本発明の第1の態様に従えば、吸入口(92、22)及び排出口(93、23)を有し、導電性を有する液体(I)を貯留する液室(91、21)であって、前記液体は吸入口から液室に流入し排出口から液室外へ流出する液室と、前記吸入口(92、22)から前記液室(91、21)内に流入し、前記排出口(93、23)から前記液室(91、21)外に排出される前記液体(I)の逆流を防止する逆流防止機構(94、95、24、25、37、38、42)と、前記液室(91、21)に連通し、この液室(91、21)内の液体(I)の圧力を変化させる為の圧力調整流路(96、26)と、前記圧力調整流路(96、26)を画成する壁面に設けられた第1の電極(97、27)と、第1の電極(97、27)の表面に設けられ、第1の電極(97、27)に所定電圧が印加されたときには、所定電圧が印加されていない状態よりもその表面における液体(I)の濡れ角が低下する絶縁膜(98、28)とを有するポンプ(73、2)が提供される。
本発明の第1の態様によれば、電源、例えば第1電圧印加装置により、第1の電極に所定電圧を印加して、液室から圧力調整流路に液体を移動させることにより液室の圧力を低下させて、吸入口から液室内に液体を吸入し、電源、例えば第1電圧印加装置による所定電圧の印加を解除して、圧力調整流路から液室へ液体移動させることにより液室の圧力を上昇させて、排出口から液室外へ液体を排出するように構成されている。また、本発明のポンプにおいて、第1の電極に所定電圧を印加する電圧印加装置を備えていてもよい。
本発明のポンプにおいて、第1電圧印加装置により第1の電極に前記所定電圧を印加して、前記液室内の液体を前記圧力調整流路に移動させることにより前記液室の圧力を低下させて、前記吸入口から前記液室内に液体を吸入し、第1電圧印加装置による前記所定電圧の印加を解除して、前記圧力調整流路内の液体を前記液室内に移動させることにより前記液室の圧力を上昇させて、前記排出口から前記液室外へ液体を排出するように構成されていてもよい。
本発明のポンプにおいて、電源、例えば第1電圧印加装置により第1の電極に電圧が印加されたときには、この第1の電極の表面の絶縁膜の表面における液体の濡れ角が低下する、いわゆる、エレクトロウェッティング現象が生じる。すると、圧力調整流路内に生じる毛管力により液体が液室から圧力調整流路へ移動するため、液室内の圧力が下がり、吸入口からは液室内に液体が流入する(後述する「キャピラリーエレクトロウェッティング現象」)。一方、第1の電極への電圧の印加が解除されたときには、第1の電極の表面の絶縁膜の表面における液体の濡れ角が増加し、圧力調整流路内に生じる毛管力により液体が圧力調整流路から液室へ移動するため、液室内の圧力が上昇し、排出口から液室内の液体が流出する。尚、逆流防止機構により、吸入口から液体が流出したり、あるいは、排出口から液体が流入することが防止されるため、液室内の圧力が低下したときには吸入口のみから液体が流入し、液室内の圧力が上昇したときには排出口のみから液体が流出することになり、液室内で液体が確実に加圧される。
このように、本発明のポンプは、第1の電極に対する電圧の印加及びその電圧印加状態の解除を繰り返し行うことにより、絶縁膜の表面の液体の濡れ角を変化させて圧力調整流路内の液体を移動させることにより、液室内の液体を加圧する。従って、その構造が可動部のない簡単なものとなり、その製造コストを低く抑えることができる。また、ポンプ作動時の騒音及び消費電力も小さくなる。
また、本発明のポンプは、前記絶縁膜が、第1の電極に所定電圧が印加されている状態では、90°未満の絶縁膜の表面における液体の濡れ角を有し、第1の電極に所定電圧が印加されていない状態では、90°以上の前記濡れ角を有してもよい。この場合には、第1の電極に所定電圧が印加されたときに、絶縁膜の表面の濡れ角が90°未満になるため、液体を液室から圧力調整流路へ確実に移動させることができる。また、第1の電極に電圧が印加されていないときには、絶縁膜の表面の濡れ角が90°以上になるため、液体を圧力調整流路内から液室側へ確実に移動させることができる。
また、本発明のポンプは、所定の一定電圧に保持され、且つ、液室内又は吸入口若しくは排出口を通じて液室に連通する流路内において常に液体に接触するように設けられた第2の電極を有してもよい。これによると、共通電極に接触する液体と第1の電極との間に確実に電位差が生じることになるため、絶縁膜の表面の濡れ角を確実に低下させることができる。
また、本発明のポンプにおいて、圧力調整流路の流路断面は円形であってもよい。これによると、圧力調整流路において毛管力をより効果的に生じさせることができ、ポンプの駆動力が大きくなる。
本発明のポンプにおいて、第1の電極及び絶縁膜は、圧力調整流路を形成する壁面のうち前記矩形の長辺に対応する壁面に形成されていてもよい。これによると、第1の電極及び絶縁膜が矩形の短辺に対応する壁面に形成される場合に比べて、第1の電極の面積が大きくなることにより、圧力調整流路において毛管力をより効果的に発生させることができ、ポンプの駆動力が大きくなる。
また、本発明のポンプにおいて、第1の電極及び絶縁膜は、圧力調整流路を形成する壁面を覆って形成されていてもよい。これによると、第1の電極の面積が大きくなることにより、圧力調整流路において毛管力をより効果的に発生させることができるので、ポンプの駆動力が大きくなる。
本発明のポンプにおいて、逆流防止機構は、吸入口付近に設けられ、吸入口から液室内に液体が流入するときにのみ吸入口を開放する第1弁部材と、排出口付近に設けられ、排出口から液室外に液体が流出するときにのみ排出口を開放する第2弁部材とからなっていてもよい。これによると、第1弁部材によって液体が液室から吸入口へ流出するのを防止し、第2弁部材によって液体が排出口から流入するのを防止することができ、液体の逆流を防止することができる。
また、本発明のポンプにおいて、逆流防止機構は、吸入口に連通し、液室側ほどその流路面積が小さくなるように形成された吸入流路と、排出口に連通し、液室と反対側ほどその流路面積が小さくなるように形成された排出流路とからなっていてもよい。これによると、液体が吸入流路から液室に流入する際の流路抵抗よりも、吸入流路から流出する際の流路抵抗が大きくなるため、液室内から吸入流路を通って液体が流出しにくくなる。また、液室から排出流路に流出する際の流路抵抗よりも、排出流路から流入する際の流路抵抗が大きくなるため、排出流路から液室内へ液体が流入しにくくなる。
また、本発明のポンプにおいて、逆流防止機構は、吸入口と排出口とを連結する第1流路と、液室と第1流路とを接続する第2流路とを有し、第2流路は第1流路との合流部付近において、第2流路内を液室から第1流路へ流れる液体の流れ方向が、第1流路内を吸入口から排出口へ向かって流れる液体の流れ方向に対して鋭角をなすように、第1流路に合流していてもよい。これによると、液室内の圧力が低下したときには、吸入口、排出口、第1流路、第2流路を介して液室内に液体が流入する。一方、液室内の圧力が上昇したときには、液室から第2流路を介して液体が第1流路に流れ込む。このとき、合流部の第1流路における上流側(吸入口側)に渦が発生するため、第2流路からの液体が吸入口側に流れにくくなり液体の逆流が防止される。
本発明のポンプは、被記録媒体にインクを移送して記録する記録ヘッドに接続され、この記録ヘッドにインクを供給するインク供給用ポンプであってもよい。これによると、構成が簡単で、且つ、可動部がなく作動時の騒音及び消費電力が小さいポンプにより記録ヘッドにインクを供給することができる。
本発明のポンプは、被記録媒体にインクを移送して記録する記録ヘッドとインク供給源との間を接続する2つの移送流路の少なくとも何れか一方に設けられて、記録ヘッドとインク供給源との間でインクを循環させるインク循環用ポンプであってもよい。これによると、構成が簡単で、且つ、可動部がなく作動時の騒音及び消費電力が小さいポンプによりインクを循環させ、記録ヘッド内に気泡が滞留するのを防止することができる。
本発明の第2の態様に従えば、液体(I)を所定方向に移送するための複数の移送流路(13)を有する液体移送部(1)と、その吐出口(23)が複数の移送流路(13)に連通しており、液体(I)を所定方向に加圧するポンプ(2)とを備え、液体移送部(1)は、各移送流路(13)の内面に形成された第1の流路電極(14)と、各移送流路(13)の内面の第1の流路電極(14)近傍に形成された第2の流路電極(15)と、第1の流路電極(14)及び第2の流路電極(15)に電圧を印加する第2電圧印加装置(16)と、第1の流路電極(14)の表面に設けられ、この第1の流路電極(14)に電圧が印加されていない状態では、移送流路の内面の第1の流路電極(14)及び第2の流路電極(15)が形成された領域以外の領域よりもその表面における液体の濡れ角が大きくなる第1の絶縁膜(18)と、第2の流路電極(15)の表面に設けられ、この第2の流路電極(15)に電圧が印加されていない状態では、移送流路(13)の内面の第1の流路電極(14)及び第2の流路電極(15)が形成された領域以外の領域よりもその表面における液体の濡れ角が大きくなる第2の絶縁膜(18)と、第2電圧印加装置(16)によって第2の流路電極(15)に電圧を印加させて、少なくとも第1の絶縁膜(18)の表面に気体を位置させて移送流路(13)を閉止し、第2の電圧印加装置(16)により第1の流路電極(14)に電圧を印加させて、少なくとも第2の絶縁膜(18)の表面に気体を位置させて移送流路を開放する開閉制御機構(67)とを有し、ポンプ(2)の第1の電極(27)及び第2の電極(29)の少なくとも一部と液体移送部(1)の第1の流路及び第2の流路電極(14、15)の少なくとも一部とが、同一面上に形成されており、さらに、ポンプ(2)の絶縁膜の少なくとも一部と、液体移送部(1)の第1の絶縁膜(18)及び、第2の絶縁膜(18)の少なくとも一部とが、同一面上に形成されている液体移送装置(3)が提供される。
本発明の第2の態様によれば、この液体移送装置は、第1電圧印加装置により第1の電極への電圧の印加及びその解除を行うことによりポンプを作動させて、液室内のインクを加圧して液体を液体移送部に移送する。さらに、液体移送部において、第2の電圧印加装置により第1の流路電極及び第2の流路電極への電圧の印加及びその解除を行うことによりこれらの電極の表面の絶縁膜の表面におけるインクの濡れ角を変化させ移送流路を開閉し、ポンプによって加圧されたインクを移送流路から外部に移送する。ここで、ポンプ及び液体移送部の電極及び絶縁膜は同一面上に形成されることから、これらの電極及び絶縁膜を同時に形成することができ、それらの形成工程が容易になる。
本発明の第3の態様に従えば、導電性を有する液体(CI,NCI)を貯留する液室(291)と、前記液室(291)に連通する流路(296)と、前記流路(296)を形成する壁面に設けられた複数の壁面電極(297a〜297e)と、前記複数の壁面電極(297a〜297e)の表面に設けられ、前記壁面を覆う絶縁膜(298)であって、前記複数の壁面電極(297a〜297e)に所定電圧が印加されたときには、前記所定電圧が印加されていない状態よりもその表面における液体の濡れ角が低下する絶縁膜(298)を有する液体移動装置(200、201、300、301)が提供される。
本発明の第3の態様によれば、毛管の壁面に設けられた複数の電極に所定の電圧を印加することによって、本発明者が見出したキャピラリーエレクトロウェッティング現象に基づいて、毛細管現象による毛管内の液面の高さを調整できる。特に、着色された導電性を有する液体(例えば染料系のインク)を利用したとき、毛管の長手方向から見た場合には、液面の高さに応じて、色の濃淡などが異なって見える。また、長手方向に直交する方向から毛管を見たときは、毛管内の液面の高さに応じた色つきの線として認識できる。また、本発明の液体移動装置は表示装置であってもよい。
本発明の表示装置は、複数の前記個別流路が一列に配置されていてもよく、複数の前記個別流路がマトリクス状に配置されていてもよい。個別流路(毛管)を一列に配置し、毛管の長手方向に直交する方向から見ることによって、棒グラフを表示することができる。また、毛管をマトリクス状に配置し、毛管の長手方向から見ることによって、毛管内の液面の高さに応じて色の濃淡が変わるディスプレイ装置として利用することができる。
本発明の表示装置は、前記個別流路の前記導電性を有する液体の液面の上に、前記導電性を有する液体と混合しない第2の液体を有してもよく、第2の液体が不揮発性であってもよい。特に、第2の液体が着色された液体であるときには、毛管の長手方向に直交する方向から毛管を見た場合に、色の付いた線の終端に別の色の点があるように見えるため、線の終端をはっきりと認識することができる。また、第2の液体が不揮発性であるときには、導電性を有する液体の蒸発を防ぐことができる。
本発明の液体移動装置において、前記複数の壁面電極は前記流路に沿って配列され、前記複数の壁面電極のうち、一つ若しくは連続する複数の壁面電極に前記所定の電圧を印加することによって、前記液体が所定の電圧を印加した壁面電極まで移動してもよい。これにより、液体の移動量を所望の値に調整することが可能となる。
本願において、用語「導電性を有する液体」とは、電圧印加により後述のキャピラリーエレクトロウェッティング現象が起こる液体を指す。例えば、水及び染料系の水性インクは導電性を有する液体である。
まず、本発明のポンプ及び液体移動装置において、本発明者が見出した液体の搬送及び移動に用いるキャピラリーエレクトロウェッティング現象(以下、適宜CEW現象と称する)について説明する。CEW現象を利用することによって、いわゆる毛管現象における毛管内の液面の上昇及び下降を自由に制御することが可能となるとともに、毛管内の液面を所望の位置に調整することも可能となった。
図31A及び31Bに示すように、液体中に細い管(毛細管)を立てると、管内の液面が管外の液面よりも上昇若しくは下降する(毛管現象)。液体分子間の凝集力と液体と管壁の間の付着力との大小関係により、液体が管を濡らす(濡れ角が90°より小さい)ときは液面は上昇し、濡らさない(濡れ角が90°より大きい)ときには液面は下降する。
管450と液面との濡れ角θが90°よりも小さい場合において、管450の内外の液面の高さの差hは、管内の液体の液面にかかる表面張力F1の合力Fと、管外の液面よりも上にある部分の液体にかかる重力Gとの釣り合いにより決まる(図31A参照)。濡れ角θが90°よりも大きい場合における管の内外の液面の高さの差hは、管内の液体の液面にかかる表面張力F1の合力Fと、管内の液面の下降によって管内の液体に働く浮力fとの釣り合いによって決まる(図31B参照)。例えば、管の材質がガラスであり、液体が水である場合において、管の内径が3mmのときの管内の液面の上昇は約1cmであるのに対して、管の内径が0.1mmのときの管内の液面の上昇は約28cmである。
このように、毛管現象によって管内の液面が管外の液面と比べて上昇するか下降するかは、管の材質及び液体の組成によって決まる。さらに、管の内外の液面の高さの差hは、管の材質及び液体の組成に加えて、管の内径及び液体の密度によって決まる量であることが知られている。従って、従来は毛管現象による管内の液面の上昇及び下降を自由に制御することはできず、さらに液面の高さを設定する際には、それに応じて管の内径を変更する必要があった。
そこで本願の発明者は、毛管内の液面の上昇及び下降並びに液面の高さを自由に制御しうる手法を確立すべく思考及び実験を重ねた結果、エレクトロウェッティング現象と毛管現象を組み合わせることによって、キャピラリーエレクトロウェッティング現象とも呼ぶべき新たな現象を見出した。ここで、エレクトロウェッティング現象によると、例えば図32A、Bに示すように、平板電極401の上に設けられた撥水性の薄膜402上に導電性を有する液体の液滴403を置き、この液滴中に微細な針金状の電極404を挿入する場合において、液滴403と平板電極401との間に電圧を印加する前の状態(図32A)と比べて、電圧を印加した後は薄膜402の濡れ性が高くなり、薄膜402と液滴403との間の濡れ角θが小さくなる(図32B参照)。
本願の発明者は、エレクトロウェッティング現象において、90°より大きな濡れ角を90°未満に下げうる点に特に着目し、エレクトロウェッティング現象を用いて毛管の壁面の濡れ性を制御することによって、毛管現象における液面の動きを自由に制御しうること(CEW現象)を見出した。即ち、毛管の壁面上に電極を設け、電極及び壁面を所定の撥水性の薄膜でコーティングし、導電性を有する液体と電極との間に電圧を印加することにより、電圧の大きさ及び電圧を印加する範囲に応じて液面の動きを制御することが可能である。本願の発明者は、このCEW現象に基づき、種々の用途に適用可能なポンプ、ポンプを備えた液体移送装置及び液体移動装置を完成するに至った。
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
[第1の実施の形態]
第1の実施の形態について説明する。第1の実施の形態は、プリンタのインクジェットヘッドとインク供給源との間で導電性を有するインク(導電性のインク)を循環させるポンプに本発明を適用した一例である。
図1は、第1の実施の形態のプリンタ90の概略構成図である。図1に示すように、本実施の形態のプリンタ90は、シリアル式のインクジェットヘッド71と、インクタンク72(インク供給源)と、インクジェットヘッド71とインクタンク72との間でインクを循環させるインク循環用のポンプ73と、プリンタ90の全体の制御を司る制御装置110(図3参照)とを有している。そして、インクジェットヘッド71とインクタンク72はチューブ101により接続され、また、インクジェットヘッド71とポンプ73はチューブ102で接続され、さらに、インクタンク72とポンプ73とはチューブ103で接続されている。即ち、ポンプ73は、チューブ101〜103により形成された、インクタンク72とインクジェットヘッド71とを接続する2つのインク流路の一方に設けられている。インクタンク72には、インクIを補給するインク補給管75とが接続されている。また、インクタンク72には、空気の供給を行う空気供給部72aも設けられている。
図2Aはポンプ73の断面図である。尚、この図2Aにおける上下左右の方向を上下左右と定義して以下説明する。図2Aに示すように、ポンプ73は、絶縁材料で形成されたケーシング90を有し、このケーシング90内の下側にはインク加圧室91が形成されている。このインク加圧室91は右側の吸入口92及び左側の排出口93と連通している。そして、インク加圧室91は、吸入口92及びチューブ103を介してインクタンク72に接続され、排出口93及びチューブ102を介してインクジェットヘッド71に接続されている。さらに、吸入口92付近には第1弁部材94が設けられ、排出口93付近には第2弁部材95が設けられている。
この第1弁部材94は、ゴムや合成樹脂材料等の可撓性を有する材料により薄板状に形成されている。そして、第1弁部材94は、その一方の端部(図2Aにおける下側の端部)においてケーシング90に固定され、他方の端部(図2Aにおける上側の端部)の後面(図2Aの右面、加圧室91と対面しない面)においてケーシング90に当接している。従って、インク加圧室91内の圧力が低下したときには、インク加圧室91の内外の圧力差により第1弁部材94が図2Aの左方へ撓んでその端部がケーシング90から離間し(図2B参照)、吸入口92が開放されるが、インク加圧室91内の圧力が上昇したときには、第1弁部材94の端部はケーシング90に当接した状態となるため、吸入口92が閉止され、吸入口92からインクタンク72へインクIが逆流しないようになっている。
一方、排出口93付近には、この排出口93を塞ぐ第2弁部材95が設けられている。この第2弁部材95も、第1弁部材94と同様に、ゴムや合成樹脂材料等の可撓性を有する材料により薄板状に形成されている。そして、第2弁部材95は、その一方の端部(図2Aにおける下側の端部)においてケーシング90に固定され、他方の端部(図2Aにおける上側の端部)の後面(図2Aの右面、加圧室91と対向する面)においてケーシング90に当接している。従って、インク加圧室91内の圧力が低下したときには、第2弁部材95の端部はケーシング90に当接したままであるため、排出口93が閉止され、排出口93からインクIがインク加圧室91内に逆流しないようになっている。一方、インク加圧室91内の圧力が上昇したときには、インク加圧室91の内外の圧力差により第2弁部材95が左方へ撓んでその端部がケーシング90から離間するため(図2C参照)、排出口93が開放される。即ち、第1弁部材94は吸入口92からインクIが流入するときにのみ吸入口92を開放し、第2弁部材95は排出口93からインクIが流出するときにのみ排出口93を開放するように構成されている。
また、ケーシング90内には、上下に延びる4本の隔壁90aが形成され、これら4本の隔壁90aにより互いに隔てられた5本の圧力調整流路96が形成されている。この圧力調整流路96は、その流路断面が矩形状に形成されている。5本の圧力調整流路96は、インク加圧室91と反対側の端部で互いに連通しており、さらに、ケーシング90に形成された連通孔90bを介して大気に連通している。また、圧力調整流路96を形成する壁面には、圧力調整流路96の長手方向に亙って電極97が形成されている。電極97はドライバIC111(第1電圧印加装置(手段):図3参照)に接続され、このドライバIC111から所定の電圧が印加されるように構成されている。また、電極97の表面には、絶縁膜98が形成されている。そして、電極97に電圧が印加されたときには、電圧が印加されていないときよりも絶縁膜98の表面におけるインクIの濡れ角は小さくなる。また、インク加圧室91を形成する壁面の一部にはドライバIC111を介してグランド電位に保持された電極99が形成されており、ケーシング90内のインクIは電極99に接触して常にグランド電位に保持されている。
次に、プリンタ90の制御装置110について図3のブロック図を参照して説明する。制御装置110は、中央演算処理装置であるCPU(Central Processing Unit)と、プリンタ90の全体動作を制御するための各種プログラムやデータ等が格納されたROM(Read Only Memory)、CPUで処理されるデータを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)等を備えている。また、制御装置110は、インクジェットヘッド71による印字動作を制御するヘッド制御部113とポンプ73を制御するポンプ制御部114とを備えている。そして、制御装置110は、ポンプ制御部114によりポンプ73を制御して、インクタンク72とインクジェットヘッド71との間でインクを循環させながら、ヘッド制御部113によりインクジェットヘッド71を制御して、PC112から入力された印字データに基づいて記録用紙に対して印字動作を行う。
次に、インクをインクタンク72とインクジェットヘッド71との間で循環させる際のポンプ73の動作について説明する。
まず、プリンタ90へ電源が投入されていない状態では、第1の電極97には電圧は印加されておらず第1弁部材94及び第2弁部材95は共に閉じており、インクIは循環していない。この状態から、プリンタ90に対して電源が投入されると、ポンプ制御部114からの指令に基づいて、ドライバIC111から電極97に対して所定の電圧が印加される。すると、前述のキャピラリーエレクトロウェッティング(CEW)現象により、電極97の表面の絶縁膜98の表面におけるインクの濡れ角が低下し、圧力調整流路96内に生じた毛管力により、インクIがインク加圧室91から圧力調整流路96に移動する。これにより、インク加圧室91内の圧力が低下し、チューブ103内の圧力がインク加圧室91の圧力よりも高くなるので、第1弁部材94が開き、チューブ102からインク加圧室91にインクIが流入する。そして、インクIの移動によってインク加圧室91内外の圧力が同じになると、第1弁部材94は閉じる。ここで、電極97に電圧を印加したときの電極97の表面の絶縁膜98におけるインクの濡れ角は90°未満であることが好ましい。
次に、電極97に電圧が印加された状態が解除されて、電極97がグランド電位になると、電極97の表面の絶縁膜98の表面におけるインクIの濡れ角が増加して、圧力調整流路96の毛管力により、インクが圧力調整流路96からインク加圧室91に移動する。これにより、インク加圧室91の圧力がチューブ102の圧力よりも高くなるので、第2弁部材95が開き、インクIがインク加圧室91から排出口93を介して流出する。そして、インクIの移動によってインク加圧室91内外の圧力が同じになると、第2弁部材95は閉じる。この一連の動作をポンプ73が繰り返すことにより、所定の流量のインクIがポンプ73から吐出される。ここで、電極97にの印加電圧を解除したときの電極97の表面の絶縁膜98におけるインクの濡れ角は90°以上であることが好ましい。
以上のような一連の動作を繰り返すことにより、チューブ101〜103、及び、ポンプ73を介して、インクIをインクタンク72とインクジェットヘッド71との間で連続的に循環させることができる。これにより、インクジェットヘッド71内に気泡が滞留するのを防止することができる。また、第1弁部材94及び第2弁部材95により、インク加圧室91内のインクが逆流するのを防止しているので、確実にインクを循環させることができる。
この第1の実施の形態のポンプ73は、その構造が可動部のない簡単なものになり、その製造コストを低く抑えることができる。また、従来のポンプと比較して、ポンプ73の作動時の騒音及び消費電力が小さくなる。また、このような省電力のポンプ73によりインクIの循環を行うことで、消費電力を極力少なくしつつ、気泡を排出を確実に行うことが可能になる。
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態は、記録用紙にインクを移送して印刷するプリンタに本発明を適用した一例である。
図4に示すように、第2の実施の形態のプリンタ60は、インクカートリッジ53から供給された導電性を有するインク(導電性のインク)を貯留するインクタンク50と、記録用紙P(図17〜図20参照)に対してインクを移送して記録する記録ユニット3(液体移送装置)と、記録ユニット3よる記録動作等、プリンタ60の種々の動作の制御を司る制御装置62(図10参照)とを有する。インクカートリッジ53とインクタンク50はインク供給管52によって接続されている。また、インクタンク50には、その内部に空気を供給する為の空気供給管51が設けられている。
次に、記録ユニット3について図5を用いて説明する。図5は図4の記録ユニット3の斜視図である。尚、以下、図5の前後左右の方向をそれぞれ前後左右と定義して説明する。図5に示すように、記録ユニット3は、複数のインク流路13(移送流路)を有する記録ヘッド1(液体移送部)と、この記録ヘッド1の後方に配設されて記録ヘッド1にインクを供給するポンプ2とを有する。
記録ユニット3は、矩形板状の第1流路形成部材10と第2流路形成部材11とを有し、これら第1流路形成部材10、第2流路形成部材11は互いに対向した状態で接合されている。尚、流路形成部材10、11は、それぞれ、ガラス材料、ポリイミド、あるいは、表面にSiO2が形成されたシリコン等からなり、少なくとも後述する電極 が形成される面やインクが接触する面において絶縁性を有する。
図5に示すように、下側に位置する第2流路形成部材11の上面の左端部には前後方向に延びる隔壁11a,11bが分割形成され、右端部には前端から後端まで延びる隔壁11cが形成されている。さらに、第2流路形成部材11の後端部には、左端から右端付近まで延びる隔壁11dが形成されている。そして、これら隔壁11a〜11dで囲われた領域に記録ヘッド1及びポンプ2が形成されている。また、第2流路形成部材11の前後方向略中央部には、左右方向に延びる隔壁11eも形成されており、この隔壁11eにより前側の記録ヘッド1と後側のポンプ2とが分離されている。尚、隔壁11a〜11eは、エッチング等により第2流路形成部材11の上面に形成される。
次に、記録ヘッド1について図5〜図7を参照して説明する。尚、図6は図5の記録ヘッド1の一部の横断面図、図7は図6のVII−VII線断面図である。
第2流路形成部材11の前端側部分には、前後方向に延びる複数の隔壁11fが等間隔おきに形成されている。これら複数の隔壁11fも、隔壁11a〜11eと同様にエッチング等により形成される。そして、隔壁11a、隔壁11c、及び、複数の隔壁11fの間に、前後方向へ延びる複数のインク流路13が前方へ開口するように形成されている。また、第1流路形成部材10の下面の、複数の隔壁11fと対向する部分よりも後側の部分には、左右方向に延びる凹溝10aが形成されている(図7参照)。そして、第1流路形成部材10の凹溝10aと第2流路形成部材11により、複数のインク流路13に夫々連通するマニホールド12が形成されている。そして、後述のポンプ2から供給されたインクIは、マニホールド12から複数のインク流路13へそれぞれ供給され、さらに、これら複数のインク流路13を介してインクIが記録用紙Pに移送されて、記録用紙Pに所定の画像が記録される。尚、記録用紙Pは、図4の前方において、紙送り機構(図示しない)により上下方向に送られる。各インク流路13は矩形の断面形状を有し、本実施の形態においては、インク流路13の幅W(図6参照)は70μm程度であり、インク流路の高さH(図7参照)は20μm程度である。
各インク流路13の底面13aの幅方向中央部には、平面視で前後方向に長い矩形状の第1個別電極14(第1の流路電極又は第1の流路開閉用電極)が設けられている。一方、各インク流路13の底面13aの幅方向両端部の領域であって、矩形状の第1個別電極14の4隅にそれぞれ隣接する4つの領域には、それぞれ平面視で形状が直角三角形であり三角形の斜辺がインクIの流れ方向に交差する4つの第2個別電極15(第2の流路電極又は第2の流路開閉用電極)が設けられている。そして、インクIの流れ方向(前方又は後方)から見て、第1個別電極14と第2個別電極15とは互いに重ならない位置に配置されている。
また、図6に示すように、第1個別電極14よりもインクIの流れ方向上流側(図6の右側)に位置する2つの第2個別電極15に関しては、幅方向内側に位置する斜辺がインクIの流れ方向下流側ほど第1個別電極14に近づくように延びている。即ち、これら2つの第2個別電極15は、インクIの流れ方向下流側の部分ほど第1個別電極14に近づく形状に形成されている。一方、第1個別電極14よりもインクIの流れ方向下流側(図6の左側)に位置する2つの第2個別電極15に関しては、インクIの流れ方向に交差する斜辺がインクIの流れ方向下流側ほど第1個別電極14から離れるように延びている。つまり、これらの2つの第2個別電極15は、インクIの流れ方向下流側の部分ほど第1個別電極14からは遠ざかる形状に形成されている。尚、これら第1個別電極14及び第2個別電極15は、蒸着法、スパッタ法、あるいは、印刷法等公知の方法により第2流路形成部材11の表面に形成することができる。
これら第1個別電極14と4つの第2個別電極15は、それぞれ、配線部14a、15aを介してドライバIC16(第2電圧印加装置(手段):図10参照)と電気的に接合されている。そして、第1個別電極14と4つの第2個別電極15の何れか一方に、ヘッド制御部67(図10参照)からの信号に基づいてドライバIC16により電圧が印加される。尚、電圧が印加されていない状態の第1個別電極14と第2個別電極15はドライバIC16を介して接地され、グランド電位に保持される。
マニホールド12の底面を画成する部分における第2流路形成部材11の上面には、左右に延びる共通電極29が設けられ、この共通電極29は配線部29aを介して常に接地されている。従って、記録ヘッド1内の導電性のインクIは共通電極29に接触して、インクIは常にグランド電位に保持されている。尚、この共通電極29も第1個別電極14及び第2個別電極15と同様に、蒸着法、スパッタ法、あるいは、印刷法等の公知の方法により第2流路形成部材11の表面に形成することができる。
さらに、第1個別電極14と第2個別電極15の表面の領域、及び、これら第1個別電極14と第2個別電極15に囲まれた領域(図6の網状にハッチングされた領域)には、これらの領域に亙って連続的に絶縁膜18が設けられている。尚、この絶縁膜18のうち、第1個別電極14の表面の部分と第2個別電極15の表面の部分がそれぞれ本願の第1の絶縁膜、第2の絶縁膜に相当する。この絶縁膜18は、インク流路13の内面のうち絶縁膜18が設けられていない領域(第1個別電極14及び第2個別電極15が形成された領域以外の領域)よりも高い撥液性を有する。そして、高い撥液性を有する状態では、この絶縁膜18の表面にインクIが移動できず、代わりに、絶縁膜18の表面に気泡20(図17〜19参照)が位置するようになっている。
ところで、ドライバIC16により第1個別電極14又は第2個別電極15に電圧が印加されて、この電圧が印加された電極とグランド電位に保持されたインクIとの間に電位差が生じると、電圧が印加された電極の表面に位置する絶縁膜18の部分の表面におけるインクIの濡れ角が小さくなり、電極に電圧が印加されていない状態と比べて絶縁膜18の電圧印加部分の撥液性が低下する(エレクトロウェッティング現象)。また、インクIの液滴は、その一部分が撥液性の高い領域に接触し、残りの部分が撥液性の低い領域に接触する状態になると、撥液性の低い領域にのみ位置するように移動しようとする。そのため、電圧が印加された電極上の絶縁膜18の部分の表面にインクIが移動できるようになる。従って、後述するように第1個別電極14と第2個別電極15の何れか一方に電圧を印加することにより気泡20を移動させて、インク流路13を開閉することが可能となる。この絶縁膜18は、例えば、インク流路13の底面13aに対して、フッ素系樹脂をスピンコート法等によりコーティングすることにより形成することができる。また、本実施の形態においては、絶縁膜18の膜厚は0.1μm程度である。
尚、インクIは共通電極29に接触してグランド電位に保持されているため、第1個別電極14と第2個別電極15の何れか一方に電圧が印加されたときには、その電圧が印加された電極とインクIとの間の電位差が大きくなり、電極14又は15表面の絶縁膜18の撥液性が確実に低下する。
また、第1個別電極14と第2個別電極15がそれぞれ形成された領域に囲まれた領域には、絶縁膜18の下側に電圧が印加される電極がないため、常に高い撥液性を有することになる。さらに、図6に示すように、第1個別電極14がその下に形成された領域と高撥液領域19は、インク流路13の幅方向(左右方向)に互いに隣接して配置されており、これら第1個別電極14が形成された領域と高撥液領域19は、インク流路13の底面13aの幅方向における全域を占めている。従って、第1個別電極14に電圧が印加されていない状態(第2個別電極15に電圧が印加されている状態)では、気泡20が幅方向の全域を占めるように位置することになり、インク流路13が確実に閉止される。一方、第2個別電極15が形成された領域と高撥液領域19はインク流路13の長手方向(前後方向)互いに隣接して配置されており、これら第2個別電極15が形成された領域と高撥液領域19は、底面13aの幅方向両端部のみを占めている。従って、4つの第2個別電極15に電圧が印加されていない状態(第1個別電極14に電圧が印加されている状態)では、気泡20が幅方向の両端部に位置することになり、インク流路13の幅方向中央部が開放される。
次に、ポンプ2について図5、図8及び図9を用いて説明する。図8は、図5のポンプ2の横断面図、図9は、図8のIX−IX線断面図である。
図5、図8に示すように、第2流路形成部材11の上面の、隔壁11b、隔壁11c、隔壁11d、隔壁11eにより囲まれた領域の左側部分には、左右に延びる2本の隔壁11gが形成されており、左右に延びる隔壁11d,11e,11gの間には3本の圧力調整流路26が形成されている。また、3本の圧力調整流路26の右側には、これら3本の圧力調整流路26と連通するインク加圧室21(液室)が形成されている。3本の圧力調整流路26は、インク加圧室21と反対側の端部で互いに連通しており、さらに、隔壁11aと隔壁11bとの間に形成された連通孔55を介して大気に連通している。尚、図9に示すように、圧力調整流路26は、その流路断面が矩形となるように形成されている。そのため、隔壁11c、隔壁11d、及び、2本の隔壁11gをエッチング等により形成してから、第1流路形成部材10を第2流路形成部材11に接合するだけで圧力調整流路26を形成することができ、その形成工程が容易なものとなる。
また、隔壁11cと隔壁11dとの間には吸入口22が形成されており、インク加圧室21は、吸入口22を介してインクタンク50(図4参照)に連通している。一方、隔壁11eと隔壁11cとの間には排出口23が形成されており、インク加圧室21は排出口23を介して記録ヘッド1のマニホールド12に連通している。
図8に示すように、吸入口22付近には、この吸入口22を塞ぐ第1弁部材24が設けられている。この第1弁部材24は、ゴムや合成樹脂材料等の可撓性を有する材料により薄板状に形成されている。そして、第1弁部材24は、その一方の端部(図8における下側の端部)において隔壁11cに固定され、他方の端部(図8における上側の端部)の後面(図8の右面)において隔壁11dに当接している。従って、インク加圧室21内の圧力が低下したときには、インク加圧室21の内外の圧力差により第1弁部材24が図8の左方へ撓んでその端部が隔壁11dから離間し(図12、図13参照)、吸入口22が開放されるが、インク加圧室21内の圧力が上昇したときには、第1弁部材24の端部は隔壁11dに当接した状態となるため、吸入口22が閉止され、吸入口22からインクタンク50へインクIが逆流しないようになっている。
一方、排出口23付近には、この排出口23を塞ぐ第2弁部材25が設けられている。この第2弁部材25も、第1弁部材24と同様に、ゴムや合成樹脂材料等の可撓性を有する材料により薄板状に形成されている。そして、第2弁部材25は、その一方の端部(図8における下側の端部)において隔壁11cに固定され、他方の端部(図8における上側の端部)の後面(図8の右面)において隔壁11eに当接している。従って、インク加圧室21内の圧力が低下したときには、第2弁部材25の端部は隔壁11eに当接したままであるため、排出口23が閉止され、排出口23からインクIがインク加圧室21内に逆流しないようになっている。一方、インク加圧室21内の圧力が上昇したときには、インク加圧室21の内外の圧力差により第2弁部材25が図8の左方へ撓んでその端部が隔壁11eから離間するため(図14、図15参照)、排出口23が開放される。
図8、図9に示すように、3本の圧力調整流路26を形成する第2流路形成部材11の壁面(底面及び両側面)には夫々電極27(第1の電極)が設けられている。この電極27は、隔壁11gの長手方向の全域に亙って形成されている。尚、電極27は、例えば、蒸着法、スパッタ法、あるいは、印刷等公知の方法により形成することができる。電極27はドライバIC64(第1電圧印加装置):図10参照)に接続されており、ポンプ制御部68(図10参照)からの信号に基づいてドライバIC64から電圧が印加される。また、電極27は、電圧が印加されていない状態では、ドライバIC64を介してグランド電位に保持されている。
電極27の表面には、絶縁膜28(流路絶縁膜又は流路開閉用絶縁膜)が形成されている。この絶縁膜28は、例えば、圧力調整流路26を形成する壁面の電極27が形成されている部分に対して、フッ素系樹脂をスパッタ、浸漬、スピンコート等でコーティングすることにより形成することができる。
そして、ドライバIC64から電極27に所定の電圧が印加されると、前述のCEW現象により、電極27の表面の絶縁膜28の表面におけるインクIの濡れ角θが低下し、圧力調整流路26内の毛管力によりインクIがインク加圧室21から圧力調整流路26に移動するため、インク加圧室21内の圧力が低下する。一方、電極27への電圧の印加が解除されると、絶縁膜28の表面におけるインクIの濡れ角θが増加して、圧力調整流路26内の毛管力によりインクIが圧力調整流路26からインク加圧室21に移動し、インク加圧室21内の圧力が上昇する。従って、電極27への電圧の印加及びその解除を行うことにより、インク加圧室21の圧力を変化させることができる。このポンプ2の加圧動作については、後ほど詳しく説明する。また、このとき、第1弁部材24及び第2弁部材25により、インクIの逆流、即ち、吸入口22からの流出及び排出口23からの流入が防止されるため、吸入口22から流入したインクIは、インク加圧室21内で加圧されて排出口23から前方のマニホールド12へ供給される。ここで、電極27に電圧を印加したときの電極27の表面の絶縁膜28の表面におけるインクIの濡れ角は90°未満であることが好ましく、また、電極27の印加電圧を解除したときの電極27の表面の絶縁膜28の表面におけるインクIの濡れ角は90°以上であることが好ましい。
また、インクIは、インク加圧室21と排出口23を介して連通したマニホールド12内に形成された共通電極29(第2の電極)と接触しており、インクIは常にグランド電位に保持されているので、電極27に電圧を印加したときに電極27とインクIとの間の電位差が大きい状態が維持されるため、電極27に電圧が印加されたときに、その表面の絶縁膜28におけるインクIの濡れ角が確実に低下する。さらに、記録ヘッド1内のインクIをグランド電位に保持するための電極と、ポンプ2内のインクIをグランド電位に保持するための電極を、1つの共通電極29で兼用しているため、記録ヘッド1とポンプ2で別々に電極が形成される場合と比較して、製造コストが低くなる。尚、この共通電極29はマニホールド12内に形成されている必要は必ずしもなく、インク加圧室21内や、あるいは、インク加圧室21と吸入口22を通じて連通する上流側(インクタンク50側)の流路に形成されていてもよい。
尚、第2流路形成部材11の隔壁11a〜11gは、全てエッチングにより形成することができるため、記録ヘッド1のインク流路13やマニホールド12、ポンプ2のインク加圧室21や圧力調整流路26等の流路を一度に形成することができる。
また、記録ヘッド1の第1個別電極14、第2個別電極15、共通電極29、及び、ポンプ2の電極27の一部分は、全て同一面上(第2流路形成部材11の上面)に形成されている。そのため、これらの電極をスクリーン印刷等を用いて同時に形成することにより、製造工程を簡略化することができる。さらに、記録ヘッド1の絶縁膜18と、ポンプ2の絶縁膜28の一部分も同一面上に形成されている。そのため、これら絶縁膜も同時に形成することにより、製造工程をさらに簡略化することができる。
次に、本実施の形態のプリンタ60の電気的な構成について図10のブロック図を用いて説明する。制御装置62は、中央演算処理装置であるCPUと、プリンタ60の全体動作を制御するための各種プログラムやデータ等が格納されたROM、CPUで処理されるデータを一時的に記憶するRAM等を備えている。そして、この制御装置62は、記録ユニット3による記録用紙Pへの記録等の、プリンタ60の種々の動作を制御する。
また、制御装置62は、パーソナルコンピュータ(PC)80から入力された印字データを記憶する印字データ記憶部65と、この印字データ記憶部65に記憶された印字データに基づいてインクタンク50から記録ヘッド1へ移送するインク流量を決定するインク流量決定部66と、記録ヘッド1へインクIを供給するポンプ2を制御するポンプ制御部68と、記録用紙P(図17〜図20参照)にインクIを移送する記録ヘッド1を制御するヘッド制御部67(開閉制御機構(手段))等を備えている。PC80から制御装置62に対して印字指令及び印字データが入力されると、印字データが印字データ記憶部65に記憶されるとともに、記憶された印字データに基づいて、インク流量決定部により記録ヘッド1へ供給されるインク流量Fが決定される。そして、ポンプ制御部68によりドライバIC64(第2電圧印加装置(手段))による電極27(図8参照)への電圧の印加が制御されて、流量FのインクIが記録ヘッド1へ供給される。また、ヘッド制御部67によりドライバIC16(第1電圧印加装置(手段))による第1個別電極14及び第2個別電極15(図6参照)への電圧の印加が制御されてインク流路13が開閉されて、流量FのインクIが記録用紙Pへ移送され、記録用紙Pに所定の画像が記録される。尚、印字データ記憶部65は、データを一時記憶するRAM等により構成され、インク流量決定部66、ポンプ制御部68及びヘッド制御部67は、夫々、CPU、ROM、及び、RAM等により構成されている。
次に、ポンプ制御部68により実行されるインク供給処理について、図11のフローチャートと、図8、図12〜図15を参照して説明する。このインク供給処理は、PC80から入力された印字データに基づいて記録ユニット3により記録用紙Pに記録を行う際に実行される。尚、図11におけるSi(i=10、11)は各ステップを表している。また、図12〜図15における、電極27の接点部27aの“+”は電極27に電圧が印加されている状態、“GND”は電極27に電圧が印加されていない(グランド電位にある)状態を示す。
図8に示すように、ポンプ2により、インクタンク50から記録ヘッド1にインクIが供給されていない状態では、電極27に電圧が印加されておらず、圧力調整流路26内でインクIが停止しており、第1弁部材24及び第2弁部材25はともに閉止状態にある。
このような状態から、PC80から制御装置62に印字指令が入力されると、ポンプ制御部68は、インク流量決定部66で決定されたインク流量Fと、圧力調整流路26の流路面積や高さや数等の条件に基づいて、所定電圧V及び所定周波数fの駆動パルス信号を決定し(S10)、ドライバIC64により決定された駆動パルス信号を電極27に印加させる(S11)。
電極27に電圧Vが印加されると、図12に示すように、前述のCEW現象によって絶縁膜28の表面におけるインクIの濡れ角θが低下して、圧力調整流路26内に生じる毛管力によりインクIがインク加圧室21から圧力調整流路26に移動し、インク加圧室21内の圧力が低下する。このとき、絶縁膜28の表面におけるインクIの濡れ角θは90°未満になることが好ましい。すると、インク加圧室21の上流の圧力が、インク加圧室21内の圧力よりも大きくなるため、第1弁部材24が開き、図13に示すように、インクタンク50からインク加圧室21にインクIが流入する。このとき、第2弁部材25は閉止した状態であり、排出口23からはインク加圧室21内にインクが流入しない。そして、インク加圧室21へのインクIの流入によって、インク加圧室21とインクタンク50との圧力が等しくなると、インクタンク50からインク加圧室21へのインクの流入が止まり、第1弁部材24が閉じる。
次に、ドライバIC64によって電極27に印加されている電圧を解除する(グランド電位にする)と、CEW現象により、図14に示すように、絶縁膜28の表面のインクIの濡れ角θが増加して、圧力調整流路26の毛管力によりインクIが圧力調整流路26からインク加圧室21に移動し、インク加圧室21内の圧力が上昇する。このとき絶縁膜28の表面のインクIの濡れ角θは90°以上であることが好ましい。すると、インク加圧室21の圧力がマニホールド12の圧力よりも高くなり、第2弁部材25が開き、図15に示すように、インクIがインク加圧室21から記録ヘッド1に流出する。このとき、第1弁部材24は閉止した状態であり、吸入口22からインク加圧室21外にインクが流出しない。そして、インク加圧室21からのインクIが流出しインク加圧室21と記録ヘッド1との圧力が同じになると、記録ヘッド1へのインク加圧室21からのインクIの流出が止まり、第2弁部材25が閉じる。そして、電極27には周波数fで電圧Vが周期的に印加されることから、ポンプ2は前述の動作を繰り返して、所定の流量FのインクIを記録ヘッド1へ供給する。また、第1弁部材24及び第2弁部材25によりインク加圧室21内のインクIが逆流するのを防止しているので、確実にインクIを記録ヘッド1に供給することができる。
尚、このポンプ2のより具体的な一例を以下に示す。圧力調整流路26の流路断面寸法が300μm×100μm、長さが12mm、圧力調整流路26の数が20本であり、また、電極27には電圧Vが30V、周波数fが1Hzの駆動パルス信号が印加され、さらに、電極27に電圧Vが印加されている状態における絶縁膜28の表面におけるインクIの濡れ角θが50°で、電極27がグランド電位である状態でのインクIの濡れ角θが110°である場合には、0.007cc/sec(0.42cc/min)のインクIを供給することが可能である。
次に、ヘッド制御部67による流路開閉処理について、図16のフローチャートと図17〜図19を参照して説明する。この流路開閉処理は、PC80から入力された印字データに基づいて、インク流路13を介して記録用紙PにインクIを移送する場合に実行される。
図17、図18に示すように、インク流路13によりインクIが移送されていない状態では、このインク流路13の4つの第2個別電極15にのみ電圧が印加されており、第1個別電極14はグランド電位に保持されている。この状態では、電圧が印加された第2個別電極15の表面の絶縁膜18におけるインクIの濡れ角は小さくなっているため、この絶縁膜18の表面にインクIが移動する。しかし、電圧が印加されていない第1個別電極14の表面の絶縁膜18におけるインクIの濡れ角は大きく、撥液性が高いため、その表面にはインクIは移動できない。また、第1個別電極14と第2個別電極15が形成された領域に囲まれた高撥液領域19は、第1個別電極14及び第2個別電極15の電圧印加状態に関わらず、常に撥液性が高い為、インクIは高撥液領域19に移動できない。そのため、第1個別電極14の表面の絶縁膜18と幅方向両側にそれぞれ隣接する2つの高撥液領域19の絶縁膜18に亙って気泡20が位置して、この気泡によりインク流路13が閉止されている。
このように、気泡20によりインク流路13が閉止されている状態から、例えば、図13における一番下のインク流路13を開放してこのインク流路13からインクIを移送する場合には、インク流量決定部66によって決定されたインク流量Fに基づいてインク流路13の開放時間T0を決定し(S20)、電圧を印加する電極を4つの第2個別電極15から第1個別電極14に変更して、ドライバIC16により第1個別電極14に電圧を印加する(S21)。すると、電圧が印加された第1個別電極14の表面の絶縁膜18の表面において、インクIの濡れ角が小さくなって撥液性が低下し、この絶縁膜18の表面にインクIが移動できるようになる。一方、電圧が印加されなくなった第2個別電極15の表面の絶縁膜18の撥液性は高くなる。従って、図19、図20に示すように、第1個別電極14が形成された領域にインクIが移動すると同時に、その領域に位置してインク流路13を閉止していた気泡20が2つに分裂して幅方向両側にそれぞれ移動し、第2個別電極15が形成された領域と高撥液領域19の表面に気泡20が位置するようになる。そのため、第1個別電極14が形成された領域の上流側と下流側の領域が連通し、インク流路13が開放されてインクIが記録用紙Pに移送される。
さらに、第1個別電極14に電圧が印加され、インク流路13が開放されてからS20で決定された開放時間T0が経過したときには(S22:Yes)、電圧を印加する電極を第1個別電極14から第2個別電極15に変更し、ドライバIC16により第2個別電極15に電圧を印加する(S23)。すると、第1個別電極14の表面の絶縁膜18における濡れ角が大きくなって撥液性が再び高くなり、この絶縁膜18にインクIが移動できなくなる。同時に、第2個別電極15の表面の絶縁膜18の撥液性が低くなるので、図17、図18に示すように、第2個別電極15が形成された領域から第1個別電極14が形成された領域に気泡20が移動して、気泡20によりインク流路13が閉止される。このように、インク流路13の開閉を行うことにより所望の流量FのインクIをインク流路13から記録用紙Pに移送することができる。
以上説明した記録ユニット3によれば、次のような効果が得られる。
ポンプ2は、電極27に対する電圧の印加及びその電圧印加状態の解除を繰り返し行うことにより、絶縁膜28の表面のインクIの濡れ角を変化させて圧力調整流路26内のインクIを移動させることにより、インク加圧室21内のインクIを加圧する。従って、ポンプ2の構造が可動部のない簡単なものになり、その製造コストを低く抑えることができる。また、従来のポンプと比較して、ポンプ2の作動時の騒音及び消費電力が小さくなる。
マニホールド12内に設けられた共通電極29により、記録ヘッド1及びポンプ2内のインクIが常にグランド電位に保持されている。そのため、記録ヘッド1において、第1個別電極14又は第2個別電極15に電圧が印加されたときに、これら電極14,15の表面の絶縁膜18におけるインクIの濡れ角が小さくなり、その撥液性が確実に低下する。また、ポンプ2において、電極27に電圧が印加されたときには、電極27の表面の絶縁膜28におけるインクIの濡れ角が確実に低下する。従って、第1個別電極14、第2個別電極15、及び、電極27に印加する電圧を極力小さくしつつ、ポンプ2による記録ヘッド1へのインクIの供給、及び、記録ヘッド1によるインクIの移送を確実に行うことができる。
次に、前記第2の実施の形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記第2の実施の形態と同じ構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
[第1変更形態]ポンプの電極は、圧力調整流路を形成する壁面の底面及び両側面に形成されている必要は必ずしもなく、例えば、底面もしくは側面の一方にのみ形成されていてもよい。但し、図21に示すように、ポンプ2Aにおいて、圧力調整流路26の流路断面が矩形である場合には、絶縁膜28Aの面積をより広くして毛管力を効果的に発生させるために、電極27Aは、矩形の短辺の対応する壁面(側面)よりも、むしろ、長辺に対応する壁面(底面)に形成されていることがより好ましい。
[第2変更形態]また、圧力調整流路を形成する壁面全体を覆うように電極及び絶縁膜が形成されていてもよい。例えば、図22のポンプ2Bにおいては、第1流路形成部材10Bと第2流路形成部材11Bに夫々エッチングで凹部が形成され、これら2つの凹部の間に圧力調整流路26Bが形成されている。そして、圧力調整流路26Bを形成する壁面(2つの凹部の内面)を全て覆うように電極27B及び絶縁膜28Bが形成されている。この場合には、前記第2の実施の形態のポンプ2と比較して、電極27Bの面積が大きいことから、電極27Bに電圧が印加されたときにさらに効果的に毛管力が発生し、ポンプの駆動力が大きくなるため、インクIをヘッド1へ効率よく移送することができる。
[第3変更形態]圧力調整流路の流路断面は矩形に限られるものではなく、他の形状とすることができる。例えば、図23に示すように、ポンプ2Cにおいては、流路形成部材10C内に、その流路断面が円形である圧力調整流路26Cが形成されている。そして、圧力調整流路26Cを形成する壁面の全周に亙って電極27Cが形成され、さらに、電極27Cの表面に絶縁膜28Cが形成されている。この場合には、流路断面が矩形の場合と比較して、電極27Cに所定電圧を印加したときに圧力調整流路26Cに毛管力がより効果的に発生し、ポンプの駆動力が大きくなるため、インクIをヘッド1へ効率よく移送することができる。
[第4変更形態]吸入口及び排出口におけるインクの逆流を防止する逆流防止装置としては、第2の実施の形態の第1弁部材24及び第2弁部材25(図8参照)に限られるものではない。例えば、図24に示す第4変更形態のポンプ2Dにおいては、その吸入口22D付近に、この吸入口22Dに連通し、且つ、インク加圧室21側(図24の左側)ほどテーパー状に狭まって流路面積が徐々に小さくなっている吸入流路37が形成されている。また、排出口23D付近には、この排出口23Dに連通し、インク加圧室21側(図24の右側)ほどテーパー状に広がって流路面積が徐々に大きくなっている排出流路38が形成されている。この場合には、吸入口22Dからインク加圧室21にインクIが流入するときの吸入流路37での流路抵抗が、インク加圧室21から吸入口22DへインクIが流出するときの吸入流路37での流路抵抗よりも小さくなることから、インク加圧室21から吸入口22DへインクIが逆流しにくくなる。また、インク加圧室21から排出口23DへインクIが流出するときの排出流路38での流路抵抗が、排出口23Dからインク加圧室21へインクが流入するときの流路抵抗よりも小さくなることから、排出口23Dからインク加圧室21へインクが逆流しにくくなる。
[第5変更形態]また、図25に示す第5変更形態のポンプ2Eにおいては、圧力調整流路26と連通するインク加圧室21Eと、前後方向(図25の左右方向)に延び、吸入口22Eと排出口23Eとを連結する第1流路41とが隔壁11hにより隔てられている。そして、隔壁11hには、インク加圧室21Eから斜め前方へ延びて第1流路41に合流する第2流路42が形成されている。そして、第2流路42内をインク加圧室21Eから第1流路41に向かって流れるインクIの流れ方向(矢印a)と、第1流路41内を吸入口22Eから排出口23Eに向かって流れるインクIの流れ方向(矢印b)とが、所定の鋭角φをなしている。
この場合には、電極27に電圧が印加されたときには、インク加圧室21Eの圧力が低下し、吸入口22E及び排出口23Eの両方からインクIが第1流路41及び第2流路42を介してインク加圧室21Eに流入する。一方、電極27への電圧の印加が解除されたときには、インク加圧室21Eの圧力が上昇し、インクIがインク加圧室21Eから第2流路42及び第1流路41に移動する。このとき、第2流路42が第1流路41との合流部付近において、吸入口22Eから排出口23Eに向かう方向(前方)へ傾いていることから、第2流路42から第1流路41内に流入したインクIは前方の排出口23Eへ流れやすくなる。また、第2流路42から第1流路41にインクIが流入する際に、第1流路41における第2流路42との合流部の吸入口側(図25の右側)に渦が発生して、第1流路41においてインクIが後方の吸入口22Eへは流れにくくなる。従って、インクIが第1流路41を逆流して後方へ流れてしまうのが防止される。
尚、第2の実施の形態と同様に、第1の実施の形態のポンプ73に対しても、圧力調整流路96の流路断面形状等に関する変更等、前述したような変更を加えることができる。
また、前記第1の実施の形態及び第2の実施の形態は、インクを加圧するポンプに本発明を適用した例であるが、マイクロ総合分析システム(μTAS)内部で薬液や生化学溶液等の液体を移送するポンプ、マイクロ化学システム内部で溶媒や化学溶液等の液体を移送するポンプ等、インク以外の導電性を有する液体を移送するポンプに本発明を適用することもできる。
前記実施の形態において、ポンプは第1電圧印加装置を備えていたが、ポンプ外部の電圧印加装置を利用することができる。また、記録ユニットは第2電圧印加装置を備えていたが、これも記録ユニット外部の電圧印加装置を利用することができる。また、これらの電圧印加装置は単なる電源であってもよい。
[第3の実施の形態]
本実施の形態では、本発明の液体移動装置の一形態であるグラフ表示装置について図26A〜図26Cを参照しつつ説明する。グラフ表示装置200は、透明な材質で作られたハウジング290と、ハウジング290内部に充填される導電性を有する有色の液体(導電性有色液体CI)と、導電性有色液体用のタンク(不図示)及びタンクとハウジング290とを接続する流路(不図示)とを有する。ハウジング290は直方体状である。ハウジング内部の下部(底部)にはY方向に延在する共通液体流路291が形成されており、それによってハウジング290内部の底面290bを画成している。この共通液体流路291にそれぞれ連通する6つの個別液体流路296が、ハウジング290内にZ方向に延在して形成されている。6つの個別液体流路296は、互いに所定間隔を隔ててY方向に配列されており、隣接する個別液体流路間に隔壁290aが画成されている。各個別液体流路296は、図26Aに示すように、XY平面における断面が矩形である。各個別液体流路296を画成するハウジング290の壁面及び隔壁290aの壁面には、撥液性の絶縁膜298が設けられている。さらに、絶縁膜298の内側、即ち絶縁膜298と隔壁290a及びハウジング290の壁面との間には、Z方向に5つの電極297a〜297eが所定間隔を隔てて列状に設けられている。これらの電極297a〜297eは、不図示の電圧源とそれぞれ接続されており、これらの合計30個の電極に対して、それぞれ独立に電圧を印加することができる。各隔壁290aは、共通液体流路291の存在により、ハウジング290の底面290bには接しておらず、各個別液体流路296は、ハウジング290の底部に形成された共通液体流路291と連通している。さらに共通液体流路291は、ハウジング290の底部のY方向端部に設けられた液体供給口292を通じて不図示のタンクと連通されている。ハウジング290の底面290bの中央部には、グラウンド電極299が設けられており、接地されることによってグラウンド電位に保持されている。
次に、グラフ表示装置200の動作について説明する。まず、液体供給口292を通じて、不図示のタンクから導電性有色液体CIをグラフ表示装置200に供給する。このとき、電極297a〜297e及びグラウンド電極299の電位はグラウンド電位に保持する。各個別液体流路296の壁面は撥液性の絶縁膜298で覆われているため、毛細管現象によって、各個別液体流路296内の導電性有色液体CIの液面はタンク内の液面よりも低くなり、各個別流路296の最下面に位置している(図26C参照)。このときの液面の濡れ角は90°より大きい。
電極297eに所定の電圧を印加した場合、前述のCEW現象により、電極を覆う領域の絶縁膜298の濡れ性が高くなって液面との間の濡れ角が90°未満となり、電極297eの上端の位置まで液面が上昇する。さらに電極297dに所定の電圧を印加した場合には、液面の高さは電極297dの上端の位置まで上昇する。同様にして、さらに電極297c〜297aに所定の電圧を印加することによって、それぞれ電極297c〜297aの上端の位置まで液面の高さを上昇させることができる。逆に、電極297a〜297eに印加した電圧を上の電極から順番にゼロにしていくことによって、液面の高さをそれぞれ電極297a〜297eの下端の位置に下げることができる。
これによって、各個別流路296における導電性有色液体CIの液面の高さを独立に設定することが可能である。ハウジング290は透明な部材で構成されているので、X方向から見ることにより、各個別液体流路296の液面の高さを目視確認することができる。したがって、本実施形態のグラフ表示装置200により、棒グラフを表示することができる。
[第6変更形態]本変更形態の表示装置201は、導電性有色液体CIに代わって、無色の導電性液体NCIを用いている点と、導電性液体NCIよりも比重が軽く、混合して安置した場合に導電性液体NCIと分離し、且つ、着色された第2の液体LQ2を各個別流路296内の導電性液体NCIの液面の上に少量加えた以外は、第3の実施の形態におけるグラフ表示装置200と同様である。図27A、Bに示すように、各個別流路内の液面の最上部に位置する第2の液体LQ2のみが着色されていることから、折れ線グラフ状の表示が可能である。また、例えば導電性液体NCIが水であって、第2の液体が油性インクである場合のように、第2の液体LQ2が不揮発性の液体であるときには、導電性液体NCIの乾燥防止も実現できる。
第6変更形態において、第2の液体は着色された液体であったが、無色の液体であってもよい。さらに、無色の導電性液体NCIの代わりに導電性有色液体CIを用いてもよい。第3の実施の形態及び第6変更形態において、導電性有色液体及び第2の液体の色及び透明度は任意にし得る。また、グラフ表示装置のハウジングは透明な部材によって形成されていたが、少なくとも各個別流路内の液体の液面が確認できる程度に、一部分が透明であればよい。
[第4の実施の形態]
本実施の形態では、本発明の液体移動装置の一形態であるマトリクス表示装置について図28A及び28Bを参照しつつ説明する。本実施の形態のマトリクス表示装置は、平面視で略正方形の形状であるハウジング内にマトリクス状に複数の個別流路が形成されている点を除いて、第3の実施の形態のグラフ表示装置と同様の構造を有する。本実施の形態のマトリクス表示装置300は、平面視で略正方形の形状のハウジング390を備える。ハウジング390は、その底面390cが透明な部材で構成されている。ハウジング390は、Y方向に延びる4つの横隔壁390aとX方向に延びる5つの縦隔壁390bによって、5×6のマトリクス状に区画され、各々のマトリクスは個別液体流路396を構成している。図28Bに示すように、横隔壁390a及び縦隔壁390bはいずれもハウジング390の底面390cまでは延びておらず、各個別液体流路396は共通液体流路391を通じて互いに連通している。また、各個別液体流路396は、ハウジング390のY方向端部(図28Aにおける右下)に形成された液体供給口392を通じて不図示のタンクと接続されており、不図示の流路を通じて導電性有色液体CIが供給されている。
第3の実施の形態のグラフ表示装置において、各個別流路内の液体の液面の高さを調節したときと同様の方法で、本実施の形態のマトリクス表示装置300の各個別流路396における導電性有色液体CIの液面の高さを調節することができる。ハウジング390の底面390cは透明な部材で構成されているので、底面390c側から光を照射して、上面側に光を透過させることができる。このときの光の透過量は各個別流路396内の導電性有色液体CIの液面の高さに応じて異なるため、光の濃淡の差として認知できる。このことを利用して、本実施の形態のマトリクス表示装置を一種のディスプレイ装置として利用することが可能である。
[第7変更形態]本変更形態のマトリクス表示装置は、導電性有色液体よりも比重が軽く、混合して安置した場合に導電性有色液体CIと分離し、透明であり、且つ、不揮発性である油性液体OLを各個別流路内の導電性有色液体の液面の上に少量加えた以外は、第4の実施の形態における液体表示装置と同様である(図29A、B参照)。本変型形態のように、透明な不揮発性の油性液体OLを各個別流路396内の導電性有色液体CIの液面の上に少量加えることによって、導電性有色液体CIの蒸発を防ぐことができる。
第7変更形態における油性液体OLは、無色透明でなくてもよく、ハウジングの底部から照射される光を透過することができれば、その色及び透明度は任意にし得る。
第3及び第4の実施の形態、並びに、第6及び第7変更形態において、各個別流路は互いに連通しており、各個別流路に供給される液体は全て共通のものであった。しかし、各個別流路若しくは一部の個別流路は他の個別流路と切り離されていてもよく、さらに、それらの独立した個別流路には、それぞれ別個のタンクから、異なる種類の導電性を有する液体(例えば、色又は透明度が異なる液体)が供給されてもよい。
上記実施の形態及び上記変更形態の各表示装置は、個別流路(毛管)を用いて流体、固形物、資料、薬剤、食品を運搬する用途にも使用することができる。ここで流体とは、導電性のある液体、第2の液体、ゾル又はゲル状物、気体を指す。また、各表示装置は電極に電圧を印加する電圧印加装置を備えておらず、外部の電圧印加装置を利用しているが、各表示装置が電圧印加装置を備えていてもよい。また、電圧印加装置は単なる電源の他、ドライバIC等を使用しうる。また、各個別流路に設けられた電極に選択的に電圧を印加することによって、所望の量の液体を選択的に輸送することができる。例えば、第3の実施の形態において、まず電極297c〜297eまでの3つの電極に電圧を印加して電極297cの位置まで液体CIの液面を上昇させた後、電極297eの電圧をゼロにすると、個別流路内には電極297d〜297cに対応する個別液体流路の部分にのみ液体CIの塊が残る(図30A参照)。次に、電極297bに電圧を印加しつつ、徐々に電極297dの電圧を下げていくと、液体CIの流路方向両側の表面における表面張力の大きさに差が生じるため、液体CIの塊を電極297b側に移動させることができる(図30B参照)。電極297dと297eの間の領域におけるハウジング290の壁には、ハウジング290の外部と連通する連通孔(不図示)が設けられており、個別液体流路296における液体CIの塊と液体CIの液面との間の空間の圧力とハウジング290の外部の圧力を同一にしている。ここで、各個別液体流路は1つより多くの連通孔を含んでいてもよく、連通孔の位置は電極297dと297eとの間には限られない。連通孔の形状を任意に画成し得る。例えば、個別液体流路296の伸長方向に延びる様に形成された溝状の孔でもよい。開平可能な弁が連通孔の開口部に備えられていてもよい。また、連通孔を画成する内壁面は撥水膜でコートされていてもよい。
上記実施の形態及び上記変更形態において、毛管(圧力調整流路又は個別流路)の数及び配置は任意に設定することができる。例えば、毛管(キャピラリー)は一つであってもよく、横向きを含めて任意の方向に配置することができる。また、絶縁膜の材料にはCEW現象を生じさせる観点からフッ素系樹脂が好適である。