JP2006042719A - 有機酸を生産する微生物およびその利用 - Google Patents

有機酸を生産する微生物およびその利用 Download PDF

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Abstract

【課題】植物系バイオマス由来の多糖類やオリゴ糖類から直接有機酸を発酵生産するのに適した微生物を提供する。
【解決手段】セルロース、ヘミセルロースおよびデンプンから選択される多糖類あるいはその一部であるオリゴ糖類を分解して1種あるいは2種以上の単糖類を生成させる1種あるいは2種以上の分解酵素をそれぞれコードし、該分解酵素を細胞外に分泌および/または細胞表層に保持されるように発現可能に備えられる第1のポリヌクレオチドと、有機酸生産に関連する1種あるいは2種以上の酵素をそれぞれコードする第2のポリヌクレオチドと、を備え、前記多糖類あるいは前記オリゴ糖類を炭素源として利用して前記有機酸を生産する、微生物を取得する。
【選択図】なし

Description

この発明は、多糖類やオリゴ糖類から乳酸などの有機酸を生産する微生物およびその利用に関し、特に、グルコース、キシロースなどの単糖類を構成成分とする多糖類あるいはその一部から有機酸を生産する微生物と該微生物を用いた有機酸の生産方法に関する。
近年、植物系バイオマスの有効利用の観点から、セルロースから直接アルコールを発酵生産する技術が開発されてきている。その一つとして、セルラーゼを細胞表層に提示した酵母を用いてセルロースからエタノールを直接発酵生産する方法が開示されている(特許文献1、非特許文献1)。また、植物バイオマスから生分解性プラスチックの原料である乳酸をセルロースから生産しようとする試みもなされている(特許文献2、特許文献3)。一つは、セルロースの糖化ゾーンと乳酸発酵ゾーンとを区画して糖化ゾーンにセルロース材料を供給するものであり、糖化はセルラーゼを用いるものである(特許文献2)。もう一つは、セルロースを含む培地にセルラーゼを添加することによりセルロースを糖化するとともに、得られたグルコースを用いて乳酸発酵するものである(特許文献3)。
国際公開公報WO 01/79483号 特開2003−310243号 特開2004−89177号 藤田ら, Appl Environ Microbiol 70, 2004, 1207-1212.
しかしながら、セルロースを分解し同時に乳酸などの有機酸を発酵生産するのに適した微生物は未だ見出されていない。また、セルラーゼによってセルロースを糖化する場合には、(1)大量のセルラーゼが必要となる、(2)セルラーゼの反応性生物であるグルコースによる生成物阻害を避けるため装置上あるいは培養条件上の制約が生じる等の問題点がある。さらに、二種の微生物を用いて同時発酵を行う場合には、各微生物についての好ましい培養条件が異なるため、装置上あるいは培養条件上の制約が生じる。そこで、本発明は、セルロースなどの植物系バイオマス由来の多糖類やオリゴ糖類から直接有機酸を発酵生産するのに適した微生物を提供するとともにその利用により有機酸を生産する方法を提供することを、その目的とする。
本発明によれば、セルロース、ヘミセルロースおよびデンプンから選択される多糖類あるいはその一部であるオリゴ糖類を分解して1種あるいは2種以上の単糖類を生成させる1種あるいは2種以上の分解酵素をそれぞれコードし、該分解酵素を細胞外に分泌および/または細胞表層に保持されるように発現可能に備えられる第1のポリヌクレオチドと、有機酸生産に関連する1種あるいは2種以上の酵素をそれぞれコードする第2のポリヌクレオチドと、を備え、前記多糖類あるいは前記オリゴ糖類を炭素源として利用して前記有機酸を生産する、微生物が提供される。この微生物においては、前記単糖類は、以下の単糖類(a)および(b);
(a)グルコース、ガラクトース、マンノースおよびフルクトース
(b)キシロースおよびアラビノース
から選択される1種あるいは2種以上であることが好ましい態様である。さらに、これらの微生物において、前記糖類は、セルロースおよびヘミセルロースから選択されることが好ましい態様である。
また、本発明の微生物においては、前記多糖類および前記オリゴ糖類は、グルコースがβ1,4−結合した構造を有しており、前記分解酵素は、β−グルコシダーゼ、エンドグルカナーゼおよびセロビオヒドラーゼからなる群から選択されることが好ましい態様であり、さらに、前記分解酵素は、β−グルコシダーゼ、エンドグルカナーゼおよびセロビオヒドラーゼを含むことが好ましい。
さらに、本発明の微生物においては、前記多糖類および前記オリゴ糖類は、キシロース、マンノース、ガラクトースおよびアラビノースならびにこれらの誘導体から選択される単糖類を構成単糖類として有し、前記分解酵素は、β−キシラナーゼ、β−キシロシダーゼ、α−アラビノフラノシダーゼ、マンノシダーゼ、マンナナーゼ、アラビナーゼ、ガラクタナーゼ、およびペクチナーゼからなる群から選択されることが好ましい態様である。
また、上記いずれかの微生物においては、前記有機酸は乳酸であり、前記有機酸生産に関連する酵素は、乳酸脱水素酵素であることが好ましい態様である。
さらにまた、上記いずれかの微生物においては、前記第1のポリヌクレオチドおよび/または前記第2のポリヌクレオチドは、前記微生物において外来ポリヌクレオチドであることが好ましい態様であり、この態様においては、前記第1のポリヌクレオチドおよび/または前記第2のポリヌクレオチドは、宿主染色体上に備えられていることが好ましい。
また、上記いずれかの微生物においては、アルコール発酵能を有することが好ましい態様であり、さらに前記微生物は酵母であることが好ましく、より好ましくは、宿主染色体上のPDC遺伝子のいずれかが破壊されている。さらに、これらの態様において、前記第2のポリヌクレオチドが宿主染色体上のいずれかのPDC遺伝子のプロモーターにより制御可能に備えられていることが好ましい。
また、本発明によれば、セルロース、ヘミセルロースおよびデンプンから選択される多糖類あるいはその一部であるオリゴ糖類を分解して1種あるいは2種以上の単糖類を生成させる1種あるいは2種以上の分解酵素をそれぞれコードし、該タンパク質を細胞外に分泌および/または細胞表層に保持されるように発現可能に備えられる第1のポリヌクレオチドと、有機酸生産に関連する1種あるいは2種以上の酵素をそれぞれコードする第2のポリヌクレオチドと、を備え、前記多糖類あるいは前記オリゴ糖類を炭素源として利用して前記有機酸を生産する微生物を、前記多糖類あるいはオリゴ糖類を炭素源の少なくとも一部として含有する培地を用いて培養して有機酸を生産する工程、を備える、有機酸の生産方法が提供される。この方法においては、前記多糖類および前記オリゴ糖類は、グルコースがβ1,4−結合した構造を有しており、前記分解酵素は、β−グルコシダーゼ、エンドグルカナーゼおよびセロビオヒドラーゼからなる群から選択されることが好ましい態様である。また、これらの方法においては、前記炭素源は、植物バイオマス資源から分離あるいは抽出されたフラクションを含むことが好ましい態様であり、前記セルロースとして、非晶質セルロースあるいは低分子化されたセルロースを含むことも好ましい態様である。
さらに、上記いずれかの乳酸の生産方法においては、前記培地には、前記培地に含まれる前記多糖類あるいは前記オリゴ糖類の種類に対応する分解酵素および/または該分解酵素により生成される糖類が添加されていることが好ましい態様であり、さらに好ましくは、培養開始時において前記分解酵素および/または前記糖類が培地に添加されている。
本発明の微生物は、セルロース、ヘミセルロースおよびデンプンから選択される多糖類あるいはその一部であるオリゴ糖類を分解して1種あるいは2種以上の単糖類を生成させる1種あるいは2種以上の分解酵素をそれぞれコードし、該分解酵素を細胞外に分泌および/または細胞表層に保持されるように発現可能に備えられる第1のポリヌクレオチドと、有機酸生成に関連する1種あるいは2種以上の酵素をそれぞれコードする第2のポリヌクレオチドと、を備え、前記多糖類あるいは前記オリゴ糖類を炭素源として利用して前記有機酸を生産することを特徴としている。この微生物によれば、デンプン、セルロースおよびヘミセルロースなどの多糖類あるいはオリゴ糖類を利用して発酵することによりこれらの糖類から直接に有機酸を生産することができる。したがって、多糖類等を単糖類に分解するための酵素反応プロセスや発酵プロセスを実施することに伴う不都合を有効に回避できる。また、多様な糖類を含む植物系バイオマス資源の廃棄物や未利用資源を発酵原料として用いることが可能となり、効率的に有機酸を生産することができるようになる。
また、糖質資源から有機酸を発酵生産することは、従来の焼却等による処理に比較して糖質資源からCOへの変換を抑制しあるいは遅延化して、炭素資源をより有効に利用できることになる。
さらに、本発明の微生物がアルコール発酵能を有する微生物の場合には、条件により有機酸とともに燃料や化学原料として有用であるエタノールも発酵生産できる。有機酸とエタノールとを生産することは、アルコールのみを得る場合に比較して二酸化炭素生成量を低減できる点において好ましく、特に、有機酸として乳酸を生産する場合には、二酸化炭素生成量を一層低減でき、糖質資源の有効利用が図られる。
以下、本発明の微生物および該微生物を利用した有機酸の生産について説明する。
(炭素源:多糖類およびオリゴ糖類)
本発明の微生物が利用する炭素源は、多糖類であってもオリゴ糖類であってもよく、動物由来であっても植物由来であってもよいが、好ましくは植物由来である。これらの糖類は、好ましくは、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、キシロースおよびアラビノースならびにこれらの誘導体から選択される1種あるいは2種以上を構成単糖類として含有する。これらは植物系バイオマス資源の糖質材料の構成単糖類である。また、キシロース、マンノース、ガラクトースおよびアラビノースならびにこれらの誘導体から選択される1種あるいは2種以上を構成単糖類として有していることも好ましい。これらは、植物系バイオマス資源中、特にリグノセルロース系材料に含まれるヘミセルロースの主たる構成単糖類である。なお、糖類の誘導体としては、ガラクツロン酸、グルクロン酸などのウロン酸や、水酸基がエステル化されたエステル誘導体、水酸基がメチル化等されたアルキル誘導体が挙げられる。
以上のことから、炭素源としては、セルロース、ヘミセルロースおよびデンプンから選択される多糖類あるいはその一部であるオリゴ糖類であることが好ましい。なお、本明細書においては、ヘミセルロースは、植物細胞壁をセルロースとともに構成する多糖類あるいは植物細胞壁を構成するセルロース以外の多糖類であって、ホモ多糖類あるいはヘテロ多糖類を総称するものとする。ヘミセルロースとしては、例えば、マンナン、グルコマンナン、グルコキシラン、ガラクタン、キシラン、アラビナン、アラビノキシラン、アラビノガラクタン、ペクチン、キチン、ガラクトグルコマンナン、クロノキシラン、キシログルカン等が挙げられる。
単糖類の効率的な生成、用いる多糖類の溶解性、有機酸生産の効率等から、多糖類よりもオリゴ糖類を用いることが好ましい場合がある。例えば、植物由来のセルロースは結晶性であることが多く、分解酵素が作用しにくい場合がある。このような場合、必要に応じて部分加水分解等により非晶質化、低分子化することで酵素との反応性を確保し、また、溶解性も向上させることができる。さらに、セルロースを構成する二糖類であるセロビオースを用いることもできる。なお、本明細書において、オリゴ糖類とは二糖類を包含している。
炭素源としては、好ましくは、セルロース、ヘミセルロースおよびデンプンが挙げられる。これらの多糖類は、循環利用可能な植物系(農産物および海産物をふくむ)バイオマスとして容易に入手可能であるからである。なかでも、セルロースおよび/またはヘミセルロースが好ましい。これらは植物系バイオマス資源の廃棄物や未利用資源に多く含まれているからである。より好ましくはセルロースである。また、セルロースの一部であるオリゴ糖類としては、セロビオースが挙げられる。なお、炭素源としての多糖類およびオリゴ糖類は上記した多糖類および糖類のうち1種あるいは2種以上が組み合わされていてもよい。
(分解酵素)
前記多糖類およびオリゴ糖類を分解して単糖類を生成させる分解酵素としては、用いる多糖類およびオリゴ糖類によるが、グルコースのβ1,4−結合による重合構造を有する(セルロース)場合には、β1,4−グルコシド結合を切断できる酵素であれば特に制限なく使用できるが、好ましくは、エンドβ1,4−グルカナーゼ、セロビオヒドラーゼ(エキソβ1,4−グルカナーゼ)、β−グルコシダーゼ、カルボキシメチルセルラーゼなどが挙げられる。なかでも、エンドβ1,4−グルカナーゼ、セロビオヒドラーゼ、およびβ−グルコシダーゼのいずれかあるいは2種以上を好ましく用いることができ、エンドβ1,4−グルカナーゼおよびβ−グルコシダーゼの組み合わせやこれら3種の酵素の組み合わせが用いられる。これら3種の組み合わせによれば、これらの相乗効果によってセルロースからの高効率な有機酸生産が可能となる。
また、多糖類およびオリゴ糖が、グルコースのα1,6−結合および/またはα1,4−結合による重合構造を有する(デンプン、アミロースおよびアミロペクチン)場合には、分解酵素としては、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼが挙げられる。また、多糖類およびオリゴ糖類が、キシロース、アラビノース、マンノースおよびガラクトースならびにこれらの誘導体から選択される単糖類を構成単糖として有する(各種ヘミセルロース)場合の分解酵素としては、β−キシラナーゼ、β−キシロシダーゼ、α−アラビノフラノシダーゼ、マンノシダーゼ、マンナナーゼ、アラビナーゼ、ガラクタナーゼ、ペクチナーゼが挙げられる。これらの酵素は、炭素源として利用する1種あるいは2種以上の多糖類あるいはオリゴ糖類の種類に応じて選択されるが、1種あるいは2種以上の分解酵素が組み合わされていてもよい。
なお、各種分解酵素としては、分解酵素のアミノ酸配列において1あるいは2以上のアミノ酸残基を、置換、欠失、挿入および/または付加することによって変異させて改変されたものを同様に用いることができる。
(第1のポリヌクレオチド)
第1のポリヌクレオチドは、上記分解酵素の1種あるいは2種以上をそれぞれコードする1種あるいは2種以上のポリヌクレオチドである。ポリヌクレオチドは、DNAであってもRNAであってもよいが、好ましくはDNAである。第1のポリヌクレオチドは、前記分解酵素をコードするコード領域を含むかぎり、ゲノムの一部であってもよく、cDNAなどの合成DNAであってもよい。前記分解酵素のコード領域は、既に開示された配列に基づいてその一部をプライマーとして用いてPCR法により取得することができる他、予めこれらのコード領域を備えるものとして開示されたプラスミドベクターを利用することができ、さらに当業者に公知の各種の方法により既知のあるいは未知のコード領域を含有するポリヌクレオチドを取得することができる。例えば、セロビオヒドラーゼのコード領域を保持するベクターについては、藤田ら,2004. Appl Environ Microbiol 70:1207-1212に開示され、β-グルコシダーゼ1のコード領域を保持するベクターは、村井ら,1998. Appl Environ Microbiol 64:4857-4861に開示され、エンドグルカナーゼのコード領域を保持するベクターは、藤田ら, 2002. Appl Environ Microbiol 68:5136-5141に開示されている。
第1のポリヌクレオチドは、該第1のポリヌクレオチドによってコードされる酵素タンパク質が細胞外に分泌および/または細胞表層に保持されるように発現可能に備えられていることが好ましい。特に、分解酵素は細胞表層に保持されることが好ましい。分解酵素が細胞表層において保持されて細胞表層にて多糖類あるいはオリゴ糖類を分解することで、微生物は速やかに多糖類等を利用できる。分解酵素の分泌あるいは細胞表層提示このためには、第1のポリヌクレオチドは前記分解酵素のコード領域のほか、用いる微生物の種類に応じた分泌タンパク質や、分泌タンパク質と細胞表層にタンパク質を保持させるためのタンパク質をコードする領域を備えていることが好ましい。なお、所望のタンパク質を細胞表層提示する技術は、WO 01/79483号公報(前掲特許文献1)や、藤田らの文献(藤田ら,2004. Appl Environ Microbiol 70:1207-1212および藤田ら, 2002. Appl Environ Microbiol 68:5136-5141.)、村井ら, 1998. Appl Environ Microbiol 64:4857-4861.に開示されており、これらの記載に基づいて行うことができる。
分泌タンパク質としては、例えば、Rhizopus oryzaeのグルコアミラーゼ遺伝子の分泌シグナルなどが挙げられる。また、細胞表層に保持可能とするタンパク質としては、凝集性タンパク質あるいはその一部が挙げられ、例えば、性凝集素タンパク質であるα−アグルチニンをコードするSAG1遺伝子の5’領域の320アミノ酸残基からなるペプチドがある。
(有機酸生産に関連する酵素:有機酸生成酵素)
本明細書において、「有機酸」とは、酸性を示す有機化合物であって、遊離の酸あるいはその塩である。「有機酸」が備える酸性基としては、カルボン酸基であることが好ましい。このような「有機酸」としては、乳酸、酪酸、酢酸、ピルビン酸、コハク酸、ギ酸、リンゴ酸、クエン酸、マロン酸、プロピオン酸、アスコルビン酸、アジピン酸などが挙げられる。これらの「有機酸」は、D体、L体のほか、DL体であってもよい。「有機酸」は好ましくは、乳酸である。乳酸は、生分解プラスチックの原料である他、各種医薬、食品、飼料原料として有用である。有機酸生成酵素としては、前記有機酸が生成する過程において作用する酵素を意味し、例えば、ピルビン酸から乳酸を生成する乳酸脱水素酵素、コハク酸からフマル酸を生成するコハク酸脱水素酵素などの脱水素酵素や、オキザロ酢酸からクエン酸を生成するクエン酸シンターゼなどが挙げられる。有機酸生成酵素は、由来など特に限定しないで各種生物由来の有機酸生成酵素を用いることができる。これらの有機酸生成酵素は、得ようとする有機酸の種類や用いる微生物の種類により、必要に応じ1種あるいは2種以上が組み合わされる。
なお、各種有機酸生成酵素としては、有機酸生成酵素のアミノ酸配列において1あるいは2以上のアミノ酸残基を、置換、欠失、挿入および/または付加することによって変異させて改変されたものを同様に用いることができる。
なお、本発明においては、基質に対して高い親和性を有する有機酸生成酵素を用いることが重要である。微生物が利用可能な単糖類の供給量が、多糖類あるいはオリゴ糖類の分解に依存している場合、エネルギー源が培地中に少なく微生物が本来的に有する解糖系、アルコール発酵経路、TCA回路が増強されていると推測されるからである。特に、乳酸を生産する乳酸脱水素酵素の基質となるピルビン酸は、アルコール発酵経路のピルビン酸脱炭酸酵素の基質でもあるため、乳酸脱水素酵素のピルビン酸に対する基質親和性がピルビン酸脱炭酸酵素のそれよりも高いことが好ましい(Km値が低いことが好ましい)。このような乳酸脱水素酵素としては、ウシ由来のL−乳酸脱水素酵素が挙げられる。
第2のポリヌクレオチドは、前記有機酸生成酵素の1種あるいは2種以上をそれぞれコードしている1種あるいは2種以上のポリヌクレオチドである。第2のポリヌクレオチドは、第1のポリヌクレオチドと同様、DNAであってもRNAであってもよいが、好ましくはDNAである。第2のポリヌクレオチドは、有機酸生成酵素をコードするコード領域を含むかぎり、ゲノムの一部であってもよく、cDNAなどの合成DNAであってもよい。有機酸生成酵素のコード領域は、既に開示された配列に基づいてその一部をプライマーとして用いてPCR法により取得することができる他、予めこれらのコード領域を備えるものとして開示されたプラスミドベクターを利用することができ、さらにcDNAライブラリを用いるなど当業者に公知の各種の方法によりコード領域を含有するポリヌクレオチドを取得することができる。
このような第1のポリヌクレオチドおよび第2のポリヌクレオチドを備え、前記多糖類あるいはオリゴ糖類から有機酸を生産する微生物は、天然に存在するセルロース分解菌やセロビオース資化性酵母などの多糖類資化性微生物や乳酸菌などの乳酸菌生産微生物などからスクリーニングによって取得可能ではあるが、染色体あるいは細胞質への外来ポリヌクレオチドの導入を可能とする各種の遺伝子工学的手法により取得することができる。したがって、本発明の微生物が備える第1のポリヌクレオチドおよび第2のポリヌクレオチドは、それぞれ微生物に内在するものであってもよいが、外来性のものであってもよく、内在性と外来性のものとが双方存在していてもよいが、好ましくは、外来性の第1のポリヌクレオチドおよび第2のポリヌクレオチドを備えている。
遺伝子導入の宿主となる微生物は特に限定しないが、前記分解酵素あるいは前記有機酸生成酵素をコードするポリヌクレオチドを内在性ポリヌクレオチドとして有する、多糖類等の資化能を有する微生物、有機酸発酵能を有する微生物の他、アルコール発酵能を有する微生物を用いることが好ましい。アルコール発酵能を有する微生物のアルコール発酵経路のPDC遺伝子を破壊することにより有機酸生産に利用しやすくなるとともに、PDC遺伝子のプロモーターを利用することで高い有機酸生産能を得ることができる。例えば、セルロースを分解してグルコースを生成する酵素などをコードする第1のポリヌクレオチドを内在的に備える多糖類資化性微生物に対して有機酸生成酵素をコードする第2のポリヌクレオチドを導入してもよいし、乳酸菌などの有機酸生成酵素をコードする第2のポリヌクレオチドを内在的に備える有機酸発酵能を有する微生物に対して、第1のポリヌクレオチドを適切な形態で導入してもよい。さらには、酵母などのアルコール発酵能を有する微生物に対して、第1のポリヌクレオチドと第2のポリヌクレオチドとを導入してもよい。
キシロースなどを資化できるペントース資化性微生物としては、例えば、Breltanomyces clansenii, Pichia stipitis、Candida shehatae、Esherichia coliが挙げられる。また、デンプンを資化できるデンプン資化性微生物としては、例えば、Saccharomyces diastaticusが挙げられる。また、アルコール発酵性微生物としては、Zymomonas mobilisなどのZymomonas属菌やZymobacter属菌のほか、酵母を用いることが好ましい。工業的な発酵生産を考慮すると酵母を用いることが好ましい。酵母としては、清酒酵母やワイン酵母などが挙げられ、具体的には、サッカロマイセス・セレビシエ、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Scizosaccharomyces pombe)などのサッカロマイセス属酵母、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)などのピキア属酵母を挙げることができる。より好ましくは、サッカロマイセス・セレビシエなどのサッカロマイセス属を始めとする酵母である。好ましい酵母の一例としては、サッカロマイセス・セレビシエIFO2260株や同YPH株を例示できる。
なお、前記多糖類あるいはオリゴ糖類を炭素源として有機酸を生産するには、最終的に得られる単糖類を利用して有機酸を生産する能力が必要である。したがって、かかる単糖類を利用可能な微生物を用いるか、そのような単糖類利用能を有しない微生物を用いる場合には、かかる単糖類を利用可能とする酵素を用いる微生物において発現させる必要がある。後者の場合、単糖類の代謝酵素のコード領域を有する外来ポリヌクレオチドを遺伝子組換え技術により導入されることになる。
第1のポリヌクレオチドおよび/または第2のポリヌクレオチドは、それぞれがコードする酵素を高いレベルで発現可能に備えられていることが好ましい。例えば、これらのポリヌクレオチドのいずれかが宿主微生物において高いレベルで発現される遺伝子のプロモーターの制御下に備えられていることが好ましい。このようなプロモーターとして、例えば、ピルビン酸脱炭酸酵素遺伝子プロモーター(PDCプロモーター)、なかでも、十分に強力なプロモーターであるPDC1プロモーターを用いることが好ましい。より好ましくは、サッカロマイセス属(好ましくはセレビシエ)のPDC1プロモーターである。ピルビン酸脱炭酸酵素は、酵母におけるアルコール発酵経路の酵素であり、特に、アルコール発酵性微生物において該酵素のプロモーターを用いることで分解酵素や有機酸生成酵素を高いレベルで発現させることができる。特に、第2のポリヌクレオチドがPDCプロモーターの制御下にあることが好ましい。こうすることで、ピルビン酸がアルコール脱水素酵素の基質とならずに、乳酸発酵経路あるいはTCA回路での有機酸への反応が促進される。特に、PDCプロモーターによる制御はアルコール発酵微生物において外来の第2のポリヌクレオチドにより乳酸生産させる場合に有効である。
また、アルコール発酵経路の後段のアルコール脱水素酵素遺伝子プロモーター(ADHプロモーター)の制御下にこれらのポリヌクレオチドを備えることも好ましい。ADHは既に述べたようにアルコール発酵経路におけるPDCのすぐ後続の酵素である。ADHプロモーターとしては、十分に強力なプロモーターであるADH1プロモーターを用いることが好ましい。
また、他の好ましいプロモーターとしては、酵母(典型的にはサッカロマイセス・セレビジエ)の高浸透圧応答7遺伝子(HOR7遺伝子)、グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素2遺伝子(TDH2遺伝子)、ヘキソース輸送タンパク質7遺伝子(HXT7遺伝子)、熱ショックタンパク質30遺伝子(HSP30遺伝子)、チオレドキシンペルオキシダーゼ1遺伝子(AHP1遺伝子)、膜タンパク質1関連遺伝子(MRH1遺伝子)、グリセルアルデヒド三リン酸脱水素酵素3(TDH3)遺伝子、ガラストース一リン酸キナーゼ1(GAL1)遺伝子、ホスホグリセレートキナーゼ(PGK)遺伝子及び転写エンハンサー因子−1(TEF)遺伝子のプロモーターが挙げられる。本発明者らによれば、これらの他の酵母由来プロモーターのいずれもが乳酸存在時において高い遺伝子発現を示すプロモーターであるという知見を有しており、かかるプロモーターの制御下に第2のポリヌクレオチドを導入することで、乳酸などの有機酸の生産量の増大によってフィードバック抑制されない、あるいは乳酸の生産量の増大によってさらに乳酸の生産が促進されることになる。
また、酵母などのアルコール発酵能を有する微生物を宿主微生物として用いる場合、グルコースから効率的に有機酸を生産させるには、PDC活性が抑制された微生物を用いることが好ましく、酵母染色体上のPDC1遺伝子、PDC5遺伝子およびPDC6遺伝子など一連のPDC遺伝子のいずれかが破壊されていることが好ましい。多糖類等から生成されたグルコースなどの単糖類が順次微生物によって代謝されるような極めて低い単糖類濃度下で乳酸を効率的に生産させるには、ピルビン酸からアルコールを生成する酵素であるピルビン酸脱炭酸酵素(PDC)の活性が抑制されていることが重要である。酵母のPDC遺伝子は、PDC1遺伝子のプロモーターが最も強力であるため、PDC1遺伝子が破壊されていることが好ましい。遺伝子ノックアウトによる特定遺伝子の不活性化法は、当業者において周知である。
また、同様にPDC後段の酵素であるADHの活性も抑制されていることが好ましい。したがって、ADH活性が低いかあるいはADH遺伝子が破壊された微生物を用いることが好ましい。
第1のポリヌクレオチドと第2のポリヌクレオチドとは、宿主染色体とは別個に細胞内において保持されていてもよいが、第1のポリヌクレオチドと第2のポリヌクレオチドとを高いレベルで発現させるには、これらのポリヌクレオチドが宿主染色体に導入されていることが好ましい。特に、酵母などの真核生物においては、プロモーターによる発現増強などの効果がより高くなる傾向が見出されているからである。宿主染色体に導入するにあたっては、不活性化するのが好ましい遺伝子をノックアウトするように導入されることが都合がよい。例えば、上記PDC1遺伝子及び/またはADH1遺伝子などのアルコール発酵経路の酵素遺伝子のいずれかをノックアウトするように第1のポリヌクレオチドや第2のポリヌクレオチドを導入することが好ましい。このような遺伝子導入技術もまた当業者において周知である。
PDC1プロモーターやADH1プロモーターは、強力なプロモーターでもあるので、ノックアウトと同時に、これらのプロモーターの制御下に第1のポリヌクレオチドや第2のポリヌクレオチドが導入することが好ましい。特に、PDC1プロモーター及び/またはADH1プロモーター下には、有機酸生成酵素をコードする第2のポリヌクレオチドを導入してこれらの遺伝子をノックアウトするとともにこれらのプロモーター下で制御されることが好ましい。
以上説明したような本発明の微生物は、周知の遺伝子工学的手法により取得することができる。例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual (T. Maniatis, et al., Cold Spring Harbor Laboratory) に従い実施できる。なお、第1のポリヌクレオチドおよび第2のポリヌクレオチドを宿主微生物に導入するための、組換え用DNA構築物は、特に限定しないで、線状等のDNA断片、プラスミド(DNA)、ウイルス(DNA)、レトロトランスポゾン(DNA)、人工染色体(YAC)を、外来遺伝子の導入形態(染色体外あるいは染色体内)等に応じて選択してベクターとしての形態をとることができる。
なお、DNA構築物には、上記したポリヌクレオチドのほか、CYC1ターミネーターやTDH3ターミネーターなどのターミネーターの他、必要に応じてエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)を連結することができる。選択マーカーとしては、特に限定しないで、薬剤抵抗性遺伝子、栄養要求性遺伝子などを始めとする公知の各種選択マーカー遺伝子を利用できる。
DNA構築物を、宿主微生物に、トランスフォーメーション法や、トランスフェクション法、接合法、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、酢酸リチウム法、パーティクルガン法、リン酸カルシウム沈殿法、アグロバクテリウム法、PEG法、直接マイクロインジェクション法等の各種の適切な手段のいずれかにより、これを導入することができる。DNA構築物が宿主に導入されたか否か、あるいは染色体上の所望の部位に本DNA構築物が導入されたか否かの確認は、PCR法やサザンハイブリダイゼーション法により行うことができる。例えば、形質転換体からDNAを調製し、導入部位特異的プライマーによりPCRを行い、PCR産物について、電気泳動において予期されるバンドを検出することによって確認できる。あるいは蛍光色素などで標識したプライマーでPCRを行うことでも確認できる。これらの方法は、当業者において周知である。
本発明の微生物によれば、多糖類等を直接有機酸に変換できるため、効率的な有機酸生産が可能となる。すなわち、多糖類の酵素や発酵等による糖化工程を省略でき、製造装置や製造プロセスの複雑さが低減される。
(有機酸の生産方法)
本発明の微生物を、前記多糖類あるいはオリゴ糖類を炭素源の少なくとも一部として含有する培地を用いて培養することにより、有機酸を生産することができる。本発明の微生物の培養にあたっては、微生物の種類に応じて培養条件を選択することができる。有機酸の生産にあたっては、必要に応じて産物である有機酸等の中和を行うかあるいは、連続的に有機酸を除去する等の処理を行うこともできる。微生物を培養する培地としては、本発明の微生物に対応した前記多糖類および/またはオリゴ糖類の他、窒素源、無機塩類等を含有し、本微生物の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれも使用することができる。
窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸もしくは有機酸のアンモニウム塩またはその他の含窒素化合物の他、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー等を用いることができる。無機物としては、リン酸第一カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウムなどを用いることができる。
炭素源としては、植物バイオマス資源から分離あるいは抽出されたフラクションを含むことが好ましい。ここで、植物バイオマス資源とは、植物に由来する有機性資源であって化石資源を除いたものを意味している。また、植物バイオマス資源には、廃棄物や未利用資源も含まれる。なかでも、本発明においては、糖質系の植物バイオマス資源を用いることが好ましく、糖質系植物バイオマス資源としては、例えば、針葉樹や広葉樹などの木本植物材料、ケナフ、麻、綿の他、サトウキビなどのキビ類、イモ類などの各種作物植物などを含む草本植物材料、各種海藻を含む藻類、海草などの海洋植物材料などのほか、これらを利用するにあたって排出される廃棄物、未利用物が挙げられる。廃棄物および未利用物としては、廃棄される紙、紙加工品、おがくず、チップなどの製材工場廃材、建設廃材、バガス、イネワラ、ムギワラ、モミガラなどの農業廃棄物、茶ガラや野菜くずなどの食品廃棄物、間伐材や被害木などの林地残材が挙げられる。これらの糖質系植物バイオマス資源を本発明の炭素源に用いる場合には、前記分解酵素によってこれらに含まれる多糖類等が分解されやすくなっていることが好ましく、糖質を含むように分離されあるいは抽出されたフラクションであることが好ましい。
また、セルロースあるいはセルロースを含む植物バイオマス資源を用いる場合、セルロースが結晶構造を有して存在していることが多いため、セルロースを非晶質化しておくことが好ましい。セルロースの非晶質化は同時に低分子化を伴うことが多い。例えば、硫酸、塩酸、リン酸、硝酸などの無機酸による酸性条件下、セルロースを部分加水分解することにより、セルロースの非晶質化あるいは低分子化できる。この他、超臨界水、アルカリ、加圧熱水などの処理によってもセルロースを非晶質化あるいは低分子化できる。
この培養工程においては、炭素源の一部として前記多糖類あるいは前記オリゴ糖類の種類に対応する分解酵素を添加することができる。こうすることで、微生物が生産する分解酵素を補って微生物に対して単糖類を効率的に供給できる。特に、培養開始時あるいは培養初期において、微生物が十分に増殖していない段階において有効である。
また、培養工程においては、炭素源の一部として前記多糖類あるいは前記オリゴ糖類から分解酵素により生成されるオリゴ糖類あるいは単糖類が添加することができる。こうすることで、特に培養開始時から培養初期において微生物に効果的に単糖類を供給できる。なお、糖類は、分解酵素を抑制しない程度に添加され、好ましくは培養開始時から培養初期(培養開始から2〜10時間以内程度)まで一定期間にのみ糖類を添加するようにする。
なお、培養は、静置培養、振とう培養または通気攪拌培養等を用いることができ、嫌気条件下または微好気条件下、30℃〜35℃で6〜72時間程度とすることができる。培養期間中、pHは2.0〜7.0に保持することが好ましい。また、pHの調整は、無機あるいは有機酸、アルカリ溶液等を用いて行うことができる。培養中は、必要に応じてアンピシリン、テトラサイクリンなどの抗生物質を培地に添加することができる。
培養工程終了後、培養物から乳酸を分離する工程を実施することにより、乳酸を得ることができる。なお、本発明において培養物とは、培養上清の他、培養細胞あるいは菌体、細胞若しくは菌体の破砕物を包含している。
培養物から有機酸を分離するには、有機酸を含有する粗抽出画分を得たのち、一般的な有機酸精製手段を使用することができる。例えば、微生物内に有機酸が生産された場合は、常法により菌体を超音波破壊処理、摩砕処理、加圧破砕などで細胞を破壊して、細胞構成成分から分離された有機酸含有粗抽出画分を得ることができる。この場合、必要に応じてプロテアーゼを添加する。また、菌体外に有機酸が生産された場合には、この培養液等を、ろ過、遠心分離などにより固形分を除去して有機酸含有粗抽出画分を得ることができる。これらの有機酸含有粗抽出画分につき、従来公知の各種精製分離法等を利用して、有機酸を精製することができる。また、必要に応じて、当該粗抽出画分及びその精製物に対してエステル化等を行うことにより、各種の有機酸誘導体を得ることができる。生産しようとする有機酸が乳酸の場合、エステル化を行うことによりポリ乳酸の前駆体を得ることができる。
以上説明したように、本発明の有機酸の生産方法によれば、所定の微生物を用いて多糖類あるいはオリゴ糖類から直接有機酸を得ることができる。このため、従来に比して効率的に多糖類から有機酸を得ることができるとともに、炭素資源のCOへの変換を抑制してよりよい循環利用が可能となる。
以下、本発明を実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下に述べる遺伝子組換え操作はMolecular Cloning: A Laboratory Manual (T. Maniatis, et al., Cold Spring Harbor Laboratory) に従い行った。また、PCRによる遺伝子増幅は、特に述べない限り、KOD plus DNA polymerase(TOYOBO)を用い、添付のプロトコルに従って行った。PCR増幅反応は94℃で2分間の熱処理を行った後、94℃で15秒と53℃で30秒と68℃でX分(X:増幅遺伝子の大きさが1kbにつき1分とした)との3つの温度変化を1サイクルとし、これを25サイクル繰り返し、最後に4℃とした。PCR増幅装置はGene Amp PCR system 9700(PE Applied Biosystems)を使用した。ライゲーション反応にはLigaFast Rapid DNA Ligation System(Promega)を用いた。大腸菌の形質転換は、JM109株のコンピテント細胞(TOYOBO)を用い、添付のプロトコルに従って行った。大腸菌の形質転換体の選抜はアンピシリン100μg/mlを含むLBプレートを用いて行った。大腸菌からのプラスミドの抽出にはQIA Prep Spin Miniprepkit (QIAGEN)を用いた。DNA断片末端の平滑化にはT4 DNA polymerase(TaKaRa)を用いた。酵母のゲノムDNAの調製はFast DNA Kit(Bio 101)を用い、添付のプロトコルに従って行った。酵母の形質転換はFrozen-EZ Yeast Transformation II(ZYMO RESEARCH)を用い、添付のプロトコルに従って行った。
(セルラーゼを細胞表層に発現するためのベクターの構築)
本実施例では、後述する実施例2〜5において用いる3種のセルラーゼを酵母の細胞表層に提示するための各種ベクター(染色体外保持型ベクターおよび染色体組込型ベクター)を構築した。
(1)染色体外保持型ベクターの構築
Trichoderma reesei由来のセロビオヒドロラーゼIIを細胞表層に発現するためのYEpベクターとしてpRS435GAP-TrCBHIIを作製した。本ベクターの構造を図1に示す。本ベクターは、pFCBH2w3(藤田ら, 2004. Appl Environ Microbiol 70:1207-1212.)からTDH3(GAPDH)promoter、分泌シグナル(s.s.)、FLAG-CBHII fusion gene、3'-Half of α-agglutinin geneおよびTDH3(GAPDH) terminatorを含む領域を切り出し、LEU2マーカーを持つYEpベクターであるpRS435のBssHIIサイトにライゲーションして得られたベクターである。なお、Aspergillus aculeatus由来のβ-グルコシダーゼ1を細胞表層に発現するためのYEpベクターとしてpBG211(村井ら, 1998. Appl Environ Microbiol 64:4857-4861.)を用い、Trichoderma reesei由来のエンドグルカナーゼIIを細胞表層に発現するためのYEpベクターとしてpEG23u31H6(藤田ら, 2002. Appl Environ Microbiol 68:5136-5141.)を用いた。
(2)染色体組込型ベクターの構築
(a)Aspergillus aculeatus由来のβ-グルコシダーゼ1を細胞表層に発現するための染色体組込型ベクター(YIpベクター)の構築
本ベクター(pBG418-PDC1p-AaBGL)の構造を図2に示す。本ベクターを以下の方法で作製した。酵母ゲノムDNAをテンプレートとしたPCR反応により所定長のDNAを増幅し、以下の各種断片を作製した。各断片について用いたプライマーと制限酵素を使用した場合にはその制限酵素を以下に示す。
PDC6断片:PCRプライマーPDC6-U(配列番号1)とPDC6-D(配列番号2)を用いてPCR増幅した断片を制限酵素SacIとNotIで消化した。
CTT1断片:PCRプライマーCTT1-U(配列番号3)とCTT1-D(配列番号4)を用いてPCR増幅した断片を制限酵素ApaIとKpnIで消化した。
PDC1プロモーター断片:PCRプライマーPDC1P-U(配列番号5)とPDC1P-D(配列番号6)を用いてPCR増幅した断片を制限酵素BamHIとEcoRIで消化した。
TDH3t断片:PCRプライマーTDH3t-F(配列番号7)とTDH3t-R(配列番号8)を用いてPCR増幅した。
さらに、以下のカセットおよび断片を作製した。
G418マーカーカセット:G418耐性遺伝子の上流と下流にそれぞれTDH3プロモーター配列とCYC1ターミネーター配列を連結した。
BGL1断片:pBG211ベクター(前掲村井ら、1998)をテンプレートとして、PCRプライマーSSRG+1F(配列番号9)とSAG1+1953R(配列番号10)を用いて、分泌シグナル(s.s.)、BGL1遺伝子および3'-Half of α-agglutinin geneを含む領域をPCR増幅した。
上記操作で得られた各断片(PDC6断片、PDC1プロモーター断片、BGL1断片、TDH3t断片、G418マーカーカセットおよびCTT1断片)を、順次pBluescriptII SK+ベクター(TOYOBO)のマルチクローニングサイトに連結して、染色体導入型ベクターpBG418-PDC1p-AaBGLを構築した(図2参照)。
(b)Trichoderma reesei由来のエンドグルカナーゼIIを細胞表層に発現するための染色体組込型ベクター(YIp)の構築
本ベクター(pBble-TDH3p-TrEGII)の構造を図3に示す。本ベクターを以下の方法で構築した。抗生物質フレオマイシン耐性遺伝子を大腸菌XL1-Blue MRF’ Kan株(STRATAGENE)のゲノムDNAを鋳型にして、PCRプライマーTn5ble-U(配列番号11)およびTn5ble-D(配列番号12)を用いてPCRにより増幅した。得られたPCR増幅断片(0.4kb)を制限酵素EcoRIおよびHindIIIで消化したものをTn5 ble断片と称した。PCRプライマーCYCP-U(配列番号13)およびCYCP-D(配列番号14)を用いて酵母ゲノムDNAを鋳型にしてPCRにより増幅されたCYC1プロモータ配列(0.5kb)を制限酵素BamHIおよびEcoRIで消化したものをCYC1p断片と称した。PCRプライマーCYCT-U(配列番号15)およびCYCT-D(配列番号16)を用いて酵母ゲノムDNAを鋳型にしてPCRにより増幅されたCYC1ターミネーター配列(0.2kb)を制限酵素HindIIIおよびSalIで消化したものをCYC1t断片と称した。上記操作で得られたCYC1p断片、Tn5 ble断片およびCYC1t断片を、この順番で並ぶように順次pBluescriptII SK+ベクターのマルチクローニングサイトに連結してフレオマイシン耐性マーカーカセットを構築した。得られたベクターを制限酵素SpeIおよびApaIで消化することによりフレオマイシン耐性マーカーカセットを切り出し、末端を平滑化したものをフレオマイシン耐性マーカーカセット断片と称した。
相同組み換え配列であるPDC5遺伝子下流領域配列およびSLX4遺伝子上流領域配列を、酵母ゲノムDNAを鋳型にしてPCRにより増幅した。PCRプライマーPDC5D-U(配列番号17)およびPDC5D-D(配列番号18)を用いて増幅されたPDC5遺伝子下流領域配列(0.6kb)をPDC5断片と称した。PCRプライマーSLX4-F(配列番号19)およびSLX4-R(配列番号20)を用いて増幅されたSLX4遺伝子上流領域配列(0.7kb)を制限酵素SalIおよびKpnIで消化したものをSLX4断片と称した。pEG23u31H6(前掲藤田ら、2002)を制限酵素BssHIIで消化し、末端を平滑化した断片をEGII発現カセット断片と称した。この断片にはTDH3プロモーター、分泌シグナル(s.s.)、EGII遺伝子、3'-Half of α-agglutinin geneおよびSAG1ターミネーター配列が含まれる。
上記操作で得られた各断片(PDC5D断片、EGII発現カセット断片、フレオマイシン耐性マーカーカセット断片およびSLX4断片)を、順次pBluescriptII SK+ベクターのマルチクローニングサイトに連結して、染色体導入型ベクターpBble-TDH3p-TrEGII(図3)を構築した。
(c)Trichoderma reesei由来のセロビオヒドロラーゼIIを細胞表層に発現するための染色体組込型ベクター(YIp)の構築
本ベクター(pBRDHFR-TDH3p-TrCBHII)の構造を図4に示す。本ベクターを以下の方法で構築した。選択マーカーとして大腸菌由来のジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子(RDHFR)を用いた。RDHFR遺伝子は合成DNAを用いたオーバーラップPCRを利用して全合成した。RDHFR遺伝子の上流と下流にそれぞれCYC1プロモーター配列とCYC1ターミネーター配列を連結したものをRDHFRマーカーカセットと称した。相同組み換え配列であるCCC1遺伝子下流領域配列およびRSA3遺伝子下流領域配列を、酵母ゲノムDNAを鋳型にしてPCRにより増幅した。PCRプライマーCCC1-U(配列番号21)およびCCC1-D(配列番号22)を用いて増幅された断片を制限酵素SacIおよびSmaIで消化したものをCCC1断片と称した。PCRプライマーRSA3-U(配列番号23)およびRSA3-D(配列番号24)を用いて増幅された断片を制限酵素ApaIおよびKpnIで消化したものをRSA3断片と称した。pFCBH2w3(前掲藤田ら、2004)からTDH3(GAPDH)promoter、分泌シグナル(s.s.)、FLAG-CBHII fusion gnen、3'-Half of α-agglutinin geneおよびTDH3(GAPDH) terminatorを含む領域を切り出したものをCBHII発現カセットと称した。
上記操作で得られた各断片(CCC1断片、CBHII発現カセット、RDHFRマーカーカセットおよびRSA3断片)を、順次pBluescriptII SK+ベクター(TOYOBO)のマルチクローニングサイトに連結して、染色体導入型ベクターpBRDHFR-TDH3p-TrCBHIIを構築した(図4)。
(βグルコシダーゼを細胞表層に発現する乳酸生産酵母によるセロビオースからの乳酸生産)
特開2003-259878号公報に記載のpBTrp-PDC1-LDHKCBベクターを用いて、宿主である酵母IFO2260株のトリプトファン要求性変異株の染色体上にPDC1p-LDHを導入した。形質転換体はSD-Trp選択培地(6.7g/L yeast nitrogen base w/o amino acids(Difco), 20g/L グルコース、0.77g/l CSM-Trp (BIO 101))を用いて選抜した。つぎに通常の胞子解剖操作により、PDC1構造遺伝子がホモ破壊されており、破壊されたPDC1構造遺伝子上流のPDC1プロモータによって発現するLDH遺伝子が2コピー導入されている株(以下KCB27-7Aと称する)を作製した。
実施例1(2)(a)で作製したpBG418-PDC1p-AaBGLベクターを用いて、上記と同様の方法によりβグルコシダーゼ1遺伝子をKCB27-7Aの染色体上に2コピー導入した株(以下、PB−2P41Bと称す)を作製した。形質転換体はYPD培地(2%グルコース、1%酵母エキス、2%ペプトン、1.5%寒天)に0.2mg/mlのG418を添加したG418選択培地で選抜した。作製した形質転換体がβグルコシダーゼ活性を発現していることを以下の方法で確認した。YPD培地で一晩培養した後滅菌水で洗浄した菌体をリン酸バッファー(50mM リン酸ナトリウム、pH5.0)に懸濁して菌体液とした。リン酸バッファー中に2mM p-nitrophenyl β-D-glucopyranoside(Sigma)および菌体液をOD600=0.5となるように懸濁し、30℃で1分間反応したのち1M NaCOを添加して反応を停止させた。15,000rpmで5分間遠心分離して菌体を除いた上澄の波長400nmの吸光度を測定した。その結果、pBG418-PDC1p-AaBBGLを導入した形質転換体でのみ吸光度が増大したことから、βグルコシダーゼ活性が発現していることが確認された。
作製した形質転換体のセロビオースからの乳酸生産性を以下の方法で測定した。YPC10培地(10%セロビオース、1%酵母エキス、2%ペプトン)を3mlおよび中和剤(0.3gの炭酸カルシウム)を入れた試験管にKCB27-7A(LDHあり、BGなし)とPB-2P41B(LDHあり、BGあり)をそれぞれ1白金耳接種し72時間静置培養した。比較としてYPS10培地(10%シュークロース、1%酵母エキス、2%ペプトン)+中和剤の培地で同様に培養を行った。培養後に、培養液上澄の乳酸(LA)濃度およびエタノール(EtOH)濃度を測定した。なお、酵母のエタノール発酵経路においては、エタノール(M.W.=46)が1モル生成するときにCO(M.W.=44)が1モル生成するので、エタノール濃度に44/(44+46)=0.49を乗じた値をCO生産量とした。結果を図5に示す。
β−グルコシダーゼが導入されていないKCB27-7Aは、YPC10培地では生育することができず、乳酸及びエタノールは生産されなかった。一方β−グルコシダーゼを細胞表層に発現したPB-2P41BではYPC培地で乳酸およびエタノールを生産し、その生産量はシュークロースを炭素源としたYPS培地の場合と同等であった。これらの結果により、β−グルコシダーゼを細胞表層に発現する乳酸生産酵母が、元来酵母が資化することのできないセロビオースを資化して、酵母が資化できるシュークロースからの乳酸生産と同等の効率で乳酸を生産できることがわかった。
(3種類のセルラーゼを細胞表層に発現する乳酸生産酵母によるセルロースからの乳酸生産)
1倍体の実験室酵母YPH499の染色体上に実施例2と同様の操作により、染色体上のPDC1プロモーターによりLDHが発現されるように導入するとともに、PDC1遺伝子を破壊した乳酸生産酵母(以下、LY1と称する。)を作製した。
LY1に、β−グルコシダーゼ発現ベクターpBG211(前掲村井ら、1998)を導入して、β−グルコシダーゼを細胞表層に発現する株(以下B-LY1と称する)を作製した。形質転換体はSD−His選択培地(6.7g/L yeast nitrogen base w/o amino acids(Difco), 20g/L グルコース、0.77g/L CSM-His (BIO 101))を用いて選抜した。B-LY1がβグルコシダーゼ活性を発現していることを実施例2と同様の方法で確認した。
次にB-LY1にエンドグルカナーゼ発現ベクターpEG23u31H6(前掲藤田ら、2002)を導入して、βグルコシダーゼとエンドグルカナーゼを同時に細胞表層に発現する株(以下EB-LY1と称する)を作製した。形質転換体はSD-His-Ura選択培地(6.7g/L yeast nitrogen base w/o amino acids(Difco),20g/Lグルコース、0.77g/l CSM-His-Ura (BIO 101))を用いて選抜した。EB-LY1がβグルコシダーゼ活性を発現していることを実施例2と同様の方法で確認した。また、作製した形質転換体がエンドグルカナーゼ活性を発現していることを以下の方法で確認した。形質転換体の選抜時に用いたSD選択培地で1晩培養したのち滅菌水で洗浄した菌体をリン酸バッファー(50mM リン酸ナトリウム、pH5.0)に懸濁して菌体液とした。リン酸バッファー中に1%(w/v)の carboxymethyl cellulose(sodium salt)(Aldrich)と菌体液をOD600=10となるように懸濁し、30℃で1晩緩やかに攪拌しながら反応した。反応液の上澄みの還元糖濃度をソモギー・ネルソン法により定量した。その結果、EB−LY1で還元糖濃度が上昇したことから、エンドグルカナーゼ活性が発現していることが確認された。
次にEB-LY1にセロビオヒドロラーゼ発現ベクターpRS436GAP-CBHII(前掲藤田ら、2004)を導入してβグルコシダーゼ、エンドグルカナーゼおよびセロビオヒドロラーゼを同時に細胞表層に発現する株(以下CEB-LY1と称する)を作製した。形質転換体はSD-Ura-Leu-His選択培地(6.7g/L yeast nitrogen base w/o amino acids(Difco),20g/L グルコース、0.77g/L CSM-Ura-Leu-His (BIO 101))を用いて選抜した。CEB-LY1がβグルコシダーゼ活性およびエンドグルカナーゼ活性を発現していることを上記した方法で確認した。CEB-LY1がセロビオヒドロラーゼ活性を発現していることを以下の方法で確認した。形質転換体の選抜時に用いたSD選択培地で1晩培養したのち滅菌水で洗浄した菌体をリン酸バッファー(50mM リン酸ナトリウム、pH5.0)に懸濁して菌体液とした。リン酸バッファー中に1%(w/v)のリン酸膨潤セルロースと菌体液をOD600=10となるように懸濁し、30℃で1晩緩やかに攪拌しながら反応した。反応液の上澄みの還元糖濃度をソモギー・ネルソン法により定量した。その結果、CEB-LY1で還元糖濃度が上昇したことから、セロビオヒドロラーゼ活性が発現していることが確認された。
作製したLY1、B-LY1、EB-LY1およびCEB-LY1を形質転換体の選抜時に用いたSD選択培地で1晩培養したのち菌体を集菌し滅菌水で洗浄してセルロース培地(0.9%非晶性セルロース、0.67% Yeast Nitrogen Base、2%カザミノ酸、pH6.8)にOD600=25となるように添加した。使用した非晶性セルロースは、アビセルの懸濁液を315℃、25MPaの条件で2秒間の加圧熱水処理して作製した。この培地中の初発グルコース濃度を測定したところ0.04%のグルコースが検出された。菌体とセルロースが充分接触できるように緩やかにか撹拌しながら培養を行い、培養開始20時間後に培地を分取して、培養液上澄の乳酸(LA)濃度およびエタノール(EtOH)濃度を測定し、実施例2と同様にしてCO2生成量を計算した。次にセルロースの転換効率を以下の式で算出した。
転換効率 =(乳酸生産量+エタノール生産量+CO2生産量)/(初発セルロース濃度)x100
セルラーゼが導入されていないLY1株の転換効率は4%であった。これは最初に培地に含まれていたグルコースが転換されたものであると考えられる。セルラーゼを細胞表層に発現する酵母ではいずれの株でも乳酸およびエタノールが生産され、B-LY1株、EB-LY1株およびCEB-LY1株の転換効率はそれぞれ27%、36%および55%であった。このことは細胞表層に発現するセルラーゼの種類を増やすことにより、セルロースの糖化効率が高まることを示している。
(セルラーゼの添加)
実施例3で作製したLY1およびCEB-LY1を形質転換体の選抜時に用いたSD選択培地で1晩培養したのち菌体を集菌し滅菌水で洗浄して実施例3と同じセルロース培地にOD600=25となるように添加した。さらにTrichoderma reesei由来のセルラーゼ製剤(Novo社)を0%、0.1%、1%(v/v)を添加した。菌体とセルロースが充分接触できるように緩やかにかくはんしながら培養を行い、培養開始8時間後および24時間後に培地を分取して、培養液上澄の乳酸(LA)とエタノール濃度(EtOH)を測定し、実施例3と同様にして転換効率を計算した。結果を図6に示す。セルラーゼが導入されていないLY1株に比べて、3種類のセルラーゼを細胞表層に発現しているCEB-LY1では、同じ量のセルラーゼ製剤を添加した場合の転換効率が大きく、また転換速度も大きかった。このことは、細胞表層に発現したセルラーゼが、外から添加したセルラーゼと相乗的に働くことにより、より効率よくセルロースを分解・資化していることを示している。
(染色体導入による効果)
実施例3で作製したLY1の染色体上に実施例2と同様の方法でpBG418-PDC1p-AaBGLを導入した。形質転換体はG418選択培地で選抜した。得られた形質転換体に実施例1(2)(b)で作製したpBble-TDH3p-TrEGIIを導入した。形質転換体はフレオマイシン選択培地(10μg/mlのフレオマイシンを含むYPD培地)で選抜した。さらに、この形質転換体に実施例1(2)(c)で作製したpBRDHFR-TDH3p-TrCBHIIを導入した株(以下ICEB-LYと称する)を作製した。形質転換体は選択培地(10μg/mlのメトトレキセートと7.5mg/mlのスルファニルアミドを含むYPD培地)で選抜した。ICEB-LYがβグルコシダーゼ活性、エンドグルカナーゼ活性およびセロビオヒドロラーゼ活性を発現していることを実施例2および3に記載の方法で確認した。
ICEB-LY(3種のセルラーゼを染色体上に導入)とCEB-LY1(3種のセルラーゼをプラスミドで染色体外に導入)をSD選択培地で1晩培養したのち菌体を集菌し滅菌水で洗浄してセルロース培地(2%非晶性セルロース、0.67%Yeast Nitrogen Base、2%カザミノ酸、pH6.8)にOD600=25となるように添加した。菌体とセルロースが充分接触できるように緩やかにかくはんしながら培養を行った。培養24時間後に乳酸(LA)とエタノール(EtOH)の生産量を測定し、実施例3と同様にして転換効率を計算した。結果を図7に示す。プラスミドを用いたCEB-LY1にくらべて、これらのDNAが染色体に組み込まれているICEB-LY1の方が転換効率が高かった。このことは、セルラーゼを細胞表層に発現させた酵母を用いてセルロースから乳酸を生産させる場合には、染色体上に遺伝子を導入して発現させる方がより好適であることを示している。
Trichoderma reesei由来のセロビオヒドロラーゼIIを細胞表層に発現するためのYEpベクター(pRS435GAP-TrCBHII)の構造を示す図。 Aspergillus aculeatus由来のβ-グルコシダーゼ1を細胞表層に発現するための染色体組込型ベクター(pBG418-PDC1p-AaBGL)の構造を示す図。 Trichoderma reesei由来のエンドグルカナーゼIIを細胞表層に発現するための染色体組込型ベクター(pBble-TDH3p-TrEGII)の構造を示す図。 Trichoderma reesei由来のセロビオヒドロラーゼIIを細胞表層に発現するための染色体組込型ベクター(pBRDHFR-TDH3p-TrCBHII)の構造を示す図。 βグルコシダーゼを細胞表層に発現する乳酸生産酵母によるセロビオースからの乳酸生量産を示すグラフ図。 3種類のセルラーゼを細胞表層に発現する乳酸生産酵母によるセルロースからの乳酸の生産率を示すグラフ図(セルラーゼ製剤添加時と非添加時との比較) 3種類のセルラーゼを細胞表層に発現する乳酸生産酵母によるセルロースからの乳酸の生産率を示すグラフ図(染色体外導入時と染色体導入時との比較)。
配列番号1〜24:プライマー

Claims (19)

  1. セルロース、ヘミセルロースおよびデンプンから選択される多糖類あるいはその一部であるオリゴ糖類を分解して1種あるいは2種以上の単糖類を生成させる1種あるいは2種以上の分解酵素をそれぞれコードし、該分解酵素を細胞外に分泌および/または細胞表層に保持されるように発現可能に備えられる第1のポリヌクレオチドと、
    有機酸生産に関連する1種あるいは2種以上の酵素をそれぞれコードする第2のポリヌクレオチドと、
    を備え、
    前記多糖類あるいは前記オリゴ糖類を炭素源として利用して前記有機酸を生産する、微生物。
  2. 前記単糖類は、以下の単糖類(a)および(b);
    (a)グルコース、ガラクトース、マンノースおよびフルクトース
    (b)キシロースおよびアラビノース
    から選択される1種あるいは2種以上である、請求項1に記載の微生物。
  3. 前記多糖類は、セルロースおよびヘミセルロースから選択される、請求項1または2に記載の微生物。
  4. 前記多糖類および前記オリゴ糖類は、グルコースがβ−1,4−結合した構造を有しており、前記分解酵素は、β−グルコシダーゼ、エンドグルカナーゼおよびセロビオヒドラーゼからなる群から選択される、請求項1に記載の微生物。
  5. 前記分解酵素は、β−グルコシダーゼ、エンドグルカナーゼおよびセロビオヒドラーゼを含む、請求項4に記載の微生物。
  6. 前記多糖類および前記オリゴ糖類は、キシロース、マンノース、ガラクトースおよびアラビノースならびにその誘導体から選択される単糖類を構成単糖類として有し、前記分解酵素は、β−キシラナーゼ、β−キシロシダーゼ、α−アラビノフラノシダーゼ、マンノシダーゼ、マンナナーゼ、アラビナーゼ、ガラクタナーゼおよびペクチナーゼからなる群から選択される、請求項1に記載の微生物。
  7. 前記有機酸は乳酸であり、前記有機酸生産に関連する酵素は、乳酸脱水素酵素である、請求項1〜6のいずれかに記載の微生物。
  8. 前記第1のポリヌクレオチドおよび/または前記第2のポリヌクレオチドは、前記微生物において外来ポリヌクレオチドである、請求項1〜7のいずれかに記載の微生物。
  9. 前記第1のポリヌクレオチドおよび/または前記第2のポリヌクレオチドは、宿主染色体上に備えられている、請求項8に記載の微生物。
  10. 前記微生物はアルコール発酵能を有する、請求項1〜9のいずれかに記載の微生物。
  11. 前記微生物は酵母である、請求項10に記載の微生物。
  12. 宿主染色体上のPDC遺伝子のいずれかが破壊されている、請求項10又は11に記載の微生物。
  13. 前記第2のポリヌクレオチドが宿主染色体上のいずれかのPDC遺伝子のプロモーターにより制御可能に備えられている、請求項10〜12のいずれかに記載の微生物。
  14. セルロース、ヘミセルロースおよびデンプンから選択される多糖類あるいはその一部であるオリゴ糖類を分解して1種あるいは2種以上の単糖類を生成させる1種あるいは2種以上の分解酵素をそれぞれコードし、該分解酵素を細胞外に分泌および/または細胞表層に保持されるように発現可能に備えられる第1のポリヌクレオチドと、有機酸生産に関連する1種あるいは2種以上の酵素をそれぞれコードする第2のポリヌクレオチドと、を備え、前記多糖類あるいは前記オリゴ糖類を炭素源として利用して前記有機酸を生産する微生物を、前記多糖類あるいはオリゴ糖類を炭素源の少なくとも一部として含有する培地を用いて培養して有機酸を生産する工程、を備える、有機酸の生産方法。
  15. 前記多糖類および前記オリゴ糖類は、グルコースがβ1,4−結合した構造を有しており、前記分解酵素は、β−グルコシダーゼ、エンドグルカナーゼおよびセロビオヒドラーゼからなる群から選択される、請求項14に記載の生産方法。
  16. 前記炭素源は、植物性バイオマス資源から分離あるいは抽出されたフラクションを含む、請求項14または15に記載の方法。
  17. 前記セルロースとして、非晶質セルロースあるいは低分子化されたセルロースを含む、請求項14〜16のいずれかに記載の方法。
  18. 前記培地には、前記培地に含まれる前記多糖類あるいは前記オリゴ糖類の種類に対応する分解酵素および/または該分解酵素により生成される糖類が添加されている、請求項14〜17のいずれかに記載の方法。
  19. 培養開始時において前記分解酵素および/または前記糖類が培地に添加されている、請求項18に記載の方法。
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