JP2006105967A - タンパク質の分画方法および電気泳動装置 - Google Patents

タンパク質の分画方法および電気泳動装置 Download PDF

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Abstract

【課題】血清、血漿等をはじめとする2種類以上のタンパク質を含有する溶液から低分子量のタンパク質を高回収率で得る。
【解決手段】3つ以上の電極を具備する電気泳動装置を用いたタンパク質の分画方法であって、各電極に印加する電圧を切り替えることでタンパク質の泳動方向を変えるタンパク質の分画方法により、タンパク質を分画し、低分子量のタンパク質を高回収率で得ることができる。
【選択図】図1

Description

本発明は、3つ以上の電極を具備した電気泳動装置を用いて、2種類以上のタンパク質を含有する溶液を電気泳動してタンパク質を分離し、電極に印加する電圧を切り替えることにより、分離されたタンパク質の一部の泳動方向を変え、タンパク質を分画することを目的としたタンパク質の分画方法に関する。また本発明は、タンパク質の分画方法を効率よく実施するための電気泳動装置に関する。
近年、ポストゲノム研究として、プロテオーム解析研究(プロテオミクス)が注目されている。遺伝子産物であるタンパク質は、疾患の病態に直接リンクしていると考えられることから、タンパク質を網羅的に調べるプロテオーム解析の研究成果は診断と治療に広く応用できると期待されている。しかも、ゲノム解析では発見できなかった病因タンパク質や疾患関連因子を多く発見できる可能性が高いとみられている。
プロテオーム解析が急速に進展したのは、技術的には質量分析装置(mass spectrometer:MS)による高速構造分析が可能となってきたことが大きい。MALDI−TOF−MS(matrix assisted laser desorption ionization time−of−flight mass spectrometry)等の実用化によって、ポリペプチドのハイスルースループット超微量分析が可能となり、従来検出し得なかった微量タンパク質までが同定可能となり、疾患関連因子の探索に強力なツールとなってきている。
プロテオーム解析を臨床へと応用する第一の目的は、疾患によって誘導される、あるいは消失するバイオマーカータンパク質を発見することである。バイオマーカーは病態に関連して挙動するため、診断のマーカーとなり得るほか、創薬ターゲットとなる可能性も高い。すなわち、プロテオーム解析の成果は、特定遺伝子よりも診断マーカーや創薬ターゲットとなる可能性が高いため、ポストゲノム時代の診断と治療の切り札(エビデンス)技術となり、同定されたバイオマーカーは患者の薬剤応答性評価や副作用発現予測といった直接的に患者が享受しうる利益につながることから、いわゆるテーラーメード医療(オーダーメード医療)の推進に大きな役割を果たすといえる。
臨床研究にプロテオーム解析を導入する場合(臨床プロテオミクス)、大量の検体を迅速、確実に解析することが求められており、しかも臨床検体は微量で貴重であることから、高分解能・高感度・高機能測定を迅速に行う必要がある。この大きな推進力となったのは質量分析(mass spectrometry)であり、これは質量分析装置のもつ超高感度でハイスループットであるという特性の貢献するところが大きい。しかしながら、その手法や機器が急速に改良されてきてはいるものの、現在のところプロテオーム解析が臨床現場で簡便かつ迅速に実施できる状況にはないのが実状である。
その原因のひとつに、臨床検体の前処理が必要となることが挙げられる。質量分析にかける前の処理として、臨床検体のタンパク質を分画し精製する必要があるが、この処理には数日かかるのが実態であり、さらには前処理の操作が煩雑かつ経験を要することが、臨床への応用の大きな障害となっている。少量の血液や体液から全身の疾患の診断や病態管理ができるならば、その有用性は極めて大きいものの、血清、血漿中に含まれるタンパク質の多様性のために、多くの課題を抱えているのが現状である。
ヒトタンパク質は10万種以上あるとも推定されているが、血清中に含まれるタンパク質だけでも約1万種類にものぼるといわれ、それらすべてを合わせた血清中濃度は約60〜80mg/mLである。血清中の高含量タンパク質は、アルブミン(分子量66kDa)、免疫グロブリン(150〜190kDa)、トランスフェリン(80kDa)、ハプトグロビン(>85kDa)、リポタンパク質(数100kDa)等であり、いずれも大量(>mg/mL)に存在する。一方、病態のバイオマーカーや病因関連因子と考えられているペプチドホルモン、インターロイキン、サイトカイン等の生理活性タンパク質の多くは、極微量(<ng/mL)しか存在せず。その含有量比は高分子量の高含量成分に比べると、実にナノ〜ピコレベルである。タンパク質の大きさという観点では、タンパク質全種類の70%以下は分子量60kDa以下であり、上記の極微量なバイオマーカータンパク質はいずれもこの領域に含まれる場合がほとんどである(例えば非特許文献1)。これらのタンパク質は、腎臓を通過して尿中に一部排泄されるため、血液のみならず尿を検体として測定することも可能である。
一般的な血清学的検査でプロテオーム解析を行うには、病因関連の微量成分検出の妨害となるアルブミン、IgGといった高含量、高分子量の成分を除外することが必須となる。これらのタンパク質を分離する手段として、現状では高速液体クロマトグラフィー(liquid chromatography:LC)や二次元電気泳動(Two−dimensional polyacrylamide gel electrophoresis:2D PAGE)が用いられているが、これらの作業だけでも1〜2日を要する。この所要時間は、MALDI−TOF−MSやESI−MS(electrospray ionization mass spectrometry)等の数分という分析時間に比べて非常に長く、MSのもつハイスループットという大きな利点が臨床プロテオーム解析では十分発揮できずにいる。このため、医療現場で診断や治療のためにできるだけ短時間に分析結果がほしいという目的には、現時点では実用性に極めて乏しいと言わざるを得ず、日常の臨床検査にMSが利用しにくいひとつの大きな原因になっている。
この点が解決されれば、臨床プロテオーム解析による臨床検査の診断の迅速性は飛躍的に向上すると期待できる。具体的には、LCや2D−PAGEの代替となるような、微量の検体から高速で目的タンパク質群を分画・分離できるデバイスがあればよい。
アルブミンを除去対象物質として、すでに実用化されている製品あるいは開示されている技術としては、ブルー色素などのアフィニティーリガンドを固定化した担体(たとえば、日本ミリポア社:“Montage Albumin Deplete Kit(登録商標)”、日本バイオ・ラッド社:Affi−Gel Blue(登録商標)ゲル)、高分子量成分を遠心分離ろ過によって分画する遠心管形式の濾過濃縮ユニット(たとえば、日本ミリポア社:“アミコンウルトラ(登録商標)”、ザルトリウス社:“ビバスピン”)、電気泳動原理によって分画する方法(たとえば、グラディポア社:“Gradiflow(登録商標)”システム)、Cohnのエタノール沈澱などの伝統的な沈殿法やクロマトグラフィーによって分画する方法(例えば非特許文献2)などがある。また、アルブミンと免疫グロブリンG(IgG)を同時に除去する製品も上市されている(アマシャムバイオサイエンス社:Albumin and IgG Removal kit)。しかしながら、これらはいずれも分離分画性能が不十分であったり、微量サンプルには不適当であったり、サンプルが希釈されてしまったり、固定化抗体の溶出がみられたり、あるいは質量分析等に障害となる薬剤が混入したりするなどの問題点があるのが実状である。
電気泳動によりタンパク質を分取するための製品としては、バイオラッド社の“モデル491プレップセル”、“ミニプレップセル”、アトー(株)の“プレップフォレーシス(登録商標)”等がある。これらの製品は、円筒状のゲルの上部にアプライしたタンパク質をドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミド電気泳動(SDS−PAGE)により分離し、分離されたタンパク質をゲルの下部から回収し分取を行う。これらの製品は、一度にある程度まとまった量のタンパク質を処理できる利点があるものの、電気泳動のゲルを準備するのに時間と手間がかかる上、分取したサンプル中にゲルに含まれる未反応のアクリルアミド等が混入することがあるため、質量分析に供する試料としては適さない。
さらに、チップによる電気泳動で2以上の物質をサイズ分離する技術としては、互いに電荷はほぼ等しいが分子量が異なるような2以上の物質のサイズ分離ができる方法(例えば特許文献1)がある。また、電気泳動流路の下流に分岐流路を設けたチップに関する技術(例えば特許文献2)が開示されている。これは、電気泳動する流路に検出器を設け、その下流に分岐流路を設置することで、分取を行うチップである。さらに、電気泳動流路に多数の柱状体を設けたチップに関する技術(例えば特許文献3)、電気泳動流路に多数の凹部を形成したチップに関する技術(例えば特許文献4)が開示されている。これらの技術は、チップ上に柱状体、凹部を形成することで、大きな分子は早く通過し、小さな分子は柱状体や凹部に引っかかるためゆっくり進むといった、ゲル濾過の原理に近いチップである。しかしながら、これらの技術は現在のところ実用化には至っていない。
アンダーソン・NL(Anderson NL),アンダーソン・NG(Anderson NG)著,「ザ・ヒューマン・プラズマ・プロテオーム:ヒストリー・キャラクター・アンド・ダイアグノスティック・プロスペクツ(The human plasma proteome:history,character,and diagnostic prospects)」,モレキュラー・アンド・セルラー・プロテオミクス(Molecular & Cellular Proteomics),2002年,第1巻,p845−867. 日本生化学会編,「新生化学実験講座(第1巻)タンパク質(1)分離・精製・性質」,東京化学同人,1990年 特開2003−028835(特許請求の範囲) 特開2002−323477(特許請求の範囲) 特開2004−45357(特許請求の範囲) 特開2004−45358(特許請求の範囲)
そこで、本発明者らはかかる従来技術の問題点に鑑み、鋭意検討した結果、少なくとも2種類以上のタンパク質を含有する溶液を分子量の大きさや等電点など物理的性状の違いにより分画するときに、3つ以上の電極を具備する電気泳動装置を用いて電気泳動によりタンパク質を分離し、各電極に印加する電圧を切り替えることにより、分離されたタンパク質の一部の泳動方向を変え、分画点を境界としてタンパク質を2群以上に分画できることを見いだした。また、試料導入部、試料導入流路、分画流路、および分画試料回収部から構成され、試料導入流路と分画流路とが1点あるいは2点で接する電気泳動装置を用いて、試料導入部より導入された2種類以上のタンパク質を含有する溶液を分画流路で電気泳動し、ある時点において分画流路の1点で電圧の印加方向を切り替えることにより、タンパク質を2群以上に分画できることを見いだし、繰り返し電気泳動して分画を行うことによりタンパク質の処理量および処理速度を大幅に増加できることを見いだし、本発明に到達した。すなわち本発明は、少なくとも2種類以上のタンパク質を含有する溶液からタンパク質を2群以上に分画するためのタンパク質の分画方法、ならびに少なくとも2種類以上のタンパク質を含有する溶液からタンパク質を2群以上に分画する電気泳動装置を提供することを目的とする。
本発明は、上記目的を達成するために以下の構成を有する。
「(1)3つ以上の電極を具備する電気泳動装置を用いたタンパク質の分画方法であって、各電極に印加する電圧を切り替えることでタンパク質の泳動方向を変えることを特徴とするタンパク質の分画方法。」
「(2)2種類以上のタンパク質を含有する溶液を電気泳動し、ある時点において各電極に印加する電圧を切り替えることにより、タンパク質の一部の泳動方向を変え、タンパク質を2群以上に分画することを特徴とする(1)に記載のタンパク質の分画方法。」
「(3)タンパク質の泳動方向を反転させる請求項(1)または(2)に記載のタンパク質の分画方法。」
「(4)下記(I)、(II)を繰り返すことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のタンパク質の分画方法。
(I)分画流路に電圧を印加し、タンパク質の電気泳動を行う工程。
(II)各電極に印加する電圧を切り替えて、試料導入流路と分画流路の接続部から分岐点に向かう電位勾配の極性を切り替えることにより、泳動方向を変えて電気泳動を行い、タンパク質を分画する工程。」
「(5)分画点と同等の移動度を示す標識物質を試料中に添加することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のタンパク質の分画方法。」
「(6)3つ以上の電極を具備する電気泳動装置であって、各電極に印加する電圧を切り替えることでタンパク質の泳動方向を変える機構を備える電気泳動装置。」
「(7)試料導入部、試料導入流路、分画流路、および分画試料回収部を具備し、試料導入流路と分画流路とが1点あるいは2点で接しており、電極が分画流路にある(5)または(6)に記載の電気泳動装置。」
「(8)分画流路が複数設置された(5)〜(7)のいずれかに記載の電気泳動装置。」
「(9)下記(I)、(II)を繰り返して用いられる(5)〜(8)に記載の電気泳動装置。
(I)分画流路に電圧を印加し、タンパク質の電気泳動を行う工程。
(II)各電極に印加する電圧を切り替えて、試料導入流路と分画流路の接続部から分岐点に向かう電位勾配の方向を変えることにより、泳動方向を変えて電気泳動を行い、タンパク質を分画する工程。」
「(10)分画点と同等の移動度を示す標識物質を試料中に添加して用いられる(5)〜(9)のいずれかに記載の電気泳動装置。」
「(11)分画流路の全体および/または任意の点におけるタンパク質あるいは標識物質の検出手段が具備された(5)〜(10)のいずれかに記載の電気泳動装置。」
「(12)電気泳動装置がタンパク質分画チップである(5)〜(11)のいずれかに記載の電気泳動装置。」
本発明によると、血清、血漿をはじめとする少なくとも2種類以上のタンパク質を含有する溶液を電気泳動し、流路に設けられた電極に印加する電圧を切り替えることによって、分離されたタンパク質の一部を変えて電気泳動を行い、タンパク質を分画点を境界として分画することができる。また、本発明によると、前述の電極に印加する電圧を切り替える操作を繰り返し行うことで、短時間で効率よく目的の画分を回収することが可能となる。
本発明は、3つ以上の電極を具備する電気泳動装置を用いたタンパク質の分画方法であって、各電極に印加する電圧を切り替えることでタンパク質の泳動方向を変えるタンパク質の分画方法である。
本発明で用いられる電気泳動の手法は、一般的に用いられる原理であれば特に限定されず、例えばドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミド電気泳動(SDS−PAGE)、ネイティブ電気泳動、等電点電気泳動、ミセル動電クロマトグラフィー、ゾーン電気泳動、等速電気泳動等が挙げられる。
本発明でいう“3つ以上の電極を具備する電気泳動装置”とは、分画流路の両側に電極が備えられ、さらにそれらの間に1つ以上の電極が備えられた装置のことを指す。なお、電極は、任意の時間にそれぞれ独立して電位を切り替え可能であることが好ましく、電気泳動装置がこの機能を有することにより、タンパク質の分画を効率よく行うことが可能となる。
本発明でいう“分画”とは、タンパク質の物理的性状の違いによりタンパク質を弁別することを指す。ここでいう物理的性状としては、例えば分子量、等電点などが挙げられる。
本発明でいう“タンパク質の泳動方向を変える”とは、電圧の印加方向を変化させることで、電気泳動で分離されたタンパク質の一部が泳動方向を変える現象を表す。
3つ以上の電極を具備する電気泳動装置を用いてタンパク質の電気泳動を行い、電気泳動装置に設置した分画点で電極の電位を切り替えて電圧の印加方向の一部を変えることで、タンパク質の泳動方向を変え、タンパク質を分画する方法によって、分画点を境界としてタンパク質を高い分離能で分画することができ、目的のタンパク質が含まれる画分を高い精製度で得ることができる効果を有する。
本発明では、好ましくは、2種類以上のタンパク質を含有する溶液を電気泳動し、ある時点において各電極に印加する電圧を切り替えることにより、タンパク質の一部の泳動方向を変え、タンパク質を2群以上に分画する。
2種類以上のタンパク質を含有する溶液を電気泳動し、ある時点において電極の電位をそれぞれ切り替えて電圧の印加方向を切り替えて、分離されたタンパク質の一部の泳動方向を変え、タンパク質を2群以上に分画する方法によって、分画点を境界としてタンパク質を高い分離能で分画することができ、目的のタンパク質が含まれる画分を高い精製度で得ることができる効果を有す。
本発明のタンパク質の分画方法では、好ましくは、タンパク質の泳動方向を反転させる。
本発明でいう“タンパク質の泳動方向を反転させる”とは、電圧の印加方向を切り替えることで、電気泳動で分離されたタンパク質の一部が泳動されたレーンを引き返す現象を表す。すなわち、タンパク質を電気泳動により分離し、分画流路上の分岐点に設置された電極および分画流路の両側に備えた電極に印加する電圧を切り替えることで、分画流路上の分岐点から分画流路の両側に備えた電極へ向かってタンパク質をそれぞれ泳動させることができ、その結果タンパク質を2群に分画することができる。ここで、本発明でいう“分岐点”とは、分画流路上の任意の点から流路を分岐させた接点のことを指す。流路に電極を接続することにより、分岐点および分画流路の両側に備えた電極に印加する電圧をそれぞれ切り替えて、電気泳動で分離したタンパク質を分岐点を境界として分画することが可能となる。
本発明のタンパク質の分画方法では、好ましくは、下記(I)、(II)を繰り返す。
(I)分画流路に電圧を印加し、タンパク質の電気泳動を行う工程。
(II)各電極に印加する電圧を切り替えて、試料導入流路と分画流路の接続部から分岐点に向かう電位勾配の方向を切り替えることにより、泳動方向を変えて電気泳動を行い、タンパク質を分画する工程。
本発明でいう“タンパク質の電気泳動を行う工程”とは、2種類以上のタンパク質を含有する溶液を分画流路で電気泳動し、分子量の大きさ、等電点などの違いにより各タンパク質を分離することを指す。また、“各電極に印加する電圧を切り替えて、試料導入流路と分画流路の接続部から分岐点に向かう電位勾配の極性を切り替えることにより、泳動方向を変えて電気泳動を行い、タンパク質を分画する工程”とは、分画流路において電気泳動的に分離された2種類以上のタンパク質を、分画流路に設置した各電極の電位をそれぞれ変えて電圧の印加方向を切り替えることを指す。この操作により、電極を既に通過したタンパク質群は同一方向に泳動され続けるのに対し、電極の位置に到達しなかったタンパク質群は分画点から方向を変えて泳動され、タンパク質を分画することができる。
本発明でいう“分画点”とは、分画流路で分離されたタンパク質を分画する境界となる点のことを指し、例えばSDS−PAGEの分離モードにおいては境界となる分子量のことを、等電点電気泳動の分離モードにおいては境界となる等電点のことをそれぞれ示す。分画点が分画流路上に設置した分岐点に到達した時点で、分岐点に設置した電極および分画流路の両端に設置した電極の電位をそれぞれ切り替えると、既に電極を通過したタンパク質群は同一方向に泳動され続けるのに対し、通過しなかったタンパク質群は方向を変えて泳動される。ここで、血清タンパク質をSDS−PAGEにより、ヒト血清アルブミン以上の分子量のタンパク質群と、それ以下の分子量のタンパク質群に分画する場合を例にとって説明する。この場合、分画点はアルブミン(分子量約67,000)よりわずかに小さい分子量、すなわち60,000〜65,000程度に設定するとよい。血清タンパク質試料に分画点となる標識物質を加えて、SDS処理を行い、SDS−タンパク質複合体を形成させて各タンパク質に負電荷を帯びさせる。次いで、処理試料を試料導入部にのせ、試料導入流路へと導く。試料が試料導入流路と分画流路の接続部に到達してから、分画流路の両端に備えた電極に電圧を印加し、分画流路においてSDS−PAGEを行い、タンパク質を分子量の大きさで分離する。分画点が分岐点に設けた電極を通過した時点で、分岐点に設けた電極および分画流路の両側に備えた電極の電位をそれぞれ切り替えるとともに、分岐点に設けた電極の電位を分画流路の両側に備えた電極より低値に設定する。すると、分画流路上に設けられた電極を通過した低分子量のタンパク質群は同一方向に泳動され続けるのに対し、アルブミンを含む通過しなかったタンパク質群は泳動された方向を引き返す。この方法により、低分子量のタンパク質群とアルブミンを含む高分子量のタンパク質群とに分画することができる。また、タンパク質に正電荷を帯電させて電気泳動を行い、前述の電圧印加の極性を逆転させることで、同等の分画現象が得られることは言うまでもない。
(I)分画流路に電圧を印加し、タンパク質の電気泳動を行う工程と、(II)各電極に印加する電圧を切り替えて試料導入流路と分画流路の接続部から分岐点に向かう電位勾配の方向を切り替えることにより、分離されたタンパク質の一部の泳動方向を変えてタンパク質を分画する工程を繰り返すことにより、目的のタンパク質が含まれる画分を高い精製度で得られる効果を有し、さらにタンパク質の分画処理速度および処理量が格段に向上できる効果を有する。
本発明のタンパク質の分画方法では、好ましくは、分画点と同等の移動度を示す標識物質を試料中に添加する。
本発明でいう“分画点と同等の移動度を示す標識物質”とは、指標とする分子量、等電点などが分画点と同等であり、蛍光標識、放射標識等の標識が施されている物質のことを指す。ここで用いられる物質としては、タンパク質や合成高分子化合物が挙げられるが、プロテオーム解析の前処理として用いる場合には合成高分子化合物を用いることが好ましい。また、蛍光標識物質としては一般的に蛍光標識に用いられるものでよく、例えばフルオレセインイソチオシアネート、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、SYPRO(登録商標)Orange(Molecular Probe社)、SYPRO(登録商標)Red(Molecular Probe社)、SYPRO(登録商標)Ruby(Molecular Probe社)、SYPRO(登録商標)Tangerine(Molecular Probe社)、NanoOrange(登録商標)(Molecular Probe社)、Alexa Fluor(登録商標)(Molecular Probe社)、ATTO−TAG(トレードマーク)FQ(Molecular Probe社)、Cy2、Cy3、Cy5(いずれもMolecular Probe社)等の蛍光試薬が好適に用いられる。また、放射標識物質としては、H、14C、31P、125I等の放射性同位体を含む化合物が好ましく用いられる。これらの標識を施す場合、標識物質と標識が施される物質を合わせた分子量が、分画点の分子量となるよう調製する必要がある。
電気泳動で分画するときに分画点と同等の移動度を示す標識物質を試料に添加することにより、分画点の検出が容易になる効果を有し、さらに確実にタンパク質溶液を分画点を境界として2群に分画できる効果を有する。
本発明の電気泳動装置は、3つ以上の電極を具備し、各電極に印加する電圧を切り替えることでタンパク質の泳動方向を変える機構を備える。本発明の電気泳動装置は、好ましくは、3つ以上の電極を具備し、各電極に印加する電圧を切り替えることでタンパク質の泳動方向を反転させる機構を備える。
2種以上のタンパク質を分画する際に、電極に印加する電圧を切り替えることにより、分離されたタンパク質の一部の泳動方向を変え、好ましくは、反転させ、分画点を境界としてタンパク質を高い分離能で分画できる効果を有する。
本発明の電気泳動装置は、好ましくは、試料導入部、試料導入流路、分画流路、および分画試料回収部を具備し、試料導入流路と分画流路とが1点あるいは2点で接しており、電極が分画流路にある。
試料導入部、試料導入流路、分画流路、および分画試料回収部を具備し、試料導入流路と分画流路とが1点あるいは2点で接しており、電極が分画流路にあることにより、タンパク質を短時間で効率よく、分画点を境界として高い分離能で分画できる効果を有する。
本発明の電気泳動装置は、好ましくは、分画流路が複数設置される。
分画流路を複数設置することより、同時に分画できる試料量を格段に増加させることが可能となり、分画処理速度および分画処理量を格段に向上できる効果を有する。
本発明の電気泳動装置は、好ましくは、下記(I)、(II)を繰り返して用いられる。
(I)分画流路に電圧を印加し、タンパク質の電気泳動を行う工程。
(II)各電極に印加する電圧を切り替えて、試料導入流路と分画流路の接続部から分岐点に向かう電位勾配の方向を切り替えることにより、泳動方向を変えて電気泳動を行い、タンパク質を分画する工程。
本発明の電気泳動装置で、(I)分画流路で電気泳動を行う工程と、(II)各電極に印加する電圧を切り替えて試料導入流路と分画流路の接続部から分岐点に向かう電位勾配の極性を切り替えることにより、分離されたタンパク質の一部の泳動方向を変えて電気泳動を行い、タンパク質を分画する工程を繰り返して用いることにより、タンパク質の分画処理速度および分画処理量を格段に向上できる効果を有する。
本発明の電気泳動装置は、好ましくは、分画点と同等の移動度を示す標識物質を試料中に添加して用いられる。
本発明の電気泳動装置でタンパク質を電気泳動により分画する際に、分画点と同等の移動度を示す標識物質を試料中に添加して用いることにより、分画点を検出することが可能になり、タンパク質を分画点を境界として確実に分画できる効果を有する。
本発明の電気泳動装置は、好ましくは、分画流路の全体および/または任意の点におけるタンパク質あるいは標識物質の検出手段が具備される。
分画流路の全体および/または任意の点におけるタンパク質あるいは標識物質の検出手段が具備されることにより、分画点を検出することが容易になり、タンパク質を分画点を境界として確実に分画できる。
本発明の電気泳動装置は、好ましくは、電気泳動装置がタンパク質分画チップである。
これにより、少量のタンパク質溶液を高速で効率よく高い分離能で分画点を境界として分画できる効果を有する。
電気泳動装置に設けられた試料導入部にタンパク質溶液を入れ、電圧を印加することでタンパク質溶液が試料導入流路へと導かれる。タンパク質溶液が分画流路との接続部に到達した後、分画流路に電圧を印加することで、試料導入流路と分画流路の接続部にあったタンパク質が泳動され、移動度の差によりタンパク質が分離される。タンパク質が泳動される様子を分画流路に設置した紫外吸光、可視吸光、示差屈折、蛍光、発光、放射線等で検出できる装置でモニターし、目的のタンパク質が含まれる群とそれ以外の群が分離されたことを確認してから、分岐点の電極および分画流路の両側に備えた電極の電位をそれぞれ切り替え、片側の群のタンパク質の泳動方向を変えることにより、タンパク質を分画することができる。
試料に分画点を示す標識物質を添加せずに分画する方法として、前もって数種類の分子量、等電点など物理的性状の異なるタンパク質標準物質を用いて、各標準タンパク質が分画流路の電極まで到達する時間を求めておき、検量線を作成した上で電極を切り替えるタイミングを決定することもできる。この場合、電気泳動装置でタンパク質の電気泳動を開始し、検量線から求めた時間において分画流路に備えられた電極の電位をそれぞれ変え、電圧の印加方向を切り替えることで、分離されたタンパク質の一部の泳動方向を変え、タンパク質を分画することができる。
本発明における電気泳動装置の好ましい態様がタンパク質分画チップである。タンパク質分画チップとは、2種類以上のタンパク質を含有する溶液をチップの流路で電気泳動を行って分離し、分離されたタンパク質を2群以上に分画するためのものを指す。分画した各タンパク質群は、ともにチップ上に設けられた分画試料回収部に回収してもよいし、必要なタンパク質群のみを回収してもよい。チップ上には、試料導入部および試料導入流路、分画流路、分画試料回収部が設置され、各流路の末端に電極が設置される。ここで、本発明における試料導入部とは、分画する2種類以上のタンパク質を含有する溶液を導入する部分のことを指し、試料導入流路とは、試料導入部に導入された2種類以上のタンパク質を含有する溶液を分画流路との接続部へ導く流路のことを指す。また、分画流路とは、試料導入流路との接続部に存在する2種類以上のタンパク質を含有する溶液を電気泳動により分画する流路のことを指し、分画試料回収部とは、分画流路により分画されたタンパク質群をそれぞれ回収する部分のことを指す。試料導入流路と分画流路とが1点あるいは2点で接続することにより、接続部分に存在する2種類以上のタンパク質を含有する溶液が分画流路で電気泳動され、分離される。また、分画流路上の任意の点に微細流路を形成し、微細流路に電極を備えることで分画流路に分岐点を形成することができる。分岐点の数は特に限定されない。
本発明における電気泳動装置の好ましい態様であるタンパク質分画チップに用いられる基板の材質は特に限定されないが、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリメチルペンテン(PMPまたはTPX(登録商標))、ポリスチレン(PSt)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ABS樹脂、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、シリコン等の樹脂、それらの高分子化合物を含む共重合体あるいは複合体、石英ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、ソーダガラス、ホウ酸ガラス、ケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス等のガラス類およびその複合体、表面を絶縁材料で被覆した金属およびその複合体、セラミックスおよびその複合体等が好ましく用いられる。分画したタンパク質をチップ上で蛍光や吸光、発光等の光学的手段により解析するとき、基板の透明度の高さや自家蛍光の低さ等が重要なポイントとなる場合があることから、基板にはPMMA、PC、PMP、PDMS、石英ガラスが特に好ましく用いられる。また、血清、血漿等の生体由来材料を分画する場合、チップは使い捨てになることから、安価に大量生産可能な樹脂製の基板が好ましく、したがってPMMA、PC、PMP等が好ましく使用される。
本発明でいう電気泳動装置の製造方法は特に限定されず、電極、電圧源(電圧発生手段)、電圧制御手段、試料検出手段からなる装置と、タンパク質を電気泳動する場となる分離剤から構成されていればよい。
また、本発明の電気泳動装置の好ましい態様であるタンパク質分画チップの製造方法は特に限定されず、ガラス類を使用する場合はフォトファブリケーション技術により流路が形成される。ここでフォトファブリケーション技術とは、フォトマスクのパターンを転写して複製を作成する技術のことをいう。一般的には、フォトレジストと呼ばれる感光性材料をメタルマスクを介して基板表面に塗布した後、光でパターンを転写し、転写した平面的パターンからエッチングなどにより立体的な形に加工する。エッチングの方法は、ウェットエッチングが好ましい。このとき用いられるエッチャントは特に限定されないが、フッ酸系の溶液が一般的に使用される。また、樹脂を使用する場合は、金型を用いた一般的な成形方法が好適に利用され、例えば射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形が挙げられる。また、ホットプレスにより樹脂平板に金型のパターンを形成する方法も好適に用いられる。
本発明におけるタンパク質分画チップに設ける分画流路の数は特に限定されないが、1〜100本が好ましく、1〜25本がより好ましい。複数の分画流路を設けることで、多量の試料を一度に分画することが可能となり、短時間で処理できるため好ましい。しかしながら、分画流路が多くなればなるほど、電極の本数が増えることになるため、システムが複雑になる上、チップ自体を非常に大きくせざるを得なくなるため好ましくない場合がある。さらに、泳動中はジュール熱が発生するため、分画流路の密度が高いと過熱する恐れがあることから、分画流路が多すぎるのは好ましくない場合がある。なお、本発明における電気泳動装置、および、その好ましい態様であるタンパク質分画チップは、試料を繰り返し分画できることから、分画流路が1本であっても十分量の処理が可能である。 本発明におけるタンパク質分画チップの試料導入部にタンパク質溶液を入れ、電圧を印加して試料導入流路に流したとき、および試料導入流路と分画流路の接続部からタンパク質溶液を電気泳動したときに、流路の表面にタンパク質が吸着してしまい、結果的に回収できるタンパク質の量が少なくなってしまうという問題が起こることがある。したがって、流路表面はタンパク質の吸着を防止する処理が施されていることが好ましい。
本発明における電気泳動装置を用いたタンパク質の分画方法について、免疫グロブリンG(分子量:150,000)、ヒト血清アルブミン(分子量:67,000)、β2−ミクログロブリン(分子量:11,500)の3種類のタンパク質混合溶液を分画し、β2−ミクログロブリンのみを回収する場合を例にとって詳しく説明する。
はじめに、試料導入部にドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を添加し負電荷を帯電させたタンパク質の混合溶液を導入し、物理的に送液する、あるいは電極に電圧を印加することで試料を試料導入流路に送り出す。試料が分画流路との接続部に到達した後、分画流路の両側に備えた電極に電圧を印加して、分画流路で電気泳動を行う。すると、接続部にあったタンパク質溶液が分画流路で泳動される。電気泳動において、分子量の小さいタンパク質の移動度は大きく、分子量の大きいタンパク質の移動度は小さいことから、移動度の大きさは、β2−ミクログロブリン>ヒト血清アルブミン>免疫グロブリンGの順になる。この現象を利用して、上記3種類のタンパク質混合溶液を電気泳動し、移動度が最も大きいβ2−ミクログロブリンが分岐点に設置した電極の位置を通過した後、ヒト血清アルブミンが到達する前に、分岐点に設置した電極から分画流路の両側の電極へ向かってタンパク質が泳動される方向に、分岐点および分画流路の両側に備えた電極の電位を切り替える。すると、分岐点に設置した電極を通過したβ2−ミクログロブリンは再び同じ方向に泳動されるのに対し、分岐点に到達しなかったヒト血清アルブミン、免疫グロブリンGは方向を変えて泳動される。この操作により、タンパク質混合溶液からβ2−ミクログロブリンのみを回収することができる。
以下、実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
ポリメタクリル酸メチル(PMMA)製の平板(荷重たわみ温度92℃)を79×23×1mmの大きさに加工した。図1〜4のパターンを形成するための金型(ニッケル製)を105℃に加熱し、ホットプレス機によりプレス圧2kNで2分間プレスし、機械加工により各流路端点に通過孔を開け、もう一枚のPMMA平板と溝形成面を張り合わせてタンパク質分画チップを得た。さらに、流路内表面にタンパク質吸着抑制処理を施し、十分水洗しておいた。
実施例2
実施例1で作製したタンパク質分画チップ(図1)の試料導入流路2、分画流路3に5%ポリアクリルアミド/トリス−塩酸緩衝液(pH8)ポリマー溶液を充填した。試料導入流路用電極リザーバー8、分画流路電極用リザーバー4および5、電極切り替え用リザーバー7に、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)および3%2−メルカプトエタノールを含む0.05M Tris−塩酸緩衝液(pH8.0)を充填した。試料導入部1に、Alexa Fluor 633 reactive dye(Molecular Probes社)で蛍光標識したウシ血清アルブミン(BSA)(分子量67,000)およびα−ラクトアルブミン(分子量14,400)(濃度はそれぞれ20μg/mL、100μg/mL)、1%SDS、10倍希釈ヒト血清を含むトリス−塩酸緩衝液(pH8)溶液をアプライした。各電極用リザーバーに電極をセットし、パワーサプライにLab Smith社のHVS448を用いて以下の操作を行った。試料導入部側の試料導入流路導入電極用リザーバー1の電位を0V、もう一端の試料導入流路リザーバー8の電位を175Vとして、試料導入流路にタンパク質溶液を送液した(1)。1分後、1および8の電位をともに120Vにするとともに、分画流路電極用リザーバー4の電位を0V、もう一端の分画流路電極用リザーバー5の電位を300Vとし、電気泳動を行った(2)。電気泳動の様子は、蛍光顕微鏡(オリンパス(株)IX71)に冷却CCDカメラ(日本ローパー社 CoolSNAP HQ)を取り付けてモニターし、動画観察ソフト(日本ローパー社 RS Image PRO)を用いて解析した。10秒後、Alexa Fluor 633 reactive dyeで蛍光標識したBSAが分岐点9を通過する直前に、電極切り替え用リザーバー7の電位を0、分画流路電極用リザーバー5の電位、分画流路電極用リザーバー4、試料導入流路リザーバー1および8の電位をそれぞれ120Vに切り替え、泳動を続けた(3)。このとき、蛍光標識されたBSAは、レーンを引き返して泳動された。(1)〜(3)の泳動を10回行った後、分画試料回収部5に回収された溶液のα−ラクトアルブミンおよびBSAの量を酵素免疫分析法(ELISA)で定量し、各タンパク質の回収率を算定した。なお、ここでいう回収率とは、実際に電気泳動されたタンパク質溶液、すなわち試料導入流路2と分画流路3の十字交差部の体積と試料初期濃度の積として計算される値を基準として、分画処理後に分画試料回収部に回収された溶液中に、各タンパク質がどの程度回収されたかを百分率で表したものである。その結果、α−ラクトアルブミンの回収率は99.8%であったのに対し、BSAの回収率は0%(検出限界以下)であった。したがって、BSAを完全に除去し、α−ラクトアルブミンを高収率で回収することができた。
比較例1
実施例2で用いたBSAおよびα−ラクトアルブミンのタンパク質混合溶液(濃度はそれぞれ2.07μg/mL、0.85μg/mL)を分画分子量30,000の遠心式濃縮器(ザルトリウス社製ビバスピン)にアプライし、3,000×gで60分間遠心した。ELISAで濾液中の各タンパク質の濃度を測定し、回収率を計算した結果、BSA:30%、α−ラクトアルブミン:80%であり、濾液に除去対象であるBSAが混入していた。
実施例3
図2のタンパク質分画チップを用いて、タンパク質混合溶液の分画操作を行った。図2のタンパク質分画チップは、図1のパターン4つが、分画試料回収部5を共有するように設計されたデバイスである。ここで、並列する複数のリザーバーに印加する電圧は、自作した電極ホルダー直近で互いに配線をショートさせ、同じ電圧が印加されるようにした。実施例2と同様の条件で、BSAとα−ラクトアルブミンのタンパク質混合溶液を分画し、分画試料回収部5に回収された溶液中のα−ラクトアルブミンおよびBSAをELISAで定量し、電気泳動した各タンパク質に対する回収率を算定した。その結果、α−ラクトアルブミンの回収率が98.5%であったのに対し、BSAの回収率は0%(検出限界以下)であった。なお、α−ラクトアルブミンの総回収量は、実施例2の約4倍であった。したがって、BSAを完全に除去し、α−ラクトアルブミンを高収率で回収することができ、さらに分画流路3を複数設けることに応じた回収量の増加が見られた。
実施例4
図3のタンパク質分画チップを用いて、タンパク質混合溶液の分画操作を行った。図3のタンパク質分画チップは、試料導入部1を集約させたことにより、リザーバー1にアプライする試料量を図2の4分の1に減らすことができるように設計されたデバイスである。実施例2と同様の条件で、BSAとα−ラクトアルブミンのタンパク質混合溶液を分画し、分画試料回収部5に回収された溶液中のα−ラクトアルブミンおよびBSAをELISAで定量し、電気泳動した各タンパク質に対する回収率を算定した。その結果、α−ラクトアルブミンの回収率が98.4%であったのに対し、BSAの回収率は0%(検出限界以下)であった。したがって、BSAを完全に除去し、α−ラクトアルブミンを高収率かつ高収量で回収することができた。さらに、試料導入部1を集約することで、分画流路3を複数設けることに応じて試料導入部1にアプライする試料量が増加することを抑制できた。
実施例5
図4のタンパク質分画チップを用いて、タンパク質混合溶液の分画操作を行った。図4のタンパク質分画チップは、試料導入流路2に送り込まれたタンパク質溶液をほぼ全量電気泳動できることから、図1〜3のタンパク質分画チップと比較して試料のロスを大幅に減らすことができる。実施例2と同様の条件で、BSAとα−ラクトアルブミンのタンパク質混合溶液を分画し、分画試料回収部5に回収された溶液中のα−ラクトアルブミンおよびBSAをELISAで定量し、電気泳動した各タンパク質に対する回収率を算定した。その結果、α−ラクトアルブミンの回収率は58.7%、BSAは0%(検出限界以下)であった。しかしながら、試料導入流路2に送り込まれたタンパク質溶液をほぼ全量電気泳動して分画できたことから、α−ラクトアルブミンの総回収量は実施例2の約190倍と非常に高かった。したがって、α−ラクトアルブミンとBSAのタンパク質混合溶液から、BSAを完全に除去し、α−ラクトアルブミンを高収量で回収することができた。
本発明における電気泳動装置を用いたタンパク質の分画方法、あるいは、その好ましい態様であるタンパク質分画チップを用いたタンパク質の分画方法では、上述の通り2種以上のタンパク質を含有する溶液から目的のタンパク質を含む群を短時間で効率よく回収することができる。
したがって、本発明の電気泳動装置を用いたタンパク質の分画方法、あるいは、その好ましい態様であるタンパク質分画チップを用いたタンパク質の分画方法により、例えば患者および健常者の血清、血漿中に含まれる低分子量タンパク質を選択的に回収し、それらを質量分析や二次元電気泳動等で解析することにより、患者の血清、血漿に含まれるタンパク質の発現量を健常者と比較し、疾患特異的に発現する、あるいは消失するタンパク質を同定することが可能となる。したがって、本発明の電気泳動装置を用いたタンパク質の分画方法は、疾患関連タンパク質の同定や新規創薬ターゲットの創出において非常に有用である。
本発明における電気泳動装置の好ましい態様であるタンパク質分画チップの例を上方から見た平面図を表す。 本発明における電気泳動装置の好ましい態様である分画試料回収部を共有する複数分画流路タンパク質分画チップの例を上方から見た平面図を表す。 本発明における電気泳動装置の好ましい態様である試料導入部と分画試料回収部を共有する複数分画流路タンパク質分画チップの例を上方から見た平面図を表す。 本発明における電気泳動装置の好ましい態様である試料導入効率を高めたタンパク質分画チップの例を上方から見た平面図を表す。
符号の説明
1.試料導入流路電極用リザーバー兼試料導入部
2.試料導入流路
3.分画流路
4.分画流路電極用リザーバー
5.分画流路電極用リザーバー兼分画試料回収部
6.分画試料回収部
7.電極切り替え用リザーバー
8.試料導入流路用電極リザーバー
9.分岐点
10.分離時電圧印加用流路

Claims (12)

  1. 3つ以上の電極を具備する電気泳動装置を用いたタンパク質の分画方法であって、各電極に印加する電圧を切り替えることでタンパク質の泳動方向を変えるタンパク質の分画方法。
  2. 2種類以上のタンパク質を含有する溶液を電気泳動し、ある時点において各電極に印加する電圧を切り替えることにより、タンパク質の一部の泳動方向を変え、タンパク質を2群以上に分画することを特徴とする請求項1に記載のタンパク質の分画方法。
  3. タンパク質の泳動方向を反転させる請求項1または2に記載のタンパク質の分画方法。
  4. 下記(I)、(II)を繰り返す請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質の分画方法。
    (I)分画流路に電圧を印加し、タンパク質の電気泳動を行う工程。
    (II)各電極に印加する電圧を切り替えて、試料導入流路と分画流路の接続部から分岐点に向かう電位勾配の方向を切り替えることにより、泳動方向を変えて電気泳動を行い、タンパク質を分画する工程。
  5. 分画点と同等の移動度を示す標識物質を試料中に添加する請求項1〜4のいずれかに記載のタンパク質の分画方法。
  6. 3つ以上の電極を具備する電気泳動装置であって、各電極に印加する電圧を切り替えることでタンパク質の泳動方向を変える機構を備える電気泳動装置。
  7. 試料導入部、試料導入流路、分画流路、および分画試料回収部を具備し、試料導入流路と分画流路とが1点あるいは2点で接しており、電極が分画流路にある請求項6に記載の電気泳動装置。
  8. 分画流路が複数設置された請求項5〜7のいずれかに記載の電気泳動装置。
  9. 下記(I)、(II)を繰り返して用いられる請求項5〜8のいずれかに記載の電気泳動装置。
    (I)分画流路に電圧を印加し、タンパク質の電気泳動を行う工程。
    (II)各電極に印加する電圧を切り替えて、試料導入流路と分画流路の接続部から分岐点に向かう電位勾配の方向を切り替えることにより、泳動方向を変えて電気泳動を行い、タンパク質を分画する工程。
  10. 分画点と同等の移動度を示す標識物質を試料中に添加して用いられる請求項5〜9のいずれかに記載の電気泳動装置。
  11. 分画流路の全体および/または任意の点におけるタンパク質あるいは標識物質の検出手段が具備された請求項5〜10のいずれかに記載の電気泳動装置。
  12. 電気泳動装置がタンパク質分画チップである請求項5〜11のいずれかに記載の電気泳動装置。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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CN110092812A (zh) * 2019-05-20 2019-08-06 高咏梅 一种腹水蛋白电泳分离回吸收装置

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