発明の簡単な概要
本発明は、糖尿病または糖尿病に対する素因を有する患者を治療するための作用物質(agent)を同定するための方法を提供する。いくつかの態様において、本方法は以下を含む:(i)アルド-ケトレダクターゼ1C(AKR1C)ポリペプチドまたはその断片を含む溶液を作用物質を接触させること、この際、AKR1Cポリペプチドまたはその断片はプロスタグランジンD2からの9α,11β-PGF2αの相互変換を触媒し、しかもAKR1Cポリペプチドまたはその断片は、配列番号:1、配列番号:7、配列番号:17、配列番号:23ならびに配列番号:30、31、32、33、34、35、36、37、39、41、43、45、47、49および51からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によってコードされる;ならびに(ii)AKR1Cポリペプチドまたはその断片の発現または触媒活性を変化させる作用物質を選択し、それによって糖尿病または糖尿病に対する素因を有する患者を治療するための作用物質を同定すること。
本発明は、インスリン感受性を変化させる作用物質を同定するための方法を提供する。いくつかの態様において、本方法は以下を含む:(i)アルド-ケトレダクターゼ1C(AKR1C)ポリペプチドまたはその断片を含む溶液を作用物質と接触させること、この際、AKR1Cポリペプチドまたはその断片はプロスタグランジンD2からの9α,11β-PGF2αの相互変換を触媒し、しかもAKR1Cポリペプチドまたはその断片は、配列番号:1、配列番号:7、配列番号:17、配列番号:23ならびに配列番号:30、31、32、33、34、35、36、37、39、41、43、45、47、49および51からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によってコードされる;ならびに(ii)AKR1Cポリペプチドまたはその断片の発現または触媒活性を変化させる作用物質を選択し、それによってインスリン感受性を変化させる作用物質を同定すること。
本発明は、PPAR活性を変化させる作用物質を同定するための方法を提供する。いくつかの態様において、本方法は以下を含む:(i)アルド-ケトレダクターゼ1C(AKR1C)ポリペプチドまたはその断片を含む溶液を作用物質と接触させること、この際、AKR1Cポリペプチドまたはその断片はプロスタグランジンD2からの9α,11β-PGF2αの相互変換を触媒し、しかもAKR1Cポリペプチドまたはその断片は、配列番号:1、配列番号:7、配列番号:17、配列番号:23ならびに配列番号:30、31、32、33、34、35、36、37、39、41、43、45、47、49および51からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によってコードされる;ならびに(ii)AKR1Cポリペプチドまたはその断片の発現または触媒活性を変化させる作用物質を選択し、それによってPPAR活性を変化させる作用物質を同定する。
いくつかの態様において、糖尿病に対する素因はインスリン感受性の低下として現れる。いくつかの態様において、本方法はさらに、インスリン感受性を変化させる作用物質を選択することを含む。いくつかの態様において、AKR1Cポリペプチドの触媒活性は、触媒生成物または基質のレベルの変化を測定することによって決定される。いくつかの態様において、触媒生成物または基質は9α,11β-PGF2αである。いくつかの態様において、触媒生成物または基質はプロスタグランジンD2である。いくつかの態様において、接触の段階はインビトロで行われる。いくつかの態様において、AKR1Cポリペプチドまたはその断片は細胞内で発現され、その細胞が作用物質と接触させられる。
いくつかの態様において、作用物質はAKR1Cポリペプチドまたはその断片の触媒活性を上昇させる。いくつかの態様において、作用物質はAKR1Cポリペプチドまたはその断片の触媒活性を低下させる。いくつかの態様において、作用物質はAKR1Cポリペプチドまたはその断片の発現を増強する。いくつかの態様において、作用物質はAKR1Cポリペプチドまたはその断片の発現を低下させる。
いくつかの態様において、本方法はさらに、糖尿病を有する動物に作用物質を投与する段階、および糖尿病状態の変化に関して動物を検査する段階を含む。いくつかの態様において、本方法はさらに、インスリン抵抗性を示す動物に作用物質を投与する段階、およびインスリン抵抗性の変化に関して動物を検査する段階を含む。いくつかの態様において、本方法はさらに、AKR1Cポリペプチドまたはその断片を発現している細胞を作用物質と接触させる段階、およびインスリン抵抗性の変化に関して細胞を検査する段階を含む。いくつかの態様において、本方法はさらに、AKR1Cポリペプチドまたはその断片を発現している細胞を作用物質と接触させる段階、およびPPAR活性の変化に関して細胞を検査する段階を含む。
いくつかの態様において、そのアミノ酸配列は配列番号:1を含む。いくつかの態様において、アミノ酸配列は配列番号:7を含む。いくつかの態様において、アミノ酸配列は配列番号:17を含む。いくつかの態様において、アミノ酸配列は配列番号:23を含む。いくつかの態様において、アミノ酸配列は配列番号:30を含む。いくつかの態様において、アミノ酸配列は配列番号:31を含む。いくつかの態様において、アミノ酸配列は配列番号:32を含む。いくつかの態様において、アミノ酸配列は配列番号:33を含む。いくつかの態様において、アミノ酸配列は配列番号:34を含む。いくつかの態様において、アミノ酸配列は配列番号:35を含む。いくつかの態様において、アミノ酸配列は配列番号:36を含む。
本発明はまた、糖尿病、糖尿病に対する素因、インスリン抵抗性または異常脂肪血症(dyslipidemia)を有する動物の治療方法も提供する。いくつかの態様において、本方法は、上記の方法によって同定された作用物質の治療的有効量を投与することを含む。いくつかの態様において、動物はヒトである。
本発明はまた、患者における2型糖尿病または2型糖尿病に対する素因の診断方法も提供する。いくつかの態様において、本方法は、患者からの試料におけるAKR1Cポリペプチドまたはその断片のレベルを検出することを含み、この際、AKR1Cポリペプチドまたはその断片はプロスタグランジンD2からの9α,11β-PGF2αの相互変換を触媒し、しかもAKR1Cポリペプチドまたはその断片は、配列番号:1、配列番号:7、配列番号:17、配列番号:23ならびに配列番号:30、31、32、33、34、35、36、37、39、41、43、45、47、49および51からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によってコードされ、試料中のポリペプチドのレベルが糖尿病でない個体またはその患者からの過去の試料におけるポリペプチドのレベルに比して高いことによって、その患者が糖尿病であること、または糖尿病の少なくともいくつかの病的様相(pathological aspect)に対する素因を持つことが示される。いくつかの態様において、検出の段階は、試料を、AKR1Cポリペプチドまたはその断片と特異的に結合する抗体と接触させることを含み、この際、AKR1Cポリペプチドまたはその断片は、配列番号:1、配列番号:7、配列番号:17、配列番号:23ならびに配列番号:30、31、32、33、34、35、36、37、39、41、43、45、47、49および51からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によってコードされる。
いくつかの態様において、そのアミノ酸配列は配列番号:1を含む。いくつかの態様において、アミノ酸配列は配列番号:7を含む。いくつかの態様において、アミノ酸配列は配列番号:17を含む。いくつかの態様において、アミノ酸配列は配列番号:23を含む。
本発明はまた、患者における2型糖尿病または2型糖尿病に対する素因の診断方法であって、患者からの試料におけるAKR1Cポリペプチドまたはその断片をコードするポリペプチドのレベルを検出することを含み、この際、AKR1Cポリペプチドまたはその断片はプロスタグランジンD2からの9α,11P-PGF2αの相互変換を触媒し、しかもAKR1Cポリペプチドまたはその断片は、配列番号:1、配列番号:7、配列番号:17、配列番号:23ならびに配列番号:30、31、32、33、34、35、36、37、39、41、43、45、47、49および51からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によってコードされ、試料中のポリペプチドのレベルが糖尿病でない個体またはその患者からの過去の試料におけるポリペプチドのレベルに比して高いことによって、その患者が糖尿病であること、または糖尿病の少なくともいくつかの病的様相に対する素因を持つことが示されるような方法も提供する。いくつかの態様において、検出の段階は、AKR1Cポリペプチドまたはその断片をコードするmRNAを定量することを含み、この際、AKR1Cポリペプチドまたはその断片はプロスタグランジンD2からの9α,11β-PGF2αの相互変換を触媒し、しかもAKR1Cポリペプチドまたはその断片は、配列番号:1、配列番号:7、配列番号:17、配列番号:23ならびに配列番号:30、31、32、33、34、35、36、37、39、41、43、45、47、49および51からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によってコードされる。いくつかの態様においては、mRNAを逆転写し、ポリメラーゼ連鎖反応において増幅する。
いくつかの態様において、そのアミノ酸配列は配列番号:1を含む。いくつかの態様において、アミノ酸配列は配列番号:7を含む。いくつかの態様において、アミノ酸配列は配列番号:17を含む。いくつかの態様において、アミノ酸配列は配列番号:23を含む。
いくつかの態様において、患者における2型糖尿病または2型糖尿病に対する素因の診断方法は、患者からの試料におけるAKR1C酵素の基質または生成物のレベルを検出することを含み、試料中のAKR1C酵素の基質または生成物の変化したレベルが、糖尿病でない個体またはその患者からの過去の試料におけるAKR1C酵素の基質または生成物のレベルに比して高いことによって、その患者が糖尿病であること、または糖尿病の少なくともいくつかの病的様相に対する素因を持つことが示される。いくつかの態様において、AKR1C酵素の生成物または基質は、プロスタグランジンD2および9α,11β-PGF2αからなる群より選択される。いくつかの態様において、試料中のAKR1C酵素の基質または生成物は、糖尿病でない個体またはその患者からの過去の試料におけるAKR1C酵素の基質または生成物のレベルに比して増加している。いくつかの態様において、試料中のAKR1C酵素の基質または生成物は、糖尿病でない個体またはその患者からの過去の試料におけるAKR1C酵素の基質または生成物のレベルに比して減少している。いくつかの態様において、検出の段階は、試料を、AKR1C酵素の基質または生成物と特異的に結合する抗体と接触させることを含む。いくつかの態様においては、生物試料を処理してAKR1C酵素の基質または生成物をAKR1C酵素の基質または生成物の誘導体に変換させ、誘導体のレベルを決定する。
いくつかの態様において、患者における2型糖尿病または2型糖尿病に対する素因の診断方法は、患者からの生物試料におけるAKR1C酵素活性を検出することを含み、試料中の酵素活性が糖尿病でない個体における活性に比して高いことによって、その患者が糖尿病であること、または糖尿病の少なくともいくつかの病的様相に対する素因を持つことが示される。
いくつかの態様において、本方法は、生物試料における、AKR1Cポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、またはAKR1Cポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとヒトゲノム中で遺伝的に連鎖しているポリヌクレオチドを検出することを含み、この際、AKR1CポリペプチドはプロスタグランジンD2からの9α,11β-PGF2の相互変換を触媒し、しかもAKR1Cポリペプチドは配列番号:1、配列番号:7、配列番号:17、配列番号:23、配列番号:30、配列番号:31、配列番号:32、配列番号:33、配列番号:34、配列番号:35;および配列番号:36からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によってコードされ、ポリヌクレオチドは2型糖尿病と関連性がある。いくつかの態様において、ポリヌクレオチドは一塩基多型(single nucleotide polymorphism)を含む。
定義
本発明の「AKR1C核酸」または「AKR1Cポリヌクレオチド配列」は、AKR1Cポリペプチドをコードする遺伝子の部分配列または完全長ポリヌクレオチド配列である。本発明のAKR1C核酸の例には、AKR1C1(例えば、Hara, A.ら、Biochem. J. 313: 373-376 (1996)を参照)、AKR1C2(例えば、Stolz, A.ら、J. Biol. Chem. 268: 10448-10457 (1993);Deyashiki, Y.ら、Biochem. J. 299: 545-552 (1994);Dufort, I.ら、Biochem. Biophys. Res. Commun. 228: 474-479 (1996)を参照)、AKR1C3(例えば、Khanna, M.ら、J. Biol. Chem. 270: 20162-20168 (1995);Lin, H.-K.ら、Mol. Endocrinol. 11: 1971-1984 (1997)を参照)またはAKR1C4(例えば、Deyashiki, Y.ら、Biochem. J. 299: 545-552 (1994);Khanna, M.ら、J. Biol. Chem. 270: 20162-20168 (1995)を参照)と実質的に同一な配列が含まれる。AKR1Cポリヌクレオチドの例は、例えば、それぞれ配列番号:1、配列番号:7、配列番号:17および配列番号:23をコードする。AKR1C3の他のオルソログには、例えば、配列番号:30〜36が含まれる。AKR1C核酸の例には、以下のものと実質的に同一な核酸が含まれる:
同様に、「AKR1Cポリペプチド」または「AKR1C」とは、AKR1C1、AKR1C2、AKR1C3またはAKR1C4によってコードされるポリペプチド(例えば、配列番号:1、配列番号:7、配列番号:17、配列番号:23および配列番号:30〜36)と実質的に同一なポリペプチドもしくはその断片、または配列番号:1、配列番号:7、配列番号:17、配列番号:23ならびに配列番号:30、31、32、33、34、35、36、37、39、41、43、45、47、49および51と実質的に同じ活性を備えたペプチド模倣組成物のことを指す。いくつかの態様において、AKR1Cポリペプチドはアルド-ケトレダクターゼクラス1C活性(「AKR1C活性」とも称する)を有する。
「AKR1C活性」とは、プロスタグランジンD2(「PGD2」とも称する)を9α,11-プロスタグランジンF2α(「11β-PGF2α」とも称する)に変換する酵素活性、9α,11-プロスタグランジンF2αをプロスタグランジンD2に変換する逆反応、およびアルド-ケトレダクターゼクラスC活性に付随する他の活性のことを指す。例えば、図1中の反応3を参照されたい。AKR1Cポリペプチドは可逆反応を触媒しうることが理解されているため、「基質」および「生成物」という用語は、当該の反応の方向に応じて互換的であるものと解釈される。したがって、本文書ではPGD2を基質と称し、9α,11β-プロスタグランジンF2αを生成物と称するものの、適した条件下ではAKR1Cポリペプチドは9α,11βプロスタグランジンF2αを基質として用いてPGD2の合成を触媒することができる。酵素活性は当業者に知られた任意の方法に従って測定可能である。一般的な測定値には、触媒作用の速度、または試料がPGD2を9α,11β-PGF2αに、もしくはPGD2を9α,11β-PGF2αに変換する能力が含まれる。
「AKR1Cのアゴニスト」とは、AKR1Cと結合する、AKR1Cの活性または発現を賦活する、増加させる、活性化する、促進する、活性化を増強する、感作するもしくはアップレギュレートする、作用物質のことを指す。
「AKR1Cのアンタゴニスト」とは、AKR1Cと結合する、賦活を部分的もしくは完全に阻止する、活性化を軽減する、防止する、遅らせる、不活性化する、脱感作する、またはその活性化もしくは発現をダウンレギュレートする、作用物質のことを指す。
「PPAR活性」とは、PPARファミリーのメンバーが(例えば、PPARα、βまたはγ)がリガンド結合に応答して転写を活性化する能力のことを指す。PPAR活性は例えば、PPARファミリーのメンバー、ならびにPPAR結合配列および異種レポーター配列を含むポリヌクレオチドを含む細胞系(cell-based)アッセイを用いて測定することができる。例えば、実施例およびReginatoら、J. Biol. Chem. 273: 32679 (1998)を参照されたい。
「抗体」とは、分析物(抗原)と特異的に結合してそれを認識する、1つまたは複数の免疫グロブリン遺伝子によって実質的にコードされるポリペプチドまたはその断片のことを指す。一般に認められている免疫グロブリン遺伝子には、κ、λ、α、γ、δ、εおよびμ定常領域遺伝子のほか、極めて多数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が含まれる。軽鎖はκまたはλのいずれかに分類される。重鎖はγ、μ、α、δまたはεに分類され、これによってそれぞれIgG、IgM、IgA、IgDおよびIgBという免疫グロブリンのクラスが規定される。
典型的な免疫グロブリン(抗体)の構造単位は四量体から構成される。各四量体は2つの同一なポリペプチド鎖の対から構成され、それぞれの対は1つの「軽鎖」(約25kDa)および1つの「重鎖」(約50〜70kDa)を有する。各鎖のN末端には、抗原認識を主に担う約100〜110アミノ酸またはそれ以上のアミノ酸からなる可変領域が定められている。可変軽鎖(VL)および可変重鎖(VH)という用語はそれぞれ、これらの軽鎖および重鎖のことを指す。
抗体は、例えば、完全な免疫グロブリン、または種々のペプチダーゼによる消化によって生じる、詳細に特徴づけられているさまざまな断片として存在する。すなわち、例えばペプシンは、ヒンジ領域のジスルフィド結合の下方で抗体を切断し、ジスルフィド結合によってVH-CH1と連結した軽鎖であるFabの二量体、F(ab)'2を生成する。ヒンジ領域のジスルフィド結合を切断するためにF(ab)'2を穏和な条件下で還元し、それによってF(ab)'2二量体をFab'単量体に変換することもできる。Fab'単量体は本質的にはヒンジ領域の一部を伴うFabである(Paul(編)「基礎免疫学(Fundamental Immunology)」第3版、Raven Press, NY (1993)を参照されたい)。さまざまな抗体断片が完全抗体の消化の見地から定義されているが、当業者は、このような断片を化学的または組換えDNA法を用いてデノボ合成しうることを理解すると考えられる。このため、本明細書で用いる抗体という用語には、抗体全体の改変によって生じる抗体断片、または組換えDNA法を用いてデノボ合成されたもの(例えば、一本鎖Fv)も含まれる。
「ペプチド模倣物(peptidomimetic)」および「模倣物(mimetic)」という用語は、本発明のAKR1Cポリペプチド、アンタゴニスト、またはアゴニストと実質的に同じ構造的および機能的な特徴を有する合成化合物のことを指す。ペプチド類似体は一般に、テンプレートペプチドと類似した特性を備えた非ペプチド薬として製薬産業で用いられている。この種の非ペプチド化合物は「ペプチド模倣物(peptide mimetic)」または「ペプチド模倣物(peptidemimetic)」と呼ばれる(Fauchere, J. Adv. Drug Res. 15: 29 (1986);VeberおよびFreidinger、TINS p. 392 (1985);およびEvansら、J. Med. Chem. 30: 1229 (1987)、これらは参照として本明細書に組み入れられる)。治療的に有用なペプチドと構造的に類似したペプチド模倣物を用いることで、同等または向上した治療効果または予防効果が得られる可能性がある。一般に、ペプチド模倣物は、AKR1Cポリペプチドなどの模範ポリペプチド(すなわち、生物活性または薬理活性を有するポリペプチド)と構造的に類似しているが、CH2NH-、-CH2S、-CH2-CH2-、-CH=CH-(シスおよびトランス)、-COCH2-、-CH(OH)CH2-およびCH2SO-などからなる群より選択される連鎖によって随意に置換された1つまたは複数のペプチド連鎖を有する。模倣物は合成性で非天然性のアミノ酸類似体からすべて構成されてもよく、または、一部が天然ペプチドアミノ酸で一部が非天然性のアミノ酸類似体であるキメラ分子であってもよい。模倣物はまた、天然アミノ酸の保存的置換物の任意の量を、このような置換が模倣物の構造および/または活性を実質的に変化させない限り、包含しうる。例えば、模倣物組成物は、それがAKR1Cの結合活性もしくは酵素活性を達成しうるならば、またはAKR1Cの酵素活性を阻害するもしくは増大させうるならば、本発明の範囲に含まれる。
「遺伝子」という用語は、ポリペプチド鎖の産生に関与するDNAのセグメントのことを意味する;これには、コード領域(リーダーおよびトレーラー)の前および後の領域、さらには個々のコードセグメント(エクソン)の間の介在配列(イントロン)も含まれる。
「単離された」という用語は、核酸またはタンパク質に適用される場合、核酸またはタンパク質が、天然の状態でそれに付随する他の細胞成分を本質的に含まないことを表す。これは均一な状態にあることが好ましいが、乾燥していても水溶液中にあってもよい。純度および均一性は通常、ポリアクリルアミドゲル電気泳動または高速液体クロマトグラフィーなどの分析化学の技法を用いて決定される。調製物中に存在する最も多数を占める種であるタンパク質は、実質的に精製されている。特に、単離された遺伝子は、その遺伝子に隣接して目的の遺伝子以外のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームから分離されている。「精製された」という用語は、核酸またはタンパク質が、電気泳動ゲル中に本質的には1つのバンドを生じることを表す。これは詳細には、核酸またはタンパク質の純度が、少なくとも85%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも99%であることを意味する。
「核酸」または「ポリヌクレオチド」という用語は、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド、および、一本鎖または二本鎖の形態にあるそれらの重合体のことを指す。特に限定されない限り、この用語には、参照核酸と同程度の結合特性を有し、天然ヌクレオチドと類似した様式で代謝される、天然ヌクレオチドの既知の類似体が含まれる。別に指示しない限り、個々の核酸配列には、明示的に指定された配列のほかに、保存的に改変されたそのバリアント(例えば、縮重コドン置換物)および相補的配列が暗黙的に含まれる。詳細には、縮重コドン置換は、1つまたは複数の選択した(またはすべての)コドンの第3の位置が、混合塩基および/またはデオキシイノシン残基によって置換された配列を生じさせることによって行いうる(Batzerら、Nucleic Acids Res. 19: 5081 (1991);Ohtsukaら、J. Biol. Chem. 260: 2605-2608 (1985);およびCassolら(1992);Rossoliniら、Mol. Cell. Probes 8: 91-98 (1994))。核酸という用語は、遺伝子、cDNA、および遺伝子によってコードされるmRNAと互換的に用いられる。
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は、本明細書において、アミノ酸残基の重合体を指す目的で互換的に用いられる。これらの用語は、天然アミノ酸重合体および非天然アミノ酸重合体のほか、1つまたは複数のアミノ酸残基が対応する天然アミノ酸の人工的な化学的模倣物であるアミノ酸重合体に対しても適用される。本明細書で用いる場合、これらの用語には、アミノ酸残基が共有ペプチド結合によって連結された、完全長タンパク質(すなわち、抗原)を含む任意の長さのアミノ酸鎖が含まれる。
「アミノ酸」という用語は、天然アミノ酸および合成アミノ酸のほか、天然のアミノ酸と類似した様式で機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣物のことも指す。天然のアミノ酸とは、遺伝暗号によってコードされるもののほか、その後に修飾されたアミノ酸、例えばヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸およびO-ホスホセリンなどののこともいう。アミノ酸類似体とは、天然のアミノ酸と同じ基本的な化学構造を有する、すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基およびR基と結合したα炭素を有する化合物、例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムのことを指す。この種の類似体は、改変されたR基(例えば、ノルロイシン)または改変されたペプチド骨格を有するが、天然アミノ酸と同じ基本的な化学構造を保持している。「アミノ酸模倣物」とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するものの天然アミノ酸と類似した様式で機能する化合物のことを指す。
本明細書ではアミノ酸を、一般的に知られた三文字記号、またはIUPAC-IUBの生化学物質命名委員会(Biochemical Nomenclature Commission)が推奨している一文字記号のいずれかによって参照する。ヌクレオチドも同じく、一般的に認められている一文字記号によって参照する。
「保存的に改変されたバリアント」は、アミノ酸配列および核酸配列の両方に対して適用される。個々の核酸配列に関して、「保存的に改変されたバリアント」とは、同一もしくは本質的に同一なアミノ酸配列をコードする核酸のことを指し、または、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には本質的に同一な配列のことを指す。遺伝暗号の縮重性のために、任意のタンパク質は多数の機能的に同一な核酸によってコードされうる。例えば、コドンGCA、GCC、GCGおよびGCUはすべてアラニンというアミノ酸をコードする。このため、コドンによってアラニンが指定されるあらゆる位置で、コードされるポリペプチドを変化させずに、そのコドンを対応する上記のコドンのいずれかに変化させることができる。このような核酸変形物は「サイレント変形物」であり、保存的に改変された変形物の一種である。何らかのポリペプチドをコードする本明細書のあらゆる核酸配列は、その核酸のあらゆる可能なサイレント変形物についても述べている。当業者は、核酸内の各コドン(通常はメチオニンに対する唯一のコドンであるAUG、および通常はトリプトファンに対する唯一のコドンであるTGGを除く)を改変して、機能的に同一な分子を作製しうることを理解すると考えられる。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各々のサイレント変形物は、記載する各配列に黙示的に含まれる。
アミノ酸配列に関して、当業者は、コードされる配列中の単一のアミノ酸または少数のアミノ酸が改変、付加または除去される、核酸、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質の配列に対する個々の置換物、欠失物または付加物が、改変によってアミノ酸が化学的に類似したアミノ酸に置換されるような「保存的に改変されたバリアント」であることを理解すると考えられる。機能的に類似したアミノ酸が得られる保存的置換の表も当技術分野で周知である。このような保存的に改変されたバリアントは、本発明の多型バリアント、種間相同体および対立遺伝子に加わるものであり、それらが除外されるわけではない。
以下の8つの群はそれぞれ、互いに保存的なアミノ酸を含む:
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7)セリン(S)、トレオニン(T);および
8)システイン(C)、メチオニン(M)
(例えば、Creighton、「タンパク質(Proteins)」(1984)を参照されたい)。
「配列一致率(percentage of sequence identity)」は、最適なアラインメントがなされた2つの配列を比較域(comparison window)にわたって比較することによって決定され、この際、比較域中のポリヌクレオチド配列の一部分は、2つの配列の最適なアラインメントのために、参照配列(これは付加も欠失も含まない)と比較して付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含んでよい。この率は、両方の配列に同一の核酸塩基または残基が存在する位置の数を決定して一致する位置の数を求め、一致した位置の数を比較域における位置の総数で除算し、その結果に100を掛けて配列一致率を求めることによって算出される。
2つまたはそれ以上の核酸またはポリペプチド配列の文脈において、「同一である」または「一致」率という用語は、一定の比較域にわたって、または以下の配列比較アルゴリズムの1つを用いるかもしくは手作業によるアラインメントおよび目視検査によって指定された領域にわたって、最大の対応関係が得られるように比較およびアラインメントを行った場合に、同じである、または同じアミノ酸残基もしくはヌクレオチドが指定された比率である(すなわち、指定された領域にわたって60%の同一性、選択的には65%、70%、75%、80%、85%、90%または95%の同一性)、2つまたはそれ以上の配列または部分配列のことを指す。このような配列を「実質的に同一である」と言う。この定義は、被験配列の相補物のことも指す。選択的には、同一性は、少なくとも約50ヌクレオチド長の領域にわたって、またはより好ましくは100から500もしくは1000以上のヌクレオチド長の領域にわたって存在する。
2つまたはそれ以上のポリペプチド配列の文脈において、「類似性」または「類似」率という用語は、一定の比較域にわたって、または以下の配列比較アルゴリズムの1つを用いるかもしくは手作業によるアラインメントおよび目視検査によって指定された領域にわたって、最大の対応関係が得られるように比較およびアラインメントを行った場合に、同じである、または上に定義した8種の保存的アミノ酸置換の定義による類似性のあるアミノ酸残基が指定された比率である(すなわち、指定された領域にわたって60%、選択的には65%、70%、75%、80%、85%、90%または95%の類似性)、2つまたはそれ以上の配列または部分配列のことを指す。このような配列を「実質的に類似している」と言う。選択的には、この同一性は、少なくとも約50ヌクレオチド長の領域にわたって、またはより好ましくは少なくとも約100から500もしくは1000以上のアミノ酸長の領域にわたって存在する。
配列比較のためには、1つの配列を、被験配列と比較するための参照配列として用いることが一般的である。配列比較アルゴリズムを用いる場合には、被験配列および参照配列をコンピュータに入力し、必要に応じて部分配列の座標を指定して、配列アルゴリズムプログラムのパラメーターを指定する。デフォールトのプログラムパラメーターを用いることもでき、別のパラメーターを指定することもできる。続いて、プログラムのパラメーターに基づいて、参照配列に対する被験配列の配列一致率または類似率を配列比較アルゴリズムで計算する。
本明細書で用いる「比較域(comparison window)」は、2つの配列の最適なアラインメントを行った後に、ある配列を同じ数の連続した位置を持つ参照配列と比較しうるような、20〜600個、通常は約50〜約200個、より一般的には約100〜約150個からなる群から選択される数の連続した位置のいずれか1つの区域に対する言及を含んでいる。比較のための配列のアラインメントの方法は当技術分野で周知である。比較のための配列の最適なアラインメントは、SmithおよびWaterman (1970) Adv. Appl. Math. 2: 482cの局所的相同性アルゴリズムにより、NeedlemanおよびWunsch (1970) J. Mol. Biol. 48: 443の相同性アラインメントアルゴリズムにより、PearsonおよびLipman (1988) Proc. Nat'l. Acad. Sci.USA 85: 2444の類似性検索法により、これらのアルゴリズムのコンピュータ・インプリメンテーション(Wisconsin Genetics Software Package(Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, WI)のGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTA)により、または手作業によるアラインメントおよび目視検査によって行うことができる(例えば、Ausubelら、「分子生物学における最新プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)」(1995年補遺)を参照されたい)。
有用なアルゴリズムの一例がPILEUPである。PILEUPは漸進的な対形式のアラインメントを用いて一群の関連配列から多数の配列アラインメントを作成し、関連性および配列一致率を提示する。これはアラインメントを作成するために用いたクラスター化の関係を示す樹状図またはデンドログラムのプロットも行う。PILEUPは、FengおよびDoolittle、J. Mol. Evol. 35: 351-360 (1987)の漸進的アラインメント法を単純化したものを用いている。用いている方法は、HigginsおよびSharp、CABIOS 5: 151-153 (1989)と類似している。このプログラムは、それぞれ最大長が5,000ヌクレオチドまたはアミノ酸である最大300個の配列のアラインメントを行うことができる。最も類似した2つの配列の対形式のアラインメントから多数のアラインメント手順が始まり、アラインメントされた2つの配列のクラスターが作成される。続いてこのクラスターを、次に最も関連性の高い配列、またはアラインメントされた配列のクラスターに対してアラインメントを行う。2つの配列クラスターは、個々の2つの配列の対形式のアラインメントを単純に拡張することによってアラインメントを行う。最終的なアラインメントは、一連の漸進的な対形式のアラインメントを行うことによって得られる。このプログラムは、配列を比較する領域に関して特定の配列およびそのアミノ酸またはヌクレオチド座標を指定することにより、ならびにプログラムパラメーターを指定することによって実行される。PILEUPを用いる場合には、以下のパラメーターを用いて参照配列を他の被験配列と比較して、配列一致率を決定する:デフォールトのギャップウェイト(gap weight)(3.00)、デフォールトのギャップ長ウェイト(gap length weight)(0.10)および重み付けエンドギャップ(weighted end gap)。PILEUPは、GCC配列解析ソフトウエアパッケージ、例えば、バージョン7.0(Devereauxら (1984)、Nuc. Acids Res. 12: 387-395)から入手可能である。
配列一致率および配列類似性の決定のために適したアルゴリズムの別の例が、BLASTおよびBLAST 2.0アルゴリズムであり、それぞれAltschulら、Nuc. Acids Res. 25: 3389-3402 (1977)およびAltschulら、J. Mol. Biol. 215: 403-410 (1990)に記載されている。BLAST解析を行うためのソフトウエアは米国国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)(http://www.ncbi.n1m.nih.gov/)に公開されている。このアルゴリズムでは、データベース配列中の同じ長さのワードと整列化した場合に何らかの正値の閾値スコアTと一致する、またはそれを満たす、長さWの短いワードを検索配列中に同定することにより、高スコアの配列ペア(HSP)をまず同定する。Tは近隣ワードスコア閾値と呼ばれる(Altschulら、前記)。これらの初期の近隣ワードでのヒットは、それらを含む長いHSPを見いだすための検索を開始する源となる。ワードの検索は、累積アラインメントスコアが増加する限り、各配列の両方向に対して延長される。累積スコアは、ヌクレオチド配列の場合にはパラメーターM(一致する残基対に関する報酬スコア;常に>0)およびN(ミスマッチ残基に関するペナルティスコア;常に<0)を用いて算出する。アミノ酸配列の場合には、累積スコアの算出にスコア行列を用いる。各方向へのワード検索の延長は以下の場合に停止する:累積アラインメントスコアが最大達成値に比べて量Xより低くなった場合:1つもしくは複数の負スコアの残基アラインメントの蓄積のために累積スコアがゼロまたはそれ未満になった場合;または配列のいずれかの端に達した場合。BLASTアルゴリズムのパラメーターであるW、TおよびXは整列化の感度および速度を決定する。BLASTNプログラムは(ヌクレオチド配列の場合)、デフォールトとしてワード長(W)11、期待値(E)10、M=5、N=-4および両ストランドの比較を用いる。アミノ酸配列の場合、BLASTPプログラムはデフォールトとしてワード長3および期待値(E)10、ならびにBLOSUM62スコア行列(HenikoffおよびHenikoff、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915 (1989)を参照)のアラインメント(B)50、期待値(E)10、M=5、N=-4および両ストランドの比較を用いる。
BLASTアルゴリズムは、2つの配列の間の類似性に関する統計分析も行う(例えば、KahnおよびAltschul (1993)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5873-5787を参照)。BLASTアルゴリズムによって得られる類似性の指標の1つは最小合計確率(smallest sum probability)(P(N))であり、これは2つのヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の間の一致が偶然に起こる確率の指標となる。例えば、ある核酸は、被験核酸と参照核酸との比較による最小合計確率が約0.2未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満の場合に、参照配列と類似しているとみなされる。
2つの核酸配列またはポリペプチドが実質的に同一であるという指標の1つは、以下に述べるように、第1の核酸によってコードされるポリペプチドが、第2の核酸によってコードされるポリペプチドに対して産生された抗体と免疫学的に交差反応することである。したがって、例えば、2つのペプチドが保存的置換のみの点で異なる場合、ポリペプチドは一般に第2のポリペプチドと実質的に同一である。2つの核酸配列が実質的に同一であるというもう1つの指標は、以下に述べるように、2つの分子またはその相補物がストリンジェントな条件下で互いにハイブリダイズすることである。2つの核酸配列が実質的に同一であるというさらにもう1つの指標は、配列の増幅に同じプライマーを用いうることである。
「選択的に(または特異的に)ハイブリダイズする」という語句は、ある分子の結合、二重鎖形成またはハイブリダイゼーションが、その配列が複合混合物(例えば、全細胞またはライブラリーのDNAまたはRNA)中に存在する場合に、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で特定のヌクレオチド配列のみに対して起こることを指す。
「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」という語句は、一般的には核酸の複合混合物において、プローブがその標的部分配列とハイブリダイズするが、他の配列とはハイブリダイズしないと考えられる条件のことを指す。ストリンジェントな条件は配列依存的であり、環境が異なれば異なると考えられる。配列が長いほど高い温度で特異的にハイブリダイズすると考えられる。核酸のハイブリダイゼーションに関する詳細な手引きは、Tijssen、「生化学および分子生物学の技法−核酸プローブとのハイブリダイゼーション(Techniques in Biochemistry and Molecular Biology-Hybridization with Nucleic Probes)」、「ハイブリダイゼーションの原理および核酸アッセイの戦略の概要(Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid assays)」(1993)に記載がある。一般に、ストリンジェントな条件は、規定のイオン強度およびpHでの特定の配列の融点(Tm)よりも約5〜10℃低くなるように選択する。Tmは、標的に対して相補的なプローブの50%が平衡状態で標的配列とハイブリダイズする温度(規定のイオン強度、pHおよび核酸濃度の下で)である(標的配列が過剰に存在するため、Tmでは平衡状態でプローブの50%が占有される)。ストリンジェントな条件は、塩濃度がナトリウムイオン濃度で約1.0M未満、一般的にはナトリウムイオン(または他の塩の)濃度で約0.01〜1.0M、pH7.0〜8.3であり、温度は短いプローブ(例えば、10〜50ヌクレオチド)に関しては少なくとも約30℃であって、(例えば、50ヌクレオチドを上回るもの)に関しては少なくとも約60℃であると考えられる。ストリンジェントな条件は、ホルムアミドなどの脱安定剤の添加によっても得られる。選択的または特異的なハイブリダイゼーションの場合、陽性シグナルはバックグラウンド値の少なくとも2倍、選択的にはバックグラウンドでのハイブリダイゼーションの10倍である。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例としては以下のものが考えられる:50%ホルムアミド、5×SSCおよび1%SDS、42℃でインキュベートを行い、または5×SSC、1%SDS、65℃でインキュベートを行い、その上で0.2×SSCおよび0.1%SDS、65℃で洗浄する。このような洗浄は5、15、30、60、120分またはさらに多くの分数にわたって行いうる。
ストリンジェントな条件下で互いにハイブリダイズしない核酸も、それらをコードするポリペプチドが実質的に同一であれば、やはり実質的に同一である。これは例えば、遺伝暗号によって許容される最大のコドン縮重性を用いて生じた核酸のコピーの場合に起こる。このような場合には、核酸は一般に、中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズする。「中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」の例には、40%ホルムアミド、1M NaCl、1%SDS、37℃の緩衝液中でのハイブリダイゼーション、および1×SSC、45℃での洗浄が含まれる。このような洗浄は、5、15、30、60、120分またはさらに多くの分数にわたって行いうる。陽性のハイブリダイゼーションは、バックグラウンドの少なくとも2倍である。代替的なハイブリダイゼーションおよび洗浄の条件を用いて同様に厳密な条件が得られることを、当業者は容易に認識すると考えられる。
「をコードする核酸配列」という語句は、rRNA、tRNAなどの構造RNA、または特定のタンパク質もしくはペプチドの一次アミノ酸配列、またはトランス作用性調節因子の結合部位に関する配列情報を含む核酸のことを指す。この語句には特に、特定の宿主細胞におけるコドン選好性に適合するように導入しうる、1つまたは複数の天然配列の縮重コドン(すなわち、単一のアミノ酸をコードする複数種のコドン)が含まれる。
細胞、核酸、タンパク質またはベクターなどに言及して用いる場合、「組換え」という用語は、細胞、核酸、タンパク質またはベクターが、異種核酸もしくはタンパク質の導入または天然の核酸またはタンパク質の改変によって改変されたこと、または細胞がそのように改変された細胞に由来することを意味する。このため、例えば、組換え細胞は、天然型(非組換え型)の細胞に認められない遺伝子を発現する、または、通常であれば異常発現される、低発現される、もしくは全く発現されないような天然遺伝子を発現する。
核酸の部分に言及して用いる場合、「異種」という用語は、核酸が、自然下ではお互いに同じ関係では認められない2つまたはそれ以上の部分配列を含むことを意味する。例えば、核酸は一般に、例えば、1つの源からのプロモーターおよび別の源からのコード領域というように、関連のない遺伝子に由来する2つまたはそれ以上の配列が新たな機能的核酸を生じるように配置された形で、組換え法によって産生される。同様に、異種タンパク質とは、タンパク質が、自然下ではお互いに同じ関係では認められない2つまたはそれ以上の部分配列を含むことを意味する(例えば、融合タンパク質)。
「発現ベクター」とは、宿主細胞内での特定の核酸の転写を許容する一連の指定された核酸配列を有する、組換え法または合成によって作製された核酸構築物のことである。発現ベクターはプラスミド、ウイルスまたは核酸断片の部分であってもよい。発現ベクターは、プロモーターと機能的に結合した転写用の核酸を含むことが一般的である。
「抗体と特異的に(もしくは選択的に)結合する」または「との特異的な(もしくは選択的な)免疫反応性がある」という語句は、タンパク質またはペプチドについて言及する場合、タンパク質および他の生体物質の不均一な集団の存在下でそのタンパク質の存在を決定づける結合反応のことを指す。すなわち、指示されたイムノアッセイ条件下で、指定された抗体は試料中に存在するある特定のタンパク質と結合し、他のタンパク質とは有効な量では結合しない。このような条件下での抗体に対する特異的結合には、特定のタンパク質に対する特異性の点から選択された抗体が必要と思われる。例えば、本発明のいずれかのポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を有するタンパク質に対して産生された抗体を選択して、そのタンパク質とは特異的に免疫反応し、多型バリアントを除く他のタンパク質とは反応しない抗体を得ることができる。特定の抗体に対する特異的な免疫反応性のある抗原を選択するためには、さまざまなイムノアッセイ形式を用いうる。例えば、フローサイトメトリーおよびFACS分析または免疫組織化学が、あるタンパク質と特異的に免疫反応するモノクローナル抗体を選択するためにルーチン的に用いられている。特異的免疫反応性の決定に用いうるイムノアッセイの形式および条件の記載については、例えば、HarlowおよびLane、「抗体、実験マニュアル(Antibodies, Laboratory Manual)」、Cold Spring Harbor Publications, NY (1988)を参照されたい。通常、特異的または選択的な反応は、バックグラウンドの信号または雑音の少なくとも2倍であると考えられ、より一般的にはバックグラウンドの10〜100倍を上回ると考えられる。
AKR1Cの発現またはAKR1Cの活性の「阻害物質」「活性化物質」および「修飾物質」は、AKR1Cの発現またはAKR1Cの活性に関するインビトロおよびインビボでのアッセイを用いて同定された、それぞれ阻害性、活性化性または修飾性の分子、例えば、リガンド、アゴニスト、アンタゴニストならびにそれらの相同体および模倣物を指して用いられる。「修飾物質」という用語には阻害物質および活性化物質が含まれる。阻害物質とは、例えば、AKR1Cの発現を阻害する、またはAKR1Cと結合する、賦活もしくは酵素活性を部分的もしくは完全に阻止する、活性化を軽減する、防止する、遅らせる、不活性化する、脱感作する、もしくはその活性をダウンレギュレートする、またはAKR1Cが結合する受容体と結合する、もしくはそれをダウンレギュレートする作用物質、例えばアンタゴニストのことである。活性化物質とは、例えば、AKR1Cの発現の発現を誘導もしくは活性化する、またはAKR1Cと結合する、それを賦活する、増加させる、開口させる、活性化する、促通する、活性化もしくは酵素活性を増強する、感作する、もしくはAKR1Cの活性をアップレギュレートする、例えばアゴニストのことである。修飾物質には、天然リガンドおよび合成リガンド、アンタゴニスト、アゴニスト、低分子量化学物質などが含まれる。阻害物質および活性化物質に関するこの種のアッセイには、例えば、AKR1C修飾物質の存在下または非存在下で、修飾性化合物と推定されるものを脂肪細胞または筋細胞などの周辺細胞に対して適用した後に、上記のように、AKR1C活性に対する機能的な影響を判定することが含まれる。効果の程度を検討するには、活性化物質、阻害物質または修飾物質の候補によって処理したAKR1Cを含む試料またはアッセイ対象を、阻害物質、活性化物質または修飾物質を含まない対照試料と比較する。対照試料(修飾物質で処理していないもの)をAKR1Cの相対活性値100%と指定する。AKR1Cの阻害は、AKR1Cの活性値が対照に比して約80%、選択的には50%または25〜1%である場合に達成される。AKR1Cの活性化は、AKR1Cの活性値が対照に比して110%、選択的には150%、選択的には200〜500%または1000〜3000%高い場合に達成される。
詳細な説明
I.序論
本発明は、糖尿病および関連疾患の診断および治療のためにAKR1C配列を用いる方法を対象とする。本方法は、AKR1C発現および活性に対する修飾物質(modulator)を同定する方法も提供する。このような修飾物質は、2型糖尿病のほか、シンドロームX、多嚢胞卵巣症候群、HIV-プロテアーゼ阻害剤誘発性インスリン抵抗性、リポジストロフィー、高血糖、肥満、高脂血症、高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、耐糖能障害、アテローム性動脈硬化、血管再狭窄、過敏性腸症候群、膵炎、脂肪細胞の腫瘍および癌、急性高山病、アジソン病、アルツハイマー病、喘息、自己免疫疾患、熱傷、風邪の症状(例えば、鼻閉、痛み)、炎症性腸疾患(例えば、クローン病)、虚血再灌流傷害、肝損傷、ニューロパチー、眼の炎症、パーキンソン病、敗血症および皮膚疾患(例えば、座瘡、強皮症)、さらにはこの種の疾患の病的様相を治療するために有用である。本発明の修飾物質によって治療しうるその他の適応症には、例えば以下のものが含まれる:湿疹などの表皮細胞または上皮細胞の増殖がかかわる疾患;ループスに伴う皮膚病変;乾癬性関節炎;関節包の内層をなす上皮関連細胞の過剰増殖および炎症がかかわる関節リウマチ;脂漏性皮膚炎および日光皮膚炎などの皮膚炎;脂漏性角化症、老年性角化症、光線性角化症、光誘発性角化症および毛包性角化症などの角化症;尋常性座瘡;ケロイドおよびケロイド形成に対する予防法;母斑;疣贅、コンジロームまたは尖形コンジロームを含む疣、および性病いぼを含むヒト乳頭腫ウイルス(HPV)感染症;白斑症;扁平苔癬;ならびに角膜炎。修飾物質は、例えば、脂質蓄積細胞を生じる細胞分化、アテローム性動脈硬化プラークの発生を招くマクロファージ形成などを含む、PPAR-γによって媒介されるプロセスの治療のためにも有用である。
リガンド活性化型転写因子のPPAR(ペルオキシソーム増殖活性化受容体)ファミリーのメンバー(PPARα、PPARβ/δおよびPPARγ)は、グルコースおよび脂質のホメオスタシスに重要な役割を果たすことが示されている。PPARγに対する合成リガンド、例えばチアゾリジンジオンは、末梢インスリン感受性およびグルコース消失を増強する(Day, C.、Diabetic Medicine 16: 179-192 (1999))。さらに、PPARγ変異のある患者はインスリン感受性が低い(Barroso, I.ら、Nature 402: 880-883 (1999))。したがって、PPARγの活性を変化させる薬剤および他のリガンドはインスリン感受性の増大をもたらし、インスリン抵抗性を有する個体の治療に用いることができる。PPARαの場合には、クロフィブラートなどのフィブラート系の脂質低下薬がPPARαの結合および活性化を介して脂質代謝に対する影響を媒介することが示されている;フィブラート系薬剤はこの機序によってインスリン感作作用も発揮すると思われる(Guerre-Millo, M.ら、J. Biol. Chem. 275: 16638-16642 (2000))。本発明を特定の動作理論に限定することは意図しないが、AKR1Cレベルまたは活性の変化によってPPARαおよび/またはγを介した作用も変化すると考えられている。このため、この種の修飾物質は、高トリグリセリド血症および高リポタンパク質血漿を含む異常脂肪血症の治療にも有用である。
本出願は、驚くべきことにNIDDMの人々ではAKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3 mRNAが高値であることを示す。いくつかの態様において、プロスタグランジンD2 11-ケトレダクターゼ活性を有するこれらの酵素の発現増強は9α,11β-PGF2αのレベルを上昇させるとともにPPARγリガンド(15-デオキシ-Δ12,14-PGJ2)のレベルを低下させ、それによってインスリン抵抗性を増大させる。このため、PGD2 11ケト-レダクターゼ活性の阻害は9α,11β-PGF2αの生成を減少させるとともに15-デオキシ-Δ12,14-PGJ2の生成を増加させ、それによってインスリン抵抗性を低下させる。または、AKR1Cにより触媒される正味の反応がPGD2の正味の合成をもたらす態様においては、AKR1Cの活性または発現の増大によってインスリン抵抗性が低下する。
本発明を特定の動作理論に限定することは意図しないが、9α,11β-PGF2αは筋細胞から放出されて、細胞表面のFプロスタノイド(FP)受容体を賦活するように作用することができる。例えば図2参照。このGPCRの活性化はPPARγのセリン112でのMAPキナーゼ依存性リン酸化を誘発し、コンフォメーション変化およびPPARγリガンド親和性の低下を引き起こす。例えば、Huら、Science 274: 2100-2103 (1996)を参照。このため、FP受容体の拮抗もインスリン感受性を増大させ、NIDDMに対する有用な治療法となる。
このほか、本明細書中に示すように、インスリン感受性の増大はPGD2で処理した細胞でも起こる。本発明を特定の理論または機序に限定する意図はないが、この結果はDP受容体の活性化によって起こると考えられている。このため、DP受容体のアゴニストはNIDDMに対する有効な治療法となる。DP受容体は例えば、Boie, Y.ら、J. Biol. Chem. 270: 18910-18916 (1995)に記載されている。
本発明を特定の理論または機序に限定する意図はないが、AKR1C活性またはレベルを変化させることにより、PPARαレベルの変化が生じると考えられている。PPARαレベルを調節することは異常脂肪血症の有効な治療であるため、本発明は、AKR1Cの修飾物質を個体に投与することによる異常脂肪血症の治療方法を提供する。
II.本発明に用いるための一般的な組換え核酸方法
本発明の数多くの態様においては、組換え方法を用いて、目的のAKR1Cをコードする核酸の単離およびクローニングを行う。この種の態様は、例えば、タンパク質発現のためもしくはAKR1Cポリペプチド(例えば、配列番号:1、配列番号:7、配列番号:17、配列番号:23、ならびに配列番号:30、31、32、33、34、35、36、37、39、41、43、45、47、49、および51)に由来するバリアント、誘導体、発現カセットもしくは他の配列の作製時にAKR1Cポリヌクレオチド(例えば、
)を単離するために、AKR1C遺伝子の発現を観測するために、さまざまな種におけるAKR1C配列の単離もしくは検出のために、患者における診断目的のために、例えば、AKR1Cにおける変異を検出するため、もしくはAKR1C核酸もしくはAKR1Cポリペプチドの発現レベルを検出するために用いられる。いくつかの態様において、本発明のAKR1Cをコードする配列は、異種プロモーターと機能的に結合している。1つの態様において、本発明の核酸は、特に例えばヒト、マウス、ラットなどを含む、任意の哺乳動物に由来する。いくつかの態様において、本発明の核酸は、図6において「*」、「:」、もしくは「.」、またはそれらの任意の組合わせ(例えば「*」と「:」と「.」、または「*」と「:」、または「*」と「.」など)で示された保存されたアミノ酸残基または基を有するAKR1Cポリペプチドをコードする。
A.一般的な組換え核酸方法
本発明は、組換え遺伝学の分野におけるルーチン的な技法に依拠している。本発明における一般的な使用方法を開示している基本的なテキストには、Sambrookら、「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning、Laboratory Manual)」(第3版、2001);Kriegler、「遺伝子の導入および発現:実験マニュアル(Gene Transfer and Expression:A Laboratory Manual)」(1990);および「分子生物学における最新プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)」(Ausubelら編、1994)が含まれる。
核酸の場合、サイズはキロベース(kb)または塩基対(bp)のいずれかによって表す。これらは、アガロースゲルまたはアクリルアミドゲルでの電気泳動、配列が決定された核酸、または公表されたDNA配列から得られる推定値である。タンパク質の場合、サイズはキロダルトン(kDa)またはアミノ酸残基数によって表す。タンパク質のサイズは、ゲル電気泳動、配列が決定されたタンパク質、導き出されたアミノ酸配列、または公表されたタンパク質配列から推定される。
市販されていないオリゴヌクレオチドは、Beaucage & Caruthers, Tetrahedron Letts. 22: 1859-1862 (1981)によって最初に記載された固相ホスホロアミダイドトリエステル法に従って、Van Devanterら、Nucleic Acid Res. 12: 6159-6168 (1984)に記載された自動合成装置を用いて化学合成することができる。オリゴヌクレオチドの精製は、未変性アクリルアミドゲル電気泳動、またはPearson & Reanier, J. Chrom. 255: 137-149 (1983)に記載された陰イオン交換HPLCによって行う。
クローニングされた遺伝子および合成オリゴヌクレオチドの配列は、例えば、Wallaceら、Gene 16: 21-26 (1981)による二本鎖テンプレートのシークエンシング用の連鎖停止法などを用いたクローニングの後に確認することができる。
B.所望のタンパク質をコードするヌクレオチド配列の単離のためのクローニング法
一般に、主題タンパク質をコードする核酸は、cDNAまたはゲノムDNAをコードするように作製されたDNA配列ライブラリーからクローニングされる。特定の配列の位置はオリゴヌクレオチドプローブとハイブリダイズさせることによって決定可能であり、後者の配列はAKR1C1、ACR1C2、AKR1C3、またはAKR1C4の配列から導くことができ(例えば、
)、これはPCRプライマー用の基準となる上に、AKR1C特異的プローブを単離するのに適した領域を規定する。または、配列を発現ライブラリー中にクローニングする場合には、発現された組換えタンパク質を、目的のAKR1Cに対して作製された抗血清または精製抗体を用いて免疫学的に検出することもできる。
ゲノムライブラリーおよびcDNAライブラリーの作製およびスクリーニングのための方法は当業者に周知である(例えば、GublerおよびHoffman、Gene 25: 263-269 (1983);BentonおよびDavis、Science, 196: 180-182 (1977);およびSambrook、前記を参照されたい)。脂肪細胞または筋細胞などの周辺細胞はAKR1C RNAおよびcDNAを単離するのに適した細胞の一例である。
簡潔に述べると、cDNAライブラリーを作製するためには、mRNAを豊富に含む源を選択する必要がある。続いて、mRNAをcDNAにし、組換えベクター中に連結した上で、増殖、スクリーニングおよびクローニングのために組換え宿主にトランスフェクトする。ゲノムライブラリーの場合には、DNAを組織または細胞から抽出し、機械的剪断または酵素消化のいずれかにより、好ましくは約5〜100kbの断片を得る。続いて勾配遠心によって断片を望ましくないサイズのものから分離し、バクテリオファージλベクター中に構築する。これらのベクターおよびファージのパッケージングをインビトロで行い、組換えファージをプラークハイブリダイゼーションによって分析する。コロニーハイブリダイゼーションは、Grunsteinら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 72: 3961-3965 (1975)に一般的に記載された通りに行う。
代替的な1つの方法では、合成オリゴヌクレオチドプライマーの使用とmRNAまたはDNAテンプレートの増幅とを組み合わせる。適したプライマーは、特定のAKR1C配列、例えば、
に記載された配列から設計することができる。このポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法では、目的のタンパク質をコードする核酸を、mRNA、cDNA、ゲノムライブラリーまたはcDNAライブラリーから直接増幅する。制限酵素部位をプライマーに組み入れることができる。ポリメラーゼ連鎖反応または他のインビトロ増幅法は、例えば、特定のタンパク質をクローニングして前駆タンパク質を発現させるため、生理的試料中の本発明のAKR1CポリペプチドをコードするmRNAの存在を検出するためのプローブとして用いるための核酸を合成するため、核酸シークエンシングのため、またはその他の目的のためにも有用と思われる(米国特許第4,683,195号および第4,683,202号を参照)。PCR反応によって増幅された遺伝子はアガロースゲルから精製し、適したベクター中にクローニングすることができる。
本発明のAKR1Cポリペプチドをコードする遺伝子を哺乳動物組織から同定するために適切なプライマーおよびプローブは、本明細書で提供する配列、特に
から導くことができる。PCRの一般的な概説については、Innisら、「PCRプロトコール:方法および応用への手引き(PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications)」、Academic Press、San Diego (1990)を参照されたい。
合成オリゴヌクレオチドを遺伝子の構築に用いることができる。これは、遺伝子のセンス鎖および非センス鎖の両方に相当する、通常は長さ40〜120bpの一連の重複オリゴヌクレオチドを用いて行われる。続いて、これらのDNA断片のアニーリング、連結およびクローニングを行う。
本発明のAKR1Cポリペプチドをコードする遺伝子を、発現のために哺乳動物細胞への形質転換導入を行う前に、中間ベクター中にクローニングすることができる。これらの中間ベクターは原核生物ベクターまたはシャトルベクターであることが一般的である。タンパク質は、当業者に周知の標準的な方法を用いて原核生物に発現させることもでき、または以下に述べるように真核生物において発現させることもできる。
III.本発明のタンパク質の精製
天然型および組換え型のAKR1Cはいずれも、機能アッセイに用いるために精製することができる。天然型AKR1Cポリペプチドは、例えば、含脂肪細胞などのマウスもしくはヒトの組織、またはAKR1Cオルソログの任意の他の源から精製することができる。組換えAKR1Cポリペプチドは、任意の適した発現系から精製しうる。
硫酸アンモニウムなどの物質による選択的沈殿、カラムクロマトグラフィー、免疫精製法などを含む標準的な技法により、AKR1Cタンパク質を実質的に純粋になるまで精製することもできる(例えば、Scopes, 「タンパク質精製:原理および実践(Protein Purification: Principles and Practice)」(1982);米国特許第4,673,641号;Ausubelら、前記;およびSambrookら、前記を参照)。
組換えAKR1Cポリペプチドを精製する場合にはさまざまな方法を用いうる。例えば、分子接着特性が立証されているタンパク質をAKR1Cポリペプチドと可逆的に融合させることができる。適切なリガンドを用いて、AKR1Cポリペプチドを精製カラムに選択的に吸着させ、次にそれをカラムから比較的純粋な形で遊離させることができる。続いて、酵素活性によって融合タンパク質を分離されうる。イムノアフィニティーカラムを用いてAKR1Cタンパク質を精製することも可能である。
A.組換え細菌からのAKR1Cタンパク質の精製
組換えタンパク質を形質転換細菌によって大量に発現させる場合に(通常はプロモーター誘導による、ただし発現は構成性でもよい)、タンパク質が不溶性凝集物を形成することがある。タンパク質封入体の精製に適したプロトコールがいくつかある。例えば、凝集タンパク質(本明細書では以後、封入体と称する)の精製には一般に、通常は約100〜150μg/mlリソソームおよび0.1%ノニデットP-40(非イオン性界面活性剤)を含む緩衝液中でのインキュベーションによる(ただし、これには限定されない)細菌細胞の破壊により、封入体の抽出、分離および/または精製が行われる。細胞浮遊液はPolytronグラインダー(Brinkman Instruments, Westbury, NY)を用いて破砕することができる。または、細胞を氷上で超音波処理することもできる。細菌を可溶化する代替的な方法は、Sambrookら、前記およびAusubelら、前記に記載されており、当業者には明らかであると考えられる。
細胞浮遊液を一般的には遠心し、封入体を含むペレットを、封入体を溶解させることはないが洗浄は行える緩衝液、例えば、20mM Tris-HCl(pH 7.2)、1mM EDTA、150mM NaClおよび2%Triton-X 100(非イオン性界面活性剤)中に再懸濁する。できるだけ多くの壊死細胞片を除去するために、洗浄の段階を繰り返すことが必要なこともある。封入体の残りのペレットを、適切な緩衝液(例えば、20mMリン酸ナトリウム、pH 6.8、150mM NaCl)中に再懸濁してもよい。その他の適切な緩衝液は当業者に明らかであると考えられる。
洗浄段階の後に、強力な水素受容体であり、かつ強力な水素供与体でもある溶媒(またはこれらの特性の一方をそれぞれが有する溶媒の組み合わせ)の添加によって封入体を可溶化する。続いて、封入体を形成したタンパク質を、適合性のある緩衝液による希釈または透析によって再生させることができる。適した溶媒には、尿素(約4M〜約8M)、ホルムアミド(容積/容積比で少なくとも約80%)および塩酸グアニジン(約4M〜約8M)が含まれる。凝集体形成性タンパク質を可溶化しうるいくつかの溶媒、例えばSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)および70%ギ酸は、タンパク質が非可逆的に変性し、免疫原性および/または活性がなくなる恐れがあるため、この手順に用いるには適していない。塩酸グアニジンおよび類似の薬剤は変性剤であるが、この変性は非可逆的ではなく、変性剤を除去(例えば、透析による)または希釈すると再生が起こり、目的の免疫学的および/または生物学的に活性のあるタンパク質が再構成される。可溶化の後には、標準的な分離法により、タンパク質を他の細菌タンパク質から分離することができる。
または、AKR1Cポリペプチドを細菌の周辺質から精製することも可能である。タンパク質が細菌の周辺質に輸出された時点で、細菌の周辺質画分を低温浸透圧ショック、さらには当技術分野で知られた他の方法によって単離することができる(Ausubelら、前記を参照)。周辺質から組換えタンパク質を単離するためには、細菌細胞に遠心処理を行ってペレット化する。このペレットを20%スクロースを含む緩衝液中に再懸濁する。細胞を可溶化するためには、細菌を遠心し、氷冷した5mM MgSO4中にペレットを再懸濁して、氷浴中に約10分間おく。この細胞浮遊液を遠心し、上清をデカントして回収する。上清中に存在する組換えタンパク質は、当業者に知られた標準的な分離法によって宿主タンパク質から分離することができる。
B.昆虫細胞からのタンパク質の精製
タンパク質を、例えばFernandezおよびHoeffler、「遺伝子発現系(Gene Expression Systems」(1999)に記載されたような真核生物遺伝子発現系から精製することもできる。いくつかの態様において、バキュロウイルス発現系は本発明のAKR1Cタンパク質またはその他のタンパク質を単離するために用いられる。組換えバキュロウイルスは一般に、バキュロウイルスのポリへドロンコード配列を、発現させようとする遺伝子(例えば、AKR1Cポリヌクレオチド)で置き換えることによって作製される。ポリへドロン遺伝子を欠くウイルスは特有のプラーク形態を有しているため、認識が容易である。いくつかの態様において、組換えバキュロウイルスは目的のポリヌクレオチドを、ポリヌクレオチドがポリへドロンプロモーターと機能的に結合するように、導入ベクター(例えば、pUCをベースとするベクター)中にまずクローニングすることによって作製される。導入ベクターを野生型DNAとともに昆虫細胞(例えば、Sf9細胞、Sf21細胞またはBT1-TN-5B1-4細胞)にトランスフェクトして、野生型ウイルスDNA中のポリへドロン遺伝子と目的のポリヌクレオチドとの相同組換えおよび置換を生じさせる。続いてウイルスを生じさせ、プラークを精製することができる。昆虫細胞のウイルス感染によってタンパク質発現が起こる。発現されたタンパク質は、分泌される場合には細胞上清から収集でき、細胞内にある場合には細胞可溶化物から収集できる。例えば、Ausubelら、およびFernandezおよびHoeffler、前記を参照されたい。
C.タンパク質を精製するための標準的なタンパク質分離法
1.溶解性による分別
しばしば最初の工程として、さらにタンパク質混合物が複合体である場合には、最初に塩分別を行うことにより、不要な宿主細胞タンパク質(または細胞培養液に由来するタンパク質)の多くを目的の組換えタンパク質から分離することができる。好ましい塩は硫酸アンモニウムである。硫酸アンモニウムは、タンパク質混合物中の水の量を効果的に減らすことによってタンパク質を沈殿させる。そこでタンパク質は溶解性の点から沈殿する。タンパク質の疎水性が高いほど、より低い硫酸アンモニウム濃度で沈殿する可能性が高い。典型的なプロトコールでは、タンパク質溶液に硫酸アンモニウム飽和溶液を添加し、その結果、硫酸アンモニウム濃度が20〜30%となるようにする。これによって最も疎水性の高いタンパク質が沈殿すると考えられる。次に沈殿物を廃棄し(目的のタンパク質が疎水性でない場合)、硫酸アンモニウムを上清に添加し、目的のタンパク質が沈殿することが知られた濃度にする。続いて、沈殿物を緩衝液に溶解し、必要であれば過剰な塩を透析または透析濾過によって除去する。低温エタノール沈殿法などの、タンパク質の溶解性に依拠するその他の方法も当業者に知られており、複合タンパク質混合物の分別に用いることができる。
2.サイズの差に基づく濾過
算出された分子量に基づき、種々の孔径の膜(例えば、Amicon社またはMillipore社の膜)を通過させる限外濾過を用いて、それよりもサイズが大きいまたは小さいタンパク質を単離することができる。第1の工程として、分子量カットオフ値が目的のタンパク質の分子量よりも低い孔径の膜を通してタンパク質混合物の限外濾過を行う。続いて、限外濾過後の保持物質に、分子量カットオフ値が目的のタンパク質の分子量よりも高い膜に対する限外濾過を行う。組換えタンパク質はこの膜を通過して濾液に入ると考えられる。続いて、以下に述べるように濾液のクロマトグラフィーを行うことができる。
3.カラムクロマトグラフィー
目的のタンパク質を、そのサイズ、正味の表面電荷、疎水性および異種分子に対する親和性に基づいて他のタンパク質から分離することもできる。さらに、タンパク質に対して産生された抗体をカラム基質に結合させて、タンパク質の免疫精製を行うこともできる。これらの方法はすべて当技術分野で周知である。
ヘマグルチニン(HA)、FLAG、Xpress、Myc、ヘキサヒスチジン(His)、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)などの種々の親和性タグに対して産生された抗体を用いるイムノアフィニティークロマトグラフィーを、ポリペプチドの精製に用いることができる。Hisタグはある種の金属(例えば、Ni)に対するキレート剤としても作用すると考えられ、このためこのような金属をHis含有ポリペプチドの精製に用いることもできる。精製の後に、選択的にはタグを特異的なタンパク質分解切断によって除去する。
クロマトグラフィー法を任意の規模で、しかもさまざまな製造者(例えば、Pharmacia Biotech)による装置を用いて行えることは、当業者には明らかであると考えられる。
IV.本発明のポリヌクレオチドの検出
当業者は、AKR1Cポリヌクレオチドの発現の検出には多くの用途があることを認識すると考えられる。例えば、本明細書で考察するように、患者におけるAKR1Cレベルの検出は、糖尿病を、または糖尿病の病的な影響の少なくともいくつかに対する素因を診断するために有用である。さらに、遺伝子発現の検出は、AKR1C発現の修飾物質を同定するのに有用である。
核酸ハイブリダイゼーション法を用いた特定のDNAおよびRNAのさまざまな測定方法が当業者に知られている(Sambrook、前記を参照)。いくつかの方法は電気泳動分離を用いるが(例えば、DNAの検出のためのサザンブロット法、およびRNAの検出のためのノーザンブロット法)、DNAおよびRNAの測定を電気泳動分離を用いずに行うこともできる(例えば、ドットブロットによる)。ゲノムDNA(例えば、ヒトからのもの)のサザンブロット法は、本発明のAKR1Cポリペプチドに影響を及ぼす遺伝的障害の存在を検出するための制限断片長多型(RFLP)に関するスクリーニングに用いることができる。
核酸ハイブリダイゼーションの形式の選択は特に重要ではない。さまざまな核酸ハイブリダイゼーション形式が当業者に知られている。例えば、一般的な形式にはサンドイッチアッセイおよび競合アッセイまたは置換(displacement)アッセイが含まれる。ハイブリダイゼーション法の概論は、HamesおよびHiggins、「核酸ハイブリダイゼーション、実践的アプローチ(Nucleic Acid Hybridization, A Practical Approach)」、IRL Press (1985);GallおよびPardue、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 63: 378-383 (1969);ならびにJohnら、Nature, 223: 582-587 (1969)に記載されている。
ハイブリダイゼーション複合体の検出には、シグナルを生成する複合体が、標的とプローブポリヌクレオチドまたは核酸との二重鎖と結合する必要があると思われる。一般に、この種の結合は、リガンド結合プローブとシグナルが結合したアンチリガンド(anti-ligand)との間のような、リガンドとアンチリガンドとの相互作用によって生じる。シグナル生成複合体の結合は、超音波エネルギーに対する曝露による促進にも容易に適用しうる。
標識により、ハイブリダイゼーション複合体の間接的な検出も可能となる。例えば、標識がハプテンまたは抗原である場合には、抗体を用いることによって試料を検出しうる。これらの系において、シグナルは、蛍光分子もしくは酵素分子が抗体と結合することにより、または場合によっては放射性標識との結合によって生成される(例えば、Tijssen, 「酵素イムノアッセイの実践および理論(Practice and Theory of Enzyme Immunoassays)」、「生化学および分子生物学における実験手法(Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology)」、Burdonおよびvan Knippenberg編、Elsevier (1985)、pp. 9-20を参照)。
プローブは一般に、同位体、発色団、発光団(lumiphore)、色素体の場合のように直接標識されるか、後にストレプトアビジン複合体が結合するビオチンの場合のように間接的に標識される。このため、本発明のアッセイに用いられる検出可能な標識は、一次標識(標識が直接検出可能な因子を含むか、直接検出可能な因子を生成する場合)でも二次標識(免疫学的標識において一般的なように、検出される標識が一次標識と結合する場合)でもよい。一般に、標識されたシグナル核酸がハイブリダイゼーションの検出に用いられる。相補的核酸またはシグナル核酸は、ハイブリダイズしたポリヌクレオチドの存在の検出に通常用いられるいくつかの方法の任意の1つによって標識しうる。最も一般的な検出方法は、3H、125I、35S、14Cまたは32Pで標識したプローブなどを用いるオートラジオグラフィーの使用である。
他の標識には、例えば、標識された抗体と結合するリガンド、蛍光団、化学発光物質、酵素、および、標識されたリガンドに対する特異的な結合対のメンバーとして作用する抗体が含まれる。標識、標識手順および標識の検出に関する手引きは、PolakおよびVan Noorden、「免疫細胞化学入門(Introduction to Immunocytochemistry)」第2版、Springer Verlag、NY (1997);ならびにMolecular Probes, Inc.によって刊行された総合的なハンドブックおよびカタログであるHaugland「蛍光プローブおよび研究用化学物質のハンドブック(Handbook of Fluoroscent Probes and Research Chemicals)」(1996)に記載されている。
一般には、検出用試薬の標識の検出には、特定のプローブまたはプローブの組み合わせを観測する検出器を用いる。典型的な検出器は、分光光度計、光電管および光ダイオード、顕微鏡、シンチレーションカウンター、カメラ、フィルムなど、さらにはそれらの組み合わせを含む。適した検出器の例は、当業者に知られたさまざまな販売元から広く入手可能である。一般的には、結合した標識部分(labeling moiety)を含む基質の光学画像を以後のコンピュータ解析のためにデジタル化する。
最も一般的には、例えばAKR1C RNAの量は、検出試薬の結合によって固体支持体に固定された標識の量を定量することによって測定される。一般に、インキュベーション中に修飾物質が存在することにより、固体支持体と結合した標識の量は、修飾物質を含まない対照インキュベーションと比べて、または個々の反応の種類に対して確立されたベースラインと比べて、増加または減少すると考えられる。標識の検出および定量のための手段は当業者に周知である。
いくつかの態様においては、標的核酸またはプローブを固体支持体に対して固定化する。本発明のアッセイに用いるのに適した固体支持体は当業者に周知である。本明細書で用いる場合、固体支持体とは、実質的に固定された配置にある材料のマトリックスのことである。
さまざまな自動化固相アッセイ法も適している。例えば、Affymetrix, Inc.(Santa Clara, CA)から入手しうる超大規模固定化ポリマーアレイ(VLSIPS(商標))すなわちジーンチップまたはマイクロアレイを、同一の調節経路に関与する複数の遺伝子の発現レベルの変化を同時に検出するために用いることができる。Tijssen、前記.、Fodorら (1991) Science, 251: 767-777;Sheldonら (1993) Clinical Chemistry 39(4) : 718-719およびKozalら (1996) Nature Medicine 2(7): 753-759を参照されたい。同様に、スポット式(spotted)cDNAアレイ(ナイロン、ガラスまたは別の固体支持体に結合したcDNA配列のアレイ)を、多数の遺伝子の発現の観測に用いることもできる。
通常、アレイの構成要素は、各構成要素が基板上の指定の位置に存在するような秩序立った様式で構成されている。アレイの構成要素は基板上の指定の位置にあるため、ハイブリダイゼーションのパターンおよび強度(この両者によって一意的な発現プロファイルが生じる)を特定の遺伝子の発現レベルに関して解釈ことができ、特定の疾患もしくは状態または治療と関連づけることができる。例えば、Schenaら、Science 270: 467-470 (1995)および(Lockhartら、Nature Biotech. 14: 1675-1680 (1996)を参照されたい。
ハイブリダイゼーション特異性は、特異性-対照ポリヌクレオチド配列と、試料に既知の量を添加した特異性-対照ポリヌクレオチドプローブのハイブリダイゼーションを比較することによって評価しうる。特異性-対照標的ポリヌクレオチドには、対応するポリヌクレオチド配列に比して1つまたは複数の配列ミスマッチがあってもよい。この方式により、相補的な標的ポリヌクレオチドのみがポリヌクレオチド配列とハイブリダイズするか、それともミスマッチのあるハイブリッド二重鎖が形成されるかが判定される。
ハイブリダイゼーション反応は、絶対的または示差的なハイブリダイゼーション形式で行うことができる。絶対的なハイブリダイゼーション形式では、1つの試料由来のポリヌクレオチドプローブをマイクロアレイ形式にある配列とハイブリダイズさせ、ハイブリダイゼーション複合体の形成後に検出された信号を試料中のポリヌクレオチドプローブのレベルと相関づける。示差的なハイブリダイゼーション形式では、2つの生物試料における遺伝子セットの発現の差異を分析する。示差的ハイブリダイゼーションのためには、両方の生物試料からポリヌクレオチドプローブを調製し、異なる標識部分(labeling moiety)を用いて標識する。2種類の標識ポリヌクレオチドプローブの混合物をマイクロアレイに添加する。続いてマイクロアレイを、2種類の異なる標識からの発光を個別に検出しうる条件下で検査する。両方の生物試料に由来する実質的に同数のポリヌクレオチドプローブとハイブリダイズさせたマイクロアレイ中の配列は、異なる複合蛍光を発する(Shalonら、PCT公報・国際公開公報第95/35505号)。いくつかの態様において、標識は識別可能な発光スペクトルを有する蛍光性標識、例えばCy3およびCy5蛍光団である。
ハイブリダイゼーション後に、ハイブリダイズしなかった核酸を除去するためにマイクロアレイを洗浄し、ハイブリダイズ可能なアレイ構成要素とポリヌクレオチドプローブとの複合体形成を検出する。複合体形成の検出のための方法は当業者に周知である。いくつかの態様においては、ポリヌクレオチドプローブを蛍光性標識で標識し、複合体形成を示す蛍光のレベルおよびパターンの測定は、共焦点蛍光顕微鏡などの蛍光顕微鏡によって行われる。
示差的ハイブリダイゼーション実験では、2種類またはそれ以上の異なる生物試料からのポリヌクレオチドプローブを、発光波長の異なる2種類またはそれ以上の異なる蛍光性標識によって標識する。蛍光シグナルは、特定の波長を検出するように設定した異なる光電子倍増管を用いて検出する。2つまたはそれ以上の試料におけるポリヌクレオチドプローブの相対量/発現レベルを求める。
通常、複数のマイクロアレイを同様の試験条件下で用いる場合には、ハイブリダイゼーション強度のばらつきを考慮に入れるためにマイクロアレイの蛍光強度を標準化することができる。いくつかの態様において、個々のポリヌクレオチドプローブ/標的複合体のハイブリダイゼーション強度は、各マイクロアレイ上に含まれる内部標準化対照から得られた強度を用いて標準化される。
核酸の検出は例えば、二重鎖核酸と特異的に結合する標識された検出用部分(例えば、RNA-DNA二重鎖に対して特異的な抗体)を用いても達成されうる。1つの例では、抗体が酵素と結合した、DNA-RNAヘテロ二重鎖を認識する抗体を用いる(通常、組換えまたは共有化学結合による)。抗体は、酵素がその基質と反応して検出可能な生成物が生じた場合に検出される。Coutleeら(1989) Analytical Biochemistry 181: 153-162;Bogulavski (1986)ら、J. Immunol. Methods 89: 123-130;Prooijen-Knegt (1982) Exp. Cell Res. 141:397-407;Rudkin (1976) Nature 265: 472-473、Stollar (1970) PNAS 65: 993-1000;Ballard (1982) Mol. Immunol. 19: 793-799;PisetskyおよびCaster (1982) Mol. Immunol. 19:645-650;Viscidiら(1988) J Clin. Microbial. 41: 199-209;ならびにKineyら(1989) J. Clin. Microbiol. 27: 6-12は、ホモ二重鎖およびヘテロ二重鎖を含むRNA二重鎖に対する抗体を記載している。DNA:RNAハイブリッドに対して特異的な抗体を含むキットは、例えば、Digene Diagnostics, Inc.(Beltsville, MD)から入手可能である。
入手可能な抗体に加えて、当業者は、核酸二重鎖に対して特異的な抗体を既存の技法を用いて容易に作製することができ、または商業的もしくは公的に入手可能な抗体を改変することもできる。以上に言及した技術に加えて、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を作製するための一般的な方法が当業者に知られている(例えば、Paul(編)、「基礎免疫学第3版(Fundamental Immunology, Third Edition)」Raven Press, Ltd., NY (1993);Coligan, 「免疫学における最新プロトコール(Current Protocols in Immunology)」、Wiley/Greene, NY (1991);HarlowおよびLane、「抗体:実験マニュアル(Antibodies: A Laboratory Manual)」Cold Spring Harbor Press, NY (1989);Stitesら(編)「基礎および臨床免疫学(Basic and Clinical Immunology)」(第4版)Lange Medical Publications, Los Altos, CAおよびそこに引用された参考文献;Goding、「モノクローナル抗体:原理および実践(Monoclonal Antibodies: Principles and Practice)」(第2版)Academic Press, New York, NY, (1986);ならびにKohlerおよびMilstein、Nature 256: 495-497 (1975)を参照されたい)。抗体調製のために適した他の技法には、ファージベクターまたは類似のベクターにおける組換え抗体ライブラリーの選択が含まれる(例えば、Huseら、Science 246: 1275-1281 (1989);およびWardら、Nature 341: 544-546 (1989)を参照)。特異的なモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体ならびに抗血清は、通常、少なくとも約0.1μMのKD、好ましくは少なくとも約0.01μMまたはそれ未満、最も一般的かつ好ましくは0.001μMまたはそれ未満のKDで結合すると考えられる。
本発明に用いられる核酸は、陽性プローブでも陰性プローブでもよい。陽性プローブはその標的と結合し、二重鎖形成の存在が標的の存在の証拠となる。陰性プローブは疑われる標的とは結合せず、二重鎖形成が存在しないことが標的の存在の証拠となる。例えば、野生型特異的な核酸プローブまたはPCRプライマーの使用は、目的のヌクレオチド配列のみが存在する場合、アッセイ試料における陰性プローブとして役立ちうる。
ハイブリダイゼーションアッセイの感度を、検出しようとする標的核酸を増加させる核酸増幅システムを用いることによって高めることもできる。このようなシステムの例には、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)システムおよびリガーゼ連鎖反応(LCR)システムが含まれる。当技術分野で最近報告されているその他の方法には、核酸配列に基づく増幅(NASBA, Cangene, Mississauga, Ontario)およびQ Betaレプリカーゼシステムがある。これらのシステムは、選択した配列が存在する場合にのみPCRプライマーまたはLCRプライマーが伸長または連結するように設計されている場合、変異体を直接同定するために用いうる。または、選択した配列を、例えば非特異的なPCRプライマーを用いて全体的に増幅し、増幅された標的領域をその後、変異の指標となる特定の配列に対して検索することもできる。Taqmanおよび分子ビーコンプローブを含む様々な検出プローブを用いて反応生成物の増幅を、例えばリアルタイムに、モニターできることが理解される。
本発明の核酸の発現レベルを決定するための代替的な手段の一つは、インサイチューハイブリダイゼーションである。インサイチューハイブリダイゼーションアッセイはよく知られており、Angererら、Methods Enzymol. 152: 649-660 (1987)に概論が記載されている。インサイチューハイブリダイゼーションアッセイでは、細胞、好ましくは小脳または海馬由来のヒト細胞を、固体支持体、一般的にはスライドグラスに対して固定する。DNAを検索しようとする場合には、細胞を熱またはアルカリによって変性させる。続いて細胞を、標識された特異的プローブのアニーリングを可能にする中程度の温度のハイブリダイゼーション溶液と接触させる。プローブは好ましくは放射性同位体または蛍光レポーターによって標識する。
一塩基多型(SNP)解析も、AKR1C遺伝子のアレル間の違いを検出するのに有用である。AKR1C2、AKR1C3およびAKR1C4はいずれも、塩基対番号5600000〜5900000(California University of California Santa Cruzのサイトにあるヒトゲノム配列(Golden Pathとも呼ばれる)のBLAT検索を用いて評価)として注釈づけがなされたヒト染色体10のある領域内に存在する。この領域の内部には、これまでに159種の既知のSNPが報告されている。AKR1Cと関連のあるSNPは、患者におけるAKR1C関連疾患(例えば、糖尿病、異常脂肪血症など)の診断に有用である。例えば、ある個体がAKR1C関連SNPの少なくとも1つのアレルを有していれば、その個体はその種の疾患の1つまたは複数に対する素因を持つ可能性が高い。個体が疾患関連AKR1C SNPに関してホモ接合性であれば、そのAKR1C関連疾患(例えば、糖尿病)に対する素因が特に強い。いくつかの態様において、AKR1C1関連疾患と関連のあるSNPは、AKR1Cをコードするポリヌクレオチドの300,000;200,000;100,000;75,000;50,000;または10,000塩基対の内部に位置する。
Taqmanまたは分子ビーコンを用いるアッセイ(例えば、米国特許第5,210,015号;第5,487,972号;Tyagiら、Nature Biotechnology 14: 303 (1996);およびPCT国際公開公報第95/13399号)などを含むさまざまなリアルタイムPCR法は、SNPの有無を観測するために有用である。そのほかのSNP検出法には、例えば、DNAシークエンシング、ハイブリダイゼーションによるシークエンシング、ドットブロット法、オリゴヌクレオチドアレイ(DNAチップ)ハイブリダイゼーション分析が含まれ、または例えば、米国特許第6,177,249号;Landegrenら、Genome Research, 8: 769-776 (1998);Botsteinら、Am J Human Genetics 32: 314-331 (1980);Meyersら、Methods in Enzymology 155: 501-527 (1987);Keenら、Trends in Genetics 7: 5 (1991);Myersら、Science 230: 1242-1246 (1985);およびKwokら、Genomics 23: 138144 (1994)に記載されている。
V.AKR1C、PGD2、または9α,11β-プロスタグランジンF2αの免疫学的検出
核酸ハイブリダイゼーション技術を用いたAKR1C遺伝子および遺伝子発現の検出のほかに、イムノアッセイを用いてAKR1Cポリペプチド、9α,11β-プロスタグランジンF2αなどのAKR1C活性の基質/生成物、それらの化学的誘導体、ならびにプロスタグランジンD2(「PGD2」)、またはそれらの化学的誘導体を検出することも可能である。イムノアッセイを用いて、AKR1Cまたは9α,11β-プロスタグランジンF2α、またはPGD2を定性的または定量的に分析することができる。適用可能な技術に関する一般的な概要は、HarlowおよびLane、「抗体:実験マニュアル(Antibodies: A Laboratory Manual)」(1988)に記載がある。
A.標的タンパク質または他の免疫原に対する抗体
目的のタンパク質または他の免疫原と特異的に反応するポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の作製のための方法は当業者に知られている(例えば、Coligan、前記;HarlowおよびLane、前記;Stitesら、前記およびそれに引用された参考文献;Goding、前記;ならびにKohlerおよびMilstein、Nature, 256: 495-497 (1975)を参照されたい)。このような技法には、ファージベクターまたは類似のベクターにおける組換え抗体のライブラリーからの抗体の選択による抗体の調製が含まれる(例えば、Huseら、前記;およびWardら、前記を参照のこと)。例えば、イムノアッセイに用いるための抗血清を作製するためには、本明細書の記載のように、目的のタンパク質またはその抗原性断片を単離する。例えば、組換えタンパク質を形質転換細胞系において産生させる。マウスまたはウサギの近交系に対して、フロイントアジュバントなどの標準的アジュバントおよび標準的な免疫処置プロトコールを用いてタンパク質の免疫処置を行う。または、本明細書に開示されたAKR1C配列、または9α,11β-プロスタグランジンF2αもしくはPGD2などのプロスタグランジンに由来する合成ペプチドを担体タンパク質と結合させ免疫原として用いることもできる。
PGD2を検出するための方法の一つは、安定なプロスタグランジンD2誘導体(11-メトキシム-プロスタグランジンD2)を生成させるために試料を塩酸メトキシルアミンで処理ことである。11-メトキシム-プロスタグランジンD2の検出に有用な抗体およびELISAキットはImmuno-biological Laboratories社(Hamburg, Germany)から入手可能である。同様に、9α,11β-PGF2αの化学誘導体を形成させて誘導体を定量することもできる。または、9α,11β-PGF2αの検出に有用な市販の抗体およびELISAキットを、例えば、Cayman Chemical社(Ann Arbor, MI)から入手することもできる。
ポリクローナル血清を収集し、イムノアッセイ、例えば、固体支持体上に固定した免疫原を用いる固相イムノアッセイにおいて、免疫原に対する力価測定を行う。力価が104またはそれ以上であるポリクローナル抗血清を選択し、競合結合イムノアッセイを用いて、非AKR1Cタンパク質、または場合によっては他の相同タンパク質との交差反応性を調べる。9α,11β-PGF2αに対する抗血清については、非9α,11β-PGF2α化合物に対する交差反応性を測定する。特異的なポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体は通常、少なくとも約0.1mMのKD、より一般的には少なくとも約1μM、好ましくは少なくとも約0.1μMまたはそれ未満、最も好ましくは0.01μMまたはそれ未満のKDで結合すると考えられる。
免疫原を含むさまざまなタンパク質を、目的のタンパク質と特異的または選択的に反応する抗体の作製に用いることができる。組換えタンパク質は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体の作製のために好ましい免疫原である。天然のタンパク質を純粋または不純な状態で用いてもよい。本明細書に記載したタンパク質配列を用いて作製した合成ペプチドを、そのタンパク質に対する抗体の作製のための免疫原として用いることもできる。組換えタンパク質を真核細胞または原核細胞において発現させ、上に一般的に述べた通りに精製することができる。続いて、抗体を産生しうる動物の体内にその生成物を注入する。タンパク質を測定するためのイムノアッセイに後で用いるために、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体のいずれを作製してもよい。
ポリクローナル抗体の作製方法は当業者に周知である。簡潔に述べると、免疫原、好ましくは精製タンパク質をアジュバントと混合した上で、動物に免疫処置を行う。検査採血を行い、目的のAKR1Cまたは9α,11β-PGF2αもしくはPGD2に対する反応性の力価を測定することにより、免疫原調製物に対する動物の免疫応答を観測する。免疫原に対して適切な高い力価を持つ抗体が得られた時点で、動物から血液を採取し、抗血清を調製する。必要に応じて、タンパク質に反応する抗体を濃縮するために抗血清をさらに分画することもできる(HarlowおよびLane、前記を参照)。
モノクローナル抗体は、当業者によく知られた種々の技法によって入手しうる。通常は、望ましい抗原による免疫処置を受けた動物から得た脾細胞を、一般的には骨髄腫細胞との融合によって不死化させる(KohlerおよびMilstein、Eur. J. Immunol. 6: 511-519 (1976)を参照)。代替的な不死化の方法には、エプスタイン-バーウイルス、癌遺伝子もしくはレトロウイルスによる形質転換、または当技術分野で周知の他の方法が含まれる。単一の不死化細胞から生じたクローンを抗原に対する望ましい特異性および親和性に関してスクリーニングし、このような細胞によって産生されるモノクローナル抗体の収量を、脊椎動物宿主の腹腔内への注射を含む種々の技法によって高めることもできる。または、Huseら、Science 246: 1275-1281 (1989)に概要が示された一般的なプロトコールに従ってヒトB細胞由来のDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、モノクローナル抗体またはその結合性断片をコードするDNA配列を単離することもできる。
標的免疫原に特異的な抗体がひとたび得られれば、臨床医が利用しうる定性的および定量的な結果が得られる種々のイムノアッセイ法によってその免疫原を測定することができる。免疫学的手順およびイムノアッセイ手順の概説については、Stites、前記を参照されたい。さらに、本発明のイムノアッセイを、Maggio, 「エンザイムイムノアッセイ(Enzyme Immunoassay)」、CRC Press, Boca Raton, Florida (1980);Tijssen、前記;ならびにHarlowおよびLane、前記に詳細に概説がなされた複数の方式のうち任意の形式で行うこともできる。
ヒト試料中の標的タンパク質を測定するためのイムノアッセイに、本明細書に記載の配列(例えば、AKR1C1、AKR1C2、AKR1C3、またはAKR1C4)によって少なくとも一部がコードされるタンパク質(例えば、例えば、配列番号:2、配列番号:7および配列番号:9〜14)またはその断片に対して産生されたポリクローナル抗血清を用いてもよい。この抗血清は非AKR1Cタンパク質に対する交差反応性が低くなるように選択し、イムノアッセイに用いる前にこの種の交差反応性を免疫吸着によって除去する。または、試料中の複数のまたはすべてのAKR1Cタンパク質さえ認識する抗体を用いて、例えば試料中のAKR1Cタンパク質の全体的なレベルを決定することができる。
B.免疫学的結合アッセイ法
いくつかの態様において、目的のタンパク質は、よく知られたさまざまな免疫学的結合アッセイのうち任意のものを用いて検出および/または定量化される(例えば、米国特許第4,366,241号;第4,376,110号;第4,517,288号;および第4,837,168号を参照)。一般的なイムノアッセイの概説については、Asai,「細胞生物学における方法第37巻:細胞生物学における抗体(Methods in Cell Biology Volume 37: Antibodies in Cell Biology)」、Academic Press, Inc. NY (1993);Stites、前記を参照されたい。免疫学的結合アッセイ(またはイムノアッセイ)には一般に、分析物(この場合には、本発明のAKR1C、またはその抗原性部分配列、またはPGD2もしくは9α,11β-PGF2αなどの他の免疫原)と特異的に結合し、しばしばそれを固定化する「捕捉剤(capture agent)」が用いられる。捕捉剤は分析物と特異的に結合する部分(moiety)である。好ましい態様において、捕捉剤は、例えば、本発明のAKR1CポリペプチドまたはPGD2もしくは9α,11β-PGF2αなどの他の免疫原と特異的に結合する抗体である。抗体(例えば、抗AKR1C抗体)を、当業者に周知の数多くの手段および上記の手段のうち任意のものを用いて作製してもよい。
イムノアッセイには、捕捉剤および分析物によって形成された複合体と特異的に結合し、それを標識する標識剤(labeling agent)もしばしば用いられる。標識剤はそれ自体が抗体/抗原複合体を含む部分の1つであってもよい。または、標識剤が、抗体/タンパク質複合体と特異的に結合する、別の抗体などの第3の部分であってもよい。
好ましい態様において、標識剤は、標識を有する第2の抗体である。または、第2の抗体は標識を有しておらず、その代わりに、第2の抗体の由来となった種の抗体に対して特異的な標識された第3の抗体が結合していてもよい。第2の抗体は、酵素標識ストレプトアビジンなどの第3の標識分子が特異的に結合しうる、ビオチンなどの標識可能な部分によって修飾することができる。
免疫グロブリン定常領域と特異的に結合しうるプロテインAまたはプロテインGなどの他のタンパク質を標識剤としても用いてもよい。これらのタンパク質は、連鎖球菌の細胞壁の通常の構成要素である。それらは、さまざまな種に由来する免疫グロブリン定常領域に対して強い非免疫原性反応性を示す(例えば、概論については、Kronvalら、J. Immunol. 111: 1401-1406 (1973);およびAkerstromら、J. Immunol. 135: 2589-2542 (1985)を参照)。
アッセイ全体を通じて、試薬の各々の組み合わせを用いた後には、インキュベーションおよび/または洗浄の工程が必要と思われる。インキュベーションの工程は、約5秒から数時間、好ましくは約5分から約24時間の範囲でさまざまでありうる。インキュベーション時間は、アッセイ形式、分析物、溶液の容積、濃度などに依存すると考えられる。通常、アッセイは室温で行うが、10℃〜40℃といった一定範囲の温度で行うこともできる。
1.非競合アッセイ形式
組織試料から目的のタンパク質または分析物を検出するためのイムノアッセイは競合的でも非競合的でもよい。非競合イムノアッセイは、捕捉されたタンパク質または分析物の量を直接測定するアッセイである。例えば、1つの好ましい「サンドイッチ」アッセイでは、捕捉剤(例えば、9α,11β-PGF2α抗体またはAKR1C抗体)を、それを固定化するための固体基質に対して直接結合させることができる。続いて、これらの固定化された抗体は、被験試料中に存在する9α,11β-PGF2αまたはAKR1Cを捕捉する。このようにして固定化された9α,11β-PGF2αまたはAKR1Cに対して、次に、標識を有する第2の抗AKR1C抗体などの標識剤を結合させる。または、第2の抗体には標識がなく、その代わりに、第2の抗体の由来となった種の抗体に対して特異的な第3の抗体をそれと結合させてもよい。第2の抗体は、酵素標識ストレプトアビジンなどの第3の標識分子が特異的に結合しうる、ビオチンなどの標識可能な部分によって修飾することができる。
2.競合アッセイ形式
競合アッセイでは、試料中に存在するタンパク質または分析物によって特異的な捕捉剤(例えば9α,11β-PGF2αまたはAKR1Cに対して産生された抗体)から解離した(または競合に敗れた)、添加した(外因性の)タンパク質または分析物(例えば、目的の9α,11β-PGF2αまたはAKR1C)の量を測定することにより、試料中に存在するタンパク質または分析物の量を間接的に測定する。抗体と結合した免疫原の量は、試料中に存在する免疫原の濃度と反比例する。特定の好ましい態様では、抗体を固体基質上に固定化する。標識した分析物分子を提供することにより、分析物の量を検出することもできる。標識には、例えば放射性標識、ならびにペプチド、または抗体などの検出試薬によって認識できる他の標識が含まれることが理解される。
競合結合形式のイムノアッセイを、交差反応性の決定に用いることもできる。例えば、本明細書に提供する配列によってコードされるタンパク質を、固体支持体上に固定化することができる。固定化された抗原に対する抗血清の結合と競合するタンパク質をアッセイ系に添加する。上記のタンパク質が、固定化されたタンパク質に対する抗血清の結合と競合する能力を、本明細書に提供するいずれかの配列によってコードされるタンパク質のものと比較する。上記のタンパク質に関する交差反応性の比率を、標準的な計算を用いて算出する。上に挙げた添加したタンパク質のそれぞれとの交差反応性が10%未満であるような抗血清を選択してプールする。交差反応性のある抗体は、選択的には、例えば近縁性の低いホモログといった考慮されたタンパク質による免疫吸着により、プールした抗血清から除去される。
免疫吸着がなされてプールされた抗血清は次に、おそらく本発明のタンパク質であると考えられる第2のタンパク質を、免疫原タンパク質と比較するために、上記の競合結合イムノアッセイに用いられる。この比較を行うためには、この2つのタンパク質を広範囲の濃度にわたって互いにアッセイし、抗血清と固定されたタンパク質との結合の50%を抑制するのに必要な各タンパク質の量を決定する。必要な第2のタンパク質の量が、必要な本明細書の蛋白質によって部分的にコードされるタンパク質の量の10分の1未満であれば、第2のタンパク質は標的タンパク質からなる免疫原に対して産生された抗体と特異的に結合するといわれる。
3.その他のアッセイ形式
特定の好ましい態様においては、ウエスタンブロット(イムノブロット)分析が、試料中の本発明のAKR1Cの存在を検出および定量化するために用いられる。この技法は一般に、試料のタンパク質を分子量に基づいてゲル電気泳動によって分離し、分離されたタンパク質を適した固体支持体(ニトロセルロースフィルター、ナイロンフィルターまたは誘導体化ナイロンフィルターなど)に移行させた上で、目的のタンパク質と特異的に結合する抗体とともに試料をインキュベートすることを含む。例えば、抗AKR1C抗体は、固体支持体上のAKR1Cと特異的に結合する。これらの抗体を直接標識してもよく、または、目的のタンパク質と特異的に結合する標識抗体(例えば、標識したヒツジ抗マウス抗体)を用いて後に検出してもよい。
その他のアッセイ形式には、特定の分子(例えば、抗体)と結合し、封入された試薬またはマーカーを放出するように設計されたリポソームを用いるリポソームイムノアッセイ(LIA)が含まれる。続いて、放出された化学物質を標準的な技法に従って検出する(Monroeら、Amer. Clin. Prod. Rev. 5: 34-41 (1986)を参照)。
4.標識
アッセイに用いる個々の標識または検出可能基は、アッセイに用いる抗体の特異的結合に大きな妨げとならない限り、本発明の特に重要な面ではない。検出可能基は、検出可能な物理的または化学的特性を有する任意の物質でありうる。このような検出可能な標識はイムノアッセイの分野では十分に開発されており、通常、このような方法に有用なほとんどすべての標識を本発明に適用することができる。すなわち、標識は、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、電子的、工学的または化学的な手段によって検出可能な任意の組成物である。本発明において有用な標識には、磁気ビーズ(例えば、Dynabeads(商標))、蛍光色素(例えば、フルオレセイン、イソチオシアネート、テキサスレッド、ローダミンなど)、放射性標識(例えば、3H、125I、35S、14Cまたは32P)、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、およびELISAに一般に用いられる他のもの)、およびコロイド金または着色ガラスまたはプラスチックビーズ(例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ラテックスなど)などの比色定量用標識が含まれる。
標識を、当技術分野で周知の方法に従って、アッセイの望ましい構成要素に直接的または間接的に結合させてもよい。以上に示した通り、非常にさまざまな標識を用いることができ、標識の選択は必要な感度、化合物との結合の容易さ、安定性の必要条件、用いうる装置、および廃棄への対応に依存する。
非放射性標識はしばしば間接的な手段によって結合させる。酵素または蛍光団との結合などにより、分子をシグナル生成化合物と直接結合させることもできる。種々の酵素および蛍光化合物を本発明の方法に用いることができ、これらは当業者に周知である(用いうるさまざまな標識システムまたはシグナル生成システムの概説については、例えば、米国特許第4,391,904号を参照されたい)。
標識の検出手段は当業者に周知である。すなわち、例えば、標識が放射性標識であれば、検出のための手段には、シンチレーションカウンターまたはオートラジオグラフィーの場合の写真フィルムが含まれる。標識が蛍光標識であれば、適切な波長の光で蛍光色素を励起させ、その結果生じた蛍光を検出することによってそれを検出しうる。蛍光は、肉眼的に、写真フィルムにより、電荷結合素子(CCD)または光電子増倍管などの電子検出装置の使用によって検出しうる。同様に、酵素標識は、酵素に対する適切な基質を提供し、その結果得られた反応生成物を検出することにより検出することができる。さらに、単純な比色定量標識は、標識に伴う色を単に観察することによって検出しうる。すなわち、種々の試験紙アッセイにおいて、結合した金はしばしば薄赤色に見え、一方、種々の結合ビーズはビーズの色に見える。
いくつかのアッセイ形式には、標識成分を用いる必要がない。例えば、凝集アッセイを用いて標識抗体の存在を検出することができる。この場合には、標的抗体を含む試料により、抗原をコーティングした粒子を凝集させる。この形式では、どの成分も標識する必要はなく、単純な肉眼検査によって標的抗体の存在が検出される。
VI.AKR1Cの修飾物質の同定
AKR1Cの修飾物質、すなわちAKR1C活性またはAKR1Cポリペプチドもしくはポリヌクレオチドの発現に対するアゴニストまたはアンタゴニストは、糖尿病を含むさまざまなヒト疾患の治療に有用である。AKR1C阻害物質の投与を、糖尿病の患者またはインスリン抵抗性のある個体の治療に用いることができる。または、AKR1Cの活性化物質を、PGD2の合成を賦活することにより、糖尿病の患者またはインスリン抵抗性のある個体の治療に用いることもできる。
A.AKR1Cを修飾する作用物質
AKR1Cの修飾物質として試験を行う作用物質は、ポリペプチド、糖、核酸または脂質などの任意の低分子化合物または生物的実体でよい。一般に、被験化合物は低分子化合物およびペプチドであると考えられる。本質的にあらゆる化合物を、本発明のアッセイにおける修飾物質またはリガンドの候補として用いることができるが、水性溶液または有機溶液(特にDMSOをベースとするもの)中に溶解しうる化合物を用いることが最も多い。アッセイは、アッセイの工程を自動化し、任意の好都合な源から化合物をアッセイに提供し、一般にはそれを平行して稼働させることにより(例えば、自動化アッセイでのマイクロタイタープレート上でのマイクロタイター形式による)、大規模化学ライブラリーをスクリーニングするように設計する。修飾物質には、AKR1C mRNAのレベルを低下させるように設計された作用物質(例えば、アンチセンス分子、リボザイム、DNAザイム(DNAzyme)、短い二本鎖RNA(small inhibitory RNA)など)またはmRNAからの翻訳のレベルを低下させるように設計された作用物質(例えば、mRNA分子上の翻訳開始配列または他の配列に対して相補的なアンチセンス分子などの翻訳遮断物質)も含まれる。化合物の供給元が、Sigma社(St. Louis, MO)、Aldrich社(St. Louis, MO)、Sigma-Aldrich社(St. Louis, MO)、Fluka Chemika-Biochemica Analytika社(Buchs, Switzerland)などを含め、数多くあることは知られているであろう。
いくつかの態様において、ハイスループットスクリーニング方法は、数多くの治療的化合物の候補(修飾性化合物の候補)を含むコンビナトリアル化学ライブラリーまたはペプチドリガンドライブラリーを提供することを含む。続いて、このような「コンビナトリアル化学ライブラリー」または「リガンドライブラリー」を、望ましい特徴的な活性を示すライブラリーのメンバー(特定の化学種またはサブクラス)を同定するために、本明細書に記載するような1つまたは複数のアッセイにおいてスクリーニングする。このようにして同定された化合物は、通常の「リード化合物」として役立ち、またはそれ自体を治療薬の候補もしくは実際の治療薬として用いることができる。
コンビナトリアル化学ライブラリーは、試薬などの化学的「構成単位(building block)」を数多く組み合わせることにより、化学合成または生物的合成によって生成された多様な化合物からなる集成物である。例えば、ポリペプチドライブラリーなどの直鎖状コンビナトリアル化学ライブラリーは、一群の構成化学単位(アミノ酸)を所定の化合物の長さ(すなわち、ポリペプチド化合物におけるアミノ酸の数)に関して考えられるすべてのやり方で組み合わせることによって生成される。構成化学単位のこのようなコンビナトリアル混合により、何百万もの化合物を合成することができる。
コンビナトリアル化学ライブラリーの調製およびスクリーニングは当業者に周知である。このようなコンビナトリアル化学ライブラリーには、ペプチドライブラリー(例えば、米国特許第5,010,175号、Furka, Int. J. Pept. Prot. Res. 37: 487-493 (1991)およびHoughtonら、Nature 354: 84-88 (1991)を参照)が非制限的に含まれる。多様な化学物質ライブラリーを作製するためにその他の化学物質を用いることもできる。このような化学物質には、ぺプトイド(例えば、PCT公報・国際公開公報第91/19735号)、コード化ペプチド(例えば、PCT公報・国際公開公報第93/20242号)、ランダムバイオオリゴマー(例えば、PCT公報・国際公開公報第92/00091号)、ベンゾジアゼピン(例えば、米国特許第5,288,514号)、ヒダントイン、ベンゾジアゼピンおよびジペプチドなどのディベルソマー(diversomer)(Hobbsら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6909-6913 (1993))、ビニル性ポリペプチド(Hagiharaら、J. Amer. Chem. Soc. 114: 6568 (1992))、グルコーススカフォールディングを有する非ペプチド性ペプチド模倣物(Hirschmannら、J. Amer. Chem. Soc. 114: 9217-9218 (1992))、低分子化合物ライブラリーの類似の有機合成(Chenら、J. Amer. Chem. Soc. 116: 2661 (1994))、オリゴカルバメート(Choら、Science 261: 1303 (1993))、および/またはペプチジルホスホネート(Campbellら、J. Org. Chem. 59: 658 (1994))、核酸ライブラリー(Ausubel、BergerおよびSambrook、いずれも前記、を参照)、ペプチド核酸ライブラリー(例えば、米国特許第5,539,083号を参照)、抗体ライブラリー(例えば、Vaughnら、Nature Biotechnology, 14(3): 309-314 (1996)およびPCT/US96/10287号を参照)、炭水化物ライブラリー(例えば、Liangら、Science, 274: 1520-1522 (1996)および米国特許第5,593,853号を参照)、有機低分子ライブラリー(例えば、ベンゾジアゼピン、Baum C&EN, Jan 18, p.33(1993);イソプレノイド、米国特許第5,569,588号;チアゾリジノンおよびメタチアザノン、米国特許第5,549,974号;ピロリジン、米国特許第5,525,735号および第5,519,134号;モルホリノ化合物、米国特許第5,506,337号;ベンゾジアゼピン、米国特許第5,288,514号などを参照)が非制限的に含まれる。
コンビナトリアルライブラリーの調製用の装置は市販されている(例えば、357 MPS, 390 MPS, Advanced Chem Tech, Louisville KY, Symphony, Rainin, Wobum, MA, 433A Applied Biosystems, Foster City, CA, 9050 Plus, Millipore, Bedford, MAを参照)。加えて、数多くのコンビナトリアルライブラリーがそれ自体、市販されている(例えば、ComGenex, Princeton, N.J., Tripos, Inc., St. Louis, MO, 3D Pharmaceuticals, Exton, PA, Martek Biosciences, Columbia, MIDなど)。
B.AKR1Cの修飾物質に関するスクリーニングの方法
細胞における、特に哺乳動物細胞、とりわけヒト細胞におけるAKR1Cの発現または活性のレベルを変化させる作用物質を同定するために、数多くの種類のスクリーニングプロトコールを利用することができる。一般的には、スクリーニング方法は、AKR1Cポリペプチドと結合すること、阻害物質もしくは活性化物質とAKR1Cとの結合を妨げること、阻害物質もしくは活性化物質とAKR1Cとの会合を増加させること、またはAKR1Cの発現を活性化もしくは阻害することなどによってAKR1Cの活性を変化させる作用物質を同定するために、複数の作用物質をスクリーニングすることを含む。いくつかの態様において、作用物質はAKR1C1、AKR1C2、AKR1C3またはAKR1C4のうち1つ、2つまたは3つの活性または発現のみを変化させる。いくつかの態様においては、すべてのAKR1Cポリペプチドが作用物質によって変化させられる。
1.AKR1C結合アッセイ
AKR1Cと結合しうる作用物質をスクリーニングすることにより、そのようにして同定された作用物質の少なくともいくつかはAKR1C修飾物質である可能性が高いことから、予備的なスクリーニングを行うことができる。結合アッセイは、例えば、AKR1Cと相互作用する内因性タンパク質を同定する目的にも有用である。例えば、AKR1Cと結合する抗体、受容体またはその他の分子を、結合アッセイにおいて同定することができる。
結合アッセイは通常、AKR1Cタンパク質を1つまたは複数の被験作用物質と接触させ、タンパク質および被験作用物質が結合複合体を形成するのに十分な時間をおくことを含む。形成された結合複合体は、確立されたさまざまな分析技法の任意のものを用いて検出することができる。タンパク質結合アッセイには、共沈、非変性SDS-ポリアクリルアミドゲル上での共移動、ウエスタンブロット上での共移動を測定する方法(例えば、Bennet, J.P.およびYamamura, H.I. (1985)「神経伝達物質、ホルモンまたは薬物受容体の結合方法(Neurotransmitter、Hormone or Drug Receptor Binding Methods)」、「神経伝達物質受容体の結合(Neurotransmitter Receptor Binding」(Yamamura, H. I.ら編)中、pp. 61-89を参照)が非制限的に含まれる。他の結合アッセイには、AKR1Cと結合した分子または標識基質の置換を同定するための質量分析法またはNMR法の使用が含まれる。この種のアッセイに用いるAKR1Cタンパク質は、自然下で発現されるAKR1Cでもクローニングされたものでも合成されたものでもよい。
さらに、酵母ツーハイブリッド法(例えば、Bartel, P. L.ら、Methods in Enzymol, 254: 241 (1995)を参照)を、細胞内でともに発現された場合に相互作用または結合を行うポリペプチドまたはその他の分子を同定するために用いることもできる。
2.発現アッセイ
AKR1Cの発現を変化させる化合物に関するスクリーニングも提供される。これらのスクリーニング方法は一般に、被験化合物をAKR1Cを発現する1つまたは複数の細胞と接触させた後に、AKR1C発現(転写物、翻訳産物または触媒生成物(例えば、9α,11β-PGF2α)または基質(例えば、プロスタグランジンD2またはNADPH)の増加または減少を検出する細胞系アッセイを行うことを含む。アッセイは、内因性AKR1Cを発現する末梢細胞または他の細胞を用いて行うことができる。
AKR1Cの発現はさまざまなやり方で検出することができる。本明細書で述べるように、細胞内でのAKR1Cの発現レベルは、AKR1Cの転写物(またはそれに由来する相補的核酸)と特異的にハイブリダイズするプローブを用いて、細胞内で発現されるmRNAを検索することによって決定しうる。プローブ検索は、細胞を可溶化してノーザンブロット法を行うことによって、または細胞を可溶化せずにインサイチューハイブリダイゼーション法を用いることによって実施しうる。または、AKR1Cと特異的に結合する抗体を用いて細胞可溶化物を検索する免疫学的な方法を用いてAKR1Cタンパク質を検出することもできる。
または、細胞または他の試料におけるAKR1C酵素活性のレベルを決定し、ベースライン値(例えば、対照値)と比較する。活性は試料からの粗抽出物または部分的もしくは本質的に精製されたAKR1Cに基づいて測定することができる。AKR1C活性の測定は例えば、Oharaら、Biochimicia et Biophysica Acta 1215: 59-65 (1994)に記載されている。他の態様においては、AKR1Cの基質(例えば、プロスタグランジンD2またはNADPH)または生成物(例えば、9α,11β-PGF2α)の量またはレベルを決定し、ベースライン(対照)値と比較する。
別の細胞系アッセイには、標準的なレポーター遺伝子アッセイを用いて細胞で行うレポーターアッセイが含まれる。これらのアッセイは、AKR1Cを発現する細胞、または発現しない細胞で行うことができる。これらのアッセイのいくつかは、検出可能な産物をコードするレポーター遺伝子と機能的に結合したAKR1Cプロモーターを含む異種核酸構築物を用いて行われる。さまざまなレポーター遺伝子を利用しうる。レポーターには内在性に検出可能なものもある。この種のレポーターの一例は、蛍光検出器を用いて検出しうる蛍光を発する緑色蛍光タンパク質である。検出可能な生成物を生じるレポーターもある。この種のレポーターはしばしば酵素である。酵素レポーターの例には、β-グルクロニダーゼ、CAT(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ;AltonおよびVapnek (1979) Nature 282: 864-869)、ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼおよびアルカリホスファターゼ(Tohら (1980) Eur. J. Biochem. 182: 231-238;およびHallら (1983) J. Mol. Appl. Gen. 2: 101)が非制限的に含まれる。
これらのアッセイでは、レポーター構築物を有する細胞を被験化合物と接触させる。プロモーター発現の変化は、検出可能なレポーターのレベルを検出することによって観測される。さまざまな種類のAKR1C修飾物質をこのアッセイで同定することができる。例えば、プロモーターをそれとの結合によって阻害する、転写因子もしくは他の調節因子との結合によってプロモーターを阻害する、そのプロモーターと結合する、またはプロモーターを阻害する分子を生成するカスケードを誘発する被験化合物を同定することができる。同様に、例えば、プロモーターをそれとの結合によって活性化する、転写因子もしくは他の調節因子との結合によってプロモーターを活性化するする、そのプロモーターと結合する、またはプロモーターを活性化する分子を生成するカスケードを誘発する被験化合物を同定することもできる。
発現または活性のレベルはベースライン値との比較が可能である。ベースライン値は、対照試料に関する値、または対照集団(例えば、2型糖尿病でなくそのリスクもない健常個体)もしくは細胞(例えば、AKR1C修飾物質に曝露されていない組織培養細胞)に関するAKR1C発現レベルを代表する統計値であってよい。陰性対照として、AKR1Cを発現しない細胞に関する発現レベルを決定することもできる。この種の細胞は一般に、他の点では実質的に被験細胞と遺伝的に同一である。
レポーターアッセイにはさまざまな異なる種類の細胞を用いうる。内因性AKR1Cを発現する細胞には、脂肪細胞および筋細胞などの末梢組織由来の細胞が含まれる。AKR1Cを発現しない細胞は原核細胞でもありうるが、好ましくは真核細胞である。真核細胞は、組換え核酸構築物を有する細胞の作製に通常用いられる細胞のうち任意のものでよい。例となる真核細胞には、酵母、ならびにHepG2、COS、CHOおよびHeLa細胞株などの種々の高等真核細胞が含まれる。
観測された活性に信頼性があることを確認するために、レポーター構築物を含まない細胞を用いた同時並行反応を行うこと、またはレポーター構築物を有する細胞を被験化合物と接触させないことを含め、さまざまな対照をおくことができる。化合物を以下のようにさらにバリデートすることもできる。
3.触媒活性
AKR1Cポリペプチドの触媒活性は、生成物(例えば、9α,11β-PGF2α)の生成を測定することにより、基質(例えば、プロスタグランジンD2またはNADPH)の消費を測定することにより、決定することができる。活性とは、触媒作用の速度、またはポリペプチドが基質と結合する能力(Km)もしくは触媒生成物を放出する能力(Kd)のことを指す。
AKR1Cポリペプチド酵素活性の分析は、一般的な生化学的手順に従って行われる。この種のアッセイには、細胞系アッセイのほか、精製または部分精製されたAKR1Cポリペプチドまたは粗細胞可溶化物を用いるインビトロアッセイが含まれる。これらのアッセイは一般に、既知の量の基質(例えば、プロスタグランジンD2およびNADPH)を用意すること、および生成物(例えば、9α,11-PGF2α)を時間の関数として定量することを含む。試料中の9α,11β-PGF2αレベルを検出するためのELISAキットは、Cayman Chemical社(Ann Arbor, MI)から入手可能である。精製AKR1Cの触媒活性を、340nmでのNADPH吸光度の低下を観測することによって測定することもできる。H. Oharaら、Biochirnica et Biophysica Acta 1215: 59-65 (1994)を参照のこと。AKR1Cの活性を、PGD2レベルの低下を測定することによって観測することもできる。AKR1Cポリペプチドおよびその活性に関する生化学的分析は以前に記載されている。例えば、Penningら、Biochem. J. 351: 67-77 (2000)を参照されたい。
4.バリデーション
前記のいずれかのスクリーニング方法によってまず同定された作用物質を、明らかな活性のバリデーションを行うためにさらに試験することができる。このような試験は、適した動物モデルを用いて行うことが好ましい。この種の方法の基本形式は、初期スクリーニングの際に同定されたリード化合物を、ヒトのモデルとして役立つ動物に投与し、その後に、AKR1Cが実際に修飾作用を受けるか否かを判定することを含む。バリデーション試験に用いられる動物モデルは一般に、何らかの種類の哺乳動物である。適した動物の具体的な例には、霊長動物、マウスおよびラットが非制限的に含まれる。例えば、糖尿病の一遺伝子モデル(例えば、ob/obマウスおよびdb/dbマウス、ツッカーラット、ならびにツッカー糖尿病肥満ラットなど)または糖尿病の多遺伝子モデル(例えば、高脂肪食摂取マウスモデル)は、糖尿病動物におけるAKR1Cの修飾をバリデートするために有用でありうる。
C.固相および溶質のハイスループットアッセイ法
本発明のハイスループットアッセイ法では、最大で数千種もの異なる修飾物質またはリガンドを1日でスクリーニングすることが可能である。詳細には、マイクロタイタープレートの各ウェルを、選択した修飾物質の候補に対して別々のアッセイを実行するために用い、または、濃度もしくはインキュベーション時間の影響を観察しようとする場合には、単一の修飾物質を試験するためにウェルを5〜10個ずつ用いることができる。このため、1枚の標準的なマイクロタイタープレートで、約100種(例えば、96種)の修飾物質をアッセイすることが可能である。1536穴のウェルプレートを用いれば、1枚のプレートで約100〜約1500種の異なる化合物をアッセイすることができる。1日当たり数枚の異なるプレートをアッセイできれば、本発明の統合システムを用いて最大で約6,000〜20,000種類またはそれを超える種類の化合物をアッセイでスクリーニングすることが可能である。さらに、試薬操作のためのマイクロ流体(microfluidic)アプローチを用いることができる。
目的の分子(例えばAKR1C)を、共有結合またはタグを介した結合などの非共有結合により、直接的または間接的に固体成分に結合させることができる。タグは種々の成分のうち任意のものでよい。一般的には、タグと結合する分子(タグ結合剤)を固体支持体に固定し、タグの付いた目的の分子(例えば、AKR1C)を、タグとタグ結合剤との相互作用によって固体支持体に結合させる。
文献中に詳細に記載された既知の分子相互作用に基づき、さまざまなタグおよびタグ結合剤のうち任意のものを用いることができる。例えば、ビオチン、プロテインAまたはプロテインGのようにタグが天然の結合剤を有する場合には、それを適切なタグ結合剤(アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラビジン、免疫グロブリンのFc領域、ポリHisなど)との結合に用いることができる。ビオチンなどの天然の結合剤を備えた分子に対する抗体も広く入手可能であり、適切なタグ結合剤についても同様である;例えば、SIGMA Immunochemicals 1998年カタログ、SIGMA, St. Louis MOを参照されたい)。
同様に、任意のハプテン性化合物または抗原性化合物を適切な抗体と組み合わせて用いて、タグ/タグ結合剤の対を形成させることもできる。数千種もの特異抗体が市販されており、ほかにも多くの抗体が文献中に記載されている。例えば、1つの一般的な構成において、タグは第1の抗体であり、タグ結合剤は第1の抗体を認識する第2の抗体である。抗体-抗原相互作用以外に、細胞膜受容体のアゴニストおよびアンタゴニストなどの受容体-リガンド相互作用もタグおよびタグ結合剤の対として適している(例えば、トランスフェリン、c-kit、ウイルス受容体リガンド、サイトカイン受容体、AKR1C、インターロイキン受容体、免疫グロブリン受容体および抗体、カドヘリンファミリー、インテグリンファミリー、セレクチンファミリーなどの細胞受容体-リガンド相互作用;例えば、Pigott & power, 「接着分子ファクトブック1(Adhesion Molecule Facts Book 1)」 (1993)を参照されたい)。同様に、毒素および毒液、ウイルスエピトープ、ホルモン(例えば、オピエート、ステロイドなど)、細胞内受容体(例えば、ステロイド、甲状腺ホルモン、レチノイドおよびビタミンD;ペプチドを含む、種々の低分子リガンドの作用を媒介するもの)、薬剤、レクチン、糖、核酸(直鎖状重合体および環状重合体の両方の形態)、オリゴ糖、タンパク質、リン脂質および抗体は、いずれも種々の細胞受容体と相互作用しうる。
ポリウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレア、ポリアミド、ポリエチレンイミン、ポリアリールスルフィド、ポリシロキサン、ポリイミドおよびポリアセテートなどの合成重合体も適切なタグまたはタグ結合剤を形成しうる。その他の多くのタグ/タグ結合剤の対も本明細書に記載のアッセイに有用であり、これは本開示を吟味することによって当業者には明らかであると考えられる。
ペプチド、ポリエーテルなどの一般的なリンカーもタグとして有用であり、これには約5〜200アミノ酸のポリgly配列などのポリペプチド配列が含まれる。このような柔軟性のあるリンカーは当業者に周知である。例えば、ポリ(エチレングリコール)リンカーは、Sheanvater Polymers, Inc(Huntsville, Alabama)から販売されている。選択的には、これらのリンカーはアミド結合、スルフヒドリル結合またはヘテロ官能性結合を有する。
タグ結合剤を、現在用いうる種々の方法のうち任意のものを用いて、固体基質に固定する。固体基質は一般に、タグ結合剤の一部と反応する化学基を表面に固定させる化学試薬に基質の全体または一部を曝露させることにより、誘導体化または官能性付与が行われる。例えば、比較的長い連鎖部分を付着させるのに適した基には、アミン基、ヒドロキシル基、チオール基およびカルボキシル基が含まれると考えられる。ガラス表面などの種々の表面に官能性を付与するためには、アミノアルキルシランおよびヒドロキシアルキルシランを用いることができる。このような固相バイオポリマーアレイの構築は文献に詳細に記載されている(例えば、Merrifield, J. Am. Chem. Soc. 85: 2149-2154 (1963)(ペプチドなどの固相合成を記載している);Geysenら、J. Immun. Meth. 102: 259-274 (1987)(ピン上での固相成分の合成を記載している);FrankおよびDoring、Tetrahedron 44: 60316040 (1988)(セルロースディスク上での種々のペプチド配列の合成を記載している);Fodorら、Science, 251: 767-777 (1991);Sheldonら、Clinical Chemistiy 39(4):718-719 (1993);ならびにKozalら、Nature Medicine 2(7): 753759 (1996)(いずれも固体基質に固定したバイオポリマーのアレイを記載している)を参照されたい。タグ結合剤を基質に固定する非化学的アプローチには、加熱、UV照射による架橋などの他の一般的な方法が含まれる。
本発明は、AKR1Cの発現または活性を変化させうる化合物をハイスループット形式で同定するためのインビトロアッセイを提供する。アッセイ系が高度に均一であるため、修飾物質の候補を含まない反応における細胞のAKR1C活性を測定する対照反応を随意に選択してもよい。このような随意選択的な対照反応は適切であり、アッセイの信頼性を高める。したがって、好ましい態様において、本発明の方法はこのような対照反応を含む。記載するアッセイ形式のそれぞれについて、修飾物質を含まない「修飾物質なしの」対照反応により、結合活性のバックグラウンドレベルが得られる。
いくつかのアッセイ法においては、陽性対照を用いることが望ましいと考えられる。少なくとも2種類の陽性対照が適している。第1に、AKR1Cの既知の活性化物質を1つのアッセイ試料とインキュベートし、AKR1Cの発現レベルまたは活性の上昇に起因する結果としての信号の増加を本明細書に記載の方法に従って決定する。第2に、AKR1Cの既知の阻害物質を添加し、AKR1Cの発現または活性に関する結果としての信号の低下を同様に検出することができる。通常であればAKR1Cの既知の修飾物質の存在によって引き起こされる上昇または存在を阻害する修飾物質を見つけ出すために、修飾物質を活性化物質または阻害物質と組み合わせてもよいことは理解されると考えられる。
D.コンピュータを用いるアッセイ法
AKR1Cの活性を変化させる化合物に関するさらにもう1つのアッセイ法は、アミノ酸配列にコードされた構造情報に基づいてAKR1Cの三次元構造を作成するためにコンピュータシステムを用いる、コンピュータ支援による薬物設計である。入力したアミノ酸配列がコンピュータプログラム内にあらかじめ設定したアルゴリズムと直接かつ能動的に相互作用して、タンパク質の二次、三次および四次構造モデルが生成される。ラットAKR1C9およびヒトAKR1C2ポリペプチド、ならびにNADPHもしくはNADPHおよびテステロン(testerone)と相互作用するラットポリペプチドの結晶構造は報告されている。例えばHoogら、Proc. Natl. Acad. Sic. USA 91: 2517 (1994); Bennettら、Biochemistry 35: 10702 (1996); Bennettら、Structure 5: 799 (1997); Jinら、Biochemistry 40: 10161 (2001)を参照のこと。タンパク質構造のモデルを次に検査して、基質、例えばプロスタグランジンD2に結合することのできる構造の領域(例えば活性部位)を同定する。同様の解析を、AKR1Cの受容体候補もしくは結合パートナーに対して行うこともでき、AKR1Cと相互作用する領域を同定するために用いることもできる。次にこれらの領域を利用して、AKR1Cと結合する化合物を同定する。
ひとたび目的のタンパク質の三次構造が生成されれば、修飾物質と考えられる物質がコンピュータシステムによって同定される。修飾物質候補の三次元構造は、化合物の化学式を入力することによって生成される。次に修飾物質候補の三次元構造をAKR1Cのものと比較して、AKR1Cの結合部位を同定する。エネルギー項を用いてタンパク質と修飾物質との間の結合親和性を決定し、どのリガンドがタンパク質と結合する確率が高いかを判定する。
VII.組成物、キット、および統合システム
本発明は、本発明のAKR1Cポリペプチドをコードする核酸、またはAKR1Cタンパク質、抗AKR1C抗体などを用いて本明細書に記載したアッセイを実施するための組成物、キットおよび統合システムを提供する。
本発明は、固相アッセイに用いるためのアッセイ組成物を提供する;このような組成物は、例えば、AKR1Cをコードする1つまたは複数の核酸が固体支持体上に固定化されたもの、および標識試薬を含みうる。それぞれの場合に、アッセイ組成物は、ハイブリダイゼーションのために望ましい別の試薬も含みうる。本発明のAKR1Cの発現または活性に対する修飾物質をアッセイ組成物に含めることもできる
本発明はまた、本発明のアッセイを行うためのキットも提供する。本キットは一般に、AKR1Cと、またはAKR1Cポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列と特異的に結合する抗体、および作用物質の存在を検出するための標識を含む。本キットは本発明のAKR1Cポリペプチドをコードするいくつかのポリヌクレオチド配列を含みうる。キットは上記の組成物のいずれかを含むことができ、選択的にはさらに、本発明のAKR1Cポリペプチドをコードする遺伝子の発現に対する、または本発明のAKR1Cポリペプチドの活性に対する影響に関してハイスループットアッセイ方法を行うための指示書といった別の構成要素、1つまたは複数の容器または区画(例えば、プローブ、標識などを保持するための)、AKR1Cポリペプチドの発現または活性の対照修飾物質、キットの成分を混合するためのロボット型アーマチュアなども含む。
本発明はまた、本発明のAKR1Cポリペプチドの発現または活性に対する影響に関する、修飾物質の候補のハイスループットスクリーニングのための統合システムも提供する。本システムは一般に、液体を源から目的地まで移動させるためのロボット型アーマチュア、ロボット型アーマチュアを制御するための制御装置、標識検出器、標識検出を記録するデータ記憶装置、および、反応混合物を有するウェルを含むマイクロタイターディッシュ、または固定された核酸もしくは固定化部分を含む基質などのアッセイ成分を含む。
さまざまなロボット型液体輸送システムが入手可能であり、または既存の構成部品を用いて容易に製造することもできる。例えば、Microlab 2200(Hamilton;Reno, NV)ピペット操作ステーション(pipetting station)を用いるZymate XP(Zymark Corporation;Hopkinton, MA)自動化ロボットを用いて、並列的な試料を96ウェルマイクロタイタープレートに移し、複数の同時並列的な結合アッセイを設定することができる。
カメラまたはその他の記録装置(例えば、光ダイオードおよびデータ記憶装置)によって観測された(および、選択的には記録された)光学画像は、選択的にはさらに、本明細書における態様のいずれかにより、例えば、画像のデジタル化ならびにコンピュータ上での画像の記録および分析などによって処理される。PC(Intel x86またはPentiumチップ互換のDOS(登録商標)、OS2(登録商標)WINDOWS(登録商標)、WINDOWS NT(登録商標)、WINDOWS95(登録商標)、WINDOWS98(登録商標)またはWINDOWS2000(登録商標)ベースのコンピュータ)、MACINTOSH(登録商標)またはUNIX(登録商標)ベースの(例えば、SUN(登録商標)ワークステーション)コンピュータなどを用いて、デジタル化されたビデオ画像またはデジタル化された光学画像のデジタル化、保存および分析を行うための、さまざまな市販の周辺機器およびソフトエアソフトウエアが入手可能である。
従来のシステムの一つは、標本野からの光を、当技術分野で一般的に用いられる、冷却した電荷結合素子(CCD)カメラに伝える。CCDカメラは画像素子(ピクセル)のアレイを含んでいる。標本からの光はCCD上で画像化される。標本の領域(例えば、生体重合体のアレイ上の個々のハイブリダイゼーション部位)に対応する個別のピクセルがサンプリングされ、各位置に関して光強度の読み取り値が得られる。速度を高めるために多数のピクセルが並列的に処理される。本発明の装置および方法は、蛍光顕微鏡法または暗視野顕微鏡法などにより、任意の試料を観測するために容易に用いられる。
VIII.投与および薬学的組成物
AKR1Cの修飾物質(例えば、アンタゴニストまたはアゴニスト)は、インビボでのAKR1C活性の修飾のために、哺乳動物対象に対して直接投与することができる。投与は、修飾性化合物を導入して、治療しようとする組織に最終的に接触させるために通常用いられる任意の経路によって行いうる。個々の化合物の投与には複数の経路を用いることができるが、ある特定の経路によて別の経路よりも即時的かつより効果的な反応が得られることがしばしばである。
本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容される担体を含みうる。薬学的に許容される担体は、一部には、投与する個々の組成物、さらには組成物の投与に用いる個々の方法によって決まる。したがって、本発明の薬学的組成物には適した製剤が広範囲にわたって存在する(例えば、「レミントン薬学(Remington 's Pharmaceutical Sciences)」第17版、1985)を参照のこと)。
AKR1Cの発現または活性に対する修飾物質(例えばアゴニストまたはアンタゴニスト)は、単独で、または他の適した成分と組み合わせて、注射用またはポンプ装置での使用のために調製することができる。ポンプ装置(「インスリンポンプ」としても知られる)は、インスリンを患者に投与するために一般的に用いられており、このため、本発明の組成物を含むように適合させることは容易である。インスリンポンプの製造元には、Animas、DisetronicおよびMiniMedが含まれる。
AKR1Cの発現または活性に対する修飾物質(例えばアゴニストまたはアンタゴニスト)は、単独で、または他の適した成分と組み合わせて吸入によって投与するためのエアロゾル製剤(すなわち、それらは「噴霧」することが可能である)の形にすることができる。エアロゾル製剤は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素などの加圧された許容される噴霧剤中に配合することができる。
投与のために適した製剤には、水性および非水性の溶液、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤、および製剤を等張化する溶質を含みうる等張滅菌溶液、ならびに懸濁化剤、溶解補助剤、濃稠化剤、安定剤および保存料を含みうる水性および非水性の滅菌懸濁液が含まれる。本発明の実践に際しては、組成物を例えば経口的、鼻腔内、局所的、静脈内、腹腔内、膀胱内または髄腔内に投与することができる。化合物の製剤は単位用量または複数回の用量がアンプルまたはバイアルなどの容器内に密封された形式で提供することができる。溶液および懸濁液は、以前に記載された種類の滅菌粉末、顆粒および錠剤から調製することができる。修飾物質を調製済みの食品または薬剤の一部として投与することもできる。
患者に投与する用量は、本発明の状況においては、一定期間にわたって対象において有益な反応を誘起するのに十分である必要がある。用量は、用いる個々の修飾物質の有効性、対象の年齢、体重、身体活動性および食事内容を含むさまざまな要因、他の薬剤との併用の可能性、ならびに糖尿病症例の重症度に応じて決まると考えられる。修飾物質の一日投与量は、既知のインスリン組成物の場合と同様のやり方で、当業者により、個々の患者について決定することが推奨される。また、用量の程度は、個々の対象における特定の化合物またはベクターの投与に伴う何らかの有害な副作用の存在、性質および程度によっても決まると考えられる。
投与する修飾物質の有効量を決定する際に、医師は修飾因子の循環血漿中レベル、修飾物質の毒性および抗修飾物質抗体の産生を評価すると思われる。一般に、修飾物質当量としての用量は、一般的な対象の場合、約1ng/kg〜10mg/kgの範囲である。
投与に関しては、本発明のAKR1C修飾物質を、修飾物質のLD-50、および化合物の種々の濃度での副作用を対象の体重および全般的健康状態に当てはめることによって決定される速度で投与することができる。投与は単回投与または分割投与によって行える。
本発明の化合物を、所望の標的療法に応じた1つまたは複数の別の薬剤と併用して効果的に用いることもできる(例えば、Turner, N.ら、Prog. Drug Res. (1998) 51: 33-94;Haffher, S., Diabetes Care (1998) 21: 160-178;およびDeFronzo, R.ら(編)、「糖尿病レビュー(Diabetes Reviews」(1997) Vol.5, No.4を参照)。数多くの試験で、経口薬との併用療法の有益性が検討されている(例えば、Mahier, R., J. Clin. Endocrinol. Metab. (1999) 84: 1165-71;United Kingdom Prospective Diabetes Study Group: UKPDS 28、Diabetes Care (1998) 21: 87-92;Bardin, C. W.(編)、「内分泌学および代謝における最新療法(Current Therapy In Endocrinology and Metabolism)」第6版(Mosby-Year Book, Inc., St. Louis, MO. 1997);Chiasson, J.ら、Ann. Intern. Med. (1994) 121: 928-935;Coniff, R.ら、Am. Ther. (1997) 19: 16-26;Coniff, R.ら、Am. J. Med. (1995) 98: 443-451;およびIwamoto, Y.ら、Diabet. Med. (1996) 13365-370;Kwiterovich, P., Am. J. Cardiol (1998) 82 (12A): 3U-17Uを参照されたい)。これらの試験により、疾患の中でも特に糖尿病および高脂血症は、治療レジメンに第2の薬剤を加えることによってさらに改善されうることが示されている。併用療法には、本発明のAKR1C修飾物質および1つまたは複数の別の薬剤を含む単一の医薬製剤の投与のほかに、AKR1C修飾物質および別個の医薬製剤としての各々の薬剤の投与も含まれる。例えば、AKR1C修飾物質およびチアゾリジンジオンを錠剤もしくはカプセル剤などの単一の経口投与用組成物としてヒト対象に投与することができ、または各々の薬剤を別個の経口投与用製剤として投与することもできる。別個の投与製剤を用いる場合には、AKR1C修飾物質および1つまたは複数の別の薬剤を、本質的には同じ時に(すなわち、同時に)投与することができ、または別個に時間をずらして(すなわち、逐次的に)投与することもできる。併用療法にはこれらのレジメのすべてが含まれるものと解釈される。
アテローム性動脈硬化を緩和させる(症状または随伴する合併症の発生を予防する)併用療法の一例には、AKR1Cの修飾物質と以下の1つまたは複数の薬剤との併用が含まれる:抗高脂血症薬;血漿HDL上昇薬;コレステロール生合成阻害薬などの抗高コレステロール血漿薬、例えば、ヒドロキシメチルグルタリル(HMG)CoAレダクターゼ阻害薬(スタチン系薬剤とも呼ばれる。ロバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチンおよびアトロバスタチンなど)、HMG-CoA合成酵素阻害薬、スクアレンエポキシダーゼ阻害薬またはスクアレンシンテターゼ阻害薬(スクアレン合成酵素阻害薬としても知られる);アシル補酵素Aコレステロールアシルトランスフェラーゼ(ACAT)阻害薬、例えばメリナミド;プロブコール;ニコチン酸およびその塩ならびにナイアシンアミド;コレステロール吸収阻害薬、例えばβ-シトステロール;胆汁酸封鎖性陰イオン交換樹脂、例えばコレスチラミン、コレスチポールまたは架橋デキストランのジアルキルアミノアルキル誘導体;LDL(低比重リポタンパク質)受容体誘導物質;ビタミンB6(ピリドキシンとしても知られる)およびHCl塩などのその薬学的に許容される塩;ビタミンB12(シアノコバラミンとしても知られる);ビタミンB3(ニコチン酸およびナイアシンアミドとしても知られる、前記);抗酸化性ビタミン、例えばビタミンCおよびEならびにβカロテン;β-遮断薬;アンジオテンシンII拮抗薬;アンジオテンシン変換酵素阻害薬;ならびに血小板凝集阻害薬、例えばフィブリノゲン受容体拮抗薬(すなわち、糖タンパク質IIb/IIIaフィブリノゲン受容体拮抗薬)およびアスピリン。上に指摘した通り、本発明の修飾物質は、例えば、AKR1C修飾物質とHMG-CoAレダクターゼ阻害薬(例えば、ロバスタチン、シンバスタチンおよびプラバスタチン)およびアスピリンとの併用というように、複数の別の薬剤と併用して投与することができる。
併用療法のもう1つの例は、肥満または肥満関連疾患の治療において認められ、この場合には、AKR1C修飾物質を例えば、フェニルプロパノールアミン、フェンテルミン、ジエチルプロピオン、マジンドール;フェンフルラミン、デクスフェンフルラミン、フェンチラミン、β3アドレナリン作動薬;シブトラミン、消化管リパーゼ阻害薬(オルリスタットなど)およびレプチンと効果的に併用することができる。AKR1C修飾物質と効果的に併用しうる、肥満または肥満関連疾患の治療に用いられるその他の薬剤には、例えば、ニューロペプチドY、エンテロスタチン、コレサイトキニン、ボンベシン、アミリン、ヒスタミンH3受容体、ドーパミンD2受容体、メラノサイト刺激ホルモン、コルチコトロピン放出因子、ガラニンおよびγアミノ酪酸(GABA)が含まれる。
併用療法のさらにもう1つの例は、糖尿病を変化させる(または糖尿病およびそれに関連した症状、合併症および障害を治療する)場合にみられ、この場合には、AKR1C修飾物質を例えば以下のものと効果的に併用することができる:スルホニル尿素(クロルプロパミド、トルブタミド、アセトヘキサミド、トラザミド、グリブリド、グリクラジド、グリナーゼ、グリメピリドおよびグリピジドなど)、ビグアナイド系薬剤(メトホルミンなど)、PPARβδアゴニスト、PPARγのリガンドまたはアゴニスト、例えばチアゾリジノン(シグリタゾン、ピオグリタゾン(例えば、米国特許第6,218,409号を参照)、トログリタゾンおよびロシグリタゾン(例えば、米国特許第5,859,037号を参照)など);クロフィブレート、ゲムフィブロジル、フェノフィブレート、シプロフィブレート、およびベザフィブレートなどのPPARαアゴニスト;デヒドロエピアンドロステロン(DHEAまたはその抱合硫酸エステルであるDHEA-504とも呼ばれる);アンチグルココルチコイド;TNFα阻害剤;α-グルコシダーゼ阻害剤(アカルボース、ミグリトールおよびボグリボース)、アミリンおよびアミリン誘導体(プラムリンチド(pramlintide)など(米国特許第5,902,726号;第5,124,314号;第5,175,145号および第6,143,718号も参照のこと))、インスリン分泌促進物質(レパグリニド、グリキドンおよびナテグリニド(米国特許第6,251,856号;第6,251,865号;第6,221,633号;第6,174,856号も参照のこと))、インスリン、さらにはアテローム性動脈硬化を治療するための上記の薬剤。
併用療法のさらにもう1つの例は高脂血症を緩和させる(高脂血症およびその関連合併症を治療する)際に認められ、この場合には本発明のAKR1C修飾物質を、例えば、スタチン系薬剤(フルバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチンまたはシンバスタチンなど)、胆汁酸結合樹脂(コレスチポールまたはコレスチラミンなど)、ニコチン酸、プロブコール、βカロテン、ビタミンBまたはビタミンCと効果的に併用することができる。
IX.糖尿病の診断
本発明は、糖尿病、または糖尿病もしくは別のAKR1C関連疾患の病態の少なくともいくつかの素因を診断する方法も提供する。診断は、個体の遺伝子型を決定し(例えば、SNPによる)、その遺伝子型を、糖尿病または他のAKR1C関連疾患の発生率と相関することが知られたアレルと比較することを含みうる。または、診断は、患者におけるAKR1Cのレベルを決定した後に、そのレベルをあるベースラインまたは範囲と比較することも含む。一般に、ベースライン値は、健常(すなわち、糖尿病でなく通常は肥満でもない)者におけるAKR1Cの値を代表する。以上に考察した通り、AKR1Cレベルのベースラインの範囲からの差異(高値または低値)は、その患者が糖尿病であるか、糖尿病の病態の少なくともいくつかを発症するリスクがあることを示す。いくつかの態様において、AKR1Cのレベルは、患者から血液、尿または組織試料を採取して、本明細書で考察したような任意のさまざまな検出方法を用いて試料中のAKR1Cの量を測定することによって測定される。例えば、空腹時および摂食後の血中濃度または尿中濃度を検査することができる。
いくつかの態様においては、AKR1Cの酵素生成物(例えば、9α,11β-PGF2α、PGD2または生成物の誘導体)のレベルを測定し、1人または複数の健常(すなわち、糖尿病でなく通常は肥満でもない)者のベースライン値と比較する。ベースラインに比して9α,11β-PGF2αレベルが変化している(例えば、高い)ことにより、その患者が糖尿病であるか、糖尿病の病態の少なくともいくつかを発症するリスクがあることを示される。患者試料は血液試料、尿試料または組織試料のいずれでもよい。
いくつかの態様においては、試料におけるAKR1C活性または発現のレベルを決定し、1人または複数の健常者のベースライン値と比較する。または、AKR1Cの活性または発現のレベルを、同じ個体で複数の時点、例えば1日、1週間および1カ月、1年またはそれ以上の間隔をおいて決定する。試料間にAKR1C活性または発現の変化があることから、糖尿病の発症または糖尿病を発症する素因が示される。いくつかの態様において、ベースラインレベルと、ある個体からの1つの試料またはある個体からの少なくとも2つの試料におけるレベルは、少なくとも約5%、10%、20%、50%、75%、100%、200%、500%、1000%またはそれ以上異なる。いくつかの態様において、個体からの試料はベースラインレベルに比して上に挙げたパーセンテージの少なくとも1つ分は高値である。いくつかの態様において、個体からの試料はベースラインレベルに比して上に挙げたパーセンテージの少なくとも1つ分は低値である。同様に、ある個体から最初の試料を採取した後のある時点で採取した試料におけるレベルは、第1の試料におけるレベルよりも高くても低くてもよい。
いくつかの態様において、AKR1C活性または発現のレベルは、チアゾリジンジオン、メトホルミン、スルホニル尿素および他の標準的 な治療薬といった糖尿病治療薬の有効性をモニターするために用いられる。いくつかの態様において、AKR1Cの活性または発現は、臨床的有効性の代用マーカーとして、糖尿病患者またはインスリン抵抗性患者に対する糖尿病治療薬による治療の前および後に測定される。例えば、AKR1C発現または活性の低下が大きいほど有効性も大きい。
活性は試料からの粗抽出物または部分的もしくは本質的に精製されたAKR1Cに基づいて測定することができる。AKR1C活性の測定は例えば、Oharaら、Biochimicia et Biophysica Acta 1215: 59-65 (1994)に記載されている。
AKR1C、9α,11β-PGF2αまたはPGD2のレベルに対する血糖値の影響を検出するために耐糖能試験を用いることもできる。耐糖能試験では、血清検体および尿検体をグルコース濃度に関して評価することにより、患者が標準的なグルコース負荷に耐える能力を評価する。グルコース摂取前に血液試料を採取し、グルコースを経口投与した上で、グルコース摂取後の所定の間隔で血中または尿中のグルコース濃度を検査する。同様に、食事耐性試験(meal tolerance test)を、AKR1C、9α,11β-PGF2αまたはPGD2のレベルに対するインスリンまたは食事のそれぞれの影響を検出するために用いることもできる。
本明細書中に引用したすべての刊行物および特許出願は、それぞれの個々の刊行物または特許出願が参照として組み込まれるように特定的および個別に示されている場合と同程度に参照として本明細書に組み込まれる。
理解を容易にする目的で、上記の本発明を図面および実施例によってある程度詳細に説明してきたが、本発明の教示に鑑みて、添付する特許請求の精神または範囲を逸脱することなく、ある種の変更または修正を加えうることは当業者には容易に明らかになると考えられる。
実施例
以下の実施例は、請求する本発明を例示するために提供するものであり、それを限定するものではない。
背景
標準的マイクロアレイおよび筋肉特異的マイクロアレイ(遺伝子チップ)の両方を用いて遺伝子発現プロファイリングを行った;後者はヒト筋肉の発現配列タグを用いて設計した。やせた個体、肥満個体および糖尿病個体から単離した筋肉試料における遺伝子発現プロファイルを基礎(クランプ前)条件下およびクランプ条件下で比較した。クランプとは、正常血糖値を維持するためのグルコースの注入(正常血糖)と同時に、高濃度のインスリンを患者に注入すること(高インスリン血症)を指す。この手順はクランプ前試料の採取から5時間にわたって行った。2種類の試験を行い、それぞれ試験Aおよび試験Bと称した。本開示の目的から、これらの試験は、それらがほとんど重複しない患者のセットを含むことを除き、本質的には同じ性質である。
実施例1
本実施例は、糖尿病組織では健常組織に比してAKR1C遺伝子の発現が増加していることを示す。
4人のやせた個体および3人の糖尿病個体から得た筋肉試料をマイクロアレイを用いて分析した。AKR1C mRNAのレベルは糖尿病個体の方がやせた個体に比して2.4倍の高さであった。
試験Aに登録した8人の糖尿病でないやせた個体、8人の糖尿病でない肥満個体および10人の糖尿病患者から得た筋肉試料を、ヒト筋肉特異的チップのセットを用いて分析した。この患者群では、mRNAレベルの評価にAKR1Cプローブセットを用いた場合、AKR1C mRNAレベルは糖尿病個体の方がやせた個体に比して2.5倍の高さであった。異なる3種類のAKR1Cプローブセットに関する対応する値はそれぞれ2.6倍、3.7倍および2.8倍であった。高インスリン性クランプの間は、いずれの患者群にもAKR1C mRNAのアップレギュレーションは観察されなかった。したがって、AKR1C mRNAのアップレギュレーションは、糖尿病個体で一般に認められる高インスリン血症に起因するものではない。
試験Aおよび試験Bによる患者データを組み合わせることによって生成されたデータの解析により、やせた個体の筋肉に比して糖尿病個体の筋肉ではAKR1Cがアップレギュレートされているという、さらなる証拠が得られた。変化の倍率は以下の通りであった:プローブ1、2.26倍、p=0.00006;プローブ2、2.43倍、p=0.001;プローブ3、2.57倍、p=0.0018;プローブ4、2.49倍、p=0.0012。肥満個体におけるAKR1Cのアップレギュレーションを示す徴候も若干みられた(プローブ1、1.33倍、p=0.042;プローブ2、1.22倍、p=0.258;プローブ3、1.32倍、p=0.0018およびプローブ4、1.44倍、p=0.0012)。これらのデータから、やせた個体の筋肉との比較による、ヒト糖尿病個体の筋肉におけるAKR1C mRNAのアップレギュレーションが裏づけられた。
実施例2
本実施例は、糖尿病組織ではAKR1C mRNAがアップレギュレートされていることを、遺伝子チップとは異なる技術を用いて示す。
PCRプライマーおよびTaqman MGB(副溝結合性)プローブを、Perkin Elmer社のPrimer Expressソフトウエア(バージョン1.5)を用いて設計した。簡潔に述べると、80〜120ヌクレオチド長のアンプリコンが生じるようにプライマーを選択する。特異性は、いくつかの高度の相同なcDNAのうち1つのみと効率的にハイブリダイズするプライマーおよびプローブを用いることによって得られる。適正なPCR条件を用いると、1ヌクレオチドの違いでMGBプローブハイブリダイゼーションを妨げるには十分である。本発明者らは、複合混合物におけるヒトAKR1C1、AKR1C2、AKR1C3およびAKR1C4のmRNAレベルを個別に測定するために、以下のプライマー/プローブの組み合わせを用いた。
これらのプライマー/プローブのセットを用いて、試験Aによる試料中のAKR1C1 mRNA、AKR1C2 mRNAおよびAKR1C3 mRNAのレベルを分析した。本発明者らは、やせた個体からの筋肉と比較して糖尿病個体からの筋肉ではAKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3がそれぞれ3.7倍、4.26倍および4.42倍にアップレギュレートされていることを見いだした。以前に考察したチップのデータの場合と同じく、インスリンによるAKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3のアップレギュレーションはみられなかった。この所見により、(i)AKR1C、AKR1C2およびAKR1C3がいずれもヒト筋肉で発現されること、ならびに(ii)AKR1C1 mRNA、AKR1C2 mRNAおよびAKR1C3 mRNAはいずれも、やせた個体の筋肉に比して糖尿病個体の筋肉の方が高値であることが示された。
実施例3
本実施例は、9α,11β-PGF2αがPPAR活性化物質としては不活性であることを示す。
PPARリガンド活性を検出するように設計した細胞系アッセイ(エクスビボ)において、プロスタグランジンD2および9α,11β-PGF2αをアッセイした。このアッセイには、PPARリガンド結合ドメインを異種DNA結合ドメインと結合させたものからなる組換えタンパク質を用いる。例えば、Reginatoら、J. Biol. Chem. 273: 32679 (1998)を参照のこと。リガンドとPPAR結合ドメインとの結合により、レポーター遺伝子の発現がもたらされる。PGD2によるPPARαおよびPPARγの顕著な活性化が観察されたが、9α,11β-PGF2αによる活性化は観察されなかった。この観察所見は、細胞内のPGD2レベルが上昇することによってPPARαおよびPPARγが活性化されるが、9α,11β-PGF2αのレベルが上昇しても効果がないことを示している。これらの観察所見は、AKR1Cレベルの上昇によってPPAR活性化物質(PGD2)のレベルが低下し、PPAR活性化物質でない分子(9α,11β-PGF2)のレベルが上昇することを示す。
実施例4
本実施例は、プロスタグランジンD2は天然のPPAR応答性プロモーターを活性化するが、9α,11β-PGF2αは活性化しないことを示す。
天然のPPAR応答性プロモーターの活性化を検出するように設計した細胞系アッセイ(エクスビボ)において、プロスタグランジンD2および9α,11β-PGF2αをアッセイした。このアッセイには、PPAR(PPARαおよびγの両方)に対する結合部位を含むマウスaP2遺伝子のプロモーター領域をレポーター遺伝子と結合させたものを用いる。リガンドと内因性PPARとの結合により、aP2レポーター遺伝子の活性化がもたらされる。PGD2によるaP2レポーター遺伝子の顕著な活性化が観察されたが、9α,11β-PGF2αによる活性化は観察されなかった。この観察所見は、細胞内のPGD2レベルが上昇することによって内因性PPARが活性化されるが、9α,11β-PGF2αのレベルが上昇しても効果がないことを示している。これらの観察所見は、AKR1Cレベルの上昇によってPPAR活性化物質(PGD2)のレベルが低下し、不活性分子(9α,11β-PGF2)のレベルが上昇するという仮説の裏づけとなる。
実施例5
本実施例は、9α,11β-PGF2αが、PPARリガンドによって調節される内因性遺伝子の調節に関して不活性であることを示す。
標準的なマウスマイクロアレイを用いて、本発明者らは、チアゾリジンジオンをベースとする3種類のPPARγリガンド(ピオグリタゾン、ロシグリタゾンおよびトログリタゾン)で処理したマウス3T3-L1脂肪細胞が、RGS2 mRNA(Gタンパク質シグナル伝達2の調節因子、U67187)およびピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼ4 mRNA(J001418)の発現の変化を示すことを見いだした。RGS2に関しては以下のダウンレギュレーションが観察された;ピオグリタゾン 0.29倍 p<0.00009、ロシグリタゾン 0.25倍 p<0.00003、トログリタゾン 0.27倍 p<0.00085。PDHK4に関しては以下のアップレギュレーションが観察された;ピオグリタゾン 3.13倍 p<2×10−6、ロシグリタゾン 3.16倍 p<0.00005、トログリタゾン 3.2倍 p<0.0006)。すなわち、本発明者らは、RGS2およびPDHK4がPPARγリガンドによってそれぞれダウンレギュレーションおよびアップレギュレーションを受けることを見いだした。このため、これらの調節は内因性PPARによる内因性遺伝子の活性化を反映している。
プライマーをマウスRGS2およびマウスPDHK4に対して設計し、標準的マウスチップを用いて観察された遺伝子発現の変化を、SYBRグリーン検出を用いるTaqman PCRを用いて確認した。細胞をピオグリタゾン、ロシグリタゾンまたはトログリタゾンで処理したところ、RGS2はそれぞれ0.47倍、0.41倍および0.55倍ダウンレギュレートされた。本発明者らは、ピオグリタゾン、ロシグリタゾンおよびトログリタゾンによってPDHK4がそれぞれ4.9倍、5.45倍および5.5倍にアップレギュレートされることも見いだした。これらの観察所見は、PPARγリガンドの活性を、内因性遺伝子のレベルを定量するためのTaqman PCRを用いて無傷細胞で測定しうることを示している。
Taqmanプライマーを用いて、ロシグリタゾン、PGD2および9α,11β-PGF2αで処理したマウス3T3-L1脂肪細胞におけるRGS2およびPDHK4の発現を分析した。ロシグリタゾン処理およびPGD2処理のいずれでもRGS2のダウンレギュレーションが観察された(それぞれ0.20倍の変化および0.29倍の変化)。これに対して、9α,11β-PGF2を用いた場合の変化は0.75倍であった。ロシグリタゾンおよびPGD2によるPDHK4のアップレギュレーションも観察された(それぞれ3.73倍の変化および2.39倍の変化)。これに対して、9α,11β-PGF2αを用いた場合の変化は0.77倍であった。このデータは、PGD2の細胞レベルの上昇が、既知のPPARリガンドと同じ様式で、内因性遺伝子の発現パターンに影響を及ぼすことを示唆している。これに対して、9α,11β-PGF2αは、PPARリガンドによって調節される内因性遺伝子の調節に関して不活性である。
実施例6
本実施例は、PGD2はグルコース輸送を増強するが、9α,11β-PGF2αは増強しないことを示す。
マウス3T3-L1脂肪細胞をPGD2で40時間処理すると、グルコース輸送は、PPARリガンドであるロシグリタゾンを用いた場合に観察されるものと同程度のレベルに増強される。9α,11β-PGF2αによる処理はグルコース輸送に対して影響を及ぼさない。このことは、PGD2の細胞レベルの上昇がPPAR活性の上昇をもたらし、そのためにインスリン感受性の増大をもたらすこと、および9α,11β-PGF2αが不活性であることを示す。
実施例7
本実施例は、3T3-L1脂肪細胞におけるAKR1C1、AKR1C2、AKR1C3またはAKR1C4の過剰発現により、PGD2がインスリン刺激性グルコース輸送を増強する作用が大幅に阻害されることを示す。
3T3-L1脂肪細胞を、対照アデノウイルス、または4種のヒトAKR1Cアイソフォームをコードする組換えアデノウイルスに感染させ、20時間インキュベートしてタンパク質を発現させた。続いて細胞を4μM PGD2で20時間処理し、インスリンの非存在下および存在下におけるグルコース輸送を測定した。細胞に取り込まれた3H-2-デオキシグルコースの量(cpm)を図3に示している。
対照ウイルスに感染させた細胞では、PGD2はインスリン刺激性グルコース輸送を増強した。AKR1C1、AKR1C2、AKR1C3またはAKR1C4の過剰発現は、PGD2の有効性を大幅に低下させた。
全体的にみて、これらのデータは、PGD2がPPAR活性の正の調節因子として作用すること、およびPGD2に対するAKR1Cの作用による生成物である9α,11β-PGF2αがPPAR活性の点で不活性であることを示している。したがって、AKR1Cの過剰発現はインスリン抵抗性状態を誘導する。
実施例8
本実施例は、すべてのAKR1CアイソフォームにPGD2 11ケト-レダクターゼ活性があることを示す。
3T3-L1脂肪細胞を指定の組換えアデノウイルスに感染させ、20時間インキュベートして細胞に指定のAKR1Cアイソフォームを発現させた。続いて細胞を4μM PGD2の存在下でさらに20時間インキュベートした。培地試料を採取し、9α,11β-PGF
2αの量を固相酵素免疫アッセイで決定した。培地中に存在した9α,1β-PGF
2αの濃度を以下の表に示す。
(表)
実施例9
本実施例は、細菌からのそれぞれのAKR1Cアイソフォームの精製について示す。
大腸菌に、ヒトAKR1Cアイソフォームをコードするプラスミド構築物による形質転換を行い、1mM IPTGとともに2.5時間インキュベートすることによってプラスミドからのタンパク質発現を誘導した。細菌をペレット化し、可溶化した上で、陰イオン交換カラムおよびCibacron Blueアフィニティーカラムから溶出させることにより、可溶化物からAKR1Cアイソフォームを精製した。例えば、Bezら、J. Biol. Chem. 271: 30190 (1996)を参照のこと。精製したタンパク質を還元ポリアクリルアミドゲルで分離し、タンパク質をクーマシーブルーで染色した。図4参照。矢印は精製されたヒトAKR1Cアイソフォームを示す。
実施例10
本実施例は、精製されたヒトAKR1Cアイソフォームが精製後にも酵素活性を保っており、このため、AKR1C酵素活性を変化させる化合物を同定するためのハイスループットスクリーニングに用いうることを示す。
AKR1Cアイソフォームによる1-アセナフテノールの酸化を、100mMリン酸カリウム(pH 7.0)、2.3mM NADP、1mM 1-アセナフテノール、4%メタノールおよび25μlの精製酵素調製物を含む200μlにおいて測定した。対照インキュベーションは基質(1-アセナフテノール)の非存在下で行った。生成物の形成速度を、NADPH生成に伴って生じる蛍光(励起360nm、発光450nm)の増加を観測することによって測定した。図5参照。
本明細書中に説明した実施例および態様は例示のみを目的としており、当業者にはそれに鑑みてさまざまな修正または変更が想起されると考えられるが、これらは本出願の精神および範囲ならびに添付する特許請求の範囲に含まれるものとする。本明細書に引用したすべての刊行物、特許および特許出願は、その全体がすべての目的に関して参照として本明細書に組み入れられる。