JP2006008716A - リポキシゲナーゼ阻害剤 - Google Patents
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Abstract
【課題】リポキシゲナーゼを阻害する新たな安全性の高い薬剤を提供すること。さらに、リポキシゲナーゼが関与すると考えられる炎症性疾患、アレルギー性疾患、喘息などの疾患の治療剤を提供すること。
【解決手段】本発明のリポキシゲナーゼ阻害剤およびリポキシゲナーゼが関与する疾患の治療剤は、アスタキサンチンおよび/またはそのエステルを有効成分として含有する。本発明のリポキシゲナーゼ阻害剤は、リポキシゲナーゼが関与すると考えられる種々の疾患の治療に有用である。
【選択図】なし
【解決手段】本発明のリポキシゲナーゼ阻害剤およびリポキシゲナーゼが関与する疾患の治療剤は、アスタキサンチンおよび/またはそのエステルを有効成分として含有する。本発明のリポキシゲナーゼ阻害剤は、リポキシゲナーゼが関与すると考えられる種々の疾患の治療に有用である。
【選択図】なし
Description
本発明は、リポキシゲナーゼ阻害剤に関する。より詳細には、アスタキサンチンおよび/またはそのエステルを有効成分として含有する、リポキシゲナーゼ阻害剤、およびリポキシゲナーゼが関与する疾患の治療剤に関する。
アラキドン酸は生体内においては細胞膜の構成成分として存在する長鎖高度不飽和脂肪酸であり、ある刺激を受けるとホスホリパーゼの作用でリン脂質より遊離される。遊離したアラキドン酸は、アラキドン酸代謝酵素(リポキシゲナーゼなど)によって代謝され、炎症などに関与するプロスタグランジン(PG)類、血栓の形成などに関与するトロンボキサン(TX)類、アレルギーを誘発するロイコトリエン(LT)類、リポキシン(LX)類などの物質に変換される。このように、アラキドン酸代謝酵素は、循環器系疾患、アレルギー性疾患や炎症などに関与する原因物質を生成する。そこで、これらの疾患の予防や治療のためには酵素によるアラキドン酸代謝を特異的に阻害することが有効であると考えられる。
アラキドン酸代謝系に関与している代表的な酵素としては、5−リポキシゲナーゼ、12−リポキシゲナーゼ、シクロオキシゲナーゼなどがある。5−リポキシゲナーゼは、アラキドン酸を、その5位の炭素に酸素が添加された5−ヒドロペルオキシ−6,8,10,14−エイコサテトラエン酸(5−HPETE)を経て5−ヒドロキシ−6,8,10,14−エイコサテトラエン酸(5−HETE)へと代謝し、アレルギー性疾患、炎症、喘息などに関与するロイコトリエン(LT)類を誘導する酵素である。また、12−リポキシゲナーゼは、アラキドン酸を基質として、動脈硬化、アレルギー性疾患、癌の転移などに関与する12−ヒドロキシ−5,8,10,14−エイコサテトラエン酸(12−HETE)に代謝する酵素である。
従来、リポキシゲナーゼを阻害する天然物としては、例えば、5−リポキシゲナーゼ阻害作用を有するカフェー酸、ケルセチンなどが知られている。近年、このような天然物として、カテコール誘導体(特許文献1)、エゴマ抽出物(特許文献2)、カヤツリ草に含まれるピセアタンノールおよびその誘導体(特許文献3)、クワ科植物であるアルトカルパス属植物から抽出され得るアルトカルピン(特許文献4)なども報告されている。その他のポリフェノール類の中にもリポキシゲナーゼの阻害作用を有する天然物が存在する。しかし、これらの物質は、酵素阻害剤としては未だ実用化されていない。
カロテノイド(カロチノイド)は、動物、植物、および微生物に広く分布し、その数約600種におよぶ黄〜橙〜赤色を呈する脂溶性生体色素である。その一種であるアスタキサンチンは、オキアミ、エビ、カニなどの甲殻類、サケ・マスの筋肉・卵(イクラなど)、タイ・コイ・金魚などの体表などに含有されている。アスタキサンチンは、プロビタミンAとなり得ることや顕著な抗酸化作用を有することだけでなく、抗炎症作用を有することも知られている(例えば、特許文献5および6)。その作用機作については、炎症性サイトカインおよびケモカインの発現の阻害(特許文献7)、ヒスタミンの放出抑制(特許文献8)などによることが報告されている。しかし、上記のようなリポキシゲナーゼの活性に対する影響に関しては、全く報告がない。
特開平9−157206号公報
特開平10−298098号公報
特開平7−53359号公報
特開2004−231587号公報
特開平7−300421号公報
特開2004−331512号公報
特表2003−528139号公報
米国特許第5886053号明細書
本発明は、リポキシゲナーゼを阻害する新たな安全性の高い薬剤を提供することを目的とする。本発明はさらに、リポキシゲナーゼが関与する疾患の治療剤を提供することを目的とする。
抗炎症剤として知られているアスタキサンチンについて種々の検討を行ったところ、アスタキサンチンがリポキシゲナーゼ阻害作用を有することを見出し、本発明を完成した。
本発明は、アスタキサンチンおよび/またはそのエステルを有効成分として含有する、リポキシゲナーゼ阻害剤を提供する。
本発明はまた、アスタキサンチンおよび/またはそのエステルを有効成分として含有する、リポキシゲナーゼが関与する疾患の治療剤を提供する。
1つの実施態様では、上記疾患は、炎症性疾患、アレルギー性疾患、または喘息である。
本発明によれば、新たなリポキシゲナーゼ阻害剤が提供される。このリポキシゲナーゼ阻害剤は、リポキシゲナーゼが関与すると考えられる炎症性疾患、アレルギー性疾患、喘息などの種々の疾患の治療剤として用いられ得る。本発明のリポキシゲナーゼ阻害剤は、非常に毒性が低いため、安全性が高い。
本発明のリポキシゲナーゼ阻害剤の有効成分であるアスタキサンチンおよび/またはそのエステルは、以下の式:
(ここで、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子または脂肪酸残基である)で示されるカロテノイドの一種である。アスタキサンチンのエステルとしては、特に限定されないが、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸などの飽和脂肪酸、あるいはオレイン酸、リノール酸、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、ビスホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸などの不飽和脂肪酸のモノエステルまたはジエステルが挙げられる。これらは単独でまたは適宜組み合わせて用いることができる。アスタキサンチンは、β−カロチンの骨格の両端にオキソ基とヒドロキシ基とを余分に有する構造であるため、β−カロチンとは異なり、分子の安定性が低い。これに対し、両端のヒドロキシ基が不飽和脂肪酸などでエステル化されたエステル体(例えば、オキアミ抽出物)はより安定である。
本発明に用いられるアスタキサンチンおよび/またはそのエステルは、化学的に合成されたものであっても、あるいは天然物由来のもののいずれであってもよい。後者の天然物としては、アスタキサンチンおよび/またはそのエステルを含有する赤色酵母;ティグリオパス(赤ミジンコ)、オキアミなどの甲殻類の殻;緑藻類などの微細藻類などが挙げられる。本発明においては、アスタキサンチンおよび/またはそのエステルの特性を利用できるものであれば、どのような方法で生産されたアスタキサンチンおよび/またはそのエステルを含有する抽出物をも使用することができる。一般的には、これらの天然物からの抽出物が用いられ、抽出エキスの状態であっても、また必要により適宜精製したものであってもよい。本発明においては、このようなアスタキサンチンおよび/またはそのエステルを含有する粗抽出物や破砕粉体物、あるいは必要により適宜精製されたもの、化学合成されたものを、単独でまたは適宜組み合わせて用いることができる。体内での安定性を考慮すると、好ましくはエステル体が用いられる。
本発明のリポキシゲナーゼ阻害剤は、リポキシゲナーゼが関与する疾患または症状を治療または予防するのに有用であり得る。このような疾患または症状としては、喘息および関連する閉塞性気道疾患、アレルギー性鼻炎を含むアレルギー症状、慢性関節リウマチおよび痛風、乾癬およびアトピー性皮膚炎、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、浮腫、炎症性腸疾患(例えば、クローン病)、眼炎症、エンドトキシンショック、アテローム性動脈硬化症および心臓血管障害(例えば、虚血−誘発心筋損傷、高血圧症)、血栓症、癌細胞の転移などが挙げられる。
本発明のリポキシゲナーゼが関与する疾患の治療剤は、上記の本発明のリポキシゲナーゼ阻害剤と同様に、アスタキサンチンおよび/またはそのエステルを有効成分として含有する。特に、炎症性疾患、アレルギー性疾患、および喘息の治療に有用である。
本発明のリポキシゲナーゼ阻害剤またはリポキシゲナーゼが関与する疾患の治療剤の投与経路は、経口投与または非経口投与のいずれであってもよい。その剤形は、投与経路に応じて適宜選択される。例えば、注射液、輸液、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、腸溶剤、トローチ、内用液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、外用液剤、湿布剤、点鼻剤、点耳剤、点眼剤、吸入剤、軟膏剤、ローション剤、坐剤、経腸栄養剤などが挙げられる。これは、症状に応じてそれぞれ単独でまたは組み合わせて使用することができる。これらの製剤には、必要に応じて、賦形剤、結合剤、防腐剤、酸化安定剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味剤などの医薬の製剤技術分野において通常用いられる補助剤が用いられる。
本発明のリポキシゲナーゼ阻害剤またはリポキシゲナーゼが関与する疾患の治療剤の投与量は、投与の目的や投与対象者の状況(性別、年齢、体重など)に応じて異なる。通常、成人に対して、アスタキサンチンフリー体換算で、経口投与の場合、1日あたり0.1mg〜2g、好ましくは4mg〜500mg、一方、非経口投与の場合、1日あたり0.01mg〜1g、好ましくは0.1mg〜500mgで投与され得る。
本発明のリポキシゲナーゼ阻害剤は、上記のような医薬品としてだけでなく、医薬部外品、化粧品、機能性食品、栄養補助剤、飲食物などとして使用することができる。医薬部外品または化粧品として使用する場合、必要に応じて、医薬部外品または化粧品などの技術分野で通常用いられている種々の補助剤とともに使用され得る。あるいは、機能性食品、栄養補助剤、または飲食物として使用する場合、必要に応じて、例えば、甘味料、香辛料、調味料、防腐剤、保存料、殺菌剤、酸化防止剤などの食品に通常用いられる添加剤とともに使用してもよい。また、溶液状、懸濁液状、シロップ状、顆粒状、クリーム状、ペースト状、ゼリー状などの所望の形状で、あるいは必要に応じて成形して使用してもよい。これらに含まれる割合は、特に限定されず、使用目的、使用形態、および使用量に応じて適宜選択することができる。
(調製例1:アスタキサンチンモノエステルの調製)
アスタキサンチンモノエステルを、次のように調製した。ヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcus pulvialis)K0084株を、25℃にて光照射条件下3%CO2を含むガスを通気しながら栄養ストレス(窒素源欠乏)をかけて培養し、シスト化した。シスト化した細胞を、当業者が通常用いる手段によって破砕し、エタノールで油性画分を抽出した。抽出物は、アスタキサンチン類の他に、トリグリセリドなどの脂質を含んでいた。抽出物を、合成樹脂吸着剤を用いるカラムクロマトグラフィーにかけて、アスタキサンチンのモノエステルを含む精製物を得た。この精製物をHPLCによって分析し、このアスタキサンチンモノエステル精製物が、分子量858のモノエステルを主成分として含み、アスタキサンチンの遊離体およびジエステル体を含まず、わずかにジグリセリドを含んでいることを確認した。
アスタキサンチンモノエステルを、次のように調製した。ヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcus pulvialis)K0084株を、25℃にて光照射条件下3%CO2を含むガスを通気しながら栄養ストレス(窒素源欠乏)をかけて培養し、シスト化した。シスト化した細胞を、当業者が通常用いる手段によって破砕し、エタノールで油性画分を抽出した。抽出物は、アスタキサンチン類の他に、トリグリセリドなどの脂質を含んでいた。抽出物を、合成樹脂吸着剤を用いるカラムクロマトグラフィーにかけて、アスタキサンチンのモノエステルを含む精製物を得た。この精製物をHPLCによって分析し、このアスタキサンチンモノエステル精製物が、分子量858のモノエステルを主成分として含み、アスタキサンチンの遊離体およびジエステル体を含まず、わずかにジグリセリドを含んでいることを確認した。
(実施例1:リポキシゲナーゼの活性に及ぼす効果)
上記調製例1で得たアスタキサンチンモノエステルについて、リポキシゲナーゼの活性に及ぼす効果を検討した。リポキシゲナーゼとして、ヒトPBML細胞由来の5−リポキシゲナーゼを用いた。アスタキサンチンモノエステルを、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、以下の表1に示すアッセイ系に250、25、2.5、および0.25μMとなるように添加してインキュベートして、阻害率を測定した。
上記調製例1で得たアスタキサンチンモノエステルについて、リポキシゲナーゼの活性に及ぼす効果を検討した。リポキシゲナーゼとして、ヒトPBML細胞由来の5−リポキシゲナーゼを用いた。アスタキサンチンモノエステルを、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、以下の表1に示すアッセイ系に250、25、2.5、および0.25μMとなるように添加してインキュベートして、阻害率を測定した。
アスタキサンチンモノエステルによる50%阻害濃度(IC50)は、25μMであった。250μMにおける酵素活性の阻害率は、97%であった。このように、アスタキサンチンモノエステルは、5−リポキシゲナーゼに対して比較的低い阻害濃度かつ高い阻害率を示した。
(参考例1:HUVECに対する50%致死濃度の測定)
ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)(ATCC CRL−1730)を、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションから入手し、1%Antibiotic-Antimycotic(GIBCO BRL, USA)を添加した10%ウシ胎児血清含有Endothelial Cell Growth Medium(CELL APPLICATIONS, USA))中、5%CO2雰囲気下、37℃にて予備培養した。
ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)(ATCC CRL−1730)を、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションから入手し、1%Antibiotic-Antimycotic(GIBCO BRL, USA)を添加した10%ウシ胎児血清含有Endothelial Cell Growth Medium(CELL APPLICATIONS, USA))中、5%CO2雰囲気下、37℃にて予備培養した。
Matrigelマトリックス(BD Biosciences, USA)を融解して氷上で4℃にて保持し、そして50μLのマトリックスを96ウェル組織培養プレートの各ウェルに移した。プレートを37℃にて少なくとも1時間インキュベートして、マトリックス溶液を固化させた。
一方、上記調製例1で得たアスタキサンチンモノエステルを、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、次いで蒸留水で希釈して、40(v/v)%DMSO中に25000、2500、250、25、および2.5μMのアスタキサンチンモノエステルを含むストック試験溶液を調製した。
100μLのHUVEC懸濁液(約2.5×103細胞/ウェル)を、5%CO2雰囲気下37℃にて96ウェルのMatrigelプレートに入れた。24時間後、100μLの増殖培地および上記の各ストック試験溶液またはベヒクル(40(v/v)%DMSO)2μLずつを、各2つのウェルに添加し、さらに72時間インキュベートした。DMSOおよびアスタキサンチンモノエステルの最終濃度は、250、25、2.5、0.25、および0.025μMであった。
インキュベーション終了後、20μLの90%alamarBlue試薬を個々のウェルに添加し、さらに6時間インキュベートした。次いで、各ウェルの蛍光強度を、Spectrafluor Plusプレートリーダーを用いて、励起波長530nmおよび発光波長590nmにて測定し、生存細胞数を計数した。これは、生存細胞が、alamarBlueを非蛍光性の酸化型(青)から蛍光性の還元型(赤)に変化させる能力に基づく。なお、50%致死濃度は、実験開始時の細胞数の50%になる濃度を算出した。
この結果、HUVECに対するアスタキサンチンモノエステルの50%致死濃度(LC50)は250μM(DMSOへの最大溶解濃度)以上であり、毒性が低いことがわかった。
本発明によれば、新たなリポキシゲナーゼ阻害剤が提供される。このリポキシゲナーゼ阻害剤は、リポキシゲナーゼが関与すると考えられる炎症性疾患、アレルギー性疾患、喘息などの種々の疾患の治療剤として用いられ得る。本発明のリポキシゲナーゼ阻害剤の有効成分であるアスタキサンチンおよび/またはそのエステルは食経験が長く、非常に毒性が低いため、安全性が極めて高い。したがって、医薬品として使用されるだけでなく、健康食品などとして日常的に予防的に用いられ得る。
Claims (3)
- アスタキサンチンおよび/またはそのエステルを有効成分として含有する、リポキシゲナーゼ阻害剤。
- アスタキサンチンおよび/またはそのエステルを有効成分として含有する、リポキシゲナーゼが関与する疾患の治療剤。
- 前記疾患が、炎症性疾患、アレルギー性疾患、または喘息である、請求項2に記載の治療剤。
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