JP2006101767A - キナーゼ活性検出法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 キナーゼをペプチドに作用させるステップ、導入されたリン酸基をβ脱離させるステップ、前記リン酸基がβ脱離して生成した二重結合部分に、マイケル付加反応によって標識物質を導入するステップ、及び導入された標識物質を検出するステップを含んでなるキナーゼ活性検出法が提供される。
【選択図】 図1
Description
キナーゼ活性の検出法は多数報告されているが、原理的に2種類に分類できる。放射性同位元素(RI)でラベルされたATP([γ-32P]ATP)を用いる方法と、リン酸化アミノ酸を認識する抗体を用いる方法である。前者は、キナーゼによる基質蛋白質/ペプチドのリン酸化反応後、基質に取り込まれた32Pの放射能を測定してキナーゼ活性を定量化する。この方法は、広範に用いられているが、RIを用いるため危険性が高い上に、相応の施設を必要とするという問題点がある。後者は、リン酸化されたペプチドを抗体で認識する方法である。この方法は、安全かつハイスループットスクリーニング(HTS)に応用可能であるが、“リン酸化された”アミノ酸を“特異的”に認識する抗体を作成する必要があり、汎用性、コスト面に問題があると考えられる。
最近、細胞内でリン酸化される蛋白質を一斉検出する目的で、リン酸基の反応性に着目した手法が報告された。細胞抽出物に化学的処理を施して、リン酸化蛋白質を化学変換、分離後、質量分析法でリン酸化部位を推測するというものである(非特許文献1及び2)。この方法の有用性を現時点で判断することは出来ないが、リン酸化以外の多様な翻訳後修飾を含む、多種類の蛋白質を対象としているため、結果の解釈に注意を要すると思われる。また浜地らは近年、シンプルな亜鉛錯体がリン酸基を認識し、蛍光性に変化することを見出している(非特許文献3)。だが、その蛍光プローブは、キナーゼの基質の1つであるATPにも強く応答したり、リン酸化されるペプチドの配列により感度が大きく異なる等、実用化に向けて解決すべき問題点がいくつかある。これらは、リン酸基の化学的性質に着目した数少ない例であるが、いずれもキナーゼ活性の検出を目標としたものではない。
ごく最近、Molecular Probe社より、“Pro-Q Diamond”なるリン酸化アミノ酸検出蛍光試薬が発売された(非特許文献4)。文献等を参照する限り、非常に優れたプローブと考えられるが、その構造、検出原理等は、一切秘匿されているため、その有用性の正確な評価は現時点では難しい。
以下の各ステップを含んでなるキナーゼ活性検出法:
キナーゼをペプチドに作用させるステップ;
導入されたリン酸基をβ脱離させるステップ;
前記リン酸基がβ脱離して生成した二重結合部分に、マイケル付加反応によって標識物質を導入するステップ;及び
導入された標識物質を検出するステップ。
本発明の一態様では、前記キナーゼが、セリン−スレオニンキナーゼであることを特徴とする。
また、本発明の一態様では、前記標識物質が蛍光性物質であることを特徴とする。
更に、本発明の一態様では、前記標識物質がSH基等の求核性官能基を有することを特徴とする。
更に、本発明の一態様では、前記ペプチドが不溶性支持体に固定されていることを特徴とする。
1.蛍光性化合物の合成
用いた試薬の多くはTCI、WAKO、nacalaiから市販さられているものを、DIPEAについてはWatanabe Chemから市販されているものを使用し、特に精製を行うことなく使用した。反応や再結晶には蒸留した溶媒を用いた。
1H NMR (DMSO-d6): d 4.96 (s, 2H); 6.43 (s, 1H); 6.76 (d, 1H, J = 2.3 Hz); 6.84 (dd, 1H, J = 2.3, 8.8 Hz); 7.68 (d, 1H, J = 8.8 Hz).
MS FAB (NBA): 211 (M + 1)
1H NMR (DMSO-d6): d 2.40 (s, 3H); 4.26 (s, 2H); 6.24 (s, 1H); 6.74 (d, 1H, J = 2.4 Hz); 6.81 (dd, 1H, J = 2.4, 8.8 Hz); 7.60 (d, 1H, J = 8.8 Hz); 10.64 (s, 1H).
MS FAB (NBA): 251 (M + 1)
一部CH3CNで再結晶
Anal. Calcd for C12H10O4S: C, 57.59; H, 4.03; N, 0.00. Found: C, 57.78; H, 4.09; N, 0.00.
1H NMR (DMSO-d6): d 3.19 (t, 1H, J = 7.9 Hz); 3.87 (d, 2H, J = 7.9 Hz); 6.28 (s, 1H); 6.73 (d, 1H, J = 2.2 Hz); 6.81 (dd, 1H, J = 2.2, 8.7 Hz); 7.71 (d, 1H, J = 8.7 Hz); 10.60 (s, 1H).
MS FAB (M + 1): 209 (M + 1)
一部EtOAcで再結晶
Anal. Calcd for C10H8O3S: C, 57.68; H, 3.87; N, 0.00. Found: C, 57.43; H, 3.99; N, 0.00.
1H NMR (DMSO-d6): d 10.10 (s, 1H); 9.43 (s, 1H); 7.45-7.40 (m, 2H); 7.28-7.20 (m, 3H); 7.10-7.04 (m, 2H); 6.91 (d, 1H, J = 4.23 Hz); 6.44 (d, 1H, J = 4.23 Hz)
MS FAB (NBA): 230 (M + 1)
1H NMR (DMSO-d6): d 4.99 (s, 2H); 6.55 (s, 1H); 7.25-7.30 (m, 3H); 7.42-7.49 (m, 3H); 7.61 (d, 1H, J = 2.0 Hz); 7.81 (d, 1H, J = 8.8 Hz); 10.80 (s, 1H).
MS FAB (NBA): 330 (M + 1)
Anal. Calcd for C17H12ClNO4: C, 61.92; H, 3.67; N, 4.25. Found: C, 61.67; H, 3.75; N, 4.38.
1H NMR (DMSO-d6): d 2.39 (s, 3H); 4.29 (s, 2H); 6.35 (s, 1H); 7.25-7.30 (m, 3H); 7.42-7.46 (m, 3H); 7.59 (d, 1H, J = 2.0 Hz); 7.68 (d, 1H, J = 8.8 Hz); 10.77 (s, 1H).
MS FAB (NBA): 370 (M + 1)
一部CH3CNで再結晶
Anal. Calcd for C19H15NO5S: C, 61.78; H, 4.09; N, 3.79. Found: C, 61.55; H, 4.05; N, 4.03.
1H NMR (DMSO-d6): d 3.11 (t, 1H, J = 8.2 Hz); 3.79 (d, 2H, J = 8.2 Hz); 6.05 (s, 1H); 6.17 (bs, 2H); 6.42 (d, 1H, J = 2.0 Hz); 6.56 (dd, 1H, J = 2.0, 8.7 Hz); 7.50 (d, 1H, J = 8.7 Hz).
MS FAB (NBA): 208 (M + 1)
1H NMR (DMSO-d6): d 2.07 (s, 3H); 2.61 (t, 2H, J = 7.0 Hz); 2.76 (t, 2H, J = 7.0 Hz); 3.89 (s, 2H); 6.25 (s, 1H); 6.72 (d, 1H, J = 2.3 Hz); 6.80 (dd, 1H, J = 2.3, 8.8 Hz); 7.68 (d, 1H, J = 8.8 Hz); 10.58 (s, 1H)
MS FAB (NBA): 279 (M + 1)
1H NMR (DMSO-d6): d 3.11 (t, 1H, J = 8.2 Hz); 3.79 (d, 2H, J = 8.2 Hz); 6.05 (s, 1H); 6.17 (bs, 2H); 6.42 (d, 1H, J = 2.0 Hz); 6.56 (dd, 1H, J = 2.0, 8.7 Hz); 7.50 (d, 1H, J = 8.7 Hz).
MS FAB (NBA): 278 (M + 1)
合成した化合物群の蛍光は、日立F4500蛍光度計を用いて測定した。各化合物の5 mM DMSO溶液を調製し、glycine/NaOH緩衝液(pH 9.4)或いはナトリウムリン酸バッファー(pH 2-12)に希釈して測定に供した。励起波長は、360 nm、蛍光波長は465 nmで、室温下測定した。
実験に用いたペプチドは一般的なFmocペプチド固相合成法に従い、以下のスキームのように合成した。Fmocアミノ酸のカップリングが完全に進行したか否かをカイザーテストで確認し、不完全な場合はカップリング時間の延長、或いは試薬の再添加を行った。
C末端をアミド化してビーズから切り離したペプチド調製用レジン;
TentaGel S RAM (0.3 mmol/g); Advanced ChemTech
ビーズ上固定化ペプチド合成に用いたレジン
TentaGel S NH2 (0.3 mmol/g); Advanced ChemTech
Amino PEGA Resin (PEGA800; 0.4 mmol/g); Novabiochem
PL-PEGA Resin (PEGA1900; 0.2 mmol/g, 300-500 mm, 30-50 mesh); Polymer Laboratories
固相合成したAc-LRRASLG-NH2、Ac-LRRApSLG-NH2を用いて条件検討を行った。加える塩基の種類、濃度あるいは緩衝液によりpHを制御する等、塩基条件を変化させ、酢酸で反応を終了させた後にHPLCで分析した。HPLCの分析条件は以下の通りである。
使用カラム; Inertsil ODS-3
展開溶媒1; 0.1 % TFA水溶液 展開溶媒2; 0.1 % TFAアセトニトリル溶液
グラジエント; 展開溶媒1/展開溶媒2 [90 / 10→65 / 35 (25 min)]
流速; 1mL/min
5−1.酵素反応
1.5 mLエッペンドルフチューブにAc-LRRASLGペプチドを固相合成したビーズをとり、水(10 min×3)、キナーゼ反応緩衝液(KB; pH 6.8, 30 mM MES, 10 or 15 mM MgCl2, 0.4 mg/mL BSA)(10 min×3)で洗浄後、KB中、室温で12 hプレインキュベーションした。KB (10 min×2)で洗浄後、ATP及びPKAの最終濃度が、それぞれ200 or 300 μM、30, 50 or 70 units/mLとなるように調製し、室温(25 ℃)で10 hシェーカー上で振盪した。阻害剤を添加する場合、所定の濃度の阻害剤を反応液に添加し、同様に室温で10 h振盪した。反応終了後、洗浄用緩衝液(WB; 50 mM pH 7.2 PBS, 0.68 M NaCl, 13 mM KCl, 0.05 % Tween20)でビーズを洗浄(10 min×2、1 h×2、5 min×2)した後、さらに水で洗浄(10 min×2、1 h×2、5 min×2)した。
洗浄後のビーズをH2O/DMSO/EtOH = 4/3/1溶液中NaOH 濃度0.1 Mで室温(25℃)、1 hシェーカー上で振盪した。反応溶液を除去後、氷冷した10 % AcOH/H2Oを加えて反応を終了した。その後、水で洗浄(1 min×5)した。
β脱離反応後、洗浄したビーズにH2O/DMSO/EtOH = 4/3/1溶液中NaOH を濃度25 mM、化合物1を濃度0.5〜3.0 mMとなるように加え、室温(25℃)、1 hシェーカー上で振盪した。反応溶液を除去し、氷冷した10 % AcOH/DMFを加えて反応を終了した。その後、ビーズをDMF(10 min×2、2 h×1、10 min×2)、methanol (5 min×1、1 h×1、5 min×1)、H2O (10 min×3)、6 N塩酸グアニジン(1 h×1、10 h×1)、H2O (5 min×2)で洗浄した。pH 9.4 Glycine / NaOH緩衝液中、蛍光顕微鏡(浜松ホトニクスARGUS/HiSCA;励起波長360 nm、蛍光波長425 nm〜)で観察した。
リン酸化を受ける3種のアミノ酸のうち、リン酸化されたセリンとスレオニンは、化学的性質が類似している。そこで、以下のようなキナーゼ活性検出法を計画した。
リン酸化されたセリン及びスレオニンは類似した化学的性質を有しており、塩基性条件下で容易にリン酸基がβ脱離することが知られている。この現象は、リン酸化ペプチドを化学合成する際に大きな問題となっていた。合成上の問題点は、新規保護基の開発により解決したが、申請者は、逆に、この化学的性質をキナーゼ活性の検出に応用できるのではないかと考えた。図1に示すように、リン酸基がβ脱離して生成した二重結合は、マイケル反応受容体となり、SH基等を有する求核剤と速やかに反応すると考えられる。そこで求核剤に蛍光性分子を用いれば、リン酸基を持つアミノ酸残基選択的に蛍光団を導入することが可能であると考えた(図1)。
まず、本検出法に必須の蛍光性分子の合成に着手した。SH基を有する蛍光物質として化合物1、2をデザイン、合成した(図2)。合成は、以下に示すスキームに従って行った。
本検出法は図1に示すように、1)β脱離と2)マイケル付加の二つのステップからなる。いずれもペプチドが不安定な塩基性条件下での反応であり、特に最近になってβ脱離条件下での副反応が幾つか報告されているため、各ステップの反応条件を最適化することとした。この際、ビーズ上にペプチドを担持した固相条件では、機器分析が困難であるため、ビーズを用いた固相ではなく、ペプチド溶液としてそれぞれの反応を行い、反応の進行をHPLC、MS (MALDI)を用いて追跡した。ペプチドとして、Ac-LRRASLG-NH2、Ac-LRRApSLG-NH2を用いた。0.1 M Caps緩衝液を用いてpH10, 11の環境でpSのリン酸基のβ脱離を試みたが、温度を上昇させても効率よくβ脱離を進行させることはできなかった。β脱離を効率よく(室温で反応時間として1〜2 h以内に)進行させるには、NaOHやLiOHをある程度の濃度(50 mM 〜)で加えることが必要であった。LiOHとNaOHを比較すると反応効率に大きな差異は認められなかった。また、リン酸基のβ脱離を促進することで知られるBa2+を少量加えたが、Ba2+の存在よりも塩基そのものの濃度の方が反応効率に大きく影響した。次に、リン酸基のβ脱離を効率よく進行させた100 mM NaOH条件で、リン酸化されていないAc-LRRASLG-NH2の安定性をHPLCを用いて分析した。その結果100 mM NaOHという条件ではAc-LRRASLG-NH2は不安定であり何らかの反応を起こしていた。反応溶媒をH2OからH2O/DMSO/EtOH(4:3:1)へと変更することで、副反応を抑制することができた。このように反応条件を種々検討し、効率的にβ脱離及びマイケル付加が進行する条件、すなわち
ステップ1)β脱離
溶媒:0.1 M NaOH/DMSO/EtOH = 4/3/1
反応温度:25 ℃
ステップ2)マイケル付加
溶媒:25 mM NaOH/DMSO/EtOH = 4/3/1
蛍光化合物濃度:1 mM
反応温度:25 ℃
を見いだすことに成功した。
次に、リン酸化セリンを配列中に含むペプチド(LRRApSLG)を担持させたビーズと、リン酸化されていないセリンを含むペプチド(LRRASLG)を担持させたビーズ、二種類のビーズに対し、最適化した反応条件でβ脱離、マイケル付加反応を行った。ビーズとして、酵素反応に適しているとされ、実際に非常に良く用いられているTentaGel及びPEGA800の2種類のビーズを用いた。蛍光顕微鏡(励起波長:360 nm, 蛍光波長:425 nm〜)を用いてビーズを観察したところ、二種のビーズ間で蛍光に有意な差がみられ、リン酸基を有するペプチド選択的に蛍光団が導入されたことが示唆された。合成した1、2のいずれの分子を用いた場合でも同様の結果が得られたが、1を用いた場合の方が、僅かに二種のビーズ間で蛍光の差が大きかったため、今後1を用いることとした(図4)。化合物3の蛍光のpH依存性を検討したところ、pH9-10にかけて安定かつ強い蛍光を与えた(図5)。そこで、蛍光を測定する際には、pH 9.4のバッファーを用いることとした。続いて、蛍光化合物の濃度を検討した結果、低濃度ではポジティブビーズと蛍光性化合物との反応性が低く、高濃度では蛍光性物質のネガティブビーズに対する非特異的吸着が見られた。図6に示すように、1 mM前後(0.5〜3 mM程度)で最も明確な差が見られた。
続いて、実際にキナーゼを用い、図1に従ってアッセイを行った。キナーゼにはよく研究されている市販のプロテインキナーゼA(PKA)を選択し、その特異的基質ペプチド(Kemptide; LRRASLG)を上述の2種類のビーズ上に固相合成した。その結果、図7に示すように、蛍光強度に全く差が見られず、酵素反応が進行していないことが示唆された。酵素やATP濃度、反応温度等様々な条件を検討しても改善は見られなかったが、より巨大な分子をも透過するビーズPEGA1900を用いたところ、化学合成したリン酸化セリン含有ペプチド(LRRApSLG)を用いた場合と同程度の蛍光の差がみられた(図8)。さらに、酵素反応時間依存的な蛍光強度の増大が見られ、ビーズ上でセリン・スレオニンキナーゼ活性を検出できる可能性が示唆された。PEGA1900に担持したペプチドを用いて、酵素反応条件を最適化したところ、以下に示す条件が最適であることが明らかとなった。
・酵素反応:
PKA 30 units/mL, ATP 300 μM in KB, 25 ℃, 10-12 h
(注:キナーゼ濃度を100 units/mLに上げると、反応は3-4 hで終了した。また、反応温度は、30-35 ℃が最適であったが、実験環境上加温することが困難であったため、室温条件を選択した)
・β脱離:
0.1 M NaOH/DMSO/EtOH = 4/3/1, 25 ℃, 1 h
・マイケル付加:
3 mM 化合物1, 25 mM NaOH/DMSO/EtOH = 4/3/1, 25 ℃, 1 h
本検出法の蛍光強度の差が、酵素活性を反映しているかを確認する目的で、PKAの強力な阻害剤ペプチド(IP: Ac-GRTGRRNAI-NH2)を用いて、蛍光強度に変化が見られるか否か検討した。その結果、図9に示すように、阻害剤濃度依存的に蛍光強度の減弱が見られ、本検出法が、キナーゼ阻害剤のアッセイに適用可能であることが示された。今後、マイケル反応後に蛍光波長が変化する蛍光性分子を用いれば、更なる信頼性、定量性の向上が期待できると考えられる。
本検出系は、キナーゼ活性を簡便に蛍光検出できること、阻害剤のアッセイに用いうることが明らかとなった。本検出法は、以下のような応用が考えられる。
1.ビーズに担持したペプチドを用いたキナーゼ認識配列の決定
キナーゼの中には、その認識配列が明らかになっていないものも多い。多様性に富むビーズ担持ペプチドの合成法はすでに確立されているため、様々な配列のペプチドを含むビーズ担持ペプチドを用いて、目的キナーゼの認識配列の一斉スクリーニングが可能となると考えられる。
今回示したように、本検出法はキナーゼ阻害剤のアッセイに用いうる。蛍光を検出原理とする簡便なアッセイであるため、汎用性が高く多様なキナーゼに対して適用できる。多くのキナーゼ阻害剤が医薬品のターゲットとなっている現在、HTSに適用可能な本法の利用価値は高いと考えられる。
ビーズアッセイに比べ、幾分特殊な装置を要するが、ペプチドはマイクロアレイ上に担持することが可能である。より長波長の励起波長、蛍光波長を持つ蛍光色素を用いれば、DNA用に開発された市販のマイクロアレイリーダーの使用が期待できる。マイクロアレイを用いれば、高度な情報の集積化が可能であり、上述のようなキナーゼ認識配列の決定や、阻害剤のスクリーニングをより小スケールで行うことが出来る可能性がある。
また、特定のキナーゼ活性の亢進や低下が特徴的に見られる疾患の場合、本法を用いれば、キナーゼ活性に関する情報を簡便に得ることが出来、病態の診断などへの応用も期待できる。近年、多くの酵素が、その活性を様々な翻訳後修飾により複雑かつ厳密に制御していることが明らかとなっている。酵素活性自体を簡便に検出できる本法は信頼性が高いと考えられ、応用範囲は広いと期待される。
近年、プロテオミクス研究が活発になされている。その中心的役割を果たしているのが蛋白質の2次元電気泳動と、質量分析による同定である。本検出原理を用いれば、電気泳動後のゲル中に含まれるリン酸化を受けた蛋白質を選択的に蛍光誘導化できる可能性があり、細胞内の情報伝達で重要な役割を果たすリン酸化、脱リン酸化に関して多くの情報が得られると期待される。また、リン酸基を持つ蛋白質やペプチドは、一般的に質量分析に対する感度が非常に悪いことが知られているが、これはリン酸基の持つマイナスチャージに起因すると考えられている。本検出法で誘導化すると、リン酸化アミノ酸はマイナスチャージを持たなくなるため、大きな感度の上昇が期待される。
以上、本検出系は生化学的、医学的に重要なキナーゼの活性を簡便に検出できる一般的原理を供するものであり、高い汎用性と幅広い応用性を有しているといえる。
本検出法は、リン酸化セリン及びスレオニンを検出する基本原理を供するものであり、非常に汎用性が高いという特色を持つ。ビーズ上に担持したペプチドを用いて、エッペンドルフチューブやマイクロプレート内でアッセイすることも可能であるし、メンブレンやガラスプレート上にペプチドを担持させたペプチドアレイにも適用しうる。さらに、蛋白質に応用できる可能性もある。SDS-PAGEにかけた後のゲル中のリン酸化蛋白質を、蛍光性に誘導化することが出来れば、本検出法の利用価値は極めて大きいものとなろう。
特異的キナーゼ阻害剤は、抗ガン剤をはじめ、各種医薬品として期待されており、開発研究が進んでいる(非特許文献5を参照)。現在主流となりつつあるコンビナトリアルケミストリーを用いた医薬品開発には、HTSが必要不可欠であるが、本アッセイ系の持つ特色は、まさにその要求を満たすものである。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
Claims (5)
- 以下の各ステップを含んでなるキナーゼ活性検出法:
キナーゼをペプチドに作用させるステップ;
導入されたリン酸基をβ脱離させるステップ;
前記リン酸基がβ脱離して生成した二重結合部分に、マイケル付加反応によって標識物質を導入するステップ;及び
導入された標識物質を検出するステップ。 - 前記キナーゼが、セリン−スレオニンキナーゼである、請求項1に記載の検出法。
- 前記標識物質が蛍光性物質である、請求項1に記載の検出法。
- 前記標識物質がSH基等の求核性官能基を有する、請求項1に記載の検出法。
- 前記ペプチドが不溶性支持体に固定されている、請求項1に記載の検出法。
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JPN6010041256, J. Am. Chem. Soc., 2003, Vol.125, P.14248−14249 * |
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