今日のポストゲノム時代において、タンパク質の分析のために多くの試験計画が、現在開発されている。最も慣用されるアプローチでは、タンパク質レベルの変動の記録に焦点が当てられている。これらのアプローチは、一般に「プロテオミクス」と称されている。概してプロテオミクスは生物学的混合物からタンパク質の広範なプロファイルの存在量を測定しようとしている。最も一般的な実施態様では、プロテオミクスは、2次元SDS−PAGEによるサンプル内のタンパク質の分離に関与する。次いで、これらのゲルの個々のタンパク質のスポットパターンを比較して2つの比較するサンプルにおける特定のタンパク質の相対的な存在量として指標を得ることができる。こうしたアプローチを更に拡張して、スポットを切り出し、そしてそれをペプチド質量フィンガープリントに供することにより個々のタンパク質スポットの分子同一性を決定することができる。更に最近では、電気泳動工程を排除し、そして質量分析により複合混合物を直接分析することによりプロテオミクスを実施する方法が報告されている。例えば、当技術分野で現在報告されている方法により、タンパク質混合物と反応して、そのタンパク質混合物中の多くのタンパク質を非特異的、または非志向的な様式で標識してタンパク質の定量分析のみを行うことができる化学反応性の化合物が提供されている(Linkら、Nat.Biotechnol.17:676−682(1999);Gygiら、Nat.Biotechnol.17:994−999(1999))。かかる方法は、化学的プローブにコンジュゲートすることができるタンパク質内に多くの化学的に反応性のアミノ酸残基があり、それにより得られたタンパク質複合体を続いて定量して、タンパク質存在量の指標をもたらすことができることを教示している。国際公開公報第01/77668号では、アクティビティー・ベースト・プローブ(ABP)の標的タンパク質をスクリーニングするための上記ABPの使用が記載されている。この技術ではABPを、薬物標的複合体を検出するために提供される親和性リガンドと結合させる。しかしながらタンパク質の複合混合物、更にはプロテオーム全体の更に詳細な分析を可能にする方法を開発することが急務となっている。細胞におけるタンパク質活性の調節(活性化または阻止)は、細胞のその他の成分に利用可能なタンパク質構造の変化によるものであることは周知である。立体構造の変化およびタンパク質のヒンジ領域における動きはこれらのタンパク質の特定の部分を暴露し、そして酵素基質、アダプタータンパク質、およびその他の成分、例えば薬物のような化合物に接触させることを可能にする。更に、薬物の活性は、その生物学的活性に影響するタンパク質との特異的相互作用による。いくつかの場合では、既存の薬物のタンパク質標的が既知である。例えばアスピリンは、シクロオキシゲナーゼと反応し、ペニシリンは、グラム陽性細菌のペプチドグリカン・アミノトランスフェラーゼの偽基質である。またいくつかの例外的な場合では、標的タンパク質の3D構造に基づいて薬物が設計され、そして改良されている。しかしながらほとんどの場合、生物学的活性を有する成分は、未だにその標的タンパク質が割り当てられておらず、したがってほとんどの薬物の標的は解っていない。既存の薬物または開発中の薬物の標的の信頼できる同定は、薬物の特異性の推定および副作用の予測に非常に貴重である。更に薬物に対する個体間応答がかなりばらつくことは既知である。現代の薬物開発の目的は、個々の患者のカテゴリーに効率的なテーラーメード薬物を作製することである。
本発明は、先で引用した問題に対する解決に関し、そして薬物の相互作用パートナーおよび標的タンパク質の1次構造における相互作用部位をも決定する方法を開示する。
この方法を用いて、個々の患者または患者群において同定されている特定の薬物の標的と上記薬物に対する疾患応答性の間の相関関係を推定することができる。本発明者らの方法は、国際公開公報第01/77668号に記載されるような薬物に結合させた検出可能なまたは親和性の標識の使用に依存しない。加えてこの方法は、クロマトグラフィー工程において薬物標的を効率的に単離できるという利点を提供する。加えて本発明を用いて、薬物が結合する1次構造の部位またはタンパク質標的を効率的に決定することができる。
図1A) アクチンを標的ペプチド「CP」と共にインキュベーションし、そしてトランスグルタミナーゼにより架橋した。架橋された成分をエンド−Lys−Cで消化した。C−18逆相カラム(ラン1)で分離されたエンド−Lys−CペプチドのUV吸収プロファイルを図1Aに示す。溶媒Aは、0.1%TFA、溶媒Bは、0.1%TFA水中70%アセトニトリルである。溶媒Bの勾配を示す。溶出ペプチドを5分間の長い間隔を空けて収集し、そして乾燥する。
図1B) Xa因子を用いる特異的切断の後、架橋されたペプチドを含有する画分6を、ラン1と同一のクロマトグラフィー条件で再度流した。架橋を担持するシフトしたペプチドが、図1B中の未修飾ペプチドのバルクの直前に認められる(黒色)。
図2) エレクトロスプレーイオン化質量分析により、画分6の直前にシフトしている架橋されたペプチド(図1B)を分析した。異なって荷電したペプチドイオンが示され、そしてこの架橋されたジペプチドの質量を決定することが可能になる。マイクロマス Q−TOF装置で分析を行った。
図3A) ジャーカット細胞の全ライセートをエンド−Lys−Cで消化した。このペプチド混合物をアクチンCPコンジュゲートの類似の消化物と混合した。図1Aにおけるように逆相クロマトグラフィーによりペプチド混合物を分離した。クロマトグラムの第1部分をAUFS0.1で記録し、第2部分をAUFS0.2で記録した。2分の画分の溶出液を収集した。これらの画分を乾燥し、そしてXa因子で処理する前に表1のように組み合わせた。
図3B) プールDのペプチドのUV追跡を示す(表1参照)。主画分9、14および19のプロファイルを示す。9*はペプチドのバルクの直前で溶出されるピークである。9**は過剰のCPに由来するAc−F−I−E−G−Rペプチドであり、そしてXa因子により切断される。画分14の直前で溶出される(暗い)ピークに注目されたい。全てのクロマトグラフィー条件は、図1の実験のとおりであった。
本発明の目的と詳細な説明
本発明は、薬物標的の単離および同定のための代替方法を提供する。この方法により広範な細胞ライセートバックグラウンドでタンパク質および/もしくは酵素のクラスまたは個々のタンパク質および/もしくは酵素の発現レベルおよび/または活性の定量もまた可能になる。方法は、本質的に、薬物結合した標的の集団が、薬物上で、変化した薬物結合した標的の第2のクロマトグラフィー分離におけるクロマトグラフィー挙動がその未変化のもののクロマトグラフィー挙動と異なるように特異的に変化させる工程により分離される、同一の型の2回のクロマトグラフィー分離の組み合わせを利用する。変化した薬物結合標的の異なるクロマトグラフィー挙動を標的の単離およびそれに続く同定に用いる。
一実施態様では本発明は、特異的に変化し得る官能基を含む化合物の標的分子の少なくとも1つを単離する方法を提供し、上記方法は、(a)上記化合物を分子の複合混合物に添加する工程であって、上記化合物が分子の少なくとも1つと安定して相互作用して化合物−標的複合体を形成する工程、(b)得られた分子の複合混合物および化合物−標的複合体をクロマトグラフィーにより画分に分離する工程、(c)各画分の少なくとも1つの化合物−標的複合体に存在する上記化合物を化学的に、または酵素的に、または化学的および酵素的に変化させる工程、ならびに(d)クロマトグラフィーにより上記化合物と相互作用する少なくとも1つの標的分子を単離する工程であって、工程(b)および(d)のクロマトグラフィーを同一の型のクロマトグラフィーで実施する工程、を含む。
本発明の別の実施態様では、特異的に変化し得る官能基を含む化合物の標的タンパク質の少なくとも1つを単離する方法を提供する。上記方法は、(a)上記化合物をタンパク質の複合混合物に添加する工程であって、上記化合物が標的タンパク質の少なくとも1つと安定して相互作用して化合物−タンパク質複合体を形成する工程、(b)得られたタンパク質および化合物−タンパク質複合体の複合混合物をクロマトグラフィーにより画分に分離する工程、(c)各画分の化合物−タンパク質複合体の少なくとも1つに存在する上記化合物を化学的に、または酵素的に、または化学的および酵素的に変化させる工程、ならびに(d)クロマトグラフィーにより上記分子と相互作用する標的タンパク質の少なくとも1つを単離する工程であって、工程(b)および(d)のクロマトグラフィーを同一の型のクロマトグラフィーで実施する工程と、を含む。
本発明の別の実施態様では、特異的に変化し得る官能基を含む化合物の少なくとも1つの標的ペプチドを単離する方法を提供する。上記方法は、(a)上記化合物をタンパク質の複合混合物に添加する工程であって、上記化合物は、少なくとも1つの標的タンパク質と安定して相互作用して化合物−タンパク質複合体を形成する工程、(b)得られた複合タンパク質混合物および化合物−タンパク質複合体をタンパク質ペプチド混合物に切断する工程、(c)上記タンパク質ペプチド混合物クロマトグラフィーにより画分に分離する工程、(d)各画分の少なくとも1つの化合物−ペプチド複合体に存在する上記化合物を化学的に、または酵素的に、または化学的および酵素的に変化させる工程と、ならびに(e)クロマトグラフィーにより上記化合物と相互作用する少なくとも1つの標的ペプチドを単離する工程であって、工程(b)および(d)のクロマトグラフィーを同一の型のクロマトグラフィーで実施する工程、を含む。
本発明の更に別の実施態様では、特異的に変化し得る官能基を含む化合物を、直接タンパク質ペプチド混合物に添加し、上記化合物が標的ペプチドの少なくとも1つと安定して相互作用して化合物−ペプチド複合体を形成する、上記化合物の標的の少なくとも1つを単離する方法を提供する。
更に別の実施態様では、先の方法で用いるクロマトグラフィー条件は、同一であるかまたは実質的に類似している。
本明細書で用いる「タンパク質ペプチド混合物」は、典型的にはタンパク質を含むサンプルの切断の結果として得られるペプチドの複合混合物である。このようなサンプルは典型的には、あらゆるタンパク質の複合混合物、例えば非限定例としては、原核もしくは真核細胞ライセート、または細胞もしくは特定のオルガネラ画分、生検、レーザーキャプチャーにより切断された細胞もしくはいずれかの大きなタンパク質複合体(例えばリボソーム、ウイルス等)から単離されたタンパク質のいずれかの複合混合物である。このようなタンパク質サンプルがペプチドに切断される場合、これらは1.000、5.000、10.000、20.000、30.000、100.000まで、または更に多くの異なるペプチドを容易に含有できると予測できる。しかしながら、特定の場合に、「タンパク質ペプチド混合物」が直接体液または更に一般的には生物学的起源のいずれかの溶液に由来することも可能である。例えば尿は、タンパク質に加えて、そのペプチドが腎臓を介して排泄される体内のタンパク質のタンパク質溶解性分解の結果得られる非常に複雑なペプチド混合物を含有することは周知である。タンパク質ペプチド混合物の更に別の実例は、脳脊髄液に存在するペプチドの混合物である。
「化合物の標的の少なくとも1つ」なる用語は、特定の化合物が1つ以上の標的分子または分子のクラスと安定して相互作用することを意味する。化合物の標的への結合は、特異的であり、これは上記化合物が分子の複合混合物中の分子の少なくとも1つと結合し、そしてその他の分子とは結合しないことを意味している。通常、化合物は、薬物、薬物アナログまたは薬物誘導体である。好ましくは上記結合により、分子の不活性化または部分的不活性化が引き起こされ(例えばその活性が阻止される)、そして結合は、好ましくは分子(例えばタンパク質)の活性部位で生じる。結合は、タンパク質の活性部位で生じるので、本発明の方法を活性タンパク質の特定のクラスの単離に用いることもできる。活性であるとは、活性部位が化合物に接近可能であるが、同一のクラスの不活性タンパク質は、活性部位が化合物に接近することができないので単離されないことを意味する。
ここで、タンパク質の「活性部位」は、化合物(例えば基質、リガンド、薬物、または薬物アナログもしくは薬物誘導体)が結合でき、タンパク質の立体配置の変化を招く、タンパク質(例えば酵素またはレセプター)の表面の特定の部分を意味する。レセプターに関しては、コンホメーションの変化により、タンパク質は、リン酸化もしくは脱リン酸化またはその他の処理を受けやすくなる。その他のタンパク質に関しては、活性部位は、基質および/もしくはコファクターまたは薬物もしくは薬物アナログもしくは薬物誘導体が結合するか、または基質およびコファクターが触媒反応を行うか、あるいは2つのタンパク質が複合体(例えば2つのクリングル構造結合、転写因子がその他のタンパク質に結合する部位、タンパク質が特異的核酸配列に結合する部位等)を形成する部位である。
本発明の「化合物」は、標的分子に非競合的または実質的に不可逆的に結合するための多官能性物質である化学的試薬である。「化合物」は、小型の化合物(有機または無機)、既存の薬物、開発中の薬物、薬物リード、薬物アナログまたは薬物誘導体を含む。個々の化合物、化合物のサブセットまたは化合物の完全なセットを化合物のライブラリー、例えばコンビナトリアルケミストリーにより確立されたライブラリーから誘導する。最も一般的な用語では、化合物は、(1)上記化合物とその標的分子の間の特異的相互作用を決定する化学構造(「S」部)、(2)化合物およびその標的分子が強固に架橋される得る化学的に反応性の基(「L」部)、ならびに(3)特異的および調節可能な様式で変化し得る官能基(「A」部)から成る。これらの3つの特性(特異性に関する「S」、架橋に関する「L」、および変化に関する「A」)は化合物構造において異なって分布し得る。
本発明によれば、化合物−標的複合体を2回のクロマトグラフィー分離の間に化学的、または酵素的、または化学的および酵素的に変化させる。好ましい実施態様では、化合物は薬物、薬物アナログ、または薬物誘導体である。薬物誘導体は、余分な基、例えば変化する部分(「A」部)、またはその標的を強固に架橋することができる官能基(「L」部)が結合している薬物(例えば既存の薬物)である。上記「A」基または「A」部は、2回のクロマトグラフィー分離の間の化学的、または酵素的、または化学的および酵素的変化に必要であり、そして十分である。
標的分子の「S」、「L」、および「A」部を本明細書で用いるアミノ酸の1文字表記法、Ser(S)、Leu(L)、およびAla(A)と区別するために;その対応するアミノ酸を定義するためにS、L、およびAを用いるが、化合物内の官能性の構成要素を示すために「S」、「L」、および「A」、または「S」部、「L」部、および「A」部、または「S」部、「L」部、および「A」部を用いる。「S」は、反応の特異性を決定し、「L」は、化合物と標的分子の間の共有結合または強固な連結を作製するのに寄与する基を決定し、そして「A」は特異的に変化し得る基を決定する。
「S」、「L」、および「A」は、化合物内の異なる構成要素でもよいが、2つまたは3つ全部一緒のいずれかで、同一の官能性を共有することができる。
以下の実施例では、異なる「SLA」成分を説明する。
化合物の特異性決定部分(「S」部)は標的(例えば酵素の活性部位)の特定のコンホメーションと相互作用する化学的な部分を含む官能基または官能基の集合から成る。この相互作用のために、完全な化合物が、標的と密に接触するようになり、化合物の妥当な濃度で連結の確立が可能になる。化合物の濃度が上がれば、特異性が低下することは周知である。したがって、化合物の「S」部は、生理学的に適切な濃度でその標的と接触すべきである。ある状況では、化合物の「S」部は、活性標的を不活性標的と区別することができる。特定の化合物(例えば薬物)はタンパク質の活性形態のみを標的とするか、または更に稀であるが、その以外が不活性タンパク質のみを標的とすることを意味する。別の状況では、それにより反応性の官能性を有する(複数の)標的タンパク質のコンホメーション、または活性化を必要とするコンホメーションでは、優勢な反応は活性部位においてである。化合物は、標的タンパク質に存在する官能性と反応する化学反応基(「L」部)をも含有する。上記化合物とその標的との間の連結は、最も理想的には共有結合特性のものである。しかしながら、十分に強力で、そしてすべての化学的および/または酵素的処理に対して、すべてのクロマトグラフィー工程において用いられる溶媒およびバッファーに対して、ならびに分類手順全体において用いられるすべてのその他の工程に対して抵抗するあらゆる結合を考慮することができる。このような非共有結合性であるが、十分に強力な結合は、例えば同一平面にあるシス・ヒドロキシル基とボロン酸誘導体との間で形成することができる。「L」部を化合物の「S」部、例えばペニシリン、5−フルオロウラシル、またはカスパーゼ−1インヒビターのごとき酵素自殺インヒビターに組み込むことができる。特異性決定基および連結基は、必ずしも同一部分に存在する必要はなく、化合物構造において空間的に分離されていてもよい。これは実施例1.4にて説明しており、「S」部および「L」部は、標的タンパク質の異なる表面で接触する。このような化学反応基は、例えばジアゾケトン、アリールアジド、アリールケトン、アリールメチルハロゲン化物等の光活性化可能な基でよく、そのいずれもが非選択的に標的タンパク質に結合できるが、標的タンパク質の特異的部位で「S」部により移される。このような化学的に反応性の基は、高い選択性を有する官能基から構成され得る。アミノ基、例えばアミダート、無水コハク酸等;SH基、例えばメチルマレイミドまたはアセチルハロゲン化物等に関する選択性。このような化学反応基はその後で破壊できる連結を形成し得る。例えば、無水マレイン酸とアミノ基との間で形成される結合を酸処理により破壊してもよい。「L」部と標的タンパク質との間のこのような連結を酵素触媒により形成してもよい。例えば、標的のグルタミン側鎖と化合物のリジンεNH2基との間の連結をトランスグルタミナーゼの作用により形成させることもできる。
特定の実施態様では、生物学的標的分子は、ポリペプチド、核酸、炭水化物、核タンパク質、糖ペプチドまたは糖脂質、好ましくはポリペプチドであり、これは例えば酵素、ホルモン、転写因子、レセプター、レセプターのペプチドリガンド、成長因子、免疫グロブリン、ステロイドレセプター、核タンパク質、シグナルトランスダクション成分、アロステリック酵素調節因子等でもよい。生物学的標的はまた、ポリペプチド、核酸、炭水化物、糖ペプチドまたは糖脂質のクラスまたはファミリー、好ましくはタンパク質のクラス、例えばヒドロラーゼ、デヒドロゲナーゼ、リガーゼ、トランスフェラーゼおよび互いにまたはその他の生物学的構造に結合するタンパク質でもよい。
化合物−標的複合体(例えば薬物−タンパク質相互作用)に関係して本明細書で用いる「変化する」または「変化した」または「変化」なる用語は、明確な意図をもって、上記変化した化合物を含有するこのような化合物−標的複合体のクロマトグラフィー挙動を変化させるための化合物(例えば薬物)における特異的修飾の導入を意味する。通常、変化は、化合物の「A」部(変化部分)においてであるが、変化を化合物の「S」または「L」部(特異性または連結部分)において生じさせることもできる。このような変化は、安定した化学的または酵素的修飾であり得る。このような変化は、分子との一過性の相互作用を導入することもできる。典型的には変化は、共有結合反応であるが、しかしながら変化は、この複合体がクロマトグラフィー工程の間に十分に安定であれば、標的に結合した化合物間の複合体形成から成ることもできる。典型的には、変化は、逆相クロマトグラフィーにおいて、変化した化合物−標的がその未変化のもとは異なって移動するように、疎水性または正味電荷の変化を招く。あるいは、変化は、変化した化合物−標的複合体がイオン交換クロマトグラフィー、例えばアニオン交換またはカチオン交換クロマトグラフィーにおいて未変化のもとは異なって移動するように、化合物−標的複合体の正味電荷の変化を招く。あるいは、化合物−標的複合体の正味電荷の特異的変化を電気泳動系により、更にとりわけキャピラリー電気泳動により同等に引き出すことができる。また変化は、薬物−標的複合体の一部、例えば薬物−標的複合体の「A」部の切断でもよい。また、変化は、変化した化合物−標的複合体がクロマトグラフィー分離において未変化のものと異なって移動するような、化合物−標的複合体におけるあらゆるその他の生化学的、化学的、または生物物理学的変化を招き得る。「異なって移動する」なる用語は、特定の変化した化合物−標的複合体が、ラン1における同一の未変化化合物−標的複合体の溶出時間に関して、ラン2において異なった溶出時間で溶出されることを意味する。このような変化は、2次ランで分けられた複合体の前方または後方のいずれかへのシフトを誘導することができる。変化工程は、化合物−標的複合体に対して、より特異的であるべきであり、そして1種を超えるまたは限定されたセットを超える、化合物を担持しないペプチドには生じてはならない。この場合、差分解析により変化した化合物−標的複合体を変化したペプチドから区別することができる。好ましくは、変化工程は、化合物−標的複合体に対して高度に特異的であり、そして化合物を担持しない他のいかなるペプチドにおいても生じない。化合物の化学反応または酵素反応または化学および酵素反応の組み合わせにより変化を得ることができる。化学反応の非限定的なリストには、アルキル化、アセチル化、ニトロシル化、酸化、ヒドロキシル化、メチル化、還元、加水分解(塩基または酸)等が含まれる。酵素反応の非限定的なリストには、化合物−標的複合体をホスファターゼ、アセチラーゼ、グリコシダーゼ、特異的プロテアーゼまたは化合物上に存在する翻訳と同時のまたは翻訳後の修飾を修飾するその他の酵素が含まれる。化学的変化は、1つの化学反応を含むことができるが、変化の効率を増すために1つを超える反応、例えば2つの連続した反応を含むこともできる。同様に、酵素的変化は、1つ以上の酵素反応を含むことができる。このような変化は、同一の型の2回のクロマトグラフィー分離の間に適用される。
得られた変化した生成物は、理想的には元来の共有結合または強固な結合の部位で変化した分子(タグ)を担持するペプチドである。理想的には、容易であるとともに正確な分析および同定を可能にするために、このようなタグは、小型であり、限定数の原子を含有すべきである。更に理想的には、絶対に必要というわけではないが、このようなタグは、質量分析による定量的差分解析を容易にする重いまたは軽い安定な同位元素のいずれかで標識できる官能基を含有すべきである。
「安定して相互作用する」なる用語は、分子の複合混合物(例えば複合体タンパク質混合物またはタンパク質ペプチド混合物)に添加した化合物(例えば薬物または薬物誘導体)間の相互作用を意味する。上記相互作用は、上記化合物のパートナー、換言すれば、上記化合物の標的分子の単離に十分強力である。上記相互作用は、2回のクロマトグラフィー分離の間、十分に安定である。特定の実施態様では、上記相互作用は、共有結合相互作用である。
同一の型のクロマトグラフィーとは、クロマトグラフィーの型が第1の分離および第2の分離の両方で同一であることを意味する。クロマトグラフィーの型は、例えば両分離において、分子(例えばペプチド)および化合物−分子複合体の疎水性に基づく。同様にクロマトグラフィーの型は、両工程で、分子(例えばペプチド)の電荷およびイオン交換クロマトグラフィーまたはキャピラリー電気泳動の使用に基づいてもよい。更に別の代替では、クロマトグラフィー分離は、両工程でサイズ排除クロマトグラフィーまたはあらゆるその他の型のクロマトグラフィーに基づく。
変化の前の第1のクロマトグラフィー分離は、以後「1次ラン」または「1次クロマトグラフィー工程」または「1次クロマトグラフィー分離」または「ラン1」と称する。変化した画分の第2のクロマトグラフィー分離は、以後「2次ラン」または「2次クロマトグラフィー工程」または「2次クロマトグラフィー分離」または「ラン2」と称する。
本発明の好ましい実施態様では、1次ランおよび2次ランのクロマトグラフィー条件は、同一であるか、または当業者にとって実質的に類似している。実質的に類似しているとは、例えばクロマトグラフィー条件が、ラン2で未変化分子の同一または予測可能な溶出、および未変化の化合物−標的複合体から区別されると予測され、そしてこれが各画分でラン1から収集される変化した化合物−標的複合体(例えば変化した薬物−タンパク質または変化した薬物−ペプチド複合体)の溶出に至る限り、流れおよび/または勾配および/または温度および/または圧力および/またはクロマトグラフィービーズおよび/または溶媒組成の小さな変化がラン1とラン2の間で許容されることを意味する。変化した化合物−標的複合体は、ラン2で異なるクロマトグラフィー挙動を有する。変化は、変化した化合物−標的複合体のシフトを誘起する。このシフトのために、変化した化合物−標的複合体は、ラン1と比較して異なる位置決めラン2で溶出され、そしてその結果、上記複合体を単離および同定することができる(本明細書を更に参照)。
上記化合物のタンパク質ペプチド混合物への添加、および1次クロマトグラフィー工程による上記処理されたタンパク質ペプチド混合物の画分への分離の後に特定の化合物のタンパク質標的を決定しようとする特定の実施例においては、本発明は、化合物−ペプチド複合体の変化が1次ランからの各ペプチド画分において有効であることを必要とする。上記1次ラン(第1クロマトグラフィー工程における)に由来する画分で、ペプチドおよび未変化の化合物−ペプチド複合体を見出すことができる。したがって、1次クロマトグラフィー工程から得られる各画分では、変化した化合物−ペプチド複合体は、2次クロマトグラフィー工程において未変化の化合物−ペプチド複合体と区別して移動されなければならない。化合物−ペプチド複合体の化合物部分の変化は、上記変化した化合物−ペプチド複合体の溶出にシフトを誘起する。適用された変化の型に依存して、変化した化合物−ペプチド複合体の疎水性、正味電荷および/またはリガンド(例えば金属イオン)に対する親和性の変化によりシフトを引き起こすことができる。このシフトはδpと称され、そして個々の変化した化合物−ペプチド複合体に特異的である。疎水性の変化の実例では、δp値を疎水性モーメントにおける変化、またはクロマトグラフィーランにおける有機溶媒のパーセンテージとして表現することもできるが、最も現実的には、規定のクロマトグラフィー/電気泳動条件下での時間単位で表現することができる。したがって、δpは、各変化した化合物−ペプチド複合体において必ずしも同一ではなく、δmaxおよびδminの間に在る。δpは、多くの因子、例えば誘起された変化の特性、カラム静止相の特性、移動相(バッファー、溶媒)、温度およびその他により影響を受ける。すべて含めたδpは、δmaxおよびδminの両極端を描く。t1およびt2を考えると、シフトした変化した化合物−ペプチド複合体の区間の始めと終わりを描く時間、そしてt3およびt4を考えると、1次ランから得られた画分を囲む時間、次いでδmin(最小シフト)はt3−t2により決定されるが、δmax(最大シフト)はt4−t1により決定される。ウインドウw1は、未修飾ペプチドが2次ランで溶出される画分ウインドウであり、w1=t4−t3である。ウインドウw2は、変化した化合物−ペプチド複合体が溶出されるウインドウであり、w2=t2−t1である。したがって、δmin=t3−t2;δmax=t4−t1、w1=δmax+t1−δmin−t2となり、w2=t2−t1=δmax−δmin−w1となる。ソーティング過程における重要な要素は、未変化および規定の画分で最小シフトした、変化した化合物−ペプチド複合体の間の距離を描くδmin、および変化した化合物−ペプチド複合体を溶出する時間−ウインドウであるw2である。「ソーティングされた」なる語は、本発明では「単離された」なる語と同等である。δminは、変化した化合物−ペプチド複合体がウインドウw1内で溶出される(そしてこのようなものは未変化の化合物−ペプチド複合体と重複する)ことを回避するのに十分でなければならず、そしてこのルールを1次ランから収集されるすべての画分に適用すべきである。変化したおよび未変化化合物−ペプチド複合体間の重複を最小にするために、δminは、優先的にw1またはそれよりも大きくなるべきである。例えば、w1=1分である場合、δminはできれば1分以上であるべきである。変化した化合物−ペプチド複合体の重複または同時溶出を回避することにより、最適数の個々の変化した化合物−ペプチド複合体を同定する可能性が向上する。この観点から、ウインドウw2の大きさは、同定できる変化した化合物−ペプチド複合体の数に影響を及ぼす。w2の値が大きくなると、変化した化合物−ペプチド複合体の溶出時間の緩和(decompression)をもたらし、変化した化合物−ペプチド複合体の単離が良好になり、そして同定のために分析器例えば質量分析器に標的(変化した化合物−ペプチド複合体)を徐々に提示することにより分析の機会がより良好になる。ウインドウw2は、w1よりも小さくてもよいが、好ましい実施態様ではw2は、w1よりも大きい。例えば、w1=1分である場合、w2は、1分以上であり得る。w2の大きさならびにδminおよびδmaxの値は、1次ランから収集されたすべての画分で同一また非常に近似しているのが好ましい。しかしながら、変化した化合物−ペプチド複合体の溶出ウインドウにおける未変化の化合物−ペプチド複合体のわずかな夾雑は好ましくないが、許容できることは自明である。各1次ラン画分の未変化の化合物−ペプチド複合体からの変化した化合物−ペプチド複合体の分離を最適にするためのδmin、δmaxおよびw2の値の操作は、本発明の一部であり、とりわけ変化、変化の型およびクロマトグラフィー条件(カラムの型、バッファー、溶媒等)のために選択された化合物の適正な組み合わせを含む。親水性シフトの態様は、上記実施されているが、変化した化合物−ペプチド複合体を未変化の化合物−ペプチド複合体から分離するために疎水性シフトを誘起するという類似の記載を提供することもできる。ここでt3およびt4は、未変化の化合物−ペプチド複合体が溶出されるウインドウw1を定義するが、t5およびt6は、変化した化合物−ペプチド複合体が溶出されるウインドウw2を定義する。最大疎水性シフトδmax=t6−t3であり、最低シフト=t5−t4である。画分がプールされている条件に関して類似の計算を用いることができることは理解される。
例えばイオン交換クロマトグラフィーまたはその他の型のクロマトグラフィーで化合物−ペプチド複合体を単離するために同一のアプローチを適用できることは当業者に明白である。
したがって、化合物が、1つの標的ペプチドまたは限定数の標的ペプチドに連結されているのみであるが、大部分のペプチドは化合物にコンジュゲートしていないペプチドの複合混合物(例えばタンパク質ペプチド混合物)の場合、ソーティング過程は以下のとおりである。全ペプチド混合物は最初に1次クロマトグラフィー工程で分離される。溶出されたペプチドを適当な数の画分に収集する。次いで例えば収集された各画分に存在する化合物−ペプチド複合体の「A」部で変化工程を実施する。原理的には、すべての画分を2次クロマトグラフィー工程に供する。化合物に連結されたペプチド(いわゆる化合物−ペプチド複合体)は変化し、そしてクロマトグラフィーシフトを示す。化合物に連結されていないペプチドは、ラン2の間、ラン1に関して、同一の予測される位置で溶出される。ラン1のすべての画分は、ラン2の全分離プロトコルの断片のみを占めるので、ラン2においてソーティングするためにラン1の複数の画分を合わせることができる。ソーティングされたペプチド(ここでは化合物−ペプチド複合体)が近隣画分の未変化ペプチドと重複しないように画分を合わせる。したがって更に別の実施態様では、本発明は、本発明の方法を実施することができるソーティング装置の使用に関する。非限定例としては、本発明の分子はタンパク質またはペプチドであり、方法は2回の連続したクロマトグラフィー工程:例えばタンパク質ペプチド混合物(特定のペプチドまたはペプチドのクラスに対して特異性を有する、変化し得る官能基を含む化合物を加えた)を用いる、上記混合物を画分に分割する1次クロマトグラフィー工程、および画分に存在する少なくとも1つの化合物−ペプチド複合体の特異的な化学的および/または酵素的変化の後に実施される2次クロマトグラフィー工程を含むことができる。本明細書で記載する、「ペプチドソーター」なる用語は、変化した化合物−ペプチド複合体を未変化の化合物−ペプチド複合体から効率的に分離する装置を意味する。好ましい態様では、2次ランの間、未変化の化合物−ペプチド複合体がその元来の溶出時間で留まり、そして変化した化合物−ペプチド複合体が溶出時間のシフトの実施を誘起するような、同一の、または非常に類似したクロマトグラフィー条件を2回のクロマトグラフィー工程で用いる。加えて、別の好ましい態様では、化合物−ペプチド混合物の変化は、ほぼ完全に起こると推測される。本明細書で記載するように、例えばペプチドソーターの使用は、とりわけラン1の後に得られた画分のプーリングおよび2次クロマトグラフィー工程(例えば、変化した化合物−ペプチド複合体を未変化複合体から分離してラン1画分の各々からの変化した化合物−ペプチド複合体の単離をスピードアップする工程)の最適な編成を意味する。タンパク質ペプチド混合物から単離された変化した化合物−ペプチド複合体を単離および同定するための1つのアプローチは、1次クロマトグラフィー分離からすべての画分を別個に収集すること、各画分中で化合物−ペプチド複合体上の化学的および/または酵素的変化を実施すること、ならびに同じクロマトグラフィー条件で、そして同じまたは実質的に類似するカラムですべての画分を別個に再ランさせることである。続いて、各々別個に流してランの2次ランの変化した化合物−ペプチド複合体を収集し、そして分析装置、例えば質量分析器に通す。しかしながら、このようなアプローチはかなりのクロマトグラフィー時間を要し、そして質量分析器の重要な機械時間を占める。クロマトグラフィー装置および質量分析器の両方をより効率的で、そして経済的に使用するために、本発明は、異なる画分から生じた変化した化合物−ペプチド複合体間、ならびに1つの画分からの変化した化合物−ペプチド複合体と1つ以上のその他の画分からのペプチドとの間での溶出重複を回避しながら、1次クロマトグラフィー分離のいくつかの画分のプーリングを可能にするペプチドソーターの使用を提供する。1次クロマトグラフィー工程から得られた各画分では、変化した化合物−ペプチド複合体溶出は未変化複合体と区別して溶出される。1次ランのいくつかの画分を合わせる(プールする)場合、プールした画分を用いる2次ランの間、選択された一つの画分からのソーティングされた変化した化合物−ペプチド複合体は、以前の画分の1つの(未変化の)ペプチドと同時に溶出されない。プールの数の選択はi)化学的および/または酵素的変化により誘起された区間シフトδp;ii)1次クロマトグラフィー分離から収集された画分の溶出ウインドウ;およびiii)クロマトグラフィー時間および分析時間を最適化する必要性;に依存する。本発明はまた、パラレル・カラムソーターの使用をも提供する。パラレル・カラムソーターを用いて、単一カラムに基づく方法を、並行して(すなわち同調して)稼動する多くのカラムで実行する。パラレルソーターは、正確に同一の条件(流速、勾配等)下で作動する多くの同一のカラムを含有する。パラレル・カラムソーターは、2、3、4またはそれ以上のカラムが同時に実質的に類似の条件(流速、勾配等)下で2次クロマトグラフィーランを実施し、ここでパラレルソーターの出口は直接分析器に接続される、最も便利な装置である。パラレル・カラムソーターは、上記パラレルソーターに用いられるカラムのおよその数で、一連の連続した単一のカラムに通常必要な、クロマトグラフィー分離時間を分ける。パラレル・カラムソーターを用いる利点は、全体的な化合物−ペプチド複合体ソーティング時間を有意に低減させるだけでなく、変化した画分からの変化した化合物−ペプチド複合体の選択間に限定数の不感間隔があり、そのために変化した化合物−ペプチド複合体の検出は連続的な様式で生じ得ることにもある。本発明の別の実施態様では、マルチカラム・ペプチド・ソーターを用いることができる。このようなマルチカラム・ペプチド・ソーターが作製され、そして本質的には、組み合わせた並行および連続様式で稼動する多くのパラレル・カラムソーターが存在する。このようなパラレルソーターは本質的にはz個のカラムセットをy回含み、ここでz個のカラムは並行に接続されている。非限定例としては、y=3およびz=3のマルチカラムソーターは、9カラムソーターである。このような9カラムソーターは、並行に接続された各回3カラムの3セットで稼動する。3つのパラレルカラムセットをA、BおよびCと称する。Aの個々のカラムをI、IIおよびIIIと称し、Bの個々のカラムをI’、II’およびIII’と称し、そしてCの個々のカラムをI”、II”およびIII”と称する。1セットのパラレル・カラムは、その前のセットに対して遅れ(θと命名する)をもって稼動する。したがって、パラレルソーターBは、パラレルソーターAに対してθ遅れて開始し、パラレルソーターCは、パラレルソーターBの開始後、θ遅れて開始し、そしてパラレルソーターAの開始後、2θ遅れて開始する。マルチカラムソーターでは、変化した化合物−ペプチド複合体のランの1画分の1つのみがカラムあたり規定の時間で処理される。したがって、9カラムソーターでの例では、変化した化合物−ペプチド複合体の9個の画分が同時に処理される。これは、いくつかの変化した画分を計画的にプールし、そして同時に負荷する、先に記した2つのソーター(すなわち1カラムペプチドソーターおよびパラレルソーター)とは異なっている。変化した化合物−ペプチド複合体の画分の一つのみが、その時点でマルチカラムソーターで処理されるので、流速精度の調節(すなわち2次クロマトグラフィー工程において)は前のソーターほど重要ではない。マルチカラムソーターの別の利点は、変化した化合物−ペプチド複合体のクロマトグラフィーシフトが、異なる画分にわたって有意に変動する場合、変化した化合物−ペプチド複合体を未変化の化合物−ペプチド複合体から分離するために、それを十分に適合させるという点である。パラレルおよび連続カラムのその他の組み合わせが類似の結果を導き得ることは当業者には明白である。カラム数、その配置およびカラムに負荷される画分の選択は、とりわけi)化学的または酵素的変化により誘導される区間δp;ii)1次クロマトグラフィー分離から収集された画分の溶出ウインドウ;およびiii)クロマトグラフィー時間および分析時間を最適化する必要性、に依存する。市販の自動インジェクター、HPLC装置および自動画分コレクターを用いて、本発明の方法を実施するペプチドソーターを十分に自動化された様式で実行させることもできることは更に当業者に明白である。したがって、ペプチドソーターの本実例は、網羅されていると考えてはならない。電気泳動およびイオン交換クロマトグラフィー系を含むいくつかの変形が、同等に実行可能である。説明的な実施態様は、選択的および効率的な様式でのプロテオーム分析の上記の方法を実施するための系を更に提供する。論じたように、1次クロマトグラフィーカラムは、複合体ペプチド混合物の最初の分離を実施する。1次クロマトグラフィーカラムは、規定の条件のセットの下で、複合体ペプチド混合物を少なくとも2つの画分に分離する。例えば、1次クロマトグラフィーカラムは、予め決定された溶媒の勾配および予め決定された流速を用いてカラムを溶出することによりタンパク質ペプチド混合物を分離する。先に記載したように、1次クロマトグラフィー分離から得られた画分を計画的にプールして、異なる溶出時間を有する複数の画分を複数のプールした画分に組み合わせることができる。プールした画分を、ひき続き変化させて、各画分について、変化したペプチドのセットおよび未変化のペプチドのセットを導くことができる。代替の実施態様にしたがって、先に記載した方法を用いて画分をまず変化させ、そして次にプールされた画分のセットに計画的にプールし、ここでプールされた画分の各画分は、変化した化合物−ペプチド複合体のセットおよび未変化の化合物−ペプチド複合体のセットを含む。2次クロマトグラフィー分離では、変化した複合体は、未変化複合体から分離される。次いで、単離された標的(=変化した化合物−ペプチド複合体)を分析してタンパク質を同定することができる。
別の実施態様では、本発明は、単離された標的(=変化した化合物−標的複合体)を同定するための方法を更に提供する。特定の実施態様では、質量分析アプローチにより標的の同定を実施することができる。
標的分子がタンパク質またはペプチドである別の特定の実施態様では:タンデム質量分析法、ポストソース分解分析、ペプチドの質量測定からなる群から選択される方法にデータベース検索と組み合わせて上記同定工程を実施する。更に別の特定の実施態様では、ペプチドの質量測定に基づく同定方法は、更に以下の1つ以上に基づく:(a)標的ペプチドの遊離アミノ基の数の決定、(c)タンパク質ペプチド混合物の測定に用いられるプロテアーゼの切断特異性に関する知見、および(d)標的ペプチドのヒドロパシーのグランドアベレージ。
特定の実施態様では、標的はタンパク質またはペプチドであり、それゆえに本発明の方法は、更にペプチド分析に関係する。したがって本発明は、更に標的ペプチドおよびその対応するタンパク質を同定する方法を提供する。好ましいアプローチでは、変化した薬物−ペプチド複合体の分析を質量分析器で実施する。しかしながら、その他の方法、例えば電気泳動、アッセイにおける活性測定、特異的抗体での分析、エドマンシークエンシング等を用いて薬物−ペプチド複合体を更に分析し、そして同定することもできる。分析または同定工程を様々な方法で実施することができる。1つの方法では、クロマトグラフィーカラムから溶出される変化した薬物−ペプチド複合体(タグ化ペプチド)を即座に分析器に導く。代替アプローチでは、変化した薬物−ペプチド複合体を画分収集する。これらの画分は、更なる分析または同定に進む前に操作してもしなくてもよい。このような操作の例は、濃縮工程からなり、続いて更なる分析および同定のために各濃縮物を例えばMALDI標的にスポットする。好ましい実施態様では、変化した薬物−ペプチド複合体をハイスループット質量分析技術で分析する。
得られる情報は、主にタグ化ペプチドの質量である。この質量は、ペプチドの質量およびタグ(変化した化合物成分)の質量の合計である。後者の質量は、変化反応から解っているので、このタグの質量をタグ化ペプチドの全質量から差し引いて、更なる検索アルゴリズムの基礎であるペプチド質量を得ることができる。
一般に、質量情報は、一義的なペプチド同定には十分ではない。したがって、タグ化ペプチド(=変化した化合物−ペプチド複合体)を更にフラグメント化する。これはしばしばエレクトロスプレー装置またはMALDIの衝突誘起解離(CID)により行われ、そして一般にMS/MSまたはタンデム質量分析と称される。これらのMS/MSスペクトルの手作業または自動の解釈により、配列タグの割り当ておよびペプチド配列タグの同定およびタグの位置が導かれる。本発明では、タンパク質同定ソフトウェアを用いて、タグ化ペプチドの実験的フラグメンテーションスペクトルを、ペプチドデータベースに保存されたアミノ酸配列と比較することができる。このようなアルゴリズムを当技術分野で利用することができる。
このようなアルゴリズムの1つであるProFoundは、Bayesianアルゴリズムを用いて、タンパク質またはDNAデータベースを検索し、実験データとデータベース中のタンパク質との間の最適な対合を同定する。〈http//prowl.rockefeller.edu〉および〈http//www.proteometrics.com〉でWorld−Wide WebでProFoundにアクセスすることができる。ProFoundは、非重複データベース(NR)にアクセスする。EMBLウェブサイトでPeptide Searchにアクセスすることができる。Chaurand P.ら、J.Am.Soc.Mass.Spectrom 10:91(1999)、Patterson S.D.、Am.Physiol.Soc.59−65(2000)、Yates JR.、Electrophoresis 19:893(1998)もまた参照のこと。MS/MSスペクトルをMASCOT(http//www.matrixscience.com.(Matrix Science Ltd. ロンドン)で利用できる)により分析することもできる。
任意の質量分析器を用いて変化した薬物−ペプチド複合体を分析することができる。質量分析器の非限定例としては、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(「MALDI」)飛行時間(「TOF」)質量分析器MS、すなわちMALDI−TOF−MS(PerSeptive Biosystems,Framingham、マサチューセッツより入手可能);ポストソース分解分析で使用するためのEttanMALDI TOF(AP Biotechより入手可能)およびReflex III(Brucker−Daltonias,Bremen、ドイツより入手可能);エレクトロスプレーイオン化(ESI)イオントラップ質量分析器(Finnigan MAT、San Jose,カリフォルニアより入手可能);ESI四重極質量分析器(Finnigan MAT、San Jose,カリフォルニアより入手可能)またはQSTARパルサーハイブリッドLC/MS/MSシステム(Applied Biosystems Group,Foster Sity、カリフォルニア)および内部較正手順を用いるフーリエ変換質量分析器(FTMS)(O’Connor およびCostello、Anal.Chem. 72:5881−5885(2000))などがある。
あるいは、タグ化ペプチドイオンは、MALDI−TOF−MSで気化およびイオン化された後にその飛行の間に崩壊し得る。この過程をポストソース分解(PSD)と称する。ペプチド配列データベースに保存されたペプチド配列を知り、このようなPSDスペクトルから配列の一部または全体を推定することができる。先で記したように、手作業で、または当技術分野で周知のコンピューターアルゴリズムを用いることにより、この分析を行うことができる。このようなアルゴリズムの1つは、例えばMASCOTプログラムである。
特定の実施態様では、標的ペプチドのアルファNH2末端がスルホン酸基を用いて変化している場合、MALDI−PSD分析で更なる配列情報を得ることができる。NH2末端スルホン酸基を担持する標的ペプチドは、MALDI−TOF−MS様式で検出される場合、特定のフラグメンテーションパターンを生じる。後者により非常に迅速で、そして容易なアミノ酸配列の推定が可能になる。
あるいは、従来のエドマン分解によりタグ化ペプチドを分析し、そして得られたアミノ酸配列をタンパク質またはゲノム配列データベースに保存された配列と比較することができる。化合物自体がペプチドである場合、次いでエドマンシークエンシングにより、分解がイソペプチド結合に関与する鎖のうちの1つの残基に到達するまで各サイクルで二重アミノ酸同定を行う。
一度、タグ化ペプチドがMSに基づくフラグメンテーション分析により一義的に同定されると、更に類似の実験でその全質量を簡単に使用することができる。これは例えば、多くのサンプルで特定の標的の活性に基づくタンパク質プロファイリングを実施する場合である。実際に、形成されたタグ化ペプチドの量は、標的の近づきやすさおよび特異的反応性に依存する。全質量および溶出時間の観点から、一度特異的タグ化ペプチドが十分に特徴付けられると、その正確な質量に基づいてタグ化ペプチドを選択するのに十分である。フーリエ変換質量分析器(FT−MS)で、または最近開発されたMALDIに基づく飛行時間機械を用いて、ペプチド質量を十分に正確に測定することができる。このような機械は、例えばBrucker−Daltonics,Bremen、ドイツにより構築されている(Ultraflex)。
タグ化ペプチドの質量を測定できる精度が、十分に区別し得るものでない場合には、更なる情報を作成することができる。例えば規定のペプチドがクロマトグラフィー中に溶出される溶出時間は、ペプチド質量とは完全に無関係なパラメーターである。
したがって、同一の質量を有するか、または質量測定値の誤差範囲内に入る質量を有する2つ以上のペプチドが、クロマトグラフィー中に同一かまたは非常に近似した保持時間で溶出される可能性は低い。RP−クロマトグラフィー中のペプチドの保持時間は主にその全体的な疎水性に関係するので、天然アミノ酸毎に与えられるヒドロパシーの値を用いてグランドアベレージ・ヒドロパシー(GRAVY)インデックスを算出することができる。したがって、GRAVYインデックスとともに質量は、規定のペプチドに高度に特徴的な2つの独立したパラメーターである。
別の実施態様では、少なくとも1つの標的ペプチドのペプチド質量を正確に測定することのみにより親タンパク質の同一性を決定する方法を、選択された標的ペプチドの情報内容を更に豊富にすることにより改善することができる。標的ペプチドへの情報の加え方の非限定例としては、2つの異なる同位元素標識された基を加えることにより、これらのペプチドの遊離のNH2基を化学反応において特異的に化学的に変えることができる。この変化の結果として、上記ペプチドは、予め決定された数の標識された基を獲得する。変化物質は、2つの化学的に同一であるが、同位元素は異なる作用物質の混合物であるので、標的ペプチドは質量スペクトルにおいてペプチドツイン(peptide twin)として表される。これらのペプチドダブレットの間の質量シフトの程度は、上記ペプチドに存在する遊離アミノ基の数を示している。これを更に説明するために、例えば酢酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステルおよび三重水素化酢酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステルの当モル混合物を用いてペプチドの遊離NH2基を特異的に変化させることにより、標的ペプチドの情報内容を豊富にすることができる。この変換反応の結果として、ペプチドは、ペプチドダブレットの観察された質量シフトの程度から容易に推定できる、予め決定された数のCH3−CO(CD3−CO)基を獲得する。このように、3amuのシフトは、ペプチドにおける1つのNH2基に相当し、3および6amuのシフトは、2つのNH2基に相当し、そして3、6および9amuのシフトは3つのNH2基の存在を示す。この情報により更に、ペプチド質量に関するデータおよび/または、ペプチドが既知の特異性を有するプロテアーゼで生じたという知見が補われる。
一度その他の手段、例えば先に記載した手段により、ソーティングされたタグ化ペプチドが(以前に)完全に同定されていると、このソーティングされたタグ化ペプチドの質量の単一のペプチド/タンパク質同定規準としての使用は重要で、そして妥当なものとなる。
例えば、MSフラグメンテーション分析およびデータベース検索によりタグ化ペプチドが一度完全に同定されていると、更なる同定は、MS/MS分析を毎回繰り返すことなく、タグ化ペプチドの正確に測定された質量に基づくことができる。
したがって発現レベルすなわち、多くのサンプルに存在する生物学的標的または多様な生物学的標的の活性および発現レベルは、1個以上、好ましくは5個以上、更に好ましくは100個以上、そして更に好ましくは1000個以上、そして更に好ましくはハイスループット分析の間に典型的に遭遇する数を意味する。タンパク質の高度な複合混合物とは以下に記載するような細胞ライセート、細胞画分、組織、生物学的液体等を意味する。
本発明が、生物学的標的のクラスのメンバーの同定に至る場合、各タグ化ペプチドの質量は、その対応する生物学的標的タンパク質を代表することができ、そして本発明により、ファミリーの各メンバーのレベルおよび/または活性の全体的な分析が可能になる。例えば、ATP結合タンパク質、およびとりわけキナーゼファミリーを標的とするためにFSBAを使用することにより、多くのタグ化ペプチドに至り得る。これらのタグ化ペプチドの各々は同一のタグを担持するが、そうでなければペプチド部分により区別される。したがって各キナーゼのレベルおよび/または活性は、タグ化ペプチド内の特異的ペプチド質量により反映される。各タグ化ペプチドの相対的定量により生物学的標的のファミリーのメンバーのレベルおよび/または活性の全体的なプロファイルが提供される。
質量分析によるペプチドの絶対的定量は非常に困難であるが、比較分析にはMSに基づく技術が適している。
したがって方法の別の実施態様においては、タンパク質を含む1つを超えるサンプルにおける標的タンパク質の少なくとも1つのレベルおよび/または活性の相対量を決定するための方法が提供され、この方法は、(a)第1同位元素を含む化合物を、ペプチドを含む第1サンプルに添加する工程であって、上記化合物が安定してペプチドの少なくとも1つと相互作用して化合物−ペプチド複合体を形成する工程、(b)第2同位元素を含む化合物を、ペプチドを含む第2サンプルに添加する工程であって、上記化合物が安定してペプチドの少なくとも1つと相互作用して化合物−ペプチド複合体を形成する工程、(c)第1サンプルのタンパク質ペプチド混合物を第2サンプルのタンパク質ペプチド混合物と合わせる工程、(d)合わせたタンパク質ペプチド混合物をクロマトグラフィーによりペプチドに画分に分離する工程、(e)各画分の化合物−ペプチド複合体の少なくとも1つに存在する上記化合物を化学的、または酵素的、または化学的および酵素的に変化させる工程、(f)クロマトグラフィーにより各画分から変化した化合物−ペプチド複合体を単離する工程であって、クロマトグラフィーを工程(d)と同一の型のクロマトグラフィーで実施する工程、(g)単離された、変化した化合物−ペプチド複合体の質量分析を実施する工程、(h)同一であるが異なって同位元素で標識された、変化した化合物−ペプチド複合体のピーク高を比較することにより、各サンプル中の変化した化合物−ペプチド複合体の相対量を算出する工程、ならびに(i)変化した化合物−ペプチド複合体およびその対応するタンパク質における上記ペプチドの同一性を決定する工程と、を含む。
2つの異なるサンプルにおける標的のレベルおよび/または活性を比較するために、ディファレンシャル・マス・ラベリングを用いることができる。したがって、第1サンプルの化合物−ペプチド複合体(タグ化ペプチド)は「軽」原子で標識できるが、第2サンプルのタグ化ペプチドを「重原子」で標識する。例えば同位元素標識を担持する化合物を使用することにより標識を実施することができる。1次クロマトグラフィーのランの前に、両サンプルの化合物−ペプチド標的複合体を混合する。「軽」および「重」成分を1次ランの間に同一かまたはほぼ同一の様式で溶出させるかまたは移動させる。その変化は、また同一の様式で進行する。「軽」および「重」タグ化ペプチドを同一かまたはほぼ同一の様式で溶出させるかまたは移動させ、質量分析器に同時に移動させた。後者での分析の間でのみ、「軽」および「重」タグ化ペプチドイオンが分離され、そしてその相対強度を測定することができる。変化工程の後、区別された原子はタグ化ペプチドに結合したままであることを強調することは重要である。したがって「軽」および「重」原子はタグ化ペプチドのタグの一部である。
軽および重原子の組み合わせとしてH/D、16O/18O、12C/13C、14N/15Nまたは有機および無機化合物に安定して組み込まれ得る安定した同位元素のいずれかの組み合わせを用いることができる。代替の実施態様では、化合物の代わりにタンパク質を標識することができる。第1および第2サンプルのペプチドのディファレンシャル・アイソトープ・ラベリングを当技術分野で利用可能な多様な方法で行うことができる。重要な要素は、第1および第2サンプルの同じタンパク質に由来する特定のペプチドが、ペプチドの1つ以上のアミノ酸における異なる同位元素の存在を除いて同一であることである。典型的な実施態様では、第1サンプルの同位元素は天然の同位元素であり、これは大部分が天然に存在する同位元素を意味し、そして第2サンプルの同位元素はあまり一般的でない同位元素であり、以後非一般的同位元素と称する。天然および非一般的同位元素の対の実例はHおよびD、16Oおよび18O、12Cおよび13C、14Nおよび15Nである。同位元素対の最も重い同位元素で標識されたペプチドを本明細書で重ペプチドとも称する。同位元素対の最も軽い同位元素で標識されたペプチドを本明細書で軽ペプチドとも称する。例えば、Hで標識されたペプチドを軽ペプチドと称するが、Dで標識された同一ペプチドを重ペプチドと称する。天然同位元素で標識されたペプチドおよび非一般的同位元素で標識されたその相手は化学的に非常に類似しており、クロマトグラフィーで同一様式で分離され、そして同一の様式でイオン化される。しかしながら、ペプチドを分析器、例えば質量分析器に供給すると、これらは軽および重ペプチドに分離される。重ペプチドは、組み込まれた、選択された同位元素標識のより高い重量のためにわずかに高い質量を有する。差次的に同位元素標識されたペプチドの質量間のわずかな差異のために、単離された、変化した化合物−ペプチド複合体の質量分析の結果は、狭い間隔の二重ピークの複数の対であり、各二重ピークは重および軽の変化した複合体を示す。重複合体のそれぞれは、重同位元素で標識されたサンプルに由来し、軽複合体のそれぞれは、軽同位元素で標識されたサンプルに由来する。次いで、各対の重および軽ピークのピーク強度の比率(相対存在量)を測定する。これらの比率により各サンプルにおけるその標的(単離された、変化した化合物−複合体として)の相対量(差次的発生)が測定される。慣用の様式(例えばピーク高またはピーク面積を算出することにより)によりピーク強度を算出することができる。本明細書で先に記載したように、変化した化合物−ペプチド複合体を同定することもでき、サンプル中のタンパク質の同定を可能にする。特定の化合物のタンパク質標的が1つのサンプルに存在するが、別のサンプルには存在しない場合、単離された、変化した化合物−ペプチド複合体(このタンパク質に相当する)は、重または軽同位元素のいずれかを含有できる1つのピークとして検出される。しかしながら、組み合わせたサンプルの質量分析の間に観察される単一のピークをどのサンプルが生じたかを決定することが困難な場合もある。タンパク質分解性切断の前または後のいずれかに、2つの異なる同位元素または2つの異なる番号の重同位元素で第1サンプルを二重標識することによりこの問題を解決することができる。標識物質の例は、アシル化剤である。
ペプチドにおける天然および/または非一般的同位元素の組み込みを複数の方法で行うことができる。1つのアプローチでは、タンパク質を細胞内で標識する。第1サンプルのための細胞は、例えば天然同位元素を含有するアミノ酸を補充した培地中で増殖させ、第2サンプルのための細胞は、例えば非一般的同位元素を含有するアミノ酸を補充した培地中で増殖させる。別の実施態様では、異なる同位元素の組み込みを酵素的アプローチによって行うこともできる。例えば、タンパク質を含む1つのサンプルを「通常の」水(H2 16O)中トリプシンで、そしてタンパク質を含む第2のサンプルを「重」水(H2 18O)中トリプシンで処理することにより標識を行うことができる。本明細書で用いる「重水」とはO原子が18O同位元素である水分子を意味する。トリプシンは新たに作製された部位のCOOH末端で水の2つの酸素を組み込む周知の特性を示す。したがって、H2 16O中でトリプシン処理されているサンプル1では、ペプチドが「通常の」質量を有するが、サンプル2ではペプチド(大部分のCOOH末端ペプチドを除く)は2つの18O原子の組み込みに対応する4amuの質量増加を有する。この4amuの差は、質量分析器の変化した化合物−ペプチド複合体の重および軽の種類を区別し、そして軽対重ペプチドの比率を正確に測定し、そして2つのサンプル中の対応する標的ペプチド/標的タンパク質の比率を決定するのに十分である。
更に、タンパク質またはペプチドレベルで実施することができる既知の化学反応に基づく複数の標識手順で差次的な同位元素の組み込みを行うことができる。例えば、O−メチルイソウレアを用いるグアジニル化反応によりタンパク質を変化させて、NH2基をグアニジニウム基に変化させ、したがってそれぞれ以前はリジンであった位置でホモアルギニンを作製することができる。第1サンプルからのタンパク質を、天然同位元素を有する試薬と反応させ、そして第2サンプルからのタンパク質を、非一般的同位元素を有する試薬と反応させることができる。また重水素化アセトアルデヒドを用いるシッフ塩基形成によりペプチドを変化させ、続いて通常の、または重水素化した水素化ホウ素ナトリウムで還元することもできる。穏やかな条件下で進行することが公知であるこの反応により、予測される数の重水素化元素の組み込みを導くことができる。ペプチドをリジンのα−NH2基もしくはε−NH2基のいずれかまたは両方で変化させる。重水素化ホルムアルデヒドで類似の変化を起こさせ、続いて重水素化NaBD4で還元してもよく、これはアミノ基のメチル化形態を作製する。ホルムアルデヒドとの反応を全タンパク質で行い、リジン側鎖でのみ重水素を組み込むか、またはα−NH2およびリジン由来のNH2基の両方が標識されるペプチド混合物で行うことができる。アルギニンは反応しないので、これはArg−およびLys−含有ペプチドを区別するための方法をも提供する。1級アミノ基は、例えばアセチルN−ヒドロキシサクシンイミド(ANHS)で容易にアセチル化される。したがって、1つのサンプルを通常のANHSでアセチル化することができ、一方、第2サンプルを13CH3CO−NHSまたはCD3CO−NHSのいずれかでアシル化することができる。ペプチドのアミノ末端に加えてすべてのリジンのε−NH2基もこの方法で誘導体化する。更に別の標識方法は、例えばヒドロキシル基をアセチル化するために用いることができる無水酢酸、ならびにヒドロキシル基およびアミンを含む官能基のあまり特異的でない標識に用いることができるトリメチルクロロシランである。
更に別のアプローチでは、1級アミノ酸を化学基で標識して、重および軽ペプチドを5amu、6amu、7amu、8amuまたは更により大きい質量差で区別することが可能になる。あるいは、ディファレンシャル・アイソトープ・ラベリングをペプチドのカルボキシ末端で行って、重および軽変種を5amu、6amu、7amu、8amuまたは更により大きい質量差で区別することが可能になる。本発明の方法は、サンプルに存在し得る標的タンパク質の型について何ら先行する知識を必要としないので、これを用いて試験するサンプルに存在する既知および未知の双方の標的タンパク質の相対量を決定することができる。
少なくとも1つのタンパク質標的の相対量および/または少なくとも2つのサンプル中の1つのタンパク質の活性を決定するために本発明で提供された方法を広く適用して、例えば細胞、組織または生物学的液体、器官および/または完全な生物におけるタンパク質レベルを比較することができる。このような比較には、罹患および非罹患、ストレスのある、およびストレスのない、薬物処理された、および薬物処理されていない、良性および悪性、付着性および非付着性、感染したおよび感染していない、形質転換された、および形質転換されていない、細胞亜画分、細胞、組織、液体、器官ならびに/または完全な生物を評価することが含まれる。当該方法により、異なる刺激に暴露した細胞亜画分、細胞、組織、液体、器官、完全な生物において、または発達の異なる段階において、または1つ以上の遺伝子が、サイレンスであるかもしくは過剰発現されている条件下で、または1つ以上の遺伝子が、ノックアウトされている条件下で、タンパク質標的レベルまたは1種以上のタンパク質の活性を比較することが可能になる。
別の実施態様では、本明細書で記載する方法を、1つ以上のタンパク質標的の存在、不在もしくはレベルの変動、ならびに/または疾病状態(例えば癌、神経変性性疾患、炎症、心臓血管疾患、ウイルス感染、細菌感染、真菌感染またはいずれかその他の疾患)を示すタンパク質もしくは特定のセットのタンパク質の活性を検出するための診断アッセイに用いることもできる。具体的な適用には、転移性および浸潤性癌に存在する標的タンパク質の同定、トランスジェニックマウスにおけるタンパク質の差次的発現、疾患組織において上方または下方制御されるタンパク質の同定、生理学的変化、例えば代謝シフトを有する細胞における細胞内変化の同定、癌のバイオマーカーの同定、シグナル発生経路の同定などがある。
本発明の方法により分析することができるサンプルには生物学的サンプル、例えば細胞ライセート、ミクロソーム画分、細胞画分、組織、オルガネラ等、および尿、痰、唾液、滑液、乳頭吸引液、羊水、血液、脳脊髄液、涙、射精精液、血清、胸膜液、腹水、便、または生検サンプルなどの生物学的液体などがある。サンプルが純粋でない(例えば血漿、血清、便、射精精液、痰、唾液、脳脊髄液、もしくは血液、またはパラフィンに包埋されたサンプル)場合、本発明の方法を用いる前にそれを処理して目的の成分の夾雑を除去することができる。手順には、例えば濾過、抽出、遠心、親和性隔離等が含まれる。プローブが容易に無処置もしくは透過性にした細胞膜を通過しない場合、またはライセートが望ましい場合、サンプルの液体に入った細胞、組織もしくは動物細胞膜を溶解するのに、ならびにそこに含まれるタンパク質に暴露し、そして必要に応じて、部分的にタンパク質をその他の凝集物または化合物、例えばサンプル中のミクロソーム、脂質、炭水化物および核酸から分離するのに有効な試薬で細胞を処理する。タンパク質をサンプルから精製または部分的に精製するための方法は、当技術分野で既知である(例えばSambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Press (1989)、参照により本明細書の一部とする)。サンプルは、異なる供給源に由来してもよく、そして異なる目的で使用することができる。
通常プロテオームが分析される。生物学的サンプル供給源に由来する全タンパク質の少なくとも約20%、通常的には少なくとも約40%、更に通常的には少なくとも約75%、そして一般的には90%以上まで、そして供給源から入手し得るすべてのタンパク質を含んで、プロテオームを意図する。したがって、プロテオームは無処置の細胞、ライセート、ミクロソーム画分、オルガネラ、部分的抽出ライセート、生物学的液体等に存在し得る。プロテオームはタンパク質の複合混合物であり、一般的には少なくとも約20個の異なるタンパク質、通常的には少なくとも約50の異なるタンパク質、そして大抵の場合、100個以上の異なるタンパク質を有する。実際には、プロテオームは天然供給源に由来するタンパク質の複合混合物であり、そして通常、プロテオームプロファイルを分析するために用いられる特異的化合物の標的タンパク質である10個、通常20個、またはそれ以上のタンパク質を有する可能性を有することに関係する。サンプルは対象とする標的タンパク質の典型である。望む場合、サンプルを適当なバッファーおよびpH濃度に調整することができる。次いでSLA構造を有する1種以上の化合物を、各々約0.001mMから20mMの範囲の濃度で添加することができる。一般には反応が実質的に完了に至る時間、一般には約1〜60分間、約20〜40℃の範囲の温度で反応物をインキュベーションした後、反応をクエンチすることができる。
本発明の方法は、新たな薬物の開発を支援する、および(新たな)薬物標的を同定するのに有用である。本発明の一実施態様は、多くの薬物候補化合物を迅速にスクリーニングするのにとりわけ有用である。本発明は、またその化学構造もしくは組成において大きく異なり得るか、またはその化学構造もしくは組成の比較的重要でない側面で異なり得る多くの化合物を体系的に分析するのにも有用である。本発明はまた、特定の、望ましい標的に結合してその他のものには結合しないことを意味する、最も医薬的に有望であることが示される候補薬物を最適化するのにも有用である。本発明を用いて、一般的な酵素活性もしくは生物学的活性、または組織、細胞、細胞オルガネラ、およびタンパク質複合体の全抽出物における生物学的分子の発現レベルおよび活性の合計を測定することもできる。可能性のある新たな薬物の毒性効果を予測する能力は、化合物パイプラインを優先し、そして薬物開発におけるコスト面での失敗を排除するのに不可欠である。主に標的細胞または組織における遺伝子発現パターンに及ぼす化合物の影響を扱う毒性ゲノミクスが、これらの化合物の毒性を予測するのに用いることができる遺伝的特徴を示し得るので、新たな薬物標的をスクリーニングする重要なアプローチとして出現してきている。本発明は、薬物標的の検出のためのプロテオミクスアプローチに焦点を合わせており、そして方法を毒性プロテオミクスとして設計することができる。本発明の方法を臨床試験の設計および最適化に用いることもできる。その方法を用いて、薬物に応答する可能性のある、そして薬物の副作用を進展させる可能性のない更に特定の集団を標的とする、可能性のある、より小規模な臨床試験を展開させることが可能である。これは、今度はその方法の使用により臨床試験に必要とされる経費および時間を低減させることができる可能性がある。
以下では、本発明のいくつかの異なる工程の更に説明的な記載を提示する。
I.タンパク質ペプチド混合物の調製
当技術分野で報告されている方法、例えば化学的または酵素的切断または消化により、タンパク質を含む化合物処理サンプルのタンパク質を含むサンプルに由来するタンパク質ペプチド混合物が得られる。好ましい態様では、タンパク質および化合物−タンパク質複合体をタンパク質分解性酵素により消化する。トリプシンは、そのリジンおよびアルギニン部位で切断して、典型的には約5〜50個のアミノ酸の長さおよび約500〜5,000ダルトンの分子量を有する荷電したペプチドを生じるので、とりわけ好ましい。このようなペプチドは、とりわけ質量分析による分析に適当である。本発明で用いることもできるプロテアーゼの非限定例を挙げると、ライソバクター・エンチモーゲンス(Lysobacter enzymogenens)エンドプロテイナーゼ Lys−c、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)エンドプロテイナーゼ Glu−C(V8プロテアーゼ)、シュードモナス・フラギ(Pseudomonas fragi)エンドプロテイナーゼ Asp−Nおよびクロストリパインなどがある。特異性の低いプロテアーゼ、例えばバシラス・サチルス(Bacillus subtilis)サブチリシン、プロカイン・ペプシンおよびトリチラチウム・アルブム(Tritirachium album)プロテイナーゼKを本発明で用いることもできる。
あるいは、タンパク質をペプチドに切断するために化学的試薬を用いることもできる。例えば、シアン化臭素を用いてメチオニン残基でタンパク質をペプチドに切断することができる。酸性条件下の限定的な加水分解による化学的フラグメンテーションを適用することもできる。あるいはBNPS−スカトールを用いてトリプトファン部位で切断することができる。化学的に誘導されたイソチオシナネートのラダー、またはアミノペプチダーゼ処理のいずれかを用いる部分的NH2末端分解を同様に用いることができる。
II.クロマトグラフィー
本明細書で用いる、「クロマトグラフィー工程」または「クロマトグラフィー」なる用語は、化学物質を分離するための方法を意味し、そして当技術分野で非常に広く利用できる。好ましいアプローチでは、化学物質が移動する気体または液体流から、通常微細に粉砕された固体、フィルター材料のシート、または固体の表面の液体の薄いフィルムである静止する物質に吸収される相対速度を利用する。クロマトグラフィーは、存在する個々の物質の数、特性、または相対量に関して予め詳細な知識がなくとも、分子の混合物を分離できる多用途の方法である。生物学的起源の化学物質(例えばアミノ酸、タンパク質のフラグメント、ペプチド、タンパク質、リン脂質、ステロイド等)ならびに石油および揮発性芳香性混合物の複合混合物、例えば香水および着香料の分離にその方法が広く用いられる。最も広く用いられるカラム式液体技術は、高速液体クロマトグラフィーであり、ここではポンプが液体移動相を高効率の、高圧で圧縮されたカラムを強制的に通過させる。最近のクロマトグラフィー技術の概要がMeyer M.、ISBN:047198373X(1998)およびCappiello A.ら、Mass Spectrom.Rev.20(2):88−104(2001)(参照により本明細書の一部とする)に記載されている。当技術分野で報告されたその他の最近開発された方法および当技術分野で利用できるようになってきている新規クロマトグラフィー方法を用いることもできる。クロマトグラフィーのいくつかの実例は、逆相クロマトグラフィー(RP)、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィーまたは親和性クロマトグラフィー、例えば免疫親和性および固定化金属親和性クロマトグラフィーである。クロマトグラフィーはいくつかの分離技術のうちの1つである。電気泳動およびすべての変法、例えばキャピラリー電気泳動、フリーフロー電気泳動等はこの群の別のメンバーである。後者の場合、駆動力は電場であり、これは異なるイオン電荷の溶質に異なる力を奏する。抵抗力は非流動溶媒の粘性である。これらの力の組み合わせが各溶質に固有のイオン移動性を生じる。いくつかの実例はドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)および天然のゲル電気泳動である。キャピラリー電気泳動法には、キャピラリー・ゲル電気泳動、ゾーン電気泳動、キャピラリー電気クロマトグラフィー、キャピラリー等電点および親和性電気泳動などがある。これらの技術は、McKay P.、An Introduction to Chemistry,Science Seminar,Department of Recovery Sciences,Genetech,Inc.(参照により本明細書の一部とする)に記載されている。
III.バッファー
本発明の方法は、1次ランの分離条件、代替工程の反応条件、2次ランの分離条件および分析器、例えば質量分析器において溶出された変化した化合物−ペプチド複合体を分析する条件との間で適合性を必要とする。先に記載したように、1次および2次ランのクロマトグラフィー条件ならびに変化反応により誘導されたクロマトグラフィーシフトの組み合わせが、1次ランのタンパク質ペプチド混合物から得られた各画分からの変化した化合物−ペプチド複合体を単離する可能性を決定している。これもまた先に記載したように、好ましい実施態様では1次ランおよび2次ランのクロマトグラフィー条件は、同一であるかまたは実質的に類似している。更に好ましい実施態様では、両方のクロマトグラフィー工程で用いられるバッファーおよび/または溶媒は、2回のクロマトグラフィー工程の間の変化工程の化学的および/または酵素的反応の効率的な進行を可能にするのに必要とされる条件に適合する。特定の好ましい実施態様では、1次ラン、2次ラン、および変化工程の溶媒およびバッファーの特性は同一であるかまたは実質的に類似している。別の好ましい実施態様では、上記バッファーおよび溶媒は、質量分析を実施するのに必要とされる条件と適合する。このようなバッファーおよび溶媒を規定することは調整および微調整に必要である[そしてこのような条件は、先行技術では利用されていない]。
変化した化合物−ペプチド複合体の特定の型を用いる本発明のいくつかの実施態様では、1次ラン、変化工程、2次ランおよび分析の手順の間にわたって用いることができる、同一の、もしくは実質的に類似するバッファーおよび/または溶媒のセットを設計することは、不可能ではないとしても、非常に困難である。
例えば、変化工程において化合物−ペプチド複合体を変化させるための化学的および/または酵素的反応は、1次および/または2次ランで用いられるバッファーと適合しない特定の反応条件を要求し得る。この場合、変化工程の前および/または変化工程の後に画分のバッファー/溶媒条件を変更し、この変更は当技術分野で記載されている方法、例えば抽出、凍結乾燥および再溶解工程、沈殿および再溶解工程、適当なバッファー/溶媒に対する透析、更には急勾配の高速逆相分離を用いて実施される。
別の問題は、1次ランを開始する前の複合体タンパク質混合物またはタンパク質ペプチド混合物に存在するバッファー/溶媒の組成であり得る。前処理工程の適用は、1次ランを実施するためのバッファー/溶媒と適合しない特定のバッファー/溶媒条件を要求し得る。あるいは、タンパク質のその生物学的供給源からの調製/単離のための条件は、化合物反応および/または1次ランを妨害する化合物でタンパク質混合物またはタンパク質ペプチド混合物を汚染させることになる。この状況では、タンパク質混合物またはタンパク質ペプチド混合物のバッファー/溶媒組成を変更して1次ランに適合させる。当技術分野で報告されている方法、例えば抽出、凍結乾燥および再溶解工程、沈殿および再溶解工程、適当なバッファー/溶媒に対する透析、更には急勾配の高速逆相分離を用いてこのような変更を実施する。
更に別の本発明の実施態様では、2次ランのバッファー/溶媒は溶出された、変化した化合物−ペプチド複合体の分析の実施に適合しない。このような場合には、2次ランから収集された画分のバッファー/溶媒を変更して分析、例えば質量分析に適合する条件にする。当技術分野で報告されている方法、例えば抽出、凍結乾燥および再溶解工程、沈殿および再溶解工程、適当なバッファー/溶媒に対する透析、更には急勾配の高速逆相分離を用いてこのような変更を実施する。あるいは、変化した化合物−ペプチド複合体を含む画分を収集し、そして第3のシリーズの分離と組み合わせることができ、本明細書で以下、3次ランと称する。溶出されたフラッグまたは同定ペプチドを質量分析器で分析することができるような方法で上記3次ランを設計する。
等価物
当業者は、日常的な実験だけを用いて、本明細書に記載した本発明の特定の実施態様に対する多くの等価物を認識し、または確認することができる。例えば、クロマトグラフィーを、多くの場合、電気泳動で代用することができる。電気泳動技術には(キャピラリー)ゲル電気泳動、(キャピラリー)クロマトグラフィー、(キャピラリー)等電点および親和性電気泳動などがある。
1.薬物標的の同定
1.1.特定の化合物には、「SLA」3つすべての特性が同一の部分に存在する
例えば、化合物ベンゾイル・ペニシリンはその標的である細菌性DD−アミノトランスペプチダーゼとアシル−酵素付加物を形成する。タンパク質分解性切断の後、ペニシロイルペプチドを生じる。変化工程は、より親水性で、クロマトグラフィーラン2の間に明確に分離されるスルホキシド誘導体への、チオエーテルの変換からなってもよい。
1.2.特定の化合物では「SLA」部が部分的に分離されている。「S」部は標的分子と相互作用する。化学的架橋は、同一の基により確立される。したがって「S」および「L」は、同一である。第3の「A」基が変化している。
例えば分子を、トランスグルタミナーゼ、例えばXIIIa因子の触媒作用を介してG−アクチンのGln−41に架橋させることができるLys含有ペプチドで構成することができる(トランスグルタミナーゼとのゼロレングス架橋によるGln−41でのG−アクチンのカダベリンまたはカダベリン誘導体での特異的標識は以前に報告されている(Takashi、Biocheistry 27(3):938(1988)))。アクチンのGln−41とLys含有ペプチドとの間で作製されるイソペプチド結合は、類似している。
1文字表記法での化合物ペプチドの配列はAc−F−I−E−G−R−A−D−S−K−S−S−COOHであり、アセチル化された遊離のα−NH2末端および遊離のCOOH末端を有している。「SLA」定義にしたがって、以下の機能を区別する。
特異性決定基(「S」)は、Lys残基からなり、両側でSer残基によりフランキングされている。Ser残基およびAspは、COOH末端部分に組み込まれており、更に、最終的に架橋されたペプチドの親水性特性(すなわち溶解性)に更に寄与する。これらはまた、最末端NH2に位置する疎水性Phe−Ileクラスタと対照的であり、疎水性−親水性バランスを形成し、これは変化工程の間に壊される。
トランスグルタミナーゼ反応特異性を決定するLys残基はまた、ゼロレングス・イソペプチド形成にも関与する。したがって、ここで「S」および「L」は同一の部分である。
Xa因子制限切断部位は、化合物の「A」部を形成し、そして「S−L」部から空間的に分離されている。切断により放出されるとき、疎水性Ac−F−I−E−G−Rカーゴが分離され、より親水性の化合物が、依然その標的ペプチドに結合したままである。2次ラン(ラン2)では、このより親水性のペプチドが、未修飾ペプチドのバルクの直前にシフトされる。
実施例1.5および1.6でこの実験を詳細に記載する。
1.3.ある特定の化合物では、3つの特性「SLA」が更に分離されている。特異性決定基「S」は、標的分子と相互作用し、化学的架橋(「L」)が、第2の基により確立されるが、第3の部分(「A」)は変化に供される。得られたタグ化ペプチドは依然「S」または「S」部の一部を担持する。
例えば分子を、N末端側に対してXa因子制限切断部位を担持する短いペプチドで伸長されたカスパーゼ−1阻止ペプチドアルデヒドAc−YVAD−CHO、例えば:Ac−A−A−I−E−G−R−Y−V−A−D−CHOで構成することができる。Y−V−A−D配列は、分子をカスパーゼ−1型プロテアーゼ(「S」基)の活性部位に対して志向するが、アルデヒドに変換されたCOOH末端は架橋(「L」基)を作製する。Xa因子を用いて分子のNH2末端部分を切断することができる。
1.4.ある化合物では、3つの特性「SLA」が更に分離されている。
特異性決定基「S」は、標的分子と相互作用する。標的の別の部分と反応する分子の別の部分により架橋が確立される。変化は、「S」および「L」部の分離にある。タグはここではもはや「S」基を含有しないが、「L」基または「L」基の一部を含有する。
例えばフルオロスルフェニルベンゾイル・アデノシンFSBAは、ATP結合タンパク質と複合体を形成することができる。FSBAは、アデノシル部分の相互作用部位と反対の活性中心に位置するリジン誘導体と共有結合的に反応する。タンパク質溶解性切断時にFSBAペプチド複合体を生じる。変化工程は、タグとしてペプチドに結合したスルフェニルベンゾイル部分のみを残す、分子のアルカリ加水分解からなる。FSBAは、ATP結合を擬似することが既知なので、この方法を用いて標的タンパク質の1次構造におけるATP結合部位を局部集中させて、ATP結合タンパク質を同定し、そして細胞全体の関係でキナーゼ活性をプロファイルすることができる。
1.5.精製されたタンパク質における化合物の標的部位の同定
この実施例では、精製された骨格筋アクチンを合成Lys含有ペプチドにアクチンGln−41位置で共有結合により連結した。本明細書で「化合物ペプチドまたはCP」と称される合成ペプチドの設計および配列を実施例1.2に記載する。
5mM Tris−HCl(pH8.0)、1mM MATP、1mM CaCl2および10mM β−メルカプトエタノール 400μl中、G−アクチン10ナノモルよりも過剰の5モル濃度でCPをインキュベーションした。0.25単位のモルモット肝臓トランスグルタミナーゼの触媒によりCPのLys−9とアクチンのGln−41との間でイソペプチド結合を形成した。
4℃で一晩インキュベーションした後、5分間煮沸することにより混合物を変性させ、そして更に以下のバッファー:25mM Tris−HCl(pH8.5)、1mM EDTA中、酵素/基質比率が重量で1/50でエンドプロテイナーゼLys Cで消化した。37℃で5時間、消化を行い、そしてトリフルオロ酢酸(TFA)を最終濃度0.2%まで添加することにより停止させた。ペプチド混合物を遠心し、そしてC−18逆相カラム(4.6mm×250mm)に負荷した(100μl、アクチン84μg(2ナノモル)に相当)。0.1% TFA(詳細には図1A参照)中アセトニトリルの直線勾配でペプチドを溶出し、そして214nmでのUV吸収により記録した。アクチン−ペプチドコンジュゲートにおけるエンドLys C消化のペプチド溶出プロファイルを図1Aに示す。5分または5ml画分でペプチドを収集し、そして真空遠心により乾燥した(Savant Instrument)。各画分を40mM Tris−HCl(pH7.3)、50mM NaCl 400μlに再溶解し、そしてXa因子(Promega)0.12単位で処理した。室温で3時間の消化の後、TFAを添加し(最終濃度0.5%)、そして同一のRPクロマトグラフィー系に負荷した。分析した全画分のうち、画分6のみがペプチドのシフト(影をつけたピーク)を示した(図1B)。
Q−TOFマイクロマス装置でエレクトロスプレーイオン化質量分析を実施し、
ジペプチドに相当する架橋したペプチドの質量を確認した(図2):絶対分子量:3883,7(計算分子量:3883,9)。
CPに由来するADSXS配列および19−27アクチン配列に由来するAGFAGDDAP配列を用いて、エドマン分解により2つの架橋した鎖の配列:サイクル1:Ala;サイクル2:Gly+Asp;サイクル3:Phe+Ser、サイクル4:Ala;サイクル5:Gly+Ser;サイクル6:Asp;サイクル7:Asp;サイクル8:Ala;サイクル9:Pro;を更に確認した。
この実験により手順の可能性が示され、そしてまたCPのNH2末端部の放出により誘起されるシフトが十分に大きくて本発明に有用であることが実証された。
1.6.高度な複合混合物、例えば細胞ライセートに存在する特異的タンパク質における化合物の標的部位の同定
0.7% CHAPS、0.5mM EDTA、100mM NaCl、50mM Hcpcs(pH7.5)およびプロテアーゼ・インヒビターミックスと共にインキュベーションすることによりジャーカット細胞を溶解した。この抽出物は、mlあたり全タンパク質2mgを含有した。25mM Tris−HCl(pH8.5)、1mM EDTAで平衡化したMAP5ディスポーザブルカラムで500μlを脱塩した。脱塩したタンパク質混合物(1mg)1mlにアセトニトリル50μlおよびエンドLys C 1.5μgを加えた。37℃で5時間消化を行った。
この消化物500μlを以前の実験(実施例1.5)で作製したアクチンCPエンドリジンC消化物30μlと混合し、そして水中1% TFA 200μlを加えた。この混合物を遠心し、そして4.6mm×250mm RPカラム(Vydac Separations Group)に負荷した。図1Aに記載するようにペプチドを正確に溶出した。10分後、2分の画分(2ml容量)を更に50分間収集した。2次ランの数を減少させるために、表1に示すように画分をプールした。
表1にしたがって合わせた画分(A−E)の各々を真空乾燥し、そしてXa因子で消化した。40mM Tris−HCl(pH7.3)、60mM NaClおよびXa因子プロテアーゼ0.12単位を含有するバッファー2.5ml中でこの特異的切断を実施した。2時間後、1% TFA 100μlを加え、そして混合物を図1Aと同一のクロマトグラフィー系に負荷した。
ペプチド溶出は、図1Aのとおりであった。1次画分4−9−14−19−24を含有する、プールした画分Dのペプチド溶出プロファイルを図3Aに示す。区間9および14から現れるピークが観察される。区間9の直前に溶出されたピーク9*をペプチドと同定することができなかった。区間9のテール側で溶出されるピーク9**は、アクチンと反応しなかった過剰のCPに由来する。それは配列Ac−Phe−Ile−Glu−Glu−Argを有するCPのNH2末端部分である。これを質量分析により確認した。
区間14からの未修飾ペプチドのバルクの直前に現れた新たなピークがある(黒で示す)。質量分析およびエドマン分解によりこのピークは架橋ペプチド:
と同定された(これもまた図2参照)。2次ランの間にシフトするペプチドを示すその他の画分はなかった。
この実験により、領域、セグメントまたは短い配列を介してタンパク質と相互作用する化合物を共有結合により標的化するタンパク質に由来する上記領域、セグメントまたは短い配列を特異的に選択することが可能であることが実証される。
表1.第1クロマトグラフィー分離で収集された25の画分は、以下の組合わせの1次画分を各々含有する5つのプール(A〜E)に収集された。
2.化合物タンパク質複合体のディファレンシャル・ラベリング
2.1.ペニシロイル部分は、「軽」化合物の対応するH原子を置換する1つの重水素、更に好ましくは2つの重水素、更に好ましくは3つの重水素、更に好ましくは4つの重水素、好ましくは4つを超えるの重水素原子を担持することができる。より正確な相対的定量のために「軽」種および「重」種の間で大きな質量差を生じるのがよいと思われるが、用いたクロマトグラフィー系のタグ化ペプチドの「軽」および「重」形態の同時溶出または同時移動は、質量差が増加すると逆に可能性が低くなることも明らかであることをここで明白にすべきである。したがって、「軽」および「重」化合物を区別するために最終的に用いる質量差は、正確な相対定量ための最大の質量差でありながら同一の、または非常に類似したクロマトグラフィー特性を依然生じる差の間で釣り合いがとれているべきである。
2.2.カスパーゼ−1阻害活性を特定する1つ以上のアミノ酸を等価な重水素化アミノ酸で置換することができる。例えば、バリン残基をd7−バリンまたはd8−バリンで置換することができる。あるいは、アラニン残基をd3−アラニンで置換することができる。このようにサンプル1では、「軽」化合物は、その生物学的標的に連結するが、サンプル2では、同一の化合物であるが、ここではその重水素化相同体により置換された1つ以上のアミノ酸を有する化合物を生物学的標的に連結させる。サンプル1および2の化合物−標的ペプチドを含むペプチド混合物が混ざっている。タグ化ペプチドは同時溶出され、そしてその質量の差により分離される質量分析器に同時移動される。両者の質量に相当するイオン強度を用いて両方のタグ化ペプチドの、したがって両方のタンパク質レベルおよび/または活性レベルの比率を算出する。
2.3.ディファレンシャル・ラベリングは、FSBAのスルフェニルベンゾイル・タグに存在するフェニル基におけるものが最も都合がよい。この基は、4個の重水素原子を有することができる。先の実施例に記載したものと同様にして、タンパク質混合物1をH4−FSBA試薬(軽試薬)で標識するが、タンパク質混合物2をFS4dBA(重試薬)で標識する。ソーティングした後、軽および重タグ化ペプチドの両方を、質量分析による分離後のその各々のイオンの相対強度に基づいて比較することができる。