図1A及び1Bにおいて、本発明による浸透圧モータ10は、例えば、透析処置に使用されるタイプの半透性壁14を有する中空糸束により形成されたエンクロージャ12を備える。糸14の壁は約200ダルトンのカットオフ閾値を備え、すなわち、壁14は、実質的に200ダルトン、すなわち、200g/molより小さいモル質量を有する粒子を通す。各糸は、例えば、約200μmの直径を有する。糸束14は、例えば、接着エリア18を介して、第1の接合リング16により第1の端に支持される。リング16は、プラグ21によって閉じられた開口20を備える。糸束14の第2の端は、例えば、接着エリア24を介して、第2の接合リング22によって支持される。約1000ダルトンのカットオフ閾値を有する膜25は、第2のリング22を閉じる。
エンクロージャ12は、第2の接合リング22の位置で、可動ピストン30が摺動可能な円筒体28の端に取り付けられる。可動ピストン30及び円筒体により、膨張チャンバー31を定める。復元手段32、例えば、スプリングは、ピストン30を待機位置へ戻す傾向がある引張負荷をピストン30に加える。円筒体28は、モータ10の外側と連通する排出バルブ34を備える。
浸透圧性活性物質Xを作る能力を備えた細菌性、植物性、又は、動物性細胞の集団を糸14内に配置される。糸14のカットオフ閾値は、物質Xの通過を阻止するように設定される一方、膜25のカットオフ閾値は、物質Xを通過可能にするが、細胞を阻止するように設定される。本実施例において、物質Xはジヘキソースであり、細胞はジヘキソースを作るため遺伝子操作された大腸菌細胞で構成されてもよい。様々な遺伝子操作手段により、遺伝子操作された細胞にジヘキソースを作らせ、それを細胞の外へ運び出す。
初期段階では、遺伝子操作された細胞を糸14内に配置するため、エンクロージャ12は、浸透圧的に中性の周囲媒質に単独で設置され、遺伝子操作された細胞を含む培養液は、開口20を介して、糸束14内部でゆっくりと循環させられる。膜25及び糸14の壁のカットオフ閾値は、十分に低いので細胞を糸14内に保持可能である。周囲媒質は、細胞代謝に不可欠な栄養物質、(約180ダルトンのモル質量を有する)グルコース及び酸素が溶解した溶媒である。周囲媒質から細胞へ栄養物質を通し、細胞代謝によって発生した廃棄物を周囲媒質へ通すように、糸14のカットオフ閾値は決められる。従って、遺伝子操作された細胞は、糸14の内部にコロニー形成し得る。細胞は、例えば、単分子層の形で、糸14の内壁に沈着及び付着するように処理される。コロニーが形成されたとき、開口20はプラグ21によって閉じられる。
細胞は、モータの長期間にわたる動作に有利な特性を得るため更に処理される。装置の長期間にわたる動作を助けるため「不死化」細胞を得ることが望ましい。又、細胞集団全体を、特に、栄養物質及び異化物質を良好に循環させ得る調和の取れた状態に置くため、「接触阻害」を示す細胞を得ることが望ましい。
モータ10の動作サイクルを以下に説明する。
正常動作では、モータ10を、細胞代謝に不可欠な栄養物質、特に、グルコースを溶解した溶媒を含む周囲媒質に配置される。
図1Aはサイクルの開始時のモータ10を示す。ピストン30はその待機位置にあり、膨張チャンバー31の容積は最小であり、排出バルブ34は閉じている。遺伝子操作された細胞は、グルコースからジヘキソース分子を生成し、これは糸束14内の浸透圧を増加させる傾向がある。周囲媒質の溶媒は、糸14と、膨張チャンバー31に浸透し、ピストン30を動かす。ピストン30の移動はスプリング32を伸ばし、機械的動力の蓄積を可能にする。
図1Bは、最大膨張状態にある膨張チャンバー31を示す。このとき、排出バルブ34は開く。膨張チャンバー31の内部の圧力を周囲媒質の圧力と同一にする。スプリング32は、排出バルブ34を介して膨張チャンバー31から周囲媒質へ溶媒を排出することにより、ピストン30をその待機位置へ戻す。スプリング32に蓄積された機械的動力は、このとき、回収される。バルブ34は最終的に閉じ、これにより、モータのストロークが終了する。
ピストン32は、望ましくは機械的動力が伝達される外部要素に連結してもよい。
第1実施例によれば、膨張チャンバー31は、ピストンが摺動する円筒体から形成される。本発明によるモータ10の望ましい用途によれば、膨張チャンバー31は異なって形成される。
図2A及び2Bは、第1実施例のモータ10の膨張チャンバー31の他の選択しうる構造を示す図である。この変形によれば、膨張チャンバー31は、内側エンベロープ36と外側エンベロープ37との間にエアチャンバーとして定められた空間に相当する。内側エンベロープ36は、変形可能であり、伸張性があり、変形可能な本体38を囲む。外側エンベロープ37は、柔軟性があり、伸張性がない。外側エンベロープは、内側エンベロープ36を後方で閉じ込め、エンクロージャ12の接合リング22に連結される。排出バルブ34は接合リング22に配置される。一例として、本発明による浸透圧モータ10の医療用において、変形可能な本体38は人の心臓であり、エンベロープは心臓を取り囲むフランジ形状の膨張チャンバー31と定めてもよい。
第1実施例のこの変形によるモータ10のサイクルは以下の通りである。
図2Aはサイクルの開始時のモータ10を示す。膨張チャンバー31の容積は最小であり、変形可能な本体38は最大の膨張状態にあり、これは拡張した心臓に相当する。排出バルブ34はこのとき閉じている。遺伝子操作された細胞はジヘキソースを生成し、浸透作用により、溶媒を膨張チャンバー31に取り込ませる。内側エンベロープ36は変形し、変形可能な本体38を圧縮する。
図2Bにおいて、変形可能な本体38は最大限に圧縮され、これは、収縮した心臓に相当する。排出バルブ34が開いているとき、溶媒は膨張チャンバー31から出て、変形可能な本体38の膨張を可能にさせ、このサイクルを終了させる。
本発明の他の変形によれば、膨張チャンバーは、例えば、螺旋状に配置された糸を囲む弾性エンベロープにより形成され、二つの接合リングは堅固である。細胞が浸透圧性活性物質を作るとき、糸は真っ直ぐになり、弾性エンベロープを変形させる傾向がある。排出バルブは接合リングの位置に設けられる。バルブが開いているとき、糸内の圧力は低下し、エンベロープはその初期形状を復元する傾向がある。
本発明の他の変形によれば、エンクロージャは、柔軟性のあるダクトによって膨張チャンバーに連結してもよい。これは、溶媒及びグルコースの供給に適した周囲媒質にエンクロージャを配置し、望ましくは機械的動力を利用できる位置に膨張チャンバーを設置できる点で有利である。医療用については、エンクロージャは脂肪組織又は、血管系に配置される。後者の場合、糸は中空管を形成するように配置され、その中心に血液のような流体の循環を可能にさせる円筒状空間を残す。接合リングはO型でもよく、心臓血管の壁に配置してもよい。O型接合リングの一方は、血管を貫通する柔軟性のあるダクトによって、膨張チャンバーと連通する。
図3A乃至3Cは、本発明による浸透圧モータの第2実施例を示す。モータ40は第1実施例のモータの部品を備え、それらに関連した参照番号は維持される。
モータ40は、前述のタイプの第1のエンクロージャ12と、第2のエンクロージャ42とを備える。第2のエンクロージャ42は、接着エリア47、48を介して接合リング45、46によってその端が支持された第2の糸束44を含む。第2のエンクロージャ42は、膨張チャンバー31を第2の糸44から分離する膜49を含む接合リング45によって、バルブ34の位置で円筒体28に取り付けられる。第2のエンクロージャ42は、リング46の位置で、膜52を介して、堅固な変形可能な容器54と連通する。
第1の糸束14は、物質Y(例えば、ジラクトース)から物質X(例えば、ラクトース)を作る遺伝子操作された細胞の第1の集団P1 によってコロニー形成されるので、物質Yの基本粒子から、物質Xの2個以上の基本粒子が作られる。第2の糸束44は、物質Xから物質Yを作る遺伝子操作された細胞の第2の集団P2 によってコロニー形成されるので、物質Yの基本粒子を作るため、物質Xの2個以上の基本粒子が使用される。
糸束14、44の壁は、物質X及びYのモル質量よりも小さいカットオフ閾値を有する。一例として、物質Xはラクトースであり、物質Yはジラクトースであるので、カットオフ閾値は約200ダルトンである。膜25、49及び52は、1000ダルトンより大きいカットオフ閾値を有し、物質X及びYを通し、遺伝子操作された細胞を夫々糸14、44に保持する。
正常動作中に、モータ40は、細胞代謝に不可欠な栄養物質、特に、グルコースが溶解した溶媒を含む周囲媒質に置かれる。本発明による浸透圧モータ40の動作サイクルは以下の通りである。
図3Aはサイクルの開始時におけるモータ40を示す。バルブ34は閉じている。物質Xの濃度は、容器54と膨張チャンバー31とで同一であり、又、物質Y及びグルコースの濃度も同一である。第1の糸束14において、集団P1 は物質Xを作り、膨張チャンバー31の浸透圧を上昇させる。周囲媒質の溶媒は、第1の糸束14に浸透し、次に、膨張チャンバー31に浸透し、これによりピストン30を動かし、スプリング32の伸長により機械的動力を蓄積する。同時に、第2の糸束44において、集団P2 は物質Yを作り、容器54の浸透圧を低下させる。容器54は、有効な仕事を生み出すことなく、その容積が減少する。なぜなら、この減少に対抗するものは何もないからである。
図3Bは前述のステップの終了時におけるモータ10を示し、膨張チャンバー31は最大容積を有する。
次にバルブ34が開く。物質Xと物質Yとの濃度は、糸束14、44と、膨張チャンバー31と、容器54とにおいて等しい。同様に、浸透圧は、異なる区画で等しい。ピストン30は、かくして、スプリング32の作用で、図3Cに示される位置へ下に動く。更に、容器54は、液体で満たされることにより膨張し、容器54を膨張させるために必要な仕事はスプリング32によって行われる仕事と比べると無視することができ、周囲媒質の圧力は膨張チャンバー31に存在する圧力と比較して低い。次にバルブ34が閉じ、サイクルを終了させる。
第2実施例において、糸14、44の壁は、周囲媒質の溶媒、並びに、遺伝子操作された細胞の代謝に関わる物質、特に、グルコース、酸素、又は、二酸化炭素だけを通過させる。
第2実施例は、モータ40と周囲媒質との間の交換が第1実施例よりも減少しているので、特に有利である。実際、第1実施例では、浸透圧性活性物質であるジヘキソースは、周囲媒質に存在するグルコースから作られる。更に、モータサイクルの最後に、排出バルブ34が開き、細胞によって作られた殆どのジヘキソースは周囲媒質へ放出される。医療用に関して言えば、生成されたジヘキソースは人体に放出されることは問題になる。第2実施例では、実際に細胞によりグルコースが消費されるが、正常な代謝のために限られるので、すなわち、第1実施例のグルコースの消費分よりも遙かに少ない。
第2実施例の変形によれば、物質Xはグルコースでもよく、物質Yはラクトースでもよい。糸14、44の膜のカットオフ閾値は、グルコースの閾値、例えば、100ダルトンよりも小さい閾値に設定される。従って、細胞代謝に必要なグルコースはこれらの膜を通過することが不可能である。そこで、容器54は、容器を周囲媒質と連通させる手段を有する。それは、例えば、200ダルトンのカットオフ閾値を有する膜と関連付けたバルブでもよい。このバルブは、例えば、容器が最小の容積であるときの短期間に開く。これにより、周囲媒質のグルコース分子を容器に浸透させることができる。グルコース分子は、細胞代謝に関連した損失を補償することができる。
図4A乃至4Dは、本発明による浸透圧モータ60の第3実施例を示す図である。モータ60は第1実施例のモータ10の部品を含み、それらに関連付けられた参照番号は維持される。
エンクロージャ12は、接合リング22及び排出バルブ34の裏側で閉じた堅固な変形可能なエンベロープ61に配置される。エンクロージャは生物学的液体で満たされる。第2の糸束62はエンベロープ61に配置される。エンベロープ61は、エンベロープ61の変形を妨げることがないように有孔剛性カーター64に配置してもよい。糸束62は、例えば、接着エリア70、72を用いて、接合リング66、68によってその端が支持される。接合リング66、68は、エンベロープ61と交わり、剛性カーター64に取り付けられる。接合リングは、各々糸62の内部空間とカーター64の外部との連通を可能にさせるバルブ74、76を備える。
第1の糸束14は、物質Y(例えば、4−ヘキソース)から物質X(例えば、ジヘキソース)を作る遺伝子操作された細胞の第1の集団P1 によってコロニー形成されるので、基本Y粒子から、2個以上の基本X粒子が作られる。エンベロープ61の内側に配置された遺伝子操作された細胞の第2の集団P2 は、物質Xから物質Yを作ることができるので、物質Yの基本粒子を作るため、物質Xの2個以上の基本粒子が使用される。細胞の第2の集団P2 は、糸62の外壁に沈着させてもよい。
糸束14、62の膜は、グルコースのモル質量よりも大きく、物質X及びYのモル質量よりも小さいカットオフ閾値を有する。一例として、カットオフ閾値は、物質Xがジヘキソースであり、物質Yが4−ヘキソースであるとき、約200ダルトンである。
剛性カーター64は、バルブ74、76が開いているとき、生物学的流体が第2の糸束62に流入するように、生体媒質に配置してもよい。流体供給及び排出ダクトは、又、接合リング66、68の位置で直接連結してもよい。糸束62の膜の、例えば、約100ダルトンのカットオフ閾値は、細胞集団P1 、P2 の代謝に必要な物質を通過させることが可能である。
第3実施例によるモータ60の動作サイクルは次の通りである。
図4Aはサイクルの開始時におけるモータ60を示す。バルブ34、74、76は閉じている。エンベロープ61は、その最大容量の状態にある。全ての区画は、物質X及びYが溶解している溶媒を含む。細胞の第1の集団P1 は物質Xの生成を開始し、束14及び膨張チャンバー31の浸透圧を上昇させる。第2の集団P2 は物質Yの生成を開始し、これによりエンベロープ61内部の浸透圧を低下させる。液体の交換が行われ、液体が第1の糸束14へ向かって流れ、そこから、膨張チャンバー31へ流れ、ピストン30を動かす。ピストンは上昇段階にある。
図4Bは前述のステップの終了時のモータ60を示す。物質Yの濃度は、第1の糸束14内で最小であり、エンベロープ61の内部で最大である。逆に、物質Xの濃度は、第1の糸束14内で最大であり、エンベロープ61内で最小である。種々の区画は、サイクルの開始時と比較して酸素濃度が減少し、二酸化炭素濃度はサイクルの開始時の濃度よりも高い。
図4Cでは、バルブ74、76は開かれ、第2の糸束62と剛性カーター64への外部流体との連通が可能になる。その結果、ガス濃度が全ての区画で等しい。同様に、グルコース濃度は、エンベロープ61と外部流体との間で等しく、ピストン位置は変化しない。
次に、バルブ74、76は閉じ、出口チャンバー34が開き、膨張チャンバー31とエンベロープ61との間を直接的に連通させることが可能である。膨張チャンバー31内の圧力は降下し、復元スプリングはピストン30をその初期位置へ戻し、溶媒を膨張チャンバー31からエンベロープ61へ排出する。ピストンは、いわゆる下降段階にある。第1の糸束14は、かくして、エンベロープ61の内部と連通する。物質X及びYの濃度は二つの区画の間で同一になる。
図4Dはピストン30の下降段階の終了時のモータ60を示す。このとき、バルブ64は閉じ、サイクルは終了する。
浸透圧モータの第4実施例の変形は、自動車車両の車輪を駆動するモータとして使用される。この変形によれば、例えば、車輪ドライブシャフト、同様に、サーマルモータのピストンとクランクシャフトとの間の連結部へのロッドによって、スプリングは抑圧され、ピストンは連結される。駆動力は、ピストンの上昇段階、すなわち、膨張チャンバーの膨張段階に対応する。下降段階では、膨張チャンバーの容積が減少するとき、ピストンには、溶媒が膨張チャンバーの排出バルブを通過する時に相当する小さい抵抗力が加わる。有利には、少なくとも二つの浸透圧モータは、一方が膨張段階にあり他方が収縮段階にあるモータの膨張チャンバーが逆に動作するように、ドライブシャフトを駆動するため平行に配置される。
前述のモータは、更に、車両の制動中に出力を回収するためにも使用される。この事例では、モータは、供給バルブと呼ばれ、第1の糸束と膨張チャンバーとの間に配置された補助的なバルブを備える。車輪を駆動するモータの動作中に、供給バルブは開いているので、モータは前述の如く動作する。
制動の場合、ピストンが上昇段階にあるとき、供給バルブは閉じ、排出バルブは開くので、膨張チャンバーはあまり苦労を要することなく液体で満たされる。変形可能なエンベロープに収容された液体の大部分は、種々の区画の濃度を変化させることなく、膨張チャンバーに浸入する。次に、供給バルブが開き、排出バルブが閉じる。ピストンが車輪によって駆動されるドライブシャフトの作用で下降するとき、膨張チャンバーに収容された液体は、糸束を通して追い出され、エンベロープに達する。このように発生した仕事は、車両の減速と、物質X及びYの濃度の変化の両方を可能にする。実際上、第1の糸束のオスモル濃度は、変形可能なエンベロープ内のオスモル濃度が減少するときに増加する。
従って、モータが再び車輪駆動モータとして動作し、供給バルブが開くとき、モータサイクルはより高い効率で再開される。実際上、区画間の濃度差は、圧力差を生じ、それにより、サイクルはより速く終了するであろう。
当然ながら、本発明は、当業者によって容易に種々の代替、変形、及び、改良がなされる可能性がある。特に、モータの第2及び第3実施例に関して、膨張チャンバーは、前述の第1実施例の変形に従って形成してもよい。
更に、各エンクロージャ12、42、62は、糸束以外で形成してもよい。エンクロージャは、エンクロージャ壁の両側で溶質と溶媒との十分な交換を可能にさせ、遺伝子操作された細胞の集団によるエンクロージャのコロニー形成を簡単化する形状であればどのような形状でもよい。
その上、各バルブ34、74、76は、あらゆる公知の構造タイプでもよい。各バルブの開閉は、例えば、モータの外部装置によって、同期式若しくは非同期式に制御されてもよく、又は、モータの区画内の圧力が所定値を上回るときバルブのその構造によって自動的に始動してもよい。