近年、光ディスクには高密度および大容量記録が求められており、トラックピッチおよびピットピッチの縮小化がなされている。そしてディスクの高密度化および大容量化に対応すべく、レーザー光のスポットサイズをより小さくすることが行われている。レーザー光のスポットサイズを絞るためには、波長の短い半導体レーザーの使用や、光ピックアップのレンズの開口数(NA:numerical aperture)の引上げ等が必要となってくる。
一方、高密度・大容量記録を行う場合、チルトの発生に起因した読み取りまたは書き込み不良の問題が顕在化してくる。チルトとは、レーザー光の光軸とディスクの記録面の垂線との間の角度ずれ、すなわち記録面の傾きを意味し、その発生要因としては、(1)光ディスクをスピンドルモータにチャッキングする際に、光ディスクが傾いた状態でチャッキングしてしまうこと、(2)光ディスクの製造時に光ディスク自体に歪みが発生していること、(3)光ディスク装置の経時変化によりスピンドルモータの軸と光ピックアップのレンズの光軸との間にずれが生ずること、などがある。
従来は、光ディスク装置の製造時に光軸調整を行っておきさえすれば、以上のような原因でチルト量が増大しても信号の読み取りに重大な影響を与えることはなかったが、近年の高密度大容量記録化に伴い、わずかな光軸のずれが問題となるようになっている。
レーザー光の波長λ、開口数NA、およびチルトの許容値Tとの関係は、
T=λ/(NA)3
となることが知られており、レーザー光の波長λの短縮化、開口数NAの引上げを行うと、チルト量の許容値Tは小さくなる。そしてチルト量が許容値を超えると、コマ収差によりスポット品位が大幅に劣化し、正確な信号の読み取りまたは書き込みが困難となるという問題が生じる。
この問題に対する解決策としては、傾きの発生を根本からなくすような手法、すなわち変形量の少ない光ディスクを使用したり、経時変化の少ない材料を用いて光ディスク装置を構成したりする手法も考えられるが、いずれも大幅な製造コストの増大に繋がるため、現実的ではない。
このため、上記問題に対する解決策として、光ディスク装置にチルト検出機能、チルト補償機能を設けることが行われている。
図6に、この種のチルトセンサ10の構成の例を示す(特許文献1参照)。このチルトセンサ10は、発光部を構成する発光ダイオードなど一個の発光素子11、光検出部を構成する2分割受光素子12、レンズ13、および、上記各部品を保持するケース14を、主たる部品として構成されている。
このときに、前記発光素子11は、測定を目的とする傾斜方向に直交するレンズ13の中心線X上に配置され、2分割受光素子12はその分割線を前記中心線X上として配置され、従って、2分割受光素子12は中心線Xに対して一対の受光部分が対称に配置されるものとなる。
また、図7に、発光素子11と2分割受光素子12との電気結線を示す。発光素子11はアノードが電流制限抵抗Rを介して電源Vccに接続されており、カソードがGNDに接続されている。また、2分割受光素子12の2の受光部分のカソードがGNDに接続されているとともに、アノードがそれぞれに設けられた増幅器15に接続されている。同図では、一方の増幅器15が15a、他方の増幅器15が15bとして示されている。増幅器15は2分割受光素子12の受光部分による受光信号を増幅して外部に出力する。
図8および図9は、上記チルトセンサ10による傾斜の検出原理を示すものである。図8は被検出物100が傾斜していない状態を、図9は被検出物100が傾斜している状態を示している。図8において、先ず、発光素子11から放射される光は、この発光素子11がレンズ13の中心線X上に配置されているものであるので、同図に示すように中心線Xに対し左右が対称の光束として被検出物100に照射される。
このときに、図8のように被検出物100に傾きを生じていなければ、被検出物100で反射された反射光も中心線Xに対し左右が対称となる条件は保持されるものとなり、よって、中心線Xに対し左右が対称として配置された2分割受光素子12のそれぞれの部分からの出力も同一となる。
ここで、前記被検出物100に、例えば図示の状態で右側が上がる傾斜を生じると、図9に示すように反射光は右側に偏寄するものとなり、2分割受光素子12からの出力は、右半部12aが左半部12bよりも大きくなる。従って、この不平衡の状態から何れの側に傾斜が生じたかということと、傾斜の度合いとが知れるものとなる。
また、この傾き量を表わすチルト信号は例えば図10に示すようなチルト信号生成回路18に入力される。2分割受光素子12の各出力は増幅器15a・15bを介してそれぞれA/D変換器(A/D変換手段)16a・16bに入力される。A/D変換器16a・16bに入力されたアナログ信号は量子化数に応じた分解能、すなわち所定の量子化幅によってデジタル信号A・Bに変換され、DSP(digital signal processor)17にてA−Bの差動演算がなされ、チルト信号となりチルト信号生成回路18に入力される。チルト信号生成回路18は、入力された差動信号A−Bからチルト補償用の信号を生成して外部に出力する。
特開平10−197227号公報(平成10(1998)年7月31日公開)
上記A/D変換器16a・16bの分解能が例えば8bitである場合、想定する最大入力信号レベルをA/D変換器16a・16bの出力の最大値、例えば11111111(256)となるように設計する。つまりサンプリング分解能としては1bit=最大入力信号レベル/256となる。
このため、例えば想定する最大ディスク反射率のディスクのチルト(傾き)を検出する場合、チルト量4度相当となる最大入力信号レベルが5Vであるとすると、1bit=5/256V=19.5mVとなり、量子化幅あたり(4/256)×60=0.94’の分解能となる。
ところが、ディスクの反射率が例えば最大ディスク反射率の1/20程度のディスクが使用された場合、入力信号レベルが最大入力信号レベル5Vの場合の1/20となる。この場合、1bitあたりの分解能は0.94×20=18.8’となってしまい、18.8’以下のチルト量を検出することができなくなり、チルトセンサとしての性能をはたさなくなってしまう問題があった。また想定した最大ディスク反射率以上のディスクが使用された場合、A/D変換器への入力が飽和してしまい、同じくディスクチルト量を正しく検出することができなくなる。
低反射率ディスクの使用時における低分解能検出や、A/D変換器への入力が飽和してしまうことにより、ディスクチルト量を正しく検出することができなくなることによる結果として、チルト検出装置やチルト補償装置が誤動作して光ピックアップが正しくない傾きに制御されてしまい、チルト量が許容値を超え、コマ収差によりスポット品位が大幅に劣化し、正確な信号の読み取りまたは書き込みができなくなるという事態が生じる。
本発明は、上記問題点を解決すべくなされたものであり、その目的は、光ピックアップの動きに悪影響を与えることが無く、信頼性の高い光記録媒体の傾き検出システム、およびそれを搭載した傾き検出装置並びに光ディスク装置を実現することにある。
本発明の光記録媒体の傾き検出システムは、上記課題を解決するために、照射される光の波長に応じた所定の反射率を有する光記録媒体に光ピックアップ装置から光を照射し、その反射光を検出することで、前記光記録媒体に対する信号の記録再生を行う光ディスク装置に用いられ、自身と前記光記録媒体との相対的な傾きを、前記光記録媒体に発光部から光を照射し、その照射光に対して前記光記録媒体における傾き検出を行う領域からの反射光を光検出部で検出することにより検出する光記録媒体の傾き検出システムであって、前記発光部と前記光検出部とを有するチルトセンサ、前記チルトセンサの出力信号をA/D変換して所定の量子化幅で量子化するA/D変換手段、および、前記A/D変換手段の出力信号を処理する信号処理手段を備える光記録媒体の傾き検出システムにおいて、前記所定の量子化幅を、使用が想定される最小の前記反射率の前記光記録媒体に対して前記傾き検出に必要とされる角度分解能に対応した量子化幅とすることを特徴としている。
上記の発明によれば、A/D変換手段における所定の量子化幅を、使用が想定される最小の反射率の光記録媒体に対して傾き検出に必要とされる角度分解能に対応した量子化幅とするので、チルトセンサのダイナミックレンジの範囲内で使用される全ての光記録媒体に対して、常に上記角度分解能以上の分解能を確保することができる。
従って、光ディスク装置に反射率の小さな光記録媒体を使用しても、光記録媒体の傾き量を正確に検出することができる。それゆえ、チルト検出装置やチルト補償装置が誤動作して光ピックアップが正しくない傾きに制御されてしまうことを防止することができる。
以上により、光ピックアップの動きに悪影響を与えることが無く、信頼性の高い光記録媒体の傾き検出システムを実現することができるという効果を奏する。
本発明の光記録媒体の傾き検出システムは、上記課題を解決するために、前記信号処理手段は、使用が想定される前記最小の前記反射率の前記光記録媒体に対して、前記チルトセンサのダイナミックレンジと傾き検出に必要とされる角度分解能とに基づき得られる分割数を、前記A/D変換手段の量子化数の一部に割り当てることを特徴としている。
上記の発明によれば、使用が想定される最小の反射率の光記録媒体に対して得られる分割数をA/D変換手段の量子化数の一部に割り当てるので、それよりも反射率の大きな光記録媒体に対して、十分なダイナミックレンジを確保しながら、より高い分解能で傾き検出を行うことができるという効果を奏する。
本発明の光記録媒体の傾き検出システムは、上記課題を解決するために、前記発光部からの前記照射光に対する前記反射光は、前記光記録媒体の前記領域における表面反射光であることを特徴としている。
上記の発明によれば、光記録媒体の表面反射光という微量な光の検出により、光記録媒体の傾きを正確に検出することができるという効果を奏する。
本発明の光記録媒体の傾き検出システムは、上記課題を解決するために、前記信号処理手段は、前記光検出部の前記出力信号が飽和する場合、前記発光部からの前記照射光の量を減少させることを特徴としている。
上記の発明によれば、光検出部の出力信号が飽和するような反射率の大きい光記録媒体に対しても、傾きを正確に検出することができるという効果を奏する。
本発明の光記録媒体の傾き検出システムは、上記課題を解決するために、前記照射光の減少量は50%以上であることを特徴としている。
上記の発明によれば、光検出部の出力信号が飽和する場合に、照射光の減少量を50%以下にするので、光記録媒体の傾きを正確に検出することができる反射率の上限を100%以上とすることができる。従って、ほとんど全ての光記録媒体の傾きを正確に検出することができるという効果を奏する。
本発明の光記録媒体の傾き検出システムは、上記課題を解決するために、前記発光部からの前記照射光の波長は赤外領域の波長であることを特徴としている。
上記の発明によれば、光記録媒体の各規格に対応した光源の波長以外の波長を傾き検出に用いるので、光記録媒体の記録再生に悪影響を与えることがないという効果を奏する。
本発明の光記録媒体の傾き検出システムは、上記課題を解決するために、前記信号処理手段は、前記発光部からの前記照射光に対する前記光記録媒体の前記領域からの反射光量と、前記チルトセンサのダイナミックレンジと、使用が想定される最小の前記反射率の前記光記録媒体に対して前記傾き検出に必要とされる角度分解能とに基づいて制御されることを特徴としている。
上記の発明によれば、使用する光記録媒体に対する反射光量が分かると、A/D変換手段の量子化数を上記ダイナミックレンジに割り当てることにより、使用が想定される最小の反射率の光記録媒体に対して傾き検出に必要とされる角度分解能に基づき、使用する光記録媒体に対して最高の角度分解能を設定することができる。従って、使用する光記録媒体の反射率に応じて、最高の角度分解能で傾きを検出することができるという効果を奏する。
本発明の光記録媒体の傾き検出システムは、上記課題を解決するために、前記最小の前記反射率は4%であることを特徴としている。
上記の発明によれば、一般に光記録媒体の表面反射率は4%以上であるので、最小の反射率を4%とすることにより、設定する角度分解能を極力高くすることができるという効果を奏する。
本発明の光記録媒体の傾き検出システムは、上記課題を解決するために、前記光記録媒体の所定箇所に対してのみ前記傾き検出を行うことを特徴としている。
上記の発明によれば、一つの光ディスクの全記録面内において正確な信号の読み取りまたは書き込みが可能となるという効果を奏する。
本発明の光記録媒体の傾き検出装置は、上記課題を解決するために、前記光記録媒体の傾き検出システムが一体部品として構成されてなることを特徴としている。
上記の発明によれば、光記録媒体の傾き検出システムを単独で構成することができるという効果を奏する。
本発明の光ディスク装置は、上記課題を解決するために、前記光記録媒体の傾き検出システムが搭載され、検出した前記光記録媒体の傾きを補償する傾き補償手段を有することを特徴としている。
上記の発明によれば、光記録媒体の傾き検出システムによって正確に検出された光記録媒体の傾きを、傾き補償手段によって補償するので、正確な信号の読み取りまたは書き込みが可能となる光ディスク装置を実現することができるという効果を奏する。
本発明の光記録媒体の傾き検出システムは、以上のように、前記所定の量子化幅を、使用が想定される最小の前記反射率の前記光記録媒体に対して前記傾き検出に必要とされる角度分解能に対応した量子化幅とする。
それゆえ、光ピックアップの動きに悪影響を与えることが無く、信頼性の高い光記録媒体の傾き検出システムを実現することができるという効果を奏する。
本発明の一実施形態について図1ないし図9に基づいて説明すると以下の通りである。
図2に示すように、光ディスク装置51は、光ディスク1をチャッキングして回転させるスピンドルモータ2と、光ディスク1から情報を読み出したり光ディスク1に情報を書き込んだりするための光ピックアップ3と、光ピックアップ3を光ディスク1の半径方向に移動させるための(粗動用の)駆動装置4とを備えている。また、スピンドルモータ2は、回転制御系5により制御されるようになっており、回転制御系5は光ピックアップ3により読み出された光ディスク1の半径方向についての位置情報に基づいてスピンドルモータ2の動作を制御するようになっている。
なお、本実施形態において、光ディスク1とは、レーザー光等の光により情報を読み出すことが可能で、その種類によっては情報を書き込むことも可能な情報記録媒体を指し、一般に光記録媒体と呼ばれるものはこれに相当する。
本実施形態の要旨と直接関係しないためここでは詳述しないが、光ピックアップ3には、レーザー光線を発生させるための半導体レーザー、レーザー光線を整形するコリメートレンズ、ビームスプリッタ、レーザー光線を検出するためのフォトダイオード、レーザー光線を光ディスク1上の所望の位置に照射するための対物レンズや駆動系等が設けられている。光ピックアップ3に設けられた駆動系とは、対物レンズにより集束されたスポットをフォーカス方向とトラッキング方向とに位置決めするためのものである。
また、図2に示すように、光ディスク装置51は、光ディスク1の対物レンズと同一半径位置に配置されたチルトセンサ10を備えている。このチルトセンサ10は、光ピックアップ3に搭載され光ピックアップ3の構成要素として設けられている。
前記図6に、チルトセンサ10の構成の例を示す。また、前記図7に、発光素子11と2分割受光素子12との電気結線を示す。図6および図7についての説明は前述のものと同様であるが、図7の前記増幅器15a・15bはチルトセンサ10内に内蔵されている場合もあり、またチルトセンサ10の外部に配置されている場合もある。
さらに、前記図8および図9に、上記チルトセンサ10による傾斜の検出原理を示す。図8および図9の被検出物100は、ここでは光ディスク1に相当する。図8および図9の説明は前述のものと同様である。
図1に、増幅器15a・15bの出力信号を処理する検出信号処理回路20の構成を示す。この出力信号を処理する回路は、A/D変換器(A/D変換手段)21a・21b、DSP22、チルト信号生成回路23、および、トータル信号生成回路24を備えている。増幅器15aの出力信号はA/D変換器21aに入力されて所定の量子化幅によってA/D変換され、量子化数(=全量子化数)の何割に対してダイナミックレンジが割り合てられるかで決定される分解能を有するデジタル信号Aとして出力される。増幅器15bの出力信号はA/D変換器21bに入力されてA/D変換され、量子化数(=全量子化数)の何割に対してダイナミックレンジが割り合てられるかで決定される分解能を有するデジタル信号Bとして出力される。デジタル信号A・BはともにDSP22に入力される。DSP22はデジタル信号Aとデジタル信号Bとの差動演算A−Bを実行するとともに、加算演算A+Bを実行する。得られた差動信号A−B(便宜上、差動演算と同符号を用いる)はチルト信号生成回路23に入力され、トータル信号A+B(便宜上、加算演算と同符号を用いる)はトータル信号生成回路24に入力される。差動信号A−Bは光ディスク1の傾きの程度を示し、トータル信号A+Bは光ディスク1から2分割受光素子12への全反射光量の大きさを示す。特に、光ディスク1に傾きがない場合、すなわちA−B=0の場合には、トータル信号A+Bは光ディスク1からの反射光量が照射光の反射率倍となることに対応した信号となる。
チルト信号生成回路23は、差動信号A−Bから傾斜を補償するための信号を生成して出力する。トータル信号生成回路24は、トータル信号A+Bから反射光量を評価したり照射光量を調整したりするための信号を生成して出力する。
DSP22、チルト信号生成回路23、および、トータル信号生成回路24は信号処理手段の少なくとも一部を構成している。信号処理手段は、A/D変換器21a・21bでデジタル信号に変換された傾斜検出信号を、傾斜を補償するための信号を生成するために処理する手段である。
また、前記チルトセンサ10、前記A/D変換器21a・21b、および信号処理手段は光ディスク1の傾き検出システムの少なくとも一部を構成している。
図3に、傾き検出システムの実装例を示す。図3(a)は、傾き検出システムを、傾き検出装置30として光ピックアップ3上に実装した例を示す。傾き検出装置30は、図6のチルトセンサ10と、図1の検出信号処理回路20とが、一つの部品に一体化されたものである。図3(b)は、傾き検出システムを、傾き検出装置60として光ピックアップ3上に実装した例を示す。傾き検出装置60は、図6の2分割受光素子12と図1の検出信号処理回路20とが1チップの集積回路に搭載されたOEIC40と、図6の発光素子11とが、一つの部品に一体化されたものである。図3(c)は、傾き検出システムを異なる箇所に実装された複数の部品からなる傾き検出システム70として光ディスク装置51上に実装した例を示す。傾き検出システム70は、光ピックアップ3上に実装された図2のチルトセンサ10と、光ピックアップ3とは別に設けられ他の回路を含めた回路基板80上に実装された図1の検出信号処理回路20とがフレキシブル配線などの配線75により接続されたものである。
このように、本実施形態の傾き検出システムは、図3(a)・(b)に示す、チルトセンサ10、A/D変換器21a・21b、および、前記信号処理手段が一固体の部品からなる傾き検出装置として一体化されたものでもよいし、図3(c)でチルトセンサ10と、A/D変換器21a・21bおよび前記信号処理手段とが分かれているように、複数の部品が別々の箇所に実装されてそれらが配線で接続されたものでもよい。特に、傾き検出システムが一体部品として構成されてなる場合には、光ディスク1の傾き検出システムを単独で構成することができる。
また、傾き検出システムによって検出された光ディスク1の傾きを補償する傾き補償手段は、図2の構成によって実現される。
前述の構成の検出信号処理回路20において、A/D変換器21a・21bが例えば8bitのデジタル信号A・Bを生成し、その量子化数が256である場合、A/D変換器21a・21bの分解能で決定される分割可能数は256となる。
2分割受光素子12で検出される光量はディスク反射率に依存するため、ディスク反射率が、想定される最小反射率の場合は、検出されるトータル光量は最小となり、ディスク反射率が、想定される最大反射率の場合は、検出される光量は最大となる。
従って、チルトセンサ10の検出ダイナミックレンジをb度、サンプリングにて最低必要な分解能をc度とすると、チルトセンサ10のダイナミックレンジと、傾き検出に必要とされる角度分解能とに基づき得られる分割数はb/cとなる。
次に、DSP22により行われる設定動作について説明する。
ディスク反射率のバラツキによる2分割受光素子12で検出される光量のバラツキの許容範囲を拡大するためには、使用が想定される最小の反射率の光ディスク1の反射率(以下、「最小ディスク反射率」と称する)をa%とすると、前記分割数b/cを、この最小ディスク反射率の場合に相当する前記光量の検出量の前記A/D変換器21a・21bによる量子化数の一部に対し割り当てることが好ましい。この場合、前記A/D変換器21a・21bで飽和することなく量子化数範囲内で割り当てられる検出可能な光量に相当する最大ディスク反射率をd%とすると、
d=a×256/(b/c) −(1)
となる。
つまり想定できるディスク反射率のばらつきは
d/a=256/(b/c) −(2)
となる。
このため最小ディスク反射率を小さく設定するほど許容できる反射率の範囲が小さくなることになり、最小ディスク反射率の下限をいくつに設定すればいいかが設計のポイントとなる。以下にその最小ディスク反射率の設定について述べる。
図4にディスク反射率の波長依存特性の測定結果を示す。同図において記録再生想定波長が405nmの複数のメーカーのディスク反射率の波長依存特性は赤外線波長領域(800nm以上)で大きく異なる。これはディスク媒体面の反射率が405nm波長で定義されており赤外光での反射率が規定されていないことによる。
ところが、ディスク表面反射率はディスク基板の屈折率で決まるため、全波長領域で約6%とほぼ一定である。
一般に、ディスク基板は透過性の高い樹脂(PCあるいはそれに近い光学特性の樹脂)で構成されており、その屈折率はn=1.5以上であり表面反射率は、
(n−1)2/(n+1)2≧4%
となる。このため、傾き検出システムにて傾き検出を行うことを想定する最小ディスク反射率を、4%とすることができる。
このとき、例えば傾き検出システムとして傾き検出に必要な最小分解能が6’であって、チルト検出範囲を2°とした場合、最大ディスク反射率は(1)式より51.2%とすることができる。
つまり上記傾き検出システムの場合、ディスク反射率のばらつき4%〜51.2%に対して、6’以下の分解能を実現できることになる。また、このときの発光素子11の出射光量は信号のS/Nを上げるため、可能な限り大きくすることが望ましい。
このように、本実施形態では、A/D変換器21a・21bに、最小ディスク反射率の光ディスク1に対して傾き検出に必要な角度分解能に対応する量子化幅を設定し、それよりも大きな反射率の光ディスク1に対して、どの程度大きな反射率まで正確に傾き検出を行うことができるのかを定めるようにしている。このようにすれば、チルトセンサ10のダイナミックレンジの範囲内で使用される全ての光ディスク1に対して、常に最低限必要な角度分解能以上の分解能を確保することができる。
従って、光ディスク装置51に反射率の小さな光ディスク1を使用しても、光ディスク1の傾き量を正確に検出することができる。それゆえ、チルト検出装置やチルト補償装置が誤動作して光ピックアップが正しくない傾きに制御されてしまうことを防止することができる。
以上により、光ピックアップの動きに悪影響を与えることが無く、信頼性の高い光記録媒体の傾き検出システムを実現することができる。
そして、傾き検出システムによって正確に検出された光ディスク1の傾きを、傾き補償手段によって補償するようにすれば、レーザー光の波長λの短縮化、開口数NAの引上げに伴い、光ディスク1のチルトで発生するコマ収差によりスポット品位が大幅に劣化した場合でもチルトを補正することができる。従って、光ディスク装置51は、正確な信号の読み取りまたは書き込みが可能となる光ディスク装置として実現される。
また、このような光記録媒体の傾き検出システムを用いれば、光ディスク1において所望の箇所でのみチルト補償を行うことも可能になる。以下に、その例について、図11を用いて説明する。同図に示す光ディスク1は、成型等の製造過程の影響で外周部1aが湾曲した椀型をなしている。例えばこの形状を光ディスク1の代表的な傾き形状とし、面内の微小な傾きが無視できるものであるとすると、外周部1aのそりによる大まかな傾斜に対してはチルト補償を行い、内周部ではチルト補償を行わないようにすることにより、光ディスク装置51は、一つの光ディスクの全記録面内において正確な信号の読み取りまたは書き込みが可能となる光ディスク装置となる。
図11は、チルトセンサ10が光ピックアップ3と独立して設けられている構成を示す例であり、チルトセンサ10は、光ピックアップ3、あるいは光ピックアップ3を半径方向に駆動する駆動装置4と同一基準面(例えば平行が精度良く出ている面)を構成する部材52に固定設置されている。光ピックアップ3が内周部にある時(点線時)にはチルト補償を行わず、外周部にある時(図の実線)にはチルトセンサ10によりチルト補償を行う構成である。チルトセンサ10は、図3(a)・(b)に示す傾き検出装置30・60であってもよい。このように、本実施形態の光記録媒体の傾き検出システムは、光ディスク1の所定箇所に対してのみ傾き検出を行ってそのチルト補償を行う構成とすることもできる。
また、最小ディスク反射率の光ディスク1に対して得られる分割数をA/D変換器21a・21bの量子化数の一部に割り当てるので、それよりも反射率の大きな光ディスク1に対して、十分なダイナミックレンジを確保しながら、より高い分解能で傾き検出を行うことができる。
また、ROMディスクのように50%以上の大きな反射率の光ディスク1も想定する場合は、発光素子11の光量を1/2以下に減少することで、ディスク反射率が8%〜102.4%(従って、理論上100%)という範囲の光ディスク1に対して傾き検出が可能となる。反射率の大きな光ディスク1を用いると、2分割受光素子12の出力信号が飽和する場合があるが、発光素子11の光量を減少させれば、反射率の大きい光ディスク1に対しても飽和させずに傾き検出を行うことができる。
あるいは、想定する最小ディスク反射率を4%とした場合に必要な最小分解能を6’とすれば、チルト検出範囲を上記の半分である1°とした場合に、最大ディスク反射率として102.4%(従って、理論上100%)まで許容できることになる。
なお、このように、発光素子11からの照射光の量の減少は、信号処理手段から出力される信号を発光素子11へフィードバックすることで行うことができる。
また、発光素子11からの照射光の減少量を50%以下にすれば、上述のように、光ディスク1の傾きを正確に検出することができる反射率の上限を100%以上とすることができる。従って、ほとんど全ての光ディスクの傾きを正確に検出することができる。
光ディスク1の記録面の反射率はディスクメーカ等により大きくばらつく、一方で基板表面率は上述の理由からバラツキが少なく波長依存性も少ない。従って、基板表面反射による反射光を利用する構成でも構わない。このように発光素子11からの照射光に対する検出対象となる反射光を表面反射光とすれば、微量な光の検出により、光ディスク1の傾きを正確に検出することができる。
また、発光素子11からの照射光の波長を前述の赤外領域の波長とすれば、光ディスク1の各規格に対応した光源の波長以外の波長を傾き検出に用いることになるので、光ディスク1の記録再生に悪影響を与えることがない。
ここでは、DPS22による設定は、最小ディスク反射率(a%)の場合に相当する前記光量の検出量の前記A/D変換器21a・21bによる量子化数に対し前記分割数b/cを割り当てる構成であるが、これに限るものではない。光ディスク装置51に挿入される任意の光ディスク1’毎に最小分解能(最小分解角度)C’を設定し、前記最小分解能C’に基づき傾き検出システムを制御しても構わない。図5にその概要を表すフローチャートを示す。
同図において、S1では光ディスク装置51に光ディスク1’を挿入する。S2では傾き検出システムの発光素子11をONし光ディスク1’を照射する。この時、S3のように光ピックアップ3を徐々に傾斜させながら光ディスク1’からの反射光量を光検出器により検出する。次いでS4で、図1に示すDSP22で差動演算A−Bを実行し、差動信号A−Bが0となるまでS3に戻って光ピックアップ3の傾斜動作と、前記検出並びに差動演算A−Bとを継続する。一方向の傾斜で差動信号A−Bが0となる傾斜角度が得られない場合は他方向の傾斜に切り換えて継続する。ここで、差動信号A−Bが0となる状態は、光ピックアップ3と光ディスク1’とが相対的に傾斜していない状態である。
差動信号A−Bが0となる傾斜角度が得られると、S5で2分割受光素子12のトータル信号A+Bを検出する。ここで前記トータル信号A+Bにおける例えば電圧値をVtとし、予めDSP22内に格納してある最小ディスク反射率(例えば前記4%)で前記差動信号A−Bが0となる状態のトータル信号A+Bの電圧値をVaとすると、前記最小分解能(最小分解角度)C’は、
C’=b・Vt/(256・Va) ・・・(3)
で与えられる。
S6でこの最小分解能C’を求め、S7でこれによって得られた最小分解能(最小分解角度)C’で傾き検出システムを制御することによって、光ディスク1’の反射率による反射光量に応じた制御が可能となる。
このように、使用する光ディスク1’に対する反射光量が分かると、A/D変換器21a・21bの量子化数をチルトセンサ10のダイナミックレンジに割り当てることにより、最小ディスク反射率の光ディスク1に対して傾き検出に必要とされる角度分解能に基づき、使用する光ディスク1に対して最高の角度分解能を設定することができる。従って、使用する光ディスク1の反射率に応じて、最高の角度分解能で傾きを検出することができる。
また、本実施形態のように、最小ディスク反射率を4%とすれば、一般に光ディスク1の表面反射率が4%以上であるので、不必要に最小ディスク反射率を小さくすることがないため、設定する角度分解能を極力高くすることができる。
なお、図5に限らず、上記実施形態における検出信号処理回路20の各処理ステップは、CPUやDSP22などの演算手段が、ROM(Read Only Memory)やRAMなどの記憶手段に記憶されたプログラムを実行し、キーボードなどの入力手段、ディスプレイなどの出力手段、あるいは、インターフェース回路などの通信手段を制御することにより実現することができる。したがって、これらの手段を有するコンピュータが、上記プログラムを記録した記録媒体を読み取り、当該プログラムを実行するだけで、本実施形態の傾き検出システムの各種機能および各種処理を実現することができる。また、上記プログラムをリムーバブルな記録媒体に記録することにより、任意のコンピュータ上で上記の各種機能および各種処理を実現することができる。
この記録媒体としては、マイクロコンピュータで処理を行うために図示しないメモリ、例えばROMのようなものがプログラムメディアであっても良いし、また、図示していないが外部記憶装置としてプログラム読取り装置が設けられ、そこに記録媒体を挿入することにより読み取り可能なプログラムメディアであっても良い。
また、何れの場合でも、格納されているプログラムは、マイクロプロセッサがアクセスして実行される構成であることが好ましい。さらに、プログラムを読み出し、読み出されたプログラムは、マイクロコンピュータのプログラム記憶エリアにダウンロードされて、そのプログラムが実行される方式であることが好ましい。なお、このダウンロード用のプログラムは予め本体装置に格納されているものとする。
また、上記プログラムメディアとしては、本体と分離可能に構成される記録媒体であり、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フレキシブルディスクやハードディスク等の磁気ディスクやCD/MO/MD/DVD等のディスクのディスク系、ICカード(メモリカードを含む)等のカード系、あるいはマスクROM、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、フラッシュROM等による半導体メモリを含めた固定的にプログラムを担持する記録媒体等がある。
また、インターネットを含む通信ネットワークを接続可能なシステム構成であれば、通信ネットワークからプログラムをダウンロードするように流動的にプログラムを担持する記録媒体であることが好ましい。
さらに、このように通信ネットワークからプログラムをダウンロードする場合には、そのダウンロード用のプログラムは予め本体装置に格納しておくか、あるいは別な記録媒体からインストールされるものであることが好ましい。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。