JP2006021257A - 潤滑被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具 - Google Patents

潤滑被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具 Download PDF

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Abstract

【課題】 潤滑被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具を提供する。
【解決手段】WC基超硬合金またはTiCN基サーメットからなる基体の表面に蒸着形成される潤滑被覆層を、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{111}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分及び集計してなる傾斜角度数分布グラフにおいて、3〜15度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記3〜15度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45〜65%の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示し、かつ1〜15μmの平均層厚を有する窒化クロム層、で構成する。
【選択図】図1

Description

この発明は、特にAl合金やCu合金などの非鉄合金などの粘性が高く、切粉が工具切刃に溶着し易い被削材の高速切削加工に際して、潤滑被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具(以下、被覆超硬工具という)に関するものである。
一般に、被覆超硬工具には、各種の被削材の旋削加工や平削り加工にバイトの先端部に着脱自在に取り付けて用いられるスローアウエイチップ、穴あけ切削加工などに用いられるドリルやミニチュアドリル、さらに切刃が断続切削加工形態をとる面削加工や溝加工、肩加工などに用いられるソリッドタイプのエンドミルなどがあり、また前記スローアウエイチップを着脱自在に取り付けて前記ソリッドタイプのエンドミルと同様に切削加工を行うスローアウエイエンドミル工具などが知られている。
また、上記の非鉄合金などの被削材の切削加工に用いられる代表的被覆超硬工具として、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットで構成された基体(以下、これらを総称して超硬基体という)の表面に、窒化クロム(以下、CrNで示す)層からなる潤滑被覆層を1〜15μmの平均層厚で物理蒸着してなる被覆超硬工具が提案されている。
さらに、上記の被覆超硬工具が、例えば図5に概略説明図で示され、カソード電極(蒸発源)として金属クロム(Cr)が装着された物理蒸着装置の1種であるアークイオンプレーティング装置に上記の超硬基体を装着し、まず、
装置内雰囲気:0.1Pa以下の真空、
装置内加熱温度:300〜500℃、
超硬基体に印加する直流バイアス電圧:−600〜−1000V、
上記カソード電極である金属Crとアノード電極間のアーク放電電流:60〜100A、
処理時間:1〜10分、
の条件で、アノード電極と上記金属Crのカソード電極との間にアーク放電を発生させて、上記超硬基体の表面をCrボンバード洗浄処理した状態で、
ヒータで装置内を、例えば500℃の温度に加熱保持しながら、アノード電極と前記金属Crのカソード電極(蒸発源)との間に、例えば電流:90Aの条件でアーク放電を発生させ、同時に装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して、例えば2Paの反応雰囲気とし、一方上記超硬基体には、例えば−100Vのバイアス電圧を印加した条件で、前記超硬基体の表面に、上記CrN層からなる潤滑被覆層を蒸着することにより製造されることも知られている。
特開平1−2907785号公報
近年の切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴ない、切削加工は高速化の傾向にあるが、上記の潤滑被覆層がCrN層からなる従来被覆超硬工具においては、潤滑被覆層であるCrN層が、CrやCrN、さらにCrNなどの混合組成からなるために、潤滑効果が局部的に不均一になるのが避けられず、特に高速加工では、前記組成不均一が原因で摩耗進行が著しく促進され、比較的短時間で摩滅状態となり、CrN層が摩滅状態では切刃部に切粉粘着が原因でチッピングが発生し、この結果使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、上記の従来被覆超硬工具の潤滑被覆層に着目し、これの一段の耐摩耗性向上をはかるべく研究を行った結果、
(a)例えば図4に概略説明図で示される通り、カソード電極として、金属クロム(Cr)の外に、金属タングステン(W)を装着したアークイオンプレーティング装置を用い、上記の従来の超硬基体表面に対するCrボンバード洗浄処理に代って、
装置内雰囲気:0.1Pa以下の真空
装置内加熱温度:550〜700℃、
超硬基体に印加する直流バイアス電圧:−600〜−1000V、
上記カソード電極である金属Wとアノード電極間のアーク放電電流:60〜100A、
処理時間:1〜10分、
の条件で、上記の超硬基体表面をWボンバード処理する基体表面改質処理を施した状態で、通常の条件で、潤滑被覆層としてCrN層を形成すると、この結果形成されたCrN層は、組成的に均質となり、摩耗進行が均一化することから、高速切削で長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮するようになること。
(b)上記(a)のCrN層と上記の従来CrN層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図1に概略説明図で示される通り、表面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{111}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフを作成した場合、前記従来CrN層は、図3に例示される通り、{111}面の測定傾斜角の分布が0〜45度の範囲内で不偏的な傾斜角度数分布グラフを示すのに対して、前記(a)のCrN層の傾斜角度数分布グラフは、図2に例示される通り、傾斜角区分の特定位置にシャープな最高ピークが現れ、このシャープな最高ピークは超硬基体表面をWでボンバード処理する表面改質処理に際して、カソード電極である金属Wとアノード電極間のアーク放電電流を変化させることによりグラフ横軸の傾斜角区分に現れる位置が変ること。
(c)多くの試験結果によれば、上記カソード電極とアノード電極間のアーク放電電流を上記の通り60〜100Aの範囲内で変化させると、上記シャープな最高ピークが傾斜角区分の3〜15度の範囲内に現れると共に、前記3〜15度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45〜65%の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示すようになり、こような傾斜角度数分布グラフを示すCrN層を潤滑被覆層として形成してなる被覆超硬工具は高速切削でもすぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するようになること。
以上(a)〜(c)に示される研究結果を得たのである。
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、WC基超硬合金またはTiCN基サーメットで構成された超硬基体の表面に、
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{111}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフにおいて、3〜15度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記3〜15度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45〜65%の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示し、かつ1〜15μmの平均層厚を有するCrN層、
で構成された潤滑被覆層を形成してなる、潤滑被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する被覆超硬工具に特徴を有するものである。
なお、この発明の被覆超硬工具の潤滑被覆層において、その平均層厚が1μm未満では、所望の潤滑効果を確保することができず、一方その平均層厚が15μmを越えると、潤滑被覆層自体にチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜15μmと定めたのである。
また、上記の通り、この発明の被覆超硬工具の潤滑被覆層であるCrN層の傾斜角度数分布グラフにおける測定傾斜角の最高ピーク位置は、カソード電極(金属Cr)とアノード電極間のアーク放電電流を変化させることによって変化するが、多くの試験の結果、前記アーク放電電流を60〜100Aとした場合に、最高ピークが3〜15度の範囲内の傾斜角区分に現れると共に、前記3〜15度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45〜65%の割合を占める傾斜角度数分布グラフが得られるようになる、という結論に達したものであり、したがって、前記アーク放電電流が60A未満でも、100Aを越えても、測定傾斜角の最高ピーク位置は3〜15度の範囲から外れてしまい、このような場合には所望のすぐれた耐摩耗性を発揮することができないものである。
この発明の被覆超硬工具は、特にAl合金やCu合金などの非鉄合金などの粘性が高く、切粉が工具切刃に溶着し易い被削材の高速切削加工に際して、潤滑被覆層が一段とすぐれた耐摩耗性を発揮し、使用寿命の延命化に寄与するものである。
つぎに、この発明の被覆超硬工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr32粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、100MPa の圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を6Paの真空中、温度:1400℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.03のホーニング加工を施してISO規格・CNMG120408のチップ形状をもったWC基超硬合金製の超硬基体A1〜A10を形成した。
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(重量比でTiC/TiN=50/50)粉末、Mo2C粉末、ZrC粉末、NbC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、100MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を2kPaの窒素雰囲気中、温度:1500℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.03のホーニング加工を施してISO規格・CNMG120408のチップ形状をもったTiCN基サーメット製の超硬基体B1〜B6を形成した。
ついで、上記の超硬基体A1〜A10およびB1〜B6のそれぞれを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、図4に例示される通り、カソード電極として、金属Cr(蒸発源)および金属W(超硬基体表面改質処理用)が装着されたアークイオンプレーティング装置に装着し、まず、
装置内雰囲気:0.1Pa以下の真空、
装置内加熱温度:600℃、
超硬基体に印加する直流バイアス電圧:−800V、
上記カソード電極である金属Wとアノード電極間のアーク放電電流:60〜100Aの範囲内の所定の電流、
処理時間:5分、
の条件で、上記のカソード電極の前記金属Wとアノード電極との間にアーク放電を発生させて、超硬基体表面をWボンバード処理する基体表面改質処理を施し、ついで装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して2Paの反応雰囲気とすると共に、前記超硬基体には−100Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ前記カソード電極である金属Crとアノード電極との間には100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記超硬基体の表面に、表3に示される目標層厚のCrN層を蒸着することにより、本発明被覆超硬工具としての本発明表面被覆超硬合金製スローアウエイチップ(以下、本発明被覆超硬チップと云う)1〜16をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、図5に例示される通り、カソード電極として金属Crを装着したアークイオンプレーティング装置を用い、上記の超硬基体表面を、上記のWボンバード処理による超硬表面改質処理に代って、
装置内雰囲気:0.1Pa以下の真空、
装置内加熱温度:500℃、
超硬基体に印加する直流バイアス電圧:−800V、
上記カソード電極である金属Crとアノード電極間のアーク放電電流:60〜100Aの範囲内の所定の電流、
処理時間:5分、
の条件で、超硬基体の表面をCrボンバード洗浄処理する以外は同一の条件でCrN層を蒸着することにより、表4に示される通りの従来被覆超硬工具としての従来表面被覆超硬合金製スローアウエイチップ(以下、従来被覆超硬チップと云う)1〜16をそれぞれ製造した。
つぎに、上記本発明被覆超硬チップ1〜16および従来被覆超硬チップ1〜16について、これを工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、
被削材:JIS・AC3Aの丸棒、
切削速度:350m/min.、
切り込み:2mm、
送り:0.3mm/rev.、
切削時間:10分、
の条件(切削条件Aという)でのアルミニウム合金の乾式連続高速切削加工試験(通常の切削速度は200m/min.)、
被削材:JIS・C1020の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:300m/min.、
切り込み:1.8mm、
送り:0.25mm/rev.、
切削時間:10分、
の条件(切削条件Bという)での無酸素銅の乾式断続高速切削加工試験(通常の切削速度は150m/min.)、さらに、
被削材:JIS・C1100の丸棒、
切削速度:380m/min.、
切り込み:1.5mm、
送り:0.3mm/rev.、
切削時間:10分、
の条件(切削条件Cという)での りん脱酸銅の乾式連続高速切削加工試験(通常の切削速度は200m/min.)を行い、いずれの高速切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表4に示した。
Figure 2006021257
Figure 2006021257
Figure 2006021257
Figure 2006021257
原料粉末として、平均粒径:5.5μmを有する中粗粒WC粉末、同0.8μmの微粒WC粉末、同1.3μmのTaC粉末、同1.2μmのNbC粉末、同1.2μmのZrC粉末、同2.3μmのCr32粉末、同1.5μmのVC粉末、同1.0μmの(Ti,W)C[質量比で、50/50]粉末、および同1.8μmのCo粉末を用意し、これら原料粉末をそれぞれ表5に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、100MPaの圧力で所定形状の各種の圧粉体にプレス成形し、これらの圧粉体を、6Paの真空雰囲気中、7℃/分の昇温速度で1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に昇温し、この温度に1時間保持後、炉冷の条件で焼結して、直径が8mm、13mm、および26mmの3種の超硬基体形成用丸棒焼結体を形成し、さらに前記の3種の丸棒焼結体から、研削加工にて、表6に示される組合せで、切刃部の直径×長さがそれぞれ6mm×13mm、10mm×22mm、および20mm×45mmの寸法、並びにいずれもねじれ角:30度の4枚刃スクエアの形状をもった超硬基体(エンドミル)C−1〜C−8をそれぞれ製造した。
また、別途、上記超硬基体(エンドミル)C−1〜C−8とそれぞれ同じ組成をもち、かついずれも平面:12mm×12mm、厚さ:6mmの寸法をもった電界放出型走査電子顕微鏡による傾斜角度数分布グラフ作成用試験片を用意した。
ついで、これらの超硬基体(エンドミル)C−1〜C−8および試験片を、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図4に例示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、超硬基体表面改質処理を行い、かつ表6に示される目標層厚のCrN層を蒸着することにより、本発明被覆超硬工具としての本発明表面被覆超硬合金製エンドミル(以下、本発明被覆超硬エンドミルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、上記実施例1と同一の条件で、上記の超硬基体の表面を、上記の超硬基体表面改質処理に代って、装置内加熱温度を500℃とした状態で、Crボンバード洗浄する以外は同一の条件でCrN層を蒸着することにより、同じく表6に示される通りの従来被覆超硬工具としての従来表面被覆超硬合金製エンドミル(以下、従来被覆超硬エンドミルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
つぎに、上記本発明被覆超硬エンドミル1〜8および従来被覆超硬エンドミル1〜8のうち、本発明被覆超硬エンドミル1〜3および従来被覆超硬エンドミル1〜3については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・C1020の板材、
切削速度:280m/min.、
溝深さ(切り込み):0.8mm、
テーブル送り:2500mm/分、
の条件での無酸素銅の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は150m/min.)、本発明被覆超硬エンドミル4〜6および従来被覆超硬エンドミル4〜6については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・AC3Aの板材、
切削速度:350m/min.、
溝深さ(切り込み):3mm、
テーブル送り:1600mm/分、
の条件でのアルミニウム合金の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は200m/min.)、本発明被覆超硬エンドミル7,8および従来被覆超硬エンドミル7,8については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・C1100の板材、
切削速度:300m/min.、
溝深さ(切り込み):3mm、
テーブル送り:1200mm/分、
の条件でのりん脱酸銅の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は150m/min.)をそれぞれ行い、いずれの溝切削加工試験でも切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削溝長を測定した。この測定結果を表6にそれぞれ示した。
Figure 2006021257
Figure 2006021257
上記の実施例2で製造した直径が8mm(超硬基体C−1〜C−3形成用)、13mm(超硬基体C−4〜C−6形成用)、および26mm(超硬基体C−7、C−8形成用)の3種の丸棒焼結体を用い、この3種の丸棒焼結体から、研削加工にて、溝形成部の直径×長さがそれぞれ4mm×13mm(超硬基体D−1〜D−3)、8mm×22mm(超硬基体D−4〜D−6)、および16mm×45mm(超硬基体D−7、D−8)の寸法、並びにいずれもねじれ角:30度の2枚刃形状をもった超硬基体(ドリル)D−1〜D−8をそれぞれ製造した。
また、同じく上記超硬基体(ドリル)D−1〜D−8とそれぞれ同じ組成を有し、かついずれも平面:12mm×12mm、厚さ:6mmの寸法をもった電界放出型走査電子顕微鏡による傾斜角度数分布グラフ作成用試験片も用意した。
ついで、これらの超硬基体(ドリル)D−1〜D−8の切刃に、ホーニングを施し、上記の試験片と共に、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図4に例示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、超硬基体表面改質処理を行い、かつ表7に示される目標層厚のCrN層を蒸着することにより、本発明被覆超硬工具としての本発明表面被覆超硬合金製ドリル(以下、本発明被覆超硬ドリルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、上記実施例1と同一の条件で、上記の超硬基体の表面を、上記の超硬基体表面改質処理に代って、装置内加熱温度を500℃とした状態で、Crボンバード洗浄する以外は同一の条件でCrN層を蒸着することにより、表7に示される通りの従来被覆超硬工具としての従来表面被覆超硬合金製ドリル(以下、従来被覆超硬ドリルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
つぎに、上記本発明被覆超硬ドリル1〜8および従来被覆超硬ドリル1〜8のうち、本発明被覆超硬ドリル1〜3および従来被覆超硬ドリル1〜3については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・C1020の板材、
切削速度:160m/min.、
送り:0.18mm/rev、
穴深さ:8mm
の条件での無酸素銅の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は80m/min.)、本発明被覆超硬ドリル4〜6および従来被覆超硬ドリル4〜6については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・AC3Aの板材、
切削速度:180m/min.、
送り:0.22mm/rev、
穴深さ:16mm
の条件でのアルミニウム合金の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は90m/min.)、本発明被覆超硬ドリル7,8および従来被覆超硬ドリル7,8については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・C1100の板材、
切削速度:220m/min.、
送り:0.33mm/rev、
穴深さ:32mm
の条件でのりん脱酸銅の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は110m/min.)、をそれぞれ行い、いずれの湿式高速穴あけ切削加工試験(水溶性切削油使用)でも先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果を表7に示した。
Figure 2006021257
この結果得られた本発明被覆超硬工具としての本発明被覆超硬チップ1〜16、本発明被覆超硬エンドミル1〜8、および本発明被覆超硬ドリル1〜8、並びに従来被覆超硬工具としての従来被覆超硬チップ1〜16、従来被覆超硬エンドミル1〜8、および従来被覆超硬ドリル1〜8のCrN層の厚さを、走査型電子顕微鏡を用いて断面測定したところ、いずれも目標値と実質的に同じ平均層厚(5点測定の平均値)を示した。
さらに、上記の本発明被覆超硬工具と従来被覆超硬工具のCrN層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用いて、傾斜角度数分布グラフをそれぞれ作成した。
すなわち、上記傾斜角度数分布グラフは、上記のCrN層の表面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記表面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射し、電子後方散乱回折像装置を用いて、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{111}面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計することにより作成した。
この結果得られた各種のCrN層の傾斜角度数分布グラフにおいて、本発明被覆超硬工具のCrN層は、表3、表6、および表7にそれぞれ示される通り、いずれも{111}面の測定傾斜角の分布が3〜15度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが現れる傾斜角度数分布グラフを示すのに対して、従来被覆超硬工具のCrN層は、表4、表6、および表7にそれぞれ示される通り、いずれも{111}面の測定傾斜角の分布が0〜45度の範囲内で不偏的で、最高ピークが存在しない傾斜角度数分布グラフを示すものであった。
また表3、表4、表6、および表7には、上記の本発明被覆超硬工具および従来被覆超硬工具のCrN層の傾斜角度数分布グラフにおいて、3〜15度の範囲内の傾斜角区分に存在する傾斜角度数のグラフ全体の傾斜角度数に占める割合を示した。
なお、図2は、本発明被覆超硬チップ1のCrN層の傾斜角度数分布グラフ、図3は、従来被覆超硬チップ1のCrN層の傾斜角度数分布グラフをそれぞれ示すものである。
表3〜7に示される結果から、本発明被覆超硬工具は、いずれも潤滑被覆層を構成するCrN層の{111}面が傾斜角度数分布グラフで3〜15度の範囲内の傾斜角区分で最高ピークを示し、高速切削ですぐれた耐摩耗性を示すのに対して、硬質被覆が、{111}面の測定傾斜角の分布が0〜45度の範囲内で不偏的で、最高ピークが存在しない傾斜角度数分布グラフを示すCrN層で構成された従来被覆超硬工具においては、CrN層の摩耗進行が相対的に速く、CrN層が摩滅した時点で切刃部に切粉の粘着現象が発生し、この粘着現象が原因でチッピングが発生し、この時点で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の被覆超硬工具は、特に潤滑被覆層であるCrN層がAl合金やCu合金などの非鉄合金などの粘性の高い被削材の高速切削加工ですぐれた耐摩耗性を示し、長期に亘ってすぐれた潤滑性を発揮するものであるから、切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
潤滑被覆層を構成するCrN層における結晶粒の結晶面である{111}面の法線が表面研磨面の法線に対する傾斜角の測定範囲を示す概略説明図である。 本発明被覆超硬チップ1の潤滑被覆層を構成するCrN層の{111}面の傾斜角度数分布グラフである。 従来被覆超硬チップ1の潤滑被覆層を構成するCrN層の{111}面の傾斜角度数分布グラフである。 本発明被覆超硬工具の潤滑被覆層を構成するCrN層の形成に用いたアークイオンプレーティング装置の概略説明図である。 従来被覆超硬工具の潤滑被覆層を構成するCrN層の形成に用いたアークイオンプレーティング装置の概略説明図である。

Claims (1)

  1. 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された基体の表面に、
    電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{111}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフにおいて、3〜15度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記3〜15度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の45〜65%の割合を占める傾斜角度数分布グラフを示し、かつ1〜15μmの平均層厚を有する窒化クロム層、
    で構成された潤滑被覆層を形成してなる、潤滑被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する被覆超硬超硬合金製切削工具。
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