CH2CH3、−CH(CH3) 2、−C(CH3) 3等の末端構造を有する基を挙げることができる。この場合にも、分子鎖同士を配向しやすくするためには炭素鎖長の長い基が好ましく、炭素数4以上のものがより好ましい。疎水性基は直鎖構造であっても分岐構造であってもよいが、直鎖構造の方が好ましい。上記アルキル基はハロゲン原子、シアノ基、フェニル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基又は炭素数1〜12の直鎖、分岐鎖もしくは環状のアルキル基やアルコキシ基で置換されたフェニル基を含有していてもよい。Rの結合部位が多いほど表面エネルギーが低く(臨界表面張力が小さく)、疎液性となると考えられる。紫外線照射等によって、結合の一部が切断される、或いは、配向状態が変化するために臨界表面張力が増加し、親液性になるものと推察される。
本発明の液晶素子は外部電場により、光散乱状態と透明状態が制御されるので、臨界表面張力パターンを有する表面層が絶縁性の高いことが、素子特性の安定化及び長寿命のためには好ましい。つまり、該表面層が絶縁機能とエネルギー付与により臨界表面張力が変化する機能を共に有する絶縁性濡れ性変化材料層であるのが有用である。
本発明においては、絶縁性濡れ性変化材料層が2種類以上の材料からなるのが好ましい。従って、異なった特性を持つ材料を用いることで、絶縁性濡れ性変化材料層に濡れ性変化以外の特性を持たせることが可能となる。
この例として、エネルギー付与により臨界表面張力が大きく変化(つまり、濡れ性が大きく変化)するが成膜性に問題がある材料を用いることも可能となるため、選択できる材料の種類が広がる。具体的には、濡れ性変化の大きい第一の材料を使用したとき、その凝集力が強いため成膜することが困難である場合に、この材料を成膜性の良い第二の材料と混合することで、上記絶縁性濡れ性変化材料層を容易に作製することが可能となる。
図7は、本発明の絶縁性濡れ性変化材料層を説明するための断面図である。
図7において、基板71上に絶縁性濡れ性変化材料層72が形成され、絶縁性濡れ性変化材料層72は、第二の材料74中に第一の材料73が分布する、海島構造となっている。
図8〜12は、本発明の好ましい絶縁性濡れ性変化材料層を説明するための断面図である。図8〜12の絶縁性濡れ性変化材料層において、第一の材料は、第二の材料と比較してエネルギー付与により臨界表面張力が大きく変化する材料であり、第二の材料は、第一の材料とは別の性質を有する材料であり、第一の材料および第二の材料は、膜厚方向に対して濃度が分布しているとともに、最表層部における第一の材料の濃度が第二の材料の濃度よりも高い。なお図9〜12における破線は、第一の材料および第二の材料が界面によって明確に分離されていないことを表わしている。
本発明においてさらに望ましくは、最表層部における第一の材料濃度は100%に近いことである。このため、濡れ性変化機能を確実に発現可能となる。
図8に示す絶縁性濡れ性変化材料層の構造は、第一の材料からなる層を作製した後に第二の材料からなる層を順次積層することで形成可能である。作製方法としては、真空蒸着などの真空プロセスを用いることも可能であるし、溶剤を用いた塗布プロセスを使用することも可能である。
図9に示す絶縁性濡れ性変化材料層の構造は、第一の材料と第二の材料を混合した溶液を基板に塗布、乾燥する方法によって形成可能である。これは第一の材料の極性が第二の材料と比較して小さい場合、又は第一の材料の分子量が小さい場合などでは、乾燥時に溶媒が蒸発するまでの間に第一の材料が表面側に移行し層を形成する。なお塗布プロセスを用いた場合は、図9に示されるように、第一の材料からなる層と第二の材料からなる層は、界面によって明確に分離されない場合が多いが、本発明においては、最表層部における第一の材料濃度が第二の材料濃度よりも高ければ適用可能である。
また図10、図11、図12に示されるように、膜厚方向に対して所定の濃度分布で前記第一及び第二の材料が局在していてもよい。
なお、3種類以上の材料から絶縁性濡れ性変化材料層が構成されている場合は、3層以上の積層構造からなっていても構わないし、層構造を持たずに膜厚方向に対して所定の濃度分布で材料が混在または局在していてもよい。
また本発明では、第二の材料が、第一の材料と比較して電気絶縁性の高い材料であれば、電気絶縁性に優れ、且つエネルギー付与により臨界表面張力パターンが形成可能な表面層を利用した液晶素子を提供することが可能となる。
本発明において、電気絶縁性に優れた第二の材料とエネルギーの付与によって臨界表面張力が大きく変化する第一の材料の組成割合である第二/第一は、質量比で50/50〜99/1である。第一の材料の質量比が増加するにつれ絶縁性濡れ性変化材料層の電気絶縁性が低くなり液晶素子の絶縁層としては不向きとなる。一方で第二の材料の質量比が増すと濡れ性変化が小さくなるため、濡れ性のパターニングが良好でなくなる。それゆえ両者の混合比は望ましくは60/40〜95/5、更に望ましくは70/30〜90/10である。また本発明における絶縁性濡れ性変化材料層の体積固有抵抗値は、1×1012Ω・cm前後からそれ以上であることが好ましい。
また本発明では、第二の材料が、第一の材料と比較して低誘電率である材料であるのも好ましい。この形態では、絶縁性濡れ性変化材料層を形成した際、調光層に実効的に印加される電圧の降下の原因となる表面層の容量を小さくする事が可能となる。電圧降下は駆動電圧の高電圧化をもたらす原因となるため、この形態により駆動特性に優れた液晶素子の作製が可能となる。
また本発明では、側鎖に疎水性基を有する高分子材料としては、ポリイミドを含む高分子材料が好適である。
ポリイミドは電気絶縁性、耐薬品性、耐熱性に優れているため、液晶素子において、電気絶縁性に優れ且つ作製プロセス中に損傷をうけず、信頼性の高い表面層を形成することが可能となる。
また、絶縁性濡れ性変化材料層を2種類以上の材料から構成する場合においては、耐熱性、耐溶剤性、親和性を考慮すると、側鎖に疎水性基を有する高分子材料以外の材料もポリイミドからなることが望ましい。
さらに一般的にポリイミド材料の比誘電率は、絶縁材料として一般的なSiO2の比誘電率(3.9)よりも低く、絶縁膜として好適である。
本発明で用いられる側鎖に疎水性基を有するポリイミドの疎水性基は、例えば以下の式(1)から(5)で示される化学式の何れかを持つことができる。
Figure 2006201420
式(1)において、Xは−CH2−または−CH2CH2−であり、A1は1,4−シクロヘキシレン、1,4−フェニレンまたは1〜4個のフッ素で置換された1,4−フェニレンであり、A2、A3およびA4はそれぞれ独立して単結合、1,4−シクロヘキシレン、1,4−フェニレンまたは1〜4個のフッ素で置換された1,4−フェニレンであり、B1、B2、B3はそれぞれ独立して単結合または−CH2CH2−であり、B4は炭素数1〜10までのアルキレンであり、R3、R4、R5、R6、およびR7はそれぞれ独立して炭素数が1〜10までのアルキルであり、pは1以上の整数である。
Figure 2006201420
式(2)において、T、UおよびVはそれぞれ独立してベンゼン環またはシクロヘキサン環であり、これらの環上の任意のHは炭素数1〜3のアルキル、炭素数1〜3のフッ素置換アルキル、F、ClまたはCNで置換されていてもよく、mおよびnはそれぞれ独立して0〜2の整数であり、hは0〜5の整数であり、RはH、F、Cl、CNまたは1価の有機基であり、mが2の場合の2個のUまたはnが2の場合の2個のVはそれぞれ同じでも異なっていても良い。
Figure 2006201420
式(3)において、連結基ZはCH、CFH、CF、CHCHまたはCFOであり、環Yは1,4−シクロへキシレンまたは1〜4個のHがFまたはCHで置き換えられてもよい1,4−フェニレンであり、A〜Aはそれぞれ独立して単結合、1,4−シクロへキシレンまたは1〜4個のHがFまたはCHで置き換えられてもよい1,4−フェニレンであり、B〜Bはそれぞれ独立して単結合、炭素数1〜4のアルキレン、酸素原子、炭素数1〜3のオキシアルキレンまたは炭素数1〜3のアルキレンオキシであり、RはH、任意のCHがCFで置き換えられてもよい炭素数1〜10のアルキル、または1個のCHがCFで置き換えられてもよい炭素数1〜9のアルコキシもしくはアルコキシアルキルであり、ベンゼン環に対するアミノ基の結合位置は任意の位置である。但し、ZがCHである場合には、B〜Bのすべてが同時に炭素数1〜4のアルキレンであることはなく、ZがCHCHであって、環Yが1,4−フェニレンである場合には、AおよびAがともに単結合であることはなく、またZがCFOである場合には、環Yが1,4−シクロへキシレンであることはない。
Figure 2006201420
式(4)において、R2は水素原子または炭素数1〜12のアルキル基であり、Z1はCH2基であり、mは0〜2であり、環Aはベンゼン環またはシクロヘキサン環であり、lは0または1であり、各Y1は独立に酸素原子またはCH2基であり、各n1は独立に0または1である。
Figure 2006201420
式(5)において、各Y2は独立に酸素原子またはCH2基であり、R3、R4は独立に水素原子、炭素数1〜12のアルキル基またはパーフルオロアルキル基であり、少なくとも一方は炭素数3以上のアルキル基、またはパーフルオロアルキル基であり、各n2は独立に0または1である。
これらの材料についての詳細は、特開2002−162630号、特開2003−96034号、特開2003−267982号公報等に詳しく記載されている。またこれら疎水性基の主鎖骨格を構成するテトラカルボン酸二無水物については、脂肪族系、脂環式、芳香族系など種々の材料を用いることが可能である。具体的には、ピロメリット酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物などである。この他特開平11−193345号、特開平11−193346号、特開平11−193347号公報等に詳しく記載されている材料についても用いることが可能である。
上述したように、上記(1)〜(5)の疎水性基を含むポリイミドは単独で用いても良いし、他の材料と混合し用いても良い。ただし、混合して用いる場合は、耐熱性、耐溶剤性、親和性を考慮すると、混合する材料もポリイミドであることが望ましい。
また上記(1)〜(5)で示されない疎水性基を含むポリイミドを用いることもできる。
本実施の形態における絶縁性濡れ性変化材料層の厚さは30nm〜3μmが好ましく、50nm〜1μmがさらに好ましい。これより薄い場合にはバルク体としての特性(絶縁性、ガスバリア性、防湿性等)が損なわれ、これより厚い場合には表面形状が悪化するため好ましくない。
本発明の製造方法は、
(1)第一の基板に、絶縁機能とエネルギー付与により臨界表面張力が変化する機能とを共に有する材料からなる表面層を形成する工程と、
(2)前記第一の基板の表面層の一部にエネルギー付与することにより臨界表面張力の小さい低表面エネルギー部とより臨界表面張力の大きい高表面エネルギー部とからなる臨界表面張力の異なるパターンを形成する工程と、
(3)前記第二の基板にも同様に絶縁機能とエネルギー付与により臨界表面張力が変化する機能とを共に有する材料からなる表面層を形成し、該表面層に、前記第一の基板と略対向するように同様の臨界表面張力の異なるパターンを形成する工程と、
(4)前記第一の基板および第二の基板を表面層が対向するように配置する工程と、
(5)前記2枚の基板間に、紫外線硬化型の高分子モノマーもしくはオリゴマー、液晶材料、および重合開始剤を含有する調光層構成材料を介在させ、少なくとも一方の基板を通して紫外線を照射し、外部電場により光散乱状態と透明状態が制御可能な高分子マトリックス中に液晶を分散させた構造を有する調光層を形成する工程と
を有する。
一般的に、塗布工程により、複数の材料を用いて臨界表面張力の異なるパターンを実現するためには、製造上、それぞれの塗布工程による塗り分けが必要となるために生産性が悪くなってしまう。また、フレキソ印刷法等のような塗布方法を用いる場合は、より高精細なパターンを形成する上で不利である。
本発明では、前記(2)および(3)工程で、基板の表面層の一部にエネルギー付与することにより臨界表面張力の小さい低表面エネルギー部とより臨界表面張力の大きい高表面エネルギー部とからなる臨界表面張力の異なるパターンを形成している。この工程では、例えば、基板全面に均一な表面層を形成後、所望のパターンのメタルマスク、もしくは石英ガラス基板のフォトマスク等を用いて、該表面層に短波長の紫外線を照射することで、容易にパターン形成ができる。したがって生産性が高いというメリットがある。また、メタルマスク、フォトマスクでのパターン形成は、印刷等の方式に比較して、より高精細にできる利点もある。
また、エネルギー付与により臨界表面張力が変化する材料においては、付与するエネルギー量により、臨界表面張力をある範囲内で制御できるため、所望の反射率(白色度)パターンの液晶素子を得るための、2枚の基板の表面層での異なる臨界表面張力の組合せに対応する場合でも、同一材料だけで実現できるため、低コスト化にも有利である。例えば、前記(3)工程で、前記第二の基板の全面に均一な臨界表面張力を有する表面層を形成してもよい。この全面に均一な臨界表面張力を有する表面層を形成する場合は、表面層にエネルギーを付与しない、もしくは全面に均一にエネルギー付与することにより達成され、正の誘電異方性を有する液晶材料を使用するのがよい。
本発明の調光パネルは、前記の液晶素子を備えてなる。したがって、本発明の調光パネルは、基本的に光を遮断する散乱状態と、透過する透明状態を制御するものであり、かつ光を遮断する散乱状態(電界が無印加な状態)において、異なる散乱を示すパターン(反射率が異なることに対応する)を表示できる。例えば図2に示した基本構成の液晶素子を調光パネルとして用いると臨界表面張力の大きな表面層21の部分は遮光性が高く、それに比して、臨界表面張力の小さな表面層22の部分は遮光性が低いパターンが形成される。つまり、遮光性の高く白色度に優れた背景の中に、白色度は低いものの遮光性を持った、パターン(図2ではR文字)が表示できる。このパターンは文字や図形に任意に形成できるため、建物の窓やショーウィンドウの視野遮断スクリーンに用いると、広告板、案内板、装飾表示板等としての役割を担わすことができし、また、部分的に採光がコントルールされた(例えば、上下で異なる採光状態)カーテンなどへの応用も考えられる。この、調光パネルに、充分に高い電界を印加すると、全面が透明状態となり、視野の遮断がなくなる。
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明は下記の例に制限されない。
(例1(参考例))
図2に示すパターンの液晶素子を作製した。
まず、上下の基板となる透明電極付きのガラス基板上にスピンコーティングにより、ポリイミド膜であるJSR製のAL-3046を成膜した。この、膜厚は約60nmであった。さらに、AL-3046が成膜された一方の基板に、R文字のパターンの印刷版を用いてチッソ石油化学製のポリイミド膜PIA-X491をフレキソ印刷法で成膜し、他方の基板にはR文字のネガパターンに印刷版でPIA-X491をフレキソ印刷法で成膜した。PIA-X491の膜厚はいずれも約80nmであった。以上の異なる表面層が形成された一方の基板にシール剤としてアミン硬化エポキシ樹脂中をディスペンサー塗布し、他方の基板には22μm粒径の樹脂ビーズをイソプロピルアルコールを溶媒として、約100個/mm2の密度で散布し、互いのR文字パターンが対向するようにに貼り合わせ加熱硬化させて空セルを作製した。この空セルに、大日本インキ化学工業(株)製のPNLC用の液晶組成物、モノマー組成物、および重合開始剤の混合物である調光層前駆体材料(製品名:PNM-101)を封入した後、高圧水銀ランプにより波長365nm中心の紫外線(照射光強度50mW/cm)を2分間照射しPNLC調光層を形成した。
作製した液晶素子の反射率を図3に示す測定系で測定したところ、R文字パターン部では10%、それ以外の背景部では15%の反射率であった。電界無印加状態でR文字のやや光遮断が弱い表示を有する調光パネルが得られた。このパネルに30Vの60Hz矩形波電界を印加したところ、全面が透過率約80%の透明状態になった。
(例2(参考例))
例1と同様に、まず、上下の基板となる透明電極付きのガラス基板上にスピンコーティングにより、ポリイミド膜であるJSR製のAL-3046を成膜した。この、膜厚は約60nmであった。さらに、AL-3046が成膜された一方の基板に、R文字のパターンの印刷版を用いてチッソ石油化学製のポリイミド膜PIA-X491をフレキソ印刷法で成膜した。PIA-X491の膜厚は約80nmであった。他方の基板は全面がAL-3046の表面層のままとした。この2枚の基板で例1と同様に空セルを作製し、PNLC調光層も同様の材料、作製条件で形成した。R文字のパターン部で13%、背景部で15%の反射率を有する調光パネルを作製できた。このパネルも30Vの60Hz矩形波電界を印加したところ、全面が透過率約80%の透明状態になった。
(例3(参考例))
エネルギー付与により臨界表面張力が変化する材料として、ポリイミド骨格にアルキル基を有するチッソ石油化学製のPIA-X491の紫外線照射による臨界表面張力変化を評価した。試料は、ガラス基板上にPIA-X491をスピンコートし、210℃で焼成し成膜したものを用いた。膜厚は約80nmである。
(1)高圧水銀ランプを用い、250nmの光の強度が5mW/cm2となるように光源と基板との距離を調整し、照射時間を変化させることにより(250nmの波長に対する)照射量を変え、水に対する接触角の変化を観測した。図13は紫外線照射量と水に対する接触角の関係を示したものである。未照射時には接触角が90°を超え疎水性(撥水性)であるが、照射量10J/cm2以上では20°程度に低下し親水性に変化している。この変化を誘起するのに有効な光の波長に合わせた光源を用いることによって照射量をさらに小さくすることが可能であると考えられる。
(2)上記紫外線を9J/cm2照射した場合と未照射の場合において、表面エネルギーの異なる数種類の液体の接触角を測定した。図14は液体の表面張力と接触角の関係を示したものである。図から臨界表面張力は未照射の場合に約24mN/m、紫外線照射した場合に約40mN/mであることがわかる。
以上の知見をもとに、図2に示すパターンの液晶素子を作製した。
まず、上下の基板となる透明電極付きのガラス基板上にスピンコーティングにより、PIA-X491を膜厚約80nmで成膜した。この、一方の基板に、遮光部がR文字パターンの石英基板のフォトマスクを介して、250nmの光強度が5mW/cm2の紫外線を30分間照射(照射量9J/ cm2)した。この、紫外線照射により臨界表面張力が約40mN/mの表面層を背景とし、臨界表面張力が約24mN/mのR文字パターンの表面層を有する基板が作製された。他方の基板にはR文字がネガパターンのフォトマスクを用いて同様の条件で紫外線を照射した。この2枚の基板で、R文字パターンの臨界表面張力が小さい領域を対向させるように、例1と同様の工程及び材料で空セル、さらに調光層を作製した。
R文字領域で約10%、背景部で約14.5%の反射率を有する調光パネルを作製できた。このパネルも30Vの60Hz矩形波電界を印加したところ、全面が透過率約80%の透明状態になった。
(例4(参考例))
例3と同様にまず、上下の基板となる透明電極付きのガラス基板上にスピンコーティングにより、PIA-X491を膜厚約80nmで成膜した。この、一方の基板に、遮光部がR文字パターンの石英基板のフォトマスクを介して、250nmの光強度が5mW/cm2の紫外線を30分間照射(照射量9J/ cm2)した。この、紫外線照射により臨界表面張力が約40mN/mの表面層を背景とし、臨界表面張力が約24mN/mのR文字パターンの表面層を有する基板が作製された。他方の基板には全面に250nmの光強度が5mW/cm2の紫外線を30分間照射(照射量9J/ cm2)した。これにより、全面が約40mN/mの臨界表面張力を有する表面層の基板となった。この2枚の基板で、例1と同様の工程及び材料で空セル、さらに調光層を作製した。R文字領域で約12%、背景部で約14.5%の反射率を有する調光パネルを作製できた。このパネルも30Vの60Hz矩形波電界を印加したところ、全面が透過率約80%の透明状態になった。
(例5)
例3と同様に、上下の基板となる透明電極付きのガラス基板上に絶縁性濡れ性変化材料層として、焼成後に下記式(6)ならびに式(7)(式中、nは繰り返し数である)で表される構造体となる前駆体を溶解した混合溶液を、スピンコート法にて塗布し200℃で焼成した。膜厚は約80nmであった。この材料の体積固有抵抗は5×1013Ω・cmであった。
Figure 2006201420
Figure 2006201420
この一方の基板に、遮光部がR文字パターンの石英基板のフォトマスクを介して、250nmの光強度が5mW/cm2の紫外線を30分間照射(照射量9J/ cm2)した。この、紫外線照射により臨界表面張力が約45mN/mの表面層を背景とし、臨界表面張力が約24mN/mのR文字パターンの表面層を有する基板が作製された。他方の基板にはR文字がネガパターンのフォトマスクを用いて同様の条件で紫外線を照射した。この2枚の基板で、R文字パターンの臨界表面張力が小さい領域を対向させるように、例1と同様の工程及び材料で空セル、さらに調光層を作製した。R文字領域で約11%、背景部で約15%の反射率を有する調光パネルを作製できた。このパネルも30Vの60Hz矩形波電界を印加したところ、全面が透過率約80%の透明状態になった。
本発明によれば、外部電場により光散乱状態と透明状態が制御可能であり、かつ、外部電場が無印加であっても光散乱状態の異なるパターンが同一素子内に形成され、さらに信頼性の高い液晶素子、その製造方法及び該液晶素子を用いた調光パネルが提供される。
本発明の実施の形態で評価した液晶素子の断面図である。 本発明の液晶素子の基本構成を説明するための図である。 液晶素子の反射率の測定系を説明するための図である。 側鎖に疎水性基を含む高分子材料を説明するための概念図である。 NCAP方式の液晶層構造を示す模式図である。 PNLC方式の液晶層構造を示す模式図である。 本発明の絶縁性濡れ性変化材料層を説明するための断面図である。 本発明の好ましい絶縁性濡れ性変化材料層を説明するための断面図である。 本発明の好ましい絶縁性濡れ性変化材料層を説明するための断面図である。 本発明の好ましい絶縁性濡れ性変化材料層を説明するための断面図である。 本発明の好ましい絶縁性濡れ性変化材料層を説明するための断面図である。 本発明の好ましい絶縁性濡れ性変化材料層を説明するための断面図である。 紫外線照射量と水に対する接触角の関係を示す図である。 液体の表面張力と接触角の関係を示す図である。
符号の説明
11,23,24,53 透明電極基板
12,21,22 表面層
13 調光層
71 基板
72 絶縁性濡れ性変化材料層
73 第一の材料
74 第二の材料


Claims (12)

  1. 第一の基板と第二の基板との間に調光層を有する液晶素子において、前記基板の少なくとも一方は、臨界表面張力の異なる少なくとも2つの臨界表面張力パターンの表面層を有する基板であり、前記調光層は、外部電場により光散乱状態と透明状態が制御可能な高分子マトリックス中に液晶を分散させた構造であるとともに、前記臨界表面張力パターンに対応して異なる高分子マトリックス構造を有し、かつ、前記表面層は、絶縁機能とエネルギー付与により臨界表面張力が変化する機能とを共に有する絶縁性濡れ性変化材料層であることを特徴とする液晶素子。
  2. 前記絶縁性濡れ性変化材料層が、2種類以上の材料からなることを特徴とする請求項1に記載の液晶素子。
  3. 前記絶縁性濡れ性変化材料層が少なくとも第一の材料と第二の材料からなり、前記第一の材料は、前記第二の材料と比較してエネルギー付与により臨界表面張力が大きく変化する材料であり、前記第二の材料は、前記第一の材料とは別の性質を有する材料であり、前記第一の材料および第二の材料は、膜厚方向に対して濃度が分布しているとともに、最表層部における第一の材料の濃度が第二の材料の濃度よりも高いことを特徴とする請求項2に記載の液晶素子。
  4. 前記第二の材料が、前記第一の材料と比較して高い電気絶縁性を有することを特徴とする請求項3に記載の液晶素子。
  5. 前記第二の材料が、前記第一の材料と比較して低誘電率であることを特徴とする請求項3に記載の液晶素子。
  6. 前記第一の材料が、側鎖に疎水性基を含む高分子材料からなることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の液晶素子。
  7. 前記側鎖に疎水性基を有する高分子材料は、ポリイミドを含む高分子材料からなることを特徴とする請求項6に記載の液晶素子。
  8. 臨界表面張力を変化させるエネルギーの付与が紫外線照射であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の液晶素子。
  9. 第一の基板と第二の基板との間に調光層を有する液晶素子の製造方法において、
    前記第一の基板に、絶縁機能とエネルギー付与により臨界表面張力が変化する機能とを共に有する材料からなる表面層を形成する工程と、
    前記第一の基板の表面層の一部にエネルギー付与することにより臨界表面張力の小さい低表面エネルギー部とより臨界表面張力の大きい高表面エネルギー部とからなる臨界表面張力の異なるパターンを形成する工程と、
    前記第二の基板にも同様に絶縁機能とエネルギー付与により臨界表面張力が変化する機能とを共に有する材料からなる表面層を形成し、該表面層に、前記第一の基板と略対向するように同様の臨界表面張力の異なるパターンを形成する工程と、
    前記第一の基板および第二の基板を表面層が対向するように配置する工程と、
    前記2枚の基板間に、紫外線硬化型の高分子モノマーもしくはオリゴマー、液晶材料、および重合開始剤を含有する調光層構成材料を介在させ、少なくとも一方の基板を通して紫外線を照射し、外部電場により光散乱状態と透明状態が制御可能な高分子マトリックス中に液晶を分散させた構造を有する調光層を形成する工程と
    を有することを特徴とする液晶素子の製造方法。
  10. 第一の基板と第二の基板との間に調光層を有する液晶素子の製造方法において、
    前記第一の基板に、絶縁機能とエネルギー付与により臨界表面張力が変化する機能とを共に有する材料からなる表面層を形成する工程と、
    前記第一の基板の表面層の一部にエネルギー付与することにより臨界表面張力の小さい低表面エネルギー部とより臨界表面張力の大きい高表面エネルギー部とからなる臨界表面張力の異なるパターンを形成する工程と、
    前記第二の基板の全面に、均一な臨界表面張力を有する表面層を形成する工程と、
    前記第一の基板および第二の基板を表面層が対向するように配置する工程と、
    前記2枚の基板間に、紫外線硬化型の高分子モノマーもしくはオリゴマー、正の誘電異方性を有する液晶材料、および重合開始剤を含有する調光層構成材料を介在させ、少なくとも一方の基板を通して紫外線を照射し、外部電場により光散乱状態と透明状態が制御可能な高分子マトリックス中に液晶を分散させた構造を有する調光層を形成する工程と
    を有することを特徴とする液晶素子の製造方法。
  11. 前記第二の基板の全面に、均一な臨界表面張力を有する表面層を形成する工程が、
    前記第二の基板に絶縁機能とエネルギー付与により臨界表面張力が変化する機能とを共に有する材料からなる表面層を形成し、該表面層にエネルギーを付与しない、もしくは全面に均一にエネルギー付与することからなることを特徴とする請求項10に記載の液晶素子の製造方法。
  12. 請求項1〜8のいずれかに記載の液晶素子を備えたことを特徴とする調光パネル。


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