JP2005507235A - 遺伝子発現プロフィールとタンパク質発現プロフィールを相関させる方法 - Google Patents
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Abstract
本発明は、細胞における遺伝子およびタンパク質の発現を相関させるための方法に関する。生物学的サンプルにおける遺伝子およびタンパク質の発現を相関させる方法であって、該方法は、以下の工程:a)該生物学的サンプルを獲得する工程;b)該サンプルの遺伝子発現プロフィールを作製し、それによって、該サンプルにおいて発現されるmRNAを同定する工程;c)該mRNAによってコードされるポリペプチドの物理化学的特性を同定する工程;d)該物理化学的特性に基づいて、該サンプル中のポリペプチドを分画する工程;ならびにe)該分画されたタンパク質の中から、該mRNAによってコードされるポリペプチドを同定する工程であって、該同定されたポリペプチドが、該物理化学的特性を有する、工程、を包含し、それによって、該サンプルにおける遺伝子およびタンパク質の発現を相関させる。
Description
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2001年2月16日に出願されたUSSN60/269,772の優先権を主張する。この出願は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(連邦政府による援助を受けた研究および開発の下で成された発明に対する権利に関する宣言)
適用なし。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
ゲノミクス(genomics)は、ある種の遺伝子ゲノムの集合的なセットの研究、ならびに異なる細胞および同一細胞における、一時的な、発達的な、および変化する環境条件下でのその遺伝子の機能および活性の研究である。異なる遺伝子の機能および活性は、身体中での特殊化された活性についての細胞の発達および健常な細胞から病理的な細胞への細胞のトランスフォーメーションにおいて重要な役割を果たす。
【0004】
細胞中での遺伝子情報の発現は、中間分子であるmRNAの転写を通じて実施される。細胞は、発現されたmRNAをポリペプチドまたはタンパク質に翻訳する。タンパク質は、遺伝子によりコードされる大部分の機能を発揮する。ある種のタンパク質(プロテオーム)の集合的なセット、ならびに細胞中でのそれらのタンパク質の活性および機能の研究は、「プロテオミクス(proteomics)」と呼ばれる生物学の新たな分野の主題である。
【0005】
細胞の特徴は、その細胞により発現される遺伝子に依存するので、遺伝子発現プロファイリングは、ゲノミクスにおいて重要な方法となっている。遺伝子発現プロファイリングは、細胞中でどの遺伝子が発現されるかおよびそれらの発現のレベルを決定することを試みる。従って、細胞の遺伝子発現プロフィールは、細胞の特徴である「フィンガープリント」を提供し、これは、細胞の同定およびその活性の両方を示す。異なる細胞の遺伝子発現プロフィールの比較は、「示差的遺伝子発現」と呼ばれるプロセスである。この方法は、細胞の異なる表現型を担う遺伝子についての情報を提供し得る。健常な細胞と病理的な細胞において示差的に発現される遺伝子は、診断マーカーとして機能し得、そして治療的介入のための候補標的である。従って、異なる細胞型における遺伝子発現の正確なプロフィールを獲得することが、重要な目的である。
【0006】
現在、細胞の遺伝子発現プロフィールを生成するために使用される多くの方法が存在する。これらの方法として、ノーザンブロット、RT−PCR、ヌクレアーゼ保護、ディファレンシャルディスプレイ、cDNAフィンガープリント法、およびサブトラクティブハイブリダイゼーションのような伝統的な方法、ならびに発現配列タグの生成または「EST」ライブラリーおよびアレイ、cDNAアレイ、mRNAアレイ、オリゴヌクレオチドアレイ、および遺伝子発現の連続分析または「SAGE」のような新たな技術が挙げられる(一般的には、LockharおよびWinzeler、Nature 405:827−836(2000)を参照のこと;Velculescuら、Science 270:484−487(1995)もまた参照のこと)。
【0007】
1つの例において、核酸アレイ(例えば、オリゴヌクレオチドアレイ)が、発現プロファイリングのために使用される。これらのアレイは、固体支持体上の予め決定され、アドレス可能な位置に結合された、特別に選択されたオリゴヌクレオチドの集合である。特定の実施形態において、これらのアレイは、ゲノム中の各々の既知の遺伝子を特異的に同定するオリゴヌクレオチドを含む。細胞から獲得されたメッセンジャーRNAまたはcDNAが、このアレイに適用される。各mRNAまたはcDNAは、それらが転写された特定の遺伝子に対応するオリゴヌクレオチドとハイブリダイズする。各々の固定されたオリゴヌクレオチドの同一性および位置は予め決定されているので、各々のハイブリダイゼーション現象は、特定の遺伝子がその細胞により発現されていることを示す。オリゴヌクレオチドアレイの1つの市販版は、AffymetrixのGeneChipTMである。市販のアレイ法のさらに別の例において、アレイまたは細胞でコーティングされたビーズが、光学センサ分子にそれぞれ取り付けられている。アドレスを提供するために、次いで、このビーズは、光ファイバー束のファイバーの末端でウェルに引き込まれている(例えば、Bead ArrayTM(Illumina)を参照のこと)。さらに別の実施形態において、アレイは、ESTライブラリーから作製され得る。ESTライブラリーは、細胞中で発現されたmRNAのセットを逆転写することにより作製される。頻繁に、mRNA全体が逆転写されず、その十分な部分は、そのmRNAを発現した遺伝子を固有に同定する。ESTは、配列決定されており、そしてゲノムデータベースにおいて同定されている。
【0008】
既存の遺伝子発現技術の能力にも関わらず、以下の多くの理由で、mRNA転写のレベルは、必ずしもタンパク質発現のレベルと直接的に相関しないことが理解される:(1)異なるmRNAは、異なる効率でポリペプチドに翻訳され得る;(2)mRNAは、異なる細胞において示差的にスプライシングされて、異なるタンパク質が生成され得る;(3)発現されたポリペプチドは、異なる速度で分解され得る;および(4)ポリペプチドは、翻訳後修飾に供され得、その結果、同一のポリペプチドは、同一細胞および異なる細胞において異なる形態または機能であると推測され得る。従って、mRNA発現とタンパク質発現を相関させる必要性が存在する(例えば、Hancockら、Anal.Chem.News & Features、November 1、1999、742A〜748A頁;Nelsonら、Electrophoresis 21:1823−1831(2000)を参照のこと)。
【0009】
同時に、タンパク質発現プロファイリングの現在の方法(例えば、質量分析、2Dゲル電気泳動、およびクロマトグラフィー)は、感度および分解能における制限に悩まされ得る(例えば、Pandey & Mann、Nature 405:837−846(2000)を参照のこと)。従って、本発明は、遺伝子発現プロファイリングとタンパク質プロファイリングを組み合わせてより迅速および正確に特定の細胞型における目的のタンパク質を同定することにより、この問題に取り組む。遺伝子発現プロファイリングは、候補転写物または細胞中で発現される転写物を選択するために使用される。転写物は、代表的に、配列決定され、そしてコードされるタンパク質のアミノ酸配列を推定するために使用される。次いで、アミノ酸配列は、転写物によりコードされるタンパク質の生理化学的(physio−chemical)特徴(例えば、分子量、等電点、疎水性、親水性、グリコシル化、リン酸化、エピトープ配列、リガンド結合配列、特定pHでの電荷、または金属キレート結合)を予測および同定するために使用される。次いで、この生理化学的特徴は、タンパク質プロファイリングの感度および分解能を改善するために使用され、それによって、特定の細胞型において発現されるmRNAによりコードされるタンパク質についての改善された情報を提供する。本発明は、このような相関を作成するための方法を提供し、他の利点もまた提供する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の要旨)
従って、本発明は、遺伝子発現とタンパク質発現を相関させるための方法を提供する。この方法は、サンプルに対する遺伝子発現プロファイリングを実施する工程、さらなる研究のために1つ以上の発現された遺伝子を選択する工程、これらの遺伝子によりコードされるタンパク質に特徴的な生理化学的特性を決定する工程、およびこの生理化学的特性を、サンプルのタンパク質発現プロファイリングにおける識別子として使用して、タンパク質がサンプル中で発現されるか否かを決定する工程を包含する。特定の実施形態において、選択された遺伝子は、2つの細胞または目的のサンプル(例えば、健常な細胞および病理的な細胞、または細胞周期、成熟、示差的経路の異なる段階もしくは異なる環境条件下の2つの細胞)において示差的に発現される。好ましい実施形態において、タンパク質は、質量分析を用いて分画される。別の好ましい実施形態において、タンパク質は、SELDI(表面活性化レーザー脱離イオン化法)を用いて分画される。
【0011】
従って、本発明の方法は、薬物送達のための標的タンパク質の同定、診断マーカーの同定、疾患状態(例えば、癌(例えば、前立腺、胸部、肺、膀胱、卵巣、結腸、脳、および腎臓);癌転移;糖尿病(若年性および後期発症性の両方);自己免疫疾患(例えば、慢性関節リウマチおよび多発性硬化症);心臓疾患(例えば、心筋梗塞、アテローム硬化、および心筋症);脳血管疾患(例えば、発作);腎臓疾患;肺疾患(例えば、気腫);ウイルス感染(例えば、HIV、HCV、CMV、HPV、HBV);細菌感染(例えば、M.tuberculosis、毒素原性E.coli、Streptococcus sp.、Staphylococcus sp.);真菌感染;原生生物感染(例えば、マラリア、住血吸虫症、シャーガス病)に有用である。本発明の方法はまた、異なる対立遺伝子の発現産物を調査するために(例えば、薬理遺伝学用途に)有用である。本発明の方法はまた、毒物学研究のため、および変化した環境条件(例えば、照射(例えば、UV照射)、熱さ、および冷却)への細胞の暴露の効果を調査するために有用である。
【0012】
(図面の簡単な説明)
適用なし。
【0013】
(発明の詳細な説明)
(導入)
本発明は、RNAとタンパク質の発現プロファイリングを組み合わせて、異なる条件下(例えば、細胞周期の異なる時点)、変化した条件下(例えば、イオン流入または流出;毒素;薬物;リガンド;例えば、ホルモン、サイトカイン、またはケモカイン;あるいは病原(例えば、ウイルス、細菌、原生生物、または真菌)への暴露)、変化した病理学的条件下(例えば、癌)成熟および分化の間の異なる時点、生物の発達の間の異なる時点、応答(例えば、炎症)の間、異なる組織型または器官において、異なる病理学的条件下(例えば、癌または自己免疫疾患)、異なる表現型特性を有する個体間(例えば、特定の薬学的薬物に対する応答体(responder) 対 非応答体)など)の細胞中で発現される遺伝子およびタンパク質を同定する方法を提供する。本発明の方法は、例えば、当業者が、細胞または生物学的サンプル中で発現される候補遺伝子のリストを同定することを可能にし、次いで、本発明の方法を用いて目的の遺伝子によりコードされる目的のタンパク質のサブセットをさらに同定することを可能にする。本発明の方法はまた、mRNA発現に関連する情報を、そのmRNAによりコードされるタンパク質の発現および機能と結び付けるのに有用である。
【0014】
従って、本発明は、細胞中での遺伝子とタンパク質の発現を相関させる方法を提供する。この方法は、生物学的サンプルを獲得する工程;サンプルの遺伝子発現プロフィールを生成し、それによってサンプル中で発現される1つ以上のmRNAを同定する工程;そのRNAによりコードされるポリペプチドの1つ以上の生理化学的特性を予測および同定する工程;ならびにサンプル中のポリペプチドを分画することによって、そのmRNAによりコードされる1つ以上のポリペプチド(このポリペプチドは、サンプル中での生理化学的特性を含む)を同定する工程を包含し、それによって、サンプル中での遺伝子とタンパク質の発現を相関させる。
【0015】
1つの実施形態において、遺伝子発現プロフィールを生成する工程は、ESTアレイ、mRNAアレイ、またはオリゴヌクレオチドアレイを用いて発現されるmRNAを同定する工程を包含する。
【0016】
別の実施形態において、ポリペプチドを同定する工程は、2−D電気泳動、クロマトグラフィー、質量分析、またはSELDIを用いてサンプル中のポリペプチドを分画する工程を包含する。
【0017】
別の実施形態において、生理化学的特性は、アミノ酸配列、分子量、等電点、疎水性、親水性、電荷(例えば、等電点)、グリコシル化、リン酸化、エピトープ配列、または抗体結合、リガンド結合、色素結合、および金属キレート結合からなる群より選択される。別の実施形態において、生理化学的特性を同定する工程は、選択されたタンパク質分解剤によるコードされるポリペプチドの分解の際に、コードされるポリペプチドにより生成されるタンパク質分解フラグメントの質量を予測する工程を包含し、そしてポリペプチドを同定する工程は、サンプル中のポリペプチドを、薬剤による分解に供する工程および予測されたフラグメントの質量と対応する質量を有するサンプル中の実際のタンパク質分解フラグメントを同定する工程を包含する。
【0018】
別の実施形態において、サンプルは、ヒト細胞を含む。別の実施形態において、サンプルは、正常または健常な細胞由来の細胞溶解物を含む。別の実施形態において、サンプルは、病理学的細胞由来の細胞溶解物を含む。別の実施形態において、サンプルは、毒性化合物と接触された細胞由来の細胞溶解物を含む。別の実施形態において、生物学的サンプルは、薬物処置に対して応答する被験体または薬物処置に対して応答しない被験体の細胞由来の細胞溶解物を含む。
【0019】
1つの実施形態において、サンプルはヒト由来の組織である。別の実施形態において、mRNAは、2つの生物学的サンプルにおいて示差的に発現される。別の実施形態において、2つの生物学的サンプルは、正常または健常な細胞および病理学的な細胞(例えば、癌細胞)である。別の実施形態において、2つの生物学的サンプルは、健常な細胞および毒性化合物に曝された細胞から獲得される。
【0020】
別の実施形態において、サンプルは生検;培養細胞(例えば、形質転換細胞、細胞株由来の細胞、移植片、または初代培養物);血液、血清、痰、便、または尿を含む。
【0021】
本発明の好ましい局面において、この方法は、生物学的サンプルを獲得する工程;核酸アレイを用いて細胞の遺伝子発現プロフィールを生成し、それによって細胞中で発現される1つ以上のmRNAを同定する工程;mRNAによりコードされるポリペプチドの1つ以上の生理化学的と特性を同定する工程;および質量分析により、サンプル中のポリペプチドを分画することによって、この生理化学的特性を含むポリペプチドを同定する工程を包含し、それによって細胞における遺伝子とタンパク質の発現を相関させる。
【0022】
本発明の好ましい局面において、この方法は、細胞を含む生物学的サンプルを獲得する工程;オリゴヌクレオチドアレイを用いて細胞の遺伝子発現プロフィールを生成し、それによって細胞中で発現される1つ以上のmRNAを同定する工程;mRNAによりコードされるポリペプチドの1つ以上の生理化学的と特性を同定する工程;およびSELDI(SELDIは、固相に結合した吸着剤における親和性保持による分画、その後の空気相イオン分光測定による固相からの保持タンパク質の分画を含む)により、サンプル中のポリペプチドを分画することによって、この生理化学的特性を含むポリペプチドを同定する工程を包含し、それによって細胞における遺伝子とタンパク質の発現を相関させる。
【0023】
1つの実施形態において、この方法は、サンプル中で発現されるmRNAまたはタンパク質のいずれかを同定するために、1つ以上の技術を使用することを包含する。
【0024】
1つの実施形態において、ゲノミクスアレイは、ハウスキーピング遺伝子の発現と、他の組織特異的遺伝子の発現を比較する。1つの実施形態において、ゲノミクスアレイは、示差的なレベルの遺伝子発現を比較する。1つの実施形態において、ゲノミクスアレイは、類似のレベルの遺伝子発現を比較する。
【0025】
(定義)
他に規定されない限り、本明細書中で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明の属する分野の当業者により一般的に理解されている意味を有する。以下の参考文献は、当業者に本発明において使用される多くの用語の一般的な定義を提供する:Singletonら、Dictionary of Microbiology and Molecular Biology(第2版、1994);The Cambridge Dictionary of Science and Technology(Walker編、1988);The Glossary of Genetics、第5版、R.Riegerら(編)、Springer Verlag(1991);およびHale & Marham、The Harper Collins Dictionary of Biology(1991)。本明細書中で使用する場合、以下の用語は、他に特定されない限り、それらに基づく意味を有する。
【0026】
「生物学的サンプル」は、ウイルス、細胞、組織、器官、または生物(真核生物または原核生物のいずれか)から獲得されるサンプルをいい、細胞、組織または器官溶解物もしくはホモジネート、あるいは体液サンプル(例えば、血液、尿、痰、または脳脊髄液)が挙げられるがこれらに限定されない。このようなサンプルとして、ヒトから単離された組織、またはそれらに由来する移植片、初代細胞、および形質転換細胞の培養物が挙げられるがこれらに限定されない。生物学的サンプルはまた、組織の切片(例えば、組織学的目的で採取された凍結切片)を含み得る。生物学的サンプルは、真核生物(例えば、真菌、植物、昆虫、原生生物、鳥類、魚類、爬虫類、および好ましくは哺乳動物(例えば、ラット、マウス、ウシ、イヌ、モルモット、またはウサギ))から獲得され得、最も好ましくは、霊長類(例えば、チンパンジーまたはヒト)から獲得され得る。
【0027】
「生体ポリマー」は、生物学的起源のポリマー(例えば、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、多糖、またはポリグリセリド(例えば、ジグリセリドまたはトリグリセリド))をいう。
【0028】
「ポリペプチド」は、アミノ酸残基のポリマー、関連する天然に存在する構造的改変体、および合成性の天然に存在しないペプチド結合により連結されたそのアナログ、関連する天然に存在する構造的改変体、および合成性の天然に存在しないそのアナログで構成されるポリマーをいう。合成ポリペプチドは、例えば、自動ポリペプチド合成機を用いて合成され得る。用語「タンパク質」は、代表的に、大きなポリペプチドをいう。用語「ペプチド」は、代表的に、短いポリペプチドをいう。
【0029】
「ポリヌクレオチド」または「核酸」は、ヌクレオチド単位で構成されるポリマーをいう。ポリヌクレオチドとして、天然に存在する核酸(例えば、デオキシリボ核酸(「DNA」)およびリボ核酸(「RNA」))ならびに核酸アナログが挙げられる。核酸アナログとして、天然に存在しない塩基、天然に存在するホスホジエステル結合以外で他のヌクレオチドと連結されたヌクレオチドまたはホスホジエステル結合以外の連結を通して結合された塩基を含む核酸アナログが挙げられる。従って、ヌクレオチドアナログとして、例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロトリエステル、ホスホルアミデート、ボラノホスフェート、メチルホスホネート、キラル−メチルホスホネート、2−O−メチルリボヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA)などが挙げられるがこれらに限定されない。このようなポリヌクレオチドは、例えば、自動DNA合成機を用いて合成され得る。用語「核酸」は、代表的に、大きなポリヌクレオチドをいう。用語「オリゴヌクレオチド」は、代表的に、短いポリヌクレオチドをいい、一般的に、約50ヌクレオチド以下である。ヌクレオチド配列がDNA配列(すなわち、A、T、G、C)により表される場合、これはまた、「T」が「U」で置換されたRNA配列(すなわち、A、U、G、C)も含む。
【0030】
「検出可能部分」または「標識」は、分光手段、光化学手段、生化学手段、免疫化学手段、または化学手段により検出可能な組成をいう。例えば、有用な標識として、32P、35S,蛍光色素、電子密度試薬、酵素(例えば、ELISAにおいて一般的に使用されるような酵素)、ビオチン−ストレプトアビジン、ジオキシゲニン、抗血清またはモノクローナル抗体が利用可能なハプテンおよびタンパク質、または標的に相補的な配列を有する核酸分子が挙げられる。検出可能部分は、しばしば、サンプル中で結合した検出可能部分の量を定量するために使用され得る測定可能なシグナル(例えば、放射活性シグナル、発色シグナル、または蛍光シグナル)を生成する。この検出可能部分は、プライマーまたはプローブに、共有結合によるかまたはイオン結合、ファンデルワールス結合、もしくは水素結合を通じて組込まれるかまたは取り付けられ得る(例えば、放射活性ヌクレオチド、またはストレプトアビジンにより認識されるビオチニル化ヌクレオチドの組込み)。検出可能部分は、直接的にかまたは間接的に検出可能であり得る。間接的な検出は、検出可能部分への、第2の直接的または間接的な検出可能部分の結合を含み得る。例えば、検出可能部分は、結合パートナーのリガンド(例えば、ストレプトアビジンに対する結合パートナーであるビオチン、または特異的にハイブリダイズし得る相補鎖に対する結合パートナーであるヌクレオチド配列)であり得る。結合パートナーは、それ自体が直接的に検出可能であり得る(例えば、抗体は、それ自体が、蛍光分子で標識され得る)。結合パートナーはまた、間接的に検出可能であり得る(例えば、相補的なヌクレオチド配列を有する核酸は、他の標識された核酸分子とのハイブリダイゼーションを通してその後検出可能となる分枝状DNA分枝の一部であり得る)(例えば、Fahrlander & Klausner、Biotechnology 6:1165(1988)を参照のこと)。シグナルの定量は、例えば、シンチレーション計数、デンシトメトリー、またはフローサイトメトリーにより達成され得る。
【0031】
用語「単離された」「精製された」または「生物学的に純粋な」は、その天然の状態で見出される通常それに付随する要素を実質的または本質的に含まない物質をいう。純粋および均一性は、代表的に、分析化学技術(例えば、ポリアクリルアミドゲル電気泳動または高速液体クロマトグラフィー)を用いて決定される。調製物中に存在する優先的な種であるタンパク質または核酸は、実質的に精製されている。特に、単離された核酸は、その遺伝子に隣接し、その遺伝子によりコードされるタンパク質と異なるタンパク質をコードするオープンリーディングフレームから分離されている。用語「精製された」は、核酸またはタンパク質が、電気泳動ゲルにおいて本質的に1つのバンドを生じることを意味する。特に、用語「精製された」は、核酸またはタンパク質が、少なくとも85%純粋、より好ましくは少なくとも95%純粋、および最も好ましくは少なくとも99%純粋であることを意味する。
【0032】
「精製する」または「精製」は、精製される組成物から少なくとも1つの混入物を除去することを意味する。精製は、精製された化合物が、100%純粋であることを必要としない。
【0033】
用語「組換え体」は、例えば、細胞、または核酸、タンパク質、またはベクターを指して使用する場合、その細胞、核酸、タンパク質、またはベクターが、異種核酸もしくは異種タンパク質の導入またはネイティブ核酸にもしくはタンパク質の変更により改変されていることを示すか、あるいはその細胞がそのように改変された細胞に由来することを示す。従って、例えば、組換え細胞は、ネイティブ(非組換え)形態の細胞中では見出されない遺伝子を発現するか、またはそうでなければ異常に発現されるか、過小に発現されるか、もしくは全く発現されないネイティブ遺伝子を発現する。
【0034】
「組換えポリヌクレオチド」は、天然では一緒に連結されない配列を有するポリヌクレオチドをいう。増幅または構築された組換えポリヌクレオチドは、適切なベクター中に含まれ得、そしてベクターは、適切な宿主細胞を形質転換するために使用され得る。組換えポリヌクレオチドを含む宿主細胞は、「組換え宿主細胞」と呼ばれる。次いで、この遺伝子は、組換え宿主細胞中で発現されて、例えば、「組換えポリペプチド」を産生する。組換えポリヌクレオチドは、非コード機能(例えば、プロモーター、複製起点、リボソーム結合部位など)としても役立ち得る。適切な単細胞宿主として、真核生物または哺乳動物ポリヌクレオチドを発現するのに慣用的に使用される任意の単細胞宿主(例えば、原核生物(例えば、E.coli);および真核生物(真菌(例えば酵母)を含む);および哺乳動物細胞(昆虫細胞(例えばSf9)および動物細胞(例えば、CHO、R1.1、B−W、L−M、African Green Monkey Kideney細胞(例えば、COS1、COS7、BSC1、BSC40、およびBMT10)を含む)ならびに培養ヒト細胞)が挙げられる。
【0035】
用語「異種」は、核酸の部分を指して使用する場合、その核酸が、天然で互いに同一の関係で見出されない2つ以上の配列を含むことを示す。例えば、核酸は、代表的に、組換え生成され、関連しない遺伝子由来の2つ以上の配列が、新たな機能的核酸(例えば、1つの供給源由来のプロモーターおよび別の供給源由来のコード配列)を生成するよう配置される。同様に、異種タンパク質は、天然で互いに同一の関係で見出されない2つ以上のタンパク質を含むことを示す(例えば、融合タンパク質)。
【0036】
句「選択的(または特異的)にハイブリダイズする」は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下での特定のヌクレオチド配列のみへの分子の結合、二重鎖形成、またはハイブリダイズ(その配列が複雑な混合物(例えば、総細胞またはライブラリーDNAもしくはRNA)に存在する場合)をいう。
【0037】
句「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」は、プローブが、その標的配列にハイブリダイズするが、代表的には核酸の複雑な混合物中で他の配列にはハイブリダイズしない条件をいう。ストリンジェントな条件は、配列依存的であり、異なる環境で異なる。より長い配列は、より高い温度で特異的にハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションに対する広範な手引きは、Tijssen、Techniques in Biochemistry and Molecular Biology−−Hybridization with Nucleic Probes、「Overview of principle of hybridization and the strategy of nucleic acid assays」(1993)に見出される。一般的に、ストリンジェントな条件は、規定されたイオン強度pHでの特定の配列に対する熱融解温度(Tm)よりも約5〜10℃下で選択される。Tmは、標的に相補的なプローブの50%が平衡状態で(標的配列は過剰に存在するので、Tmにて、プローブの50%は平衡状態となる)標的配列にハイブリダイズする温度(規定されたイオン強度、pH、および核酸濃度下)である。ストリンジェントな条件は、塩濃度が、pH7.0〜8.3で、約1.0M未満のナトリウムイオン、代表的には、約0.01〜1.0M ナトリウムイオン濃度(または他の塩)であり、そして温度が、短いプローブ(例えば、10〜50ヌクレオチド)については少なくとも約30℃、長いプローブ(例えば、50より長いヌクレオチド)については少なくとも約60℃である条件である。ストリンジェントな条件はまた、不安定化剤(例えば、ホルムアミド)の添加により達成され得る。高ストリンジェンシーハイブリダイゼーションについて、ポジティブシグナルは、バックグラウンドの少なくとも2倍、好ましくは、バックグラウンドの10倍のハイブリダイゼーションである。高ストリンジェンシーまたはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例として、以下が挙げられる:42℃でインキュベートされた50%ホルムアミド、5×SSC、および1% SDS、または65℃でインキュベートされた5×SSCおよび1% SDS、ならびに65℃の0.2×SSCおよび0.1% SDS中での洗浄。PCRについて、約36℃の温度が、低ストリンジェンシーの増幅について代表的であるが、アニーリング温度は、プライマー長に依存して約32℃と約48℃との間で変化し得る。高ストリンジェンシーのPCR増幅について、約62℃の温度が代表的であるが、高ストリンジェンシーのアニーリング温度は、プライマーの長さおよび特異性に依存して約50℃〜約65℃の範囲であり得る。高ストリンジェンシーおよび低ストリンジェンシーの両方の増幅についての代表的なサイクル条件は、90℃〜95℃で30秒〜2分間の変性段階、30秒〜2分間のアニーリング段階、および約72℃で1〜2分間の伸長段階を含む。
【0038】
「複数」は、少なくとも2である。
【0039】
「リガンド」は、標的分子に特異的に結合する化合物である。
【0040】
「レセプター」は、リガンドに特異的に結合する化合物を意味する。
【0041】
「抗体」は、免疫グロブリン由来のフレームワーク領域または抗原に特異的に結合および認識するそのフラグメントを含むポリペプチドをいう。認識される免疫グロブリン遺伝子として、κ、λ、α、γ、δ、ε、およびμ定常領域遺伝子、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が挙げられる。軽鎖は、κまたはλのいずれかとして分類される。重鎖は、γ、μ、α、δ、またはεとして分類され、これらは、それぞれ、免疫グロブリンクラスIgG、IgM、IgA、IgD、およびIgEを規定する。この用語はまた、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単鎖抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、およびそれらのフラグメントを包含する。
【0042】
例示的な免疫グロブリン(抗体)の構造単位は、テトラマーを含む。各テトラマーは、ポリペプチド鎖の2つの同一の対からなり、各対が、1つの「軽」鎖(約25kD)および1つの「重」鎖(約50〜70kD)を有する。各鎖のN末端は、主として抗原認識を担う、約100〜110以上のアミノ酸の可変領域を規定する。用語可変軽鎖(VL)および可変重鎖(VH)は、それぞれ、これらの軽鎖および重鎖をいう。
【0043】
抗体は、例えば、インタクトな免疫グロブリンとして、または種々のペプチダーゼで消化することによって生成される、多数の十分に特徴付けられたフラグメントとして、存在する。従って、例えば、ペプシンは、ヒンジ領域におけるジスルフィド結合の下流で抗体を消化して、F(ab)’2を生成し、これは、それ自体がジスルフィド結合によってVH−CH1に結合した軽鎖である、Fabのダイマーである。F(ab)’2は、マイルドな条件下で還元されて、ヒンジ領域のジスルフィド結合を破壊し得、これによって、F(ab)’2ダイマーをFab’モノマーに転換する。Fab’モノマーは、本質的に、ヒンジ領域の一部を有するFabである(Fundamental Immunology(Paul編,第3版、1993)を参照のこと)。種々の抗体フラグメントが、インタクトな抗体の消化の観点から規定されているが、当業者は、このようなフラグメントが、化学的にか、または組換えDNA方法論の使用によってかのいずれかで、デノボで合成され得ることを理解する。従って、用語抗体とはまた、本明細書中において使用される場合、抗体全体の改変によって生成した抗体フラグメント、または組換えDNA方法論を使用してデノボで合成されたもの(例えば、単鎖Fv)もしくはファージディスプレイライブラリーを使用して同定されたもの(例えば、McCaffertyら、Nature 348:552−554(1990)を参照のこと)のいずれかの抗体フラグメントを包含する。
【0044】
モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体の調製のために、当該分野において公知の任意の技術が使用され得る(例えば、KohlerおよびMilstein,Nature 256:495−497(1975);Kozborら、Immunology Today 4:72(1983);Coleら、pp.77−96、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,Inc.(1985)を参照のこと)。単鎖抗体の生成のための技術(米国特許第4,946,778号)が、本発明のポリペプチドに対する抗体を生成するために適合され得る。また、トランスジェニックマウス、または他の生物(例えば、他の哺乳動物)ヒト化抗体を発現するために使用され得る。あるいは、ファージディスプレイ技術が、選択された抗原に特異的に結合する抗体およびヘテロマーFabフラグメントを同定するために使用され得る(例えば、McCaffertyら、Nature 348:552−554(1990);Marksら、Biotechnology 10:779−783(1992)を参照のこと)。
【0045】
リガンドまたはレセプターが、不均質なの化合物のサンプル中の分析物の存在を決定する結合反応において機能する場合、そのリガンドまたはレセプター(例えば、抗体)は、その化合物分析物「に特異的に結合する」か、またはその化合物分析物「と特異的に免疫反応性である」。従って、指定されたアッセイ(例えば、免疫アッセイ)の条件下で、リガンドまたはレセプターは、特定の分析物に優先的に結合し、そしてそのサンプル中に存在する他の化合物には、有意な量では結合しない。例えば、ポリヌクレオチドは、相補配列を含む分析物ポリヌクレオチドに、ハイブリダイゼーション条件下で特異的に結合する;抗体は、免疫アッセイ条件下で、抗体が惹起されたエピトープを保有する抗原分析物に特異的に結合する;そして吸着剤は、適切な溶出条件下で分析物に特異的に結合する。
【0046】
「薬剤」とは、化合物、化合物の混合物、組成が未決定のサンプル、コンビナトリアル低分子アレイ、生物学的高分子、バクテリオファージペプチドディスプレイライブラリー、バクテリオファージ抗体(例えば、scFv)ディスプレイライブラリー、ポリソームペプチドディスプレイライブラリー、あるいは細菌、植物、真菌、または動物の細胞もしくは組織のような生物学的材料から作製された抽出物をいう。適切な技術としては、ファージベクターまたは類似のベクターにおける組換え抗体のライブラリーの選択が挙げられる(例えば、Huseら、Science 246:1275−1281(1989);およびWardら、Nature 341:544−546(1989)を参照のこと)。Huseによって記載されたプロトコルは、ファージディスプレイ技術と組み合わせて、より効率的にされる(例えば、WO 91/17271およびWO 92/01047を参照のこと)。
【0047】
「発現制御配列」とは、作動可能に連結したヌクレオチド配列の発現(転写および/または翻訳)を調節する、ポリヌクレオチドにおけるヌクレオチド配列をいう。「作動可能に連結した」とは、1つの部分の活性(例えば、転写を調節する能力)が、他方の部分(例えば、配列の転写)への作用を生じる、2つの部分の間の機能的関係をいう。発現制御配列としては、例えば、プロモーター配列(例えば、誘導、抑制、または構成)、エンハンサー、転写ターミネーター、開始コドン(すなわち、ATG)、イントロンのためのスプライシングシグナル、および終止コドンの配列が挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0048】
「発現ベクター」とは、発現されるべきヌクレオチド配列に作動可能に連結した発現制御配列を含む、組換えポリヌクレオチドを含むベクターをいう。発現ベクターは、発現のための十分なシス作用性エレメントを含む;発現のための他のエレメントは、宿主細胞またはインビトロ発現系によって供給され得る。発現ベクターとしては、当該分野において公知の全てのものが挙げられ、例えば、コスミド、プラスミド(例えば、裸であるかまたはリポソーム中に含まれている)、および組換えポリヌクレオチドを組み込むウイルスである。
【0049】
「コードする」とは、生物学的プロセスにおける、ヌクレオチドの規定された配列(すなわち、rRNA、tRNAおよびmRNA)またはアミノ酸の規定された配列およびそこから生じる生物学的特性のいずれかを有する他のポリマーおよび高分子の合成のためのテンプレートとして働く、ポリヌクレオチド(例えば、遺伝子、cDNA,またはmRNA)におけるヌクレオチドの、特定の配列の固有の特性をいう。従って、遺伝子によって生成されたmRNAの転写および翻訳が、細胞または他の生物系においてタンパク質を生成する場合、その遺伝子は、タンパク質をコードする。コード鎖(そのヌクレオチド配列がmRNA配列と同一であり、そして通常、配列表に提供されるヌクレオチオ配列)と、非コード鎖(遺伝子またはcDNAの転写のためのテンプレートとして使用された)との両方が、その遺伝子またはcDNAのタンパク質または他の生成物をコードするといわれ得る。他に特定されない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」とは、互いの分解バージョンである全てのヌクレオチド配列、および同じアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を包含する。タンパク質をコードするヌクレオチド配列およびRNAは、イントロンを含み得る。
【0050】
「エネルギー吸収分子」とは、脱離分光計におけるエネルギー源からのエネルギーを吸収し、これによって、プローブ表面からの分析物の脱離を可能にする分子をいう。MALDIにおいて使用されるエネルギー吸収分子は、頻繁に、「マトリックス」と称される。ケイ皮酸誘導体(例えば、α−4−シアノ−4−ヒドロキシ−ケイ皮酸)、ケイ皮酸(cinnapinic acid)およびジヒドロキシ安息香酸は、生体有機分子のレーザー脱離において、エネルギー吸収分子として頻繁に使用される。
【0051】
「プローブ」とは、気相イオン分光計(例えば、質量分析計)に取り外し可能に挿入可能であり、表面が検出用分析物の存在について適合された基材を含む、デバイスをいう。プローブは、分析の結果として改変され得、そして使い捨てであり得る。
【0052】
「気相イオン分光計」とは、サンプルに電圧が印加され、そしてサンプルがイオン化される場合に形成されるイオンの、質量対電荷の比に変換され得るパラメータを測定する装置をいう。一般に、レーザー脱離/イオン化によって作製されたイオンは、単一の電荷を保有し、そして質量対電荷の比は、しばしば、単に質量といわれる。気相イオン分光計としては、例えば、質量分析計、イオン移動度分光計、および全イオン電流測定デバイスが挙げられる。
【0053】
「質量分析計」とは、入口システム、イオン化源、イオン光学アセンブリ、質量分析器、および検出器を備える、気相イオン分光計をいう。質量分光計の例は、飛行時間型、磁気偏向型、四極子フィルタ、イオントラップ、イオンサイクロトロン共鳴、およびこれらのハイブリッドである。
【0054】
「レーザー脱離質量分析計」とは、分析物を溶解し、気化させ、そしてイオン化させるための手段としてレーザーを使用する、質量分析計をいう。
【0055】
「質量分析法」とは、質量分析計によるサンプルの分析をいう。
【0056】
「四極子飛行時間型質量分析計」とは、イオンが四極子Qに入る前に、エネルギー源によって形成されたイオンを冷却する、衝突ダンピング界面を備える質量分析計をいう。この四極子飛行時間型質量分析計はまた、衝突セルを備え得る。
【0057】
「分析物」とは、望ましくは保持され、そして検出される、サンプルの成分をいう。この用語は、サンプル中の単一の成分または成分のセットをいい得る。
【0058】
「吸着剤」とは、分析物を吸着し得る任意の材料をいう。用語「吸着剤」とは、本明細書中において使用される場合、サンプルが曝露される、分析物が曝露される単一の材料(「モノプレックス(monoplex)吸着剤」)(例えば、化合物または官能基)と、サンプルが曝露される、複数の異なる材料(「マルチプレックス(multiplex)吸着剤」)の両方をいう。マルチプレックス吸着剤における吸着剤材料は、「吸着剤種」と称される。例えば、基材上のアドレス可能な位置は、異なる結合特性を有する多くの異なる吸着剤種(例えば、陰イオン交換材料、金属キレート剤、または抗体)によって特徴付けられる、マルチプレックス吸着剤を含み得る。
【0059】
「吸収する」とは、溶出剤(選択的閾値改変剤)で洗浄する前または後のいずれかの、吸着剤と分析物との間の、検出可能な結合をいう。
【0060】
「基材」とは、吸着剤が付着または沈着される固相をいう。
【0061】
「結合特性」とは、分析物に対する吸着剤の誘引を区別する、化学的および物理的な特徴をいう。2つの吸着剤は、同じ溶出条件下で、その吸着剤が異なる親和性の程度で同じ分析物と結合する場合、異なる結合特性を有する。結合特性としては、例えば、塩によって促進される相互作用の程度、疎水性相互作用の程度、親水性相互作用の程度、静電相互作用の程度、および本明細書中に記載される他のものが挙げられる。
【0062】
「結合条件」とは、分析物が曝露される結合特性をいう。
【0063】
「溶出剤」とは、吸着剤に対する分析物の吸着を媒介するために使用される薬剤(代表的に、溶液)をいう。溶出剤はまた、「選択的閾値改変剤」と称される。
【0064】
「溶出特性」とは、特定の溶出剤(選択的閾値改変剤)が、分析物と吸着剤との間の吸着を媒介する能力を決定する特徴をいう。2つの溶出剤は、分析物および吸着剤を接触させた場合、この吸着剤に対する分析物の親和性の程度が異なる場合、異なる溶出特性を有する。溶出特性としては、例えば、pH、イオン強度、水の構造の改変、界面活性剤強度、疎水性相互作用の改変、および本明細書中に記載される他のものが挙げられる。
【0065】
「溶出条件」とは、分析物が曝露される溶出特性をいう。
【0066】
「選択性特性」とは、特定の結合特性を有する吸着剤、および特定の溶出特性を有する溶出剤の組み合わせの特性をいい、これらの特徴は、溶出液で洗浄した後に、分析物が吸着剤に保持される特異性を規定する。
【0067】
「選択性条件」とは、分析物が曝露される選択性特性をいう。
【0068】
「誘引の基底」とは、1つの分子が別の分子に引き付けられる、化学的特性および/または物理化学的特性をいう。
【0069】
「誘引の強さ」とは、1つの分子の、別の分子に対する引き付けの強度をいう(親和性としてもまた公知)。
【0070】
「分解する」、「分解」、または「分析物の分解」とは、サンプル中の少なくとも1つの分析物の検出をいう。分解は、分離および引き続く差次的検出による、サンプル中の複数の分析物の検出を包含する。分解は、分析物を混合物中の他の全ての分析物から完全に分離することを必要としない。むしろ、少なくとも2つの分析物間の区別を可能にする任意の分離で十分である。
【0071】
「高情報分解」とは、分析物の検出のみでなく、評価されるべき分析物の少なくとも1つの物理化学的特性(例えば、分子量)の検出もまた可能にする様式での、分析物の分解をいう。
【0072】
「脱離分光法」とは、分析物が、この分析物を定常相から気相へと脱離させるエネルギーに曝露され、そして脱離した分析物またはその区別可能な部分が、分析物を第二の定常相において捕捉する中間工程なしに、検出器によって直接検出される、分析物の検出方法をいう。
【0073】
「検出する」とは、検出されるべき物体の存在、非存在または量を同定することをいう。
【0074】
「保持」とは、溶出剤で洗浄した後の、吸着剤による分析物の吸着をいう。
【0075】
「保持データ」とは、特定の選択性条件下で保持された分析物の検出(必要に応じて、検出質量を含む)を示すデータをいう。
【0076】
「保持マップ」とは、複数の選択性条件下で保持された分析物についての保持データを詳述する、値のセットをいう。
【0077】
「認識プロフィール」とは、複数の選択性条件下で、分析物の相対的保持を詳述する値のセットをいう。
【0078】
「複合体」とは、2つ以上の分析物の統合によって形成した分析物をいう。
【0079】
「フラグメント」とは、分析物の化学的分解、酵素的分解、または物理的分解の生成物をいう。フラグメントは、中性状態またはイオン状態であり得る。
【0080】
「差次的発現」とは、分析物の定性的存在または定量的存在の、検出可能な差異をいう。
【0081】
「遺伝子発現プロフィール」とは、生物学的サンプルにおいて発現される、少なくとも1つのmRNAの同定をいう。
【0082】
「物理化学的特性」とは、その分子に特徴的な、分子の物理的または化学的な特性をいう。タンパク質の物理化学的特性としては、アミノ酸配列、分子量、等電点、疎水性、親水性、グリコシル化、リン酸化、エピトープ配列、リガンド結合配列、特定のpHにおける電荷(等電点)、色素結合、および金属キレート結合が挙げられるが、これらに限定されない。物理化学的特性は、例えば、タンパク質プロフィールの分画または単離の識別子または手段として、使用される。例えば、アミノ酸配列の特徴(例えば、ヘキサヒスチジン配列、リガンドの結合モチーフまたは配列、ドメイン、プロテアーゼ切断部位、金属キレート結合部位、またはエピトープ)は、このような配列を含むポリペプチドの分画、単離または同定のために、使用され得る。別の例において、リン酸化されたポリペプチドは、対応するキナーゼもしくはホスホリラーゼとの相互作用を介して、または比色定量酵素反応によって、またはこのポリペプチドのリン酸化部位に結合する抗体によって、分画、単離、または同定され得る。同様に、グリコシル化されたポリペプチドは、結合パートナー、もしくはこのポリペプチドのグリコシル化部位に結合する抗体との相互作用を介して、または炭水化物を認識する抗体によって、またはレクチンによって、または酵素的に、分画、単離、または同定され得る。別の例において、変化するpHの緩衝液および溶液、またはアニオン性樹脂もしくはカチオン性樹脂を使用して、ポリペプチドを、その所定のpHにおける電荷、またはそのpIもしくは等電点に従って、分画、単離または同定し得る。別の例において、変化する親水性の緩衝液、溶液または樹脂を使用して、ポリペプチドを、その親水性または疎水性に基づいて、分画、単離、または同定し得る。別の例において、ポリペプチドの質量もしくは分子量、またはそのポリペプチドのタンパク質分解フラグメントの質量もしくは分子量を使用して、このポリペプチドを単離、同定または分画し得る。
【0083】
「核酸アレイ」とは、アドレス可能な位置(すなわち、区別される、問い合わせ可能なアドレスによって特徴付けられる位置)のアレイをいい、各アドレス可能な位置は、そこに結合された特徴的な核酸を含む。核酸は、本明細書中に規定される任意の核酸であり得、例えば、天然に存在する核酸、または合成核酸(例えば、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド)である。オリゴヌクレオチドアレイにおいて、この核酸は、(例えば、エキソン、EST、または遺伝子の部分、転写物、またはcDNAに対応する)オリゴヌクレオチドである;ESTアレイにおいて、この核酸は、ESTまたはその一部である;mRNAアレイにおいて、この核酸は、mRNAまたはその一部、あるいは対応するcDNAである。オリゴヌクレオチドは、4ヌクレオチド長、6ヌクレオチド長、8ヌクレオチド長、10ヌクレオチド長、または12ヌクレオチド長、しばしば、10ヌクレオチド長、30ヌクレオチド長、40ヌクレオチド長、または50ヌクレオチド長から、約100ヌクレオチド長までであり得る。
【0084】
(遺伝子発現プロファイリング)
本発明の方法における第一の工程は、目的のサンプルの遺伝子発現プロファイリングを実施することである。遺伝子発現プロファイリングとは、細胞における1つ以上のRNA(好ましくは、mRNA)の発現を試験することをいう。しばしば、少なくとも10、100、100、10,000またはその数まで、あるいはそれより多くの異なるmRNAが、単一の実験において試験される。1つの実施形態において、差次的プロファイリング(別の細胞(例えば、異なる表現型を有する細胞、または異なる一次的段階もしくは発生段階の細胞、または異なる環境条件(例えば、物理的条件または化学的条件)に曝露された細胞など)との比較)は、目的の細胞についての有用な情報(例えば、所定の細胞型において優先的にまたは選択的に発現される遺伝子)を提供する。しばしば、目的の遺伝子は、1つの細胞においては高度に発現されるが、別の細胞においては発現されない。別の実施形態において、目的の遺伝子は、異なる細胞において類似の発現パターンを有する。他の実施形態において、目的の遺伝子は、別の細胞と比較して、1つの細胞において低い発現を有する。
【0085】
遺伝子発現を試験するための方法は、常にではないがしばしば、ハイブリダイゼーションに基づき、例えば、ノーザンブロット;ドットブロット;プライマー伸長;ヌクレアーゼ保護;例えば、ヒドロキシアパタイトを使用する、非二重鎖分子のサブトラクティブハイブリダイゼーションおよび単離;溶液ハイブリダイゼーション;フィルタハイブリダイゼーション;RT−PCRおよび他のPCRに関する技術のような増幅技術(例えば、ディファレンシャルディスプレイ、LCR、AFLP、RAPなど)(例えば、米国特許第4,683,195号および同第4,683,202号;PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications(Innisら編,1990);LiangおよびPardee,Science 257:967−971(1992);HubankおよびSchatz,Nuc.Acids Res.22:5640−5648(1994);Peruchoら、Methods Enzymol.254:275−290(1995)を参照のこと);フィンガープリンティング(例えば、制限エンドヌクレアーゼを用いる)(Ivanovaら、Nuc.Acids.Res.23:2954−2958(1995);Kato,Nuc.Acids Res.23:3685−3690(1995);およびShimketsら、Nature Biotechnology 17:798−803,米国特許第5,871,697号もまた参照のこと));ならびに構造特異的エンドヌクレアーゼの使用(例えば、De Francesco,The Scientist 12:16(1998)を参照のこと)が挙げられる。mRNAはまた、以下に記載されるように、質量分析技術(例えば、MALDIまたはSELDI)、液体クロマトグラフィー、およびキャピラリーゲル電気泳動を使用して、分析され得る。
【0086】
これらの技術の一般的な記載については、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual(第2版、1989),例えば、7.37−7.39頁、7.53−7.54頁、7.58−7.66頁および7.71−7.79頁を参照のこと;Kriegler,Gene Transfer and Expression:A Laboratory Manual(1990);ならびにCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubelら編,1994)もまた参照のこと。
【0087】
多数の核酸サンプルの発現分析および配列決定を促進する技術が、開発されている。例えば、核酸アレイが、高密度かつハイスループットの発現分析のために、開発された(例えば、Granjeuadら、BioEssays 21:781−790(1999);LockhartおよびWinzeler,Nature 405:827−836(2000)を参照のこと)。核酸アレイとは、固体基材(例えば、ナイロン、ガラス、またはシリコンウエハ)に結合した、多数(例えば、何百、何千、何万、またはそれより多く)の核酸プローブをいう(例えば、Fodorら、Science 251:767−773(1991);BrownおよびBotstein,Nature Genet.21:33−37(1999);Eberwine,Biotechniques 20:584−591(1996)を参照のこと)。単一のアレイは、例えば、ゲノム全体に対応するプローブ、またはそのゲノムによって発現される全ての遺伝子に対応するプローブを含み得る。アレイ上のプローブは、DNAオリゴヌクレオチドアレイ(例えば、GeneChipTM、例えば、Lipshutzら、Nat.Genet.21:20−24(1999)を参照のこと)、mRNAアレイ、cDNAアレイ、ESTアレイ、または光ファイバー束上の光学的にコードされたアレイ(例えば、BeadArrayTM)であり得る。発現分析のためにこれらのアレイに適用されるサンプルは、例えば、PCR産物、cDNA、mRNAなどであり得る。
【0088】
迅速な配列決定および遺伝子発現の分析のためのさらなる技術としては、例えば、SAGE(遺伝子発現の連続分析)が挙げられる。SAGEについて、短い配列タグ(代表的に、約10〜14bp)は、転写物を独自に同定するために十分な情報を含む。これらの配列タグは、一緒に結合されて長い連続的な分子を形成し得、この分子が、クローニングおよび配列決定され得る。特定のタグが観察される時間の数の定量は、対応する転写物の発現レベルを証明する(例えば、Velculescuら、Science 270:484−487(1995);Velculescuら、Cell 88(1997);およびde Waardら、Gene 226:1−8(1999)を参照のこと)。
【0089】
(物理化学的特性)
本明細書中に記載される場合、これらの技術の各々を単独でかまたは組み合わせて使用して、細胞において発現される目的の候補遺伝子または候補遺伝子のセットを同定し得る。目的の転写物は、当業者に公知の技術を使用して、同定および単離される。このように同定される転写物は、配列決定され、そしてコードされたアミノ酸配列情報を使用して、物理化学的特性(例えば、分子量、等電点、疎水性、親水性、グリコシル化、リン酸化、エピトープ配列、プロテアーゼ断片化、リガンド結合配列、特定のpHにおける電荷、および金属キレート結合)について分析される。しばしば、転写物によってコードされるタンパク質の機能を同定するために、バイオインフォマティクスおよび配列データベースが使用され得る。目的の遺伝子としては、例えば、イオンチャンネル、レセプター(例えば、Gタンパク質共役型レセプター)、サイトカイン、ケモカイン、シグナル伝達タンパク質、ハウスキーピングタンパク質、細胞周期調節タンパク質、転写因子、ジンクフィンガータンパク質、クロマチン再造形タンパク質などが挙げられる。
【0090】
このように同定される物理化学的特性は、転写物の発現レベルを、この転写物によってコードされるタンパク質の発現レベルに相関付けるためのツールである。以下に記載されるタンパク質分析ツールを使用して、目的のタンパク質を分画するために、そのタンパク質の物理化学的特性の1つ以上が使用され得、一方でタンパク質検出のバックグラウンドを減少させ、そして強度を増加させる。この様式で、目的の候補転写物は、コードされるタンパク質の、細胞における発現レベルとさらに相関付けられ得る。この情報を使用して、例えば、診断および治療の適用において使用するための、転写物およびタンパク質のサブセットを選択し得る。
【0091】
(サンプルのタンパク質分画分析)
次いで、サンプル中のポリペプチドは、同定された発現したmRNAによってコードされるポリペプチドの少なくとも1つの物理化学的特性に基づいて、分画される。例えば、ポリペプチドの同定は、そのポリペプチドのいくつかの予測された物理化学的特性を示す。アミノ酸配列は、そのタンパク質の予測分子量を提供する。アミノ酸配列はまた、そのポリペプチドの等電点を予測するため、そのポリペプチドが親水性であるか疎水性であるか、およびそのポリペプチドが金属キレート結合能力を有するか否かを予測するために、使用され得る。アミノ酸配列はまた、そのポリペプチドが、グリコシル化部位またはリン酸化部位を有するか否かを予測し得る。ポリペプチドの翻訳後修飾は、分子量の変化を反映する。アミノ酸配列はまた、エピトープを同定し得、これは次に、抗体結合のための標的であり得る。物理化学的特性の正確な測定は、必ずしも必要ではない;その特徴に基づいて複数のアリコートに分画する際に、そのポリペプチドが、それらのアリコートにおいて優先的に分画されると予測されるように、いくらかの情報を得ることで十分である。
【0092】
次いで、サンプル中のポリペプチドは、そのポリペプチドの物理化学的特性に基づいて、分画される。最も有用な分離方法は、分子量である。なぜなら、この特徴に基づいてタンパク質を分離するための、多くの有用な方法が存在するからである(例えば、SDSゲル電気泳動および気相イオン分光法(例えば、質量分析))。別の有用な物理化学的特性は、等電点である。等電収束法、アフィニティークロマトグラフィーおよびイオン交換樹脂での固相抽出は、サンプル中のタンパク質をこの特性に基づいて分画する。
【0093】
タンパク質を分画する方法は、細胞における選択されたタンパク質の発現レベルを試験するために使用される。上記のように、1つ以上の選択された物理化学的特性の使用は、分画の感度を増大させ得、そしてバックグラウンドを減少させ得る。本明細書中に記載される技術を使用して、細胞において発現した1つ以上のタンパク質(数十個まで、数百個まで、数千個まで、または数万個までのタンパク質)を、試験し得る。任意の1つの技術または複数の技術の組み合わせを使用して、1つ以上の物理化学的特性に基づいて、タンパク質を分画し得る。分画の方法としては、例えば、二次元ゲル;キャピラリーゲル電気泳動;質量分析(例えば、MALDI、SELDI);ICAT(アイソトープコードアフィニティータグ、例えば、Mann,Nature Biotechnology 17:954−955(1999);Gygiら、Nature Biotechnology 17:994−999(1999)を参照のこと);クロマトグラフィー(例えば、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、イムノアフィニティークロマトグラフィー、および金属キレートクロマトグラフィー、HPLC(例えば、逆相HPLC、イオン交換HPLC、およびサイズ排除HPLC);ウェスタンブロッティング;免疫組織化学的技術(例えば、ELISA、および抗体を用いるインサイチュスクリーニングなど)(例えば、BlackstockおよびWeir,Trends in Biotech.17:121−127(1999);DuttおよびLee,Biochemical Engineering,176−179頁(2000年4月);Pageら、Drug Discovery Today 4:55−62(1999);WangおよびHewick,Drug Discovery Today 4:129−133(1999);Regnierら、Trends in Biotech.17:101−106(1999);ならびにPandeyおよびMann,Nature 405:837−846(2000)を参照のこと)が挙げられる。目的のタンパク質は、当業者に公知の技術を使用して、同定および単離される。
【0094】
これらの技術の一般的な記載については、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual(第2版、1989);およびCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubelら編,1994)もまた参照のこと。
【0095】
1つの実施形態において、二次元電気泳動を使用して、本発明のタンパク質を分画し得る。この技術は、pIおよび分子量の物理化学的特性に基づいて、タンパク質を分画する。2dゲル電気泳動および本明細書中に記載される技術を、単独でか、または本明細書中以下に記載される他の技術(例えば、質量分析(例えば、MALDIおよびSELDI))と組み合わせて、使用し得る。
【0096】
以下に記載される別の実施形態において、MALDIは、タンパク質を質量に基づいて分画する、質量分析技術であり、そしてしばしば、分解能を増加させるために、サイズクロマトグラフィーおよびまたはアフィニティークロマトグラフィーの技術と組み合わせられる。
【0097】
以下に記載される別の実施形態において、SELDIは、親和性分別と質量分析法とを組み合わせた質量分析法技術である。例えば、pI(イオン交換樹脂および洗浄)、抗体結合、グリコシル化、リン酸化、ヒスチジン残基などに基づく親和性マトリクスまたはプローブが、質量分析法と組み合わせてSELDIにおいて使用され、高分解能、精度および感度を有するタンパク質を同定する。この技術を使用する場合、候補ポリペプチドを濃縮する親和性マトリクスが、転写物によってコードされるタンパク質の物理化学的特性基づいて決定され得る。
【0098】
(サンプルの質量分析法分析)
(導入)
本発明のポリペプチドまたはそのフラグメントを、質量分析法を用いて分析し得る。この方法は、質量に基づいてポリペプチドを分別する。特定の実施形態において、気相イオン分光光度計が使用される。別の実施形態において、レーザー脱離/イオン化質量分析法を使用して、基材に結合した吸着剤上のサンプルを分析する。
【0099】
現代のレーザー脱離/イオン化質量分析法(「LDI−MS」)は、2つの主なバリエーションで実施され得る:マトリクス支援レーザー脱離/イオン化(「MALDI」)質量分析法および表面増強レーザー脱離/イオン化(「SELDI」)。レーザー脱離/イオン化質量分析法を利用する質量分析計は、四重極飛行時間質量分析計にさらに連結され得る。MALDIにおいて、生物学的分子を含み得る分析物は、マトリクスを含む溶液と混合され、そしてその液体の液滴が、基材表面上に配置される。次いで、このマトリクス溶液は、その生物学的分子と共に同時結晶化される。この基材が、質量分析計に挿入される。レーザーエネルギーは、基材表面に対して指向され、この表面は、その生物学的分子を有意に断片化することなくその生物学的分子を脱離し、そしてイオン化する。しかし、MALDIは、分析ツールとして制限を有する。MALDIは、サンプルを分別するための手段を提供せず、そしてマトリクス材料は、特に低分子量分析物についての検出を妨害し得る。例えば、米国特許第5,118,937号(Hillenkampら)および米国特許第5,045,694号(Beavis & Chait)を参照のこと。
【0100】
SELDIにおいて、基材表面は、脱離プロセスにおける活性な関与物であるように改変される。1つの改変において、表面は、分析物に選択的に結合する親和性試薬で誘導体化される。別の改変において、表面は、レーザーが当たった場合に脱離されないエネルギー吸収分子で誘導体化される。別の改変において、表面は、分析物に結合しかつレーザーを適用した際に壊れる光分解結合を含む分子で誘導体化される。これらの方法の各々において、誘導体化剤は、サンプルが適用される基材表面上の特定の位置に局在化される。例えば、米国特許第5,719,060号および同第5,6020208(Hutchens & Yip)ならびにWO 98/59360、WO 98/59361、およびWO 98/59362(Hutchens & Yip)を参照のこと。この2つの方法は、分析物を捕捉するためにSELDI親和性表面を用い、そしてエネルギー吸収材料を提供するためにその捕捉された分析物にマトリクス含有液体を添加することによって、組み合わされ得る。
【0101】
特定の実施形態において、レーザー脱離/イオン化質量分光光度計は、四重極飛行時間質量分析計QqTOF MSに対して連結される(例えば、Krutchinskyら、WO99/38185を参照のこと)。MALDI−QqTOFMS(Krutchinskyら、WO99/38185;Shevchenkoら(2000)Anal.Chem.72:2132−2141)、ESI−QqTOF MS(Figeysら(1998)Rapid Comm’ns.Mass Spec.12−1435−144)およびチップキャピラリー電気泳動(チップ−CE)−QqTOF MS(Liら(2000)Anal.Chem.72:599−609)のような方法が、これまでに記載されている。
【0102】
1つの実施形態において、質量分析計を使用して、本発明のタンパク質サンプルを分別する。代表的な質量分析計において、ポリペプチド分析物を含む基材が、質量分析計の入口システムに導入される。次いで、この分析物は、レーザー、高速原子衝突、高エネルギープラズマ、エレクトロスプレーイオン化、サーモスプレーイオン化、液体二次イオンMS、電場脱離などのような脱離源によって脱離される。生成された脱離された揮発種は、予め形成されたイオンまたは脱離事象の直接的な結果としてイオン化される中性物質(neutral)からなる。生成されたイオンは、イオン光学アセンブリによって収集され、次いで、質量分析器が、通過するイオンを散乱させ、そして分析する。質量分析器を出るイオンは、検出器によって検出される。
【0103】
次いで、この検出器は、検出されたイオンの情報を質量−対−電荷比に変換する。マーカーまたは他の基材の存在の検出は、代表的に、シグナル強度の検出を含む。これは次に、基材に結合したポリペプチドの量および特徴を反映し得る。質量分析計およびそれらの技術は、当業者に周知である。いかなる当業者も、質量分析計の構成成分のいずれか(例えば、脱離源、質量分析器、検出など)を、本明細書中に記載されるかまたは当該分野で公知の他の適切な構成成分と組み合わされ得ることを理解する。質量分析計に関するさらなる情報は、例えば、Principles of Instrumental Analysis,第3版,Skoog,Saunders College Publishing,Philadelphia,1985;およびKirk−Othmer Encyclopedia of Chemical Technology,第4版,Vol.15(John Wiley & Sons,New York 1995),pp.1071−1094を参照のこと。
【0104】
1つの実施形態において、レーザー脱離飛行時間質量分析計を、本発明の基材を用いて使用する。レーザー脱離質量分析法において、結合マーカーを有する基材が、入口システムに導入される。このマーカーは、イオン化源からのレーザーによって気相中に脱離されそしてイオン化される。生成されたイオンは、イオン光学アセンブリによって収集され、次いで、飛行時間質量分析器において、イオンは、短い高電場を通って加速され、そして高真空チャンバに流される。高真空チャンバの最末端において、加速されたイオンは、異なる時間に感応性の検出器表面を打つ。飛行時間は、イオンの質量の関数なので、イオン形成とイオン検出器衝撃との間の経過時間は、特定の質量 対 電荷の比の分子の存在または非存在を同定するために使用され得る。
【0105】
保持(retentate)クロマトグラフィーは、サンプル中の分析物の多次元分解のための方法である。この方法は、(1)複数の異なる吸着剤/溶離剤の組み合わせ下で、ある基材に対してサンプルからの分析物を選択的に吸着させる工程(「選択的条件」)、および(2)脱離分光計によって吸着された分析物の保持を検出する工程を包含する。各選択的条件は、第1次元の分離を提供し、吸着されなかった分析物から吸着された分析物を分離する。脱離質量分析法は、第2次元の分離を提供し、質量に従って互いから吸着された分析物を分離する。保持クロマトグラフィーが複数の異なる選択的条件を使用することを含むので、多くの次元の分離が達成される。2つの選択的条件下での1つ以上の分析物の相対的な吸着もまた、決定され得る。この多次元分離は、分析物の分解およびそれらの特徴付けの両方を提供する。
【0106】
さらに、このようにして分離された分析物は、調べる(例えば、分析物構造および/または機能)ためのさらなる操作を受けやすい保持マップ上にドッキングされたままである。さらに、このドッキングされた分析物は、それ自体が、基材に対して曝される他の分析物をドッキングするための吸着剤として使用され得る。要するに、本発明は、分析物の迅速、多次元かつ高度な情報の分解を提供する。
【0107】
この方法は、いくつかの形態をとり得る。1つの実施形態において、分析物は、2つの物理的に異なる位置で2つの異なる吸着剤に対して吸着され、そして各々の吸着剤は、同じ溶離剤を用いて洗浄される(選択的閾値モディファイアー)。別の実施形態において、分析物は、2つの物理的に異なる位置で同じ吸着剤に対して吸着され、そして2つの異なる溶離剤を用いて洗浄される。別の実施形態において、分析物は、物理的に異なる位置で2つの異なる吸着剤に対して吸着され、そして2つの異なる溶離剤を用いて洗浄される。別の実施形態において、分析物は、吸着剤に吸着され、そして第1の溶離剤を用いて洗浄され、そして保持が検出される;次いで、吸着剤分析物は、第2の異なる溶離剤を用いて洗浄され、そしてその後、保持が検出される。
【0108】
(保持クロマトグラフィーを実行する方法)
保持クロマトグラフィーは、サンプル中のポリペプチドを分別するための特に有用な方法である。この方法に従って、ポリペプチドは、特定の物理−化学特性に基づいてポリペプチドに結合する固相吸着剤上で、分別される。未結合のポリペプチドは洗浄除去される。次いで、保持されたポリペプチドは、質量分析法によってさらに分別され、それによって、少なくとも2つの物理−化学特性に基づいた分別を提供する。
【0109】
(分析物の選択的条件への曝露)
基材の調製:保持クロマトグラフィーを実施する際、吸着剤によって保持される分析物は、基材上でエネルギー源に対して提示される。分析物を含むサンプルは、吸着剤が基材(これは、脱離手段に対して分析物を提示するように機能する)に添付される前または後に、吸着剤と接触され得る。接触目的のために、吸着剤は、液体形態であっても固体形態であってもよい(すなわち、基材上または固相)。詳細には、吸着剤は、溶液、懸濁物、分散物、油中水エマルジョン、水中油エマルジョン、またはマイクロエマルジョンの形態であり得る。吸着剤が懸濁物、分散物、エマルジョンまたはマイクロエマルジョンの形態で提供される場合、適切な界面活性剤もまた存在し得る。この実施形態において、サンプルは、液体サンプルを液体吸着剤と混合することによって吸着剤と接触され得る。あるいは、サンプルは、固体支持体上に提供され得、そして接触は、サンプルを含有する固体支持体を液体吸着剤中に入浴させるか、浸漬(soak)させるか、または浸漬(dip)させることによって、達成される。さらに、サンプルは、液体吸着剤を用いて固体支持体上でスプレーまたは洗浄することによって接触され得る。この実施形態において、異なる吸着剤が異なる容器中に提供され得る。
【0110】
1つの実施形態において、吸着剤は、基材上に提供される。基材は、吸着剤を結合または保持し得る任意の材料であり得る。代表的に、基材は、ガラス;セラミック;伝導性ポリマー(例えば、炭化PEEK);TEFLON(登録商標)でコーティングした材料;有機ポリマー;ネイティブな生体ポリマー;金属(例えば、ニッケル、真鍮、鋼またはアルミニウム);フィルム;架橋ポリマーの多孔性ビーズおよび非多孔性ビース(例えば、アガロース、セルロース、またはデキストラン);他の不溶性ポリマー;またはこれらの組み合わせから構成される。
【0111】
1つの実施形態において、基材は、脱離検出器中に挿入されるプローブ提示手段またはサンプル提示手段の形態をとる。例えば、図1を参照して、基材は、ストリップの形態をとり得る。吸着剤は、直線アレイのスポットの形態で基材に対して結合され得、このスポットの各々は、分析物に対して曝露され得る。いくつかのストリップが、一緒に結合されて、複数の吸着剤が、規定された並びで別々のスポットを有する30個のアレイを形成する。基材はまた、吸着剤の水平列および垂直列のアレイを有するプレートの形態をとり得、これは、正方形、長方形または円形のような規則的な幾何学パターンを形成する。
【0112】
プローブは、以下のように作製され得る。基材は、任意の固体材料(例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、シリコンウエハ)であり得る。次いで、金属基材は、表面の誘導体化を可能にする材料でコーティングされ得る。例えば、金属表面は、酸化シリコン、酸化チタンまたは金でコーティングされ得る。
【0113】
次いで、表面は、二官能性リンカーを用いて誘導体化される。このリンカーは、その一端に、表面上の官能基と共有結合し得る官能基を含む。従って、この官能基は、金に対して無機酸化物またはスルフヒドリル基であり得る。そのリンカーのもう一方の端は、通常、アミノ官能基を有する。有用な二官能性リンカーとしては、アミノプロピルトリエトキシシランまたはアミノエチルジスルフィドが挙げられる。
【0114】
一旦表面に結合すると、リンカーは、吸着剤として機能する基でさらに誘導体化される。一般的に、吸着剤は、プローブ上のアドレス可能な位置に添加される。1つの型のプローブにおいて、直径約3mmのスポットを、直交アレイに配置する。吸着剤は、それ自体、利用可能なアミノ基と反応性の基および吸着剤として作用する官能基を含む二官能性分子の一部であり得る。官能基としては、例えば、正相(シリコンオキシド)、逆相(C18脂肪族炭化水素)、四級アミンおよびスルホネートが挙げられる。さらに、表面は、他の二官能性分子(例えば、カルボジイミドおよびN−ヒドロキシスクシンイミド)を用いて誘導体化され得、予備活性化されたブランクを作製する。これらのブランクは、生物有機化学吸着剤(例えば、核酸、抗体および他のタンパク質リガンド)を用いて官能基化され得る。生体ポリマーは、アミン残基またはスルフヒドリル残基を介してそのブランク上の官能基に結合し得る。1つの実施形態において、吸着剤は、架橋ポリマー(例えば、フィルム)に結合され、この架橋ポリマーは、それ自体、利用可能な官能基を介してプローブの表面に結合する。このようなポリマーとしては、例えば、セルロース、デキストラン、カルボキシメチルデキストラン、ポリアクリルアミド、およびこれらの混合物が挙げられる。吸着剤が結合されたプローブは、すぐに使える状態である。
【0115】
別の実施形態において、吸着剤は、第1の基材に結合されて固相(例えば、ポリマービースまたはガラスビーズ)を提供し、この固相は引き続き、第2の基材上に配置され、この第2の基材は、脱離検出器の脱離エネルギーに対してサンプルを提示するための手段として機能する。例えば、第2の基材は、予め決定されたアドレス可能な位置に一連のウェルを有するプレートの形態であり得る。このウェルは、吸着剤で誘導体化された第1の基材(例えば、吸着剤で誘導体化されたポリマービーズ)に対する容器として機能し得る。この実施形態の1つの利点は、分析物が、ある物理的状況において第1の基材に吸着され得、そして脱離分光計による分析のためにサンプルを提示する基材に移されるということである。
【0116】
代表的に、基材は、吸着剤に結合されそしてその吸着剤によって保持される分析物を検出するために、本発明の方法において利用される検出器を用いた使用に対して適応される。1つの実施形態において、基材は、エネルギー源がスポットを打ち、そして分析物を脱離し得る脱離検出器中へ、取り外し可能に挿入可能である。基材は、水平方向および/または垂直方向に移動可能なカートリッジをマウントするのに適切であり得、このカートリッジは、水平方向および/または垂直方向にその基材を移動させて、エネルギー源による呼び掛け信号および吸着剤に結合する分析物の検出のための経路における吸着剤の各予め決定されたアドレス可能な位置に連続的に配置する。基材は、従来の質量分析計プローブの形態であり得る。
【0117】
ストリップ、プレートまたはプローブの基材は、従来技術を使用して作製され得る。その後、吸着剤は、分析物を含むサンプルを接触させる前に、直接または間接的に、基材に結合、適応、または堆積され得る。この吸着剤は、結合または固定化の任意の適切な手段によって基材に直接または間接的に結合され得る。例えば、吸着剤は、吸着剤を用いて基材を誘導体化することによって基材に直接結合されて、共有結合もしくは非共有結合を介して吸着剤を基材に直接結合させ得る。
【0118】
吸着剤の基材への結合は、種々の機構を介して達成され得る。基材は、予め調製された吸着剤分子をその基材に結合させることによって、完全に調製された吸着剤分子を用いて誘導体化され得る。あるいは、吸着剤は、前駆体分子をその基材に結合させ、引き続いて、さらなる前駆体分子を第1の前駆体分子によって基材に結合した成長鎖に添加することによって、基材上で形成され得る。基材上で吸着剤を構築するこの機構は、吸着剤がポリマー(特に、生体ポリマー(例えば、DNA分子またはRNA分子))である場合、特に有用である。生体ポリマー吸着剤は、オリゴヌクレオチドチップ技術の分野において公知の方法を用いて、基材に結合した第1の塩基へ塩基を連続的に添加することによって提供され得る。例えば、米国特許第5,445,934号(Fodorら)を参照のこと。
【0119】
図2から理解され得るように、ほんの2個ほどの吸着剤、および10、100、1000、10,000個以上もの吸着剤を、単一の基材に結合し得る。吸着剤部位の大きさは、実験の設計および目的に依存して変化し得る。しかし、衝突するエネルギー源の直径(例えば、レーザースポットの直径)よりも大きくある必要はない。このスポットは、同じ吸着剤または異なる吸着剤を持続し得る。いくつかの場合において、基材上の複数の位置に同じ吸着剤を提供することが有利であり、複数の異なる溶離剤に対する評価を可能にするか、またはこの結果、結合した分析物が、将来の使用もしくは参考のために(おそらく、二次的な処理において)保存され得る。基材に複数の異なる吸着剤を提供することによって、単一サンプルに関して異なる吸着剤の組み合わせによって提供される複数の結合特徴を利用し、それによって広範な種々の異なる分析物を結合および検出することが可能である。単一サンプルの評価のために基材上の複数の異なる吸着剤を使用することは、本質的に、複数のクロマトグラフ実験(これらの各々は、異なるクロマトグラフィーカラムを有する)を同時に実行することと等価であるが、本方法は、単一系のみを必要とする利点を有する。
【0120】
基材が複数の吸着剤を含む場合、予め決定したアドレス可能な位置に吸着剤を提供することが、特に有用である。吸着剤を予め決定したアドレス可能な位置に提供することによって、第1の溶離剤を用いて第1の予め決定したアドレス可能な位置にて吸着剤を洗浄し、そして第2の溶離剤を用いて第2の予め決定したアドレス可能な位置にて吸着剤を洗浄することが可能である。この様式において、分析物に対する単一の吸着剤の結合特徴は、複数の溶離剤(これらは各々、異なる様式で吸着剤の結合特徴を選択的に変更する)の存在下で評価され得る。このアドレス可能な位置は、任意のパターンで配置され得るが、好ましくは、規則的なパターン(例えば、線、直交アレイ、または規則的な曲線(例えば、円))であり得る。同様に、基材が複数の異なる吸着剤を含む場合、各異なる吸着剤に関して単一の溶離剤を評価して、溶離剤の存在下での所定の吸着剤の結合特徴を評価することが可能である。異なる溶離剤の存在下で異なる吸着剤の結合特徴を評価することもまた、可能である。
【0121】
漸増吸着表面または勾配吸着表面:異なる結合特徴を有する一連の吸着剤は、基材上で複数の異なるポリマー吸着剤を合成することによって、提供され得る。異なるポリマー吸着剤は、前駆体分子を基材に結合させ、重合反応を開始させ、そして各吸着剤について種々の完了程度で重合反応を終了することによって、提供され得る。さらに、ポリマー中の末端官能基は、異なる親和性の試薬を用いて種々の程度までそのポリマーを化学的に誘導体化するように、反応され得る(例えば、−NH3、またはCOO−)。重合反応または誘導体化反応を終了することによって、種々の程度の重合または誘導体化の吸着剤が生成される。種々の程度の重合または誘導体化は、各異なるポリマー吸着剤に対する異なる結合特徴を提供する。この実施形態は、基材上に複数の異なる生体ポリマー吸着剤を提供するのに特に有用である。
【0122】
所望される場合、重合反応は、基材それ自体の上でよりも、反応容器中で実行され得る。例えば、種々の結合特徴のポリマー吸着剤は、その重合反応/誘導体化反応が進行しているときに、反応容器から生成物のアリコートを抽出することによって提供され得る。重合反応/誘導体化反応の間の種々の時点で抽出されたアリコートは、種々の程度の重合/誘導体化を示し、複数の異なる吸着剤を生じる。次いで、この生成物の異なるアリコートは、異なる結合特徴を有する吸着剤として利用され得る。あるいは、複数の異なる吸着剤は、反応を終了する工程、生成物のアリコートを引き出す工程、および重合反応/誘導体化反応の再び開始する工程を連続して反復することによって、提供され得る。各終了点で抽出された生成物は、種々の程度の重合/誘導体化を示し、その結果として、異なる結合特徴を有する複数の吸着剤を提供する。
【0123】
1つの実施形態において、基材は、1つ以上の結合特徴が1次元勾配または2次元勾配で変化する吸着剤でコーティングされた、ストリップまたはプレートの形態で提供される。例えば、一方の端では弱く疎水性であり、他方の端では強力に疎水性である吸着剤を有するストリップが、提供される。または、一方の角において弱く疎水性かつアニオン性であり、対角線上に反対の角において強力に疎水性かつアニオン性であるプレートが、提供される。このような吸着剤勾配は、分析物の定性分析において有用である。吸着剤勾配は、制御されたスプレーの適用によってか、または時間様式(time−wise manner)で表面にわたって材料を流すことによって作製されて、その勾配の次元にわたる漸増する反応の完了を可能にし得る。このプロセスは、直角で繰り返されて、異なる結合特徴を有する類似かまたは異なる吸着剤の直交する勾配を提供し得る。
【0124】
分析物を含むサンプルは、吸着剤が任意の適切な方法(これは、分析物と吸着剤との間の結合を可能にする)を用いて基材上に配置される前または後のいずれかに、吸着剤と接触され得る。吸着剤は、サンプルと単に混合されるかまたは化合され得る。サンプル中に基材を入浴させるかもしくは浸漬(soak)することによって、またはサンプル中に基材を浸漬(dip)することによってか、または基材上にサンプルをスプレーすることによってか、または基材上でサンプルを洗浄することによってか、または吸着剤と接触したサンプルもしくは分析物を生成することによって、サンプルは吸着剤と接触され得る。さらに、サンプルを溶離剤中で可溶化するか、またはサンプを溶離剤と混合することによって、ならびに任意の上記の技術のうちのいずれかを用いて溶離剤もしくはサンプルの溶液を吸着剤に接触させることによって(例えば、入浴、浸漬(soak)、浸漬(dip)、スプレー、または洗浄)、サンプルは吸着剤と接触され得る。
【0125】
分析物の吸着剤への接触:分析物を吸着剤に結合させる前に溶離剤に対してサンプルを曝露することは、サンプルを吸着剤に対して接触させることと同時に、吸着剤の選択性を改変するという効果を有する。吸着剤に結合し、それによって保持されるサンプルの成分は、吸着剤の選択性を改変する溶離特徴の非存在下で吸着剤に結合する全ての成分よりも、サンプルと混合された特定の用離剤の存在下で吸着剤に結合する成分のみを含む。
【0126】
サンプルは、分析物を吸着剤に結合させるのに十分な期間、吸着剤と接触させるべきである。代表的に、サンプルは、約30秒と約12時間との間の期間、分析物と接触される。好ましくは、サンプルは、約30秒と約15分との間の期間、分析物と接触される。
【0127】
サンプルが吸着剤と接触される温度は、特定のサンプルおよび選択された吸着剤に依存する。代表的に、サンプルは、周囲温度条件および周囲圧力条件下で吸着剤に対して接触されるが、いくつかのサンプルについては、変更した温度条件(代表的には、4℃〜37℃)および変更した圧力条件が望ましくあり得、そして当業者によって容易に決定され得る。
【0128】
従来の検出技術を超える本発明の別の利点は、本発明が、非常に少量のサンプルに対して実行される多数の異なる実験を可能にするということである。一般的に、数原子モル〜100ピコモルの分析物を約1μl〜500μl中に含むサンプル量が、吸着剤への結合に十分である。分析物は、吸着剤への結合の後に、将来の実験のために保存され得る。なぜなら、保持された全分析物を脱離および検出する工程に供されていない任意の吸着剤位置が、その上に分析物を保持するからである。従って、非常に少画分のサンプルのみが分析に対して利用可能である場合、本発明は、サンプルを洗浄することなく異なる時間に実行される、異なる吸着剤および/または溶離剤を用いた多数の実験を可能にする、という利点を提供する。
【0129】
溶離剤を用いた吸着剤の洗浄:サンプルを分析物と接触させ、分析物の吸着剤への結合が生じた後、この吸着剤は、溶離剤を用いて洗浄される。代表的に、多次元分析を提供するために、各吸着剤の位置が、少なくとも第1溶離剤および第2溶離剤を用いて洗浄される。溶離剤を用いた洗浄は、特定の吸着剤上に保持された分析物集団を改変する。吸着剤の結合特徴および溶離剤の溶離特徴の組み合わせは、洗浄後に吸着剤によって保持される分析物を制御する選択的条件を提供する。従って、この洗浄工程は、サンプル成分をその吸着剤から選択的に移動させる。
【0130】
洗浄工程は、種々の技術を用いて実行され得る。例えば、上記に見出されるように、サンプルは、サンプルを吸着剤と接触させる前に、第1溶離剤中で可溶化され得るかまたは第1溶離剤と混合され得る。サンプルを吸着剤に接触させる前またはサンプルを吸着剤に接触させると同時に、サンプルを第1溶離剤に曝露することは、第1の近似に対して、分析物の吸着剤への結合およびその後の第1溶離剤を用いたその吸着剤の洗浄と、同じ正味の効果を有する。混合した溶液を吸着剤と接触させた後、この吸着剤は、第2溶離剤またはその後の溶離剤を用いて洗浄され得る。
【0131】
分析物が結合した吸着剤の洗浄は、吸着剤および分析物が結合した基材を、溶離剤中で入浴、浸漬(soak)、もしくは浸漬(dip)することによって;または基材上を溶離剤でリンス、スプレー、もしくは洗浄することによって、達成され得る。親和性試薬の小さい直径のスポットへの溶離剤の導入は、微流体プロセスによって最良に達成される。
【0132】
分析物が1ヶ所のみで吸着剤に結合し、複数の異なる溶離剤が洗浄工程において使用される場合、各溶離剤の存在下での吸着剤の選択性に関する情報が、個々に獲得され得る。1ヶ所で吸着剤に結合した分析物は、繰り返しのパターン(第1溶離剤での洗浄、保持された分析物の脱離および検出、その後の第2溶離剤を用いた洗浄、ならびに保持された分析物の脱離および検出)に従って溶離剤を用いた各洗浄後に決定され得る。脱離および検出前の洗浄工程は、同じ吸着剤を用いて複数の異なる溶離剤について連続的に反復され得る。この様式において、1ヶ所に分析物を保持する吸着剤は、複数の異なる溶離剤を用いて再試験されて、各個々の洗浄後に保持された分析物に関する情報の収集を提供し得る。
【0133】
上記の方法はまた、吸着剤が複数の予め決定されたアドレス可能な位置に提供される場合、その吸着剤が全て同じであるかまたは異なるかに関わらず、有用である。しかし、分析物が、複数の位置に同じ吸着剤または異なる吸着剤のいずれかに対して結合される場合、洗浄工程は、平行処理を含むより体系的かつ効率的なアプローチを用いて、交互に実行され得る。すなわち、洗浄工程は、溶離剤を用いて第1の位置で吸着剤を洗浄し、次いで、溶離剤を用いて第2の吸着剤を洗浄し、次いで第1吸着剤によって保持された分析物を脱離および検出し、その後、第2吸着剤によって保持された分析物を脱離および検出することによって、実行され得る。言い換えると、吸着剤全てが、溶離剤を用いて洗浄され、その後、各々によって保持された分析物が、各位置の吸着剤について脱離および検出される。所望される場合、各吸着剤位置での検出後、各吸着剤位置についての第2ステージの洗浄が、第2ステージの脱離および検出前に実行され得る。全吸着剤位置の洗浄工程、続く各吸着剤位置における脱離および検出を、複数の異なる溶離剤について反復し得る。この様式において、アレイ全体が、サンプル中の分析物の特徴を効率的に決定するために利用され得る。この方法は、全吸着剤位置が第1洗浄ステージにおいて同じ溶離剤を用いて洗浄されるか否か、または複数の吸着剤が第1洗浄ステージにおいて複数の異なる溶離剤を用いて洗浄されるか否かにかかわらず、有用である。
【0134】
(検出)
洗浄後に吸着剤により保持された分析物を、基材に吸着させる。基材に保持された分析物を、脱離分光法(吸着剤から分析物を脱離させ、そして脱離した分析物を直接検出する)により検出する。
【0135】
脱離方法:吸着剤からの分析物の脱離は、適切なエネルギー源に分析物を曝露させることを包含する。通常、これは、分析物と放射エネルギーまたはエネルギー性粒子を衝突させることを意味する。例えば、エネルギーは、レーザーエネルギー(例えば、UVレーザー)の形態の光エネルギー、またはストロボからのエネルギーであり得る。あるいは、このエネルギーは、高速原子の流れであり得る。熱もまた、脱離を誘導/補助するために用いられ得る。
【0136】
直接分析のために分析物を脱離および/またはイオン化する方法は、当該分野で周知である。1つのこのような方法は、マトリクスアシスティドレーザー脱離/イオン化(matrix−assisted laser desorption/ionization)(すなわち、MALDI)とよばれる。MALDIにおいて、分析物の溶液を、マトリクス溶液と混合し、そして混合物を、不活性なプローブ表面に沈着させた後に、結晶化させ、この結晶内の分析物をトラップして、脱離を可能にする。このマトリクスは、レーザーエネルギーを吸収し、そしてレーザーエネルギーを分析物に明らかに与え、その結果、脱離およびイオン化を生じるように選択される。一般に、マトリクスは、UV範囲を吸収する。大きなタンパク質のためのMALDIは、例えば、米国特許第5,118,937号(Hillenkamp)、および米国特許第5,045,694号(BeavisおよびChait)に記載される。
【0137】
表面増強レーザー脱離/イオン化(surface−enhanced laser desorption/ionization)(すなわち、SELDI)は、特異性、選択性および感度に関して、MALDIを超える有意な進歩を示す。SELDIは、米国特許第5,719,060号(HutchensおよびYip)に記載される。SELDIは、脱離のための固相法であり、この方法において、分析物は、分析物捕捉および/または脱離を増強する表面上のエネルギーの流れに提供される。対照的に、MALDIは、液相法であり、この方法において、分析物は、分析物の周りを結晶化する液体物質と混合される。
【0138】
SELDIの1つのバージョン(SEAC(表面増強アフィニティーキャプチャー(Surface−Enhanced Affinity Capture))と呼ばれる)は、アフィニティーキャプチャーデバイス(すなわち、吸着剤)と関連する脱離エネルギーに、分析物を提供することを含む。分析物がこのように吸着される場合に、分析物は、より多くの機会で、脱離エネルギー供給源に提供されて、標的分析物の脱離を達成し得ることを見出した。エネルギー吸収物質が、プローブに添加されて、脱離を補助し得る。次いで、このプローブは、分析物を脱離するためのエネルギー供給源に提供される。
【0139】
SELDIの別のバージョン(SEND(表面増強ニート脱離(Surface−Enhanced Neat Desorption))と呼ばれる)は、エネルギー吸収物質の層の使用を含み、この層に分析物が置かれる。基材表面は、表面に化学的に結合したエネルギー吸収分子の層を含み、そして/または結晶を本質的に含まない。次いで、分析物は、層と実質的に混合させることなしに、単独(すなわち、ニート)で、層の表面に適用される。エネルギー吸収分子は、マトリクスのように、脱離エネルギーを吸収し、そして分析物を脱離させる。この改良は実質的である。なぜならば、溶液混合物の実施およびランダム結晶化が排除されるので、分析物は、より単純かつより均一な様式でエネルギー供給源に提供され得るからである。このことは、このプロセスの自動化を可能にする、より均一かつ予測可能な結果を提供する。このエネルギー吸収材料は、古典的なマトリクス物質であり得るか、またはpHが中性になっているか、または塩基性範囲にされているマトリクス物質であり得る。このエネルギー吸収分子は、共有的手段または非共有的手段を介してプローブに結合され得る。
【0140】
SELDIの別のバージョン(SEPAR(表面増強感光性付着および放出(Surface−Enhanced Photolabile Attachement and Release)))は、感光性付着分子の使用を含む。感光性付着分子は、プローブの部分を作り得る、平坦なプローブ表面または別の固相(例えば、ビーズ)のような、固相に共有結合した1つの部位、およびアフィニティー試薬または分析物と共有結合され得る第2の部分を有する二価分子である。感光性付着分子はまた、表面および分析物の両方に結合する場合、光への曝露の際にアフィニティー試薬または分析物を放出し得る、感光性結合を含む。この感光性結合は、付着分子内にあり得るか、あるいは分析物(もしくはアフィニティー試薬)またはプローブ表面のいずれかに対する付着部位にあり得る。
【0141】
分析物の直接検出のための方法:脱離した分析物は、いくつかの手段のいずれかにより検出され得る。分析物が脱離のプロセス下(例えば、レーザー脱離/イオン化質量分析器において)でイオン化される場合、検出器は、イオン検出器であり得る。質量分析器は、一般に、脱離したイオンの飛行時間を検出するための手段を備える。この情報は、質量に変換される。しかし、脱離したイオンを分解および検出するために、この脱離したイオンの質量を決定する必要はない:イオン化した分析物が、異なる時間で検出器に衝突するという事実は、分析物の検出および分解を提供する。
【0142】
あるいは、分析物は、例えば、蛍光部分または放射性部分を用いて検出可能に標識され得る。これらの場合、検出器は蛍光検出器または放射能検出器であり得る。
【0143】
複数の検出手段が、分析物成分およびアレイにおける各々の位置での保持と関連する相関関係を完全に問い合わせるために、連続して実行され得る。
【0144】
脱離検出器:脱離検出器は、吸着剤から分析物を脱離させる手段、および脱離した分析物を直接検出する手段を備える。すなわち、脱離検出器は、分析物を別の固相に捕捉する中間の工程を用いずに、脱離した分析物を検出し、そして引き続く分析に供する。分析物の検出は、通常、シグナル強度の検出を含む。次いで、これは、吸着剤に吸着された分析物の量を反映する。
【0145】
脱離検出器はまた、これらの2つの要素より多くの、他の要素を有し得る。1つのこのような要素は、脱離した分析物を検出器に向けて加速する手段である。別の要素は、脱離から検出器による検出までの分析物の飛行時間を決定する手段である。
【0146】
好ましい脱離検出器は、当該分野で周知である、レーザー脱離/イオン化分析器である。質量分析器は、吸着された分析物を保有する基材(例えば、プローブ)が挿入される、ポートを備える。脱離は、分析物をエネルギー(例えば、レーザーエネルギー)と衝突させることにより達成される。このデバイスは、表面を移動するための手段を備え得、その結果、アレイ上の任意のスポットは、レーザービームと整列される。分析物をレーザービームと衝突させることは、飛行チューブ(flight tube)へのインタクトな分析物の脱離、およびこの分析物のイオン化を生じる。この飛行チューブは、一般的に、減圧空間を規定する。減圧チューブの一部である帯電プレートは、電位を作り、イオン化した分析物を検出器に向けて加速する。時計が飛行時間を測定し、そしてシステムエレクトロニクスは、分析物の速度を決定し、そして、これを質量に変換する。当業者が理解するように、これらの要素のいずれかは、脱離、加速、検出、時間の測定などの種々の手段を備える、脱離検出器の組み立てにおいて、本明細書中に記載される他の要素と組み合わされ得る。
【0147】
(選択性条件)
本発明の1つの利点は、種々の異なる結合条件および溶離条件に分析物を曝露し、これにより、分析物の増大した分解能および認識プロフィールの形で、分析物についての情報を提供する能力である。従来のクロマトグラフィー法の場合、分析物を保持する吸着剤の能力は、溶離剤に対する分析物または吸着剤に対する溶離剤の誘引力またはアフィニティーと比較して、吸着剤に対する分析物の誘引力またはアフィニティーに直接関係する。サンプルのいくつかの成分は、吸着剤に対してアフィニティーを有さないかもしれず、従って、サンプルが吸着剤に接触される場合、吸着剤に結合しない。吸着剤に結合する能力がないことに起因して、これらの成分は、分析物から迅速に分離されて分解され得る。しかし、サンプルの性質および利用される特定の吸着剤の性質に依存して、多数の異なる成分が吸着剤に初めに結合し得る。
【0148】
(吸着剤)
吸着剤は、分析物を結合する物質である。複数の吸着剤が、保持クロマトグラフィーに用いられ得る。異なる吸着剤は、かなり異なる結合特性、いくらか異なる結合特性、または微妙に異なる結合特性を示し得る。全く異なる結合特性を示す吸着剤は、代表的には、誘引の基礎または相互作用の様式が異なる。誘引の基礎は、一般的に、化学的分子認識または生物学的分子認識と相関関係にある。吸着剤と分析物との間の誘引の基礎は、例えば、(1)塩により促進される相互作用(例えば、疎水性相互作用、親イオウ性相互作用、および固定された色素の相互作用);(2)水素結合および/またはファンデルワールス力相互作用および電荷移動相互作用(例えば、親水性相互作用の場合);(3)静電的相互作用(例えば、イオン性電荷相互作用、特に、陽イオン性電荷相互作用、陰イオン性電荷相互作用);(4)吸着剤上の金属イオンとの配位共有結合(すなわち、配位錯体形成)を形成する分析物の能力;(5)酵素活性部位結合;(6)可逆的共有結合相互作用(例えば、ジスルフィド交換相互作用);(7)糖タンパク質相互作用;(8)生体特異的相互作用;または(9)上記の相互作用の様式の2つ以上の組み合わせ。すなわち、吸着剤は、誘引の基礎の2つ以上を示し得、それ故に、「混合型官能性(mixed functionality)」吸着剤として知られている。
【0149】
塩により促進される相互作用吸着剤:塩により促進される相互作用を観察するために有用である吸着剤としては、疎水性相互作用吸着剤が挙げられる。疎水性相互作用吸着剤の例としては、脂肪族炭化水素(具体的には、C1〜C18脂肪族炭化水素)を有するマトリクス;および芳香族炭化水素官能基(例えば、フェニル基)を有するマトリクスが挙げられる。疎水性相互作用吸着剤は、非電荷溶媒に曝露されたアミノ酸残基、および具体的には、非極性アミノ酸残基、芳香族アミノ酸残基、および疎水性アミノ酸残基(例えば、フェニルアラニンおよびトリプトファン)と、一般にいわれるアミノ酸残基を含む、分析物を結合する。疎水性相互作用吸着剤に結合する分析物の特定の例としては、リゾチームおよびDNAが挙げられる。特定の理論にとらわれることは望まないが、DNAは、DNA中の芳香族ヌクレオチド(具体的には、プリン基およびピリミジン基)により疎水性相互作用吸着剤に結合すると考えられる。
【0150】
塩により促進される相互作用を観察するための有用な別の吸着剤としては、親イオウ性相互作用吸着剤(例えば、Pierce,Rockford,Illinoisから市販されている親イオウ性吸着剤の1つの型である、T−GEL(登録商標)など)が挙げられる。親イオウ性相互作用吸着剤は、例えば、IgGのような免疫グロブリンを結合する。IgGとT−GEL(登録商標)との間の相互作用の機構は、完全には知られていないが、trp残基に曝露された溶媒は、役割を果たすと予想される。
【0151】
塩により促進されるイオン性相互作用、および疎水性相互作用もまた含む第3の吸着剤としては、固定された色素相互作用吸着剤が挙げられる。固定された色素相互作用吸着剤は、固定された色素(Pharmacia Biotech,Piscataway,New Jerseyから入手可能なCIBACHRONTMブルー)のマトリクスを含む。固定された色素相互作用吸着剤は、一般に、タンパク質およびDNAを結合する。固定された色素相互作用吸着剤に結合するタンパク質の1つの特定の例は、ウシ血清アルブミン(BSA)である。
【0152】
親水性相互作用吸着剤:親水性相互作用を基礎として水素結合および/またはファンデルワールス力を観察するために有用である吸着剤は、酸化ケイ素(すなわち、ガラス)のような、標準相の吸着剤を含む表面を含む。標準相または酸化ケイ素表面は、官能基として作用する。さらに、親水性ポリマー(例えば、ポリエチレングリコール、デキストラン、アガロース、またはセルロース)で修飾された表面を含む吸着剤はまた、親水性相互作用吸着剤として機能し得る。殆どのタンパク質は、水素結合またはファンデルワールス力を含む親水性相互作用を介して結合する、アミノ酸残基(すなわち、親水性アミノ酸残基)の基または組み合わせに起因して、親水性相互作用吸着剤を結合する。親水性相互作用吸着剤を結合するタンパク質の例としては、ミオグロビン、インスリン、およびチトクロムCが挙げられる。
【0153】
一般に、高密度の極性または荷電したアミノ酸を有するタンパク質は、親水性表面上に保持される。あるいは、親水性糖部分に曝露された表面を有する糖タンパク質はまた、親水性吸着剤に対する高い親和性を有する。
【0154】
静電的相互作用吸着剤:静電的相互作用またはイオン性電荷相互作用を観察するために有用である吸着剤としては、アニオン性吸着剤(例えば、スルフェートアニオン(すなわち、SO3−)のマトリクスおよびカルボキシレートアニオン(すなわち、COO−)またはホスフェートアニオン(OPO3−)など)が挙げられる。スルフェートアニオンを有するマトリクスは、持続的に負に荷電される。しかし、カルボキシレートアニオンを有するマトリクスは、これらのpKaよりも高いpHでのみ、負電荷を有する。pKa未満のpHでは、マトリクスは、実質的に中性の電荷を示す。適切なアニオン性吸着剤としてはまた、スルフェートアニオンおよびカルボキシレートアニオンおよびホスフェートアニオンの組み合わせを有するマトリクスであるアニオン性吸着剤が挙げられる。この組合わせは、pHとの相関関係として連続的に変化され得る強さの負電荷を提供する。これらの吸着剤は、正電荷を有するタンパク質および巨大分子(例えば、リボヌクレアーゼおよびラクトフェリン)を誘引および結合する。特定の理論にとらわれることは望まないが、吸着剤と正に荷電したアミノ酸残基(リジン残基、アルギニン残基、およびヒスチジル残基)との間の静電的相互作用は、結合相互作用の原因であると考えられる。
【0155】
静電的相互作用またはイオン性電荷相互作用を観察するために有用な他の吸着剤は、カチオン性吸着剤が挙げられる。カチオン性吸着剤の特定の例としては、二級アミン、三級アミン、または四級アミンのマトリクスが挙げられる。四級アミンは、持続的に正に荷電される。しかし、二級アミンおよび三級アミンは、pH依存である電荷を有する。pKa未満のpHでは、二級アミンおよび三級アミンは、正に荷電され、そしてpKaよりも上のpHでは、負に荷電される。適切なカチオン性吸着剤としてはまた、異なる二級アミン、三級アミン、および四級アミンの組み合わせを有するマトリクスであるカチオン性吸着剤が挙げられる。この組合わせは、pHとの相関関係として連続的に変化され得る強さの正電荷を提供する。カチオン性相互作用吸着剤は、溶媒に曝露されるアミノ酸残基(例えば、アスパラギン酸残基、およびグルタミン酸残基)を有するタンパク質を含む分子上のアニオン性部位を結合する。
【0156】
イオン性相互作用吸着剤(カチオン性およびアニオン性の両方)の場合、頻繁に、アニオンおよびカチオンの両方を含む混合型様式のイオン性吸着剤を使用することが望ましい。このような吸着剤は、pHとの相関関係として持続的緩衝能力を提供する。この持続的緩衝能力は、特に2〜11のpH範囲における、異なる緩衝成分を有する溶離液に対する分析物の組み合わせの曝露を可能にする。これは、固定された滴定可能なプロトン交換基により規定される、吸着剤上の局所的pH環境の発生を生じる。このようなシステムは、等電点電気泳動として既知の固相分離技術に等しい。卵胞刺激ホルモンアイソフォーム(これは、主に、荷電した糖質成分において異なる)は、等電点電気泳動吸着剤上で分離される。
【0157】
静電的相互作用を観察するために有用である、さらに他の吸着剤は、双極子−双極子相互作用吸着剤を含み、この吸着剤における相互作用は、静電的であるが、形式電荷も、滴定可能なタンパク質ドナーも、滴定可能なタンパク質アクセプターも関与しない。
【0158】
配位共有結合相互作用吸着剤:金属イオンとの配位共有結合を形成する能力を観察するために有用である吸着剤としては、例えば、二価金属イオンおよび三価金属イオンを保有するマトリクスが挙げられる。固定化した金属イオンキレート剤のマトリクスは、遷移金属イオンとの配位共有結合相互作用の基礎をなす、1つ以上の電子ドナー基を有する固定された合成有機分子を提供する。固定された金属イオンキレート剤として機能する主要な電子ドナー基としては、酸素、窒素、およびイオウが挙げられる。金属イオンは、固定された金属イオンキレート剤に結合され、分析物上の電子ドナー基との相互作用のためのいくつかの残余の部分を有する金属イオン錯体を生じる。適切な金属イオンとしては、一般に、遷移金属イオン(例えば、銅、ニッケル、コバルト、亜鉛、鉄、およびアルミニウムおよびカルシウムのような他の金属イオン)が挙げられる。特定の理論にとらわれることは望まないが、金属イオンは、ペプチド、タンパク質の特定のアミノ酸残基、または核酸と選択的に相互作用すると考えられる。代表的には、このような相互作用に関与するアミノ酸残基としては、ヒスチジン残基、チロシン残基、トリプトファン残基、システイン残基、および酸素基を有するアミノ酸残基(例えば、アスパラギン酸およびグルタミン酸)が挙げられる。例えば、固定された第二鉄イオンは、タンパク質のホスホセリン残基、ホスホチロシン残基、およびホスホスレオニン残基と相互作用する。固定された金属イオンに依存して、上記のアミノ酸残基の十分な局所密度を有するタンパク質のみが、吸着剤により保持される。金属イオンとタンパク質との間のいくつかの相互作用は、強力すぎて、タンパク質を従来の手段によって複合体から提供することができない。ヒトβカゼイン(これは、高度にリン酸化されている)は、固定されたFe(III)に非常に強力に結合する。6−ヒスチジンタグを用いて発現される組換えタンパク質は、固定されたCu(II)およびNi(II)に非常に強力に結合する。
【0159】
酵素−活性部位相互作用吸着剤:酵素−活性部位結合相互作用を観察するために有用である吸着剤としては、プロテアーゼ(例えば、トリプシン)、ホスファターゼ、キナーゼ、およびヌクレアーゼが挙げられる。相互作用は、分析物(代表的には生体高分子)の酵素結合部位と酵素の触媒結合部位との配列特異的相互作用である。この型の酵素結合部位としては、例えば、これらの配列において、リジン−リジン対またはリジン−アルギニン対を有するタンパク質およびペプチドと相互作用する、トリプシンの活性部位が挙げられる。より具体的には、ダイズトリプシンインヒビターは、固定されたトリプシンの吸着剤と相互作用し、そしてこれに結合する。あるいは、セリンプロテアーゼは、固定されたL−アルギニン吸着剤に選択的に保持される。
【0160】
可逆的共有結合相互作用吸着剤:可逆的共有結合相互作用を観察するために有用である吸着剤としては、ジスルフィド交換相互作用吸着剤が挙げられる。ジスルフィド交換相互作用吸着剤としては、固定されたスルフヒドリル基(例えば、メルカプトエタノールまたは固定されたジチオスレイトール)を含む吸着剤が挙げられる。相互作用は、吸着剤と分析物上の溶媒に曝露されたシステイン残基との間の共有ジスルフィド結合の形成に基づく。このような吸着剤は、システイン残基を有するタンパク質またはペプチド、および還元されたイオウ化合物を含むように修飾された塩基を含む核酸を結合する。
【0161】
糖タンパク質相互作用吸着剤:糖タンパク質相互作用を観察するために有用である吸着剤としては、その中に固定されたレクチンを有する吸着剤(すなわち、オリゴ糖を保有するタンパク質、その例として、CONCONAVALINTM(Pharmacia Biotech of Piscataway,New Jerseyから市販されている))のような吸着剤が挙げられる。このような吸着剤は、巨大分子の糖質部分の分子認識に関する相互作用を基礎として機能する。糖タンパク質相互作用吸着剤と相互作用し、そしてこれに結合する分析物の例としては、糖タンパク質(具体的には、ヒスチジン−リッチ糖タンパク質)、細胞全体、および単離された亜細胞画分が挙げられる。
【0162】
生体特異的相互作用吸着剤:生体特異的相互作用を観察するために有用である吸着剤は、一般的に、「生体特異的アフィニティー(親和性)吸着剤」とよばれる。吸着は、これが選択的であり、そしてアフィニティー(平衡解離定数、Kd)が少なくとも10−3Mから(例えば、10−5M、10−7M、10−9M)である場合、生体特異的であると考えられる。生体特異的アフィニティー吸着剤の例としては、特定の生体分子と特異的と相互作用し、そしてこれを結合する任意の吸着剤が挙げられる。生体特異的アフィニティー吸着剤としては、例えば、抗原に結合する固定された抗体;DNA結合タンパク質、DNA、およびRNAに結合する固定されたDNA;タンパク質および酵素に結合する固定された基質またはインヒビター;薬物結合タンパク質に結合する固定された薬物;レセプターに結合する固定されたリガンド;リガンドに結合する固定されたレセプター;DNAおよびRNA結合タンパク質に結合する固定されたRNA;ビオチンおよびビオチニル化分子を結合する固定されたアビジンまたはストレプトアビジン;脂質結合タンパク質を結合する固定されたリン脂質膜および小胞が挙げられる。酵素は、この酵素に対して吸着性の分析物を改変し得る有用な吸着剤である。細胞は、吸着剤として有用である。これらの表面は、錯体結合特性を示す。細胞に対する吸着は、例えば、表面レセプターに結合するリガンドまたはシグナル分子を同定するために有用である。ウイルスまたはファージもまた、吸着剤として有用である。ウイルスは、頻繁に、細胞表面レセプターに対するリガンド(例えば、CD4に対するgp120)を有する。また、ファージディスプレーライブラリーの形態で、ファージコートタンパク質は、標的に対する結合を試験するための試薬として作用する。生体特異的相互作用吸着剤は、上記のような、既知の特異的相互作用に依存する。吸着剤が利用され得る生体特異的相互作用の他の例は、当業者に容易に明らかであり、そして本発明により意図される。
【0163】
1つの実施形態では、生体特異的吸着剤は、さらに、補助分子、または「ヘルパー(helper)」分子を含み得、この分子は、標的分析物を結合する際に直接関与しない。
【0164】
結合特異性の程度:相互作用の異なる様式を有する吸着剤に対する曝露により、サンプルの成分は、異なる吸着剤との相互作用に基づいてかなり分割される。従って、異なる様式の相互作用を有する吸着剤に対する分析物の誘引は、第1の分離パラメーターを提供する。例えば、分析物を含むサンプルを疎水性に関する誘引を基礎とする第1の吸着剤、およびイオン性電荷に関する誘引を基礎とする第2の吸着剤に曝露することにより、疎水性吸着剤に結合する分析物をサンプルから分離し、そして特定のイオン性電荷を有する吸着剤に結合する分析物を分離することが可能である。
【0165】
誘引の異なる基礎を有する吸着剤は、低い程度の特異性を有する分析物の分解を提供する。なぜならば、この吸着剤は、分析物を結合するのみならず、サンプル中の任意の他の成分(これもまた、同じ誘引の基礎による、吸着剤に対する誘引を示す)もまた吸着するからである。例えば、疎水性吸着剤は、疎水性分析物を結合するのみならず、サンプル中の任意の他の疎水性成分もまた結合し;負に荷電した吸着剤は、正に荷電した分析物を結合するのみならず、サンプル中の任意の他の正に荷電した成分を結合する;など。
【0166】
吸着剤に対する分析物の誘引の基礎に基づいた分析物の分解は、誘引の相対的に中間の特異性または変化した強度の結合特徴を開発することにより、さらにリファインされる。中間の特異性の結合特性を基礎とする分析物の分解は、例えば、混合型官能性吸着剤を利用することにより達成され得る。一旦、分析物の分解が、相対的に低い特異性で達成されると、目的の分析物を誘引することを見出した結合特性は、種々の他の結合特性および溶離特性を組合わせて開発され得、さらにより望ましくない成分を除去し、それにより、分析物を分解する。
【0167】
例えば、分析物が疎水性吸着剤に結合する場合、分析物は、さらに、誘引の1つの基礎として、疎水性相互作用を示し、そして第2の異なる誘引の基礎もまた示す、混合型官能性吸着剤を提供することにより、他の疎水的サンプル成分から分化され得る。混合型官能性吸着剤は、正に荷電される疎水性分析物を結合するために、疎水性相互作用および負に荷電したイオン性相互作用を示し得る。あるいは、混合型官能性吸着剤は、吸着剤上の金属イオンと配位錯体を形成する能力を有する疎水性分析物を結合するために、疎水性相互作用および金属イオンとの配位共有結合を形成する能力を示し得る。中間の特異性の結合特性を示す吸着剤のなおさらなる例は、上記に示す開示および例に基づいて当業者に容易に理解される。
【0168】
中間の特異性の結合特性を基礎とする分析物の分解は、相対的に高い特異性の結合特性を開発することにより、さらにリファインされ得る。相対的に高い特異性の結合特性は、同じ基礎の誘引であるが、異なる強度の誘引を示す、種々の吸着剤を利用することに開発され得る。換言すれば、誘引の基礎は、同じであるが、他のサンプル成分からの分析物のさらなる分解は、分析物に対する異なる程度のアフィニティーを有する吸着剤を利用することにより、達成され得る。
【0169】
例えば、分析物の酸性特性に基づいて吸着剤を結合する分析物は、特定の酸性pH範囲の分析物に対するアフィニティーを有する、吸着剤を利用することにより、他の酸性成分からさらに分解され得る。従って、この分析物は、pH1〜2のサンプル成分に誘引される1つの吸着剤、pH3〜4のサンプル成分に誘引される別の吸着剤、およびpH5〜6のサンプル成分に誘引される第3の吸着剤を用いて分解され得る。この様式において、5〜6のpHの分析物を結合する吸着剤に対して特異的なアフィニティーを有する分析物は、1〜4のpHのサンプル成分から分解される。特性の増大した吸着剤は、誘引の間隔(すなわち、同じ基礎の誘引を示す吸着剤の結合特性の間の差異)を狭めることにより利用され得る。
【0170】
第1の吸着剤に吸着される第1の分析物は、それ自体、吸着特性を有し得る。この場合、基材に吸着される第1の分析物は、第2の分析物を単離するための第2の吸着剤となり得る。次いで、保持された第2の分析物は、サンプルから第3の分析物を単離するための第3の吸着剤として機能し得る。このプロセスは、数回反復して続行し得る。
【0171】
(溶離剤)
溶離剤(すなわち、洗浄溶液)は、分析物と吸着剤との間の吸着の閾値を選択的に改変する。結合した分析物を脱離および溶離する溶離剤の能力は、その溶離特性と相関関係にある。異なる溶離剤が、かなり異なる溶離特性、いくらか異なる溶離特性、または微妙に異なる溶離特性を示し得る。
【0172】
溶離剤が吸着剤に接触される温度は、特定のサンプルおよび選択した吸着剤と相関関係にある。代表的には、溶離剤は、0℃と100℃との間(好ましくは、4℃と37℃との間)の温度で吸着剤に接触される。しかし、いくつかの溶離剤について、変更した温度が好適であり得、そしてこの温度は、当業者により容易に決定される。
【0173】
吸着剤の場合、著しく異なる溶出特徴を示す溶出液は、概して、それらの誘引の基本が異なる。例えば、溶離剤と分析物との間の誘引の種々の基本は、電荷またはpH、イオン強度、水構造、特定の競合結合試薬の濃度、表面張力、誘電係数、および上記のうちの2つ以上の組み合わせを含む。
【0174】
pHベースの溶離剤:pH(すなわち、電荷)に基づく吸着剤の選択性を改変する溶離剤としては、pH緩衝液、酸性溶液、および塩基性溶液が挙げられる。所定の溶離剤に結合した分析物を特定のpH緩衝剤で洗浄することにより、電荷が変化し、従って、特定のpH緩衝液の存在下での吸着剤と分析物との間の結合の強度が、攻撃される。溶離剤のpHで、その吸着剤について、他のものとはあまり競合しないこれらの分析物は、吸着剤から脱離され、溶出し、このことにより、溶離剤のpHにて吸着剤により強く結合するそれらの分析物のみが遊離される。
【0175】
イオン強度ベースの溶離剤:イオン強度に関して吸着剤の選択性を改変する溶離剤は、種々の型および濃度の塩溶液を含む。溶離剤溶液中に溶解される塩の量は、溶離剤のイオン強度に影響を及ぼし、これに応じて、吸着剤結合能力を改変する。低濃度の塩を含む溶離剤は、イオン強度に関して吸着剤の結合能力のわずかな改変を提供する。高濃度の塩を含む溶離剤は、イオン強度に関して吸着剤結合能力のより大きな改変を提供する。
【0176】
水構造ベースの溶離剤:水構造または濃度の変化により吸着剤の選択性を改変する溶離剤は、尿素およびカオトロピック剤を含む。代表的には、尿素溶液は、例えば、0.1〜8Mの濃度範囲の溶液を含む。溶離剤を提供するために使用され得るカオトロピック塩としては、チオシアン酸ナトリウムが挙げられる。水構造ベースの溶離剤は、水和または結合水構造を改変することに起因して、吸着剤が分析物を結合する能力を改変する。この型の溶離剤としては、例えば、グリセロール、エチレングリコールおよび有機溶媒が挙げられる。カオトロピックアニオンは、非極性部分の水溶性を増大させ、それにより、分析物と吸着剤との間の疎水性相互作用を減少する。
【0177】
界面活性剤ベースの溶離剤:表面張力および分析物構造に関して吸着剤の選択性を改変する溶離剤は、界面活性剤および界面活性剤を含む。溶離剤としての使用に適切な界面活性剤は、イオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤(例えば、CHAPS、TWEENおよびNP−40)を含む。界面活性剤ベースの溶離剤は、界面活性剤の親水性基と疎水性基が導入されると、疎水性相互作用が改変されるので、吸着剤が分析物に結合する能力を改変する。分析物と吸着剤との間の疎水性相互作用、および分析物内の疎水性相互作用は、改変され、SDSのようなイオン性界面活性剤を使用して、荷電基が導入される(例えば、タンパク質変性)。
【0178】
疎水性ベースの溶離剤:誘電係数に関して吸着剤の選択性を改変する溶離剤は、疎水性相互作用に関して吸着剤の選択性を改変する溶離剤である。この能力において機能する適切な溶離剤の例としては、尿素(0.1〜8M)、有機溶媒(例えば、プロパノール、アセトニトリル、エチレングリコールおよびグリセロール)、および界面活性剤(例えば、上記)が挙げられる。溶離剤としてのアセトニトリルは、逆相クロマトグラフィーにおいて代表的である。溶離剤中にエチレングリコールを含めると、塩により促進されたチオ親和性(thiophilic)吸着剤との相互作用から免疫グロブリンを溶出する際に効率的である。
【0179】
溶離剤の組み合わせ:適切な溶離剤は、前述の分類のいずれかから選択され得るか、または前述の溶離剤の2以上の組み合わせであり得る。前述の溶離剤の2以上のを含む溶離剤は、複数の溶出特徴に基づいて、分析物に対する吸着剤の選択を改変し得る。
【0180】
(2つのパラメーターの変動性)
異なる吸着剤を選択することにより異なる結合特性を提供する能力および異なる溶離剤を用いて洗浄することにより異なる溶出特徴を提供する能力は、2つの異なるパラメーターの変導を可能にする。この2つのパラメーターの各々は、分析物が吸着剤と結合される選択性を個々にもたらし得る。これら2つのパラメーターが広く変化し得るという事実は、本発明の方法が、結合について有用であり得、従って、多くの異なる型の分析物を検出し得るように、結合誘引および溶出条件の広い範囲が保証される。
【0181】
特定のサンプルを分析する際に使用するための吸着剤および溶離剤の選択は、たとえ分析物の性質が既知でなくとも、サンプルの性質、特定の分析物または特徴付けられる分析物のクラスに依存して変化する。代表的には、広範な種々の結合特徴および広範な種々の溶出特徴を示すシステムを、特に分析されるサンプルの組成物が既知でない場合に、提供することは、特に有利である。広い範囲の選択特徴を示すシステムを提供することにより、目的の分析物が1以上の吸着剤により保持される確率は、有意に増大する。
【0182】
化学的分析または生物学的分析の分野の当業者は、広い範囲の結合特徴および溶出特を示し、分析物の最良の分離を提供する結合特徴および溶出特徴を示すシステムを提供することにより特定の分析物を保持するに有用な選択条件を決定し得る。本発明は、広い範囲の選択条件を含むシステムを提供するので、所定の分析物についての最適な結合特徴および溶出特徴を当業者が決定することにより、過度の実験の必要なく、容易に達成され得る。
【0183】
(分析物)
本発明は、分析物の特性を利用することにより、適切な選択条件の使用を介して、種々の生物学的特性、化学的特性、または物理化学的特性に基づいて分析物の分離を可能にする。適切な選択条件の使用を介して利用され得る分析物の多くの特性の中には、疎水性指数(すなわち、分析物における疎水性残基の基準)、等電点(すなわち、分析物が電荷を有さないpH)、疎水性モーメント(すなわち、分析物の両親媒性、または極性残基および非極性残基の分布の非対称性の程度の尺度)、横双極子モーメント(すなわち、分析物における電荷の分泌の非対称性の尺度)、分子構造因子(分子の骨格に沿った、かさ高い側鎖の分布などの分析物分子の表面輪郭の変化に従う)、ジスルフィド結合、溶媒に曝される電子供与基(例えば、His)、芳香性(すなわち、分析物中の芳香族残基の間のπ−π相互作用の尺度)、および荷電原子間の直線距離がある。
【0184】
これらは、特性の型の代表的な例である。これらの特性は、本発明の方法において適切な選択頭頂の選択によりサンプルから所定の分析物の分離のために利用され得る。サンプルからの特定の分析物の分離についての基本を形成し得る分析物の他の適切な特性は、当業者により容易に公知、そして/または決定可能であり、本発明により意図される。
【0185】
本発明の方法は、分析され得るサンプルの型に関して制限されている。サンプルは、固体、液体、または気体の状態にあり得るが、代表的には、サンプルは、液体状態にある。固体または気体のサンプルは、好ましくは、適切な溶媒中に可溶化されて、当業者に周知の技術に従って液体サンプルを提供し得る。このサンプルは、生物学的組成物、非生物学的有機組成物、無機組成物であり得る。本発明の技術は、生物学的サンプル、特に生物学的液体および抽出物中の分析物を分離するために、;非生物学的有機組成物における分析物、特に有機低分子および無機低分子の組成物を分離するために、特に有用である。
【0186】
分析物は、分子、マルチマー分子複合体、高分子アセンブリ、細胞、亜細胞器官。ウイルス、分子フラグメント、イオン、原子であり得る。分析物は、サンプルの単一の成分、または共通した1以上の特徴(例えば、分子量、等電点、イオン電荷、疎水性/親水性相互作用など)を有する、構造的に、化学的に、生物学的に、または機能的に関連した成分のクラスであり得る。
【0187】
本発明の保持クロマトグラフィー方法を使用して分離され得る分析物の特定の例としては、生物学的高分子(例えば、ペプチド、タンパク質、酵素、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、核酸、糖質、オリゴ糖、多糖類);上記の生物学的高分子のフラグメント;例えば、核酸複合体、タンパク質−DNA複合体、レセプター−リガンド複合体、酵素−基質、酵素インヒビター、ペプチド複合体、タンパク質複合体、糖質複合体、および多糖類複合体;生物学的低分子(例えば、アミノ酸、ヌクレオチド、ヌクレオシド、糖類、ステロイド、脂質、金属イオン、薬物、ホルモン、アミド、アミン、カルボン酸、ビタミンおよび補酵素、アルコール、アルデヒド、ケトン、脂肪酸、ポルフィリン、植物調節因子、リン酸エステルおよびヌクレオシドジホスホ糖類、合成低分子(例えば、薬学的にまたは治療的に有効な薬剤、モノマー、ペプチドアナログ、ステロイドアナログ、インヒビター、変異誘発原、発がん物質、抗有糸分裂薬物、抗生物質、イオノフォア、代謝拮抗物質、アミノ酸アナログ、抗菌剤、輸送インヒビター、表面活性剤(界面活性剤)、ミトコンドリア機能インヒビターおよび葉緑体機能インヒビター、電子供与体、キャリアおよびアクセプター、プロテアーゼに対する合成基質、ホスファターゼに対する基質、エステラーゼおよびリパーゼに対する基質、タンパク質改変試薬);ならびに合成ポリマー、オリゴマー、およびコポリマー(例えば、ポリアルキレン、ポリアミド、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリエーテル、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、ポリカーボネート、ポリビニルハライド、ポリシロキサン、POMA、PEG、ならびに上記の任意の2以上のコポリマー))が挙げられる。
【0188】
(mRNAによりコードされるポリペプチドの同定)
一旦ポリペプチドを分画すると、次の工程は、選択されたmRNAによりコードされるポリペプチドに対応する分画されたポリペプチドからポリペプチドを同定することである。サンプル中のポリペプチドは、コードされたポリペプチドの既知の物理化学的特性に基づいて分画されている。この情報は、コードされたポリペプチドを分画されたポリペプチドの中から発見する際に有用である。例えば、コードされたポリペプチドは、pH7の負電荷を有し、約18kDの質量を有することが分かる。亜イオン性吸着剤スポットを含むタンパク質バイオチップを使用すると、捕捉されたタンパク質は、分子量に基づいて分画されて、スペクトルを提供する。約18kDのスペクトルは、選択された物理化学的特性を有する1以上の候補タンパク質を提供する。この候補は、本明細書中に記載の種々の方法によりさらに試験されて、それらの正体が決定され、これら正体と発現されたポリペプチドとが相関される。
【0189】
同様に、2次元ゲル電気泳動は、pIおよび分子量に基づいてタンパク質を分離する。発現されたタンパク質の推定質量およびpIを知ることは、研究者を、タンパク質を含むと予測されるゲルの特定の領域へと導く。次いで、その点におけるタンパク質は試験され、例えば、タンパク質データベースのインターロゲーションと組み合わせた直列質量分析を使用して、推定質量およびpIと発現されたタンパク質とが相関される。
【0190】
(質量分析により分画したタンパク質の同定)。
【0191】
質量分析のデータは、アルゴリズムをプログラム可能なデジタルコンピューター(これは、MSデータとデータベースにおけるレコードとを比較する)で実行することにより、サンプル中に存在するタンパク質を同定するために使用され得る。各分子は、MS法により分析されると、特徴的な質量分析(MS)データ(質量スペクトル「シグナチャ」または「フィンガープリント」ともいわれる)を提供する。このデータは、特に、このデータを、実際のMSデータもしくは理論的MSデータを含むデータベース、または成体ポリマー配列情報に対して比較することにより分析される。フラグメントのMS分析から得られた情報はまた、分析物中のポリペプチドを同定するためにデータベースと比較される(Yatesら、J.Mass Spec.33:1−19(1988);Yatesら、米国特許第5,538,897号;Yatesら、米国特許第6,17,693号)。
【0192】
SELDIにより検出されるタンパク質を同定するためのさらなる方法は、例えば、米国特許第6,225,047号;国際特許出願PCT/US00/28163、およびUSSN60/277,677号(2001年3月20日出願)。
【0193】
ポリペプチドの脱離および検出により生成されたデータは、任意の適切な手段を使用して分析され得る。1つの実施形態において、データは、プログラム可能なデジタルコンピューターの使用により分析される。このコンピュータープログラムは、概して、コードを格納する読み取り可能な媒体を含む。特定のコードは、基材、吸着剤を洗浄するために使用された特徴および溶出条件での吸着剤の正体に対する各特徴の位置を含むメモリに充てられ得る。この情報を使用すると、プログラムは、特定の選択特徴を規定する基材に対する特徴のセット(例えば、使用される吸着剤および溶離剤の型)を同定し得る。コンピューターはまた、入力として受け入れるコード、基板上の特定のアドレス可能な位置から受ける種々の分子量にシグナルの強さに対するデータを含む。このデータは、検出されるポリペプチドの数、必要に応じて、シグナルの強さおよび検出された各ポリペプチドについての決定された分子量を示す。
【0194】
データ分析は、検出されるポリペプチドのシグナル強度(例えば、ピーク高)を決定する工程および「アウトライアー」(所定の統計学的分布から外れるデータ)を取り除く工程を包含し得る。観察されたピークは、正規化され得、これは、いくつかの参照に対する各ピークの高さが計算されることによるプロセスである。例えば、参照は、尺度においてゼロとして設定される、機器および化学物質(例えば、エネルギー吸収分子)により生成されるバックグラウンドノイズであり得る。各ポリペプチドまたは他の物質について検出されるシグナル強度は、所望される尺度(例えば、100)において相対的強度の形態において示され得る。あるいは、標準物質から検出されるピークが、各ポリペプチドまたは他のポリペプチドについて観察される相対的シグナル強度を計算するための参照として使用され得るように、標準物質がサンプルとともに入れられる。
【0195】
特定の実施形態において、MSデータおよびこのデータから得られた情報は、データおよび生体ポリマーに関する情報からなるデータベースと比較される。例えば、このデータベースは、ヌクレオチドまたはアミノ酸の配列からなり得る。このデータベースは、発現された配列タグ(EST)のヌクレオチド配列またはアミノ酸配列からなり得る。あるいは、このデータベースは、ヌクレオチドレベルまたはアミノ酸レベルでの遺伝子の配列からなり得る。このデータベースは、ヌクレオチド配列の集合、アミノ酸配列、または任意の種のゲノムに含まれるヌクレオチド配列の翻訳が挙げられるが、これらに限定されない。
【0196】
生体ポリマーに関する情報(例えば、ヌクレオチドまたはアミノ酸の配列)のデータベースは、代表的には、コンピューターにより必要に応じて行われるコンピュータープログラムまたは検索アルゴリズムを介して分析される。配列データベースからの情報は、データおよび本発明の方法から得られる情報との最も良好な適合について検索される(例えば、Yates(1998)J.Mass Spec.33:1−19;Yatesら、米国特許第5,638,897号;Yatesら、米国特許第6,17,693号を参照のこと)。
【0197】
データベースを検索するために有用な任意の適切なアルゴリズムまたはコンピュータープログラムが使用され得る。検索アルゴリズムおよびデータベースは、常に更新され、このような更新されたバージョンは、本発明に従って使用される。プログラムまたはデータベースの例は、http://base−peak.wiley.com/、http://mac−mann6.embl−heidelberg.de/MassSpec/Software.html、http://www.mann.embl−heidelberg.de/Services/PeptideSearch/PeptideSearchIntro.html、ftp://ftp.ebi.ac.uk/pub/databases/、およびhttp://donatello.ucsf.eduにて、ワールドワイドウェブ(WWW)上で見出され得る。米国特許出願第5,632,041号、同第5,964,860号;同第5,706,498号;同第5,701,256号はまた、配列被殻のためのアルゴリズムまたは方法を記載する。
【0198】
1つの実施形態において、タンパク質、ペプチド、またはヌクレオチド配列のデータベースは、データベースの組み合わせである。データベースの例としては、いかが挙げられるが、これらに限定されない:UCSFウェブサイト(prospector.ucsf.edu)のProteinProspector、Genpeptデータベース、GenBankデータベース(described in Burksら(1990)Methods in Enzymology 183:3−22において記載される)、EMBLデータライブラリー(Kahnら(1990)Methods In Enzymology 183:23−31において記載される)、Protein Sequence Database(Barkerら(1990)Methods in Enzymology 183:31−49において記載される)、SWISS−PROT (Bairochら(1993)Nucleic Acids Res.,21:3093−3096に記載される)、およびPIR−International ((1993) Protein Seg. Data Anal.5: 67−192に記載される)。
【0199】
さらなる実施形態において、新規データベースは、質量分析により決定したMSデータ(例えば、切断されたタンパク質およびペプチドフラグメントの質量または質量スペクトル)と比較するために、生成している。例えば、特徴づけされつつあるペプチドの集まりの可能なアミノ酸配列組み合わせ全ての理論的データベースが生成される(Parekhら,WO98/53323)。従って、データベースは、サンプル中のペプチドのアミノ酸配列を決定するために質量分析を使用して決定された実際の集合である。
【0200】
いくつかの実施形態において、質量分析から得られたポリペプチドの質量は、最も近い適合を提供する核酸配列から、タンパク質または推定タンパク質の質量についてデータベースをクエリーするために使用される。このように、未知のタンパク質は、アミノ酸配列なしで迅速に同定され得る。本発明の他の実施形態において、そのキメラポリペプチドフラグメントから提供された質量は、最も近い適合を提供する核酸配列からタンパク質または推定タンパク質の推定質量分析に対して比較され得る。アルゴリズムまたはコンピュータープログラムは、MS法により分析される生体ポリマーを切断するために使用される同じ切断薬剤を使用して、データベース中の配列の理論的切断を生成する。
【0201】
親分子またはフラグメント分子のMSデータから生成された配列に類似の配列相同性の所望の範囲内にある配列データベースからの配列またはシミュレートされた切断フラグメントは、「マッチ」または「ヒット」と称される。このようにして、試験ドメインまたはそのフラグメントの正体が、迅速に決定され得る。研究者は、各特定の分析にしたが手、受け入れ可能な配列相同性比較値の範囲をカスタマイズまたは変化させ得る。
【0202】
(SELDIを使用するポリペプチドの検出)
特定の溶出条件下での吸着剤に吸着した分析物の検出は、サンプル中の分析物およびそれらの化学的特徴についての情報を提供する。吸着は、吸着剤:結合を可能にする特徴を有する吸着剤に結合する分析物の結合特徴に、一部依存する。例えば、特定のpHにてカチオン性である分子は、pHを含む溶出条件下でアニオン性吸着剤に結合する。強くカチオン性の分子は、非常に強い溶出条件下で吸着剤から溶出されるのみである。疎水性領域を有する分子は、疎水性吸着剤に結合する一方、親水性領域を有する分子は、親水性吸着剤に結合する。繰り返すと、相互作用の強さは、分析物が疎水性領域または親水性領域を含む程度に、一部依存する。従って、サンプル中の特定の分析物が、特定の溶出条件下で吸着剤に結合するという決定が、互いからおよび結合に適切な化学的特長を有さない分析物から分離することにより、混合物中の分析物を分離するだけでなく、あるクラスの分析物または特定の化学的特徴を有する個々の分析物を同定することにもなる。種々の溶出条件下で1以上の特定の吸着剤に対する分析物保持についての情報を収集すると、混合物中の分析物の詳細な分離だけでなく、それらの正体を導き得る分析物、それ自体についての化学的情報もまた提供される。このデータは、「保持データ」といわれる。
【0203】
保持アッセイにおいて生成されたデータは、プログラム可能なデジタルコンピューターの1つを使用して最も容易に分析される。コンピュータープログラムは、概して、コードを格納する読み取り可能な媒体を含む。特定のコードは、基材アレイ、吸着剤を洗浄するために使用された特徴および溶出条件での吸着剤の正体に対する各特徴の位置を含むメモリに充てられ得る。この情報を使用すると、プログラムは、特定の選択特徴を規定するアレイに対する特徴のセットを同定し得る。コンピューターはまた、入力として受け入れるコード、プローブに対する特定のアドレス可能な位置から受ける種々の分子量にシグナルの強さに対するデータを含む。このデータは、検出される分析物の数(必要に応じて、各分析物について、シグナルの検出される強さおよび決定された分子量を含む)を示す。
【0204】
コンピューターはまた、データを処理するコードを含む。本発明は、データを処理するための種々の方法を意図する。1つの実施形態において、この方法は、分析物認識プロフィールを作製する工程を包含する。例えば、質量分析により同定される特定の分析物の保持に対するデータは、特定の結合特徴(例えば、アニオン性吸着剤または疎水性吸着剤への結合)に従って分類され得る。この収集されたデータは、特定の分析物の化学的特徴のプロフィールを提供する。保持特徴は、分析物の気嚢を反映し、これは、続いて、構造を反映する。例えば、配位結合金属キレート剤に対する保持時間は、ポリペプチド分析物中のヒスチジン残基の存在を反映する。種々のpHレベルの溶出下での複数のカチオン性吸着剤およびアニオン性吸着剤に対する保持レベルのデータを使用すると、タンパク質の等電点を獲得し得る情報が明らかになる。続いて、このことは、タンパク質中のイオン性アミノ酸のあり得る数を反映する。従って、コンピューターは、結合情報を構造情報に変換するコードを含み得る。さらに、分析物の二次処理(例えば、翻訳後修飾)は、結合または質量における差異により反映される変化した認識プロフィールを生じる。
【0205】
別の実施形態において、保持アッセイは、2つの異なる細胞型に対して、選択性閾値の同じセットを使用して行われ、2つのアッセイからの保持データが比較される。保持マップにおける差異(例えば、任意の特徴でのシグナルの存在または強度)は、2つの細胞により差示的に発現される分析物を示す。このことは、例えば、2つの保持アッセイ間のシグナル強度の差異を示す差異マップを生成し、それにより、どの分析物が、2つのアッセイにおいて吸着剤により多くまたは少なく保持されたかを示す。
【0206】
コンピュータープログラムはまた、入力としてプログラマーからの指示を受け入れれるコードを含み得る。アレイにおける特定された、所定の位置から分析物の選択的脱離についての連続的かつ論理的経路が認識され得、予めプログラムされ得る。
【0207】
コンピューターは、提示のために別のフォーマットへデータを変換し得る。データ分析は、収集したデータから特徴位置の関数として、例えば、シグナル強度を決定する工程、「アウトライアー」(所定の統計学的分布から外れるデータ)を取り除く工程、および残りのデータから分析物の相対的結合親和性を算出する工程を包含し得る。
【0208】
得られたデータは、種々の形式にて提示され得る。1つの形式において、シグナル強度は、分子量の関数としてグラフに提示される。別の形式(「ゲル形式といわれる」)において、シグナル強度は、直線軸暗さの強度に沿って提示されて、ゲル上のバンドに類似する概観を生じる。別の形式において、特定の閾値に達したシグナルは、分子量を示す水平軸上に垂線またはバーとして提示される。従って、各バーは、検出される分析物を示す。データはまた、結合特徴および/または溶出特徴に従って分類された分析物についてのシグナル強度のグラフにて提示される。
【0209】
本明細書中に記載の実施例および実施形態は、例示目的に過ぎず、これらに照らして、種々の改変または変更が当業者に示唆され、本願の趣旨および範囲内および添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれることが理解される。本明細書中で引用された全ての刊行物、特許、および特許出願は、その全体が全ての目的のために本明細書中に参考として援用される。
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2001年2月16日に出願されたUSSN60/269,772の優先権を主張する。この出願は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(連邦政府による援助を受けた研究および開発の下で成された発明に対する権利に関する宣言)
適用なし。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
ゲノミクス(genomics)は、ある種の遺伝子ゲノムの集合的なセットの研究、ならびに異なる細胞および同一細胞における、一時的な、発達的な、および変化する環境条件下でのその遺伝子の機能および活性の研究である。異なる遺伝子の機能および活性は、身体中での特殊化された活性についての細胞の発達および健常な細胞から病理的な細胞への細胞のトランスフォーメーションにおいて重要な役割を果たす。
【0004】
細胞中での遺伝子情報の発現は、中間分子であるmRNAの転写を通じて実施される。細胞は、発現されたmRNAをポリペプチドまたはタンパク質に翻訳する。タンパク質は、遺伝子によりコードされる大部分の機能を発揮する。ある種のタンパク質(プロテオーム)の集合的なセット、ならびに細胞中でのそれらのタンパク質の活性および機能の研究は、「プロテオミクス(proteomics)」と呼ばれる生物学の新たな分野の主題である。
【0005】
細胞の特徴は、その細胞により発現される遺伝子に依存するので、遺伝子発現プロファイリングは、ゲノミクスにおいて重要な方法となっている。遺伝子発現プロファイリングは、細胞中でどの遺伝子が発現されるかおよびそれらの発現のレベルを決定することを試みる。従って、細胞の遺伝子発現プロフィールは、細胞の特徴である「フィンガープリント」を提供し、これは、細胞の同定およびその活性の両方を示す。異なる細胞の遺伝子発現プロフィールの比較は、「示差的遺伝子発現」と呼ばれるプロセスである。この方法は、細胞の異なる表現型を担う遺伝子についての情報を提供し得る。健常な細胞と病理的な細胞において示差的に発現される遺伝子は、診断マーカーとして機能し得、そして治療的介入のための候補標的である。従って、異なる細胞型における遺伝子発現の正確なプロフィールを獲得することが、重要な目的である。
【0006】
現在、細胞の遺伝子発現プロフィールを生成するために使用される多くの方法が存在する。これらの方法として、ノーザンブロット、RT−PCR、ヌクレアーゼ保護、ディファレンシャルディスプレイ、cDNAフィンガープリント法、およびサブトラクティブハイブリダイゼーションのような伝統的な方法、ならびに発現配列タグの生成または「EST」ライブラリーおよびアレイ、cDNAアレイ、mRNAアレイ、オリゴヌクレオチドアレイ、および遺伝子発現の連続分析または「SAGE」のような新たな技術が挙げられる(一般的には、LockharおよびWinzeler、Nature 405:827−836(2000)を参照のこと;Velculescuら、Science 270:484−487(1995)もまた参照のこと)。
【0007】
1つの例において、核酸アレイ(例えば、オリゴヌクレオチドアレイ)が、発現プロファイリングのために使用される。これらのアレイは、固体支持体上の予め決定され、アドレス可能な位置に結合された、特別に選択されたオリゴヌクレオチドの集合である。特定の実施形態において、これらのアレイは、ゲノム中の各々の既知の遺伝子を特異的に同定するオリゴヌクレオチドを含む。細胞から獲得されたメッセンジャーRNAまたはcDNAが、このアレイに適用される。各mRNAまたはcDNAは、それらが転写された特定の遺伝子に対応するオリゴヌクレオチドとハイブリダイズする。各々の固定されたオリゴヌクレオチドの同一性および位置は予め決定されているので、各々のハイブリダイゼーション現象は、特定の遺伝子がその細胞により発現されていることを示す。オリゴヌクレオチドアレイの1つの市販版は、AffymetrixのGeneChipTMである。市販のアレイ法のさらに別の例において、アレイまたは細胞でコーティングされたビーズが、光学センサ分子にそれぞれ取り付けられている。アドレスを提供するために、次いで、このビーズは、光ファイバー束のファイバーの末端でウェルに引き込まれている(例えば、Bead ArrayTM(Illumina)を参照のこと)。さらに別の実施形態において、アレイは、ESTライブラリーから作製され得る。ESTライブラリーは、細胞中で発現されたmRNAのセットを逆転写することにより作製される。頻繁に、mRNA全体が逆転写されず、その十分な部分は、そのmRNAを発現した遺伝子を固有に同定する。ESTは、配列決定されており、そしてゲノムデータベースにおいて同定されている。
【0008】
既存の遺伝子発現技術の能力にも関わらず、以下の多くの理由で、mRNA転写のレベルは、必ずしもタンパク質発現のレベルと直接的に相関しないことが理解される:(1)異なるmRNAは、異なる効率でポリペプチドに翻訳され得る;(2)mRNAは、異なる細胞において示差的にスプライシングされて、異なるタンパク質が生成され得る;(3)発現されたポリペプチドは、異なる速度で分解され得る;および(4)ポリペプチドは、翻訳後修飾に供され得、その結果、同一のポリペプチドは、同一細胞および異なる細胞において異なる形態または機能であると推測され得る。従って、mRNA発現とタンパク質発現を相関させる必要性が存在する(例えば、Hancockら、Anal.Chem.News & Features、November 1、1999、742A〜748A頁;Nelsonら、Electrophoresis 21:1823−1831(2000)を参照のこと)。
【0009】
同時に、タンパク質発現プロファイリングの現在の方法(例えば、質量分析、2Dゲル電気泳動、およびクロマトグラフィー)は、感度および分解能における制限に悩まされ得る(例えば、Pandey & Mann、Nature 405:837−846(2000)を参照のこと)。従って、本発明は、遺伝子発現プロファイリングとタンパク質プロファイリングを組み合わせてより迅速および正確に特定の細胞型における目的のタンパク質を同定することにより、この問題に取り組む。遺伝子発現プロファイリングは、候補転写物または細胞中で発現される転写物を選択するために使用される。転写物は、代表的に、配列決定され、そしてコードされるタンパク質のアミノ酸配列を推定するために使用される。次いで、アミノ酸配列は、転写物によりコードされるタンパク質の生理化学的(physio−chemical)特徴(例えば、分子量、等電点、疎水性、親水性、グリコシル化、リン酸化、エピトープ配列、リガンド結合配列、特定pHでの電荷、または金属キレート結合)を予測および同定するために使用される。次いで、この生理化学的特徴は、タンパク質プロファイリングの感度および分解能を改善するために使用され、それによって、特定の細胞型において発現されるmRNAによりコードされるタンパク質についての改善された情報を提供する。本発明は、このような相関を作成するための方法を提供し、他の利点もまた提供する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の要旨)
従って、本発明は、遺伝子発現とタンパク質発現を相関させるための方法を提供する。この方法は、サンプルに対する遺伝子発現プロファイリングを実施する工程、さらなる研究のために1つ以上の発現された遺伝子を選択する工程、これらの遺伝子によりコードされるタンパク質に特徴的な生理化学的特性を決定する工程、およびこの生理化学的特性を、サンプルのタンパク質発現プロファイリングにおける識別子として使用して、タンパク質がサンプル中で発現されるか否かを決定する工程を包含する。特定の実施形態において、選択された遺伝子は、2つの細胞または目的のサンプル(例えば、健常な細胞および病理的な細胞、または細胞周期、成熟、示差的経路の異なる段階もしくは異なる環境条件下の2つの細胞)において示差的に発現される。好ましい実施形態において、タンパク質は、質量分析を用いて分画される。別の好ましい実施形態において、タンパク質は、SELDI(表面活性化レーザー脱離イオン化法)を用いて分画される。
【0011】
従って、本発明の方法は、薬物送達のための標的タンパク質の同定、診断マーカーの同定、疾患状態(例えば、癌(例えば、前立腺、胸部、肺、膀胱、卵巣、結腸、脳、および腎臓);癌転移;糖尿病(若年性および後期発症性の両方);自己免疫疾患(例えば、慢性関節リウマチおよび多発性硬化症);心臓疾患(例えば、心筋梗塞、アテローム硬化、および心筋症);脳血管疾患(例えば、発作);腎臓疾患;肺疾患(例えば、気腫);ウイルス感染(例えば、HIV、HCV、CMV、HPV、HBV);細菌感染(例えば、M.tuberculosis、毒素原性E.coli、Streptococcus sp.、Staphylococcus sp.);真菌感染;原生生物感染(例えば、マラリア、住血吸虫症、シャーガス病)に有用である。本発明の方法はまた、異なる対立遺伝子の発現産物を調査するために(例えば、薬理遺伝学用途に)有用である。本発明の方法はまた、毒物学研究のため、および変化した環境条件(例えば、照射(例えば、UV照射)、熱さ、および冷却)への細胞の暴露の効果を調査するために有用である。
【0012】
(図面の簡単な説明)
適用なし。
【0013】
(発明の詳細な説明)
(導入)
本発明は、RNAとタンパク質の発現プロファイリングを組み合わせて、異なる条件下(例えば、細胞周期の異なる時点)、変化した条件下(例えば、イオン流入または流出;毒素;薬物;リガンド;例えば、ホルモン、サイトカイン、またはケモカイン;あるいは病原(例えば、ウイルス、細菌、原生生物、または真菌)への暴露)、変化した病理学的条件下(例えば、癌)成熟および分化の間の異なる時点、生物の発達の間の異なる時点、応答(例えば、炎症)の間、異なる組織型または器官において、異なる病理学的条件下(例えば、癌または自己免疫疾患)、異なる表現型特性を有する個体間(例えば、特定の薬学的薬物に対する応答体(responder) 対 非応答体)など)の細胞中で発現される遺伝子およびタンパク質を同定する方法を提供する。本発明の方法は、例えば、当業者が、細胞または生物学的サンプル中で発現される候補遺伝子のリストを同定することを可能にし、次いで、本発明の方法を用いて目的の遺伝子によりコードされる目的のタンパク質のサブセットをさらに同定することを可能にする。本発明の方法はまた、mRNA発現に関連する情報を、そのmRNAによりコードされるタンパク質の発現および機能と結び付けるのに有用である。
【0014】
従って、本発明は、細胞中での遺伝子とタンパク質の発現を相関させる方法を提供する。この方法は、生物学的サンプルを獲得する工程;サンプルの遺伝子発現プロフィールを生成し、それによってサンプル中で発現される1つ以上のmRNAを同定する工程;そのRNAによりコードされるポリペプチドの1つ以上の生理化学的特性を予測および同定する工程;ならびにサンプル中のポリペプチドを分画することによって、そのmRNAによりコードされる1つ以上のポリペプチド(このポリペプチドは、サンプル中での生理化学的特性を含む)を同定する工程を包含し、それによって、サンプル中での遺伝子とタンパク質の発現を相関させる。
【0015】
1つの実施形態において、遺伝子発現プロフィールを生成する工程は、ESTアレイ、mRNAアレイ、またはオリゴヌクレオチドアレイを用いて発現されるmRNAを同定する工程を包含する。
【0016】
別の実施形態において、ポリペプチドを同定する工程は、2−D電気泳動、クロマトグラフィー、質量分析、またはSELDIを用いてサンプル中のポリペプチドを分画する工程を包含する。
【0017】
別の実施形態において、生理化学的特性は、アミノ酸配列、分子量、等電点、疎水性、親水性、電荷(例えば、等電点)、グリコシル化、リン酸化、エピトープ配列、または抗体結合、リガンド結合、色素結合、および金属キレート結合からなる群より選択される。別の実施形態において、生理化学的特性を同定する工程は、選択されたタンパク質分解剤によるコードされるポリペプチドの分解の際に、コードされるポリペプチドにより生成されるタンパク質分解フラグメントの質量を予測する工程を包含し、そしてポリペプチドを同定する工程は、サンプル中のポリペプチドを、薬剤による分解に供する工程および予測されたフラグメントの質量と対応する質量を有するサンプル中の実際のタンパク質分解フラグメントを同定する工程を包含する。
【0018】
別の実施形態において、サンプルは、ヒト細胞を含む。別の実施形態において、サンプルは、正常または健常な細胞由来の細胞溶解物を含む。別の実施形態において、サンプルは、病理学的細胞由来の細胞溶解物を含む。別の実施形態において、サンプルは、毒性化合物と接触された細胞由来の細胞溶解物を含む。別の実施形態において、生物学的サンプルは、薬物処置に対して応答する被験体または薬物処置に対して応答しない被験体の細胞由来の細胞溶解物を含む。
【0019】
1つの実施形態において、サンプルはヒト由来の組織である。別の実施形態において、mRNAは、2つの生物学的サンプルにおいて示差的に発現される。別の実施形態において、2つの生物学的サンプルは、正常または健常な細胞および病理学的な細胞(例えば、癌細胞)である。別の実施形態において、2つの生物学的サンプルは、健常な細胞および毒性化合物に曝された細胞から獲得される。
【0020】
別の実施形態において、サンプルは生検;培養細胞(例えば、形質転換細胞、細胞株由来の細胞、移植片、または初代培養物);血液、血清、痰、便、または尿を含む。
【0021】
本発明の好ましい局面において、この方法は、生物学的サンプルを獲得する工程;核酸アレイを用いて細胞の遺伝子発現プロフィールを生成し、それによって細胞中で発現される1つ以上のmRNAを同定する工程;mRNAによりコードされるポリペプチドの1つ以上の生理化学的と特性を同定する工程;および質量分析により、サンプル中のポリペプチドを分画することによって、この生理化学的特性を含むポリペプチドを同定する工程を包含し、それによって細胞における遺伝子とタンパク質の発現を相関させる。
【0022】
本発明の好ましい局面において、この方法は、細胞を含む生物学的サンプルを獲得する工程;オリゴヌクレオチドアレイを用いて細胞の遺伝子発現プロフィールを生成し、それによって細胞中で発現される1つ以上のmRNAを同定する工程;mRNAによりコードされるポリペプチドの1つ以上の生理化学的と特性を同定する工程;およびSELDI(SELDIは、固相に結合した吸着剤における親和性保持による分画、その後の空気相イオン分光測定による固相からの保持タンパク質の分画を含む)により、サンプル中のポリペプチドを分画することによって、この生理化学的特性を含むポリペプチドを同定する工程を包含し、それによって細胞における遺伝子とタンパク質の発現を相関させる。
【0023】
1つの実施形態において、この方法は、サンプル中で発現されるmRNAまたはタンパク質のいずれかを同定するために、1つ以上の技術を使用することを包含する。
【0024】
1つの実施形態において、ゲノミクスアレイは、ハウスキーピング遺伝子の発現と、他の組織特異的遺伝子の発現を比較する。1つの実施形態において、ゲノミクスアレイは、示差的なレベルの遺伝子発現を比較する。1つの実施形態において、ゲノミクスアレイは、類似のレベルの遺伝子発現を比較する。
【0025】
(定義)
他に規定されない限り、本明細書中で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明の属する分野の当業者により一般的に理解されている意味を有する。以下の参考文献は、当業者に本発明において使用される多くの用語の一般的な定義を提供する:Singletonら、Dictionary of Microbiology and Molecular Biology(第2版、1994);The Cambridge Dictionary of Science and Technology(Walker編、1988);The Glossary of Genetics、第5版、R.Riegerら(編)、Springer Verlag(1991);およびHale & Marham、The Harper Collins Dictionary of Biology(1991)。本明細書中で使用する場合、以下の用語は、他に特定されない限り、それらに基づく意味を有する。
【0026】
「生物学的サンプル」は、ウイルス、細胞、組織、器官、または生物(真核生物または原核生物のいずれか)から獲得されるサンプルをいい、細胞、組織または器官溶解物もしくはホモジネート、あるいは体液サンプル(例えば、血液、尿、痰、または脳脊髄液)が挙げられるがこれらに限定されない。このようなサンプルとして、ヒトから単離された組織、またはそれらに由来する移植片、初代細胞、および形質転換細胞の培養物が挙げられるがこれらに限定されない。生物学的サンプルはまた、組織の切片(例えば、組織学的目的で採取された凍結切片)を含み得る。生物学的サンプルは、真核生物(例えば、真菌、植物、昆虫、原生生物、鳥類、魚類、爬虫類、および好ましくは哺乳動物(例えば、ラット、マウス、ウシ、イヌ、モルモット、またはウサギ))から獲得され得、最も好ましくは、霊長類(例えば、チンパンジーまたはヒト)から獲得され得る。
【0027】
「生体ポリマー」は、生物学的起源のポリマー(例えば、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、多糖、またはポリグリセリド(例えば、ジグリセリドまたはトリグリセリド))をいう。
【0028】
「ポリペプチド」は、アミノ酸残基のポリマー、関連する天然に存在する構造的改変体、および合成性の天然に存在しないペプチド結合により連結されたそのアナログ、関連する天然に存在する構造的改変体、および合成性の天然に存在しないそのアナログで構成されるポリマーをいう。合成ポリペプチドは、例えば、自動ポリペプチド合成機を用いて合成され得る。用語「タンパク質」は、代表的に、大きなポリペプチドをいう。用語「ペプチド」は、代表的に、短いポリペプチドをいう。
【0029】
「ポリヌクレオチド」または「核酸」は、ヌクレオチド単位で構成されるポリマーをいう。ポリヌクレオチドとして、天然に存在する核酸(例えば、デオキシリボ核酸(「DNA」)およびリボ核酸(「RNA」))ならびに核酸アナログが挙げられる。核酸アナログとして、天然に存在しない塩基、天然に存在するホスホジエステル結合以外で他のヌクレオチドと連結されたヌクレオチドまたはホスホジエステル結合以外の連結を通して結合された塩基を含む核酸アナログが挙げられる。従って、ヌクレオチドアナログとして、例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロトリエステル、ホスホルアミデート、ボラノホスフェート、メチルホスホネート、キラル−メチルホスホネート、2−O−メチルリボヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA)などが挙げられるがこれらに限定されない。このようなポリヌクレオチドは、例えば、自動DNA合成機を用いて合成され得る。用語「核酸」は、代表的に、大きなポリヌクレオチドをいう。用語「オリゴヌクレオチド」は、代表的に、短いポリヌクレオチドをいい、一般的に、約50ヌクレオチド以下である。ヌクレオチド配列がDNA配列(すなわち、A、T、G、C)により表される場合、これはまた、「T」が「U」で置換されたRNA配列(すなわち、A、U、G、C)も含む。
【0030】
「検出可能部分」または「標識」は、分光手段、光化学手段、生化学手段、免疫化学手段、または化学手段により検出可能な組成をいう。例えば、有用な標識として、32P、35S,蛍光色素、電子密度試薬、酵素(例えば、ELISAにおいて一般的に使用されるような酵素)、ビオチン−ストレプトアビジン、ジオキシゲニン、抗血清またはモノクローナル抗体が利用可能なハプテンおよびタンパク質、または標的に相補的な配列を有する核酸分子が挙げられる。検出可能部分は、しばしば、サンプル中で結合した検出可能部分の量を定量するために使用され得る測定可能なシグナル(例えば、放射活性シグナル、発色シグナル、または蛍光シグナル)を生成する。この検出可能部分は、プライマーまたはプローブに、共有結合によるかまたはイオン結合、ファンデルワールス結合、もしくは水素結合を通じて組込まれるかまたは取り付けられ得る(例えば、放射活性ヌクレオチド、またはストレプトアビジンにより認識されるビオチニル化ヌクレオチドの組込み)。検出可能部分は、直接的にかまたは間接的に検出可能であり得る。間接的な検出は、検出可能部分への、第2の直接的または間接的な検出可能部分の結合を含み得る。例えば、検出可能部分は、結合パートナーのリガンド(例えば、ストレプトアビジンに対する結合パートナーであるビオチン、または特異的にハイブリダイズし得る相補鎖に対する結合パートナーであるヌクレオチド配列)であり得る。結合パートナーは、それ自体が直接的に検出可能であり得る(例えば、抗体は、それ自体が、蛍光分子で標識され得る)。結合パートナーはまた、間接的に検出可能であり得る(例えば、相補的なヌクレオチド配列を有する核酸は、他の標識された核酸分子とのハイブリダイゼーションを通してその後検出可能となる分枝状DNA分枝の一部であり得る)(例えば、Fahrlander & Klausner、Biotechnology 6:1165(1988)を参照のこと)。シグナルの定量は、例えば、シンチレーション計数、デンシトメトリー、またはフローサイトメトリーにより達成され得る。
【0031】
用語「単離された」「精製された」または「生物学的に純粋な」は、その天然の状態で見出される通常それに付随する要素を実質的または本質的に含まない物質をいう。純粋および均一性は、代表的に、分析化学技術(例えば、ポリアクリルアミドゲル電気泳動または高速液体クロマトグラフィー)を用いて決定される。調製物中に存在する優先的な種であるタンパク質または核酸は、実質的に精製されている。特に、単離された核酸は、その遺伝子に隣接し、その遺伝子によりコードされるタンパク質と異なるタンパク質をコードするオープンリーディングフレームから分離されている。用語「精製された」は、核酸またはタンパク質が、電気泳動ゲルにおいて本質的に1つのバンドを生じることを意味する。特に、用語「精製された」は、核酸またはタンパク質が、少なくとも85%純粋、より好ましくは少なくとも95%純粋、および最も好ましくは少なくとも99%純粋であることを意味する。
【0032】
「精製する」または「精製」は、精製される組成物から少なくとも1つの混入物を除去することを意味する。精製は、精製された化合物が、100%純粋であることを必要としない。
【0033】
用語「組換え体」は、例えば、細胞、または核酸、タンパク質、またはベクターを指して使用する場合、その細胞、核酸、タンパク質、またはベクターが、異種核酸もしくは異種タンパク質の導入またはネイティブ核酸にもしくはタンパク質の変更により改変されていることを示すか、あるいはその細胞がそのように改変された細胞に由来することを示す。従って、例えば、組換え細胞は、ネイティブ(非組換え)形態の細胞中では見出されない遺伝子を発現するか、またはそうでなければ異常に発現されるか、過小に発現されるか、もしくは全く発現されないネイティブ遺伝子を発現する。
【0034】
「組換えポリヌクレオチド」は、天然では一緒に連結されない配列を有するポリヌクレオチドをいう。増幅または構築された組換えポリヌクレオチドは、適切なベクター中に含まれ得、そしてベクターは、適切な宿主細胞を形質転換するために使用され得る。組換えポリヌクレオチドを含む宿主細胞は、「組換え宿主細胞」と呼ばれる。次いで、この遺伝子は、組換え宿主細胞中で発現されて、例えば、「組換えポリペプチド」を産生する。組換えポリヌクレオチドは、非コード機能(例えば、プロモーター、複製起点、リボソーム結合部位など)としても役立ち得る。適切な単細胞宿主として、真核生物または哺乳動物ポリヌクレオチドを発現するのに慣用的に使用される任意の単細胞宿主(例えば、原核生物(例えば、E.coli);および真核生物(真菌(例えば酵母)を含む);および哺乳動物細胞(昆虫細胞(例えばSf9)および動物細胞(例えば、CHO、R1.1、B−W、L−M、African Green Monkey Kideney細胞(例えば、COS1、COS7、BSC1、BSC40、およびBMT10)を含む)ならびに培養ヒト細胞)が挙げられる。
【0035】
用語「異種」は、核酸の部分を指して使用する場合、その核酸が、天然で互いに同一の関係で見出されない2つ以上の配列を含むことを示す。例えば、核酸は、代表的に、組換え生成され、関連しない遺伝子由来の2つ以上の配列が、新たな機能的核酸(例えば、1つの供給源由来のプロモーターおよび別の供給源由来のコード配列)を生成するよう配置される。同様に、異種タンパク質は、天然で互いに同一の関係で見出されない2つ以上のタンパク質を含むことを示す(例えば、融合タンパク質)。
【0036】
句「選択的(または特異的)にハイブリダイズする」は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下での特定のヌクレオチド配列のみへの分子の結合、二重鎖形成、またはハイブリダイズ(その配列が複雑な混合物(例えば、総細胞またはライブラリーDNAもしくはRNA)に存在する場合)をいう。
【0037】
句「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」は、プローブが、その標的配列にハイブリダイズするが、代表的には核酸の複雑な混合物中で他の配列にはハイブリダイズしない条件をいう。ストリンジェントな条件は、配列依存的であり、異なる環境で異なる。より長い配列は、より高い温度で特異的にハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションに対する広範な手引きは、Tijssen、Techniques in Biochemistry and Molecular Biology−−Hybridization with Nucleic Probes、「Overview of principle of hybridization and the strategy of nucleic acid assays」(1993)に見出される。一般的に、ストリンジェントな条件は、規定されたイオン強度pHでの特定の配列に対する熱融解温度(Tm)よりも約5〜10℃下で選択される。Tmは、標的に相補的なプローブの50%が平衡状態で(標的配列は過剰に存在するので、Tmにて、プローブの50%は平衡状態となる)標的配列にハイブリダイズする温度(規定されたイオン強度、pH、および核酸濃度下)である。ストリンジェントな条件は、塩濃度が、pH7.0〜8.3で、約1.0M未満のナトリウムイオン、代表的には、約0.01〜1.0M ナトリウムイオン濃度(または他の塩)であり、そして温度が、短いプローブ(例えば、10〜50ヌクレオチド)については少なくとも約30℃、長いプローブ(例えば、50より長いヌクレオチド)については少なくとも約60℃である条件である。ストリンジェントな条件はまた、不安定化剤(例えば、ホルムアミド)の添加により達成され得る。高ストリンジェンシーハイブリダイゼーションについて、ポジティブシグナルは、バックグラウンドの少なくとも2倍、好ましくは、バックグラウンドの10倍のハイブリダイゼーションである。高ストリンジェンシーまたはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例として、以下が挙げられる:42℃でインキュベートされた50%ホルムアミド、5×SSC、および1% SDS、または65℃でインキュベートされた5×SSCおよび1% SDS、ならびに65℃の0.2×SSCおよび0.1% SDS中での洗浄。PCRについて、約36℃の温度が、低ストリンジェンシーの増幅について代表的であるが、アニーリング温度は、プライマー長に依存して約32℃と約48℃との間で変化し得る。高ストリンジェンシーのPCR増幅について、約62℃の温度が代表的であるが、高ストリンジェンシーのアニーリング温度は、プライマーの長さおよび特異性に依存して約50℃〜約65℃の範囲であり得る。高ストリンジェンシーおよび低ストリンジェンシーの両方の増幅についての代表的なサイクル条件は、90℃〜95℃で30秒〜2分間の変性段階、30秒〜2分間のアニーリング段階、および約72℃で1〜2分間の伸長段階を含む。
【0038】
「複数」は、少なくとも2である。
【0039】
「リガンド」は、標的分子に特異的に結合する化合物である。
【0040】
「レセプター」は、リガンドに特異的に結合する化合物を意味する。
【0041】
「抗体」は、免疫グロブリン由来のフレームワーク領域または抗原に特異的に結合および認識するそのフラグメントを含むポリペプチドをいう。認識される免疫グロブリン遺伝子として、κ、λ、α、γ、δ、ε、およびμ定常領域遺伝子、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が挙げられる。軽鎖は、κまたはλのいずれかとして分類される。重鎖は、γ、μ、α、δ、またはεとして分類され、これらは、それぞれ、免疫グロブリンクラスIgG、IgM、IgA、IgD、およびIgEを規定する。この用語はまた、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単鎖抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、およびそれらのフラグメントを包含する。
【0042】
例示的な免疫グロブリン(抗体)の構造単位は、テトラマーを含む。各テトラマーは、ポリペプチド鎖の2つの同一の対からなり、各対が、1つの「軽」鎖(約25kD)および1つの「重」鎖(約50〜70kD)を有する。各鎖のN末端は、主として抗原認識を担う、約100〜110以上のアミノ酸の可変領域を規定する。用語可変軽鎖(VL)および可変重鎖(VH)は、それぞれ、これらの軽鎖および重鎖をいう。
【0043】
抗体は、例えば、インタクトな免疫グロブリンとして、または種々のペプチダーゼで消化することによって生成される、多数の十分に特徴付けられたフラグメントとして、存在する。従って、例えば、ペプシンは、ヒンジ領域におけるジスルフィド結合の下流で抗体を消化して、F(ab)’2を生成し、これは、それ自体がジスルフィド結合によってVH−CH1に結合した軽鎖である、Fabのダイマーである。F(ab)’2は、マイルドな条件下で還元されて、ヒンジ領域のジスルフィド結合を破壊し得、これによって、F(ab)’2ダイマーをFab’モノマーに転換する。Fab’モノマーは、本質的に、ヒンジ領域の一部を有するFabである(Fundamental Immunology(Paul編,第3版、1993)を参照のこと)。種々の抗体フラグメントが、インタクトな抗体の消化の観点から規定されているが、当業者は、このようなフラグメントが、化学的にか、または組換えDNA方法論の使用によってかのいずれかで、デノボで合成され得ることを理解する。従って、用語抗体とはまた、本明細書中において使用される場合、抗体全体の改変によって生成した抗体フラグメント、または組換えDNA方法論を使用してデノボで合成されたもの(例えば、単鎖Fv)もしくはファージディスプレイライブラリーを使用して同定されたもの(例えば、McCaffertyら、Nature 348:552−554(1990)を参照のこと)のいずれかの抗体フラグメントを包含する。
【0044】
モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体の調製のために、当該分野において公知の任意の技術が使用され得る(例えば、KohlerおよびMilstein,Nature 256:495−497(1975);Kozborら、Immunology Today 4:72(1983);Coleら、pp.77−96、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,Inc.(1985)を参照のこと)。単鎖抗体の生成のための技術(米国特許第4,946,778号)が、本発明のポリペプチドに対する抗体を生成するために適合され得る。また、トランスジェニックマウス、または他の生物(例えば、他の哺乳動物)ヒト化抗体を発現するために使用され得る。あるいは、ファージディスプレイ技術が、選択された抗原に特異的に結合する抗体およびヘテロマーFabフラグメントを同定するために使用され得る(例えば、McCaffertyら、Nature 348:552−554(1990);Marksら、Biotechnology 10:779−783(1992)を参照のこと)。
【0045】
リガンドまたはレセプターが、不均質なの化合物のサンプル中の分析物の存在を決定する結合反応において機能する場合、そのリガンドまたはレセプター(例えば、抗体)は、その化合物分析物「に特異的に結合する」か、またはその化合物分析物「と特異的に免疫反応性である」。従って、指定されたアッセイ(例えば、免疫アッセイ)の条件下で、リガンドまたはレセプターは、特定の分析物に優先的に結合し、そしてそのサンプル中に存在する他の化合物には、有意な量では結合しない。例えば、ポリヌクレオチドは、相補配列を含む分析物ポリヌクレオチドに、ハイブリダイゼーション条件下で特異的に結合する;抗体は、免疫アッセイ条件下で、抗体が惹起されたエピトープを保有する抗原分析物に特異的に結合する;そして吸着剤は、適切な溶出条件下で分析物に特異的に結合する。
【0046】
「薬剤」とは、化合物、化合物の混合物、組成が未決定のサンプル、コンビナトリアル低分子アレイ、生物学的高分子、バクテリオファージペプチドディスプレイライブラリー、バクテリオファージ抗体(例えば、scFv)ディスプレイライブラリー、ポリソームペプチドディスプレイライブラリー、あるいは細菌、植物、真菌、または動物の細胞もしくは組織のような生物学的材料から作製された抽出物をいう。適切な技術としては、ファージベクターまたは類似のベクターにおける組換え抗体のライブラリーの選択が挙げられる(例えば、Huseら、Science 246:1275−1281(1989);およびWardら、Nature 341:544−546(1989)を参照のこと)。Huseによって記載されたプロトコルは、ファージディスプレイ技術と組み合わせて、より効率的にされる(例えば、WO 91/17271およびWO 92/01047を参照のこと)。
【0047】
「発現制御配列」とは、作動可能に連結したヌクレオチド配列の発現(転写および/または翻訳)を調節する、ポリヌクレオチドにおけるヌクレオチド配列をいう。「作動可能に連結した」とは、1つの部分の活性(例えば、転写を調節する能力)が、他方の部分(例えば、配列の転写)への作用を生じる、2つの部分の間の機能的関係をいう。発現制御配列としては、例えば、プロモーター配列(例えば、誘導、抑制、または構成)、エンハンサー、転写ターミネーター、開始コドン(すなわち、ATG)、イントロンのためのスプライシングシグナル、および終止コドンの配列が挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0048】
「発現ベクター」とは、発現されるべきヌクレオチド配列に作動可能に連結した発現制御配列を含む、組換えポリヌクレオチドを含むベクターをいう。発現ベクターは、発現のための十分なシス作用性エレメントを含む;発現のための他のエレメントは、宿主細胞またはインビトロ発現系によって供給され得る。発現ベクターとしては、当該分野において公知の全てのものが挙げられ、例えば、コスミド、プラスミド(例えば、裸であるかまたはリポソーム中に含まれている)、および組換えポリヌクレオチドを組み込むウイルスである。
【0049】
「コードする」とは、生物学的プロセスにおける、ヌクレオチドの規定された配列(すなわち、rRNA、tRNAおよびmRNA)またはアミノ酸の規定された配列およびそこから生じる生物学的特性のいずれかを有する他のポリマーおよび高分子の合成のためのテンプレートとして働く、ポリヌクレオチド(例えば、遺伝子、cDNA,またはmRNA)におけるヌクレオチドの、特定の配列の固有の特性をいう。従って、遺伝子によって生成されたmRNAの転写および翻訳が、細胞または他の生物系においてタンパク質を生成する場合、その遺伝子は、タンパク質をコードする。コード鎖(そのヌクレオチド配列がmRNA配列と同一であり、そして通常、配列表に提供されるヌクレオチオ配列)と、非コード鎖(遺伝子またはcDNAの転写のためのテンプレートとして使用された)との両方が、その遺伝子またはcDNAのタンパク質または他の生成物をコードするといわれ得る。他に特定されない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」とは、互いの分解バージョンである全てのヌクレオチド配列、および同じアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を包含する。タンパク質をコードするヌクレオチド配列およびRNAは、イントロンを含み得る。
【0050】
「エネルギー吸収分子」とは、脱離分光計におけるエネルギー源からのエネルギーを吸収し、これによって、プローブ表面からの分析物の脱離を可能にする分子をいう。MALDIにおいて使用されるエネルギー吸収分子は、頻繁に、「マトリックス」と称される。ケイ皮酸誘導体(例えば、α−4−シアノ−4−ヒドロキシ−ケイ皮酸)、ケイ皮酸(cinnapinic acid)およびジヒドロキシ安息香酸は、生体有機分子のレーザー脱離において、エネルギー吸収分子として頻繁に使用される。
【0051】
「プローブ」とは、気相イオン分光計(例えば、質量分析計)に取り外し可能に挿入可能であり、表面が検出用分析物の存在について適合された基材を含む、デバイスをいう。プローブは、分析の結果として改変され得、そして使い捨てであり得る。
【0052】
「気相イオン分光計」とは、サンプルに電圧が印加され、そしてサンプルがイオン化される場合に形成されるイオンの、質量対電荷の比に変換され得るパラメータを測定する装置をいう。一般に、レーザー脱離/イオン化によって作製されたイオンは、単一の電荷を保有し、そして質量対電荷の比は、しばしば、単に質量といわれる。気相イオン分光計としては、例えば、質量分析計、イオン移動度分光計、および全イオン電流測定デバイスが挙げられる。
【0053】
「質量分析計」とは、入口システム、イオン化源、イオン光学アセンブリ、質量分析器、および検出器を備える、気相イオン分光計をいう。質量分光計の例は、飛行時間型、磁気偏向型、四極子フィルタ、イオントラップ、イオンサイクロトロン共鳴、およびこれらのハイブリッドである。
【0054】
「レーザー脱離質量分析計」とは、分析物を溶解し、気化させ、そしてイオン化させるための手段としてレーザーを使用する、質量分析計をいう。
【0055】
「質量分析法」とは、質量分析計によるサンプルの分析をいう。
【0056】
「四極子飛行時間型質量分析計」とは、イオンが四極子Qに入る前に、エネルギー源によって形成されたイオンを冷却する、衝突ダンピング界面を備える質量分析計をいう。この四極子飛行時間型質量分析計はまた、衝突セルを備え得る。
【0057】
「分析物」とは、望ましくは保持され、そして検出される、サンプルの成分をいう。この用語は、サンプル中の単一の成分または成分のセットをいい得る。
【0058】
「吸着剤」とは、分析物を吸着し得る任意の材料をいう。用語「吸着剤」とは、本明細書中において使用される場合、サンプルが曝露される、分析物が曝露される単一の材料(「モノプレックス(monoplex)吸着剤」)(例えば、化合物または官能基)と、サンプルが曝露される、複数の異なる材料(「マルチプレックス(multiplex)吸着剤」)の両方をいう。マルチプレックス吸着剤における吸着剤材料は、「吸着剤種」と称される。例えば、基材上のアドレス可能な位置は、異なる結合特性を有する多くの異なる吸着剤種(例えば、陰イオン交換材料、金属キレート剤、または抗体)によって特徴付けられる、マルチプレックス吸着剤を含み得る。
【0059】
「吸収する」とは、溶出剤(選択的閾値改変剤)で洗浄する前または後のいずれかの、吸着剤と分析物との間の、検出可能な結合をいう。
【0060】
「基材」とは、吸着剤が付着または沈着される固相をいう。
【0061】
「結合特性」とは、分析物に対する吸着剤の誘引を区別する、化学的および物理的な特徴をいう。2つの吸着剤は、同じ溶出条件下で、その吸着剤が異なる親和性の程度で同じ分析物と結合する場合、異なる結合特性を有する。結合特性としては、例えば、塩によって促進される相互作用の程度、疎水性相互作用の程度、親水性相互作用の程度、静電相互作用の程度、および本明細書中に記載される他のものが挙げられる。
【0062】
「結合条件」とは、分析物が曝露される結合特性をいう。
【0063】
「溶出剤」とは、吸着剤に対する分析物の吸着を媒介するために使用される薬剤(代表的に、溶液)をいう。溶出剤はまた、「選択的閾値改変剤」と称される。
【0064】
「溶出特性」とは、特定の溶出剤(選択的閾値改変剤)が、分析物と吸着剤との間の吸着を媒介する能力を決定する特徴をいう。2つの溶出剤は、分析物および吸着剤を接触させた場合、この吸着剤に対する分析物の親和性の程度が異なる場合、異なる溶出特性を有する。溶出特性としては、例えば、pH、イオン強度、水の構造の改変、界面活性剤強度、疎水性相互作用の改変、および本明細書中に記載される他のものが挙げられる。
【0065】
「溶出条件」とは、分析物が曝露される溶出特性をいう。
【0066】
「選択性特性」とは、特定の結合特性を有する吸着剤、および特定の溶出特性を有する溶出剤の組み合わせの特性をいい、これらの特徴は、溶出液で洗浄した後に、分析物が吸着剤に保持される特異性を規定する。
【0067】
「選択性条件」とは、分析物が曝露される選択性特性をいう。
【0068】
「誘引の基底」とは、1つの分子が別の分子に引き付けられる、化学的特性および/または物理化学的特性をいう。
【0069】
「誘引の強さ」とは、1つの分子の、別の分子に対する引き付けの強度をいう(親和性としてもまた公知)。
【0070】
「分解する」、「分解」、または「分析物の分解」とは、サンプル中の少なくとも1つの分析物の検出をいう。分解は、分離および引き続く差次的検出による、サンプル中の複数の分析物の検出を包含する。分解は、分析物を混合物中の他の全ての分析物から完全に分離することを必要としない。むしろ、少なくとも2つの分析物間の区別を可能にする任意の分離で十分である。
【0071】
「高情報分解」とは、分析物の検出のみでなく、評価されるべき分析物の少なくとも1つの物理化学的特性(例えば、分子量)の検出もまた可能にする様式での、分析物の分解をいう。
【0072】
「脱離分光法」とは、分析物が、この分析物を定常相から気相へと脱離させるエネルギーに曝露され、そして脱離した分析物またはその区別可能な部分が、分析物を第二の定常相において捕捉する中間工程なしに、検出器によって直接検出される、分析物の検出方法をいう。
【0073】
「検出する」とは、検出されるべき物体の存在、非存在または量を同定することをいう。
【0074】
「保持」とは、溶出剤で洗浄した後の、吸着剤による分析物の吸着をいう。
【0075】
「保持データ」とは、特定の選択性条件下で保持された分析物の検出(必要に応じて、検出質量を含む)を示すデータをいう。
【0076】
「保持マップ」とは、複数の選択性条件下で保持された分析物についての保持データを詳述する、値のセットをいう。
【0077】
「認識プロフィール」とは、複数の選択性条件下で、分析物の相対的保持を詳述する値のセットをいう。
【0078】
「複合体」とは、2つ以上の分析物の統合によって形成した分析物をいう。
【0079】
「フラグメント」とは、分析物の化学的分解、酵素的分解、または物理的分解の生成物をいう。フラグメントは、中性状態またはイオン状態であり得る。
【0080】
「差次的発現」とは、分析物の定性的存在または定量的存在の、検出可能な差異をいう。
【0081】
「遺伝子発現プロフィール」とは、生物学的サンプルにおいて発現される、少なくとも1つのmRNAの同定をいう。
【0082】
「物理化学的特性」とは、その分子に特徴的な、分子の物理的または化学的な特性をいう。タンパク質の物理化学的特性としては、アミノ酸配列、分子量、等電点、疎水性、親水性、グリコシル化、リン酸化、エピトープ配列、リガンド結合配列、特定のpHにおける電荷(等電点)、色素結合、および金属キレート結合が挙げられるが、これらに限定されない。物理化学的特性は、例えば、タンパク質プロフィールの分画または単離の識別子または手段として、使用される。例えば、アミノ酸配列の特徴(例えば、ヘキサヒスチジン配列、リガンドの結合モチーフまたは配列、ドメイン、プロテアーゼ切断部位、金属キレート結合部位、またはエピトープ)は、このような配列を含むポリペプチドの分画、単離または同定のために、使用され得る。別の例において、リン酸化されたポリペプチドは、対応するキナーゼもしくはホスホリラーゼとの相互作用を介して、または比色定量酵素反応によって、またはこのポリペプチドのリン酸化部位に結合する抗体によって、分画、単離、または同定され得る。同様に、グリコシル化されたポリペプチドは、結合パートナー、もしくはこのポリペプチドのグリコシル化部位に結合する抗体との相互作用を介して、または炭水化物を認識する抗体によって、またはレクチンによって、または酵素的に、分画、単離、または同定され得る。別の例において、変化するpHの緩衝液および溶液、またはアニオン性樹脂もしくはカチオン性樹脂を使用して、ポリペプチドを、その所定のpHにおける電荷、またはそのpIもしくは等電点に従って、分画、単離または同定し得る。別の例において、変化する親水性の緩衝液、溶液または樹脂を使用して、ポリペプチドを、その親水性または疎水性に基づいて、分画、単離、または同定し得る。別の例において、ポリペプチドの質量もしくは分子量、またはそのポリペプチドのタンパク質分解フラグメントの質量もしくは分子量を使用して、このポリペプチドを単離、同定または分画し得る。
【0083】
「核酸アレイ」とは、アドレス可能な位置(すなわち、区別される、問い合わせ可能なアドレスによって特徴付けられる位置)のアレイをいい、各アドレス可能な位置は、そこに結合された特徴的な核酸を含む。核酸は、本明細書中に規定される任意の核酸であり得、例えば、天然に存在する核酸、または合成核酸(例えば、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド)である。オリゴヌクレオチドアレイにおいて、この核酸は、(例えば、エキソン、EST、または遺伝子の部分、転写物、またはcDNAに対応する)オリゴヌクレオチドである;ESTアレイにおいて、この核酸は、ESTまたはその一部である;mRNAアレイにおいて、この核酸は、mRNAまたはその一部、あるいは対応するcDNAである。オリゴヌクレオチドは、4ヌクレオチド長、6ヌクレオチド長、8ヌクレオチド長、10ヌクレオチド長、または12ヌクレオチド長、しばしば、10ヌクレオチド長、30ヌクレオチド長、40ヌクレオチド長、または50ヌクレオチド長から、約100ヌクレオチド長までであり得る。
【0084】
(遺伝子発現プロファイリング)
本発明の方法における第一の工程は、目的のサンプルの遺伝子発現プロファイリングを実施することである。遺伝子発現プロファイリングとは、細胞における1つ以上のRNA(好ましくは、mRNA)の発現を試験することをいう。しばしば、少なくとも10、100、100、10,000またはその数まで、あるいはそれより多くの異なるmRNAが、単一の実験において試験される。1つの実施形態において、差次的プロファイリング(別の細胞(例えば、異なる表現型を有する細胞、または異なる一次的段階もしくは発生段階の細胞、または異なる環境条件(例えば、物理的条件または化学的条件)に曝露された細胞など)との比較)は、目的の細胞についての有用な情報(例えば、所定の細胞型において優先的にまたは選択的に発現される遺伝子)を提供する。しばしば、目的の遺伝子は、1つの細胞においては高度に発現されるが、別の細胞においては発現されない。別の実施形態において、目的の遺伝子は、異なる細胞において類似の発現パターンを有する。他の実施形態において、目的の遺伝子は、別の細胞と比較して、1つの細胞において低い発現を有する。
【0085】
遺伝子発現を試験するための方法は、常にではないがしばしば、ハイブリダイゼーションに基づき、例えば、ノーザンブロット;ドットブロット;プライマー伸長;ヌクレアーゼ保護;例えば、ヒドロキシアパタイトを使用する、非二重鎖分子のサブトラクティブハイブリダイゼーションおよび単離;溶液ハイブリダイゼーション;フィルタハイブリダイゼーション;RT−PCRおよび他のPCRに関する技術のような増幅技術(例えば、ディファレンシャルディスプレイ、LCR、AFLP、RAPなど)(例えば、米国特許第4,683,195号および同第4,683,202号;PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications(Innisら編,1990);LiangおよびPardee,Science 257:967−971(1992);HubankおよびSchatz,Nuc.Acids Res.22:5640−5648(1994);Peruchoら、Methods Enzymol.254:275−290(1995)を参照のこと);フィンガープリンティング(例えば、制限エンドヌクレアーゼを用いる)(Ivanovaら、Nuc.Acids.Res.23:2954−2958(1995);Kato,Nuc.Acids Res.23:3685−3690(1995);およびShimketsら、Nature Biotechnology 17:798−803,米国特許第5,871,697号もまた参照のこと));ならびに構造特異的エンドヌクレアーゼの使用(例えば、De Francesco,The Scientist 12:16(1998)を参照のこと)が挙げられる。mRNAはまた、以下に記載されるように、質量分析技術(例えば、MALDIまたはSELDI)、液体クロマトグラフィー、およびキャピラリーゲル電気泳動を使用して、分析され得る。
【0086】
これらの技術の一般的な記載については、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual(第2版、1989),例えば、7.37−7.39頁、7.53−7.54頁、7.58−7.66頁および7.71−7.79頁を参照のこと;Kriegler,Gene Transfer and Expression:A Laboratory Manual(1990);ならびにCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubelら編,1994)もまた参照のこと。
【0087】
多数の核酸サンプルの発現分析および配列決定を促進する技術が、開発されている。例えば、核酸アレイが、高密度かつハイスループットの発現分析のために、開発された(例えば、Granjeuadら、BioEssays 21:781−790(1999);LockhartおよびWinzeler,Nature 405:827−836(2000)を参照のこと)。核酸アレイとは、固体基材(例えば、ナイロン、ガラス、またはシリコンウエハ)に結合した、多数(例えば、何百、何千、何万、またはそれより多く)の核酸プローブをいう(例えば、Fodorら、Science 251:767−773(1991);BrownおよびBotstein,Nature Genet.21:33−37(1999);Eberwine,Biotechniques 20:584−591(1996)を参照のこと)。単一のアレイは、例えば、ゲノム全体に対応するプローブ、またはそのゲノムによって発現される全ての遺伝子に対応するプローブを含み得る。アレイ上のプローブは、DNAオリゴヌクレオチドアレイ(例えば、GeneChipTM、例えば、Lipshutzら、Nat.Genet.21:20−24(1999)を参照のこと)、mRNAアレイ、cDNAアレイ、ESTアレイ、または光ファイバー束上の光学的にコードされたアレイ(例えば、BeadArrayTM)であり得る。発現分析のためにこれらのアレイに適用されるサンプルは、例えば、PCR産物、cDNA、mRNAなどであり得る。
【0088】
迅速な配列決定および遺伝子発現の分析のためのさらなる技術としては、例えば、SAGE(遺伝子発現の連続分析)が挙げられる。SAGEについて、短い配列タグ(代表的に、約10〜14bp)は、転写物を独自に同定するために十分な情報を含む。これらの配列タグは、一緒に結合されて長い連続的な分子を形成し得、この分子が、クローニングおよび配列決定され得る。特定のタグが観察される時間の数の定量は、対応する転写物の発現レベルを証明する(例えば、Velculescuら、Science 270:484−487(1995);Velculescuら、Cell 88(1997);およびde Waardら、Gene 226:1−8(1999)を参照のこと)。
【0089】
(物理化学的特性)
本明細書中に記載される場合、これらの技術の各々を単独でかまたは組み合わせて使用して、細胞において発現される目的の候補遺伝子または候補遺伝子のセットを同定し得る。目的の転写物は、当業者に公知の技術を使用して、同定および単離される。このように同定される転写物は、配列決定され、そしてコードされたアミノ酸配列情報を使用して、物理化学的特性(例えば、分子量、等電点、疎水性、親水性、グリコシル化、リン酸化、エピトープ配列、プロテアーゼ断片化、リガンド結合配列、特定のpHにおける電荷、および金属キレート結合)について分析される。しばしば、転写物によってコードされるタンパク質の機能を同定するために、バイオインフォマティクスおよび配列データベースが使用され得る。目的の遺伝子としては、例えば、イオンチャンネル、レセプター(例えば、Gタンパク質共役型レセプター)、サイトカイン、ケモカイン、シグナル伝達タンパク質、ハウスキーピングタンパク質、細胞周期調節タンパク質、転写因子、ジンクフィンガータンパク質、クロマチン再造形タンパク質などが挙げられる。
【0090】
このように同定される物理化学的特性は、転写物の発現レベルを、この転写物によってコードされるタンパク質の発現レベルに相関付けるためのツールである。以下に記載されるタンパク質分析ツールを使用して、目的のタンパク質を分画するために、そのタンパク質の物理化学的特性の1つ以上が使用され得、一方でタンパク質検出のバックグラウンドを減少させ、そして強度を増加させる。この様式で、目的の候補転写物は、コードされるタンパク質の、細胞における発現レベルとさらに相関付けられ得る。この情報を使用して、例えば、診断および治療の適用において使用するための、転写物およびタンパク質のサブセットを選択し得る。
【0091】
(サンプルのタンパク質分画分析)
次いで、サンプル中のポリペプチドは、同定された発現したmRNAによってコードされるポリペプチドの少なくとも1つの物理化学的特性に基づいて、分画される。例えば、ポリペプチドの同定は、そのポリペプチドのいくつかの予測された物理化学的特性を示す。アミノ酸配列は、そのタンパク質の予測分子量を提供する。アミノ酸配列はまた、そのポリペプチドの等電点を予測するため、そのポリペプチドが親水性であるか疎水性であるか、およびそのポリペプチドが金属キレート結合能力を有するか否かを予測するために、使用され得る。アミノ酸配列はまた、そのポリペプチドが、グリコシル化部位またはリン酸化部位を有するか否かを予測し得る。ポリペプチドの翻訳後修飾は、分子量の変化を反映する。アミノ酸配列はまた、エピトープを同定し得、これは次に、抗体結合のための標的であり得る。物理化学的特性の正確な測定は、必ずしも必要ではない;その特徴に基づいて複数のアリコートに分画する際に、そのポリペプチドが、それらのアリコートにおいて優先的に分画されると予測されるように、いくらかの情報を得ることで十分である。
【0092】
次いで、サンプル中のポリペプチドは、そのポリペプチドの物理化学的特性に基づいて、分画される。最も有用な分離方法は、分子量である。なぜなら、この特徴に基づいてタンパク質を分離するための、多くの有用な方法が存在するからである(例えば、SDSゲル電気泳動および気相イオン分光法(例えば、質量分析))。別の有用な物理化学的特性は、等電点である。等電収束法、アフィニティークロマトグラフィーおよびイオン交換樹脂での固相抽出は、サンプル中のタンパク質をこの特性に基づいて分画する。
【0093】
タンパク質を分画する方法は、細胞における選択されたタンパク質の発現レベルを試験するために使用される。上記のように、1つ以上の選択された物理化学的特性の使用は、分画の感度を増大させ得、そしてバックグラウンドを減少させ得る。本明細書中に記載される技術を使用して、細胞において発現した1つ以上のタンパク質(数十個まで、数百個まで、数千個まで、または数万個までのタンパク質)を、試験し得る。任意の1つの技術または複数の技術の組み合わせを使用して、1つ以上の物理化学的特性に基づいて、タンパク質を分画し得る。分画の方法としては、例えば、二次元ゲル;キャピラリーゲル電気泳動;質量分析(例えば、MALDI、SELDI);ICAT(アイソトープコードアフィニティータグ、例えば、Mann,Nature Biotechnology 17:954−955(1999);Gygiら、Nature Biotechnology 17:994−999(1999)を参照のこと);クロマトグラフィー(例えば、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、イムノアフィニティークロマトグラフィー、および金属キレートクロマトグラフィー、HPLC(例えば、逆相HPLC、イオン交換HPLC、およびサイズ排除HPLC);ウェスタンブロッティング;免疫組織化学的技術(例えば、ELISA、および抗体を用いるインサイチュスクリーニングなど)(例えば、BlackstockおよびWeir,Trends in Biotech.17:121−127(1999);DuttおよびLee,Biochemical Engineering,176−179頁(2000年4月);Pageら、Drug Discovery Today 4:55−62(1999);WangおよびHewick,Drug Discovery Today 4:129−133(1999);Regnierら、Trends in Biotech.17:101−106(1999);ならびにPandeyおよびMann,Nature 405:837−846(2000)を参照のこと)が挙げられる。目的のタンパク質は、当業者に公知の技術を使用して、同定および単離される。
【0094】
これらの技術の一般的な記載については、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual(第2版、1989);およびCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubelら編,1994)もまた参照のこと。
【0095】
1つの実施形態において、二次元電気泳動を使用して、本発明のタンパク質を分画し得る。この技術は、pIおよび分子量の物理化学的特性に基づいて、タンパク質を分画する。2dゲル電気泳動および本明細書中に記載される技術を、単独でか、または本明細書中以下に記載される他の技術(例えば、質量分析(例えば、MALDIおよびSELDI))と組み合わせて、使用し得る。
【0096】
以下に記載される別の実施形態において、MALDIは、タンパク質を質量に基づいて分画する、質量分析技術であり、そしてしばしば、分解能を増加させるために、サイズクロマトグラフィーおよびまたはアフィニティークロマトグラフィーの技術と組み合わせられる。
【0097】
以下に記載される別の実施形態において、SELDIは、親和性分別と質量分析法とを組み合わせた質量分析法技術である。例えば、pI(イオン交換樹脂および洗浄)、抗体結合、グリコシル化、リン酸化、ヒスチジン残基などに基づく親和性マトリクスまたはプローブが、質量分析法と組み合わせてSELDIにおいて使用され、高分解能、精度および感度を有するタンパク質を同定する。この技術を使用する場合、候補ポリペプチドを濃縮する親和性マトリクスが、転写物によってコードされるタンパク質の物理化学的特性基づいて決定され得る。
【0098】
(サンプルの質量分析法分析)
(導入)
本発明のポリペプチドまたはそのフラグメントを、質量分析法を用いて分析し得る。この方法は、質量に基づいてポリペプチドを分別する。特定の実施形態において、気相イオン分光光度計が使用される。別の実施形態において、レーザー脱離/イオン化質量分析法を使用して、基材に結合した吸着剤上のサンプルを分析する。
【0099】
現代のレーザー脱離/イオン化質量分析法(「LDI−MS」)は、2つの主なバリエーションで実施され得る:マトリクス支援レーザー脱離/イオン化(「MALDI」)質量分析法および表面増強レーザー脱離/イオン化(「SELDI」)。レーザー脱離/イオン化質量分析法を利用する質量分析計は、四重極飛行時間質量分析計にさらに連結され得る。MALDIにおいて、生物学的分子を含み得る分析物は、マトリクスを含む溶液と混合され、そしてその液体の液滴が、基材表面上に配置される。次いで、このマトリクス溶液は、その生物学的分子と共に同時結晶化される。この基材が、質量分析計に挿入される。レーザーエネルギーは、基材表面に対して指向され、この表面は、その生物学的分子を有意に断片化することなくその生物学的分子を脱離し、そしてイオン化する。しかし、MALDIは、分析ツールとして制限を有する。MALDIは、サンプルを分別するための手段を提供せず、そしてマトリクス材料は、特に低分子量分析物についての検出を妨害し得る。例えば、米国特許第5,118,937号(Hillenkampら)および米国特許第5,045,694号(Beavis & Chait)を参照のこと。
【0100】
SELDIにおいて、基材表面は、脱離プロセスにおける活性な関与物であるように改変される。1つの改変において、表面は、分析物に選択的に結合する親和性試薬で誘導体化される。別の改変において、表面は、レーザーが当たった場合に脱離されないエネルギー吸収分子で誘導体化される。別の改変において、表面は、分析物に結合しかつレーザーを適用した際に壊れる光分解結合を含む分子で誘導体化される。これらの方法の各々において、誘導体化剤は、サンプルが適用される基材表面上の特定の位置に局在化される。例えば、米国特許第5,719,060号および同第5,6020208(Hutchens & Yip)ならびにWO 98/59360、WO 98/59361、およびWO 98/59362(Hutchens & Yip)を参照のこと。この2つの方法は、分析物を捕捉するためにSELDI親和性表面を用い、そしてエネルギー吸収材料を提供するためにその捕捉された分析物にマトリクス含有液体を添加することによって、組み合わされ得る。
【0101】
特定の実施形態において、レーザー脱離/イオン化質量分光光度計は、四重極飛行時間質量分析計QqTOF MSに対して連結される(例えば、Krutchinskyら、WO99/38185を参照のこと)。MALDI−QqTOFMS(Krutchinskyら、WO99/38185;Shevchenkoら(2000)Anal.Chem.72:2132−2141)、ESI−QqTOF MS(Figeysら(1998)Rapid Comm’ns.Mass Spec.12−1435−144)およびチップキャピラリー電気泳動(チップ−CE)−QqTOF MS(Liら(2000)Anal.Chem.72:599−609)のような方法が、これまでに記載されている。
【0102】
1つの実施形態において、質量分析計を使用して、本発明のタンパク質サンプルを分別する。代表的な質量分析計において、ポリペプチド分析物を含む基材が、質量分析計の入口システムに導入される。次いで、この分析物は、レーザー、高速原子衝突、高エネルギープラズマ、エレクトロスプレーイオン化、サーモスプレーイオン化、液体二次イオンMS、電場脱離などのような脱離源によって脱離される。生成された脱離された揮発種は、予め形成されたイオンまたは脱離事象の直接的な結果としてイオン化される中性物質(neutral)からなる。生成されたイオンは、イオン光学アセンブリによって収集され、次いで、質量分析器が、通過するイオンを散乱させ、そして分析する。質量分析器を出るイオンは、検出器によって検出される。
【0103】
次いで、この検出器は、検出されたイオンの情報を質量−対−電荷比に変換する。マーカーまたは他の基材の存在の検出は、代表的に、シグナル強度の検出を含む。これは次に、基材に結合したポリペプチドの量および特徴を反映し得る。質量分析計およびそれらの技術は、当業者に周知である。いかなる当業者も、質量分析計の構成成分のいずれか(例えば、脱離源、質量分析器、検出など)を、本明細書中に記載されるかまたは当該分野で公知の他の適切な構成成分と組み合わされ得ることを理解する。質量分析計に関するさらなる情報は、例えば、Principles of Instrumental Analysis,第3版,Skoog,Saunders College Publishing,Philadelphia,1985;およびKirk−Othmer Encyclopedia of Chemical Technology,第4版,Vol.15(John Wiley & Sons,New York 1995),pp.1071−1094を参照のこと。
【0104】
1つの実施形態において、レーザー脱離飛行時間質量分析計を、本発明の基材を用いて使用する。レーザー脱離質量分析法において、結合マーカーを有する基材が、入口システムに導入される。このマーカーは、イオン化源からのレーザーによって気相中に脱離されそしてイオン化される。生成されたイオンは、イオン光学アセンブリによって収集され、次いで、飛行時間質量分析器において、イオンは、短い高電場を通って加速され、そして高真空チャンバに流される。高真空チャンバの最末端において、加速されたイオンは、異なる時間に感応性の検出器表面を打つ。飛行時間は、イオンの質量の関数なので、イオン形成とイオン検出器衝撃との間の経過時間は、特定の質量 対 電荷の比の分子の存在または非存在を同定するために使用され得る。
【0105】
保持(retentate)クロマトグラフィーは、サンプル中の分析物の多次元分解のための方法である。この方法は、(1)複数の異なる吸着剤/溶離剤の組み合わせ下で、ある基材に対してサンプルからの分析物を選択的に吸着させる工程(「選択的条件」)、および(2)脱離分光計によって吸着された分析物の保持を検出する工程を包含する。各選択的条件は、第1次元の分離を提供し、吸着されなかった分析物から吸着された分析物を分離する。脱離質量分析法は、第2次元の分離を提供し、質量に従って互いから吸着された分析物を分離する。保持クロマトグラフィーが複数の異なる選択的条件を使用することを含むので、多くの次元の分離が達成される。2つの選択的条件下での1つ以上の分析物の相対的な吸着もまた、決定され得る。この多次元分離は、分析物の分解およびそれらの特徴付けの両方を提供する。
【0106】
さらに、このようにして分離された分析物は、調べる(例えば、分析物構造および/または機能)ためのさらなる操作を受けやすい保持マップ上にドッキングされたままである。さらに、このドッキングされた分析物は、それ自体が、基材に対して曝される他の分析物をドッキングするための吸着剤として使用され得る。要するに、本発明は、分析物の迅速、多次元かつ高度な情報の分解を提供する。
【0107】
この方法は、いくつかの形態をとり得る。1つの実施形態において、分析物は、2つの物理的に異なる位置で2つの異なる吸着剤に対して吸着され、そして各々の吸着剤は、同じ溶離剤を用いて洗浄される(選択的閾値モディファイアー)。別の実施形態において、分析物は、2つの物理的に異なる位置で同じ吸着剤に対して吸着され、そして2つの異なる溶離剤を用いて洗浄される。別の実施形態において、分析物は、物理的に異なる位置で2つの異なる吸着剤に対して吸着され、そして2つの異なる溶離剤を用いて洗浄される。別の実施形態において、分析物は、吸着剤に吸着され、そして第1の溶離剤を用いて洗浄され、そして保持が検出される;次いで、吸着剤分析物は、第2の異なる溶離剤を用いて洗浄され、そしてその後、保持が検出される。
【0108】
(保持クロマトグラフィーを実行する方法)
保持クロマトグラフィーは、サンプル中のポリペプチドを分別するための特に有用な方法である。この方法に従って、ポリペプチドは、特定の物理−化学特性に基づいてポリペプチドに結合する固相吸着剤上で、分別される。未結合のポリペプチドは洗浄除去される。次いで、保持されたポリペプチドは、質量分析法によってさらに分別され、それによって、少なくとも2つの物理−化学特性に基づいた分別を提供する。
【0109】
(分析物の選択的条件への曝露)
基材の調製:保持クロマトグラフィーを実施する際、吸着剤によって保持される分析物は、基材上でエネルギー源に対して提示される。分析物を含むサンプルは、吸着剤が基材(これは、脱離手段に対して分析物を提示するように機能する)に添付される前または後に、吸着剤と接触され得る。接触目的のために、吸着剤は、液体形態であっても固体形態であってもよい(すなわち、基材上または固相)。詳細には、吸着剤は、溶液、懸濁物、分散物、油中水エマルジョン、水中油エマルジョン、またはマイクロエマルジョンの形態であり得る。吸着剤が懸濁物、分散物、エマルジョンまたはマイクロエマルジョンの形態で提供される場合、適切な界面活性剤もまた存在し得る。この実施形態において、サンプルは、液体サンプルを液体吸着剤と混合することによって吸着剤と接触され得る。あるいは、サンプルは、固体支持体上に提供され得、そして接触は、サンプルを含有する固体支持体を液体吸着剤中に入浴させるか、浸漬(soak)させるか、または浸漬(dip)させることによって、達成される。さらに、サンプルは、液体吸着剤を用いて固体支持体上でスプレーまたは洗浄することによって接触され得る。この実施形態において、異なる吸着剤が異なる容器中に提供され得る。
【0110】
1つの実施形態において、吸着剤は、基材上に提供される。基材は、吸着剤を結合または保持し得る任意の材料であり得る。代表的に、基材は、ガラス;セラミック;伝導性ポリマー(例えば、炭化PEEK);TEFLON(登録商標)でコーティングした材料;有機ポリマー;ネイティブな生体ポリマー;金属(例えば、ニッケル、真鍮、鋼またはアルミニウム);フィルム;架橋ポリマーの多孔性ビーズおよび非多孔性ビース(例えば、アガロース、セルロース、またはデキストラン);他の不溶性ポリマー;またはこれらの組み合わせから構成される。
【0111】
1つの実施形態において、基材は、脱離検出器中に挿入されるプローブ提示手段またはサンプル提示手段の形態をとる。例えば、図1を参照して、基材は、ストリップの形態をとり得る。吸着剤は、直線アレイのスポットの形態で基材に対して結合され得、このスポットの各々は、分析物に対して曝露され得る。いくつかのストリップが、一緒に結合されて、複数の吸着剤が、規定された並びで別々のスポットを有する30個のアレイを形成する。基材はまた、吸着剤の水平列および垂直列のアレイを有するプレートの形態をとり得、これは、正方形、長方形または円形のような規則的な幾何学パターンを形成する。
【0112】
プローブは、以下のように作製され得る。基材は、任意の固体材料(例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、シリコンウエハ)であり得る。次いで、金属基材は、表面の誘導体化を可能にする材料でコーティングされ得る。例えば、金属表面は、酸化シリコン、酸化チタンまたは金でコーティングされ得る。
【0113】
次いで、表面は、二官能性リンカーを用いて誘導体化される。このリンカーは、その一端に、表面上の官能基と共有結合し得る官能基を含む。従って、この官能基は、金に対して無機酸化物またはスルフヒドリル基であり得る。そのリンカーのもう一方の端は、通常、アミノ官能基を有する。有用な二官能性リンカーとしては、アミノプロピルトリエトキシシランまたはアミノエチルジスルフィドが挙げられる。
【0114】
一旦表面に結合すると、リンカーは、吸着剤として機能する基でさらに誘導体化される。一般的に、吸着剤は、プローブ上のアドレス可能な位置に添加される。1つの型のプローブにおいて、直径約3mmのスポットを、直交アレイに配置する。吸着剤は、それ自体、利用可能なアミノ基と反応性の基および吸着剤として作用する官能基を含む二官能性分子の一部であり得る。官能基としては、例えば、正相(シリコンオキシド)、逆相(C18脂肪族炭化水素)、四級アミンおよびスルホネートが挙げられる。さらに、表面は、他の二官能性分子(例えば、カルボジイミドおよびN−ヒドロキシスクシンイミド)を用いて誘導体化され得、予備活性化されたブランクを作製する。これらのブランクは、生物有機化学吸着剤(例えば、核酸、抗体および他のタンパク質リガンド)を用いて官能基化され得る。生体ポリマーは、アミン残基またはスルフヒドリル残基を介してそのブランク上の官能基に結合し得る。1つの実施形態において、吸着剤は、架橋ポリマー(例えば、フィルム)に結合され、この架橋ポリマーは、それ自体、利用可能な官能基を介してプローブの表面に結合する。このようなポリマーとしては、例えば、セルロース、デキストラン、カルボキシメチルデキストラン、ポリアクリルアミド、およびこれらの混合物が挙げられる。吸着剤が結合されたプローブは、すぐに使える状態である。
【0115】
別の実施形態において、吸着剤は、第1の基材に結合されて固相(例えば、ポリマービースまたはガラスビーズ)を提供し、この固相は引き続き、第2の基材上に配置され、この第2の基材は、脱離検出器の脱離エネルギーに対してサンプルを提示するための手段として機能する。例えば、第2の基材は、予め決定されたアドレス可能な位置に一連のウェルを有するプレートの形態であり得る。このウェルは、吸着剤で誘導体化された第1の基材(例えば、吸着剤で誘導体化されたポリマービーズ)に対する容器として機能し得る。この実施形態の1つの利点は、分析物が、ある物理的状況において第1の基材に吸着され得、そして脱離分光計による分析のためにサンプルを提示する基材に移されるということである。
【0116】
代表的に、基材は、吸着剤に結合されそしてその吸着剤によって保持される分析物を検出するために、本発明の方法において利用される検出器を用いた使用に対して適応される。1つの実施形態において、基材は、エネルギー源がスポットを打ち、そして分析物を脱離し得る脱離検出器中へ、取り外し可能に挿入可能である。基材は、水平方向および/または垂直方向に移動可能なカートリッジをマウントするのに適切であり得、このカートリッジは、水平方向および/または垂直方向にその基材を移動させて、エネルギー源による呼び掛け信号および吸着剤に結合する分析物の検出のための経路における吸着剤の各予め決定されたアドレス可能な位置に連続的に配置する。基材は、従来の質量分析計プローブの形態であり得る。
【0117】
ストリップ、プレートまたはプローブの基材は、従来技術を使用して作製され得る。その後、吸着剤は、分析物を含むサンプルを接触させる前に、直接または間接的に、基材に結合、適応、または堆積され得る。この吸着剤は、結合または固定化の任意の適切な手段によって基材に直接または間接的に結合され得る。例えば、吸着剤は、吸着剤を用いて基材を誘導体化することによって基材に直接結合されて、共有結合もしくは非共有結合を介して吸着剤を基材に直接結合させ得る。
【0118】
吸着剤の基材への結合は、種々の機構を介して達成され得る。基材は、予め調製された吸着剤分子をその基材に結合させることによって、完全に調製された吸着剤分子を用いて誘導体化され得る。あるいは、吸着剤は、前駆体分子をその基材に結合させ、引き続いて、さらなる前駆体分子を第1の前駆体分子によって基材に結合した成長鎖に添加することによって、基材上で形成され得る。基材上で吸着剤を構築するこの機構は、吸着剤がポリマー(特に、生体ポリマー(例えば、DNA分子またはRNA分子))である場合、特に有用である。生体ポリマー吸着剤は、オリゴヌクレオチドチップ技術の分野において公知の方法を用いて、基材に結合した第1の塩基へ塩基を連続的に添加することによって提供され得る。例えば、米国特許第5,445,934号(Fodorら)を参照のこと。
【0119】
図2から理解され得るように、ほんの2個ほどの吸着剤、および10、100、1000、10,000個以上もの吸着剤を、単一の基材に結合し得る。吸着剤部位の大きさは、実験の設計および目的に依存して変化し得る。しかし、衝突するエネルギー源の直径(例えば、レーザースポットの直径)よりも大きくある必要はない。このスポットは、同じ吸着剤または異なる吸着剤を持続し得る。いくつかの場合において、基材上の複数の位置に同じ吸着剤を提供することが有利であり、複数の異なる溶離剤に対する評価を可能にするか、またはこの結果、結合した分析物が、将来の使用もしくは参考のために(おそらく、二次的な処理において)保存され得る。基材に複数の異なる吸着剤を提供することによって、単一サンプルに関して異なる吸着剤の組み合わせによって提供される複数の結合特徴を利用し、それによって広範な種々の異なる分析物を結合および検出することが可能である。単一サンプルの評価のために基材上の複数の異なる吸着剤を使用することは、本質的に、複数のクロマトグラフ実験(これらの各々は、異なるクロマトグラフィーカラムを有する)を同時に実行することと等価であるが、本方法は、単一系のみを必要とする利点を有する。
【0120】
基材が複数の吸着剤を含む場合、予め決定したアドレス可能な位置に吸着剤を提供することが、特に有用である。吸着剤を予め決定したアドレス可能な位置に提供することによって、第1の溶離剤を用いて第1の予め決定したアドレス可能な位置にて吸着剤を洗浄し、そして第2の溶離剤を用いて第2の予め決定したアドレス可能な位置にて吸着剤を洗浄することが可能である。この様式において、分析物に対する単一の吸着剤の結合特徴は、複数の溶離剤(これらは各々、異なる様式で吸着剤の結合特徴を選択的に変更する)の存在下で評価され得る。このアドレス可能な位置は、任意のパターンで配置され得るが、好ましくは、規則的なパターン(例えば、線、直交アレイ、または規則的な曲線(例えば、円))であり得る。同様に、基材が複数の異なる吸着剤を含む場合、各異なる吸着剤に関して単一の溶離剤を評価して、溶離剤の存在下での所定の吸着剤の結合特徴を評価することが可能である。異なる溶離剤の存在下で異なる吸着剤の結合特徴を評価することもまた、可能である。
【0121】
漸増吸着表面または勾配吸着表面:異なる結合特徴を有する一連の吸着剤は、基材上で複数の異なるポリマー吸着剤を合成することによって、提供され得る。異なるポリマー吸着剤は、前駆体分子を基材に結合させ、重合反応を開始させ、そして各吸着剤について種々の完了程度で重合反応を終了することによって、提供され得る。さらに、ポリマー中の末端官能基は、異なる親和性の試薬を用いて種々の程度までそのポリマーを化学的に誘導体化するように、反応され得る(例えば、−NH3、またはCOO−)。重合反応または誘導体化反応を終了することによって、種々の程度の重合または誘導体化の吸着剤が生成される。種々の程度の重合または誘導体化は、各異なるポリマー吸着剤に対する異なる結合特徴を提供する。この実施形態は、基材上に複数の異なる生体ポリマー吸着剤を提供するのに特に有用である。
【0122】
所望される場合、重合反応は、基材それ自体の上でよりも、反応容器中で実行され得る。例えば、種々の結合特徴のポリマー吸着剤は、その重合反応/誘導体化反応が進行しているときに、反応容器から生成物のアリコートを抽出することによって提供され得る。重合反応/誘導体化反応の間の種々の時点で抽出されたアリコートは、種々の程度の重合/誘導体化を示し、複数の異なる吸着剤を生じる。次いで、この生成物の異なるアリコートは、異なる結合特徴を有する吸着剤として利用され得る。あるいは、複数の異なる吸着剤は、反応を終了する工程、生成物のアリコートを引き出す工程、および重合反応/誘導体化反応の再び開始する工程を連続して反復することによって、提供され得る。各終了点で抽出された生成物は、種々の程度の重合/誘導体化を示し、その結果として、異なる結合特徴を有する複数の吸着剤を提供する。
【0123】
1つの実施形態において、基材は、1つ以上の結合特徴が1次元勾配または2次元勾配で変化する吸着剤でコーティングされた、ストリップまたはプレートの形態で提供される。例えば、一方の端では弱く疎水性であり、他方の端では強力に疎水性である吸着剤を有するストリップが、提供される。または、一方の角において弱く疎水性かつアニオン性であり、対角線上に反対の角において強力に疎水性かつアニオン性であるプレートが、提供される。このような吸着剤勾配は、分析物の定性分析において有用である。吸着剤勾配は、制御されたスプレーの適用によってか、または時間様式(time−wise manner)で表面にわたって材料を流すことによって作製されて、その勾配の次元にわたる漸増する反応の完了を可能にし得る。このプロセスは、直角で繰り返されて、異なる結合特徴を有する類似かまたは異なる吸着剤の直交する勾配を提供し得る。
【0124】
分析物を含むサンプルは、吸着剤が任意の適切な方法(これは、分析物と吸着剤との間の結合を可能にする)を用いて基材上に配置される前または後のいずれかに、吸着剤と接触され得る。吸着剤は、サンプルと単に混合されるかまたは化合され得る。サンプル中に基材を入浴させるかもしくは浸漬(soak)することによって、またはサンプル中に基材を浸漬(dip)することによってか、または基材上にサンプルをスプレーすることによってか、または基材上でサンプルを洗浄することによってか、または吸着剤と接触したサンプルもしくは分析物を生成することによって、サンプルは吸着剤と接触され得る。さらに、サンプルを溶離剤中で可溶化するか、またはサンプを溶離剤と混合することによって、ならびに任意の上記の技術のうちのいずれかを用いて溶離剤もしくはサンプルの溶液を吸着剤に接触させることによって(例えば、入浴、浸漬(soak)、浸漬(dip)、スプレー、または洗浄)、サンプルは吸着剤と接触され得る。
【0125】
分析物の吸着剤への接触:分析物を吸着剤に結合させる前に溶離剤に対してサンプルを曝露することは、サンプルを吸着剤に対して接触させることと同時に、吸着剤の選択性を改変するという効果を有する。吸着剤に結合し、それによって保持されるサンプルの成分は、吸着剤の選択性を改変する溶離特徴の非存在下で吸着剤に結合する全ての成分よりも、サンプルと混合された特定の用離剤の存在下で吸着剤に結合する成分のみを含む。
【0126】
サンプルは、分析物を吸着剤に結合させるのに十分な期間、吸着剤と接触させるべきである。代表的に、サンプルは、約30秒と約12時間との間の期間、分析物と接触される。好ましくは、サンプルは、約30秒と約15分との間の期間、分析物と接触される。
【0127】
サンプルが吸着剤と接触される温度は、特定のサンプルおよび選択された吸着剤に依存する。代表的に、サンプルは、周囲温度条件および周囲圧力条件下で吸着剤に対して接触されるが、いくつかのサンプルについては、変更した温度条件(代表的には、4℃〜37℃)および変更した圧力条件が望ましくあり得、そして当業者によって容易に決定され得る。
【0128】
従来の検出技術を超える本発明の別の利点は、本発明が、非常に少量のサンプルに対して実行される多数の異なる実験を可能にするということである。一般的に、数原子モル〜100ピコモルの分析物を約1μl〜500μl中に含むサンプル量が、吸着剤への結合に十分である。分析物は、吸着剤への結合の後に、将来の実験のために保存され得る。なぜなら、保持された全分析物を脱離および検出する工程に供されていない任意の吸着剤位置が、その上に分析物を保持するからである。従って、非常に少画分のサンプルのみが分析に対して利用可能である場合、本発明は、サンプルを洗浄することなく異なる時間に実行される、異なる吸着剤および/または溶離剤を用いた多数の実験を可能にする、という利点を提供する。
【0129】
溶離剤を用いた吸着剤の洗浄:サンプルを分析物と接触させ、分析物の吸着剤への結合が生じた後、この吸着剤は、溶離剤を用いて洗浄される。代表的に、多次元分析を提供するために、各吸着剤の位置が、少なくとも第1溶離剤および第2溶離剤を用いて洗浄される。溶離剤を用いた洗浄は、特定の吸着剤上に保持された分析物集団を改変する。吸着剤の結合特徴および溶離剤の溶離特徴の組み合わせは、洗浄後に吸着剤によって保持される分析物を制御する選択的条件を提供する。従って、この洗浄工程は、サンプル成分をその吸着剤から選択的に移動させる。
【0130】
洗浄工程は、種々の技術を用いて実行され得る。例えば、上記に見出されるように、サンプルは、サンプルを吸着剤と接触させる前に、第1溶離剤中で可溶化され得るかまたは第1溶離剤と混合され得る。サンプルを吸着剤に接触させる前またはサンプルを吸着剤に接触させると同時に、サンプルを第1溶離剤に曝露することは、第1の近似に対して、分析物の吸着剤への結合およびその後の第1溶離剤を用いたその吸着剤の洗浄と、同じ正味の効果を有する。混合した溶液を吸着剤と接触させた後、この吸着剤は、第2溶離剤またはその後の溶離剤を用いて洗浄され得る。
【0131】
分析物が結合した吸着剤の洗浄は、吸着剤および分析物が結合した基材を、溶離剤中で入浴、浸漬(soak)、もしくは浸漬(dip)することによって;または基材上を溶離剤でリンス、スプレー、もしくは洗浄することによって、達成され得る。親和性試薬の小さい直径のスポットへの溶離剤の導入は、微流体プロセスによって最良に達成される。
【0132】
分析物が1ヶ所のみで吸着剤に結合し、複数の異なる溶離剤が洗浄工程において使用される場合、各溶離剤の存在下での吸着剤の選択性に関する情報が、個々に獲得され得る。1ヶ所で吸着剤に結合した分析物は、繰り返しのパターン(第1溶離剤での洗浄、保持された分析物の脱離および検出、その後の第2溶離剤を用いた洗浄、ならびに保持された分析物の脱離および検出)に従って溶離剤を用いた各洗浄後に決定され得る。脱離および検出前の洗浄工程は、同じ吸着剤を用いて複数の異なる溶離剤について連続的に反復され得る。この様式において、1ヶ所に分析物を保持する吸着剤は、複数の異なる溶離剤を用いて再試験されて、各個々の洗浄後に保持された分析物に関する情報の収集を提供し得る。
【0133】
上記の方法はまた、吸着剤が複数の予め決定されたアドレス可能な位置に提供される場合、その吸着剤が全て同じであるかまたは異なるかに関わらず、有用である。しかし、分析物が、複数の位置に同じ吸着剤または異なる吸着剤のいずれかに対して結合される場合、洗浄工程は、平行処理を含むより体系的かつ効率的なアプローチを用いて、交互に実行され得る。すなわち、洗浄工程は、溶離剤を用いて第1の位置で吸着剤を洗浄し、次いで、溶離剤を用いて第2の吸着剤を洗浄し、次いで第1吸着剤によって保持された分析物を脱離および検出し、その後、第2吸着剤によって保持された分析物を脱離および検出することによって、実行され得る。言い換えると、吸着剤全てが、溶離剤を用いて洗浄され、その後、各々によって保持された分析物が、各位置の吸着剤について脱離および検出される。所望される場合、各吸着剤位置での検出後、各吸着剤位置についての第2ステージの洗浄が、第2ステージの脱離および検出前に実行され得る。全吸着剤位置の洗浄工程、続く各吸着剤位置における脱離および検出を、複数の異なる溶離剤について反復し得る。この様式において、アレイ全体が、サンプル中の分析物の特徴を効率的に決定するために利用され得る。この方法は、全吸着剤位置が第1洗浄ステージにおいて同じ溶離剤を用いて洗浄されるか否か、または複数の吸着剤が第1洗浄ステージにおいて複数の異なる溶離剤を用いて洗浄されるか否かにかかわらず、有用である。
【0134】
(検出)
洗浄後に吸着剤により保持された分析物を、基材に吸着させる。基材に保持された分析物を、脱離分光法(吸着剤から分析物を脱離させ、そして脱離した分析物を直接検出する)により検出する。
【0135】
脱離方法:吸着剤からの分析物の脱離は、適切なエネルギー源に分析物を曝露させることを包含する。通常、これは、分析物と放射エネルギーまたはエネルギー性粒子を衝突させることを意味する。例えば、エネルギーは、レーザーエネルギー(例えば、UVレーザー)の形態の光エネルギー、またはストロボからのエネルギーであり得る。あるいは、このエネルギーは、高速原子の流れであり得る。熱もまた、脱離を誘導/補助するために用いられ得る。
【0136】
直接分析のために分析物を脱離および/またはイオン化する方法は、当該分野で周知である。1つのこのような方法は、マトリクスアシスティドレーザー脱離/イオン化(matrix−assisted laser desorption/ionization)(すなわち、MALDI)とよばれる。MALDIにおいて、分析物の溶液を、マトリクス溶液と混合し、そして混合物を、不活性なプローブ表面に沈着させた後に、結晶化させ、この結晶内の分析物をトラップして、脱離を可能にする。このマトリクスは、レーザーエネルギーを吸収し、そしてレーザーエネルギーを分析物に明らかに与え、その結果、脱離およびイオン化を生じるように選択される。一般に、マトリクスは、UV範囲を吸収する。大きなタンパク質のためのMALDIは、例えば、米国特許第5,118,937号(Hillenkamp)、および米国特許第5,045,694号(BeavisおよびChait)に記載される。
【0137】
表面増強レーザー脱離/イオン化(surface−enhanced laser desorption/ionization)(すなわち、SELDI)は、特異性、選択性および感度に関して、MALDIを超える有意な進歩を示す。SELDIは、米国特許第5,719,060号(HutchensおよびYip)に記載される。SELDIは、脱離のための固相法であり、この方法において、分析物は、分析物捕捉および/または脱離を増強する表面上のエネルギーの流れに提供される。対照的に、MALDIは、液相法であり、この方法において、分析物は、分析物の周りを結晶化する液体物質と混合される。
【0138】
SELDIの1つのバージョン(SEAC(表面増強アフィニティーキャプチャー(Surface−Enhanced Affinity Capture))と呼ばれる)は、アフィニティーキャプチャーデバイス(すなわち、吸着剤)と関連する脱離エネルギーに、分析物を提供することを含む。分析物がこのように吸着される場合に、分析物は、より多くの機会で、脱離エネルギー供給源に提供されて、標的分析物の脱離を達成し得ることを見出した。エネルギー吸収物質が、プローブに添加されて、脱離を補助し得る。次いで、このプローブは、分析物を脱離するためのエネルギー供給源に提供される。
【0139】
SELDIの別のバージョン(SEND(表面増強ニート脱離(Surface−Enhanced Neat Desorption))と呼ばれる)は、エネルギー吸収物質の層の使用を含み、この層に分析物が置かれる。基材表面は、表面に化学的に結合したエネルギー吸収分子の層を含み、そして/または結晶を本質的に含まない。次いで、分析物は、層と実質的に混合させることなしに、単独(すなわち、ニート)で、層の表面に適用される。エネルギー吸収分子は、マトリクスのように、脱離エネルギーを吸収し、そして分析物を脱離させる。この改良は実質的である。なぜならば、溶液混合物の実施およびランダム結晶化が排除されるので、分析物は、より単純かつより均一な様式でエネルギー供給源に提供され得るからである。このことは、このプロセスの自動化を可能にする、より均一かつ予測可能な結果を提供する。このエネルギー吸収材料は、古典的なマトリクス物質であり得るか、またはpHが中性になっているか、または塩基性範囲にされているマトリクス物質であり得る。このエネルギー吸収分子は、共有的手段または非共有的手段を介してプローブに結合され得る。
【0140】
SELDIの別のバージョン(SEPAR(表面増強感光性付着および放出(Surface−Enhanced Photolabile Attachement and Release)))は、感光性付着分子の使用を含む。感光性付着分子は、プローブの部分を作り得る、平坦なプローブ表面または別の固相(例えば、ビーズ)のような、固相に共有結合した1つの部位、およびアフィニティー試薬または分析物と共有結合され得る第2の部分を有する二価分子である。感光性付着分子はまた、表面および分析物の両方に結合する場合、光への曝露の際にアフィニティー試薬または分析物を放出し得る、感光性結合を含む。この感光性結合は、付着分子内にあり得るか、あるいは分析物(もしくはアフィニティー試薬)またはプローブ表面のいずれかに対する付着部位にあり得る。
【0141】
分析物の直接検出のための方法:脱離した分析物は、いくつかの手段のいずれかにより検出され得る。分析物が脱離のプロセス下(例えば、レーザー脱離/イオン化質量分析器において)でイオン化される場合、検出器は、イオン検出器であり得る。質量分析器は、一般に、脱離したイオンの飛行時間を検出するための手段を備える。この情報は、質量に変換される。しかし、脱離したイオンを分解および検出するために、この脱離したイオンの質量を決定する必要はない:イオン化した分析物が、異なる時間で検出器に衝突するという事実は、分析物の検出および分解を提供する。
【0142】
あるいは、分析物は、例えば、蛍光部分または放射性部分を用いて検出可能に標識され得る。これらの場合、検出器は蛍光検出器または放射能検出器であり得る。
【0143】
複数の検出手段が、分析物成分およびアレイにおける各々の位置での保持と関連する相関関係を完全に問い合わせるために、連続して実行され得る。
【0144】
脱離検出器:脱離検出器は、吸着剤から分析物を脱離させる手段、および脱離した分析物を直接検出する手段を備える。すなわち、脱離検出器は、分析物を別の固相に捕捉する中間の工程を用いずに、脱離した分析物を検出し、そして引き続く分析に供する。分析物の検出は、通常、シグナル強度の検出を含む。次いで、これは、吸着剤に吸着された分析物の量を反映する。
【0145】
脱離検出器はまた、これらの2つの要素より多くの、他の要素を有し得る。1つのこのような要素は、脱離した分析物を検出器に向けて加速する手段である。別の要素は、脱離から検出器による検出までの分析物の飛行時間を決定する手段である。
【0146】
好ましい脱離検出器は、当該分野で周知である、レーザー脱離/イオン化分析器である。質量分析器は、吸着された分析物を保有する基材(例えば、プローブ)が挿入される、ポートを備える。脱離は、分析物をエネルギー(例えば、レーザーエネルギー)と衝突させることにより達成される。このデバイスは、表面を移動するための手段を備え得、その結果、アレイ上の任意のスポットは、レーザービームと整列される。分析物をレーザービームと衝突させることは、飛行チューブ(flight tube)へのインタクトな分析物の脱離、およびこの分析物のイオン化を生じる。この飛行チューブは、一般的に、減圧空間を規定する。減圧チューブの一部である帯電プレートは、電位を作り、イオン化した分析物を検出器に向けて加速する。時計が飛行時間を測定し、そしてシステムエレクトロニクスは、分析物の速度を決定し、そして、これを質量に変換する。当業者が理解するように、これらの要素のいずれかは、脱離、加速、検出、時間の測定などの種々の手段を備える、脱離検出器の組み立てにおいて、本明細書中に記載される他の要素と組み合わされ得る。
【0147】
(選択性条件)
本発明の1つの利点は、種々の異なる結合条件および溶離条件に分析物を曝露し、これにより、分析物の増大した分解能および認識プロフィールの形で、分析物についての情報を提供する能力である。従来のクロマトグラフィー法の場合、分析物を保持する吸着剤の能力は、溶離剤に対する分析物または吸着剤に対する溶離剤の誘引力またはアフィニティーと比較して、吸着剤に対する分析物の誘引力またはアフィニティーに直接関係する。サンプルのいくつかの成分は、吸着剤に対してアフィニティーを有さないかもしれず、従って、サンプルが吸着剤に接触される場合、吸着剤に結合しない。吸着剤に結合する能力がないことに起因して、これらの成分は、分析物から迅速に分離されて分解され得る。しかし、サンプルの性質および利用される特定の吸着剤の性質に依存して、多数の異なる成分が吸着剤に初めに結合し得る。
【0148】
(吸着剤)
吸着剤は、分析物を結合する物質である。複数の吸着剤が、保持クロマトグラフィーに用いられ得る。異なる吸着剤は、かなり異なる結合特性、いくらか異なる結合特性、または微妙に異なる結合特性を示し得る。全く異なる結合特性を示す吸着剤は、代表的には、誘引の基礎または相互作用の様式が異なる。誘引の基礎は、一般的に、化学的分子認識または生物学的分子認識と相関関係にある。吸着剤と分析物との間の誘引の基礎は、例えば、(1)塩により促進される相互作用(例えば、疎水性相互作用、親イオウ性相互作用、および固定された色素の相互作用);(2)水素結合および/またはファンデルワールス力相互作用および電荷移動相互作用(例えば、親水性相互作用の場合);(3)静電的相互作用(例えば、イオン性電荷相互作用、特に、陽イオン性電荷相互作用、陰イオン性電荷相互作用);(4)吸着剤上の金属イオンとの配位共有結合(すなわち、配位錯体形成)を形成する分析物の能力;(5)酵素活性部位結合;(6)可逆的共有結合相互作用(例えば、ジスルフィド交換相互作用);(7)糖タンパク質相互作用;(8)生体特異的相互作用;または(9)上記の相互作用の様式の2つ以上の組み合わせ。すなわち、吸着剤は、誘引の基礎の2つ以上を示し得、それ故に、「混合型官能性(mixed functionality)」吸着剤として知られている。
【0149】
塩により促進される相互作用吸着剤:塩により促進される相互作用を観察するために有用である吸着剤としては、疎水性相互作用吸着剤が挙げられる。疎水性相互作用吸着剤の例としては、脂肪族炭化水素(具体的には、C1〜C18脂肪族炭化水素)を有するマトリクス;および芳香族炭化水素官能基(例えば、フェニル基)を有するマトリクスが挙げられる。疎水性相互作用吸着剤は、非電荷溶媒に曝露されたアミノ酸残基、および具体的には、非極性アミノ酸残基、芳香族アミノ酸残基、および疎水性アミノ酸残基(例えば、フェニルアラニンおよびトリプトファン)と、一般にいわれるアミノ酸残基を含む、分析物を結合する。疎水性相互作用吸着剤に結合する分析物の特定の例としては、リゾチームおよびDNAが挙げられる。特定の理論にとらわれることは望まないが、DNAは、DNA中の芳香族ヌクレオチド(具体的には、プリン基およびピリミジン基)により疎水性相互作用吸着剤に結合すると考えられる。
【0150】
塩により促進される相互作用を観察するための有用な別の吸着剤としては、親イオウ性相互作用吸着剤(例えば、Pierce,Rockford,Illinoisから市販されている親イオウ性吸着剤の1つの型である、T−GEL(登録商標)など)が挙げられる。親イオウ性相互作用吸着剤は、例えば、IgGのような免疫グロブリンを結合する。IgGとT−GEL(登録商標)との間の相互作用の機構は、完全には知られていないが、trp残基に曝露された溶媒は、役割を果たすと予想される。
【0151】
塩により促進されるイオン性相互作用、および疎水性相互作用もまた含む第3の吸着剤としては、固定された色素相互作用吸着剤が挙げられる。固定された色素相互作用吸着剤は、固定された色素(Pharmacia Biotech,Piscataway,New Jerseyから入手可能なCIBACHRONTMブルー)のマトリクスを含む。固定された色素相互作用吸着剤は、一般に、タンパク質およびDNAを結合する。固定された色素相互作用吸着剤に結合するタンパク質の1つの特定の例は、ウシ血清アルブミン(BSA)である。
【0152】
親水性相互作用吸着剤:親水性相互作用を基礎として水素結合および/またはファンデルワールス力を観察するために有用である吸着剤は、酸化ケイ素(すなわち、ガラス)のような、標準相の吸着剤を含む表面を含む。標準相または酸化ケイ素表面は、官能基として作用する。さらに、親水性ポリマー(例えば、ポリエチレングリコール、デキストラン、アガロース、またはセルロース)で修飾された表面を含む吸着剤はまた、親水性相互作用吸着剤として機能し得る。殆どのタンパク質は、水素結合またはファンデルワールス力を含む親水性相互作用を介して結合する、アミノ酸残基(すなわち、親水性アミノ酸残基)の基または組み合わせに起因して、親水性相互作用吸着剤を結合する。親水性相互作用吸着剤を結合するタンパク質の例としては、ミオグロビン、インスリン、およびチトクロムCが挙げられる。
【0153】
一般に、高密度の極性または荷電したアミノ酸を有するタンパク質は、親水性表面上に保持される。あるいは、親水性糖部分に曝露された表面を有する糖タンパク質はまた、親水性吸着剤に対する高い親和性を有する。
【0154】
静電的相互作用吸着剤:静電的相互作用またはイオン性電荷相互作用を観察するために有用である吸着剤としては、アニオン性吸着剤(例えば、スルフェートアニオン(すなわち、SO3−)のマトリクスおよびカルボキシレートアニオン(すなわち、COO−)またはホスフェートアニオン(OPO3−)など)が挙げられる。スルフェートアニオンを有するマトリクスは、持続的に負に荷電される。しかし、カルボキシレートアニオンを有するマトリクスは、これらのpKaよりも高いpHでのみ、負電荷を有する。pKa未満のpHでは、マトリクスは、実質的に中性の電荷を示す。適切なアニオン性吸着剤としてはまた、スルフェートアニオンおよびカルボキシレートアニオンおよびホスフェートアニオンの組み合わせを有するマトリクスであるアニオン性吸着剤が挙げられる。この組合わせは、pHとの相関関係として連続的に変化され得る強さの負電荷を提供する。これらの吸着剤は、正電荷を有するタンパク質および巨大分子(例えば、リボヌクレアーゼおよびラクトフェリン)を誘引および結合する。特定の理論にとらわれることは望まないが、吸着剤と正に荷電したアミノ酸残基(リジン残基、アルギニン残基、およびヒスチジル残基)との間の静電的相互作用は、結合相互作用の原因であると考えられる。
【0155】
静電的相互作用またはイオン性電荷相互作用を観察するために有用な他の吸着剤は、カチオン性吸着剤が挙げられる。カチオン性吸着剤の特定の例としては、二級アミン、三級アミン、または四級アミンのマトリクスが挙げられる。四級アミンは、持続的に正に荷電される。しかし、二級アミンおよび三級アミンは、pH依存である電荷を有する。pKa未満のpHでは、二級アミンおよび三級アミンは、正に荷電され、そしてpKaよりも上のpHでは、負に荷電される。適切なカチオン性吸着剤としてはまた、異なる二級アミン、三級アミン、および四級アミンの組み合わせを有するマトリクスであるカチオン性吸着剤が挙げられる。この組合わせは、pHとの相関関係として連続的に変化され得る強さの正電荷を提供する。カチオン性相互作用吸着剤は、溶媒に曝露されるアミノ酸残基(例えば、アスパラギン酸残基、およびグルタミン酸残基)を有するタンパク質を含む分子上のアニオン性部位を結合する。
【0156】
イオン性相互作用吸着剤(カチオン性およびアニオン性の両方)の場合、頻繁に、アニオンおよびカチオンの両方を含む混合型様式のイオン性吸着剤を使用することが望ましい。このような吸着剤は、pHとの相関関係として持続的緩衝能力を提供する。この持続的緩衝能力は、特に2〜11のpH範囲における、異なる緩衝成分を有する溶離液に対する分析物の組み合わせの曝露を可能にする。これは、固定された滴定可能なプロトン交換基により規定される、吸着剤上の局所的pH環境の発生を生じる。このようなシステムは、等電点電気泳動として既知の固相分離技術に等しい。卵胞刺激ホルモンアイソフォーム(これは、主に、荷電した糖質成分において異なる)は、等電点電気泳動吸着剤上で分離される。
【0157】
静電的相互作用を観察するために有用である、さらに他の吸着剤は、双極子−双極子相互作用吸着剤を含み、この吸着剤における相互作用は、静電的であるが、形式電荷も、滴定可能なタンパク質ドナーも、滴定可能なタンパク質アクセプターも関与しない。
【0158】
配位共有結合相互作用吸着剤:金属イオンとの配位共有結合を形成する能力を観察するために有用である吸着剤としては、例えば、二価金属イオンおよび三価金属イオンを保有するマトリクスが挙げられる。固定化した金属イオンキレート剤のマトリクスは、遷移金属イオンとの配位共有結合相互作用の基礎をなす、1つ以上の電子ドナー基を有する固定された合成有機分子を提供する。固定された金属イオンキレート剤として機能する主要な電子ドナー基としては、酸素、窒素、およびイオウが挙げられる。金属イオンは、固定された金属イオンキレート剤に結合され、分析物上の電子ドナー基との相互作用のためのいくつかの残余の部分を有する金属イオン錯体を生じる。適切な金属イオンとしては、一般に、遷移金属イオン(例えば、銅、ニッケル、コバルト、亜鉛、鉄、およびアルミニウムおよびカルシウムのような他の金属イオン)が挙げられる。特定の理論にとらわれることは望まないが、金属イオンは、ペプチド、タンパク質の特定のアミノ酸残基、または核酸と選択的に相互作用すると考えられる。代表的には、このような相互作用に関与するアミノ酸残基としては、ヒスチジン残基、チロシン残基、トリプトファン残基、システイン残基、および酸素基を有するアミノ酸残基(例えば、アスパラギン酸およびグルタミン酸)が挙げられる。例えば、固定された第二鉄イオンは、タンパク質のホスホセリン残基、ホスホチロシン残基、およびホスホスレオニン残基と相互作用する。固定された金属イオンに依存して、上記のアミノ酸残基の十分な局所密度を有するタンパク質のみが、吸着剤により保持される。金属イオンとタンパク質との間のいくつかの相互作用は、強力すぎて、タンパク質を従来の手段によって複合体から提供することができない。ヒトβカゼイン(これは、高度にリン酸化されている)は、固定されたFe(III)に非常に強力に結合する。6−ヒスチジンタグを用いて発現される組換えタンパク質は、固定されたCu(II)およびNi(II)に非常に強力に結合する。
【0159】
酵素−活性部位相互作用吸着剤:酵素−活性部位結合相互作用を観察するために有用である吸着剤としては、プロテアーゼ(例えば、トリプシン)、ホスファターゼ、キナーゼ、およびヌクレアーゼが挙げられる。相互作用は、分析物(代表的には生体高分子)の酵素結合部位と酵素の触媒結合部位との配列特異的相互作用である。この型の酵素結合部位としては、例えば、これらの配列において、リジン−リジン対またはリジン−アルギニン対を有するタンパク質およびペプチドと相互作用する、トリプシンの活性部位が挙げられる。より具体的には、ダイズトリプシンインヒビターは、固定されたトリプシンの吸着剤と相互作用し、そしてこれに結合する。あるいは、セリンプロテアーゼは、固定されたL−アルギニン吸着剤に選択的に保持される。
【0160】
可逆的共有結合相互作用吸着剤:可逆的共有結合相互作用を観察するために有用である吸着剤としては、ジスルフィド交換相互作用吸着剤が挙げられる。ジスルフィド交換相互作用吸着剤としては、固定されたスルフヒドリル基(例えば、メルカプトエタノールまたは固定されたジチオスレイトール)を含む吸着剤が挙げられる。相互作用は、吸着剤と分析物上の溶媒に曝露されたシステイン残基との間の共有ジスルフィド結合の形成に基づく。このような吸着剤は、システイン残基を有するタンパク質またはペプチド、および還元されたイオウ化合物を含むように修飾された塩基を含む核酸を結合する。
【0161】
糖タンパク質相互作用吸着剤:糖タンパク質相互作用を観察するために有用である吸着剤としては、その中に固定されたレクチンを有する吸着剤(すなわち、オリゴ糖を保有するタンパク質、その例として、CONCONAVALINTM(Pharmacia Biotech of Piscataway,New Jerseyから市販されている))のような吸着剤が挙げられる。このような吸着剤は、巨大分子の糖質部分の分子認識に関する相互作用を基礎として機能する。糖タンパク質相互作用吸着剤と相互作用し、そしてこれに結合する分析物の例としては、糖タンパク質(具体的には、ヒスチジン−リッチ糖タンパク質)、細胞全体、および単離された亜細胞画分が挙げられる。
【0162】
生体特異的相互作用吸着剤:生体特異的相互作用を観察するために有用である吸着剤は、一般的に、「生体特異的アフィニティー(親和性)吸着剤」とよばれる。吸着は、これが選択的であり、そしてアフィニティー(平衡解離定数、Kd)が少なくとも10−3Mから(例えば、10−5M、10−7M、10−9M)である場合、生体特異的であると考えられる。生体特異的アフィニティー吸着剤の例としては、特定の生体分子と特異的と相互作用し、そしてこれを結合する任意の吸着剤が挙げられる。生体特異的アフィニティー吸着剤としては、例えば、抗原に結合する固定された抗体;DNA結合タンパク質、DNA、およびRNAに結合する固定されたDNA;タンパク質および酵素に結合する固定された基質またはインヒビター;薬物結合タンパク質に結合する固定された薬物;レセプターに結合する固定されたリガンド;リガンドに結合する固定されたレセプター;DNAおよびRNA結合タンパク質に結合する固定されたRNA;ビオチンおよびビオチニル化分子を結合する固定されたアビジンまたはストレプトアビジン;脂質結合タンパク質を結合する固定されたリン脂質膜および小胞が挙げられる。酵素は、この酵素に対して吸着性の分析物を改変し得る有用な吸着剤である。細胞は、吸着剤として有用である。これらの表面は、錯体結合特性を示す。細胞に対する吸着は、例えば、表面レセプターに結合するリガンドまたはシグナル分子を同定するために有用である。ウイルスまたはファージもまた、吸着剤として有用である。ウイルスは、頻繁に、細胞表面レセプターに対するリガンド(例えば、CD4に対するgp120)を有する。また、ファージディスプレーライブラリーの形態で、ファージコートタンパク質は、標的に対する結合を試験するための試薬として作用する。生体特異的相互作用吸着剤は、上記のような、既知の特異的相互作用に依存する。吸着剤が利用され得る生体特異的相互作用の他の例は、当業者に容易に明らかであり、そして本発明により意図される。
【0163】
1つの実施形態では、生体特異的吸着剤は、さらに、補助分子、または「ヘルパー(helper)」分子を含み得、この分子は、標的分析物を結合する際に直接関与しない。
【0164】
結合特異性の程度:相互作用の異なる様式を有する吸着剤に対する曝露により、サンプルの成分は、異なる吸着剤との相互作用に基づいてかなり分割される。従って、異なる様式の相互作用を有する吸着剤に対する分析物の誘引は、第1の分離パラメーターを提供する。例えば、分析物を含むサンプルを疎水性に関する誘引を基礎とする第1の吸着剤、およびイオン性電荷に関する誘引を基礎とする第2の吸着剤に曝露することにより、疎水性吸着剤に結合する分析物をサンプルから分離し、そして特定のイオン性電荷を有する吸着剤に結合する分析物を分離することが可能である。
【0165】
誘引の異なる基礎を有する吸着剤は、低い程度の特異性を有する分析物の分解を提供する。なぜならば、この吸着剤は、分析物を結合するのみならず、サンプル中の任意の他の成分(これもまた、同じ誘引の基礎による、吸着剤に対する誘引を示す)もまた吸着するからである。例えば、疎水性吸着剤は、疎水性分析物を結合するのみならず、サンプル中の任意の他の疎水性成分もまた結合し;負に荷電した吸着剤は、正に荷電した分析物を結合するのみならず、サンプル中の任意の他の正に荷電した成分を結合する;など。
【0166】
吸着剤に対する分析物の誘引の基礎に基づいた分析物の分解は、誘引の相対的に中間の特異性または変化した強度の結合特徴を開発することにより、さらにリファインされる。中間の特異性の結合特性を基礎とする分析物の分解は、例えば、混合型官能性吸着剤を利用することにより達成され得る。一旦、分析物の分解が、相対的に低い特異性で達成されると、目的の分析物を誘引することを見出した結合特性は、種々の他の結合特性および溶離特性を組合わせて開発され得、さらにより望ましくない成分を除去し、それにより、分析物を分解する。
【0167】
例えば、分析物が疎水性吸着剤に結合する場合、分析物は、さらに、誘引の1つの基礎として、疎水性相互作用を示し、そして第2の異なる誘引の基礎もまた示す、混合型官能性吸着剤を提供することにより、他の疎水的サンプル成分から分化され得る。混合型官能性吸着剤は、正に荷電される疎水性分析物を結合するために、疎水性相互作用および負に荷電したイオン性相互作用を示し得る。あるいは、混合型官能性吸着剤は、吸着剤上の金属イオンと配位錯体を形成する能力を有する疎水性分析物を結合するために、疎水性相互作用および金属イオンとの配位共有結合を形成する能力を示し得る。中間の特異性の結合特性を示す吸着剤のなおさらなる例は、上記に示す開示および例に基づいて当業者に容易に理解される。
【0168】
中間の特異性の結合特性を基礎とする分析物の分解は、相対的に高い特異性の結合特性を開発することにより、さらにリファインされ得る。相対的に高い特異性の結合特性は、同じ基礎の誘引であるが、異なる強度の誘引を示す、種々の吸着剤を利用することに開発され得る。換言すれば、誘引の基礎は、同じであるが、他のサンプル成分からの分析物のさらなる分解は、分析物に対する異なる程度のアフィニティーを有する吸着剤を利用することにより、達成され得る。
【0169】
例えば、分析物の酸性特性に基づいて吸着剤を結合する分析物は、特定の酸性pH範囲の分析物に対するアフィニティーを有する、吸着剤を利用することにより、他の酸性成分からさらに分解され得る。従って、この分析物は、pH1〜2のサンプル成分に誘引される1つの吸着剤、pH3〜4のサンプル成分に誘引される別の吸着剤、およびpH5〜6のサンプル成分に誘引される第3の吸着剤を用いて分解され得る。この様式において、5〜6のpHの分析物を結合する吸着剤に対して特異的なアフィニティーを有する分析物は、1〜4のpHのサンプル成分から分解される。特性の増大した吸着剤は、誘引の間隔(すなわち、同じ基礎の誘引を示す吸着剤の結合特性の間の差異)を狭めることにより利用され得る。
【0170】
第1の吸着剤に吸着される第1の分析物は、それ自体、吸着特性を有し得る。この場合、基材に吸着される第1の分析物は、第2の分析物を単離するための第2の吸着剤となり得る。次いで、保持された第2の分析物は、サンプルから第3の分析物を単離するための第3の吸着剤として機能し得る。このプロセスは、数回反復して続行し得る。
【0171】
(溶離剤)
溶離剤(すなわち、洗浄溶液)は、分析物と吸着剤との間の吸着の閾値を選択的に改変する。結合した分析物を脱離および溶離する溶離剤の能力は、その溶離特性と相関関係にある。異なる溶離剤が、かなり異なる溶離特性、いくらか異なる溶離特性、または微妙に異なる溶離特性を示し得る。
【0172】
溶離剤が吸着剤に接触される温度は、特定のサンプルおよび選択した吸着剤と相関関係にある。代表的には、溶離剤は、0℃と100℃との間(好ましくは、4℃と37℃との間)の温度で吸着剤に接触される。しかし、いくつかの溶離剤について、変更した温度が好適であり得、そしてこの温度は、当業者により容易に決定される。
【0173】
吸着剤の場合、著しく異なる溶出特徴を示す溶出液は、概して、それらの誘引の基本が異なる。例えば、溶離剤と分析物との間の誘引の種々の基本は、電荷またはpH、イオン強度、水構造、特定の競合結合試薬の濃度、表面張力、誘電係数、および上記のうちの2つ以上の組み合わせを含む。
【0174】
pHベースの溶離剤:pH(すなわち、電荷)に基づく吸着剤の選択性を改変する溶離剤としては、pH緩衝液、酸性溶液、および塩基性溶液が挙げられる。所定の溶離剤に結合した分析物を特定のpH緩衝剤で洗浄することにより、電荷が変化し、従って、特定のpH緩衝液の存在下での吸着剤と分析物との間の結合の強度が、攻撃される。溶離剤のpHで、その吸着剤について、他のものとはあまり競合しないこれらの分析物は、吸着剤から脱離され、溶出し、このことにより、溶離剤のpHにて吸着剤により強く結合するそれらの分析物のみが遊離される。
【0175】
イオン強度ベースの溶離剤:イオン強度に関して吸着剤の選択性を改変する溶離剤は、種々の型および濃度の塩溶液を含む。溶離剤溶液中に溶解される塩の量は、溶離剤のイオン強度に影響を及ぼし、これに応じて、吸着剤結合能力を改変する。低濃度の塩を含む溶離剤は、イオン強度に関して吸着剤の結合能力のわずかな改変を提供する。高濃度の塩を含む溶離剤は、イオン強度に関して吸着剤結合能力のより大きな改変を提供する。
【0176】
水構造ベースの溶離剤:水構造または濃度の変化により吸着剤の選択性を改変する溶離剤は、尿素およびカオトロピック剤を含む。代表的には、尿素溶液は、例えば、0.1〜8Mの濃度範囲の溶液を含む。溶離剤を提供するために使用され得るカオトロピック塩としては、チオシアン酸ナトリウムが挙げられる。水構造ベースの溶離剤は、水和または結合水構造を改変することに起因して、吸着剤が分析物を結合する能力を改変する。この型の溶離剤としては、例えば、グリセロール、エチレングリコールおよび有機溶媒が挙げられる。カオトロピックアニオンは、非極性部分の水溶性を増大させ、それにより、分析物と吸着剤との間の疎水性相互作用を減少する。
【0177】
界面活性剤ベースの溶離剤:表面張力および分析物構造に関して吸着剤の選択性を改変する溶離剤は、界面活性剤および界面活性剤を含む。溶離剤としての使用に適切な界面活性剤は、イオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤(例えば、CHAPS、TWEENおよびNP−40)を含む。界面活性剤ベースの溶離剤は、界面活性剤の親水性基と疎水性基が導入されると、疎水性相互作用が改変されるので、吸着剤が分析物に結合する能力を改変する。分析物と吸着剤との間の疎水性相互作用、および分析物内の疎水性相互作用は、改変され、SDSのようなイオン性界面活性剤を使用して、荷電基が導入される(例えば、タンパク質変性)。
【0178】
疎水性ベースの溶離剤:誘電係数に関して吸着剤の選択性を改変する溶離剤は、疎水性相互作用に関して吸着剤の選択性を改変する溶離剤である。この能力において機能する適切な溶離剤の例としては、尿素(0.1〜8M)、有機溶媒(例えば、プロパノール、アセトニトリル、エチレングリコールおよびグリセロール)、および界面活性剤(例えば、上記)が挙げられる。溶離剤としてのアセトニトリルは、逆相クロマトグラフィーにおいて代表的である。溶離剤中にエチレングリコールを含めると、塩により促進されたチオ親和性(thiophilic)吸着剤との相互作用から免疫グロブリンを溶出する際に効率的である。
【0179】
溶離剤の組み合わせ:適切な溶離剤は、前述の分類のいずれかから選択され得るか、または前述の溶離剤の2以上の組み合わせであり得る。前述の溶離剤の2以上のを含む溶離剤は、複数の溶出特徴に基づいて、分析物に対する吸着剤の選択を改変し得る。
【0180】
(2つのパラメーターの変動性)
異なる吸着剤を選択することにより異なる結合特性を提供する能力および異なる溶離剤を用いて洗浄することにより異なる溶出特徴を提供する能力は、2つの異なるパラメーターの変導を可能にする。この2つのパラメーターの各々は、分析物が吸着剤と結合される選択性を個々にもたらし得る。これら2つのパラメーターが広く変化し得るという事実は、本発明の方法が、結合について有用であり得、従って、多くの異なる型の分析物を検出し得るように、結合誘引および溶出条件の広い範囲が保証される。
【0181】
特定のサンプルを分析する際に使用するための吸着剤および溶離剤の選択は、たとえ分析物の性質が既知でなくとも、サンプルの性質、特定の分析物または特徴付けられる分析物のクラスに依存して変化する。代表的には、広範な種々の結合特徴および広範な種々の溶出特徴を示すシステムを、特に分析されるサンプルの組成物が既知でない場合に、提供することは、特に有利である。広い範囲の選択特徴を示すシステムを提供することにより、目的の分析物が1以上の吸着剤により保持される確率は、有意に増大する。
【0182】
化学的分析または生物学的分析の分野の当業者は、広い範囲の結合特徴および溶出特を示し、分析物の最良の分離を提供する結合特徴および溶出特徴を示すシステムを提供することにより特定の分析物を保持するに有用な選択条件を決定し得る。本発明は、広い範囲の選択条件を含むシステムを提供するので、所定の分析物についての最適な結合特徴および溶出特徴を当業者が決定することにより、過度の実験の必要なく、容易に達成され得る。
【0183】
(分析物)
本発明は、分析物の特性を利用することにより、適切な選択条件の使用を介して、種々の生物学的特性、化学的特性、または物理化学的特性に基づいて分析物の分離を可能にする。適切な選択条件の使用を介して利用され得る分析物の多くの特性の中には、疎水性指数(すなわち、分析物における疎水性残基の基準)、等電点(すなわち、分析物が電荷を有さないpH)、疎水性モーメント(すなわち、分析物の両親媒性、または極性残基および非極性残基の分布の非対称性の程度の尺度)、横双極子モーメント(すなわち、分析物における電荷の分泌の非対称性の尺度)、分子構造因子(分子の骨格に沿った、かさ高い側鎖の分布などの分析物分子の表面輪郭の変化に従う)、ジスルフィド結合、溶媒に曝される電子供与基(例えば、His)、芳香性(すなわち、分析物中の芳香族残基の間のπ−π相互作用の尺度)、および荷電原子間の直線距離がある。
【0184】
これらは、特性の型の代表的な例である。これらの特性は、本発明の方法において適切な選択頭頂の選択によりサンプルから所定の分析物の分離のために利用され得る。サンプルからの特定の分析物の分離についての基本を形成し得る分析物の他の適切な特性は、当業者により容易に公知、そして/または決定可能であり、本発明により意図される。
【0185】
本発明の方法は、分析され得るサンプルの型に関して制限されている。サンプルは、固体、液体、または気体の状態にあり得るが、代表的には、サンプルは、液体状態にある。固体または気体のサンプルは、好ましくは、適切な溶媒中に可溶化されて、当業者に周知の技術に従って液体サンプルを提供し得る。このサンプルは、生物学的組成物、非生物学的有機組成物、無機組成物であり得る。本発明の技術は、生物学的サンプル、特に生物学的液体および抽出物中の分析物を分離するために、;非生物学的有機組成物における分析物、特に有機低分子および無機低分子の組成物を分離するために、特に有用である。
【0186】
分析物は、分子、マルチマー分子複合体、高分子アセンブリ、細胞、亜細胞器官。ウイルス、分子フラグメント、イオン、原子であり得る。分析物は、サンプルの単一の成分、または共通した1以上の特徴(例えば、分子量、等電点、イオン電荷、疎水性/親水性相互作用など)を有する、構造的に、化学的に、生物学的に、または機能的に関連した成分のクラスであり得る。
【0187】
本発明の保持クロマトグラフィー方法を使用して分離され得る分析物の特定の例としては、生物学的高分子(例えば、ペプチド、タンパク質、酵素、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、核酸、糖質、オリゴ糖、多糖類);上記の生物学的高分子のフラグメント;例えば、核酸複合体、タンパク質−DNA複合体、レセプター−リガンド複合体、酵素−基質、酵素インヒビター、ペプチド複合体、タンパク質複合体、糖質複合体、および多糖類複合体;生物学的低分子(例えば、アミノ酸、ヌクレオチド、ヌクレオシド、糖類、ステロイド、脂質、金属イオン、薬物、ホルモン、アミド、アミン、カルボン酸、ビタミンおよび補酵素、アルコール、アルデヒド、ケトン、脂肪酸、ポルフィリン、植物調節因子、リン酸エステルおよびヌクレオシドジホスホ糖類、合成低分子(例えば、薬学的にまたは治療的に有効な薬剤、モノマー、ペプチドアナログ、ステロイドアナログ、インヒビター、変異誘発原、発がん物質、抗有糸分裂薬物、抗生物質、イオノフォア、代謝拮抗物質、アミノ酸アナログ、抗菌剤、輸送インヒビター、表面活性剤(界面活性剤)、ミトコンドリア機能インヒビターおよび葉緑体機能インヒビター、電子供与体、キャリアおよびアクセプター、プロテアーゼに対する合成基質、ホスファターゼに対する基質、エステラーゼおよびリパーゼに対する基質、タンパク質改変試薬);ならびに合成ポリマー、オリゴマー、およびコポリマー(例えば、ポリアルキレン、ポリアミド、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリエーテル、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、ポリカーボネート、ポリビニルハライド、ポリシロキサン、POMA、PEG、ならびに上記の任意の2以上のコポリマー))が挙げられる。
【0188】
(mRNAによりコードされるポリペプチドの同定)
一旦ポリペプチドを分画すると、次の工程は、選択されたmRNAによりコードされるポリペプチドに対応する分画されたポリペプチドからポリペプチドを同定することである。サンプル中のポリペプチドは、コードされたポリペプチドの既知の物理化学的特性に基づいて分画されている。この情報は、コードされたポリペプチドを分画されたポリペプチドの中から発見する際に有用である。例えば、コードされたポリペプチドは、pH7の負電荷を有し、約18kDの質量を有することが分かる。亜イオン性吸着剤スポットを含むタンパク質バイオチップを使用すると、捕捉されたタンパク質は、分子量に基づいて分画されて、スペクトルを提供する。約18kDのスペクトルは、選択された物理化学的特性を有する1以上の候補タンパク質を提供する。この候補は、本明細書中に記載の種々の方法によりさらに試験されて、それらの正体が決定され、これら正体と発現されたポリペプチドとが相関される。
【0189】
同様に、2次元ゲル電気泳動は、pIおよび分子量に基づいてタンパク質を分離する。発現されたタンパク質の推定質量およびpIを知ることは、研究者を、タンパク質を含むと予測されるゲルの特定の領域へと導く。次いで、その点におけるタンパク質は試験され、例えば、タンパク質データベースのインターロゲーションと組み合わせた直列質量分析を使用して、推定質量およびpIと発現されたタンパク質とが相関される。
【0190】
(質量分析により分画したタンパク質の同定)。
【0191】
質量分析のデータは、アルゴリズムをプログラム可能なデジタルコンピューター(これは、MSデータとデータベースにおけるレコードとを比較する)で実行することにより、サンプル中に存在するタンパク質を同定するために使用され得る。各分子は、MS法により分析されると、特徴的な質量分析(MS)データ(質量スペクトル「シグナチャ」または「フィンガープリント」ともいわれる)を提供する。このデータは、特に、このデータを、実際のMSデータもしくは理論的MSデータを含むデータベース、または成体ポリマー配列情報に対して比較することにより分析される。フラグメントのMS分析から得られた情報はまた、分析物中のポリペプチドを同定するためにデータベースと比較される(Yatesら、J.Mass Spec.33:1−19(1988);Yatesら、米国特許第5,538,897号;Yatesら、米国特許第6,17,693号)。
【0192】
SELDIにより検出されるタンパク質を同定するためのさらなる方法は、例えば、米国特許第6,225,047号;国際特許出願PCT/US00/28163、およびUSSN60/277,677号(2001年3月20日出願)。
【0193】
ポリペプチドの脱離および検出により生成されたデータは、任意の適切な手段を使用して分析され得る。1つの実施形態において、データは、プログラム可能なデジタルコンピューターの使用により分析される。このコンピュータープログラムは、概して、コードを格納する読み取り可能な媒体を含む。特定のコードは、基材、吸着剤を洗浄するために使用された特徴および溶出条件での吸着剤の正体に対する各特徴の位置を含むメモリに充てられ得る。この情報を使用すると、プログラムは、特定の選択特徴を規定する基材に対する特徴のセット(例えば、使用される吸着剤および溶離剤の型)を同定し得る。コンピューターはまた、入力として受け入れるコード、基板上の特定のアドレス可能な位置から受ける種々の分子量にシグナルの強さに対するデータを含む。このデータは、検出されるポリペプチドの数、必要に応じて、シグナルの強さおよび検出された各ポリペプチドについての決定された分子量を示す。
【0194】
データ分析は、検出されるポリペプチドのシグナル強度(例えば、ピーク高)を決定する工程および「アウトライアー」(所定の統計学的分布から外れるデータ)を取り除く工程を包含し得る。観察されたピークは、正規化され得、これは、いくつかの参照に対する各ピークの高さが計算されることによるプロセスである。例えば、参照は、尺度においてゼロとして設定される、機器および化学物質(例えば、エネルギー吸収分子)により生成されるバックグラウンドノイズであり得る。各ポリペプチドまたは他の物質について検出されるシグナル強度は、所望される尺度(例えば、100)において相対的強度の形態において示され得る。あるいは、標準物質から検出されるピークが、各ポリペプチドまたは他のポリペプチドについて観察される相対的シグナル強度を計算するための参照として使用され得るように、標準物質がサンプルとともに入れられる。
【0195】
特定の実施形態において、MSデータおよびこのデータから得られた情報は、データおよび生体ポリマーに関する情報からなるデータベースと比較される。例えば、このデータベースは、ヌクレオチドまたはアミノ酸の配列からなり得る。このデータベースは、発現された配列タグ(EST)のヌクレオチド配列またはアミノ酸配列からなり得る。あるいは、このデータベースは、ヌクレオチドレベルまたはアミノ酸レベルでの遺伝子の配列からなり得る。このデータベースは、ヌクレオチド配列の集合、アミノ酸配列、または任意の種のゲノムに含まれるヌクレオチド配列の翻訳が挙げられるが、これらに限定されない。
【0196】
生体ポリマーに関する情報(例えば、ヌクレオチドまたはアミノ酸の配列)のデータベースは、代表的には、コンピューターにより必要に応じて行われるコンピュータープログラムまたは検索アルゴリズムを介して分析される。配列データベースからの情報は、データおよび本発明の方法から得られる情報との最も良好な適合について検索される(例えば、Yates(1998)J.Mass Spec.33:1−19;Yatesら、米国特許第5,638,897号;Yatesら、米国特許第6,17,693号を参照のこと)。
【0197】
データベースを検索するために有用な任意の適切なアルゴリズムまたはコンピュータープログラムが使用され得る。検索アルゴリズムおよびデータベースは、常に更新され、このような更新されたバージョンは、本発明に従って使用される。プログラムまたはデータベースの例は、http://base−peak.wiley.com/、http://mac−mann6.embl−heidelberg.de/MassSpec/Software.html、http://www.mann.embl−heidelberg.de/Services/PeptideSearch/PeptideSearchIntro.html、ftp://ftp.ebi.ac.uk/pub/databases/、およびhttp://donatello.ucsf.eduにて、ワールドワイドウェブ(WWW)上で見出され得る。米国特許出願第5,632,041号、同第5,964,860号;同第5,706,498号;同第5,701,256号はまた、配列被殻のためのアルゴリズムまたは方法を記載する。
【0198】
1つの実施形態において、タンパク質、ペプチド、またはヌクレオチド配列のデータベースは、データベースの組み合わせである。データベースの例としては、いかが挙げられるが、これらに限定されない:UCSFウェブサイト(prospector.ucsf.edu)のProteinProspector、Genpeptデータベース、GenBankデータベース(described in Burksら(1990)Methods in Enzymology 183:3−22において記載される)、EMBLデータライブラリー(Kahnら(1990)Methods In Enzymology 183:23−31において記載される)、Protein Sequence Database(Barkerら(1990)Methods in Enzymology 183:31−49において記載される)、SWISS−PROT (Bairochら(1993)Nucleic Acids Res.,21:3093−3096に記載される)、およびPIR−International ((1993) Protein Seg. Data Anal.5: 67−192に記載される)。
【0199】
さらなる実施形態において、新規データベースは、質量分析により決定したMSデータ(例えば、切断されたタンパク質およびペプチドフラグメントの質量または質量スペクトル)と比較するために、生成している。例えば、特徴づけされつつあるペプチドの集まりの可能なアミノ酸配列組み合わせ全ての理論的データベースが生成される(Parekhら,WO98/53323)。従って、データベースは、サンプル中のペプチドのアミノ酸配列を決定するために質量分析を使用して決定された実際の集合である。
【0200】
いくつかの実施形態において、質量分析から得られたポリペプチドの質量は、最も近い適合を提供する核酸配列から、タンパク質または推定タンパク質の質量についてデータベースをクエリーするために使用される。このように、未知のタンパク質は、アミノ酸配列なしで迅速に同定され得る。本発明の他の実施形態において、そのキメラポリペプチドフラグメントから提供された質量は、最も近い適合を提供する核酸配列からタンパク質または推定タンパク質の推定質量分析に対して比較され得る。アルゴリズムまたはコンピュータープログラムは、MS法により分析される生体ポリマーを切断するために使用される同じ切断薬剤を使用して、データベース中の配列の理論的切断を生成する。
【0201】
親分子またはフラグメント分子のMSデータから生成された配列に類似の配列相同性の所望の範囲内にある配列データベースからの配列またはシミュレートされた切断フラグメントは、「マッチ」または「ヒット」と称される。このようにして、試験ドメインまたはそのフラグメントの正体が、迅速に決定され得る。研究者は、各特定の分析にしたが手、受け入れ可能な配列相同性比較値の範囲をカスタマイズまたは変化させ得る。
【0202】
(SELDIを使用するポリペプチドの検出)
特定の溶出条件下での吸着剤に吸着した分析物の検出は、サンプル中の分析物およびそれらの化学的特徴についての情報を提供する。吸着は、吸着剤:結合を可能にする特徴を有する吸着剤に結合する分析物の結合特徴に、一部依存する。例えば、特定のpHにてカチオン性である分子は、pHを含む溶出条件下でアニオン性吸着剤に結合する。強くカチオン性の分子は、非常に強い溶出条件下で吸着剤から溶出されるのみである。疎水性領域を有する分子は、疎水性吸着剤に結合する一方、親水性領域を有する分子は、親水性吸着剤に結合する。繰り返すと、相互作用の強さは、分析物が疎水性領域または親水性領域を含む程度に、一部依存する。従って、サンプル中の特定の分析物が、特定の溶出条件下で吸着剤に結合するという決定が、互いからおよび結合に適切な化学的特長を有さない分析物から分離することにより、混合物中の分析物を分離するだけでなく、あるクラスの分析物または特定の化学的特徴を有する個々の分析物を同定することにもなる。種々の溶出条件下で1以上の特定の吸着剤に対する分析物保持についての情報を収集すると、混合物中の分析物の詳細な分離だけでなく、それらの正体を導き得る分析物、それ自体についての化学的情報もまた提供される。このデータは、「保持データ」といわれる。
【0203】
保持アッセイにおいて生成されたデータは、プログラム可能なデジタルコンピューターの1つを使用して最も容易に分析される。コンピュータープログラムは、概して、コードを格納する読み取り可能な媒体を含む。特定のコードは、基材アレイ、吸着剤を洗浄するために使用された特徴および溶出条件での吸着剤の正体に対する各特徴の位置を含むメモリに充てられ得る。この情報を使用すると、プログラムは、特定の選択特徴を規定するアレイに対する特徴のセットを同定し得る。コンピューターはまた、入力として受け入れるコード、プローブに対する特定のアドレス可能な位置から受ける種々の分子量にシグナルの強さに対するデータを含む。このデータは、検出される分析物の数(必要に応じて、各分析物について、シグナルの検出される強さおよび決定された分子量を含む)を示す。
【0204】
コンピューターはまた、データを処理するコードを含む。本発明は、データを処理するための種々の方法を意図する。1つの実施形態において、この方法は、分析物認識プロフィールを作製する工程を包含する。例えば、質量分析により同定される特定の分析物の保持に対するデータは、特定の結合特徴(例えば、アニオン性吸着剤または疎水性吸着剤への結合)に従って分類され得る。この収集されたデータは、特定の分析物の化学的特徴のプロフィールを提供する。保持特徴は、分析物の気嚢を反映し、これは、続いて、構造を反映する。例えば、配位結合金属キレート剤に対する保持時間は、ポリペプチド分析物中のヒスチジン残基の存在を反映する。種々のpHレベルの溶出下での複数のカチオン性吸着剤およびアニオン性吸着剤に対する保持レベルのデータを使用すると、タンパク質の等電点を獲得し得る情報が明らかになる。続いて、このことは、タンパク質中のイオン性アミノ酸のあり得る数を反映する。従って、コンピューターは、結合情報を構造情報に変換するコードを含み得る。さらに、分析物の二次処理(例えば、翻訳後修飾)は、結合または質量における差異により反映される変化した認識プロフィールを生じる。
【0205】
別の実施形態において、保持アッセイは、2つの異なる細胞型に対して、選択性閾値の同じセットを使用して行われ、2つのアッセイからの保持データが比較される。保持マップにおける差異(例えば、任意の特徴でのシグナルの存在または強度)は、2つの細胞により差示的に発現される分析物を示す。このことは、例えば、2つの保持アッセイ間のシグナル強度の差異を示す差異マップを生成し、それにより、どの分析物が、2つのアッセイにおいて吸着剤により多くまたは少なく保持されたかを示す。
【0206】
コンピュータープログラムはまた、入力としてプログラマーからの指示を受け入れれるコードを含み得る。アレイにおける特定された、所定の位置から分析物の選択的脱離についての連続的かつ論理的経路が認識され得、予めプログラムされ得る。
【0207】
コンピューターは、提示のために別のフォーマットへデータを変換し得る。データ分析は、収集したデータから特徴位置の関数として、例えば、シグナル強度を決定する工程、「アウトライアー」(所定の統計学的分布から外れるデータ)を取り除く工程、および残りのデータから分析物の相対的結合親和性を算出する工程を包含し得る。
【0208】
得られたデータは、種々の形式にて提示され得る。1つの形式において、シグナル強度は、分子量の関数としてグラフに提示される。別の形式(「ゲル形式といわれる」)において、シグナル強度は、直線軸暗さの強度に沿って提示されて、ゲル上のバンドに類似する概観を生じる。別の形式において、特定の閾値に達したシグナルは、分子量を示す水平軸上に垂線またはバーとして提示される。従って、各バーは、検出される分析物を示す。データはまた、結合特徴および/または溶出特徴に従って分類された分析物についてのシグナル強度のグラフにて提示される。
【0209】
本明細書中に記載の実施例および実施形態は、例示目的に過ぎず、これらに照らして、種々の改変または変更が当業者に示唆され、本願の趣旨および範囲内および添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれることが理解される。本明細書中で引用された全ての刊行物、特許、および特許出願は、その全体が全ての目的のために本明細書中に参考として援用される。
Claims (30)
- 生物学的サンプルにおける遺伝子およびタンパク質の発現を相関させる方法であって、該方法は、以下の工程:
a)該生物学的サンプルを獲得する工程;
b)該サンプルの遺伝子発現プロフィールを作製し、それによって、該サンプルにおいて発現されるmRNAを同定する工程;
c)該mRNAによってコードされるポリペプチドの物理化学的特性を同定する工程;
d)該物理化学的特性に基づいて、該サンプル中のポリペプチドを分画する工程;ならびに
e)該分画されたタンパク質の中から、該mRNAによってコードされるポリペプチドを同定する工程であって、該同定されたポリペプチドが、該物理化学的特性を有する、工程、
を包含し、それによって、該サンプルにおける遺伝子およびタンパク質の発現を相関させる、方法。 - 前記生物学的サンプルが、健常な細胞由来の細胞溶解物を含む、請求項1に記載の方法。
- 前記生物学的サンプルが、病理学的細胞由来の細胞溶解物を含む、請求項1に記載の方法。
- 前記生物学的サンプルが、毒性化合物に接触した細胞由来の細胞溶解物を含む、請求項1に記載の方法。
- 前記生物学的サンプルが、薬物処置に応答する被験体または薬物処置に応答しない被験体の細胞由来の細胞溶解物を含む、請求項1に記載の方法。
- 前記生物学的サンプルが、熱、冷却または照射に曝露された細胞由来の細胞溶解物を含む、請求項1に記載の方法。
- 前記生物学的サンプルが、ヒト細胞を含む、請求項1に記載の方法。
- 遺伝子発現プロフィールを作製する前記工程が、ESTアレイを用いて、発現されるmRNAを同定する工程を包含する、請求項1に記載の方法。
- 遺伝子発現プロフィールを作製する前記工程が、オリゴヌクレオチドアレイを用いて、発現されるmRNAを同定する工程を包含する、請求項1に記載の方法。
- 遺伝子発現プロフィールを作製する前記工程が、mRNAアレイを用いて、発現されるmRNAを同定する工程を包含する、請求項1に記載の方法。
- 前記mRNAが、2つの生物学的サンプルにおいて差示的に発現される、請求項1に記載の方法。
- 前記2つの生物学的サンプルが、正常細胞および病理学的細胞に由来する、請求項11に記載の方法。
- 前記病理学的細胞が、癌細胞である、請求項12に記載の方法。
- 前記2つの生物学的サンプルが、健常な細胞および毒性化合物に曝露された細胞に由来する、請求項11に記載の方法。
- 前記mRNAによってコードされるポリペプチドの物理化学的特性を同定する前記工程が、複数の物理化学的特性を同定する工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
- 請求項1に記載の方法であって、物理化学的特性を同定する前記工程が、選択されたタンパク質分解剤による前記ポリペプチドの分解の際に、mRNAによってコードされるポリペプチドにより生成されるタンパク質分解フラグメントの質量を予測することを包含し、そしてmRNAによってコードされるタンパク質を同定する前記工程が、前記サンプル中のポリペプチドを該薬剤による分解に供すること、および該予測されたフラグメントの質量に対応する質量を有する該サンプル中の実際のタンパク質分解フラグメントを同定することを包含する、方法。
- 前記物理化学的特性が、以下:アミノ酸配列、分子量、等電点、疎水性、親水性、グリコシル化、リン酸化、エピトープ配列、リガンド結合配列、特定のpHでの電荷および金属キレート結合からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
- 前記サンプル中のポリペプチドを分画する前記工程が、2Dゲル電気泳動を含む、請求項1に記載の方法。
- 前記サンプル中のポリペプチドを分画する前記工程が、質量分析法を含む、請求項1に記載の方法。
- 請求項1に記載の方法であって、前記サンプル中のポリペプチドを分画する前記工程が、表面増強レーザー脱離イオン化を含み、該表面増強レーザー脱離イオン化が、固相結合吸着剤上の親和性保持によって分画する工程、引き続いて気相イオン分光分析による該固相からの保持されたポリペプチドを分画する工程を包含する、方法。
- 請求項20に記載の方法であって、前記吸着剤が、以下:アミノ酸配列、分子量、等電点、疎水性、親水性、グリコシル化、リン酸化、エピトープ配列、リガンド結合配列、特定のpHでの電荷および金属キレート結合からなる群より選択される少なくとも1つの物理化学的特性を有するポリペプチドに対して、親和性を有するように選択される、方法。
- 請求項1に記載の方法であって、前記ポリペプチドを同定する前記工程が、前記分画されたポリペプチドの中からポリペプチドを選択する工程であって、該選択されたポリペプチドが、前記物理化学的性質を有する、工程、該選択されたポリペプチドを同定する工程、および該選択されたポリペプチドの同定を前記mRNAによってコードされるポリペプチドと相関させる工程、を包含する、方法。
- 生物学的サンプルにおける遺伝子およびタンパク質の発現を相関させる方法であって、該方法は、以下の工程:
a)該生物学的サンプルを獲得する工程;
b)核酸アレイを用いて該サンプルの遺伝子発現プロフィールを作製し、それによって、該サンプルにおいて発現されるmRNAを同定する工程;
c)該mRNAによってコードされるポリペプチドの物理化学的特性を同定する工程;
d)質量分析法を使用して、該物理化学的特性に基づいて、該サンプル中のポリペプチドを分画する工程;ならびに
e)該分画されたタンパク質の中から、該mRNAによってコードされるポリペプチドを同定する工程であって、該同定されたポリペプチドが、該物理化学的特性を有する、工程;
を包含し、それによって、該細胞における遺伝子およびタンパク質の発現を相関させる、方法。 - 遺伝子発現プロフィールを作製する前記工程が、ESTアレイを用いて、発現されるmRNAを同定する工程を包含する、請求項23に記載の方法。
- 遺伝子発現プロフィールを作製する前記工程が、オリゴヌクレオチドアレイを用いて、発現されるmRNAを同定する工程を包含する、請求項23に記載の方法。
- 遺伝子発現プロフィールを作製する前記工程が、mRNAアレイを用いて、発現されるmRNAを同定する工程を包含する、請求項23に記載の方法。
- 請求項23に記載の方法であって、前記mRNAによってコードされるポリペプチドを同定する前記工程が、表面増強レーザー脱離イオン化によって前記サンプル中のポリペプチドを画分する工程を包含し、該表面増強レーザー脱離イオン化が、固相結合吸着剤上の親和性保持によって分画すること、引き続いて気相イオン分光分析による該固相からの保持されたポリペプチドを分画することを包含する、方法。
- 生物学的サンプルにおける遺伝子およびタンパク質の発現を相関させる方法であって、該方法は、以下の工程:
a)該生物学的サンプルを獲得する工程;
b)オリゴヌクレオチドアレイを用いて該サンプルの遺伝子発現プロフィールを作製し、それによって、該サンプルにおいて発現されるmRNAを同定する工程;
c)該mRNAによってコードされるポリペプチドの物理化学的特性を同定する工程;
d)表面増強レーザー脱離イオン化を使用して、該物理化学的特性に基づいて、該サンプル中のポリペプチドを分画する工程であって、該表面増強レーザー脱離イオン化が、固相結合吸着剤上の親和性保持によって分画すること、引き続いて気相イオン分光分析による該固相からの保持されたポリペプチドを分画すること、を包含する、工程;ならびに
e)該分画されたタンパク質の中から、該mRNAによってコードされるポリペプチドを同定する工程であって、該同定されたポリペプチドが、該物理化学的特性を有する、工程;
を包含し、それによって、該細胞における遺伝子およびタンパク質の発現を相関させる、方法。 - 請求項28に記載の方法であって、前記吸着剤が、以下:アミノ酸配列、分子量、等電点、疎水性、親水性、グリコシル化、リン酸化、エピトープ配列、リガンド結合配列、特定のpHでの電荷および金属キレート結合からなる群より選択される少なくとも1つの物理化学的特性を有するポリペプチドに対して、親和性を有するように選択される、方法。
- 請求項28に記載の方法であって、物理化学的特性を同定する前記工程が、選択されたタンパク質分解剤による前記ポリペプチドの分解の際に、mRNAによってコードされるポリペプチドにより生成されるタンパク質分解フラグメントの質量を予測することを包含し、そしてmRNAによってコードされるタンパク質を同定する工程が、前記サンプル中のポリペプチドを該薬剤による分解に供すること、および該予測されたフラグメントの質量に対応する質量を有する該サンプル中の実際のタンパク質分解フラグメントを同定すること、を包含する、方法。
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