発明の詳細な説明
背景技術
本年、そして予測可能な将来の毎年、米国では17,000の人々が脳腫瘍と診断されるだろう。この腫瘍の多数は星状細胞系統のものであり、この悪性腫瘍を診断されたほとんどの人々はその疾患で死亡する。脳腫瘍、又は脳内新生物はすべての定型剖検の約2%に見出される。それは早期若しくは中期の成人生活において最も一般的であるが、どの年齢でも起こり得る。その頻度はまた、高齢者で増加しているようである(30)。
脳腫瘍は、正常組織に浸潤してそれを破壊し、損なわれた感覚運動及び認知の機能、増加した脳内圧、脳浮腫、及び、脳組織、脳神経、及び脳血管の圧迫のような効果をもたらす(30)。転移には、頭蓋やあらゆる脳内構造が関わる可能性がある。悪性腫瘍の大きさ、位置、増殖の速度、及び組織学上の度数が脳腫瘍の重症度を決定する。非悪性腫瘍はゆっくり増殖し、ほとんど有糸分裂がなく、壊死も、血管増殖もない。悪性腫瘍はより速やかに増殖し、他の組織に浸潤する。しかしながら、それがめったに中枢神経系(CNS)の先へ広がらないのは、それが局所の増殖により死を引き起こすからである。悪性の脳腫瘍を有する患者の25%における初期症状は、眠気、嗜眠、鈍感、人格変化、無秩序な行動、及び損なわれた精神能力である(30)。
脳腫瘍、又は脳内新生物は一般的であるが、それはしばしば誤診される(30)。脳腫瘍は、部位(例えば、脳幹、小脳、大脳、脳神経、上衣、髄膜、神経膠、松果体領域、脳下垂体、及び頭蓋)又は組織学上の種類(例えば、髄膜腫、原発性CNSリンパ腫、又は星状細胞腫)により分類される場合がある(30)。一般的な原発性小児期腫瘍は、小脳の星状細胞腫及び髄芽細胞腫、上衣腫、脳幹の神経膠腫、及び先天性腫瘍である。成人では、原発性腫瘍には、髄膜腫、シュワン細胞腫、及び大脳半球の神経膠腫(特に、悪性の多形性膠芽腫及び未分化星状細胞腫、及びより良性の星状細胞腫及び寡突起膠腫)が含まれる。脳内新生物の全体的な発症率は、男性と女性でほとんど等しいが、小脳の髄芽細胞腫と多形性膠芽腫は、男性でより一般的である(30)。
神経膠腫は、その発達段階のいずれかにある神経膠を代表する組織からなる腫瘍である(30)。それは、脳内腫瘍の45%を占める。神経膠腫には、星状細胞腫、上衣腫、及び神経細胞腫を含む、脳及び脊髄の原発性内因性新生物がすべて含まれる可能性がある。星状細胞腫は、形質転換された星状細胞、又は星状細胞性腫瘍細胞からなる腫瘍である。そのような腫瘍は、増加する悪性度の順で分類されている:第I度は、原線維若しくは原形質の星状細胞からなり;第II度は、豊富な細胞質と2又は3つの核を有する細胞からなる、星状膠芽腫であり;そして、第III及びIV度は、通常は大脳半球に閉じ込められていて、星状細胞、海綿芽細胞、星状芽細胞、及び、他の星状細胞性腫瘍細胞の混合物からなる、速やかに増殖する腫瘍である、多形性膠芽腫の形態である。原発性CNS腫瘍である星状細胞腫は、しばしば、脳幹、小脳、及び大脳に見出される。未分化星状細胞腫と多形性膠芽腫は、通常、大脳中に位置する(30)。
脳腫瘍の治療は、しばしば多モードであり、該腫瘍の病理及び所在に依存する(30)。悪性の神経膠腫では、化学療法、放射線療法、及び外科療法を含む多モード療法を使用して、腫瘍塊を抑えようとする。しかしながら、アプローチにかかわらず、これらの腫瘍に罹患している患者の予後は警戒が必要である:化学療法、放射線療法、及び外科療法の後でのメジアン生存期間は約1年にすぎず、2年間生存するのは25%の患者だけである。上記のことに照らし、悪性神経膠腫を診断、検出、及び治療するための新たな方法を開発することが希求されている(30)。
星状細胞はまた、神経変性疾患より生じるCNS損傷及びニューロン細胞死を含む、ほとんどすべての神経外傷によりもたらされる病理に関連づけられてきた。例えば、CNS損傷の場合、生じる星状細胞症は、生産的な神経再生に対する主要なバリアーとなると信じられている、グリア瘢痕の形成への主要な貢献因子であると考えられている(6)。故に、CNS外傷と神経変性疾患の両方への治療薬の設計における主要目標は、グリア瘢痕形成を制限する機序の解明である。
頭部損傷は、50歳以前でどの神経学的状態よりも多くの死亡及び障害を引き起こし、突発事故(35歳未満の男性及び少年において第一位の死因)の70%以上で起こる。重篤な損傷による死亡率は50%に達し、治療してもごくわずかしか軽減されない。頭蓋骨貫通からか又は急速な脳の加速化若しくは減速化より傷害が生じる場合があり、周囲組織への損傷をもたらす。現在のところ、頭部外傷より生じる星状細胞症への治療法はない。
アルツハイマー病は、認知機能の進行性で無情な損失を特徴とする神経変性疾患である(30)。アルツハイマー病の病態形成は、大脳皮質における、過剰な数の神経炎性、又は老人性の斑(アミロイド核の周囲の神経突起、星状細胞、及び神経膠細胞から構成される)、及び神経原線維のもつれ(対のらせん状フィラメントから構成される)に関連づけられている。約400万人のアメリカ人がアルツハイマー病に罹患し、約900億ドルの年間コストである。この疾患は、男性より女性のほうが約2倍多く、高齢者の痴呆症の65%より多くを占める。老人斑と神経原線維のもつれは正常の加齢に伴っても起こるが、それらは、アルツハイマー病の人々でずっとより頻繁である。今日までのところ、アルツハイマー病の治癒法はなく、認知低下は避けられない。
現在、星状細胞症に特定の治療法はない。さらに、星状細胞腫への標準的な化学療法、放射線療法、及び外科的治療は存在するが、これらの療法は重大な制限に満ちていて、しばしば、治癒的というより一時緩和的である。従って、星状細胞腫、星状細胞症、及び、星状細胞若しくは星状細胞性腫瘍細胞の増殖に関連した他の状態を治療する方法を開発することへの大きなニーズがある。ニューロン−神経膠相互作用の基本生物学に関する理解は、そのような治療選択肢の解明への洞察を提供するかもしれない。
発明の要約
本発明は、星状細胞の表面上のCD81が神経組織において星状細胞の増殖を変調させ、星状細胞性腫瘍細胞においては発現されないという発見、並びに、ニューロンの表面上のNrS1がCD81との接触に続く星状細胞及びニューロンへの双方向性シグナル伝達に関与しているという発見に基づく。これらの知見に基づいて、本発明は、ニューロンの生存を高める方法を提供する。本方法は、ニューロンの生存を高めるのに有効な量でCD81タンパク質又はCD81誘導体にニューロンを接触させることを含む。
本発明はまた、治療の必要な被検者において神経変性を治療する方法に向けられる。本方法は、ニューロンの生存を高めるのに有効な量でCD81タンパク質又はCD81誘導体に該被検者のニューロンを接触させること、それにより神経変性を治療することを含む。
本発明は、追加的に、治療の必要な被検者において神経変性を治療する方法に向けられる。本方法は、NrS1を被検者において活性化することを含む。
他の態様において、本発明は、星状細胞の増殖を阻害する方法へ向けられる。本方法は、星状細胞の増殖を阻害するのに有効な量のNrS1タンパク質又はNrS1誘導体に星状細胞を接触させることを含む。
追加的に、本発明は、治療の必要な被検者において星状細胞増殖における欠陥に関連した状態を治療する方法へ向けられる。本方法は、星状細胞の増殖を阻害するのに有効な量でNrS1タンパク質又はNrS1誘導体に該被検者の星状細胞を接触させること、それにより星状細胞増殖における欠陥に関連した状態を治療することを含む。
本発明は、追加的に、治療の必要な被検者において星状細胞増殖における欠陥に関連した状態を治療する方法へ向けられる。本方法は、CD81を被検者において活性化することを含む。
追加の態様において、本発明はまた、医薬組成物へ向けられる。本組成物は、NrS1と製剤的に許容される担体を含む。本発明の他の組成物は、NrS1をコードする核酸と製剤的に許容される担体を含む。
さらなる態様において、本発明は、被検者が星状細胞腫を有するかどうかを決定する方法へ向けられる。本方法は、被検者の星状細胞系統の細胞の診断試料においてCD81発現をアッセイすることを含み、ここで星状細胞系統の細胞におけるCD81の発現の無検出は星状細胞腫の症状を示す。
最後に、本発明は、精製されたNrS1タンパク質、NrS1タンパク質へ結合する薬剤、NrS1タンパク質へ結合する薬剤を含んでなるキット、並びに、NrS1タンパク質と担体を含んでなる組成物を提供する。
本発明の追加の目的は、以下に続く記載から明らかとなろう。
発明の詳細な説明
本発明は、星状細胞の増殖を阻害するのに有効な量のCD81に星状細胞を接触させることによって星状細胞の増殖を阻害する方法を提供する。他に指定しなければ、「CD81」には、どの哺乳動物のCD81タンパク質(p27)、CD81類似体、及びCD81断片も含まれる。本明細書に使用されるように、CD81タンパク質の1つの形態は、図8に示されるアミノ酸配列を有する。当業者は、どの哺乳動物のCD81も、どの他の哺乳動物のCD81に対して少なくとも80%のアミノ酸相同性を有すると予測してよい。また、どの哺乳動物のCD81も、本発明の方法において、どの哺乳動物でも機能的であると予測されよう。しかしながら、本方法に利用されるCD81は、あり得る免疫拒絶の問題を回避するために、同じ種に由来することが好ましい。
本明細書に定義される「CD81類似体」は、CD81タンパク質の生物学的活性を有し、CD81タンパク質と少なくとも60%以上、好ましくは少なくとも70%以上、より好ましくは少なくとも80%、なおより好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、そして最も好ましくは少なくとも97%のアミノ酸配列相同性を有するCD81タンパク質の機能変異体、並びに、GM1109、GM1416,及びGM1416由来の活性15マー(図38)のような、CD81タンパク質の生物学的活性を有するCD81タンパク質の断片である。当業者は、CD81タンパク質の生物学的活性を有することが予測されるCD81の多くの変異体若しくは断片を想定することができよう。本明細書に使用される用語「CD81タンパク質の生物学的活性」は、本明細書に開示されるように、星状細胞及び星状細胞腫細胞の増殖を変調させて阻害するタンパク質の活性を意味する。追加的に、本明細書に使用される「CD81誘導体」は、直接的に、又は修飾、末端切断(truncation)、又は部分置換のいずれかによりCD81から誘導される化学物質である。例えば、本発明における使用のCD81誘導体は、CD81の細胞外ドメイン(ECD)であってよい。さらに、本発明のCD81誘導体は、ペプチドの一次配列が逆の配向にあり、D−アミノ酸を含む、CD81の逆反転(retro-inverso)バージョン、又はその変異体若しくは断片であってよい。これらの修飾は、このタンパク質を安定化させることが知られている。
CD81とその類似体及び誘導体は、合成的又は組換え的に産生するか、又はネーティブ細胞から単離してよい;しかしながら、それらは、好ましくは、慣用技術とCD81をコードするcDNA(図7)を使用して、合成的に産生される。本発明の1つの態様において、星状細胞は未分化である、即ち、それらは細胞周期停止中ではなくて、それらは複合突起を形成していない。
本発明の方法を使用して、in vitro 又は被検者の in vivo で星状細胞の増殖を阻害することができる。本明細書に使用される用語「星状細胞の増殖を阻害する」は、星状細胞の細胞分裂及び増殖を阻害することを意味し、本明細書に開示されるように、星状細胞の増殖速度を制限することが含まれる。星状細胞の成長及び増殖の阻害は、本明細書に開示される方法、分子の方法、及びアッセイのいずれをも含む、既知の方法により検出することができる。
本発明の方法によれば、星状細胞の膜へCD81タンパク質を導入することか、又はCD81をコードする核酸をCD81タンパク質の発現を可能にするやり方で星状細胞へ導入することによって、in vitro 又は被検者の in vivo でCD81を星状細胞に接触させることができる。被検者はいずれの動物でもよいが、好ましくは哺乳動物(例えば、ヒト、家畜動物、及び商業用動物)である。より好ましくは、被検者はヒトである。星状細胞は、単独で、又は、例えばニューロン及び寡突起神経膠細胞を含む他の種類の神経細胞とともに、被検者の神経系の神経組織と他の組織に含まれる場合がある。星状細胞は、被検者の組織において、既知の技術から容易に決定される標準検出法により検出することができ、その例には、限定なしに、免疫学的技術(例えば、免疫組織化学染色)、蛍光造影技術、及び顕微鏡技術が含まれる。
CD81タンパク質は、タンパク質の細胞膜への導入について使用される既知の技術により(例えば、リポソームのようなマイクロ被包化調製物の手段により)、in vitro 又は被検者の in vivo のいずれかで星状細胞の膜へ導入することができる。CD81タンパク質の使用すべき量は、上記に定義されるように、星状細胞の増殖を阻害するのに有効な量であって、当業者が容易に決定することができる。
リポソーム搬送の方法によるCD81タンパク質の導入では、当該技術分野で知られる様々な方法によりリポソーム小胞を調製してよく、リポソーム組成物は、当業者に知られたリポソーム調製についての多様な慣用技術のどれを使用して調製してもよい。そのような方法及び技術の例には、限定なしに、キレート透析、(凍結融解を伴うか又は伴わない)押出し成型、フレンチプレス、ホモジェナイゼーション、ミクロ乳化、逆相蒸発、単純凍結融解、溶媒透析、溶媒注入、溶媒気化、音波処理、及び自発形成が含まれる。リポソームの調製は、生理食塩水溶液、リン酸緩衝水溶液、又は滅菌水のような溶液において行ってよい。リポソーム調製物はまた、振り混ぜや撹拌を伴う様々な方法により調製してよい。CD81タンパク質は、その細胞内ドメインがリポソームの外側に伸び、その細胞外ドメインがリポソームの内部へ伸びるように、リポソームの諸層へ取り込ませることができる。次いで、リポソームの細胞膜への融合について知られた方法に従って、CD81を含有するリポソームを星状細胞と融合させてよく、そうすると、CD81タンパク質の細胞内ドメインが星状細胞の内部へ伸び、その細胞外ドメインが星状細胞の膜の外側へ伸びた状態で、CD81タンパク質が星状細胞の膜へ搬送される。
本発明の方法においては、CD81をコードする核酸をCD81の発現を可能にするやり方で被検者の十分な数の星状細胞へ導入することによって、in vitro 又は被検者の in vivo のいずれかでCD81を星状細胞に接触させてもよい。核酸は、当該技術分野で知られた慣用法を使用して導入してよく、それには、限定なしに、エレクトロポレーション、DEAEデキストラントランスフェクション、リン酸カルシウムトランスフェクション、モノカチオン性リポソーム融合、ポリカチオン性リポソーム融合、プロトプラスト融合、in vivo 電場の創出、DNAコート化微小発射体射撃、組換え複製欠損ウイルスでの注射、相同的組換え、in vivo 遺伝子治療、ex vivo 遺伝子治療、ウイルスベクター、及び裸DNA移入、又はそれらのあらゆる組合せが含まれる。遺伝子治療に適した組換えウイルスベクターには、限定されないが、レトロウイルス、HSV、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、セムリキ森林ウイルス、サイトメガロウイルス、及びワクシニアウイルスのようなウイルスのゲノムから誘導されたベクターが含まれる。CD81をコードする核酸の使用すべき量は、上記に定義されるように、星状細胞の増殖を阻害するのに有効な量でCD81タンパク質を発現する量である。上記の量は、当業者が容易に決定することができる。
CD81タンパク質の細胞中での発現を達成するために、慣用法を使用して、CD81をコードする核酸を in vitro で好適な細胞へ導入し得ることもまた、本発明の範囲内にある。次いで、CD81タンパク質を発現する細胞を被検者へ導入し、星状細胞の増殖を in vivo で阻害することができる。このような ex vivo 遺伝子治療アプローチでは、この細胞を、好ましくは被検者より取り出し、DNA技術にかけてCD81をコードする核酸を取込ませてから、被検者へ再導入する。
星状細胞増殖を変調させるCD81の能力は、星状細胞増殖における欠陥に関連した状態を治療するのにCD81を特に有用にする。本明細書に使用される「星状細胞増殖における欠陥」には、同じ種類の組織における正常な増殖と比較した場合の、特定組織における星状細胞の病理学的な増殖が含まれる。CD81は、星状細胞増殖を変調させることによって、星状細胞増殖における欠陥に関連した状態の治療に有用になると考えられる。さらに、CD81は、それ単独か、又はこれらの状態の治療に典型的に使用される、化学療法剤や抗ウイルス剤のような治療剤との組合せのいずれかで有効であろうと考えられる。
従って、本発明は、治療の必要な被検者において、星状細胞増殖における欠陥に関連した状態を治療する方法を提供し、該方法は、星状細胞の増殖を阻害するのに有効な量のCD81に該被検者の星状細胞を接触させること、それにより該状態を治療することを含んでなる。上記に記載されるように、被検者はいずれの動物でもよいが、好ましくは哺乳動物(例えば、ヒト、家畜動物、及び商業用動物)である。より好ましくは、被検者はヒトである。
星状細胞増殖における欠陥に関連した状態の例には、限定なしに、星状細胞症、グリア瘢痕、過形成、新形成、及び神経炎性斑(特に、アルツハイマー病患者によく見出されるもの)が含まれる。本明細書に使用される「星状細胞症」は、近傍ニューロンの破壊による星状細胞の増殖を意味する。さらに本明細書に使用される「過形成」は、正常な配置にある、ある組織内の正常な星状細胞の数が異常に増殖若しくは増加することを意味する。本発明の1つの態様において、星状細胞増殖における欠陥に関連した状態は、星状細胞症である。本発明の別の態様において、星状細胞増殖における欠陥に関連した状態は、神経炎性斑である。
星状細胞症、グリア瘢痕、過形成、新形成、神経炎性斑、及び星状細胞増殖における欠陥に関連した他の状態は、多様な因子により引き起こされるか又はそれと関連づけられる場合があり、それには、限定なしに、神経変性疾患より生じるニューロン細胞死及び神経変性、CNS外傷、及び非神経機能不全の後天性二次効果が含まれる。神経変性疾患の例には、限定なしに、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ルー・ゲーリック病)、ビンスワンガー病、ハンチントン舞踏病、多発性硬化症、重症筋無力症、パーキンソン病、及びピック病が含まれる。CNS外傷の例には、限定なしに、鈍性(blunt)外傷、低酸素症、及び侵襲性外傷が含まれる。非神経機能不全の後天性二次効果の例には、限定なしに、脳性麻痺、先天性水頭症、筋ジストロフィー、卒中、及び血管性痴呆症が含まれる。
星状細胞増殖における欠陥に関連した状態の治療においては、上記に記載されるような既知の方法(例えば、リポソーム搬送)に従って、星状細胞の膜へCD81タンパク質を導入することによって、CD81を星状細胞に接触させることができる。CD81タンパク質の使用すべき量は、上記に定義されるように、星状細胞の増殖を阻害するのに有効な量であって、当業者が容易に決定することができる。
あるいは、上記に記載の方法を含む、既知の方法に従って、CD81をコードする核酸を、CD81タンパク質の発現を可能にするやり方で星状細胞へ導入することによって、CD81を星状細胞に接触させて星状細胞増殖における欠陥に関連した状態を治療することができる。核酸は、当該技術分野で知られた慣用法を使用して導入してよく、それには、限定なしに、エレクトロポレーション、DEAEデキストラントランスフェクション、リン酸カルシウムトランスフェクション、モノカチオン性リポソーム融合、ポリカチオン性リポソーム融合、プロトプラスト融合、in vivo 電場の創出、DNAコート化微小発射体射撃、組換え複製欠損ウイルスでの注射、相同的組換え、in vivo 遺伝子治療、ex vivo 遺伝子治療、ウイルスベクター、及び裸DNA移入、又はそれらのあらゆる組合せが含まれる。遺伝子治療に適した組換えウイルスベクターには、限定されないが、レトロウイルス、HSV、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、セムリキ森林ウイルス、サイトメガロウイルス、及びワクシニアウイルスのようなウイルスのゲノムから誘導されるベクターが含まれる。CD81をコードする核酸の使用すべき量は、上記に定義されるように、星状細胞の増殖を阻害するのに有効な量でCD81タンパク質を発現する量である。上記の量は、当業者が容易に決定することができる。
本発明はまた、星状細胞性腫瘍細胞の増殖を阻害するのに有効な量のCD81に星状細胞性腫瘍細胞を接触させることによって、星状細胞性腫瘍細胞の増殖を阻害する方法へ向けられる。本明細書に使用される用語「星状細胞性腫瘍細胞」は、星状細胞の腫瘍形成型(即ち、形質転換された星状細胞)を意味し、星状細胞腫細胞(即ち、あらゆる星状細胞腫の細胞であって、限定なしに、第I〜IV度の星状細胞腫、未分化星状細胞腫、星状芽
細胞腫、原線維性星状細胞腫、原形質性星状細胞腫、大円形星細胞性星状細胞腫、及び多形性膠芽腫を含む)が含まれる。上記に定義されるように、「CD81」には、CD81タンパク質(p27)、CD81類似体、及びCD81誘導体が含まれる。
本発明の方法は、星状細胞性腫瘍細胞の増殖を in vitro で、又は被検者において in vivo で阻害するために使用することができる。本明細書に使用される用語「星状細胞性腫瘍細胞の増殖を阻害する」は、星状細胞性腫瘍細胞の細胞分裂及び増殖を阻害することを意味し、星状細胞性腫瘍細胞の増殖速度を制限することが含まれる。星状細胞性腫瘍細胞の成長及び増殖の阻害は、本明細書に開示される方法、分子の方法、及びアッセイのいずれをも含む、既知の方法により検出することができる。
本発明の方法によれば、CD81タンパク質を星状細胞性腫瘍細胞の膜へ導入することか、又はCD81をコードする核酸をCD81タンパク質の発現を可能にするやり方で星状細胞性腫瘍細胞へ導入することによって、in vitro 又は被検者の in vivo でCD81を星状細胞性腫瘍細胞に接触させることができる。被検者はいずれの動物でもよいが、好ましくは哺乳動物(例えば、ヒト、家畜動物、及び商業用動物)である。より好ましくは、被検者はヒトである。星状細胞性腫瘍細胞は、被検者の神経系の神経組織と他の組織において、単独で、又は、ニューロン及び寡突起神経膠細胞を限定なしに含む他の種類の神経細胞とともに見出される場合がある。星状細胞性腫瘍細胞は、被検者の組織において、既知の技術から容易に決定される標準検出法により検出することができて、それには、限定なしに、免疫学的技術(例えば、免疫組織化学染色)、蛍光造影技術、及び顕微鏡技術が含まれる。
CD81タンパク質は、上記に記載されるように、タンパク質の導入について使用される既知技術(例えば、リポソーム搬送)により、in vitro 又は被検者の in vivo のいずれかで、星状細胞性腫瘍細胞の膜へ導入することができる。リポソーム搬送では、上記に記載のものを含む多様な慣用技術を使用して、リポソーム小胞とリポソーム組成物を調製することができる。CD81タンパク質は、その細胞外ドメインがリポソームの外側へ伸び、その細胞内ドメインがリポソームの内部へ伸びるように、リポソームの諸層へ取り込ませることができる。次いで、リポソームの細胞膜への融合について知られた方法に従って、CD81タンパク質を星状細胞性腫瘍細胞の膜へ搬送するように、CD81を含有するリポソームを星状細胞性腫瘍細胞と融合させることができる。CD81タンパク質の使用すべき量は、上記に定義されるように、星状細胞性腫瘍細胞の増殖を阻害するのに有効な量であって、当業者が容易に決定することができる。
本発明の方法においては、CD81をコードする核酸を、CD81の発現を可能にするやり方で被検者の十分な数の星状細胞性腫瘍細胞へ導入することによって、in vitro 又は被検者の in vivo のいずれかで、CD81を星状細胞性腫瘍細胞に接触させてもよい。核酸は、当該技術分野で知られた慣用法を使用して導入してよく、それには、in vivo 遺伝子治療、ex vivo 遺伝子治療、及び、上記の他の方法がすべて含まれる。遺伝子治療に適した組換えウイルスベクターには、上記のベクターがすべて含まれる。CD81をコードする核酸の使用すべき量は、上記に定義されるように、星状細胞性腫瘍細胞の増殖を阻害するのに有効な量でCD81タンパク質を発現する量である。上記の量は、当業者が容易に決定することができる。
星状細胞増殖を変調させるCD81の能力と、星状細胞性腫瘍細胞系にCD81が存在しないことは、星状細胞腫と星状細胞性腫瘍細胞の増殖に関連した他の状態を治療するのにCD81が有用であり得ることをともに示唆する。さらに、CD81は、それ単独でか、これらの状態の治療に典型的に使用される、化学療法剤や抗ウイルス剤のような治療剤との組合せのいずれかにおいて有効であろうと考えられる。
従って、本発明は、治療の必要な被検者において、星状細胞性腫瘍細胞の増殖に関連した状態を治療する方法を提供し、該方法は、星状細胞性腫瘍細胞の増殖を阻害するのに有効な量のCD81に被検者の星状細胞性腫瘍細胞を接触させること、それにより該状態を治療することを含んでなる。上記に記載されるように、被検者はいずれの動物でもよいが、好ましくは哺乳動物(例えば、ヒト、家畜動物、及び商業用動物)である。より好ましくは、被検者はヒトである。
本明細書に使用される用語「星状細胞性腫瘍細胞の増殖に関連した状態」には、星状細胞腫細胞のような星状細胞性腫瘍細胞の病理学的な増殖と他の形態の新形成が含まれる。本明細書にさらに使用される用語「新形成」は、正常な星状細胞の増殖を誘発することも、その停止を引き起こすこともない条件下での星状細胞性腫瘍細胞の非制御性で進行性の増殖を意味する。新形成は、「新生物」の形成をもたらし、これは、本明細書において、新たな異常増殖、特に、細胞の増殖が非制御性で進行性である新たな組織の増殖を意味するように定義される。新生物には、良性腫瘍と悪性腫瘍(例えば、第I〜IV度の星状細胞腫のような星状細胞腫、未分化星状細胞腫、星状芽細胞腫、原線維性星状細胞腫、原形質性星状細胞腫、大円形星細胞性星状細胞腫、及び多形性膠芽腫、及び他の脳腫瘍)が含まれる。悪性新生物が良性から区別されるのは、前者がより大きい程度の未分化性か、又は細胞の分化及び配向性の損失を示し、浸潤及び転移の特性を有する点である。このように、新形成には「癌」が含まれ、これは、本明細書において、正常な制御の損失という独自の特質を有し、非調節性の増殖、分化の不足、局所組織浸潤、及び転移を生じる、星状細胞性腫瘍細胞の増殖を意味する。本発明の1つの態様において、星状細胞性腫瘍細胞の増殖に関連した状態は、星状細胞腫である。
星状細胞性腫瘍細胞の増殖に関連した状態の治療において、上記に記載されるような、既知の方法(例えば、リポソーム搬送)に従って、星状細胞性腫瘍細胞の膜へCD81タンパク質を導入することによって、CD81を星状細胞性腫瘍細胞に接触させることができる。CD81タンパク質の使用すべき量は、上記に定義されるように、星状細胞性腫瘍細胞の増殖を阻害するのに有効な量であって、当業者が容易に決定することができる。
あるいは、上記に記載の方法を含む既知の方法に従って、CD81をコードする核酸を、CD81タンパク質の発現を可能にするやり方で星状細胞性腫瘍細胞へ導入することによって、CD81を星状細胞に接触させて星状細胞性腫瘍細胞増殖における欠陥に関連した状態を治療することができる。核酸は、当該技術分野で知られた慣用法を使用して導入してよく、それには、in vivo 遺伝子治療、ex vivo 遺伝子治療、及び、上記の他の方法がすべて含まれる。遺伝子治療に適した組換えウイルスベクターには、上記のベクターがすべて含まれる。CD81をコードする核酸の使用すべき量は、上記に定義されるように、星状細胞性腫瘍細胞の増殖を阻害するのに有効な量でCD81タンパク質を発現する量である。上記の量は、当業者が容易に決定することができる。
さらに本発明は、星状細胞の増殖を阻害するのに有効な量でCD81発現のモジュレーターに星状細胞を接触させることを含んでなる、星状細胞の増殖を阻害する方法を提供する。モジュレーターは、CD81発現を誘導するか又はアップレギュレートする、本明細書に定義されるような、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、核酸(DNA若しくはRNAを含む)、抗体、Fab断片、F(ab’)2断片、分子、化合物、抗生物質、薬物、ニューロン、又は他の薬剤であってよい。モジュレーターの例には、限定なしに、ニューロン、FK506、及び他の神経イムノフィリンが含まれる。
CD81の追加モジュレーターは、以下に記載の方法に基づいた単純スクリーニングアッセイを使用して同定することができる。例えば、CD81の候補モジュレーターをスクリーニングするために、星状細胞性腫瘍細胞をマイクロタイタープレート上でプレート培養してから、薬物のライブラリーに接触させることができる。生じるどのCD81の発現も、核酸ハイブリダイゼーション、及び/又は、ELISAを含む、当該技術分野で知られた免疫学的技術を使用して検出することができる。CD81のモジュレーターは、CD81の発現を誘導するか又はアップレギュレートする薬物であろう。このやり方では、星状細胞若しくは星状細胞性腫瘍細胞の細胞分裂若しくは増殖が速度において減少しているか、又は停止したことをCD81発現の指標として使用して、星状細胞若しくは星状細胞性腫瘍細胞の増殖を阻害する能力で薬剤をスクリーニングしてよい。
さらに本発明は、星状細胞性腫瘍細胞の増殖を阻害するのに有効な量でCD81発現のモジュレーターに星状細胞性腫瘍細胞を接触させることを含んでなる、星状細胞性腫瘍細胞の増殖を阻害する方法を提供する。そのようなCD81発現のモジュレーターの例には、上記に記載されるものがすべて含まれる。CD81の追加モジュレーターは、上記に記載の方法に従ってスクリーニングすることができる。
本発明はまた、治療の必要な被検者において、星状細胞増殖における欠陥に関連した状態を治療する方法を提供する。本方法は、細胞増殖における欠陥に関連した状態を治療するのに有効な量のCD81を該被検者へ投与することを含む。被検者はいずれの動物でもよいが、好ましくは哺乳動物(例えば、ヒト、家畜動物、及び商業用動物)である。より好ましくは、被検者はヒトである。
上記に記載のように、星状細胞増殖における欠陥に関連した状態の例には、限定なしに、星状細胞症、グリア瘢痕、過形成、新形成、及び神経炎性斑(特に、アルツハイマー病患者によく見出されるもの)が含まれる。追加的に、星状細胞増殖における欠陥に関連した状態は、多様な因子により引き起こされるか又はそれと関連づけられる場合があり、それには、限定なしに、神経変性疾患より生じるニューロン細胞死及び神経変性、CNS外傷、及び非神経機能不全の後天性二次効果が含まれる。神経変性疾患、CNS外傷、及び非神経機能不全の後天性二次効果の例には、上記に記載されるものがすべて含まれる。本発明の1つの態様において、星状細胞増殖における欠陥に関連した状態は、星状細胞症である。
本発明のCD81は、星状細胞増殖における欠陥に関連した状態への治療の必要な被検者へ、該被検者の星状細胞増殖における欠陥に関連した状態を治療するのに有効である量で投与される。本明細書に使用される句「星状細胞増殖における欠陥に関連した状態を治療するのに有効な」は、星状細胞増殖における欠陥に関連した状態の臨床上の障害若しくは症状を改善するか又は最小化するのに有効なことを意味する。例えば、星状細胞増殖における欠陥に関連した状態が星状細胞症である場合、星状細胞症の臨床上の障害若しくは症状は、星状細胞症により産生される星状細胞の塊を抑制することによって、それにより、発生し得る潜在的な軸索の閉塞を最小化することによって、改善されるか又は最小化さすることができる。治療の必要な被検者において、星状細胞増殖における欠陥に関連した状態を治療するのに有効なCD81の量は、各症例の特別な要因に依存して変動するものであり、それには、星状細胞増殖における欠陥の種類、星状細胞増殖における欠陥のステージ、被検者の体重、被検者の状態の重症度、及び、投与の方法が含まれる。この量は、当業者が容易に決定することができる。
本発明の方法によれば、CD81を、ヒト若しくは動物の被検者へ既知の方法により投与することが可能であり、それには、限定なしに、経口投与、非経口投与、経皮投与、及び浸透ミニポンプによる投与が含まれる。好ましくは、CD81は非経口的に、頭蓋内、髄腔内、鞘内、又は皮下注射により投与される。本発明のCD81はまた、星状細胞とCD81との in vivo 接触をもたらすために上記方法のいずれかに従って、被検者へ投与してよい。
経口投与では、CD81の製剤を、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤として、又は懸濁液剤として提示してよい。本製剤は、乳糖、マンニトール、トウモロコシデンプン、又はジャガイモデンプンのような、慣用の添加剤を有してよい。本製剤はまた、結晶性セルロース、セルロース誘導体、アカシア、トウモロコシデンプン、又はゼラチン類のような結合剤とともに提示してよい。追加的に、本製剤は、トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、又はカルボキシメチルセルロースナトリウムのような崩壊剤とともに提示してよい。本製剤はまた、無水リン酸二塩基性カルシウム又はグリコール酸ナトリウムデンプンとともに提示してよい。最後に、本製剤は、タルク又はステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤とともに提示してよい。
非経口投与(即ち、消化管以外の経路を通る注射による投与)では、被検者の血液と好ましくは等張である無菌の水溶液とCD81を組み合わせてよい。そのような製剤は、塩化ナトリウム、グリシン、等のような生理学的に適合可能な物質を含有し、生理学的条件に適合する緩衝化pHを有する水に固形の有効成分を溶かし、水溶液を生成してから前記溶液を無菌にすることによって、調製することができる。本製剤は、密封アンプル若しくはバイアルのような、ユニット容器又は多用量容器において提示してよい。本製剤は、筋膜上、被膜内、頭蓋内、皮内、鞘内、筋肉内、眼窩内、腹腔内、髄腔内、胸骨内、血管内、静脈内、実質、又は皮下を限定なしに含む、どの注射の形式により搬送してもよい。
経皮投与では、皮膚のCD81への透過性を高め、CD81が皮膚を貫通して血流へ浸透することを可能にする、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、イソプロパノール、エタノール、オレイン酸、N−メチルピロリドン、等のような皮膚浸透エンハンサーとCD81を組み合わせてよい。さらに、このCD81/エンハンサー組成物はまた、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチレン/酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、等のようなポリマー物質と組み合わせて、本組成物をゲルの形態で提供してよく、これは、塩化メチレンのような溶媒に溶かし、所望される粘度まで蒸発させてから、支持材料へ塗布してパッチ剤を提供することができる。CD81は、神経外傷が発生したか、又は星状細胞増殖における欠陥が局在化している被検者の部位で経皮的に投与しすることができる。あるいは、全身投与を達成するために、罹患領域以外の部位でCD81を経皮的に投与してもよい。
本発明のCD81はまた、浸透ミニポンプか又は他の時間放出デバイスから放出するか又は搬送してよい。基本浸透ミニポンプからの放出速度は、放出口(オリフィス)に配置した微孔性、即応性ゲルで変調させることができる。浸透ミニポンプは、CD81の制御放出又は標的指向搬送に有用であろう。
本発明はまた、治療の必要な被検者において、星状細胞性腫瘍細胞の増殖に関連した状態を治療する方法を提供する。本方法は、星状細胞性腫瘍細胞の増殖に関連した状態を治療するのに有効な量のCD81を該被検者へ投与することを含む。被検者はいずれの動物でもよいが、好ましくは哺乳動物(例えば、ヒト、家畜動物、及び商業用動物)である。より好ましくは、被検者はヒトである。上記のように、星状細胞性腫瘍細胞の増殖に関連した状態の例には、限定なしに、星状細胞腫、脳腫瘍、及び他の新形成の形態が含まれる。本発明の1つの態様において、星状細胞性腫瘍細胞の増殖に関連した状態は、星状細胞腫である。
本発明のCD81は、星状細胞性腫瘍細胞の増殖に関連した状態の治療の必要な被検者へ、星状細胞性腫瘍細胞の増殖に関連した状態を該被検者において治療するのに有効である量で投与される。本明細書に使用される句「星状細胞性腫瘍細胞の増殖に関連した状態を治療するのに有効な」は、星状細胞性腫瘍細胞の増殖に関連した状態の臨床上の障害若しくは症状を改善するか又は最小化するのに有効なことを意味する。
例えば、星状細胞性腫瘍細胞の増殖に関連した状態が星状細胞腫である場合、星状細胞腫の臨床上の障害若しくは症状は、該被検者が蒙る疼痛若しくは不快を消失させることによって;該被検者の生存を、そのような治療の非存在下で予測されるものより延長させることによって;新生物の発達若しくは拡大を阻害するか又は予防することによって;又は、星状細胞性腫瘍細胞の星状細胞腫における成熟化及び増殖を限定する、中断させる、終結させる、又は他のやり方で制御することによって、改善するか又は最小化することができる。治療の必要な被検者において、星状細胞性腫瘍細胞の増殖に関連した状態を治療するのに有効なCD81の量は、各症例の特別な要因に依存して変動するものであり、それには、星状細胞性腫瘍細胞の増殖に関連した状態の種類、星状細胞性腫瘍細胞の増殖に関連した状態のステージ、被検者の体重、被検者の状態の重症度、及び、投与の方法が含まれる。この量は、当業者が容易に決定することができる。
本発明の方法によれば、既知の方法によりCD81をヒト若しくは動物の被検者へ投与することが可能であり、それには、限定なしに、経口投与、非経口投与、経皮投与、及び浸透ミニポンプによる投与が含まれる。好ましくは、CD81は非経口的に、頭蓋内、髄腔内、鞘内、又は皮下注射により投与される。本発明のCD81はまた、星状細胞性腫瘍細胞とCD81との in vivo 接触をもたらすために上記方法のいずれかに従って、被検者へ投与してよい。
経口投与では、CD81の製剤を、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤として、懸濁液剤として、又は上記製剤のいずれかで提示することができる。非経口投与では、被検者の血液と好ましくは等張である無菌の水溶液とCD81を組み合わせてよい。そのような製剤は、上記の調製の方法に従って調製してよい。非経口投与の製剤は、密封アンプル若しくはバイアルのような、ユニット容器又は多用量容器において提示してよく、上記のどの注射の形式によって搬送してもよい。
経皮投与では、上記のような皮膚浸透エンハンサーとCD81を組み合わせてよい。さらに、このCD81/エンハンサー組成物はまた、上記のいずれかのようなポリマー物質と組み合わせて、本組成物をゲルの形態で提供してもよい。CD81は、星状細胞性腫瘍細胞増殖が発生した被検者の部位で経皮的に投与してよい。あるいは、全身投与を達成するために、罹患領域以外の部位でCD81を投与してもよい。最後に、本発明のCD81はまた、上記のように、浸透ミニポンプか又は他の時間放出デバイスから放出するか又は搬送してよい。
さらに本発明は、治療の必要な被検者において星状細胞増殖における欠陥に関連した状態を治療する方法を提供する。本方法は、該被検者においてCD81の発現を誘導するか又は高めて、上記に定義されるような、星状細胞増殖における欠陥に関連した状態を治療するのに有効な量でCD81発現のモジュレーターを該被検者へ投与することを含む。そのようなCD81発現のモジュレーターの例には、上記に記載されるものがすべて含まれる。CD81の追加モジュレーターは、上記の方法に従ってスクリーニングすることができる。CD81のモジュレーターは、上記製剤のいずれにおいても、そして上記のいかなる投与の形式でも投与してよい。
本発明はまた、治療の必要な被検者において星状細胞性腫瘍細胞の増殖に関連した状態を治療する方法を提供する。本方法は、該被検者においてCD81の発現を誘導するか又は高めて、上記に定義されるような、星状細胞性腫瘍細胞の増殖に関連した状態を治療するのに有効な量でCD81発現のモジュレーターを該被検者へ投与することを含む。そのようなCD81発現のモジュレーターの例には、上記に記載されるものがすべて含まれる。CD81の追加モジュレーターは、上記の方法に従ってスクリーニングすることができる。CD81のモジュレーターは、上記製剤のいずれにおいても、そして上記のいかなる投与の形式でも被検者へ投与してよい。さらに、CD81のモジュレーターはまた、リシン共役CD81結合タンパク質のように、化学療法剤とともに投与してよい。
上記のことに照らし、CD81の投与は、星状細胞増殖における欠陥、又は星状細胞性腫瘍細胞の増殖のいずれかに関連した状態への有効な治療選択肢を提供すると予測される。本明細書に記載の療法は、現行の治療方式に典型的に伴う多大な副作用や副次効果を伴うことなく、星状細胞及び星状細胞腫の増殖を阻害するための真の治療選択肢を提供する。上記の状態へのリスクがある人口集団は大きく、そのニーズは現行では満たされていない。
さらに本発明は、CD81と製剤的に許容される担体を含んでなる医薬組成物を提供し、ここでCD81は、前記医薬組成物が投与される被検者において、上記に定義されるような、星状細胞増殖における欠陥に関連した状態を治療するのに十分又は有効な量で存在する。そのような医薬組成物は、星状細胞増殖における欠陥に関連した状態の治療の必要な被検者へ、前記状態を治療するためにCD81を投与するのに有用であろう。CD81は、上記に定義されるような星状細胞増殖における欠陥に関連した状態を被検者において治療するのに有効である量で該被検者へ提供される。この量は、当業者が容易に決定することができる。医薬組成物は、上記に記載される投与方法のいずれかに従って被検者へ投与してよい。
本発明の医薬組成物の製剤は、簡便には単位投与量で提示してよく、経口剤形(例えば、CD81と製剤的に許容される担体を、アンプル剤、カプセル剤、丸剤、散剤、又は錠剤において組み合わせる場合がある)においてか、又は注射に適した形態において提示してよい。製剤的に許容される担体は、固体、液体、又はゲルであってよい。さらに、本発明の製剤的に許容される担体は、組成物の他の成分と適合可能であり、そのレシピエントへ有害ではないという意味において「許容され」なければならない。許容される医薬担体の例には、カルボキシメチルセルロース、結晶性セルロース、グリセリン、アラビアゴム、乳糖、ステアリン酸マグネシウム、メチルセルロース、ポリペプチド、粉末、生理食塩水、アルギン酸ナトリウム、デンプン、ショ糖、タルク、及び水がとりわけ含まれる。選択される担体は、投与の経路と、CD81が導入される形態に依存する。
本発明の製剤は、製剤技術分野においてよく知られた方法により調製してよい。例えば、CD81は、乳剤、懸濁液剤、又は溶液剤として、担体若しくは希釈剤と一緒にしてよい。さらに、CD81は、別の成分と必要に応じて混和してよいが、そのような混和は本発明の目的を損なうほどのものではない。そのような他の成分は、適切にも、使用の目的と製剤の種類に従って選択することができる。所望により、1つ以上の付属成分(例えば、緩衝剤、着色剤、芳香剤、界面活性剤、等)も加えてよい。
本発明はまた、CD81をコードする核酸と製剤的に許容される担体を含んでなる医薬組成物へ向けられ、ここで該核酸は、前記医薬組成物が投与される被検者において、上記に定義されるような、星状細胞増殖における欠陥に関連した状態を治療するのに十分又は有効な量でCD81を発現する。そのような医薬組成物は、星状細胞増殖における欠陥に関連した状態の治療の必要な被検者へ、前記状態を該被検者において治療するためにCD81を投与するのに有用である。核酸は、上記に定義されるような星状細胞増殖における欠陥に関連した状態を被検者において治療するのに有効である量でそれがCD81タンパク質を発現するような量で該被検者へ提供される。これらの量は、当業者が容易に決定することができる。追加的に、医薬組成物は、核酸の投与及び導入について上記に記載される方法のいずれかに従って被検者へ投与してよい。
本発明の医薬組成物の製剤は、簡便には、単位投与量で提示してよく、核酸の投与に適した形態において(例えば、注射により)提示してよい。CD81をコードする核酸は、裸のDNA、プラスミドDNA、及びベクターDNA(上記のようなウイルスベクターを含む)を限定なしに含む、核酸の導入について当該技術分野でよく知られたどの形態で提示してもよく、遺伝子治療や分子遺伝学の当該技術分野でよく知られた方法に従って調製してよい。さらに、本発明の製剤的に許容される担体は、組成物の他の成分と適合可能であり、そのレシピエントへ有害ではないという意味において「許容され」なければならない。許容される医薬担体の例には、カルボキシメチルセルロース、結晶性セルロース、グリセリン、アラビアゴム、乳糖、ステアリン酸マグネシウム、メチルセルロース、ポリペプチド、粉末、生理食塩水、アルギン酸ナトリウム、デンプン、ショ糖、タルク、及び水がとりわけ含まれる。選択される担体は、投与の経路と、CD81をコードする核酸が導入される形態に依存する。
本発明の医薬組成物の製剤は、製剤技術分野においてよく知られた方法により調製してよい。例えば、CD81をコードする核酸は、乳剤、懸濁液剤、又は溶液剤として、担体若しくは希釈剤と一緒にしてよい。さらに、CD81をコードする核酸は、他の成分と必要に応じて混和することができるが、そのような混和は本発明の目的を損なうほどのものではない。そのような他の成分は、適切にも、使用の目的と製剤の種類に従って選択することができる。所望により、1つ以上の付属成分(例えば、緩衝剤、着色剤、界面活性剤、等)も加えてよい。
さらに本発明は、CD81と製剤的に許容される担体を含んでなる医薬組成物を提供し、ここでCD81は、前記医薬組成物が投与される被検者において、上記に定義されるような、星状細胞性腫瘍細胞の増殖に関連した状態を治療するのに十分又は有効な量で存在する。そのような医薬組成物は、星状細胞性腫瘍細胞の増殖に関連した状態の治療の必要な被検者へ、前記状態を該被検者において治療するためにCD81を投与するのに有用であろう。CD81は、上記に定義されるような星状細胞性腫瘍細胞の増殖に関連した状態を被検者において治療するのに有効である量で該被検者へ提供される。この量は、当業者が容易に決定することができる。医薬組成物は、上記に記載される投与方法のいずれに従っても、そしていずれの製剤でも被検者へ投与してよい。本発明の製剤は、上記のものを含む、製剤技術分野においてよく知られた方法に従って調製してよい。
本発明はまた、CD81をコードする核酸と製剤的に許容される担体を含んでなる医薬組成物へ向けられ、ここで該核酸は、前記医薬組成物が投与される被検者において、上記に定義されるような、星状細胞性腫瘍細胞の増殖に関連した状態を治療するのに十分又は有効な量でCD81を発現する。そのような医薬組成物は、星状細胞性腫瘍細胞の増殖に関連した状態への治療の必要な被検者へ、前記状態を該被検者において治療するためにCD81を投与するのに有用であろう。核酸は、上記に定義されるような星状細胞性腫瘍細胞の増殖に関連した状態を被検者において治療するのに有効である量でCD81タンパク質を発現するような量で該被検者へ提供される。これらの量は、当業者が容易に決定することができる。追加的に、医薬組成物は、核酸の投与及び導入について上記に記載される方法のいずれに従っても、そして上記のいずれの製剤でも被検者へ投与してよい。本発明の医薬組成物の製剤は、上記のものを含む、製剤技術分野においてよく知られた方法に従って調製してよい。
さらに本発明は、被検者が星状細胞腫を有するかどうかを決定する方法を提供する。本方法は、被検者の星状細胞系統の細胞の診断試料においてCD81発現をアッセイすることを含み、ここで該被検者の星状細胞系統の細胞におけるCD81の発現の無検出は、星状細胞腫の症状を示す。被検者はいずれの動物でもよいが、好ましくは哺乳動物(例えば、ヒト、家畜動物、及び商業用動物)である。より好ましくは、被検者はヒトである。本明細書に使用される「CD81」には、CD81のタンパク質、cDNA、及びmRNAが含まれる。
本明細書に使用される「CD81の発現の無検出」は、CD81が被検者の星状細胞性腫瘍細胞において検出可能レベルで存在しないことを意味する。さらに本明細書に使用される用語「星状細胞系統の細胞」には、上記に定義されるような、星状細胞と星状細胞性腫瘍細胞が含まれる。また、被検者の星状細胞系統の細胞の診断試料についてCD81発現をアッセイすることを含んでなる、被検者における星状細胞腫の診断を確定する方法を提供することも本発明の範囲内にあり、ここで該被検者の星状細胞系統の細胞におけるCD81の発現の無検出は、星状細胞腫の症状を示す。
本発明の方法によれば、被検者の星状細胞系統の細胞の診断試料について、in vitro 又は被検者において in vivo でCD81発現をアッセイすることができる。本発明によれば、アッセイが in vitro で実施される場合、星状細胞系統の細胞、又は星状細胞系統の細胞を含有する組織の診断試料を、生検及び吸引を含む、標準法を使用して被検者から取り出すことができる。好ましくは、細胞若しくは組織の診断試料は、多方向細針吸引生検法(FNAB)を使用して取り出す。この取り出し法が好ましいのは、それが標準生検法より侵襲的でないからである。被検者から採取する診断試料は、例えば、星状細胞腫を有することが知られているどの組織でも、星状細胞腫を有することが疑われるどの組織でも、また、星状細胞腫を有さないと考えられるどの組織でもよい。
タンパク質は、必要な場合の組織からの抽出(例えば、タンパク質を可溶化する界面活性剤を用いる)に続く、カラムでのアフィニティー精製、クロマトグラフィー(例えば、FTLC及びHPLC)、免疫沈殿法(CD81への抗体を用いる)、及び沈殿法(イソプロパノールとトリゾールのような試薬を用いる)を限定なしに含む、当該技術分野で知られた標準法を使用して、本発明の診断試料より単離して精製することができる。タンパク質の単離及び精製には電気泳動(例えば、SDS−ポリアクリルアミドゲル上での)が後続する場合がある。核酸は、当業者に知られた標準技術を使用して、診断試料より単離することができる。
本発明の方法に従って、被検者の星状細胞腫は、被検者の診断試料についてCD81の発現をアッセイすることによって診断することができる。一般に、CD81は、健常で、無疾患性の被検者(即ち、星状細胞腫を有さない被検者)に由来する星状細胞系統の細胞において発現されるので、被検者の星状細胞系統の細胞の診断試料におけるCD81発現の無検出は、星状細胞腫の症状を示す。本明細書に使用される「発現」は、CD81遺伝子の少なくとも1つのmRNA転写物への転写か、又は少なくとも1つのmRNAの、上記に定義されるようなCD81タンパク質への翻訳を意味する。従って、診断試料について、CD81タンパク質(上記に定義されるような)、cDNA、又はmRNAをアッセイすることによってCD81発現をアッセイすることができる。適正なCD81の形態は、本明細書に論じる特別な技術に基づいて明らかになろう。
上記の方法において、被検者の星状細胞系統の細胞の診断試料についてCD81発現をアッセイしてよく、免疫学的技術、ハイブリダイゼーション分析、蛍光造影技術、及び/又は放射線検出を限定なしに含む、当該技術分野から容易に決定されるアッセイ及び検出法を使用して、診断試料においてCD81発現を検出することができる。例えば、FNABを使用して被検者から取り出した星状細胞若しくは細胞は、免疫細胞フルオロメトリー(FACS分析)を使用して分析することができる。本発明の別の態様において、星状細胞系統の細胞より抽出したCD81 mRNAのノーザンブロット分析を使用して、診断試料についてCD81の発現をアッセイする。
上記の方法によれば、CD81と反応性の薬剤を使用して、被検者の診断試料についてCD81発現をアッセイすることができる。本明細書に使用される「反応性」は、CD81に対してアフィニティーを有する、それへ結合する、又はそれへ指向される薬剤を意味する。さらに本明細書に使用される「薬剤」には、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、核酸(DNA若しくはRNAを含む)、抗体、Fab断片、F(ab’)2断片、分子、化合物、抗生物質、薬物、及びこれらのあらゆる組合せが含まれる。さらに、CD81と反応性の薬剤は、天然又は合成のいずれでもよい。この薬剤は、抗体、Fab断片、F(ab’)2断片、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、及びこれらのあらゆる組合せの形態であってよい。Fab断片は、パパイン消化により産生される、一価の、抗体の抗原結合断片である。F(ab’)2断片は、ペプシン消化により産生される、二価の、抗体の抗原結合断片である。好ましくは、薬剤は、検出可能マーカーで標識した高アフィニティー抗体である。薬剤が抗体である場合、CD81の発現の非存在は、ウェスタンブロッティングのような標準的な免疫学的検出技術とともに、CD81と免疫反応性の1つ以上の抗体を使用する結合試験より検出することができる。
本明細書に使用されるように、本発明の抗体は、ポリクローナル又はモノクローナルであってよく、当業者によく知られた技術により産生することができる。例えば、ポリクローナル抗体は、マウス、ウサギ、又はラットを精製CD81で免疫化することによって産生することができる。次いで、モノクローナル抗体は、免疫化したマウスから脾臓を取り出すこと、そして、この脾臓細胞を骨髄腫細胞と融合して、培養において増殖するときにモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを形成させることによって産生することができる。CD81と反応性であるモノクローナル抗体はまた、ファーミンゲン(サンディエゴ、カリフォルニア州)(例、mAb 2F7)とベーリンガー(マンハイム、ドイツ)(例、mAb Eat1及びEat2)より入手してもよい。
本明細書に使用される抗体は、検出可能マーカーで標識することができる。抗体の標識化は、当該技術分野で知られている多様な異なる化学発光及び放射活性標識の1つを使用して達成することができる。例えば、本発明の検出可能マーカーは、ビオチン、フルオレセイン(FITC)、アクリジン、コレステロール、又はカルボキシ−X−ローダミンのような非放射活性若しくは蛍光のマーカーであってよく、蛍光や当該技術分野で容易に知られる他の造影技術を使用して検出することができる。あるいは、検出可能マーカーは、例えば、放射性同位体を含む、放射活性マーカーであってよい。放射性同位体は、検出可能な放射線を放射する、35S、32P、又は3Hのようなどの同位体であってもよい。放射性同位体により発射される放射活性は、当該技術分野でよく知られた技術によって検出することができる。例えば、放射性同位体からのガンマ放射は、ガンマ造影技術、特にシンチグラフィック造影を使用して検出することができる。好ましくは、本発明の薬剤は、検出可能マーカーで標識した高アフィニティー抗体である。本発明の抗体はまた、適正な標識システム、緩衝剤、及び、多様な検出及び診断応用における使用に必要な他の試薬を包含するキットへ取り込んでもよい。
本発明の薬剤がCD81と反応性の抗体である場合、被検者より採取した診断試料を、ビーズ、ゲル、又はプレートの形態の不溶性有機ポリマーのような固形支持体へ付いたリガンドとしてCD81抗体を含有するアフィニティーカラムへの通過により精製することができる。固形支持体へ付ける抗体は、カラムの形態で使用してよい。好適な固形支持体の例には、限定なしに、アガロース、セルロース、デキストラン、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、セファロース、又は他の不溶性有機ポリマーが含まれる。さらにCD81抗体は、所望されるならば、スペーサー分子を介して固形支持体へ付けてもよい。適正な結合条件(例えば、温度、pH、及び塩濃度)は、当業者が容易に決定することができる。好ましい態様において、CD81抗体は、セファロース4Bのようなセファロースカラムへ付く。
薬剤が抗体である場合、被検者の診断試料について、標準的な免疫学的検出技術とともに、CD81と免疫反応性の1つ以上の抗体を利用する結合試験を使用して、CD81発現をアッセイすることができる。例えば、アフィニティーカラムより溶出されるCD81タンパク質を、ELISAアッセイ、ウェスタンブロット分析、フローサイトメトリー、又は、抗原−抗体相互作用を利用する他の免疫染色法へかけることができる。好ましくは、診断試料について、ウェスタンブロッティングを使用してCD81発現をアッセイする。
あるいは、被検者の星状細胞系統の細胞の診断試料について、被検者より採取した星状細胞系統の細胞、又は星状細胞系統の細胞を含有する組織の試料より抽出した核酸のハイブリダイゼーション分析を使用して、CD81発現をアッセイしてもよい。本発明のこの方法によれば、ハイブリダイゼーション分析は、mRNAのノーザンブロット分析を使用して実行することができる。本方法はまた、CD81をコードする核酸へハイブリダイズする1つ以上の核酸プローブを使用する、DNAのサザンブロット分析を実施することによっても実行することができる。核酸プローブは、当業者に知られた多様な技術により調製することができて、それには、限定なしに以下が含まれる:CD81核酸の制限酵素消化;及び、アプライド・バイオシステムズ モデル 392 DNA/RNA合成機のような市販のオリゴヌクレオチド合成機を使用する、CD81核酸のヌクレオチド配列の選択部分に対応する配列を有するオリゴヌクレオチドの自動合成。
本発明に使用される核酸プローブは、DNA又はRNAであってよく、約8つのヌクレオチドからCD81核酸の全長までの長さにおいて変動してよい。このプローブに使用されるCD81核酸は、哺乳動物のCD81から誘導することができる。ラット、マウス、及びヒトのいずれのCD81のヌクレオチド配列も知られている(19)。これらの配列をプローブとして使用して、当業者は、他の種由来の対応するCD81 cDNAを容易にクローニングすることができる。さらに、本発明の核酸プローブは、1つ以上の検出可能マーカーで標識してよい。核酸プローブの標識化は、多様な標識(例えば、35S、32P、又は3Hのような放射活性標識、又は、ビオチン、フルオレセイン(FITC)、アクリジン、コレステロール、又はカルボキシ−X−ローダミン(ROX)のような非放射活性標識)の1つとともに、当該技術分野で知られたいくつかの方法(例えば、ニックトランスレーション、末端標識化、埋込み(fill-in)末端標識化、ポリヌクレオチドキナーゼ交換反応、ランダム・プライミング、又はリボプローブ調製用のSP6ポリメラーゼ)の1つを使用して達成することができる。CD81核酸の異なるか又は重複する領域に対応する、2つ以上の核酸プローブ(又はプライマー)の組合せも、例えば、PCR又はRT−PCRを使用して、CD81の発現を検出するために使用してよく、多様な検出及び診断応用における使用へのキットに含めてもよい。
本発明の診断試料についてCD81発現を頻繁にアッセイするのは、被検者や彼/彼女の主治医ではなく、試験ラボの技術者や他の臨床研究者であろうと考えられる。従って、さらに本発明の方法は、被検者の診断試料についてCD81発現をアッセイすることによって得られる諸結果の報告を被検者の主治医へ提供することを含む。
本発明はまた、星状細胞腫を被検者又は患者において治療する方法を提供する。被検者はいずれの動物でもよいが、好ましくは哺乳動物(例えば、ヒト、家畜動物、及び商業用動物)である。より好ましくは、被検者はヒトである。本方法は:(a)被検者若しくは患者において、該被検者若しくは患者の星状細胞系統の細胞においてCD81の発現の非存在を検出することによって星状細胞腫を診断する工程;及び(b)該被検者若しくは患者において診断された星状細胞腫を治療する工程を含む。被検者若しくは患者の星状細胞系統の細胞におけるCD81の発現の非存在は、上記の方法のいずれかにより検出することができる。被検者若しくは患者において診断された星状細胞腫は、外科療法、放射線療法、化学療法、免疫療法、及び全身療法を限定なしに含む、星状細胞腫を治療するために一般に使用されるどの方法でも、又は方法の組合せにより治療することができる。しかしながら、好ましくは、本明細書に記載の方法に従って診断される星状細胞腫は、上記のように、被検者若しくは患者へCD81を投与することによって治療される。
CD81発現の検出レベルを臨床若しくは病理学上の段階分けツールとして使用し、どの治療選択肢が適正であり得るかを決定することも、本発明の範囲内にある。特に、CD81発現の検出は、本発明の治療方法のいずれが適正であるかを決定するために使用することができる。さらに、CD81発現の検出レベルを使用して、脳腫瘍、特に星状細胞腫を等級付けることができる。
さらに本発明は、星状細胞腫への治療を受けたか又は受けている被検者において星状細胞腫療法の効力を評価する方法を提供する。被検者はいずれの動物でもよいが、好ましくは哺乳動物(例えば、ヒト、家畜動物、及び商業用動物)である。より好ましくは、被検者はヒトである。本発明の方法は、被検者の星状細胞性腫瘍細胞の診断試料についてCD81発現をアッセイすることを含み、ここで被検者の星状細胞性腫瘍細胞におけるCD81の発現の無検出は、不成功の星状細胞腫療法を示唆する。診断試料は、上記に記載されるもののいずれでもよく、in vitro 又は被検者中の in vivo のいずれでもCD81の発現をアッセイしてよい。さらに、診断試料について、上記の様々なアッセイと検出の方法をいずれも使用して、CD81の発現をアッセイすることができる。本発明の方法は、被検者の星状細胞性腫瘍細胞におけるCD81発現のレベルの定期的な評価を可能にすることによって、星状細胞腫療法の有効性をモニターする手段を提供する。
上記の方法によれば、星状細胞腫を治療する療法の開始後に続くどの時点でも、被検者の星状細胞性腫瘍細胞の診断試料をアッセイし、CD81発現のレベルを評価することができる。例えば、被検者若しくは患者がまだ星状細胞腫の治療を受けている間に、CD81発現のレベルを評価してよい。CD81の発現が被検者の星状細胞性腫瘍細胞に存在しないままである場合、医師は、星状細胞腫治療を継続することを選択してよい。CD81発現のレベルが被検者の星状細胞性腫瘍細胞において検出可能になってから、継続的な評価を通して増加する場合、それは、星状細胞腫治療が奏効していて、治療用量を減少させるか又はなくすことさえ可能であることの示唆であるかもしれない。CD81のレベルが継続的な評価を通して顕著には増加しない場合、それは、星状細胞腫治療が奏効していなくて、治療用量を増加させてよいことの示唆であるかもしれない。CD81発現が、最終的に、被検者若しくは患者の星状細胞性腫瘍細胞において、正常の無疾患性星状細胞について期待されるレベルで検出される場合、医師は、星状細胞腫治療が成功し、その治療を止めることができると結論づけてもよい。被検者若しくは患者の星状細胞腫治療の完了後に、該被検者若しくは患者で星状細胞腫が再発したかどうかを決定するために、CD81発現のレベルを評価することも本発明の範囲内にある。さらに、CD81発現の評価レベルを臨床若しくは病理学上の段階分けツールとして使用すること、被検者若しくは患者における星状細胞腫の程度を決定すること、適正な治療選択肢を決定すること、並びに予後の情報を提供することも、本発明の範囲内にある。
本発明はまた、ニューロンの生存を高めるのに有効な量でCD81タンパク質又はCD81誘導体にニューロンを接触させることを含んでなる、ニューロンの生存を高める方法を提供する。本明細書に使用されるように、「ニューロン」は、神経系の伝導若しくは神経細胞のいずれでもあり、典型的には、核と周囲の細胞質を含有する細胞体(核周囲部);いくつかの短い放射状の突起(樹状突起);及び、1つの長い突起(軸索)[これは、小枝状の分岐部(終末分枝)で終わり、その軸に沿って突出する分枝(側枝)を有する場合がある]からなる。本発明の方法において、ニューロンは、単独で、又は、星状細胞と寡突起神経膠細胞が限定なしに含まれる他の種類の神経細胞とともに、神経組織や神経系の他の組織に含まれる場合がある。ニューロンは、既知の技術から容易に決定される標準検出法によって組織中に検出することができて、その例には、限定なしに、免疫学的技術(例えば、免疫組織化学染色)、蛍光造影技術、及び顕微鏡技術が含まれる。
さらに本明細書に使用される用語「ニューロンの生存を高める」は、傷害、死、変性、脱髄、又は損傷からニューロンを全体に、又は部分的に保護することを意味する。ニューロンの生存の亢進は、本方法、分子の方法、及び本明細書に開示されるアッセイのいずれをも含む、既知の方法により測定又は検出することができる。
さらに、他に指定しなければ、本明細書に使用される「CD81」には、上記に定義されるような、CD81タンパク質(p27)とCD81類似体の両方が含まれる。追加的に、本明細書に使用される「CD81誘導体」は、直接的に、又は修飾、末端切断、又は部分置換のいずれかによりCD81から誘導される化学物質である。例えば、本発明における使用のCD81誘導体は、CD81の細胞外ドメイン(ECD)であってよい。さらに、本発明のCD81誘導体は、本明細書に開示されるように、模倣体のGM1109又はGM1416であってよい。それらは、CD81より小さいので、CD81のこの誘導体は、血液脳関門をより容易に通過し、それによりニューロンの生存を in vivo で高めるのに適した治療剤を提供する。
上記の方法を使用して、ニューロンの生存を in vitro 又は被検者の in vivo で高めることができる。CD81又はCD81誘導体は、CD81又はCD81誘導タンパク質をニューロンへ導入することによるか、又はCD81又はCD81誘導体をコードする核酸をCD81又はCD81誘導タンパク質の発現を可能にするやり方でニューロンへ導入することによって、in vitro 又は被検者の in vivo でニューロンに接触させることができる。上記のように、被検者はいずれの動物でもよいが、好ましくは哺乳動物(例えば、ヒト、家畜動物、及び商業用動物)である。より好ましくは、被検者はヒトである。
CD81又はCD81誘導体は、CD81タンパク質又はCD81誘導タンパク質を培養基へ直接加えることによって、in vitro でニューロンに接触させることができる。あるいは、CD81又はCD81誘導体は、CD81タンパク質又はCD81誘導タンパク質を被検者へ導入するか又は投与することによって被検者において in vivo でニューロンに接触させてよい。CD81タンパク質又はCD81誘導タンパク質は、例えば、注射及び輸注を含む、タンパク質や他の薬物の導入及び投与について使用される既知の技術
によって、in vitro 又は被検者のて in vivo のいずれでも、ニューロンに接触させてよい。CD81タンパク質又はCD81誘導タンパク質の使用すべき量は、上記に定義されるように、ニューロンの生存を高めるのに有効な量であり、当業者が容易に決定することができる。
移植、診断、薬物スクリーニング、等のために神経組織を調製するときには、ニューロンの生存を in vitro で高めることが望ましい場合がある。in vivo 治療に関しては、ニューロンの生存を高めるCD81又はCD81誘導体の能力により、CD81又はその誘導体は被検者において神経変性を治療するのに特に有用になる。本明細書において使用される用語「神経変性」は、ニューロンの劣化の状態を意味し、ここではニューロンがより低いか又はより少ない機能活性型へ変化する。ニューロンの生存を高めることによって、CD81又はCD81誘導体は、神経変性の治療に有用になり得ると考えられている。さらに、CD81又はCD81誘導体は、単独でも、又は、神経変性の治療に典型的に使用される化学療法剤や抗ウイルス剤のような治療剤との組合せでも有効であろうと考えられている。
従って、本発明は、ニューロンの生存を高めるのに有効な量のCD81タンパク質又はCD81誘導体に被検者のニューロンを接触させることによって、治療の必要な被検者において神経変性を治療する方法を提供する。上記のように、被検者はいずれの動物でもよいが、好ましくは哺乳動物(例えば、ヒト、家畜動物、及び商業用動物)である。より好ましくは、被検者はヒトである。
本発明の方法によって治療することができる神経変性の例には、限定なしに、原発性の神経学的状態(例、神経変性疾患)、並びに非神経機能不全の後天性二次効果(例、変性、病理学的、又は外傷のイベントに続発する神経損失)が含まれる。原発性の神経学的状態又は神経変性疾患の例には、限定なしに、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ルー・ゲーリック病)、ビンスワンガー病、ハンチントン舞踏病、多発性硬化症、重症筋無力症、パーキンソン病、及びピック病が含まれる。非神経機能不全の後天性二次効果の例には、限定なしに、脳性麻痺、先天性水頭症、筋ジストロフィー、卒中、及び血管性痴呆、並びに、以下のいずれかより生じる神経変性(脳出血に関連した損傷、発生障害(例、先天性水頭症のような脳の欠損、又は脊椎披裂のような脊髄の欠陥)、糖尿病性脳症、高血圧性脳症、頭蓋内動脈瘤、虚血、腎不全、くも膜下出血、脳及び脊髄への外傷、化学療法剤及び抗ウイルス剤のような治療剤の治療、脳及び脊髄の血管病巣、並びに、神経変性をもたらしやすい他の疾患若しくは状態)が含まれる。
本明細書に記載の方法を使用して脱髄状態に関連している神経変性を治療し得ることも本発明の範囲内にある。脱髄状態の例には、限定なしに、急性播種性脳脊髄炎(ADEM)、急性横断脊髄炎、急性ウイルス脳炎、副腎白質ジストロフィー(ALD)、副腎脊髄ニューロパシー、AIDS−空泡性ミエロパチー、HTLV関連ミエロパチー、レバー遺伝性視神経萎縮症、多発性硬化症(MS)、進行性多病巣性白質脳症(PML)、亜急性硬化性汎脳炎、及び熱帯性痙性対麻痺が含まれる。
神経変性の被検者における治療においては、タンパク質投与の知られた方法に従ってCD81又はCD81誘導体を被検者へ投与することによって、神経変性を有する被検者の内部で、CD81又はCD81誘導体を in vivo でニューロンに接触させることができる。CD81又はCD81誘導体の使用すべき量は、上記に定義されるように、ニューロンの生存を高めるのに有効な量であり、当業者が容易に決定することができる。
被検者において in vivo 接触をもたらすには、CD81誘導タンパク質(例、CD81のECD、又は模倣体、GM1109及びGM1416)が、これらのより小さなタンパク質は血液脳関門をより容易に通過することができるので、被検者への投与により適正であり得る。さらに、標的ニューロンが被検者の身体の特別の部分へ局在化しているときは、注射や他の手段によって(例えば、CD81又はCD81誘導タンパク質を血液や別の体液へ導入することによって)CD81又はCD81誘導タンパク質をその組織へ直接導入することが望ましい場合がある。
CD81又はCD81誘導体は、神経変性を治療するために、上記のどの投与の形式でも、そしてどの製剤においても被検者へ投与することができる。例えば、CD81又はCD81誘導体は、経口投与、非経口投与、舌下投与、経皮投与、又は浸透ポンプにより被検者へ投与してよい。本発明の1つの態様において、CD81又はCD81誘導体は、経口投与又は経皮投与によって被検者へ投与される。
本明細書に開示されるように、新規の膜貫通チロシンキナーゼ、NrS1はニューロン表面に位置し、CD81シグナル伝達に応答して速やかにリン酸化される。この速やかなリン酸化は、最終的に、星状細胞への前方シグナル伝達をもたらす。追加的に、CD81又はその模倣体のニューロン表面でのNrS1への結合は、ニューレグリン(Nrg)の切断とニューレグリンの細胞内ドメイン(ICDNrg)のニューロン核への転座を推進し、それによってニューロンの生存を促進する。このように、ニューロンへの逆のシグナル伝達も存在する。NrS1遺伝子(かつてはEHK1として同定された)のヌクレオチド配列を図27に提供する;公表されたEHK1配列に対して5’にあるNrS1のこれまで未同定のエクソンを図29に提供する。対応するアミノ酸配列を図28に提供する。当業者は、新規のNrS1エクソンが、例えばNrS1のプローブとして、有用であり得ると理解されよう。
従って、さらに本発明は、神経変性をその治療の必要な被検者において治療する方法へ向けられる。本方法は、NrS1を被検者において活性化することを含む。被検者はいずれの動物でもよいが、好ましくは哺乳動物(例えば、ヒト、家畜動物、及び商業用動物)である。より好ましくは、被検者はヒトである。被検者中のNrS1は、NrS1を直接標的にすることによって活性化することができる。被検者中のNrS1はまた、NrS1の被検者における機能又はレベルを調節するか又は変調させる酵素又は他の内因性分子を標的にすることによって、間接的に活性化してもよい。
他に指定しなければ、「NrS1」には、本明細書において特徴づけられるNrS1タンパク質(図28に提供されるアミノ酸配列を有する)と「NrS1類似体」が含まれる。「NrS1類似体」は、NrS1タンパク質の生物学的活性を有し、NrS1タンパク質と60%以上(好ましくは70%以上;より好ましくは80%以上、なおより好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、そして最も好ましくは97%以上)のアミノ酸配列相同性を有する、NrS1タンパク質の機能変異体、並びに、NrS1タンパク質の生物学的活性を有するNrS1タンパク質の断片である。当業者は、同様のチロシンキナーゼを用いた機能試験に基づいて、こうした類似体を同定することができよう。本明細書にさらに使用される用語「NrS1タンパク質の生物学的活性」は、本明細書に開示されるように、ニューロンの生存を変調させて亢進するタンパク質の活性を意味する。NrS1は、合成的又は組換え的に産生するか、又はネーティブ細胞から単離してよいが、しかしながら、それらは、好ましくは、慣用技術とNrS1をコードするcDNAを使用して、合成的に産生される。
上記に定義される用語「神経変性」は、ニューロンの劣化の状態を意味し、ここではニューロンがより低いか又はより少ない機能活性型へ変化する。本発明の方法によって治療することができる神経変性には、上記に記載のものがいずれも含まれる。例えば、神経変性は、原発性の神経学的状態(例、神経変性疾患)、並びに非神経機能不全の後天性二次効果(例、変性、病理学的、又は外傷のイベントに続発する神経損失)であり得る。原発性の神経学的状態、神経変性疾患、及び非神経機能不全の後天性二次効果の例には、上記に記載のものがすべて含まれる。本明細書に記載の方法を使用して、上記の脱髄状態のすべてが含まれる、脱髄状態に関連している神経変性を治療し得ることも本発明の範囲内にある。
追加的に、本明細書に使用される用語「NrS1を活性化すること」は、NrS1の機能を被検者において刺激するか又は誘導すること、特に、CD81又はその誘導体若しくは模倣体のニューロン表面でのNrS1受容体への結合の結果としてのNrgの切断とICDNrgのニューロン核への転座、それによりニューロン生存を促進することを意味する。本発明の方法において、被検者中のNrS1は、例えば、CD81タンパク質又はCD81誘導タンパク質を被検者へ投与することによって活性化することができる。好適なCD81誘導体の例には、CD81の大きなECDと模倣体、GM1109及びGM1416が含まれる。
本発明のCD81又はCD81誘導体は、神経変性を被検者において治療するのに有効である量で、神経変性の治療の必要な被検者へ投与することができる。本明細書に使用される句「神経変性を治療するのに有効な」は、神経変性の臨床上の障害若しくは症状を改善するか又は最小化するのに有効なことを意味する。例えば、神経変性が神経変性疾患のアルツハイマー病である場合、この神経変性の臨床上の障害若しくは症状は、大脳皮質、海馬、皮質下構造、青斑、及び背側縫線核の内部で失われるニューロンの量を低下させること、それにより認知機能の進行性の損失と老人斑及び神経原線維のもつれの発達を最小化するか又は弱めることによって、改善されるか又は最小化することができる。
神経変性を治療の必要な被検者において治療するのに有効なCD81又はCD81誘導体の量は、各症例の特別な要因に依存して変動するものであり、それには、神経変性の種類、神経変性のステージ、被検者の体重、被検者の状態の重症度、及び、投与の方法が含まれる。この量は、当業者が容易に決定することができる。
上記の方法によれば、CD81タンパク質又はCD81タンパク質誘導体は、上記の投与形式のすべてを含む既知の方法により、そして上記の製剤のいずれでもヒト若しくは動物の被検者へ投与することができる。本発明の好ましい態様において、CD81又はCD81誘導体は、経口若しくは経皮投与によって投与される。本発明のCD81又はCD81誘導体はまた、ニューロンとCD81との間の in vivo 接触をもたらすための上記方法のいずれによっても被検者へ投与してよい。
本明細書に開示されるように、本発明者は、完全な星状細胞の分化がCD81−NrS1シグナル伝達に依存することを発見した。この発見に照らせば、NrS1は星状細胞の成長及び増殖を調節するための手段を提供することが期待される。従って、さらに本発明は、星状細胞の増殖を阻害する方法を提供する。本方法は、星状細胞の増殖を阻害するのに有効な量のNrS1に星状細胞を接触させることを含む。他に指定しなければ、「NrS1」には、上記に定義されるNrS1タンパク質とNrS1類似体の両方が含まれる。
上記の方法を使用して、in vitro 又は被検者の in vivo で星状細胞の増殖を阻害することができる。本明細書に使用される用語「星状細胞の増殖を阻害する」は、上記に定義されるように、星状細胞の細胞分裂及び増殖を阻害することを意味し、本明細書に開示されるように、星状細胞の増殖速度を制限することが含まれる。星状細胞の成長及び増殖の阻害は、本明細書に開示される方法、分子の方法、及びアッセイのいずれをも含む、既知の方法により検出することができる。
上記の方法によれば、NrS1タンパク質そのものを星状細胞へ導入することか、又はNrS1をコードする核酸をNrS1タンパク質の発現を可能にするやり方で星状細胞へ導入することによって、in vitro 又は被検者の in vivo でNrS1を星状細胞に接触させることができる。被検者はいずれの動物でもよいが、好ましくは哺乳動物(例えば、ヒト、家畜動物、及び商業用動物)である。より好ましくは、被検者はヒトである。星状細胞は、単独で、又は、ニューロン及び寡突起神経膠細胞を限定なしに含む他の種類の神経細胞とともに、神経系の神経組織と他の組織に含まれる場合がある。星状細胞は、既知の技術から容易に決定される標準検出法により組織中で検出することができ、それには、限定なしに、免疫学的技術(例えば、免疫組織化学染色)、蛍光造影技術、及び顕微鏡技術が含まれる。
NrS1は、NrS1タンパク質を培養基へ直接加えることによって、in vitro で星状細胞に接触させることができる。あるいは、NrS1は、NrS1タンパク質を被検者へ導入するか又は投与することによって被検者において in vivo で星状細胞に接触させてよい。本発明のNrS1タンパク質は、例えば、注射及び輸注を含む、タンパク質や他の薬物の導入及び投与について使用される既知の技術によって、in vitro 又は被検者において in vivo で、星状細胞に接触させてよい。標的星状細胞が被検者の身体の特別な部分へ局在化しているときは、注射や他の手段によって(例えば、NrS1タンパク質を血液や別の体液へ導入することによって)NrS1タンパク質をその組織へ直接導入することが望ましい場合がある。NrS1タンパク質の使用すべき量は、上記に定義されるように、星状細胞の増殖を阻害するのに有効な量であり、当業者が容易に決定することができる。
移植、診断、薬物スクリーニング、等のために神経組織を調製するときには、星状細胞の増殖を in vitro で阻害することが望ましい場合がある。in vivo 治療に関しては、星状細胞の増殖を阻害するNrS1の能力により、NrS1は、星状細胞増殖における欠陥に関連した状態を被検者において治療するのに特に有用になる。上記に定義される用語「星状細胞増殖における欠陥」には、同じ種類の組織における正常な増殖に比較される、特別な組織における星状細胞の病理学的な増殖が含まれる。星状細胞の増殖を阻害することによって、NrS1は、星状細胞増殖における欠陥に関連した状態の治療に有用になり得ると考えられている。さらに、NrS1は、単独で、又は、星状細胞増殖における欠陥に関連した状態の治療に典型的に使用される化学療法剤や抗ウイルス剤のような治療剤との組合せにおいて有効であろうと考えられている。
従って、本発明は、星状細胞増殖における欠陥に関連した状態を治療の必要な被検者において治療する方法を提供する。本方法は、星状細胞の増殖を阻害するのに有効な量のNrS1に被検者の星状細胞を接触させること、それにより星状細胞増殖における欠陥に関連した状態を治療することを含む。上記のように、被検者はいずれの動物でもよいが、好ましくは哺乳動物(例えば、ヒト、家畜動物、及び商業用動物)である。より好ましくは、被検者はヒトである。
本発明の方法において、星状細胞増殖における欠陥に関連した状態は、上記のいずれでもよく、それには、限定なしに、星状細胞症、グリア瘢痕、過形成、新形成、及び神経炎性斑(特に、アルツハイマー病患者によく見出されるもの)が含まれる。星状細胞増殖における欠陥に関連したこうした状態は、上記に記載のものをいずれも含む、多様な要因により引き起される場合がある。本発明の1つの態様において、星状細胞増殖における欠陥は、星状細胞症である。本発明の別の態様において、星状細胞増殖における欠陥は、神経炎性斑である。
星状細胞増殖における欠陥に関連した状態の被検者における治療においては、タンパク質投与の知られた方法に従ってNrS1を被検者へ投与することによって、星状細胞増殖における欠陥に関連した状態を有する被検者の内部で、NrS1を in vivo で星状細胞に接触させることができる。NrS1タンパク質の使用すべき量は、上記に定義されるように、星状細胞の増殖を阻害するのに有効な量であり、当業者が容易に決定することができる。
NrS1は、上記のどの投与の形式でも、そしてどの製剤においても被検者へ投与することができる。例えば、NrS1は、経口投与、非経口投与、舌下投与、経皮投与、又は浸透ポンプにより被検者へ投与してよい。本発明の1つの態様において、NrS1は、経口投与又は経皮投与によって被検者へ投与される。
本発明はまた、星状細胞増殖における欠陥に関連した状態を治療の必要な被検者において治療する方法へ向けられる。これらの方法は、CD81を被検者において活性化することを含む。他に指定しなければ、CD81には、上記に定義されるように、CD81タンパク質とCD81類似体の両方が含まれる。本明細書に使用される用語「CD81を活性化すること」は、CD81の機能を被検者において刺激するか又は誘導すること、特に、星状細胞増殖の変調又は調節と星状細胞増殖停止の誘導を意味する。被検者中のCD81は、CD81を直接標的にすることによって活性化することができる。被検者中のCD81はまた、CD81の被検者における機能又はレベルを調節するか又は変調させる酵素又は他の内因性分子を標的にすることによって、間接的に活性化してもよい。被検者はいずれの動物でもよいが、好ましくは哺乳動物(例えば、ヒト、家畜動物、及び商業用動物)である。より好ましくは、被検者はヒトである。
本発明の方法において、被検者中のCD81は、例えば、NrS1タンパク質又はNrS1誘導体を被検者へ投与することによって活性化することができる。本発明のNrS1タンパク質又はNrS1誘導体は、星状細胞増殖における欠陥に関連した状態の治療の必要な被検者へ、星状細胞増殖における欠陥に関連した状態を被検者において治療するのに有効である量で投与される。星状細胞増殖における欠陥に関連した状態は、上記に記載されるもののいずれでもよく、限定なしに、星状細胞症、グリア瘢痕、過形成、新形成、及び神経炎性斑(特に、アルツハイマー病患者によく見出されるもの)が含まれる。追加的に、星状細胞増殖における欠陥に関連した状態は、上記に記載のものをいずれも含む、多様な要因により引き起される場合がある。本発明の1つの態様において、星状細胞増殖における欠陥は、星状細胞症である。本発明の別の態様において、星状細胞増殖における欠陥は、神経炎性斑である。
本明細書において使用される句「星状細胞増殖における欠陥に関連した状態を治療するのに有効な」は、星状細胞増殖における欠陥に関連した状態の臨床上の障害若しくは症状を改善するか又は最小化するのに有効なことを意味する。例えば、星状細胞増殖における欠陥に関連した状態が星状細胞症である場合、この状態の臨床上の障害若しくは症状は、星状細胞症により産生される星状細胞の塊を抑制することによって、それにより、発生し得る潜在的な軸索の閉塞を最小化することによって、改善されるか又は最小化することができる。
星状細胞増殖における欠陥に関連した状態を治療の必要な被検者において治療するのに有効なNrS1タンパク質又はNrS1誘導体の量は、各症例の特別な要因に依存して変動するものであり、それには、星状細胞増殖における欠陥の種類、星状細胞増殖における欠陥のステージ、被検者の体重、被検者の状態の重症度、及び、投与の方法が含まれる。この量は、当業者が容易に決定することができる。
本発明の方法によれば、NrS1タンパク質又はNrS1誘導体は、上記の投与形式のすべてを含む既知の方法により、そして上記の製剤のいずれでもヒト若しくは動物の被検者へ投与することができる。本発明の好ましい態様において、NrS1タンパク質又はNrS1誘導体は、経口若しくは経皮投与によって投与される。本発明のNrS1タンパク質又はNrS1誘導体はまた、星状細胞とタンパク質との間の in vivo 接触をもたらすための上記方法のいずれによっても被検者へ投与してよい。
本発明はまた、NrS1と製剤的に許容される担体を含んでなる医薬組成物へ向けられ、ここでNrS1は、前記医薬組成物が投与される被検者において、上記に定義されるような、神経変性を治療するのに十分又は有効な量で存在する。そのような医薬組成物は、神経変性の治療の必要な被検者へ、神経変性を該被検者において治療するためにNrS1を投与するのに有用である。NrS1は、上記に定義されるような神経変性を被検者において治療するのに有効である量で被検者へ提供される。この量は、当業者が容易に決定することができる。医薬組成物は、上記に記載される投与方法のいずれに従っても、そしていずれの製剤でも被検者へ投与してよい。
本発明の医薬組成物の製剤は、簡便には単位投与量で提示してよく、経口剤形(例えば、NrS1と製剤的に許容される担体を、アンプル剤、カプセル剤、丸剤、散剤、又は錠剤において組み合わせてよい)においてか、又は注射に適した形態において提示してよい。製剤的に許容される担体は、固体、液体、又はゲルであってよい。さらに、本発明の製剤的に許容される担体は、組成物の他の成分と適合可能であり、そのレシピエントへ有害ではないという意味において「許容され」なければならない。許容される医薬担体の例には、上記に記載されるものがすべて含まれる。選択される担体は、投与の経路と、NrS1が導入される形態に依存する。さらに、本発明の製剤は、上記の調製法がすべて含まれる、製剤技術分野においてよく知られた方法により調製してよい。
本発明はまた、NRS1をコードする核酸と製剤的に許容される担体を含んでなる医薬組成物へ向けられ、ここで該核酸は、前記医薬組成物が投与される被検者において、上記に定義されるような、神経変性を治療するのに十分又は有効な量でNRS1を発現する。そのような医薬組成物は、神経変性の治療の必要な被検者へ、神経変性を該被検者において治療するためにNRS1を投与するのに有用であろう。上記に定義されるような神経変性を被検者において治療するのに有効である量でNRS1タンパク質を発現するような量の核酸が該被検者へ提供される。これらの量は、当業者が容易に決定することができる。追加的に、医薬組成物は、核酸の投与及び導入について上記に記載される方法のいずれによっても被検者へ投与してよい。
上記の医薬組成物の製剤は、簡便には、単位投与量で提示してよく、核酸の投与に適した形態において(例えば、注射により)提示してよい。NrS1をコードする核酸は、裸のDNA、プラスミドDNA、及びベクターDNA(上記のようなウイルスベクターを含む)を限定なしに含む、核酸の導入について当該技術分野でよく知られたどの形態で提示してもよく、遺伝子治療や分子遺伝学の当該技術分野でよく知られた方法に従って調製してよい。さらに、本発明の製剤的に許容される担体は、組成物の他の成分と適合可能であり、そのレシピエントへ有害ではないという意味において「許容され」なければならない。許容される医薬担体の例には、上記に記載されるものがすべて含まれる。選択される担体は、投与の経路と、NrS1をコードする核酸が導入される形態に依存する。さらに、本発明の医薬組成物の製剤は、上記の調製法がすべて含まれる、製剤技術分野においてよく知られた方法により調製してよい。
本発明のいくつかの好ましい態様を以下の「実施例」に記載する。本明細書の特許請求項の範囲内にある他の態様は、本明細書に開示される本発明の明細書又は実施の考察より、当業者に明らかであろう。本明細書は、実施例とともに、例示的なものとみなされるべきであり、本発明の範囲及び精神は、「実施例」に続く特許請求項により明示されると企図される。
実施例1.ニューロン−星状細胞相互作用の分子特性
序論
哺乳動物の中枢神経系(CNS)において構成細胞の適正な数及び種類を確立して維持することは、厄介な問題である。初期発生の間に正確な数の細胞が正確な位置におさまるだけでなく、外傷又は疾患の非存在下では、細胞の全数と細胞型の比は、ホメオスタシスが確立している最も長い発達期(成人期)の間、ほとんど一定に保たれる。この観察結果は、CNSにおけるホメオスタシスについて多くのことを示唆する。例えば、体内にある大多数の細胞と異なり、ニューロンは一生にわたり分裂することも置き換わることもできない。このことは、これらの細胞へ継続的な支援を提供する独自の機序があることを示唆する。しかしながら、星状細胞の場合、状況はより複雑である。なぜなら、これらの細胞は、その生活史のほとんどどの時点でも細胞周期に再び入ることが可能であり、外傷や疾患へ応答してそうするからである(15)。この増殖能力にもかかわらず、星状細胞の数は一生を通してほとんど無変化のままである(23,24,25)。さらに、星状細胞は、ニューロン表面と直接接触している間に細胞周期の外で維持され得ることが証明された(11,12,29)。
星状細胞において有糸分裂静止がいかに確立されて維持されるのかを決定することが重要であるのは、成体の哺乳動物において、星状細胞増殖より生じる陽性と陰性の両方の重要な後遺症が存在するからである。これらの後遺症には、損傷への神経膠症的な(gliotic)応答、軸索移動及びニューロン再構築の二次的な遮断、星状細胞症的な溢出より生じる、他の点ではインタクトな組織への側枝傷害、及び、細胞周期に移行する星状細胞における可能な自発突然変異、及び/又はウイルス組込みが含まれる。これらはいずれも最終的に星状細胞腫をもたらす場合がある。
CNS損傷の場合、生じる星状細胞症は、軸索の再生を遮断することに重要な役割を担う可能性がある、グリア瘢痕の形成の主要な貢献因子であると考えられている(6)。傷害された組織の隔離は、血液脳関門を再確立させるのに重要な側面となる可能性があるが、この挙動は、そのような隔離領域を、再生に利用可能な神経組織から永久に取り去ることを示唆する。さらに、星状細胞はごく低いレベルであっても一生を通じて増殖するので(7)、それは、DNA複製でのエラーやウイルスの組込みの危険を受けやすい。このことは、これらの細胞を、哺乳動物の一生にわたり形質転換の影響を受けやすくしている。実際、脳腫瘍と診断された人々では、腫瘍の大部分が星状細胞系統である。先のことに照らせば、ニューロン−神経膠相互作用の基本生物学を理解することが、星状細胞増殖制御がはじめに達成されるだけでなく、その後一生を通じて維持される手段への洞察を提供し得ることは明らかである。そのような知識は、形質転換細胞において秩序だった増殖を再確立させる方法へのさらなる洞察をもたらす可能性がある。
初期の研究は、星状細胞がニューロン細胞表面と接触するとすぐに増殖停止になること、そしてこの活性がCNSではニューロン特異的であることを例証した(28)。また、ニューロンのこの抗増殖活性を、固定化ニューロン又はニューロンの膜濃縮タンパク質分画のいずれかで星状細胞を処理することによって、星状細胞−突起形成を推進するニューロンの能力より単離し得ることも示された。これら調製物の存在下では、星状細胞は細胞周期から出るものの、星状細胞性突起を伸ばすことも(28)、グルタメート輸送体であるGLT−1をアップレギュレートすることもできない(未発表の観察)。
ニューロン−星状細胞相互作用の細胞生物学は十分に記載されてきたが、この細胞生物学の分子相関物はほとんど探究が不十分である。この相互作用の本質を明確化することを始めるために、本発明者は、一連のディファレンシャル遺伝子スクリーニングを実行し、精製した星状細胞培養物における発現パターンを、ニューロンと共存培養した星状細胞のそれと比較した。星状細胞RNAが「エフェクター」ニューロン由来のRNAで汚染される問題を避けるために、本発明者は、星状細胞を静止させるにはニューロン細胞膜で十分であるというその初期の観察結果を利用した(29)。
その観察結果から、本発明者は、その発現がニューロン刺激星状細胞によりアップレギュレートされるいくつかの遺伝子を同定した。このアッセイ系で同定した大部分の遺伝子は既知のものであり、非神経組織において、十分に文書化された発現パターンを有した。このスクリーニングでの遺伝子のいくつかは神経系で発現されることが知られていたが、その生物学的意義についてはほとんど知られていなかった。この後者のクラスの中にテトラスパニン、CD81(抗増殖抗体の標的、又はTAPAとしても知られている)があった。CD81の発現は星状細胞においてすでに示されていて、神経外傷の後でアップレギュレートされることが知られていた(8)。しかしながら、外傷やホメオスタシスにおけるCD81の機能はこれまで明確でなかった。
抗体混乱(perturbation)、生化学競合、及び遺伝子ノックアウト試験の組合せを使用して、本発明者は、CD81が星状細胞増殖制御の必須モジュレーターであることを示した。例えば、図21を参照のこと。この観察結果は、星状細胞症が数多くの神経外傷から生じ、それより生じるグリア瘢痕が生産的な神経再生への主要な障壁を提示すると考えられているので、きわめて重要である。さらに、星状細胞腫は、毎年約17,000症例の罹患数がある脳腫瘍で最も多い単一形態である。本発明で試験した星状細胞腫細胞はすべてCD81のメッセージ若しくはタンパク質を発現し得ず、CD81が星状細胞腫瘍の形成及び/又は転移に重要な役割を担うという可能性を提起した。
さらに、本発明者は、NrS1と命名した、CD81へのニューロンリガンドの同定について本明細書に記載する。本発明者はまた、GM1109と命名した、CD81の小さな模倣体でニューロンを刺激することから生じる一連のイベントを開示する。
材料と方法
動物.妊娠したスプリーグ−ドーリーラット及びC57BL/6マウスをチャールズ・リバーズ・ラボラトリーズより入手した。CD81異種接合マウスを、C57BL/6バックグラウンドへ10世代より多く戻し交配した。これらマウスの産生についてはすでに記載されている(17)。異種接合動物を交配すると、予測されるメンデル頻度で子孫が生まれた。しかしながら、CD81−/−動物では弱まった生後生存能力を観察した。上記交配の子孫の遺伝子型を記載のように正確に決定した(17)。注目すべきことに、より初期の戻し交配では正常なメンデル分布と正常な生存があったが、異種接合ヌル動物には周産期に共通した死亡もあった。
組織培養−一次神経細胞.一次小脳ニューロン及び星状細胞を記載(18)のように調製した。簡潔に言えば、生後4又は5日目に、ラット若しくはマウスの子どもから小脳を切除し、髄膜を剥離し、残存組織をCa2+/Mg2+フリーPBS(CMF−PBS)において洗浄した。次いで、この組織をトリプシン処理し、DNアーゼの存在下、減少口径の針に通して摩砕し、ペレット状にした。この細胞をCMF−PBSに再懸濁し、この単一細胞懸濁液を、Percollステップ勾配(30/60%;アマーシャム・ファルマシア)に載せて分離した。いずれも記載される通りである(18)。しっかり洗浄して、残存するPercollを除去した後で、このニューロン濃縮分画と星状細胞濃縮分画をさらに濃縮した:ディファレンシャル吸着により、混在する星状細胞をニューロン調製物から除去し、抗Thy1及び補体仲介性細胞溶解での処理により、ニューロン及び線維芽細胞を星状細胞濃縮分画から除去した。10%加熱不活性化胎仔ウシ血清(FBS;ジェミニ−バイオ−プロダクツ社)を補充したDMEM(ギブコ)、10%加熱不活性化ウマ血清(ジェミニ−バイオ−プロダクツ社)、1%非必須アミノ酸(ギブコ)、ペニシリン−ストレプトマイシン(ギブコ;20U/ml)、フンジゾン(ギブコ;0.25μg/ml)、及びグルコース(最終濃度0.6%)からなるD10においてすべての細胞を培養した。この星状細胞懸濁液を、50μg/mlのポリ−L−リジン(シグマ)で処理した、24穴プレート(コスター)において2x105細胞/ウェルか、又は8穴Lab−Tek組織培養チャンバー(Nalge Nunc)において5x104細胞/ウェルで播いた。1つの星状細胞につき2つのニューロンの比率でエフェクターニューロンを加えた。
星状細胞腫の細胞系.いくつかの大膠細胞系(ラットC6及び9L、ヒトA172及びU251MG、及び、マウスLN308及びLN18)を、100ミリ組織培養ディッシュ(ファルコン・ラブウェア)中、D10において増殖させた。
抗体.ウサギ抗ウシグリア原線維酸性タンパク質(GFAP)抗体、並びにTRITC共役ブタ抗ウサギ抗体を、DAKO A/S(コペンハーゲン、デンマーク)より入手した。FITCへ共役した、ブロモデオキシウリジン(BrdU)へのマウスモノクローナル抗体(mAb)をベーリンガー(マンハイム、ドイツ)より入手した。CD81(1)へのハムスターmAb 2F7とFITC共役マウス抗ハムスターmAbをファーミンゲン(サンディエゴ、カリフォルニア州)より入手した。ハムスターmAbのEat1及びEat2は、CD81中の独自エピトープと反応し、最近記載された(18)。TuJ1は、チューブリンのニューロン特異的βIIIサブユニットを認識する。Alexiaレッド共役ヤギ抗マウス二次抗体はモレキュラー・プローブより購入し、マウスmAb抗GSTはシグマより購入した。ビオチニル化ヤギ抗マウス抗体とVectastain ABCキットは、ベクター・ラブズより購入した。
融合タンパク質.完全長SCIPと大細胞外ループ(LEL)をコードするマウスCD81の領域をいずれもpGEX発現ベクター(5)へクローニングし、GST融合タンパク質を産生した。クローンを配列決定し、DH5α大腸菌(E. coli)をそれぞれのクローンで形質転換させ、IPTGで誘導した。生じた溶解物をグルタチオン−アガロースビーズで濃縮し、このタンパク質濃度をBCAアッセイ(ピアス)により評価した。この材料の完全性を、いずれも標準技術による、ゲル電気泳動と抗原特異抗体及び/又は抗GST抗体を用いたイムノブロッティングにより決定した。
ノーザンブロット分析.Chomczynski と Sacchi(2)に記載されるように、全RNAを培養細胞より抽出した。各試料由来の20μgのRNAを、変性アガロースゲル上で電気泳動的に分離し、ナイロン膜(ミクロン・セパレーションズ社)へ移した。この膜を、無作為プライム化、[32P]dCTP標識マウスCD81 cDNAを用いて42℃で一晩プローブし、連続的に洗浄し(2xSSC,0.1% SDS中、65℃で15分間を3回;0.2xSSC,0.1% SDS中、65℃で10分間を2回;そして、2xSSC中、室温で5分間を1回)、乾燥させ、X線フィルムへ感光させた。
イムノブロッティング.培養した小脳星状細胞とニューロンC6大膠細胞腫と共存培養した星状細胞を氷冷PBSにおいて2回洗浄し、ディッシュからかき取り、ペレット状にし、低張破壊緩衝液(10mM HEPES(pH7.9),10mM NaCl,0.1mM EGTA,0.1mM EDTA,0.5mM フェニルメチルスルホニルフルオリド、ロイペプシン 0.5mg/ml,ペプスタチンA 0.7mg/ml,及びアプロチニン 1mg/ml)に再懸濁した。この試料を氷上で15分間インキュベートし、その後でNP−40を加えて1%の最終濃度とした。界面活性剤の可溶性部分と不溶性部分を遠心分離により分離した。膜を含有する界面活性剤可溶性分画についてBCAアッセイ(ピアス)を使用してタンパク質濃度を定量した。10% SDS−ポリアクリルアミドゲルで50μgのタンパク質を分離してから、このタンパク質を、半乾燥ブロッターを使用してニトロセルロース上に移した。アミドブラック染色により移動の効率を定量した。この膜を、トリス緩衝化生理食塩水に5%ミルク及び1% Triton−X100を含有する緩衝液Aにおいて遮断した。次いで、この膜を、ヤギ抗CD81抗血清に次いで、ペルオキシダーゼ共役ロバ抗ヤギ二次抗体でプローブした。反応産物をECLにより可視化した。
免疫蛍光.プレート培養から48時間後、細胞培養物をPBS中で洗浄し、PBS中の4%パラホルムアルデヒドにおいて4℃で30分間固定した。10% FBS/PBS中での室温で30分間のインキュベーションにより、非特異結合を遮断した。遮断溶液を除去し、一次抗体(PBSに希釈した、2F7、Eat1、又はEat2)を37℃で1時間加えた。この培養物を濯ぎ、マウスFITC共役抗ハムスター抗体において室温で30分間インキュベートし、洗浄し、マウントした(Pro Long Antifade Kit、モレキュラー・プローブ)。同じ種類の培養物もFITC共役抗BrdU抗体(シグマ)を用いてGFAP及びBrdU取込みについて二重標識した(以下参照)。この培養物をPBSにおいて洗浄し、4% パラホルムアミド/PBSにおいて4℃で30分間固定し、PBSにおいて洗浄し、室温で10分間、0.5% Triton X−100/PBSに透過させた。10% FBS/PBSにおける室温で30分間のインキュベーションにより非特異結合を遮断し、TRITC共役二次抗体でGFAPを可視化した。
in vitro 増殖アッセイ.対照条件下か、又は融合タンパク質、又は増加濃度の本明細書に記載のmAbの1つの存在下で、培養を確立した。24時間後、10μM BrdU(シグマ)を加え、この培養をさらに24時間続けた。引き続き、細胞を固定し、本明細書に記載のように、GFAP染色により星状細胞を同定した。BrdU取込みを可視化するために、クロマチンを2M HCl、30分間で変性させ、PBSにおいてしっかり洗浄し、FITC−抗BrdU抗体と室温で1時間インキュベートした。インキュベーションの後で、細胞をしっかり洗浄し、ビス−ベンズアミド(シグマ)で染色して全細胞数を定量し、再び洗浄し、Anti−Fadeにマウントした。一定の顕微鏡領域でのBrdU陽性星状細胞の数をGFAP陽性細胞の全数で割ることによって、星状細胞増殖のレベルを定量した。増殖アッセイはいずれも少なくとも3回繰り返した;それぞれの実験試料(600〜700細胞/試料、各実験点につき全部で少なくとも約2000の細胞)より、30の顕微鏡領域を検査した。スチュ−デントの両側t−検定を使用して、データの統計解析を行った。
結果
CD81は星状細胞の細胞表面で発現される。本発明者は、ディファレンシャルスクリーニングのアプローチを使用することによって、ニューロン膜と共存培養した星状細胞においてCD81発現をはじめて同定した。CD81タンパク質が本当に星状細胞により発現されるかを決定するために、本発明者は、すでに記載のように(28)、星状細胞又は星状細胞腫細胞系、C6の培養を確立した。48時間培養物からタンパク質を単離し、SDS−PAGEゲルで分離し、CD81に対するポリクローナル抗体でブロットした。C6神経膠腫細胞がCD81陰性であるのに対して、培養星状細胞はCD81を構成的に発現する(図1A)。これらの培養物へニューロンを加えると、星状細胞においてはCD81発現が50〜70%増加したが、C6細胞には効果を及ぼさなかった(一部データ示さず)。星状細胞上でのCD81発現を定位するために、抗CD81モノクローナル抗体(mAb)、2F7(1)を使用して、ラット星状細胞培養物単独、並びに星状細胞及びニューロンの共存培養物を染色した。図1Bは、星状細胞の表面上でのCD81の斑点状の染色パターンを示す。ニューロンと共存培養すると、星状細胞は、ニューロン移動の指示経路として役立つ複合突起と、ニューロンの吸着及び分化のマトリックスを伸ばす(11,29)。ニューロン−星状細胞共存培養物の染色は、星状細胞本体の表面とこの突起に沿った両方でCD81発現の斑点状パターンを示した(図1C、矢印)。対照的に、上記培養物中のニューロンは、2F7抗体では染色しなかった。
抗CD81 mAbは、独自の非重複、細胞外エピトープを認識する.CD81は4つの膜貫通ドメインを有し、細胞外ドメインに2つのループを生じる。一方は小細胞外ループ(SEL)であり、他方は大細胞外ループ(LEL)である。生きた、非透過性星状細胞上で2F7抗体を使用すると、結果は、それが細胞外エピトープを認識することを示した(図1A及び1B)。最近の研究は、2F7 mAbが、CD81のSELとLELの両方の存在を必要とするコンホメーション依存性エピトープを認識することを示した。Eat2は2F7よりも高いCD81へのアフィニティーを有するが、それも、抗原結合のために両方のループを必要とする。対照的に、Eat1はLEL内のエピトープを認識する(18)。これらmAbのいずれもがニューロン−星状細胞相互作用を遮断することができるかを決定するための努力において、本発明者は、これら試薬の存在下で共存培養を確立した。
ニューロン−星状細胞相互作用は in vitro においてmAb Eat1により遮断される.ニューロン誘導性の星状細胞の分化及び細胞周期退出を遮断することにおけるEat1及びEat2の潜在効力を決定するために、本発明者は、小脳顆粒細胞と星状細胞の共存培養物を確立した。この培養物を48時間増殖させ、培養の後半24時間にBrdUを加えた。図2Aに見られるように、Eat1抗体の濃度に依存する、ニューロン誘導性星状細胞増殖停止の損失がある。注目すべきことに、この培養物中のニューロンは生存能力があり、星状細胞へ吸着して、神経突起を伸ばした(以下参照)。これまでの研究は、小脳顆粒細胞が生存のために星状細胞と星状細胞由来因子に鋭敏に依存することを示した(13)。Eat1 mAbがニューロン依存性の星状細胞増殖停止を遮断したが、栄養的な支援は遮断しないという本発明者の観察結果は、正常なニューロン−星状細胞相互作用が上記の条件下では必ずしも失われないことを示唆する。
Eat2は、ニューロン−星状細胞相互作用に明瞭な効果を及ぼさなかった:Eat2の存在下で確立したニューロン−星状細胞共存培養物は、対照の共存培養物から区別し得なかった。対照とEat2の両方の条件下で、星状細胞は、ニューロンでチャレンジすると、細胞周期から逸脱し、複合突起を伸ばした(図2D及び2E)。対照的に、mAb 2F7を加えると、ニューロン誘導性星状細胞増殖停止を亢進させ(図2B)、この抗体を共存培養系へ加えることによってニューロン依存性星状細胞増殖停止が強まることを示唆した。Eat1のデータとともに、上記の観察結果は、CD81のバイオアベイラビリティ及び/又はコンホメーションにおける改変がニューロンに対する星状細胞の増殖応答を変調させるのに甚大な効果を及ぼすことを示す。
星状細胞の増殖とニューロン接触に応答した突起形成は個別のイベントであるとこれまで示されてきた。星状細胞増殖の制御にはニューロン膜との接触で十分であるが、細胞周期退出と突起形成の両方には生きたニューロンが必要とされる(29,30)。本発明者は、ニューロン−星状細胞共存培養物における星状細胞の突起形成において、対照条件下か、又はmAbの2F7又はEat2のいずれか一方の存在下で違いがないことを認めたが、これらの培養物とEat1の存在下に確立した共存培養物との間には明瞭な違いがあった。これらの明瞭な違いの例を図2Cと2Dに見ることができるが、ここでは、それぞれEat1とEat2の存在下でのニューロン−星状細胞共存培養物を提示した。
Eat1の存在下では(図2C)、星状細胞はニューロンに応答して典型的な突起を伸ばすことができず、細胞周期に留まった。図2Cに図示する星状細胞は、抗GFAP抗血清で造影した。これらは、in situ で出現した娘細胞のクラスターの外観を有す。対照的に、Eat2の存在下では(図2D)、GFAP発現性の星状細胞突起は長く、星状細胞と生きた野生型顆粒細胞ニューロンの共存培養物において見られる星状細胞応答から区別し得ない複雑性がある(図2E)。さらに、神経炎性突起の完全性は、抗CD81 mABのEat1及び2F7の存在下で失われない(図2F、2G、及び2H)。これらのデータは、抗CD81 mABの効果が星状細胞のレベルで起こり、ニューロンの生存能力の低下や軸索生成能力の減弱化の結果ではないことを明示する。さらに、このデータは、処理された星状細胞がニューロンの生存と軸索生成を支援することができることを示し、星状細胞のコグネイトニューロンとの相互作用の1つの側面におけるCD81の役割の特異性をさらに明瞭にする。
可溶性GST−CD81融合タンパク質は、ニューロン細胞表面へ結合し、星状細胞発現CD81について競合する.上記の抗体遮断試験は、ニューロン−星状細胞相互作用を仲介することにおけるCD81の重要な役割を示唆した。しかしながら、どの抗体遮断実験にも、立体阻害についての懸念が常にある。それ故に、上記の観察結果をさらに発展させるために、本発明者は、可溶性マウスGST−CD81大細胞外ループ(GST−CD81(LEL))融合タンパク質を使用して、星状細胞へのニューロン結合について競合させることを試みた。この融合タンパク質がニューロン、星状細胞、又はその両方へ結合することができるかを決定するために、本発明者は、記載のように(28)、それぞれの細胞型を単離して精製した。生きた細胞を、10μg/mlのGST−CD81(LEL)とともに氷上で1時間インキュベートした。その後、この細胞を固定してから、内因性CD81を染色することを避けるために、抗GST抗体で染色した。GST−CD81(LEL)融合タンパク質はニューロン分画へ吸着したが、星状細胞分画へは吸着しなかった(図3)。星状細胞濃縮分画に見られるわずかな被染色細胞は、細胞本体の大きさと細胞の形状に基づけば、おそらくニューロンであった。培養中の星状細胞は、上記の細胞と異なって、平板になり、そして二極性又は三極性になる。
CD81は、正常なニューロン機能とニューロン/星状細胞相互作用に必要とされる.CD81−/−マウスの小脳では、ニューロンの萎縮と異常な組織学が明白である(図22)。さらに、CD81は、はじめの星状細胞/ニューロン相互作用に必要とされる(図24)。
CD81(LEL)タンパク質がニューロンの表面へ吸着するという観察結果は、上記細胞上でのCD81受容体の存在を示唆する。この推定受容体は、正常なニューロン−星状細胞相互作用に潜在的に関与している可能性がある。そのような受容体を遮断することが、CD81へ結合し、CD81を介して星状細胞を分化させるニューロンの能力を遮断するかを決定するために、本発明者は、増加する濃度のGST−CD81(LEL)タンパク質又は非関連GST融合タンパク質、GST−SCIPのいずれかを加えた。可溶性CD81が正常なニューロン誘導性星状細胞増殖停止を用量依存的なやり方で遮断したのに対し、GST−SCIPには効果がなかった(図4)。いずれの融合タンパク質もニューロンの生存や分化に明瞭な効果を及ぼさなかった。ニューロン結合パターンと、この遮断に基づけば、上記のデータは、可溶性CD81がニューロン上の受容体について競合し、それにより正常なニューロン誘導性、CD81仲介性の増殖停止を遮断することを示唆する(図4)。
星状細胞の細胞周期離脱はCD81依存性である.星状細胞上でのその発現に加えて、CD81はまた、リンパ球を含む数多くの細胞型により発現される。CD81は、CD81欠損マウスにおいて観察される免疫障害により裏付けられるように、免疫系において必須の役割を担うことが示されている(16,17,20,27)。異種接合CD81マウスをC57BL/6バックグラウンドへ10世代戻し交配し、純系C57BL/6遺伝子型においてC81欠失を確立した。誕生直後の動物から混合ニューロン−星状細胞培養物を確立した。これらCD81−/−動物を生後早期に採取したのは、誕生からはじめの数時間を超えると生存能力がひどく低下するためである。採取のときに、同時の遺伝子型決定用に追加の神経組織を取った。培養物を確立し、48時間増殖させた。培養の後半24時間にBrdUを加えた。次いで、細胞を固定して染色し、BrdU及びGFAPの二重標識化により星状細胞増殖を決定した。増殖データを作表してから、それぞれの培養物の遺伝子型を明らかにした。野生型共存培養物における星状細胞増殖の程度を1に設定した。このレベルの増殖に関しては、CD81+/−動物が星状細胞のBrdU取込みにおいて20%増加を示したのに対し、CD81−/−星状細胞は、星状細胞増殖の倍増を示した(図5)。
CD81は多様な星状細胞性腫瘍細胞系に存在しない.腫瘍形成は、増殖制御の損失へ貢献する多工程現象である。CD81が星状細胞性腫瘍の進行又は転移のいずれかにおいてある役割を担う可能性があるかどうかを決定するために、本発明者は、いくつかの星状細胞腫細胞系についてCD81 mRNA発現をアッセイした。免疫蛍光データに一致して、精製された細胞集団として単離して培養したときに、星状細胞は、CD81 mRNAを発現した。ニューロン膜と共存培養すると、星状細胞のCD81発現がアップレギュレートされ、CD81を細胞周期の外で維持する正のフィードバック機序を示唆した。対照的に、アッセイした星状細胞腫細胞系は、いずれも3日間の曝露後も検出可能なCD81メッセージのレベルを有さなかった(図6)。星状細胞腫におけるCD81の欠乏は、免疫組織化学によっても明示することができる(図23)。さらに、CD81が再発現される星状細胞腫細胞は、正常な外観及び機能へ復帰する(図25)。
CD81−/−動物では、それがC57BL/6バックグラウンドにある場合、星状細胞症がほとんど観察されなかったので、ニューロン調節性の増殖制御にはいくつかの階層が存在する可能性がある。しかしながら、CB81−/−マウスをBALB/cバックグラウンドへ交配すると、大量の星状細胞症が存在する(8、及び私信)。従って、CD81と相互作用して星状細胞増殖を in vivo で調節する追加の遺伝的成分が存在するのかもしれない。それでも、今回のデータは、CD81が星状細胞腫瘍の進行にある役割を担う可能性があることを示唆する。
NrS1はCD81へ結合する.ニューロン膜の星状細胞への結合の特異性を図9に明示するが、これは、35S−標識顆粒細胞ニューロンタンパク質が単層の星状細胞へ可飽和結合していることを示す(黒塗りの菱形)。対照的に、同じやり方で調製したPC12細胞膜タンパク質は、星状細胞への有意な結合を明示することができなかった。いずれもタンパク質分画も単層の3T3細胞への可飽和結合を示さなかった(データ示さず)。
ニューロンタンパク質の星状細胞への可飽和結合性と、星状細胞増殖停止を誘導するニューロンタンパク質の能力により、本発明者は、この活性剤を単離するためのタンパク精製戦略を設計することにした。本発明者の戦略には、Triton−X114を使用する膜結合性タンパク質の捕捉(図10A、レーン1)、又は陰イオン交換カラムでのFPLCクロマトグラフィー(図10A、レーン2)、それに続く、星状細胞膜アフィニティーマトリックスを使用してEDTA(図10A、レーン3)又はNaCl(図10A、レーン4)のいずれかで溶出させるアフィニティークロマトグラフィーが含まれた。NaCl溶出分画の支配的な分子種は、70kDでの拡散バンドであった(以下参照)。この材料を各工程でアッセイした。塩溶出分画において、10,000倍の活性濃縮が得られた。対照的に、EDTA溶出分画には、抗増殖活性が欠落していた。このことは、ニューロン発現性の活性タンパク質が二価カチオンとは無関係に結合することを示唆する。
本発明者はまた、様々なタンパク調製物の活性を定量するためのアッセイを開発した。このアッセイ系では、目的のタンパク質が明瞭なマトリックスへ結合することができて、このタンパク質−マトリックス基質上で細胞をプレート培養し、遺伝子発現を含む、多様な活性をアッセイすることができる。このアッセイを用いて、本発明者は、上記の濃縮手順より結合タンパク質を取り除き、それらについて星状細胞増殖をアッセイすることができた。簡潔に言えば、試験タンパク質をマトリックスへ吸着させた後で、精製したマウス星状細胞を48時間加え、星状細胞の数を計算した。
さらに、本発明者は、タンパク質のスタチン(G
0にある細胞において細胞質から核へ転座することが示された57kDのタンパク質)の細胞下分布をアッセイした。図10Bは、NaCl溶出分画でプレート培養したときに、星状細胞がスタチンを核から細胞質へ移動させることを明示する。この活性を表1に定量化する。この活性のための星状細胞受容体を同定した後で、本発明者は、このニューロンリガンドを明確に同定することができ、これをNrS1と命名した。星状細胞上でのNrS1受容体(即ち、CD81)のクローニングと特性決定、並びにNrS1の完全な同定を本明細書に記載する。
GM1109は、星状細胞発現性CD81に競合して、ニューロン細胞表面へ結合する.かつて本発明者は、抗体を使用し、ニューロン誘導性の星状細胞増殖停止の形質導入にはCD81の大細胞外ドメイン(ECD)のジスルフィド結合性サイドポケットが必要とされることを示した(34)。この推定される結合ポケットをさらに探査するために、本発明者は、モデリング予測に基づいた模倣体である、GM1109を産生した。GM1109は、CD81のニューロン結合部位に適合するように設計したペプチド化合物である。本発明者は、グルタチオンS−トランスフェラーゼのグルタチオン結合ドメインとの融合タンパク質としてこのペプチドを工学処理した。この融合タンパク質を、アフィニティー精製の目的に、そしてペプチドの結合及び機能を追跡する手段として使用した。
本発明者のモデリングにより、GM1109はCD81への結合についてNrS1と競合することができると予測された。この予測を検証するために、本発明者は、増加濃度のGM1109タンパク質又は非関連ペプチド、GM1110のいずれかをニューロン及び星状細胞の共存培養物へ加えた。本発明者のモデルに一致して、GM1109は、ニューロン誘導性の星状細胞増殖停止を用量依存的なやり方で遮断したが、GM1110には効果がなかった(図11)。いずれの化合物もニューロンの生存や分化に対しては観察可能な効果を及ぼさず(データ示さず)、それにより、この効果がニューロンの生存ではなくてシグナル伝達のレベルのものであることを示唆した。
これらのデータには2つの可能な解釈がある:(1)GM1109は星状細胞の細胞表面でcisに未知のタンパク質(群)と相互作用し、このタンパク質(群)がCD81を介したNrS1シグナル伝達に参画することを妨げる;又は(2)GM1109はニューロンの表面上でNrS1へtransで結合し、それによりシグナル伝達に拮抗する。これらの可能性を研究するために、本発明者は、既報のように(27)、2つの細胞型を単離して精製した。簡潔に言うと、新生齧歯動物の小脳より細胞を速やかに単離し、密度遠心分離とディファレンシャル吸着によってニューロン及び星状細胞の分画へ分離した。同一数の生きたニューロン又は星状細胞を10μg/mlのGM1109とともに氷上で1時間インキュベートした。この細胞を固定してから、内因性CD81を染色することを避けるために、抗GST抗体で染色した。図12に示すように、GM1109は専らニューロンへ結合し、この分子がtransで作用してニューロンの細胞表面へ結合することが確認された。
GM1109は、単一のニューロン特異的タンパク質へ結合する.上記のように、星状細胞増殖停止の誘導には、少なくとも1つのニューロン膜タンパク質が必要とされるように見えた。この観察結果に照らして、本発明者は、GM1109が目的のニューロンタンパク質を捕捉して同定するためのフックとして使用することができると推論した。なぜなら、それがニューロンの細胞膜表面へ結合することができるからである。簡潔に言えば、本発明者は、生後早期のマウス及びラットより顆粒細胞ニューロンを精製し、これらの細胞より、そしてラット・シュワン細胞と3T3線維芽細胞より界面活性剤可溶性抽出物を産生した。このタンパク質をSDS−PAGEにより分離し、ニトロセルロースへ移し、GM1109に続いてヤギ抗GSTでプローブした。これらのストリンジェント条件下で、GM1109タンパク質は、対照細胞には存在しない、約70kDaのニューロンタンパク質と特異的に相互作用した(図13A)。今日まで、中枢ニューロン以外で、このタンパク質を発現することが知られている細胞型は他にない。
CD81リガンドは、膜貫通チロシンキナーゼである.GM1109の細胞表面結合に基づいて(図12を参照のこと)、本発明者は、GM1109を使用して、はじめにそのコグネイト・リガンドへ結合させてから、それを引き出した。簡潔に言うと、本発明者は、精製された顆粒細胞ニューロンへGM1109を氷上で10分間結合させた。次いで、これらの細胞をプロテアーゼ阻害剤の存在下に溶解し、GM1109−リガンド複合体をグルタチオン/アガロースビーズ上で精製した。しっかりと洗浄した後で、このタンパク質複合体をビーズより溶出させ、SDS−PAGEにより分離した。対照細胞(3T3細胞)を並行して操作した。次いで、このゲルを銀染色して単離タンパク質を明らかにした(図14)。GM1109と結合した唯一のタンパク質は約70kDaであり、対照細胞によっては発現されなかった。
同じ手順を使用して、本発明者は、p70バンドを単離し、それをエドマン分解とマススペクトロメトリー分析にかけた。これらの分析に基づけば、GM1109は、本明細書においてNrS1と呼ぶ、タンパク質チロシンキナーゼへ結合するようである。構造のレベルで、NrS1が酵素ドメインにおいていくつかの他のチロシンキナーゼと高レベルの相同性を有することは驚きではない。しかしながら、NrS1の細胞外ドメインとしてモデル化されるNH2末端は、ユニークである。
多くのチロシンキナーゼが、それ自身リン酸化の標的となる。NrS1がそれ自身GM1109結合へ応答してリン酸化されるかどうかを検証するために、本発明者は、後期流産児より精製した、新鮮に単離したヒトニューロンへのGM1109の結合試験の時間経過を実施した。単離及び精製に続き、上記細胞をGM1109と0、2、又は10分間混合した。その後、細胞を溶解し、GM1109−NrS1複合体を精製した。SDS−PAGEによる分離の後で、この材料をニトロセルロースへトランスブロットし、抗ホスホチロシン抗体でプローブした。2分以内に、NrS1は完全にチロシン−リン酸化されたが、10分以内にこのシグナルは消失し、NrS1のCD81アゴニストへの結合がニューロンのシグナル伝達カスケードを始動させることを示唆した。
完全な星状細胞の分化は、双方向のシグナル伝達に依存する.本発明者は、ニューロン膜との接触は、星状細胞増殖停止には必要であるが、星状細胞−突起形成やグルタメート輸送体のアップレギュレーションを推進するには十分でなないことを以前に明示した(28、及び未発表データ)。対照的に、生存能力のあるニューロンは、星状細胞の静止と完全な分化の両方をもたらす。完全な星状細胞の分化を始動して推進するのに生存能力のあるニューロンが必要であることは、CD81シグナル伝達の後で、ニューロンの応答には遺伝子発現の変化が含まれ、それが次には星状細胞の応答をもたらすことを示唆する。CD81がNrS1の急速なリン酸化を誘導し、それ故に、ニューロンにおいてシグナル伝達カスケードを始動させる可能性があるという本発明者の観察は、この仮説に一致している。
この系を検討することを始めるために、本発明者は、星状細胞における生きたニューロンのシグナル伝達後イベントの模倣として、ニューロン膜と星状細胞±ジブチリル−cAMP(dbcAMP)の培養物を確立した。この系は、インタクトニューロンに対する星状細胞応答をモデル化するために他者がすでに使用している(37,38,44)。dbcAMPは、ニューロンの非存在下で増殖した星状細胞の形態に影響を及ぼさなかった(図16A)。本発明者は、dbcAMPが星状細胞の増殖インデックスに影響を及ぼさないことを以前に明示した(42)。培養星状細胞へニューロン膜を加えると、星状細胞増殖が停止したが、突起生成を誘導することはできなかった(図16B)。しかしながら、ニューロン膜+dbcAMPを加えることによって、増殖停止と突起形成の両方が可能になった(図16C)。
これまでの研究は、星状細胞由来の可溶性因子がニューロンの生存を支援することを示している(33)。ここで、本発明者は、星状細胞がCD81経由でニューロンへシグナル伝達し、それによってリン酸化NrS1を介したカスケードを始動させ、そこでニューロンが星状細胞へシグナルを戻すという潜在的な機序を明確化することをはじめた。
CD81アゴニスト、GM1109のNrS1への結合は、ニューロンの生存と星状細胞への近傍分泌シグナル伝達を誘導する.ニューロンとグリアは、生存及び分化について相互依存的であると数十年間理解されてきたが、これらのイベントの根底にある分子機序は部分的にしか理解されていない。一部解明された1つのそうした機序は、ニューレグリン(Nrg)による、グリアのニューロン誘導性の分化である(43)。CNSニューロン上のNrgは、星状細胞上のコグネイト受容体、erbB2及びerbB4を介したシグナル伝達によって(31)、星状細胞のcAMPレベルの増加をもたらし(32)、星状細胞の分化に影響を及ぼすことが示されている(36)。これらのデータは、完全な星状細胞の分化がCD81−NrS1シグナル伝達と星状細胞cAMPレベルの上昇の両方に依存しているという本発明者の観察に適合する。
CD81−NrS1相互作用がニューロン−星状細胞相互作用における下流のNrgシグナル伝達に仲介するかどうかを検討するために、本発明者は、顆粒細胞ニューロンを精製し、星状細胞刺激の模倣体としてのGM1109で処理した。このような処理は、以下に示すように、ニューロンにおいて甚大かつ迅速な変化を誘導し、GM1109が神経変性状態の治療において有用であり得る強力な特性を有する可能性があることを示唆する。
顆粒細胞ニューロンはニューグレリンの膜貫通型を発現し、これはCD81シグナル伝達時に切断される.上記のように、顆粒細胞ニューロンを>99%の均質性まで精製した。この細胞を、増殖因子を加えない規定培地において培養してから、ニューグレリンの細胞内ドメイン(ICDNrg)に特異的である抗体で染色した(35)。図17Aにおいて、染色パターンは、ICDNrgがこの急激に解離したニューロン中の細胞膜と結合していたことを示す。しかしながら、これらの細胞を5分間ほど処理すると、ICDNrgはすべて細胞表面より失われた。さらに、ICDNrgはニューロン核へ移動し(図17B)、ここで、ニューロンの生存と神経突起生成を可能にする転写変化に仲介すると考えられる(以下参照)。さらに、GM1109での処理は、培養顆粒細胞ニューロンの上清においてNrg濃度の2倍増加を誘導した(図17D)。
まとめると、これらのデータは、星状細胞模擬体のGM1109がニューロンへ結合すると、直後に、Nrgの膜貫通型の切断があり、細胞外の星状細胞−シグナル伝達ドメインが放出され、核の局在化シグナルを有するICDNrgがニューロン核へ移動することを示唆する。こうした生物学は、ニューロンが、NrS1を介して、星状細胞増殖停止を誘導してから、Nrgシグナル伝達を介して完全な成熟化を誘導する機序を説明するだろう。本発明者は、ニューロンが星状細胞へシグナル伝達する反応を「前方シグナル伝達」と、そして生じる細胞内のニューロンシグナル伝達イベントを「逆シグナル伝達」と命名した。
GM1109誘導性の逆シグナル伝達は、ニューロンを救って突起生成を誘導する.ニューロンの生存は、星状細胞由来のシグナルに依存することが示されている(33)。しかしながら、星状細胞がニューロンへシグナル伝達する正確なやり方は、十分に文書化されているわけではない。CD81模擬体のGM1109がニューロンの生存及び軸索生成のカスケードを始動させるのに十分であるかどうかを決定するために、本発明者は、精製した顆粒細胞ニューロンを低密度(24穴プレート中、105細胞/ウェル)で培養し、GM1109又は非関連対照ペプチドのいずれかを加えた。この細胞について生存を毎日評価した。96時間後、細胞を固定し、ニューロンと星状細胞の両方を二重染色した。この細胞が>99%ニューロンで、わずかに単離GFAP陽性細胞があったことは予想外ではない。星状細胞−シグナル伝達模倣体、GM1109の存在下で培養したニューロンは、対照条件下で培養した細胞に優る著しい生存の利点を表示し、濃縮細胞(pyknotic cells)はほとんどなく、数多くの突起保有細胞があった。対照的に、対照条件の下では、生存した細胞がほとんどなく、生存したものでも神経突起生成が制限されていた。
この実験の締め括りとして、間接的な免疫蛍光により細胞を造影した。1つの例を図19に見る。GM1109の存在下で培養した細胞は、大きくて複雑な神経突起を有していた(図19B及び19C)。対照的に、対照培養物では、生きた細胞がほとんどなく、生存した細胞にはわずかな短い神経突起しかなかった(図19A)。24時間後に外植した、生/死染色により、GM1109とともに培養したニューロンの生存能力が対照処理培養物に比べて15倍以上増加していることが明らかになった。
GM1109の15のアミノ酸がCNSニューロンを細胞死より救う.ニューロンへシグナル伝達し、ニューロンの生存を誘導するか又は高めるGM1109のドメインをさらに明確化するための努力において、本発明者は、モノクローナル抗体のEat1がニューロン誘導性の星状細胞増殖停止を遮断することを示す(34)これまでのデータを利用した。Eat1抗原のエピトープマッピングは、CD81の大きなECD中の領域を明確化し、それにより、この領域に対応するペプチドの機能が十分であり得ることを示唆した。この可能性を検証するために、本発明者は、3つの重複する20マーを合成した。各ペプチドのC末端の5アミノ酸がそれぞれの継承ペプチドのN末端の5アミノ酸と重複した。本発明者は、CD81の大きなECDの全部で60のアミノ酸に対応する、3つのそのようなペプチドを作製した。このペプチドをHPLCにより精製し、>99%の純度を得た。各ペプチドの用量曲線を、GM1109(陽性対照として)と同様に、精製した顆粒細胞ニューロンの培養物へ加えた。この細胞を、0.5%胎仔ウシ血清を補充した、Satoの規定培地において全部で5日間(120時間)維持した。その後、市販の生/死染色(モレキュラー・プローブ)で生存能力を判定した。このアッセイ系が有利であるのは、生きた細胞中のエステラーゼがカルセイン(calcein)色素を切断するからである。次いで、この切断生成物が細胞に充満すると、神経突起生成の程度を明らかにして、ニューロンの容易な同定を可能にする。
図20Aに示すように、あらゆる処理の非存在下では、ほとんどすべての顆粒細胞ニューロンが死滅したが、陽性対照のGM1109は、図19に示すデータに一致したやり方で、大多数の細胞を救った。試験したペプチドの中で、GM1415はこのアッセイにおいて活性を有さなかった。対照的に、GM1416は、ニューロンを細胞死より救う点で強力な活性を有し、GM1416が傷害されたニューロンを救出し、ニューロンの生存を高めるための新規治療薬になり得るという可能性を裏付けた。
考察
成熟CNSの内部で適切な比の細胞型が確立されることは完全には理解されていない。ほとんどのニューロン集団は細胞分化の後では細胞周期に再び入ることができないが、このことは星状細胞には当てはまらない。これらの細胞は、哺乳動物の一生のどの時点でも増殖することが可能であり、多様な病理学的条件の下でそうするのである。しかしながら、ホメオスタシスにおいては、星状細胞の数が顕著にも保存され、定常状態で維持される(23,24,25)。これまでの研究は、ニューロン細胞が星状細胞の増殖停止及び最終分化の強力なエフェクターであることを示した。さらに、星状細胞が一生細胞周期の外に維持されるのは、これと同じ機序による可能性がある。NCAM(9)、心房性ナトリウム利尿タンパク質(21)、アストロタクチン(4,22)、及びエンドセリン1(26)を含め、数多くの候補分子がこの活性のメディエーターであると提唱されてきたが、厳密な分析に耐えたものはない。
ニューロン−星状細胞相互作用の分析のほとんどは、in vitro でモデル化されている。培養条件下にニューロンでチャレンジすると、星状細胞は細胞周期から逸脱し、GFAPリッチの複合突起を伸ばす(11,12,29,30)。本明細書において、本発明者は、ニューロン仲介性の星状細胞分化と増殖停止の必須モジュレーターはCD81であるという最近の知見を報告する。この結論は、3つの独立した系列の実験証拠に基づく。抗体遮断、抗原競合、及び遺伝子アプローチがすべて集束して、CD81がこの生物学の必須部分であることをさらに示唆する。さらに、試験した星状細胞性腫瘍細胞系はCD81欠損であり、CD81が正常なニューロン−星状細胞生物学において重要な役割を担う可能性があることを示唆する。重要にも、この in vitro の知見は、ある遺伝子バックグラウンドで in vivo 事象を表型模写するが、別のバックグラウンドではそうしないので、CD81は、追加遺伝子の修飾因子(modifier)として作用するか、又はそれにより修飾されるかのいずれかであることを示唆する。
機能遮断抗体は、きわめて重要な分子相互作用を検査するのに貴重なツールである。本発明者は、本明細書において、CD81のLELに位置する個別エピトープへ結合するEat1が、ニューロンとの共存培養への星状細胞応答性を除去することができる(即ち、星状細胞は細胞周期に留まって、完全に分化することはない)ことを示した。これらの試験では、ニューロンは依然として星状細胞の細胞表面へ吸着することが可能であり、そこに定着し、原形の複合突起を伸ばした。このニューロン細胞の生存及び分化は、ニューロン−星状細胞相互作用にいくつかの階層が存在すること、そして、星状細胞の完全な分化がなくても、星状細胞がこれらの培養物においてニューロンの健全性を維持することができることを示唆する。顆粒細胞の生存及び分化に星状細胞、又は星状細胞誘導性の支援が必要であることはよく知られている(13)。それ故に、上記のデータは、ニューロン−星状細胞相互作用におけるCD81活性がニューロン誘導性の星状細胞分化に特異的であることを示唆する。
様々な抗CD81 mAbのそのコグネイト抗原への結合により誘導されるコンホメーション変化は、ニューロンへの特徴的な星状細胞応答をもたらす。CD81へきわめて強く結合するEat2が機能に効果を及ぼさないのに対し、Eat1抗体は、CD81とこれまで未同定のパートナーとの相互作用を遮断する。CD81と未知パートナーの間の分子クロストークという着想は、ニューロンの抗増殖シグナル伝達に対する星状細胞の感受性を2F7が増加させるという観察結果により裏付けられ、CD81におけるコンホメーション変化がその活性に対してごく強い効果を及ぼし得ることを示唆する。この着想は、2F7 mAbが胸腺細胞成熟化を遮断することができることを示す証拠によりさらに裏付けられる(1)。発生中の神経要素間の認識においてある役割を担うことが知られている、少なくとも1つの他のテトラスパニン、ショウジョウバエのlate bloomer遺伝子が存在する。late bloomer遺伝子座におけるハエの突然変異体は、時宜に合った形式で適切な神経筋肉シナプスを産生することができず、ハエ神経系での細胞要素の認識における役割を示唆する(14)。CD81がそのメンバーであるテトラスパニンは、膜の平面内にあるパートナー群を一緒にする、分子促進因子であると考えられている(19)。星状細胞とニューロン間のCD81仲介性シグナル伝達の分子機序に対して明確に答えるには、星状細胞発現性CD81結合パートナーの同定が待たれる。
一般に、機能遮断抗体を使用する試験は、制御することが困難である非特異的な立体阻害の問題があるので、本来的に限界がある。本発明者は、可溶性のGST−CD81(LEL)融合タンパク質を使用してCD81結合について競合させることによってこの潜在的な問題に対処した。このアッセイにおいて、GST−CD81(LEL)融合タンパク質は、星状細胞ではなく、ニューロンの細胞表面へ結合する。ニューロンが星状細胞上で結合することと、非関連の融合タンパク質は結合することも機能を遮断することもできないことは、結合の特異性を示唆し、ニューロン発現性CD81受容体の可能性を提起する。さらに重要にも、上記の可溶性GST−CD81(LEL)タンパク質は、この推定ニューロンCD81受容体について星状細胞発現性CD81と競合することによって、ニューロン誘導性星状細胞応答を遮断する。これらの観察結果は、ニューロン誘導性星状細胞活性を確立するのにCD81が重要な役割を担うという直接の証拠を提供する。
CD81がニューロン−星状細胞生物学において必須の役割を担うという決定的な確証は、CD81異種接合及び同型接合ヌルマウスから培養を確立することによって提供された。CD81発現を低下させるか又は除去するための遺伝学を使用して、本発明者は、ニューロン誘導性星状細胞応答におけるCD81の厳密な必要性を明示した。この試験に使用するCD81マウスを、C57BL/6バックグラウンドへ十分に戻し交配した。この+/−マウスは、自発的な星状細胞腫瘍を発症しなかったし、星状細胞過形成、星状細胞症の徴候も、検出可能な神経学的異常も示さなかった。しかしながら、このCD81欠失(マウス)をBALB/cバックグラウンドへ戻し交配すると、甚大な星状細胞過形成が生じた(8,及び私信)。これは、遺伝子バックグラウンドに依存して観察可能な表現型を有する、CD81活性の修飾因子が存在することを明示するので、きわめて重要な観察結果である。ある遺伝子産物の関連性を周囲のゲノムに照らして実体として考慮する必要があることは注目に値する。
今回の試験の意義は、星状細胞の細胞数をホメオスタシスと損傷において調節することの疑問を超えて拡張される。本発明者は、いくつかの星状細胞性腫瘍細胞系を検査したが、これはすべてひどく減弱したレベルのCD81発現を有する。CD81が典型的な腫瘍抑制遺伝子であることを示唆する証拠はないが、これらの星状細胞腫細胞系におけるCD81の非存在は、正常なニューロン−星状細胞生物学におけるCD81機能とひとまとめにして考えると、CD81が腫瘍抑制因子カスケードの一部であるかもしれないという可能性を提起する。ここに提示したデータは、星状細胞性腫瘍において in situ でCD81を再発現させることを目的とした機序は星状細胞腫に罹患している患者にとってきわめて有益であり得るという可能性を提起する。そのようなアプローチは、腫瘍細胞の増殖速度を in situ で制限することにより、そうしなければ致命的な疾患を慢性病へ変化させ、より慣用の療法による神経学的障害を消失させると企図されよう。神経膠腫瘍の浸潤性と、広範な切除の神経学的後遺症により、この種のアプローチは魅力的である。星状細胞におけるCD81の転写調節を解明することを企図したさらなる研究は、潜在的な薬物療法剤への洞察を提供するだろう。
本明細書に提示したデータは、正常なニューロン誘導性星状細胞増殖調節におけるCD81の重要性を明らかに示す。この観察結果は、ニューロン及び星状細胞の比率が成体のCNSにおいて確立されて維持される方法の根底にある機序(群)をある程度明らかにする。これらの細胞型間の動的相互作用を制御する分子機序をさらに明確化することは、成熟した神経系が数的ホメオスタシスを達成して維持する手段と、神経系が平衡状態から外れるときにこの均衡が回復されることを可能にする方法のより完全な理解の進展にきわめて重要である。
本発明者はまた、本明細書において、ニューロン誘導性増殖停止に絶対に必要とされる受容体、CD81を星状細胞が発現することを示した。本明細書において、CD81のリガンドが新規な膜貫通チロシンキナーゼ、NrS1であり、それ自身もCD81シグナル伝達に応答して速やかにリン酸化されることを示した。この迅速なリン酸化に続き、Nrgの膜貫通型(即ち、星状細胞上のerbB2及びerbB4へ結合する、Nrgの細胞外ドメイン)が切断され、細胞内cAMPレベルの上昇と星状細胞成熟化をもたらす。従って、星状細胞への前方シグナル伝達が存在する。星状細胞/CD81模擬体、GM1109のニューロン表面への結合は、Nrgの切断とICDNrgのニューロン核への転座を推進し、それによりニューロンの生存を促進する。従って、ニューロンへの逆のシグナル伝達も存在する。この双方向性のシグナル伝達を図19に図示する。
まとめると、本発明者の観察結果は、3つの明確な治療可能性を示唆する:(1)神経変性疾患を含む神経変性の直接的な治療におけるCD81模擬体、GM1109又はその誘導体の使用;(2)星状細胞症を含む、星状細胞増殖における欠陥に関連した状態の治療における、NrS1シグナル伝達のアゴニストの使用;及び(3)増殖制御を再確立するために星状細胞腫細胞においてCD81を再発現させること。
実施例2.NrS1の特性決定
序論
体内の大多数の細胞と異なり、ニューロンは、終生にわたり分裂することも置き換わることもできず、不断の支援と細胞修復を提供する独自の機序があることを示唆する。対照的に、星状細胞は、栄養支援の多くを提供し、ニューロンが存在する物理的な骨格を提供する細胞であって、その生活史のほとんどどの時点でも細胞周期に再び入ることが可能であり、外傷や疾患へ応答してそうする(15,28,49)。しかしながら、この増殖能力にもかかわらず、星状細胞の数は一生を通してほとんど無変化のままであり(23,24,25)、それによりその増殖を調節する機序について難問を提起する。
この有糸分裂静止がいかに確立されて維持されるのかがきわめて重要であるのは、成体において、星状細胞増殖より生じる陽性と陰性の両方の重要な後遺症が存在するからである。これらには、損傷への神経膠症的な応答、軸索移動及びニューロン再構築の二次的な遮断、星状細胞症的な溢出に由来する、他の点ではインタクトな組織への側枝傷害、及び、細胞周期に移行する星状細胞における自発突然変異、及び/又はウイルス組込みの可能性が含まれ、これらはいずれも最終的に星状細胞腫をもたらす場合がある。我々は、最近、CD81と命名した、ニューロンのシグナルに必要とされる星状細胞受容体の同一性を発見した結果を記載した。次いで、我々は、自らの関心をCD81のニューロンリガンドの同定へ向け、これをNrS1と命名した。我々は、このタンパク質を同定するために、タンパク質の引き出しに続くマススペクトロメトリー分析、発現クローニング、及びcDNAクローニングを含む、3つの異なるアプローチを利用した。これらの試験からの結果は、受容体チロシンキナーゼのephクラスのメンバーである、これまでEHK1と同定された遺伝子の同定にいずれも集束した。
Eph関連受容体は、隣接細胞上の膜結合性リガンドと相互作用する膜結合性タンパク質チロシンキナーゼである。従って、Ephは、細胞−細胞接触に依存したやり方でシグナルを伝達し、これは結合後に2つの細胞型間で往復のシグナル伝達を可能にする。Ehk1は1993年に同定され(46)、その同定以来、文献には2つの追加論文しか現れなかった。この中の1つ、Taylor と共同研究者によるもの(48)は、Ehk1の発現が重複していて、我々がNrS1について明示する発現パターンにほとんど同一であることを明示した。重要にも、上記の著者らは、Ehk1/NrS1発現が神経の細胞−細胞接触時に増加し、これらの細胞の凝集に仲介すると論じている。これは、我々がNrS1/Ehk−1結合パートナー、CD81を同定した根拠となっている(34,45)。他の唯一の公表文献は、神経系において発現されるEhk1の広範なスプライス変異について記載し(47)、以下に記載のように、我々もこれを見出し、それに基づいて発展させた。最後に、そしておそらく最も衝撃的には、星状細胞増殖を阻害することが示された、CNSニューロン以外の他の細胞型は神経膠腫細胞であり(28)、これもEhk1を発現する(48)。まとめると、上記のデータは、Ehk1をNrS1と同定することを裏付ける。以下に、我々は、ヒト脳とヒト胎児脳cDNAライブラリーからのEhk−1の単離について記載する。
方法と結果
NrS1の同定へのアプローチ
タンパク質−タンパク質相互作用.我々は、NrS1及びGM1109間の特定の相互作用を利用して、脳全体の膜タンパク調製物よりNrS1−GM1109複合体を引き出した。簡潔に言えば、ヒト胎児脳からの可溶化膜調製物をGM1109とともにインキュベートし、グルタチオン/アガロースビーズへ結合させることによってこの複合体を精製し、フリーのグルタチオンで溶出させた。この複合体を2次元ゲル電気泳動法(第一の次元では等電点電気泳動、第二の次元ではSDS−PAGEによるサイズ分画法)によって分析した(図26)。この分析において一貫して得られた全部で4つのスポットを単離し、質量分析法によって分析した。いずれのバンドもEhk−1と同定されるイオンを有していた。当業者は、上記の実験において観察される見かけの分子量がスプライス変異体の分解若しくは発現の結果であり得ることを理解されよう。
発現クローニング.並行した実験は、ヒト胎児脳のλ−ファージcDNA発現ライブラリーをGM1109でスクリーニングした。GM1109への陽性結合によって、全部で16のクローンを単離した。このクローンの同一性を、切り出し反応とcDNAの配列決定の後で確認した。
相同性によるcDNAクローニング.GM1109の餌を用いた発現スクリーニングによって現れたかもしれない偽陽性の可能性を回避するために、我々は、NrS1がタンパク質チロシンキナーゼであるという事実を利用して、陽性クローンの間で特にタンパク質チロシンキナーゼを同定するための戦略を開発した。我々は、多くのチロシンキナーゼの間で触媒ドメインの領域VI及びIXにそれぞれ保存されているアミノ酸モチーフ、IHRDL及びDVWSFGに対応する縮重オリゴヌクレオチドプライマーを使用した(50)。これらのプライマーを、タンパク質ライブラリースクリーニングより生じた16の陽性クローンからのDNA鋳型に対して実施するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に使用した。8つのクローンが予測される200bpのPCR断片を増幅時に産生し、それらを配列決定してそれぞれのチロシンキナーゼタンパク質を同定した。これらの方法により、公表されたEHK1の配列に対する新規5’エクソンも同定した(図29)。
この3つの独立したアプローチにより、受容体チロシンキナーゼ、Ehk1をNrS1と同定する。
網膜卒中モデルにおけるNrS1/Ehk1の分布と網膜神経節の細胞及び軸索の保護.組織学的研究により、NrS1/Ehk1が、皮質、皮質下、網膜、及び腸のニューロンにおいて広く分布していることが確証された(図30〜32)。網膜にNrS1が存在することにより、眼の卒中モデルを使用して、活性CD81断片のGM1416が卒中に抗して保護する能力を判定することが可能になった。このモデルを使用して、本発明者は、卒中を誘導したときにGM1416が実際に網膜神経節を保護すると判定した(図36)。追加的に、網膜の内網状層(IPL)中の軸索も網膜卒中モデルにおいて保護された。このことは、CD81又はその活性断片が卒中の治療に有用であることをさらに示唆する。
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本明細書の特許請求項の範囲内にある他の態様は、本明細書の考察又は本明細書に開示される本発明の実践により、当業者に明らかであろう。本明細書は例示とみなすべきものであって、本発明の範囲及び精神は、以下の特許請求項により示されると企図される。
上記に照らせば、本発明のいくつかの利点が現実に達成され、他の利点も達成され得ると理解されよう。
上記の方法及び組成物において本発明の範囲から逸脱することなく様々な変更を行なうことができるので、上記の記載に含まれて付帯の図面に示される事柄は、すべて例示として解釈され、限定的な意味で解釈してはならないと企図される。
本明細書に引用する参考文献はすべて参照により本明細書に援用される。本明細書における参考文献の考察は、その著者の述べる主張を単に要約するために企図され、先行技術を構成すると容認される参考文献はない。出願人には、引用文献の正確性や妥当性について吟味する権利がある。
図1Aはウェスタンブロットであり、図1B及び1Cは、蛍光顕微鏡写真であり 、CD81が星状細胞の表面に発現されることを明示する。CD81メッセージの発現 をディファレンシャルスクリーンにより同定した後で、タンパク発現をウェスタンブロ ット分析により判定した。(A)星状細胞が豊富なCD81を発現する一方、C6神経 膠腫細胞系はCD81陰性である。この星状細胞におけるタンパク発現を定位するため に、星状細胞を単独(B)で、又はニューロンの存在下(C)に48時間培養してから 、固定し、モノクローナル抗体2F7を使用して、細胞表面のCD81の発現について 染色した。(B)中の矢印は、星状細胞突起(ニューロン相互作用に必須の細胞のドメ イン(10))に沿ったCD81の発現を指す。
図2A〜2Hは、抗CD81抗体のEat1が正常なニューロン仲介性星状細胞停止に効果的に干渉することを示すことによって、CD81がニューロン−星状細胞相互作用の必須メディエーターであることを確証するグラフ及び顕微鏡写真である。(A)増加する濃度のEat1モノクローナル抗体(mAB)の存在下では、ニューロン仲介性星状細胞増殖停止の欠失があった(黒塗り棒);この抗体は、ニューロンの非存在下では星状細胞増殖に効果を及ぼさなかった(オープン棒)。(B)対照的に、2F7は、ニューロン誘導性星状細胞増殖停止を亢進したので、このmAbとニューロンの存在下では、星状細胞増殖がニューロン単独で見られるレベルよりさらに抑制された。(C)ニューロン−星状細胞共存培養物において抗GFAP抗血清で染色した星状細胞の免疫蛍光試験は、Eat1の存在下、ニューロン誘導性の星状細胞突起形成への正常な応答性がEat1エピトープに依存することを示した。対照的に、Eat2エピトープを遮断しても、対照の共存培養物(E)と同じ外観であったこれらの培養物(D)で見られる複合GFAP突起により裏付けられるように、ニューロンへの星状細胞応答性に効果を及ぼさなかった。mAbのEat1及び2F7は、ニューロンへの星状細胞応答にきわめて強い効果を及ぼしたが、それらは、ニューロンの生存や軸索生成に観察し得る効果を及ぼさなかった。ニューロン−星状細胞共存培養物を、ニューロン特異的βIIIチューブリンアイソフォームを認識する、mAbのTuJ1も染色された(3)。神経突起の程度及び質は、Eat1(F)及び2F7(G)の存在下と対照共存培養物(H)において比較可能であった。
図3A〜3Cは、GST−CD81が星状細胞ではなくニューロンへ結合することを明示する蛍光顕微鏡写真である。既報(28)のように、P4ラット小脳から、ニューロン又は星状細胞のいずれか一方の高濃縮培養物を確立した。この細胞を、同等の密度でプレート培養し、氷上で冷やして内部化を予防してから、10μg/mlの細菌発現性GST−CD81とともに1時間インキュベートした。この細胞を固定し、ヤギ抗GST抗体に続き、Alexaレッド共役ウサギ抗ヤギ二次抗体で染色した。図3Aは、バックグラウンド染色(一次抗体対照なし)の非存在を示す。図3Bは、CD81融合タンパク質のニューロン表面への結合を示す。対照的に、星状細胞濃縮分画でこの融合タンパク質へ結合したのは、混在するごくわずかのニューロンである(C)。
図4は、可溶性CD81が星状細胞発現性CD81と競合し、ニューロン誘導性星状細胞静止を遮断することを例示するグラフである。増加濃度の可溶性GST−CD81をニューロン及び星状細胞の共存培養物へ加えた。GST−CD81は、発現されるCD81とニューロンについて競合し、それにより星状細胞表面でのニューロンCD81−受容体結合を遮断した。この競合の結果として、星状細胞はその細胞周期に留まった。1μg/mlほどのGST−CD81で、星状細胞増殖のニューロン誘導性阻害の40〜50%が達成された。最大阻害は、3μg/mlの可溶性タンパク質で得られた。この可溶性タンパク質は、ニューロンの非存在下では、星状細胞増殖に観察し得る効果を及ぼさなかった。GST−CD81の効果の特異性は、他の非関連GST融合タンパク質である、GST−SCIPの添加により証明されたが、これは試験したどの濃度でもニューロン誘導性星状細胞静止に効果を及ぼさなかった。統計分析は、スチュ−デントの両側t−検定を使用して行った。
図5は、ニューロン誘導性の星状細胞増殖調節にCD81が必要とされることを示す一対のグラフである。野生型、CD81+/−、又はCD81−/−の小脳星状細胞と顆粒細胞ニューロンとの混合培養を確立し、ニューロン誘導性星状細胞応答における内因性CD81の役割を評価した。以下に記載のように、培養を確立後48時間にGFAP及びBrdUを二重標識化することによって、星状細胞増殖を判定した。野生型共存培養物における星状細胞増殖を決定し、任意に1と設定した。CD81ハプロ不全星状細胞は、ニューロン応答性のわずかな損失(20%)を示した。しかしながら、CD81の座がヌルである星状細胞はこの条件下でニューロンへの応答性をすべて失い、外植後48時間以内に数が倍になった。アッセイは、試験した各動物について同一3検体で行い、全体の実験を3回繰り返した。
図6は、ノーザンブロットであり、CD81 RNAが多数の星状細胞性腫瘍細胞系で存在していないことを例示する。細胞形質転換の指標は、天然に存在する刺激(cues)へ応答する増殖停止の損失である。星状細胞性腫瘍細胞系が改変したレベルのCD81を発現するかどうかを決定するために、本発明者は、多様な細胞系からRNAを抽出し、ノーザンブロット分析を実施した。CD81メッセージが野生型星状細胞に見出されたのは、意外ではない。この細胞をニューロン膜とともに48時間共存培養すると、CD81レベルがほぼ2倍増加し、CD81発現に影響を及ぼす正のフィードバック機構を示唆した。きわめて対照的に、試験したどの腫瘍細胞系でも、ブロットを過剰露出しても、検出可能なCD81メッセージはなかった(データ示さず)。試験した星状細胞性腫瘍は、ラット:C6及び9L;ヒト:A172及びU251MG;及びマウス:LN308及びLN18である。RNAのローディング対照としては18Sプローブを使用した。
図7は、ヒトCD81のヌクレオチド配列を図示する。
図8は、ヒトCD81のアミノ酸配列を図示する。
図9は、星状細胞へのニューロンタンパク質結合の飽和可能性を明示するグラフである。小脳顆粒細胞ニューロンタンパク質(黒い菱形)又はNGF分化PC12細胞膜タンパク質(白い菱形)を以下に記載のように単離し、星状細胞の単層へ結合させた。CNSニューロンタンパク質は、〜10μg/105星状細胞で結合が飽和したが、対照的に、PC12細胞膜は、星状細胞へ全く結合しなかった。
図10Aは、銀染色ゲルであり、10Bは顕微鏡写真を示し、ニューロン誘導性星状細胞増殖停止に活性のあるタンパク質のカラムクロマトグラフィー精製を例示する。(A)本発明者は、親油性ニューロンタンパク質を単離し(レーン1)、次いでFPLC陰イオン交換カラムに通過させる精製スキームを確立した。240mM NaClと260mM NaClの間にあるピークを採取し(レーン2)、透析し、星状細胞の全膜タンパク質のカラムに通過させた。次いで、このカラムを10mM EDTA(レーン3)に続き、500mM NaCl(レーン4)で溶出した。抗増殖活性のすべてがレーン4に含まれた(表1を参照のこと)。このタンパク質を6% SDS−PAGEゲルに泳動し、銀染色により造影した。矢印は、約65kDでの主要な濃縮バンドを指す。(B)レーン4(パネルa及びb)からのタンパク質、又はBSA(パネルc及びd)をニトロセルロースコート化組織培養表面へ結合させ、非特異的な結合をBSAで消失させた。48時間培養物へ星状細胞を加えてから、この細胞をウサギ抗GFAP(パネルa及びc)とmAb抗スタチン(パネルb及びd)で染色した。これらの代表的な視野は、特に最終カラムよりNaCl溶出したタンパク質へ細胞を曝露するときに、核へのスタチン転座(G0にある細胞のマーカー)が起こることを明示する。
図11は、GM1109が星状細胞発現性CD81について競合し、ニューロン誘導性星状細胞静止を遮断することを例示するグラフである。増加濃度のGM1109をニューロン及び星状細胞の共存培養物へ加えるとすぐに、GM1109は、星状細胞発現性CD81について競合し、それによりニューロンCD81−受容体の星状細胞表面への結合を遮断した。この競合の結果として、星状細胞はその細胞周期に留まった。1μg/mlほどのGM1109で、星状細胞増殖のニューロン誘導性阻害の40〜50%が達成され、最大阻害は、3μg/mlの可溶性タンパク質で得られた。この可溶性タンパク質は、ニューロンの非存在下では、星状細胞増殖に観察される効果を及ぼさなかった。対照条件に対応するオープン棒を、タンパク質を加えた条件に対応するものと比較されたい。このGM1109の効果の特異性は、非関連薬物であるGM1110の添加により証明されたが、これは試験したどの濃度でもニューロン誘導性星状細胞静止に効果を及ぼさなかった。統計分析は、スチュ−デントの両側t−検定を使用して行った。
図12は、GM1109が星状細胞ではなくニューロンへ結合することを明示する顕微鏡写真である。以下に記載のように、P4ラット小脳から、ニューロン又は星状細胞のいずれか一方の高濃縮培養物を確立した。この細胞を、同等の密度でプレート培養し、氷上で冷やして内部化を予防し、10μg/mlの細菌発現性GM1109とともに1時間インキュベートした。この細胞を固定してから、ヤギ抗GST抗体に続き、Alexaレッド共役ウサギ抗ヤギ二次抗体で染色した。パネルaは、バックグラウンド染色(一次抗体対照なし)の非存在を示す。パネルbは、GM1109のニューロン表面への結合を示す。対照的に、星状細胞濃縮分画でこの融合タンパク質へ結合したのは混在するごくわずかのニューロンである(パネルc)。
図13A及び13Bは、GM1109がニューロンタンパク質抽出物へ特異的に結合することを明示するブロットである。可溶性GM1109を使用するファー(Far)ウェスタン分析は、このタンパク質が、約70kDの界面活性剤可溶性のニューロンタンパク質へ特異的に結合することを示した。ラット又はマウスのいずれか由来の顆粒細胞ニューロン(GCN)、並びにラットのシュワン細胞及び3T3細胞をTriton X−100に可溶化した。各タンパク質の10マイクログラム(10μg)を12% SDS−PAGEゲルで分離した。さらに、1μgのプローブもゲル上に泳動させてから、ニトロセルロースへ移した。左のブロット(A)をGM1109でプローブし、右のブロット(B)をGST単独でプローブした。いずれも4℃でプローブし、徹底的に洗浄した。抗GST抗体でGST又はGM1109を可視化した。GM1109は、ニューロン分画中の単一バンドとのみ反応し、それによりGM1109相互作用の特異性を明示した。このGM1109陽性対照は、両方のパネルにおいて抗GST二次抗体により認識され、GM1109及び二次抗体の特異性の内部対照として役立った。
図14は、GM1109がニューロンよりNrS1を引き出すことを示す銀染色ゲルである。本発明者は、既報のように、ラット小脳顆粒細胞ニューロンを精製した。混在する星状細胞を選好的に吸着除去した後で、この細胞を10μgの可溶性GM1109と混合した。細胞を溶解し、GM1109と関連タンパク質をセファロース−グルタチオンビーズとともに引き出した(レーン1)。この精製工程の後で、3T3細胞を同一に処理した。3T3細胞からの引き出しをレーン2に示す。このタンパク質を10% SDS−PAGEゲルで分離し、次いでこれを銀染色した。約30kDの密なバンドは、細菌溶解液よりセファロース−グルタチオンクロマトグラフィーにより精製した、出発のGM1109を表す。70kDでの単一バンドは、星状細胞発現性GM9へtrasで結合するニューロンにより発現される唯一のタンパク分子種を表す。
図15は、GM1109がNrS1のリン酸化を誘導することを例示するウェスタンブロットである。以下に記載のように、ヒト顆粒細胞ニューロンを22週齢の雄性胎児小脳より精製した。単離に続き、この細胞を無血清培地において1時間培養して、採取した。次いで、GM1109を指定時間の間加え、細胞を溶解した。GM1109と結合したNrS1タンパク質を、グルタチオン結合Sepharose(ファルマシア)とともに引き出し、10% SDS−PAGEで分離し、ニトロセルロース膜へトランスブロットし、ポリクローナル抗ホスホチロシン抗血清でプローブした。このデータは、CD81シグナル伝達へ応答して、時間依存的なやり方でNrS1がリン酸化されることを示し、星状細胞からニューロンへのCD81−NrS1経路を介した能動シグナル伝達に一致した結果である。αY*=ホスホチロシン。
図16A〜16Cは、星状細胞の完全な分化がNrS1と他のニューロンシグナルに依存することを明示する顕微鏡写真である。ニューロンの存在下又は非存在下に、dbcAMPを含むか又は含めずに星状細胞を増殖させた。(A)dbcAMPを補充した完全培地の存在下で、星状細胞は集密まで増殖し、星状細胞性突起の生成の徴候はなかった。(B)同じ細胞をNrS1とともに培養すると、それらは増殖停止されたが、突起は生成しなかった。(C)しかしながら、星状細胞にNrS1とdbcAMPを両方提供すると、それらは複合突起を形成し、生きたニューロンへの星状細胞応答を模倣した。
図17A〜17Cは顕微鏡写真であり、図17Dはウェスタンブロットであり、星状細胞模倣体のGM1109が、ニューロンの膜貫通ニューレグリン(Nrg)の迅速な切断と、ICDNrgのニューロン核への移行を誘導することを示す。既報(27)のように、小脳顆粒細胞をP3 Long−Evansラットより急速に解離して精製した。この細胞を洗浄して無血清にしてから、10% BSAを補充した規定培地においてプレート培養した。この細胞をカバーガラスへ付着させた後で、対照GSTタンパク質(A)又はGM1109(B)のいずれかをこの培地へ加え、細胞を5分間インキュベートした。細胞を固定し、透過性にし、ニューレグリンの細胞内ドメイン(ICDNrg)を認識する抗体で染色した。この図が例示するように、GM1109のニューロンへの結合は、ICDNrgの核内転座を誘導する。GM1109の結果として、Nrgの細胞外ドメイン(ECD)は速やかに上清へ流れる。(D)ニューロンをGM1109で処理すると、非関連ペプチドで処理したニューロンに比較して、5分以内に、上清において可溶性Nrgの量の2倍増加を引き起こした。
図18は、GM1109がニューロンの生存及び神経突起形成を誘導することを示す顕微鏡写真である。齧歯動物新生児の小脳ニューロンを>99%均一性まで精製し、対照ペプチド又はGM1109のいずれかの存在下に、低密度で96時間培養した。この細胞を固定し、抗GFAP及び抗ニューロン特異的チューブリン抗体で染色した。CD81/星状細胞模倣体、GM1109での処理により、ニューロンの生存としっかりとした軸索生成が誘導された(パネルB及びC、右)。対照的に、GM1109の非存在下で増殖したほとんどの細胞は生存することができず、実際に生存したものも、貧弱な突起を伸ばした(パネルA、左)。
図19A及び19Bは、分子ベースのニューロン−星状細胞相互作用のモデルを図示する例示である。(A)星状細胞は、CD81を発現し、これはニューロン誘導性の増殖停止に必要とされる。ニューロンは、NrS1を介してCD81へ結合することによって星状細胞へシグナル伝達し、NrS1の迅速なリン酸化をもたらす。上記のイベントと同時に、ニューロン発現性の膜貫通Nrgが切断され、Nrgの分泌をもたらす。分泌されたNrgは星状細胞erbB2/4ヘテロ二量体と結合し、細胞内cAMPの星状細胞における上昇を誘導する。CD81シグナル伝達とともに、これらのイベントは星状細胞増殖の停止及び成熟化をもたらす。さらに、ニューロンNrgの切断は、ICDNrgの核への転座、並びにニューロンの生存及び分化をもたらす。(B)GM1109は、星状細胞模倣体としてニューロンに作用する。加える増殖因子や星状細胞の非存在下でニューロンをGM1109で処理すると、Nrgの切断、ICDNrgのニューロン核への転座、及びニューロン生存をもたらす。
図20Aはグラフであり、20Bは顕微鏡写真を示し、GM1416がCNSニューロンを細胞死より救うことを明示する。(A)齧歯動物新生児の小脳ニューロンを>99%均一性まで精製し、低密度で、陽性対照としてGM1109 10μg/ml、又は模倣体GM1414、GM1415、及びGM1416のそれぞれ1μg/ml、3μg/ml、及び10μg/mlの存在下に、又は無処理で培養した。このペプチドを毎日新鮮に5日間加えてから、モレキュラー・プローブ製の市販の生/死アッセイを使用して生存能力を検定した。予想されるように、ほとんどのニューロンは処理の非存在下で死滅した。しかしながら、図19に示すデータに一致して、GM1109はニューロンの生存能力を維持した。GM1414の最低濃度で、ニューロンの生存はほとんどGM1109のレベルであったが、増加する濃度では、ニューロンの生存が失われた。GM1415には、ニューロン生存誘導活性がなかった。対照的に、GM1416は強力にニューロンの生存を誘導し、GM1109で観察されるものさえ上回った。(B)GM1416で処理したニューロンは生存し、伸張性の神経突起を産生した。陽性対照として、精製顆粒細胞のニューロンを10μg/mlのGM1109で処理し、生存と神経突起形成を誘導した(パネルa)。姉妹(sister)培養物をGM1109の低ペプチド誘導体であるGM1416で処理すると、これも生存と神経突起産生を誘導した(パネルb)。対照的に、これらの分子の非存在下に培養したニューロンは、EtBr染料の封入により判定されるように、速やかに死滅した(パネルc)。
図21は、相同的組換えによるCD81の除去が球状(global)星状細胞症をもたらすことを確証する顕微鏡写真を示す。CD81−/−動物の大多数は、周産期に死亡する。しかしながら、少数の動物は約2週間生きる。これらの埒外の動物の脳を検査すると、球状星状細胞症を示す。野生型(+/+)又はCD81−/−(−/−)いずれかの動物の小脳全体で切片を切り、GFAPへの抗体で、又はNrS1発現について染色した。野生型小脳には少数のGFAP陽性星状細胞が存在し、存在するこれらの細胞は、プルキンエ(PC)及び顆粒細胞ニューロン体と緊密に並列する。分子層(ML)において、星状細胞は、+/+小脳中の顆粒細胞突起に対して垂直に移動する。対照的に、−/−小脳は、星状細胞数の大幅な増加、ML中に残存するベルグマン型グリア(矢印)、PCの消失(アステリスク)、そして、ニューロン及び星状細胞の間の緊密な接触の損失(矢印先端)を示す。
図22は、ニューロンの萎縮及び死、並びに異所性に罹患しているCD81−/−動物の顕微鏡写真を示す。2週齢CD81+/+及び−/−の小脳をNrS1発現について染色した。CD81の非存在下で、プルキンエ細胞(両パネル中の点線に隣接する)は、重篤な萎縮及び死を蒙る。さらに、異所性が存在し、ここでは、いくらかの顆粒細胞ニューロンがベルグマングリアに沿った顆粒細胞層(GCL)へのその移動を完了し得なかった。この組織を黒い点線で縁取る。
図23は、星状細胞腫においてCD81発現が in situ で失われることを示す顕微鏡写真である。我々は、星状細胞腫と確定診断された患者からの数多くの生検と切除標本を染色したが、そのすべてが新生物組織においてCD81発現を失っていた。この代表的な穿刺生検は、その疾患で死亡した34歳の女性からのものである。この組織を抗体、2F7で染色した。これは、腫瘍塊の縁にある星状細胞を染色したが、腫瘍の大部分を含む星状細胞性細胞を染色し得なかった。左下のボックスは、病巣の境界にあるCD81陽性細胞の拡大図である。
図24は、最初の星状細胞/ニューロン相互作用にCD81が必要とされることの証拠を提供する顕微鏡写真を示す。ニューロンの非存在下では、急激に解離した星状細胞は、膜ブレブの速やかな伸長及び収縮を蒙る(a)。この挙動は、数時間〜数日続く。これらの細胞へCNSニューロンを加えると、星状細胞はニューロン接触と同時に速やかに気泡(ブレブ)形成を止め、このときそれは細胞周期から出て、組織化された突起を伸ばす(b)。星状細胞腫細胞(この事例ではC6)は、星状細胞に類似したやり方で気泡形成する(c)が、これらの細胞は、ニューロンの添加に影響されない(d)。この星状細胞腫細胞をCD81でトランスフェクトすると、それらはニューロンへの応答性を回復する(e)。(A=星状細胞;Am=星状細胞腫;N=ニューロン)。
図25は、CD81の再発現により星状細胞腫のニューロン応答性が救われる証拠を提供する顕微鏡写真である。C6星状細胞腫細胞をCD81 cDNAで安定的にトランスフェクトし、制限希釈によりクローニングした。トランスフェクタント(a)も親細胞系(b)も、ニューロンの非存在下では、増殖や形態に差異を示さなかった。しかしながら、CD81発現細胞へニューロンを加えると(c)、それらは細胞周期を出て、突起を伸ばし、ニューロンが存在する間は静止状態のままであった。対照的に、親のC6細胞は、ニューロンの抗増殖シグナルに対して非感受性であり、広がり続けた(d)。矢印先端はパネルd中の残存ニューロンを指す。
図26は、GM1109により引き出されたNrS1の二次元ゲル電気泳動分離を示す。本出願の本文に記載のように、NrS1を引き出した。この材料を、第一の次元では等電点電気泳動を使用して、そして第二の次元では分子量に基づいて分離した。示した4つの明瞭な(predominant)スポットをマススペクトロメトリー分析法とエドマン分解分析にかけた。これらの分析により、NrS1がチロシンキナーゼであるという我々のかつての観察に一致するデータを得た。さらに、それらは、NrS1が、EHK−1と命名されたオーファン受容体チロシンキナーゼとしてかつて同定されたものであることを示唆した。EHK−1は、チロシンキナーゼのエフリン(ephrin)ファミリーのメンバーである。
図27は、公表されたEHK−1のヌクレオチド配列を示す。GenBank受入れ番号 XM_046083。
図28は、公表されたEHK−1のアミノ酸配列を示す。GenBank受入れ番号 XP_046083.2。
図29は、公表されたEHK−1配列に対して5’にある新規エクソンの配列を示す。
図30は、すべてではなくとも大部分の皮質、海馬、視床、運動性、及び小腸のニューロンによりNrS1が発現されることを確証する顕微鏡写真である。我々の生化学データは、CD81模倣体のGM1109がNrS1へ結合し、それを同定するために使用されることを明示した。このリガンドへ結合するGM1109の能力に基づいて、我々は、ビオチニル化GM1109を使用してNrS1発現を定位した。このプローブのマウス脳への結合は、ほとんどすべての皮質、海馬、及び視床ニューロンによりNrS1が発現されることを示す。ビオチニル化GSTを対照として使用したが、これはその脳切片へ結合し得なかった。
図31は、ほとんどの網膜ニューロンによりNrS1が発現されることを確証する顕微鏡写真を示す。図30で使用したのと同じプローブでラット網膜を染色すると、神経節細胞ニューロン、光受容体、及び、核の内層中のほとんどの細胞によるNrS1発現が明らかになった(A)。網膜は、対照のビオチニル化GSTプローブによっては染色されなかった(B)。
図32は、腸ニューロンによりNrS1が発現されることを確証する顕微鏡写真を示す。図30で使用したのと同じプローブでマウスの腸を染色すると、筋層間神経叢(mp)及び粘膜下神経叢(sp)、つまり腸の神経叢によるNrS1発現が明らかになった。さらに、腸壁(iw)に分布する交感神経(sn)も、強くNrS1陽性である。GM1109は、発色基質(b及びd)、又は蛍光化ストレプタビジン基質(a及びc)のいずれかで可視化した。
図33は、GM1109/NrS1相互作用のモデルの例示である。GM1109はCD81模倣体であって、本明細書に示すように、NrS1へ結合する。GM1109がそのリガンドへ結合すると、NrS1の急速なリン酸化が誘導される。
図34は、CD81とCD81模倣体のNrS1への結合により、Nrgの細胞外ドメインの培地への流出が誘導されることを示すウェスタンブロットである。GM1109のニューロンへの結合に続いてすぐに、培地を採取した。この培地の50μlを12% SDS−PAGEゲルに電気泳動させてから、ニトロセルロースへ移した。この膜を、増殖因子の成熟した分泌型に特異的な抗Nrg抗体でプローブした。示されるように、培地にはこのタンパク質の速やかな蓄積があり、同時に、このタンパク質の細胞内ドメインのニューロン核への転座がある(上記参照)。
図35は、GM1109誘導性、ニューロン分泌性のNrgが、星状細胞上でその受容体、ErbB2の速やかなリン酸化を誘導することを確証するウェスタンブロットを示す。規定培地においてすでに48時間培養しておいた星状細胞へ、図34において使用した培地を加えた。この細胞を指定時間に溶解し、8% SDS−PAGEにより分離し、ニトロセルロースへ移した。この膜を、ErbB2のリン酸化型、Nrg受容体へテロ二量体の一部に特異的なmAbでプローブした。このブロットは、培地の添加から5分以内にこの受容体が完全にリン酸化されることを示す。
図36は、加圧誘導卒中モデルにおいて、GM1416が網膜神経節細胞を死から救うことを明示する顕微鏡写真を示す。10マイクログラムのGM1416RI(GM1416の逆反転(retro-inverso)安定型)を、卒中時に後眼房へ注入した。指定時に動物を屠殺し、NrS1発現のために網膜を処理した。神経節細胞体を、内網状層(IPL)中のその軸索と同じように、保存する。
図37は、軸索トラックの保存がニューロン生存能力の代替マーカーとなることを示すグラフである。IPLの厚さを対照とGM1416RI処理網膜において測定した。GM1416RIは、卒中後72時間の時点で完全なIPLの厚さを保存する。
図38は、CD81の活性断片の配列を提供する。A−GM1109;B−GM1414;C−GM1415;D−GM1416;E−GM1416の活性15マー。