JP2005506514A - 結腸直腸ガンおよび/または乳ガンの診断方法、結腸直腸ガンおよび/または乳ガンのモジュレータの組成物およびスクリーニング法 - Google Patents
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Abstract
ここには、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンの診断と予後診断に使用できる方法が説明されている。また、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンを変化させることのできる生物活性剤候補のスクリーニングに使用できる方法も説明されている。さらに、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンを治療するための方法と分子標的(遺伝子とその産物)も説明されている。
Description
【0001】
発明の属する技術分野
本発明は、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンに関係する発現プロファイルと核酸の同定、ならびにそのような発現プロファイルと核酸を用いたこのようなガンの診断および予後診断に関する。本発明はさらに、ある種のガンを変化させる薬剤候補および/または標的候補の同定法と使用法にも関する。
【0002】
発明の背景
新規な治療標的と診断マーカーを同定することは、ガン患者に対する現在の治療法を改善する上で非常に重要である。分子医学における最近の進歩により、さまざまな免疫治療戦略または小分子戦略を行なうための標的として役立つ可能性のある腫瘍特異的細胞表面抗原に興味が集まっている。免疫治療戦略に適した抗原は、ガン組織での発現が多いこと、しかも正常な大人の組織では理想上はまったく発現していないことが必要とされる。しかし生命活動に不可欠な組織での発現は許容されよう。そのような抗原の具体例として、Her2/neuとB細胞抗原CD20が挙げられる。現在のところ、Her2/neuに対するヒト化モノクローナル抗体(ハーセプチン)が転移性乳ガンの治療に用いられている(RossとFletcher、Stem Cells、第16巻、413〜428ページ、1998年)。同様に、抗CD20モノクローナル抗体(リタクシン)が非ホジキンリンパ腫に使用されて効果が見られている(Maloney他、Blood、第90巻、2188〜2195ページ、1997年;LegetとCzuczman、Curr. Opin. Oncol.、第10巻、548〜551ページ、1998年)。
【0003】
乳ガンは、西洋人によく見られるガンである。正常な乳房上皮が病的な形質転換を起こして浸潤性ガンになる結果として発生する。最近、乳ガンに関係する遺伝子変異が多数明らかにされている。しかし乳ガンの進行に関わるさらに別の遺伝子変異を同定する必要がある。
【0004】
乳ガンの画像診断には問題がある上、限界もある。さらに、腫瘍細胞があちこちのリンパ節に拡散(転移)するかどうかは、重要な予後診断因子である。5年生存率は、リンパ節への転移がない患者では80%であるのに対し、リンパ節への転移がある患者では45〜50%と急激に低下する。最近の報告によると、ガン胎児性抗原に対するmRNAの存在に基づいた逆転写PCR法を用いてリンパ節から微小転移を検出できることがわかった(Liefers他、New England J. of Med.、第339巻(4)、223ページ、1998年)。
【0005】
より注意を必要とする別の疾患状態は大腸ガン(この明細書では、“結腸直腸ガン”と同じ意味で用いる)である。最近、結腸直腸ガンに関係する遺伝子変異が多数明らかにされている。その中には、腫瘍抑制遺伝子とプロトガン遺伝子という2つのクラスの遺伝子における突然変異が含まれる。さらに、最近の研究によると、DNA修復遺伝子における突然変異も腫瘍発生に関係している可能性のあることが示唆されている。例えば腫瘍抑制遺伝子である大腸腺種症(APC)遺伝子の両方の対立遺伝子が不活性化する突然変異は、結腸直腸ガンにおける最初期の重要事件の1つであるらしい。しかもこの突然変異は、結腸直腸ガンの引き金となる重要事件である可能性さえある。結腸直腸ガンに関係する他の遺伝子としては、MCC遺伝子、p53遺伝子、DCC(「結腸直腸ガンにおいて欠損」の略号)遺伝子、染色体18qの他の遺伝子、TGF−βシグナル伝達経路の遺伝子などが挙げられる。概説として、Curr. Probl. Cancer、1997年9/10月、「結腸直腸ガンの分子生物学」を参照のこと。
【0006】
したがって、乳ガンと結腸直腸ガンの診断と予後診断に使用できる方法があると望ましかろう。学界と産業界では新規な配列を同定する努力が続けられてきたが、その新規な配列の機能同定に同じくらいの努力が払われることはなかった。これは、その新規な配列が疾患状態にどう関与しているかの同定に関して特に当てはまる。例えばデータベースから登録番号T32108(配列ID番号1)、AW136973(配列ID番号2)、AK000747(配列ID番号3)、AK000123(配列ID番号4)についての配列が得られるが、どの配列も疾患状態に関係する遺伝子産物と関連づけられてはいない。同様に、エフリン−A3のアミノ酸配列(Kozlosky他、Oncogene、第10巻(2)、299〜306ページ、1995年)が登録番号P52797(配列ID番号5)に見られる。これはEHK1のアミノ酸配列(Davis他、Science、第266巻(5186号)、816〜819ページ、1994年)とほぼ同じであり、登録番号L37360(配列ID番号6)のcDNA配列から導出される。これら2つのタンパク質は、おそらく同じ遺伝子のmRNAスプライス変異体であろう。エフリン−A3に関し、マウスでのホモログのアミノ酸配列が登録番号OO8545(配列ID番号7)に見られる。これらのタンパク質は、EPH関連受容体チロシンキナーゼ・リガンド(LERK)ファミリーのメンバーである。しかしさまざまなLERK(エフリン−A3/EHK1を含む)が神経ネットワークの発達と関係づけられているものの(例えばGao他、PNAS、第96巻(7)、4073〜4077ページ、1999年;Wilkinson、Curr. Biol.、第10巻(12)、R447〜451ページ、2000年を参照のこと)、エフリン−A3はどのような疾患状態とも関係づけられていない。
【0007】
そこでこの明細書では、乳ガンと結腸直腸ガンの診断と予後診断に使用できる方法を提示する。さらに、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンを変化させることのできる生物活性剤候補のスクリーニングに使用できる方法も提示する。それに加え、ある種のガンを治療するための方法と分子標的も提示する。
【0008】
発明のまとめ
本発明は、乳ガンを変化させる組成物のスクリーニング法を提供する。本発明の別の実施態様では、結腸直腸ガンを変化させる組成物のスクリーニング法を提供する。一実施態様によれば、薬剤候補のスクリーニング法は、発現プロファイル遺伝子またはその断片を発現する細胞を提供する操作を含んでいる。この明細書で説明する発現プロファイル遺伝子の好ましい実施態様には、(CHA4をコードしている)配列ID番号8または(CBK8をコードしている)配列ID番号9またはその断片を含む配列が含まれる。スクリーニング法にはさらに、薬剤候補を細胞に添加し、その薬剤候補が発現プロファイル遺伝子の発現に及ぼす効果を明らかにする操作が含まれる。
【0009】
一実施態様では、薬剤候補のスクリーニング法は、この薬剤候補なしでの発現レベルを、この薬剤候補の存在下での発現レベルと比較する操作を含んでいる。なお、薬剤候補が存在しているときにはその濃度を変えることができ、比較は、薬剤候補を添加した後、または除去した後に行なうことができる。好ましい実施態様では、細胞は少なくとも2つの発現プロファイル遺伝子を発現する。発現プロファイル遺伝子は、発現が増加する可能性もあるし、減少する可能性もある。
【0010】
この明細書にはさらに、CHA4またはCBK8またはその断片と結合することのできる生物活性剤のスクリーニング法であって、CHA4またはCBK8またはその断片と生物活性剤候補を混合し、CHA4またはCBK8またはその断片に対するこの生物活性剤候補の結合を明らかにする操作を含むスクリーニング法も提示されている。
【0011】
この明細書にはさらに、CHA4タンパク質またはCBK8タンパク質の活性を変化させることのできる生物活性剤のスクリーニング法も提示されている。一実施態様では、この方法は、CHA4タンパク質またはCBK8タンパク質と生物活性剤候補を混合し、このタンパク質に対するこの生物活性剤候補の効果を明らかにする操作を含んでいる。一実施態様では、CHA4は乳ガンを変化させるタンパク質としての活性を有する。別の実施態様では、CHA4またはCBK8は、結腸直腸ガンを変化させるタンパク質としての活性を有する。さらに別の実施態様では、CHA4は乳ガンを変化させるタンパク質としての活性と結腸直腸ガンを変化させるタンパク質としての活性を有する。
【0012】
この明細書にはさらに、ガン治療薬候補の効果を評価する方法であって、この治療薬候補を、CHA4またはCBK8またはその断片を発現または過剰発現するトランスジェニック動物に、あるいは(例えば遺伝子ノックアウトの結果として)CHA4またはCBK8を持たない動物に投与する操作を含む方法も提示されている。
【0013】
この明細書にはさらに、ガン治療薬候補の効果を評価する方法であって、この治療薬候補を患者に投与し、この患者から細胞サンプルを採取する操作を含む方法も提示されている。次いで細胞の発現プロファイルを明らかにする。発現プロファイルを明らかにするステップは、CHA4および/またはCBK8の発現を明らかにする操作を含んでいることが好ましい。この方法はさらに、この発現プロファイルを健康な人の発現プロファイルと比較する操作を含んでいる。
【0014】
さらに、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンの診断法も提供される。この方法は、第一個体の人の第1の組織サンプル中の配列ID番号8または配列ID番号9またはその断片を含む遺伝子の発現を明らかにし、この発現プロファイルを、この第一個体の人に由来する正常なタイプの第2の組織サンプルからの上記遺伝子の発現プロファイル、または第二個体の人の組織サンプルの上記遺伝子の発現プロファイルと比較する操作を含んでおり、この比較結果が、第一個体の人がガンであるかどうかを示している。一実施態様では、第1の組織サンプルは乳房組織であり、ガンは乳ガンである。別の実施態様では、第1の組織サンプルは直腸組織であり、ガンは結腸直腸ガンである。
【0015】
本発明の別の側面として、CHA4またはCBK8またはその断片と特異的に結合する抗体が提供される。この抗体はモノクローナル抗体であることが好ましい。この抗体は、抗体の断片(例えば後で詳しく説明する一本鎖抗体)であってもよいし、別の分子と結合していてもよい。一実施態様では、抗体はヒト化抗体である。
【0016】
一実施態様では、CHA4またはその断片の結合を妨害することのできる生物活性剤と、CHA4またはその断片と結合する抗体をスクリーニングする方法が提供される。好ましい実施態様では、この方法は、CHA4またはその断片と、生物活性剤候補と、CHA4またはその断片と結合する抗体とを混合する操作を含んでいる。この方法はさらに、CHA4またはその断片とこの抗体の結合を明らかにする操作を含んでいる。別の実施態様では、CBK8またはその断片の結合を妨害することのできる生物活性剤と、CBK8またはその断片と結合する抗体をスクリーニングする方法が提供される。好ましい一実施態様では、この方法は、CBK8またはその断片と、生物活性剤候補と、CBK8またはその断片と結合する抗体とを混合する操作を含んでいる。この方法はさらに、CBK8またはその断片とこの抗体の結合を明らかにする操作を含んでいる。結合に変化がある場合、薬剤は阻害剤であると同定される。阻害剤は、アゴニストの場合とアンタゴニストの場合がある。抗体と薬剤は、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンを阻害することが好ましい。
【0017】
本発明の一側面として、乳ガンまたは結腸直腸ガンを変化させるタンパク質の活性を阻害する方法が提供される。この方法は、タンパク質に阻害剤を結合させる操作を含んでいる。好ましい一実施態様では、タンパク質はCHA4である。別の好ましい実施態様では、タンパク質はCBK8である。
【0018】
本発明の別の側面として、乳ガンまたは結腸直腸ガンを変化させるタンパク質の効果を中和する方法が提供される。この方法は、このタンパク質を、このタンパク質に対して特異的な十分な量の薬剤と接触させる操作を含んでいる。好ましい一実施態様では、タンパク質はCHA4である。別の好ましい実施態様では、タンパク質はCBK8である。
【0019】
本発明のさらに別の側面として、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンを阻害する方法が提供される。一実施態様では、この方法は、CHA4またはその断片に対する抗体を含む組成物を細胞に投与する操作を含んでいる。別の実施態様では、この方法は、CBK8またはその断片に対する抗体を含む組成物を細胞に投与する操作を含んでいる。一実施態様では、抗体は治療効果を有する部分と結合する。このような治療効果を有する部分としては、細胞毒性剤や放射性同位体が挙げられる。この方法は、インビトロでもインビボでも実施することが可能であるが、ヒトの体内で行なうことが好ましい。好ましい一実施態様では、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンにかかっている人に対するガンの阻害法が提供される。
【0020】
この明細書に記載したように、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンを阻害する方法は、細胞またはヒトに対してCHA4またはCBK8の活性を抑制する任意の阻害剤を投与することによって実現することができる。一実施態様では、CHA4阻害剤は、CHA4に対するアンチセンス分子である。一実施態様では、CBK8阻害剤は、CBK8に対するアンチセンス分子である。
【0021】
この明細書にはさらに、CHA4またはCBK8をコードしている1つ以上の核酸セグメント、またはその断片を含むバイオチップであって、1000未満の核酸プローブを含んでいるバイオチップも提示されている。少なくとも2つの核酸セグメントが含まれていることが好ましい。
【0022】
この明細書には、ヒトに免疫応答を誘導する方法も提示されている。この明細書に記載されている一実施態様では、この方法は、ヒトにCHA4またはCBK8またはその断片を含む組成物を投与する操作を含んでいる。別の実施態様では、この組成物は、CHA4またはCBK8をコードしている配列が含まれた核酸を含んでいる。別の実施態様では、CHA4またはCBK8またはその断片が含まれた組成物が提供される。好ましい実施態様では、この組成物は、薬理学的に許容可能な基剤を含んでいる。
【0023】
当業者にとって、本発明の他の特徴は、以下の説明から明らかになろう。
【0024】
発明の詳細な説明
本発明は、乳ガンと結腸直腸ガンの新規な診断法および予後診断法と、乳ガンと結腸直腸ガンを変化させる組成物のスクリーニング法と、乳ガンと結腸直腸ガンのモジュレータに結合する組成物を提供する。一実施態様では、診断情報または予後診断情報のいずれかが得られることが望ましいさまざまな患者のサンプルについて遺伝子の発現レベルを明らかにし、発現プロファイルを提供する。特定のサンプルにおける発現プロファイルは、本質的に、そのサンプルの状態に関する“フィンガープリント”である。2つの状態が特定の遺伝子の同様な発現に関係していることがあるが、遺伝子数の評価を同時に行なうことにより、細胞のその状態にだけ見られる遺伝子発現プロファイルを生み出すことができる。つまり、正常な組織はガン組織と区別することが可能であり、ガン組織では、予後のさまざまな状態(例えば長期生存できる見通しがある、ない)を明らかにすることができる。異なる状態におけるガン組織の発現プロファイルを比較することにより、それぞれの状態においてどの遺伝子が重要であるか(遺伝子の上方調節または下方調節を含む)に関する情報が得られる。正常組織と比べてガン組織で異なる発現をしている配列を同定することにより、また発現状態が異なると予後診断が異なることを明らかにすることにより、この情報を多くの用途で利用することができる。例えば化学療法薬が特定の患者の長期生存の可能性を改善する効果があるかどうかなど、特定の治療法の評価を行なうことができる。同様に、患者のサンプルを既知の発現プロファイルと比較することにより、診断を行なったり診断を確認したりすることができる。さらに、これら遺伝子発現プロファイル(または個々の遺伝子)を用い、特定の発現プロファイルを真似る、あるいは変化させるという点に注意して薬剤候補のスクリーニングを行なうことができる。例えば発現プロファイル遺伝子を抑制する薬剤、またはよくない予後診断プロファイルをよりよい予後診断プロファイルに変える薬剤のスクリーニングを行なうことができる。これは、重要なガン遺伝子のセットを含むバイオチップを作り、このバイオチップを用いてスクリーニングを行なうことによって実現される。これらの方法は、タンパク質に基づいて実行することもできる。すなわち、診断または予後診断、あるいは薬剤候補のスクリーニングを目的としてガン・タンパク質のタンパク質発現レベルを評価することができる。さらに、遺伝子治療を目的としてガンの核酸配列を投与することもできる。その中には、アンチセンス核酸や、ガン・タンパク質(抗体やそれ以外のモジュレータを含む)を治療薬として投与することが含まれる。
【0025】
この明細書に提示したスクリーニング法、診断法、予後診断法、治療法は、ガンに関係している。ガンは、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンであることが好ましい。
【0026】
したがって本発明により、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンにおいて正常組織とは異なった発現をする核酸配列とタンパク質配列が提供される。この明細書に提示する配列は、“異なった発現をする配列”と呼ぶことにする。以下に説明するように、配列には、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンにおいて上方調節された(すなわちより高いレベルで発現した)配列と、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンにおいて下方調節された(すなわちより低いレベルで発現した)配列が含まれる。好ましい一実施態様では、異なった発現をする配列は、ヒトからの配列である。しかし当業者であればわかるように、他の生物に由来する異なった発現をする配列も、疾患のモデル動物と薬剤の評価において有用である可能性がある。したがって異なった発現をする他の配列が、哺乳類(例えば囓歯類(ラット、マウス、ハムスター、モルモットなど)、霊長類、家畜(例えばヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマなど)といった脊椎動物から提供される。これ以外の生物に由来する異なった発現をする配列も、以下に説明する方法を用いて得ることができる。
【0027】
好ましい一実施態様では、異なった発現をする配列は、CHA4またはその断片をコードしている核酸配列である。異なった発現をする配列は、図1に示したもの、またはその断片であることが好ましい。異なった発現をする配列は、図2に示したアミノ酸配列を有するタンパク質またはその断片をコードしていることが好ましい。好ましい一実施態様では、CHA4はヒトのエフリン−A3である。
【0028】
別の好ましい実施態様では、異なった発現をする配列は、CGK8またはその断片をコードしている核酸の配列である。異なった発現をする配列は、図4に示したもの、またはその断片であることが好ましい。異なった発現をする配列は、図5に示したアミノ酸配列を有するタンパク質またはその断片をコードしていることが好ましい。
【0029】
異なった発現をする配列には、核酸配列とアミノ酸配列の両方が含まれる。好ましい一実施態様では、異なった発現をする配列は、組み換え核酸である。“組み換え核酸”という用語は、この明細書では、インビトロで一般にポリメラーゼまたはエンドヌクレアーゼを用いて核酸を操作することにより、普通なら天然に存在しない形態にした独自の核酸を意味する。したがって単離された直線状の核酸や、本来なら結合しないDNA分子をインビトロで連結させることによって形成された発現ベクターは、両方とも、本発明が目的とする組み換え体と見なされる。組み換え核酸ができてその組み換え核酸を宿主細胞または宿主生物に導入すると、宿主はその核酸を、組み換えでなく、すなわちインビトロの操作ではなく、宿主細胞内の細胞機械を用いて複製する。しかしこのような核酸は、一度組み換えによって産生されたからには、続いて組み換えでなく複製されたとしても、本発明の目的にとってはやはり組み換え体と見なされる。
【0030】
同様に、“組み換えタンパク質”は、組み換え技術を利用して得られたタンパク質、すなわち上に説明した組み換え核酸の発現を通じて得られたタンパク質を意味する。組み換えタンパク質は、天然のタンパク質とは少なくとも1つ以上の特徴によって区別される。例えばそのタンパク質は、野生型の宿主において通常は付随しているタンパク質および化合物のいくつかまたはすべてから単離または精製することが可能であり、したがって実質的に純粋にすることができる。例えば単離したタンパク質は、自然状態で通常は付随している材料の少なくとも一部を伴っていない。単離タンパク質は、所定のサンプルに含まれる全タンパク質の重量の少なくとも約0.5%であることが好ましく、少なくとも約5%であることがより好ましい。実質的に純粋なタンパク質は、全タンパク質の少なくとも約75重量%であるが、少なくとも約80重量%であることが好ましく、少なくとも約90重量%であることが特に好ましい。定義には、異なる生物または宿主細胞の1つの器官から産生される異なった発現をするタンパク質が含まれる。別の方法として、タンパク質は、誘導プロモータまたは高発現プロモータを用いることにより、通常見られるよりは非常に高濃度で産生されるようにすることができる。またタンパク質は、エピトープ・タグを付加したり、アミノ酸の置換、挿入、欠失を起こさせたりすることにより、自然では通常見られない形態にすることもできる。これについては後述する。
【0031】
好ましい一実施態様では、異なった発現をする配列は核酸である。当業者であればわかるように、また以下により詳しく説明するように、異なった発現をする配列は、天然の核酸を検出する診断のほか、スクリーニングなどのさまざまな用途において有用である。例えば、異なった発現をする配列に対する核酸プローブを含むバイオチップを作ることができる。“核酸”または“オリゴヌクレオチド”、またはこの明細書においてこれらの用語と文法的に等価な表現は、最も広い意味では、互いに共有結合した少なくとも2つのヌクレオチドを意味する。本発明の核酸は、一般に、ホスホジエステル結合を含むことになるが、場合によっては、以下に説明するように、交互に並んだいろいろな骨格を有する可能性のある核酸類似体も本発明の核酸に含まれる。具体的には、骨格として、ホスホルアミダート(Beaucage他、Tetrahedron、第49巻(10)、1925ページ、1993年とこの論文に引用されている文献;Letsinger、J. Org. Chem.、第35巻、3800ページ、1970年;Sprinzl他、Eur. J. Biochem.、第81巻、579ページ、1977年;Letsinger他、Nucl. Acids Res.、第14巻、3487ページ、1986年;Sawai他、Chem. Lett.、805ページ、1984年;Letsinger他、J. Am. Chem. Soc.、第110巻、4470ページ、1988年;Pauwels他、Chemica Scripta、第26巻、141ページ、1986年)、ホスホロチオアート(Mag他、Nucleic Acids Res.、第19巻、1437ページ、1991年;アメリカ合衆国特許第5,644,048号)、ホスホロジチオアート(Briu他、J. Am. Chem. Soc.、第111巻、2321ページ、1989年)、O−メチルホスホロアミダイト結合(Eckstein、『オリゴヌクレオチドと類似体:実践的アプローチ』、オックスフォード大学出版を参照のこと)、ペプチド核酸骨格と結合(Egholm、J. Am. Chem. Soc.、第114巻、1895ページ、1992年;Meier他、Chem. Int. Ed. Engl.、第31巻、1008ページ、1992年;Nielsen、Nature、第365巻、566ページ、1993年;Carlsson他、Nature、第380巻、207ページ、1996年を参照のこと。これらはすべて、参考としてこの明細書に内容が組み込まれているものとする)を含むものが挙げられる。他の核酸類似体としては、正に帯電した骨格(Denpcy他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第92巻、6097ページ、1995年)、非イオン性骨格(アメリカ合衆国特許第5,386,023号、第5,637,684号、第5,602,240号、第5,216,141号、第4,469,863号;Kiedrowshi他、Angew. Chem. Intl. Ed. English、第30巻、423ページ、1991年;Letsinger他、J. Am. Chem. Soc.、第110巻、4470ページ、1988年;Letsinger他、Nucleoside & Nucleotide、第13巻、1597ページ、1994年;ASCシンポジウム・シリーズ580、Y.S. SanghuiとP. Dan Cook編、『アンチセンスの研究における炭化水素の修飾』、第2章と第3章;Mesmaeker他、Bioorganic & Medicinal Chem. Lett.、第4巻、395ページ、1994年;Jeffs他、J. Biomolecular NMR、第34巻、17ページ、1994年;Tetrahedron Lett.、第37巻、743ページ、1996年)、非リボース骨格(アメリカ合衆国特許第5,235,033号、第5,034,506号;ASCシンポジウム・シリーズ580、Y.S. SanghuiとP. Dan Cook編、『アンチセンスの研究における炭化水素の修飾』、第6章と第7章)を有するものが挙げられる。1つ以上の炭素環式糖を含む核酸も、核酸の定義の1つに含まれる(Jenkins他、Chem. Soc. Rev.、169〜176ページ、1995年を参照のこと)。核酸類似体がいくつか、Rawls、C & E News、1997年6月2日号、35ページに記載されている。これら文献の内容はすべて、参考として明らかな形でこの明細書に組み込まれているものとする。リボース−リン酸骨格に対するこのような修飾は、さまざまな理由で行なうことができる。理由としては、例えば、生理環境中での、あるいはバイオチップ上のプローブとしてのこのような分子の安定性を大きくし、半減期を長くすることが挙げられる。
【0032】
当業者であればわかるように、これら核酸類似体はすべて、本発明で利用することができる。さらに、天然の核酸と核酸類似体の混合物を作ることもできる。別の方法として、異なったさまざまな核酸類似体の混合物や、天然の核酸と核酸類似体の混合物を作ることもできる。
【0033】
特に好ましいのは、ペプチド核酸類似体を含むペプチド核酸(PNA)である。天然の核酸が電荷の多いホスホジエステル骨格であるのに対し、これら骨格は中性条件では実質的に非イオン性である。これには利点が2つある。第1に、PNA骨格ではハイブリダイゼーションのキネティックスが改善される。PNAでは、塩基対がミスマッチの場合と完全にマッチしている場合で融点(Tm)の変化がより大きくなる。DNAとRNAは、内部にミスマッチがあると一般にTmが2〜4℃低下する。非イオン性PNA骨格の場合には、この低下が7〜9℃に近くなる。同様に、非イオン性であるため、PNA骨格にハイブリダイズする塩基が塩の濃度に関して比較的鈍感になる。さらに、PNAは細胞酵素によって分解されず、したがってより安定になることができる。
【0034】
核酸は場合に応じて一本鎖でも二本鎖でもよく、二本鎖配列の部分と一本鎖配列の部分の両方を含んでいてもよい。当業者であればわかるように、一本鎖(“ワトソン”)を記述するというのは、他方の鎖(“クリック”)も規定していることである。したがってこの明細書で説明する配列は、相補配列も含んでいる。核酸は、DNA(ゲノムDNAとcDNAの両方)、RNA、ハイブリッドのいずれでもよい。このとき核酸は、デオキシリボヌクレオチドとリボヌクレオチドの任意の組み合わせ、塩基(ウラシル、アデニン、チミン、シトシン、グアニン、イノシン、キサンチン、ヒポキサンチン、イソシトシン、イソグアニンなど)の任意の組み合わせを含んでいる。この明細書では、“ヌクレオシド”という用語には、ヌクレオチド、ヌクレオシド、ヌクレオチド類似体、修飾されたヌクレオシド(アミノ修飾されたヌクレオシド)が含まれる。“ヌクレオシド”にはさらに、天然には存在しない類似体構造も含まれる。したがって、例えばペプチド核酸の個々のユニットは、それぞれ塩基を1つ含んでおり、この明細書ではヌクレオシドと呼ばれる。
【0035】
異なった発現をする配列は、この明細書に示したように、まず最初に、核酸配列および/またはアミノ酸配列が、異なった発現をする配列と実質的に相同であることを明らかにすることによって同定可能である。このような相同性は、核酸配列全体またはアミノ酸配列全体に基づいており、後述の相同性プログラムまたはハイブリダイゼーション条件を利用して明らかにすることができる。
【0036】
異なった発現をする本発明の配列は、以下のようにして同定することができる。正常組織と腫瘍組織からのサンプルを、核酸プローブを含むバイオチップに付着させる。サンプルは、まず最初に、可能であるならば顕微解剖し、mRNAの調製に関して知られているようにして処理する。適切なバイオチップが、例えばアフィメトリックス社から入手可能である。この明細書で説明したような遺伝子発現プロファイルを取得し、データを分析する。
【0037】
好ましい一実施態様では、正常状態と疾患状態で発現が異なる遺伝子を、他の正常な組織(例えば、肺、心臓、脳、肝臓、乳房、腎臓、筋肉、前立腺、小腸、大腸、脾臓、骨、胎盤など)で発現する遺伝子と比較する。好ましい一実施態様では、ガンのスクリーニング中に同定されても他の組織で大量に発現している遺伝子はプロファイルから除く。しかし場合によってはこの操作が必要ないこともある。つまり薬剤のスクリーニングを行なうときには、起こりうる副作用を最小にするため、標的は疾患特異的であることが好ましい。
【0038】
好ましい一実施態様では、異なった発現をする配列は、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンにおいて上方調節された配列である。つまりこれらの遺伝子は、悪性腫瘍では正常な乳房組織や大腸組織におけるよりも多く発現している。この明細書で用いる“上方調節”は、少なくとも約50%の増加を意味するが、好ましいのは2倍の変化であり、より好ましいのは少なくとも約3倍の変化であり、少なくとも約5倍以上の変化がさらに好ましい。この明細書に現われる登録番号はすべてGenBank配列データベースに関するものであり、登録番号付きの配列は、参考として明らかな形でこの明細書に組み込まれているものとする。GenBankは当業者によく知られており、例えばBenson, DA他、Nucleic Acids Research、第26巻、1〜7ページ、1998年と、NCBIのウェブ・サイト(www.ncbi.nlm.nih.gov)を参照のこと。さらに、これら遺伝子が少量しか発現しないか、まったく発現しないのは、心臓、脳、肺、肝臓、腎臓、筋肉、膵臓、精巣、胃、小腸、脾臓であることがわかった。
【0039】
好ましい一実施態様では、CHA4が乳ガンにおいて上方調節されている。好ましい一実施態様では、CHA4および/またはCBK8が結腸直腸ガンにおいて上方調節されている。
【0040】
別の実施態様では、異なった発現をする配列は、乳ガンまたは結腸直腸ガンにおいて下方調節されている配列である。つまりこれらの遺伝子は、悪性腫瘍では正常な組織におけるよりも発現が少ない。この明細書で用いる“下方調節”は、少なくとも2倍の変化を意味するが、好ましいのは3倍の変化であり、少なくとも約5倍以上の変化がさらに好ましい。
【0041】
本発明の異なった発現をするタンパク質は、分泌タンパク質、膜貫通タンパク質、細胞内タンパク質に分類することができる。好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質は、細胞内タンパク質である。細胞内タンパク質は、細胞質および/または核に存在し、細胞膜と結合することができる。細胞内タンパク質は、細胞機能と複製のすべてに関係する(例えばシグナル伝達経路)。このようなタンパク質が異常に発現すると、細胞プロセスが上方調節または下方調節される。例えば多くの細胞内タンパク質が酵素活性を有する(例えば、プロテインキナーゼ活性、プロテインホスファターゼ活性、プロテアーゼ活性、ヌクレオチドシクラーゼ活性、ポリメラーゼ活性など)。細胞内タンパク質は、タンパク質複合体の構成に関係するドッキングタンパク質として、あるいは細胞以下のサイズのさまざまな場所に対する標的タンパク質としても機能し、オルガネラの構造を完全な状態に維持するのに関係している。
【0042】
細胞内タンパク質の特徴を明確にする上でますます評価されている考え方は、タンパク質の中に機能が明らかになっている1つ以上のモチーフが存在しているという考え方である。タンパク質の酵素ドメインに見られる非常によく保存された配列に加え、タンパク質−タンパク質相互作用に関係する非常によく保存された配列がタンパク質中で同定されている。例えばSrc−ホモロジー−2(SH2)ドメインは、配列に依存した形でチロシンリン酸化標的と結合する。SH2ドメインとは明確に異なるPTBドメインもチロシンリン酸化標的と結合する。SH3ドメインは、プロリンが豊富な標的と結合する。さらにほんの少数の例を挙げると、PHドメイン、テトラトリコペプチド・リピート、WDドメインが、タンパク質−タンパク質相互作用を媒介することがわかっている。これらのうちのいくつかは、リン脂質またはそれ以外の二次メッセンジャーとの結合にも関係している可能性がある。いくつかの細胞骨格関連タンパク質がモチーフをいくつか含んでいることがわかった。例えばバンド4.1ドメインが、細胞膜と細胞骨格の境界におけるタンパク質同士の結合と関係する多数のタンパク質において同定されている(Rees他、Nature、第347巻、685〜689ページ、1990年;Funayama他、J. Cell Biol.、第115巻、1039〜1048ページ、1991年;Takeuchi他、J. Cell Sci.、第107巻、1921〜1928ページ、1994年を参照のこと)。バンド4.1ドメインを含むタンパク質としては、バンド4.1、エズリン、モエシン、ラディキシン、テーリン、フィロポジン、メルリンが挙げられる。これらはすべて、細胞骨格タンパク質と結合することが知られているか、あるいは細胞骨格タンパク質と結合すると推定されており、これらのうちの多くのものは、細胞の運動性と関係している。いくつかのプロテインチロシンホスファターゼ(例えばPTPN3、PTPN4、PTPN14、PTP−D1、PTP−RL10、PTP2E)も、バンド4.1モチーフを含んでいる。細胞骨格の構成成分であるタンパク質、または細胞内シグナル伝達に関係するタンパク質にしばしば見られる別のモチーフは、プレクストリン相同(PH)ドメインである(Mayer他、Cell、第73巻、629〜630ページ、1993年;Haslam他、Nature、第363巻、309〜310ページ、1993年;Musacchio他、Trends Biochem. Sci.、第18巻、343〜353ページ、1994年;Pawson、Nature、第373巻、573〜580ページ、1995年;Ingley他、J. Cell Biochem.、第56巻、436〜443ページ、1994年;Saraste他、Curr. Oipn. Struct. Biol.、第5巻、403〜408ページ、1995年;Riddihough、Nat. Struct. Biol.、第1巻、755〜757ページ、1994年を参照のこと)。少なくとも1つのPHドメインを有することがわかっているタンパク質としては、プレクストリン、セリン/トレオニンプロテインキナーゼ(Act/Racファミリー;β−アドレナリン受容体キナーゼ)、チロシンプロテインキナーゼ(Btk/Itk/Tecサブファミリー)、インスリン受容体基質1、低分子量Gタンパク質のレギュレータ(グアニンヌクレオチド放出因子、グアニンヌクレオチド交換タンパク質、GTPアーゼ活性化タンパク質)、細胞骨格タンパク質(ダイナミン、スペクトリンβ鎖、シントロフィン)、哺乳類のホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼC、オキシステロール結合タンパク質(OSDBP、OSH1、YHR073w)、マウスのタンパク質であるシトロン(rho/racエフェクターであると推定されている)が挙げられる。PHドメインの推定機能としては、Gタンパク質への結合、脂質の結合、リン酸化されたセリン/チロシン残基への結合、未知のメカニズムによる膜への付着などが提案されている。
【0043】
当業者であればわかるように、一次配列に基づいて特別なモチーフを同定することができる。したがってタンパク質の配列を分析すると、分子の酵素としての能力、および/またはそのタンパク質が結合することのできる分子に関する見通しが得られる。
【0044】
好ましい一実施態様では、CBK8は細胞内タンパク質である。好ましい一実施態様では、CBK8は、このタンパク質が発現する細胞の細胞膜および/または細胞骨格と関係している。一実施態様では、CBK8は細胞内シグナル伝達に関係している。
【0045】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質は膜貫通タンパク質である。膜貫通タンパク質は、細胞のリン脂質二重層を貫通する分子であり、細胞内ドメインと細胞外ドメインのいずれかまたは両方を備えている。このようなタンパク質の細胞内ドメインは多数の機能(例えば、細胞内タンパク質に関してすでに説明した機能)を持っている。例えば細胞内ドメインは、酵素活性を持つこと、および/または別のタンパク質に対する結合部位として機能することができる。膜貫通タンパク質の細胞内ドメインは両方の機能を持つことがしばしばある。例えばいくつかの受容体チロシンキナーゼは、プロテインキナーゼ活性とSH2ドメインの両方を備えている。さらに、受容体分子そのものにおけるチロシンの自己リン酸化により、SH2ドメインを有する別のタンパク質に対する結合部位が作り出される。
【0046】
膜貫通タンパク質は、1つ〜多数の膜貫通ドメインを持つことができる。例えば受容体チロシンキナーゼ、いくつかのサイトカイン受容体、受容体グアニリルシクラーゼ、受容体セリン/トレオニンプロテインキナーゼは、膜貫通ドメインを1つだけ備えている。しかしチャネルを有する他のさまざまなタンパク質とアデニリルシクラーゼは、多数の膜貫通ドメインを備えている。細胞表面の重要な多くの受容体は、“7回膜貫通ドメイン”タンパク質に分類される。というのも、膜を貫通している領域が7つあるからである。重要な膜貫通タンパク質受容体としては、インスリン受容体、インスリン様増殖因子受容体、ヒト成長ホルモン受容体、グルコース輸送体、トランスフェリン受容体、上皮増殖因子受容体、低密度リポタンパク質受容体、上皮増殖因子受容体、レプチン受容体、インターロイキン受容体(例えばIL−1受容体、IL−2受容体など)などが挙げられる。
【0047】
膜貫通ドメインの特徴としては、疎水性アミノ酸が約20個連続した後に電荷を持ったアミノ酸が来ることが挙げられる。したがって、特定のタンパク質のアミノ酸配列を分析する場合には、そのタンパク質の中にある膜貫通ドメインの位置と数を予測するとよい。
【0048】
膜貫通タンパク質の細胞外ドメインはさまざまである。しかし保存されたモチーフが、さまざまな細胞外ドメインに繰り返し見られる。保存された構造および/または機能は、さまざまな細胞外モチーフが原因であるとされている。例えばサイトカイン受容体は、システインのクラスターとWSXWS(W=トリプトファン、S=セリン、X=任意のアミノ酸)モチーフ(配列ID番号12)を特徴としている。免疫グロブリン様ドメインは、非常によく保存されている。ムチン様ドメインは細胞の接着に関係し、ロイシンを豊富に含む繰り返しはタンパク質−タンパク質相互作用と関係している。
【0049】
多くの細胞外ドメインは、他の分子との結合に関係している。一実施態様では、細胞外ドメインは受容体である。受容体ドメインと結合する因子としては、ペプチド、タンパク質、小分子(例えばアデノシン)などの循環しているリガンドが挙げられる。例えばEGF、FGF、PDGFといった増殖因子は循環している増殖因子であり、対応するコグネイト受容体と結合してさまざまな細胞応答を開始させる。これ以外の因子としては、サイトカイン、マイトジェン因子、神経栄養因子などが挙げられる。細胞外ドメインは細胞関連分子とも結合し、細胞−細胞相互作用を媒介する。細胞関連リガンドは、例えばグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカーを通じて細胞に固着させることができる。あるいは細胞関連リガンドそのものが膜貫通タンパク質であってもよい。細胞外ドメインは細胞外マトリックスとも結合し、細胞構造の維持に貢献する。
【0050】
異なった発現をする膜貫通タンパク質が本発明では特に好ましい。というのも、この明細書で説明したように、免疫療法のよい標的だからである。さらに、以下に説明するように、膜貫通タンパク質は画像化にも都合がよい。
【0051】
当業者であれば、膜貫通タンパク質は、例えば組み換え法を利用して膜貫通配列を除去することによって可溶化できることがわかるであろう。さらに、可溶化した膜貫通タンパク質は、組み換え法で適切なシグナル配列を付加することによって分泌可能にもできる。
【0052】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質は分泌タンパク質である。このタンパク質の分泌は、連続的にすること、あるいは制御することができる。分泌タンパク質は、分泌経路に送る分子を標的としたシグナル・ペプチドまたはシグナル配列を備えている。分泌タンパク質は、多くの生理的イベントに関係している。分泌タンパク質は循環するという性質があるため、シグナルを他のさまざまなタイプの細胞に伝えるという機能を有する。分泌タンパク質は、自己分泌方式(その因子を分泌する細胞に作用する)、またはパラ分泌方式(その因子を分泌する細胞の近傍にある細胞に作用する)、または内分泌方式(遠方の細胞に作用する)で作用する。したがって分泌された分子は、生理学的な多数の側面を調節したり変化させたりするのに使用される。本発明では、異なった発現をする分泌タンパク質が特に好ましい。というのも、例えば血液検査用の診断マーカーにとってのよい標的になるからである。
【0053】
好ましい一実施態様では、CHA4は分泌タンパク質である。
【0054】
異なった発現をする配列の同定は、この明細書に説明したように、まず最初に、核酸配列および/またはアミノ酸配列が、異なった発現をするこの配列と実質的に相同であることを明らかにすることによって行なう。このような相同性は、核酸配列全体またはアミノ酸配列全体に基づいており、一般に、後述する相同性プログラムまたはハイブリダイゼーション条件を利用して明らかにすることができる。
【0055】
この明細書では、核酸配列が“異なった発現をする核酸”であるのは、その核酸配列が、図に示したアミノ酸配列をコードしている核酸配列と好ましくは約75%以上相同になっている場合である。相同性は約80%以上であることがより好ましく、約85%以上であることがさらに好ましく、90%以上になっていることが最も好ましい。場合によっては、相同性が約93〜95%、あるいは98%にもなろう。この明細書での相同性とは、配列が類似していること、あるいは一致していることを意味するが、好ましいのは一致していることである。相同性を調べるための比較として好ましいのは、シークエンシングの間違いを含む配列を正しい配列と比較することである。この相同性は、従来技術で知られている標準的な方法を利用して明らかにすることができよう。利用できる方法としては、例えば、スミスとウォーターマンの局所的相同性アルゴリズム(Adv. Appl. Math.、第2巻、482ページ、1981年)、ニードルマンとヴュンシュの相同性アラインメント・アルゴリズム(J. Mol. Biol.、第48巻、443ページ、1970年)、ピアソンとリップマンの類似性検索(PNAS USA、第85巻、2444ページ、1988年)、これらアルゴリズムをコンピュータ化した方法(ウィスコンシン遺伝学ソフトウエア・パッケージに含まれるGAP、BESTFIT、FASTA、TFASTA、遺伝学コンピュータ・グループ、575 サイエンス・ドライブ、マディソン、ウィスコンシン州)、ドゥヴルーらによるベスト・フィット配列プログラム(Nucl. Acid Res.、第12巻、387〜395ページ、1984年)が挙げられる。これらの方法は、デフォルトの設定で、あるいは調べた上で使用することが好ましい。
【0056】
好ましい一実施態様では、配列の一致または類似性を明らかにするのに使用する配列は、図に示した配列の中から選択する。一実施態様では、この明細書で使用する配列は、図に示した配列である。別の実施態様では、配列は、図に示した配列に関する天然の対立遺伝子変異体である。別の実施態様では、配列は後出の変異配列である。
【0057】
有用なアルゴリズムの一例はPILEUPである。PILEUPは、逐次的なペア方式のアラインメントを利用し、互いに関連した配列群の中から多数の配列アラインメントを作り出すことができる。PILEUPは、このアラインメントを作るのに利用したクラスター型の関係を示すツリーを描くこともできる。PILEUPは、FengとDoolittle、J. Mol. Evol.、第35巻、351〜360ページ、1987年の逐次的アラインメント法を簡単化したものを利用しており、HigginsとSharp、CABIOS、第5巻、151〜153ページ、1989年に記載されているのと似た方法である。PILEUPにおいて有用なパラメータとしては、デフォルトでのギャップの重み3.00、デフォルトでのギャップ長0.10、重みが付いた末端のギャップが挙げられる。
【0058】
有用なアルゴリズムの一例はBLASTアルゴリズムある。これについては、Altschul他、J. Mol. Biol.、第215巻、403〜410ページ、1990年と、Karlin他、PNAS USA、第90巻、5873〜5787ページ、1993年に記載されている。特に有用なBLASTプログラムはWU−BLAST−2プログラムであり、Altschul他、Methods in Enzymology、第266巻、460〜480ページ、1996年から得られた。WU−BLAST−2では検索パラメータがいくつか用いられている。そのうちのほとんどはデフォルト値に設定されている。調整可能なパラメータは、以下の値に設定する。重複範囲=1、重複部分=0.125、ワードの閾値(T)=11。HSP SパラメータとHSP S2パラメータは動的な値であり、個々の配列の構成と、興味の対象となる配列の検索を行なう個々のデータベースの構成とに応じてプログラムそのものによって決定される。しかし数値は感度が大きくなるように調節することができる。アミノ酸配列の一致度を%で表わした数値は、一致した残基の数を、アラインメントを行なった領域における“長い”配列に含まれる残基の総数で割ることによって得られる。“長い”配列は、アラインメントを行なった領域において本物に最も近い残基を有する配列である(アラインメント得点を最大にするためにWU−BLAST−2によって導入されるギャップは無視する)。
【0059】
したがって、“核酸配列の一致率(%)”は、候補配列中で図1(配列ID番号8)または図4(配列ID番号9)のヌクレオチド残基と一致するヌクレオチド残基の割合として定義される。好ましい方法では、WU−BLAST−2のBLASTNモジュールをパラメータに関して重複範囲=1、重複部分=0.125というデフォルト値に設定して用いる。
【0060】
アラインメント操作には、アラインメントを行なう配列にギャップを導入する操作も含まれる。さらに、図に示したよりもヌクレオシドの数が多かったり少なかったりする配列の場合には、相同性の程度は、ヌクレオシドの総数に対する相同なヌクレオシドの数をもとにして決めることになろう。したがって、例えばこの明細書で同定した配列よりも短い配列の相同性は、後述するように、そのより短い配列のヌクレオシド数を利用して決定することになろう。
【0061】
一実施態様では、核酸の相同性は、ハイブリダイゼーションを行なうことによって明らかにする。したがって、例えば図に示したペプチドをコードしている核酸配列またはその相補配列と厳しい条件下でハイブリダイズする核酸は、異なった発現をする配列と見なされる。厳しい条件は、従来技術において公知である。例えば、Maniatis他、『分子クローニング:実験室マニュアル』、第2版、1989年;SambrookとRussell、『分子クローニング:実験室マニュアル』、第3版、2001年;『分子生物学における簡単なプロトコル』、第3版(Ausbel他編)、1995年を参照のこと。なおそれぞれの文献の内容は、参考としてこの明細書に組み込まれているものとする。厳しい条件は配列によって異なるし、環境によっても異なるであろう。より長い配列は、より高温で特異的にハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションに関する包括的なガイドは、Tijssenによる『生化学と分子生物学における技術−核酸プローブとのハイブリダイゼーション』の「ハイブリダイゼーションの原理と核酸アッセイ戦略に関する概説」(1993年)にある。一般に、厳しい条件は、所定のイオン強度(pH)において特定の配列の融点(Tm)よりも約5〜10℃低くなるように選択する。Tmは、標的配列と相補的なプローブが平衡状態において標的配列と(所定のイオン強度(pH)と核酸濃度において)50%ハイブリダイズする温度である(標的配列は過剰に存在しているため、平衡状態においてTmではプローブの50%が占有される)。厳しい条件は、pHが7.0〜8.3のときに塩の濃度がナトリウム・イオン(または他の塩)の濃度にして約1.0M未満、典型的には約0.01〜1.0Mであり、温度が、短いプローブ(例えばヌクレオチドが10〜50個)に対しては少なくとも約30℃、長いプローブ(例えばヌクレオチドが50個超)に対しては少なくとも約60℃という条件になろう。厳しい条件は、ホルムアミドなどの不安定化剤を添加することによっても実現できる。
【0062】
厳しさの程度は、例えば、核酸配列が結合する複合体またはプローブの融点(Tm)の計算(推定)値を基準にして決めることができる。Tmの計算は、従来技術で周知である(例えば下記Sambrook(1989年)の9.50〜9.51ページを参照のこと)。例えば“最高に厳しい条件”は、一般に、ほぼTm−5℃(プローブのTmよりも5℃低い)ときに実現する。“厳しい条件”は、Tmよりも約5〜10℃低いときに、“中程度に厳しい条件”は、プローブのTmよりも約10〜20℃低いときに、“厳しさが弱い条件”は、プローブのTmよりも約20〜25℃低いときに実現する。一般に、ハイブリダイゼーションは、大きなイオン強度条件(例えば6×SSCまたは6×SSPE)のもとで実施される。厳しい条件下では、ハイブリダイゼーションの後に、計算された温度において低濃度の塩溶液(例えば0.5×SSC)で2回洗浄を行なう。中程度に厳しい条件下では、ハイブリダイゼーションの後に、中濃度の塩溶液(例えば2×SSC)で2回洗浄を行なう。厳しさが弱い条件下では、ハイブリダイゼーションの後に、高濃度の塩溶液(例えば6×SSC)で2回洗浄を行なう。
【0063】
別の実施態様では、より厳しくない条件でのハイブリダイゼーションが利用される。従来技術で知られているように、例えば中程度に厳しい条件または厳しさが弱い条件を利用することができる。これについてはManiatis(前掲文献)、Sambrook(前掲文献)、Ausbel(前掲文献)、Tijssen(前掲文献)を参照のこと。
【0064】
さらに、異なった発現をする本発明の核酸配列は、より大きな遺伝子の断片である(すなわち核酸セグメントである)。この明細書における“遺伝子”には、コード領域、非コード領域、コード領域とコード領域の混合が含まれる。したがって当業者であればわかるように、この明細書に記載した配列を用い、長い配列または完全長配列をクローニングする周知の従来技術を利用することにより、異なった発現をする遺伝子の別の配列を得ることができる。Maniatis他(前掲文献)、SambrookとRussell(前掲文献)、Ausbel他(前掲文献)を参照のこと。なおこれらの文献は、参考としてこの明細書に内容が組み込まれているものとする。
【0065】
異なった発現をする核酸が同定されると、それをクローニングし、必要に応じてその成分を組み合わせて異なった発現をする核酸の全体を形成することができる。異なった発現をする組み換え核酸は、天然の供給源から単離されて例えばプラスミドまたは他のベクターに含まれた状態になるか、あるいはそこから直線状の核酸セグメントとして切り出された状態になると、それをさらにプローブとして利用して異なった発現をする他の核酸(例えば追加のコード領域)を同定し、単離することができる。異なった発現をする組み換え核酸を“前躯体”核酸として利用し、異なった発現をする修飾された核酸とタンパク質、あるいはこれらの変異体を作ることもできる。
【0066】
異なった発現をする本発明の核酸配列は、いくつかの用途に使用される。第1の実施態様では、異なった発現をする核酸に対する核酸プローブを作り、後述のようにしてスクリーニングや診断を行なうためにバイオチップに付着させたり、例えば遺伝子治療および/またはアンチセンス法において投与したりする。また、異なった発現をするタンパク質のコード領域を含む異なった発現をする核酸を、異なった発現をするタンパク質を発現させるための発現ベクターに組み込み、やはりスクリーニングに使用したり患者に投与したりすることもできる。
【0067】
好ましい一実施態様では、異なった発現をする核酸(図に示したペプチドをコードしている核酸配列および/またはその相補配列の両方)に対する核酸プローブを作る。バイオチップに付着させる核酸プローブは、異なった発現をする核酸、すなわち標的配列(サンプルの標的配列、または例えばサンドイッチ・アッセイにおける他のプローブ配列)と実質的に相補的になるように設計し、標的配列と本発明のプローブの間でハイブリダイゼーションが起こるようにする。後述するように、この相補性が完全である必要はない。標的配列と本発明による一本鎖核酸の間のハイブリダイゼーションを妨げる塩基対のミスマッチはいくつ存在していてもよい。しかし最も弱いハイブリダイゼーション条件でさえハイブリダイゼーションが起こらないほど突然変異の数が多い場合には、配列は相補的な標的配列ではない。したがって、“実質的に相補的”とは、この明細書では、プローブが標的配列と十分に相補的になっていて、普通の反応条件でハイブリダイズすること、中でもこの明細書で説明した非常に厳しい条件でハイブリダイズすることを意味する。
【0068】
核酸プローブは一般に一本鎖であるが、一部が一本鎖で別の一部が二本鎖というようにすることもできる。プローブの鎖の数は、標的配列の構造、組成、性質によって決まる。一般に、核酸プローブは長さが約8〜100塩基であるが、約10〜約80塩基であることが好ましく、約30〜約50塩基であることが特に好ましい。すなわち、一般に遺伝子の全体が使用されることはない。場合によっては、より長い数百塩基にも達する核酸を使用することができる。
【0069】
好ましい一実施態様では、1つの配列について2つ以上のプローブを使用する。その場合、互いに重なったプローブにしてもよいし、使用する標的の異なる区画に対するプローブにしてもよい。すなわち、2つ、3つ、4つ、あるいはそれ以上のプローブを使用し(3つが好ましい)、特定の標的に対する冗長度を組み込む。プローブは、互いに重なって(すなわち配列の一部が共通して)いてもよいし、分離していてもよい。
【0070】
当業者であればわかるように、核酸はさまざまな方法で固体支持体に付着または固定化することができる。“固定化された”、あるいはこれと文法的に等価な表現は、この明細書では、後で説明するように、核酸プローブと固体支持体の間の結合が、結合、洗浄、分析、除去を行なう条件下で十分に安定であることを意味する。結合は、共有結合でも非共有結合でもよい。“非共有結合”、あるいはこれと文法的に等価な表現は、この明細書では、静電相互作用、親水性相互作用、疎水性相互作用のいずれか1つ以上によって結合していることを意味する。非共有結合には、ストレプトアビジンなどの分子が支持体に共有結合することや、ビオチニル化されたプローブがストレプトアビジンに非共有結合することが含まれる。“共有結合”、あるいはこれと文法的に等価な表現は、この明細書では、2つの部分(固体支持体とプローブ)が、少なくとも1つの結合(例えばσ結合、π結合、配位結合)によって結合していることを意味する。共有結合は、プローブと固体支持体の間に直接形成することや、固体支持体とプローブのいずれかまたは両方に架橋用リンカーまたは特定の反応基を導入することによって形成することができる。固定化には、共有相互作用と非共有相互作用の組み合わせも含まれる。
【0071】
一般に、プローブは、さまざまな方法でバイオチップに付着させる。この明細書で説明したように、核酸をまず最初に合成してからバイオチップに付着させることと、核酸をバイオチップ上に直接合成することのいずれもが可能である。
【0072】
バイオチップは、適切な固体基板を備えている。この明細書における“基板”または“固体支持体”または文法的に等価な他の表現は、この明細書では、核酸プローブを付着または結合させるのに適した別々の複数の部位を含むように修飾することができ、しかも少なくとも1つの検出法を実行しやすい任意の材料を意味する。当業者であればわかるように、可能な基板は多数あり、例えば、ガラス、修飾されたガラス、機能化されたガラス、プラスチック(アクリル樹脂、ポリスチレン、スチレンとそれ以外の材料のコポリマー、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブチレン、ポリウレタン、テフロンJなど)、多糖、ナイロン、ニトロセルロース、樹脂、シリカ、シリカをベースとした材料(例えばケイ素、修飾したケイ素)、炭素、金属、無機ガラス、プラスチックなどが挙げられる。一般に、基板によって光学的検出が可能になるが、基板が顕著に蛍光発光することはない。好ましい基板はPCT出願であるWO 00/55621に記載されており、その内容の全体が参考としてこの明細書に組み込まれているものとする。
【0073】
一般に基板は平坦であるが、当業者であればわかるように、他の構成になった基板を用いることもできる。例えば通過式サンプルを分析する場合には、サンプルの体積を最小にするため、プローブを試験管表面の内側に設置することができる。同様に、基板は可撓性のあるものでもよい。例えば可撓性発泡材である、特定のプラスチックでできた閉鎖セル式の発泡材が挙げられる。
【0074】
好ましい一実施態様では、バイオチップとプローブの表面を官能基で誘導体化して両者を結合することができる。したがって、例えばバイオチップを官能基で誘導体化する。使用する官能基としては、アミノ基、カルボキシル基、オキソ基、チオール基などが挙げられるが、アミノ基が特に好ましい。こうした官能基を用いることにより、プローブをバイオチップと結合することができる。例えばアミノ基を含む核酸は、例えば公知のリンカーを用いてアミノ基を含む表面に付着させることができる。リンカーとしては、例えばホモ二官能リンカーまたはヘテロ二官能リンカーがよく知られている(1994ピアース・ケミカル社のカタログの架橋用リンカーに関する技術のセクション、155〜200ページを参照のこと。なおその内容が、参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)。さらに、場合によっては、アルキル基(置換されたアルキル基やヘテロアルキル基も含む)などの追加のリンカーを使用することもできる。
【0075】
この実施態様では、オリゴヌクレオチドを公知の方法で合成した後、固体支持体の表面に付着させる。当業者であればわかるように、5’末端または3’末端のいずれかを固体支持体に付着させることや、内部のヌクレオシドを介して付着させることが可能である。
【0076】
別の実施態様では、固体支持体への固定化は、非共有結合でありながら非常に強力なものにすることができる。例えばビオチニル化されたオリゴヌクレオチドを作り、それを、共有結合によってストレプトアビジンでコーティングされた表面に結合させると付着が完成する。
【0077】
オリゴヌクレオチドは、公知のように表面に合成することもできる。例えば、光重合化合物と光重合技術を利用した光活性化技術を利用する。好ましい一実施態様では、よく知られたフォトリソグラフィ法を利用して核酸をその場で合成することができる。フォトリソグラフィ法に関しては、WO 95/25116;WO 95/35505;アメリカ合衆国特許第5,700,637号、第5,445,934号と、これらの中に引用されている参考文献に記載されており、これらすべての文献が、参考としてこの明細書にあからさまな形で組み込まれているものとする。このような付着法は、アフィメトリックス・ジーンチップ(登録商標)技術の基礎となっている。
【0078】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質をコードしている異なった発現をする核酸を用いてさまざまな発現ベクターを構成し、異なった発現をするタンパク質を発現させる。すると、後述するように、このタンパク質を用いてスクリーニング・アッセイを行なうことができる。発現ベクターは、自己複製染色体外ベクター、または宿主のゲノムと一体化するベクターのいずれかにすることができる。一般に、これら発現ベクターは、異なった発現をするタンパク質をコードしている核酸と機能上関連した、転写と翻訳を調節する核酸を含んでいる。“制御配列”という用語は、特定の宿主内で機能上関連したコード配列の発現に必要なDNA配列のことを意味する。原核生物に適した制御配列としては、プロモータ、オペレータ配列(オプション)、リボソーム結合部位が挙げられる。真核細胞では、プロモータ、ポリアデニル化シグナル、エンハンサーが利用されていることが知られている。
【0079】
核酸は、他の核酸配列と機能的関連性があるようにされているとき、“機能上関連している”。例えばプレ配列または分泌リーダーのためのDNAがポリペプチドのためのDNAと機能上関連しているのは、前者のDNAがそのポリペプチドの分泌に関与するタンパク質として発現する場合である。また、プロモータまたはエンハンサーがコード配列と機能上関連しているのは、そのプロモータまたはエンハンサーがその配列の転写に影響を与える場合である。リボソーム結合部位がコード配列と機能上関連しているのは、そのリボソーム結合部位が翻訳を容易にする位置に存在している場合である。一般に“機能上関連している”とは、結合されるDNA配列が隣接していることを意味する。なお分泌リーダーの場合の“機能上関連している”とは、結合されるDNA配列が隣接していて、しかも読み取り相にあることである。しかしエンハンサーは、隣接している必要はない。結合は、適切な制限部位において連結によって実現する。そのような部位が存在していない場合には、合成オリゴヌクレオチド・アダプタまたはリンカーを従来法に従って用いる。転写と翻訳を調節する核酸は、一般に、異なった発現をするタンパク質を発現させるのに用いる宿主細胞にとって適切なものにする。例えば、バチルスに由来する転写と翻訳を調節する核酸は、バチルス内で異なった発現をするタンパク質を発現させるのに用いることが好ましい。さまざまな宿主細胞について、いろいろなタイプの適切な発現ベクターと適切な制御配列が知られている。
【0080】
一般に、転写と翻訳を調節する配列としては、プロモータ配列、リボソーム結合部位、転写開始配列と転写停止配列、翻訳開始配列と翻訳停止配列、エンハンサー配列またはアクティベータ配列などが挙げられる。好ましい一実施態様では、調節配列として、プロモータと、転写開始配列および転写停止配列が挙げられる。
【0081】
プロモータ配列は、構成的プロモータまたは誘導的プロモータをコードしている。プロモータとしては、天然のプロモータまたはハイブリッド・プロモータが可能である。ハイブリッド・プロモータは、2つ以上のプロモータの要素を組み合わせたものであり、従来技術でも知られている。ハイブリッド・プロモータは、本発明において役立つ。
【0082】
以上に加え、発現ベクターはさらに別の要素を含むことができる。例えば発現ベクターは、2つの複製系を持つようにすることができる。すると発現ベクターを2種類の生物(例えば発現用の哺乳類または昆虫の細胞と、クローニングと増幅用の原核生物の宿主)の中に保持することが可能になる。さらに、発現ベクターを一体化するため、発現ベクターは、宿主細胞のゲノムと相同な少なくとも1つの配列、好ましくは発現構造体に隣接する2つの相同な配列を含んでいる。一体化用ベクターは、そのベクターに組み込む適切な相同配列を選択することにより宿主細胞の特定の遺伝子座へと向かわせることができる。一体化用ベクターのための構造体は、従来技術において周知である。
【0083】
さらに、好ましい一実施態様では、発現ベクターは、形質転換された宿主細胞の選択を可能にする選択マーカー遺伝子を含んでいる。選択マーカー遺伝子は従来技術において周知であり、使用する宿主細胞が何であるかに応じて異なることになろう。
【0084】
異なった発現をする本発明のタンパク質は、異なった発現をするタンパク質をコードしている核酸を含む発現ベクターを用いて形質転換した宿主細胞を、異なった発現をするタンパク質の発現を誘導または惹起する適切な条件下で培養することによって産生される。異なった発現をするタンパク質の発現に適切な条件は、発現ベクターと宿主細胞に何を選択するかによって異なるが、当業者であれば定型的な実験によって容易に確認することができよう。例えば発現ベクター内で構成的プロモータを使用する場合には、宿主細胞の成長と増殖を最適化する必要があるのに対し、誘導的プロモータを使用する場合には、誘導のための適切な成長条件が必要となる。さらに、場合によっては、回収の時期が重要になる。例えば昆虫細胞の発現で使用されるバキュロウイルス系は溶解性ウイルスであるため、回収時期の選択が産物の収量にとって非常に重要になる可能性がある。
【0085】
適切な宿主細胞としては、酵母、細菌、古細菌、菌類、昆虫の細胞、動物の細胞(哺乳類の細胞を含む)が挙げられる。特に興味深いのは、キイロショウジョウバエの細胞、サッカロミセス・セレビジエその他の酵母、大腸菌、枯草菌、Sf9細胞、C129細胞、293細胞、ニューロスポラ、BHK、CHO、COS、ヒーラ細胞、THP1細胞系(マクロファージ細胞系)、ヒトの細胞と細胞系である。
【0086】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質は、哺乳類の細胞で発現する。哺乳類の発現系も従来技術で知られており、その中に例えばレトロウイルス系が含まれる。好ましい発現ベクター系はレトロウイルス・ベクター系であり、例えばPCT/US97/01019とPCT/US97/01048にその概略が記載されている。これら2つの文献は、その内容が参考としてあからさまな形でこの明細書に組み込まれているものとする。哺乳類のプロモータとして特によく使用されるのが、哺乳類のウイルス遺伝子からのプロモータである。というのも、ウイルス遺伝子は高度に発現することがしばしばあり、しかも宿主の幅が広いからである。具体的には、SV40初期プロモータ、マウス哺乳類腫瘍ウイルスLTRプロモータ、アデノウイルス主要後期プロモータ、単純ヘルペス・ウイルス・プロモータ、CMVプロモータなどが挙げられる。一般に、哺乳類の細胞が認識する転写終了とポリアデニル化の配列は、翻訳停止コドンの3’側に位置する調節領域であり、プロモータ要素と合わさってコード配列に隣接している。転写ターミネータとポリアデニル化シグナルの具体例として、SV40に由来するものが挙げられる。
【0087】
外来性核酸を哺乳類の宿主やそれ以外の宿主に導入する方法は従来技術において周知であり、使用する宿主細胞によって異なるであろう。方法としては、デキストランを媒介としたトランスフェクション、リン酸カルシウム沈殿法、ポリブレンを媒介としたトランスフェクション、プロトプラスト融合法、電気穿孔法、ウイルス感染法、リポソームの中にポリヌクレオチドをカプセル化する方法、DNAを核の中に直接微量注入する方法などがある。
【0088】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質は、細菌系で発現する。細菌発現系は従来技術において周知である。バクテリオファージに由来するプロモータを使用することもできる。このようなプロモータは周知である。さらに、合成プロモータやハイブリッド・プロモータも有用である。例えばtacプロモータは、trpプロモータ配列とlacプロモータ配列のハイブリッドである。さらに、細菌のプロモータとして、細菌のRNAポリメラーゼと結合して転写を開始させることのできる、細菌に由来しない天然のプロモータが挙げられる。機能するプロモータ配列に加え、効果的なリボソーム結合部位も存在していることが望ましい。発現ベクターは、異なった発現をするタンパク質を細菌の内部に分泌させるシグナル・ペプチド配列も含むことができる。タンパク質は、増殖培地(グラム陽性細菌)の中に、あるいは細胞の内膜と外膜の間に位置する細胞周辺腔(グラム陰性細菌)に分泌される。細菌発現ベクターは、形質転換された細菌株の選択を可能にする選択マーカー遺伝子も含むことができる。適切な選択遺伝子としては、アンピシリン、クロラムフェニコール、エリスロマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、テトラサイクリンなどの薬剤に対する耐性を細菌に持たせる遺伝子が挙げられる。選択マーカーとしては、生合成遺伝子(例えば、ヒスチジン、トリプトファン、ロイシンの生合成経路における遺伝子)も挙げられる。これらの要素が発現ベクターに組み込まれる。細菌用の発現ベクターは従来技術において周知であり、具体的には枯草菌、大腸菌、ストレプトコッカス・クレモリス、ストレプトコッカス・リヴィダンスなどのためのベクターが挙げられる。細菌用の発現ベクターは、従来技術において周知の方法(塩化カルシウム処理、電気穿孔など)を用いて細菌宿主細胞に組み込まれる。
【0089】
一実施態様では、異なった発現をするタンパク質は、昆虫細胞で産生される。昆虫細胞を形質転換するための発現ベクター、中でもバキュロウイルスをもとにした発現ベクターは、従来技術において周知である。
【0090】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質は、酵母で産生される。酵母発現ベクターは従来技術において周知であり、具体的にはサッカロミセス・セレビジエ、カンジダ・アルビカンス、カンジダ・マルトーサ、ハンセヌラ・ポリモルファ、クルイヴェロミセス・フラギリス、クルイヴェロミセス・ラクティス、ピキア・グイレリモンディイ、ピキア・パストリス、スキゾサッカロミセス・ポンベ、ヤロウィア・リポリティカなどのためのベクターが挙げられる。
【0091】
異なった発現をするタンパク質は、従来技術において周知の方法を用いて融合タンパク質として製造することもできる。例えばモノクローナル抗体を作るにあたって望むエピトープが小さい場合には、異なった発現をするタンパク質を担体タンパク質と融合させて免疫原を形成するとよい。また、異なった発現をするタンパク質は、発現を増大させるため、あるいはそれ以外の目的で融合タンパク質にすることもできる。例えば異なった発現をするタンパク質が異なった発現をするペプチドである場合には、発現を目的としてそのペプチドをコードしている核酸を他の核酸と連結するとよい。
【0092】
一実施態様では、異なった発現をする本発明の核酸、タンパク質、抗体を標識する。この明細書では、“標識した”とは、化合物が、その化合物の検出を可能にする少なくとも1つの要素、アイソトープ、化学物質のいずれかを備えていることを意味する。一般に、標識は以下の3種類に分類される。すなわち、a)アイソトープ標識(放射性同位体または重い同位体が可能);b)免疫標識(抗体または抗原が可能);c)着色染料または蛍光染料である。標識は、異なった発現をする核酸、タンパク質、抗体の任意の位置に組み込むことができる。標識は、例えば検出可能な信号を直接または間接に発生可能でなくてはならない。検出可能な部分は、放射性同位体(例えば3H、14C、32P、35S、125I)、蛍光化合物または化学発光化合物(例えばフルオレセイン・イソチオシアネート、ローダミン、ルシフェリン)、酵素(例えばアルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、セイヨウワサビのペルオキシダーゼ)にすることができる。抗体を標識と結合させるには、従来技術で知られている任意の方法を用いることができる。具体的には、Hunter他、Nature、第144巻、945ページ、1962年;David他、Biochemistry、第13巻、1014ページ、1974年;Pain他、J. Immunol. Meth.、第40巻、219ページ、1981年;Nygren、J. Histochem. and Cytochem.、第30巻、407ページ、1982年に記載されている方法が挙げられる。
【0093】
したがって本発明により、異なった発現をするタンパク質の配列も提供される。異なった発現をする本発明のタンパク質は、いくつかの方法で同定することができる。この明細書では、“タンパク質”は、タンパク質、ポリペプチド、ペプチドを意味する。当業者であればわかるように、本発明の核酸配列を用いてタンパク質配列を生み出すことができる。そのためにはさまざまな方法がある。例えば、遺伝子全体をクローニングする方法、遺伝子のフレームとアミノ酸配列を確認する方法、異なった発現をするタンパク質が使用しているデータベース中のあるタンパク質と相同性を有すると仮定し、そのタンパク質の配列を既知の配列と比較することにより相同性を探してフレームを見つける方法が挙げられる。一般に、核酸配列は、相同性を探すために3つのフレームをすべて検索するプログラムに入力する。これは、以下のNCBIアドバンストBLASTパラメータを用いた好ましい一実施態様においてなされる。プログラムはblastxまたはblastnである。データベースはnrである。入力データは“FASTA形式の配列”にする。生物リストは“none”にする。“expect”は10;フィルタはデフォルトにする。“descriptions”は500、“alignment”は500、“alignment view”はペアにする。“Query Genetic Codes”は標準(1)にする。マトリックスはBLOSUM62であり;ギャップ存在コストは11;残基1つ当たりのギャップコストは1;λ比はデフォルトの0.85にする。その結果、予想タンパク質配列が生成される。
【0094】
この明細書に示したように、天然配列のアミノ酸変異体も、異なった発現をするタンパク質の一実施態様として挙げられる。変異体は、野生型配列と約75%以上が相同であることが好ましく、より好ましいのは約80%以上が相同になっていることであり、それ以上に好ましいのは約85%以上が相同になっていることであり、最も好ましいのは約90%以上が相同になっていることである。いくつかの実施態様では、相同性が約93〜95%、さらには98%に達する。核酸に関する相同性とは、この明細書では、配列が類似または一致していることを意味するが、一致の意味であることが好ましい。この相同性は、核酸の相同性に関して上に説明したような従来技術における標準的な方法によって明らかにされる。
【0095】
異なった発現をする本発明のタンパク質は、野生型のアミノ酸配列よりも短くても長くてもよい。したがって好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質の定義に野生型配列の部分または断片が含まれる。さらに、上に説明したように、従来技術で知られている方法を利用し、異なった発現をする本発明の核酸を用いて追加コード領域を、したがって追加タンパク質配列を得ることができる。
【0096】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質は、野生型配列の誘導体または変異体になった、異なった発現をするタンパク質である。すなわち以下により詳しく説明するように、異なった発現をする誘導体ペプチドは、アミノ酸の置換、欠失、挿入のいずれかを少なくとも1つ含むことになる。ただし、置換、欠失、挿入の中では置換が特に好ましい。アミノ酸の置換、欠失、挿入は、異なった発現をするペプチドの任意の残基において起こる可能性がある。
【0097】
アミノ酸配列変異体も、異なった発現をする本発明のタンパク質の一実施態様に含まれる。これら変異体は、置換変異体、挿入変異体、欠失変異体という3つあるクラスの1つ以上に当てはまる。これら変異体は、通常は、カセット、PCR突然変異誘発、あるいはこれ以外で従来技術において周知の方法を利用することにより、異なった発現をするタンパク質をコードしているDNAの中のヌクレオチドに部位特異的突然変異誘発を起こさせてこの変異体をコードしているDNAを作り出した後、このDNAを上に説明した組み換え細胞の中で発現させることによって得る。しかし異なった発現をする変異体タンパク質の断片で残基の数が約100〜150個までのものは、確立された方法を利用してインビトロの合成によって作ることができる。アミノ酸配列変異体は、異なった発現をするタンパク質のアミノ酸配列に関する天然の対立遺伝子変異体または種間変異体とは異なった所定の性質を有することを特徴とする。一般に変異体は、天然に存在している類似体と定性的な生物活性が同じであるが、以下により詳しく説明するように、変化した特性を有する変異体を選択することもできる。
【0098】
アミノ酸配列に対する変異を導入するための部位または領域はあらかじめ決めておくが、突然変異そのものはあらかじめ決めておく必要はない。例えば所定の部位における突然変異の性能を最適化するためには、標的コドンまたは標的領域においてランダムな突然変異誘発を起こさせ、異なった発現をした変異体を、望ましい活性の最適な組み合わせに関してスクリーニングするとよい。既知の配列を有するDNAの所定の部位に置換突然変異を起こさせる方法は周知であり、例えばM13プライマー突然変異誘発やPCR突然変異誘発がある。突然変異体のスクリーニングは、異なった発現をするタンパク質の活性を調べるアッセイを利用して行なう。
【0099】
アミノ酸の置換は、一般には単一の残基において起こる。挿入は、通常は、アミノ酸約1〜20個のオーダーで起こる。しかしこれよりもはるかに大規模な挿入も許容される。欠失の範囲はアミノ酸約1〜20個であるが、場合によってはより大規模な欠失でもよい。
【0100】
置換、欠失、挿入、またはこれらの組み合わせを利用して最終的な誘導体を得ることができる。一般に、こうした変化は、分子の変化を最小にするために数個のアミノ酸においてだけ起こる。しかし場合によってはより大きな変化も可能である。異なった発現をするタンパク質の特性に小さな変化があることが望ましい場合、一般に以下の表に従って置換を導入する。
【表1】
【0101】
機能や免疫特性における実質的な変化は、表1に示した置換よりも保存性が小さい置換を選択することによって起こる。置換により、例えば変化領域のポリペプチド骨格の構造(例えばαヘリックス構造またはβシード構造)に関して;あるいは標的部位における分子の電荷または疎水性に関して;あるいは側鎖の大きさに関して、より大きな変化を起こさせることが可能である。ポリペプチドの性質に最大の変化をもたらすことが一般に予想される置換は、(a)親水性残基(例えばセリルまたはトレオニル)と疎水性残基(例えばロイシル、イソロイシル、フェニルアラニル、バリル、アラニル)の置換;(b)システインまたはプロリンと他の任意の残基の置換;(c)正に帯電した側鎖を有する残基(例えばリシル、アルギニル、ヒスチジル)と負に帯電した側鎖を有する残基(例えばグルタミル、アスパルチル)の置換;(d)大きな側鎖を有する残基(例えばフェニルアラニン)と大きな側鎖を持たない残基(例えばグリシン)の置換である。
【0102】
変異体は、一般に天然の類似体と定性的な生物活性が同じで、同じ免疫応答を誘導するが、必要に応じ、異なった発現をするタンパク質の特性を変化させるような変異体を選択することもできる。また、変異体は、異なった発現をするタンパク質の生物活性を変化させるように設計することもできる。例えばグリコシル化部位を変化させたり除去したりすることができる。
【0103】
異なった発現をするポリペプチドの共有結合に対する修飾も本発明に含まれる。共有結合に対する修飾の1つのタイプとして、異なった発現をするポリペプチドの標的となるアミノ酸残基を、異なった発現をするポリペプチドの選択した側鎖、N末端の残基、C末端の残基のいずれかと反応することのできる有機誘導化剤と反応させることが挙げられる。二官能剤を用いた誘導体化は、例えば異なった発現をするポリペプチドに対する抗体の精製またはスクリーニング・アッセイに使用するため、異なった発現をするポリペプチドを水溶性支持マトリックスまたは表面と架橋させるのに有効である。これについては後述する。一般に使用される架橋剤としては、例えば1,1−ビス(ジアゾアセチル)−2−フェニルエタン、グルタルアルデヒド、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(例えば4−アジドサリチル酸とのエステル)、ホモ二官能イミドエステル(例えば3,3’−ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)などのジスクシンイミジルエステル)、二官能マレイミド(例えばビス−N−マレイミド−1,8−オクタン)、メチル−3−[(p−アジドフェニル)−ジチオ]プロピオイミデートなどが挙げられる。
【0104】
これ以外の修飾としては、グルタミニル残基とアスパラギニル残基の脱アミド化をそれぞれ対応するグルタミル残基とアスパルチル残基に対して行なうこと、プロリンとリシンをヒドロキシル化すること、セリル残基、トレオニル残基、チロシル残基のヒドロキシル基をリン酸化すること、リシン、アルギニン、ヒスチジンの側鎖のαアミノ基をメチル化すること(T.E. Creighton、『タンパク質:構造と分子特性』、W.H.フリーマン社、サンフランシスコ、79〜86ページ、1983年)、N末端のアミンをアセチル化すること、C末端のカルボキシル基をアミド化することなどが挙げられる。
【0105】
異なった発現をするポリペプチドの共有結合に対する修飾で本発明に含まれる別のタイプのものとしては、ポリペプチドの元のグルコシル化パターンを変えることが挙げられる。“元のグルコシル化パターンを変える”とは、この明細書では、異なった発現をする元のポリペプチドに存在している1つ以上の炭化水素部分を除去すること、および/または異なった発現をする元のポリペプチドに存在していない1つ以上のグルコシル化部位を付加することを意味する。
【0106】
異なった発現をするポリペプチドに対するグルコシル化部位の付加は、このポリペプチドのアミノ酸配列を変化させることによって実現できる。変化は、(O結合型グルコシル化部位にするため)例えば異なった発現をする元のポリペプチドに1つ以上のセリン残基またはトレオニン残基を付加することによって、あるいは異なった発現をする元のポリペプチドをこれら残基で置換することによって実現できる。必要に応じ、異なった発現をするアミノ酸配列を、DNAレベルにおける変化を通じて(特に、異なった発現をするポリペプチドをコードしているDNAをあらかじめ選択した塩基の位置で突然変異させることにより)変化させ、望むアミノ酸に翻訳されるコドンが生まれるようにすることができる。
【0107】
異なった発現をするポリペプチドにおける炭化水素部分の数を増やす別の方法は、グリコシドをこのポリペプチドと化学的に、あるいは酵素を用いて結合させるというものである。このような方法は、例えば1987年9月11日に公開されたWO 87/05330と、AplinとWristonによる異なった表現の論文であるCrit. Rev. Biochem.、259〜306ページ、1981年に記載されている。
【0108】
異なった発現をするポリペプチドに存在する炭化水素部分の除去は、化学的方法により、あるいは酵素を用いた方法により、あるいはグリコシル化の標的として機能するアミノ酸残基をコードしているコドンを突然変異によって置換する方法により、実現することができる。化学的な脱グリコシル化法は従来技術で知られており、例えばHakimuddin他、Arch. Biochem. Biophys.、第259巻、52ページ、1987年と、Edge他、Anal. Biochem.、第118巻、131ページ、1981年に記載されている。ポリペプチドに存在する炭化水素部分を酵素によって開裂させるには、さまざまなエンドグリコシダーゼやエキソグリコシダーゼを用いることができる。これについてはThokakura他、Meth. Enzymol.、第138巻、350ページ、1987年に記載されている。
【0109】
異なった発現をするポリペプチドの共有結合に対する別のタイプの修飾は、異なった発現をするポリペプチドを、アメリカ合衆国特許第4,640,835号、第4,496,689号、第4,301,144号、第4,670,417号、第4,791,192号、第4,179,337号に記載されている方法で、いろいろな非タンパク質ポリマー(例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン)と結合させるというものである。
【0110】
異なった発現をする本発明のポリペプチドを修飾して、異なった発現をするポリペプチドが別のヘテロなポリペプチドまたはアミノ酸配列と融合したものを含むキメラ分子が形成されるようにすることもできる。一実施態様では、このようなキメラ分子は、異なった発現をするポリペプチドが、抗タグ抗体が選択的に結合できるエピトープとなるタグ・ポリペプチドと融合したものを含んでいる。エピトープ・タグは、一般に、異なった発現をするポリペプチドのアミノ末端またはカルボキシル末端に位置する。異なった発現をするポリペプチドにエピトープがタグとして付いた形態のものが存在していることは、タグ・ポリペプチドに対する抗体を用いて検出することができる。また、エピトープ・タグが存在していると、異なった発現をするポリペプチドを、抗タグ抗体を用いたアフィニティ精製によって、あるいはエピトープ・タグと結合する別のタイプのアフィニティ・マトリックスを用いたアフィニティ精製によって、容易に生成させることができる。別の実施態様では、キメラ分子は、異なった発現をするポリペプチドが、免疫グロブリンと融合したもの、または免疫グロブリンの特定の領域と融合したものを含んでいる。2価の形態のキメラ分子では、IgG分子のFc領域に対してこのような融合をさせることができよう。
【0111】
さまざまなタグ・ポリペプチドとその抗体が従来技術でよく知られている。具体例としては、ポリ−ヒスチジン(poly−his)タグまたはポリ−ヒスチジン−グリシン(poly−his−gly)タグ;flu HAタグ・ポリペプチドとその抗体12CA5(Field他、Mol. Cell. Biol.、第8巻、2159〜2165ページ、1988年);c−mycタグとこのタグに対する8F9、3C7、6E10、G4、B7、9E10抗体(Evan他、Molecular and Ccellular Biology、第5巻、3610〜3616ページ、1985年);単純ヘルペス・ウイルスの糖タンパク質D(gD)タグとその抗体(Paborsky他、Protein Engineering、第3巻(6)、547〜553ページ、1990年)が挙げられる。これ以外のタグ・ポリペプチドとしては、フラグ・ペプチド(Hopp他、BioTechnology、第6巻、1204〜1210ページ、1988年);KT3エピトープ・ペプチド(Martin他、Science、第255巻、192〜194ページ、1992年);チューブリン・エピトープ・ペプチド(Skinner他、J. Biol. Chem.、第266巻、15163〜15166ページ、1991年;T7遺伝子10タンパク質ペプチド・タグ(Lutz−Freyermuth他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第87巻、6393〜6397ページ、1990年)が挙げられる。
【0112】
異なった発現をするタンパク質ファミリーの異なった発現をする他のタンパク質や、他の生物に由来する異なった発現をするタンパク質(このタンパク質は、以下に説明するようにしてクローニングし、発現させる)も、異なった発現をするタンパク質の実施態様に含まれる。したがって、プローブまたは縮退ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)プライマーの配列を用い、ヒトその他の生物から、他の関連した異なった発現をするタンパク質を見つけることができる。当業者であればわかるように、特に有用なプローブおよび/またはPCRプライマーの配列は、異なった発現をする核酸配列に独自の領域を含んでいる。従来技術においてよく知られているように、好ましいPCRプライマーは、長さが約15〜約35個、好ましくは約20〜約30個のヌクレオチドであり、必要に応じてイノシンを含むことができる。PCR反応の条件は、従来技術において周知である。
【0113】
さらに、この明細書で説明してあるように、異なった発現をするタンパク質は、例えば、追加配列を明らかにすること、エピトープまたは精製タグを付加すること、他の融合配列を付加することなどによって、図に示したタンパク質よりも長くすることができる。
【0114】
異なった発現をするタンパク質は、異なった発現をする核酸によりコードされているものとして同定することもできる。したがって異なった発現をするタンパク質は、この明細書に記載したように、配列リストの配列またはその相補配列とハイブリダイズする核酸によってコードされている。
【0115】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質を用いて抗体を生成させる場合(例えば免疫療法のため)には、異なった発現をするタンパク質は、完全長のタンパク質と少なくとも1つのエピトープまたは決定基を共有している必要がある。“エピトープ”または“決定基”とは、この明細書では、MHCに関して抗体またはT細胞受容体を生成させるタンパク質の一部、および/または抗体またはT細胞受容体と結合するタンパク質の一部を意味する。したがってほとんどの場合、異なった発現の程度がより小さくされたタンパク質に対する抗体は、完全長のタンパク質と結合できよう。好ましい一実施態様では、エピトープは独自のものである。すなわち独自のエピトープに対する抗体は、交差反応性がほとんどないか、まったくない。
【0116】
一実施態様では、“抗体”という用語に、従来技術で知られているように、抗体断片(例えばFab、Fab2、一本鎖抗体(例えばFv)、キメラ抗体など)が含まれる。抗体は、全抗体の修飾によって産生されたもの、あるいはDNA技術によって新たに合成されたものである。
【0117】
ポリクローナル抗体の調製法は従来技術において公知である。ポリクローナル抗体は、例えば免疫化剤を必要に応じてアジュバントとともに1回以上注入することによって哺乳類から得ることができる。一般に、免疫化剤および/またはアジュバントは、哺乳類に対し、多数回の皮下注射または腹腔内注射によって注入される。免疫化剤としては、CHA4またはCBK8、その断片、その融合タンパク質が挙げられる。免疫化剤は、免疫化された哺乳類において免疫を起こさせることが知られているタンパク質と結合させるとよかろう。そのような免疫誘起タンパク質としては、スカシガイのヘモシアニン、血清アルブミン、ウシのチログロブリン、ダイズのトリプシンインヒビターなどが挙げられる。使用される可能性のあるアジュバントの具体例としては、フロイントの完全アジュバントや、MPL−TDMアジュバント(モノホスホリル脂質A、合成トレハロース・ジコリノミコレート)が挙げられる。免疫化のプロトコルは、過度な実験を行なうことなく当業者が選択することができる。
【0118】
抗体は、モノクローナル抗体でもよい。モノクローナル抗体は、例えばKohlerとMilstein、Nature、第256巻、495ページ、1975年に記載されているハイブリドーマ法を用いて調製することができる。ハイブリドーマ法では、マウス、ハムスター、あるいはその他の適切な宿主動物を、一般に、免疫化剤を用いて免疫化する。そのとき使用するのは、この免疫化剤と特異的に結合する抗体を産生する(ことのできる)リンパ球を誘導する免疫化剤である。また、リンパ球をインビトロで免疫化することもできる。免疫化剤としては、一般に、CHA4ポリペプチドまたはCBK8ポリペプチド、その断片、その融合タンパク質が挙げられる。一般に、ヒト起源の細胞が望ましい場合には、末梢血のリンパ球(“PBL”)が用いられ、ヒト以外の哺乳類に由来する細胞が望ましい場合には、脾臓細胞またはリンパ節細胞が用いられる。次に、適切な融合剤(ポリエチレングリコールなど)を用い、リンパ球を不死化細胞系と融合してハイブリドーマ細胞にする(Goding、『モノクローナル抗体:原理と実際』、アカデミック出版、1986年、59〜103ページ)。不死化細胞系は、通常は、形質転換された哺乳類の細胞(中でも囓歯類、ウシ、ヒトに由来する骨髄腫細胞)である。一般に、ラットまたはマウスの骨髄腫細胞系を使用する。ハイブリドーマ細胞は、適切な培地で培養することができる。なおこの培地は、融合しない不死化細胞の増殖または生存を抑制する1種類以上の物質を含んでいることが好ましい。例えば親細胞にヒポキサンチン・グアニン・ホスホリボシル・トランスフェラーゼ(HGPRTまたはHPRT)という酵素が欠乏している場合には、一般に、ハイブリドーマ用の培地が、HGPRTの欠乏した細胞の増殖を妨げるヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジンを含むようにする(“HAT培地”)。
【0119】
一実施態様では、抗体は二特異的抗体である。二特異的抗体は、少なくとも2つの異なる抗原に対して特異的に結合するモノクローナル抗体である。この抗体は、ヒトの抗体またはヒト化抗体であることが好ましい。ここでは、一方の結合特異性は、CHA4、CBK8、またはその断片に対するものであり、他方の結合特異性は、他の任意の抗原、好ましくは細胞表面タンパク質、受容体、受容体サブユニットに対するものである。なお抗原は、腫瘍特異的であることが好ましい。
【0120】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質に対する抗体は、以下に説明するように、異なった発現をするそのタンパク質の生物機能を低下または喪失させることができる。すなわち、異なった発現をするタンパク質に対する抗体(ポリクローナルでもモノクローナルでもよいが、モノクローナルが好ましい)を異なった発現をするタンパク質(または異なった発現をするタンパク質を含む細胞)に添加すると、異なった発現をするタンパク質の活性を低下または喪失させることができる。一般に、活性が少なくとも約25%低下することが好ましい。活性は、少なくとも約50%低下することが非常に好ましく、約95〜100%低下することが特に好ましい。
【0121】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質に対する抗体は、ヒト化抗体である。ヒト以外(例えばネズミ類)の抗体をヒト化したものは、複数の免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖、またはその断片(例えばFv、Fab、fab’、F(ab’)2、抗体のこれ以外の抗原結合配列)からなるキメラ分子であり、ヒト以外の免疫グロブリンに由来する最低限の配列を含んでいる。ヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン(レシピエントの抗体)を含んでおり、この免疫グロブリンにおいて、レシピエントの相補性決定部位(CDR)を形成している残基が、望む特異性、アフィニティ、能力を有するマウス、ラット、ウサギなどのヒト以外の種(ドナーの抗体)のCDRからの残基で置換される。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのFv枠組み構造に含まれる残基が、対応するヒト以外の残基で置換される。ヒト化抗体は、レシピエントの抗体にも、導入されたCDRまたは枠組みの配列にも見られない残基を含むこともできる。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つの可変領域、一般には2つの可変領域を実質的にすべて含むことになろう。これら可変領域においては、すべての、または実質的にすべてのCDR領域が、ヒト以外の免疫グロブリンのCDR領域に対応しており、すべての、または実質的にすべてのFR領域が、ヒト免疫グロブリンのコンセンサス配列のFR領域に対応している。ヒト化抗体は、免疫グロブリン(一般にはヒト免疫グロブリン)の定常領域(Fc)の少なくとも一部も含むことになろう(Jones他、Nature、第321巻、522〜525ページ、1986年;Riechmann他、Nature、第322巻、323〜327ページ、1988年;Presta、Curr. Op. Struct. Biol.、第2巻、593〜596ページ、1992年)。
【0122】
ヒト以外の抗体をヒト化する方法は従来技術において周知である。一般に、ヒト化抗体は、ヒト以外の供給源から導入された1つ以上のアミノ酸残基を含んでいる。ヒト以外のこれらアミノ酸残基は、典型的には外来可変領域から取り込まれたものであり、外来残基と呼ばれることがしばしばある。ヒト化は、主として、Winterとその共同研究者らの方法(Jones他、Nature、第321巻、522〜525ページ、1986年;Riechmann他、Nature、第322巻、323〜327ページ、1988年;Verhoeyen他、Science、第239巻、1534〜1536ページ、1988年)に従って囓歯類のCDRまたはCDR配列をヒト抗体の対応する配列で置換することによって実現することができる。したがって、そのようなヒト化抗体は、完全なヒト可変領域よりも実質的に短い領域が、ヒト以外の種からの対応する配列で置換されているキメラ抗体である(アメリカ合衆国特許第4,816,567号)。実際上は、ヒト化抗体は、一般に、いくつかのCDR残基、可能ならばいくつかのFR残基が、囓歯類の抗体の類似した部位からの残基によって置換されたヒト抗体である。
【0123】
ヒト化抗体は、従来技術で知られているさまざまな方法で製造することもできる。例えばファージ提示ライブラリを用いる方法がある(HoogenboomとWinter、J. Mol. Biol.、第227巻、381ページ、1991年;Marks他、J. Mol. Biol.、第222巻、581ページ、1991年)。ColeらとBoernerらの方法も、ヒト・モノクローナル抗体の調製に利用することができる(Cole他、『モノクローナル抗体とガンの治療』、Alan R. Liss社、77ページ、1985年;Boerner他、J. Immunol.、第147巻(1)、86〜95ページ、1991年)。同様に、ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリンの遺伝子座をトランスジェニック動物(例えば内在性免疫グロブリン遺伝子の一部または全部を不活性化したマウス)に導入することによって製造することができる。攻撃によりヒト抗体が産生されるのが観察される。これは、あらゆる点(例えば、遺伝子再構成、遺伝子組み立て、抗体レパートリーなど)で、ヒトで見られる抗体産生と非常に似ている。この方法は、例えばアメリカ合衆国特許第5,545,807号、第5,545,806号、第5,569,825号、第5,625,126号、第5,633,425号、第5,661,016号と、以下の科学論文に記載されている:Marks他、Bio/Technology、第10巻、779〜783ページ、1992年;Lonberg他、Nature、第368巻、856〜859ページ、1994年;Morrison、Nature、第368巻、812〜813ページ、1994年;Fishwild他、Nature Biotechnology、第14巻、845〜851ページ、1996年;Neuberger、Nature Biotechnology、第14巻、826ページ、1996年;LonbergとHuszar、Intern. Rev. Immunol.、第13巻、65〜93ページ、1995年。
【0124】
免疫療法とは、異なった発現をするタンパク質に対する抗体を用いたガンの治療を意味する。この明細書では、免疫療法は、受動的なものでも、能動的なものでもよい。この明細書における受動的免疫療法では、抗体をレシピエント(患者)に受動的に移す。能動的免疫療法では、レシピエント(患者)の体内で抗体および/またはT細胞の応答を誘導する。免疫応答が誘導されるのは、抗体を発生させる抗原をレシピエントに供給した結果である。当業者であればわかるように、抗原の供給は、発生させたい抗体の発生原因となるポリペプチドをレシピエントに注入することによって、あるいは抗原を発現する核酸を、その抗原が発現する条件下でレシピエントに接触させることによって実現することができる。
【0125】
好ましい一実施態様では、抗体を発生させる異なった発現をするタンパク質は、上記の分泌タンパク質である。理論に囚われないとすると、治療に用いる抗体は、分泌タンパク質と結合するとともに、分泌タンパク質が対応する受容体と結合することを妨げ、そのことによって異なった発現をする分泌タンパク質が不活性化される。
【0126】
別の好ましい一実施態様では、抗体を発生させる異なった発現をするタンパク質は、膜貫通タンパク質である。理論に囚われないとすると、治療に用いる抗体は、異なった発現をするタンパク質の細胞外ドメインと結合するとともに、このタンパク質が他のタンパク質(例えば循環しているリガンドや細胞関連分子)と結合することを妨げる。抗体は、異なった発現をするタンパク質の細胞外ドメインを下方調節する可能性がある。当業者であればわかるように、抗体は、異なった発現をするタンパク質の細胞外ドメインに別のタンパク質が結合するのを競合的に抑制してもよいし、競合せずに抑制してもよい。抗体は、異なった発現をするタンパク質のアンタゴニストでもある。さらに、抗体は、異なった発現をするタンパク質の細胞外ドメインの活性化を抑制する。一実施態様として、抗体が、異なった発現をするタンパク質に他の分子が結合するのを抑制する場合には、その抗体は細胞の成長を阻止する。抗体は、細胞を細胞毒性剤(例えばTNF−α、TNF−β、IL−1、INF−γ、IL−2、化学療法剤(例えば5FU、ビンブラスチン、アクチノマイシンD、シスプラチン、メトトレキセートなど))に対して敏感にする。場合によっては、抗体が血清中の補体を活性化するサブタイプに属することもある。それは、抗体が膜貫通タンパク質と複合体を形成して細胞毒性を媒介する場合である。したがって異なった発現状態は、異なった発現をするタンパク質の細胞外ドメインを対象とする抗体を患者に投与することによって治療できる。
【0127】
別の好ましい一実施態様では、抗体を治療効果を有する部分と結合させる。ある場合には、治療効果を有する部分は、異なった発現をするタンパク質の活性を変化させる小分子である。別の場合には、治療効果を有する部分は、異なった発現をするタンパク質に付随する分子の活性、または異なった発現をするタンパク質に近接した分子の活性を変化させる。治療効果を有する部分は、ガンに関係したプロテアーゼまたはプロテインキナーゼなどの酵素の活性を抑制できる可能性がある。
【0128】
好ましい一実施態様では、治療効果を有する部分は、細胞毒性剤である。この方法では、細胞毒性剤を腫瘍組織または腫瘍細胞に狙いを定めて到達させて冒された細胞の数を減らすことにより、ガンに関係した症状を減らす。細胞毒性剤は多彩なものが存在しており、具体的には細胞毒性薬、毒素、そのような毒素の活性断片などが挙げられる。適切な毒素とその毒素に対応する断片としては、ジフテリアA鎖、エキソトキシンA鎖、リシンA鎖、アブリンA鎖、クルシン、クロチン、フェノマイシン、エノマイシンなどが挙げられる。細胞毒性剤には、異なった発現をするタンパク質に対する抗体に放射性同位体を結合させることによって作った放射性化学物質、あるいは抗体と共有結合させたキレート剤に放射性核種を結合させることによって作った放射性化学物質も含まれる。治療効果を有する部分を異なった発現をする膜貫通タンパク質に狙いを定めて到達させると、異なった発現をしている疾患領域におけるこの治療効果を有する部分の局所的濃度が上昇するだけでなく、この治療効果を有する部分に関係している可能性のある副作用が少なくなる。
【0129】
別の好ましい一実施態様では、抗体を発生させるPCタンパク質は、細胞内タンパク質である。この場合、抗体は、細胞の中に入れやすくするタンパク質と結合させるとよい。一実施態様では、抗体は、エンドサイトーシスによって細胞内に入る。別の実施態様では、抗体をコードしている核酸をヒトまたは細胞に投与する。さらに、PCタンパク質を細胞内の標的(すなわち核)に狙いを定めて到達させる場合には、そのタンパク質に対する抗体は、その標的の位置に関する信号(すなわち核位置信号)を含んでいる。
【0130】
異なった発現をする本発明の抗体は、異なった発現をするタンパク質と特異的に結合する。“特異的に結合する”とは、この明細書では、結合定数が少なくとも10−4〜10−6M−1の範囲、好ましくは10−7〜10−9M−1の範囲で抗体がタンパク質と結合することを意味する。
【0131】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質は、発現後に精製または単離する。異なった発現をするタンパク質は、サンプル中に存在する他の成分が何であるかに応じ、当業者に知られているさまざまな方法で単離または精製することができる。標準的な精製法としては、電気泳動法、分子法、免疫法、クロマトグラフィ法(イオン交換クロマトグラフィ、疎水性クロマトグラフィ、アフィニティ・クロマトグラフィ、逆相HPLC、クロマトフォーカシング・クロマトグラフィ)が挙げられる。例えば異なった発現をするタンパク質は、異なった発現をするタンパク質に対する抗体用の標準的なカラムを用いて精製することができる。限外濾過とダイアフィルトレーションも、タンパク質の濃縮と組み合わせる場合に有効である。適切な精製法に関する一般的な説明は、Scopes, R.、『タンパク質の精製』、シュプリンガー−フェアラーク社、ニューヨーク、1982年を参照のこと。必要な精製度は、異なった発現をするタンパク質の用途によって異なるであろう。場合によっては精製が不要であろう。
【0132】
異なった発現をするタンパク質と核酸は、発現でき、必要に応じて精製できたなら、多くの用途において利用することができる。
【0133】
一実施態様では、ガンの表現型におけるさまざまな細胞状態について遺伝子の発現レベルを明らかにする。すなわち、正常組織とガン組織(それに加え、場合によっては、以下に説明するように、予後に関係するさまざまな進行度のガン組織)における遺伝子の発現レベルを評価し、発現プロファイルを作る。特定の細胞状態または進行地点の発現プロファイルは、本質的に、その状態の“フィンガープリント”である。2つの状態が特定の遺伝子の同様な発現に関係していることがあるが、遺伝子数の評価を同時に行なうことにより、細胞の状態に独特の遺伝子発現プロファイルを作ることができる。異なった状態にある細胞の発現プロファイルを比較することにより、それぞれの状態においてどの遺伝子が重要であるかに関する情報(遺伝子の上方調節と下方調節に関する情報を含む)が得られる。次に、特定の患者からの組織が正常組織の発現プロファイルであるかガン組織の発現プロファイルであるかの診断を行なう。あるいはその診断を確認する。
【0134】
“異なった発現”またはこの明細書で用いられているこれと文法的に同等な表現は、さまざまな細胞における遺伝子の経時的発現パターンおよび/または細胞発現パターンにおける定性的な違いと定量的な違いの両方を意味する。したがって異なった発現をする遺伝子は、例えば正常組織においては例えばガン組織と比べて発現が(活性化の場合も不活性化の場合も)定性的に変化する可能性がある。つまり遺伝子は、スイッチが入ったり切れたりしてある状態から別の特定の状態になることができる。当業者には明らかなように、2つ以上の状態を自由に比較することができる。定性的に変化したこのような遺伝子は、1つの状態または1つの細胞タイプにおいてある発現パターンを示す。この発現パターンは、そのような1つの状態または1つの細胞タイプにおいて標準的な方法で検出することができるが、その両方で検出することはできない。また、発現が増加または減少するという意味で、測定は定量的である。すなわち、遺伝子の発現は、上方調節されて転写物の量が増加するか、下方調節されて転写物の量が減少するかである。発現の差は、以下に説明するように、標準的なキャラクテリゼーション法によって定量するのに十分な大きさでありさえすればよい。定量には、例えばアフィメトリックス・ジーンチップ(登録商標)発現アレイ(Lockhart、Nature Biotechnology、第14巻、1675〜1680ページ、1996年)を用いる。この発現アレイは、参考としてこの明細書にあからさまな形で組み込まれているものとする。他の方法としては、定量的逆転写酵素PCR、ノーザン分析、RNアーゼ保護などが挙げられる。上に説明したように、発現の変化(すなわち上方調節または下方調節)は、少なくとも約50%であることが好ましい。この変化は少なくとも約100%であることがより好ましく、少なくとも約150%であることがさらに好ましく、少なくとも約200%であることがさらに好ましく、300〜少なくとも約1000%であることが特に好ましい。
【0135】
当業者であればわかるように、これは、遺伝子転写物またはタンパク質のレベルを評価することによって可能である。すなわち、遺伝子の発現量を、遺伝子転写物に対応するDNAまたはRNAに対する核酸プローブを用いてモニターするとよい。遺伝子発現レベル、あるいは最終遺伝子産物そのもの(タンパク質)の定量は、例えば異なった発現をするタンパク質に対する抗体と、標準的なイムノアッセイ(ELISAなど)やそれ以外の方法(質量分析、2Dゲル電気泳動など)を利用して行なうことが可能である。したがって、乳ガンまたは結腸直腸ガンの遺伝子に対応するタンパク質(すなわち乳ガンまたは結腸直腸ガンの表現型において重要であることが明らかになった遺伝子)は、乳ガンまたは結腸直腸ガンの診断テストで評価することができる。
【0136】
好ましい一実施態様では、遺伝子の発現をモニターし、それと同時に多数の遺伝子、すなわち1つの発現プロファイルをモニターする。ただし、多数の遺伝子の発現をモニターすることも可能である。同様に、このアッセイは個別に行なうこともできる。
【0137】
この実施態様では、異なった発現をする核酸のプローブをこの明細書で説明したバイオチップに付着させ、特定の細胞内で異なった発現をする配列の検出と定量を行なう。このアッセイについては後出の実施例でさらに詳しく説明する。
【0138】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質をコードしている核酸を検出する。異なった発現をするタンパク質をコードしているDNAまたはRNAを検出することが可能であるが、特に興味があるのは、異なった発現をするタンパク質をコードしているmRNAを検出する方法である。サンプル中にmRNAが存在しているというのは、異なった発現をする遺伝子が転写されてmRNAを形成していることを示す。したがって対応するタンパク質が発現することを示唆する。mRNAを検出するプローブとしては、mRNAと相補的でmRNAと塩基対を形成するあらゆるヌクレオチド/デオキシヌクレオチド・プローブが可能であり、例えばオリゴヌクレオチド、cDNA、RNAが挙げられる。プローブは、この明細書に記載した検出可能な標識も含んでいるべきである。1つの方法では、調べる核酸をナイロン膜などの固体支持体に固定化し、プローブをサンプルとハイブリダイズさせた後、mRNAを検出する。非特異的に結合したプローブを除去するために洗浄した後、標識を検出する。別の方法では、mRNAの検出をその場で行なう。この方法では、透過可能にした細胞サンプルまたは組織サンプルを、検出可能な標識を付けた核酸プローブと十分な時間接触させ、プローブが標的mRNAとハイブリダイズできるようにする。非特異的に結合したプローブを除去するために洗浄した後、標識を検出する。例えば、異なった発現をするタンパク質をコードしているmRNAと相補的なリボプローブ(RNAプローブ)をジオキシゲニンで標識したものを、ジオキシゲニンを抗ジオキシゲニン二次抗体と結合させて検出し、ニトロブルーテトラゾリウムと5−ブロモ−4−クロロ−3−インドイルホスフェートを用いて現像する。
【0139】
好ましい一実施態様では、この明細書に記載した3種類のタンパク質(分泌タンパク質、膜貫通タンパク質、細胞内タンパク質)のうちの任意のものを診断アッセイで使用する。異なった発現をするタンパク質、抗体、核酸、修飾されたタンパク質と、異なった発現をする配列を含む細胞が、診断アッセイで使用される。これは、個々の遺伝子のレベルで、または対応するポリペプチドのレベルで実行することが可能である。好ましい一実施態様では、発現プロファイルを好ましくはハイスループット・スクリーニング技術と組み合わせて使用し、発現プロファイルの遺伝子および/または対応するポリペプチドをモニターできるようにする。
【0140】
この明細書に記載してあるように、異なった発現をするタンパク質(分泌タンパク質、膜貫通タンパク質、細胞内タンパク質)は、乳ガンおよび結腸直腸ガンのマーカーとしての用途がある。患者のガンと予測される組織においてこのタンパク質を検出することにより、ガンを明らかにすること、すなわちガンを診断することができる。当業者に知られている多数の方法が、ガンの検出に用いられる。一実施態様では、抗体を用いてガンを検出する。好ましい方法は、サンプルまたは患者からのタンパク質をゲル(一般には変性した還元性タンパク質ゲルであるが、等電点ゲルを始めとする他のタイプのゲルでもよい)上の電気泳動によって単離するというものである。タンパク質の単離後、乳ガンまたは結腸直腸ガンのタンパク質を、ガンのタンパク質に対する抗体を用いた免疫ブロッティングによって検出する。免疫ブロッティングの方法は、当業者には周知である。
【0141】
別の好ましい方法では、異なった発現をするタンパク質に対する抗体を、インサイチュ画像化法で使用する。この方法では、異なった発現をするタンパク質に対する1つ〜多数の抗体に細胞を接触させる。非特異的な抗体の結合を除去するために洗浄した後、抗体の存在を検出する。一実施態様では、検出可能な標識を含む二次抗体とともに培養することによって抗体を検出する。別の好ましい実施態様では、多数ある一次抗体のそれぞれが、検出可能な異なる標識を含んでいる。この方法は、異なった発現をする複数のタンパク質を同時にスクリーニングする際に特に用いられる。当業者であればわかるように、本発明では他の多くの組織学的方法も有効である。
【0142】
好ましい一実施態様では、さまざまな波長の発光を区別して検出することのできる蛍光メーターで標識を検出する。さらに、この方法では蛍光活性化セルソーター(FACS)を用いることができる。
【0143】
別の好ましい実施態様では、血液サンプルやその他の体内分泌物からの異なった発現を診断するのに抗体が用いられる。すでに説明したように、異なった発現をするある種のタンパク質は、分泌分子/循環分子である。したがって血液サンプルやその他の体内分泌物は、異なった発現をする分泌タンパク質の存在を調べるためのサンプルとして役立つ。当業者であればわかるように、抗体を用いると、すでに説明したイムノアッセイ(ELISA、免疫ブロッティング(ウエスタン・ブロッティング)、免疫沈降、BIACORE法など)により、異なった発現をするタンパク質を検出することができる。
【0144】
好ましい一実施態様では、組織アレイに対し、異なった発現をする核酸プローブに標識を付けたもののインサイチュ・ハイブリダイゼーションを行なう。例えば(乳ガンまたは結腸直腸ガンの組織および/または正常組織を含む)組織サンプルのアレイを製作する。すると、従来技術で知られているインサイチュ・ハイブリダイゼーションを行なうことができる。
【0145】
当業者であれば、フィンガープリントをある1人の人と基準で比較することにより、診断と予後を明らかにできることがわかる。さらに、診断結果を示す遺伝子は、予後を示す遺伝子と異なっている可能性のあることもわかる。
【0146】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質、抗体、核酸、修飾されたタンパク質と、異なった発現をする配列を含む細胞を、予後アッセイで用いる。上記のように、長期の予後に関し、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンの進行度と相関する遺伝子発現プロファイルを作ることができる。これは、ここでもタンパク質または遺伝子のレベルで行なうことができる。その際に使用するのは遺伝子のほうが好ましい。上記のように、異なった発現をするプローブをバイオチップに付着させ、組織または患者の異なった発現をする配列を検出し、定量する。このアッセイは、診断アッセイの場合と同様に行なう。
【0147】
好ましい一実施態様では、上記3種類のタンパク質のうちの任意のものを用いて薬剤スクリーニング・アッセイを行なう。異なった発現をするタンパク質、抗体、核酸、修飾されたタンパク質と、異なった発現をする配列を含む細胞を、薬剤スクリーニング・アッセイで用い、薬剤候補が“遺伝子発現プロファイル”またはポリペプチドの発現プロファイルに及ぼす効果を評価する。好ましい一実施態様では、発現プロファイルを好ましくはハイスループット・スクリーニング法と組み合わせて用いると、薬剤候補で処理した後の遺伝子発現プロファイルをモニターすることができる(Zlokarnik他、Science、第279巻、84〜88ページ、1998年、Heid、1996 #69)。
【0148】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質、抗体、核酸、修飾されたタンパク質と、異なった発現をする元のタンパク質または修飾されたタンパク質を含む細胞を用いてスクリーニング・アッセイを行なう。つまり本発明により、乳ガンまたは結腸直腸ガンの表現型を変える組成物の新規なスクリーニング法が提供される。上記のように、これは、個々の遺伝子レベルにおいて、すなわち薬剤候補が1つの“遺伝子発現プロファイル”に及ぼす効果を評価することによって実現される。好ましい一実施態様では、発現プロファイルを好ましくはハイスループット・スクリーニング法と組み合わせて用いると、薬剤候補で処理した後の遺伝子発現プロファイルをモニターすることができる(Zlokarnik、上記文献)。
【0149】
異なった発現をする遺伝子が同定されると、さまざまなアッセイを行なうことができる。好ましい一実施態様では、アッセイは、個々の遺伝子またはタンパク質のレベルで実行することができる。すなわち、特定の遺伝子が乳ガンおよび/または結腸直腸ガンを上方調節することが同定されると、生物活性剤候補をスクリーニングし、この遺伝子の応答を変えることができる。その場合、遺伝子を下方調節することが好ましいが、場合によっては遺伝子を上方調節する。したがって“変化”には、遺伝子発現の増加と減少の両方が含まれる。変化の好ましい量は、正常組織と腫瘍組織で元々遺伝子の発現がどれくらい違うかによって異なるであろうが、少なくとも10%である。好ましい変化は50%であり、さらに好ましいのは100〜300%であり、場合によっては300〜1000%、あるいはそれ以上である。したがって1つの遺伝子がガン腫瘍組織において正常組織の4倍発現している場合には、薬剤候補によって発現が4分の1になることが望ましく、腫瘍における発現が正常組織の10分の1になっている場合には、薬剤候補によって発現が10倍になることが望ましい。
【0150】
当業者であればわかるように、これは、遺伝子またはタンパク質のレベルで評価することによって実現することができる。すなわち、遺伝子の発現量は、核酸プローブを用いてモニターすることができ、遺伝子の発現レベル、あるいは遺伝子産物そのものの定量は、例えば異なった発現をするタンパク質に対する抗体と標準的なイムノアッセイを用いて行なうことができる。
【0151】
好ましい一実施態様では、遺伝子の発現をモニターすると同時に、多数の遺伝子、すなわち1つの発現プロファイルをモニターする。しかし多数のタンパク質の発現をモニターすることもできる。
【0152】
この実施態様では、異なった発現をする核酸プローブをこの明細書で説明したバイオチップに付着させ、特定の細胞内で異なった発現をする配列の検出と定量を行なう。このアッセイについては、後出の実施例でさらに詳しく説明する。
【0153】
一般に、好ましい一実施態様では、生物活性剤候補を細胞に添加した後に分析を行なう。さらに、ガンを変化させる生物活性剤候補、ガンのタンパク質を変化させる生物活性剤候補、ガンのタンパク質と結合する生物活性剤候補、ガンのタンパク質と抗体の結合を阻止する生物活性剤候補を同定するためにスクリーニングを行なう。
【0154】
“生物活性剤候補”または“薬剤候補”という用語、またはそれと文法的に等価な表現は、この明細書では、ガンの表現型、または異なった発現をする配列(核酸配列とタンパク質配列の両方を含む)の発現を直接的または間接的に変えることのできる生物活性剤を見つけることを目的としてテストするあらゆる分子(例えばタンパク質、オリゴペプチド、小さな有機分子、多糖、ポリヌクレオチドなど)を記述するのに用いる。好ましい実施態様では、生物活性剤が発現プロファイルを変化させる。すなわち、この明細書に記載した核酸またはタンパク質の発現プロファイルを変化させる。特に好ましい一実施態様では、薬剤候補が、ガンの表現型を抑制して例えば正常組織のフィンガープリントにする。同様に、薬剤候補は、重いガンの表現型を抑制することが好ましい。一般に、さまざまな薬剤濃度で複数のアッセイを並列して行ない、そのさまざまな濃度に対する異なった応答を得る。典型的には、これら濃度のうちの1つ、すなわち濃度ゼロまたは検出レベル以下の濃度が、負の対照として機能する。
【0155】
一実施態様では、薬剤候補が、CRCタンパク質の効果を中和することになる。“中和する”とは、タンパク質の活性が抑制されたり相殺されたりして、細胞に対して実質的に効果を持たなくなることを意味する。
【0156】
多数の化学物質が薬剤候補となるが、薬剤候補は、一般には有機分子、好ましくは分子量が100〜約2,500ダルトンの小さな有機化合物である。好ましい小分子は、2000D未満、あるいは1500D未満、あるいは1000D未満、あるいは500D未満である。薬剤候補は、タンパク質と構造的相互作用(特に水素結合)をするのに必要な官能基を含むとともに、一般にはアミノ基、カルボニル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基のいずれかを少なくとも1つ含んでいるが、少なくとも2つの官能基を含むことが好ましい。薬剤候補は、環状炭素、または複素環式構造および/または(多)芳香族構造が1つ以上の上記官能基で置換されたものを含んでいることがしばしばある。薬剤候補は、生体分子(例えばペプチド、サッカリド、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、誘導体、構造類似体、またはこれらの組み合わせ)の中にも見いだされる。特に好ましいのはペプチドである。
【0157】
薬剤候補は、合成化合物のライブラリ、天然化合物のライブラリなど、さまざまな供給源から得られる。例えば多彩な有機化合物や生体分子をランダムに、あるいは方向性を持って合成する(ランダム化されたオリゴヌクレオチドを発現させることも含まれる)のに、多数の方法を利用することができる。また、細菌、菌類、植物、動物の抽出物の形態をした天然化合物のライブラリを利用したり、容易に製造したりすることができる。さらに、天然または合成のライブラリまたは化合物は、従来から知られている化学的、物理的、生化学的な手段で容易に修飾することができる。公知の薬剤に対して方向性のある化学的修飾(アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化など)やランダムな化学的修飾を行なって構造類似体を作ることができる。
【0158】
好ましい一実施態様では、生物活性剤候補はタンパク質である。“タンパク質”とは、この明細書では、共有結合によって結合した少なくとも2個のアミノ酸を意味する。この用語には、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチドが含まれる。タンパク質は、天然のアミノ酸とペプチド結合とによって、あるいは合成によるペプチド模倣構造体によって作ることができる。したがって“アミノ酸”または“ペプチド残基”は、この明細書では、天然のアミノ酸と合成されたアミノ酸の両方を意味する。例えばホモフェニルアラニン、シトルリン、ノルロイシンは、本発明ではアミノ酸と見なされる。“アミノ酸”には、プロリンやヒドロキシプロリンなどのイミノ酸残基も含まれる。側鎖は、(R)立体配置または(S)立体配置が可能である。好ましい一実施態様では、アミノ酸が(S)立体配置すなわちL−立体配置になっている。天然でない側鎖を用いる場合には、アミノ酸でない置換基を用いて例えば生体内での分解を阻止したり遅らせたりすることができる。
【0159】
好ましい一実施態様では、生物活性剤候補は、天然のタンパク質またはその断片である。したがって、例えばタンパク質を含む細胞抽出物を使用すること、あるいはタンパク質性細胞抽出物のランダムな消化物または方向性のある消化物を使用することができる。このようにして、原核生物と真核生物のタンパク質のライブラリを作り、本発明の方法でスクリーニングすることができる。この実施態様で特に好ましいのは、細菌、菌類、ウイルス、哺乳類のタンパク質のライブラリである。その中でも哺乳類のタンパク質のライブラリが好ましく、ヒトのタンパク質のライブラリが特に好ましい。
【0160】
好ましい一実施態様では、生物活性剤候補は、約5〜約30個のアミノ酸からなるペプチドである。アミノ酸の数は約5〜約20個であることが好ましく、約7〜約15個であることが特に好ましい。ペプチドとしては、上に説明したように、天然のタンパク質を消化させたもの、ランダムなペプチド、“バイアスのかかった”ランダムなペプチドのいずれかが可能である。“ランダム化した”、あるいはそれと文法的に等価な表現は、この明細書では、それぞれの核酸が主としてランダムなヌクレオチドでできていることと、ペプチドが主としてランダムなアミノ酸でできていることを意味する。一般にランダムなペプチド(または以下に説明する核酸)は化学的に合成されるため、あらゆる位置にあらゆるヌクレオチドまたはアミノ酸が組み込まれている可能性がある。合成プロセスを設計するにあたっては、ランダム化されたタンパク質または核酸を生成することにより、配列の全長にわたって可能な組み合わせが(ほとんど)すべて形成され、その結果としてランダム化されたタンパク質性の生物活性剤候補のライブラリが形成されるようにすることができる。
【0161】
一実施態様では、ライブラリを完全にランダム化し、どの位置においても配列の偏りまたは均一性がなくなるようにする。好ましい一実施態様では、ライブラリをバイアスのかかったライブラリにする。すなわち、配列中のいくつかの位置を不変な状態に維持するか、あるいは限られた数の可能性の中から選択する。例えば好ましい一実施態様では、ヌクレオチドまたはアミノ酸残基は、疎水性残基、親水性残基、立体的にバイアスのかかった(小さな、あるいは大きな)残基といった限られたグループの中でランダム化し、核酸結合ドメインの形成、架橋のためのシステインの形成、SH−3ドメインのためのプロリンの形成、リン酸化部位のためのセリン、トレオニン、チロシン、ヒスチジンの形成、プリンの形成などがなされるようにする。
【0162】
好ましい一実施態様では、生物活性剤候補は、上記の核酸である。
【0163】
タンパク質についてすでに説明したように、核酸生物活性剤候補としては、天然の核酸、ランダムな核酸、“バイアスのかかった”ランダムな核酸のいずれかが可能である。タンパク質について説明したように、例えば原核生物または真核生物のゲノム消化物を使用することができる。
【0164】
好ましい一実施態様では、生物活性剤候補は、有機化学物質の部分であり、さまざまなものが文献から得られる。
【0165】
薬剤候補を添加して細胞をある程度の期間にわたって培養した後、分析する標的配列を含むサンプルをバイオチップに添加する。必要であれば、既知の方法を用いて標的配列を調製する。例えば、当業者であればわかるように、サンプルに対する処理として、既知の溶解緩衝液、電気穿孔などを利用して細胞を溶解させ、必要に応じて精製および/または増幅(例えばPCR)を行なうことができる。例えば、標識が共有結合によってヌクレオシドに結合した状態でインビトロの転写を行なう。一般に核酸は、ビオチン−FITCまたはPEで、あるいはcy3またはcy5で標識する。
【0166】
好ましい一実施態様では、標的配列を例えば蛍光体、化学発光体、化学物質、放射活性信号で標識し、プローブに対する標的配列の特異的結合を検出する手段にする。標識は酵素(例えばアルカリホスファターゼ、セイヨウワサビのペルオキシダーゼ)でもよく、その場合には適切な基質が与えられると、検出可能な産物が酵素から産生される。また標識としては、結合するが酵素によって触媒作用を受けたり変えられたりしない化合物または小分子(例えば酵素阻害剤)に標識が付いたものも可能である。標識としては、ストレプトアビジンと特異的に結合する部分または化合物(例えばエピトープ・タグまたはビオチン)も可能である。例えばビオチンの場合、ストレプトアビジンを上記のように標識することにより、結合した標的配列を検出できる信号が出るようにする。従来技術で知られているように、結合しなかった標識付きストレプトアビジンは、分析する前に除去する。
【0167】
当業者であればわかるように、これらアッセイは、直接ハイブリダイゼーション・アッセイにすることが可能である。その中には、多数のプローブを使用する“サンドイッチ・アッセイ”も含まれる。サンドイッチ・アッセイの概要については、アメリカ合衆国特許第5,681,702号、第5,597,909号、第5,545,730号、第5,594,117号、第5,591,584号、第5,571,670号、第5,580,731号、第5,571,670号、第5,591,584号、第5,624,802号、第5,635,352号、第5,594,118号、第5,359,100号、第5,124,246号、第5,681,697号に記載されており、これら特許はすべて、参考としてこの明細書に組み込まれているものとする。この実施態様では、一般に、標的核酸を上記のようにして調製し、次いでその標的核酸を、複数の核酸プローブを含むバイオチップに対し、ハイブリダイゼーション複合体が形成されるような条件下で添加する。
【0168】
本発明では、さまざまなハイブリダイゼーション条件を用いることができる。その中には、すでに説明したように、中程度に厳しい条件や厳しさが弱い条件が含まれる。アッセイは、一般に、標的が存在しているときだけ標識プローブのハイブリダイゼーション複合体が形成される厳しい条件下で実行される。厳しさは、ステップ・パラメータを変えることによって制御することができる。このステップ・パラメータは熱力学変数であり、具体的には、温度、ホルムアミドの濃度、塩の濃度、カオトロピック塩のpH、有機溶媒の濃度などが挙げられる。
【0169】
これらパラメータを利用して非特異的結合を制御することもできる。これについては、アメリカ合衆国特許第5,681,697号に概略が記載されている。したがって、非特異的結合を減らすには、より厳しい条件においていくつかのステップを実行することが望ましかろう。
【0170】
この明細書に記載した反応は、さまざまな方法で実現することができる。反応させる諸成分は、同時に添加すること、あるいは任意の順序で順番に添加することができる。好ましい実施態様はあとで説明する。さらに、反応物には他のさまざまな試薬も含めることができる。具体的には、オプションのハイブリダイゼーションと検出を容易にするため、および/または非特異的相互作用または背景相互作用を減らすために使用することのできる塩、緩衝液、中性のタンパク質(例えばアルブミン)、洗浄剤などの試薬が挙げられる。サンプルの調製法や標的の純度に応じ、アッセイの効率を別の方法で高める試薬(例えばプロテアーゼ阻害剤、ヌクレアーゼ阻害剤、抗微生物剤など)も使用することができる。
【0171】
アッセイを行なったら、データを分析し、個々の遺伝子の発現レベルと状態間の発現レベルの変化を明らかにし、遺伝子発現プロファイルを作る。
【0172】
スクリーニングを行ない、ガンの表現型を変える薬剤または生物活性剤を同定する。特に指摘しておくならば、実行可能ないくつかのタイプのスクリーニング法がある。好ましい一実施態様では、特定の発現プロファイルを誘導または抑制することのできる薬剤候補をスクリーニングし、付随する表現型を発生させる。すなわち、乳ガンまたは結腸直腸ガンにおいて正常な乳房組織または大腸組織の発現プロファイルと似た発現プロファイルを模倣する、あるいは発生させることのできる薬剤候補は、乳ガンまたは結腸直腸ガンの表現型を抑制することが予想される。したがって、この実施態様では、発現プロファイルを模倣すること、あるいはある発現プロファイルを別の発現プロファイルに変えることが目標である。
【0173】
好ましい一実施態様では、診断や予後診断の場合と同様、いずれかの状態において重要な異なった発現をする遺伝子を同定した後、スクリーニングを行なって遺伝子の発現を個別に変えることができる。すなわち、単一の遺伝子の発現を制御するモジュレータに関するスクリーニングを行なうことができる。すなわち、1つの発現プロファイルの全体または一部を模倣しようとするのではなく、個々の遺伝子を制御するためのスクリーニングを行なうことができる。したがって、例えば2つの状態の間で存在しているかいないか独自性のある標的遺伝子の場合に特に、標的遺伝子の発現に関するモジュレータのスクリーニングが行なわれる。
【0174】
好ましい一実施態様では、異なった発現をする遺伝子の発現産物の生物学的機能を変化させるためにスクリーニングを行なう。ここでも、特定の状態におけるある遺伝子の重要さを明らかにした後、その遺伝子産物と結合する薬剤および/またはその遺伝子産物の生物活性を変化させる薬剤のスクリーニングを行なうことができる。これについては以下にさらに詳しく説明する。
【0175】
したがってガンの表現型を遺伝子発現レベルまたはタンパク質レベルで変える薬剤候補のスクリーニングを行なうことができる。
【0176】
さらに、薬剤候補に応答して誘導される新規な遺伝子を探すのにスクリーニングを行なうことができる。薬剤候補を乳ガンおよび/または結腸直腸ガンの発現パターンを抑制して正常な発現パターンにする能力に基づいて同定した後、あるいは異なった発現をする単一の遺伝子の発現プロファイルを変化させて正常組織からの遺伝子の発現を模倣するようにした後、上記のスクリーニングを行なって、薬剤候補に応答して特異的に変化する遺伝子を同定する。正常組織と薬剤処理したガン組織で発現プロファイルを比較すると、正常組織またはガン組織では発現しないが、薬剤処理したガン組織では発現する遺伝子が明らかになる。薬剤特異的なこれらの配列は、異なった発現をする遺伝子またはタンパク質を探すためのこの明細書に記載した任意の方法によって同定し、使用することができる。特に、これらの配列と、これら配列がコードしているタンパク質は、薬剤処理した細胞を選定または同定するのに使用される。さらに、薬剤によって誘導されたタンパク質に対する抗体を発生させ、その抗体を用い、処理したガン細胞サンプルを新規な治療薬の標的にすることができる。
【0177】
したがって一実施態様では、薬剤候補を、乳ガンまたは結腸直腸ガンに関連した発現プロファイルを有する乳ガンまたは結腸直腸ガンの細胞群に投与する。“投与”または“接触”とは、この明細書では、薬剤候補を細胞に添加し、その薬剤候補が細胞に対して作用するようにすることを意味する。その場合、作用は、薬剤候補が取り込まれたことによる細胞内作用でも、あるいは細胞表面での作用でもよい。場合によっては、タンパク質性薬剤候補(すなわちペプチド)をコードしている核酸をウイルス構造体(例えばレトロウイルス構造体)に注入して細胞に添加しこのペプチドが発現するようにする。これについては、PCT US97/01019を参照のこと。なおこの文献の内容は、参考として明らかな形でこの明細書に組み込まれているものとする。
【0178】
薬剤候補を細胞に投与した後、望むのであれば細胞を洗浄し、好ましくは生理学的条件のもとでしばらくの時間培養する。次に細胞を回収し、この明細書に記載したようにして新しい遺伝子発現プロファイルを発生させる。
【0179】
したがって、例えば乳ガンまたは結腸直腸ガンの組織のスクリーニングを行ない、乳ガンまたは結腸直腸ガンの表現型を減らすか抑制する薬剤を探すことができる。発現プロファイルが少なくとも1つの遺伝子において変化したというのは、薬剤が、乳ガンまたは結腸直腸ガンの活性に影響を与えたことを示している。特定の表現型に対するこのような特徴を明らかにすることにより、表現型を変化させる新しい薬剤のスクリーニング法を考案することができる。この方法を用いる場合には、薬剤標的がわかっている必要はなく、薬剤標的が元のスクリーニング・プラットフォームにおいて提示される必要もなく、標的タンパク質に関する転写物のレベルが変化する必要もない。
【0180】
好ましい一実施態様では、上に説明したように、個々の遺伝子と遺伝子産物(タンパク質)に対してスクリーニングを行なうことができる。すなわち、特定の状態において異なった発現をする特定の遺伝子が重要であることが明らかになると、その遺伝子の発現またはその遺伝子産物そのもののモジュレータをスクリーニングすることができる。異なった発現をする遺伝子の遺伝子産物は、この明細書では、“異なった発現をするタンパク質”または“ガンを変化させるタンパク質”と呼ぶことがある。さらに、“モジュレータ”と“変化させる”タンパク質は、この明細書では同じ意味で用いることがある。一実施態様では、異なった発現をするタンパク質はCHA4である。別の実施態様では、異なった発現をするタンパク質はCBK8である。CHA4とCBK8の配列は、異なった発現をする配列についてこの明細書に記載したようにして同定することができる。一実施態様として、CHA4の配列を図1(配列ID番号8)と図2(配列ID番号10)に示してある。一実施態様として、CBK8の配列を図4(配列ID番号9)と図5(配列ID番号11)に示してある。異なった発現をするタンパク質は、断片でも、この明細書に示した断片に対する完全長のタンパク質でもよい。異なった発現をするタンパク質は、断片であることが好ましい。好ましい一実施態様では、配列の相同性または類似性を明らかにするのに用いるアミノ酸配列は、図2または図5に示したアミノ酸配列である。別の実施態様では、配列は、図2または図5に示した配列を有するタンパク質の天然の対立遺伝子変異体である。別の実施態様では、配列は、以下に説明する配列変異体である。
【0181】
異なった発現をするタンパク質は、長さが約14〜24個のアミノ酸からなる断片であることが好ましい。より好ましいのは、この断片が可溶性のある断片になっていることである。この断片は、膜貫通領域でない領域を含んでいることが好ましい。好ましい一実施態様では、断片は、溶けやすくするため、N末端にシステインを備えている。一実施態様では、システインと結合しやすいよう、断片のC末端は遊離可能な酸に、N末端は遊離可能なアミンになっている。長さが約14〜24個のアミノ酸からなる断片が好ましい。より好ましいのは、この断片が可溶性のある断片になっていることである。別の実施態様では、CHA4断片は、以下に説明するように、少なくとも1つのCHA4生物活性部または少なくとも1つのCBK8生物活性部を備えている。
【0182】
一実施態様では、異なった発現をするタンパク質を、この明細書に記載した免疫誘導剤と結合させる。一実施態様では、異なった発現をするタンパク質をBSAと結合させる。
【0183】
したがって好ましい一実施態様では、特定の遺伝子の発現に関するモジュレータのスクリーニングを行なうことができる。これは、上に説明したようにして行なわれるが、一般に、1つの遺伝子だけ、あるいは数個の遺伝子だけについて発現を評価する。
【0184】
好ましい一実施態様では、まず最初に、異なった発現をするタンパク質と結合できる薬剤候補群を発見し、次に、これら薬剤候補群を用い、異なった発現をするタンパク質の活性を変化させる薬剤候補の性能を評価するアッセイを行なう。したがって、当業者であればわかるように、実施可能な多数の異なったアッセイが存在している。具体的には、結合アッセイや活性アッセイが挙げられる。
【0185】
好ましい一実施態様では、結合アッセイを行なう。一般に、精製または単離した遺伝子産物を使用する。すなわち、異なった発現をする1つ以上の核酸の遺伝子産物を作る。一般に、これは従来技術で知られている方法を利用して行なう。例えば遺伝子産物であるタンパク質に対する抗体を発生させ、標準的なイムノアッセイを行なって存在しているタンパク質の量を明らかにする。また、異なった発現をするタンパク質を含む細胞をアッセイで用いることもできる。
【0186】
したがって好ましい一実施態様では、上記の方法は、異なった発現をするタンパク質と生物活性剤候補を混合し、異なった発現をするタンパク質に対する生物活性剤候補の結合を調べる操作を含んでいる。好ましい実施態様では異なった発現をするヒトのタンパク質を用いるが、例えばヒトの疾患に関するモデル動物を開発するために他の哺乳類のタンパク質を用いてもよい。いくつかの実施態様では、この明細書に記載したように、異なった発現をするタンパク質の変異体または誘導体を使用することができる。
【0187】
一般に、上記方法の好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質または薬剤候補を、拡散しないようにして、単離したサンプルの収容領域を有する不溶性支持体(例えば微小滴定プレート、アレイなど)と結合させる。また、従来技術で知られている可溶性アッセイも行なえることがわかる。不溶性支持体は、組成物が結合することができ、可溶性材料から容易に分離され、スクリーニング法全体との適合性がある任意の組成物で製造することができる。このような支持体の表面は硬くするか多孔性にすること、また、都合のよい任意の形状にすることができる。適切な不溶性支持体の具体例としては、微小滴定プレート、アレイ、膜、ビーズなどが挙げられる。これらは一般に、ガラス、プラスチック(例えばポリスチレン)、多糖、ナイロン、ニトロセルロース、テフロン(登録商標)などでできている。微小滴定プレートとアレイが特に好ましい。というのも、少量の試薬とサンプルを用いて多数のアッセイを同時に行なえるからである。組成物を結合させる方法は、試薬および本発明の方法全体との適合性があり、組成物の活性が維持され、組成物が拡散しない限りは重要ではない。好ましい結合法としては、(タンパク質が支持体と結合するときにリガンド結合部位または活性化配列を物理的に邪魔しない)抗体の利用、“粘着性”またはイオン性の支持体への直接的結合、化学的架橋、表面におけるタンパク質または薬剤の合成などが挙げられる。タンパク質または薬剤を結合させた後、結合しなかった過剰な材料を洗浄によって除去する。次に、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、その他の無害なタンパク質または部分のいずれかとともに培養することにより、サンプルの収容領域をブロックする。
【0188】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質を支持体に結合させ、生物活性剤候補を添加してアッセイを行なう。別の方法では、薬剤候補を支持体に結合させ、異なった発現をするタンパク質を添加する。新規な結合剤としては、特異的な抗体、化学物質のライブラリをスクリーニングすることによって同定された天然ではない結合剤、ペプチド類似体などが挙げられる。特に興味深いのは、ヒト細胞に対する毒性が少ない薬剤のスクリーニング・アッセイである。この目的でさまざまなアッセイを利用することができる。例えば、標識したインビトロでのタンパク質−タンパク質結合アッセイ、電気泳動移動度シフト・アッセイ、タンパク質の結合を調べるイムノアッセイ、機能アッセイ(リン酸化アッセイなど)などがある。
【0189】
生物活性剤候補が異なった発現をするタンパク質に結合したことを明らかにするには多数の方法がある。好ましい一実施態様では、生物活性剤候補を標識し、結合を直接調べる。例えばこれは、異なった発現をするタンパク質の全体または一部を固体支持体に結合させ、標識した薬剤候補(例えば蛍光標識)を添加し、過剰な試薬を洗浄によって除去し、標識が固体支持体表面に存在しているかどうかを明らかにすることによって実現することができる。従来技術で知られているように、さまざまなブロッキング・ステップと洗浄ステップを利用することができる。
【0190】
“標識した”とは、この明細書では、化合物が、検出可能な信号を出す標識(例えば放射性同位体、蛍光体、酵素、抗体、磁性粒子などの粒子、化学発光体、特異的な結合分子など)で直接的または間接的に標識されていることを意味する。特異的な結合分子としては、ビオチンとストレプトアビジン、ジゴキシンとアンチジゴキシンなどのペアが挙げられる。互いに特異的な結合をする要素の場合には、相補的な要素を、通常、上に説明したように、公知の方法により、検出できる分子で標識する。標識は、検出可能な信号を直接または間接に出すことができる。
【0191】
いくつかの実施態様では、1つの要素だけを標識する。例えば125Iまたは蛍光体を用いてタンパク質(またはタンパク質性薬剤候補)のチロシン位置を標識することができる。別の方法として、2つ以上の要素を異なる標識で標識することもできる。例えば、タンパク質には125Iを用い、薬剤候補には蛍光体を用いる。
【0192】
好ましい一実施態様では、競合結合アッセイを利用して生物活性剤候補の結合を調べる。この実施態様では、競合物は、標的分子(すなわち乳ガンまたは結腸直腸ガン)と結合することが知られている結合部分(抗体、ペプチド、結合パートナー、リガンドなど)である。場合によっては、生物活性剤と結合部分の間で競合的結合が起こり、結合部分が生物活性剤と置き換わることがある。
【0193】
一実施態様では、生物活性剤候補に標識する。生物活性剤候補または競合物、あるいはその両方をまず最初にタンパク質に対して十分な時間かけて添加し、結合が可能な場合には結合が起こるようにする。最適な活性が得られるような任意の温度(典型的には4〜40℃)で培養を行なう。培養時間は、活性が最適になるように決めるが、高速のハイスループット・スクリーニングを容易に行なうのに最適な時間になるようにもする。一般に0.1〜1時間あれば十分であろう。一般に、過剰な試薬を洗浄して除去する。次に、第2の要素を添加した後、結合を示す標識した要素が存在しているかどうかを調べる。
【0194】
好ましい一実施態様では、競合物をまず最初に添加した後、生物活性剤候補を添加する。競合物が置換されるというのは、生物活性剤候補が異なった発現をするタンパク質に結合し、したがって異なった発現をするタンパク質の活性を変える可能性があることを示している。この実施態様では、どちらかの要素を標識することができる。したがって、例えば競合物が標識されている場合には、洗浄液の中に標識が存在していることは、競合物が生物活性剤候補によって置換されたことを意味する。逆に生物活性剤候補が標識されている場合には、支持体表面に標識が存在していることが、置換を意味する。
【0195】
別の実施態様では、生物活性剤候補をまず最初に添加して培養し、洗浄した後、競合物を添加する。競合物が結合していないということは、生物活性剤候補が異なった発現をするタンパク質に対してより大きなアフィニティで結合していることを意味する。したがって、生物活性剤候補が標識されている場合には、支持体表面に標識が存在していることは、競合物の結合がないことと合わせて考えると、生物活性剤候補が異なった発現をするタンパク質と結合できることを示している可能性がある。
【0196】
好ましい一実施態様では、上記方法は、異なった発現をするタンパク質の活性を変化させることのできる生物活性剤を同定するためのディファレンシャル・スクリーニングを含んでいる。この実施態様では、上記方法は、異なった発現をするタンパク質と競合物を第1のサンプルの中で混合する操作を含んでいる。第2のサンプルは、生物活性剤候補と、異なった発現をするタンパク質と、競合物を含んでいる。競合物の結合を両方のサンプルで調べる。2つのサンプル間の変化または差が、異なった発現をするタンパク質に結合してそのタンパク質の活性を潜在的に変化させることのできる薬剤が存在していることを示す。すなわち、第2のサンプルにおける競合物の結合が第1のサンプルの場合と異なっている場合には、薬剤が異なった発現をするタンパク質と結合できる。
【0197】
また、好ましい一実施態様では、ディファレンシャル・スクリーニングを利用して、異なった発現をする元のタンパク質と結合するが、異なった発現をする修飾されたタンパク質とは結合できない薬剤候補を同定する。異なった発現をするタンパク質の構造をモデル化して合理的な薬剤設計に利用し、その部位と相互作用する薬剤を合成する。乳ガンまたは結腸直腸ガンに影響を与える薬剤候補も、薬剤をタンパク質の活性を上昇または低下させる能力に関してスクリーニングすることによって同定する。
【0198】
アッセイでは、正の対照と負の対照を利用することができる。すべての対照およびテストするサンプルは、少なくとも3回調べて統計的に有意な結果が得られるようにすることが好ましい。すべてのサンプルを、薬剤がタンパク質と結合するのに十分な時間にわたって培養する。培養後、全サンプルを洗浄して非特異的な結合をしている材料を除去し、結合の量(一般には標識した薬剤)を明らかにする。例えば放射性標識を使用する場合には、シンチレーション・カウンターでサンプルを計測することにより、結合した化合物の量を明らかにすることができる。
【0199】
スクリーニング・アッセイには、他のさまざまな試薬が含まれる可能性がある。試薬としては、例えば、タンパク質−タンパク質の結合を最適にするため、および/または非特異的相互作用または背景相互作用を減らすために用いることのできる塩、中性のタンパク質(例えばアルブミン)、洗浄剤などが挙げられる。アッセイの効率を改善する試薬(例えばプロテアーゼ阻害剤、ヌクレアーゼ阻害剤、抗微生物剤など)も使用することができる。複数の要素を任意の順番で添加し、必要な結合を得る。
【0200】
異なった発現をするタンパク質の活性を変化させる薬剤のスクリーニングを行なうこともできる。好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質の活性を変化させることのできる生物活性剤のスクリーニング法は、異なった発現をするタンパク質のサンプルに生物活性剤候補を上記のようにして添加し、異なった発現をするタンパク質における生物活性の変化を明らかにする操作を含んでいる。乳ガンおよび/または結腸直腸ガンの“活性を変化させる”という表現には、活性の上昇、活性の低下、存在している活性のタイプの変化が含まれる。したがってこの実施態様では、薬剤候補は、この明細書に記載したように、ガンのタンパク質に結合する(しかしこれは必要でないことがある)とともに、その生物活性または生化学活性を変化させねばならない。上記方法は、異なった発現をするタンパク質の存在、分布、活性、量のいずれかにおける変化を調べるために細胞に対して行なうインビトロでのスクリーニング(これについては上に大まかに説明した)と、インビボでのスクリーニングの両方の操作を含んでいる。
【0201】
したがってこの実施態様では、上記方法は、乳ガンまたは結腸直腸ガンのサンプルと生物活性剤候補を混合し、その生物活性剤候補がそれぞれ乳ガンまたは結腸直腸ガンの活性に及ぼす効果を評価する操作を含んでいる。“ガンの活性”またはこの明細書においてこれらの用語と文法的に等価な表現は、ガンの少なくとも1つの生物活性(例えば細胞分裂(好ましくは乳房組織または大腸組織における細胞分裂)、細胞増殖、腫瘍の成長、細胞の形質転換など)を意味する。別の実施態様では、ガンの活性に、CBK8の活性化、CBK8によるCBK8の基質の活性化のいずれかが含まれる。ガンの活性阻害剤は、ガンの任意の1つ以上の活性を抑制する薬剤である。
【0202】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質の活性が上昇する。別の好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質の活性が低下する。したがっていくつかの実施態様では、生物活性剤はアンタゴニストであることが好ましく、別の実施態様では、生物活性剤はアゴニストであることが好ましい。
【0203】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質の活性を変えることのできる生物活性剤のスクリーニング法が提供される。この方法は、上記のように、生物活性剤候補を、異なった発現をするタンパク質を含む細胞に添加する操作を含んでいる。好ましい細胞のタイプとしては、ほとんどすべての細胞が挙げられる。細胞は、異なった発現をするタンパク質をコードしている組み換え核酸を含んでいる。好ましい一実施態様では、薬剤候補のライブラリを複数の細胞でテストする。
【0204】
一実施態様では、生理学的信号(例えばホルモン、抗体、ペプチド、抗原、サイトカイン、増殖因子、作用電位、薬剤(例えば化学療法剤)、放射線、発ガン物質、他の細胞(すなわち細胞−細胞接触))の存在下または不在下で、あるいは生理学的信号に曝露する前または曝露した後に、アッセイを行なう。別の実施態様では、細胞サイクルの複数の異なった段階において測定を行なう。
【0205】
このようにして生物活性剤が同定される。薬理活性を有する化合物は、異なった発現をするタンパク質の活性を上昇または低下させることができる。一実施態様では、この明細書で用いられる“CHA4タンパク質の活性”に、ガンの活性、Ephファミリーの受容体チロシンキナーゼ(hekやelkなど)への結合、CHA4への結合、CHA4の活性化、CHA4によるCHA4の基質の活性化の少なくとも1つが含まれる。CHA4阻害剤は、CHA4の生物活性の少なくとも1つを抑制する。一実施態様では、この明細書で用いられる“CBK8タンパク質の活性”に、ガンの活性、細胞膜関連タンパク質への結合、細胞骨格タンパク質への結合、CBK8への結合、CBK8の活性化、CBK8によるCBK8の基質の活性化の少なくとも1つが含まれる。
【0206】
一実施態様では、乳ガンの細胞分裂を抑制する方法が提供される。この方法は、乳ガン阻害剤を投与する操作を含んでいる。別の実施態様では、結腸直腸ガンの細胞分裂を抑制する方法が提供される。この方法は、結腸直腸ガン阻害剤を投与する操作を含んでいる。
【0207】
別の実施態様では、腫瘍の成長を抑制する方法が提供される。この方法は、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンの阻害剤を投与する操作を含んでいる。好ましい一実施態様では、阻害剤はCHA4の阻害剤である。別の好ましい実施態様では、阻害剤はCBK8の阻害剤である。
【0208】
さらに別の実施態様では、ガン細胞またはガン患者の治療法が提供される。この方法は、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンの阻害剤を投与する操作を含んでいる。好ましい一実施態様では、阻害剤はCHA4の阻害剤である。別の好ましい実施態様では、阻害剤はCBK8の阻害剤である。
【0209】
一実施態様では、異なった発現をするタンパク質の阻害剤は上記の抗体である。別の実施態様では、阻害剤はアンチセンス分子である。この明細書におけるアンチセンス分子には、異なった発現をする分子にとっての標的となるmRNA配列(センス)またはDNA配列(アンチセンス)と結合することのできる一本鎖の核酸配列(RNAまたはDNA)を含むアンチセンス・オリゴヌクレオチドまたはセンス・オリゴヌクレオチドが含まれる。好ましいアンチセンス分子は、CHA4またはCBK8に対するもの、あるいはリガンドまたはそのアクチベータに対するものである。本発明のアンチセンス・オリゴヌクレオチドまたはセンス・オリゴヌクレオチドは、一般に少なくとも約14個のヌクレオチドからなる断片を含んでいる。ヌクレオチドの数は、約14〜30個であることが好ましい。所定のタンパク質をコードしているcDNA配列に基づいてアンチセンス・オリゴヌクレオチドまたはセンス・オリゴヌクレオチドを導出する方法は、例えば、SteinとCohen、Cancer Res.、第48巻、2659ページ、1988年と、van der Krol他、BioTechniques、第6巻、958ページ、1988年に記載されている。
【0210】
アンチセンス分子は、リガンド結合分子との複合体を形成することにより、標的ヌクレオチド配列を含む細胞に導入することができる。これについてはWO 91/04753に記載されている。適切なリガンド結合分子としては、細胞表面の受容体、増殖因子、他のサイトカイン、細胞表面の受容体と結合する他のリガンドなどが挙げられる。リガンド結合分子が複合体になった場合にも、リガンド結合分子が対応する分子または受容体に結合するのが妨げられたり、センス・オリゴヌクレオチドまたはアンチセンス・オリゴヌクレオチド、またはその複合体が細胞内に入るのが妨げられたりしないことが好ましい。また、センス・オリゴヌクレオチドまたはアンチセンス・オリゴヌクレオチドを、オリゴヌクレオチド−脂質複合体を形成することにより、標的核酸配列を含む細胞に導入することもできる。これについてはWO 90/10448に記載されている。上に説明したように、アンチセンス分子、ノックアウト・モデル、ノックイン・モデルを、治療法においてだけでなくスクリーニング・アッセイにおいても利用できることがわかる。
【0211】
望む薬理活性を有する化合物は、上に説明したように、生理学的に許容可能な基剤の中に入れて宿主に投与することができる。薬剤は、経口、非経口(例えば皮下、腹腔内、静脈内)など、さまざまな方法で投与することができる。導入法が何であるかに応じ、成分をさまざまな方法で製剤にすることができる。治療活性のある化合物の製剤中の濃度は、約0.1〜100重量%の間である。薬剤は、単独で、あるいは他の治療法(例えば放射線照射)と組み合わせて投与する。
【0212】
医薬組成物は、顆粒、錠剤、ピル、座薬、カプセル、懸濁液、軟膏、ローションなど、さまざまな形態に調製することができる。医薬品質の有機または無機の基剤、および/または経口または局所での利用に適した希釈剤を用い、治療活性のある化合物を含む組成物を作ることができる。公知の希釈剤としては、水性媒体、植物油、動物油、脂肪などが挙げられる。助剤として、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧を変化させる塩、十分なpH値を確保するための緩衝液、皮膚への浸透促進剤を使用することができる。
【0213】
理論に囚われないとすると、異なった発現をするさまざまな配列が乳ガンおよび/または結腸直腸ガンにおいて重要であるらしい。したがって、ガン遺伝子の突然変異体または変異体が原因となった疾患を明らかにすることができる。一実施態様では、ガン遺伝子変異体を含む細胞を同定する方法であって、細胞中の少なくとも1つの内在性ガン遺伝子の配列の全体または一部を明らかにする操作を含む方法が提供される。当業者であればわかるように、これは、任意の数のスクリーニング法を利用して実現することができる。好ましい一実施態様では、個人のガンの表現型を同定する方法であって、その人の少なくとも1つのガン遺伝子の配列の全体または一部を明らかにする操作を含む方法が提供される。これは、一般に、その人の少なくとも1つの組織においてなされるが、多数の組織を評価する操作、または同じ組織の異なったサンプルを評価する操作がこの方法に含まれていてもよい。この方法は、シークエンシングされた遺伝子の配列を既知の遺伝子(すなわち野生型遺伝子)と比較する操作を含むことができる。
【0214】
次に、異なった発現をするタンパク質の全体または一部の配列を、異なった発現をする既知の遺伝子の配列と比較し、何らかの違いが存在しているかどうかを明らかにすることができる。これは、多数ある公知の相同性プログラムのうちの任意の方法(例えばBestfit)で実現することができる。好ましい一実施態様では、患者の異なった発現をする遺伝子と異なった発現をする既知の遺伝子で配列に違いがあるということが、すでに説明したように、疾患状態であること、または疾患状態への傾向があることを示している。
【0215】
好ましい一実施態様では、異なった発現をする遺伝子をプローブとして用い、ゲノム中の異なった発現をする遺伝子の複製数を明らかにする。
【0216】
別の好ましい実施態様では、異なった発現をする遺伝子をプローブとして用い、異なった発現をする遺伝子がどの染色体にの局在しているかを明らかにする。どの染色体に局在しているかなどの情報は、特に染色体異常(例えば転座)などが異なった発現をする遺伝子の遺伝子座において同定されたとき、診断または予後診断に用いられる。
【0217】
したがって一実施態様では、細胞または生物の乳ガンおよび/または結腸直腸ガンを変化させる方法が提供される。一実施態様では、この方法は、異なった発現をする内在性タンパク質の生物活性を低下または消滅させる抗体を細胞に投与する操作を含んでいる。また、この方法は、異なった発現をするタンパク質をコードしている組み換え核酸を細胞に投与する操作を含んでいる。当業者であればわかるように、これは、多数ある方法のうちの任意の方法で実現することができる。好ましい一実施態様では、例えば異なった発現をする配列がガンにおいて下方調節されている場合には、例えば内在性タンパク質を過剰発現させることにより、あるいはその配列をコードしている遺伝子を既知の遺伝子治療法を利用して投与することにより細胞内の異なった発現をするタンパク質の量を増やすことで、異なった発現をする遺伝子の活性を上昇させる。好ましい一実施態様では、遺伝子治療法として、増強された相同的組み換え(EHR)を利用した外来性遺伝子の組み込みがある。この方法は例えばPCT/US93/03868に記載されており、その全体が参考としてこの明細書に内容が組み込まれているものとする。また、例えば異なった発現をする配列がガンにおいて上方調節されている場合には、例えばアンチセンス核酸などのガン阻害剤を投与することによって内在性遺伝子の活性を低下させる。
【0218】
一実施態様では、この明細書に記載してあるように、異なった発現をする本発明のタンパク質を用い、異なった発現をするタンパク質に対する有用なポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を発生させることができる。同様に、標準的な方法を利用し、異なった発現をするタンパク質をアフィニティ・クロマトグラフィのカラムと結合させることができる。次にこのカラムを用いて異なった発現をする抗体を精製する。好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質に独特のエピトープに対する抗体を生成させる。つまりこの抗体は、他のタンパク質に対して交差反応性をほとんど示さないか、まったく示さない。この抗体には多数の用途がある。例えば異なった発現をする抗体を標準的なアフィニティ・クロマトグラフィのカラムに結合させ、異なった発現をするタンパク質を精製するのに用いる。この抗体は、上に説明したように、ポリペプチドをブロックするのにも用いることができる。というのも、この抗体は異なった発現をするタンパク質と特異的に結合するはずだからである。
【0219】
一実施態様では、異なった発現をする核酸または異なった発現をするタンパク質、またはそのモジュレータを患者に対して治療に有効な量だけ投与する。“治療に有効な量”とは、この明細書では、投与された対象に効果を引き起こす投与量のことを意味する。正確な投与量は治療目的によって異なるであろうが、当業者であれば、公知の方法で確認することができよう。従来技術で知られているように、分解の調節、全身に供給するか局所的に供給するか、新しいプロテアーゼの合成速度といった情報のほか、年齢、体重、全身の健康状態、性別、食事、投与時刻、薬剤相互作用、疾患の程度が必要となる可能性があるが、当業者であれば、定型的な実験によって確認することができよう。
【0220】
本発明が対象とする“患者”には、ヒトと、その他の動物(特に哺乳類)や生物の両方が含まれる。したがって本発明の方法は、ヒトの治療と動物の治療に適用することができる。好ましい一実施態様では、患者は哺乳類であり、たいていの好ましい実施態様では、患者はヒトである。
【0221】
異なった発現をする本発明のタンパク質と本発明によるモジュレータの投与は、上に説明したように、さまざまな方法で行なうことができる。例えば、経口、皮下、静脈内、鼻孔内、経皮、腹腔内、筋肉内、肺内、膣、直腸、眼内などの経路が挙げられる。例えば傷や炎症の治療を行なうような場合には、異なった発現をするタンパク質とモジュレータを溶液またはスプレーとして直接投与することができる。
【0222】
本発明の医薬組成物は、異なった発現をするタンパク質を、患者に投与するのに適した形態で含んでいる。好ましい一実施態様では、医薬組成物は、水溶性の形態であり、薬理学的に許容可能な塩などになっている。この塩は、酸添加塩と塩基添加塩の両方を意味する。“薬理学的に許容可能な酸添加塩”とは、遊離塩基の生物学的効果を保持しているが、生物学的に、あるいはそれ以外に望ましくないものではない塩を意味し、無機酸(塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸など)と、有機酸(酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸など)で形成される。
【0223】
“薬理学的に許容可能な塩基添加塩”としては、無機塩基から誘導された塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、マンガン塩、アルミニウム塩など)が挙げられる。特に好ましいのは、アンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩である。薬理学的に許容可能な非毒性の有機塩としては、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、置換されたアミン(置換された天然のアミンを含む)、環状アミン、塩基性イオン交換樹脂(イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エタノールアミン)の塩が挙げられる。
【0224】
医薬組成物は、担体タンパク質(例えば血清アルブミン);緩衝液;充填剤(例えば微小結晶セルロース、ラクトース、トウモロコシその他のデンプン);結合剤;甘味剤その他の着香料;着色剤;ポリエチレングリコールのうちの1つ以上を含んでいてもよい。添加剤は従来技術において周知であり、さまざまな製剤において使用される。
【0225】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質とモジュレータを治療剤として投与する。異なった発現をするタンパク質とモジュレータは、上記のようにして製剤にすることができる。同様に、異なった発現をする遺伝子(完全長の配列、部分配列、異なった発現をするコード領域の調節配列がすべて含まれる)は、従来技術で知られているように、遺伝子療法において投与することができる。異なった発現をする遺伝子は、当業者であればわかるように、遺伝子治療(すなわちゲノムへの組み込み)とアンチセンス組成物など、アンチセンスの用途がある。
【0226】
好ましい一実施態様では、異なった発現をする遺伝子を、単一遺伝子の状態で、あるいは複数の遺伝子を組み合わせた状態で、DNAワクチンとして投与する。生のDNAワクチンが従来技術において周知である(Brower、Nature Biotechnology、第16巻、1304〜1305ページ、1998年)。
【0227】
一実施態様では、異なった発現をする本発明の遺伝子をDNAワクチンとして用いる。遺伝子をDNAワクチンとして用いる方法は当業者には周知であり、異なった発現をする遺伝子またはその一部を、発現プロモータの制御下で、乳ガンまたは結腸直腸ガンの患者に入れる操作を含んでいる。DNAワクチンに使用される異なった発現をする遺伝子は、異なった発現をする完全長のタンパク質をコードすることができるが、より好ましいのは、異なった発現をするタンパク質の一部で、異なった発現をするタンパク質に由来するペプチドを含む部分をコードしていることである。好ましい一実施態様では、異なった発現をする遺伝子に由来する複数のヌクレオチド配列を含むDNAワクチンを用いて患者を免疫化する。同様に、明細書に記載したように、異なった発現をする複数の遺伝子またはその一部を用いて患者を免疫化することも可能である。理論に囚われないとすると、異なった発現をするタンパク質を発現する細胞を認識して破壊または除去するDNAワクチン、細胞毒性T細胞、ヘルパーT細胞、抗体によってコードされているポリペプチドの発現が誘導される。
【0228】
好ましい一実施態様では、DNAワクチンは、DNAワクチンに対するアジュバント分子をコードしている遺伝子を含んでいる。そのようなアジュバント分子としては、DNAワクチンによってコードされている異なった発現をするポリペプチドに対する免疫応答を増加させるサイトカインが挙げられる。追加のアジュバントまたは代わりのアジュバントも当業者に知られており、それを本発明で使用することができる。
【0229】
別の好ましい実施態様では、異なった発現をする遺伝子を、ガンのモデル動物を作るのに用いる。当業者であればわかるように、例えば同定されたガン遺伝子をガン組織において抑制したり減少させたりする場合には、アンチセンスRNAをガン遺伝子に到達させる遺伝子治療によっても遺伝子の発現が低下したり抑制されたりするであろう。このようにして作られた動物は、生物活性薬剤候補のスクリーニングに用いられるモデル動物として機能する。同様に、遺伝子ノックアウト技術により、例えば適切な遺伝子ターゲティング・ベクターとの間で相同的組み換えが起こる結果、ガン・タンパク質が消えるであろう。望むのであれば、ガン・タンパク質の組織特異的発現またはノックアウトが必要になる可能性がある。
【0230】
異なった発現をするタンパク質が乳ガンおよび/または結腸直腸ガンで過剰発現していることもありうる。そのような場合、異なった発現をするタンパク質を過剰発現するトランスジェニック動物を作ることができる。望む発現レベルがどの程度であるかに応じ、さまざまな強さのプロモータを用いて導入遺伝子を発現させることができる。また、一体化された導入遺伝子の複製数を明らかにして比較することにより、導入遺伝子の発現レベルを明らかにすることもできる。このような方法で作られた動物は、異なった発現をする動物としての用途があるだけでなく、異なった発現をするタンパク質と関係した疾患を治療するための生物活性分子のスクリーニングにも役に立つ。
【0231】
この明細書に記載した実施例は、本発明の範囲を制限するためのものではなく、説明のために提示されている。この明細書で引用したすべての参考文献と登録番号付きの配列は、参考としてその全体がこの明細書に組み込まれているものとする。
【0232】
実施例
実施例1
オリゴヌクレオチド・アレイに対するcDNAのハイブリダイゼーション
このプロトコルは、オリゴヌクレオチド・アレイにハイブリダイズさせるため、RNAを精製し、RNAに標識を付ける方法を説明している。全RNAを細胞または組織から精製し、二本鎖cDNAをRNAから調製し、そのcDNAを精製し、次いでインビトロでの転写(IVT)反応の間にそのcDNAをビオチンで標識し、IVT反応の間に調製したそのcDNAを精製し、断片化し、オリゴヌクレオチド・アレイにハイブリダイズさせる。
【0233】
細胞または組織からの全RNAの精製
均一化
組織ホモジナイザー(プローブ9100072に適合したポリトンPT3100、キネマティカ社)を、使用する前に石鹸水できれいにし、完全にゆすいだ。このホモジナイザーをエタノール中で作動させることによって減菌した後、少なくとも3mlのTRIzol試薬(ライフ・テクノロジー/ギブコBRL社)の中でこのホモジナイザーを作動させた。
【0234】
組織の重量を評価する。組織サンプルを、組織50mgにつきTRIzolを1mlの割合にしたTRIzolの中で均一化する。実験モデル系に由来する細胞をRNA源として使用する場合には、5〜10×106個の細胞につきTRIzolを1ml使用する。組織または細胞を完全に均一化する。
【0235】
各サンプルを均一化した後、プローブを少なくとも3mlの新鮮なTRIzolの中に入れ、次いでこのTRIzolを均一化したサンプルの中に添加する。RNアーゼを含まない少なくとも50mlの新鮮な水でプローブを洗浄した後、次のサンプルの処理に移る。
【0236】
RNAの単離
サンプルを均一化した後、マイクロフュージの中で12000×gで4℃にて10分間にわたって(マイクロフュージ管)、あるいはソルヴォール遠心分離機(ソルヴォール遠心分離機RT7プラス)の中で4000RPMで4℃にて60分間にわたって(15mlの円錐形の管)、サンプルを遠心分離する。
【0237】
上清1mlを新しいマイクロフュージ管に移す。直鎖状のアクリルアミド0.5μlを添加し、室温で4分間にわたって培養する。残った透明なホモジネートを−20℃以下で保管する。クロロホルム0.2mlを添加する。管をひっくり返して15秒間にわたってはげしく振り、サンプルを完全に混合する。サンプルを室温にて5分間にわたって培養する。12000×gで4℃にて15分間にわたって遠心分離する。
【0238】
(表面の透明な)水層を新しいマイクロフュージ管に移す。そのとき、水層/有機層の境界にある物質が一切除去されないように注意する。イソプパノール0.5mlを添加し、2秒間撹拌し、室温にて10分間にわたって培養する。10000×gで4℃にて10分間にわたって遠心分離する。
【0239】
上清を捨て、冷たい75%エタノールを1ml添加し、ペレットをバラバラにするために管をひっくり返し、7500×gで4℃にて5分間にわたって遠心分離する。
【0240】
上清を捨て、マイクロフュージの中で軽く遠心分離し、ピペットを用いてペレットから残留しているエタノール洗浄液を取り除く。ペレットを換気式フードの中で室温にて少なくとも10分間乾燥させる。
【0241】
RNAペレットをRNアーゼを含まない水50μlの中に再び分散させる。撹拌する。65℃にて10分間にわたって培養し、3秒間撹拌し、ペレットを再び分散させ、軽く遠心分離してサンプルをマイクロフュージ管の底部に集める。
【0242】
RNAの定量と品質制御
RNAサンプル1μlを用いて分光器でRNAを定量する。260nmと280nmにおける光学密度の読み取り値の比は、1.4〜2.0ODの範囲に収まっていなくてはならない。RNAサンプル250〜500ngを用いて1%アガロースゲル上で電気泳動を行ない、28S RNA、18S RNA、5S RNAが完全な状態であるかどうかを調べる。RNAの消失は最小でなくてはならず、RNAの分子量が小さくなるようなバイアスがかかっていてもならない。
【0243】
RNAの精製
100μg以下のRNAをRNeasyカラム(キアジェン社)を用いて精製する。製造者の指示に従ってRNAを精製する。RNアーゼを含まない水を用いてサンプルの体積を100μlにする。サンプルに対し、緩衝液RLTを350μl添加し、次いでエタノールを250μl添加する。サンプルをペットで軽く混合した後、RNeasyカラムに付着させる。マイクロフュージの中で10000RPMにて15秒間にわたって遠心分離する。
【0244】
カラムを新しい2mlの回収管に移す。緩衝液RLTを500μl添加し、再び10000RPMにて15秒間にわたって遠心分離する。
【0245】
フロースルーを捨てる。緩衝液RPEを500μl添加し、10000RPMにて15秒間にわたって遠心分離する。
【0246】
フロースルーを捨てる。15000RPMにて2分間にわたって遠心分離し、カラムを乾燥させる。
【0247】
カラムを新しい1.5mlの回収管に移し、RNアーゼを含まない30〜40μlの水をカラム膜に直接添加する。カラムを1分間放置した後、10000RPMにて遠心分離する。RNアーゼを含まない新たな30〜40μlの水を用いて溶離を繰り返す。RNAを−20℃以下の温度で保管する。
【0248】
ポリA+RNAの調製
望むのであれば、オリゴテックスmRNA精製システム(キアジェン社)を製造者の指示に従って用いることにより、全RNAからポリA+RNAを精製することができる。cDNAの合成に移る前に、ポリA+RNAをエタノールで沈殿させて再び分散させておく必要がある。というのも、オリゴテックス・システムを用いた方法では試薬がポリA+RNAの中に残り、下流での反応が抑制されるからである。
【0249】
cDNAの合成
cDNAを合成するための試薬を、cDNA合成キット(ギブコBRL社)のためのスーパースクリプト選択系から取得する。
【0250】
cDNAの合成に使用するためにRNAのアリコートを作る前に、RNAを2分間にわたって70℃に加熱し、プラスチック管に付着しているRNAを除去する。RNAを撹拌し、マイクロフュージの中で軽く遠心分離した後、アリコートを取り出すときまで室温で保管する。
【0251】
出発材料として、合計で5〜10μgのRNA、または1μgのポリA+RNAを用いる。
【0252】
プライマーとRNAを混合する
全RNA 5〜10μg
T7−(dT)24プライマー(100ピコモル/μl) 1μl(2μg/μl)
水を添加して合計体積を11μlにする。
【0253】
10分間にわたって70℃に加熱する。2分間にわたって氷の上に置く。
【0254】
第1の鎖の合成反応
以下に示す第1の鎖反応混合物7μlを、それぞれのRNA−プライマー・サンプルに添加する:
5×第1の鎖緩衝液 4μl(最終濃度:1×)
0.1MのDTT 2μl(最終濃度:0.01M)
10mMのdNTP 1μl(最終濃度:0.5mM)。
【0255】
サンプルを37℃で2分間にわたって培養する。
【0256】
それぞれのサンプルに、
スーパースクリプトII逆転写酵素 2μl
を添加する。
【0257】
サンプルを37℃で1時間にわたって培養した後、氷の上に置く。
【0258】
第2の鎖cDNAの合成反応
それぞれのサンプルについて、以下の第2の鎖反応混合物を調製する:
DEPC水 91μl
5×第2の鎖緩衝液 30μl(最終濃度:1×)
10mMのdNTP 3μl(最終濃度:0.2mM)
大腸菌のDNAリガーゼ(10U/μl) 1μl
大腸菌のDNAポリメラーゼ(10U/μl) 4μl
大腸菌のRNアーゼH(2U/μl) 1μl
【0259】
サンプル1つ当たりの第2の鎖反応混合物の合計体積は130μlである。この混合物を第1の鎖cDNA合成サンプルに添加する。
【0260】
16℃にて2時間にわたって培養する。T4 DNAポリメラーゼを2μl添加し、16℃にて4分間にわたって培養する。0.5MのEDTAを10μl添加して反応を停止させ、試験管を氷の上に置く。
【0261】
cDNAの精製
フェイズ・ロック・ゲル・ライト管(エッペンドルフ社)を用いてcDNAを精製する。
【0262】
フェイズ・ロック・ゲル・ライト管を15000RPMで1分間回転させる。cDNAサンプルを添加する。pH8のフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1)を等量添加し、激しく揺すった後、15000RPMで5分間にわたって遠心分離する。
【0263】
表面層(水層)を新しいマイクロフュージ管に移す。1容積の5M NH4OAcと2.5容積の冷たい(−20℃)100%エタノールを添加することにより、DNAを沈殿させる。撹拌した後、16℃にて15000RPMで30分間にわたって遠心分離する。
【0264】
cDNAペレットから上清を除去した後、ペレットを500μlの冷たい(−20℃)80%エタノールで洗浄する。サンプルを16℃にて15000RPMで5分間にわたって遠心分離する。上清を除去し、80%エタノールによる洗浄をもう一回行なった後、ペレットを大気中で乾燥させる。ペレットをRNアーゼを含まない3μlの水に再び分散させる。
【0265】
インビトロでの転写(IVT)と、ビオチンによる標識
特に断わらない限り、T7メガスクリプト・キット(アンビオン社)からの試薬を用いてインビトロでの転写を行なう。
【0266】
cDNAを1.5μlのアリコートにしてRNアーゼを含まない壁面の薄いPCR管に入れ、氷の上に置く。
【0267】
以下のIVT混合物を室温にて調製する:
T7 10×ATP(75mM) 2μl
T7 10×GTP(75mM) 2μl
T7 10×CTP(75mM) 1.5μl
T7 10×UTP(75mM) 1.5μl
ビオ−11−UTP(10mM) 3.75μl(ベーリンガー・マンハイム社またはエンゾ・ディアグノスティックス社)
ビオ−16−CTP(10mM) 3.75μl(エンゾ・ディアグノスティックス社)
T7緩衝液(10×) 2μl
T7酵素混合物(10×) 2μl。
【0268】
cDNAを氷から取り出し、IVT混合物18.5μlをそれぞれのcDNAサンプルに添加する。サンプルの最終容積は20μlである。
【0269】
PCR装置の中で37℃にて6時間にわたって培養を行なう。そのとき、濃縮が起こらないよう、加熱した蓋を用いる。
【0270】
標識したIVT産物の精製
RNeasyカラム(キアジェン社)を用いてIVT産物を精製する。製造者の指示に従う、あるいは上記の“RNeasyキットを用いたRNAの精製”の項を参照する。
【0271】
RNアーゼを含まない20〜30μlの水を用いてIVT産物を溶離させる。光学密度を読み取ることにより、IVTの収量を明らかにする。サンプルの濃度が0.4μg/μl未満である場合には、サンプルをエタノールで沈殿させ、以前よりも少ない体積の中に再び分散させる。
【0272】
cDNAの断片化
cDNAを1.5μgのアリコート(最大容積16μl)にして、マイクロフュージ管に入れる。cDNAを8μl使用するごとに5×断片化緩衝液を2μl添加する。
【0273】
5×断片化緩衝液:
100mMのトリス酢酸、pH8.1
500mMの酢酸カリウム
150mMの酢酸マグネシウム。
【0274】
95℃にて35分間にわたって培養する。軽く遠心分離し、氷の上に置く。
【0275】
オリゴヌクレオチド・アレイに対するcRNAのハイブリダイゼーション
合計で300μlのハイブリダイゼーション溶液の中で10〜15μgのcRNAを用いる。以下のようなハイブリダイゼーション溶液を調製する:
断片化したcDNA(15μg) 20μl
948−b対照用オリゴヌクレオチド(アフィメトリックス社)50pM
ビオB対照用cDNA(アフィメトリックス社) 1.5pM
ビオC対照用cDNA(アフィメトリックス社) 5pM
ビオD対照用cDNA(アフィメトリックス社) 25pM
CRE対照用cDNA(アフィメトリックス社) 100pM
ニシン精子のDNA(10mg/ml) 3μl
ウシ血清アルブミン(50mg/ml) 3μl
2×MES 150μl
RNアーゼを含まない水 118μl。
【0276】
実施例2
オリゴヌクレオチド・アレイへのハイブリダイゼーション
この方法により、2つの異なった供給源からのRNA(例えば、腫瘍組織から調製されたRNAと、正常組織から調製されたRNA)を同じオリゴヌクレオチド・アレイの上で比較することができる。この方法の出発材料は、上記の実施例1で調製したIVT産物である。cRNAを、dUTPと結合したCy3(サンプル1)またはCy5(サンプル2)の存在下で逆転写する。2つのサンプルに標識した後、RNAを分解させ、サンプルを精製し、dUTPと結合したCy3とCy5を回収する。異なった標識を有するサンプルを混合し、cDNAをさらに精製し、長さが100bp未満の断片を除去する。次にサンプルを断片化し、オリゴヌクレオチド・アレイにハイブリダイズさせる。
【0277】
cRNAの標識
RNアーゼを含まない壁面の薄いPCR管の中で反応混合物を調製する。上記の実施例1で調製したビオチニル化されていないIVT産物を用いる。このIVT産物は、DNAから調製することもできる。
IVT cRNA 4μg
ランダムな6量体(μg/μl) 4μl
RNアーゼを含まない水を添加して合計体積を14μlにする。
【0278】
70℃にて10分間にわたって培養した後、氷の上に置く。
【0279】
アマーシャム・ファルマシア・バイオテック社から入手した複数のNTPを混合することにより、50×dNTP混合物を調製する:
100mMのdATP 25μl(最終濃度:25mM)
100mMのdCTP 25μl(最終濃度:25mM)
100mMのdGTP 25μl(最終濃度:25mM)
100mMのdTTP 10μl(最終濃度:10mM)
RNアーゼを含まない水 15μl。
【0280】
cDNA合成キット(ギブコBRL社)のためのスーパースクリプト選択系から取得した以下の試薬をIVT−ランダム6量体混合物に添加することにより、IVT産物上で逆転写を行なう。
5×第1の鎖緩衝液 6μl
0.1MのDTT 3μl
50×dNTP混合物 0.6μl(上記のようにして調製)
RNアーゼを含まない水 2.4μl
Cy3−dUTPまたはCy5−dUTP(1mM) 3μl(アマーシャム・ファルマシア・バイオテック社)
スーパースクリプトII逆転写酵素1μl
【0281】
42℃にて30分間にわたって培養する。
【0282】
スーパースクリプトII逆転写酵素1μlを添加し、42℃にて1時間にわたって反応を行なわせる。
【0283】
反応混合物を氷の上に置く。
【0284】
RNAの分解
0.1MのNaOHと2mMのEDTAからなる分解緩衝液を調製する。標識した上記cDNA混合物に
分解緩衝液 1.5μl
を添加する。
【0285】
65℃にて10分間にわたって培養する。
【0286】
Cy3−dUTPとCy5−dUTPの回収
それぞれのサンプルを500μlのTEと混合し、マイクロコン30カラムに付着させる。カラムをマイクロフージの中で10分間にわたって10000RPMで回転させる。カラムの流動物に含まれるCy3−dUTPとCy5−dUTPをリサイクルする。カラムに残っている濃縮サンプルを用いてプロトコルを実行する。
【0287】
cDNAの精製
キアクイックPCR精製キット(キアジェン社)を製造者の指示に従って使用し、cDNAを精製する。
【0288】
同じチップ上で比較することになるCy3で標識したサンプルとCy5で標識したサンプルを混合する。
3MのNaOAc 2μl
緩衝液PB 5容積
を添加する。
【0289】
サンプルをキアクイック・カラムに付着させる。マイクロジュージの中で10000×gにて10分間にわたって回転させる。フロースルーを捨て、カラムに緩衝液PBを750μl添加する。10000×gで1分間にわたって遠心分離する。フロースルーを捨てる。最高速度で1分間にわたって回転させ、カラムを乾燥させる。
【0290】
30μlの緩衝液PBを膜に添加する。1分間待つ。10000×gでの遠心分離を1分未満行なう。
【0291】
断片化
以下の断片化緩衝液を調製する:
DNアーゼI 1μl(アンビオン社)
1×第1の鎖緩衝液 99μl(ギブコBRL社)。
【0292】
それぞれのサンプルに断片化緩衝液を1μl添加する。37℃にて15分間にわたって培養する。95℃にて5分間にわたって培養し、DNアーゼを熱で不活性化する。
【0293】
サンプルを真空中で回転させ、完全に乾燥させる。
【0294】
ハイブリダイゼーション
乾燥したサンプルを、以下のハイブリダイゼーション混合物の中に再び分散させる:
50×dNTP 1μl
20×SSC 2.3μl
ピロリン酸ナトリウム(200mM) 7.5μl
ニシン精子のDNA(1mg/ml) 1μl。
【0295】
サンプルを撹拌し、軽く遠心分離し、
1%SDS 3μl
を添加する。
【0296】
95℃にて2〜3分間にわたって培養し、冷却して20分間にわたって室温にする。
【0297】
サンプルを一晩かけてオリゴヌクレオチド・アレイとハイブリダイズさせる。オリゴヌクレオチドが50量体である場合には、サンプルを65℃にてハイブリダイズさせる。オリゴヌクレオチドが30量体である場合には、サンプルを57℃にてハイブリダイズさせる。
【0298】
ハイブリダイゼーション後の洗浄
最初の洗浄: スライドを緩衝液1の中で65℃にて1分間にわたって洗浄する
2回目の洗浄: スライドを緩衝液2の中で室温にて5分間にわたって洗浄する
3回目の洗浄: スライドを緩衝液2の中で室温にて5分間にわたって洗浄する。
緩衝液1:
3×SSC、0.03%SDS
緩衝液2:
1×SSC
緩衝液3:
0.2×SSC。
【0299】
洗浄を3回行なった後、スライドを遠心分離により乾燥させ、次いで適切なレーザー出力と光電子増倍管の利得を利用してスライドのスキャニングを行なう。
【0300】
実施例3
ここでは、発現に関する研究を、実質的に上記のようにして行なった。バイオチップは、登録番号T32108および/または登録番号AW136973で示した配列をプローブとして含んでいた。
【0301】
図3A〜図3Dに示したように、CHA4は、乳ガン組織(3A)および大腸ガン組織(3B)においては、副腎、大動脈、大動脈弁、動脈、膀胱、骨髄、脳、乳房、CD14+単球、CD14−細胞、大腸上皮細胞、子宮頸管、大腸、横隔膜、食道、胆嚢、心臓、腎臓、肝臓、肺、リンパ節、筋肉、迷走神経、網、卵巣、膵臓、前立腺、直腸、唾液腺、皮膚、小腸、回腸、空腸、脊髄、脾臓、胃、精巣、胸腺、甲状腺、気管、尿道、子宮、静脈/大静脈の正常な組織における発現(3C、3D)と比べて上方調節されている。
【0302】
図6A〜図6Cに示したように、CBK8は、大腸ガン組織(6A)(原発腫瘍組織(黒棒)と転移組織(白棒)を含む)においては、副腎、大動脈、大動脈弁、動脈、膀胱、骨髄、脳、乳房、大腸上皮細胞(CEP)、子宮頸管、大腸、横隔膜、食道、胆嚢、心臓、腎臓、肝臓、肺、リンパ節、筋肉、子宮、膵臓、前立腺、直腸、唾液腺、皮膚、小腸、回腸、空腸、脊髄、脾臓、胃、精巣、胸腺、甲状腺、気管、尿道、子宮の正常な組織における発現(6B、6C)と比べて上方調節されている。
【図面の簡単な説明】
【図1】
この明細書に提示した異なった発現をするタンパク質CHA4をコードしている配列を含む核酸(配列ID番号8)(mRNA)の一実施態様である。開始コドン(ATG)と終止コドン(TAG)に下線が引いてある。
【図2】
CHA4のアミノ酸配列(配列ID番号10)の一実施態様である。
【図3A】
乳ガン組織(3A)、結腸直腸ガン組織(原発性腫瘍(黒棒)と転移組織(白棒)が含まれる)(3B)、正常タイプのいくつかの組織(3C、3D)からのサンプルにおけるCHA4の相対発現量を示している。CHA4は、乳ガン組織と結腸直腸ガン組織では、正常組織と比べて上方調節されている。
【図3B】
乳ガン組織(3A)、結腸直腸ガン組織(原発性腫瘍(黒棒)と転移組織(白棒)が含まれる)(3B)、正常タイプのいくつかの組織(3C、3D)からのサンプルにおけるCHA4の相対発現量を示している。CHA4は、乳ガン組織と結腸直腸ガン組織では、正常組織と比べて上方調節されている。
【図3C】
乳ガン組織(3A)、結腸直腸ガン組織(原発性腫瘍(黒棒)と転移組織(白棒)が含まれる)(3B)、正常タイプのいくつかの組織(3C、3D)からのサンプルにおけるCHA4の相対発現量を示している。CHA4は、乳ガン組織と結腸直腸ガン組織では、正常組織と比べて上方調節されている。
【図3D】
乳ガン組織(3A)、結腸直腸ガン組織(原発性腫瘍(黒棒)と転移組織(白棒)が含まれる)(3B)、正常タイプのいくつかの組織(3C、3D)からのサンプルにおけるCHA4の相対発現量を示している。CHA4は、乳ガン組織と結腸直腸ガン組織では、正常組織と比べて上方調節されている。
【図4】
この明細書に提示した結腸直腸ガンタンパク質CBK8をコードしている配列を含む核酸(配列ID番号9)(mRNA)の一実施態様である。開始コドン(ATG)と終止コドン(TAA)に下線が引いてある。太字の配列は、登録番号AW136973(配列ID番号2)と実質的に相補的になっている。
【図5】
CBK8のアミノ酸配列(配列ID番号11)の一実施態様である。太字で示した2つの配列のそれぞれは、バンド4.1ドメインに対応している。下線を引いた配列は、プレックストリン・ドメインに対応している。
【図6A】
異なるいくつかの結腸直腸ガン組織サンプル(原発性腫瘍サンプル(黒棒)と転移組織サンプル(白棒)が含まれる)(図6A)、さまざまな正常タイプの組織(図6B、図6C)におけるCBK8の相対発現量を示している。CBK8は、結腸直腸ガン組織では、正常組織と比べて過剰発現している。
【図6B】
異なるいくつかの結腸直腸ガン組織サンプル(原発性腫瘍サンプル(黒棒)と転移組織サンプル(白棒)が含まれる)(図6A)、さまざまな正常タイプの組織(図6B、図6C)におけるCBK8の相対発現量を示している。CBK8は、結腸直腸ガン組織では、正常組織と比べて過剰発現している。
【図6C】
異なるいくつかの結腸直腸ガン組織サンプル(原発性腫瘍サンプル(黒棒)と転移組織サンプル(白棒)が含まれる)(図6A)、さまざまな正常タイプの組織(図6B、図6C)におけるCBK8の相対発現量を示している。CBK8は、結腸直腸ガン組織では、正常組織と比べて過剰発現している。
発明の属する技術分野
本発明は、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンに関係する発現プロファイルと核酸の同定、ならびにそのような発現プロファイルと核酸を用いたこのようなガンの診断および予後診断に関する。本発明はさらに、ある種のガンを変化させる薬剤候補および/または標的候補の同定法と使用法にも関する。
【0002】
発明の背景
新規な治療標的と診断マーカーを同定することは、ガン患者に対する現在の治療法を改善する上で非常に重要である。分子医学における最近の進歩により、さまざまな免疫治療戦略または小分子戦略を行なうための標的として役立つ可能性のある腫瘍特異的細胞表面抗原に興味が集まっている。免疫治療戦略に適した抗原は、ガン組織での発現が多いこと、しかも正常な大人の組織では理想上はまったく発現していないことが必要とされる。しかし生命活動に不可欠な組織での発現は許容されよう。そのような抗原の具体例として、Her2/neuとB細胞抗原CD20が挙げられる。現在のところ、Her2/neuに対するヒト化モノクローナル抗体(ハーセプチン)が転移性乳ガンの治療に用いられている(RossとFletcher、Stem Cells、第16巻、413〜428ページ、1998年)。同様に、抗CD20モノクローナル抗体(リタクシン)が非ホジキンリンパ腫に使用されて効果が見られている(Maloney他、Blood、第90巻、2188〜2195ページ、1997年;LegetとCzuczman、Curr. Opin. Oncol.、第10巻、548〜551ページ、1998年)。
【0003】
乳ガンは、西洋人によく見られるガンである。正常な乳房上皮が病的な形質転換を起こして浸潤性ガンになる結果として発生する。最近、乳ガンに関係する遺伝子変異が多数明らかにされている。しかし乳ガンの進行に関わるさらに別の遺伝子変異を同定する必要がある。
【0004】
乳ガンの画像診断には問題がある上、限界もある。さらに、腫瘍細胞があちこちのリンパ節に拡散(転移)するかどうかは、重要な予後診断因子である。5年生存率は、リンパ節への転移がない患者では80%であるのに対し、リンパ節への転移がある患者では45〜50%と急激に低下する。最近の報告によると、ガン胎児性抗原に対するmRNAの存在に基づいた逆転写PCR法を用いてリンパ節から微小転移を検出できることがわかった(Liefers他、New England J. of Med.、第339巻(4)、223ページ、1998年)。
【0005】
より注意を必要とする別の疾患状態は大腸ガン(この明細書では、“結腸直腸ガン”と同じ意味で用いる)である。最近、結腸直腸ガンに関係する遺伝子変異が多数明らかにされている。その中には、腫瘍抑制遺伝子とプロトガン遺伝子という2つのクラスの遺伝子における突然変異が含まれる。さらに、最近の研究によると、DNA修復遺伝子における突然変異も腫瘍発生に関係している可能性のあることが示唆されている。例えば腫瘍抑制遺伝子である大腸腺種症(APC)遺伝子の両方の対立遺伝子が不活性化する突然変異は、結腸直腸ガンにおける最初期の重要事件の1つであるらしい。しかもこの突然変異は、結腸直腸ガンの引き金となる重要事件である可能性さえある。結腸直腸ガンに関係する他の遺伝子としては、MCC遺伝子、p53遺伝子、DCC(「結腸直腸ガンにおいて欠損」の略号)遺伝子、染色体18qの他の遺伝子、TGF−βシグナル伝達経路の遺伝子などが挙げられる。概説として、Curr. Probl. Cancer、1997年9/10月、「結腸直腸ガンの分子生物学」を参照のこと。
【0006】
したがって、乳ガンと結腸直腸ガンの診断と予後診断に使用できる方法があると望ましかろう。学界と産業界では新規な配列を同定する努力が続けられてきたが、その新規な配列の機能同定に同じくらいの努力が払われることはなかった。これは、その新規な配列が疾患状態にどう関与しているかの同定に関して特に当てはまる。例えばデータベースから登録番号T32108(配列ID番号1)、AW136973(配列ID番号2)、AK000747(配列ID番号3)、AK000123(配列ID番号4)についての配列が得られるが、どの配列も疾患状態に関係する遺伝子産物と関連づけられてはいない。同様に、エフリン−A3のアミノ酸配列(Kozlosky他、Oncogene、第10巻(2)、299〜306ページ、1995年)が登録番号P52797(配列ID番号5)に見られる。これはEHK1のアミノ酸配列(Davis他、Science、第266巻(5186号)、816〜819ページ、1994年)とほぼ同じであり、登録番号L37360(配列ID番号6)のcDNA配列から導出される。これら2つのタンパク質は、おそらく同じ遺伝子のmRNAスプライス変異体であろう。エフリン−A3に関し、マウスでのホモログのアミノ酸配列が登録番号OO8545(配列ID番号7)に見られる。これらのタンパク質は、EPH関連受容体チロシンキナーゼ・リガンド(LERK)ファミリーのメンバーである。しかしさまざまなLERK(エフリン−A3/EHK1を含む)が神経ネットワークの発達と関係づけられているものの(例えばGao他、PNAS、第96巻(7)、4073〜4077ページ、1999年;Wilkinson、Curr. Biol.、第10巻(12)、R447〜451ページ、2000年を参照のこと)、エフリン−A3はどのような疾患状態とも関係づけられていない。
【0007】
そこでこの明細書では、乳ガンと結腸直腸ガンの診断と予後診断に使用できる方法を提示する。さらに、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンを変化させることのできる生物活性剤候補のスクリーニングに使用できる方法も提示する。それに加え、ある種のガンを治療するための方法と分子標的も提示する。
【0008】
発明のまとめ
本発明は、乳ガンを変化させる組成物のスクリーニング法を提供する。本発明の別の実施態様では、結腸直腸ガンを変化させる組成物のスクリーニング法を提供する。一実施態様によれば、薬剤候補のスクリーニング法は、発現プロファイル遺伝子またはその断片を発現する細胞を提供する操作を含んでいる。この明細書で説明する発現プロファイル遺伝子の好ましい実施態様には、(CHA4をコードしている)配列ID番号8または(CBK8をコードしている)配列ID番号9またはその断片を含む配列が含まれる。スクリーニング法にはさらに、薬剤候補を細胞に添加し、その薬剤候補が発現プロファイル遺伝子の発現に及ぼす効果を明らかにする操作が含まれる。
【0009】
一実施態様では、薬剤候補のスクリーニング法は、この薬剤候補なしでの発現レベルを、この薬剤候補の存在下での発現レベルと比較する操作を含んでいる。なお、薬剤候補が存在しているときにはその濃度を変えることができ、比較は、薬剤候補を添加した後、または除去した後に行なうことができる。好ましい実施態様では、細胞は少なくとも2つの発現プロファイル遺伝子を発現する。発現プロファイル遺伝子は、発現が増加する可能性もあるし、減少する可能性もある。
【0010】
この明細書にはさらに、CHA4またはCBK8またはその断片と結合することのできる生物活性剤のスクリーニング法であって、CHA4またはCBK8またはその断片と生物活性剤候補を混合し、CHA4またはCBK8またはその断片に対するこの生物活性剤候補の結合を明らかにする操作を含むスクリーニング法も提示されている。
【0011】
この明細書にはさらに、CHA4タンパク質またはCBK8タンパク質の活性を変化させることのできる生物活性剤のスクリーニング法も提示されている。一実施態様では、この方法は、CHA4タンパク質またはCBK8タンパク質と生物活性剤候補を混合し、このタンパク質に対するこの生物活性剤候補の効果を明らかにする操作を含んでいる。一実施態様では、CHA4は乳ガンを変化させるタンパク質としての活性を有する。別の実施態様では、CHA4またはCBK8は、結腸直腸ガンを変化させるタンパク質としての活性を有する。さらに別の実施態様では、CHA4は乳ガンを変化させるタンパク質としての活性と結腸直腸ガンを変化させるタンパク質としての活性を有する。
【0012】
この明細書にはさらに、ガン治療薬候補の効果を評価する方法であって、この治療薬候補を、CHA4またはCBK8またはその断片を発現または過剰発現するトランスジェニック動物に、あるいは(例えば遺伝子ノックアウトの結果として)CHA4またはCBK8を持たない動物に投与する操作を含む方法も提示されている。
【0013】
この明細書にはさらに、ガン治療薬候補の効果を評価する方法であって、この治療薬候補を患者に投与し、この患者から細胞サンプルを採取する操作を含む方法も提示されている。次いで細胞の発現プロファイルを明らかにする。発現プロファイルを明らかにするステップは、CHA4および/またはCBK8の発現を明らかにする操作を含んでいることが好ましい。この方法はさらに、この発現プロファイルを健康な人の発現プロファイルと比較する操作を含んでいる。
【0014】
さらに、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンの診断法も提供される。この方法は、第一個体の人の第1の組織サンプル中の配列ID番号8または配列ID番号9またはその断片を含む遺伝子の発現を明らかにし、この発現プロファイルを、この第一個体の人に由来する正常なタイプの第2の組織サンプルからの上記遺伝子の発現プロファイル、または第二個体の人の組織サンプルの上記遺伝子の発現プロファイルと比較する操作を含んでおり、この比較結果が、第一個体の人がガンであるかどうかを示している。一実施態様では、第1の組織サンプルは乳房組織であり、ガンは乳ガンである。別の実施態様では、第1の組織サンプルは直腸組織であり、ガンは結腸直腸ガンである。
【0015】
本発明の別の側面として、CHA4またはCBK8またはその断片と特異的に結合する抗体が提供される。この抗体はモノクローナル抗体であることが好ましい。この抗体は、抗体の断片(例えば後で詳しく説明する一本鎖抗体)であってもよいし、別の分子と結合していてもよい。一実施態様では、抗体はヒト化抗体である。
【0016】
一実施態様では、CHA4またはその断片の結合を妨害することのできる生物活性剤と、CHA4またはその断片と結合する抗体をスクリーニングする方法が提供される。好ましい実施態様では、この方法は、CHA4またはその断片と、生物活性剤候補と、CHA4またはその断片と結合する抗体とを混合する操作を含んでいる。この方法はさらに、CHA4またはその断片とこの抗体の結合を明らかにする操作を含んでいる。別の実施態様では、CBK8またはその断片の結合を妨害することのできる生物活性剤と、CBK8またはその断片と結合する抗体をスクリーニングする方法が提供される。好ましい一実施態様では、この方法は、CBK8またはその断片と、生物活性剤候補と、CBK8またはその断片と結合する抗体とを混合する操作を含んでいる。この方法はさらに、CBK8またはその断片とこの抗体の結合を明らかにする操作を含んでいる。結合に変化がある場合、薬剤は阻害剤であると同定される。阻害剤は、アゴニストの場合とアンタゴニストの場合がある。抗体と薬剤は、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンを阻害することが好ましい。
【0017】
本発明の一側面として、乳ガンまたは結腸直腸ガンを変化させるタンパク質の活性を阻害する方法が提供される。この方法は、タンパク質に阻害剤を結合させる操作を含んでいる。好ましい一実施態様では、タンパク質はCHA4である。別の好ましい実施態様では、タンパク質はCBK8である。
【0018】
本発明の別の側面として、乳ガンまたは結腸直腸ガンを変化させるタンパク質の効果を中和する方法が提供される。この方法は、このタンパク質を、このタンパク質に対して特異的な十分な量の薬剤と接触させる操作を含んでいる。好ましい一実施態様では、タンパク質はCHA4である。別の好ましい実施態様では、タンパク質はCBK8である。
【0019】
本発明のさらに別の側面として、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンを阻害する方法が提供される。一実施態様では、この方法は、CHA4またはその断片に対する抗体を含む組成物を細胞に投与する操作を含んでいる。別の実施態様では、この方法は、CBK8またはその断片に対する抗体を含む組成物を細胞に投与する操作を含んでいる。一実施態様では、抗体は治療効果を有する部分と結合する。このような治療効果を有する部分としては、細胞毒性剤や放射性同位体が挙げられる。この方法は、インビトロでもインビボでも実施することが可能であるが、ヒトの体内で行なうことが好ましい。好ましい一実施態様では、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンにかかっている人に対するガンの阻害法が提供される。
【0020】
この明細書に記載したように、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンを阻害する方法は、細胞またはヒトに対してCHA4またはCBK8の活性を抑制する任意の阻害剤を投与することによって実現することができる。一実施態様では、CHA4阻害剤は、CHA4に対するアンチセンス分子である。一実施態様では、CBK8阻害剤は、CBK8に対するアンチセンス分子である。
【0021】
この明細書にはさらに、CHA4またはCBK8をコードしている1つ以上の核酸セグメント、またはその断片を含むバイオチップであって、1000未満の核酸プローブを含んでいるバイオチップも提示されている。少なくとも2つの核酸セグメントが含まれていることが好ましい。
【0022】
この明細書には、ヒトに免疫応答を誘導する方法も提示されている。この明細書に記載されている一実施態様では、この方法は、ヒトにCHA4またはCBK8またはその断片を含む組成物を投与する操作を含んでいる。別の実施態様では、この組成物は、CHA4またはCBK8をコードしている配列が含まれた核酸を含んでいる。別の実施態様では、CHA4またはCBK8またはその断片が含まれた組成物が提供される。好ましい実施態様では、この組成物は、薬理学的に許容可能な基剤を含んでいる。
【0023】
当業者にとって、本発明の他の特徴は、以下の説明から明らかになろう。
【0024】
発明の詳細な説明
本発明は、乳ガンと結腸直腸ガンの新規な診断法および予後診断法と、乳ガンと結腸直腸ガンを変化させる組成物のスクリーニング法と、乳ガンと結腸直腸ガンのモジュレータに結合する組成物を提供する。一実施態様では、診断情報または予後診断情報のいずれかが得られることが望ましいさまざまな患者のサンプルについて遺伝子の発現レベルを明らかにし、発現プロファイルを提供する。特定のサンプルにおける発現プロファイルは、本質的に、そのサンプルの状態に関する“フィンガープリント”である。2つの状態が特定の遺伝子の同様な発現に関係していることがあるが、遺伝子数の評価を同時に行なうことにより、細胞のその状態にだけ見られる遺伝子発現プロファイルを生み出すことができる。つまり、正常な組織はガン組織と区別することが可能であり、ガン組織では、予後のさまざまな状態(例えば長期生存できる見通しがある、ない)を明らかにすることができる。異なる状態におけるガン組織の発現プロファイルを比較することにより、それぞれの状態においてどの遺伝子が重要であるか(遺伝子の上方調節または下方調節を含む)に関する情報が得られる。正常組織と比べてガン組織で異なる発現をしている配列を同定することにより、また発現状態が異なると予後診断が異なることを明らかにすることにより、この情報を多くの用途で利用することができる。例えば化学療法薬が特定の患者の長期生存の可能性を改善する効果があるかどうかなど、特定の治療法の評価を行なうことができる。同様に、患者のサンプルを既知の発現プロファイルと比較することにより、診断を行なったり診断を確認したりすることができる。さらに、これら遺伝子発現プロファイル(または個々の遺伝子)を用い、特定の発現プロファイルを真似る、あるいは変化させるという点に注意して薬剤候補のスクリーニングを行なうことができる。例えば発現プロファイル遺伝子を抑制する薬剤、またはよくない予後診断プロファイルをよりよい予後診断プロファイルに変える薬剤のスクリーニングを行なうことができる。これは、重要なガン遺伝子のセットを含むバイオチップを作り、このバイオチップを用いてスクリーニングを行なうことによって実現される。これらの方法は、タンパク質に基づいて実行することもできる。すなわち、診断または予後診断、あるいは薬剤候補のスクリーニングを目的としてガン・タンパク質のタンパク質発現レベルを評価することができる。さらに、遺伝子治療を目的としてガンの核酸配列を投与することもできる。その中には、アンチセンス核酸や、ガン・タンパク質(抗体やそれ以外のモジュレータを含む)を治療薬として投与することが含まれる。
【0025】
この明細書に提示したスクリーニング法、診断法、予後診断法、治療法は、ガンに関係している。ガンは、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンであることが好ましい。
【0026】
したがって本発明により、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンにおいて正常組織とは異なった発現をする核酸配列とタンパク質配列が提供される。この明細書に提示する配列は、“異なった発現をする配列”と呼ぶことにする。以下に説明するように、配列には、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンにおいて上方調節された(すなわちより高いレベルで発現した)配列と、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンにおいて下方調節された(すなわちより低いレベルで発現した)配列が含まれる。好ましい一実施態様では、異なった発現をする配列は、ヒトからの配列である。しかし当業者であればわかるように、他の生物に由来する異なった発現をする配列も、疾患のモデル動物と薬剤の評価において有用である可能性がある。したがって異なった発現をする他の配列が、哺乳類(例えば囓歯類(ラット、マウス、ハムスター、モルモットなど)、霊長類、家畜(例えばヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマなど)といった脊椎動物から提供される。これ以外の生物に由来する異なった発現をする配列も、以下に説明する方法を用いて得ることができる。
【0027】
好ましい一実施態様では、異なった発現をする配列は、CHA4またはその断片をコードしている核酸配列である。異なった発現をする配列は、図1に示したもの、またはその断片であることが好ましい。異なった発現をする配列は、図2に示したアミノ酸配列を有するタンパク質またはその断片をコードしていることが好ましい。好ましい一実施態様では、CHA4はヒトのエフリン−A3である。
【0028】
別の好ましい実施態様では、異なった発現をする配列は、CGK8またはその断片をコードしている核酸の配列である。異なった発現をする配列は、図4に示したもの、またはその断片であることが好ましい。異なった発現をする配列は、図5に示したアミノ酸配列を有するタンパク質またはその断片をコードしていることが好ましい。
【0029】
異なった発現をする配列には、核酸配列とアミノ酸配列の両方が含まれる。好ましい一実施態様では、異なった発現をする配列は、組み換え核酸である。“組み換え核酸”という用語は、この明細書では、インビトロで一般にポリメラーゼまたはエンドヌクレアーゼを用いて核酸を操作することにより、普通なら天然に存在しない形態にした独自の核酸を意味する。したがって単離された直線状の核酸や、本来なら結合しないDNA分子をインビトロで連結させることによって形成された発現ベクターは、両方とも、本発明が目的とする組み換え体と見なされる。組み換え核酸ができてその組み換え核酸を宿主細胞または宿主生物に導入すると、宿主はその核酸を、組み換えでなく、すなわちインビトロの操作ではなく、宿主細胞内の細胞機械を用いて複製する。しかしこのような核酸は、一度組み換えによって産生されたからには、続いて組み換えでなく複製されたとしても、本発明の目的にとってはやはり組み換え体と見なされる。
【0030】
同様に、“組み換えタンパク質”は、組み換え技術を利用して得られたタンパク質、すなわち上に説明した組み換え核酸の発現を通じて得られたタンパク質を意味する。組み換えタンパク質は、天然のタンパク質とは少なくとも1つ以上の特徴によって区別される。例えばそのタンパク質は、野生型の宿主において通常は付随しているタンパク質および化合物のいくつかまたはすべてから単離または精製することが可能であり、したがって実質的に純粋にすることができる。例えば単離したタンパク質は、自然状態で通常は付随している材料の少なくとも一部を伴っていない。単離タンパク質は、所定のサンプルに含まれる全タンパク質の重量の少なくとも約0.5%であることが好ましく、少なくとも約5%であることがより好ましい。実質的に純粋なタンパク質は、全タンパク質の少なくとも約75重量%であるが、少なくとも約80重量%であることが好ましく、少なくとも約90重量%であることが特に好ましい。定義には、異なる生物または宿主細胞の1つの器官から産生される異なった発現をするタンパク質が含まれる。別の方法として、タンパク質は、誘導プロモータまたは高発現プロモータを用いることにより、通常見られるよりは非常に高濃度で産生されるようにすることができる。またタンパク質は、エピトープ・タグを付加したり、アミノ酸の置換、挿入、欠失を起こさせたりすることにより、自然では通常見られない形態にすることもできる。これについては後述する。
【0031】
好ましい一実施態様では、異なった発現をする配列は核酸である。当業者であればわかるように、また以下により詳しく説明するように、異なった発現をする配列は、天然の核酸を検出する診断のほか、スクリーニングなどのさまざまな用途において有用である。例えば、異なった発現をする配列に対する核酸プローブを含むバイオチップを作ることができる。“核酸”または“オリゴヌクレオチド”、またはこの明細書においてこれらの用語と文法的に等価な表現は、最も広い意味では、互いに共有結合した少なくとも2つのヌクレオチドを意味する。本発明の核酸は、一般に、ホスホジエステル結合を含むことになるが、場合によっては、以下に説明するように、交互に並んだいろいろな骨格を有する可能性のある核酸類似体も本発明の核酸に含まれる。具体的には、骨格として、ホスホルアミダート(Beaucage他、Tetrahedron、第49巻(10)、1925ページ、1993年とこの論文に引用されている文献;Letsinger、J. Org. Chem.、第35巻、3800ページ、1970年;Sprinzl他、Eur. J. Biochem.、第81巻、579ページ、1977年;Letsinger他、Nucl. Acids Res.、第14巻、3487ページ、1986年;Sawai他、Chem. Lett.、805ページ、1984年;Letsinger他、J. Am. Chem. Soc.、第110巻、4470ページ、1988年;Pauwels他、Chemica Scripta、第26巻、141ページ、1986年)、ホスホロチオアート(Mag他、Nucleic Acids Res.、第19巻、1437ページ、1991年;アメリカ合衆国特許第5,644,048号)、ホスホロジチオアート(Briu他、J. Am. Chem. Soc.、第111巻、2321ページ、1989年)、O−メチルホスホロアミダイト結合(Eckstein、『オリゴヌクレオチドと類似体:実践的アプローチ』、オックスフォード大学出版を参照のこと)、ペプチド核酸骨格と結合(Egholm、J. Am. Chem. Soc.、第114巻、1895ページ、1992年;Meier他、Chem. Int. Ed. Engl.、第31巻、1008ページ、1992年;Nielsen、Nature、第365巻、566ページ、1993年;Carlsson他、Nature、第380巻、207ページ、1996年を参照のこと。これらはすべて、参考としてこの明細書に内容が組み込まれているものとする)を含むものが挙げられる。他の核酸類似体としては、正に帯電した骨格(Denpcy他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第92巻、6097ページ、1995年)、非イオン性骨格(アメリカ合衆国特許第5,386,023号、第5,637,684号、第5,602,240号、第5,216,141号、第4,469,863号;Kiedrowshi他、Angew. Chem. Intl. Ed. English、第30巻、423ページ、1991年;Letsinger他、J. Am. Chem. Soc.、第110巻、4470ページ、1988年;Letsinger他、Nucleoside & Nucleotide、第13巻、1597ページ、1994年;ASCシンポジウム・シリーズ580、Y.S. SanghuiとP. Dan Cook編、『アンチセンスの研究における炭化水素の修飾』、第2章と第3章;Mesmaeker他、Bioorganic & Medicinal Chem. Lett.、第4巻、395ページ、1994年;Jeffs他、J. Biomolecular NMR、第34巻、17ページ、1994年;Tetrahedron Lett.、第37巻、743ページ、1996年)、非リボース骨格(アメリカ合衆国特許第5,235,033号、第5,034,506号;ASCシンポジウム・シリーズ580、Y.S. SanghuiとP. Dan Cook編、『アンチセンスの研究における炭化水素の修飾』、第6章と第7章)を有するものが挙げられる。1つ以上の炭素環式糖を含む核酸も、核酸の定義の1つに含まれる(Jenkins他、Chem. Soc. Rev.、169〜176ページ、1995年を参照のこと)。核酸類似体がいくつか、Rawls、C & E News、1997年6月2日号、35ページに記載されている。これら文献の内容はすべて、参考として明らかな形でこの明細書に組み込まれているものとする。リボース−リン酸骨格に対するこのような修飾は、さまざまな理由で行なうことができる。理由としては、例えば、生理環境中での、あるいはバイオチップ上のプローブとしてのこのような分子の安定性を大きくし、半減期を長くすることが挙げられる。
【0032】
当業者であればわかるように、これら核酸類似体はすべて、本発明で利用することができる。さらに、天然の核酸と核酸類似体の混合物を作ることもできる。別の方法として、異なったさまざまな核酸類似体の混合物や、天然の核酸と核酸類似体の混合物を作ることもできる。
【0033】
特に好ましいのは、ペプチド核酸類似体を含むペプチド核酸(PNA)である。天然の核酸が電荷の多いホスホジエステル骨格であるのに対し、これら骨格は中性条件では実質的に非イオン性である。これには利点が2つある。第1に、PNA骨格ではハイブリダイゼーションのキネティックスが改善される。PNAでは、塩基対がミスマッチの場合と完全にマッチしている場合で融点(Tm)の変化がより大きくなる。DNAとRNAは、内部にミスマッチがあると一般にTmが2〜4℃低下する。非イオン性PNA骨格の場合には、この低下が7〜9℃に近くなる。同様に、非イオン性であるため、PNA骨格にハイブリダイズする塩基が塩の濃度に関して比較的鈍感になる。さらに、PNAは細胞酵素によって分解されず、したがってより安定になることができる。
【0034】
核酸は場合に応じて一本鎖でも二本鎖でもよく、二本鎖配列の部分と一本鎖配列の部分の両方を含んでいてもよい。当業者であればわかるように、一本鎖(“ワトソン”)を記述するというのは、他方の鎖(“クリック”)も規定していることである。したがってこの明細書で説明する配列は、相補配列も含んでいる。核酸は、DNA(ゲノムDNAとcDNAの両方)、RNA、ハイブリッドのいずれでもよい。このとき核酸は、デオキシリボヌクレオチドとリボヌクレオチドの任意の組み合わせ、塩基(ウラシル、アデニン、チミン、シトシン、グアニン、イノシン、キサンチン、ヒポキサンチン、イソシトシン、イソグアニンなど)の任意の組み合わせを含んでいる。この明細書では、“ヌクレオシド”という用語には、ヌクレオチド、ヌクレオシド、ヌクレオチド類似体、修飾されたヌクレオシド(アミノ修飾されたヌクレオシド)が含まれる。“ヌクレオシド”にはさらに、天然には存在しない類似体構造も含まれる。したがって、例えばペプチド核酸の個々のユニットは、それぞれ塩基を1つ含んでおり、この明細書ではヌクレオシドと呼ばれる。
【0035】
異なった発現をする配列は、この明細書に示したように、まず最初に、核酸配列および/またはアミノ酸配列が、異なった発現をする配列と実質的に相同であることを明らかにすることによって同定可能である。このような相同性は、核酸配列全体またはアミノ酸配列全体に基づいており、後述の相同性プログラムまたはハイブリダイゼーション条件を利用して明らかにすることができる。
【0036】
異なった発現をする本発明の配列は、以下のようにして同定することができる。正常組織と腫瘍組織からのサンプルを、核酸プローブを含むバイオチップに付着させる。サンプルは、まず最初に、可能であるならば顕微解剖し、mRNAの調製に関して知られているようにして処理する。適切なバイオチップが、例えばアフィメトリックス社から入手可能である。この明細書で説明したような遺伝子発現プロファイルを取得し、データを分析する。
【0037】
好ましい一実施態様では、正常状態と疾患状態で発現が異なる遺伝子を、他の正常な組織(例えば、肺、心臓、脳、肝臓、乳房、腎臓、筋肉、前立腺、小腸、大腸、脾臓、骨、胎盤など)で発現する遺伝子と比較する。好ましい一実施態様では、ガンのスクリーニング中に同定されても他の組織で大量に発現している遺伝子はプロファイルから除く。しかし場合によってはこの操作が必要ないこともある。つまり薬剤のスクリーニングを行なうときには、起こりうる副作用を最小にするため、標的は疾患特異的であることが好ましい。
【0038】
好ましい一実施態様では、異なった発現をする配列は、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンにおいて上方調節された配列である。つまりこれらの遺伝子は、悪性腫瘍では正常な乳房組織や大腸組織におけるよりも多く発現している。この明細書で用いる“上方調節”は、少なくとも約50%の増加を意味するが、好ましいのは2倍の変化であり、より好ましいのは少なくとも約3倍の変化であり、少なくとも約5倍以上の変化がさらに好ましい。この明細書に現われる登録番号はすべてGenBank配列データベースに関するものであり、登録番号付きの配列は、参考として明らかな形でこの明細書に組み込まれているものとする。GenBankは当業者によく知られており、例えばBenson, DA他、Nucleic Acids Research、第26巻、1〜7ページ、1998年と、NCBIのウェブ・サイト(www.ncbi.nlm.nih.gov)を参照のこと。さらに、これら遺伝子が少量しか発現しないか、まったく発現しないのは、心臓、脳、肺、肝臓、腎臓、筋肉、膵臓、精巣、胃、小腸、脾臓であることがわかった。
【0039】
好ましい一実施態様では、CHA4が乳ガンにおいて上方調節されている。好ましい一実施態様では、CHA4および/またはCBK8が結腸直腸ガンにおいて上方調節されている。
【0040】
別の実施態様では、異なった発現をする配列は、乳ガンまたは結腸直腸ガンにおいて下方調節されている配列である。つまりこれらの遺伝子は、悪性腫瘍では正常な組織におけるよりも発現が少ない。この明細書で用いる“下方調節”は、少なくとも2倍の変化を意味するが、好ましいのは3倍の変化であり、少なくとも約5倍以上の変化がさらに好ましい。
【0041】
本発明の異なった発現をするタンパク質は、分泌タンパク質、膜貫通タンパク質、細胞内タンパク質に分類することができる。好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質は、細胞内タンパク質である。細胞内タンパク質は、細胞質および/または核に存在し、細胞膜と結合することができる。細胞内タンパク質は、細胞機能と複製のすべてに関係する(例えばシグナル伝達経路)。このようなタンパク質が異常に発現すると、細胞プロセスが上方調節または下方調節される。例えば多くの細胞内タンパク質が酵素活性を有する(例えば、プロテインキナーゼ活性、プロテインホスファターゼ活性、プロテアーゼ活性、ヌクレオチドシクラーゼ活性、ポリメラーゼ活性など)。細胞内タンパク質は、タンパク質複合体の構成に関係するドッキングタンパク質として、あるいは細胞以下のサイズのさまざまな場所に対する標的タンパク質としても機能し、オルガネラの構造を完全な状態に維持するのに関係している。
【0042】
細胞内タンパク質の特徴を明確にする上でますます評価されている考え方は、タンパク質の中に機能が明らかになっている1つ以上のモチーフが存在しているという考え方である。タンパク質の酵素ドメインに見られる非常によく保存された配列に加え、タンパク質−タンパク質相互作用に関係する非常によく保存された配列がタンパク質中で同定されている。例えばSrc−ホモロジー−2(SH2)ドメインは、配列に依存した形でチロシンリン酸化標的と結合する。SH2ドメインとは明確に異なるPTBドメインもチロシンリン酸化標的と結合する。SH3ドメインは、プロリンが豊富な標的と結合する。さらにほんの少数の例を挙げると、PHドメイン、テトラトリコペプチド・リピート、WDドメインが、タンパク質−タンパク質相互作用を媒介することがわかっている。これらのうちのいくつかは、リン脂質またはそれ以外の二次メッセンジャーとの結合にも関係している可能性がある。いくつかの細胞骨格関連タンパク質がモチーフをいくつか含んでいることがわかった。例えばバンド4.1ドメインが、細胞膜と細胞骨格の境界におけるタンパク質同士の結合と関係する多数のタンパク質において同定されている(Rees他、Nature、第347巻、685〜689ページ、1990年;Funayama他、J. Cell Biol.、第115巻、1039〜1048ページ、1991年;Takeuchi他、J. Cell Sci.、第107巻、1921〜1928ページ、1994年を参照のこと)。バンド4.1ドメインを含むタンパク質としては、バンド4.1、エズリン、モエシン、ラディキシン、テーリン、フィロポジン、メルリンが挙げられる。これらはすべて、細胞骨格タンパク質と結合することが知られているか、あるいは細胞骨格タンパク質と結合すると推定されており、これらのうちの多くのものは、細胞の運動性と関係している。いくつかのプロテインチロシンホスファターゼ(例えばPTPN3、PTPN4、PTPN14、PTP−D1、PTP−RL10、PTP2E)も、バンド4.1モチーフを含んでいる。細胞骨格の構成成分であるタンパク質、または細胞内シグナル伝達に関係するタンパク質にしばしば見られる別のモチーフは、プレクストリン相同(PH)ドメインである(Mayer他、Cell、第73巻、629〜630ページ、1993年;Haslam他、Nature、第363巻、309〜310ページ、1993年;Musacchio他、Trends Biochem. Sci.、第18巻、343〜353ページ、1994年;Pawson、Nature、第373巻、573〜580ページ、1995年;Ingley他、J. Cell Biochem.、第56巻、436〜443ページ、1994年;Saraste他、Curr. Oipn. Struct. Biol.、第5巻、403〜408ページ、1995年;Riddihough、Nat. Struct. Biol.、第1巻、755〜757ページ、1994年を参照のこと)。少なくとも1つのPHドメインを有することがわかっているタンパク質としては、プレクストリン、セリン/トレオニンプロテインキナーゼ(Act/Racファミリー;β−アドレナリン受容体キナーゼ)、チロシンプロテインキナーゼ(Btk/Itk/Tecサブファミリー)、インスリン受容体基質1、低分子量Gタンパク質のレギュレータ(グアニンヌクレオチド放出因子、グアニンヌクレオチド交換タンパク質、GTPアーゼ活性化タンパク質)、細胞骨格タンパク質(ダイナミン、スペクトリンβ鎖、シントロフィン)、哺乳類のホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼC、オキシステロール結合タンパク質(OSDBP、OSH1、YHR073w)、マウスのタンパク質であるシトロン(rho/racエフェクターであると推定されている)が挙げられる。PHドメインの推定機能としては、Gタンパク質への結合、脂質の結合、リン酸化されたセリン/チロシン残基への結合、未知のメカニズムによる膜への付着などが提案されている。
【0043】
当業者であればわかるように、一次配列に基づいて特別なモチーフを同定することができる。したがってタンパク質の配列を分析すると、分子の酵素としての能力、および/またはそのタンパク質が結合することのできる分子に関する見通しが得られる。
【0044】
好ましい一実施態様では、CBK8は細胞内タンパク質である。好ましい一実施態様では、CBK8は、このタンパク質が発現する細胞の細胞膜および/または細胞骨格と関係している。一実施態様では、CBK8は細胞内シグナル伝達に関係している。
【0045】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質は膜貫通タンパク質である。膜貫通タンパク質は、細胞のリン脂質二重層を貫通する分子であり、細胞内ドメインと細胞外ドメインのいずれかまたは両方を備えている。このようなタンパク質の細胞内ドメインは多数の機能(例えば、細胞内タンパク質に関してすでに説明した機能)を持っている。例えば細胞内ドメインは、酵素活性を持つこと、および/または別のタンパク質に対する結合部位として機能することができる。膜貫通タンパク質の細胞内ドメインは両方の機能を持つことがしばしばある。例えばいくつかの受容体チロシンキナーゼは、プロテインキナーゼ活性とSH2ドメインの両方を備えている。さらに、受容体分子そのものにおけるチロシンの自己リン酸化により、SH2ドメインを有する別のタンパク質に対する結合部位が作り出される。
【0046】
膜貫通タンパク質は、1つ〜多数の膜貫通ドメインを持つことができる。例えば受容体チロシンキナーゼ、いくつかのサイトカイン受容体、受容体グアニリルシクラーゼ、受容体セリン/トレオニンプロテインキナーゼは、膜貫通ドメインを1つだけ備えている。しかしチャネルを有する他のさまざまなタンパク質とアデニリルシクラーゼは、多数の膜貫通ドメインを備えている。細胞表面の重要な多くの受容体は、“7回膜貫通ドメイン”タンパク質に分類される。というのも、膜を貫通している領域が7つあるからである。重要な膜貫通タンパク質受容体としては、インスリン受容体、インスリン様増殖因子受容体、ヒト成長ホルモン受容体、グルコース輸送体、トランスフェリン受容体、上皮増殖因子受容体、低密度リポタンパク質受容体、上皮増殖因子受容体、レプチン受容体、インターロイキン受容体(例えばIL−1受容体、IL−2受容体など)などが挙げられる。
【0047】
膜貫通ドメインの特徴としては、疎水性アミノ酸が約20個連続した後に電荷を持ったアミノ酸が来ることが挙げられる。したがって、特定のタンパク質のアミノ酸配列を分析する場合には、そのタンパク質の中にある膜貫通ドメインの位置と数を予測するとよい。
【0048】
膜貫通タンパク質の細胞外ドメインはさまざまである。しかし保存されたモチーフが、さまざまな細胞外ドメインに繰り返し見られる。保存された構造および/または機能は、さまざまな細胞外モチーフが原因であるとされている。例えばサイトカイン受容体は、システインのクラスターとWSXWS(W=トリプトファン、S=セリン、X=任意のアミノ酸)モチーフ(配列ID番号12)を特徴としている。免疫グロブリン様ドメインは、非常によく保存されている。ムチン様ドメインは細胞の接着に関係し、ロイシンを豊富に含む繰り返しはタンパク質−タンパク質相互作用と関係している。
【0049】
多くの細胞外ドメインは、他の分子との結合に関係している。一実施態様では、細胞外ドメインは受容体である。受容体ドメインと結合する因子としては、ペプチド、タンパク質、小分子(例えばアデノシン)などの循環しているリガンドが挙げられる。例えばEGF、FGF、PDGFといった増殖因子は循環している増殖因子であり、対応するコグネイト受容体と結合してさまざまな細胞応答を開始させる。これ以外の因子としては、サイトカイン、マイトジェン因子、神経栄養因子などが挙げられる。細胞外ドメインは細胞関連分子とも結合し、細胞−細胞相互作用を媒介する。細胞関連リガンドは、例えばグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカーを通じて細胞に固着させることができる。あるいは細胞関連リガンドそのものが膜貫通タンパク質であってもよい。細胞外ドメインは細胞外マトリックスとも結合し、細胞構造の維持に貢献する。
【0050】
異なった発現をする膜貫通タンパク質が本発明では特に好ましい。というのも、この明細書で説明したように、免疫療法のよい標的だからである。さらに、以下に説明するように、膜貫通タンパク質は画像化にも都合がよい。
【0051】
当業者であれば、膜貫通タンパク質は、例えば組み換え法を利用して膜貫通配列を除去することによって可溶化できることがわかるであろう。さらに、可溶化した膜貫通タンパク質は、組み換え法で適切なシグナル配列を付加することによって分泌可能にもできる。
【0052】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質は分泌タンパク質である。このタンパク質の分泌は、連続的にすること、あるいは制御することができる。分泌タンパク質は、分泌経路に送る分子を標的としたシグナル・ペプチドまたはシグナル配列を備えている。分泌タンパク質は、多くの生理的イベントに関係している。分泌タンパク質は循環するという性質があるため、シグナルを他のさまざまなタイプの細胞に伝えるという機能を有する。分泌タンパク質は、自己分泌方式(その因子を分泌する細胞に作用する)、またはパラ分泌方式(その因子を分泌する細胞の近傍にある細胞に作用する)、または内分泌方式(遠方の細胞に作用する)で作用する。したがって分泌された分子は、生理学的な多数の側面を調節したり変化させたりするのに使用される。本発明では、異なった発現をする分泌タンパク質が特に好ましい。というのも、例えば血液検査用の診断マーカーにとってのよい標的になるからである。
【0053】
好ましい一実施態様では、CHA4は分泌タンパク質である。
【0054】
異なった発現をする配列の同定は、この明細書に説明したように、まず最初に、核酸配列および/またはアミノ酸配列が、異なった発現をするこの配列と実質的に相同であることを明らかにすることによって行なう。このような相同性は、核酸配列全体またはアミノ酸配列全体に基づいており、一般に、後述する相同性プログラムまたはハイブリダイゼーション条件を利用して明らかにすることができる。
【0055】
この明細書では、核酸配列が“異なった発現をする核酸”であるのは、その核酸配列が、図に示したアミノ酸配列をコードしている核酸配列と好ましくは約75%以上相同になっている場合である。相同性は約80%以上であることがより好ましく、約85%以上であることがさらに好ましく、90%以上になっていることが最も好ましい。場合によっては、相同性が約93〜95%、あるいは98%にもなろう。この明細書での相同性とは、配列が類似していること、あるいは一致していることを意味するが、好ましいのは一致していることである。相同性を調べるための比較として好ましいのは、シークエンシングの間違いを含む配列を正しい配列と比較することである。この相同性は、従来技術で知られている標準的な方法を利用して明らかにすることができよう。利用できる方法としては、例えば、スミスとウォーターマンの局所的相同性アルゴリズム(Adv. Appl. Math.、第2巻、482ページ、1981年)、ニードルマンとヴュンシュの相同性アラインメント・アルゴリズム(J. Mol. Biol.、第48巻、443ページ、1970年)、ピアソンとリップマンの類似性検索(PNAS USA、第85巻、2444ページ、1988年)、これらアルゴリズムをコンピュータ化した方法(ウィスコンシン遺伝学ソフトウエア・パッケージに含まれるGAP、BESTFIT、FASTA、TFASTA、遺伝学コンピュータ・グループ、575 サイエンス・ドライブ、マディソン、ウィスコンシン州)、ドゥヴルーらによるベスト・フィット配列プログラム(Nucl. Acid Res.、第12巻、387〜395ページ、1984年)が挙げられる。これらの方法は、デフォルトの設定で、あるいは調べた上で使用することが好ましい。
【0056】
好ましい一実施態様では、配列の一致または類似性を明らかにするのに使用する配列は、図に示した配列の中から選択する。一実施態様では、この明細書で使用する配列は、図に示した配列である。別の実施態様では、配列は、図に示した配列に関する天然の対立遺伝子変異体である。別の実施態様では、配列は後出の変異配列である。
【0057】
有用なアルゴリズムの一例はPILEUPである。PILEUPは、逐次的なペア方式のアラインメントを利用し、互いに関連した配列群の中から多数の配列アラインメントを作り出すことができる。PILEUPは、このアラインメントを作るのに利用したクラスター型の関係を示すツリーを描くこともできる。PILEUPは、FengとDoolittle、J. Mol. Evol.、第35巻、351〜360ページ、1987年の逐次的アラインメント法を簡単化したものを利用しており、HigginsとSharp、CABIOS、第5巻、151〜153ページ、1989年に記載されているのと似た方法である。PILEUPにおいて有用なパラメータとしては、デフォルトでのギャップの重み3.00、デフォルトでのギャップ長0.10、重みが付いた末端のギャップが挙げられる。
【0058】
有用なアルゴリズムの一例はBLASTアルゴリズムある。これについては、Altschul他、J. Mol. Biol.、第215巻、403〜410ページ、1990年と、Karlin他、PNAS USA、第90巻、5873〜5787ページ、1993年に記載されている。特に有用なBLASTプログラムはWU−BLAST−2プログラムであり、Altschul他、Methods in Enzymology、第266巻、460〜480ページ、1996年から得られた。WU−BLAST−2では検索パラメータがいくつか用いられている。そのうちのほとんどはデフォルト値に設定されている。調整可能なパラメータは、以下の値に設定する。重複範囲=1、重複部分=0.125、ワードの閾値(T)=11。HSP SパラメータとHSP S2パラメータは動的な値であり、個々の配列の構成と、興味の対象となる配列の検索を行なう個々のデータベースの構成とに応じてプログラムそのものによって決定される。しかし数値は感度が大きくなるように調節することができる。アミノ酸配列の一致度を%で表わした数値は、一致した残基の数を、アラインメントを行なった領域における“長い”配列に含まれる残基の総数で割ることによって得られる。“長い”配列は、アラインメントを行なった領域において本物に最も近い残基を有する配列である(アラインメント得点を最大にするためにWU−BLAST−2によって導入されるギャップは無視する)。
【0059】
したがって、“核酸配列の一致率(%)”は、候補配列中で図1(配列ID番号8)または図4(配列ID番号9)のヌクレオチド残基と一致するヌクレオチド残基の割合として定義される。好ましい方法では、WU−BLAST−2のBLASTNモジュールをパラメータに関して重複範囲=1、重複部分=0.125というデフォルト値に設定して用いる。
【0060】
アラインメント操作には、アラインメントを行なう配列にギャップを導入する操作も含まれる。さらに、図に示したよりもヌクレオシドの数が多かったり少なかったりする配列の場合には、相同性の程度は、ヌクレオシドの総数に対する相同なヌクレオシドの数をもとにして決めることになろう。したがって、例えばこの明細書で同定した配列よりも短い配列の相同性は、後述するように、そのより短い配列のヌクレオシド数を利用して決定することになろう。
【0061】
一実施態様では、核酸の相同性は、ハイブリダイゼーションを行なうことによって明らかにする。したがって、例えば図に示したペプチドをコードしている核酸配列またはその相補配列と厳しい条件下でハイブリダイズする核酸は、異なった発現をする配列と見なされる。厳しい条件は、従来技術において公知である。例えば、Maniatis他、『分子クローニング:実験室マニュアル』、第2版、1989年;SambrookとRussell、『分子クローニング:実験室マニュアル』、第3版、2001年;『分子生物学における簡単なプロトコル』、第3版(Ausbel他編)、1995年を参照のこと。なおそれぞれの文献の内容は、参考としてこの明細書に組み込まれているものとする。厳しい条件は配列によって異なるし、環境によっても異なるであろう。より長い配列は、より高温で特異的にハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションに関する包括的なガイドは、Tijssenによる『生化学と分子生物学における技術−核酸プローブとのハイブリダイゼーション』の「ハイブリダイゼーションの原理と核酸アッセイ戦略に関する概説」(1993年)にある。一般に、厳しい条件は、所定のイオン強度(pH)において特定の配列の融点(Tm)よりも約5〜10℃低くなるように選択する。Tmは、標的配列と相補的なプローブが平衡状態において標的配列と(所定のイオン強度(pH)と核酸濃度において)50%ハイブリダイズする温度である(標的配列は過剰に存在しているため、平衡状態においてTmではプローブの50%が占有される)。厳しい条件は、pHが7.0〜8.3のときに塩の濃度がナトリウム・イオン(または他の塩)の濃度にして約1.0M未満、典型的には約0.01〜1.0Mであり、温度が、短いプローブ(例えばヌクレオチドが10〜50個)に対しては少なくとも約30℃、長いプローブ(例えばヌクレオチドが50個超)に対しては少なくとも約60℃という条件になろう。厳しい条件は、ホルムアミドなどの不安定化剤を添加することによっても実現できる。
【0062】
厳しさの程度は、例えば、核酸配列が結合する複合体またはプローブの融点(Tm)の計算(推定)値を基準にして決めることができる。Tmの計算は、従来技術で周知である(例えば下記Sambrook(1989年)の9.50〜9.51ページを参照のこと)。例えば“最高に厳しい条件”は、一般に、ほぼTm−5℃(プローブのTmよりも5℃低い)ときに実現する。“厳しい条件”は、Tmよりも約5〜10℃低いときに、“中程度に厳しい条件”は、プローブのTmよりも約10〜20℃低いときに、“厳しさが弱い条件”は、プローブのTmよりも約20〜25℃低いときに実現する。一般に、ハイブリダイゼーションは、大きなイオン強度条件(例えば6×SSCまたは6×SSPE)のもとで実施される。厳しい条件下では、ハイブリダイゼーションの後に、計算された温度において低濃度の塩溶液(例えば0.5×SSC)で2回洗浄を行なう。中程度に厳しい条件下では、ハイブリダイゼーションの後に、中濃度の塩溶液(例えば2×SSC)で2回洗浄を行なう。厳しさが弱い条件下では、ハイブリダイゼーションの後に、高濃度の塩溶液(例えば6×SSC)で2回洗浄を行なう。
【0063】
別の実施態様では、より厳しくない条件でのハイブリダイゼーションが利用される。従来技術で知られているように、例えば中程度に厳しい条件または厳しさが弱い条件を利用することができる。これについてはManiatis(前掲文献)、Sambrook(前掲文献)、Ausbel(前掲文献)、Tijssen(前掲文献)を参照のこと。
【0064】
さらに、異なった発現をする本発明の核酸配列は、より大きな遺伝子の断片である(すなわち核酸セグメントである)。この明細書における“遺伝子”には、コード領域、非コード領域、コード領域とコード領域の混合が含まれる。したがって当業者であればわかるように、この明細書に記載した配列を用い、長い配列または完全長配列をクローニングする周知の従来技術を利用することにより、異なった発現をする遺伝子の別の配列を得ることができる。Maniatis他(前掲文献)、SambrookとRussell(前掲文献)、Ausbel他(前掲文献)を参照のこと。なおこれらの文献は、参考としてこの明細書に内容が組み込まれているものとする。
【0065】
異なった発現をする核酸が同定されると、それをクローニングし、必要に応じてその成分を組み合わせて異なった発現をする核酸の全体を形成することができる。異なった発現をする組み換え核酸は、天然の供給源から単離されて例えばプラスミドまたは他のベクターに含まれた状態になるか、あるいはそこから直線状の核酸セグメントとして切り出された状態になると、それをさらにプローブとして利用して異なった発現をする他の核酸(例えば追加のコード領域)を同定し、単離することができる。異なった発現をする組み換え核酸を“前躯体”核酸として利用し、異なった発現をする修飾された核酸とタンパク質、あるいはこれらの変異体を作ることもできる。
【0066】
異なった発現をする本発明の核酸配列は、いくつかの用途に使用される。第1の実施態様では、異なった発現をする核酸に対する核酸プローブを作り、後述のようにしてスクリーニングや診断を行なうためにバイオチップに付着させたり、例えば遺伝子治療および/またはアンチセンス法において投与したりする。また、異なった発現をするタンパク質のコード領域を含む異なった発現をする核酸を、異なった発現をするタンパク質を発現させるための発現ベクターに組み込み、やはりスクリーニングに使用したり患者に投与したりすることもできる。
【0067】
好ましい一実施態様では、異なった発現をする核酸(図に示したペプチドをコードしている核酸配列および/またはその相補配列の両方)に対する核酸プローブを作る。バイオチップに付着させる核酸プローブは、異なった発現をする核酸、すなわち標的配列(サンプルの標的配列、または例えばサンドイッチ・アッセイにおける他のプローブ配列)と実質的に相補的になるように設計し、標的配列と本発明のプローブの間でハイブリダイゼーションが起こるようにする。後述するように、この相補性が完全である必要はない。標的配列と本発明による一本鎖核酸の間のハイブリダイゼーションを妨げる塩基対のミスマッチはいくつ存在していてもよい。しかし最も弱いハイブリダイゼーション条件でさえハイブリダイゼーションが起こらないほど突然変異の数が多い場合には、配列は相補的な標的配列ではない。したがって、“実質的に相補的”とは、この明細書では、プローブが標的配列と十分に相補的になっていて、普通の反応条件でハイブリダイズすること、中でもこの明細書で説明した非常に厳しい条件でハイブリダイズすることを意味する。
【0068】
核酸プローブは一般に一本鎖であるが、一部が一本鎖で別の一部が二本鎖というようにすることもできる。プローブの鎖の数は、標的配列の構造、組成、性質によって決まる。一般に、核酸プローブは長さが約8〜100塩基であるが、約10〜約80塩基であることが好ましく、約30〜約50塩基であることが特に好ましい。すなわち、一般に遺伝子の全体が使用されることはない。場合によっては、より長い数百塩基にも達する核酸を使用することができる。
【0069】
好ましい一実施態様では、1つの配列について2つ以上のプローブを使用する。その場合、互いに重なったプローブにしてもよいし、使用する標的の異なる区画に対するプローブにしてもよい。すなわち、2つ、3つ、4つ、あるいはそれ以上のプローブを使用し(3つが好ましい)、特定の標的に対する冗長度を組み込む。プローブは、互いに重なって(すなわち配列の一部が共通して)いてもよいし、分離していてもよい。
【0070】
当業者であればわかるように、核酸はさまざまな方法で固体支持体に付着または固定化することができる。“固定化された”、あるいはこれと文法的に等価な表現は、この明細書では、後で説明するように、核酸プローブと固体支持体の間の結合が、結合、洗浄、分析、除去を行なう条件下で十分に安定であることを意味する。結合は、共有結合でも非共有結合でもよい。“非共有結合”、あるいはこれと文法的に等価な表現は、この明細書では、静電相互作用、親水性相互作用、疎水性相互作用のいずれか1つ以上によって結合していることを意味する。非共有結合には、ストレプトアビジンなどの分子が支持体に共有結合することや、ビオチニル化されたプローブがストレプトアビジンに非共有結合することが含まれる。“共有結合”、あるいはこれと文法的に等価な表現は、この明細書では、2つの部分(固体支持体とプローブ)が、少なくとも1つの結合(例えばσ結合、π結合、配位結合)によって結合していることを意味する。共有結合は、プローブと固体支持体の間に直接形成することや、固体支持体とプローブのいずれかまたは両方に架橋用リンカーまたは特定の反応基を導入することによって形成することができる。固定化には、共有相互作用と非共有相互作用の組み合わせも含まれる。
【0071】
一般に、プローブは、さまざまな方法でバイオチップに付着させる。この明細書で説明したように、核酸をまず最初に合成してからバイオチップに付着させることと、核酸をバイオチップ上に直接合成することのいずれもが可能である。
【0072】
バイオチップは、適切な固体基板を備えている。この明細書における“基板”または“固体支持体”または文法的に等価な他の表現は、この明細書では、核酸プローブを付着または結合させるのに適した別々の複数の部位を含むように修飾することができ、しかも少なくとも1つの検出法を実行しやすい任意の材料を意味する。当業者であればわかるように、可能な基板は多数あり、例えば、ガラス、修飾されたガラス、機能化されたガラス、プラスチック(アクリル樹脂、ポリスチレン、スチレンとそれ以外の材料のコポリマー、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブチレン、ポリウレタン、テフロンJなど)、多糖、ナイロン、ニトロセルロース、樹脂、シリカ、シリカをベースとした材料(例えばケイ素、修飾したケイ素)、炭素、金属、無機ガラス、プラスチックなどが挙げられる。一般に、基板によって光学的検出が可能になるが、基板が顕著に蛍光発光することはない。好ましい基板はPCT出願であるWO 00/55621に記載されており、その内容の全体が参考としてこの明細書に組み込まれているものとする。
【0073】
一般に基板は平坦であるが、当業者であればわかるように、他の構成になった基板を用いることもできる。例えば通過式サンプルを分析する場合には、サンプルの体積を最小にするため、プローブを試験管表面の内側に設置することができる。同様に、基板は可撓性のあるものでもよい。例えば可撓性発泡材である、特定のプラスチックでできた閉鎖セル式の発泡材が挙げられる。
【0074】
好ましい一実施態様では、バイオチップとプローブの表面を官能基で誘導体化して両者を結合することができる。したがって、例えばバイオチップを官能基で誘導体化する。使用する官能基としては、アミノ基、カルボキシル基、オキソ基、チオール基などが挙げられるが、アミノ基が特に好ましい。こうした官能基を用いることにより、プローブをバイオチップと結合することができる。例えばアミノ基を含む核酸は、例えば公知のリンカーを用いてアミノ基を含む表面に付着させることができる。リンカーとしては、例えばホモ二官能リンカーまたはヘテロ二官能リンカーがよく知られている(1994ピアース・ケミカル社のカタログの架橋用リンカーに関する技術のセクション、155〜200ページを参照のこと。なおその内容が、参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)。さらに、場合によっては、アルキル基(置換されたアルキル基やヘテロアルキル基も含む)などの追加のリンカーを使用することもできる。
【0075】
この実施態様では、オリゴヌクレオチドを公知の方法で合成した後、固体支持体の表面に付着させる。当業者であればわかるように、5’末端または3’末端のいずれかを固体支持体に付着させることや、内部のヌクレオシドを介して付着させることが可能である。
【0076】
別の実施態様では、固体支持体への固定化は、非共有結合でありながら非常に強力なものにすることができる。例えばビオチニル化されたオリゴヌクレオチドを作り、それを、共有結合によってストレプトアビジンでコーティングされた表面に結合させると付着が完成する。
【0077】
オリゴヌクレオチドは、公知のように表面に合成することもできる。例えば、光重合化合物と光重合技術を利用した光活性化技術を利用する。好ましい一実施態様では、よく知られたフォトリソグラフィ法を利用して核酸をその場で合成することができる。フォトリソグラフィ法に関しては、WO 95/25116;WO 95/35505;アメリカ合衆国特許第5,700,637号、第5,445,934号と、これらの中に引用されている参考文献に記載されており、これらすべての文献が、参考としてこの明細書にあからさまな形で組み込まれているものとする。このような付着法は、アフィメトリックス・ジーンチップ(登録商標)技術の基礎となっている。
【0078】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質をコードしている異なった発現をする核酸を用いてさまざまな発現ベクターを構成し、異なった発現をするタンパク質を発現させる。すると、後述するように、このタンパク質を用いてスクリーニング・アッセイを行なうことができる。発現ベクターは、自己複製染色体外ベクター、または宿主のゲノムと一体化するベクターのいずれかにすることができる。一般に、これら発現ベクターは、異なった発現をするタンパク質をコードしている核酸と機能上関連した、転写と翻訳を調節する核酸を含んでいる。“制御配列”という用語は、特定の宿主内で機能上関連したコード配列の発現に必要なDNA配列のことを意味する。原核生物に適した制御配列としては、プロモータ、オペレータ配列(オプション)、リボソーム結合部位が挙げられる。真核細胞では、プロモータ、ポリアデニル化シグナル、エンハンサーが利用されていることが知られている。
【0079】
核酸は、他の核酸配列と機能的関連性があるようにされているとき、“機能上関連している”。例えばプレ配列または分泌リーダーのためのDNAがポリペプチドのためのDNAと機能上関連しているのは、前者のDNAがそのポリペプチドの分泌に関与するタンパク質として発現する場合である。また、プロモータまたはエンハンサーがコード配列と機能上関連しているのは、そのプロモータまたはエンハンサーがその配列の転写に影響を与える場合である。リボソーム結合部位がコード配列と機能上関連しているのは、そのリボソーム結合部位が翻訳を容易にする位置に存在している場合である。一般に“機能上関連している”とは、結合されるDNA配列が隣接していることを意味する。なお分泌リーダーの場合の“機能上関連している”とは、結合されるDNA配列が隣接していて、しかも読み取り相にあることである。しかしエンハンサーは、隣接している必要はない。結合は、適切な制限部位において連結によって実現する。そのような部位が存在していない場合には、合成オリゴヌクレオチド・アダプタまたはリンカーを従来法に従って用いる。転写と翻訳を調節する核酸は、一般に、異なった発現をするタンパク質を発現させるのに用いる宿主細胞にとって適切なものにする。例えば、バチルスに由来する転写と翻訳を調節する核酸は、バチルス内で異なった発現をするタンパク質を発現させるのに用いることが好ましい。さまざまな宿主細胞について、いろいろなタイプの適切な発現ベクターと適切な制御配列が知られている。
【0080】
一般に、転写と翻訳を調節する配列としては、プロモータ配列、リボソーム結合部位、転写開始配列と転写停止配列、翻訳開始配列と翻訳停止配列、エンハンサー配列またはアクティベータ配列などが挙げられる。好ましい一実施態様では、調節配列として、プロモータと、転写開始配列および転写停止配列が挙げられる。
【0081】
プロモータ配列は、構成的プロモータまたは誘導的プロモータをコードしている。プロモータとしては、天然のプロモータまたはハイブリッド・プロモータが可能である。ハイブリッド・プロモータは、2つ以上のプロモータの要素を組み合わせたものであり、従来技術でも知られている。ハイブリッド・プロモータは、本発明において役立つ。
【0082】
以上に加え、発現ベクターはさらに別の要素を含むことができる。例えば発現ベクターは、2つの複製系を持つようにすることができる。すると発現ベクターを2種類の生物(例えば発現用の哺乳類または昆虫の細胞と、クローニングと増幅用の原核生物の宿主)の中に保持することが可能になる。さらに、発現ベクターを一体化するため、発現ベクターは、宿主細胞のゲノムと相同な少なくとも1つの配列、好ましくは発現構造体に隣接する2つの相同な配列を含んでいる。一体化用ベクターは、そのベクターに組み込む適切な相同配列を選択することにより宿主細胞の特定の遺伝子座へと向かわせることができる。一体化用ベクターのための構造体は、従来技術において周知である。
【0083】
さらに、好ましい一実施態様では、発現ベクターは、形質転換された宿主細胞の選択を可能にする選択マーカー遺伝子を含んでいる。選択マーカー遺伝子は従来技術において周知であり、使用する宿主細胞が何であるかに応じて異なることになろう。
【0084】
異なった発現をする本発明のタンパク質は、異なった発現をするタンパク質をコードしている核酸を含む発現ベクターを用いて形質転換した宿主細胞を、異なった発現をするタンパク質の発現を誘導または惹起する適切な条件下で培養することによって産生される。異なった発現をするタンパク質の発現に適切な条件は、発現ベクターと宿主細胞に何を選択するかによって異なるが、当業者であれば定型的な実験によって容易に確認することができよう。例えば発現ベクター内で構成的プロモータを使用する場合には、宿主細胞の成長と増殖を最適化する必要があるのに対し、誘導的プロモータを使用する場合には、誘導のための適切な成長条件が必要となる。さらに、場合によっては、回収の時期が重要になる。例えば昆虫細胞の発現で使用されるバキュロウイルス系は溶解性ウイルスであるため、回収時期の選択が産物の収量にとって非常に重要になる可能性がある。
【0085】
適切な宿主細胞としては、酵母、細菌、古細菌、菌類、昆虫の細胞、動物の細胞(哺乳類の細胞を含む)が挙げられる。特に興味深いのは、キイロショウジョウバエの細胞、サッカロミセス・セレビジエその他の酵母、大腸菌、枯草菌、Sf9細胞、C129細胞、293細胞、ニューロスポラ、BHK、CHO、COS、ヒーラ細胞、THP1細胞系(マクロファージ細胞系)、ヒトの細胞と細胞系である。
【0086】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質は、哺乳類の細胞で発現する。哺乳類の発現系も従来技術で知られており、その中に例えばレトロウイルス系が含まれる。好ましい発現ベクター系はレトロウイルス・ベクター系であり、例えばPCT/US97/01019とPCT/US97/01048にその概略が記載されている。これら2つの文献は、その内容が参考としてあからさまな形でこの明細書に組み込まれているものとする。哺乳類のプロモータとして特によく使用されるのが、哺乳類のウイルス遺伝子からのプロモータである。というのも、ウイルス遺伝子は高度に発現することがしばしばあり、しかも宿主の幅が広いからである。具体的には、SV40初期プロモータ、マウス哺乳類腫瘍ウイルスLTRプロモータ、アデノウイルス主要後期プロモータ、単純ヘルペス・ウイルス・プロモータ、CMVプロモータなどが挙げられる。一般に、哺乳類の細胞が認識する転写終了とポリアデニル化の配列は、翻訳停止コドンの3’側に位置する調節領域であり、プロモータ要素と合わさってコード配列に隣接している。転写ターミネータとポリアデニル化シグナルの具体例として、SV40に由来するものが挙げられる。
【0087】
外来性核酸を哺乳類の宿主やそれ以外の宿主に導入する方法は従来技術において周知であり、使用する宿主細胞によって異なるであろう。方法としては、デキストランを媒介としたトランスフェクション、リン酸カルシウム沈殿法、ポリブレンを媒介としたトランスフェクション、プロトプラスト融合法、電気穿孔法、ウイルス感染法、リポソームの中にポリヌクレオチドをカプセル化する方法、DNAを核の中に直接微量注入する方法などがある。
【0088】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質は、細菌系で発現する。細菌発現系は従来技術において周知である。バクテリオファージに由来するプロモータを使用することもできる。このようなプロモータは周知である。さらに、合成プロモータやハイブリッド・プロモータも有用である。例えばtacプロモータは、trpプロモータ配列とlacプロモータ配列のハイブリッドである。さらに、細菌のプロモータとして、細菌のRNAポリメラーゼと結合して転写を開始させることのできる、細菌に由来しない天然のプロモータが挙げられる。機能するプロモータ配列に加え、効果的なリボソーム結合部位も存在していることが望ましい。発現ベクターは、異なった発現をするタンパク質を細菌の内部に分泌させるシグナル・ペプチド配列も含むことができる。タンパク質は、増殖培地(グラム陽性細菌)の中に、あるいは細胞の内膜と外膜の間に位置する細胞周辺腔(グラム陰性細菌)に分泌される。細菌発現ベクターは、形質転換された細菌株の選択を可能にする選択マーカー遺伝子も含むことができる。適切な選択遺伝子としては、アンピシリン、クロラムフェニコール、エリスロマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、テトラサイクリンなどの薬剤に対する耐性を細菌に持たせる遺伝子が挙げられる。選択マーカーとしては、生合成遺伝子(例えば、ヒスチジン、トリプトファン、ロイシンの生合成経路における遺伝子)も挙げられる。これらの要素が発現ベクターに組み込まれる。細菌用の発現ベクターは従来技術において周知であり、具体的には枯草菌、大腸菌、ストレプトコッカス・クレモリス、ストレプトコッカス・リヴィダンスなどのためのベクターが挙げられる。細菌用の発現ベクターは、従来技術において周知の方法(塩化カルシウム処理、電気穿孔など)を用いて細菌宿主細胞に組み込まれる。
【0089】
一実施態様では、異なった発現をするタンパク質は、昆虫細胞で産生される。昆虫細胞を形質転換するための発現ベクター、中でもバキュロウイルスをもとにした発現ベクターは、従来技術において周知である。
【0090】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質は、酵母で産生される。酵母発現ベクターは従来技術において周知であり、具体的にはサッカロミセス・セレビジエ、カンジダ・アルビカンス、カンジダ・マルトーサ、ハンセヌラ・ポリモルファ、クルイヴェロミセス・フラギリス、クルイヴェロミセス・ラクティス、ピキア・グイレリモンディイ、ピキア・パストリス、スキゾサッカロミセス・ポンベ、ヤロウィア・リポリティカなどのためのベクターが挙げられる。
【0091】
異なった発現をするタンパク質は、従来技術において周知の方法を用いて融合タンパク質として製造することもできる。例えばモノクローナル抗体を作るにあたって望むエピトープが小さい場合には、異なった発現をするタンパク質を担体タンパク質と融合させて免疫原を形成するとよい。また、異なった発現をするタンパク質は、発現を増大させるため、あるいはそれ以外の目的で融合タンパク質にすることもできる。例えば異なった発現をするタンパク質が異なった発現をするペプチドである場合には、発現を目的としてそのペプチドをコードしている核酸を他の核酸と連結するとよい。
【0092】
一実施態様では、異なった発現をする本発明の核酸、タンパク質、抗体を標識する。この明細書では、“標識した”とは、化合物が、その化合物の検出を可能にする少なくとも1つの要素、アイソトープ、化学物質のいずれかを備えていることを意味する。一般に、標識は以下の3種類に分類される。すなわち、a)アイソトープ標識(放射性同位体または重い同位体が可能);b)免疫標識(抗体または抗原が可能);c)着色染料または蛍光染料である。標識は、異なった発現をする核酸、タンパク質、抗体の任意の位置に組み込むことができる。標識は、例えば検出可能な信号を直接または間接に発生可能でなくてはならない。検出可能な部分は、放射性同位体(例えば3H、14C、32P、35S、125I)、蛍光化合物または化学発光化合物(例えばフルオレセイン・イソチオシアネート、ローダミン、ルシフェリン)、酵素(例えばアルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、セイヨウワサビのペルオキシダーゼ)にすることができる。抗体を標識と結合させるには、従来技術で知られている任意の方法を用いることができる。具体的には、Hunter他、Nature、第144巻、945ページ、1962年;David他、Biochemistry、第13巻、1014ページ、1974年;Pain他、J. Immunol. Meth.、第40巻、219ページ、1981年;Nygren、J. Histochem. and Cytochem.、第30巻、407ページ、1982年に記載されている方法が挙げられる。
【0093】
したがって本発明により、異なった発現をするタンパク質の配列も提供される。異なった発現をする本発明のタンパク質は、いくつかの方法で同定することができる。この明細書では、“タンパク質”は、タンパク質、ポリペプチド、ペプチドを意味する。当業者であればわかるように、本発明の核酸配列を用いてタンパク質配列を生み出すことができる。そのためにはさまざまな方法がある。例えば、遺伝子全体をクローニングする方法、遺伝子のフレームとアミノ酸配列を確認する方法、異なった発現をするタンパク質が使用しているデータベース中のあるタンパク質と相同性を有すると仮定し、そのタンパク質の配列を既知の配列と比較することにより相同性を探してフレームを見つける方法が挙げられる。一般に、核酸配列は、相同性を探すために3つのフレームをすべて検索するプログラムに入力する。これは、以下のNCBIアドバンストBLASTパラメータを用いた好ましい一実施態様においてなされる。プログラムはblastxまたはblastnである。データベースはnrである。入力データは“FASTA形式の配列”にする。生物リストは“none”にする。“expect”は10;フィルタはデフォルトにする。“descriptions”は500、“alignment”は500、“alignment view”はペアにする。“Query Genetic Codes”は標準(1)にする。マトリックスはBLOSUM62であり;ギャップ存在コストは11;残基1つ当たりのギャップコストは1;λ比はデフォルトの0.85にする。その結果、予想タンパク質配列が生成される。
【0094】
この明細書に示したように、天然配列のアミノ酸変異体も、異なった発現をするタンパク質の一実施態様として挙げられる。変異体は、野生型配列と約75%以上が相同であることが好ましく、より好ましいのは約80%以上が相同になっていることであり、それ以上に好ましいのは約85%以上が相同になっていることであり、最も好ましいのは約90%以上が相同になっていることである。いくつかの実施態様では、相同性が約93〜95%、さらには98%に達する。核酸に関する相同性とは、この明細書では、配列が類似または一致していることを意味するが、一致の意味であることが好ましい。この相同性は、核酸の相同性に関して上に説明したような従来技術における標準的な方法によって明らかにされる。
【0095】
異なった発現をする本発明のタンパク質は、野生型のアミノ酸配列よりも短くても長くてもよい。したがって好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質の定義に野生型配列の部分または断片が含まれる。さらに、上に説明したように、従来技術で知られている方法を利用し、異なった発現をする本発明の核酸を用いて追加コード領域を、したがって追加タンパク質配列を得ることができる。
【0096】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質は、野生型配列の誘導体または変異体になった、異なった発現をするタンパク質である。すなわち以下により詳しく説明するように、異なった発現をする誘導体ペプチドは、アミノ酸の置換、欠失、挿入のいずれかを少なくとも1つ含むことになる。ただし、置換、欠失、挿入の中では置換が特に好ましい。アミノ酸の置換、欠失、挿入は、異なった発現をするペプチドの任意の残基において起こる可能性がある。
【0097】
アミノ酸配列変異体も、異なった発現をする本発明のタンパク質の一実施態様に含まれる。これら変異体は、置換変異体、挿入変異体、欠失変異体という3つあるクラスの1つ以上に当てはまる。これら変異体は、通常は、カセット、PCR突然変異誘発、あるいはこれ以外で従来技術において周知の方法を利用することにより、異なった発現をするタンパク質をコードしているDNAの中のヌクレオチドに部位特異的突然変異誘発を起こさせてこの変異体をコードしているDNAを作り出した後、このDNAを上に説明した組み換え細胞の中で発現させることによって得る。しかし異なった発現をする変異体タンパク質の断片で残基の数が約100〜150個までのものは、確立された方法を利用してインビトロの合成によって作ることができる。アミノ酸配列変異体は、異なった発現をするタンパク質のアミノ酸配列に関する天然の対立遺伝子変異体または種間変異体とは異なった所定の性質を有することを特徴とする。一般に変異体は、天然に存在している類似体と定性的な生物活性が同じであるが、以下により詳しく説明するように、変化した特性を有する変異体を選択することもできる。
【0098】
アミノ酸配列に対する変異を導入するための部位または領域はあらかじめ決めておくが、突然変異そのものはあらかじめ決めておく必要はない。例えば所定の部位における突然変異の性能を最適化するためには、標的コドンまたは標的領域においてランダムな突然変異誘発を起こさせ、異なった発現をした変異体を、望ましい活性の最適な組み合わせに関してスクリーニングするとよい。既知の配列を有するDNAの所定の部位に置換突然変異を起こさせる方法は周知であり、例えばM13プライマー突然変異誘発やPCR突然変異誘発がある。突然変異体のスクリーニングは、異なった発現をするタンパク質の活性を調べるアッセイを利用して行なう。
【0099】
アミノ酸の置換は、一般には単一の残基において起こる。挿入は、通常は、アミノ酸約1〜20個のオーダーで起こる。しかしこれよりもはるかに大規模な挿入も許容される。欠失の範囲はアミノ酸約1〜20個であるが、場合によってはより大規模な欠失でもよい。
【0100】
置換、欠失、挿入、またはこれらの組み合わせを利用して最終的な誘導体を得ることができる。一般に、こうした変化は、分子の変化を最小にするために数個のアミノ酸においてだけ起こる。しかし場合によってはより大きな変化も可能である。異なった発現をするタンパク質の特性に小さな変化があることが望ましい場合、一般に以下の表に従って置換を導入する。
【表1】
【0101】
機能や免疫特性における実質的な変化は、表1に示した置換よりも保存性が小さい置換を選択することによって起こる。置換により、例えば変化領域のポリペプチド骨格の構造(例えばαヘリックス構造またはβシード構造)に関して;あるいは標的部位における分子の電荷または疎水性に関して;あるいは側鎖の大きさに関して、より大きな変化を起こさせることが可能である。ポリペプチドの性質に最大の変化をもたらすことが一般に予想される置換は、(a)親水性残基(例えばセリルまたはトレオニル)と疎水性残基(例えばロイシル、イソロイシル、フェニルアラニル、バリル、アラニル)の置換;(b)システインまたはプロリンと他の任意の残基の置換;(c)正に帯電した側鎖を有する残基(例えばリシル、アルギニル、ヒスチジル)と負に帯電した側鎖を有する残基(例えばグルタミル、アスパルチル)の置換;(d)大きな側鎖を有する残基(例えばフェニルアラニン)と大きな側鎖を持たない残基(例えばグリシン)の置換である。
【0102】
変異体は、一般に天然の類似体と定性的な生物活性が同じで、同じ免疫応答を誘導するが、必要に応じ、異なった発現をするタンパク質の特性を変化させるような変異体を選択することもできる。また、変異体は、異なった発現をするタンパク質の生物活性を変化させるように設計することもできる。例えばグリコシル化部位を変化させたり除去したりすることができる。
【0103】
異なった発現をするポリペプチドの共有結合に対する修飾も本発明に含まれる。共有結合に対する修飾の1つのタイプとして、異なった発現をするポリペプチドの標的となるアミノ酸残基を、異なった発現をするポリペプチドの選択した側鎖、N末端の残基、C末端の残基のいずれかと反応することのできる有機誘導化剤と反応させることが挙げられる。二官能剤を用いた誘導体化は、例えば異なった発現をするポリペプチドに対する抗体の精製またはスクリーニング・アッセイに使用するため、異なった発現をするポリペプチドを水溶性支持マトリックスまたは表面と架橋させるのに有効である。これについては後述する。一般に使用される架橋剤としては、例えば1,1−ビス(ジアゾアセチル)−2−フェニルエタン、グルタルアルデヒド、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(例えば4−アジドサリチル酸とのエステル)、ホモ二官能イミドエステル(例えば3,3’−ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)などのジスクシンイミジルエステル)、二官能マレイミド(例えばビス−N−マレイミド−1,8−オクタン)、メチル−3−[(p−アジドフェニル)−ジチオ]プロピオイミデートなどが挙げられる。
【0104】
これ以外の修飾としては、グルタミニル残基とアスパラギニル残基の脱アミド化をそれぞれ対応するグルタミル残基とアスパルチル残基に対して行なうこと、プロリンとリシンをヒドロキシル化すること、セリル残基、トレオニル残基、チロシル残基のヒドロキシル基をリン酸化すること、リシン、アルギニン、ヒスチジンの側鎖のαアミノ基をメチル化すること(T.E. Creighton、『タンパク質:構造と分子特性』、W.H.フリーマン社、サンフランシスコ、79〜86ページ、1983年)、N末端のアミンをアセチル化すること、C末端のカルボキシル基をアミド化することなどが挙げられる。
【0105】
異なった発現をするポリペプチドの共有結合に対する修飾で本発明に含まれる別のタイプのものとしては、ポリペプチドの元のグルコシル化パターンを変えることが挙げられる。“元のグルコシル化パターンを変える”とは、この明細書では、異なった発現をする元のポリペプチドに存在している1つ以上の炭化水素部分を除去すること、および/または異なった発現をする元のポリペプチドに存在していない1つ以上のグルコシル化部位を付加することを意味する。
【0106】
異なった発現をするポリペプチドに対するグルコシル化部位の付加は、このポリペプチドのアミノ酸配列を変化させることによって実現できる。変化は、(O結合型グルコシル化部位にするため)例えば異なった発現をする元のポリペプチドに1つ以上のセリン残基またはトレオニン残基を付加することによって、あるいは異なった発現をする元のポリペプチドをこれら残基で置換することによって実現できる。必要に応じ、異なった発現をするアミノ酸配列を、DNAレベルにおける変化を通じて(特に、異なった発現をするポリペプチドをコードしているDNAをあらかじめ選択した塩基の位置で突然変異させることにより)変化させ、望むアミノ酸に翻訳されるコドンが生まれるようにすることができる。
【0107】
異なった発現をするポリペプチドにおける炭化水素部分の数を増やす別の方法は、グリコシドをこのポリペプチドと化学的に、あるいは酵素を用いて結合させるというものである。このような方法は、例えば1987年9月11日に公開されたWO 87/05330と、AplinとWristonによる異なった表現の論文であるCrit. Rev. Biochem.、259〜306ページ、1981年に記載されている。
【0108】
異なった発現をするポリペプチドに存在する炭化水素部分の除去は、化学的方法により、あるいは酵素を用いた方法により、あるいはグリコシル化の標的として機能するアミノ酸残基をコードしているコドンを突然変異によって置換する方法により、実現することができる。化学的な脱グリコシル化法は従来技術で知られており、例えばHakimuddin他、Arch. Biochem. Biophys.、第259巻、52ページ、1987年と、Edge他、Anal. Biochem.、第118巻、131ページ、1981年に記載されている。ポリペプチドに存在する炭化水素部分を酵素によって開裂させるには、さまざまなエンドグリコシダーゼやエキソグリコシダーゼを用いることができる。これについてはThokakura他、Meth. Enzymol.、第138巻、350ページ、1987年に記載されている。
【0109】
異なった発現をするポリペプチドの共有結合に対する別のタイプの修飾は、異なった発現をするポリペプチドを、アメリカ合衆国特許第4,640,835号、第4,496,689号、第4,301,144号、第4,670,417号、第4,791,192号、第4,179,337号に記載されている方法で、いろいろな非タンパク質ポリマー(例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン)と結合させるというものである。
【0110】
異なった発現をする本発明のポリペプチドを修飾して、異なった発現をするポリペプチドが別のヘテロなポリペプチドまたはアミノ酸配列と融合したものを含むキメラ分子が形成されるようにすることもできる。一実施態様では、このようなキメラ分子は、異なった発現をするポリペプチドが、抗タグ抗体が選択的に結合できるエピトープとなるタグ・ポリペプチドと融合したものを含んでいる。エピトープ・タグは、一般に、異なった発現をするポリペプチドのアミノ末端またはカルボキシル末端に位置する。異なった発現をするポリペプチドにエピトープがタグとして付いた形態のものが存在していることは、タグ・ポリペプチドに対する抗体を用いて検出することができる。また、エピトープ・タグが存在していると、異なった発現をするポリペプチドを、抗タグ抗体を用いたアフィニティ精製によって、あるいはエピトープ・タグと結合する別のタイプのアフィニティ・マトリックスを用いたアフィニティ精製によって、容易に生成させることができる。別の実施態様では、キメラ分子は、異なった発現をするポリペプチドが、免疫グロブリンと融合したもの、または免疫グロブリンの特定の領域と融合したものを含んでいる。2価の形態のキメラ分子では、IgG分子のFc領域に対してこのような融合をさせることができよう。
【0111】
さまざまなタグ・ポリペプチドとその抗体が従来技術でよく知られている。具体例としては、ポリ−ヒスチジン(poly−his)タグまたはポリ−ヒスチジン−グリシン(poly−his−gly)タグ;flu HAタグ・ポリペプチドとその抗体12CA5(Field他、Mol. Cell. Biol.、第8巻、2159〜2165ページ、1988年);c−mycタグとこのタグに対する8F9、3C7、6E10、G4、B7、9E10抗体(Evan他、Molecular and Ccellular Biology、第5巻、3610〜3616ページ、1985年);単純ヘルペス・ウイルスの糖タンパク質D(gD)タグとその抗体(Paborsky他、Protein Engineering、第3巻(6)、547〜553ページ、1990年)が挙げられる。これ以外のタグ・ポリペプチドとしては、フラグ・ペプチド(Hopp他、BioTechnology、第6巻、1204〜1210ページ、1988年);KT3エピトープ・ペプチド(Martin他、Science、第255巻、192〜194ページ、1992年);チューブリン・エピトープ・ペプチド(Skinner他、J. Biol. Chem.、第266巻、15163〜15166ページ、1991年;T7遺伝子10タンパク質ペプチド・タグ(Lutz−Freyermuth他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第87巻、6393〜6397ページ、1990年)が挙げられる。
【0112】
異なった発現をするタンパク質ファミリーの異なった発現をする他のタンパク質や、他の生物に由来する異なった発現をするタンパク質(このタンパク質は、以下に説明するようにしてクローニングし、発現させる)も、異なった発現をするタンパク質の実施態様に含まれる。したがって、プローブまたは縮退ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)プライマーの配列を用い、ヒトその他の生物から、他の関連した異なった発現をするタンパク質を見つけることができる。当業者であればわかるように、特に有用なプローブおよび/またはPCRプライマーの配列は、異なった発現をする核酸配列に独自の領域を含んでいる。従来技術においてよく知られているように、好ましいPCRプライマーは、長さが約15〜約35個、好ましくは約20〜約30個のヌクレオチドであり、必要に応じてイノシンを含むことができる。PCR反応の条件は、従来技術において周知である。
【0113】
さらに、この明細書で説明してあるように、異なった発現をするタンパク質は、例えば、追加配列を明らかにすること、エピトープまたは精製タグを付加すること、他の融合配列を付加することなどによって、図に示したタンパク質よりも長くすることができる。
【0114】
異なった発現をするタンパク質は、異なった発現をする核酸によりコードされているものとして同定することもできる。したがって異なった発現をするタンパク質は、この明細書に記載したように、配列リストの配列またはその相補配列とハイブリダイズする核酸によってコードされている。
【0115】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質を用いて抗体を生成させる場合(例えば免疫療法のため)には、異なった発現をするタンパク質は、完全長のタンパク質と少なくとも1つのエピトープまたは決定基を共有している必要がある。“エピトープ”または“決定基”とは、この明細書では、MHCに関して抗体またはT細胞受容体を生成させるタンパク質の一部、および/または抗体またはT細胞受容体と結合するタンパク質の一部を意味する。したがってほとんどの場合、異なった発現の程度がより小さくされたタンパク質に対する抗体は、完全長のタンパク質と結合できよう。好ましい一実施態様では、エピトープは独自のものである。すなわち独自のエピトープに対する抗体は、交差反応性がほとんどないか、まったくない。
【0116】
一実施態様では、“抗体”という用語に、従来技術で知られているように、抗体断片(例えばFab、Fab2、一本鎖抗体(例えばFv)、キメラ抗体など)が含まれる。抗体は、全抗体の修飾によって産生されたもの、あるいはDNA技術によって新たに合成されたものである。
【0117】
ポリクローナル抗体の調製法は従来技術において公知である。ポリクローナル抗体は、例えば免疫化剤を必要に応じてアジュバントとともに1回以上注入することによって哺乳類から得ることができる。一般に、免疫化剤および/またはアジュバントは、哺乳類に対し、多数回の皮下注射または腹腔内注射によって注入される。免疫化剤としては、CHA4またはCBK8、その断片、その融合タンパク質が挙げられる。免疫化剤は、免疫化された哺乳類において免疫を起こさせることが知られているタンパク質と結合させるとよかろう。そのような免疫誘起タンパク質としては、スカシガイのヘモシアニン、血清アルブミン、ウシのチログロブリン、ダイズのトリプシンインヒビターなどが挙げられる。使用される可能性のあるアジュバントの具体例としては、フロイントの完全アジュバントや、MPL−TDMアジュバント(モノホスホリル脂質A、合成トレハロース・ジコリノミコレート)が挙げられる。免疫化のプロトコルは、過度な実験を行なうことなく当業者が選択することができる。
【0118】
抗体は、モノクローナル抗体でもよい。モノクローナル抗体は、例えばKohlerとMilstein、Nature、第256巻、495ページ、1975年に記載されているハイブリドーマ法を用いて調製することができる。ハイブリドーマ法では、マウス、ハムスター、あるいはその他の適切な宿主動物を、一般に、免疫化剤を用いて免疫化する。そのとき使用するのは、この免疫化剤と特異的に結合する抗体を産生する(ことのできる)リンパ球を誘導する免疫化剤である。また、リンパ球をインビトロで免疫化することもできる。免疫化剤としては、一般に、CHA4ポリペプチドまたはCBK8ポリペプチド、その断片、その融合タンパク質が挙げられる。一般に、ヒト起源の細胞が望ましい場合には、末梢血のリンパ球(“PBL”)が用いられ、ヒト以外の哺乳類に由来する細胞が望ましい場合には、脾臓細胞またはリンパ節細胞が用いられる。次に、適切な融合剤(ポリエチレングリコールなど)を用い、リンパ球を不死化細胞系と融合してハイブリドーマ細胞にする(Goding、『モノクローナル抗体:原理と実際』、アカデミック出版、1986年、59〜103ページ)。不死化細胞系は、通常は、形質転換された哺乳類の細胞(中でも囓歯類、ウシ、ヒトに由来する骨髄腫細胞)である。一般に、ラットまたはマウスの骨髄腫細胞系を使用する。ハイブリドーマ細胞は、適切な培地で培養することができる。なおこの培地は、融合しない不死化細胞の増殖または生存を抑制する1種類以上の物質を含んでいることが好ましい。例えば親細胞にヒポキサンチン・グアニン・ホスホリボシル・トランスフェラーゼ(HGPRTまたはHPRT)という酵素が欠乏している場合には、一般に、ハイブリドーマ用の培地が、HGPRTの欠乏した細胞の増殖を妨げるヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジンを含むようにする(“HAT培地”)。
【0119】
一実施態様では、抗体は二特異的抗体である。二特異的抗体は、少なくとも2つの異なる抗原に対して特異的に結合するモノクローナル抗体である。この抗体は、ヒトの抗体またはヒト化抗体であることが好ましい。ここでは、一方の結合特異性は、CHA4、CBK8、またはその断片に対するものであり、他方の結合特異性は、他の任意の抗原、好ましくは細胞表面タンパク質、受容体、受容体サブユニットに対するものである。なお抗原は、腫瘍特異的であることが好ましい。
【0120】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質に対する抗体は、以下に説明するように、異なった発現をするそのタンパク質の生物機能を低下または喪失させることができる。すなわち、異なった発現をするタンパク質に対する抗体(ポリクローナルでもモノクローナルでもよいが、モノクローナルが好ましい)を異なった発現をするタンパク質(または異なった発現をするタンパク質を含む細胞)に添加すると、異なった発現をするタンパク質の活性を低下または喪失させることができる。一般に、活性が少なくとも約25%低下することが好ましい。活性は、少なくとも約50%低下することが非常に好ましく、約95〜100%低下することが特に好ましい。
【0121】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質に対する抗体は、ヒト化抗体である。ヒト以外(例えばネズミ類)の抗体をヒト化したものは、複数の免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖、またはその断片(例えばFv、Fab、fab’、F(ab’)2、抗体のこれ以外の抗原結合配列)からなるキメラ分子であり、ヒト以外の免疫グロブリンに由来する最低限の配列を含んでいる。ヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン(レシピエントの抗体)を含んでおり、この免疫グロブリンにおいて、レシピエントの相補性決定部位(CDR)を形成している残基が、望む特異性、アフィニティ、能力を有するマウス、ラット、ウサギなどのヒト以外の種(ドナーの抗体)のCDRからの残基で置換される。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのFv枠組み構造に含まれる残基が、対応するヒト以外の残基で置換される。ヒト化抗体は、レシピエントの抗体にも、導入されたCDRまたは枠組みの配列にも見られない残基を含むこともできる。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つの可変領域、一般には2つの可変領域を実質的にすべて含むことになろう。これら可変領域においては、すべての、または実質的にすべてのCDR領域が、ヒト以外の免疫グロブリンのCDR領域に対応しており、すべての、または実質的にすべてのFR領域が、ヒト免疫グロブリンのコンセンサス配列のFR領域に対応している。ヒト化抗体は、免疫グロブリン(一般にはヒト免疫グロブリン)の定常領域(Fc)の少なくとも一部も含むことになろう(Jones他、Nature、第321巻、522〜525ページ、1986年;Riechmann他、Nature、第322巻、323〜327ページ、1988年;Presta、Curr. Op. Struct. Biol.、第2巻、593〜596ページ、1992年)。
【0122】
ヒト以外の抗体をヒト化する方法は従来技術において周知である。一般に、ヒト化抗体は、ヒト以外の供給源から導入された1つ以上のアミノ酸残基を含んでいる。ヒト以外のこれらアミノ酸残基は、典型的には外来可変領域から取り込まれたものであり、外来残基と呼ばれることがしばしばある。ヒト化は、主として、Winterとその共同研究者らの方法(Jones他、Nature、第321巻、522〜525ページ、1986年;Riechmann他、Nature、第322巻、323〜327ページ、1988年;Verhoeyen他、Science、第239巻、1534〜1536ページ、1988年)に従って囓歯類のCDRまたはCDR配列をヒト抗体の対応する配列で置換することによって実現することができる。したがって、そのようなヒト化抗体は、完全なヒト可変領域よりも実質的に短い領域が、ヒト以外の種からの対応する配列で置換されているキメラ抗体である(アメリカ合衆国特許第4,816,567号)。実際上は、ヒト化抗体は、一般に、いくつかのCDR残基、可能ならばいくつかのFR残基が、囓歯類の抗体の類似した部位からの残基によって置換されたヒト抗体である。
【0123】
ヒト化抗体は、従来技術で知られているさまざまな方法で製造することもできる。例えばファージ提示ライブラリを用いる方法がある(HoogenboomとWinter、J. Mol. Biol.、第227巻、381ページ、1991年;Marks他、J. Mol. Biol.、第222巻、581ページ、1991年)。ColeらとBoernerらの方法も、ヒト・モノクローナル抗体の調製に利用することができる(Cole他、『モノクローナル抗体とガンの治療』、Alan R. Liss社、77ページ、1985年;Boerner他、J. Immunol.、第147巻(1)、86〜95ページ、1991年)。同様に、ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリンの遺伝子座をトランスジェニック動物(例えば内在性免疫グロブリン遺伝子の一部または全部を不活性化したマウス)に導入することによって製造することができる。攻撃によりヒト抗体が産生されるのが観察される。これは、あらゆる点(例えば、遺伝子再構成、遺伝子組み立て、抗体レパートリーなど)で、ヒトで見られる抗体産生と非常に似ている。この方法は、例えばアメリカ合衆国特許第5,545,807号、第5,545,806号、第5,569,825号、第5,625,126号、第5,633,425号、第5,661,016号と、以下の科学論文に記載されている:Marks他、Bio/Technology、第10巻、779〜783ページ、1992年;Lonberg他、Nature、第368巻、856〜859ページ、1994年;Morrison、Nature、第368巻、812〜813ページ、1994年;Fishwild他、Nature Biotechnology、第14巻、845〜851ページ、1996年;Neuberger、Nature Biotechnology、第14巻、826ページ、1996年;LonbergとHuszar、Intern. Rev. Immunol.、第13巻、65〜93ページ、1995年。
【0124】
免疫療法とは、異なった発現をするタンパク質に対する抗体を用いたガンの治療を意味する。この明細書では、免疫療法は、受動的なものでも、能動的なものでもよい。この明細書における受動的免疫療法では、抗体をレシピエント(患者)に受動的に移す。能動的免疫療法では、レシピエント(患者)の体内で抗体および/またはT細胞の応答を誘導する。免疫応答が誘導されるのは、抗体を発生させる抗原をレシピエントに供給した結果である。当業者であればわかるように、抗原の供給は、発生させたい抗体の発生原因となるポリペプチドをレシピエントに注入することによって、あるいは抗原を発現する核酸を、その抗原が発現する条件下でレシピエントに接触させることによって実現することができる。
【0125】
好ましい一実施態様では、抗体を発生させる異なった発現をするタンパク質は、上記の分泌タンパク質である。理論に囚われないとすると、治療に用いる抗体は、分泌タンパク質と結合するとともに、分泌タンパク質が対応する受容体と結合することを妨げ、そのことによって異なった発現をする分泌タンパク質が不活性化される。
【0126】
別の好ましい一実施態様では、抗体を発生させる異なった発現をするタンパク質は、膜貫通タンパク質である。理論に囚われないとすると、治療に用いる抗体は、異なった発現をするタンパク質の細胞外ドメインと結合するとともに、このタンパク質が他のタンパク質(例えば循環しているリガンドや細胞関連分子)と結合することを妨げる。抗体は、異なった発現をするタンパク質の細胞外ドメインを下方調節する可能性がある。当業者であればわかるように、抗体は、異なった発現をするタンパク質の細胞外ドメインに別のタンパク質が結合するのを競合的に抑制してもよいし、競合せずに抑制してもよい。抗体は、異なった発現をするタンパク質のアンタゴニストでもある。さらに、抗体は、異なった発現をするタンパク質の細胞外ドメインの活性化を抑制する。一実施態様として、抗体が、異なった発現をするタンパク質に他の分子が結合するのを抑制する場合には、その抗体は細胞の成長を阻止する。抗体は、細胞を細胞毒性剤(例えばTNF−α、TNF−β、IL−1、INF−γ、IL−2、化学療法剤(例えば5FU、ビンブラスチン、アクチノマイシンD、シスプラチン、メトトレキセートなど))に対して敏感にする。場合によっては、抗体が血清中の補体を活性化するサブタイプに属することもある。それは、抗体が膜貫通タンパク質と複合体を形成して細胞毒性を媒介する場合である。したがって異なった発現状態は、異なった発現をするタンパク質の細胞外ドメインを対象とする抗体を患者に投与することによって治療できる。
【0127】
別の好ましい一実施態様では、抗体を治療効果を有する部分と結合させる。ある場合には、治療効果を有する部分は、異なった発現をするタンパク質の活性を変化させる小分子である。別の場合には、治療効果を有する部分は、異なった発現をするタンパク質に付随する分子の活性、または異なった発現をするタンパク質に近接した分子の活性を変化させる。治療効果を有する部分は、ガンに関係したプロテアーゼまたはプロテインキナーゼなどの酵素の活性を抑制できる可能性がある。
【0128】
好ましい一実施態様では、治療効果を有する部分は、細胞毒性剤である。この方法では、細胞毒性剤を腫瘍組織または腫瘍細胞に狙いを定めて到達させて冒された細胞の数を減らすことにより、ガンに関係した症状を減らす。細胞毒性剤は多彩なものが存在しており、具体的には細胞毒性薬、毒素、そのような毒素の活性断片などが挙げられる。適切な毒素とその毒素に対応する断片としては、ジフテリアA鎖、エキソトキシンA鎖、リシンA鎖、アブリンA鎖、クルシン、クロチン、フェノマイシン、エノマイシンなどが挙げられる。細胞毒性剤には、異なった発現をするタンパク質に対する抗体に放射性同位体を結合させることによって作った放射性化学物質、あるいは抗体と共有結合させたキレート剤に放射性核種を結合させることによって作った放射性化学物質も含まれる。治療効果を有する部分を異なった発現をする膜貫通タンパク質に狙いを定めて到達させると、異なった発現をしている疾患領域におけるこの治療効果を有する部分の局所的濃度が上昇するだけでなく、この治療効果を有する部分に関係している可能性のある副作用が少なくなる。
【0129】
別の好ましい一実施態様では、抗体を発生させるPCタンパク質は、細胞内タンパク質である。この場合、抗体は、細胞の中に入れやすくするタンパク質と結合させるとよい。一実施態様では、抗体は、エンドサイトーシスによって細胞内に入る。別の実施態様では、抗体をコードしている核酸をヒトまたは細胞に投与する。さらに、PCタンパク質を細胞内の標的(すなわち核)に狙いを定めて到達させる場合には、そのタンパク質に対する抗体は、その標的の位置に関する信号(すなわち核位置信号)を含んでいる。
【0130】
異なった発現をする本発明の抗体は、異なった発現をするタンパク質と特異的に結合する。“特異的に結合する”とは、この明細書では、結合定数が少なくとも10−4〜10−6M−1の範囲、好ましくは10−7〜10−9M−1の範囲で抗体がタンパク質と結合することを意味する。
【0131】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質は、発現後に精製または単離する。異なった発現をするタンパク質は、サンプル中に存在する他の成分が何であるかに応じ、当業者に知られているさまざまな方法で単離または精製することができる。標準的な精製法としては、電気泳動法、分子法、免疫法、クロマトグラフィ法(イオン交換クロマトグラフィ、疎水性クロマトグラフィ、アフィニティ・クロマトグラフィ、逆相HPLC、クロマトフォーカシング・クロマトグラフィ)が挙げられる。例えば異なった発現をするタンパク質は、異なった発現をするタンパク質に対する抗体用の標準的なカラムを用いて精製することができる。限外濾過とダイアフィルトレーションも、タンパク質の濃縮と組み合わせる場合に有効である。適切な精製法に関する一般的な説明は、Scopes, R.、『タンパク質の精製』、シュプリンガー−フェアラーク社、ニューヨーク、1982年を参照のこと。必要な精製度は、異なった発現をするタンパク質の用途によって異なるであろう。場合によっては精製が不要であろう。
【0132】
異なった発現をするタンパク質と核酸は、発現でき、必要に応じて精製できたなら、多くの用途において利用することができる。
【0133】
一実施態様では、ガンの表現型におけるさまざまな細胞状態について遺伝子の発現レベルを明らかにする。すなわち、正常組織とガン組織(それに加え、場合によっては、以下に説明するように、予後に関係するさまざまな進行度のガン組織)における遺伝子の発現レベルを評価し、発現プロファイルを作る。特定の細胞状態または進行地点の発現プロファイルは、本質的に、その状態の“フィンガープリント”である。2つの状態が特定の遺伝子の同様な発現に関係していることがあるが、遺伝子数の評価を同時に行なうことにより、細胞の状態に独特の遺伝子発現プロファイルを作ることができる。異なった状態にある細胞の発現プロファイルを比較することにより、それぞれの状態においてどの遺伝子が重要であるかに関する情報(遺伝子の上方調節と下方調節に関する情報を含む)が得られる。次に、特定の患者からの組織が正常組織の発現プロファイルであるかガン組織の発現プロファイルであるかの診断を行なう。あるいはその診断を確認する。
【0134】
“異なった発現”またはこの明細書で用いられているこれと文法的に同等な表現は、さまざまな細胞における遺伝子の経時的発現パターンおよび/または細胞発現パターンにおける定性的な違いと定量的な違いの両方を意味する。したがって異なった発現をする遺伝子は、例えば正常組織においては例えばガン組織と比べて発現が(活性化の場合も不活性化の場合も)定性的に変化する可能性がある。つまり遺伝子は、スイッチが入ったり切れたりしてある状態から別の特定の状態になることができる。当業者には明らかなように、2つ以上の状態を自由に比較することができる。定性的に変化したこのような遺伝子は、1つの状態または1つの細胞タイプにおいてある発現パターンを示す。この発現パターンは、そのような1つの状態または1つの細胞タイプにおいて標準的な方法で検出することができるが、その両方で検出することはできない。また、発現が増加または減少するという意味で、測定は定量的である。すなわち、遺伝子の発現は、上方調節されて転写物の量が増加するか、下方調節されて転写物の量が減少するかである。発現の差は、以下に説明するように、標準的なキャラクテリゼーション法によって定量するのに十分な大きさでありさえすればよい。定量には、例えばアフィメトリックス・ジーンチップ(登録商標)発現アレイ(Lockhart、Nature Biotechnology、第14巻、1675〜1680ページ、1996年)を用いる。この発現アレイは、参考としてこの明細書にあからさまな形で組み込まれているものとする。他の方法としては、定量的逆転写酵素PCR、ノーザン分析、RNアーゼ保護などが挙げられる。上に説明したように、発現の変化(すなわち上方調節または下方調節)は、少なくとも約50%であることが好ましい。この変化は少なくとも約100%であることがより好ましく、少なくとも約150%であることがさらに好ましく、少なくとも約200%であることがさらに好ましく、300〜少なくとも約1000%であることが特に好ましい。
【0135】
当業者であればわかるように、これは、遺伝子転写物またはタンパク質のレベルを評価することによって可能である。すなわち、遺伝子の発現量を、遺伝子転写物に対応するDNAまたはRNAに対する核酸プローブを用いてモニターするとよい。遺伝子発現レベル、あるいは最終遺伝子産物そのもの(タンパク質)の定量は、例えば異なった発現をするタンパク質に対する抗体と、標準的なイムノアッセイ(ELISAなど)やそれ以外の方法(質量分析、2Dゲル電気泳動など)を利用して行なうことが可能である。したがって、乳ガンまたは結腸直腸ガンの遺伝子に対応するタンパク質(すなわち乳ガンまたは結腸直腸ガンの表現型において重要であることが明らかになった遺伝子)は、乳ガンまたは結腸直腸ガンの診断テストで評価することができる。
【0136】
好ましい一実施態様では、遺伝子の発現をモニターし、それと同時に多数の遺伝子、すなわち1つの発現プロファイルをモニターする。ただし、多数の遺伝子の発現をモニターすることも可能である。同様に、このアッセイは個別に行なうこともできる。
【0137】
この実施態様では、異なった発現をする核酸のプローブをこの明細書で説明したバイオチップに付着させ、特定の細胞内で異なった発現をする配列の検出と定量を行なう。このアッセイについては後出の実施例でさらに詳しく説明する。
【0138】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質をコードしている核酸を検出する。異なった発現をするタンパク質をコードしているDNAまたはRNAを検出することが可能であるが、特に興味があるのは、異なった発現をするタンパク質をコードしているmRNAを検出する方法である。サンプル中にmRNAが存在しているというのは、異なった発現をする遺伝子が転写されてmRNAを形成していることを示す。したがって対応するタンパク質が発現することを示唆する。mRNAを検出するプローブとしては、mRNAと相補的でmRNAと塩基対を形成するあらゆるヌクレオチド/デオキシヌクレオチド・プローブが可能であり、例えばオリゴヌクレオチド、cDNA、RNAが挙げられる。プローブは、この明細書に記載した検出可能な標識も含んでいるべきである。1つの方法では、調べる核酸をナイロン膜などの固体支持体に固定化し、プローブをサンプルとハイブリダイズさせた後、mRNAを検出する。非特異的に結合したプローブを除去するために洗浄した後、標識を検出する。別の方法では、mRNAの検出をその場で行なう。この方法では、透過可能にした細胞サンプルまたは組織サンプルを、検出可能な標識を付けた核酸プローブと十分な時間接触させ、プローブが標的mRNAとハイブリダイズできるようにする。非特異的に結合したプローブを除去するために洗浄した後、標識を検出する。例えば、異なった発現をするタンパク質をコードしているmRNAと相補的なリボプローブ(RNAプローブ)をジオキシゲニンで標識したものを、ジオキシゲニンを抗ジオキシゲニン二次抗体と結合させて検出し、ニトロブルーテトラゾリウムと5−ブロモ−4−クロロ−3−インドイルホスフェートを用いて現像する。
【0139】
好ましい一実施態様では、この明細書に記載した3種類のタンパク質(分泌タンパク質、膜貫通タンパク質、細胞内タンパク質)のうちの任意のものを診断アッセイで使用する。異なった発現をするタンパク質、抗体、核酸、修飾されたタンパク質と、異なった発現をする配列を含む細胞が、診断アッセイで使用される。これは、個々の遺伝子のレベルで、または対応するポリペプチドのレベルで実行することが可能である。好ましい一実施態様では、発現プロファイルを好ましくはハイスループット・スクリーニング技術と組み合わせて使用し、発現プロファイルの遺伝子および/または対応するポリペプチドをモニターできるようにする。
【0140】
この明細書に記載してあるように、異なった発現をするタンパク質(分泌タンパク質、膜貫通タンパク質、細胞内タンパク質)は、乳ガンおよび結腸直腸ガンのマーカーとしての用途がある。患者のガンと予測される組織においてこのタンパク質を検出することにより、ガンを明らかにすること、すなわちガンを診断することができる。当業者に知られている多数の方法が、ガンの検出に用いられる。一実施態様では、抗体を用いてガンを検出する。好ましい方法は、サンプルまたは患者からのタンパク質をゲル(一般には変性した還元性タンパク質ゲルであるが、等電点ゲルを始めとする他のタイプのゲルでもよい)上の電気泳動によって単離するというものである。タンパク質の単離後、乳ガンまたは結腸直腸ガンのタンパク質を、ガンのタンパク質に対する抗体を用いた免疫ブロッティングによって検出する。免疫ブロッティングの方法は、当業者には周知である。
【0141】
別の好ましい方法では、異なった発現をするタンパク質に対する抗体を、インサイチュ画像化法で使用する。この方法では、異なった発現をするタンパク質に対する1つ〜多数の抗体に細胞を接触させる。非特異的な抗体の結合を除去するために洗浄した後、抗体の存在を検出する。一実施態様では、検出可能な標識を含む二次抗体とともに培養することによって抗体を検出する。別の好ましい実施態様では、多数ある一次抗体のそれぞれが、検出可能な異なる標識を含んでいる。この方法は、異なった発現をする複数のタンパク質を同時にスクリーニングする際に特に用いられる。当業者であればわかるように、本発明では他の多くの組織学的方法も有効である。
【0142】
好ましい一実施態様では、さまざまな波長の発光を区別して検出することのできる蛍光メーターで標識を検出する。さらに、この方法では蛍光活性化セルソーター(FACS)を用いることができる。
【0143】
別の好ましい実施態様では、血液サンプルやその他の体内分泌物からの異なった発現を診断するのに抗体が用いられる。すでに説明したように、異なった発現をするある種のタンパク質は、分泌分子/循環分子である。したがって血液サンプルやその他の体内分泌物は、異なった発現をする分泌タンパク質の存在を調べるためのサンプルとして役立つ。当業者であればわかるように、抗体を用いると、すでに説明したイムノアッセイ(ELISA、免疫ブロッティング(ウエスタン・ブロッティング)、免疫沈降、BIACORE法など)により、異なった発現をするタンパク質を検出することができる。
【0144】
好ましい一実施態様では、組織アレイに対し、異なった発現をする核酸プローブに標識を付けたもののインサイチュ・ハイブリダイゼーションを行なう。例えば(乳ガンまたは結腸直腸ガンの組織および/または正常組織を含む)組織サンプルのアレイを製作する。すると、従来技術で知られているインサイチュ・ハイブリダイゼーションを行なうことができる。
【0145】
当業者であれば、フィンガープリントをある1人の人と基準で比較することにより、診断と予後を明らかにできることがわかる。さらに、診断結果を示す遺伝子は、予後を示す遺伝子と異なっている可能性のあることもわかる。
【0146】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質、抗体、核酸、修飾されたタンパク質と、異なった発現をする配列を含む細胞を、予後アッセイで用いる。上記のように、長期の予後に関し、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンの進行度と相関する遺伝子発現プロファイルを作ることができる。これは、ここでもタンパク質または遺伝子のレベルで行なうことができる。その際に使用するのは遺伝子のほうが好ましい。上記のように、異なった発現をするプローブをバイオチップに付着させ、組織または患者の異なった発現をする配列を検出し、定量する。このアッセイは、診断アッセイの場合と同様に行なう。
【0147】
好ましい一実施態様では、上記3種類のタンパク質のうちの任意のものを用いて薬剤スクリーニング・アッセイを行なう。異なった発現をするタンパク質、抗体、核酸、修飾されたタンパク質と、異なった発現をする配列を含む細胞を、薬剤スクリーニング・アッセイで用い、薬剤候補が“遺伝子発現プロファイル”またはポリペプチドの発現プロファイルに及ぼす効果を評価する。好ましい一実施態様では、発現プロファイルを好ましくはハイスループット・スクリーニング法と組み合わせて用いると、薬剤候補で処理した後の遺伝子発現プロファイルをモニターすることができる(Zlokarnik他、Science、第279巻、84〜88ページ、1998年、Heid、1996 #69)。
【0148】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質、抗体、核酸、修飾されたタンパク質と、異なった発現をする元のタンパク質または修飾されたタンパク質を含む細胞を用いてスクリーニング・アッセイを行なう。つまり本発明により、乳ガンまたは結腸直腸ガンの表現型を変える組成物の新規なスクリーニング法が提供される。上記のように、これは、個々の遺伝子レベルにおいて、すなわち薬剤候補が1つの“遺伝子発現プロファイル”に及ぼす効果を評価することによって実現される。好ましい一実施態様では、発現プロファイルを好ましくはハイスループット・スクリーニング法と組み合わせて用いると、薬剤候補で処理した後の遺伝子発現プロファイルをモニターすることができる(Zlokarnik、上記文献)。
【0149】
異なった発現をする遺伝子が同定されると、さまざまなアッセイを行なうことができる。好ましい一実施態様では、アッセイは、個々の遺伝子またはタンパク質のレベルで実行することができる。すなわち、特定の遺伝子が乳ガンおよび/または結腸直腸ガンを上方調節することが同定されると、生物活性剤候補をスクリーニングし、この遺伝子の応答を変えることができる。その場合、遺伝子を下方調節することが好ましいが、場合によっては遺伝子を上方調節する。したがって“変化”には、遺伝子発現の増加と減少の両方が含まれる。変化の好ましい量は、正常組織と腫瘍組織で元々遺伝子の発現がどれくらい違うかによって異なるであろうが、少なくとも10%である。好ましい変化は50%であり、さらに好ましいのは100〜300%であり、場合によっては300〜1000%、あるいはそれ以上である。したがって1つの遺伝子がガン腫瘍組織において正常組織の4倍発現している場合には、薬剤候補によって発現が4分の1になることが望ましく、腫瘍における発現が正常組織の10分の1になっている場合には、薬剤候補によって発現が10倍になることが望ましい。
【0150】
当業者であればわかるように、これは、遺伝子またはタンパク質のレベルで評価することによって実現することができる。すなわち、遺伝子の発現量は、核酸プローブを用いてモニターすることができ、遺伝子の発現レベル、あるいは遺伝子産物そのものの定量は、例えば異なった発現をするタンパク質に対する抗体と標準的なイムノアッセイを用いて行なうことができる。
【0151】
好ましい一実施態様では、遺伝子の発現をモニターすると同時に、多数の遺伝子、すなわち1つの発現プロファイルをモニターする。しかし多数のタンパク質の発現をモニターすることもできる。
【0152】
この実施態様では、異なった発現をする核酸プローブをこの明細書で説明したバイオチップに付着させ、特定の細胞内で異なった発現をする配列の検出と定量を行なう。このアッセイについては、後出の実施例でさらに詳しく説明する。
【0153】
一般に、好ましい一実施態様では、生物活性剤候補を細胞に添加した後に分析を行なう。さらに、ガンを変化させる生物活性剤候補、ガンのタンパク質を変化させる生物活性剤候補、ガンのタンパク質と結合する生物活性剤候補、ガンのタンパク質と抗体の結合を阻止する生物活性剤候補を同定するためにスクリーニングを行なう。
【0154】
“生物活性剤候補”または“薬剤候補”という用語、またはそれと文法的に等価な表現は、この明細書では、ガンの表現型、または異なった発現をする配列(核酸配列とタンパク質配列の両方を含む)の発現を直接的または間接的に変えることのできる生物活性剤を見つけることを目的としてテストするあらゆる分子(例えばタンパク質、オリゴペプチド、小さな有機分子、多糖、ポリヌクレオチドなど)を記述するのに用いる。好ましい実施態様では、生物活性剤が発現プロファイルを変化させる。すなわち、この明細書に記載した核酸またはタンパク質の発現プロファイルを変化させる。特に好ましい一実施態様では、薬剤候補が、ガンの表現型を抑制して例えば正常組織のフィンガープリントにする。同様に、薬剤候補は、重いガンの表現型を抑制することが好ましい。一般に、さまざまな薬剤濃度で複数のアッセイを並列して行ない、そのさまざまな濃度に対する異なった応答を得る。典型的には、これら濃度のうちの1つ、すなわち濃度ゼロまたは検出レベル以下の濃度が、負の対照として機能する。
【0155】
一実施態様では、薬剤候補が、CRCタンパク質の効果を中和することになる。“中和する”とは、タンパク質の活性が抑制されたり相殺されたりして、細胞に対して実質的に効果を持たなくなることを意味する。
【0156】
多数の化学物質が薬剤候補となるが、薬剤候補は、一般には有機分子、好ましくは分子量が100〜約2,500ダルトンの小さな有機化合物である。好ましい小分子は、2000D未満、あるいは1500D未満、あるいは1000D未満、あるいは500D未満である。薬剤候補は、タンパク質と構造的相互作用(特に水素結合)をするのに必要な官能基を含むとともに、一般にはアミノ基、カルボニル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基のいずれかを少なくとも1つ含んでいるが、少なくとも2つの官能基を含むことが好ましい。薬剤候補は、環状炭素、または複素環式構造および/または(多)芳香族構造が1つ以上の上記官能基で置換されたものを含んでいることがしばしばある。薬剤候補は、生体分子(例えばペプチド、サッカリド、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、誘導体、構造類似体、またはこれらの組み合わせ)の中にも見いだされる。特に好ましいのはペプチドである。
【0157】
薬剤候補は、合成化合物のライブラリ、天然化合物のライブラリなど、さまざまな供給源から得られる。例えば多彩な有機化合物や生体分子をランダムに、あるいは方向性を持って合成する(ランダム化されたオリゴヌクレオチドを発現させることも含まれる)のに、多数の方法を利用することができる。また、細菌、菌類、植物、動物の抽出物の形態をした天然化合物のライブラリを利用したり、容易に製造したりすることができる。さらに、天然または合成のライブラリまたは化合物は、従来から知られている化学的、物理的、生化学的な手段で容易に修飾することができる。公知の薬剤に対して方向性のある化学的修飾(アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化など)やランダムな化学的修飾を行なって構造類似体を作ることができる。
【0158】
好ましい一実施態様では、生物活性剤候補はタンパク質である。“タンパク質”とは、この明細書では、共有結合によって結合した少なくとも2個のアミノ酸を意味する。この用語には、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチドが含まれる。タンパク質は、天然のアミノ酸とペプチド結合とによって、あるいは合成によるペプチド模倣構造体によって作ることができる。したがって“アミノ酸”または“ペプチド残基”は、この明細書では、天然のアミノ酸と合成されたアミノ酸の両方を意味する。例えばホモフェニルアラニン、シトルリン、ノルロイシンは、本発明ではアミノ酸と見なされる。“アミノ酸”には、プロリンやヒドロキシプロリンなどのイミノ酸残基も含まれる。側鎖は、(R)立体配置または(S)立体配置が可能である。好ましい一実施態様では、アミノ酸が(S)立体配置すなわちL−立体配置になっている。天然でない側鎖を用いる場合には、アミノ酸でない置換基を用いて例えば生体内での分解を阻止したり遅らせたりすることができる。
【0159】
好ましい一実施態様では、生物活性剤候補は、天然のタンパク質またはその断片である。したがって、例えばタンパク質を含む細胞抽出物を使用すること、あるいはタンパク質性細胞抽出物のランダムな消化物または方向性のある消化物を使用することができる。このようにして、原核生物と真核生物のタンパク質のライブラリを作り、本発明の方法でスクリーニングすることができる。この実施態様で特に好ましいのは、細菌、菌類、ウイルス、哺乳類のタンパク質のライブラリである。その中でも哺乳類のタンパク質のライブラリが好ましく、ヒトのタンパク質のライブラリが特に好ましい。
【0160】
好ましい一実施態様では、生物活性剤候補は、約5〜約30個のアミノ酸からなるペプチドである。アミノ酸の数は約5〜約20個であることが好ましく、約7〜約15個であることが特に好ましい。ペプチドとしては、上に説明したように、天然のタンパク質を消化させたもの、ランダムなペプチド、“バイアスのかかった”ランダムなペプチドのいずれかが可能である。“ランダム化した”、あるいはそれと文法的に等価な表現は、この明細書では、それぞれの核酸が主としてランダムなヌクレオチドでできていることと、ペプチドが主としてランダムなアミノ酸でできていることを意味する。一般にランダムなペプチド(または以下に説明する核酸)は化学的に合成されるため、あらゆる位置にあらゆるヌクレオチドまたはアミノ酸が組み込まれている可能性がある。合成プロセスを設計するにあたっては、ランダム化されたタンパク質または核酸を生成することにより、配列の全長にわたって可能な組み合わせが(ほとんど)すべて形成され、その結果としてランダム化されたタンパク質性の生物活性剤候補のライブラリが形成されるようにすることができる。
【0161】
一実施態様では、ライブラリを完全にランダム化し、どの位置においても配列の偏りまたは均一性がなくなるようにする。好ましい一実施態様では、ライブラリをバイアスのかかったライブラリにする。すなわち、配列中のいくつかの位置を不変な状態に維持するか、あるいは限られた数の可能性の中から選択する。例えば好ましい一実施態様では、ヌクレオチドまたはアミノ酸残基は、疎水性残基、親水性残基、立体的にバイアスのかかった(小さな、あるいは大きな)残基といった限られたグループの中でランダム化し、核酸結合ドメインの形成、架橋のためのシステインの形成、SH−3ドメインのためのプロリンの形成、リン酸化部位のためのセリン、トレオニン、チロシン、ヒスチジンの形成、プリンの形成などがなされるようにする。
【0162】
好ましい一実施態様では、生物活性剤候補は、上記の核酸である。
【0163】
タンパク質についてすでに説明したように、核酸生物活性剤候補としては、天然の核酸、ランダムな核酸、“バイアスのかかった”ランダムな核酸のいずれかが可能である。タンパク質について説明したように、例えば原核生物または真核生物のゲノム消化物を使用することができる。
【0164】
好ましい一実施態様では、生物活性剤候補は、有機化学物質の部分であり、さまざまなものが文献から得られる。
【0165】
薬剤候補を添加して細胞をある程度の期間にわたって培養した後、分析する標的配列を含むサンプルをバイオチップに添加する。必要であれば、既知の方法を用いて標的配列を調製する。例えば、当業者であればわかるように、サンプルに対する処理として、既知の溶解緩衝液、電気穿孔などを利用して細胞を溶解させ、必要に応じて精製および/または増幅(例えばPCR)を行なうことができる。例えば、標識が共有結合によってヌクレオシドに結合した状態でインビトロの転写を行なう。一般に核酸は、ビオチン−FITCまたはPEで、あるいはcy3またはcy5で標識する。
【0166】
好ましい一実施態様では、標的配列を例えば蛍光体、化学発光体、化学物質、放射活性信号で標識し、プローブに対する標的配列の特異的結合を検出する手段にする。標識は酵素(例えばアルカリホスファターゼ、セイヨウワサビのペルオキシダーゼ)でもよく、その場合には適切な基質が与えられると、検出可能な産物が酵素から産生される。また標識としては、結合するが酵素によって触媒作用を受けたり変えられたりしない化合物または小分子(例えば酵素阻害剤)に標識が付いたものも可能である。標識としては、ストレプトアビジンと特異的に結合する部分または化合物(例えばエピトープ・タグまたはビオチン)も可能である。例えばビオチンの場合、ストレプトアビジンを上記のように標識することにより、結合した標的配列を検出できる信号が出るようにする。従来技術で知られているように、結合しなかった標識付きストレプトアビジンは、分析する前に除去する。
【0167】
当業者であればわかるように、これらアッセイは、直接ハイブリダイゼーション・アッセイにすることが可能である。その中には、多数のプローブを使用する“サンドイッチ・アッセイ”も含まれる。サンドイッチ・アッセイの概要については、アメリカ合衆国特許第5,681,702号、第5,597,909号、第5,545,730号、第5,594,117号、第5,591,584号、第5,571,670号、第5,580,731号、第5,571,670号、第5,591,584号、第5,624,802号、第5,635,352号、第5,594,118号、第5,359,100号、第5,124,246号、第5,681,697号に記載されており、これら特許はすべて、参考としてこの明細書に組み込まれているものとする。この実施態様では、一般に、標的核酸を上記のようにして調製し、次いでその標的核酸を、複数の核酸プローブを含むバイオチップに対し、ハイブリダイゼーション複合体が形成されるような条件下で添加する。
【0168】
本発明では、さまざまなハイブリダイゼーション条件を用いることができる。その中には、すでに説明したように、中程度に厳しい条件や厳しさが弱い条件が含まれる。アッセイは、一般に、標的が存在しているときだけ標識プローブのハイブリダイゼーション複合体が形成される厳しい条件下で実行される。厳しさは、ステップ・パラメータを変えることによって制御することができる。このステップ・パラメータは熱力学変数であり、具体的には、温度、ホルムアミドの濃度、塩の濃度、カオトロピック塩のpH、有機溶媒の濃度などが挙げられる。
【0169】
これらパラメータを利用して非特異的結合を制御することもできる。これについては、アメリカ合衆国特許第5,681,697号に概略が記載されている。したがって、非特異的結合を減らすには、より厳しい条件においていくつかのステップを実行することが望ましかろう。
【0170】
この明細書に記載した反応は、さまざまな方法で実現することができる。反応させる諸成分は、同時に添加すること、あるいは任意の順序で順番に添加することができる。好ましい実施態様はあとで説明する。さらに、反応物には他のさまざまな試薬も含めることができる。具体的には、オプションのハイブリダイゼーションと検出を容易にするため、および/または非特異的相互作用または背景相互作用を減らすために使用することのできる塩、緩衝液、中性のタンパク質(例えばアルブミン)、洗浄剤などの試薬が挙げられる。サンプルの調製法や標的の純度に応じ、アッセイの効率を別の方法で高める試薬(例えばプロテアーゼ阻害剤、ヌクレアーゼ阻害剤、抗微生物剤など)も使用することができる。
【0171】
アッセイを行なったら、データを分析し、個々の遺伝子の発現レベルと状態間の発現レベルの変化を明らかにし、遺伝子発現プロファイルを作る。
【0172】
スクリーニングを行ない、ガンの表現型を変える薬剤または生物活性剤を同定する。特に指摘しておくならば、実行可能ないくつかのタイプのスクリーニング法がある。好ましい一実施態様では、特定の発現プロファイルを誘導または抑制することのできる薬剤候補をスクリーニングし、付随する表現型を発生させる。すなわち、乳ガンまたは結腸直腸ガンにおいて正常な乳房組織または大腸組織の発現プロファイルと似た発現プロファイルを模倣する、あるいは発生させることのできる薬剤候補は、乳ガンまたは結腸直腸ガンの表現型を抑制することが予想される。したがって、この実施態様では、発現プロファイルを模倣すること、あるいはある発現プロファイルを別の発現プロファイルに変えることが目標である。
【0173】
好ましい一実施態様では、診断や予後診断の場合と同様、いずれかの状態において重要な異なった発現をする遺伝子を同定した後、スクリーニングを行なって遺伝子の発現を個別に変えることができる。すなわち、単一の遺伝子の発現を制御するモジュレータに関するスクリーニングを行なうことができる。すなわち、1つの発現プロファイルの全体または一部を模倣しようとするのではなく、個々の遺伝子を制御するためのスクリーニングを行なうことができる。したがって、例えば2つの状態の間で存在しているかいないか独自性のある標的遺伝子の場合に特に、標的遺伝子の発現に関するモジュレータのスクリーニングが行なわれる。
【0174】
好ましい一実施態様では、異なった発現をする遺伝子の発現産物の生物学的機能を変化させるためにスクリーニングを行なう。ここでも、特定の状態におけるある遺伝子の重要さを明らかにした後、その遺伝子産物と結合する薬剤および/またはその遺伝子産物の生物活性を変化させる薬剤のスクリーニングを行なうことができる。これについては以下にさらに詳しく説明する。
【0175】
したがってガンの表現型を遺伝子発現レベルまたはタンパク質レベルで変える薬剤候補のスクリーニングを行なうことができる。
【0176】
さらに、薬剤候補に応答して誘導される新規な遺伝子を探すのにスクリーニングを行なうことができる。薬剤候補を乳ガンおよび/または結腸直腸ガンの発現パターンを抑制して正常な発現パターンにする能力に基づいて同定した後、あるいは異なった発現をする単一の遺伝子の発現プロファイルを変化させて正常組織からの遺伝子の発現を模倣するようにした後、上記のスクリーニングを行なって、薬剤候補に応答して特異的に変化する遺伝子を同定する。正常組織と薬剤処理したガン組織で発現プロファイルを比較すると、正常組織またはガン組織では発現しないが、薬剤処理したガン組織では発現する遺伝子が明らかになる。薬剤特異的なこれらの配列は、異なった発現をする遺伝子またはタンパク質を探すためのこの明細書に記載した任意の方法によって同定し、使用することができる。特に、これらの配列と、これら配列がコードしているタンパク質は、薬剤処理した細胞を選定または同定するのに使用される。さらに、薬剤によって誘導されたタンパク質に対する抗体を発生させ、その抗体を用い、処理したガン細胞サンプルを新規な治療薬の標的にすることができる。
【0177】
したがって一実施態様では、薬剤候補を、乳ガンまたは結腸直腸ガンに関連した発現プロファイルを有する乳ガンまたは結腸直腸ガンの細胞群に投与する。“投与”または“接触”とは、この明細書では、薬剤候補を細胞に添加し、その薬剤候補が細胞に対して作用するようにすることを意味する。その場合、作用は、薬剤候補が取り込まれたことによる細胞内作用でも、あるいは細胞表面での作用でもよい。場合によっては、タンパク質性薬剤候補(すなわちペプチド)をコードしている核酸をウイルス構造体(例えばレトロウイルス構造体)に注入して細胞に添加しこのペプチドが発現するようにする。これについては、PCT US97/01019を参照のこと。なおこの文献の内容は、参考として明らかな形でこの明細書に組み込まれているものとする。
【0178】
薬剤候補を細胞に投与した後、望むのであれば細胞を洗浄し、好ましくは生理学的条件のもとでしばらくの時間培養する。次に細胞を回収し、この明細書に記載したようにして新しい遺伝子発現プロファイルを発生させる。
【0179】
したがって、例えば乳ガンまたは結腸直腸ガンの組織のスクリーニングを行ない、乳ガンまたは結腸直腸ガンの表現型を減らすか抑制する薬剤を探すことができる。発現プロファイルが少なくとも1つの遺伝子において変化したというのは、薬剤が、乳ガンまたは結腸直腸ガンの活性に影響を与えたことを示している。特定の表現型に対するこのような特徴を明らかにすることにより、表現型を変化させる新しい薬剤のスクリーニング法を考案することができる。この方法を用いる場合には、薬剤標的がわかっている必要はなく、薬剤標的が元のスクリーニング・プラットフォームにおいて提示される必要もなく、標的タンパク質に関する転写物のレベルが変化する必要もない。
【0180】
好ましい一実施態様では、上に説明したように、個々の遺伝子と遺伝子産物(タンパク質)に対してスクリーニングを行なうことができる。すなわち、特定の状態において異なった発現をする特定の遺伝子が重要であることが明らかになると、その遺伝子の発現またはその遺伝子産物そのもののモジュレータをスクリーニングすることができる。異なった発現をする遺伝子の遺伝子産物は、この明細書では、“異なった発現をするタンパク質”または“ガンを変化させるタンパク質”と呼ぶことがある。さらに、“モジュレータ”と“変化させる”タンパク質は、この明細書では同じ意味で用いることがある。一実施態様では、異なった発現をするタンパク質はCHA4である。別の実施態様では、異なった発現をするタンパク質はCBK8である。CHA4とCBK8の配列は、異なった発現をする配列についてこの明細書に記載したようにして同定することができる。一実施態様として、CHA4の配列を図1(配列ID番号8)と図2(配列ID番号10)に示してある。一実施態様として、CBK8の配列を図4(配列ID番号9)と図5(配列ID番号11)に示してある。異なった発現をするタンパク質は、断片でも、この明細書に示した断片に対する完全長のタンパク質でもよい。異なった発現をするタンパク質は、断片であることが好ましい。好ましい一実施態様では、配列の相同性または類似性を明らかにするのに用いるアミノ酸配列は、図2または図5に示したアミノ酸配列である。別の実施態様では、配列は、図2または図5に示した配列を有するタンパク質の天然の対立遺伝子変異体である。別の実施態様では、配列は、以下に説明する配列変異体である。
【0181】
異なった発現をするタンパク質は、長さが約14〜24個のアミノ酸からなる断片であることが好ましい。より好ましいのは、この断片が可溶性のある断片になっていることである。この断片は、膜貫通領域でない領域を含んでいることが好ましい。好ましい一実施態様では、断片は、溶けやすくするため、N末端にシステインを備えている。一実施態様では、システインと結合しやすいよう、断片のC末端は遊離可能な酸に、N末端は遊離可能なアミンになっている。長さが約14〜24個のアミノ酸からなる断片が好ましい。より好ましいのは、この断片が可溶性のある断片になっていることである。別の実施態様では、CHA4断片は、以下に説明するように、少なくとも1つのCHA4生物活性部または少なくとも1つのCBK8生物活性部を備えている。
【0182】
一実施態様では、異なった発現をするタンパク質を、この明細書に記載した免疫誘導剤と結合させる。一実施態様では、異なった発現をするタンパク質をBSAと結合させる。
【0183】
したがって好ましい一実施態様では、特定の遺伝子の発現に関するモジュレータのスクリーニングを行なうことができる。これは、上に説明したようにして行なわれるが、一般に、1つの遺伝子だけ、あるいは数個の遺伝子だけについて発現を評価する。
【0184】
好ましい一実施態様では、まず最初に、異なった発現をするタンパク質と結合できる薬剤候補群を発見し、次に、これら薬剤候補群を用い、異なった発現をするタンパク質の活性を変化させる薬剤候補の性能を評価するアッセイを行なう。したがって、当業者であればわかるように、実施可能な多数の異なったアッセイが存在している。具体的には、結合アッセイや活性アッセイが挙げられる。
【0185】
好ましい一実施態様では、結合アッセイを行なう。一般に、精製または単離した遺伝子産物を使用する。すなわち、異なった発現をする1つ以上の核酸の遺伝子産物を作る。一般に、これは従来技術で知られている方法を利用して行なう。例えば遺伝子産物であるタンパク質に対する抗体を発生させ、標準的なイムノアッセイを行なって存在しているタンパク質の量を明らかにする。また、異なった発現をするタンパク質を含む細胞をアッセイで用いることもできる。
【0186】
したがって好ましい一実施態様では、上記の方法は、異なった発現をするタンパク質と生物活性剤候補を混合し、異なった発現をするタンパク質に対する生物活性剤候補の結合を調べる操作を含んでいる。好ましい実施態様では異なった発現をするヒトのタンパク質を用いるが、例えばヒトの疾患に関するモデル動物を開発するために他の哺乳類のタンパク質を用いてもよい。いくつかの実施態様では、この明細書に記載したように、異なった発現をするタンパク質の変異体または誘導体を使用することができる。
【0187】
一般に、上記方法の好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質または薬剤候補を、拡散しないようにして、単離したサンプルの収容領域を有する不溶性支持体(例えば微小滴定プレート、アレイなど)と結合させる。また、従来技術で知られている可溶性アッセイも行なえることがわかる。不溶性支持体は、組成物が結合することができ、可溶性材料から容易に分離され、スクリーニング法全体との適合性がある任意の組成物で製造することができる。このような支持体の表面は硬くするか多孔性にすること、また、都合のよい任意の形状にすることができる。適切な不溶性支持体の具体例としては、微小滴定プレート、アレイ、膜、ビーズなどが挙げられる。これらは一般に、ガラス、プラスチック(例えばポリスチレン)、多糖、ナイロン、ニトロセルロース、テフロン(登録商標)などでできている。微小滴定プレートとアレイが特に好ましい。というのも、少量の試薬とサンプルを用いて多数のアッセイを同時に行なえるからである。組成物を結合させる方法は、試薬および本発明の方法全体との適合性があり、組成物の活性が維持され、組成物が拡散しない限りは重要ではない。好ましい結合法としては、(タンパク質が支持体と結合するときにリガンド結合部位または活性化配列を物理的に邪魔しない)抗体の利用、“粘着性”またはイオン性の支持体への直接的結合、化学的架橋、表面におけるタンパク質または薬剤の合成などが挙げられる。タンパク質または薬剤を結合させた後、結合しなかった過剰な材料を洗浄によって除去する。次に、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、その他の無害なタンパク質または部分のいずれかとともに培養することにより、サンプルの収容領域をブロックする。
【0188】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質を支持体に結合させ、生物活性剤候補を添加してアッセイを行なう。別の方法では、薬剤候補を支持体に結合させ、異なった発現をするタンパク質を添加する。新規な結合剤としては、特異的な抗体、化学物質のライブラリをスクリーニングすることによって同定された天然ではない結合剤、ペプチド類似体などが挙げられる。特に興味深いのは、ヒト細胞に対する毒性が少ない薬剤のスクリーニング・アッセイである。この目的でさまざまなアッセイを利用することができる。例えば、標識したインビトロでのタンパク質−タンパク質結合アッセイ、電気泳動移動度シフト・アッセイ、タンパク質の結合を調べるイムノアッセイ、機能アッセイ(リン酸化アッセイなど)などがある。
【0189】
生物活性剤候補が異なった発現をするタンパク質に結合したことを明らかにするには多数の方法がある。好ましい一実施態様では、生物活性剤候補を標識し、結合を直接調べる。例えばこれは、異なった発現をするタンパク質の全体または一部を固体支持体に結合させ、標識した薬剤候補(例えば蛍光標識)を添加し、過剰な試薬を洗浄によって除去し、標識が固体支持体表面に存在しているかどうかを明らかにすることによって実現することができる。従来技術で知られているように、さまざまなブロッキング・ステップと洗浄ステップを利用することができる。
【0190】
“標識した”とは、この明細書では、化合物が、検出可能な信号を出す標識(例えば放射性同位体、蛍光体、酵素、抗体、磁性粒子などの粒子、化学発光体、特異的な結合分子など)で直接的または間接的に標識されていることを意味する。特異的な結合分子としては、ビオチンとストレプトアビジン、ジゴキシンとアンチジゴキシンなどのペアが挙げられる。互いに特異的な結合をする要素の場合には、相補的な要素を、通常、上に説明したように、公知の方法により、検出できる分子で標識する。標識は、検出可能な信号を直接または間接に出すことができる。
【0191】
いくつかの実施態様では、1つの要素だけを標識する。例えば125Iまたは蛍光体を用いてタンパク質(またはタンパク質性薬剤候補)のチロシン位置を標識することができる。別の方法として、2つ以上の要素を異なる標識で標識することもできる。例えば、タンパク質には125Iを用い、薬剤候補には蛍光体を用いる。
【0192】
好ましい一実施態様では、競合結合アッセイを利用して生物活性剤候補の結合を調べる。この実施態様では、競合物は、標的分子(すなわち乳ガンまたは結腸直腸ガン)と結合することが知られている結合部分(抗体、ペプチド、結合パートナー、リガンドなど)である。場合によっては、生物活性剤と結合部分の間で競合的結合が起こり、結合部分が生物活性剤と置き換わることがある。
【0193】
一実施態様では、生物活性剤候補に標識する。生物活性剤候補または競合物、あるいはその両方をまず最初にタンパク質に対して十分な時間かけて添加し、結合が可能な場合には結合が起こるようにする。最適な活性が得られるような任意の温度(典型的には4〜40℃)で培養を行なう。培養時間は、活性が最適になるように決めるが、高速のハイスループット・スクリーニングを容易に行なうのに最適な時間になるようにもする。一般に0.1〜1時間あれば十分であろう。一般に、過剰な試薬を洗浄して除去する。次に、第2の要素を添加した後、結合を示す標識した要素が存在しているかどうかを調べる。
【0194】
好ましい一実施態様では、競合物をまず最初に添加した後、生物活性剤候補を添加する。競合物が置換されるというのは、生物活性剤候補が異なった発現をするタンパク質に結合し、したがって異なった発現をするタンパク質の活性を変える可能性があることを示している。この実施態様では、どちらかの要素を標識することができる。したがって、例えば競合物が標識されている場合には、洗浄液の中に標識が存在していることは、競合物が生物活性剤候補によって置換されたことを意味する。逆に生物活性剤候補が標識されている場合には、支持体表面に標識が存在していることが、置換を意味する。
【0195】
別の実施態様では、生物活性剤候補をまず最初に添加して培養し、洗浄した後、競合物を添加する。競合物が結合していないということは、生物活性剤候補が異なった発現をするタンパク質に対してより大きなアフィニティで結合していることを意味する。したがって、生物活性剤候補が標識されている場合には、支持体表面に標識が存在していることは、競合物の結合がないことと合わせて考えると、生物活性剤候補が異なった発現をするタンパク質と結合できることを示している可能性がある。
【0196】
好ましい一実施態様では、上記方法は、異なった発現をするタンパク質の活性を変化させることのできる生物活性剤を同定するためのディファレンシャル・スクリーニングを含んでいる。この実施態様では、上記方法は、異なった発現をするタンパク質と競合物を第1のサンプルの中で混合する操作を含んでいる。第2のサンプルは、生物活性剤候補と、異なった発現をするタンパク質と、競合物を含んでいる。競合物の結合を両方のサンプルで調べる。2つのサンプル間の変化または差が、異なった発現をするタンパク質に結合してそのタンパク質の活性を潜在的に変化させることのできる薬剤が存在していることを示す。すなわち、第2のサンプルにおける競合物の結合が第1のサンプルの場合と異なっている場合には、薬剤が異なった発現をするタンパク質と結合できる。
【0197】
また、好ましい一実施態様では、ディファレンシャル・スクリーニングを利用して、異なった発現をする元のタンパク質と結合するが、異なった発現をする修飾されたタンパク質とは結合できない薬剤候補を同定する。異なった発現をするタンパク質の構造をモデル化して合理的な薬剤設計に利用し、その部位と相互作用する薬剤を合成する。乳ガンまたは結腸直腸ガンに影響を与える薬剤候補も、薬剤をタンパク質の活性を上昇または低下させる能力に関してスクリーニングすることによって同定する。
【0198】
アッセイでは、正の対照と負の対照を利用することができる。すべての対照およびテストするサンプルは、少なくとも3回調べて統計的に有意な結果が得られるようにすることが好ましい。すべてのサンプルを、薬剤がタンパク質と結合するのに十分な時間にわたって培養する。培養後、全サンプルを洗浄して非特異的な結合をしている材料を除去し、結合の量(一般には標識した薬剤)を明らかにする。例えば放射性標識を使用する場合には、シンチレーション・カウンターでサンプルを計測することにより、結合した化合物の量を明らかにすることができる。
【0199】
スクリーニング・アッセイには、他のさまざまな試薬が含まれる可能性がある。試薬としては、例えば、タンパク質−タンパク質の結合を最適にするため、および/または非特異的相互作用または背景相互作用を減らすために用いることのできる塩、中性のタンパク質(例えばアルブミン)、洗浄剤などが挙げられる。アッセイの効率を改善する試薬(例えばプロテアーゼ阻害剤、ヌクレアーゼ阻害剤、抗微生物剤など)も使用することができる。複数の要素を任意の順番で添加し、必要な結合を得る。
【0200】
異なった発現をするタンパク質の活性を変化させる薬剤のスクリーニングを行なうこともできる。好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質の活性を変化させることのできる生物活性剤のスクリーニング法は、異なった発現をするタンパク質のサンプルに生物活性剤候補を上記のようにして添加し、異なった発現をするタンパク質における生物活性の変化を明らかにする操作を含んでいる。乳ガンおよび/または結腸直腸ガンの“活性を変化させる”という表現には、活性の上昇、活性の低下、存在している活性のタイプの変化が含まれる。したがってこの実施態様では、薬剤候補は、この明細書に記載したように、ガンのタンパク質に結合する(しかしこれは必要でないことがある)とともに、その生物活性または生化学活性を変化させねばならない。上記方法は、異なった発現をするタンパク質の存在、分布、活性、量のいずれかにおける変化を調べるために細胞に対して行なうインビトロでのスクリーニング(これについては上に大まかに説明した)と、インビボでのスクリーニングの両方の操作を含んでいる。
【0201】
したがってこの実施態様では、上記方法は、乳ガンまたは結腸直腸ガンのサンプルと生物活性剤候補を混合し、その生物活性剤候補がそれぞれ乳ガンまたは結腸直腸ガンの活性に及ぼす効果を評価する操作を含んでいる。“ガンの活性”またはこの明細書においてこれらの用語と文法的に等価な表現は、ガンの少なくとも1つの生物活性(例えば細胞分裂(好ましくは乳房組織または大腸組織における細胞分裂)、細胞増殖、腫瘍の成長、細胞の形質転換など)を意味する。別の実施態様では、ガンの活性に、CBK8の活性化、CBK8によるCBK8の基質の活性化のいずれかが含まれる。ガンの活性阻害剤は、ガンの任意の1つ以上の活性を抑制する薬剤である。
【0202】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質の活性が上昇する。別の好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質の活性が低下する。したがっていくつかの実施態様では、生物活性剤はアンタゴニストであることが好ましく、別の実施態様では、生物活性剤はアゴニストであることが好ましい。
【0203】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質の活性を変えることのできる生物活性剤のスクリーニング法が提供される。この方法は、上記のように、生物活性剤候補を、異なった発現をするタンパク質を含む細胞に添加する操作を含んでいる。好ましい細胞のタイプとしては、ほとんどすべての細胞が挙げられる。細胞は、異なった発現をするタンパク質をコードしている組み換え核酸を含んでいる。好ましい一実施態様では、薬剤候補のライブラリを複数の細胞でテストする。
【0204】
一実施態様では、生理学的信号(例えばホルモン、抗体、ペプチド、抗原、サイトカイン、増殖因子、作用電位、薬剤(例えば化学療法剤)、放射線、発ガン物質、他の細胞(すなわち細胞−細胞接触))の存在下または不在下で、あるいは生理学的信号に曝露する前または曝露した後に、アッセイを行なう。別の実施態様では、細胞サイクルの複数の異なった段階において測定を行なう。
【0205】
このようにして生物活性剤が同定される。薬理活性を有する化合物は、異なった発現をするタンパク質の活性を上昇または低下させることができる。一実施態様では、この明細書で用いられる“CHA4タンパク質の活性”に、ガンの活性、Ephファミリーの受容体チロシンキナーゼ(hekやelkなど)への結合、CHA4への結合、CHA4の活性化、CHA4によるCHA4の基質の活性化の少なくとも1つが含まれる。CHA4阻害剤は、CHA4の生物活性の少なくとも1つを抑制する。一実施態様では、この明細書で用いられる“CBK8タンパク質の活性”に、ガンの活性、細胞膜関連タンパク質への結合、細胞骨格タンパク質への結合、CBK8への結合、CBK8の活性化、CBK8によるCBK8の基質の活性化の少なくとも1つが含まれる。
【0206】
一実施態様では、乳ガンの細胞分裂を抑制する方法が提供される。この方法は、乳ガン阻害剤を投与する操作を含んでいる。別の実施態様では、結腸直腸ガンの細胞分裂を抑制する方法が提供される。この方法は、結腸直腸ガン阻害剤を投与する操作を含んでいる。
【0207】
別の実施態様では、腫瘍の成長を抑制する方法が提供される。この方法は、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンの阻害剤を投与する操作を含んでいる。好ましい一実施態様では、阻害剤はCHA4の阻害剤である。別の好ましい実施態様では、阻害剤はCBK8の阻害剤である。
【0208】
さらに別の実施態様では、ガン細胞またはガン患者の治療法が提供される。この方法は、乳ガンおよび/または結腸直腸ガンの阻害剤を投与する操作を含んでいる。好ましい一実施態様では、阻害剤はCHA4の阻害剤である。別の好ましい実施態様では、阻害剤はCBK8の阻害剤である。
【0209】
一実施態様では、異なった発現をするタンパク質の阻害剤は上記の抗体である。別の実施態様では、阻害剤はアンチセンス分子である。この明細書におけるアンチセンス分子には、異なった発現をする分子にとっての標的となるmRNA配列(センス)またはDNA配列(アンチセンス)と結合することのできる一本鎖の核酸配列(RNAまたはDNA)を含むアンチセンス・オリゴヌクレオチドまたはセンス・オリゴヌクレオチドが含まれる。好ましいアンチセンス分子は、CHA4またはCBK8に対するもの、あるいはリガンドまたはそのアクチベータに対するものである。本発明のアンチセンス・オリゴヌクレオチドまたはセンス・オリゴヌクレオチドは、一般に少なくとも約14個のヌクレオチドからなる断片を含んでいる。ヌクレオチドの数は、約14〜30個であることが好ましい。所定のタンパク質をコードしているcDNA配列に基づいてアンチセンス・オリゴヌクレオチドまたはセンス・オリゴヌクレオチドを導出する方法は、例えば、SteinとCohen、Cancer Res.、第48巻、2659ページ、1988年と、van der Krol他、BioTechniques、第6巻、958ページ、1988年に記載されている。
【0210】
アンチセンス分子は、リガンド結合分子との複合体を形成することにより、標的ヌクレオチド配列を含む細胞に導入することができる。これについてはWO 91/04753に記載されている。適切なリガンド結合分子としては、細胞表面の受容体、増殖因子、他のサイトカイン、細胞表面の受容体と結合する他のリガンドなどが挙げられる。リガンド結合分子が複合体になった場合にも、リガンド結合分子が対応する分子または受容体に結合するのが妨げられたり、センス・オリゴヌクレオチドまたはアンチセンス・オリゴヌクレオチド、またはその複合体が細胞内に入るのが妨げられたりしないことが好ましい。また、センス・オリゴヌクレオチドまたはアンチセンス・オリゴヌクレオチドを、オリゴヌクレオチド−脂質複合体を形成することにより、標的核酸配列を含む細胞に導入することもできる。これについてはWO 90/10448に記載されている。上に説明したように、アンチセンス分子、ノックアウト・モデル、ノックイン・モデルを、治療法においてだけでなくスクリーニング・アッセイにおいても利用できることがわかる。
【0211】
望む薬理活性を有する化合物は、上に説明したように、生理学的に許容可能な基剤の中に入れて宿主に投与することができる。薬剤は、経口、非経口(例えば皮下、腹腔内、静脈内)など、さまざまな方法で投与することができる。導入法が何であるかに応じ、成分をさまざまな方法で製剤にすることができる。治療活性のある化合物の製剤中の濃度は、約0.1〜100重量%の間である。薬剤は、単独で、あるいは他の治療法(例えば放射線照射)と組み合わせて投与する。
【0212】
医薬組成物は、顆粒、錠剤、ピル、座薬、カプセル、懸濁液、軟膏、ローションなど、さまざまな形態に調製することができる。医薬品質の有機または無機の基剤、および/または経口または局所での利用に適した希釈剤を用い、治療活性のある化合物を含む組成物を作ることができる。公知の希釈剤としては、水性媒体、植物油、動物油、脂肪などが挙げられる。助剤として、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧を変化させる塩、十分なpH値を確保するための緩衝液、皮膚への浸透促進剤を使用することができる。
【0213】
理論に囚われないとすると、異なった発現をするさまざまな配列が乳ガンおよび/または結腸直腸ガンにおいて重要であるらしい。したがって、ガン遺伝子の突然変異体または変異体が原因となった疾患を明らかにすることができる。一実施態様では、ガン遺伝子変異体を含む細胞を同定する方法であって、細胞中の少なくとも1つの内在性ガン遺伝子の配列の全体または一部を明らかにする操作を含む方法が提供される。当業者であればわかるように、これは、任意の数のスクリーニング法を利用して実現することができる。好ましい一実施態様では、個人のガンの表現型を同定する方法であって、その人の少なくとも1つのガン遺伝子の配列の全体または一部を明らかにする操作を含む方法が提供される。これは、一般に、その人の少なくとも1つの組織においてなされるが、多数の組織を評価する操作、または同じ組織の異なったサンプルを評価する操作がこの方法に含まれていてもよい。この方法は、シークエンシングされた遺伝子の配列を既知の遺伝子(すなわち野生型遺伝子)と比較する操作を含むことができる。
【0214】
次に、異なった発現をするタンパク質の全体または一部の配列を、異なった発現をする既知の遺伝子の配列と比較し、何らかの違いが存在しているかどうかを明らかにすることができる。これは、多数ある公知の相同性プログラムのうちの任意の方法(例えばBestfit)で実現することができる。好ましい一実施態様では、患者の異なった発現をする遺伝子と異なった発現をする既知の遺伝子で配列に違いがあるということが、すでに説明したように、疾患状態であること、または疾患状態への傾向があることを示している。
【0215】
好ましい一実施態様では、異なった発現をする遺伝子をプローブとして用い、ゲノム中の異なった発現をする遺伝子の複製数を明らかにする。
【0216】
別の好ましい実施態様では、異なった発現をする遺伝子をプローブとして用い、異なった発現をする遺伝子がどの染色体にの局在しているかを明らかにする。どの染色体に局在しているかなどの情報は、特に染色体異常(例えば転座)などが異なった発現をする遺伝子の遺伝子座において同定されたとき、診断または予後診断に用いられる。
【0217】
したがって一実施態様では、細胞または生物の乳ガンおよび/または結腸直腸ガンを変化させる方法が提供される。一実施態様では、この方法は、異なった発現をする内在性タンパク質の生物活性を低下または消滅させる抗体を細胞に投与する操作を含んでいる。また、この方法は、異なった発現をするタンパク質をコードしている組み換え核酸を細胞に投与する操作を含んでいる。当業者であればわかるように、これは、多数ある方法のうちの任意の方法で実現することができる。好ましい一実施態様では、例えば異なった発現をする配列がガンにおいて下方調節されている場合には、例えば内在性タンパク質を過剰発現させることにより、あるいはその配列をコードしている遺伝子を既知の遺伝子治療法を利用して投与することにより細胞内の異なった発現をするタンパク質の量を増やすことで、異なった発現をする遺伝子の活性を上昇させる。好ましい一実施態様では、遺伝子治療法として、増強された相同的組み換え(EHR)を利用した外来性遺伝子の組み込みがある。この方法は例えばPCT/US93/03868に記載されており、その全体が参考としてこの明細書に内容が組み込まれているものとする。また、例えば異なった発現をする配列がガンにおいて上方調節されている場合には、例えばアンチセンス核酸などのガン阻害剤を投与することによって内在性遺伝子の活性を低下させる。
【0218】
一実施態様では、この明細書に記載してあるように、異なった発現をする本発明のタンパク質を用い、異なった発現をするタンパク質に対する有用なポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を発生させることができる。同様に、標準的な方法を利用し、異なった発現をするタンパク質をアフィニティ・クロマトグラフィのカラムと結合させることができる。次にこのカラムを用いて異なった発現をする抗体を精製する。好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質に独特のエピトープに対する抗体を生成させる。つまりこの抗体は、他のタンパク質に対して交差反応性をほとんど示さないか、まったく示さない。この抗体には多数の用途がある。例えば異なった発現をする抗体を標準的なアフィニティ・クロマトグラフィのカラムに結合させ、異なった発現をするタンパク質を精製するのに用いる。この抗体は、上に説明したように、ポリペプチドをブロックするのにも用いることができる。というのも、この抗体は異なった発現をするタンパク質と特異的に結合するはずだからである。
【0219】
一実施態様では、異なった発現をする核酸または異なった発現をするタンパク質、またはそのモジュレータを患者に対して治療に有効な量だけ投与する。“治療に有効な量”とは、この明細書では、投与された対象に効果を引き起こす投与量のことを意味する。正確な投与量は治療目的によって異なるであろうが、当業者であれば、公知の方法で確認することができよう。従来技術で知られているように、分解の調節、全身に供給するか局所的に供給するか、新しいプロテアーゼの合成速度といった情報のほか、年齢、体重、全身の健康状態、性別、食事、投与時刻、薬剤相互作用、疾患の程度が必要となる可能性があるが、当業者であれば、定型的な実験によって確認することができよう。
【0220】
本発明が対象とする“患者”には、ヒトと、その他の動物(特に哺乳類)や生物の両方が含まれる。したがって本発明の方法は、ヒトの治療と動物の治療に適用することができる。好ましい一実施態様では、患者は哺乳類であり、たいていの好ましい実施態様では、患者はヒトである。
【0221】
異なった発現をする本発明のタンパク質と本発明によるモジュレータの投与は、上に説明したように、さまざまな方法で行なうことができる。例えば、経口、皮下、静脈内、鼻孔内、経皮、腹腔内、筋肉内、肺内、膣、直腸、眼内などの経路が挙げられる。例えば傷や炎症の治療を行なうような場合には、異なった発現をするタンパク質とモジュレータを溶液またはスプレーとして直接投与することができる。
【0222】
本発明の医薬組成物は、異なった発現をするタンパク質を、患者に投与するのに適した形態で含んでいる。好ましい一実施態様では、医薬組成物は、水溶性の形態であり、薬理学的に許容可能な塩などになっている。この塩は、酸添加塩と塩基添加塩の両方を意味する。“薬理学的に許容可能な酸添加塩”とは、遊離塩基の生物学的効果を保持しているが、生物学的に、あるいはそれ以外に望ましくないものではない塩を意味し、無機酸(塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸など)と、有機酸(酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸など)で形成される。
【0223】
“薬理学的に許容可能な塩基添加塩”としては、無機塩基から誘導された塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、マンガン塩、アルミニウム塩など)が挙げられる。特に好ましいのは、アンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩である。薬理学的に許容可能な非毒性の有機塩としては、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、置換されたアミン(置換された天然のアミンを含む)、環状アミン、塩基性イオン交換樹脂(イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エタノールアミン)の塩が挙げられる。
【0224】
医薬組成物は、担体タンパク質(例えば血清アルブミン);緩衝液;充填剤(例えば微小結晶セルロース、ラクトース、トウモロコシその他のデンプン);結合剤;甘味剤その他の着香料;着色剤;ポリエチレングリコールのうちの1つ以上を含んでいてもよい。添加剤は従来技術において周知であり、さまざまな製剤において使用される。
【0225】
好ましい一実施態様では、異なった発現をするタンパク質とモジュレータを治療剤として投与する。異なった発現をするタンパク質とモジュレータは、上記のようにして製剤にすることができる。同様に、異なった発現をする遺伝子(完全長の配列、部分配列、異なった発現をするコード領域の調節配列がすべて含まれる)は、従来技術で知られているように、遺伝子療法において投与することができる。異なった発現をする遺伝子は、当業者であればわかるように、遺伝子治療(すなわちゲノムへの組み込み)とアンチセンス組成物など、アンチセンスの用途がある。
【0226】
好ましい一実施態様では、異なった発現をする遺伝子を、単一遺伝子の状態で、あるいは複数の遺伝子を組み合わせた状態で、DNAワクチンとして投与する。生のDNAワクチンが従来技術において周知である(Brower、Nature Biotechnology、第16巻、1304〜1305ページ、1998年)。
【0227】
一実施態様では、異なった発現をする本発明の遺伝子をDNAワクチンとして用いる。遺伝子をDNAワクチンとして用いる方法は当業者には周知であり、異なった発現をする遺伝子またはその一部を、発現プロモータの制御下で、乳ガンまたは結腸直腸ガンの患者に入れる操作を含んでいる。DNAワクチンに使用される異なった発現をする遺伝子は、異なった発現をする完全長のタンパク質をコードすることができるが、より好ましいのは、異なった発現をするタンパク質の一部で、異なった発現をするタンパク質に由来するペプチドを含む部分をコードしていることである。好ましい一実施態様では、異なった発現をする遺伝子に由来する複数のヌクレオチド配列を含むDNAワクチンを用いて患者を免疫化する。同様に、明細書に記載したように、異なった発現をする複数の遺伝子またはその一部を用いて患者を免疫化することも可能である。理論に囚われないとすると、異なった発現をするタンパク質を発現する細胞を認識して破壊または除去するDNAワクチン、細胞毒性T細胞、ヘルパーT細胞、抗体によってコードされているポリペプチドの発現が誘導される。
【0228】
好ましい一実施態様では、DNAワクチンは、DNAワクチンに対するアジュバント分子をコードしている遺伝子を含んでいる。そのようなアジュバント分子としては、DNAワクチンによってコードされている異なった発現をするポリペプチドに対する免疫応答を増加させるサイトカインが挙げられる。追加のアジュバントまたは代わりのアジュバントも当業者に知られており、それを本発明で使用することができる。
【0229】
別の好ましい実施態様では、異なった発現をする遺伝子を、ガンのモデル動物を作るのに用いる。当業者であればわかるように、例えば同定されたガン遺伝子をガン組織において抑制したり減少させたりする場合には、アンチセンスRNAをガン遺伝子に到達させる遺伝子治療によっても遺伝子の発現が低下したり抑制されたりするであろう。このようにして作られた動物は、生物活性薬剤候補のスクリーニングに用いられるモデル動物として機能する。同様に、遺伝子ノックアウト技術により、例えば適切な遺伝子ターゲティング・ベクターとの間で相同的組み換えが起こる結果、ガン・タンパク質が消えるであろう。望むのであれば、ガン・タンパク質の組織特異的発現またはノックアウトが必要になる可能性がある。
【0230】
異なった発現をするタンパク質が乳ガンおよび/または結腸直腸ガンで過剰発現していることもありうる。そのような場合、異なった発現をするタンパク質を過剰発現するトランスジェニック動物を作ることができる。望む発現レベルがどの程度であるかに応じ、さまざまな強さのプロモータを用いて導入遺伝子を発現させることができる。また、一体化された導入遺伝子の複製数を明らかにして比較することにより、導入遺伝子の発現レベルを明らかにすることもできる。このような方法で作られた動物は、異なった発現をする動物としての用途があるだけでなく、異なった発現をするタンパク質と関係した疾患を治療するための生物活性分子のスクリーニングにも役に立つ。
【0231】
この明細書に記載した実施例は、本発明の範囲を制限するためのものではなく、説明のために提示されている。この明細書で引用したすべての参考文献と登録番号付きの配列は、参考としてその全体がこの明細書に組み込まれているものとする。
【0232】
実施例
実施例1
オリゴヌクレオチド・アレイに対するcDNAのハイブリダイゼーション
このプロトコルは、オリゴヌクレオチド・アレイにハイブリダイズさせるため、RNAを精製し、RNAに標識を付ける方法を説明している。全RNAを細胞または組織から精製し、二本鎖cDNAをRNAから調製し、そのcDNAを精製し、次いでインビトロでの転写(IVT)反応の間にそのcDNAをビオチンで標識し、IVT反応の間に調製したそのcDNAを精製し、断片化し、オリゴヌクレオチド・アレイにハイブリダイズさせる。
【0233】
細胞または組織からの全RNAの精製
均一化
組織ホモジナイザー(プローブ9100072に適合したポリトンPT3100、キネマティカ社)を、使用する前に石鹸水できれいにし、完全にゆすいだ。このホモジナイザーをエタノール中で作動させることによって減菌した後、少なくとも3mlのTRIzol試薬(ライフ・テクノロジー/ギブコBRL社)の中でこのホモジナイザーを作動させた。
【0234】
組織の重量を評価する。組織サンプルを、組織50mgにつきTRIzolを1mlの割合にしたTRIzolの中で均一化する。実験モデル系に由来する細胞をRNA源として使用する場合には、5〜10×106個の細胞につきTRIzolを1ml使用する。組織または細胞を完全に均一化する。
【0235】
各サンプルを均一化した後、プローブを少なくとも3mlの新鮮なTRIzolの中に入れ、次いでこのTRIzolを均一化したサンプルの中に添加する。RNアーゼを含まない少なくとも50mlの新鮮な水でプローブを洗浄した後、次のサンプルの処理に移る。
【0236】
RNAの単離
サンプルを均一化した後、マイクロフュージの中で12000×gで4℃にて10分間にわたって(マイクロフュージ管)、あるいはソルヴォール遠心分離機(ソルヴォール遠心分離機RT7プラス)の中で4000RPMで4℃にて60分間にわたって(15mlの円錐形の管)、サンプルを遠心分離する。
【0237】
上清1mlを新しいマイクロフュージ管に移す。直鎖状のアクリルアミド0.5μlを添加し、室温で4分間にわたって培養する。残った透明なホモジネートを−20℃以下で保管する。クロロホルム0.2mlを添加する。管をひっくり返して15秒間にわたってはげしく振り、サンプルを完全に混合する。サンプルを室温にて5分間にわたって培養する。12000×gで4℃にて15分間にわたって遠心分離する。
【0238】
(表面の透明な)水層を新しいマイクロフュージ管に移す。そのとき、水層/有機層の境界にある物質が一切除去されないように注意する。イソプパノール0.5mlを添加し、2秒間撹拌し、室温にて10分間にわたって培養する。10000×gで4℃にて10分間にわたって遠心分離する。
【0239】
上清を捨て、冷たい75%エタノールを1ml添加し、ペレットをバラバラにするために管をひっくり返し、7500×gで4℃にて5分間にわたって遠心分離する。
【0240】
上清を捨て、マイクロフュージの中で軽く遠心分離し、ピペットを用いてペレットから残留しているエタノール洗浄液を取り除く。ペレットを換気式フードの中で室温にて少なくとも10分間乾燥させる。
【0241】
RNAペレットをRNアーゼを含まない水50μlの中に再び分散させる。撹拌する。65℃にて10分間にわたって培養し、3秒間撹拌し、ペレットを再び分散させ、軽く遠心分離してサンプルをマイクロフュージ管の底部に集める。
【0242】
RNAの定量と品質制御
RNAサンプル1μlを用いて分光器でRNAを定量する。260nmと280nmにおける光学密度の読み取り値の比は、1.4〜2.0ODの範囲に収まっていなくてはならない。RNAサンプル250〜500ngを用いて1%アガロースゲル上で電気泳動を行ない、28S RNA、18S RNA、5S RNAが完全な状態であるかどうかを調べる。RNAの消失は最小でなくてはならず、RNAの分子量が小さくなるようなバイアスがかかっていてもならない。
【0243】
RNAの精製
100μg以下のRNAをRNeasyカラム(キアジェン社)を用いて精製する。製造者の指示に従ってRNAを精製する。RNアーゼを含まない水を用いてサンプルの体積を100μlにする。サンプルに対し、緩衝液RLTを350μl添加し、次いでエタノールを250μl添加する。サンプルをペットで軽く混合した後、RNeasyカラムに付着させる。マイクロフュージの中で10000RPMにて15秒間にわたって遠心分離する。
【0244】
カラムを新しい2mlの回収管に移す。緩衝液RLTを500μl添加し、再び10000RPMにて15秒間にわたって遠心分離する。
【0245】
フロースルーを捨てる。緩衝液RPEを500μl添加し、10000RPMにて15秒間にわたって遠心分離する。
【0246】
フロースルーを捨てる。15000RPMにて2分間にわたって遠心分離し、カラムを乾燥させる。
【0247】
カラムを新しい1.5mlの回収管に移し、RNアーゼを含まない30〜40μlの水をカラム膜に直接添加する。カラムを1分間放置した後、10000RPMにて遠心分離する。RNアーゼを含まない新たな30〜40μlの水を用いて溶離を繰り返す。RNAを−20℃以下の温度で保管する。
【0248】
ポリA+RNAの調製
望むのであれば、オリゴテックスmRNA精製システム(キアジェン社)を製造者の指示に従って用いることにより、全RNAからポリA+RNAを精製することができる。cDNAの合成に移る前に、ポリA+RNAをエタノールで沈殿させて再び分散させておく必要がある。というのも、オリゴテックス・システムを用いた方法では試薬がポリA+RNAの中に残り、下流での反応が抑制されるからである。
【0249】
cDNAの合成
cDNAを合成するための試薬を、cDNA合成キット(ギブコBRL社)のためのスーパースクリプト選択系から取得する。
【0250】
cDNAの合成に使用するためにRNAのアリコートを作る前に、RNAを2分間にわたって70℃に加熱し、プラスチック管に付着しているRNAを除去する。RNAを撹拌し、マイクロフュージの中で軽く遠心分離した後、アリコートを取り出すときまで室温で保管する。
【0251】
出発材料として、合計で5〜10μgのRNA、または1μgのポリA+RNAを用いる。
【0252】
プライマーとRNAを混合する
全RNA 5〜10μg
T7−(dT)24プライマー(100ピコモル/μl) 1μl(2μg/μl)
水を添加して合計体積を11μlにする。
【0253】
10分間にわたって70℃に加熱する。2分間にわたって氷の上に置く。
【0254】
第1の鎖の合成反応
以下に示す第1の鎖反応混合物7μlを、それぞれのRNA−プライマー・サンプルに添加する:
5×第1の鎖緩衝液 4μl(最終濃度:1×)
0.1MのDTT 2μl(最終濃度:0.01M)
10mMのdNTP 1μl(最終濃度:0.5mM)。
【0255】
サンプルを37℃で2分間にわたって培養する。
【0256】
それぞれのサンプルに、
スーパースクリプトII逆転写酵素 2μl
を添加する。
【0257】
サンプルを37℃で1時間にわたって培養した後、氷の上に置く。
【0258】
第2の鎖cDNAの合成反応
それぞれのサンプルについて、以下の第2の鎖反応混合物を調製する:
DEPC水 91μl
5×第2の鎖緩衝液 30μl(最終濃度:1×)
10mMのdNTP 3μl(最終濃度:0.2mM)
大腸菌のDNAリガーゼ(10U/μl) 1μl
大腸菌のDNAポリメラーゼ(10U/μl) 4μl
大腸菌のRNアーゼH(2U/μl) 1μl
【0259】
サンプル1つ当たりの第2の鎖反応混合物の合計体積は130μlである。この混合物を第1の鎖cDNA合成サンプルに添加する。
【0260】
16℃にて2時間にわたって培養する。T4 DNAポリメラーゼを2μl添加し、16℃にて4分間にわたって培養する。0.5MのEDTAを10μl添加して反応を停止させ、試験管を氷の上に置く。
【0261】
cDNAの精製
フェイズ・ロック・ゲル・ライト管(エッペンドルフ社)を用いてcDNAを精製する。
【0262】
フェイズ・ロック・ゲル・ライト管を15000RPMで1分間回転させる。cDNAサンプルを添加する。pH8のフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1)を等量添加し、激しく揺すった後、15000RPMで5分間にわたって遠心分離する。
【0263】
表面層(水層)を新しいマイクロフュージ管に移す。1容積の5M NH4OAcと2.5容積の冷たい(−20℃)100%エタノールを添加することにより、DNAを沈殿させる。撹拌した後、16℃にて15000RPMで30分間にわたって遠心分離する。
【0264】
cDNAペレットから上清を除去した後、ペレットを500μlの冷たい(−20℃)80%エタノールで洗浄する。サンプルを16℃にて15000RPMで5分間にわたって遠心分離する。上清を除去し、80%エタノールによる洗浄をもう一回行なった後、ペレットを大気中で乾燥させる。ペレットをRNアーゼを含まない3μlの水に再び分散させる。
【0265】
インビトロでの転写(IVT)と、ビオチンによる標識
特に断わらない限り、T7メガスクリプト・キット(アンビオン社)からの試薬を用いてインビトロでの転写を行なう。
【0266】
cDNAを1.5μlのアリコートにしてRNアーゼを含まない壁面の薄いPCR管に入れ、氷の上に置く。
【0267】
以下のIVT混合物を室温にて調製する:
T7 10×ATP(75mM) 2μl
T7 10×GTP(75mM) 2μl
T7 10×CTP(75mM) 1.5μl
T7 10×UTP(75mM) 1.5μl
ビオ−11−UTP(10mM) 3.75μl(ベーリンガー・マンハイム社またはエンゾ・ディアグノスティックス社)
ビオ−16−CTP(10mM) 3.75μl(エンゾ・ディアグノスティックス社)
T7緩衝液(10×) 2μl
T7酵素混合物(10×) 2μl。
【0268】
cDNAを氷から取り出し、IVT混合物18.5μlをそれぞれのcDNAサンプルに添加する。サンプルの最終容積は20μlである。
【0269】
PCR装置の中で37℃にて6時間にわたって培養を行なう。そのとき、濃縮が起こらないよう、加熱した蓋を用いる。
【0270】
標識したIVT産物の精製
RNeasyカラム(キアジェン社)を用いてIVT産物を精製する。製造者の指示に従う、あるいは上記の“RNeasyキットを用いたRNAの精製”の項を参照する。
【0271】
RNアーゼを含まない20〜30μlの水を用いてIVT産物を溶離させる。光学密度を読み取ることにより、IVTの収量を明らかにする。サンプルの濃度が0.4μg/μl未満である場合には、サンプルをエタノールで沈殿させ、以前よりも少ない体積の中に再び分散させる。
【0272】
cDNAの断片化
cDNAを1.5μgのアリコート(最大容積16μl)にして、マイクロフュージ管に入れる。cDNAを8μl使用するごとに5×断片化緩衝液を2μl添加する。
【0273】
5×断片化緩衝液:
100mMのトリス酢酸、pH8.1
500mMの酢酸カリウム
150mMの酢酸マグネシウム。
【0274】
95℃にて35分間にわたって培養する。軽く遠心分離し、氷の上に置く。
【0275】
オリゴヌクレオチド・アレイに対するcRNAのハイブリダイゼーション
合計で300μlのハイブリダイゼーション溶液の中で10〜15μgのcRNAを用いる。以下のようなハイブリダイゼーション溶液を調製する:
断片化したcDNA(15μg) 20μl
948−b対照用オリゴヌクレオチド(アフィメトリックス社)50pM
ビオB対照用cDNA(アフィメトリックス社) 1.5pM
ビオC対照用cDNA(アフィメトリックス社) 5pM
ビオD対照用cDNA(アフィメトリックス社) 25pM
CRE対照用cDNA(アフィメトリックス社) 100pM
ニシン精子のDNA(10mg/ml) 3μl
ウシ血清アルブミン(50mg/ml) 3μl
2×MES 150μl
RNアーゼを含まない水 118μl。
【0276】
実施例2
オリゴヌクレオチド・アレイへのハイブリダイゼーション
この方法により、2つの異なった供給源からのRNA(例えば、腫瘍組織から調製されたRNAと、正常組織から調製されたRNA)を同じオリゴヌクレオチド・アレイの上で比較することができる。この方法の出発材料は、上記の実施例1で調製したIVT産物である。cRNAを、dUTPと結合したCy3(サンプル1)またはCy5(サンプル2)の存在下で逆転写する。2つのサンプルに標識した後、RNAを分解させ、サンプルを精製し、dUTPと結合したCy3とCy5を回収する。異なった標識を有するサンプルを混合し、cDNAをさらに精製し、長さが100bp未満の断片を除去する。次にサンプルを断片化し、オリゴヌクレオチド・アレイにハイブリダイズさせる。
【0277】
cRNAの標識
RNアーゼを含まない壁面の薄いPCR管の中で反応混合物を調製する。上記の実施例1で調製したビオチニル化されていないIVT産物を用いる。このIVT産物は、DNAから調製することもできる。
IVT cRNA 4μg
ランダムな6量体(μg/μl) 4μl
RNアーゼを含まない水を添加して合計体積を14μlにする。
【0278】
70℃にて10分間にわたって培養した後、氷の上に置く。
【0279】
アマーシャム・ファルマシア・バイオテック社から入手した複数のNTPを混合することにより、50×dNTP混合物を調製する:
100mMのdATP 25μl(最終濃度:25mM)
100mMのdCTP 25μl(最終濃度:25mM)
100mMのdGTP 25μl(最終濃度:25mM)
100mMのdTTP 10μl(最終濃度:10mM)
RNアーゼを含まない水 15μl。
【0280】
cDNA合成キット(ギブコBRL社)のためのスーパースクリプト選択系から取得した以下の試薬をIVT−ランダム6量体混合物に添加することにより、IVT産物上で逆転写を行なう。
5×第1の鎖緩衝液 6μl
0.1MのDTT 3μl
50×dNTP混合物 0.6μl(上記のようにして調製)
RNアーゼを含まない水 2.4μl
Cy3−dUTPまたはCy5−dUTP(1mM) 3μl(アマーシャム・ファルマシア・バイオテック社)
スーパースクリプトII逆転写酵素1μl
【0281】
42℃にて30分間にわたって培養する。
【0282】
スーパースクリプトII逆転写酵素1μlを添加し、42℃にて1時間にわたって反応を行なわせる。
【0283】
反応混合物を氷の上に置く。
【0284】
RNAの分解
0.1MのNaOHと2mMのEDTAからなる分解緩衝液を調製する。標識した上記cDNA混合物に
分解緩衝液 1.5μl
を添加する。
【0285】
65℃にて10分間にわたって培養する。
【0286】
Cy3−dUTPとCy5−dUTPの回収
それぞれのサンプルを500μlのTEと混合し、マイクロコン30カラムに付着させる。カラムをマイクロフージの中で10分間にわたって10000RPMで回転させる。カラムの流動物に含まれるCy3−dUTPとCy5−dUTPをリサイクルする。カラムに残っている濃縮サンプルを用いてプロトコルを実行する。
【0287】
cDNAの精製
キアクイックPCR精製キット(キアジェン社)を製造者の指示に従って使用し、cDNAを精製する。
【0288】
同じチップ上で比較することになるCy3で標識したサンプルとCy5で標識したサンプルを混合する。
3MのNaOAc 2μl
緩衝液PB 5容積
を添加する。
【0289】
サンプルをキアクイック・カラムに付着させる。マイクロジュージの中で10000×gにて10分間にわたって回転させる。フロースルーを捨て、カラムに緩衝液PBを750μl添加する。10000×gで1分間にわたって遠心分離する。フロースルーを捨てる。最高速度で1分間にわたって回転させ、カラムを乾燥させる。
【0290】
30μlの緩衝液PBを膜に添加する。1分間待つ。10000×gでの遠心分離を1分未満行なう。
【0291】
断片化
以下の断片化緩衝液を調製する:
DNアーゼI 1μl(アンビオン社)
1×第1の鎖緩衝液 99μl(ギブコBRL社)。
【0292】
それぞれのサンプルに断片化緩衝液を1μl添加する。37℃にて15分間にわたって培養する。95℃にて5分間にわたって培養し、DNアーゼを熱で不活性化する。
【0293】
サンプルを真空中で回転させ、完全に乾燥させる。
【0294】
ハイブリダイゼーション
乾燥したサンプルを、以下のハイブリダイゼーション混合物の中に再び分散させる:
50×dNTP 1μl
20×SSC 2.3μl
ピロリン酸ナトリウム(200mM) 7.5μl
ニシン精子のDNA(1mg/ml) 1μl。
【0295】
サンプルを撹拌し、軽く遠心分離し、
1%SDS 3μl
を添加する。
【0296】
95℃にて2〜3分間にわたって培養し、冷却して20分間にわたって室温にする。
【0297】
サンプルを一晩かけてオリゴヌクレオチド・アレイとハイブリダイズさせる。オリゴヌクレオチドが50量体である場合には、サンプルを65℃にてハイブリダイズさせる。オリゴヌクレオチドが30量体である場合には、サンプルを57℃にてハイブリダイズさせる。
【0298】
ハイブリダイゼーション後の洗浄
最初の洗浄: スライドを緩衝液1の中で65℃にて1分間にわたって洗浄する
2回目の洗浄: スライドを緩衝液2の中で室温にて5分間にわたって洗浄する
3回目の洗浄: スライドを緩衝液2の中で室温にて5分間にわたって洗浄する。
緩衝液1:
3×SSC、0.03%SDS
緩衝液2:
1×SSC
緩衝液3:
0.2×SSC。
【0299】
洗浄を3回行なった後、スライドを遠心分離により乾燥させ、次いで適切なレーザー出力と光電子増倍管の利得を利用してスライドのスキャニングを行なう。
【0300】
実施例3
ここでは、発現に関する研究を、実質的に上記のようにして行なった。バイオチップは、登録番号T32108および/または登録番号AW136973で示した配列をプローブとして含んでいた。
【0301】
図3A〜図3Dに示したように、CHA4は、乳ガン組織(3A)および大腸ガン組織(3B)においては、副腎、大動脈、大動脈弁、動脈、膀胱、骨髄、脳、乳房、CD14+単球、CD14−細胞、大腸上皮細胞、子宮頸管、大腸、横隔膜、食道、胆嚢、心臓、腎臓、肝臓、肺、リンパ節、筋肉、迷走神経、網、卵巣、膵臓、前立腺、直腸、唾液腺、皮膚、小腸、回腸、空腸、脊髄、脾臓、胃、精巣、胸腺、甲状腺、気管、尿道、子宮、静脈/大静脈の正常な組織における発現(3C、3D)と比べて上方調節されている。
【0302】
図6A〜図6Cに示したように、CBK8は、大腸ガン組織(6A)(原発腫瘍組織(黒棒)と転移組織(白棒)を含む)においては、副腎、大動脈、大動脈弁、動脈、膀胱、骨髄、脳、乳房、大腸上皮細胞(CEP)、子宮頸管、大腸、横隔膜、食道、胆嚢、心臓、腎臓、肝臓、肺、リンパ節、筋肉、子宮、膵臓、前立腺、直腸、唾液腺、皮膚、小腸、回腸、空腸、脊髄、脾臓、胃、精巣、胸腺、甲状腺、気管、尿道、子宮の正常な組織における発現(6B、6C)と比べて上方調節されている。
【図面の簡単な説明】
【図1】
この明細書に提示した異なった発現をするタンパク質CHA4をコードしている配列を含む核酸(配列ID番号8)(mRNA)の一実施態様である。開始コドン(ATG)と終止コドン(TAG)に下線が引いてある。
【図2】
CHA4のアミノ酸配列(配列ID番号10)の一実施態様である。
【図3A】
乳ガン組織(3A)、結腸直腸ガン組織(原発性腫瘍(黒棒)と転移組織(白棒)が含まれる)(3B)、正常タイプのいくつかの組織(3C、3D)からのサンプルにおけるCHA4の相対発現量を示している。CHA4は、乳ガン組織と結腸直腸ガン組織では、正常組織と比べて上方調節されている。
【図3B】
乳ガン組織(3A)、結腸直腸ガン組織(原発性腫瘍(黒棒)と転移組織(白棒)が含まれる)(3B)、正常タイプのいくつかの組織(3C、3D)からのサンプルにおけるCHA4の相対発現量を示している。CHA4は、乳ガン組織と結腸直腸ガン組織では、正常組織と比べて上方調節されている。
【図3C】
乳ガン組織(3A)、結腸直腸ガン組織(原発性腫瘍(黒棒)と転移組織(白棒)が含まれる)(3B)、正常タイプのいくつかの組織(3C、3D)からのサンプルにおけるCHA4の相対発現量を示している。CHA4は、乳ガン組織と結腸直腸ガン組織では、正常組織と比べて上方調節されている。
【図3D】
乳ガン組織(3A)、結腸直腸ガン組織(原発性腫瘍(黒棒)と転移組織(白棒)が含まれる)(3B)、正常タイプのいくつかの組織(3C、3D)からのサンプルにおけるCHA4の相対発現量を示している。CHA4は、乳ガン組織と結腸直腸ガン組織では、正常組織と比べて上方調節されている。
【図4】
この明細書に提示した結腸直腸ガンタンパク質CBK8をコードしている配列を含む核酸(配列ID番号9)(mRNA)の一実施態様である。開始コドン(ATG)と終止コドン(TAA)に下線が引いてある。太字の配列は、登録番号AW136973(配列ID番号2)と実質的に相補的になっている。
【図5】
CBK8のアミノ酸配列(配列ID番号11)の一実施態様である。太字で示した2つの配列のそれぞれは、バンド4.1ドメインに対応している。下線を引いた配列は、プレックストリン・ドメインに対応している。
【図6A】
異なるいくつかの結腸直腸ガン組織サンプル(原発性腫瘍サンプル(黒棒)と転移組織サンプル(白棒)が含まれる)(図6A)、さまざまな正常タイプの組織(図6B、図6C)におけるCBK8の相対発現量を示している。CBK8は、結腸直腸ガン組織では、正常組織と比べて過剰発現している。
【図6B】
異なるいくつかの結腸直腸ガン組織サンプル(原発性腫瘍サンプル(黒棒)と転移組織サンプル(白棒)が含まれる)(図6A)、さまざまな正常タイプの組織(図6B、図6C)におけるCBK8の相対発現量を示している。CBK8は、結腸直腸ガン組織では、正常組織と比べて過剰発現している。
【図6C】
異なるいくつかの結腸直腸ガン組織サンプル(原発性腫瘍サンプル(黒棒)と転移組織サンプル(白棒)が含まれる)(図6A)、さまざまな正常タイプの組織(図6B、図6C)におけるCBK8の相対発現量を示している。CBK8は、結腸直腸ガン組織では、正常組織と比べて過剰発現している。
Claims (32)
- 薬剤候補のスクリーニング法であって、
a)CHA4および/またはCBK8をコードしている発現プロファイル遺伝子またはその断片を発現する細胞を提供するステップと;
b)この細胞に薬剤候補を添加するステップと;
c)この発現プロファイル遺伝子に対するこの薬剤候補の効果を明らかにするステップを含むスクリーニング法。 - 薬剤候補の効果を明らかにするステップが、この薬剤候補なしでの発現レベルを、この薬剤候補の存在下での発現レベルと比較する操作を含む、請求項1に記載のスクリーニング法。
- CHA4またはCBK8またはその断片と結合することのできる生物活性剤のスクリーニング法であって、
a)CHA4またはCBK8またはその断片と生物活性剤候補を混合するステップと;
b)CHA4またはCBK8またはその断片に対するこの生物活性剤候補の結合を明らかにするステップを含むスクリーニング法。 - CHA4タンパク質またはCBK8タンパク質の活性を変化させることのできる生物活性剤のスクリーニング法であって、
a)CHA4タンパク質またはCBK8タンパク質と生物活性剤候補を混合するステップと;
b)このタンパク質に対するこの生物活性剤候補の効果を明らかにするステップを含むスクリーニング法。 - ガン治療薬候補の効果を評価する方法であって、
a)この治療薬候補を患者に投与するステップと;
b)この患者から細胞サンプルを採取するステップと;
c)CHA4および/またはCBK8をコードしている遺伝子またはその断片の発現プロファイルを明らかにするステップを含む評価法。 - 上記発現プロファイルを健康な個体の発現プロファイルと比較するステップをさらに含む、請求項5に記載の評価法。
- ガンの診断法であって、
a(i))第一個体の人の直腸組織サンプル中の配列ID番号1〜4、又は6、又は8もしくは9のいずれかで表わされる核酸配列を含む遺伝子からなるグループの中から選択した1つ以上の遺伝子、またはその断片の発現を明らかにするステップと;
a(ii))第一個体の人の乳房組織サンプル中の配列ID番号1または8で表わされる核酸配列を含む遺伝子からなるグループの中から選択した1つ以上の遺伝子、またはその断片の発現を明らかにするステップと;
b)これら発現を、この第一個体に由来する正常なタイプの第2の組織内の上記遺伝子の発現、または第二個体の人の第2のタイプの組織内の上記遺伝子の発現と比較するステップを含み、
この比較結果が、第一個体の人がガンであるかどうかを示している診断法。 - CHA4またはCBK8またはその断片と特異的に結合する抗体。
- 上記抗体がモノクローナル抗体である、請求項8に記載の抗体。
- 上記抗体がヒト化抗体である、請求項8に記載の抗体。
- 上記抗体が抗体の断片である、請求項8に記載の抗体。
- 上記抗体が、この抗体が結合するタンパク質の生物活性を変化させる、請求項8に記載の抗体。
- 上記抗体が、この抗体が結合するタンパク質の生物活性を阻害することができる、あるいはこのタンパク質の効果を中和することができる、請求項12に記載の抗体。
- CHA4またはCBK8またはその断片の結合を妨害することのできる生物活性剤と、CHA4またはCBK8またはその断片と結合する抗体をそれぞれスクリーニングする方法であって、
a)CHA4、CBK8又はその断片からなるグループの中から選択したタンパク質と、この選択したタンパク質と結合する抗体と、生物活性剤候補とを混合するステップと;
b)選択した上記タンパク質と上記抗体の結合を明らかにするステップを含む方法。 - 上記抗体が、この抗体が結合するタンパク質の生物活性を阻害または中和することができる、請求項14に記載の方法。
- CHA4とCBK8からなるグループの中から選択したタンパク質の活性を阻害する方法であって、この選択したタンパク質に阻害剤を結合させる操作を含む方法。
- 上記阻害剤が抗体である、請求項16に記載の方法。
- CHA4またはCBK8またはその断片の効果を中和する方法であって、CHA4、CBK8、その断片からなるグループの中から選択したタンパク質を、この選択したタンパク質に対して特異的な十分な量の薬剤と接触させ、中和効果を起こす操作を含む方法。
- 乳ガンおよび/または結腸直腸ガンの治療法であって、患者にCHA4および/またはCBK8の阻害剤を投与する操作を含む方法。
- 上記阻害剤が抗体である、請求項19に記載の方法。
- 乳ガン組織および/または結腸直腸ガン組織に対する治療効果を有する成分を特定する方法であって、この組織を、CHA4、CBK8、その断片からなるグループの中から選択したタンパク質に対する抗体に曝露することを含み、ここでこの抗体は治療効果を有する上記成分と結合させている、方法。
- 治療効果を有する上記成分が細胞毒性剤である、請求項21に記載の方法。
- 治療効果を有する上記成分が放射性同位体である、請求項21に記載の方法。
- 乳ガンおよび/または結腸直腸ガンの治療法であって、このガンを有する個体に、CHA4またはその断片に対する抗体であって治療効果を有する成分に結合した抗体を投与する操作を含む方法。
- 治療効果を有する上記成分が細胞毒性剤である、請求項24に記載の方法。
- 治療効果を有する上記成分が放射性同位体である、請求項24に記載の方法。
- 結腸直腸ガンの治療法であって、このガンを有する患者に、CBK8またはその断片に対する抗体であって治療効果を有する成分と結合した抗体を投与する操作を含む方法。
- 細胞中のガンを阻害する方法であって、細胞に対し、図1または図4の核酸に対するアンチセンス分子を含む組成物を投与する操作を含む方法。
- CHA4またはCBK8をコードしている1つ以上の核酸セグメント、またはその断片を含むバイオチップであって、1000未満の核酸プローブを含んでいるバイオチップ。
- ヒトに免疫応答を誘導する方法であって、このヒトにCHA4またはCBK8またはその断片を含む組成物を投与する操作を含む方法。
- ヒトに免疫応答を誘導する方法であって、このヒトにCHA4またはCBK8またはその断片をコードしている核酸を含む組成物を投与する操作を含む方法。
- ガン患者の予後を測定する方法であって、サンプル中のCHA4および/またはCBK8のレベルを明らかにする操作を含み、ここでCHA4および/またはCBK8がハイレベルだと予後が悪いことを示している方法。
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