JP2005506044A - ポリケチドシンターゼ基質の生合成 - Google Patents
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Abstract
ポリケチドのための開始単位および伸長単位の生成を触媒する酵素の使用が記載される。さらに、改変したローディングモジュールが記載され、これは、置換ベンゾエートのような種々の開始単位を受容可能であり、そして天然生成物の置換誘導体を得るために使用され得る。これらの酵素は、ネイティブに生成されるポリケチドまたは合理的に設計されるポリケチドの収率を増大させるために使用され得る。これらの技術によって、完全なポリケチドはE.coliにおいて達成されている。
Description
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリケチドの効率的な産生のために微生物宿主を適合させる方法に関する。1つの局面において、この宿主は、ポリケチドの合成においてポリケチドシンターゼにより使用される開始単位および/または伸長単位を合成するように改変される。別の局面において、宿主は、置換ベンゾエートを開始単位として受容するシンターゼを合成するように、改変される。他の宿主改変もまた、なされ得る。従って、本発明は、Escherichia coli、Bacillus、MyxococcusおよびStreptomycesのような多様な生物における、複合ポリケチドの産生のための方法を包含する。
【背景技術】
【0002】
(リファマイシンB)
リファマイシンシンテターゼは、非リボソーム性ペプチドシンテターゼのアデニル化(A)ドメインおよびチオール化(T)ドメインと相同であるドメインを含む、ローディングモジュールによって、3−アミノ−5−ヒドロキシベンゾエート(AHB)開始単位を用いて開始される。Amycolatopsis mediterraneiのリファマイシンシンテターゼは、抗生物質リファマイシンBに対する前駆体であるプロサンサマイシンXの生合成を担う(図1)。(リファマイシンB前駆体であるプロサンサマイシンXの生合成を担うタンパク質複合体は、本明細書中で、リファマイシンシンテターゼと呼ばれる。なぜなら、本明細書中に記載される結果により、この複合体のローディングモジュールへのアリール開始単位の共有結合のために、ATPが必要であることが確立されるからである。)このリファマイシンシンテターゼは、一団の5つの多機能性タンパク質RifA、RifB、RifC、RifD、およびRifEと、これに加えて、RifF(分子内アミド形成を介してその他タンパク質の直鎖状産物を環化すると考えられるタンパク質)とからなる(Schupp,T.ら、FEMS Microbiol.Lett.(1998)159:201−207;August.P.R.ら、Chem.Biol.(1998)5:69−79;Tang,L.ら、Gene(1998)216:255−265;Floss,H.G.ら、Curr.Opin.Chem.Biol.(199)3:592−597)。この5つの多機能性タンパク質は、1つの非リボソーム性ペプチドシンテターゼ(NRPS)様ローディングモジュールと、10個のポリケチドシンターゼ(PKS)モジュールとに、他の系に対する配列相同性に基づいてさらに分割され得る。
【0003】
RifA(リファマイシンシンテターゼのN末端タンパク質成分)は、NRPS様モジュールであるアデニル化−チオール化(A−T)ローディングジドメインを、第1の濃縮モジュールの上流に含む(図1)。最初のこのようなA−T型ローディングモジュールは、天然産物であるラパマイシンの遺伝子クラスターにおいて同定された(Schwecke,T.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1995)92:7839−7843)。ハイブリッドモジュール型インターフェースを含む他のシンテターゼの完全遺伝子クラスターが、報告されている(Gehring,A.M.ら、Chem.Biol.(1998)5:573−586;Quadri,L.E.N.ら、Chem.Biol.(1998)5:631−645;Silakowski,B.ら、J.Biol.Chem.(1999)274:37391−37399;Julien,B.ら、Gene(2000)249:153−160;Tillett,D.ら、Chem.Biol.(2000)7:753−764;Wu,K.ら、Gene(2000)251:81−90;Du.L.ら、Chem.Biol.(2000)7:623−640)。そしてこれらのシンテターゼは、ケチド単位およびペプチド単位の両方から構成される、ハイブリッド天然産物を生成する。治療剤としての証明されたポリケチド天然産物およびペプチド天然産物の追跡記録は、ハイブリッド産物にて実現される組み合わせの多様性の増大が、薬物開発を進歩させることを示唆する。ハイブリッドシンテターゼの生化学的理解を、タンパク質工学を介してハイブリッドインターフェースを操作する能力とともに使用して、そのようなハイブリッド分子の能力を実現させることは、有利である。
【0004】
RifAのNRPS様A−Tジドメインは、3−アミノ−5−ヒドロキシベンゾエート(AHB)を用いてこのシンテターゼをおそらく開始させる。このAHBは、リファマイシンBのmC7N構造エレメントの前駆体であることが示されている(図1)(Ghisalba,O.ら、J.Antibiot.(1981)34:64−71;Anderson,M.G.ら、J.Chem.Soc.Chem.Commun.(1989)311−313)。しかし、この開始機構は、確立されていない。2つの代替的モデルが、想定され得る。文献において普及している補酵素A(CoA)リガーゼモデル(Schupp,T.ら、FEMS Microbiol.Lett.(1998)159:201−207;August,P.R.ら、Chem.Biol.(1998)5:69−79;Ghisalba,O.ら、J.Antibiot.(1981)34:64−71)において、このAドメインの活性化AHB−アデニレート産物は、CoAにより攻撃されて、AHB−CoA中間体を生成し、そしてこのアリールチオエステル酵素中間体は、そのTドメインへのトランスチオール化から生じる(図2A)。下記に詳述されるように確認されている、NRPSモジュールを開始するために使用される機構と類似する代替的機構において、AHBが、そのAドメインによってアリール−アデニレートとして活性化され、そしてそのTドメインのホスホパンテテイン補因子のチオールが、AHB−アデニレートを直接攻撃して、共有結合性アリールチオエステル酵素中間体を形成する(図2B)。
【0005】
AHBは、A−Tジドメインの天然の基質であるが、以前のインビボ研究によって、RifAが、代替基質である3−ヒドロキシベンゾエート(3−HB)および3,5−ジヒドロキシベンゾエートにより開始され得ることが、明らかにされている(Hunziker,D.ら、J.Am.Chem.Soc.(1998)120:1092−1093)。非天然天然産物の産生のために関与することについてのこの本質的基質許容性を利用することは、有利である。1つの局面において、この開始モジュールの機構を確立するためおよびリファマイシンシンテターゼの基質許容性を系統的に調査するために、インビトロでリファマイシンシンテターゼのA−Tジドメインの活性を再構成することは、有利である。従って、本発明は、非天然天然産物の産生のための相同性置換基質を提供する。
【0006】
(6−デオキシエリトロノリドB)
細菌Saccharopolyspora erythraeaにより合成される広いスペクトルの抗生物質であるエリスロマイシンは、ポリケチドと呼ばれる複合天然産物の種類の原型である(O’Hagan,D.,The Polyketide Metabolites(Ellis Horwood,Chichester,U.K.,1991)。複合ポリケチド(例えば、抗生物質エリスロマイシンの大環状コアである6−デオキシエリスロノリドB(6−dEB))は、天然産物の重要な種類を構成する。これらの生体分子は、単純な構築ブロック(例えば、アセチル−CoA、プロピニル−CoA、マロニル−CoA、およびメチルマロニル−CoA)から、放線菌類において一般的に見出される、ポリケチドシンターゼと呼ばれる大きなモジュール型メガシンターゼ(Cane,D.E.,Science(1998)282:63)の作用を介して合成される。例えば、6−dEBの合成を生じるポリケチドシンターゼ(PKS)は、Sacromyces erythraeaにおいて産生される。これらの天然宿主において産生されるポリケチドは、一般的に、その後、グリコシル化、酸化、ヒドロキシル化、および他の改変反応によって調整されて、最終抗生物質が得られる。ポリケチドの構造的複雑性は、しばしば、実際の実験室合成経路の開発を不可能にし、発酵を、これらの薬学的および農学的に有用な薬剤の商業的生成のための唯一の実行可能な供給源とする。同時に、天然の生物学的供給源(主に、Actinomyces科の細菌)からポリケチドを産生するための拡張可能かつ経済的に実行可能な発酵プロセスを開発することに関連する試みは、膨大であり、そしてポリケチドの臨床前開発および臨床開発の間に最も深刻な隘路を示す。この実験室からの最近の研究によって、Escherichia coliにおいて機能的形態でポリケチドシンターゼモジュールを発現することが可能であることが、示された(Gokhale,R.S.ら、Science(1999)284:482−485)。しかし、E.coliまたはこれらのモジュール酵素を天然には産生しない他の宿主におけるポリケチド生合成のためにこれらのモジュール型酵素を利用するために、これらのモジュール型酵素の適切な基質を、インビボにて制御された様式で産生することもまた、必要である。例えば、代謝産物(例えば、アセチル−CoA、プロピニル−CoA、マロニル−CoA、およびメチルマロニル−CoA)が、これらの酵素の最も一般的な基質である。E.coliは、アセチル−CoA、プロピニル−CoA、およびマロニル−CoAを産生する能力を有するが、後者の2つの基質は、E.coli細胞で少量にしか存在せず、これらの生合成は、きつく制御されている。E.coliがメチルマロニル−CoAを合成する能力は、現在までに示されていない。
【0007】
類似する条件が、他の微生物細胞(特に、天然ではポリケチドを産生しない微生物細胞(例えば、Escherichia、Bacillus、Rhizobium、Pseudomonas、およびFlavobacteriumの種々の種))において有力である。従って、一般的に、必要な開始単位および/または伸長単位は、特定に任意の宿主において十分な量で産生されないかもしれない。さらに、問題のPKSのアシルトランスフェラーゼ(AT)ドメインの適切な選択によって、直前に記載した基質よりも複雑な基質が、使用され得る。例として、FK506の合成のためのPKSは、マロニル−CoAまたはメチルマロニル−CoAに優先してプロピルマロニル−CoAのような基質を組み込む、アシルトランスフェラーゼドメインを含む。任意の自由に選択した宿主生物において適切なレベルでこの範囲の基質を提供する方法を利用可能にすることが、有用である。
【0008】
原核生物宿主(特に、天然ではポリケチドを産生しない原核生物宿主)においてポリケチド産生をもたらす際に克服される必要があり得るさらなる問題としては、必要な開始単位および/または伸長単位を異化する酵素(例えば、E.coliのprpオペロンによってコードされる酵素)の存在が挙げられる。このprpオペロンは、この生物における炭素およびエネルギー供給源としての外来性プロピオネートの異化を担う。プロピオニルCoAを開始単位として利用し、そして/またはプロピオニルCoAのカルボキシル化産物であるメチルマロニルCoAを伸長単位として利用する、ポリケチドの産生を最適化するためには、プロピオニルCoAシンテターゼをコードする部分(E遺伝子座)を以外の、このオペロンの機能を停止させなければならない。開始単位または伸長単位の異化酵素をコードするあらゆるさらなる遺伝子座もまた、有利なように機能停止される。
【0009】
さらに、特定の原核生物宿主(例えば、E.coli)は、ポリケチドシンターゼの活性化に必要なホスホパンテテイニルトランスフェラーゼを欠損し得る。そのようなトランスフェラーゼを含むように宿主を改変することもまた、必要であり得る。
【0010】
いくつかのStreptomyces spp.における最近の研究によって、ポリケチド生産性に対するチオエステラーゼ様酵素の有益な影響が示された(Butler,A.R.ら、Chem.Biol.(1999)6(5);287−292;およびTang,L.ら、Chem.Biol.(1999)6(8)553−558)が示されている。これらの酵素のホモログ(チオエステラーゼIIまたはTEIIと呼ばれる)が、多くのマクロライドの生合成遺伝子クラスター中にコードされる。Saccharopolyspora erythraea TEIIの機構は不明確であり、これらの酵素が、ポリケチド生合成において編集の役割を果すことが、提唱されている(Butler(前出);およびHeathcote,M.L.ら、Chemistry & Biology(2001)8:207−220)。
【0011】
まとめると、微生物(特に原核生物)宿主(概して天然ではポリケチドを産生しない宿主を含む)において、ポリケチドの産生をもたらすことが、有利である。これらの後者の宿主は、しばしば、形質転換の容易さ、培養中で迅速に増殖する能力等に関して、天然のポリケチド産生株(例えば、Streptomyces)を超える利点を有する。これらの利点は、ポリケチドシンターゼのランダム変異誘発または遺伝子シャッフリングの結果を評価するのに特に有用である。従って、本発明は、ポリケチド産生のために微生物宿主を適合させるための、複数のアプローチを提供する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
(発明の開示)
1つの局面において、本発明は、普遍的に有用な宿主生物であるE.coliにおける、完全な複合ポリケチド産物である6−dEBの産生を初めて達成した。この結果を達成するために使用した方法は、概して微生物宿主(特に原核生物)に適合可能である。天然ではポリケチドを産生しない微生物宿主をそのような産生に適合させるために、および通常ポリケチドを産生する宿主におけるポリケチドの産生を増強するために、本発明が使用され得る。選択した宿主に依存して、必要な改変としては、ポリケチドシンターゼ遺伝子自体の発現系を、その生物中に組み込むこと;開始単位および/または伸長単位の異化酵素をコードする内因性遺伝子の機能停止;そのシンターゼの翻訳後修飾に必要な酵素(例えば、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ)を発現系中に組み込むこと;ならびに、開始単位および/または伸長単位のレベルを増強する酵素の組み込みが挙げられ得る。その宿主を適合させるために必要な改変の特定の組み合わせは、所望されるポリケチドの性質および宿主自体の性質に応じて変動する。
【0013】
従って、1つの局面では、本発明は、少なくとも1つのポリケチドの合成の増強のために遺伝子改変された、微生物宿主細胞に関する。ここで、この改変は、開始単位および/または伸長単位の産生を触媒するタンパク質を産生するため、ならびに/あるいは開始単位および/または伸長単位の少なくとも1つの内因性異化経路の機能停止のための、少なくとも1つの発現系の組み込みを包含する。特に好ましい実施形態において、これらの改変は、その宿主生物のゲノムにおいてなされる。なぜなら、このことは、ポリケチドの大規模産生のために有利であるからである。
【0014】
別の局面において、本発明は、生物(例えば、E.coli)において改変ポリケチドを生成するために、リファマイシンシンテターゼのA−Tローディングジドメインのための開始単位基質として使用される置換ベンゾエートを含む、ポリケチド産物の産生に関する。なお別の局面において、本発明は、どの置換ベンゾエート誘導体がA−Tドメインの実行可能な基質であるかを決定するためのスクリーニング方法を包含する。
【0015】
さらなる改変(例えば、少なくとも1つのポリケチドシンターゼタンパク質発現系の組み込み、および、そして必要に応じて、少なくとも1つのホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ発現系の組み込み)もまた、なされ得る。必要な場合は、合成ポリケチドのさらなる改変(例えば、ヒドロキシル化、グリコシル化など)のためのさらなる発現系もまた、使用され得る。また、TEIIの発現系が、使用され得る。また、必要というわけではないが、これらの発現系をその宿主のゲノム中に組み込むことが、しばしば有利である。
【0016】
他の局面では、本発明は、本発明の改変細胞において、ポリケチド(完全ポリケチドを含む)を調製する方法に関する。好ましい実施態様は、E.coliにおいて6−dEB、6−dEBアナログ、または他の完全ポリケチドを合成する方法である。
【0017】
さらに別の局面では、本発明は、E.coliの高い形質転換効率を利用することにより、ポリケチドシンターゼ遺伝子の遺伝子シャッフリングまたはランダム変異誘発の結果を評価する方法に関する。ポリケチド産生についてのアッセイもまた、企図される。
【0018】
(発明を実施する形態)
本発明の1つの例示的局面に関して、下記の例示的実施例において、エリスロマイシンのポリケチド前駆体である6−dEBの産生を行うように、E.coliが改変される。この合成に必要な3つのタンパク質であるDEBS1、DEBS2およびDEBS3は公知であり、そしてそれらをコードする遺伝子は、クローニングおよび配列決定されている。アベルメクチン、オレアンドマイシン、エポチロン(epothilone)、メガロマイシン(megalomycin)、ピクロマイシン、FK506、FK520、ラパマイシン、タイロシン、スピノサド(spinosad)などのポリケチド前駆体を産生する酵素をコードする遺伝子を含む、複数のさらなるPKS遺伝子も同様に、クローニングおよび配列決定されている。さらに、産生されるポリケチドの性質を変えるように、ネイティブのPKS遺伝子を改変する方法が、記載されている。ハイブリッドモジュール型PKSタンパク質の産生および合成系が、米国特許第5,962,290号において記載されそして特許請求されている。効率的なジケチドの組み込みを可能にするようにPKS酵素を改変する方法が、米国特許第6,080,555号に記載されている。個々のドメインまたはドメイン群を混合および整合化することによってPKS酵素を改変する方法が、米国特許出願番号09/073,538に記載されている。特定の開始単位または伸長単位を組み込むために、モジュール型PKSのモジュールの特異性を変化させる方法が、現在特許化されている米国特許出願番号09/346,860に記載されている。ポリケチドへの組み込みのためのジケチドを調製する改良方法が、米国特許出願番号09/492,733に記載されている。モジュール間のポリケチド鎖合成を媒介する方法が、米国特許出願番号09/500,747に記載されている。前述の特許および特許出願の内容は、本明細書中で参考として援用される。
【0019】
従って、そのようなシンターゼに含まれるタンパク質に適切な発現系を選択された宿主に組み込むことによって、可能性のある多くのポリケチドシンターゼのいずれか1つを含むようにその選択された宿主を改変し得る。望ましい産物に依存して、完全なシンターゼまたは部分的なシンターゼのいずれかが供給され得る。その宿主がポリケチドシンターゼを天然で産生し、そして通常産生されるポリケチドとは異なるポリケチドが望まれる場合には、ネイティブのPKSをコードする遺伝子を欠失させることが望ましくあり得る。そのような欠失の方法が、米国特許第5,830,750号に記載されており、この特許は本明細書中で参考として援用される。
【0020】
天然ではポリケチドを産生しない宿主に関しては、ポリケチドシンターゼを調整する酵素が欠失または欠損しており得るので、ポリケチドシンターゼ自体の発現系を供給することに加えて、これら酵素の発現系を供給することが必要であり得る。PKSの活性に必須である1つの酵素は、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼである。これらのトランスフェラーゼをコードする遺伝子は、クローニングされており、そして入手可能である。これらは米国特許出願第08/728,742号において記載されており、それは例えばカナダ出願2,232,230において現在公開されている。これら文書の内容は、本明細書中で参考として援用される。
【0021】
特定の選択された宿主は、所望の開始単位および/または伸長単位を異化するタンパク質を産生する遺伝子を天然に含み得る。そのような宿主が選択される場合、そのような異化作用を触媒するタンパク質の産生を無効にすることが有利であり得る。なぜなら、本発明の重要な局面は、必要な開始単位および/または伸長単位のレベルが増強されるように宿主を改変することだからである。異化作用系の1つの非限定的な例としては、prpオペロンが挙げられ、ここで、サブユニットA〜Dによってコードされるこのタンパク質は、外因性プロピオネートを異化する。しかし、prpEによってコードされる酵素が望ましい。なぜなら、これは、プロピオニルCoAシンテターゼであるからである。異化作用酵素をコードするオペロンの部分は、改変E.coli中で有利に無効にされる。他の宿主中の類似のオペロンが、必要である場合、無効にされ得る。
【0022】
プロピオネート異化作用またはプロピオネート同化作用を実行し得ない細胞中で、標識されたプロピオネートを添加し、そしてそれを産生されたポリケチドから分離することによって、ポリケチド産生を決定するためのアッセイが、使用され得る。
【0023】
本発明の1つの局面は、開始単位および/もしくは伸長単位の産生を増強または可能にする酵素、ならびにこれらの産生酵素の活性化に必要とされる任意の酵素を、これらのタンパク質のための発現系を含むように細胞を改変することによって、その細胞中に組込む。上記のように、これらの発現系は、染色体外の複製ベクターとして供給され得るが、好ましくは、宿主ゲノム中に組込まれる。ゲノムに組込まれた場合、選択圧に対する要求が緩和され、そして安定な産生生物が得られる。
【0024】
この局面の1つの例示的な実施形態において、matABCオペロン(これは、Rhizobium trifoliから近年クローニングされた(An,J.H.ら、Eur.J.Biochem.(1988)15:395−402))を利用する。このオペロンは、ポリケチドの合成に一般的に使用される伸長単位および開始単位の両方の産生を可能にする酵素を提供する。これは通常、マロニル−CoAおよびアセチル−CoAの産生を生じるが、コードされる酵素の特異性は、厳密ではなく、ゆえに、例えば、ピロピオニル−CoAおよびメチルマロニル−CoAもまた、産生され得る。この特定のオペロンは、例示のためのみに使用され、そして匹敵する酵素をコードする遺伝子が、複数の他の生物中に見出され得る。当業者は、公に利用可能なデータベースにおける相同性検索を介して、このような酵素にアクセス可能である。従って、本発明のこの局面は、Rhizobium trifoli由来のmatABCオペロンのみに限定されるとみなされるべきではなく、他の生物から利用可能な匹敵する系まで及ぶ。
【0025】
このオペロンによってコードされる3つのタンパク質が存在する。
【0026】
MatAは、マロニル−CoAデカルボキシラーゼをコードし、これは、通常、反応:
マロニル−CoA→アセチル−CoA+CO2
を触媒する。
【0027】
MatBは、マロニル−CoAシンテターゼをコードし、これは、反応:
マロン酸+CoASH→マロニル−CoA(ATP依存性反応)
を触媒する。
【0028】
MatCは、細胞膜を横切るマロン酸の輸送を担うと考えられるマロン酸輸送体をコードする。
【0029】
これらの酵素は、示される反応を触媒するそれらの能力において、基質に関していくらか無差別的であることが、本明細書中で実証されている。従って、基質としてマロニル−CoAおよびマロン酸(それぞれ、MatAおよびMatBに対して)に加えて、これらの酵素はまた、メチルマロニル−CoAおよびメチルマロン酸;エチルマロニル−CoAおよびエチルマロン酸;プロピルマロニル−CoAおよびプロピルマロン酸なども利用し得る。従って、これらの酵素を使用して、所望のポリケチドの合成のための種々の開始単位および伸長単位を提供し得る。
【0030】
上記のように、このオペロンのホモログもまた、意図される。例えば、S.coelicolor(GenBank登録番号AL163003)由来のmatBおよびmatCのホモログを使用し得る。
【0031】
プロピオニルCoAカルボキシラーゼをコードする遺伝子もまた、伸長単位の供給に有用である。この活性の1つの例において、カルボキシラーゼ酵素は、Rodriguez,E.ら、Microbiology(1999)145:3109−3119によってStreptomyces coelicolor A3から特徴付けられた、pccB遺伝子およびaccA2遺伝子によってコードされるダイマーである。accA2遺伝子およびpccB遺伝子のホモログを用いて2S−メチルマロニルCoAを作製する方法もまた、意図される。この場合accA1遺伝子によって天然にコードされるビオチンリガーゼが、これらのタンパク質の活性化に必要とされる。代替のビオチンリガーゼもまた、使用され得る。この酵素に対する代表的な基質は、メチルマロニル−CoAに転換されるプロピオニル−CoAである;
プロピオニル−CoA+CO2→メチルマロニル−CoA(ATP依存性反応)
として要約される反応。
【0032】
他のアシル−CoA基質もまた、この酵素およびそのホモログによって対応するマロニル−CoA産物に転換され得る。また、これらの遺伝子のホモログは、公に利用可能なデータベースにおける標準的な検索技術を用いて、当業者によって容易に見出され得る。特に、ビオチンリガーゼは、必ずしもカルボキシラーゼ自体と同じ遺伝学的補体に由来する必要はない。
【0033】
ポリケチドの産生に有効である改変宿主細胞を提供することに加えて、ポリケチド合成、その活性化酵素、ならびに開始単位および/または伸長単位を提供する酵素を、インビトロ系で使用して、所望のポリケチドを産生し得る。例えば、matABCオペロンによってコードされるような酵素マロニル−CoAデカルボキシラーゼおよび/もしくはマロニル−CoAシンテターゼ、ならびに/または、pccB遺伝子およびaccA2遺伝子によってコードされるようなプロピオニル−CoAカルボキシラーゼを、インビトロ培養で使用して、所望のPKSに対する適切な伸長単位および開始単位に前駆体を転換し、無細胞培養系またはインビトロ細胞培養系においてポリケチドを合成させ得る。精製MatBは、ポリケチドの調製無細胞産生に対して特に有利に使用される。なぜなら、CoAチオエステルが、このような無細胞合成系において最も高価な成分だからである。あるいは、上記のように、これらの遺伝子は、(任意の適切な組合せにおいて)これらの基質の培養物における細胞による産生に関する一般的なストラテジーに使用される。MatBおよびMatCは、任意のα−カルボキシル化CoAチオエステルの産生をもたらすために使用され得、ここで、対応する遊離酸は、MatBによって基質として認識され得る。MatAタンパク質はまた、開始単位(例えば、アセチル−CoAおよびプロピオニル−CoA)をインビトロレベルまたはインビボレベルで補充するために使用され得る。プロピオニル−CoAカルボキシラーゼをコードする遺伝子もまた、インビボにおいて適切な伸長単位を合成するための酵素を提供するために使用され得る。
【0034】
この宿主は、さらなる支持を与える他の酵素(例えば、ビオチンリガーゼbirA)のレパートリーを有し得る。
【0035】
一般的に、本発明は、ポリケチド合成において有用な伸長単位および/または開始単位を含む微生物を提供することを意図し、ここで、この宿主は、効率的な合成には不十分な量のこれらの物質を産生するか、または検出可能な量のそれらを少しも産生しないかのいずれかである。例えば、E.coliは、検出可能な量のS−メチルマロニルCoA(6dEB生合成において必要とされる中間体)を産生しない。従って、本発明は、1つの局面において、特に、S−メチルマロニルCoAを含むように改変されたE.coliに関する。同様に、他の生物が、さらなるポリケチド中間体(例えば、ポリケチドへの組み込みのための適切な立体化学の、エチルマロニルCoA、メトキシマロニルCoAまたはヒドロキシマロニルCoA)を含むように改変される。これらの宿主は、これらのポリケチドシンターゼ基質の存在か、またはこれらのポリケチドシンターゼ基質の増大したレベルのいずれかによって、その未改変形態から区別され、そして関連するポリケチドを合成するその能力の獲得によってか、または関連するポリケチドを増大したレベルで合成するその能力の獲得によってこれらの改変を含むことが評価され得る。
【0036】
1つの一般的な局面において、本発明は、増強したレベルのPKS基質を含むか、または未改変宿主が検出可能なレベルを含まない場合はPKS基質自体を含む、改変宿主生物に関する。
【0037】
本発明はまた、ポリケチド(微生物宿主における完全な複合体ポリケチドを含む)の産生を増強または可能にするための方法を含み、この方法は、そのポリケチドの構築において使用される開始単位および/または伸長単位の産生を増強または可能にする酵素についての少なくとも1つの発現系と共に提供される改変宿主を培養する工程を包含する。「完全な」ポリケチドは、抗生物質の基礎を形成するポリケチドであり、例えば、エリスロマイシン、メガロマイシンなどに対する前駆体であるポリケチドである。提供される酵素としては、他の生物中のmatABCオペロンおよびそれらのホモログによってコードされる酵素、ならびに他の生物中のプロピオニルカルボキシラーゼをコードするpccB遺伝子およびaccA2遺伝子(およびaccA1)およびそのホモログによってコードされる酵素が挙げられるが、これらに限定されない。別の局面において、本発明は、無細胞系に対してこれらの酵素のうちの1つ以上を提供することによって、この無細胞系においてポリケチドの産生を増強または可能にする方法に関する。
【0038】
本発明はまた、これらの酵素を産生するように改変された細胞、およびこれらの細胞を用いてポリケチドを産生する方法、ならびに無細胞系を用いてポリケチドを産生する方法に関する。
【0039】
本発明はまた、内因性酵素(これは、その基質を開始単位または伸長単位に転換する)に対する基質で培地を補充することによって、微生物系におけるポリケチドの産生を増強または可能にするための方法を含む。
【0040】
本発明はまた、ポリケチド産生を補助するための改変(例えば、必要とされる基質の異化作用のためのタンパク質をコードする内因性遺伝子の排除)を含む微生物宿主中でこれらの細胞に合成前駆体(例えば、ジケチド前駆体)を供給することによって、ポリケチドを産生するための方法を含む。
【0041】
産生されるポリケチドは、PKSによって通常産生されるポリケチドであり得、そして天然に存在し得る;この場合、インビボにおいて開始/伸長産生増強酵素をコードする遺伝子の存在または無細胞系における酵素自体の存在は、単純に産生レベルを増強し得る。さらに、このPKSは、新規ポリケチドを生成するように設計された改変PKSであり得、その産生は、類似の様式で増強され得る。広範囲の基質を受け入れる本明細書中に記載される酵素の能力に起因して、伸長単位および開始単位は、広範囲の容易に利用可能な試薬に基づいて提供され得る。上記のように、ジケチド開始材料もまた、供給され得る。
【0042】
従って、本発明はまた、そのポリケチドの産生を可能または増強するための上記の微生物宿主の種々の他の改変、およびこのような宿主を用いてポリケチドを産生する方法を含む。
【0043】
E.coliおよび他の原核生物(例えば、Bacillus)のような宿主中でポリケチドの産生を可能にするようにそのような宿主を改変する能力は、非常に有利であり、これらのうちの多くは、E.coliの固有の性質にある。1つの重要な利点は、天然にポリケチドを産生する他の微生物と比較して、E.coliが形質転換され得る容易さにある。この形質転換の容易さの1つの重要な適用は、ポリケチドシンターゼの遺伝子シャッフリングの結果を評価する際にある。従って、本発明のさらなる局面は、ポリケチドシンターゼ遺伝子シャッフリングの結果を評価するための方法に関し、この方法は、本発明に従って改変されたE.coliの培養物を、シャッフリングされたポリケチドシンターゼの混合物でトランスフェクトする工程、および個々のコロニーを培養する工程を包含する。ポリケチドを産生するこれらのコロニーは、好首尾にシャッフリングされた遺伝子を含む。
【0044】
ポリケチドを産生するために微生物宿主(特に、原核生物宿主)を改変することに加えて、これらの宿主は、さらに改変されて、ポリケチドを「調整(tailor)」し、そしてそれらの抗生物質への転換をもたらす酵素を産生するように改変され得る。このような調整反応としては、グリコシル化、酸化、ヒドロキシル化などが挙げられる。1つ以上のポリケチド改変酵素(例えば、p450、糖生合成および糖転移、ならびにメチルトランスフェラーゼに関するもの)を含むように改変された生物(特に、E.coli)もまた意図される。
【0045】
宿主の性質に関して、E.coliが、重要な例示として使用される。しかし、種々の原核生物宿主もまた、有用であり得る。例えば、E.coliに加えて、Bacillus、Salmonella、Rhizobium、Pseudomonasおよび一般にグラム陰性細菌が、有用である。他の原核生物が使用され得、そして真核生物微生物(例えば、酵母)さえも使用され得る。例えば、産生生物としてSaccharomyces cerevisiaeを使用する利点は、周知である。さらに、ポリケチドを天然に産生するStreptomycesのような生物が、宿主として使用され得る。なぜなら、これらの生物におけるポリケチドの産生は、本発明の方法によって増強され得るからである。これは、特に、ポリケチドを天然に産生する宿主が、代替の伸長単位または代替の開始単位を組込むように改変された場合である。この場合、たとえ宿主が天然にポリケチドを産生するとしても、この宿主は、改変PKSに対してここで必要とされる検出可能なレベルの開始単位および/または伸長単位を有し得ない。
【0046】
当業者に明らかなように、天然に産生されない開始単位および/または伸長単位のレベルを増強する様式の正確な性質あるいは天然に産生されない開始単位および/または伸長単位の使用可能な量を提供する様式の正確な性質は、必要とされる開始単位および/または伸長単位の性質に依存する。代表的に、最も複雑なポリケチドは、適切な立体化学の少なくともマロニルCoAまたはメチルマロニルCoAを必要とする。さらなる型の置換マロニルCoA誘導体が、特定の例において必要とされ得る。このような基質の産生に対して酵素を提供するための発現系の適切な選択または所望の基質を異化し得る内因性酵素の不活性化は、合成されるポリケチドの性質および宿主の性質に依存する。実際、いくつかの例において、代表的に、合成酵素に対して必要な発現系は、異種供給源から提供されるが、ネイティブな宿主は、それ自体、適切な酵素をコードする遺伝子(ここで、これらの遺伝子は発現されない)を含み得る。この1つの例は、E.coliにおける「スリーピングビューティ(sleeping beauty)」オペロンである。
【0047】
微生物宿主中でポリケチドの産生を得るために、ポリケチドの合成をもたらす酵素を誘導する前に、培養物の実質的な増殖を可能にすることが好ましい。従って、天然にポリケチドを産生しない宿主において、PKS遺伝子に対して必要とされる発現系は、誘導可能なプロモーター(例えば、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)によって誘導される、T7プロモーター)の制御下に配置される。種々のこのような微生物宿主中で誘導可能である適切なプロモーターが多量に存在する。ポリケチド産生と適合性である条件下で誘導性であり、かつ示唆される特定の宿主に対して適切であるプロモーターを、当業者は認識する。改変宿主の他の有利な特徴(例えば、開始因子または伸長因子を合成する能力)もまた、誘導性制御の下であり得る。最終的に、ポリケチドシンターゼのための出発材料に対する前駆体は、合成が所望されるまで使用され得ない。従って、例えば、出発材料がピロピオネートから誘導される場合、プロピオネートは、細胞培養の間の任意の所望の時点で供給され得る。ジケチド出発材料またはトリケチド出発材料が使用される場合、これもまた、適切な時間まで使用され得ない。前駆体の添加前、最少培地が使用され得、そして代替の炭素源が、増殖のためのエネルギーおよび材料を供給するために使用され得る。
【0048】
物質(例えば、ポリケチド)の産生のタイミングを制御することの利点は、周知である。代表的に、そのような二次代謝物の合成のためのエネルギーおよび代謝産物の要求の増大は、急速に増殖するその生物の能力を減少させる。従って、二次代謝物の産生を誘導する前に生物に指数増殖を起こさせることが有利である。
【0049】
ポリケチドシンターゼに対して有用なレベルの基質または増強されたレベルの基質を提供するために、本発明の方法を適用したことの成功は、産生されるポリケチドのレベルまたは速度によって好都合に測定され得る。従って、本発明の方法は、ポリケチドの産生レベルを、宿主が同じ条件下で改変されていない場合の産生と比較して、少なくとも5%、より好ましくは10%、より好ましくは25%、そしてより好ましくは少なくとも50%増強する。
【0050】
上記のように、本発明は、任意の自由裁量によって選択されたポリケチドのインビトロ合成およびインビボ合成の両方のための方法を提供し、ここで、インビボ合成は、任意の微生物宿主、特に原核生物宿主中で実行され得る。原核生物宿主は、代表的に、Bacillus属、Pseudomonas属、Flavobacterium属、より代表的にはEscherichia属、特に、E.coliである。インビトロ合成またはインビボ合成が使用されるか否かにかかわらず、1つ以上の適切なポリケチドシンターゼ(これは、ネイティブであっても、改変されていてもよい)、開始単位および/または伸長単位を産生するための1つ以上の酵素(代表的に、遊離酸をCoA誘導体に転換することを含む)、そして上記の酵素が宿主中で産生される場合、それらを活性化するために酵素を調整することを提供することが必要であり得る。さらに、インビボ合成に関して、そうでなければ適切な出発材料を破壊してしまう異化酵素を無力にすることが必要であり得る。
【0051】
出発材料の産生に関して、matABCオペロンの遺伝子およびプロピオニルカルボキシラーゼをコードする遺伝子を使用して、無細胞ポリケチド合成における使用のためにそれらにコードされるタンパク質を産生し得、そしてまた、細胞培養物中でポリケチドの産生のために組換え宿主を改変し得る。これらの遺伝子およびこれらの対応するコードされる産物は、そのような合成がもたらされるべきである任意の宿主においてポリケチドシンターゼに対する基質の最適なレベルを提供するのに有用である。この宿主は、ポリケチドおよびその対応する抗生物質を天然に産生する宿主であり得るか、またはこの宿主は、いかなるポリケチドも天然に産生しないかもしくは通常作製されないポリケチドを産生するように改変された、組換え改変された宿主であり得る。従って、ポリケチドの合成に有用である微生物宿主としては、種々の株のStreptomyces(特に、S.coelicolorおよびS.lividans)、種々の株のMyxococcus、産業的に望ましい宿主(例えば、E.coli、Bacillus、Pseudomonas、またはFlavobacterium)、および酵母のような他の微生物が挙げられる。これらの遺伝子およびこれらの対応するタンパク質は、一般的にポリケチド合成に対する基質レベルを調整する際に、有用である。
【0052】
本発明の方法を使用して、微生物による特定のポリケチドの産生を増強し得る。微生物が天然にポリケチドを産生しないが、開始単位および/または伸長単位を提供する本発明の方法を伴なわない組み換え操作によってのみ関連するPKS遺伝子を含む場合、ポリケチドの産生は、全く進行し得ない。従って、増強は、本質的に無限である(ただ単に基礎が0であるから)。しかし、検出可能なレベルのポリケチドが産生される場合(事前の改変によってか、またはその微生物がそれらを天然に産生し得るからのいずれか)、本発明の方法は、産生レベルを少なくとも5%、好ましくは25%、より好ましくは50%、より好ましくは100%、200%、5倍、10倍、100倍または200倍増強する。産生されるポリケチドのレベルにおける極度に広範なバリエーションが、開始点および作製される改変に依存して利用可能である。
【0053】
(基質特異性およびポリケチド設計)
これらの遺伝子およびそれらの産物は、ある範囲の出発材料を利用する酵素の能力に起因して特に有用である。従って、一般的に、プロピオニルカルボキシラーゼは、式R2−CH−CO−SCoA(ここで、各Rは、Hまたは必要に応じて置換されるアルキルまたは必要に応じて置換される他のヒドロカルビル基である)のチオエステルを、式R2C(COOH)COSCoAの対応するマロン酸チオエステルに転換する。天然の補酵素Aチオエステルに加えた他のチオエステル(例えば、N−アシルシステアミンチオエステル)もまた、使用され得る。同様に、matB遺伝子の産物は、式R2C(COOH)2のマロン酸誘導体を対応するアシルチオエステルに転換し得る(ここで、各Rは、独立して、Hまたは必要に応じて置換されたヒドロカルビルである)。好ましい出発材料は、Rがアルキル(1〜4C)であり、好ましくはRCH(COOH)2である。インビボ系において、出発マロン酸関連材料の膜輸送を確実にするためにmatC遺伝子を含むことが有利であり得る。matA遺伝子は、式R2C(COOH)COSCoAのマロニルCoA基質を、開始単位としての使用のための式R2CHCOSCoAの対応するアシル−CoAに転換するタンパク質をコードする(ここで、Rは、上記のように規定される)。
【0054】
代表的に、上記で参照されるヒドロカルビル基は、1〜8C、好ましくは1〜6C、より好ましくは1〜4Cのアルキル基である。このアルキル基は、直鎖であっても分枝鎖であってもよいが、好ましくは直鎖である。ヒドロカルビル基はまた、不飽和を含み得、そしてさらに、ハロ、ヒドロキシル、メトキシルまたはアミノ、またはメチルアミノもしくはジメチルアミノなどの置換基を含み得る。従って、ヒドロカルビル基は、式CH3CHCHCH2;CH2CHCH2;CH3OCH2CH2CH2;CH3CCCH2;CH3CH2CH2CH2CH2;などのヒドロカルビル基であり得る。
【0055】
本発明の方法および材料によってさらに調製されるのは、式
ROCH(COOH)COSCoA
(ここで、Rは、上記のように規定される)の伸長単位である。
【0056】
置換アルキル基はまた、その骨格鎖が1〜8C、好ましくは1〜6Cであり、より好ましくは1〜4Cである。アルケニルヒドロカルビル基およびアルキニルヒドロカルビル基は、2〜8C,好ましくは2〜6C、より好ましくは2〜4Cを含み、そしてまた、分枝鎖であっても直鎖であってもよく、好ましくは直鎖である。
【0057】
出発材料として適切なジケチドを供給することによって、さらなる変動性が得られ得る。ジケチドは、一般的に、米国出願番号09/311,756(1999年5月14日出願され、本明細書中に参考として援用される)に記載されるような式のものである。次いで、種々の置換基が導入され得る。従って、このジケチドは、一般式R’CH2CHOHCR2COSNAc(ここで、Rは上記のように規定され、そしてR’はアルキル、1〜8C、アリール、アリールアルキルなどであり得る)のジケチドである。SNAcは、N−アセチルシステアミンのチオエステルを表すが、代替のチオエステルもまた、使用され得る。
【0058】
ポリケチドのインビボ産生またはインビトロ産生のいずれかに関して、所望の特異性を有するアシルトランスフェラーゼドメインは、関連するPKSへと組み込まれ得る。ATドメインの適切な特異性を保証する方法は、1999年7月2日に出願された米国特許出願番号第09/346,860号(その内容は本明細書中で参考として援用される)に詳しく記載されており、所望の特異性を有するそのようなドメインをどのように作成および使用し得るかが記載されている。また、成長するポリケチド鎖の1つのモジュールから次のモジュールへの適切な移動を保証することによって、ポリケチドシンターゼモジュール有効性を媒介する方法も、インビトロにおけるこれら酵素の、またはインビボにおける遺伝子の使用に関連する。そのような方法は、2000年2月9日に出願された米国特許出願番号第09/500,747号に詳しく記載されており、その内容は、その全体が本明細書中で参考として援用される。
【0059】
置換したベンゾエートが、開始単位として作用し得るかを決定する際の予備的な事として、ローディングモジュールのアデニル化活性およびチオール化活性は、インビトロで再構成され、そしてコエンザイムAに依存しないことが示されており、このことは、このローディングモジュールが、実施例7に示されるコエンザイムAリガーゼであるという文献の提唱に反する。ローディングモジュールの共有結合性のアリール化についての動力学的パラメーターは、実施例8に記載されるように、非天然の基質ベンゾエート(B)および3−ヒドロキシベンゾエート(3−HB)について直接測定された。この分析は、実施例9および10に記載されるように、競合実験を介して拡張されて、一連の置換されたベンゾエートの取り込みの相対速度を決定する。この実験における結果は、ローディングモジュールが、種々の置換されたベンゾエートを受容し得るが、生物学的基質が最もよく似ている3−置換ベンゾエート、5−置換ベンゾエート、および3,5−二置換ベンゾエートについて優先度を示すことを示す。リファマイシンシンテターゼのローディングモジュールの顕著な基質耐性は、このモジュールが、天然の産物の置換された誘導体を生成するためのツールとして有用であることを示唆する。
【0060】
置換されたベンゾエートは、任意の置換基を含むベンゾエート分子として規定される。ベンゾエート基質は、リファマイシンシンターゼのA−Tドメインをプライムするか、さもなければ、ローディングモジュールへの開始単位(starter unit)としてか、またはシンターゼもしくはシンテターゼのモジュールへの伸長単位(extender unit)として、取り込まれ得る。好ましいベンゾエート基質としては、3−置換ベンゾエート、5−置換ベンゾエート、および3,5−二置換ベンゾエートが挙げられる。より好ましくは、このベンゾエートは、以下からなる群より選択される:2−アミノベンゾエート、3−アミノベンゾエート、4−アミノベンゾエート、3−アミノ−5−ヒドロキシベンゾエート、3−アミノ−4−ヒドロキシベンゾエート、4−アミノ−2−ヒドロキシベンゾエート、3−ブロモベンゾエート、3−クロロベンゾエート、3,5−ジアミノベンゾエート、3,5−ジブロモベンゾエート、3,5−ジクロロベンゾエート、3,5−ジフルオロベンゾエート、2,3−ジヒドロキシベンゾエート、3,5−ジヒドロキシベンゾエート、3,5−ジニトロベンゾエート、3−フルオロベンゾエート、2−ヒドロキシベンゾエート、3−ヒドロキシベンゾエート、4−ヒドロキシベンゾエート、3−メトキシベンゾエート、3−ニトロベンゾエート、および3−スルホベンゾエート。
【0061】
CoAがTドメインのアリール化に必要とされず、そしてベンゾイルCoAが、このプロセスの中間の成分ではないという観察は、NRPS様A−Tジドメインとして、リファマイシンシンテターゼのローディングモジュールを確立する(図2B)。
【0062】
リファマイシンシンテターゼのローディングモジュールが、NRPS様A−Tジドメインとして機能するという結論は、他の系に密接な関係を有する。ラパマイシン(Lowden,P.A.S.ら、Anges.Chem.Int.Ed.Engl.(1996)35:2249−2251)、FK506(Motamedi,H.ら、Eur.J.Biochem.(1998)256:528−534)、アンサトリエニン(ansatrienin)(Chen,S.ら、Eur.J.Biochem.(1999)261:98−107)、FK520(Wu,K.ら、Gene(2000)251:81−90)、ミクロシスチン(microcystin)(Tillett,D.ら、Chem.Biol.(2000)7:753−764)、およびピマリシン(Aparicio,J.F.ら、Chem.Biol.(2000)7:895−905)についての生合成遺伝子クラスターの全ては、リファマイシンシンテターゼのA−Tジドメインに相同性を有するローディングモジュールをコードする。しかし、これらの系のいくつかは、活性化CoA基質(恐らく、図2Aに示される機構に類似するCoAリガーゼ機構を介して生成される)により、プライムされることが提唱されている。(Schwecke,T.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1995)92:7839−7843;Motamedi,H.ら、Eur.J.Biochem.(1998)256:528−534;Moore,R.,E.ら、J.Am.Chem.Soc.(1991)113:5083−5084)。これらの系のプライミングについてより可能性のある機構は、リファマイシンシンテターゼについて有効なアデニル化−チオール化機構である。
【0063】
図2に示される機構は異なるが、関与する化学は、本質的に同じである。両方の場合、AHBの活性化は、アリール−アデニル化を介して生じ、そして唯一の差異は、Tドメインのアリール化の前に、AHBのCoAへの中間の移動が存在するか否かである。Tドメインのホスホパンテチン補因子は、CoAに由来するので、TドメインおよびCoAのチオールの求核試薬は、化学的に等価である。従って、酵素が、ホスホパンテチン補因子として、CoAの求核末端の共有結合的取り込みによって、単純に、CoAリガーゼからA−Tジドメインへと発展し得る方法を想像することは困難ではない。恐らく、アリール基質部分を、アリール−CoAとして非共有結合的に結合する代わりに、Tドメインを介してシンテターゼに対して、共有結合的につなぐことの利点が存在する。それにもかかわらず、アリール−CoAリガーゼは、植物界におけるポリケチド合成に関与することが知られており(例えば、Beerhues,L.,FEBS Lett.(1996)383:264−266;Barillas,W.ら、Biol.Chem.(2000)381:155−160を参照のこと)、そしてベンゾイル−CoAは、エンテロシン(enterocin)を生成する反復性のII型PKSの基質であるようである(Hertweck,C.ら、Tetrahedron(2000)56:9115−9120)。
【0064】
この研究の前に、AHB、3−HB、および3,5−ジヒドロキシベンゾエートは、A−Tジドメインの基質であることが知られていた(Hunziker,D.ら、J.Am.Chem.Soc.(1998)120:1092−1093)。11個のさらなる基質(ベンゾエート(B)を含む)は、本明細書中で同定された(表1)。以前の研究は、選択的に置換されたベンゾエートについてのリファマイシンシンテターゼのA−Tジドメインの基質耐性が、関連する細菌ベンゾイル−CoAリガーゼ(Geissler,J.F.ら、J.Bact.(1988)170:1709−1714;Altenschmidt,U.,J.Bact.(1991)173:5494−5501);およびEntE(Rusnak,R.ら、Biochemistry(1989)28:6827−6835)(腸内バクトリンシンテターゼの成分である単体のAドメイン)により、ある程度まで共有されることを示唆する。これらのタンパク質は、それらの生物学的基質に加えて、いくつかの選択的に置換されたベンゾエートを受容し得る。
【0065】
詳細な分子レベルでのA−Tジドメインについての基質特異性の結果の分析は、このローディングモジュールの結晶構造を待つが、いくつかの予備的な観察は、表1の基質スクリーニングの結果および相対的反応性データに基づいてなされ得る。2−アミノベンゾエートおよびBを除いて、3−置換基、5−置換基、または3−および5−置換基を有するベンゾエートのみが、A−Tジドメインについての基質である。生物学的基質AHBの3−アミノ置換基および5−ヒドロキシ置換基に適応する結合部位はまた、明らかに、これらの位置で代替の置換基に適応し得る。3−スルホベンゾエート、3−ニトロベンゾエート、および3,5−ジニトロベンゾエートは、立体的な理由から基質として拒否されるようであった(図7)。なぜならば、スルホ置換基およびニトロ置換基の両方は、AHBのアミノ置換基およびヒドロキシ置換基よりも有意に大きいからである。これに関して、3−メトキシベンゾエートが、弱い基質ではあるが、基質として受容されることは驚きである。なぜならば、メトキシ置換基もまた、AHBのいずれかの置換基よりも有意に大きいからである。3−フルオロベンゾエートおよび3,5−ジフルオロベンゾエートは、それらのクロル化対応物およびブロモ化対応物に関して5個および30個の因子により、識別される(表1)。フッ化の際の芳香族環の電子特性の変化は、これらの差異を説明し得る。フェニルアセテートおよび3−ヒドロキシフェニルアセテートは、対応するベンゾエート、B、および3−HBの反応性にもかかわらず、A−Tジドメインにより、基質として利用されないようである(表1)。この結果は、カルボキシレートの登録が、その反応性の決定要因であることを示唆する。なぜならば、フェニルアセテートのカルボキシレートは、ベンゾエートに対して、1つのメチレン基によって置換されているからである。置換されたベンゾエートが、この研究において推定の基質として標的化されたことに注目すべきである;置換されたベンゾエートについてのA−Tジドメインの耐性が、他の型の芳香族置換基(例えば、ヘテロ環)に広がる可能性は、試験されるべきであるままである。
【0066】
置換されたベンゾエートについてのリファマイシンシンターゼのローディングモジュールの顕著な基質耐性は、タンパク質工学を通じた非天然の天然物の産生に対して密接な関係を有する。6−デオキシエリスロノライド(deoxyerythronolide)B PKSの内因性ローディングモジュールは、最近、アベルメクチンPKSのローディングモジュールにより置換され、そして得られたハイブリッドシンターゼは、アベルメクチンファミリーに特徴的な分枝した開始単位を組み込まれたエリスロマイシン誘導体を産生した(Marsden,A.F.ら、Science(1998)279;199−202)。同様に、本来の生成物の置換された誘導体を生成する目的として、他のシンターゼまたはシンテターゼにリファマイシンシンテターゼのA−Tジドメインを付加することにより、リファマイシンシンテターゼのA−Tジドメインの乱雑さのプライミングを開発することが本発明に従って意図される。
【0067】
最終的に、NRPS様A−Tジドメインとしてリファマイシンシンテターゼのローディングモジュールのこの初期の特徴付けは、この系におけるハイブリッドNRPS/PKSインターフェースの研究のための準備を整える。リファマイシンシンテターゼのNRPS様ローディングモジュールおよびPKSモジュール1を(シスまたはトランスで)組合わせる、生化学的研究は、NRPS/PKS生合成インターフェースに関する機能的問題および構造的問題を扱うことを可能にするべきである。
【0068】
様々なPKSをコードするヌクレオチド配列は、望ましいPKSの産生、およびマクロライド後(postmacrolide)変換に有用なタンパク質、およびその改変型を産生する組換え手順での、その使用を可能にする。例えば、エリスロマイシンの産生に関連する遺伝子のヌクレオチド配列が、米国特許第6,004,787号および米国特許第5,998,194号に;アベルメクチンに関しては米国特許第5,252,474号に;FK506に関しては米国特許第5,622,866号に;リファマイシンに関してはWO98/7868に;スピラマイシンに関しては米国特許第5,098,837号に開示されている。これらは単なる例である。望ましいコード配列の一部、または全てを、Jayeら、J.Biol.Chem.(1984)259:6331で記載されたような、そして例えばApplied Biosystems,Inc.から市販の、標準的な固相合成法を用いて合成し得る。
【0069】
特定の活性をコードするPKSの部分を単離し、そして例えば異なるモジュール型PKSにおける対応する領域を置換するためにそれを使用することによって操作し得る。さらに、PKSの個々のモジュールを、適切な発現系にライゲーションして、そしてオープンリーディングフレームによってコードされるタンパク質の一部を産生するために使用し得る。次いで、タンパク質を単離および精製し得るか、またはポリケチド合成をもたらすためにインサイチュで使用し得る。モジュールもしくは全オープンリーディングフレーム、またはオープンリーディングフレームの組み合わせの組換え産生についての宿主に依存して、プロモーター、終止配列、エンハンサー等のような適切な制御配列を、望ましいタンパク質をコードするヌクレオチド配列にライゲーションする。様々な宿主に関して適切な制御配列が、当該分野で周知である。
【0070】
これらのヌクレオチド配列の利用可能性が、適切な酵素についての適切な発現系を含むように改変された宿主細胞を用いた、新規ポリケチドおよびその対応する抗生物質の産生の可能性を拡大する。異なるPKSの骨組みにそれらを置換することによって、またはそのような置換または他の変異誘発変化の代わりに、またはそれに加えてハイブリッドを形成することによって、ドナーPKSの様々な活性コード領域を操作することによって、広範な種々のポリケチドおよび対応する抗生物質を得ることができる。これらの技術は、例えば1998年5月6日に出願され、そして本明細書中で参考として援用される、米国特許出願番号第09/073,538号に記載されている。
【0071】
例えば、天然シンターゼ遺伝子の全てまたは採用された一部によってコードされる骨組みを用いることによって、新規ポリケチドを産生するポリケチドシンターゼを得ることができる。シンターゼは、少なくとも1つの機能的なモジュール、好ましくは2または3つのモジュール、そしてより好ましくは4つ以上のモジュールを含み、そして生じたポリケチドの性質が変化するように、これら機能的モジュールの1つ以上の活性に変異、欠失、または置換を含む。この記述は、タンパク質および遺伝的レベルのどちらにもあてはまる。特に好ましい実施形態は、KS、AT、KR、DH、またはERが欠失したか、またはKS、AT、KR、DH、またはERが異なるPKS、もしくは同じPKSにおける別の位置由来の活性のバージョンで置換されたものを含む。少なくとも1つの非縮合サイクル酵素活性(KR、DH、またはER)が欠失したものか、またはこれら活性のいずれかが変異して合成される最終的なポリケチドが変化した誘導体も好ましい。
【0072】
従って、天然に存在するPKSの様々な誘導体をコードするヌクレオチド配列、および様々なポリケチドを得るために、酵素活性コード部分の「ミキシングおよびマッチング」によって、望ましい数の構築物を得ることができ、そして変異を、ネイティブな宿主PKS遺伝子集団またはその一部に導入し得る。
【0073】
慣用的な技術を用いて、ネイティブの配列に変異を作製し得る。変異の基質は、遺伝子の全集団またはそれらの1つまたは2つのみであり得る;変異の基質はまた、1つ以上のこれら遺伝子の一部であり得る。変異の技術は、変異を含む合成オリゴヌクレオチドを調製すること、および変異配列を、制限エンドヌクレアーゼ消化を用いて(例えば、Kunkel,T.A.Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1985)82:448;Geisselsoderら、BioTechniques(1987)5:786を参照のこと)、または他の当該分野で公知の様々な方法によって、PKSサブユニットをコードする遺伝子へ挿入することを含む。
【0074】
酵素活性をコードするヌクレオチド配列の選択された部分の無作為変異誘発をまた、当該分野で公知のいくつかの異なる技術によって、例えばオリゴヌクレオチドリンカーをプラスミドに無作為に挿入することによって、X線または紫外線の照射によって、インビトロDNA合成の間に正しくないヌクレオチドを組み込むことによって、誤りがちな(error−prone)PCR変異誘発によって、合成変異体を調製することによって、または化学物質によってインビトロでプラスミドDNAに障害を与えることによって、達成し得る。
【0075】
酵素活性をコードする領域の変異形態を提供することに加えて、異なるPKSシンターゼ由来、または同じPKSシンターゼの異なる位置由来の対応する活性をコードする領域を、例えば適切なプライマーを用いたPCR技術を使用して回収し得る。「対応する」活性をコードする領域によって、同じ一般的な型の活性をコードする領域を意味される−例えば、遺伝子集団の1つの位置におけるケトレダクターゼ活性は、その遺伝子集団の別の位置における、または異なる遺伝子集団におけるケトレダクターゼをコードする活性と「対応する」。同様に、完全なレダクターゼサイクルは、対応すると考えられ得る−例えばKR/DH/ERはKR単独に対応する。
【0076】
宿主ポリケチドシンターゼの特定の標的領域を置換する場合、この置換は、適当な制限酵素を用いてインビトロで行い得るか、またはドナープラスミド中の置換遺伝子およびレシピエントプラスミド中のレセプター領域の相同配列フレーミング(framing)を含む、組換え技術を用いてインビボで行い得る。異なる温度感受性を有するプラスミドを有利に含む、このような系は、例えば、PCT出願WO96/40968に記載されている。
【0077】
最後に、ポリケチドシンターゼ遺伝子は、一般的なDNA配列と同様に、上記で概略を述べた系統的な変更およびランダム変異誘発のための方法に加えて、Maxygenに譲渡された米国特許第5,834,458号、ならびにAffymaxに譲渡された米国特許第5,830,721号、同第5,811,238号および同第5,605,793号に記載されたような、「遺伝子シャッフリング」の技術によって改変され得る。この技術において、bPKSをコードするDNA配列を、制限酵素によって切断し、増幅し、そして次いで、再度連結する。これは、再編成された遺伝子の混合物を生じ、この混合物は、そのポリケチドを産生する能力について評価され得る。容易に形質転換される宿主(例えば、E.coli)における、ポリケチドを産生するその能力は、これを実用的なアプローチにする。
【0078】
産生されるポリケチドに関して、ポリケチドシンターゼを構築するために5つの自由度が存在する。第1に、ポリケチド鎖の長さは、PKS中のモジュールの数によって決定される。第2に、PKSの炭素骨格の性質は、各位置での伸長単位(例えば、マロニル、メチルマロニルまたはエチルマロニルなど)の性質を決定する、アシルトランスフェラーゼの特異性によって決定される。第3に、ローディングドメイン(loading domain)の特異性もまた、得られるポリケチドの炭素骨格に対して影響を及ぼす。従って、ローディングドメインは、アセチル、プロピオニル、ブチリルなどのような、異なる開始単位を使用し得る。第4に、ポリケチドの様々な位置における酸化状態は、そのモジュールのデヒドラターゼ部分およびレダクターゼ部分によって決定される。これは、ポリケチドにおけるケトン、アルコール、二重結合または単結合の存在および位置を決定する。最後に、得られたポリケチドの立体化学は、シンターゼの3つの局面の機能である。第1の局面は、伸長単位としての置換マロニル基と関連するAT/KS特異性に関連し、この特異性は、還元サイクルが存在しない場合または還元サイクルがケトレダクターゼのみを含む場合にのみ、立体化学に影響を与える(なぜなら、デヒドラターゼがキラリティーを破壊するからである)。第2に、ケトレダクターゼの特異性が、任意のβ−OHのキラリティーを決定する。最後に、伸長単位としての置換マロニル基に対するエノイルレダクターゼの特異性が、完全なKR/DH/ERが利用可能な場合に、結果に影響を与える。
【0079】
1つ有用なアプローチは、モジュール1におけるKS活性を改変することであり、代替的な開始単位およびモジュール1伸長単位を取り込む能力を生じる。このアプローチは、本明細書中で参考として援用されるPCT出願US/96/11317に例示され、ここで、KS−I活性は、変異によって不活性化された。次いで、ポリケチド合成を、モジュール1ジケチド産物の化学的に合成したアナログを供給することによって開始させる。次いで、本発明の方法を使用して、伸長単位量を増大させる得る。
【0080】
モジュール型PKSは、それらの開始単位に対して緩やかな特異性を有する(Kaoら、Science(1994)、前出)。モジュール型PKSはまた、それぞれの縮合サイクルにおける伸長単位の選択において、かなりの多様性をも示す。縮合反応後のβ−ケト還元の程度もまた、遺伝子操作により変更されることが示されている(Donadioら、Science(1991)、前出;Donadio,Sら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1993)90:7119−7123)。同様に、ポリケチド産物のサイズは、適切な数のモジュールを持つ変異体を設計することによって変更され得る(Kao,C.M.ら、J.Am.Chem.Soc.(1994)116:11612−11613)。最後に、これらの酵素は、高度に制御された様式でそれらの産物における重要な範囲の不斉中心を生成することについて、特に周知である。本発明の方法により産生されるポリケチドおよび抗生物質は、代表的に、単一の立体異性体形態である。本発明の化合物は、立体異性体の混合物として生じ得るが、このPKS系を用いることによって、個々の立体異性体を生成させることが、より実用的である。
【0081】
PKSのポリケチド産物は、抗生物質活性を示すために、代表的には、ヒドロキシル化、酸化および/またはグリコシル化によって、さらに修飾され得る。
【0082】
ポリケチドをグリコシル化するための方法は、当該分野において一般的に公知であり;グリコシル化は、適切なグリコシル化酵素を提供することによって細胞内でもたらされ得るか、または、化学合成手段(本明細書中で参考として援用される、米国出願番号第09/073,538号に記載されるような)を使用することによってインビトロでもたらされ得る。
【0083】
抗生物質モジュール型ポリケチドには、任意の多くの異なる糖が含まれ得るが、D−デソサミンまたはそれらの類似アナログが、最も一般的ではある。例えば、エリスロマイシン、ピクロマイシン、ナルボマイシンおよびメチマイシンは、デソサミンを含む。エリスロマイシンはまた、L−クラジノース(3−O−メチルミカロース)を含む。タイロシンには、ミカミノース(4−ヒドロキシデソサミン)、ミカロースおよび6−デオキシ−D−アロースが含まれる。2−アセチル−1−ブロモデソサミンは、ポリケチドをグリコシル化するためのドナーとして使用されている(Masamuneら、J.Am.Chem.Soc.(1975)97:3512、3513)。他の、明らかにより安定的なドナーとしては、グリコシルフルオリド、チオグリコシドおよびトリクロロアセトイミデートが挙げられる(Woodward,R.B.ら、J.Am.Chem.Soc.(1981)103:3215;Martin,S.F.ら、Am.Chem.Soc.(1997)119:3193;Toshima,K.ら、J.Am.Chem.Soc.(1995)117:3717;Matsumoto,T.ら、Tetrahedron Lett(1988)29:3575)。グリコシル化はまた、出発物質としてのマクロライドおよびS.erythraeaの変異体を使用してもたらされ得、このS.erythraeaの変異体は、変換を行うためのこのマクロライドを合成することができない。
【0084】
一般的に、グリコシル化をもたらすためのアプローチは、ヒドロキシル化に関しての上記アプローチを反映する。天然の供給源から単離したかまたは組み換え産生した精製酵素を、インビトロで使用し得る。あるいは、グリコシル化は、内因性または組換え産生された細胞内グリコシラーゼを用いて、細胞内でもたらされ得る。さらに、合成的化学法が使用され得る。
【0085】
宿主が通常ポリケチドを産生する場合、これらの宿主による内因性ポリケチド産生を阻害するように、これらの宿主を改変することが望ましくあり得る。そのような宿主は、例えば、参考として本明細書中で援用される米国特許第5,672,491号に記載され、これは、以下の実施例において使用される、S.coelicolor CH999を記載する。このような宿主においては、組換え産生されたポリケチドシンターゼを構築する酵素の翻訳後修飾のための酵素的活性を与えることが必要とされないかもしれない。これらの宿主は、一般に、シンターゼの機能性に必要とされるパンテテイニル残基を提供するための、ホロ−ACPシンターゼと呼ばれる、適切な酵素を含む。しかし、通常ポリケチドを産生しない酵母、植物または哺乳類細胞のような宿主において、組換え産生されたPKSを機能性に変換するための適切なホロ−ACPシンターゼを提供する(代表的には、組換え手段による)必要があり得る。そのような酵素の提供は、例えば、本明細書中で参考として援用されるPCT出願WO98/27203に記載されている。
【0086】
また、宿主および所望の産物の性質に依存して、「調整(仕立て)(tailoring)酵素」またはそれらをコードする遺伝子を提供することが必要であり得る。ここで、これらの調整酵素は、酸化、ヒドロキシル化、グリコシル化などによって産生された、マクロライドを修飾する。
【0087】
コードするヌクレオチド配列は、これらの配列に適合性である宿主細胞において、このコードするヌクレオチド配列の発現をもたらすように作動する、プロモーター、エンハンサーおよび/または終止配列に作動可能に連結され;宿主細胞は、染色体外エレメントもしくはベクターとしてか、または染色体中に組み込まれるかのいずれかとしてこれらの配列を含むように改変され、そしてPKSおよびPKS後(post−PKS)の酵素、ならびにポリケチドおよび抗生物質を生成するための方法は、これらの改変された宿主細胞を使用する。E.coliのような生物において使用するための多重ベクター系(multiple vector)が意図される。
【0088】
宿主のPKS遺伝子における酵素活性を置き換えるため、または宿主PKS遺伝子のこれらの領域において変異を支持するための種々の操作を実施するために使用されるベクターは、コード配列の発現が適切な宿主においてもたらされ得る様式で、得られたコード配列に作動可能に連結された制御配列を含むように選択され得る。しかし、単純なクローニングベクターも同様に使用され得る。
【0089】
特に有用な制御配列は、それ自体が、栄養性菌糸体において増殖期から定常期への転移の間に発現を活性化するか、または適切な調節系を使用して、栄養性菌糸体において増殖期から定常期への転移の間に発現を活性化する制御配列である。例示的なプラスミドpRM5に含まれる系(すなわち、actI/actIIIプロモーター対、およびactII−ORF4、アクチベーター遺伝子)は、特に好ましい。特に好ましい宿主は、ポリケチドを生成するそれ自身の手段を欠損し、その結果、より明瞭な結果が得られる宿主である。この型の例示的な宿主細胞としては、PCT出願WO96/40968に記載された改変S.coelicolor CH999培養物およびS.lividansの類似の株が挙げられる。
【0090】
本発明の組換えベクターを適切な宿主に導入するための方法は、当業者に公知であり、そして代表的には、CaCl2または他の薬剤(例えば、二価カチオン)の使用、リポフェクション、DMSO、プロトプラスト形質転換、およびエレクトロポレーションが挙げられる。
【0091】
1997年12月11日付けで出願された出願番号08/989,332号(本明細書中で参考として援用される)において開示されたように、いくつかの宿主は、シンテターゼのアシルキャリアタンパク質を活性化する適切な翻訳後機構を生来的に含まないとはいえ、広範な種々の宿主が使用され得る。これらの宿主は、適切な組換え酵素で改変されて、これらの改変を果たし得る。
【0092】
新しい異種系においてモジュール型(modular)ポリケチドシンターゼを操作する能力を実証するために、本発明者らは、PKSモジュールを非リボソーム性ペプチドシンテターゼ(NRPS)様モジュールに融合したDEBSの誘導体を構築することを試みた(Mootz,H.D.ら,Curr.Opin.Chem.Biol.(1997)1:543)。リファマイシンシンテターゼの第1モジュールは近年、2つのドメイン(アデニル化(A)ドメインおよびチオール化(thiolation)(T)ドメイン)から構成されるNRPS様モジュールであることが示された(Admiraal,S.J.ら,Biochemistry(投稿済))。Aドメインは、ATP依存的な反応において、3−アミノ−5−ヒドロキシベンゾエート(ならびに、ベンゾエートおよびいくつかのベンゾエート誘導体(Admiraal(前出)))を活性化し、そしてアリールアデニレートを、Tドメインのホスホパンテテイン腕に転移させる(図7)。このNRPS様モジュールを、DEBSのローディングジドメイン(loading didomain)の代わりに、DEBSの第1縮合モジュールの上流に融合した(DEBS1に融合されたリファマイシンローディングジドメインおよびpccAB遺伝子を保有するプラスミドpBP165の構築を、実施例11に記載する)。外因性プロピオネートおよびベンゾエートの存在下において、得られたE.coli株は、NMRおよび質量分析法によって確認されたように(図7)、予期された6dEBアナログ(化合物3)を生成した(13C−NMR(CDCl3,500MHz)δ213.76,177.43,79.70,76.60,71.24,37.72(富化された炭素原子のみ)。質量分析法(AP−CI)期待値 12C19 13C6H38O6Na:463.2757;観測値:463.2847)。
【0093】
まとめると、本発明者らは、複雑なポリケチド天然産物を生成するようにE.coliを操作する可能性を実証した。以下に挙げられる複数の変更を、関連する6dEBの生成のためにE.coliゲノムに対して行った:Saccharopolyspora erythraea由来の3つのDEBS遺伝子の導入、Bacillus subtilis由来のsfpホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ遺伝子の導入、Streptomyces coelicolor由来のヘテロ二量体性プロピオニルCoAカルボキシラーゼをコードする遺伝子の導入、内因性prpRBCD遺伝子の欠失、および内因性prpE遺伝子およびbirA遺伝子の過剰発現。遺伝子発現を低温で協調的に誘導した場合、プロピオネートは、優れた動的パラメーターを有するこの代謝的に操作された細胞性触媒によって、6dEBへと変換され得る。生体産物(bioproduct)を過剰生成するようにE.coliを発酵することに関して十分に確立された拡張可能なプロトコールが利用可能であることを考慮すると、この異種宿主において複雑なポリケチドを合成する能力は、これらの生物活性天然産物の実用的な生成のために良い前兆である。同じく重要なことに、本明細書中で記載されたハイブリッドPKS−NRPSによって示されるように、このことは、方向付けられたアプローチおよび無作為なアプローチを使用してモジュール型ポリケチドシンターゼを操作するために、E.coliにおける分子生物学の莫大な能力を利用する道を開く。このように、NRPSを含みかつ種々のベンゾエート基質を組み込んだもののようなハイブリッドモジュール型ポリケチドシンターゼを作製する生物(例えば、E.coli)もまた意図される。
【0094】
(出発物質の増強およびバリエーション)
従って、開始因子単位および/または伸長因子単位の生成を触媒するタンパク質(および、それらのコード配列)を使用して、従来生成されたよりも高いレベルでかなり多様なこれらの開始因子単位および伸長因子単位を提供することによってポリケチドの産生を増強し得る。上記に示したように、微生物宿主を改変するために使用される必要な酵素(開始因子単位および/または伸長因子単位の提供、生成、または生成の増強において有効な酵素を含む)は、染色体外複製エレメントとして供給され得るが、これらは好ましくは、例えば、相同組換え技術によって宿主ゲノム中に導入される。所望される発現系をゲノムに組み込むことによって、選択圧の必要性が回避され、そしてさらなる抗生物質を伴わない理想的な生成条件下で適切でありかつ使用され得る適切な生成株が得られる。さらに、宿主は、組換え技術によって活性化される、基質の生成において有用であるサイレントな遺伝子を含み得る。
【0095】
タンパク質は、種々の基質を使用して、開始因子単位および/または伸長因子単位を得るための反応を触媒するので、タンパク質は、改変されているかまたは改変されていないかに関わらず広範な種々のPKSについて、開始因子単位および伸長因子単位の利用可能性を増強するにおける汎用的なツールである。上記のように、matABCオペロン(または、他の種における類似のオペロン)、ならびにaccA1遺伝子と共にpccBおよびaccA2によってコードされるプロピオン酸カルボキシラーゼ(または、他の種におけるそれらのアナログ)の生成は、特に有用である。これらの酵素およびそれらのコード配列は、matABCオペロンおよびプロピオン酸カルボキシラーゼコード遺伝子が、種々の基質に対して必要とされる反応を実行するのみならず、ポリケチド合成において使用するために必要とされる立体化学を有する生成物の生成をも共に実行する酵素を提供するという発見に照らして有用である。
【0096】
本明細書中に記載される遺伝子が、適切な開始因子単位および伸長因子単位を提供する能力は、以下に記載のようにして確証付けられた。
【0097】
(改善された培養条件)
上記の宿主の改変に加えて、微生物の培養条件を改変して、合成されるポリケチドの収率を改善し得る。これらの条件の成功は、少なくとも5%、好ましくは10%、より好ましくは25%、そして最も好ましくは少なくとも50%生成されるポリケチドのレベルまたは速度によって測定され得る。200%の生成レベル増強もまた達成され得る。これらの増強は、おそらく比較的緩やかであり、そして5倍、10倍、20倍、100倍、200倍、または500倍のレベルに増強することは、宿主生物のゲノム補完(complement)を改変することによってか、もしくは培養条件を操作することによってか、またはその両方によって可能となった。生成レベルまたは生成速度は、変動されるパラメーター以外の他のすべてを一定にした条件設定下で測定される。
【0098】
以下に示されるように、ポリケチドの収率は、(1)発酵全体を通して、比較的一定した栄養素レベルを維持すること;(2)補助的なチオエステラーゼを提供すること;(3)開始因子単位および/または伸長因子単位についてのさらなる前駆体を大量に給餌すること;ならびに(4)高い細胞密度まで増殖させること、によって著しく増加される。1つ以上のこれらのストラテジーを使用して、ポリケチドの収率は、少なくとも1.25倍、好ましくは1.5倍、より好ましくは2倍、そして多くの場合、5倍、10倍、25倍、50倍、100倍、200倍、または500倍増強される。
【0099】
実施例12に示されるように、チオエステラーゼII(TEII)についての発現系を提供する場合に、最初の濃度が枯渇した後に前駆体を添加することは有益である。ポリケチド合成過程の間、比較的一定の値に栄養素レベルを維持し、そして高い細胞密度まで細胞増殖を可能にすることは、特に有益である。
【0100】
栄養素が「比較的一定の値」とは、栄養素を、低濃度に、代表的には、E.coliの場合2g/L未満に維持することを意味する。「高い細胞密度」とは、E.coliについては、約40〜80、好ましくは50〜70のOD600値を意味する。
【0101】
(実施例1)
(CoAシンテターゼを使用した、マロニルCoAおよび2S−メチルマロニルCoAの生成)
E.coli株L8は、アセチルCoAカルボキシラーゼ遺伝子において温度感受性変異を有し、その結果、マロニルCoAを、37℃でアセチルCoAから生成し得ない。しかし、この遺伝子産物は、30℃でこの変換を果たし得る。Harder,M.E.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.(1972)69:3105−3109を参照のこと。アセチルCoAからマロニルCoAへのアセチルCoAカルボキシラーゼ変換は、E.coliにおけるマロニルCoA生成について知られている唯一の経路であるので、そしてマロニルCoAは脂肪酸生合成に必須であるので、E.coliのこの変異株は、30℃では増殖し得るが、37℃では増殖し得ない。matABCオペロンを有するL8の形質転換体は、matA、matBおよびmatC遺伝子を、それらのネイティブなプロモーターの制御下に含むプラスミドpMATOP2で形質転換することによって生成され、そしてAn,J.H.ら,Eur.J.Biochem.(1998)257:395−402に記載されている。この形質転換体は、マロン酸の不在下では、37℃でなお増殖し得ない;しかし、培地に1〜5mMのマロン酸を添加することによって、この形質転換体を、この温度で増殖させることが可能となる(このプラスミドの不在下では、マロン酸は、37℃で増殖を支持し得ない)。しかし、細胞外のマロン酸の濃度は重要である。なぜなら、40mMまでその濃度を増加させると、利用可能な補酵素Aの量と比較してマロニルCoAの過剰生成によって引き起こされる代謝的不均衡におそらく起因して、増殖の欠如を生じさせるからである。致死もまた、matABCオペロンを保有するプラスミドおよび高濃度のメチルマロン酸の存在下で、XL1−Blue(E.coliの野生型株)において誘導された。
【0102】
にもかかわらず、上記で示された結果は、matBによってコードされるタンパク質が、遊離マロン酸が利用可能である限りにおいて、生理的条件下でインビボにおいてマロニルCoAを生成し;そして、matCによってコードされるタンパク質によって細胞に輸送されたことを実証する。従って、matBC遺伝子を使用して、複雑なポリケチドをマロン酸の給餌によって生成するE.coli細胞中においてマロニルCoAの利用能を補充し得る。
【0103】
マロン酸をマロニルCoAに変換することに加えて、MatBはまた、メチルマロン酸をメチルマロニルCoAに変換することが示された。しかし、得られた産物の立体化学は報告されていない。このことは重要である。なぜなら、モジュール型ポリケチドシンターゼは、メチルマロニルCoAの1つの異性体(すなわち、2S−メチルマロニルCoA)のみを受容することが知られているからである(Marsden,A.F.ら,Science(1994)263:378−380)。MatBがメチルマロニルCoAの正確な異性体を作製し得るか否かを研究するために、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ融合物(GST−MatB)をコードする構築物を使用して、このタンパク質を生成した。An,J.H.ら,Biochem.J(1999)344:159−166を参照のこと。このGST−MatBタンパク質を、記載されたような標準的なプロトコールに従って精製し、そしてエリスロマイシンポリケチドシンターゼの(モジュール6+TE)と混合し、また、Gokhale,R.S.ら,Science(1999)284:482−485に記載されたようにしてE.coliにおいて発現させた。
【0104】
初期の研究において、本出願人は、インビトロで以下の反応を触媒する(モジュール6+TE)の能力を実証することによって、(モジュール6+TE)の活性を確証付けた。
【0105】
(2S,3R)−2−メチル−3−ヒドロキシペンタン酸のN−アセチルシステアミンチオエステル + 2(RS)−メチルマロニルCoA + NADPH → (2R,3S,4S,5R)−2,4−ジメチル−3,5−ジヒドロキシ−n−ヘプタン酸δ−ラクトン + NADP+。
【0106】
GST−MatBの基質としてメチルマロン酸を使用して得られるメチルマロン酸チオエステル生成物は、正確な立体化学を提供し、この反応において伸長因子単位の供給源として役立つ。より詳細には、インサイチュで上記のポリケチド合成の基質を生成するために、以下の反応混合液(6+TEおよびGST−MatBを含む)を、100mMのリン酸ナトリウム(pH7)緩衝液、1mMのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、2.5mMのジチオトレイトール(DTT)および20%グリセロールの反応緩衝液中で調製した:
40mM メチルマロン酸(pH6)
16.6mM MgCl2
5mM ATP
5mM CoASH
13.3mM NADPH
1mM (2S,3R)−2−メチル−3−ヒドロキシペンタン酸のN−アセチルシステアミンチオエステル(放射性形態で調製)。
【0107】
4時間後に、この反応をクエンチし、そしてエチルアセテートで抽出した(反応容量の3倍で2回抽出した)。サンプルを真空化で乾燥し、そして薄層クロマトグラフィー分析に供した。
【0108】
ポジティブコントロールを、初期に記載された条件(すなわち、(RS)−メチルマロニルCoAを、メチルマロン酸、MgCl2、ATP、CoA SH、およびGST−MatBの組み合わせと置換した条件)と同じ条件下で実行した。ネガティブコントロールは、GST−MatB融合タンパク質を除いて、上記に列挙されたすべての成分を含んだ。この結果によって、上記の二酵素系は、ポジティブコントロール反応に匹敵する量で、期待される生成物を生成し得ることが実証された。このことによって、MatBは、メチルマロニルCoAの正確な異性体を合成することが確証付けられた。
【0109】
従って、MatB/MatCは、ポリケチド生合成について、インビボでマロニルCoAおよび2S−メチルマロニルCoAの両方を合成するために有用である。これは、生理的条件下で、インビボで2S−メチルマロニルCoAを生成する能力を有するE.coliを操作した最初の実例である。さらに、インビボでmatAを同時発現させることは、メチルマロニルCoAのプロピオニルCoAへの変換を可能にし、それにより、この開始因子単位の利用可能な供給源を補充する。
【0110】
(実施例2)
(プロピオニルCoAカルボキシラーゼが、2S−メチルマロニルCoAを生成する能力)
上記のS.coelicolor由来のプロピオニルカルボキシラーゼ遺伝子を利用するために、E.coli発現宿主(BL−21(DE3))を、Hamilton,C.M.ら,J Bacteriol.(1989)171:4617−4622によって開発された方法を使用して調製した。この新たな株(BAP 1)は、E.coliのprpオペロンに組み込まれた、Bacillus subtilis由来のホスホパンテテイントランスフェラーゼ遺伝子(sfp遺伝子)を含む。T7プロモーターは、sfpの発現を駆動する。組換え手順において、prpE遺伝子をまた、このT7プロモーターの制御下に配置したが、残りのオペロンは取り除いた。この遺伝的変更は、理想的には、以下の3つの特徴を与える:1)DEBSおよび潜在的に他のポリケチドシンターゼ(PKS)の翻訳後改変のために必要とされるsfpタンパク質の発現;2)CoASHをプロピオネートに理論上連結し得る、推定プロピオニルCoAシンテターゼであるprpEの発現;および3)炭素/エネルギー源としてプロピオニルCoAをもはや代謝し得ない細胞環境。
【0111】
第1に、BAP1株は、sfp遺伝子生成物のその生成によって、これらの細胞において生成されるPKSのホスホパンテテイニル化(phosphopantetheinylation)をもたらし得ることが確証付けられた。BAP1を、モジュール6+TEについての発現系を含むプラスミドでトランスフェクトし、そして、生成されたモジュールの活性を、sfp遺伝子をプラスミド産生(plasmid borne)したBL−21(DE3)細胞において組換え生成されたモジュールの活性と比較した。これらのレベルは同等であった。対照的に、BL−21(DE3)において単独で発現された場合に、モジュール6+TEは活性を示さなかった。さらに、BAP1は、単独の炭素供給源としてのプロピオネート(BL21(DE3)のようなE.coli株によって適切に発現される)上では、増殖する能力がないことを確証付けた。BAP1は、MatBCおよびプロピオニルCoAカルボキシラーゼのような酵素と組み合わせて、ポリケチドシンターゼを異種発現させるために好ましい宿主である。
【0112】
プロピオニルCoAカルボキシラーゼ酵素を、T7プロモーターの下で、E.coliにおいて発現させた。この生成物酵素は、インビトロでモジュール6+TEの基質を供給し得る。このことは、プロピオニルCoAカルボキシラーゼ酵素のメチルマロニルCoAチオエステル生成物の、(2S,2R)2−メチル−3−ヒドロキシペンタン酸のN−アセチルシステアミンチオエステルへのカップリングを使用して実証された。プロピオニルCoAカルボキシラーゼの成分をコードする上記のpccBおよびaccA2遺伝子を発現させ、そして標準的な手順に従って、その生成物を個々に精製した。まず、pccBおよびaccA2のサブユニットを、150mMホスフェート(pH7)および300μgBSA中において、氷上で複合化させた。1時間後、以下の基質を100μl容量に対して添加し、そして30℃でさらに30分間インキュベートした:
1mM プロピオニルCoA
50mM 炭酸水素ナトリウム
3mM ATP
5mM MgCl2。
【0113】
次いで、モジュール6+TEに、以下の最終的な試薬セットを添加して200μlにし、そして30℃でさらに1時間反応させた:
10%グリセロール
1.25mM DTT
0.5mM EDTA
4mM NADPH
2mM (2S,2R)2−メチル−3−ヒドロキシペンタン酸のN−アセチルシステアミンチオエステル(放射性形態で調製)。
【0114】
この反応をクエンチし、そして上記のように抽出し、そして予期された生成物の形成を示した。ポジティブコントロールは、ラセミ体マロニルCoAを含んだ。ATPまたは炭酸水素ナトリウムのいずれかをこの反応から取り除いた場合には、生成物は全く形成されなかった。従って、プロピオニルCoAカルボキシラーゼは、ポリケチドシンターゼ活性に適切な基質を生成する。これは、特に上記で言及した新しい発現宿主BAP1との組み合わせにおいて、ポリケチド生成のために特に有用である。
【0115】
DEBSタンパク質であるDEBS1+TEは、pRSG32によって生成される。DEBS1は、3つのDEBSタンパク質の中で最も弱い発現を示し、そして近年まで、この酵素のインビトロ活性は示されていなかった。しかし、M9最少培地においてpRSG32を含むE.coliを増殖させ、そして22℃でタンパク質発現を誘導することによって、DEBS1+TE活性が、ここで再現可能に観察された。
【0116】
プラスミドpRSG32(DEBS1+TE)およびp132(プロピオニルCoAカルボキシラーゼのα成分およびβ成分を含むプラスミド)を、BAP1に同時トランスフェクトした。10mlのM9最少培地の培養物を、中程度対数期(mid−log phase)のレベルまで増殖させ、そしてIPTGでの誘導および0.267mM 14Cプロピオネートの添加のために、1mlまで濃縮した。次いで、このサンプルを12〜15時間にわたって22℃でインキュベートした。次いで、この培養物の上清を、分析用TLCのためにエチルアセテートで抽出した。予期されるポジティブコントロールとの生成物の泳動およびこの同一の生成物は、野生型BL−21(DE3)を使用するかまたはp132を取り除くかのいずれかの場合に検出不可能であった。従って、このカルボキシラーゼは、正確な立体異性体を形成する。
【0117】
さらに、pRSG32、p132およびpCY214(プロピオニルCoAカルボキシラーゼのαサブユニットへのビオチンの結合を補助するために、ビオチンリガーゼを含んだ)で形質転換されたBAP1を含むM9最少培地の100mlの培養物を、IPTGでの誘導および100mg/Lの 13Cプロピオネートの添加のために、中程度対数期まで増殖させた。ビオチン化サブユニット(pccA)の活性は、E.coliのbirAビオチンリガーゼ遺伝子の同時発現に際して、有意に増強され得た。この培養物上清の抽出およびこのサンプルの濃縮に際し、13C−NMRによって、予期される富化された生成物のピークの位置を確認した。BL−21(DE3)を使用した、引き続くネガティブコントロールは、同じスペクトルを生じなかった。E.coliがインビボで複雑なポリケチドを作製する能力を実証したことに加えて、これらの結果はまた、BAP1において発現するようにプログラムされたprpEタンパク質が活性であることを示唆している。
【0118】
あるいは、形質転換細胞をM9の最小の培地培養により、37℃で対数期中間まで増殖させ、続いて、22℃で、0.5〜1mMのIPTG、2.5g/Lのアラビノース、および、それぞれ、26mg/Lまたは250mg/Lの[1−14C]プロピオナートまたは[1−13C]プロピオナートで誘導した。14C−1−プロピオナート摂取に関しては、個々の形質転換株を、50μg/mlのカルベニシリン、25μg/mlのカナマイシン、および17μg/mlのクロラムフェニコールの存在下で、グルコースを含むM9の最小の培地培養中(37℃、250rpm)に播種した(Maniatis,Tら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual.1982)。培養物を、対数期中間(mid−log phase)(OD600=0.6〜0.8)まで増殖させ、22℃で5分間冷却し、次いで遠心した。この細胞ペレットを、1mlの残留上清に再懸濁し、そして1mMのIPTGおよび0.25%のアラビノース(pCY216について)によって誘導した。さらに、14C−1−プロピオナート(56mCi/mmol)を、0.27mMの最終濃度で加えた。次いで、この培養物をさらに12〜15時間22℃で攪拌した。この時点で、培養物を遠心し、100μlの上清を、酢酸エチル(各回 300μl)で抽出した(2回)。抽出物を、真空下で乾燥し、TLC分析に供した。ネガティブコントロールは、BAP1/pRSG32/pCY216およびBL21(DE3)/pRSG32/pTR132/pCY216を含んでいた。
【0119】
13C−1−プロピオナート摂取に関しては、BAP1/pRSG32/pTR132/pCY216の単一の形質転換株を用いて、100μg/mlのカルベニシリン、50μg/mlのカナマイシン、および34μg/mlのクロラムフェニコールを含む3mLのLB培養を、37℃、250rpmで開始した。この開始因子培養を、上記と同じ抗生物質濃度で、グルコースを含む100mLのM9最小培地に播種するために使用した。これらの培養物を、250rpmかつ37℃で、対数期中間(OD600=0.5〜0.7)まで増殖させ、22℃の水浴中で15分間冷却し、そして500μMのIPTGおよび0.25%のアラビノースによって誘導した。13C−1−プロピオナートを、100mg/Lで加えて、この培養物を22℃で12〜15時間インキュベートした。次いでこのサンプルを遠心し、その上清を、300mlの酢酸エチルで2回抽出した。このサンプルを真空下で乾燥し、CDCl3に再懸濁し、そして13C−NMRによって分析した。ネガティブコントロールは、BL21(DE3)/pRSG32/pTR132/pCY216を用いて行った。12〜48時間後、培養上清を抽出し、そして予想される、DEBS1+TEのトリケチドラクトン(図7、化合物2)産物形成について分析した。両方の摂取条件下でのトリケチドラクトンの形成は、BAP1がポリケチドを産生する能力を支持した。
【0120】
プラスミド pRSG32、pBP49、pRSG50の構築:DEBS1+TE(pRSG32)、DEBS2(pBP49)およびDEBS3(pRSG50)をコードする遺伝子を、pET21c(Novagen)中にクローニングした。DEBS1+TE遺伝子を、pCK12(6)由来のNdeI−EcoRIフラグメントとしてクローニングした。DEBS3遺伝子を、pJRJ10由来のNdeI−EcoRIフラグメントとしてクローニングした(Jacobsen,J.Rら、Biochemistry(1998)37:4928)。DEBS2遺伝子を発現させるために、pRSG34(Gokhale,R.Sら、Science(1999)284:482)由来のBsmI−EcoRIフラグメント(モジュール3+TEを発現させるために以前使用されていた)を、モジュール4をコードするBsmI−EcoRIフラグメントと置換した。天然の配列を以下の配列:
CGGGGGAGAGGACCTGAATTC
に変更することにより、このEcoRI部位(下線)を、DEBS2遺伝子の終止コドンのすぐ上流に操作した。
【0121】
最初の試みは、3つのDEBSタンパク質の各々をコードする遺伝子を発現させ、続いてタンパク質活性のインビトロアッセイを行うためになされたことに留意するべきである。DEBS3、DEBS2、およびDEBS1の改変体(DEBS1+TE)を、個別に、pET21c発現ベクター(pRSG56上にsfpホスホパンテテイニル(sfp phosphopantetheinyl)トランスフェラーゼ遺伝子を保持する)にクローニングし、E.coli BL21(DE3)に形質転換によって導入した(Kao,C.Mら、J.Am.Chem.Soc(1995)117:9105−9106,Cortes,Jら、Science(1995)268:1487−1489;Lambalot,R.Hら、Chemistry&Biology(1996)3:923−936;Gokhale,R.Sら、Science(1999)284:482−485)。3つのDEBS遺伝子の発現レベルを、初期に報告されたS.erythraea(Caffrey,Pら、FEBS Letters(1992)304:225−228)またはS.coelicolor(Pieper,Rら、Nature(1995)378:263−266)由来のそれらの発現レベルに匹敵することが見出された。個々の形質転換株を使用して、250rpmでかつ37℃で、100μg/mlのカルベニシリンおよび50μg/mlのカナマイシンを含む25mlのLB播種培養を開始した。これらの培養物を用いて、1LのLB培地に播種し、そしてその培養物を、同じ条件下で増殖させた。対数期中間(OD600=0.4〜0.8)で、細胞を1mMのIPTGで誘導し、そして30℃のインキュベーターに移した。4〜6時間後、細胞を回収し、それらのタンパク質含量を、7.5%のSDS−PAGEによって分析した。この3つのDEBSタンパク質を、約1%の細胞性タンパク質総量で発現させた。しかし、これらの溶解物において、DEBS3は活性であることが見出されたが、DEBS1+TEおよびDEBS2は、どんな検出可能な活性(DEBS1+TE(Pieper,R.,前出)も欠いており、そしてDEBS3を初期に記載されるようにアッセイした(Jacobsen,J.Rら、Biochemistry(1998)37:4928)。完全なDEBS2についてのアッセイはまだ開発されていないが、このタンパク質のモジュール3の活性は、初期に記載されるようにアッセイされ得る(Gokhale,R.S.,前出)。これらの結果と一致して、組み換えDEBS3を、初期に記載される手順を用いて、これらの溶解物から精製できた(Pohl,N.Lら、J.Am.Chem.Soc.(1998)120:11206−11207)が、DEBS1+TEもDEBS2も、検出可能な量では精製できなかった。インビトロ活性の検出ならびに続くDEBS1+TEおよびDEBS2の精製を容易にした重要なパラメータは、IPTG(イソプロピルチオ−β−D−ガラクトシド)誘導後のインキュベーション温度であった。発現温度を30℃から22℃に下げると、活性なDEBS1+TEタンパク質、DEBS2タンパク質およびDEBS3タンパク質は組み換えE.coli溶解物中で検出できた。この後、低温誘導条件を、本研究の過程全体に渡って維持した。
【0122】
E.coliでの巨大遺伝子およびタンパク質の良好な発現における低温の使用は、他の巨大遺伝子およびンパク質を、E.coliならびに他の生物において、本明細書中に示されるような低温を有利に用いることによって発現し得ることを示唆する。
【0123】
(実施例3)
(S.coelicolorにおける6−dEBの増強された産生)
matB遺伝子およびmatC遺伝子の存在(ベクターpCK7上へのDEBS遺伝子複合体の挿入によって、このポリケチドを産生するように組み換え的に改変された)はまた、S.coelicolorでの6−dEBの組み換え産生を増大し得た。matB遺伝子およびmatC遺伝子を、DEBS遺伝子を保持するプラスミドの効力によって、50mg/Lの6−デオキシエリスロノリド(deoxyerythronolide)Bを産生するStreptomyces coelicolorの組み換え株において発現させた。このmatB遺伝子およびmatC遺伝子を、pCK7上のDEBS遺伝子のすぐ下流に挿入した。
【0124】
より詳細には、matBC遺伝子の供給源は、matBC遺伝子を保持するpMA TOP2由来の5kbのBglII/HindIIIフラグメントを含むPCR−Blunt(Invitrogen)の誘導体である、pFL482である。matBC遺伝子を含むpFL482のNsiIフラグメントを、DEBS遺伝子と同方向に、pCK7の独特なNsiI部位にクローニングして、pFL494を得た。プラスミドpFL494をS.coelicolor CH999中に形質転換する際に、マクロライド力価の100〜300%の増加を、外因性のメチルマロネート(methylmalonate)(0.1〜1g/L)の存在下で得た。
【0125】
プラスミドpCK7またはプラスミドpFL494を用いるかまたは用いない、S.coelicolor CH999の培養は、ビス−トリス プロパン緩衝剤(28.2g/L)を補充したR6培地(103g/Lのスクロース;0.25g/LのK2SO4;10.12g/LのMgCl2・6H2O;0.96g/Lのプロピオン酸ナトリウム;0.1g/Lのカザミノ酸(Difco);2mL/Lの痕跡元素溶液;5g/Lの酵母抽出物(Fisher);pH7)を用いてフラスコで増殖した。痕跡元素溶液は、40mg/LのZnCl2;200mg/LのFeCl3・6H2O;10mg/LのCuCl2・2H2O;10mg/LのMnCl2・4H2O;10mg/LのNa2B4O7・1OH2O;(NH4)6Mo7O24・4H2Oを含んでいた。全ての培地に、50mg/Lのチオストレプトン(thiostrepton)(Calbiochem)を加え、プラスミド含有細胞を選択し、そしてフォームのコントロールとして、5mL/LのAntifoam B(JT Baker)を加えた。チオストレプトンを培養物に添加する前にDMSOに溶解し、1Lの培地につき約1mLの最終DMSO濃度を生じた。
【0126】
発酵のための種培養物を、50mLの培地の播種によって調製し、続いて、240rpmでかつ30℃で、250mLのバッフル付きフラスコ(baffled flask)(Bellco)中で2日間増殖させた。次いで、これらの播種培養物を用いて、1g/Lのメチルマロネートの存在または非存在下で、250mLのバッフル付きフラスコ中で5%の最終容量で、50mLの培地に播種した。フラスコ培養全てを2つ組で行い、毎日サンプル採取した。実験全てを一度繰り返し、バッチ間の結果の再現性を確実にした。
【0127】
Alltec500蒸発光散乱検出器を装備したHewlett−Packard1090HPLCを用いて、6−dEBおよび8,8a−デオキシオレアンドリド(deoxyoleandolide)の定量化を行った。HPLCサンプルを最初に5分間12,000×gで遠心し、不溶性物を除去した。上清(20μL)を4.6×10mmカラム(Inertsil,C18 ODS3,5μm)にアプライし、水(1ml/分で2分間)で洗浄し、そして最後に主要カラム(4.6×50mm、同じ固定層および同じ流速)上に、100%の水で開始し100%のアセトニトリル終わるように6分の勾配で溶出した。次いで、100%のアセトニトリルを1分間維持した。これらの条件下で、6−dEBを6.2分で、そして8,8a−デオキシオレアンドリドを5.8分で溶出した。発酵ブロスから精製した6−dEBからスタンダードを調製した。定量化誤差を、±10%に見積もった。
【0128】
上記のように、pCK7またはpFL494のいずれかを含むS.coelicolor CH999を、それらの6−dEBおよび8,8a−デオキシオレアンドリドの産生力について比較した。
【0129】
結果は以下に示す:
1.細胞密度は、両方の株について、実質的に同じであった。
【0130】
2.6−dEBおよび8,8a−デオキシオレアンドリドの両方の産生は、6日後の最終力価としてmg/リットル/時間について測定しようと、またはmg/リットルについて測定しようと、CH999/pCK7と比較して、CH999/pFL494において劇的に増大した。(プロピオニルCoAではなくアセチルCoAを開始単位として使用しているため、12位のエチルの代わりにメチルを含む点を除いては、8,8a−デオキシオレアンドリドは、6−dEBと同じである。)より詳細には、6日後、CH999/pFL494とメチルマロン酸は、180mg/lの6−dEBおよび約90mg/lの8,8a−デオキシオレアンドリドを産生した。メチルマロン酸を培地に添加しなかった場合、6−dEBは、130mg/lのレベルで産生されたが、8,8a−デオキシオレアンドリドは、約40mg/lで産生された。pCK7を含むように改変されたCH999について、培地中でのメチルマロン酸の存在下において、たった60mg/lの6−dEBしか、約20mg/lの8,8a−デオキシオレアンドリドと共に形成されなかった。メチルマロン酸なしでは、これらの細胞は、僅かに少しの、各々のこれらのマクロライドを産生した。
【0131】
3.CH999/pFL494は、6日目までに1g/Lで供給されたメチルマロネートを完全に消費した。
【0132】
4.1g/Lのメチルマロネートの消費は、結果として、200m/Lのマクロライドの蓄積的増加を生じ、メチルマロネートの産物への35%の変換効率を示す。
【0133】
5.CH999/pFL494は、外因性のメチルマロネートの非存在下でさえ、両方のマクロライドの改善された産生を示す(上記2を参照のこと)。
【0134】
6.CH999/pCK7でさえ、外因性のメチルマロネートを加えた場合、6−dEB産生において20%の改善を示した(上記2を参照のこと)。
【0135】
天然および異種の宿主での既知のポリケチドの生産力の増大に加え、MatBをまた使用して、新規のポリケチドを産生する。ポリケチド生合成のためのα−カルボキシル化CoAチオエステルビルディングブロックを産生する他の酵素(例えば、メチルマロニル−CoAムターゼ(スクシニル−CoAに対して高度の特異性を有する)、およびアセチル/プロピオニル−CoAカルボキシラーゼ(アセチル−CoAおよび/またはプロピオニル−CoAを好む))と対照的に、MatBは、広範囲の基質に対して活性である。マロネートおよびメチルマロネートに加え、MatBは、基質(例えば、エチルマロネート、ジメチルマロネート、イソプロピルマロネート、プロピルマロネート、アリルマロネート、シクロプロピルマロネート、およびシクロブチルマロネート)を、それらの対応するCoAチオエステルに活性化し得る。
【0136】
これらの基質のポリケチド合成への取り込みは、非天然の基質を受容し得るように、ポリケチドシンターゼの適切なモジュールへと操作され得る適切なアシルトランスフェラーゼ(AT)を必要とする。CH999/pFL494に与えられた場合、これらのいずれのジカルボン酸も、検出可能な量の新規化合物を生じないが、特定のPKS酵素は、天然に、オルソゴナルな基質特異性を有するATドメインを有する。例えば、FK506PKSは、通常、マロニル−CoAまたはメチルマロニル−CoAの様な基質よりも、かさ高い基質(例えば、プロピルマロニル−CoA)を取り込む、アシルトランスフェラーゼドメインを含み、従って、どんなPKSも操作することなく、MatBが生成した非天然ビルディングブロックを受容し得る。
【0137】
Lau,Jら、Biochemistry(1999)38:1643−1651によって記載されるタンパク質操作戦略を用いて、pFL494におけるDEBSのモジュール6のATドメインを、エチルマロニル−CoAを取り込むニッダマイシン(niddamycin)AT4ドメイン由来の特異性決定セグメントを含むように改変した。Kakavas,S.Jら、J.Bacteriol(1997)179:7515−7522を参照のこと。この結果生じたpFL508をCH999に形質転換した。この株にエチルマロネートを供給する際、質量分析により、6dEBの質量分析に匹敵するレベルで、2−エチル−6dEBに相当する産物を検出することができた。この新しい化合物は、エチルマロネートの非存在下またはmatBC遺伝子を欠くコントロール株においては検出不可能であった。
【0138】
(実施例4)
(E.coliでの6−dEBの産生)
本発明者等は、機能性のPKS(パンテテイニルトランスフェラーゼ)を発現する能力、ならびに開始単位および伸長単位を生じるための1つより多くの経路をプログラムされた場合に、複雑で完全なポリケチドを産生するE.coliの能力を実証した。Novagenから入手したE.coli株BL−21(DE)を、Bacillus subtilis由来のホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ遺伝子(sfp遺伝子)をファージT7プロモーターの制御下で染色体中に挿入することにより、prpオペロンのprpA〜D部分を欠失することにより、またそれによりT7プロモーターの制御下でprpE座位(プロピオニルCoAシンテターゼをコードする)を配置することにより、遺伝的に改変した。次いで、この遺伝的に改変された株を、T7プロモーターの制御下でもDEBS1タンパク質、DEBS2タンパク質、およびDEBS3タンパク質をコードする3つの遺伝子についての発現系を、ならびにプロピオニルCoAカルボキシラーゼをコードする遺伝子およびビオチンリガーゼ(プロピオニルCoAカルボキシラーゼ酵素の活性化に必須である)をコードする遺伝子を含むように改変した。生じたE.coliは、6−dEBについての完全なシンターゼ、このPKSの活性化に必須のホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ、プロピオニルCoAからメチルマロニルCoAを提供するプロピオニルCoAカルボキシラーゼ酵素を含み、そして外因性のプロピオナートをプロピオニルCoAに変換し得る内因性のプロピオニルCoAシンターゼを産生するための誘導手段を含む。さらに、プロピオナートの異化作用に対する内因性の系を解除した。
【0139】
従って、E.coliに、誘導性プロモーターの制御下で開始単位および伸長単位の両方の合成のための酵素を提供し、開始単位および伸長単位のプロピオナート前駆体の破壊についての内因性機構が解除され;そして発現系(誘導プロモーターの下でも)に、PKSタンパク質の活性化のための酵素の発現系と共に必須のPKSタンパク質を提供された。
【0140】
より詳細には、遺伝的に改変されたBL−21(DE3)株を、Hamiltonら、J.Bacteriol(1989)171:4617−4622(本明細書中で参考として援用される)に記載の手順に従って調製した。この刊行物中に記載されるpMAK705の誘導体を調製した。誘導されたベクターにおいて、sfp遺伝子に連結したT7プロモーターを、prpオペロンのA座位の上流の配列に同一な1,000塩基対配列およびこのオペロンのE座位の下流の配列に同一な1,000塩基対配列によって挟んだ。sfp遺伝子は、pUC8−sfp(Nakanoら、Mol.Gen.Genet.(1992)232:313−321によって記載されるプラスミド)から入手した。生じた統合された配列は、prp座位A〜Dを欠失し、そしてその場所にsfp遺伝子を制御するT7プロモーターを挿入し、そしてさらにT7プロモータの制御下でのprpE座位の置換を生じた。本明細書中で示唆されるように、2つの理由でsfp遺伝子挿入のためにこの部位を選択した。第1に、prpオペロンは、E.coliにおける、プロピオネート異化作用の原因であると推定される(Horswill,A.R.,およびEscalante−Semerena,J.C.,J.Bacteriol.(1999)181:5615−5623)。プロピオナートは、6dEB生合成(以下を参照のこと)についての炭素ビルディングブロックの唯一の供給源であると意図され、同時に起こる、プロピオナートの異化作用および同化作用は好ましくないと考えられた。sfp統合の過程においてprpRBCDを欠失させることによって、BAP1がプロピオナートを炭素およびエネルギーの供給源として利用する能力を排除した。第2に、sfp遺伝子と一緒にして、BAP1中のprpE遺伝子をIPTG誘導性プロモーター(例えば、T7プロモーター)の制御下でまた配置した。prpEは、プロピオナートをプロピオニル−CoAに変換すると考えられ(Horswill,A.R.,およびEscalante−Semerena,J.C.,Microbiology(1999)145:1381−1388);従って、外因性プロピオナートの存在下で、DEBSが活性化形態で発現されると同時に、プロピオニル−CoAが細胞内に蓄積されると予想され得る。しかし、産生株においてprpRBCDを欠くことは所望されないかもしれないことが認められる。あるいは、いくつかの株において、いくつかのprpRBCD遺伝子のみを不活性化することが所望され得る。このT7プロモーターは、IPTGによって誘導可能である。
【0141】
次いで、結果的に生じた遺伝的に変更された宿主(BAP1と表わす)を、異なる抗生物質耐性についてそれぞれ選択可能な3つのプラスミドをトランスフェクトした。これらのプラスミドは、以下の通りである:
pBP130は、Novagenから入手したpET21(carbR)由来であり、T7プロモーターの制御下のDEBS2遺伝子およびDEBS3遺伝子を含むように改変される。
【0142】
pBP144は、Novagenからまた入手可能なpET28(kanR)の改変された形態であり、またT7プロモーターの制御下のpccおよびDEBS1遺伝子を含む。
【0143】
pCY214(cmR)は、araプロモーター下のE.coli birA(ビオチンリガーゼ)遺伝子を含み、そしてChapman−Smithら、Biochem.J.(1994)302:881−887に記載される。このプラスミドは、Dr.Hugo Gramajoからただで入手した。PCCタンパク質およびpcc遺伝子は、Rodriguezら、Microbiol.(1999)145:3109−3119に記載される。
【0144】
プラスミドpBP130、プラスミドpBP144の構築:発現ベクターpET21cおよび発現ベクターpET28aを、最初に、Bpu1102I部位、NsiI部位、PstI部位、PacI部位、およびDraIII部位を有するポリリンカーで、これらのベクターのBpu1102I−DraIIIフラグメントを、置換することにより再操作した。pBP49由来のDEBS2遺伝子およびpRSG50由来のDEBS3遺伝子を、pET21c誘導体中のNdeI−EcoRI部位間およびNsiI−PacI部位間にそれぞれクローニングし、pBP130(25.5kb)を生じた。従って、pBP130は、DEBS2遺伝子およびDEBS3遺伝子を同じT7プロモーターのの制御下で発現し得る。同様に、pBP144(20kb)を、pTR132由来のpccAB遺伝子(Rodriguez,E.,およびGramajo,H.,Microbiology(1999)145:3109−3119)およびDEBS1遺伝子を、それぞれ、NdeI−EcoRI部位およびPstI−PacI部位に挿入することによって、上記pET28a誘導体から構築した。このDEBS1遺伝子は、SpeI−EcoRIフラグメントを、以下のオリゴヌクレオチドを用いて天然のDEBS1遺伝子の3’末端から増幅させたフラグメントと置換することにより、pRSG32から誘導される:5’オリゴヌクレオチド:TTACTAGTGAGCTCGGCACCGAGGTCCGGGG;3’オリゴヌクレオチド:TTGAATTCGGATCGCCGTCGAGCTCCCGGCCGA。従って、pBP144は、pccAB遺伝子およびDEBS1遺伝子を、それぞれ、それ自身のpT7プロモーターの制御下で発現する。
【0145】
6−dEBの産生について、pBP130、pBP144、およびpCY214で形質転換したBAP1細胞を、適切な抗生物質を含むM9の最小培地中で増殖させた。この培養物を、対数期中間まで増殖させ、続いてIPTGおよびアラビノースで誘導し、同時に250mg/Lの13C−1−プロピオナートを加えた。誘導培養物を22℃で12〜24時間増殖させた。(最小培地および低温の両方が、DEBS遺伝子発現に有益であることが見出された。このプロトコルは、6−dEBの増殖関連産生を可能にした。なぜなら、グルコースが、炭素およびエネルギーの供給源を全体的な代謝のために提供し、一方、プロピオナートが6−dEBに変換されるからである。)
12〜24時間後、培養上清を酢酸エチルで抽出した。その有機相を真空下で乾燥し、そして13C−NMR分析のためにCDCl3に再溶解した。付随のスペクトルは、6−dEBが主要な13C−標識産物であることを示した。120〜140ppmの範囲にピークを有する他の主要な13C−標識化合物は、13C−3−プロピオナートを13C−1−プロピオナートの代わりに用いた別個の実験によって確認されるように、プロピオナート取り込み由来ではない。6−dEBに対応するピークの強度から、外因性プロピオナートの少なくとも75%が、6−dEBに変換されたことが推測される。このことは、発酵の最後における培養培養物の13C NMRスペクトルからのプロピオナートのシグナルの消失と一致した。ネガティブコントロール株(pBP130またはpBP144のいずれかを欠いている)は、検出可能な量の6−dEBを生じなかった。
【0146】
前述の実験を低い細胞密度(0.5〜2.5の範囲のOD600)で行った;E.coliで組み換え産物を合成する主要な利点は、この細菌が、特定の触媒活性を大幅に減少することなく、非常に高い細胞密度(100〜200のOD600)まで増殖し得ることである。
【0147】
ネイティブでない発現系における、matB遺伝子およびmatC遺伝子または他の生物由来のそれらのホモログのいずれかの使用は、任意の微生物宿主中での任意のα−カルボキシル化CoAチオエステルのインビボ産生のための遺伝的戦略として有用である。このようなCoAチオエステルのインビボ産生は、天然のポリケチドの生産性を増大するか、または新規のポリケチドを産生することを意図し得る。このmatA遺伝子はまた、基質(例えば、アセチル−CoAおよびプロピオニル−CoA)のインビボレベルを補足するために有用である。精製されたMatBはまた、ポリケチドの調整用インビトロ産生に使用される。なぜなら、このような無細胞合成系において、CoAチオエステルは、最も高価な成分であるからである。
【0148】
(実施例5)
(ジケチドの取り込み)
実施例4に記載されるBAP1 E.coli宿主生物を、PCCAおよびBサブユニットに関する発現系を含むp132およびDEBS3のモジュール6+TEに関するpRSG36を用いてトランスフェクションした。トランスフェクション培養物を、両方のプラスミドに対する最小選択培地で増殖し、次いで14C標識ジケチドを与えた。プロピオネートで誘導されそして提供される場合、14C標識ジケチドを得た。
【0149】
あるいは、3つのDEBS遺伝子およびpcc遺伝子の全てを共発現するために、ベクターpET21cおよびpET28a(Novagen)を、それぞれ2つおよび3つの遺伝子を発現するように改変した(プラスミドpBP130およびpBP144の構築を、実施例4に記載した)。個々に試験した場合、タンパク質生産を、両方のプラスミドに局在される各々の遺伝子について観察した。BAP1を、birAプラスミドと共に、これらのプラスミドを用いて形質転換した。個々の形質転換株を[1−13C]−プロピオネートを用いてDEBS1+TE(上記)に対する実験と同様に、培養し、誘導し、そして分析した。粗有機抽出物のNMR分析は、これらの組換え細胞の主要なプロピオネート誘導代謝産物として6dEBを示した。この産物を、後にHPLCによって精製し、そして質量分析に供し、予測した質量の主要なピークを得た。プラスミドpBP130、pBP144およびpCY216を、前記のようにBAP1へと形質転換した。培養条件は、上記実施例2に記載された250mg/Lでの13C−1−プロピオネート供給に対して記載された条件と同一であった。培養物を、規則正しく3日間にわたってサンプリングした。サンプルを遠心分離し、この上清(2μLまたは20μLのいずれか)を、初期4.6×10mmカラム(Inertsil,C18 ODS3,5μm)を用いてHewlett−Packard 1090 HPLCにロードし、水(1ml/分で2分間)で洗浄し、次いで主要4.6×50mmカラム(同一定常相および同一流速で)上にロードした。次いで、6分の勾配を適用した(100%の水で開始し、そして100%アセトニトリルで終了し、さらに1分間維持)。サンプルをAlltech蒸発光散乱検出システム(ELSD500)を用いて分析し、そして6.4分の保持時間におけるピークを、質量分析によってヘプタ−13C標識6dEBとして確認した(MWobs=393)。産物の濃度を、同一検出スキームを用いて標準6−dEBサンプルとの比較において測定した。インキュベーション期間の最後に、全体の培養上清を、以前に述べたように酢酸エチルを用いて抽出し、乾燥し、そして13C−NMRによって分析した。さらに、最終細胞ペレットを、SDS−PAGEを介して分析し、3つのDEBSタンパク質およびPCCの存在を確認した。誘導して12時間後および48時間後における観察されたタンパク質の発現レベルの間に違いはなかった。BAP1/pBP130/pBP144/pCY216中のそれぞれのプラスミドの安定性をまた、誘導して12時間後および36時間後に試験した。pBP144の損失を、いずれの時間点においても観察しなかったが、pBP130およびpCY216は、それぞれ12時間および36時間においてコロニーの50%および35%を維持した。いずれのプラスミドの再配置も、複数再形質転換コロニーの制限分析基づいて、いずれの時間点においても検出しなかった。13C−NMR実験に対するネガティブなコントロールは、BAP1/pBP130/pCY216、BAP1/pBP144/pCY216およびBAP1/pBP130/pBP160/pCY216を含んだ。(プラスミドpBP160は、モジュール1においてKSドメインの活性部位におけるC−>Aヌル変異を有する)(Kao, C.ら、Biochemistry(1996)35:12363)。この新規のポリケチド細胞系の生産性を定量するために、培養サンプルを周期的に取り、6−dEBの濃度を測定した(図9)。このデータから、この細胞触媒の特定の生産性は、0.1mmol 6dEB/g細胞タンパク質/日であることが計算され得る。これは、野生型S.erythraeaよりかなり優れており、そしてランダムな変異誘発に基づく方向付けられた株改良の長年のプログラムの結果として、エリスロマイシンを過剰生産する産業上関連性株に十分に匹敵する(0.2mmolエリスロマイシン/g細胞タンパク質/日)(Minas,W.,ら、Biotechnol Prog.(1998)14:561)。
【0150】
(実施例6)
(A−Tローディングジドメインの構成、発現および精製)
A−Tローディングジドメインは、RifAのN−末端に天然に存在する。このジドメインを生化学的に研究するために、RifAタンパク質の前後から除去した。従って、単離されたA−Tジドメインをコードする配列を、以下により詳述されるように、RifAの転写性開始部位を操作したNdeI制限部位、およびコンセンサスなTドメインのC末端とモジュール1のコンセンサスなケトシンターゼドメインのN末端との間のリンカー領域に導入されたNotI制限部位を用いて、発現ベクター中にサブクローニングした。チオール化ドメインは、活性である保存されたセリンに対するCoAの4’−ホスホパンテテイン部分の共有結合を必要とする(Walsh,C.T.,ら、Curr.Opin.Chem.Biol.(1997)1:309−315)。従って、B.subtilis由来のSfpホスホパンテテニルトランスフェラーゼ(これは、多くの異種組換えタンパク質のapo形態をholo形態に転換し得る)を、holo酵素調製物中でA−Tジドメインと共に共発現した(Lambalot,R.H.,ら、Chem.Biol.(1996)3:923−936;Quadri,L.E.N.,ら、Biochemistry(1998)37:1585−1595)。A−Tジドメインのapo形態およびholo形態を、C−末端ヘキサヒスチジンタグ化融合タンパク質としてE.coli中で生産し、そしてより完全に以下に記載されるようにニッケルアフィニティークロマトグラフィーによって>98%均一になるまで精製した。精製した組換えapo A−Tジドメインおよびholo A−Tジドメイン(プラスミドpSA8にとってコードされる)を、E.coli中で過剰生産し、そしてタンパク質サンプルを、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)(4−15%、Bio−Rad)によって分離し、SimplyBlue Safestain (Invitrogen)を用いて染色した。apo A−Tジドメインおよびholo A−Tジドメインのそれぞれは、75kDの分子量マーカーよりも小さい分子量を有した。holo A−Tジドメインは、apo A−Tジドメインの分子量よりわずかに高い分子量を有した。
【0151】
(材料)
[7−14C]−安息香酸(57mCi/mmol)および[7−14C]−3−ヒドロキシ安息香酸(55mCi/mmol)を、American Radiolabeled Chemicalsから得た。全ての他の置換された安息香酸、フェニル酢酸、および3−ヒドロキシフェニル酢酸を、非ラベル形態でAldrichから得た。ATP、CoAおよびベンゾイル−CoAを、Sigma Chemical Companyから入手した。AHBを以前に公開されたプロトコルに従って合成した(Ghisalba,O.,ら、J Antibiot.(1981)34:64−71)。制限酵素は、New England Biolabs由来である。
【0152】
(DNAおよび株の操作)
DNA操作を、標準培養条件を用いてE.coli XL1 Blue(Stratagene)中で行った。Sambrook,J.,ら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版,(1989)Cold Spring Harbor Laboratory Press,Plainview,NY。ポリメラーゼ連鎖反応を、Pfuポリメラーゼ(Stratagene)を用いて、製造者によって推奨されるように行った。
【0153】
(A−Tジドメインに対する発現ベクターの濃度)
NdeI制限部位を、プライマー(
【0154】
【化1】
)を用いてrifA遺伝子の開始コドンにて操作した(変異された塩基を太字で示し、そして導入されたNde I制限部位に下線を引く);増幅した2.5kbのフラグメントを、直線化されたpCR−Script(Stratagene)に連結し、pHu29を生産した。次いで、開始コドンに操作されたNdeI制限部位を有するrifA遺伝子を、pHu29、pHu35、pHu50、およびpHu51を介してpHu90−1(pRM50の誘導体)(McDaniel,R.,ら(1993)Science 262,1546−1550)中で再構築した。PacIおよびPstIに対するフランキング制限部位を使用して、pHu90−1からpuC18誘導体中へ、ローディングジドメインおよびモジュール1の一部をコードする配列を転移し、pSA2を生産した。ローディングジドメインおよびモジュール1を、約20アミノ酸リンカー領域によって分割し、ローディングジドメインのコンセンサスなTドメインのC−末端およびモジュール1(GenBank 登録番号AF040570)のコンセンサスなケトシンターゼドメインのN−末端によって描写した。モジュール1からローディングジドメインを単離するために、NotI制限部位をプライマー(
【0155】
【化2】
)を用いてリンカー配列に導入した(変異された塩基を太字で示し、そして導入されたNot I制限部位に下線を引く);得られた0.94kbのフラグメントは、リンカー領域中のローディングジドメイン内でコードする。この増幅されたフラグメントを、直線化されたpCR−Blunt(Invitrogen)に連結し、pSA4を生産し、次いで、これはBamHIおよびPstIを用いて消化され、そして同じ酵素で消化されたpSA2に連結し、pSA6を生産した。pSA6から誘導された1.9kb NdeI−NotIフラグメントを、NdeI−NotI消化されたpEC21c(Novagen)に連結し、pSA8(C末端に付加されたヘキサヒスチジンを有するローディングジドメインに対する発現ベクター)を生産した。
【0156】
(A−Tジドメインの発現および精製)
プラスミドpSA8を、apoA−Tジドメインの発現のために、E.coli BL21(Stratagene)への形質転換を介して導入した。BL21/pSA8の1リットルの培養物を、100μg/mLのカルベニシリンを追加したLB培地を含む2Lフラスコ中で37℃にて増殖した。A−Tジドメインの発現を、600nmの光学密度0.7にて100μMIPTGを用いて誘導した。誘導後、インキュベーションを30℃にて6時間続けた。次いで、細胞を、2500×gの遠心分離によって回収し、そして崩壊緩衝液[200mMリン酸ナトリウム(pH7.2)、200mM 塩化ナトリウム、2.5mM DTT、2.5mM EDTA、1.5mMベンズアミジン(benzamidine)、ペプスタチン(2mg/L)、ロイペプチン(2mg/L)および30%v/vグリセロール]に再懸濁した。
【0157】
全ての精製手順を、4℃にて行った。再懸濁細胞を、13,000psiにてフレンチプレスに、2回の通して破壊し、この溶解物を40,000×gで遠心分離によって回収した。核酸を、ポリエチレンイミン(0.15%)を用いて沈殿し、そして遠心分離を介して除去した。この上清を、硫酸アンモニウムで45%(w/v)飽和にし、そして一晩沈殿した。遠心分離後、タンパク質を含むペレットを50mMトリス(ヒドロキシルメチル)アミノメタン塩酸塩(Tris−HCl)(pH8)、300mM塩化ナトリウム、10mMイミダゾールおよび10%v/vグリセロール中に再溶解した。この溶液を、先に平衡化したニッケルニトリロ三酢酸(Ni−NTA)カラム(2mL、Qiagen)にロードした。このカラムを、50mM Tris−HCl(pH8)、300mM塩化ナトリウムおよび10%v/vグリセロール中の20mMイミダゾールで洗浄し、そしてA−Tジドメインを同じ溶液中の100mMイミダゾールで溶出した。A−Tジドメインを含むプールした画分を、ゲル濾過(PD−10、Pharmacia)によって100mM塩化ナトリウム(pH7.2)、2.5mM DTT、2mM EDTAおよび20%v/vグリセロールへと緩衝液交換し、そしてCentriprep−50濃縮器(Amicon)を用いて濃縮した。この精製されたタンパク質を、液体窒素中で瞬間凍結し、そして−80℃で貯蔵した。タンパク質濃度を、280nm:49500M−1cm−1にて計算された吸光係数を用いて測定した(Gill,S.C.,ら(1989)Anal.Biochem.182,319−326)。代表的に1L培養物は、約30mgの精製されたタンパク質を生産した。
【0158】
holoA−Tジドメインの発現について、プラスミドpSA8を、プラスミドpRSG56を含むBL21に形質転換し(Gokhale,R.S.,ら(1999)Science 284,482−485)、このプラスミドpRSG56は、カナマイシン耐性遺伝子およびsfp遺伝子を保有した。sfp遺伝子は、Sfp(これは、holoタンパク質へとapoタンパク質を変換するB.subtilis由来の非特異的ホスホパンテテニルトランスフェラーゼである)を発現する(Lambalot,R.H.,ら(1996)Chem.Biol.3,923−936;Quadri,L.E.N.,ら(1998)Biochemistry 37,1585−1595)。この組換えE.coli株の1リットルの培養物を、100μg/mLカルベニシリンおよび50μg/mLカナマイシンを追加したLB培地を含む2Lフラスコ中で37℃で増殖した。holoA−Tジドメインについての発現工程および精製工程を、apoA−Tジドメインに関して上記のように行った。
【0159】
(実施例7)
(A−Tジドメインの機構を決定するためのA−Tジドメインの放射活性標識)
A−Tジドメイン中へのBまたは3−HBの取り込みを定性的に評価するために、反応系は、5μMのapoA−TジドメインまたはholoA−Tジドメイン、50mMリン酸ナトリウム(pH7.2)、1mM DTT、1mM EDTA、15mM MgCl2、10%グリセロールおよび100μM[7−14C]−Bまたは[7−14C]HBを含んだ。ATPを含めた反応系において、5mMが存在した。30℃30分間のインキュベーション後、反応系を、SDS−PAGEサンプル緩衝液でクエンチし、そして4%〜15%勾配ゲル(Bio−Rad)で電気泳動した。このゲルを、クマシーブルーを用いて単時間染色し、脱色し(destin)、乾燥し、そしてオートラジオグラフにかけた。
【0160】
図2中で描写されるように、A−Tジドメインの機構に対する両方のモデルは、Aドメインによってアリール−アデニレートとしてAHBの活性化、次いで、Tドメインのホスホパンテテインコファクターのチオール求核基によって、アリール−CoA(図2A)またはアリール−アデニレート(図2B)のいずれかの攻撃からの共有結合アリールチオエステル酵素中間体の最終的な形成に関する。これらの可能な機構を研究するために、本発明者らはA−Tジドメインの共有結合性ロードを研究した。AHBは放射標識形態において利用可能でなかったが、インビボでの供給実験は、RifAがまた3−HBによって刺激され得ることを示している(Hunziker,D.,ら、J Am.Chem.Soc.(1998)120:1092−1093)。[14C]−3−HBまたは推定基質[14C]−ベンゾエート(B)、およびapoA−TジドメインまたはholoA−Tジドメインを含む反応系を、Mg・ATPの存在下または非存在下でインキュベートし、引き続いて以下に詳細に記載されるようにSDS−PAGEオートラジオグラフィー(図4)によって分析した。ホスホパンテテインコファクターを欠損していると、apoA−Tジドメインは、共有結合的にロードされ得ない(レーン1)。しかしholo A−Tジドメインは、Mg・ATPを必要とする反応系(レーン2〜5)において、Bおよび3−HBの両方と共に共有結合的にロードされる。
【0161】
CoAは、上記の標識反応系において含まれず、これはholoA−Tジドメインの共有結合性ロードを必要としないことを示唆する。ローディングジドメインは、CoAリガーゼ(図2A)であると提唱されている(Schupp,T.,ら、FEMS Microbiol.Lett.(1998)159:201−207;August,P.R.,ら、Chem.Biol.(1998)5:69−79;Ghisalba,O.,ら、J Antibiot.(1981)34:64−71)ので、本発明者らは、やはりCoAの可能な関与を直試験した。
【0162】
HPLCを使用して、以下の手順に従って可能なベンゾイル−CoA形成を検出した。反応系は、10μM apoA−Tジドメイン、50mMリン酸ナトリウム(pH7.2)、1mM DTT、1mM EDTA、15mM MgCl2、5mM ATP、10%グリセロール1mM CoAおよび1mM Bを含んだ。ベンゾイルCoAが含まれる反応系において、100μMが存在する。30℃で示された時間のインキュベート後、20μLのサンプルを、C18逆相カラム(VYDAC、250×5mm)、254nmでモニタリングする検出器を備えたHPLCに注入した。緩衝液A(25mMリン酸カリウム、pH5.4)と緩衝液B(100%アセトニトリル)との間で0%から50%Bまで直線勾配を、14分にわたって行った(1mL/分の流速)。この基質および推定の生産物ピークを、標準物質を用いた共注入によって同定した。
【0163】
図2Aにおいて示される機構が作用する場合、apoA−Tジドメインはベンゾイル−CoAを生産し得るはずである。しかし、apoA−TジドメインをATP、BおよびCoAと共にインキュベートした場合、ベンゾイル−CoA形成を、検出することができなかった(図4、−ベンゾイル−CoA追跡)。ベンゾイル−CoAが、形成される場合は、これらの反応条件において維持されることを確認するために、ベンゾイル−CoAを他の同一反応に添加した(図4、+ベンゾイル−CoA追跡)。ベンゾイル−CoAは、約0.002/分の観察された速度定数で分解され、そして同じ観察された速度定数がapoA−Tジドメインを除外する反応系に関して得られる(データは示さない)ので、この分解は酵素依存性である;この遅い非酵素的分解を、以下のkcat分析に考慮した。
【0164】
5μMベンゾイル−CoAの蓄積は、このHPLC分析を用いて容易に検出可能である。この保存的検出限界は、以下のように、apoA−Tジドメインによって、ベンゾイル−CoAの形成についてのkcatの上限がに計算されることを可能にする。5μMのベンゾイル−CoAの蓄積は、最大10μMベンゾイル−CoAが300分の反応の間に形成されることを示す(ベンゾイルCoAの半減期はこれらの条件下で約300分である(t1/2=ln2/kobs;kobs約0.002/分)。従って、ベンゾイルCoA形成の速度は、最も速くて0.03μM/分(10μM/300分)である。これは、これらの反応におけるapoA−Tジドメインの濃度は、である(kcat=v/[E]t)ので、10μMでkcat<0.003/分に一致する。以下に記載するように、holoA−TジドメインのBでの共有結合ローディングについてのkcatは、0.14/分である。従ってベンゾイル−CoAは、その形成に対する速度定数が、E−Bの形成についての速度定数よりも少なくとも50倍小さいので、アリール化反応おいて適切な中間物質ではない。これらの結果は、図2Aに描写されるCoAリガーゼモデルが、リファマイシンシンテターゼのA−Tジドメインに対して利用可能でないことを示す。
【0165】
(実施例8)
(holoA−Tジドメインの速度論パラメーターの直接測定)
代表的な反応系は、1〜10μM holoA−Tジドメイン、50mMリン酸ナトリウム(pH7.2)、1mM DTT、1mM EDTA、5mM ATP、15mM MgCl2、10%グリセロール、0.5〜5μCi/mL[7−14C]−Bまたは[7−14C]HBおよび可変濃度の非標識Bまたは非標識3−HBを含んだ。非標識Bおよび非標識3−HBのストックを、添加の前に反応pHに調整した。反応物を、30℃でインキュベートし、そして所望の時点で20μLアリコートを1mLの氷冷5%トリクロロ酢酸でクエンチし、そして200μgのウシ血清アルブミン(Sigma)をこの混合物に添加し、タンパク質の沈殿を援助した。この沈殿を、遠心分離によってペレット化し、0.5mLの5%トリクロロ酢酸で洗浄し、そして0.5mLの100mMリン酸(pH 8)、2%SDS溶液中に溶解した。この溶液を4.5mLの液体シンチレーション流体(Formula 989、Packard)と合わせ、そしてE−BまたはE−3−HBに対応する取り込まれた14Cを、液体シンチレーション計数によって定量した。反応速度は、直線的に酵素濃度に依存した。データ分析を、Kaleidagraph(Synergy Software)を用いて行い、そして代表的にR≧0.99を与えたデータに指数関数的に一致した。
【0166】
Bまたは3−HBは、図3に定性的に示されるように、holoA−Tジドメインについての基質である。アリール−アデニレート形成のための基質としてこれらのベンゾエート、次いで、Tドメインのホスホパンテテインコファクターのチオールのアリール化を定量的に評価するために、本発明者らは、上記のタンパク質沈殿アッセイを使用した。上記で議論されるように、holoA−Tジドメイン、0.5〜5μCi/mL[7−14C]−Bまたは[7−14C]−3−HB、および可変濃度の非標識Bまたは非標識3−HBを含む反応物からのアリコートを、トリクロロ酢酸でクエンチし、そしてそれぞれの洗浄したタンパク質ペレット中の放射標識タンパク質の量を、液体シンチレーション計数によって測定した。B濃度または3−HB濃度の関数としてのE−B形成またはE−3−HB形成の初期速度を、この方法を用いて得、そしてこれを使用して図5に示される飽和曲線を作成した。飽和モデルに対するデータの最良の適合は、3−HBについて1.9/分のkcatおよび180μMのKM、ならびにBについては0.14/分のkcatおよび170μMのKMを得た。2つの基質についてのkcat/KM値の比は、A−TジドメインによってBより、3−HBに関して12倍優先されることを示した。これらの反応系へのCoAの添加は、効果的でなく(データは示さない)、A−TジドメインはCoAリガーゼでないという結論に一貫する。
【0167】
(実施例9)
(A−Tジドメインの基質特異性についてスクリーニングするための追跡実験)
反応を、50mMリン酸ナトリウム(pH7.2)、1mM DTT、1mM EDTA、5mM ATP、15mM MgCl2および10%グリセロール中で行った。それぞれの反応系は、20μM holoA−Tジドメインおよび0.5mMの推定基質、0.5mMの非標識Bを含むか、または基質を添加しなかった。30分間30℃のインキュベーション後、100μLの反応アリコートを、反応緩衝液で前平衡化されているG−25マイクロスピン(microspin)ゲル濾過カラム(Pharmacia)に個々に適用した。適用されたサンプルのタンパク質成分を、製造者の指示に従って遠心分離によって定容量でマイクロスピンカラムから溶出した。それぞれの溶出したタンパク質サンプルの10μLのアリコートを、200μMの最終B濃度のために2μLの[7−14C]−B溶液で希釈した。これらの追跡反応物を、SDS−PAGEオートラジオグラフィーにより分析の前に15分間、30℃でインキュベートした。
【0168】
以前のインビボでの供給実験(Hunziker,D.,ら、J Am.Chem.Soc.(1998)120:1092−1093)および先ほど記載されたインビボでの結果に基づき、AHB、3−HB、B、および3,5−ジヒドロキシベンゾエートを、A−Tジドメインによって基質として受容する。
【0169】
A−Tジドメインを刺激し得るさらなる基質についてスクリーニングするために、単純な追跡実験を、上記のように考案した。holoA−Tジドメインを、まず、標準反応条件下で、推定基質と共にインキュベートした。次いで、この反応混合物を、マイクロスピンゲル濾過カラムに通し、推定未反応基質からタンパク質成分を分離した。放射標識Bを、タンパク質画分に最後に添加し、そしてこの混合物を、SDS−PAGEオートラジオグラフィーの前に単時間インキュベートした。基質と共に本来インキュベートされたタンパク質サンプルは、共有結合的にロードされた酵素−置換ベンゾエート(E−XB)を含み、共有結合的にロードされた酵素−置換ベンゾエート(E−XB)は、追跡の間、放射標識Bと反応せず、SDS−PAGEオートラジオグラフィーによる検出可能な酵素−ベンゾエート(E−B)をわずかに生じるか、または全く生じなかった。対照的に、乏しい基質または非基質と共に本来インキュイベートタンパク質サンプルは、主にを遊離酵素(E)含み、この遊離酵素(E)は、E−B形成のための追跡の間、放射標識ベンゾエート(B)と容易に反応し、SDS−PAGEオートラジオグラフィーによって検出可能な放射活性バンドを生じた。
【0170】
一連の置換ベンゾエートについてのこのスクリーニング実験の結果を、以下に議論した。A−Tジドメインサンプルを含むゲル(4〜15%、Bio−Rad)のオートラジオグラフによって、基質なしでインキュベーションした後か;または以下と共にインキュベーションした後で、放射線標識Bで追跡した:非標識B;2−アミノベンゾエート;3−アミノベンゾエート;4−アミノベンゾエート;AHB;3−アミノ−4−ヒドロキシベンゾエート;4−アミノ−2−ヒドロキシベンゾエート;3−ブロモベンゾエート;3−クロロベンゾエート;3,5−ジアミノベンゾエート;3,5−ジブロモベンゾエート;3,5−ジクロロベンゾエート;3,5−ジフルオロベンゾエート;2,3−ジヒドロキシベンゾエート;3,5−ジヒドロキシベンゾエート;3,5−ジニトロベンゾエート;3−フルオロベンゾエート;2−ヒドロキシベンゾエート;3−HB;4−ヒドロキシベンゾエート;3−メトキシベンゾエート;3−ニトロベンゾエート;3−スルホベンゾエート。
【0171】
最初の2つのレーンは、コントロール反応物を含み、ここで、基質がないもの(レーン1)または非標識B(レーン2)が、最初のインキュベーションにおいて存在し、期待したように、放射線標識されたA−Tジドメインが、基質のないコントロール反応物中で形成されたが、非標識Bコントロール反応物の中において形成されなかった。既知の基質である、AHB(レーン6)、3,5−ジヒドロキシベンゾエート(レーン16)、および3−HB(レーン20)は、初期段階のインキュベーションで存在していた反応物においても、放射線標識A−Tジドメインは、存在しなかった。これらの3つの基質に加えて、レーン1のコントロール反応物と比較したときの、放射線標識A−Tジドメインの非存在または減少に基づいたさらなる研究のために、10を超える類似の基質を同定した。これらの10の基質は、以下である:2−アミノベンゾエート;3−アミノベンゾエート;3−ブロモベンゾエート;3−クロロベンゾエート;3,5−ジアミノベンゾエート;3,5−ジブロモベンゾエート;3,5−ジクロロベンゾエート;3,5−ジフルオロベンゾエート;3−フルオロベンゾエート;および3−メトキシベンゾエート。所定の反応における、放射線標識A−Tジドメインの非存在についての最も簡単なモデルは、問題としている置換ベンゾエートがA−Tジドメインにロードされ、そして、追跡の間、この酵素を放射線標識Bとの反応から遮断するというものであるが、この実験は、これが、代りに、緊密な結合をする競合インヒビターであるという可能性を除外しない。しかし、これらの置換ベンゾエートと基質Bとの間の競合が時間に依存しないという以下に記述した観察によって、起こりそうもない阻害モデルを与える。放射線標識A−Tジドメインは、以下の基質を有する反応において形成された:4−アミノベンゾエート;3−アミノ−4−ヒドロキシベンゾエート;4−アミノ−2−ヒドロキシベンゾエート;2,3−ジヒドロキシベンゾエート;3,5−ジニトロベンゾエート;2−ヒドロキシベンゾエート;4−ヒドロキシベンゾエート;3−ニトロベンゾエート;および3−スルホベンゾエート。
【0172】
(実施例10)
(A−Tジドメインのアリール化についての相対速度定数を使用する、相対的特異性決定)
追跡実験(実施例9)におけて記載したスクリーニングにおいて見出された類似の基質のセットを準備して、アリールアデニレート形成、その後の、Tドメインにおけるホスホパンテテイン補因子(phosphopantetheine cofactor)のチオールのアリール化についてのA−Tジドメインの相対的特異性を決定した。放射線標識ベンゾエート(B)およびholo A−Tジドメインを含む反応混合物に置換ベンゾエートを添加することによって、置換ベンゾエート(XB)との反応と、それに続くBとの反応との間を分割することを可能にした。反応を、上述(実施例8 速度論的測定)のように実施したが、50μM〜5mMの一連の置換ベンゾエートの存在下で実施した。置換ベンゾエートストックを、添加前に、この反応pHに対して調整した。Bの反応に関して、所定の置換ベンゾエートの反応について、ベンゾエートとの類似の反応と比較した速度定数krelを、以下のスキーム1における式に従って、もとの反応物におけるBおよび置換ベンゾエートの濃度([B],[XB])、ならびにE−BおよびE−XBとして存在する生成物量から決定した(Fersht,A.R.(1998)Structure and Mechanism in Protein Science 116−117頁,W.H.Freeman,New York)。
【0173】
【化3】
所定の時点での各反応におけるE−XB生成物の量を、競合物を欠く同一の反応物の同時刻において得られた放射線標識E−Bの量から、競合する置換ベンゾエートの存在下の放射線標識E−Bの量を差し引くことによって決定した。E−XBに対するE−Bの比は、特定の時間経過を通して一定であって、これは、この反応生成物に関わる2次的な反応が生じなかったことを示している。この一定の比はまた、置換ベンゾエートが真の基質であって、かつ高親和性の競合的インヒビターではないという見解を支持しており、これは、E−Bが競合インヒビターの存在下で蓄積し続け、時間の関数として増加し得る見かけのE−XBに対するE−Bの比を生じるためである。置換ベンゾエートの各々について、同じkrel値を、誤差範囲で、異なった置換ベンゾエート濃度において実施された反応について得た。この反応を、Bの代わりに放射線標識3−HBを使用して、選択された置換ベンゾエートについて反復し、そして、(Bに関しての)krel値を、誤差範囲で、得た。表1中の各krel値は、少なくとも4つの別個の測定の平均を表す。A−Tジドメインとの反応に対する、酢酸フェニルおよび酢酸3−ヒドロキシフェニルによる、Bとの競合を検出し得ず、そして、これらの化合物についての、krelについての極限値を表1において報告した。
【0174】
表1におけるkrel値は、所定の置換ベンゾエートおよびBについてのkcat/Km比を表しており、そして、このような値は、各基質に対するA−Tジドメインの特異性の指標を提供する(Fersht,A.R.(1998)Structure and Mechanism in Protein Science 116〜117頁、W.H.Freeman,NewYork)。このアプローチの妥当性を、3−HBについて得られる12のkrel値と、3−HBおよびBについての12のkcat/KMの直接測定から得られた同じ12のkcat/KM比を比較することによって実証した(図4)。A−Tジドメインは、全てのほかの基質よりも、AHB、その生物学的基質に対する10〜1000倍の選択性を提示する。
【0175】
(実施例11)
(プラスミドpBP165の構築)
リファマイシンシンターゼ由来のA−Tロード(loading)ジドメインとDEBSの第1のモジュールとの間の機能的融合を操作するために、DEBSモジュール1の中にKSドメインの直ぐ上流にあるDNA配列を、以下のように読み出されるように改変した:
【0176】
【化4】
操作されたBsaBI部位(太字)を、このリファマイシンシンターゼのA−Tロードドメインと第1のPKSモジュールとの間の対応する天然に存在するBsaBI部位に融合した(図6)。得られた融合物を、DEBS1の代りにpBP144に移入し、pBP165を生成した。
【0177】
(表1)
(置換ベンゾエートaによるT−Aジドメインの共有結合的ローディング(Covalent Loading)についての相対速度定数)
【0178】
【表1】
a 30℃,50mMリン酸ナトリウム,pH7.2、1mM DTT、1mM EDTA、15mM MgCl2、5mM ATP、10% グリセロール。
【0179】
b ベンゾエートによるTドメインアリール化と比較した、Tドメインアリール化についての速度定数(スキーム1)。
【0180】
(実施例12)
(分析方法)
吸光度測定を、PBSを用いた希釈液を必要とするBeckman DU650分光光度計を使用して、600nmで実施した。グルコース濃度を、酵素ヘキソキナーゼ検出キット(Sigma−Aldrich)を使用して測定した。アセテートおよびプロピオネートの濃度を、5mMのH2SO4を用いるisocratic HPLC法(Agilent 1100 HPLCシリーズ)を使用して分析した。使用するカラムは、Bio Rad HPLC有機酸分析カラム(Aminex HPX−87H)(屈折率を利用して55℃で維持される)、このカラムを使用して、浄化した発酵培養液サンプルからアセテートおよびプロピオネートを検出した(20μL注入)。分離HPLCアッセイを使用して、以前に記載したように(Lombo,Fら、Biotechnol.Prog.(2001)17(4):612〜617)6dEBを検出した。タンパク質レベルを、細胞破砕(2mlのサンプルを使用した超音波処理)、浄化(clarification)、およびSDS−PAGE/SimplyBlueTMSafeStain(Invitrogen,Carlsbad,CA)染色を介した検出の後、モニターした。
【0181】
(予備の最適化)
E.coli BAPlを、宿主細胞(F−ompT hsdSB(rB− mB−)gal dcm(DE3) ΔprpRBCD(sfp))として使用した。6dEBを、BAPl/pBP130(CarbR)/pBP144(KanR)により生成した。Pfeiffer,B.A.ら、Science(2001)291:1790−1792(本明細書中に参考として援用される)。この菌株は、6dEBの合成のために必要なPKSおよび補助遺伝子を有する。2つをゲノム中に組込み、5つをプラスミド上に組み込んだ。
【0182】
細胞ストックを、カルベニシリン(100mg/L)およびカナマイシン(50mg/L)を補充したLuria Bertani培地(LB)中で、37℃かつ250rpmで、BAP1/pBP130/pBP144の培養物を増殖させることで調製した。培養液が、0.5と1の間のOD600に達した後、これらの細胞を遠心分離し、そして、8%のグリセロールを含むF1培地を使用して、初発培養液容積の半分に再懸濁した。F1培地は以下を含む:KH2PO4、3g/L;K2HPO4、6.62g/L;(NH4)2SO4、4g/L;MgSO4,105.5mg/L;Glucose、5g/L;微量金属(Trace Metal)溶液、1.25ml/L;およびビタミン溶液、1.25ml/L。(この微量金属溶液は、以下を含む:FeCl3・6H2O、27g/L;ZnCl2・4H2O、2g/L;CaCl2・6H2O、2g/L;Na2MoO4・2H2O、2g/L;CuSO4・5H2O、1.9g/L;H3BO3、0.5g/L;濃HCl、100ml/L;以下を含むビタミン溶液:リボフラビン、0.42g/L;パントテン酸、5.4g/L;ナイアシン、6g/L;ピリドキシン、1.4g/L;ビオチン、0.06g/L;葉酸、0.04g/L)。再懸濁した細胞をアリコートし、そして、−80℃で凍結した。
【0183】
スモールスケールの実験のために、250mLのフラスコ中の25mLのF1培地に、0.5mLの凍結前のグリセロール細胞ストックを接種し、そして、適切なOD600(以下で明記するように、0.2〜1の間)まで、37℃および250rpmで増殖させた(各々、カルベニシリン濃度100mg/Lおよびカナマイシン濃度50mg/Lを含む)。この時点で、培養液を22℃まで冷却し、IPTG(イソプロピルチオ−β−D−ガラクトシド、GibcoBRL,Grand Island,NY、以下で明記するように、10μMと10mMの間)で誘導し、そして、プロピオン酸ナトリウム(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO、以下に明記するように、10mg/Lと10g/Lの間の最終濃度まで)を補充した。次いで、この培養液を、生成物のさらなる増加が観察されなくなるまで、200rpmかつ、22℃または25℃でインキュベートした。
【0184】
E.coli BAP1/pBP130/pBP144の培養液中の6dEBの生産性および力価に対する、様々な増殖パラメーターおよび様々なプロセスパラメーターの効果を、これらの条件下で研究した。最初に、E.coliの流加(fed−batch)培養に適合する3つの培地を試験した(データは示さず)。これらの中で、発酵培地F1は、最高の収率(19時間にわたり約1mg/L)を与えた。IPTGおよびプロピオネートの濃度、誘導後の温度ならびに誘導時間の効果を、この培地を使用して研究した。これらの実験に基づいて見出された最適な条件を、表2に示す。
【0185】
【表2】
最高の条件として、6dEB力価は、19時間にわたり一貫して1mg/L〜3mg/Lであると見出された。
【0186】
(栄養ストリーム、誘導時間およびプロピオネート供給の効果)
流加曝気(aerated)発酵を、Applikon 3L Biobundleシステム(Applikon Inc.,Foster City,CA)を使用して実施した。スターターカルチャーを、1.5mLのLB培地(100mg/Lのカルベニシリンおよび50mg/Lのカナマイシン)中で増殖させた。37℃および250rpmで対数増殖期後期に達した後、この培養液を遠心分離し、そして、50mLのLB(100mg/Lのカルベニシリンおよび50mg/Lのカナマイシン)中に再懸濁した。30℃および200rpmで一晩、定常期まで増殖させた培養液を、遠心分離し、そして、2LのF1培地を含む3Lの容器に接種するために、20mLのリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中に再懸濁した。この2LのF1培地は、以下を含む:KH2PO4、1.5g/L;K2HPO4、4.34g/L;(NH4)2SO4、0.4g/L;MgSO4、150.5mg/L;グルコース、5g/L;微量金属溶液、1.25ml/L;およびビタミン溶液、1.25ml/L。増殖は、実験を通して、1MのH2SO4および濃NH4OHでpHを7.1に維持して、37℃で行った。曝気を、600rpm〜900rpmで制御した撹拌で、2.8L/分で維持し、50%の空気飽和を超える溶存酸素を維持した。塩溶液(KH2PO4、K2HPO4、および(NH4)2SO4)を含む発酵装置をオートクレーブしたのに対して、さらなる供給成分(MgSO4、グルコース、微量金属およびビタミン)を濾過滅菌し、そして、接種する前に、150mg/Lのカルベニシリンおよび75mL/Lのカナマイシンとともに無菌的に添加した。この供給物をまた、濾過滅菌した。いったん、グルコースが開始培地から枯渇すると(培養液の酸素要求の突然の減少により示されるように)、温度を22℃まで下げ、そして、IPTG(100μM)およびプロピオン酸ナトリウム(2g/L)を添加した。この時点で、蠕動ポンプが0.1ml/mmの供給培地の送達を開始し、この供給培地は以下:(NH4)2SO4、110g/L;MgSO4、3.9g/L;グルコース、430g/L;微量金属溶液、10ml/L;およびビタミン溶液、10ml/Lを含み、そして、サンプルを、その後、代表的には1日に2回取った。約48時間毎にさらなるプロピオン酸ナトリウムを添加し(プロピオネートが残存しないと推定する場合、2g/Lまで)、ポリケチド生合成のためのこの前駆物質の欠失を回避した。
【0187】
図10A中に示されるように、細胞増殖を、実験の経過を通じてグルコース濃度およびアセテート濃度を1g/L以下に維持する栄養供給ストリームの制御された添加により、50と70の間の最終OD600(24g(乾燥菌体重量)/Lおよび33g(乾燥菌体重量)/L)まで伸ばした。ポリケチド生合成を、100μMのIPTGと2g/Lのプロピオネートを22℃で添加することによって、5と10の間のOD600で誘導した。細胞内タンパク質を、その後、SDS−PAGEを介して定期的に分析し、そして、可溶性PKSタンパク質の発現されたレベルが、実験の期間(誘導の約4時間後から開始する)を通して比較的一定にとどまることを見出した。この培養手順により、110時間にわたり70mg/Lの最終6dEB力価を産出した。前駆物質および生成物の分析は、全ての外因性のプロピオネートが消費された後に力価がプラトーに達したことを示した。図10B中に示すように、発酵培地中のプロピオネート補充は、100mg/Lの6dEBを超える再現性のある力価増加を生じた。6dEBへのプロピオネートの最大変換は、6%であった。発酵槽および振盪フラスコに特異的な生産性は類似した;しかし、発酵槽の容量生産性は、振盪フラスコの値よりも17倍高かった。
【0188】
(TEIIの効果)
Saccharopolyspora erythraea中のエリスロマイシン生合成遺伝子クラスター由来のeryH遺伝子は、チオエステラーゼ遺伝子のホモログ(チオエステラーゼIIまたはTEIIとも命名される)をコードする(Weber,J.M.ら、J.Bacteriol.(1990)172:2372〜2383)。TEIIは、未知の機構により、アクチノミセス宿主中でポリケチド生合成を増強することが示されている(Hu,Z.,公開されていないデータ)。このeryH遺伝子を、クロラムフェニコール耐性プラスミドである、pGZ119EH上のIPTG誘導性T7プロモーターの制御下でクローニングした(Lessl,M.ら、J.Bacteriol.(1992)174:2493〜2500)。このプラスミドは、プラスミドpBP130およびプラスミドpBP144に適合可能である。得られたプラスミドである、pBP190を、pBP130およびpBP144とともに、BAP1中に同時に形質転換し、上記で概略を説明した発酵プロトコル(スターターカルチャー中に34mg/Lのクロラムフェニコールおよび発酵槽中に20mg/Lのクロラムフェニコールを含む)を使用して研究した。
【0189】
この組換え菌株の増殖特性を、以前の実験の特性と類似したが、6dEBの力価は、2倍(約180mg/L)であった(図11)。これらの実験は、TEII共発現が、Streptomyces spp.中のポリケチド生産性効果に類似するE.coliのポリケチド生産性を増加することを示唆する。(ここで、6dEB生成物はまた、TEIIなしの培養物と比較して2倍であった[Hu,Z.,公開されていない結果]。)
上記で記載されたTEII共発現は、BAP1のプラスミド安定特性を有意に改善せず、そして、発酵遺伝子発現プロフィールは、TEIIを発現しない発酵物と比較した場合、質的差異を示さなかった。DEBS特性およびPCC特性とは異なり、TEIIは、SDS−PAGE分析を介して容易に目視できなかったが、発酵槽条件と類似するように意図した振盪フラスコ条件を使用した単離物中で発現された場合、TEII(約30kD)は、N末端6ヒスチジンタグを使用して容易に精製し得た。これは、いったんTEIIが発現すると、このTEIIは、E.coliの細胞骨格内に存在することを示唆する。スモールスケールのインビボでの放射性実験(Pfeiffer(2001)前出)はまた、力価増加がTEII共発現に起因するという概念を支持する。上記で記載したように、E.coli、BAP1、pBP130、pBP144、およびpBP190を、BAP1/pBP130/pBP144/pGZ119EHと比較した。さらに、これらの2つの菌株を、BAP1/pBP130/pBP144と比較した。各々の比較は、TEII共発現した方が、6dEB力価が約2倍増加することを示した。
【0190】
初期の研究において、本発明者らは、E.coli BAP1が、この組換え菌株から、プロピオネート異化のための既知の経路のみが欠失しているので、増殖を支持するための唯一の炭素供給源としてプロピオネートを利用し得ないことを確認していた。しかし、約10%の外因性プロピオネートが6dEBに変換されるので、プロピオネートは、未知でかつ潜在的に所望されない副生成物に異化されると思われる。プロピオネートをプロピニル−CoAとして活性化するE.coliの能力は、BAP1中に保持されている(そして、意図的に増幅されている)ので、奇数鎖の脂肪酸合成の生合成は、外因性のプロピオネートの利用のための1つの経路を提供する可能性がある。放射標識したプロピオネートを、E.coli BAPl/pBP130/pBP144に供給した場合、6dEBよりもなお親油性である(放射−TLC分析により判断した;データは示さず)放射標識した生成物を観察した。別の可能性は、アセチル−CoA(インビボで最も一般的なアシル供与体)の代わりにプロピオニル−CoAを利用し得る非特異的アシル基転移機構を介した、プロピオネートの潜在的利用である。このような「行き詰まった(dead−end)」生成物の同定は、E.coli宿主からのこのような非生産的経路の遺伝子的または代謝的な減衰または排除を導き得、これによって、ポリケチド生合成についてのその能力をさらに増強する。
【0191】
本発明者らの結果は、E.coli中の6dEBの生産性を増強するための、Saccharopolyspora erythraea中に存在するアクセサリーチオエステラーゼ、TEIIの有用性を実証した。TEIIの正確な機構は、現在のところ明らかではなく、そして、この酵素は、多機能PKSの不正確にプロセッシングされた中間体を加水分解することによる、編集する役割を担うと思われる。あるいは、TEIIは、不適切なホスホパンテテイン供与体で翻訳後修飾されたアシルキャリアタンパク質(ACP)ドメインを一掃することにより、PKS酵素の細胞内活性を増大し得る。通常、PKS上のACPドメインは、活性部位のセリンでホスホパンテテインアームの付着により、翻訳後修飾される。この反応は、ホスホパンテテイントランスフェラーゼによって触媒される。BAP1において、異種酵素であるSfp(Bacillus subtilis由来)は、この反応を触媒する。Sfpを使用する主要な利点は、このSfpが実質的な任意のアシルキャリアタンパク質ドメインに対して、広範な基質特異性を有することである;しかし、Sfpは、CoASHに対する匹敵する特異性を有するアシル−CoA供与体を利用し得るので、このSfpは、アセチル−CoAまたはプロピオニル−CoAのような基質を誤って利用し得る。もしそうならば、アセチル化されたホスホパンテテインは、チオエステル結合が加水分解されるまで、ミスプライム(misprime)されたACPドメインを過ぎてプロセスされることから、ポリケチド中間体を効果的にブロックする。TEドメインが、対応するCoAチオエステルよりもむしろアセチルACP−またはプロピオニルACPドメインを選択的に加水分解し得る範囲で、TEドメインは、インビボでの新規な合成PKS活性のエンハンサーとして作用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0192】
【図1】図1は、リファマイシンBの前駆体であるプロサンサマイシンXの提唱される生合成スキームである。このリファマイシンシンテターゼは、一団の5つの多機能性タンパク質RifA、RifB、RifC、RifD、およびRifE(各々、1つ以上のPKSモジュールを含む)からなる。各PKSモジュールは、プロサンサマイシンXの生合成のための鎖伸長および関連するβ−ケト還元という1サイクルを触媒する。RifAのN末端A−Tローディングジドメインは、AHBを用いてこのシンテターゼを開始する。このジドメインは、最小NRPSモジュールを暗示する。AHBに由来するmC7N単位の位置が、プロサンサマイシンX構造中に太く示される。この活性部位は、アデニル化(A)ドメイン、チオール化(T)ドメイン、アシルトランスフェラーゼ(AT)ドメイン、ケトシンターゼ(KS)ドメイン、β−ケトレダクターゼ(KR)ドメイン、またはデヒドラターゼ(DH)ドメインを示す。示されるように、RifFは、分子間アミド形成を介して環化を触媒すると考えられる。
【図2】図2は、A−Tローディングジドメインに関する可能な機構を示す。(A)CoAリガーゼモデルにおいて、Aドメインの活性化AHB−アデニル化産物が、CoAにより攻撃されて、AHB−CoA中間体が生成され、そしてこのアリールチオエステル酵素中間体は、Tドメインへのトランスチオール化から生じる。(B)NRPS様機構において、AHBは、AドメインによりAHB−アデニレートとして活性化され、そしてTドメインのホスホパンテテイン補因子のチオールが、AHB−アデニレートを直接攻撃して、共有結合アリールチオエステル酵素中間体を形成する。
【図3】図3は、apo A−Tジドメインもしくはholo A−Tジドメイン、ATP、および[14C]−Bもしくは[14C]−3−HBの、存在または非存在を示す図であり、この存在または非存在は、holo A−TジドメインとBとのATP依存性共有結合ローディングまたはholo A−Tジドメインと3HBとのATP依存性共有結合ローディングの結果に基づき、この結果は、これらの反応混合物のクーマシー染色ゲル(4〜15%勾配)およびこのゲルのオートラジオグラフ(示さず)に基づいて示される。
【図4】apo A−Tジドメインを含む反応の時間経過の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)追跡をグラフ化している。正味のベンゾイル−CoA形成は観察されない。標識ピークが、CoA、B、およびベンゾイル−CoAの真正標準物と同時注入によって同定された。このHPLC追跡は、0.15分だけ前進的にシフトした。
【図5】3−HBによるholo A−Tジドメインの共有結合ローディングの飽和曲線(白四角)またはBによるholo A−Tジドメインの共有結合ローディングの飽和曲線(白丸)をグラフ化している。図5Aは、このデータの直線表示である。図5Bは、両方のデータセットの同時評価を容易にするための、データの対数表示である。その線は、単純飽和モデルへのこのデータの最適線であり、3−HBに関してkcat=1.9分−1およびKM=180μMを生じ、Bに関してkcat=0.14分−1およびKM=170μMを生じる。
【図6】図6は、DEBS遺伝子およびpcc遺伝子の発現を容易にするための合成オペロンアプローチにて使用された2つのプラスミドを示す。制限部位が、以下のように短縮されている:X(XbaI);N(NdeI);E(EcoRI);H(HindIII);B(Bpu1102I);Ns(NsiI);Ps(PstI);P(PacI);D(DraIII)。
【図7】図7Aは、6−デオキシエリスロノリドBシンターゼ(DEBS)の模式図である。その触媒ドメインは以下である:KS(ケトシンターゼ);AT(アシルトランスフェラーゼ);ACP(アシルキャリアタンパク質);KR(ケトレダクターゼ);ER(エノイルレダクターゼ);DH(デヒドラターゼ);TE(チオエステラーゼ)。DEBSは、1モルのプロピニル−CoAおよび6モルの(2S)−メチルマロニル−CoAを使用して、1モルの6−デオキシエリスロノリドB(6dEB(化合物1))を合成する。図7Bは、短縮型DEBS1+TEが、トリケチドラクトン(化合物2)を生成することを示す。図7Cは、このリファマイシンシンテターゼが、非リボソーム性ペプチドシンテターゼローディングモジュールにより天然で開始されるポリケチドシンターゼであることを示し、この非リボソーム性ペプチドシンテターゼローディングモジュールは、2つのドメイン−ATP依存性アデニル化ドメイン(A)およびチオール化ドメイン(T)から構成される。DEBSのローディングドメインに代えてこのA−Tジドメインで置換すると、外因性酸(例えば、安息香酸)を使用して置換大環状分子(例えば、化合物3)を操作されたE.coli株において合成するように操作された「ハイブリッド」シンターゼが生じる。
【図8】図8は、E.coli BAP1の遺伝子設計の模式図である。
【図9】図9は、E.coliにおける6dEBの産生を示す。細胞タンパク質含量および6dEB濃度が、時間に対してプロットされている。
【図10】図10Aおよび10Bは、E.coliの流加培養発酵実験を示す。図10Aは、経時的にさらなるプロピオネートを添加しなかったことを示す。図10Bは、材料および方法の節において特定されるようなさらなるプロピオネート供給を行ったことを示す。
【図11】図11は、TEII遺伝子発現を含む、E.coli 6dEB流加培養発酵を示す。
【0001】
本発明は、ポリケチドの効率的な産生のために微生物宿主を適合させる方法に関する。1つの局面において、この宿主は、ポリケチドの合成においてポリケチドシンターゼにより使用される開始単位および/または伸長単位を合成するように改変される。別の局面において、宿主は、置換ベンゾエートを開始単位として受容するシンターゼを合成するように、改変される。他の宿主改変もまた、なされ得る。従って、本発明は、Escherichia coli、Bacillus、MyxococcusおよびStreptomycesのような多様な生物における、複合ポリケチドの産生のための方法を包含する。
【背景技術】
【0002】
(リファマイシンB)
リファマイシンシンテターゼは、非リボソーム性ペプチドシンテターゼのアデニル化(A)ドメインおよびチオール化(T)ドメインと相同であるドメインを含む、ローディングモジュールによって、3−アミノ−5−ヒドロキシベンゾエート(AHB)開始単位を用いて開始される。Amycolatopsis mediterraneiのリファマイシンシンテターゼは、抗生物質リファマイシンBに対する前駆体であるプロサンサマイシンXの生合成を担う(図1)。(リファマイシンB前駆体であるプロサンサマイシンXの生合成を担うタンパク質複合体は、本明細書中で、リファマイシンシンテターゼと呼ばれる。なぜなら、本明細書中に記載される結果により、この複合体のローディングモジュールへのアリール開始単位の共有結合のために、ATPが必要であることが確立されるからである。)このリファマイシンシンテターゼは、一団の5つの多機能性タンパク質RifA、RifB、RifC、RifD、およびRifEと、これに加えて、RifF(分子内アミド形成を介してその他タンパク質の直鎖状産物を環化すると考えられるタンパク質)とからなる(Schupp,T.ら、FEMS Microbiol.Lett.(1998)159:201−207;August.P.R.ら、Chem.Biol.(1998)5:69−79;Tang,L.ら、Gene(1998)216:255−265;Floss,H.G.ら、Curr.Opin.Chem.Biol.(199)3:592−597)。この5つの多機能性タンパク質は、1つの非リボソーム性ペプチドシンテターゼ(NRPS)様ローディングモジュールと、10個のポリケチドシンターゼ(PKS)モジュールとに、他の系に対する配列相同性に基づいてさらに分割され得る。
【0003】
RifA(リファマイシンシンテターゼのN末端タンパク質成分)は、NRPS様モジュールであるアデニル化−チオール化(A−T)ローディングジドメインを、第1の濃縮モジュールの上流に含む(図1)。最初のこのようなA−T型ローディングモジュールは、天然産物であるラパマイシンの遺伝子クラスターにおいて同定された(Schwecke,T.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1995)92:7839−7843)。ハイブリッドモジュール型インターフェースを含む他のシンテターゼの完全遺伝子クラスターが、報告されている(Gehring,A.M.ら、Chem.Biol.(1998)5:573−586;Quadri,L.E.N.ら、Chem.Biol.(1998)5:631−645;Silakowski,B.ら、J.Biol.Chem.(1999)274:37391−37399;Julien,B.ら、Gene(2000)249:153−160;Tillett,D.ら、Chem.Biol.(2000)7:753−764;Wu,K.ら、Gene(2000)251:81−90;Du.L.ら、Chem.Biol.(2000)7:623−640)。そしてこれらのシンテターゼは、ケチド単位およびペプチド単位の両方から構成される、ハイブリッド天然産物を生成する。治療剤としての証明されたポリケチド天然産物およびペプチド天然産物の追跡記録は、ハイブリッド産物にて実現される組み合わせの多様性の増大が、薬物開発を進歩させることを示唆する。ハイブリッドシンテターゼの生化学的理解を、タンパク質工学を介してハイブリッドインターフェースを操作する能力とともに使用して、そのようなハイブリッド分子の能力を実現させることは、有利である。
【0004】
RifAのNRPS様A−Tジドメインは、3−アミノ−5−ヒドロキシベンゾエート(AHB)を用いてこのシンテターゼをおそらく開始させる。このAHBは、リファマイシンBのmC7N構造エレメントの前駆体であることが示されている(図1)(Ghisalba,O.ら、J.Antibiot.(1981)34:64−71;Anderson,M.G.ら、J.Chem.Soc.Chem.Commun.(1989)311−313)。しかし、この開始機構は、確立されていない。2つの代替的モデルが、想定され得る。文献において普及している補酵素A(CoA)リガーゼモデル(Schupp,T.ら、FEMS Microbiol.Lett.(1998)159:201−207;August,P.R.ら、Chem.Biol.(1998)5:69−79;Ghisalba,O.ら、J.Antibiot.(1981)34:64−71)において、このAドメインの活性化AHB−アデニレート産物は、CoAにより攻撃されて、AHB−CoA中間体を生成し、そしてこのアリールチオエステル酵素中間体は、そのTドメインへのトランスチオール化から生じる(図2A)。下記に詳述されるように確認されている、NRPSモジュールを開始するために使用される機構と類似する代替的機構において、AHBが、そのAドメインによってアリール−アデニレートとして活性化され、そしてそのTドメインのホスホパンテテイン補因子のチオールが、AHB−アデニレートを直接攻撃して、共有結合性アリールチオエステル酵素中間体を形成する(図2B)。
【0005】
AHBは、A−Tジドメインの天然の基質であるが、以前のインビボ研究によって、RifAが、代替基質である3−ヒドロキシベンゾエート(3−HB)および3,5−ジヒドロキシベンゾエートにより開始され得ることが、明らかにされている(Hunziker,D.ら、J.Am.Chem.Soc.(1998)120:1092−1093)。非天然天然産物の産生のために関与することについてのこの本質的基質許容性を利用することは、有利である。1つの局面において、この開始モジュールの機構を確立するためおよびリファマイシンシンテターゼの基質許容性を系統的に調査するために、インビトロでリファマイシンシンテターゼのA−Tジドメインの活性を再構成することは、有利である。従って、本発明は、非天然天然産物の産生のための相同性置換基質を提供する。
【0006】
(6−デオキシエリトロノリドB)
細菌Saccharopolyspora erythraeaにより合成される広いスペクトルの抗生物質であるエリスロマイシンは、ポリケチドと呼ばれる複合天然産物の種類の原型である(O’Hagan,D.,The Polyketide Metabolites(Ellis Horwood,Chichester,U.K.,1991)。複合ポリケチド(例えば、抗生物質エリスロマイシンの大環状コアである6−デオキシエリスロノリドB(6−dEB))は、天然産物の重要な種類を構成する。これらの生体分子は、単純な構築ブロック(例えば、アセチル−CoA、プロピニル−CoA、マロニル−CoA、およびメチルマロニル−CoA)から、放線菌類において一般的に見出される、ポリケチドシンターゼと呼ばれる大きなモジュール型メガシンターゼ(Cane,D.E.,Science(1998)282:63)の作用を介して合成される。例えば、6−dEBの合成を生じるポリケチドシンターゼ(PKS)は、Sacromyces erythraeaにおいて産生される。これらの天然宿主において産生されるポリケチドは、一般的に、その後、グリコシル化、酸化、ヒドロキシル化、および他の改変反応によって調整されて、最終抗生物質が得られる。ポリケチドの構造的複雑性は、しばしば、実際の実験室合成経路の開発を不可能にし、発酵を、これらの薬学的および農学的に有用な薬剤の商業的生成のための唯一の実行可能な供給源とする。同時に、天然の生物学的供給源(主に、Actinomyces科の細菌)からポリケチドを産生するための拡張可能かつ経済的に実行可能な発酵プロセスを開発することに関連する試みは、膨大であり、そしてポリケチドの臨床前開発および臨床開発の間に最も深刻な隘路を示す。この実験室からの最近の研究によって、Escherichia coliにおいて機能的形態でポリケチドシンターゼモジュールを発現することが可能であることが、示された(Gokhale,R.S.ら、Science(1999)284:482−485)。しかし、E.coliまたはこれらのモジュール酵素を天然には産生しない他の宿主におけるポリケチド生合成のためにこれらのモジュール型酵素を利用するために、これらのモジュール型酵素の適切な基質を、インビボにて制御された様式で産生することもまた、必要である。例えば、代謝産物(例えば、アセチル−CoA、プロピニル−CoA、マロニル−CoA、およびメチルマロニル−CoA)が、これらの酵素の最も一般的な基質である。E.coliは、アセチル−CoA、プロピニル−CoA、およびマロニル−CoAを産生する能力を有するが、後者の2つの基質は、E.coli細胞で少量にしか存在せず、これらの生合成は、きつく制御されている。E.coliがメチルマロニル−CoAを合成する能力は、現在までに示されていない。
【0007】
類似する条件が、他の微生物細胞(特に、天然ではポリケチドを産生しない微生物細胞(例えば、Escherichia、Bacillus、Rhizobium、Pseudomonas、およびFlavobacteriumの種々の種))において有力である。従って、一般的に、必要な開始単位および/または伸長単位は、特定に任意の宿主において十分な量で産生されないかもしれない。さらに、問題のPKSのアシルトランスフェラーゼ(AT)ドメインの適切な選択によって、直前に記載した基質よりも複雑な基質が、使用され得る。例として、FK506の合成のためのPKSは、マロニル−CoAまたはメチルマロニル−CoAに優先してプロピルマロニル−CoAのような基質を組み込む、アシルトランスフェラーゼドメインを含む。任意の自由に選択した宿主生物において適切なレベルでこの範囲の基質を提供する方法を利用可能にすることが、有用である。
【0008】
原核生物宿主(特に、天然ではポリケチドを産生しない原核生物宿主)においてポリケチド産生をもたらす際に克服される必要があり得るさらなる問題としては、必要な開始単位および/または伸長単位を異化する酵素(例えば、E.coliのprpオペロンによってコードされる酵素)の存在が挙げられる。このprpオペロンは、この生物における炭素およびエネルギー供給源としての外来性プロピオネートの異化を担う。プロピオニルCoAを開始単位として利用し、そして/またはプロピオニルCoAのカルボキシル化産物であるメチルマロニルCoAを伸長単位として利用する、ポリケチドの産生を最適化するためには、プロピオニルCoAシンテターゼをコードする部分(E遺伝子座)を以外の、このオペロンの機能を停止させなければならない。開始単位または伸長単位の異化酵素をコードするあらゆるさらなる遺伝子座もまた、有利なように機能停止される。
【0009】
さらに、特定の原核生物宿主(例えば、E.coli)は、ポリケチドシンターゼの活性化に必要なホスホパンテテイニルトランスフェラーゼを欠損し得る。そのようなトランスフェラーゼを含むように宿主を改変することもまた、必要であり得る。
【0010】
いくつかのStreptomyces spp.における最近の研究によって、ポリケチド生産性に対するチオエステラーゼ様酵素の有益な影響が示された(Butler,A.R.ら、Chem.Biol.(1999)6(5);287−292;およびTang,L.ら、Chem.Biol.(1999)6(8)553−558)が示されている。これらの酵素のホモログ(チオエステラーゼIIまたはTEIIと呼ばれる)が、多くのマクロライドの生合成遺伝子クラスター中にコードされる。Saccharopolyspora erythraea TEIIの機構は不明確であり、これらの酵素が、ポリケチド生合成において編集の役割を果すことが、提唱されている(Butler(前出);およびHeathcote,M.L.ら、Chemistry & Biology(2001)8:207−220)。
【0011】
まとめると、微生物(特に原核生物)宿主(概して天然ではポリケチドを産生しない宿主を含む)において、ポリケチドの産生をもたらすことが、有利である。これらの後者の宿主は、しばしば、形質転換の容易さ、培養中で迅速に増殖する能力等に関して、天然のポリケチド産生株(例えば、Streptomyces)を超える利点を有する。これらの利点は、ポリケチドシンターゼのランダム変異誘発または遺伝子シャッフリングの結果を評価するのに特に有用である。従って、本発明は、ポリケチド産生のために微生物宿主を適合させるための、複数のアプローチを提供する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
(発明の開示)
1つの局面において、本発明は、普遍的に有用な宿主生物であるE.coliにおける、完全な複合ポリケチド産物である6−dEBの産生を初めて達成した。この結果を達成するために使用した方法は、概して微生物宿主(特に原核生物)に適合可能である。天然ではポリケチドを産生しない微生物宿主をそのような産生に適合させるために、および通常ポリケチドを産生する宿主におけるポリケチドの産生を増強するために、本発明が使用され得る。選択した宿主に依存して、必要な改変としては、ポリケチドシンターゼ遺伝子自体の発現系を、その生物中に組み込むこと;開始単位および/または伸長単位の異化酵素をコードする内因性遺伝子の機能停止;そのシンターゼの翻訳後修飾に必要な酵素(例えば、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ)を発現系中に組み込むこと;ならびに、開始単位および/または伸長単位のレベルを増強する酵素の組み込みが挙げられ得る。その宿主を適合させるために必要な改変の特定の組み合わせは、所望されるポリケチドの性質および宿主自体の性質に応じて変動する。
【0013】
従って、1つの局面では、本発明は、少なくとも1つのポリケチドの合成の増強のために遺伝子改変された、微生物宿主細胞に関する。ここで、この改変は、開始単位および/または伸長単位の産生を触媒するタンパク質を産生するため、ならびに/あるいは開始単位および/または伸長単位の少なくとも1つの内因性異化経路の機能停止のための、少なくとも1つの発現系の組み込みを包含する。特に好ましい実施形態において、これらの改変は、その宿主生物のゲノムにおいてなされる。なぜなら、このことは、ポリケチドの大規模産生のために有利であるからである。
【0014】
別の局面において、本発明は、生物(例えば、E.coli)において改変ポリケチドを生成するために、リファマイシンシンテターゼのA−Tローディングジドメインのための開始単位基質として使用される置換ベンゾエートを含む、ポリケチド産物の産生に関する。なお別の局面において、本発明は、どの置換ベンゾエート誘導体がA−Tドメインの実行可能な基質であるかを決定するためのスクリーニング方法を包含する。
【0015】
さらなる改変(例えば、少なくとも1つのポリケチドシンターゼタンパク質発現系の組み込み、および、そして必要に応じて、少なくとも1つのホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ発現系の組み込み)もまた、なされ得る。必要な場合は、合成ポリケチドのさらなる改変(例えば、ヒドロキシル化、グリコシル化など)のためのさらなる発現系もまた、使用され得る。また、TEIIの発現系が、使用され得る。また、必要というわけではないが、これらの発現系をその宿主のゲノム中に組み込むことが、しばしば有利である。
【0016】
他の局面では、本発明は、本発明の改変細胞において、ポリケチド(完全ポリケチドを含む)を調製する方法に関する。好ましい実施態様は、E.coliにおいて6−dEB、6−dEBアナログ、または他の完全ポリケチドを合成する方法である。
【0017】
さらに別の局面では、本発明は、E.coliの高い形質転換効率を利用することにより、ポリケチドシンターゼ遺伝子の遺伝子シャッフリングまたはランダム変異誘発の結果を評価する方法に関する。ポリケチド産生についてのアッセイもまた、企図される。
【0018】
(発明を実施する形態)
本発明の1つの例示的局面に関して、下記の例示的実施例において、エリスロマイシンのポリケチド前駆体である6−dEBの産生を行うように、E.coliが改変される。この合成に必要な3つのタンパク質であるDEBS1、DEBS2およびDEBS3は公知であり、そしてそれらをコードする遺伝子は、クローニングおよび配列決定されている。アベルメクチン、オレアンドマイシン、エポチロン(epothilone)、メガロマイシン(megalomycin)、ピクロマイシン、FK506、FK520、ラパマイシン、タイロシン、スピノサド(spinosad)などのポリケチド前駆体を産生する酵素をコードする遺伝子を含む、複数のさらなるPKS遺伝子も同様に、クローニングおよび配列決定されている。さらに、産生されるポリケチドの性質を変えるように、ネイティブのPKS遺伝子を改変する方法が、記載されている。ハイブリッドモジュール型PKSタンパク質の産生および合成系が、米国特許第5,962,290号において記載されそして特許請求されている。効率的なジケチドの組み込みを可能にするようにPKS酵素を改変する方法が、米国特許第6,080,555号に記載されている。個々のドメインまたはドメイン群を混合および整合化することによってPKS酵素を改変する方法が、米国特許出願番号09/073,538に記載されている。特定の開始単位または伸長単位を組み込むために、モジュール型PKSのモジュールの特異性を変化させる方法が、現在特許化されている米国特許出願番号09/346,860に記載されている。ポリケチドへの組み込みのためのジケチドを調製する改良方法が、米国特許出願番号09/492,733に記載されている。モジュール間のポリケチド鎖合成を媒介する方法が、米国特許出願番号09/500,747に記載されている。前述の特許および特許出願の内容は、本明細書中で参考として援用される。
【0019】
従って、そのようなシンターゼに含まれるタンパク質に適切な発現系を選択された宿主に組み込むことによって、可能性のある多くのポリケチドシンターゼのいずれか1つを含むようにその選択された宿主を改変し得る。望ましい産物に依存して、完全なシンターゼまたは部分的なシンターゼのいずれかが供給され得る。その宿主がポリケチドシンターゼを天然で産生し、そして通常産生されるポリケチドとは異なるポリケチドが望まれる場合には、ネイティブのPKSをコードする遺伝子を欠失させることが望ましくあり得る。そのような欠失の方法が、米国特許第5,830,750号に記載されており、この特許は本明細書中で参考として援用される。
【0020】
天然ではポリケチドを産生しない宿主に関しては、ポリケチドシンターゼを調整する酵素が欠失または欠損しており得るので、ポリケチドシンターゼ自体の発現系を供給することに加えて、これら酵素の発現系を供給することが必要であり得る。PKSの活性に必須である1つの酵素は、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼである。これらのトランスフェラーゼをコードする遺伝子は、クローニングされており、そして入手可能である。これらは米国特許出願第08/728,742号において記載されており、それは例えばカナダ出願2,232,230において現在公開されている。これら文書の内容は、本明細書中で参考として援用される。
【0021】
特定の選択された宿主は、所望の開始単位および/または伸長単位を異化するタンパク質を産生する遺伝子を天然に含み得る。そのような宿主が選択される場合、そのような異化作用を触媒するタンパク質の産生を無効にすることが有利であり得る。なぜなら、本発明の重要な局面は、必要な開始単位および/または伸長単位のレベルが増強されるように宿主を改変することだからである。異化作用系の1つの非限定的な例としては、prpオペロンが挙げられ、ここで、サブユニットA〜Dによってコードされるこのタンパク質は、外因性プロピオネートを異化する。しかし、prpEによってコードされる酵素が望ましい。なぜなら、これは、プロピオニルCoAシンテターゼであるからである。異化作用酵素をコードするオペロンの部分は、改変E.coli中で有利に無効にされる。他の宿主中の類似のオペロンが、必要である場合、無効にされ得る。
【0022】
プロピオネート異化作用またはプロピオネート同化作用を実行し得ない細胞中で、標識されたプロピオネートを添加し、そしてそれを産生されたポリケチドから分離することによって、ポリケチド産生を決定するためのアッセイが、使用され得る。
【0023】
本発明の1つの局面は、開始単位および/もしくは伸長単位の産生を増強または可能にする酵素、ならびにこれらの産生酵素の活性化に必要とされる任意の酵素を、これらのタンパク質のための発現系を含むように細胞を改変することによって、その細胞中に組込む。上記のように、これらの発現系は、染色体外の複製ベクターとして供給され得るが、好ましくは、宿主ゲノム中に組込まれる。ゲノムに組込まれた場合、選択圧に対する要求が緩和され、そして安定な産生生物が得られる。
【0024】
この局面の1つの例示的な実施形態において、matABCオペロン(これは、Rhizobium trifoliから近年クローニングされた(An,J.H.ら、Eur.J.Biochem.(1988)15:395−402))を利用する。このオペロンは、ポリケチドの合成に一般的に使用される伸長単位および開始単位の両方の産生を可能にする酵素を提供する。これは通常、マロニル−CoAおよびアセチル−CoAの産生を生じるが、コードされる酵素の特異性は、厳密ではなく、ゆえに、例えば、ピロピオニル−CoAおよびメチルマロニル−CoAもまた、産生され得る。この特定のオペロンは、例示のためのみに使用され、そして匹敵する酵素をコードする遺伝子が、複数の他の生物中に見出され得る。当業者は、公に利用可能なデータベースにおける相同性検索を介して、このような酵素にアクセス可能である。従って、本発明のこの局面は、Rhizobium trifoli由来のmatABCオペロンのみに限定されるとみなされるべきではなく、他の生物から利用可能な匹敵する系まで及ぶ。
【0025】
このオペロンによってコードされる3つのタンパク質が存在する。
【0026】
MatAは、マロニル−CoAデカルボキシラーゼをコードし、これは、通常、反応:
マロニル−CoA→アセチル−CoA+CO2
を触媒する。
【0027】
MatBは、マロニル−CoAシンテターゼをコードし、これは、反応:
マロン酸+CoASH→マロニル−CoA(ATP依存性反応)
を触媒する。
【0028】
MatCは、細胞膜を横切るマロン酸の輸送を担うと考えられるマロン酸輸送体をコードする。
【0029】
これらの酵素は、示される反応を触媒するそれらの能力において、基質に関していくらか無差別的であることが、本明細書中で実証されている。従って、基質としてマロニル−CoAおよびマロン酸(それぞれ、MatAおよびMatBに対して)に加えて、これらの酵素はまた、メチルマロニル−CoAおよびメチルマロン酸;エチルマロニル−CoAおよびエチルマロン酸;プロピルマロニル−CoAおよびプロピルマロン酸なども利用し得る。従って、これらの酵素を使用して、所望のポリケチドの合成のための種々の開始単位および伸長単位を提供し得る。
【0030】
上記のように、このオペロンのホモログもまた、意図される。例えば、S.coelicolor(GenBank登録番号AL163003)由来のmatBおよびmatCのホモログを使用し得る。
【0031】
プロピオニルCoAカルボキシラーゼをコードする遺伝子もまた、伸長単位の供給に有用である。この活性の1つの例において、カルボキシラーゼ酵素は、Rodriguez,E.ら、Microbiology(1999)145:3109−3119によってStreptomyces coelicolor A3から特徴付けられた、pccB遺伝子およびaccA2遺伝子によってコードされるダイマーである。accA2遺伝子およびpccB遺伝子のホモログを用いて2S−メチルマロニルCoAを作製する方法もまた、意図される。この場合accA1遺伝子によって天然にコードされるビオチンリガーゼが、これらのタンパク質の活性化に必要とされる。代替のビオチンリガーゼもまた、使用され得る。この酵素に対する代表的な基質は、メチルマロニル−CoAに転換されるプロピオニル−CoAである;
プロピオニル−CoA+CO2→メチルマロニル−CoA(ATP依存性反応)
として要約される反応。
【0032】
他のアシル−CoA基質もまた、この酵素およびそのホモログによって対応するマロニル−CoA産物に転換され得る。また、これらの遺伝子のホモログは、公に利用可能なデータベースにおける標準的な検索技術を用いて、当業者によって容易に見出され得る。特に、ビオチンリガーゼは、必ずしもカルボキシラーゼ自体と同じ遺伝学的補体に由来する必要はない。
【0033】
ポリケチドの産生に有効である改変宿主細胞を提供することに加えて、ポリケチド合成、その活性化酵素、ならびに開始単位および/または伸長単位を提供する酵素を、インビトロ系で使用して、所望のポリケチドを産生し得る。例えば、matABCオペロンによってコードされるような酵素マロニル−CoAデカルボキシラーゼおよび/もしくはマロニル−CoAシンテターゼ、ならびに/または、pccB遺伝子およびaccA2遺伝子によってコードされるようなプロピオニル−CoAカルボキシラーゼを、インビトロ培養で使用して、所望のPKSに対する適切な伸長単位および開始単位に前駆体を転換し、無細胞培養系またはインビトロ細胞培養系においてポリケチドを合成させ得る。精製MatBは、ポリケチドの調製無細胞産生に対して特に有利に使用される。なぜなら、CoAチオエステルが、このような無細胞合成系において最も高価な成分だからである。あるいは、上記のように、これらの遺伝子は、(任意の適切な組合せにおいて)これらの基質の培養物における細胞による産生に関する一般的なストラテジーに使用される。MatBおよびMatCは、任意のα−カルボキシル化CoAチオエステルの産生をもたらすために使用され得、ここで、対応する遊離酸は、MatBによって基質として認識され得る。MatAタンパク質はまた、開始単位(例えば、アセチル−CoAおよびプロピオニル−CoA)をインビトロレベルまたはインビボレベルで補充するために使用され得る。プロピオニル−CoAカルボキシラーゼをコードする遺伝子もまた、インビボにおいて適切な伸長単位を合成するための酵素を提供するために使用され得る。
【0034】
この宿主は、さらなる支持を与える他の酵素(例えば、ビオチンリガーゼbirA)のレパートリーを有し得る。
【0035】
一般的に、本発明は、ポリケチド合成において有用な伸長単位および/または開始単位を含む微生物を提供することを意図し、ここで、この宿主は、効率的な合成には不十分な量のこれらの物質を産生するか、または検出可能な量のそれらを少しも産生しないかのいずれかである。例えば、E.coliは、検出可能な量のS−メチルマロニルCoA(6dEB生合成において必要とされる中間体)を産生しない。従って、本発明は、1つの局面において、特に、S−メチルマロニルCoAを含むように改変されたE.coliに関する。同様に、他の生物が、さらなるポリケチド中間体(例えば、ポリケチドへの組み込みのための適切な立体化学の、エチルマロニルCoA、メトキシマロニルCoAまたはヒドロキシマロニルCoA)を含むように改変される。これらの宿主は、これらのポリケチドシンターゼ基質の存在か、またはこれらのポリケチドシンターゼ基質の増大したレベルのいずれかによって、その未改変形態から区別され、そして関連するポリケチドを合成するその能力の獲得によってか、または関連するポリケチドを増大したレベルで合成するその能力の獲得によってこれらの改変を含むことが評価され得る。
【0036】
1つの一般的な局面において、本発明は、増強したレベルのPKS基質を含むか、または未改変宿主が検出可能なレベルを含まない場合はPKS基質自体を含む、改変宿主生物に関する。
【0037】
本発明はまた、ポリケチド(微生物宿主における完全な複合体ポリケチドを含む)の産生を増強または可能にするための方法を含み、この方法は、そのポリケチドの構築において使用される開始単位および/または伸長単位の産生を増強または可能にする酵素についての少なくとも1つの発現系と共に提供される改変宿主を培養する工程を包含する。「完全な」ポリケチドは、抗生物質の基礎を形成するポリケチドであり、例えば、エリスロマイシン、メガロマイシンなどに対する前駆体であるポリケチドである。提供される酵素としては、他の生物中のmatABCオペロンおよびそれらのホモログによってコードされる酵素、ならびに他の生物中のプロピオニルカルボキシラーゼをコードするpccB遺伝子およびaccA2遺伝子(およびaccA1)およびそのホモログによってコードされる酵素が挙げられるが、これらに限定されない。別の局面において、本発明は、無細胞系に対してこれらの酵素のうちの1つ以上を提供することによって、この無細胞系においてポリケチドの産生を増強または可能にする方法に関する。
【0038】
本発明はまた、これらの酵素を産生するように改変された細胞、およびこれらの細胞を用いてポリケチドを産生する方法、ならびに無細胞系を用いてポリケチドを産生する方法に関する。
【0039】
本発明はまた、内因性酵素(これは、その基質を開始単位または伸長単位に転換する)に対する基質で培地を補充することによって、微生物系におけるポリケチドの産生を増強または可能にするための方法を含む。
【0040】
本発明はまた、ポリケチド産生を補助するための改変(例えば、必要とされる基質の異化作用のためのタンパク質をコードする内因性遺伝子の排除)を含む微生物宿主中でこれらの細胞に合成前駆体(例えば、ジケチド前駆体)を供給することによって、ポリケチドを産生するための方法を含む。
【0041】
産生されるポリケチドは、PKSによって通常産生されるポリケチドであり得、そして天然に存在し得る;この場合、インビボにおいて開始/伸長産生増強酵素をコードする遺伝子の存在または無細胞系における酵素自体の存在は、単純に産生レベルを増強し得る。さらに、このPKSは、新規ポリケチドを生成するように設計された改変PKSであり得、その産生は、類似の様式で増強され得る。広範囲の基質を受け入れる本明細書中に記載される酵素の能力に起因して、伸長単位および開始単位は、広範囲の容易に利用可能な試薬に基づいて提供され得る。上記のように、ジケチド開始材料もまた、供給され得る。
【0042】
従って、本発明はまた、そのポリケチドの産生を可能または増強するための上記の微生物宿主の種々の他の改変、およびこのような宿主を用いてポリケチドを産生する方法を含む。
【0043】
E.coliおよび他の原核生物(例えば、Bacillus)のような宿主中でポリケチドの産生を可能にするようにそのような宿主を改変する能力は、非常に有利であり、これらのうちの多くは、E.coliの固有の性質にある。1つの重要な利点は、天然にポリケチドを産生する他の微生物と比較して、E.coliが形質転換され得る容易さにある。この形質転換の容易さの1つの重要な適用は、ポリケチドシンターゼの遺伝子シャッフリングの結果を評価する際にある。従って、本発明のさらなる局面は、ポリケチドシンターゼ遺伝子シャッフリングの結果を評価するための方法に関し、この方法は、本発明に従って改変されたE.coliの培養物を、シャッフリングされたポリケチドシンターゼの混合物でトランスフェクトする工程、および個々のコロニーを培養する工程を包含する。ポリケチドを産生するこれらのコロニーは、好首尾にシャッフリングされた遺伝子を含む。
【0044】
ポリケチドを産生するために微生物宿主(特に、原核生物宿主)を改変することに加えて、これらの宿主は、さらに改変されて、ポリケチドを「調整(tailor)」し、そしてそれらの抗生物質への転換をもたらす酵素を産生するように改変され得る。このような調整反応としては、グリコシル化、酸化、ヒドロキシル化などが挙げられる。1つ以上のポリケチド改変酵素(例えば、p450、糖生合成および糖転移、ならびにメチルトランスフェラーゼに関するもの)を含むように改変された生物(特に、E.coli)もまた意図される。
【0045】
宿主の性質に関して、E.coliが、重要な例示として使用される。しかし、種々の原核生物宿主もまた、有用であり得る。例えば、E.coliに加えて、Bacillus、Salmonella、Rhizobium、Pseudomonasおよび一般にグラム陰性細菌が、有用である。他の原核生物が使用され得、そして真核生物微生物(例えば、酵母)さえも使用され得る。例えば、産生生物としてSaccharomyces cerevisiaeを使用する利点は、周知である。さらに、ポリケチドを天然に産生するStreptomycesのような生物が、宿主として使用され得る。なぜなら、これらの生物におけるポリケチドの産生は、本発明の方法によって増強され得るからである。これは、特に、ポリケチドを天然に産生する宿主が、代替の伸長単位または代替の開始単位を組込むように改変された場合である。この場合、たとえ宿主が天然にポリケチドを産生するとしても、この宿主は、改変PKSに対してここで必要とされる検出可能なレベルの開始単位および/または伸長単位を有し得ない。
【0046】
当業者に明らかなように、天然に産生されない開始単位および/または伸長単位のレベルを増強する様式の正確な性質あるいは天然に産生されない開始単位および/または伸長単位の使用可能な量を提供する様式の正確な性質は、必要とされる開始単位および/または伸長単位の性質に依存する。代表的に、最も複雑なポリケチドは、適切な立体化学の少なくともマロニルCoAまたはメチルマロニルCoAを必要とする。さらなる型の置換マロニルCoA誘導体が、特定の例において必要とされ得る。このような基質の産生に対して酵素を提供するための発現系の適切な選択または所望の基質を異化し得る内因性酵素の不活性化は、合成されるポリケチドの性質および宿主の性質に依存する。実際、いくつかの例において、代表的に、合成酵素に対して必要な発現系は、異種供給源から提供されるが、ネイティブな宿主は、それ自体、適切な酵素をコードする遺伝子(ここで、これらの遺伝子は発現されない)を含み得る。この1つの例は、E.coliにおける「スリーピングビューティ(sleeping beauty)」オペロンである。
【0047】
微生物宿主中でポリケチドの産生を得るために、ポリケチドの合成をもたらす酵素を誘導する前に、培養物の実質的な増殖を可能にすることが好ましい。従って、天然にポリケチドを産生しない宿主において、PKS遺伝子に対して必要とされる発現系は、誘導可能なプロモーター(例えば、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)によって誘導される、T7プロモーター)の制御下に配置される。種々のこのような微生物宿主中で誘導可能である適切なプロモーターが多量に存在する。ポリケチド産生と適合性である条件下で誘導性であり、かつ示唆される特定の宿主に対して適切であるプロモーターを、当業者は認識する。改変宿主の他の有利な特徴(例えば、開始因子または伸長因子を合成する能力)もまた、誘導性制御の下であり得る。最終的に、ポリケチドシンターゼのための出発材料に対する前駆体は、合成が所望されるまで使用され得ない。従って、例えば、出発材料がピロピオネートから誘導される場合、プロピオネートは、細胞培養の間の任意の所望の時点で供給され得る。ジケチド出発材料またはトリケチド出発材料が使用される場合、これもまた、適切な時間まで使用され得ない。前駆体の添加前、最少培地が使用され得、そして代替の炭素源が、増殖のためのエネルギーおよび材料を供給するために使用され得る。
【0048】
物質(例えば、ポリケチド)の産生のタイミングを制御することの利点は、周知である。代表的に、そのような二次代謝物の合成のためのエネルギーおよび代謝産物の要求の増大は、急速に増殖するその生物の能力を減少させる。従って、二次代謝物の産生を誘導する前に生物に指数増殖を起こさせることが有利である。
【0049】
ポリケチドシンターゼに対して有用なレベルの基質または増強されたレベルの基質を提供するために、本発明の方法を適用したことの成功は、産生されるポリケチドのレベルまたは速度によって好都合に測定され得る。従って、本発明の方法は、ポリケチドの産生レベルを、宿主が同じ条件下で改変されていない場合の産生と比較して、少なくとも5%、より好ましくは10%、より好ましくは25%、そしてより好ましくは少なくとも50%増強する。
【0050】
上記のように、本発明は、任意の自由裁量によって選択されたポリケチドのインビトロ合成およびインビボ合成の両方のための方法を提供し、ここで、インビボ合成は、任意の微生物宿主、特に原核生物宿主中で実行され得る。原核生物宿主は、代表的に、Bacillus属、Pseudomonas属、Flavobacterium属、より代表的にはEscherichia属、特に、E.coliである。インビトロ合成またはインビボ合成が使用されるか否かにかかわらず、1つ以上の適切なポリケチドシンターゼ(これは、ネイティブであっても、改変されていてもよい)、開始単位および/または伸長単位を産生するための1つ以上の酵素(代表的に、遊離酸をCoA誘導体に転換することを含む)、そして上記の酵素が宿主中で産生される場合、それらを活性化するために酵素を調整することを提供することが必要であり得る。さらに、インビボ合成に関して、そうでなければ適切な出発材料を破壊してしまう異化酵素を無力にすることが必要であり得る。
【0051】
出発材料の産生に関して、matABCオペロンの遺伝子およびプロピオニルカルボキシラーゼをコードする遺伝子を使用して、無細胞ポリケチド合成における使用のためにそれらにコードされるタンパク質を産生し得、そしてまた、細胞培養物中でポリケチドの産生のために組換え宿主を改変し得る。これらの遺伝子およびこれらの対応するコードされる産物は、そのような合成がもたらされるべきである任意の宿主においてポリケチドシンターゼに対する基質の最適なレベルを提供するのに有用である。この宿主は、ポリケチドおよびその対応する抗生物質を天然に産生する宿主であり得るか、またはこの宿主は、いかなるポリケチドも天然に産生しないかもしくは通常作製されないポリケチドを産生するように改変された、組換え改変された宿主であり得る。従って、ポリケチドの合成に有用である微生物宿主としては、種々の株のStreptomyces(特に、S.coelicolorおよびS.lividans)、種々の株のMyxococcus、産業的に望ましい宿主(例えば、E.coli、Bacillus、Pseudomonas、またはFlavobacterium)、および酵母のような他の微生物が挙げられる。これらの遺伝子およびこれらの対応するタンパク質は、一般的にポリケチド合成に対する基質レベルを調整する際に、有用である。
【0052】
本発明の方法を使用して、微生物による特定のポリケチドの産生を増強し得る。微生物が天然にポリケチドを産生しないが、開始単位および/または伸長単位を提供する本発明の方法を伴なわない組み換え操作によってのみ関連するPKS遺伝子を含む場合、ポリケチドの産生は、全く進行し得ない。従って、増強は、本質的に無限である(ただ単に基礎が0であるから)。しかし、検出可能なレベルのポリケチドが産生される場合(事前の改変によってか、またはその微生物がそれらを天然に産生し得るからのいずれか)、本発明の方法は、産生レベルを少なくとも5%、好ましくは25%、より好ましくは50%、より好ましくは100%、200%、5倍、10倍、100倍または200倍増強する。産生されるポリケチドのレベルにおける極度に広範なバリエーションが、開始点および作製される改変に依存して利用可能である。
【0053】
(基質特異性およびポリケチド設計)
これらの遺伝子およびそれらの産物は、ある範囲の出発材料を利用する酵素の能力に起因して特に有用である。従って、一般的に、プロピオニルカルボキシラーゼは、式R2−CH−CO−SCoA(ここで、各Rは、Hまたは必要に応じて置換されるアルキルまたは必要に応じて置換される他のヒドロカルビル基である)のチオエステルを、式R2C(COOH)COSCoAの対応するマロン酸チオエステルに転換する。天然の補酵素Aチオエステルに加えた他のチオエステル(例えば、N−アシルシステアミンチオエステル)もまた、使用され得る。同様に、matB遺伝子の産物は、式R2C(COOH)2のマロン酸誘導体を対応するアシルチオエステルに転換し得る(ここで、各Rは、独立して、Hまたは必要に応じて置換されたヒドロカルビルである)。好ましい出発材料は、Rがアルキル(1〜4C)であり、好ましくはRCH(COOH)2である。インビボ系において、出発マロン酸関連材料の膜輸送を確実にするためにmatC遺伝子を含むことが有利であり得る。matA遺伝子は、式R2C(COOH)COSCoAのマロニルCoA基質を、開始単位としての使用のための式R2CHCOSCoAの対応するアシル−CoAに転換するタンパク質をコードする(ここで、Rは、上記のように規定される)。
【0054】
代表的に、上記で参照されるヒドロカルビル基は、1〜8C、好ましくは1〜6C、より好ましくは1〜4Cのアルキル基である。このアルキル基は、直鎖であっても分枝鎖であってもよいが、好ましくは直鎖である。ヒドロカルビル基はまた、不飽和を含み得、そしてさらに、ハロ、ヒドロキシル、メトキシルまたはアミノ、またはメチルアミノもしくはジメチルアミノなどの置換基を含み得る。従って、ヒドロカルビル基は、式CH3CHCHCH2;CH2CHCH2;CH3OCH2CH2CH2;CH3CCCH2;CH3CH2CH2CH2CH2;などのヒドロカルビル基であり得る。
【0055】
本発明の方法および材料によってさらに調製されるのは、式
ROCH(COOH)COSCoA
(ここで、Rは、上記のように規定される)の伸長単位である。
【0056】
置換アルキル基はまた、その骨格鎖が1〜8C、好ましくは1〜6Cであり、より好ましくは1〜4Cである。アルケニルヒドロカルビル基およびアルキニルヒドロカルビル基は、2〜8C,好ましくは2〜6C、より好ましくは2〜4Cを含み、そしてまた、分枝鎖であっても直鎖であってもよく、好ましくは直鎖である。
【0057】
出発材料として適切なジケチドを供給することによって、さらなる変動性が得られ得る。ジケチドは、一般的に、米国出願番号09/311,756(1999年5月14日出願され、本明細書中に参考として援用される)に記載されるような式のものである。次いで、種々の置換基が導入され得る。従って、このジケチドは、一般式R’CH2CHOHCR2COSNAc(ここで、Rは上記のように規定され、そしてR’はアルキル、1〜8C、アリール、アリールアルキルなどであり得る)のジケチドである。SNAcは、N−アセチルシステアミンのチオエステルを表すが、代替のチオエステルもまた、使用され得る。
【0058】
ポリケチドのインビボ産生またはインビトロ産生のいずれかに関して、所望の特異性を有するアシルトランスフェラーゼドメインは、関連するPKSへと組み込まれ得る。ATドメインの適切な特異性を保証する方法は、1999年7月2日に出願された米国特許出願番号第09/346,860号(その内容は本明細書中で参考として援用される)に詳しく記載されており、所望の特異性を有するそのようなドメインをどのように作成および使用し得るかが記載されている。また、成長するポリケチド鎖の1つのモジュールから次のモジュールへの適切な移動を保証することによって、ポリケチドシンターゼモジュール有効性を媒介する方法も、インビトロにおけるこれら酵素の、またはインビボにおける遺伝子の使用に関連する。そのような方法は、2000年2月9日に出願された米国特許出願番号第09/500,747号に詳しく記載されており、その内容は、その全体が本明細書中で参考として援用される。
【0059】
置換したベンゾエートが、開始単位として作用し得るかを決定する際の予備的な事として、ローディングモジュールのアデニル化活性およびチオール化活性は、インビトロで再構成され、そしてコエンザイムAに依存しないことが示されており、このことは、このローディングモジュールが、実施例7に示されるコエンザイムAリガーゼであるという文献の提唱に反する。ローディングモジュールの共有結合性のアリール化についての動力学的パラメーターは、実施例8に記載されるように、非天然の基質ベンゾエート(B)および3−ヒドロキシベンゾエート(3−HB)について直接測定された。この分析は、実施例9および10に記載されるように、競合実験を介して拡張されて、一連の置換されたベンゾエートの取り込みの相対速度を決定する。この実験における結果は、ローディングモジュールが、種々の置換されたベンゾエートを受容し得るが、生物学的基質が最もよく似ている3−置換ベンゾエート、5−置換ベンゾエート、および3,5−二置換ベンゾエートについて優先度を示すことを示す。リファマイシンシンテターゼのローディングモジュールの顕著な基質耐性は、このモジュールが、天然の産物の置換された誘導体を生成するためのツールとして有用であることを示唆する。
【0060】
置換されたベンゾエートは、任意の置換基を含むベンゾエート分子として規定される。ベンゾエート基質は、リファマイシンシンターゼのA−Tドメインをプライムするか、さもなければ、ローディングモジュールへの開始単位(starter unit)としてか、またはシンターゼもしくはシンテターゼのモジュールへの伸長単位(extender unit)として、取り込まれ得る。好ましいベンゾエート基質としては、3−置換ベンゾエート、5−置換ベンゾエート、および3,5−二置換ベンゾエートが挙げられる。より好ましくは、このベンゾエートは、以下からなる群より選択される:2−アミノベンゾエート、3−アミノベンゾエート、4−アミノベンゾエート、3−アミノ−5−ヒドロキシベンゾエート、3−アミノ−4−ヒドロキシベンゾエート、4−アミノ−2−ヒドロキシベンゾエート、3−ブロモベンゾエート、3−クロロベンゾエート、3,5−ジアミノベンゾエート、3,5−ジブロモベンゾエート、3,5−ジクロロベンゾエート、3,5−ジフルオロベンゾエート、2,3−ジヒドロキシベンゾエート、3,5−ジヒドロキシベンゾエート、3,5−ジニトロベンゾエート、3−フルオロベンゾエート、2−ヒドロキシベンゾエート、3−ヒドロキシベンゾエート、4−ヒドロキシベンゾエート、3−メトキシベンゾエート、3−ニトロベンゾエート、および3−スルホベンゾエート。
【0061】
CoAがTドメインのアリール化に必要とされず、そしてベンゾイルCoAが、このプロセスの中間の成分ではないという観察は、NRPS様A−Tジドメインとして、リファマイシンシンテターゼのローディングモジュールを確立する(図2B)。
【0062】
リファマイシンシンテターゼのローディングモジュールが、NRPS様A−Tジドメインとして機能するという結論は、他の系に密接な関係を有する。ラパマイシン(Lowden,P.A.S.ら、Anges.Chem.Int.Ed.Engl.(1996)35:2249−2251)、FK506(Motamedi,H.ら、Eur.J.Biochem.(1998)256:528−534)、アンサトリエニン(ansatrienin)(Chen,S.ら、Eur.J.Biochem.(1999)261:98−107)、FK520(Wu,K.ら、Gene(2000)251:81−90)、ミクロシスチン(microcystin)(Tillett,D.ら、Chem.Biol.(2000)7:753−764)、およびピマリシン(Aparicio,J.F.ら、Chem.Biol.(2000)7:895−905)についての生合成遺伝子クラスターの全ては、リファマイシンシンテターゼのA−Tジドメインに相同性を有するローディングモジュールをコードする。しかし、これらの系のいくつかは、活性化CoA基質(恐らく、図2Aに示される機構に類似するCoAリガーゼ機構を介して生成される)により、プライムされることが提唱されている。(Schwecke,T.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1995)92:7839−7843;Motamedi,H.ら、Eur.J.Biochem.(1998)256:528−534;Moore,R.,E.ら、J.Am.Chem.Soc.(1991)113:5083−5084)。これらの系のプライミングについてより可能性のある機構は、リファマイシンシンテターゼについて有効なアデニル化−チオール化機構である。
【0063】
図2に示される機構は異なるが、関与する化学は、本質的に同じである。両方の場合、AHBの活性化は、アリール−アデニル化を介して生じ、そして唯一の差異は、Tドメインのアリール化の前に、AHBのCoAへの中間の移動が存在するか否かである。Tドメインのホスホパンテチン補因子は、CoAに由来するので、TドメインおよびCoAのチオールの求核試薬は、化学的に等価である。従って、酵素が、ホスホパンテチン補因子として、CoAの求核末端の共有結合的取り込みによって、単純に、CoAリガーゼからA−Tジドメインへと発展し得る方法を想像することは困難ではない。恐らく、アリール基質部分を、アリール−CoAとして非共有結合的に結合する代わりに、Tドメインを介してシンテターゼに対して、共有結合的につなぐことの利点が存在する。それにもかかわらず、アリール−CoAリガーゼは、植物界におけるポリケチド合成に関与することが知られており(例えば、Beerhues,L.,FEBS Lett.(1996)383:264−266;Barillas,W.ら、Biol.Chem.(2000)381:155−160を参照のこと)、そしてベンゾイル−CoAは、エンテロシン(enterocin)を生成する反復性のII型PKSの基質であるようである(Hertweck,C.ら、Tetrahedron(2000)56:9115−9120)。
【0064】
この研究の前に、AHB、3−HB、および3,5−ジヒドロキシベンゾエートは、A−Tジドメインの基質であることが知られていた(Hunziker,D.ら、J.Am.Chem.Soc.(1998)120:1092−1093)。11個のさらなる基質(ベンゾエート(B)を含む)は、本明細書中で同定された(表1)。以前の研究は、選択的に置換されたベンゾエートについてのリファマイシンシンテターゼのA−Tジドメインの基質耐性が、関連する細菌ベンゾイル−CoAリガーゼ(Geissler,J.F.ら、J.Bact.(1988)170:1709−1714;Altenschmidt,U.,J.Bact.(1991)173:5494−5501);およびEntE(Rusnak,R.ら、Biochemistry(1989)28:6827−6835)(腸内バクトリンシンテターゼの成分である単体のAドメイン)により、ある程度まで共有されることを示唆する。これらのタンパク質は、それらの生物学的基質に加えて、いくつかの選択的に置換されたベンゾエートを受容し得る。
【0065】
詳細な分子レベルでのA−Tジドメインについての基質特異性の結果の分析は、このローディングモジュールの結晶構造を待つが、いくつかの予備的な観察は、表1の基質スクリーニングの結果および相対的反応性データに基づいてなされ得る。2−アミノベンゾエートおよびBを除いて、3−置換基、5−置換基、または3−および5−置換基を有するベンゾエートのみが、A−Tジドメインについての基質である。生物学的基質AHBの3−アミノ置換基および5−ヒドロキシ置換基に適応する結合部位はまた、明らかに、これらの位置で代替の置換基に適応し得る。3−スルホベンゾエート、3−ニトロベンゾエート、および3,5−ジニトロベンゾエートは、立体的な理由から基質として拒否されるようであった(図7)。なぜならば、スルホ置換基およびニトロ置換基の両方は、AHBのアミノ置換基およびヒドロキシ置換基よりも有意に大きいからである。これに関して、3−メトキシベンゾエートが、弱い基質ではあるが、基質として受容されることは驚きである。なぜならば、メトキシ置換基もまた、AHBのいずれかの置換基よりも有意に大きいからである。3−フルオロベンゾエートおよび3,5−ジフルオロベンゾエートは、それらのクロル化対応物およびブロモ化対応物に関して5個および30個の因子により、識別される(表1)。フッ化の際の芳香族環の電子特性の変化は、これらの差異を説明し得る。フェニルアセテートおよび3−ヒドロキシフェニルアセテートは、対応するベンゾエート、B、および3−HBの反応性にもかかわらず、A−Tジドメインにより、基質として利用されないようである(表1)。この結果は、カルボキシレートの登録が、その反応性の決定要因であることを示唆する。なぜならば、フェニルアセテートのカルボキシレートは、ベンゾエートに対して、1つのメチレン基によって置換されているからである。置換されたベンゾエートが、この研究において推定の基質として標的化されたことに注目すべきである;置換されたベンゾエートについてのA−Tジドメインの耐性が、他の型の芳香族置換基(例えば、ヘテロ環)に広がる可能性は、試験されるべきであるままである。
【0066】
置換されたベンゾエートについてのリファマイシンシンターゼのローディングモジュールの顕著な基質耐性は、タンパク質工学を通じた非天然の天然物の産生に対して密接な関係を有する。6−デオキシエリスロノライド(deoxyerythronolide)B PKSの内因性ローディングモジュールは、最近、アベルメクチンPKSのローディングモジュールにより置換され、そして得られたハイブリッドシンターゼは、アベルメクチンファミリーに特徴的な分枝した開始単位を組み込まれたエリスロマイシン誘導体を産生した(Marsden,A.F.ら、Science(1998)279;199−202)。同様に、本来の生成物の置換された誘導体を生成する目的として、他のシンターゼまたはシンテターゼにリファマイシンシンテターゼのA−Tジドメインを付加することにより、リファマイシンシンテターゼのA−Tジドメインの乱雑さのプライミングを開発することが本発明に従って意図される。
【0067】
最終的に、NRPS様A−Tジドメインとしてリファマイシンシンテターゼのローディングモジュールのこの初期の特徴付けは、この系におけるハイブリッドNRPS/PKSインターフェースの研究のための準備を整える。リファマイシンシンテターゼのNRPS様ローディングモジュールおよびPKSモジュール1を(シスまたはトランスで)組合わせる、生化学的研究は、NRPS/PKS生合成インターフェースに関する機能的問題および構造的問題を扱うことを可能にするべきである。
【0068】
様々なPKSをコードするヌクレオチド配列は、望ましいPKSの産生、およびマクロライド後(postmacrolide)変換に有用なタンパク質、およびその改変型を産生する組換え手順での、その使用を可能にする。例えば、エリスロマイシンの産生に関連する遺伝子のヌクレオチド配列が、米国特許第6,004,787号および米国特許第5,998,194号に;アベルメクチンに関しては米国特許第5,252,474号に;FK506に関しては米国特許第5,622,866号に;リファマイシンに関してはWO98/7868に;スピラマイシンに関しては米国特許第5,098,837号に開示されている。これらは単なる例である。望ましいコード配列の一部、または全てを、Jayeら、J.Biol.Chem.(1984)259:6331で記載されたような、そして例えばApplied Biosystems,Inc.から市販の、標準的な固相合成法を用いて合成し得る。
【0069】
特定の活性をコードするPKSの部分を単離し、そして例えば異なるモジュール型PKSにおける対応する領域を置換するためにそれを使用することによって操作し得る。さらに、PKSの個々のモジュールを、適切な発現系にライゲーションして、そしてオープンリーディングフレームによってコードされるタンパク質の一部を産生するために使用し得る。次いで、タンパク質を単離および精製し得るか、またはポリケチド合成をもたらすためにインサイチュで使用し得る。モジュールもしくは全オープンリーディングフレーム、またはオープンリーディングフレームの組み合わせの組換え産生についての宿主に依存して、プロモーター、終止配列、エンハンサー等のような適切な制御配列を、望ましいタンパク質をコードするヌクレオチド配列にライゲーションする。様々な宿主に関して適切な制御配列が、当該分野で周知である。
【0070】
これらのヌクレオチド配列の利用可能性が、適切な酵素についての適切な発現系を含むように改変された宿主細胞を用いた、新規ポリケチドおよびその対応する抗生物質の産生の可能性を拡大する。異なるPKSの骨組みにそれらを置換することによって、またはそのような置換または他の変異誘発変化の代わりに、またはそれに加えてハイブリッドを形成することによって、ドナーPKSの様々な活性コード領域を操作することによって、広範な種々のポリケチドおよび対応する抗生物質を得ることができる。これらの技術は、例えば1998年5月6日に出願され、そして本明細書中で参考として援用される、米国特許出願番号第09/073,538号に記載されている。
【0071】
例えば、天然シンターゼ遺伝子の全てまたは採用された一部によってコードされる骨組みを用いることによって、新規ポリケチドを産生するポリケチドシンターゼを得ることができる。シンターゼは、少なくとも1つの機能的なモジュール、好ましくは2または3つのモジュール、そしてより好ましくは4つ以上のモジュールを含み、そして生じたポリケチドの性質が変化するように、これら機能的モジュールの1つ以上の活性に変異、欠失、または置換を含む。この記述は、タンパク質および遺伝的レベルのどちらにもあてはまる。特に好ましい実施形態は、KS、AT、KR、DH、またはERが欠失したか、またはKS、AT、KR、DH、またはERが異なるPKS、もしくは同じPKSにおける別の位置由来の活性のバージョンで置換されたものを含む。少なくとも1つの非縮合サイクル酵素活性(KR、DH、またはER)が欠失したものか、またはこれら活性のいずれかが変異して合成される最終的なポリケチドが変化した誘導体も好ましい。
【0072】
従って、天然に存在するPKSの様々な誘導体をコードするヌクレオチド配列、および様々なポリケチドを得るために、酵素活性コード部分の「ミキシングおよびマッチング」によって、望ましい数の構築物を得ることができ、そして変異を、ネイティブな宿主PKS遺伝子集団またはその一部に導入し得る。
【0073】
慣用的な技術を用いて、ネイティブの配列に変異を作製し得る。変異の基質は、遺伝子の全集団またはそれらの1つまたは2つのみであり得る;変異の基質はまた、1つ以上のこれら遺伝子の一部であり得る。変異の技術は、変異を含む合成オリゴヌクレオチドを調製すること、および変異配列を、制限エンドヌクレアーゼ消化を用いて(例えば、Kunkel,T.A.Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1985)82:448;Geisselsoderら、BioTechniques(1987)5:786を参照のこと)、または他の当該分野で公知の様々な方法によって、PKSサブユニットをコードする遺伝子へ挿入することを含む。
【0074】
酵素活性をコードするヌクレオチド配列の選択された部分の無作為変異誘発をまた、当該分野で公知のいくつかの異なる技術によって、例えばオリゴヌクレオチドリンカーをプラスミドに無作為に挿入することによって、X線または紫外線の照射によって、インビトロDNA合成の間に正しくないヌクレオチドを組み込むことによって、誤りがちな(error−prone)PCR変異誘発によって、合成変異体を調製することによって、または化学物質によってインビトロでプラスミドDNAに障害を与えることによって、達成し得る。
【0075】
酵素活性をコードする領域の変異形態を提供することに加えて、異なるPKSシンターゼ由来、または同じPKSシンターゼの異なる位置由来の対応する活性をコードする領域を、例えば適切なプライマーを用いたPCR技術を使用して回収し得る。「対応する」活性をコードする領域によって、同じ一般的な型の活性をコードする領域を意味される−例えば、遺伝子集団の1つの位置におけるケトレダクターゼ活性は、その遺伝子集団の別の位置における、または異なる遺伝子集団におけるケトレダクターゼをコードする活性と「対応する」。同様に、完全なレダクターゼサイクルは、対応すると考えられ得る−例えばKR/DH/ERはKR単独に対応する。
【0076】
宿主ポリケチドシンターゼの特定の標的領域を置換する場合、この置換は、適当な制限酵素を用いてインビトロで行い得るか、またはドナープラスミド中の置換遺伝子およびレシピエントプラスミド中のレセプター領域の相同配列フレーミング(framing)を含む、組換え技術を用いてインビボで行い得る。異なる温度感受性を有するプラスミドを有利に含む、このような系は、例えば、PCT出願WO96/40968に記載されている。
【0077】
最後に、ポリケチドシンターゼ遺伝子は、一般的なDNA配列と同様に、上記で概略を述べた系統的な変更およびランダム変異誘発のための方法に加えて、Maxygenに譲渡された米国特許第5,834,458号、ならびにAffymaxに譲渡された米国特許第5,830,721号、同第5,811,238号および同第5,605,793号に記載されたような、「遺伝子シャッフリング」の技術によって改変され得る。この技術において、bPKSをコードするDNA配列を、制限酵素によって切断し、増幅し、そして次いで、再度連結する。これは、再編成された遺伝子の混合物を生じ、この混合物は、そのポリケチドを産生する能力について評価され得る。容易に形質転換される宿主(例えば、E.coli)における、ポリケチドを産生するその能力は、これを実用的なアプローチにする。
【0078】
産生されるポリケチドに関して、ポリケチドシンターゼを構築するために5つの自由度が存在する。第1に、ポリケチド鎖の長さは、PKS中のモジュールの数によって決定される。第2に、PKSの炭素骨格の性質は、各位置での伸長単位(例えば、マロニル、メチルマロニルまたはエチルマロニルなど)の性質を決定する、アシルトランスフェラーゼの特異性によって決定される。第3に、ローディングドメイン(loading domain)の特異性もまた、得られるポリケチドの炭素骨格に対して影響を及ぼす。従って、ローディングドメインは、アセチル、プロピオニル、ブチリルなどのような、異なる開始単位を使用し得る。第4に、ポリケチドの様々な位置における酸化状態は、そのモジュールのデヒドラターゼ部分およびレダクターゼ部分によって決定される。これは、ポリケチドにおけるケトン、アルコール、二重結合または単結合の存在および位置を決定する。最後に、得られたポリケチドの立体化学は、シンターゼの3つの局面の機能である。第1の局面は、伸長単位としての置換マロニル基と関連するAT/KS特異性に関連し、この特異性は、還元サイクルが存在しない場合または還元サイクルがケトレダクターゼのみを含む場合にのみ、立体化学に影響を与える(なぜなら、デヒドラターゼがキラリティーを破壊するからである)。第2に、ケトレダクターゼの特異性が、任意のβ−OHのキラリティーを決定する。最後に、伸長単位としての置換マロニル基に対するエノイルレダクターゼの特異性が、完全なKR/DH/ERが利用可能な場合に、結果に影響を与える。
【0079】
1つ有用なアプローチは、モジュール1におけるKS活性を改変することであり、代替的な開始単位およびモジュール1伸長単位を取り込む能力を生じる。このアプローチは、本明細書中で参考として援用されるPCT出願US/96/11317に例示され、ここで、KS−I活性は、変異によって不活性化された。次いで、ポリケチド合成を、モジュール1ジケチド産物の化学的に合成したアナログを供給することによって開始させる。次いで、本発明の方法を使用して、伸長単位量を増大させる得る。
【0080】
モジュール型PKSは、それらの開始単位に対して緩やかな特異性を有する(Kaoら、Science(1994)、前出)。モジュール型PKSはまた、それぞれの縮合サイクルにおける伸長単位の選択において、かなりの多様性をも示す。縮合反応後のβ−ケト還元の程度もまた、遺伝子操作により変更されることが示されている(Donadioら、Science(1991)、前出;Donadio,Sら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1993)90:7119−7123)。同様に、ポリケチド産物のサイズは、適切な数のモジュールを持つ変異体を設計することによって変更され得る(Kao,C.M.ら、J.Am.Chem.Soc.(1994)116:11612−11613)。最後に、これらの酵素は、高度に制御された様式でそれらの産物における重要な範囲の不斉中心を生成することについて、特に周知である。本発明の方法により産生されるポリケチドおよび抗生物質は、代表的に、単一の立体異性体形態である。本発明の化合物は、立体異性体の混合物として生じ得るが、このPKS系を用いることによって、個々の立体異性体を生成させることが、より実用的である。
【0081】
PKSのポリケチド産物は、抗生物質活性を示すために、代表的には、ヒドロキシル化、酸化および/またはグリコシル化によって、さらに修飾され得る。
【0082】
ポリケチドをグリコシル化するための方法は、当該分野において一般的に公知であり;グリコシル化は、適切なグリコシル化酵素を提供することによって細胞内でもたらされ得るか、または、化学合成手段(本明細書中で参考として援用される、米国出願番号第09/073,538号に記載されるような)を使用することによってインビトロでもたらされ得る。
【0083】
抗生物質モジュール型ポリケチドには、任意の多くの異なる糖が含まれ得るが、D−デソサミンまたはそれらの類似アナログが、最も一般的ではある。例えば、エリスロマイシン、ピクロマイシン、ナルボマイシンおよびメチマイシンは、デソサミンを含む。エリスロマイシンはまた、L−クラジノース(3−O−メチルミカロース)を含む。タイロシンには、ミカミノース(4−ヒドロキシデソサミン)、ミカロースおよび6−デオキシ−D−アロースが含まれる。2−アセチル−1−ブロモデソサミンは、ポリケチドをグリコシル化するためのドナーとして使用されている(Masamuneら、J.Am.Chem.Soc.(1975)97:3512、3513)。他の、明らかにより安定的なドナーとしては、グリコシルフルオリド、チオグリコシドおよびトリクロロアセトイミデートが挙げられる(Woodward,R.B.ら、J.Am.Chem.Soc.(1981)103:3215;Martin,S.F.ら、Am.Chem.Soc.(1997)119:3193;Toshima,K.ら、J.Am.Chem.Soc.(1995)117:3717;Matsumoto,T.ら、Tetrahedron Lett(1988)29:3575)。グリコシル化はまた、出発物質としてのマクロライドおよびS.erythraeaの変異体を使用してもたらされ得、このS.erythraeaの変異体は、変換を行うためのこのマクロライドを合成することができない。
【0084】
一般的に、グリコシル化をもたらすためのアプローチは、ヒドロキシル化に関しての上記アプローチを反映する。天然の供給源から単離したかまたは組み換え産生した精製酵素を、インビトロで使用し得る。あるいは、グリコシル化は、内因性または組換え産生された細胞内グリコシラーゼを用いて、細胞内でもたらされ得る。さらに、合成的化学法が使用され得る。
【0085】
宿主が通常ポリケチドを産生する場合、これらの宿主による内因性ポリケチド産生を阻害するように、これらの宿主を改変することが望ましくあり得る。そのような宿主は、例えば、参考として本明細書中で援用される米国特許第5,672,491号に記載され、これは、以下の実施例において使用される、S.coelicolor CH999を記載する。このような宿主においては、組換え産生されたポリケチドシンターゼを構築する酵素の翻訳後修飾のための酵素的活性を与えることが必要とされないかもしれない。これらの宿主は、一般に、シンターゼの機能性に必要とされるパンテテイニル残基を提供するための、ホロ−ACPシンターゼと呼ばれる、適切な酵素を含む。しかし、通常ポリケチドを産生しない酵母、植物または哺乳類細胞のような宿主において、組換え産生されたPKSを機能性に変換するための適切なホロ−ACPシンターゼを提供する(代表的には、組換え手段による)必要があり得る。そのような酵素の提供は、例えば、本明細書中で参考として援用されるPCT出願WO98/27203に記載されている。
【0086】
また、宿主および所望の産物の性質に依存して、「調整(仕立て)(tailoring)酵素」またはそれらをコードする遺伝子を提供することが必要であり得る。ここで、これらの調整酵素は、酸化、ヒドロキシル化、グリコシル化などによって産生された、マクロライドを修飾する。
【0087】
コードするヌクレオチド配列は、これらの配列に適合性である宿主細胞において、このコードするヌクレオチド配列の発現をもたらすように作動する、プロモーター、エンハンサーおよび/または終止配列に作動可能に連結され;宿主細胞は、染色体外エレメントもしくはベクターとしてか、または染色体中に組み込まれるかのいずれかとしてこれらの配列を含むように改変され、そしてPKSおよびPKS後(post−PKS)の酵素、ならびにポリケチドおよび抗生物質を生成するための方法は、これらの改変された宿主細胞を使用する。E.coliのような生物において使用するための多重ベクター系(multiple vector)が意図される。
【0088】
宿主のPKS遺伝子における酵素活性を置き換えるため、または宿主PKS遺伝子のこれらの領域において変異を支持するための種々の操作を実施するために使用されるベクターは、コード配列の発現が適切な宿主においてもたらされ得る様式で、得られたコード配列に作動可能に連結された制御配列を含むように選択され得る。しかし、単純なクローニングベクターも同様に使用され得る。
【0089】
特に有用な制御配列は、それ自体が、栄養性菌糸体において増殖期から定常期への転移の間に発現を活性化するか、または適切な調節系を使用して、栄養性菌糸体において増殖期から定常期への転移の間に発現を活性化する制御配列である。例示的なプラスミドpRM5に含まれる系(すなわち、actI/actIIIプロモーター対、およびactII−ORF4、アクチベーター遺伝子)は、特に好ましい。特に好ましい宿主は、ポリケチドを生成するそれ自身の手段を欠損し、その結果、より明瞭な結果が得られる宿主である。この型の例示的な宿主細胞としては、PCT出願WO96/40968に記載された改変S.coelicolor CH999培養物およびS.lividansの類似の株が挙げられる。
【0090】
本発明の組換えベクターを適切な宿主に導入するための方法は、当業者に公知であり、そして代表的には、CaCl2または他の薬剤(例えば、二価カチオン)の使用、リポフェクション、DMSO、プロトプラスト形質転換、およびエレクトロポレーションが挙げられる。
【0091】
1997年12月11日付けで出願された出願番号08/989,332号(本明細書中で参考として援用される)において開示されたように、いくつかの宿主は、シンテターゼのアシルキャリアタンパク質を活性化する適切な翻訳後機構を生来的に含まないとはいえ、広範な種々の宿主が使用され得る。これらの宿主は、適切な組換え酵素で改変されて、これらの改変を果たし得る。
【0092】
新しい異種系においてモジュール型(modular)ポリケチドシンターゼを操作する能力を実証するために、本発明者らは、PKSモジュールを非リボソーム性ペプチドシンテターゼ(NRPS)様モジュールに融合したDEBSの誘導体を構築することを試みた(Mootz,H.D.ら,Curr.Opin.Chem.Biol.(1997)1:543)。リファマイシンシンテターゼの第1モジュールは近年、2つのドメイン(アデニル化(A)ドメインおよびチオール化(thiolation)(T)ドメイン)から構成されるNRPS様モジュールであることが示された(Admiraal,S.J.ら,Biochemistry(投稿済))。Aドメインは、ATP依存的な反応において、3−アミノ−5−ヒドロキシベンゾエート(ならびに、ベンゾエートおよびいくつかのベンゾエート誘導体(Admiraal(前出)))を活性化し、そしてアリールアデニレートを、Tドメインのホスホパンテテイン腕に転移させる(図7)。このNRPS様モジュールを、DEBSのローディングジドメイン(loading didomain)の代わりに、DEBSの第1縮合モジュールの上流に融合した(DEBS1に融合されたリファマイシンローディングジドメインおよびpccAB遺伝子を保有するプラスミドpBP165の構築を、実施例11に記載する)。外因性プロピオネートおよびベンゾエートの存在下において、得られたE.coli株は、NMRおよび質量分析法によって確認されたように(図7)、予期された6dEBアナログ(化合物3)を生成した(13C−NMR(CDCl3,500MHz)δ213.76,177.43,79.70,76.60,71.24,37.72(富化された炭素原子のみ)。質量分析法(AP−CI)期待値 12C19 13C6H38O6Na:463.2757;観測値:463.2847)。
【0093】
まとめると、本発明者らは、複雑なポリケチド天然産物を生成するようにE.coliを操作する可能性を実証した。以下に挙げられる複数の変更を、関連する6dEBの生成のためにE.coliゲノムに対して行った:Saccharopolyspora erythraea由来の3つのDEBS遺伝子の導入、Bacillus subtilis由来のsfpホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ遺伝子の導入、Streptomyces coelicolor由来のヘテロ二量体性プロピオニルCoAカルボキシラーゼをコードする遺伝子の導入、内因性prpRBCD遺伝子の欠失、および内因性prpE遺伝子およびbirA遺伝子の過剰発現。遺伝子発現を低温で協調的に誘導した場合、プロピオネートは、優れた動的パラメーターを有するこの代謝的に操作された細胞性触媒によって、6dEBへと変換され得る。生体産物(bioproduct)を過剰生成するようにE.coliを発酵することに関して十分に確立された拡張可能なプロトコールが利用可能であることを考慮すると、この異種宿主において複雑なポリケチドを合成する能力は、これらの生物活性天然産物の実用的な生成のために良い前兆である。同じく重要なことに、本明細書中で記載されたハイブリッドPKS−NRPSによって示されるように、このことは、方向付けられたアプローチおよび無作為なアプローチを使用してモジュール型ポリケチドシンターゼを操作するために、E.coliにおける分子生物学の莫大な能力を利用する道を開く。このように、NRPSを含みかつ種々のベンゾエート基質を組み込んだもののようなハイブリッドモジュール型ポリケチドシンターゼを作製する生物(例えば、E.coli)もまた意図される。
【0094】
(出発物質の増強およびバリエーション)
従って、開始因子単位および/または伸長因子単位の生成を触媒するタンパク質(および、それらのコード配列)を使用して、従来生成されたよりも高いレベルでかなり多様なこれらの開始因子単位および伸長因子単位を提供することによってポリケチドの産生を増強し得る。上記に示したように、微生物宿主を改変するために使用される必要な酵素(開始因子単位および/または伸長因子単位の提供、生成、または生成の増強において有効な酵素を含む)は、染色体外複製エレメントとして供給され得るが、これらは好ましくは、例えば、相同組換え技術によって宿主ゲノム中に導入される。所望される発現系をゲノムに組み込むことによって、選択圧の必要性が回避され、そしてさらなる抗生物質を伴わない理想的な生成条件下で適切でありかつ使用され得る適切な生成株が得られる。さらに、宿主は、組換え技術によって活性化される、基質の生成において有用であるサイレントな遺伝子を含み得る。
【0095】
タンパク質は、種々の基質を使用して、開始因子単位および/または伸長因子単位を得るための反応を触媒するので、タンパク質は、改変されているかまたは改変されていないかに関わらず広範な種々のPKSについて、開始因子単位および伸長因子単位の利用可能性を増強するにおける汎用的なツールである。上記のように、matABCオペロン(または、他の種における類似のオペロン)、ならびにaccA1遺伝子と共にpccBおよびaccA2によってコードされるプロピオン酸カルボキシラーゼ(または、他の種におけるそれらのアナログ)の生成は、特に有用である。これらの酵素およびそれらのコード配列は、matABCオペロンおよびプロピオン酸カルボキシラーゼコード遺伝子が、種々の基質に対して必要とされる反応を実行するのみならず、ポリケチド合成において使用するために必要とされる立体化学を有する生成物の生成をも共に実行する酵素を提供するという発見に照らして有用である。
【0096】
本明細書中に記載される遺伝子が、適切な開始因子単位および伸長因子単位を提供する能力は、以下に記載のようにして確証付けられた。
【0097】
(改善された培養条件)
上記の宿主の改変に加えて、微生物の培養条件を改変して、合成されるポリケチドの収率を改善し得る。これらの条件の成功は、少なくとも5%、好ましくは10%、より好ましくは25%、そして最も好ましくは少なくとも50%生成されるポリケチドのレベルまたは速度によって測定され得る。200%の生成レベル増強もまた達成され得る。これらの増強は、おそらく比較的緩やかであり、そして5倍、10倍、20倍、100倍、200倍、または500倍のレベルに増強することは、宿主生物のゲノム補完(complement)を改変することによってか、もしくは培養条件を操作することによってか、またはその両方によって可能となった。生成レベルまたは生成速度は、変動されるパラメーター以外の他のすべてを一定にした条件設定下で測定される。
【0098】
以下に示されるように、ポリケチドの収率は、(1)発酵全体を通して、比較的一定した栄養素レベルを維持すること;(2)補助的なチオエステラーゼを提供すること;(3)開始因子単位および/または伸長因子単位についてのさらなる前駆体を大量に給餌すること;ならびに(4)高い細胞密度まで増殖させること、によって著しく増加される。1つ以上のこれらのストラテジーを使用して、ポリケチドの収率は、少なくとも1.25倍、好ましくは1.5倍、より好ましくは2倍、そして多くの場合、5倍、10倍、25倍、50倍、100倍、200倍、または500倍増強される。
【0099】
実施例12に示されるように、チオエステラーゼII(TEII)についての発現系を提供する場合に、最初の濃度が枯渇した後に前駆体を添加することは有益である。ポリケチド合成過程の間、比較的一定の値に栄養素レベルを維持し、そして高い細胞密度まで細胞増殖を可能にすることは、特に有益である。
【0100】
栄養素が「比較的一定の値」とは、栄養素を、低濃度に、代表的には、E.coliの場合2g/L未満に維持することを意味する。「高い細胞密度」とは、E.coliについては、約40〜80、好ましくは50〜70のOD600値を意味する。
【0101】
(実施例1)
(CoAシンテターゼを使用した、マロニルCoAおよび2S−メチルマロニルCoAの生成)
E.coli株L8は、アセチルCoAカルボキシラーゼ遺伝子において温度感受性変異を有し、その結果、マロニルCoAを、37℃でアセチルCoAから生成し得ない。しかし、この遺伝子産物は、30℃でこの変換を果たし得る。Harder,M.E.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.(1972)69:3105−3109を参照のこと。アセチルCoAからマロニルCoAへのアセチルCoAカルボキシラーゼ変換は、E.coliにおけるマロニルCoA生成について知られている唯一の経路であるので、そしてマロニルCoAは脂肪酸生合成に必須であるので、E.coliのこの変異株は、30℃では増殖し得るが、37℃では増殖し得ない。matABCオペロンを有するL8の形質転換体は、matA、matBおよびmatC遺伝子を、それらのネイティブなプロモーターの制御下に含むプラスミドpMATOP2で形質転換することによって生成され、そしてAn,J.H.ら,Eur.J.Biochem.(1998)257:395−402に記載されている。この形質転換体は、マロン酸の不在下では、37℃でなお増殖し得ない;しかし、培地に1〜5mMのマロン酸を添加することによって、この形質転換体を、この温度で増殖させることが可能となる(このプラスミドの不在下では、マロン酸は、37℃で増殖を支持し得ない)。しかし、細胞外のマロン酸の濃度は重要である。なぜなら、40mMまでその濃度を増加させると、利用可能な補酵素Aの量と比較してマロニルCoAの過剰生成によって引き起こされる代謝的不均衡におそらく起因して、増殖の欠如を生じさせるからである。致死もまた、matABCオペロンを保有するプラスミドおよび高濃度のメチルマロン酸の存在下で、XL1−Blue(E.coliの野生型株)において誘導された。
【0102】
にもかかわらず、上記で示された結果は、matBによってコードされるタンパク質が、遊離マロン酸が利用可能である限りにおいて、生理的条件下でインビボにおいてマロニルCoAを生成し;そして、matCによってコードされるタンパク質によって細胞に輸送されたことを実証する。従って、matBC遺伝子を使用して、複雑なポリケチドをマロン酸の給餌によって生成するE.coli細胞中においてマロニルCoAの利用能を補充し得る。
【0103】
マロン酸をマロニルCoAに変換することに加えて、MatBはまた、メチルマロン酸をメチルマロニルCoAに変換することが示された。しかし、得られた産物の立体化学は報告されていない。このことは重要である。なぜなら、モジュール型ポリケチドシンターゼは、メチルマロニルCoAの1つの異性体(すなわち、2S−メチルマロニルCoA)のみを受容することが知られているからである(Marsden,A.F.ら,Science(1994)263:378−380)。MatBがメチルマロニルCoAの正確な異性体を作製し得るか否かを研究するために、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ融合物(GST−MatB)をコードする構築物を使用して、このタンパク質を生成した。An,J.H.ら,Biochem.J(1999)344:159−166を参照のこと。このGST−MatBタンパク質を、記載されたような標準的なプロトコールに従って精製し、そしてエリスロマイシンポリケチドシンターゼの(モジュール6+TE)と混合し、また、Gokhale,R.S.ら,Science(1999)284:482−485に記載されたようにしてE.coliにおいて発現させた。
【0104】
初期の研究において、本出願人は、インビトロで以下の反応を触媒する(モジュール6+TE)の能力を実証することによって、(モジュール6+TE)の活性を確証付けた。
【0105】
(2S,3R)−2−メチル−3−ヒドロキシペンタン酸のN−アセチルシステアミンチオエステル + 2(RS)−メチルマロニルCoA + NADPH → (2R,3S,4S,5R)−2,4−ジメチル−3,5−ジヒドロキシ−n−ヘプタン酸δ−ラクトン + NADP+。
【0106】
GST−MatBの基質としてメチルマロン酸を使用して得られるメチルマロン酸チオエステル生成物は、正確な立体化学を提供し、この反応において伸長因子単位の供給源として役立つ。より詳細には、インサイチュで上記のポリケチド合成の基質を生成するために、以下の反応混合液(6+TEおよびGST−MatBを含む)を、100mMのリン酸ナトリウム(pH7)緩衝液、1mMのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、2.5mMのジチオトレイトール(DTT)および20%グリセロールの反応緩衝液中で調製した:
40mM メチルマロン酸(pH6)
16.6mM MgCl2
5mM ATP
5mM CoASH
13.3mM NADPH
1mM (2S,3R)−2−メチル−3−ヒドロキシペンタン酸のN−アセチルシステアミンチオエステル(放射性形態で調製)。
【0107】
4時間後に、この反応をクエンチし、そしてエチルアセテートで抽出した(反応容量の3倍で2回抽出した)。サンプルを真空化で乾燥し、そして薄層クロマトグラフィー分析に供した。
【0108】
ポジティブコントロールを、初期に記載された条件(すなわち、(RS)−メチルマロニルCoAを、メチルマロン酸、MgCl2、ATP、CoA SH、およびGST−MatBの組み合わせと置換した条件)と同じ条件下で実行した。ネガティブコントロールは、GST−MatB融合タンパク質を除いて、上記に列挙されたすべての成分を含んだ。この結果によって、上記の二酵素系は、ポジティブコントロール反応に匹敵する量で、期待される生成物を生成し得ることが実証された。このことによって、MatBは、メチルマロニルCoAの正確な異性体を合成することが確証付けられた。
【0109】
従って、MatB/MatCは、ポリケチド生合成について、インビボでマロニルCoAおよび2S−メチルマロニルCoAの両方を合成するために有用である。これは、生理的条件下で、インビボで2S−メチルマロニルCoAを生成する能力を有するE.coliを操作した最初の実例である。さらに、インビボでmatAを同時発現させることは、メチルマロニルCoAのプロピオニルCoAへの変換を可能にし、それにより、この開始因子単位の利用可能な供給源を補充する。
【0110】
(実施例2)
(プロピオニルCoAカルボキシラーゼが、2S−メチルマロニルCoAを生成する能力)
上記のS.coelicolor由来のプロピオニルカルボキシラーゼ遺伝子を利用するために、E.coli発現宿主(BL−21(DE3))を、Hamilton,C.M.ら,J Bacteriol.(1989)171:4617−4622によって開発された方法を使用して調製した。この新たな株(BAP 1)は、E.coliのprpオペロンに組み込まれた、Bacillus subtilis由来のホスホパンテテイントランスフェラーゼ遺伝子(sfp遺伝子)を含む。T7プロモーターは、sfpの発現を駆動する。組換え手順において、prpE遺伝子をまた、このT7プロモーターの制御下に配置したが、残りのオペロンは取り除いた。この遺伝的変更は、理想的には、以下の3つの特徴を与える:1)DEBSおよび潜在的に他のポリケチドシンターゼ(PKS)の翻訳後改変のために必要とされるsfpタンパク質の発現;2)CoASHをプロピオネートに理論上連結し得る、推定プロピオニルCoAシンテターゼであるprpEの発現;および3)炭素/エネルギー源としてプロピオニルCoAをもはや代謝し得ない細胞環境。
【0111】
第1に、BAP1株は、sfp遺伝子生成物のその生成によって、これらの細胞において生成されるPKSのホスホパンテテイニル化(phosphopantetheinylation)をもたらし得ることが確証付けられた。BAP1を、モジュール6+TEについての発現系を含むプラスミドでトランスフェクトし、そして、生成されたモジュールの活性を、sfp遺伝子をプラスミド産生(plasmid borne)したBL−21(DE3)細胞において組換え生成されたモジュールの活性と比較した。これらのレベルは同等であった。対照的に、BL−21(DE3)において単独で発現された場合に、モジュール6+TEは活性を示さなかった。さらに、BAP1は、単独の炭素供給源としてのプロピオネート(BL21(DE3)のようなE.coli株によって適切に発現される)上では、増殖する能力がないことを確証付けた。BAP1は、MatBCおよびプロピオニルCoAカルボキシラーゼのような酵素と組み合わせて、ポリケチドシンターゼを異種発現させるために好ましい宿主である。
【0112】
プロピオニルCoAカルボキシラーゼ酵素を、T7プロモーターの下で、E.coliにおいて発現させた。この生成物酵素は、インビトロでモジュール6+TEの基質を供給し得る。このことは、プロピオニルCoAカルボキシラーゼ酵素のメチルマロニルCoAチオエステル生成物の、(2S,2R)2−メチル−3−ヒドロキシペンタン酸のN−アセチルシステアミンチオエステルへのカップリングを使用して実証された。プロピオニルCoAカルボキシラーゼの成分をコードする上記のpccBおよびaccA2遺伝子を発現させ、そして標準的な手順に従って、その生成物を個々に精製した。まず、pccBおよびaccA2のサブユニットを、150mMホスフェート(pH7)および300μgBSA中において、氷上で複合化させた。1時間後、以下の基質を100μl容量に対して添加し、そして30℃でさらに30分間インキュベートした:
1mM プロピオニルCoA
50mM 炭酸水素ナトリウム
3mM ATP
5mM MgCl2。
【0113】
次いで、モジュール6+TEに、以下の最終的な試薬セットを添加して200μlにし、そして30℃でさらに1時間反応させた:
10%グリセロール
1.25mM DTT
0.5mM EDTA
4mM NADPH
2mM (2S,2R)2−メチル−3−ヒドロキシペンタン酸のN−アセチルシステアミンチオエステル(放射性形態で調製)。
【0114】
この反応をクエンチし、そして上記のように抽出し、そして予期された生成物の形成を示した。ポジティブコントロールは、ラセミ体マロニルCoAを含んだ。ATPまたは炭酸水素ナトリウムのいずれかをこの反応から取り除いた場合には、生成物は全く形成されなかった。従って、プロピオニルCoAカルボキシラーゼは、ポリケチドシンターゼ活性に適切な基質を生成する。これは、特に上記で言及した新しい発現宿主BAP1との組み合わせにおいて、ポリケチド生成のために特に有用である。
【0115】
DEBSタンパク質であるDEBS1+TEは、pRSG32によって生成される。DEBS1は、3つのDEBSタンパク質の中で最も弱い発現を示し、そして近年まで、この酵素のインビトロ活性は示されていなかった。しかし、M9最少培地においてpRSG32を含むE.coliを増殖させ、そして22℃でタンパク質発現を誘導することによって、DEBS1+TE活性が、ここで再現可能に観察された。
【0116】
プラスミドpRSG32(DEBS1+TE)およびp132(プロピオニルCoAカルボキシラーゼのα成分およびβ成分を含むプラスミド)を、BAP1に同時トランスフェクトした。10mlのM9最少培地の培養物を、中程度対数期(mid−log phase)のレベルまで増殖させ、そしてIPTGでの誘導および0.267mM 14Cプロピオネートの添加のために、1mlまで濃縮した。次いで、このサンプルを12〜15時間にわたって22℃でインキュベートした。次いで、この培養物の上清を、分析用TLCのためにエチルアセテートで抽出した。予期されるポジティブコントロールとの生成物の泳動およびこの同一の生成物は、野生型BL−21(DE3)を使用するかまたはp132を取り除くかのいずれかの場合に検出不可能であった。従って、このカルボキシラーゼは、正確な立体異性体を形成する。
【0117】
さらに、pRSG32、p132およびpCY214(プロピオニルCoAカルボキシラーゼのαサブユニットへのビオチンの結合を補助するために、ビオチンリガーゼを含んだ)で形質転換されたBAP1を含むM9最少培地の100mlの培養物を、IPTGでの誘導および100mg/Lの 13Cプロピオネートの添加のために、中程度対数期まで増殖させた。ビオチン化サブユニット(pccA)の活性は、E.coliのbirAビオチンリガーゼ遺伝子の同時発現に際して、有意に増強され得た。この培養物上清の抽出およびこのサンプルの濃縮に際し、13C−NMRによって、予期される富化された生成物のピークの位置を確認した。BL−21(DE3)を使用した、引き続くネガティブコントロールは、同じスペクトルを生じなかった。E.coliがインビボで複雑なポリケチドを作製する能力を実証したことに加えて、これらの結果はまた、BAP1において発現するようにプログラムされたprpEタンパク質が活性であることを示唆している。
【0118】
あるいは、形質転換細胞をM9の最小の培地培養により、37℃で対数期中間まで増殖させ、続いて、22℃で、0.5〜1mMのIPTG、2.5g/Lのアラビノース、および、それぞれ、26mg/Lまたは250mg/Lの[1−14C]プロピオナートまたは[1−13C]プロピオナートで誘導した。14C−1−プロピオナート摂取に関しては、個々の形質転換株を、50μg/mlのカルベニシリン、25μg/mlのカナマイシン、および17μg/mlのクロラムフェニコールの存在下で、グルコースを含むM9の最小の培地培養中(37℃、250rpm)に播種した(Maniatis,Tら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual.1982)。培養物を、対数期中間(mid−log phase)(OD600=0.6〜0.8)まで増殖させ、22℃で5分間冷却し、次いで遠心した。この細胞ペレットを、1mlの残留上清に再懸濁し、そして1mMのIPTGおよび0.25%のアラビノース(pCY216について)によって誘導した。さらに、14C−1−プロピオナート(56mCi/mmol)を、0.27mMの最終濃度で加えた。次いで、この培養物をさらに12〜15時間22℃で攪拌した。この時点で、培養物を遠心し、100μlの上清を、酢酸エチル(各回 300μl)で抽出した(2回)。抽出物を、真空下で乾燥し、TLC分析に供した。ネガティブコントロールは、BAP1/pRSG32/pCY216およびBL21(DE3)/pRSG32/pTR132/pCY216を含んでいた。
【0119】
13C−1−プロピオナート摂取に関しては、BAP1/pRSG32/pTR132/pCY216の単一の形質転換株を用いて、100μg/mlのカルベニシリン、50μg/mlのカナマイシン、および34μg/mlのクロラムフェニコールを含む3mLのLB培養を、37℃、250rpmで開始した。この開始因子培養を、上記と同じ抗生物質濃度で、グルコースを含む100mLのM9最小培地に播種するために使用した。これらの培養物を、250rpmかつ37℃で、対数期中間(OD600=0.5〜0.7)まで増殖させ、22℃の水浴中で15分間冷却し、そして500μMのIPTGおよび0.25%のアラビノースによって誘導した。13C−1−プロピオナートを、100mg/Lで加えて、この培養物を22℃で12〜15時間インキュベートした。次いでこのサンプルを遠心し、その上清を、300mlの酢酸エチルで2回抽出した。このサンプルを真空下で乾燥し、CDCl3に再懸濁し、そして13C−NMRによって分析した。ネガティブコントロールは、BL21(DE3)/pRSG32/pTR132/pCY216を用いて行った。12〜48時間後、培養上清を抽出し、そして予想される、DEBS1+TEのトリケチドラクトン(図7、化合物2)産物形成について分析した。両方の摂取条件下でのトリケチドラクトンの形成は、BAP1がポリケチドを産生する能力を支持した。
【0120】
プラスミド pRSG32、pBP49、pRSG50の構築:DEBS1+TE(pRSG32)、DEBS2(pBP49)およびDEBS3(pRSG50)をコードする遺伝子を、pET21c(Novagen)中にクローニングした。DEBS1+TE遺伝子を、pCK12(6)由来のNdeI−EcoRIフラグメントとしてクローニングした。DEBS3遺伝子を、pJRJ10由来のNdeI−EcoRIフラグメントとしてクローニングした(Jacobsen,J.Rら、Biochemistry(1998)37:4928)。DEBS2遺伝子を発現させるために、pRSG34(Gokhale,R.Sら、Science(1999)284:482)由来のBsmI−EcoRIフラグメント(モジュール3+TEを発現させるために以前使用されていた)を、モジュール4をコードするBsmI−EcoRIフラグメントと置換した。天然の配列を以下の配列:
CGGGGGAGAGGACCTGAATTC
に変更することにより、このEcoRI部位(下線)を、DEBS2遺伝子の終止コドンのすぐ上流に操作した。
【0121】
最初の試みは、3つのDEBSタンパク質の各々をコードする遺伝子を発現させ、続いてタンパク質活性のインビトロアッセイを行うためになされたことに留意するべきである。DEBS3、DEBS2、およびDEBS1の改変体(DEBS1+TE)を、個別に、pET21c発現ベクター(pRSG56上にsfpホスホパンテテイニル(sfp phosphopantetheinyl)トランスフェラーゼ遺伝子を保持する)にクローニングし、E.coli BL21(DE3)に形質転換によって導入した(Kao,C.Mら、J.Am.Chem.Soc(1995)117:9105−9106,Cortes,Jら、Science(1995)268:1487−1489;Lambalot,R.Hら、Chemistry&Biology(1996)3:923−936;Gokhale,R.Sら、Science(1999)284:482−485)。3つのDEBS遺伝子の発現レベルを、初期に報告されたS.erythraea(Caffrey,Pら、FEBS Letters(1992)304:225−228)またはS.coelicolor(Pieper,Rら、Nature(1995)378:263−266)由来のそれらの発現レベルに匹敵することが見出された。個々の形質転換株を使用して、250rpmでかつ37℃で、100μg/mlのカルベニシリンおよび50μg/mlのカナマイシンを含む25mlのLB播種培養を開始した。これらの培養物を用いて、1LのLB培地に播種し、そしてその培養物を、同じ条件下で増殖させた。対数期中間(OD600=0.4〜0.8)で、細胞を1mMのIPTGで誘導し、そして30℃のインキュベーターに移した。4〜6時間後、細胞を回収し、それらのタンパク質含量を、7.5%のSDS−PAGEによって分析した。この3つのDEBSタンパク質を、約1%の細胞性タンパク質総量で発現させた。しかし、これらの溶解物において、DEBS3は活性であることが見出されたが、DEBS1+TEおよびDEBS2は、どんな検出可能な活性(DEBS1+TE(Pieper,R.,前出)も欠いており、そしてDEBS3を初期に記載されるようにアッセイした(Jacobsen,J.Rら、Biochemistry(1998)37:4928)。完全なDEBS2についてのアッセイはまだ開発されていないが、このタンパク質のモジュール3の活性は、初期に記載されるようにアッセイされ得る(Gokhale,R.S.,前出)。これらの結果と一致して、組み換えDEBS3を、初期に記載される手順を用いて、これらの溶解物から精製できた(Pohl,N.Lら、J.Am.Chem.Soc.(1998)120:11206−11207)が、DEBS1+TEもDEBS2も、検出可能な量では精製できなかった。インビトロ活性の検出ならびに続くDEBS1+TEおよびDEBS2の精製を容易にした重要なパラメータは、IPTG(イソプロピルチオ−β−D−ガラクトシド)誘導後のインキュベーション温度であった。発現温度を30℃から22℃に下げると、活性なDEBS1+TEタンパク質、DEBS2タンパク質およびDEBS3タンパク質は組み換えE.coli溶解物中で検出できた。この後、低温誘導条件を、本研究の過程全体に渡って維持した。
【0122】
E.coliでの巨大遺伝子およびタンパク質の良好な発現における低温の使用は、他の巨大遺伝子およびンパク質を、E.coliならびに他の生物において、本明細書中に示されるような低温を有利に用いることによって発現し得ることを示唆する。
【0123】
(実施例3)
(S.coelicolorにおける6−dEBの増強された産生)
matB遺伝子およびmatC遺伝子の存在(ベクターpCK7上へのDEBS遺伝子複合体の挿入によって、このポリケチドを産生するように組み換え的に改変された)はまた、S.coelicolorでの6−dEBの組み換え産生を増大し得た。matB遺伝子およびmatC遺伝子を、DEBS遺伝子を保持するプラスミドの効力によって、50mg/Lの6−デオキシエリスロノリド(deoxyerythronolide)Bを産生するStreptomyces coelicolorの組み換え株において発現させた。このmatB遺伝子およびmatC遺伝子を、pCK7上のDEBS遺伝子のすぐ下流に挿入した。
【0124】
より詳細には、matBC遺伝子の供給源は、matBC遺伝子を保持するpMA TOP2由来の5kbのBglII/HindIIIフラグメントを含むPCR−Blunt(Invitrogen)の誘導体である、pFL482である。matBC遺伝子を含むpFL482のNsiIフラグメントを、DEBS遺伝子と同方向に、pCK7の独特なNsiI部位にクローニングして、pFL494を得た。プラスミドpFL494をS.coelicolor CH999中に形質転換する際に、マクロライド力価の100〜300%の増加を、外因性のメチルマロネート(methylmalonate)(0.1〜1g/L)の存在下で得た。
【0125】
プラスミドpCK7またはプラスミドpFL494を用いるかまたは用いない、S.coelicolor CH999の培養は、ビス−トリス プロパン緩衝剤(28.2g/L)を補充したR6培地(103g/Lのスクロース;0.25g/LのK2SO4;10.12g/LのMgCl2・6H2O;0.96g/Lのプロピオン酸ナトリウム;0.1g/Lのカザミノ酸(Difco);2mL/Lの痕跡元素溶液;5g/Lの酵母抽出物(Fisher);pH7)を用いてフラスコで増殖した。痕跡元素溶液は、40mg/LのZnCl2;200mg/LのFeCl3・6H2O;10mg/LのCuCl2・2H2O;10mg/LのMnCl2・4H2O;10mg/LのNa2B4O7・1OH2O;(NH4)6Mo7O24・4H2Oを含んでいた。全ての培地に、50mg/Lのチオストレプトン(thiostrepton)(Calbiochem)を加え、プラスミド含有細胞を選択し、そしてフォームのコントロールとして、5mL/LのAntifoam B(JT Baker)を加えた。チオストレプトンを培養物に添加する前にDMSOに溶解し、1Lの培地につき約1mLの最終DMSO濃度を生じた。
【0126】
発酵のための種培養物を、50mLの培地の播種によって調製し、続いて、240rpmでかつ30℃で、250mLのバッフル付きフラスコ(baffled flask)(Bellco)中で2日間増殖させた。次いで、これらの播種培養物を用いて、1g/Lのメチルマロネートの存在または非存在下で、250mLのバッフル付きフラスコ中で5%の最終容量で、50mLの培地に播種した。フラスコ培養全てを2つ組で行い、毎日サンプル採取した。実験全てを一度繰り返し、バッチ間の結果の再現性を確実にした。
【0127】
Alltec500蒸発光散乱検出器を装備したHewlett−Packard1090HPLCを用いて、6−dEBおよび8,8a−デオキシオレアンドリド(deoxyoleandolide)の定量化を行った。HPLCサンプルを最初に5分間12,000×gで遠心し、不溶性物を除去した。上清(20μL)を4.6×10mmカラム(Inertsil,C18 ODS3,5μm)にアプライし、水(1ml/分で2分間)で洗浄し、そして最後に主要カラム(4.6×50mm、同じ固定層および同じ流速)上に、100%の水で開始し100%のアセトニトリル終わるように6分の勾配で溶出した。次いで、100%のアセトニトリルを1分間維持した。これらの条件下で、6−dEBを6.2分で、そして8,8a−デオキシオレアンドリドを5.8分で溶出した。発酵ブロスから精製した6−dEBからスタンダードを調製した。定量化誤差を、±10%に見積もった。
【0128】
上記のように、pCK7またはpFL494のいずれかを含むS.coelicolor CH999を、それらの6−dEBおよび8,8a−デオキシオレアンドリドの産生力について比較した。
【0129】
結果は以下に示す:
1.細胞密度は、両方の株について、実質的に同じであった。
【0130】
2.6−dEBおよび8,8a−デオキシオレアンドリドの両方の産生は、6日後の最終力価としてmg/リットル/時間について測定しようと、またはmg/リットルについて測定しようと、CH999/pCK7と比較して、CH999/pFL494において劇的に増大した。(プロピオニルCoAではなくアセチルCoAを開始単位として使用しているため、12位のエチルの代わりにメチルを含む点を除いては、8,8a−デオキシオレアンドリドは、6−dEBと同じである。)より詳細には、6日後、CH999/pFL494とメチルマロン酸は、180mg/lの6−dEBおよび約90mg/lの8,8a−デオキシオレアンドリドを産生した。メチルマロン酸を培地に添加しなかった場合、6−dEBは、130mg/lのレベルで産生されたが、8,8a−デオキシオレアンドリドは、約40mg/lで産生された。pCK7を含むように改変されたCH999について、培地中でのメチルマロン酸の存在下において、たった60mg/lの6−dEBしか、約20mg/lの8,8a−デオキシオレアンドリドと共に形成されなかった。メチルマロン酸なしでは、これらの細胞は、僅かに少しの、各々のこれらのマクロライドを産生した。
【0131】
3.CH999/pFL494は、6日目までに1g/Lで供給されたメチルマロネートを完全に消費した。
【0132】
4.1g/Lのメチルマロネートの消費は、結果として、200m/Lのマクロライドの蓄積的増加を生じ、メチルマロネートの産物への35%の変換効率を示す。
【0133】
5.CH999/pFL494は、外因性のメチルマロネートの非存在下でさえ、両方のマクロライドの改善された産生を示す(上記2を参照のこと)。
【0134】
6.CH999/pCK7でさえ、外因性のメチルマロネートを加えた場合、6−dEB産生において20%の改善を示した(上記2を参照のこと)。
【0135】
天然および異種の宿主での既知のポリケチドの生産力の増大に加え、MatBをまた使用して、新規のポリケチドを産生する。ポリケチド生合成のためのα−カルボキシル化CoAチオエステルビルディングブロックを産生する他の酵素(例えば、メチルマロニル−CoAムターゼ(スクシニル−CoAに対して高度の特異性を有する)、およびアセチル/プロピオニル−CoAカルボキシラーゼ(アセチル−CoAおよび/またはプロピオニル−CoAを好む))と対照的に、MatBは、広範囲の基質に対して活性である。マロネートおよびメチルマロネートに加え、MatBは、基質(例えば、エチルマロネート、ジメチルマロネート、イソプロピルマロネート、プロピルマロネート、アリルマロネート、シクロプロピルマロネート、およびシクロブチルマロネート)を、それらの対応するCoAチオエステルに活性化し得る。
【0136】
これらの基質のポリケチド合成への取り込みは、非天然の基質を受容し得るように、ポリケチドシンターゼの適切なモジュールへと操作され得る適切なアシルトランスフェラーゼ(AT)を必要とする。CH999/pFL494に与えられた場合、これらのいずれのジカルボン酸も、検出可能な量の新規化合物を生じないが、特定のPKS酵素は、天然に、オルソゴナルな基質特異性を有するATドメインを有する。例えば、FK506PKSは、通常、マロニル−CoAまたはメチルマロニル−CoAの様な基質よりも、かさ高い基質(例えば、プロピルマロニル−CoA)を取り込む、アシルトランスフェラーゼドメインを含み、従って、どんなPKSも操作することなく、MatBが生成した非天然ビルディングブロックを受容し得る。
【0137】
Lau,Jら、Biochemistry(1999)38:1643−1651によって記載されるタンパク質操作戦略を用いて、pFL494におけるDEBSのモジュール6のATドメインを、エチルマロニル−CoAを取り込むニッダマイシン(niddamycin)AT4ドメイン由来の特異性決定セグメントを含むように改変した。Kakavas,S.Jら、J.Bacteriol(1997)179:7515−7522を参照のこと。この結果生じたpFL508をCH999に形質転換した。この株にエチルマロネートを供給する際、質量分析により、6dEBの質量分析に匹敵するレベルで、2−エチル−6dEBに相当する産物を検出することができた。この新しい化合物は、エチルマロネートの非存在下またはmatBC遺伝子を欠くコントロール株においては検出不可能であった。
【0138】
(実施例4)
(E.coliでの6−dEBの産生)
本発明者等は、機能性のPKS(パンテテイニルトランスフェラーゼ)を発現する能力、ならびに開始単位および伸長単位を生じるための1つより多くの経路をプログラムされた場合に、複雑で完全なポリケチドを産生するE.coliの能力を実証した。Novagenから入手したE.coli株BL−21(DE)を、Bacillus subtilis由来のホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ遺伝子(sfp遺伝子)をファージT7プロモーターの制御下で染色体中に挿入することにより、prpオペロンのprpA〜D部分を欠失することにより、またそれによりT7プロモーターの制御下でprpE座位(プロピオニルCoAシンテターゼをコードする)を配置することにより、遺伝的に改変した。次いで、この遺伝的に改変された株を、T7プロモーターの制御下でもDEBS1タンパク質、DEBS2タンパク質、およびDEBS3タンパク質をコードする3つの遺伝子についての発現系を、ならびにプロピオニルCoAカルボキシラーゼをコードする遺伝子およびビオチンリガーゼ(プロピオニルCoAカルボキシラーゼ酵素の活性化に必須である)をコードする遺伝子を含むように改変した。生じたE.coliは、6−dEBについての完全なシンターゼ、このPKSの活性化に必須のホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ、プロピオニルCoAからメチルマロニルCoAを提供するプロピオニルCoAカルボキシラーゼ酵素を含み、そして外因性のプロピオナートをプロピオニルCoAに変換し得る内因性のプロピオニルCoAシンターゼを産生するための誘導手段を含む。さらに、プロピオナートの異化作用に対する内因性の系を解除した。
【0139】
従って、E.coliに、誘導性プロモーターの制御下で開始単位および伸長単位の両方の合成のための酵素を提供し、開始単位および伸長単位のプロピオナート前駆体の破壊についての内因性機構が解除され;そして発現系(誘導プロモーターの下でも)に、PKSタンパク質の活性化のための酵素の発現系と共に必須のPKSタンパク質を提供された。
【0140】
より詳細には、遺伝的に改変されたBL−21(DE3)株を、Hamiltonら、J.Bacteriol(1989)171:4617−4622(本明細書中で参考として援用される)に記載の手順に従って調製した。この刊行物中に記載されるpMAK705の誘導体を調製した。誘導されたベクターにおいて、sfp遺伝子に連結したT7プロモーターを、prpオペロンのA座位の上流の配列に同一な1,000塩基対配列およびこのオペロンのE座位の下流の配列に同一な1,000塩基対配列によって挟んだ。sfp遺伝子は、pUC8−sfp(Nakanoら、Mol.Gen.Genet.(1992)232:313−321によって記載されるプラスミド)から入手した。生じた統合された配列は、prp座位A〜Dを欠失し、そしてその場所にsfp遺伝子を制御するT7プロモーターを挿入し、そしてさらにT7プロモータの制御下でのprpE座位の置換を生じた。本明細書中で示唆されるように、2つの理由でsfp遺伝子挿入のためにこの部位を選択した。第1に、prpオペロンは、E.coliにおける、プロピオネート異化作用の原因であると推定される(Horswill,A.R.,およびEscalante−Semerena,J.C.,J.Bacteriol.(1999)181:5615−5623)。プロピオナートは、6dEB生合成(以下を参照のこと)についての炭素ビルディングブロックの唯一の供給源であると意図され、同時に起こる、プロピオナートの異化作用および同化作用は好ましくないと考えられた。sfp統合の過程においてprpRBCDを欠失させることによって、BAP1がプロピオナートを炭素およびエネルギーの供給源として利用する能力を排除した。第2に、sfp遺伝子と一緒にして、BAP1中のprpE遺伝子をIPTG誘導性プロモーター(例えば、T7プロモーター)の制御下でまた配置した。prpEは、プロピオナートをプロピオニル−CoAに変換すると考えられ(Horswill,A.R.,およびEscalante−Semerena,J.C.,Microbiology(1999)145:1381−1388);従って、外因性プロピオナートの存在下で、DEBSが活性化形態で発現されると同時に、プロピオニル−CoAが細胞内に蓄積されると予想され得る。しかし、産生株においてprpRBCDを欠くことは所望されないかもしれないことが認められる。あるいは、いくつかの株において、いくつかのprpRBCD遺伝子のみを不活性化することが所望され得る。このT7プロモーターは、IPTGによって誘導可能である。
【0141】
次いで、結果的に生じた遺伝的に変更された宿主(BAP1と表わす)を、異なる抗生物質耐性についてそれぞれ選択可能な3つのプラスミドをトランスフェクトした。これらのプラスミドは、以下の通りである:
pBP130は、Novagenから入手したpET21(carbR)由来であり、T7プロモーターの制御下のDEBS2遺伝子およびDEBS3遺伝子を含むように改変される。
【0142】
pBP144は、Novagenからまた入手可能なpET28(kanR)の改変された形態であり、またT7プロモーターの制御下のpccおよびDEBS1遺伝子を含む。
【0143】
pCY214(cmR)は、araプロモーター下のE.coli birA(ビオチンリガーゼ)遺伝子を含み、そしてChapman−Smithら、Biochem.J.(1994)302:881−887に記載される。このプラスミドは、Dr.Hugo Gramajoからただで入手した。PCCタンパク質およびpcc遺伝子は、Rodriguezら、Microbiol.(1999)145:3109−3119に記載される。
【0144】
プラスミドpBP130、プラスミドpBP144の構築:発現ベクターpET21cおよび発現ベクターpET28aを、最初に、Bpu1102I部位、NsiI部位、PstI部位、PacI部位、およびDraIII部位を有するポリリンカーで、これらのベクターのBpu1102I−DraIIIフラグメントを、置換することにより再操作した。pBP49由来のDEBS2遺伝子およびpRSG50由来のDEBS3遺伝子を、pET21c誘導体中のNdeI−EcoRI部位間およびNsiI−PacI部位間にそれぞれクローニングし、pBP130(25.5kb)を生じた。従って、pBP130は、DEBS2遺伝子およびDEBS3遺伝子を同じT7プロモーターのの制御下で発現し得る。同様に、pBP144(20kb)を、pTR132由来のpccAB遺伝子(Rodriguez,E.,およびGramajo,H.,Microbiology(1999)145:3109−3119)およびDEBS1遺伝子を、それぞれ、NdeI−EcoRI部位およびPstI−PacI部位に挿入することによって、上記pET28a誘導体から構築した。このDEBS1遺伝子は、SpeI−EcoRIフラグメントを、以下のオリゴヌクレオチドを用いて天然のDEBS1遺伝子の3’末端から増幅させたフラグメントと置換することにより、pRSG32から誘導される:5’オリゴヌクレオチド:TTACTAGTGAGCTCGGCACCGAGGTCCGGGG;3’オリゴヌクレオチド:TTGAATTCGGATCGCCGTCGAGCTCCCGGCCGA。従って、pBP144は、pccAB遺伝子およびDEBS1遺伝子を、それぞれ、それ自身のpT7プロモーターの制御下で発現する。
【0145】
6−dEBの産生について、pBP130、pBP144、およびpCY214で形質転換したBAP1細胞を、適切な抗生物質を含むM9の最小培地中で増殖させた。この培養物を、対数期中間まで増殖させ、続いてIPTGおよびアラビノースで誘導し、同時に250mg/Lの13C−1−プロピオナートを加えた。誘導培養物を22℃で12〜24時間増殖させた。(最小培地および低温の両方が、DEBS遺伝子発現に有益であることが見出された。このプロトコルは、6−dEBの増殖関連産生を可能にした。なぜなら、グルコースが、炭素およびエネルギーの供給源を全体的な代謝のために提供し、一方、プロピオナートが6−dEBに変換されるからである。)
12〜24時間後、培養上清を酢酸エチルで抽出した。その有機相を真空下で乾燥し、そして13C−NMR分析のためにCDCl3に再溶解した。付随のスペクトルは、6−dEBが主要な13C−標識産物であることを示した。120〜140ppmの範囲にピークを有する他の主要な13C−標識化合物は、13C−3−プロピオナートを13C−1−プロピオナートの代わりに用いた別個の実験によって確認されるように、プロピオナート取り込み由来ではない。6−dEBに対応するピークの強度から、外因性プロピオナートの少なくとも75%が、6−dEBに変換されたことが推測される。このことは、発酵の最後における培養培養物の13C NMRスペクトルからのプロピオナートのシグナルの消失と一致した。ネガティブコントロール株(pBP130またはpBP144のいずれかを欠いている)は、検出可能な量の6−dEBを生じなかった。
【0146】
前述の実験を低い細胞密度(0.5〜2.5の範囲のOD600)で行った;E.coliで組み換え産物を合成する主要な利点は、この細菌が、特定の触媒活性を大幅に減少することなく、非常に高い細胞密度(100〜200のOD600)まで増殖し得ることである。
【0147】
ネイティブでない発現系における、matB遺伝子およびmatC遺伝子または他の生物由来のそれらのホモログのいずれかの使用は、任意の微生物宿主中での任意のα−カルボキシル化CoAチオエステルのインビボ産生のための遺伝的戦略として有用である。このようなCoAチオエステルのインビボ産生は、天然のポリケチドの生産性を増大するか、または新規のポリケチドを産生することを意図し得る。このmatA遺伝子はまた、基質(例えば、アセチル−CoAおよびプロピオニル−CoA)のインビボレベルを補足するために有用である。精製されたMatBはまた、ポリケチドの調整用インビトロ産生に使用される。なぜなら、このような無細胞合成系において、CoAチオエステルは、最も高価な成分であるからである。
【0148】
(実施例5)
(ジケチドの取り込み)
実施例4に記載されるBAP1 E.coli宿主生物を、PCCAおよびBサブユニットに関する発現系を含むp132およびDEBS3のモジュール6+TEに関するpRSG36を用いてトランスフェクションした。トランスフェクション培養物を、両方のプラスミドに対する最小選択培地で増殖し、次いで14C標識ジケチドを与えた。プロピオネートで誘導されそして提供される場合、14C標識ジケチドを得た。
【0149】
あるいは、3つのDEBS遺伝子およびpcc遺伝子の全てを共発現するために、ベクターpET21cおよびpET28a(Novagen)を、それぞれ2つおよび3つの遺伝子を発現するように改変した(プラスミドpBP130およびpBP144の構築を、実施例4に記載した)。個々に試験した場合、タンパク質生産を、両方のプラスミドに局在される各々の遺伝子について観察した。BAP1を、birAプラスミドと共に、これらのプラスミドを用いて形質転換した。個々の形質転換株を[1−13C]−プロピオネートを用いてDEBS1+TE(上記)に対する実験と同様に、培養し、誘導し、そして分析した。粗有機抽出物のNMR分析は、これらの組換え細胞の主要なプロピオネート誘導代謝産物として6dEBを示した。この産物を、後にHPLCによって精製し、そして質量分析に供し、予測した質量の主要なピークを得た。プラスミドpBP130、pBP144およびpCY216を、前記のようにBAP1へと形質転換した。培養条件は、上記実施例2に記載された250mg/Lでの13C−1−プロピオネート供給に対して記載された条件と同一であった。培養物を、規則正しく3日間にわたってサンプリングした。サンプルを遠心分離し、この上清(2μLまたは20μLのいずれか)を、初期4.6×10mmカラム(Inertsil,C18 ODS3,5μm)を用いてHewlett−Packard 1090 HPLCにロードし、水(1ml/分で2分間)で洗浄し、次いで主要4.6×50mmカラム(同一定常相および同一流速で)上にロードした。次いで、6分の勾配を適用した(100%の水で開始し、そして100%アセトニトリルで終了し、さらに1分間維持)。サンプルをAlltech蒸発光散乱検出システム(ELSD500)を用いて分析し、そして6.4分の保持時間におけるピークを、質量分析によってヘプタ−13C標識6dEBとして確認した(MWobs=393)。産物の濃度を、同一検出スキームを用いて標準6−dEBサンプルとの比較において測定した。インキュベーション期間の最後に、全体の培養上清を、以前に述べたように酢酸エチルを用いて抽出し、乾燥し、そして13C−NMRによって分析した。さらに、最終細胞ペレットを、SDS−PAGEを介して分析し、3つのDEBSタンパク質およびPCCの存在を確認した。誘導して12時間後および48時間後における観察されたタンパク質の発現レベルの間に違いはなかった。BAP1/pBP130/pBP144/pCY216中のそれぞれのプラスミドの安定性をまた、誘導して12時間後および36時間後に試験した。pBP144の損失を、いずれの時間点においても観察しなかったが、pBP130およびpCY216は、それぞれ12時間および36時間においてコロニーの50%および35%を維持した。いずれのプラスミドの再配置も、複数再形質転換コロニーの制限分析基づいて、いずれの時間点においても検出しなかった。13C−NMR実験に対するネガティブなコントロールは、BAP1/pBP130/pCY216、BAP1/pBP144/pCY216およびBAP1/pBP130/pBP160/pCY216を含んだ。(プラスミドpBP160は、モジュール1においてKSドメインの活性部位におけるC−>Aヌル変異を有する)(Kao, C.ら、Biochemistry(1996)35:12363)。この新規のポリケチド細胞系の生産性を定量するために、培養サンプルを周期的に取り、6−dEBの濃度を測定した(図9)。このデータから、この細胞触媒の特定の生産性は、0.1mmol 6dEB/g細胞タンパク質/日であることが計算され得る。これは、野生型S.erythraeaよりかなり優れており、そしてランダムな変異誘発に基づく方向付けられた株改良の長年のプログラムの結果として、エリスロマイシンを過剰生産する産業上関連性株に十分に匹敵する(0.2mmolエリスロマイシン/g細胞タンパク質/日)(Minas,W.,ら、Biotechnol Prog.(1998)14:561)。
【0150】
(実施例6)
(A−Tローディングジドメインの構成、発現および精製)
A−Tローディングジドメインは、RifAのN−末端に天然に存在する。このジドメインを生化学的に研究するために、RifAタンパク質の前後から除去した。従って、単離されたA−Tジドメインをコードする配列を、以下により詳述されるように、RifAの転写性開始部位を操作したNdeI制限部位、およびコンセンサスなTドメインのC末端とモジュール1のコンセンサスなケトシンターゼドメインのN末端との間のリンカー領域に導入されたNotI制限部位を用いて、発現ベクター中にサブクローニングした。チオール化ドメインは、活性である保存されたセリンに対するCoAの4’−ホスホパンテテイン部分の共有結合を必要とする(Walsh,C.T.,ら、Curr.Opin.Chem.Biol.(1997)1:309−315)。従って、B.subtilis由来のSfpホスホパンテテニルトランスフェラーゼ(これは、多くの異種組換えタンパク質のapo形態をholo形態に転換し得る)を、holo酵素調製物中でA−Tジドメインと共に共発現した(Lambalot,R.H.,ら、Chem.Biol.(1996)3:923−936;Quadri,L.E.N.,ら、Biochemistry(1998)37:1585−1595)。A−Tジドメインのapo形態およびholo形態を、C−末端ヘキサヒスチジンタグ化融合タンパク質としてE.coli中で生産し、そしてより完全に以下に記載されるようにニッケルアフィニティークロマトグラフィーによって>98%均一になるまで精製した。精製した組換えapo A−Tジドメインおよびholo A−Tジドメイン(プラスミドpSA8にとってコードされる)を、E.coli中で過剰生産し、そしてタンパク質サンプルを、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)(4−15%、Bio−Rad)によって分離し、SimplyBlue Safestain (Invitrogen)を用いて染色した。apo A−Tジドメインおよびholo A−Tジドメインのそれぞれは、75kDの分子量マーカーよりも小さい分子量を有した。holo A−Tジドメインは、apo A−Tジドメインの分子量よりわずかに高い分子量を有した。
【0151】
(材料)
[7−14C]−安息香酸(57mCi/mmol)および[7−14C]−3−ヒドロキシ安息香酸(55mCi/mmol)を、American Radiolabeled Chemicalsから得た。全ての他の置換された安息香酸、フェニル酢酸、および3−ヒドロキシフェニル酢酸を、非ラベル形態でAldrichから得た。ATP、CoAおよびベンゾイル−CoAを、Sigma Chemical Companyから入手した。AHBを以前に公開されたプロトコルに従って合成した(Ghisalba,O.,ら、J Antibiot.(1981)34:64−71)。制限酵素は、New England Biolabs由来である。
【0152】
(DNAおよび株の操作)
DNA操作を、標準培養条件を用いてE.coli XL1 Blue(Stratagene)中で行った。Sambrook,J.,ら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版,(1989)Cold Spring Harbor Laboratory Press,Plainview,NY。ポリメラーゼ連鎖反応を、Pfuポリメラーゼ(Stratagene)を用いて、製造者によって推奨されるように行った。
【0153】
(A−Tジドメインに対する発現ベクターの濃度)
NdeI制限部位を、プライマー(
【0154】
【化1】
)を用いてrifA遺伝子の開始コドンにて操作した(変異された塩基を太字で示し、そして導入されたNde I制限部位に下線を引く);増幅した2.5kbのフラグメントを、直線化されたpCR−Script(Stratagene)に連結し、pHu29を生産した。次いで、開始コドンに操作されたNdeI制限部位を有するrifA遺伝子を、pHu29、pHu35、pHu50、およびpHu51を介してpHu90−1(pRM50の誘導体)(McDaniel,R.,ら(1993)Science 262,1546−1550)中で再構築した。PacIおよびPstIに対するフランキング制限部位を使用して、pHu90−1からpuC18誘導体中へ、ローディングジドメインおよびモジュール1の一部をコードする配列を転移し、pSA2を生産した。ローディングジドメインおよびモジュール1を、約20アミノ酸リンカー領域によって分割し、ローディングジドメインのコンセンサスなTドメインのC−末端およびモジュール1(GenBank 登録番号AF040570)のコンセンサスなケトシンターゼドメインのN−末端によって描写した。モジュール1からローディングジドメインを単離するために、NotI制限部位をプライマー(
【0155】
【化2】
)を用いてリンカー配列に導入した(変異された塩基を太字で示し、そして導入されたNot I制限部位に下線を引く);得られた0.94kbのフラグメントは、リンカー領域中のローディングジドメイン内でコードする。この増幅されたフラグメントを、直線化されたpCR−Blunt(Invitrogen)に連結し、pSA4を生産し、次いで、これはBamHIおよびPstIを用いて消化され、そして同じ酵素で消化されたpSA2に連結し、pSA6を生産した。pSA6から誘導された1.9kb NdeI−NotIフラグメントを、NdeI−NotI消化されたpEC21c(Novagen)に連結し、pSA8(C末端に付加されたヘキサヒスチジンを有するローディングジドメインに対する発現ベクター)を生産した。
【0156】
(A−Tジドメインの発現および精製)
プラスミドpSA8を、apoA−Tジドメインの発現のために、E.coli BL21(Stratagene)への形質転換を介して導入した。BL21/pSA8の1リットルの培養物を、100μg/mLのカルベニシリンを追加したLB培地を含む2Lフラスコ中で37℃にて増殖した。A−Tジドメインの発現を、600nmの光学密度0.7にて100μMIPTGを用いて誘導した。誘導後、インキュベーションを30℃にて6時間続けた。次いで、細胞を、2500×gの遠心分離によって回収し、そして崩壊緩衝液[200mMリン酸ナトリウム(pH7.2)、200mM 塩化ナトリウム、2.5mM DTT、2.5mM EDTA、1.5mMベンズアミジン(benzamidine)、ペプスタチン(2mg/L)、ロイペプチン(2mg/L)および30%v/vグリセロール]に再懸濁した。
【0157】
全ての精製手順を、4℃にて行った。再懸濁細胞を、13,000psiにてフレンチプレスに、2回の通して破壊し、この溶解物を40,000×gで遠心分離によって回収した。核酸を、ポリエチレンイミン(0.15%)を用いて沈殿し、そして遠心分離を介して除去した。この上清を、硫酸アンモニウムで45%(w/v)飽和にし、そして一晩沈殿した。遠心分離後、タンパク質を含むペレットを50mMトリス(ヒドロキシルメチル)アミノメタン塩酸塩(Tris−HCl)(pH8)、300mM塩化ナトリウム、10mMイミダゾールおよび10%v/vグリセロール中に再溶解した。この溶液を、先に平衡化したニッケルニトリロ三酢酸(Ni−NTA)カラム(2mL、Qiagen)にロードした。このカラムを、50mM Tris−HCl(pH8)、300mM塩化ナトリウムおよび10%v/vグリセロール中の20mMイミダゾールで洗浄し、そしてA−Tジドメインを同じ溶液中の100mMイミダゾールで溶出した。A−Tジドメインを含むプールした画分を、ゲル濾過(PD−10、Pharmacia)によって100mM塩化ナトリウム(pH7.2)、2.5mM DTT、2mM EDTAおよび20%v/vグリセロールへと緩衝液交換し、そしてCentriprep−50濃縮器(Amicon)を用いて濃縮した。この精製されたタンパク質を、液体窒素中で瞬間凍結し、そして−80℃で貯蔵した。タンパク質濃度を、280nm:49500M−1cm−1にて計算された吸光係数を用いて測定した(Gill,S.C.,ら(1989)Anal.Biochem.182,319−326)。代表的に1L培養物は、約30mgの精製されたタンパク質を生産した。
【0158】
holoA−Tジドメインの発現について、プラスミドpSA8を、プラスミドpRSG56を含むBL21に形質転換し(Gokhale,R.S.,ら(1999)Science 284,482−485)、このプラスミドpRSG56は、カナマイシン耐性遺伝子およびsfp遺伝子を保有した。sfp遺伝子は、Sfp(これは、holoタンパク質へとapoタンパク質を変換するB.subtilis由来の非特異的ホスホパンテテニルトランスフェラーゼである)を発現する(Lambalot,R.H.,ら(1996)Chem.Biol.3,923−936;Quadri,L.E.N.,ら(1998)Biochemistry 37,1585−1595)。この組換えE.coli株の1リットルの培養物を、100μg/mLカルベニシリンおよび50μg/mLカナマイシンを追加したLB培地を含む2Lフラスコ中で37℃で増殖した。holoA−Tジドメインについての発現工程および精製工程を、apoA−Tジドメインに関して上記のように行った。
【0159】
(実施例7)
(A−Tジドメインの機構を決定するためのA−Tジドメインの放射活性標識)
A−Tジドメイン中へのBまたは3−HBの取り込みを定性的に評価するために、反応系は、5μMのapoA−TジドメインまたはholoA−Tジドメイン、50mMリン酸ナトリウム(pH7.2)、1mM DTT、1mM EDTA、15mM MgCl2、10%グリセロールおよび100μM[7−14C]−Bまたは[7−14C]HBを含んだ。ATPを含めた反応系において、5mMが存在した。30℃30分間のインキュベーション後、反応系を、SDS−PAGEサンプル緩衝液でクエンチし、そして4%〜15%勾配ゲル(Bio−Rad)で電気泳動した。このゲルを、クマシーブルーを用いて単時間染色し、脱色し(destin)、乾燥し、そしてオートラジオグラフにかけた。
【0160】
図2中で描写されるように、A−Tジドメインの機構に対する両方のモデルは、Aドメインによってアリール−アデニレートとしてAHBの活性化、次いで、Tドメインのホスホパンテテインコファクターのチオール求核基によって、アリール−CoA(図2A)またはアリール−アデニレート(図2B)のいずれかの攻撃からの共有結合アリールチオエステル酵素中間体の最終的な形成に関する。これらの可能な機構を研究するために、本発明者らはA−Tジドメインの共有結合性ロードを研究した。AHBは放射標識形態において利用可能でなかったが、インビボでの供給実験は、RifAがまた3−HBによって刺激され得ることを示している(Hunziker,D.,ら、J Am.Chem.Soc.(1998)120:1092−1093)。[14C]−3−HBまたは推定基質[14C]−ベンゾエート(B)、およびapoA−TジドメインまたはholoA−Tジドメインを含む反応系を、Mg・ATPの存在下または非存在下でインキュベートし、引き続いて以下に詳細に記載されるようにSDS−PAGEオートラジオグラフィー(図4)によって分析した。ホスホパンテテインコファクターを欠損していると、apoA−Tジドメインは、共有結合的にロードされ得ない(レーン1)。しかしholo A−Tジドメインは、Mg・ATPを必要とする反応系(レーン2〜5)において、Bおよび3−HBの両方と共に共有結合的にロードされる。
【0161】
CoAは、上記の標識反応系において含まれず、これはholoA−Tジドメインの共有結合性ロードを必要としないことを示唆する。ローディングジドメインは、CoAリガーゼ(図2A)であると提唱されている(Schupp,T.,ら、FEMS Microbiol.Lett.(1998)159:201−207;August,P.R.,ら、Chem.Biol.(1998)5:69−79;Ghisalba,O.,ら、J Antibiot.(1981)34:64−71)ので、本発明者らは、やはりCoAの可能な関与を直試験した。
【0162】
HPLCを使用して、以下の手順に従って可能なベンゾイル−CoA形成を検出した。反応系は、10μM apoA−Tジドメイン、50mMリン酸ナトリウム(pH7.2)、1mM DTT、1mM EDTA、15mM MgCl2、5mM ATP、10%グリセロール1mM CoAおよび1mM Bを含んだ。ベンゾイルCoAが含まれる反応系において、100μMが存在する。30℃で示された時間のインキュベート後、20μLのサンプルを、C18逆相カラム(VYDAC、250×5mm)、254nmでモニタリングする検出器を備えたHPLCに注入した。緩衝液A(25mMリン酸カリウム、pH5.4)と緩衝液B(100%アセトニトリル)との間で0%から50%Bまで直線勾配を、14分にわたって行った(1mL/分の流速)。この基質および推定の生産物ピークを、標準物質を用いた共注入によって同定した。
【0163】
図2Aにおいて示される機構が作用する場合、apoA−Tジドメインはベンゾイル−CoAを生産し得るはずである。しかし、apoA−TジドメインをATP、BおよびCoAと共にインキュベートした場合、ベンゾイル−CoA形成を、検出することができなかった(図4、−ベンゾイル−CoA追跡)。ベンゾイル−CoAが、形成される場合は、これらの反応条件において維持されることを確認するために、ベンゾイル−CoAを他の同一反応に添加した(図4、+ベンゾイル−CoA追跡)。ベンゾイル−CoAは、約0.002/分の観察された速度定数で分解され、そして同じ観察された速度定数がapoA−Tジドメインを除外する反応系に関して得られる(データは示さない)ので、この分解は酵素依存性である;この遅い非酵素的分解を、以下のkcat分析に考慮した。
【0164】
5μMベンゾイル−CoAの蓄積は、このHPLC分析を用いて容易に検出可能である。この保存的検出限界は、以下のように、apoA−Tジドメインによって、ベンゾイル−CoAの形成についてのkcatの上限がに計算されることを可能にする。5μMのベンゾイル−CoAの蓄積は、最大10μMベンゾイル−CoAが300分の反応の間に形成されることを示す(ベンゾイルCoAの半減期はこれらの条件下で約300分である(t1/2=ln2/kobs;kobs約0.002/分)。従って、ベンゾイルCoA形成の速度は、最も速くて0.03μM/分(10μM/300分)である。これは、これらの反応におけるapoA−Tジドメインの濃度は、である(kcat=v/[E]t)ので、10μMでkcat<0.003/分に一致する。以下に記載するように、holoA−TジドメインのBでの共有結合ローディングについてのkcatは、0.14/分である。従ってベンゾイル−CoAは、その形成に対する速度定数が、E−Bの形成についての速度定数よりも少なくとも50倍小さいので、アリール化反応おいて適切な中間物質ではない。これらの結果は、図2Aに描写されるCoAリガーゼモデルが、リファマイシンシンテターゼのA−Tジドメインに対して利用可能でないことを示す。
【0165】
(実施例8)
(holoA−Tジドメインの速度論パラメーターの直接測定)
代表的な反応系は、1〜10μM holoA−Tジドメイン、50mMリン酸ナトリウム(pH7.2)、1mM DTT、1mM EDTA、5mM ATP、15mM MgCl2、10%グリセロール、0.5〜5μCi/mL[7−14C]−Bまたは[7−14C]HBおよび可変濃度の非標識Bまたは非標識3−HBを含んだ。非標識Bおよび非標識3−HBのストックを、添加の前に反応pHに調整した。反応物を、30℃でインキュベートし、そして所望の時点で20μLアリコートを1mLの氷冷5%トリクロロ酢酸でクエンチし、そして200μgのウシ血清アルブミン(Sigma)をこの混合物に添加し、タンパク質の沈殿を援助した。この沈殿を、遠心分離によってペレット化し、0.5mLの5%トリクロロ酢酸で洗浄し、そして0.5mLの100mMリン酸(pH 8)、2%SDS溶液中に溶解した。この溶液を4.5mLの液体シンチレーション流体(Formula 989、Packard)と合わせ、そしてE−BまたはE−3−HBに対応する取り込まれた14Cを、液体シンチレーション計数によって定量した。反応速度は、直線的に酵素濃度に依存した。データ分析を、Kaleidagraph(Synergy Software)を用いて行い、そして代表的にR≧0.99を与えたデータに指数関数的に一致した。
【0166】
Bまたは3−HBは、図3に定性的に示されるように、holoA−Tジドメインについての基質である。アリール−アデニレート形成のための基質としてこれらのベンゾエート、次いで、Tドメインのホスホパンテテインコファクターのチオールのアリール化を定量的に評価するために、本発明者らは、上記のタンパク質沈殿アッセイを使用した。上記で議論されるように、holoA−Tジドメイン、0.5〜5μCi/mL[7−14C]−Bまたは[7−14C]−3−HB、および可変濃度の非標識Bまたは非標識3−HBを含む反応物からのアリコートを、トリクロロ酢酸でクエンチし、そしてそれぞれの洗浄したタンパク質ペレット中の放射標識タンパク質の量を、液体シンチレーション計数によって測定した。B濃度または3−HB濃度の関数としてのE−B形成またはE−3−HB形成の初期速度を、この方法を用いて得、そしてこれを使用して図5に示される飽和曲線を作成した。飽和モデルに対するデータの最良の適合は、3−HBについて1.9/分のkcatおよび180μMのKM、ならびにBについては0.14/分のkcatおよび170μMのKMを得た。2つの基質についてのkcat/KM値の比は、A−TジドメインによってBより、3−HBに関して12倍優先されることを示した。これらの反応系へのCoAの添加は、効果的でなく(データは示さない)、A−TジドメインはCoAリガーゼでないという結論に一貫する。
【0167】
(実施例9)
(A−Tジドメインの基質特異性についてスクリーニングするための追跡実験)
反応を、50mMリン酸ナトリウム(pH7.2)、1mM DTT、1mM EDTA、5mM ATP、15mM MgCl2および10%グリセロール中で行った。それぞれの反応系は、20μM holoA−Tジドメインおよび0.5mMの推定基質、0.5mMの非標識Bを含むか、または基質を添加しなかった。30分間30℃のインキュベーション後、100μLの反応アリコートを、反応緩衝液で前平衡化されているG−25マイクロスピン(microspin)ゲル濾過カラム(Pharmacia)に個々に適用した。適用されたサンプルのタンパク質成分を、製造者の指示に従って遠心分離によって定容量でマイクロスピンカラムから溶出した。それぞれの溶出したタンパク質サンプルの10μLのアリコートを、200μMの最終B濃度のために2μLの[7−14C]−B溶液で希釈した。これらの追跡反応物を、SDS−PAGEオートラジオグラフィーにより分析の前に15分間、30℃でインキュベートした。
【0168】
以前のインビボでの供給実験(Hunziker,D.,ら、J Am.Chem.Soc.(1998)120:1092−1093)および先ほど記載されたインビボでの結果に基づき、AHB、3−HB、B、および3,5−ジヒドロキシベンゾエートを、A−Tジドメインによって基質として受容する。
【0169】
A−Tジドメインを刺激し得るさらなる基質についてスクリーニングするために、単純な追跡実験を、上記のように考案した。holoA−Tジドメインを、まず、標準反応条件下で、推定基質と共にインキュベートした。次いで、この反応混合物を、マイクロスピンゲル濾過カラムに通し、推定未反応基質からタンパク質成分を分離した。放射標識Bを、タンパク質画分に最後に添加し、そしてこの混合物を、SDS−PAGEオートラジオグラフィーの前に単時間インキュベートした。基質と共に本来インキュベートされたタンパク質サンプルは、共有結合的にロードされた酵素−置換ベンゾエート(E−XB)を含み、共有結合的にロードされた酵素−置換ベンゾエート(E−XB)は、追跡の間、放射標識Bと反応せず、SDS−PAGEオートラジオグラフィーによる検出可能な酵素−ベンゾエート(E−B)をわずかに生じるか、または全く生じなかった。対照的に、乏しい基質または非基質と共に本来インキュイベートタンパク質サンプルは、主にを遊離酵素(E)含み、この遊離酵素(E)は、E−B形成のための追跡の間、放射標識ベンゾエート(B)と容易に反応し、SDS−PAGEオートラジオグラフィーによって検出可能な放射活性バンドを生じた。
【0170】
一連の置換ベンゾエートについてのこのスクリーニング実験の結果を、以下に議論した。A−Tジドメインサンプルを含むゲル(4〜15%、Bio−Rad)のオートラジオグラフによって、基質なしでインキュベーションした後か;または以下と共にインキュベーションした後で、放射線標識Bで追跡した:非標識B;2−アミノベンゾエート;3−アミノベンゾエート;4−アミノベンゾエート;AHB;3−アミノ−4−ヒドロキシベンゾエート;4−アミノ−2−ヒドロキシベンゾエート;3−ブロモベンゾエート;3−クロロベンゾエート;3,5−ジアミノベンゾエート;3,5−ジブロモベンゾエート;3,5−ジクロロベンゾエート;3,5−ジフルオロベンゾエート;2,3−ジヒドロキシベンゾエート;3,5−ジヒドロキシベンゾエート;3,5−ジニトロベンゾエート;3−フルオロベンゾエート;2−ヒドロキシベンゾエート;3−HB;4−ヒドロキシベンゾエート;3−メトキシベンゾエート;3−ニトロベンゾエート;3−スルホベンゾエート。
【0171】
最初の2つのレーンは、コントロール反応物を含み、ここで、基質がないもの(レーン1)または非標識B(レーン2)が、最初のインキュベーションにおいて存在し、期待したように、放射線標識されたA−Tジドメインが、基質のないコントロール反応物中で形成されたが、非標識Bコントロール反応物の中において形成されなかった。既知の基質である、AHB(レーン6)、3,5−ジヒドロキシベンゾエート(レーン16)、および3−HB(レーン20)は、初期段階のインキュベーションで存在していた反応物においても、放射線標識A−Tジドメインは、存在しなかった。これらの3つの基質に加えて、レーン1のコントロール反応物と比較したときの、放射線標識A−Tジドメインの非存在または減少に基づいたさらなる研究のために、10を超える類似の基質を同定した。これらの10の基質は、以下である:2−アミノベンゾエート;3−アミノベンゾエート;3−ブロモベンゾエート;3−クロロベンゾエート;3,5−ジアミノベンゾエート;3,5−ジブロモベンゾエート;3,5−ジクロロベンゾエート;3,5−ジフルオロベンゾエート;3−フルオロベンゾエート;および3−メトキシベンゾエート。所定の反応における、放射線標識A−Tジドメインの非存在についての最も簡単なモデルは、問題としている置換ベンゾエートがA−Tジドメインにロードされ、そして、追跡の間、この酵素を放射線標識Bとの反応から遮断するというものであるが、この実験は、これが、代りに、緊密な結合をする競合インヒビターであるという可能性を除外しない。しかし、これらの置換ベンゾエートと基質Bとの間の競合が時間に依存しないという以下に記述した観察によって、起こりそうもない阻害モデルを与える。放射線標識A−Tジドメインは、以下の基質を有する反応において形成された:4−アミノベンゾエート;3−アミノ−4−ヒドロキシベンゾエート;4−アミノ−2−ヒドロキシベンゾエート;2,3−ジヒドロキシベンゾエート;3,5−ジニトロベンゾエート;2−ヒドロキシベンゾエート;4−ヒドロキシベンゾエート;3−ニトロベンゾエート;および3−スルホベンゾエート。
【0172】
(実施例10)
(A−Tジドメインのアリール化についての相対速度定数を使用する、相対的特異性決定)
追跡実験(実施例9)におけて記載したスクリーニングにおいて見出された類似の基質のセットを準備して、アリールアデニレート形成、その後の、Tドメインにおけるホスホパンテテイン補因子(phosphopantetheine cofactor)のチオールのアリール化についてのA−Tジドメインの相対的特異性を決定した。放射線標識ベンゾエート(B)およびholo A−Tジドメインを含む反応混合物に置換ベンゾエートを添加することによって、置換ベンゾエート(XB)との反応と、それに続くBとの反応との間を分割することを可能にした。反応を、上述(実施例8 速度論的測定)のように実施したが、50μM〜5mMの一連の置換ベンゾエートの存在下で実施した。置換ベンゾエートストックを、添加前に、この反応pHに対して調整した。Bの反応に関して、所定の置換ベンゾエートの反応について、ベンゾエートとの類似の反応と比較した速度定数krelを、以下のスキーム1における式に従って、もとの反応物におけるBおよび置換ベンゾエートの濃度([B],[XB])、ならびにE−BおよびE−XBとして存在する生成物量から決定した(Fersht,A.R.(1998)Structure and Mechanism in Protein Science 116−117頁,W.H.Freeman,New York)。
【0173】
【化3】
所定の時点での各反応におけるE−XB生成物の量を、競合物を欠く同一の反応物の同時刻において得られた放射線標識E−Bの量から、競合する置換ベンゾエートの存在下の放射線標識E−Bの量を差し引くことによって決定した。E−XBに対するE−Bの比は、特定の時間経過を通して一定であって、これは、この反応生成物に関わる2次的な反応が生じなかったことを示している。この一定の比はまた、置換ベンゾエートが真の基質であって、かつ高親和性の競合的インヒビターではないという見解を支持しており、これは、E−Bが競合インヒビターの存在下で蓄積し続け、時間の関数として増加し得る見かけのE−XBに対するE−Bの比を生じるためである。置換ベンゾエートの各々について、同じkrel値を、誤差範囲で、異なった置換ベンゾエート濃度において実施された反応について得た。この反応を、Bの代わりに放射線標識3−HBを使用して、選択された置換ベンゾエートについて反復し、そして、(Bに関しての)krel値を、誤差範囲で、得た。表1中の各krel値は、少なくとも4つの別個の測定の平均を表す。A−Tジドメインとの反応に対する、酢酸フェニルおよび酢酸3−ヒドロキシフェニルによる、Bとの競合を検出し得ず、そして、これらの化合物についての、krelについての極限値を表1において報告した。
【0174】
表1におけるkrel値は、所定の置換ベンゾエートおよびBについてのkcat/Km比を表しており、そして、このような値は、各基質に対するA−Tジドメインの特異性の指標を提供する(Fersht,A.R.(1998)Structure and Mechanism in Protein Science 116〜117頁、W.H.Freeman,NewYork)。このアプローチの妥当性を、3−HBについて得られる12のkrel値と、3−HBおよびBについての12のkcat/KMの直接測定から得られた同じ12のkcat/KM比を比較することによって実証した(図4)。A−Tジドメインは、全てのほかの基質よりも、AHB、その生物学的基質に対する10〜1000倍の選択性を提示する。
【0175】
(実施例11)
(プラスミドpBP165の構築)
リファマイシンシンターゼ由来のA−Tロード(loading)ジドメインとDEBSの第1のモジュールとの間の機能的融合を操作するために、DEBSモジュール1の中にKSドメインの直ぐ上流にあるDNA配列を、以下のように読み出されるように改変した:
【0176】
【化4】
操作されたBsaBI部位(太字)を、このリファマイシンシンターゼのA−Tロードドメインと第1のPKSモジュールとの間の対応する天然に存在するBsaBI部位に融合した(図6)。得られた融合物を、DEBS1の代りにpBP144に移入し、pBP165を生成した。
【0177】
(表1)
(置換ベンゾエートaによるT−Aジドメインの共有結合的ローディング(Covalent Loading)についての相対速度定数)
【0178】
【表1】
a 30℃,50mMリン酸ナトリウム,pH7.2、1mM DTT、1mM EDTA、15mM MgCl2、5mM ATP、10% グリセロール。
【0179】
b ベンゾエートによるTドメインアリール化と比較した、Tドメインアリール化についての速度定数(スキーム1)。
【0180】
(実施例12)
(分析方法)
吸光度測定を、PBSを用いた希釈液を必要とするBeckman DU650分光光度計を使用して、600nmで実施した。グルコース濃度を、酵素ヘキソキナーゼ検出キット(Sigma−Aldrich)を使用して測定した。アセテートおよびプロピオネートの濃度を、5mMのH2SO4を用いるisocratic HPLC法(Agilent 1100 HPLCシリーズ)を使用して分析した。使用するカラムは、Bio Rad HPLC有機酸分析カラム(Aminex HPX−87H)(屈折率を利用して55℃で維持される)、このカラムを使用して、浄化した発酵培養液サンプルからアセテートおよびプロピオネートを検出した(20μL注入)。分離HPLCアッセイを使用して、以前に記載したように(Lombo,Fら、Biotechnol.Prog.(2001)17(4):612〜617)6dEBを検出した。タンパク質レベルを、細胞破砕(2mlのサンプルを使用した超音波処理)、浄化(clarification)、およびSDS−PAGE/SimplyBlueTMSafeStain(Invitrogen,Carlsbad,CA)染色を介した検出の後、モニターした。
【0181】
(予備の最適化)
E.coli BAPlを、宿主細胞(F−ompT hsdSB(rB− mB−)gal dcm(DE3) ΔprpRBCD(sfp))として使用した。6dEBを、BAPl/pBP130(CarbR)/pBP144(KanR)により生成した。Pfeiffer,B.A.ら、Science(2001)291:1790−1792(本明細書中に参考として援用される)。この菌株は、6dEBの合成のために必要なPKSおよび補助遺伝子を有する。2つをゲノム中に組込み、5つをプラスミド上に組み込んだ。
【0182】
細胞ストックを、カルベニシリン(100mg/L)およびカナマイシン(50mg/L)を補充したLuria Bertani培地(LB)中で、37℃かつ250rpmで、BAP1/pBP130/pBP144の培養物を増殖させることで調製した。培養液が、0.5と1の間のOD600に達した後、これらの細胞を遠心分離し、そして、8%のグリセロールを含むF1培地を使用して、初発培養液容積の半分に再懸濁した。F1培地は以下を含む:KH2PO4、3g/L;K2HPO4、6.62g/L;(NH4)2SO4、4g/L;MgSO4,105.5mg/L;Glucose、5g/L;微量金属(Trace Metal)溶液、1.25ml/L;およびビタミン溶液、1.25ml/L。(この微量金属溶液は、以下を含む:FeCl3・6H2O、27g/L;ZnCl2・4H2O、2g/L;CaCl2・6H2O、2g/L;Na2MoO4・2H2O、2g/L;CuSO4・5H2O、1.9g/L;H3BO3、0.5g/L;濃HCl、100ml/L;以下を含むビタミン溶液:リボフラビン、0.42g/L;パントテン酸、5.4g/L;ナイアシン、6g/L;ピリドキシン、1.4g/L;ビオチン、0.06g/L;葉酸、0.04g/L)。再懸濁した細胞をアリコートし、そして、−80℃で凍結した。
【0183】
スモールスケールの実験のために、250mLのフラスコ中の25mLのF1培地に、0.5mLの凍結前のグリセロール細胞ストックを接種し、そして、適切なOD600(以下で明記するように、0.2〜1の間)まで、37℃および250rpmで増殖させた(各々、カルベニシリン濃度100mg/Lおよびカナマイシン濃度50mg/Lを含む)。この時点で、培養液を22℃まで冷却し、IPTG(イソプロピルチオ−β−D−ガラクトシド、GibcoBRL,Grand Island,NY、以下で明記するように、10μMと10mMの間)で誘導し、そして、プロピオン酸ナトリウム(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO、以下に明記するように、10mg/Lと10g/Lの間の最終濃度まで)を補充した。次いで、この培養液を、生成物のさらなる増加が観察されなくなるまで、200rpmかつ、22℃または25℃でインキュベートした。
【0184】
E.coli BAP1/pBP130/pBP144の培養液中の6dEBの生産性および力価に対する、様々な増殖パラメーターおよび様々なプロセスパラメーターの効果を、これらの条件下で研究した。最初に、E.coliの流加(fed−batch)培養に適合する3つの培地を試験した(データは示さず)。これらの中で、発酵培地F1は、最高の収率(19時間にわたり約1mg/L)を与えた。IPTGおよびプロピオネートの濃度、誘導後の温度ならびに誘導時間の効果を、この培地を使用して研究した。これらの実験に基づいて見出された最適な条件を、表2に示す。
【0185】
【表2】
最高の条件として、6dEB力価は、19時間にわたり一貫して1mg/L〜3mg/Lであると見出された。
【0186】
(栄養ストリーム、誘導時間およびプロピオネート供給の効果)
流加曝気(aerated)発酵を、Applikon 3L Biobundleシステム(Applikon Inc.,Foster City,CA)を使用して実施した。スターターカルチャーを、1.5mLのLB培地(100mg/Lのカルベニシリンおよび50mg/Lのカナマイシン)中で増殖させた。37℃および250rpmで対数増殖期後期に達した後、この培養液を遠心分離し、そして、50mLのLB(100mg/Lのカルベニシリンおよび50mg/Lのカナマイシン)中に再懸濁した。30℃および200rpmで一晩、定常期まで増殖させた培養液を、遠心分離し、そして、2LのF1培地を含む3Lの容器に接種するために、20mLのリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中に再懸濁した。この2LのF1培地は、以下を含む:KH2PO4、1.5g/L;K2HPO4、4.34g/L;(NH4)2SO4、0.4g/L;MgSO4、150.5mg/L;グルコース、5g/L;微量金属溶液、1.25ml/L;およびビタミン溶液、1.25ml/L。増殖は、実験を通して、1MのH2SO4および濃NH4OHでpHを7.1に維持して、37℃で行った。曝気を、600rpm〜900rpmで制御した撹拌で、2.8L/分で維持し、50%の空気飽和を超える溶存酸素を維持した。塩溶液(KH2PO4、K2HPO4、および(NH4)2SO4)を含む発酵装置をオートクレーブしたのに対して、さらなる供給成分(MgSO4、グルコース、微量金属およびビタミン)を濾過滅菌し、そして、接種する前に、150mg/Lのカルベニシリンおよび75mL/Lのカナマイシンとともに無菌的に添加した。この供給物をまた、濾過滅菌した。いったん、グルコースが開始培地から枯渇すると(培養液の酸素要求の突然の減少により示されるように)、温度を22℃まで下げ、そして、IPTG(100μM)およびプロピオン酸ナトリウム(2g/L)を添加した。この時点で、蠕動ポンプが0.1ml/mmの供給培地の送達を開始し、この供給培地は以下:(NH4)2SO4、110g/L;MgSO4、3.9g/L;グルコース、430g/L;微量金属溶液、10ml/L;およびビタミン溶液、10ml/Lを含み、そして、サンプルを、その後、代表的には1日に2回取った。約48時間毎にさらなるプロピオン酸ナトリウムを添加し(プロピオネートが残存しないと推定する場合、2g/Lまで)、ポリケチド生合成のためのこの前駆物質の欠失を回避した。
【0187】
図10A中に示されるように、細胞増殖を、実験の経過を通じてグルコース濃度およびアセテート濃度を1g/L以下に維持する栄養供給ストリームの制御された添加により、50と70の間の最終OD600(24g(乾燥菌体重量)/Lおよび33g(乾燥菌体重量)/L)まで伸ばした。ポリケチド生合成を、100μMのIPTGと2g/Lのプロピオネートを22℃で添加することによって、5と10の間のOD600で誘導した。細胞内タンパク質を、その後、SDS−PAGEを介して定期的に分析し、そして、可溶性PKSタンパク質の発現されたレベルが、実験の期間(誘導の約4時間後から開始する)を通して比較的一定にとどまることを見出した。この培養手順により、110時間にわたり70mg/Lの最終6dEB力価を産出した。前駆物質および生成物の分析は、全ての外因性のプロピオネートが消費された後に力価がプラトーに達したことを示した。図10B中に示すように、発酵培地中のプロピオネート補充は、100mg/Lの6dEBを超える再現性のある力価増加を生じた。6dEBへのプロピオネートの最大変換は、6%であった。発酵槽および振盪フラスコに特異的な生産性は類似した;しかし、発酵槽の容量生産性は、振盪フラスコの値よりも17倍高かった。
【0188】
(TEIIの効果)
Saccharopolyspora erythraea中のエリスロマイシン生合成遺伝子クラスター由来のeryH遺伝子は、チオエステラーゼ遺伝子のホモログ(チオエステラーゼIIまたはTEIIとも命名される)をコードする(Weber,J.M.ら、J.Bacteriol.(1990)172:2372〜2383)。TEIIは、未知の機構により、アクチノミセス宿主中でポリケチド生合成を増強することが示されている(Hu,Z.,公開されていないデータ)。このeryH遺伝子を、クロラムフェニコール耐性プラスミドである、pGZ119EH上のIPTG誘導性T7プロモーターの制御下でクローニングした(Lessl,M.ら、J.Bacteriol.(1992)174:2493〜2500)。このプラスミドは、プラスミドpBP130およびプラスミドpBP144に適合可能である。得られたプラスミドである、pBP190を、pBP130およびpBP144とともに、BAP1中に同時に形質転換し、上記で概略を説明した発酵プロトコル(スターターカルチャー中に34mg/Lのクロラムフェニコールおよび発酵槽中に20mg/Lのクロラムフェニコールを含む)を使用して研究した。
【0189】
この組換え菌株の増殖特性を、以前の実験の特性と類似したが、6dEBの力価は、2倍(約180mg/L)であった(図11)。これらの実験は、TEII共発現が、Streptomyces spp.中のポリケチド生産性効果に類似するE.coliのポリケチド生産性を増加することを示唆する。(ここで、6dEB生成物はまた、TEIIなしの培養物と比較して2倍であった[Hu,Z.,公開されていない結果]。)
上記で記載されたTEII共発現は、BAP1のプラスミド安定特性を有意に改善せず、そして、発酵遺伝子発現プロフィールは、TEIIを発現しない発酵物と比較した場合、質的差異を示さなかった。DEBS特性およびPCC特性とは異なり、TEIIは、SDS−PAGE分析を介して容易に目視できなかったが、発酵槽条件と類似するように意図した振盪フラスコ条件を使用した単離物中で発現された場合、TEII(約30kD)は、N末端6ヒスチジンタグを使用して容易に精製し得た。これは、いったんTEIIが発現すると、このTEIIは、E.coliの細胞骨格内に存在することを示唆する。スモールスケールのインビボでの放射性実験(Pfeiffer(2001)前出)はまた、力価増加がTEII共発現に起因するという概念を支持する。上記で記載したように、E.coli、BAP1、pBP130、pBP144、およびpBP190を、BAP1/pBP130/pBP144/pGZ119EHと比較した。さらに、これらの2つの菌株を、BAP1/pBP130/pBP144と比較した。各々の比較は、TEII共発現した方が、6dEB力価が約2倍増加することを示した。
【0190】
初期の研究において、本発明者らは、E.coli BAP1が、この組換え菌株から、プロピオネート異化のための既知の経路のみが欠失しているので、増殖を支持するための唯一の炭素供給源としてプロピオネートを利用し得ないことを確認していた。しかし、約10%の外因性プロピオネートが6dEBに変換されるので、プロピオネートは、未知でかつ潜在的に所望されない副生成物に異化されると思われる。プロピオネートをプロピニル−CoAとして活性化するE.coliの能力は、BAP1中に保持されている(そして、意図的に増幅されている)ので、奇数鎖の脂肪酸合成の生合成は、外因性のプロピオネートの利用のための1つの経路を提供する可能性がある。放射標識したプロピオネートを、E.coli BAPl/pBP130/pBP144に供給した場合、6dEBよりもなお親油性である(放射−TLC分析により判断した;データは示さず)放射標識した生成物を観察した。別の可能性は、アセチル−CoA(インビボで最も一般的なアシル供与体)の代わりにプロピオニル−CoAを利用し得る非特異的アシル基転移機構を介した、プロピオネートの潜在的利用である。このような「行き詰まった(dead−end)」生成物の同定は、E.coli宿主からのこのような非生産的経路の遺伝子的または代謝的な減衰または排除を導き得、これによって、ポリケチド生合成についてのその能力をさらに増強する。
【0191】
本発明者らの結果は、E.coli中の6dEBの生産性を増強するための、Saccharopolyspora erythraea中に存在するアクセサリーチオエステラーゼ、TEIIの有用性を実証した。TEIIの正確な機構は、現在のところ明らかではなく、そして、この酵素は、多機能PKSの不正確にプロセッシングされた中間体を加水分解することによる、編集する役割を担うと思われる。あるいは、TEIIは、不適切なホスホパンテテイン供与体で翻訳後修飾されたアシルキャリアタンパク質(ACP)ドメインを一掃することにより、PKS酵素の細胞内活性を増大し得る。通常、PKS上のACPドメインは、活性部位のセリンでホスホパンテテインアームの付着により、翻訳後修飾される。この反応は、ホスホパンテテイントランスフェラーゼによって触媒される。BAP1において、異種酵素であるSfp(Bacillus subtilis由来)は、この反応を触媒する。Sfpを使用する主要な利点は、このSfpが実質的な任意のアシルキャリアタンパク質ドメインに対して、広範な基質特異性を有することである;しかし、Sfpは、CoASHに対する匹敵する特異性を有するアシル−CoA供与体を利用し得るので、このSfpは、アセチル−CoAまたはプロピオニル−CoAのような基質を誤って利用し得る。もしそうならば、アセチル化されたホスホパンテテインは、チオエステル結合が加水分解されるまで、ミスプライム(misprime)されたACPドメインを過ぎてプロセスされることから、ポリケチド中間体を効果的にブロックする。TEドメインが、対応するCoAチオエステルよりもむしろアセチルACP−またはプロピオニルACPドメインを選択的に加水分解し得る範囲で、TEドメインは、インビボでの新規な合成PKS活性のエンハンサーとして作用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0192】
【図1】図1は、リファマイシンBの前駆体であるプロサンサマイシンXの提唱される生合成スキームである。このリファマイシンシンテターゼは、一団の5つの多機能性タンパク質RifA、RifB、RifC、RifD、およびRifE(各々、1つ以上のPKSモジュールを含む)からなる。各PKSモジュールは、プロサンサマイシンXの生合成のための鎖伸長および関連するβ−ケト還元という1サイクルを触媒する。RifAのN末端A−Tローディングジドメインは、AHBを用いてこのシンテターゼを開始する。このジドメインは、最小NRPSモジュールを暗示する。AHBに由来するmC7N単位の位置が、プロサンサマイシンX構造中に太く示される。この活性部位は、アデニル化(A)ドメイン、チオール化(T)ドメイン、アシルトランスフェラーゼ(AT)ドメイン、ケトシンターゼ(KS)ドメイン、β−ケトレダクターゼ(KR)ドメイン、またはデヒドラターゼ(DH)ドメインを示す。示されるように、RifFは、分子間アミド形成を介して環化を触媒すると考えられる。
【図2】図2は、A−Tローディングジドメインに関する可能な機構を示す。(A)CoAリガーゼモデルにおいて、Aドメインの活性化AHB−アデニル化産物が、CoAにより攻撃されて、AHB−CoA中間体が生成され、そしてこのアリールチオエステル酵素中間体は、Tドメインへのトランスチオール化から生じる。(B)NRPS様機構において、AHBは、AドメインによりAHB−アデニレートとして活性化され、そしてTドメインのホスホパンテテイン補因子のチオールが、AHB−アデニレートを直接攻撃して、共有結合アリールチオエステル酵素中間体を形成する。
【図3】図3は、apo A−Tジドメインもしくはholo A−Tジドメイン、ATP、および[14C]−Bもしくは[14C]−3−HBの、存在または非存在を示す図であり、この存在または非存在は、holo A−TジドメインとBとのATP依存性共有結合ローディングまたはholo A−Tジドメインと3HBとのATP依存性共有結合ローディングの結果に基づき、この結果は、これらの反応混合物のクーマシー染色ゲル(4〜15%勾配)およびこのゲルのオートラジオグラフ(示さず)に基づいて示される。
【図4】apo A−Tジドメインを含む反応の時間経過の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)追跡をグラフ化している。正味のベンゾイル−CoA形成は観察されない。標識ピークが、CoA、B、およびベンゾイル−CoAの真正標準物と同時注入によって同定された。このHPLC追跡は、0.15分だけ前進的にシフトした。
【図5】3−HBによるholo A−Tジドメインの共有結合ローディングの飽和曲線(白四角)またはBによるholo A−Tジドメインの共有結合ローディングの飽和曲線(白丸)をグラフ化している。図5Aは、このデータの直線表示である。図5Bは、両方のデータセットの同時評価を容易にするための、データの対数表示である。その線は、単純飽和モデルへのこのデータの最適線であり、3−HBに関してkcat=1.9分−1およびKM=180μMを生じ、Bに関してkcat=0.14分−1およびKM=170μMを生じる。
【図6】図6は、DEBS遺伝子およびpcc遺伝子の発現を容易にするための合成オペロンアプローチにて使用された2つのプラスミドを示す。制限部位が、以下のように短縮されている:X(XbaI);N(NdeI);E(EcoRI);H(HindIII);B(Bpu1102I);Ns(NsiI);Ps(PstI);P(PacI);D(DraIII)。
【図7】図7Aは、6−デオキシエリスロノリドBシンターゼ(DEBS)の模式図である。その触媒ドメインは以下である:KS(ケトシンターゼ);AT(アシルトランスフェラーゼ);ACP(アシルキャリアタンパク質);KR(ケトレダクターゼ);ER(エノイルレダクターゼ);DH(デヒドラターゼ);TE(チオエステラーゼ)。DEBSは、1モルのプロピニル−CoAおよび6モルの(2S)−メチルマロニル−CoAを使用して、1モルの6−デオキシエリスロノリドB(6dEB(化合物1))を合成する。図7Bは、短縮型DEBS1+TEが、トリケチドラクトン(化合物2)を生成することを示す。図7Cは、このリファマイシンシンテターゼが、非リボソーム性ペプチドシンテターゼローディングモジュールにより天然で開始されるポリケチドシンターゼであることを示し、この非リボソーム性ペプチドシンテターゼローディングモジュールは、2つのドメイン−ATP依存性アデニル化ドメイン(A)およびチオール化ドメイン(T)から構成される。DEBSのローディングドメインに代えてこのA−Tジドメインで置換すると、外因性酸(例えば、安息香酸)を使用して置換大環状分子(例えば、化合物3)を操作されたE.coli株において合成するように操作された「ハイブリッド」シンターゼが生じる。
【図8】図8は、E.coli BAP1の遺伝子設計の模式図である。
【図9】図9は、E.coliにおける6dEBの産生を示す。細胞タンパク質含量および6dEB濃度が、時間に対してプロットされている。
【図10】図10Aおよび10Bは、E.coliの流加培養発酵実験を示す。図10Aは、経時的にさらなるプロピオネートを添加しなかったことを示す。図10Bは、材料および方法の節において特定されるようなさらなるプロピオネート供給を行ったことを示す。
【図11】図11は、TEII遺伝子発現を含む、E.coli 6dEB流加培養発酵を示す。
Claims (25)
- 少なくとも1つのポリケチドの増大した合成のために、遺伝的に改変された微生物宿主細胞であって、該改変は、開始単位および/または伸長単位の生成を触媒するタンパク質を生成し、そして/あるいは開始単位および/または伸長単位の異化作用のための、少なくとも1つの内因性経路を無能にする、少なくとも1つの発現系の組込みを含む、微生物宿主細胞。
- 前記ポリケチドが生成される条件下で、請求項1に記載の細胞を培養する工程を包含する、ポリケチドを生成する方法。
- 改変した遺伝子混合物を生じる、ポリケチドシンターゼ遺伝子の改変をもたらす手順の結果を評価する方法であって、該方法は、以下の工程:
該改変した遺伝子混合物を、請求項1に記載の細胞培養物にトランスフェクトする工程であって、ここで、該細胞がE.coliである工程、
該トランスフェクトされたE.coliの個々のコロニーを培養する工程、および
ポリケチド生成について各コロニーを評価する工程、
を包含する、方法。 - 置換ベンゾエートが、リファマイシンシンテターゼのアデニル化−チオール化(A−T)ジドメインをプライムし得るか否かを決定するための方法であって、該方法は、以下の工程:
該A−Tジドメインをプライムするのに適切な条件下で、holo A−Tジドメインと共に置換ベンゾエートをインキュベートする工程;および
該A−Tジドメインをプライムした置換ベンゾエートの量または存在を測定する工程、
を包含する、方法。 - 原核生物宿主細胞であって、該原核生物宿主細胞は、遺伝的改変の非存在下でポリケチドを生成せず、少なくとも1つのハイブリッドポリケチドの合成を増大するように遺伝的に改変され、ここで、該改変は、少なくとも1つの、A−Tジドメインを含む発現系の組込みを含み、該発現系は、請求項4に記載される方法に従って、A−Tジドメインをプライムする開始単位を組込む、原核生物細宿主細胞。
- 請求項5に記載される原核生物宿主細胞であって、ここで、前記開始単位が、改変ポリケチドを作製するために、以下:
2−アミノベンゾエート、3−アミノベンゾエート、4−アミノベンゾエート、3−アミノ−5−ヒドロキシベンゾエート、3−アミノ−4−ヒドロキシベンゾエート、4−アミノ−2−ヒドロキシベンゾエート、3−ブロモベンゾエート、3−クロロベンゾエート、3,5−ジアミノベンゾエート、3,5−ジブロモベンゾエート、3,5−ジクロロベンゾエート、3,5−ジフルオロベンゾエート、2,3−ジヒドロキシベンゾエート、3,5−ジヒドロキシベンゾエート、3,5−ジニトロベンゾエート、3−フルオロベンゾエート、2−ヒドロキシベンゾエート、3−ヒドロキシベンゾエート、4−ヒドロキシベンゾエート、3−メトキシベンゾエート、3−ニトロベンゾエートおよび3−スルホベンゾエートからなる群より選択される、原核生物宿主細胞。 - 請求項5に記載される原核生物宿主細胞であって、ここで、前記開始単位が、改変ポリケチドを作製するために、以下:
2−アミノベンゾエート、3−アミノベンゾエート、4−アミノベンゾエート、3−アミノ−4−ヒドロキシベンゾエート、4−アミノ−2−ヒドロキシベンゾエート、3−ブロモベンゾエート、3−クロロベンゾエート、3,5−ジアミノベンゾエート、3,5−ジブロモベンゾエート、3,5−ジクロロベンゾエート、3,5−ジフルオロベンゾエート、2,3−ジヒドロキシベンゾエート、3,5−ジニトロベンゾエート、3−フルオロベンゾエート、2−ヒドロキシベンゾエート、4−ヒドロキシベンゾエート、3−メトキシベンゾエート、3−ニトロベンゾエートおよび3−スルホベンゾエートからなる群より選択される、原核生物宿主細胞。 - 開始単位が組込まれたハイブリッドポリケチドであって、ここで、前記開始単位が、請求項4に記載の方法に従って、A−Tジドメインをプライムする、ハイブリッドポリケチド。
- 請求項8に記載のハイブリッドポリケチドであって、前記開始単位が、以下:
2−アミノベンゾエート、3−アミノベンゾエート、4−アミノベンゾエート、3−アミノ−5−ヒドロキシベンゾエート、3−アミノ−4−ヒドロキシベンゾエート、4−アミノ−2−ヒドロキシベンゾエート、3−ブロモベンゾエート、3−クロロベンゾエート、3,5−ジアミノベンゾエート、3,5−ジブロモベンゾエート、3,5−ジクロロベンゾエート、3,5−ジフルオロベンゾエート、2,3−ジヒドロキシベンゾエート、3,5−ジヒドロキシベンゾエート、3,5−ジニトロベンゾエート、3−フルオロベンゾエート、2−ヒドロキシベンゾエート、3−ヒドロキシベンゾエート、4−ヒドロキシベンゾエート、3−メトキシベンゾエート、3−ニトロベンゾエートおよび3−スルホベンゾエートからなる群より選択される、ハイブリッドポリケチド。 - 請求項9に記載のハイブリッドポリケチドであって、前記開始単位が、以下:
2−アミノベンゾエート、3−アミノベンゾエート、4−アミノベンゾエート、3−アミノ−4−ヒドロキシベンゾエート、4−アミノ−2−ヒドロキシベンゾエート、3−ブロモベンゾエート、3−クロロベンゾエート、3,5−ジアミノベンゾエート、3,5−ジブロモベンゾエート、3,5−ジクロロベンゾエート、3,5−ジフルオロベンゾエート、2,3−ジヒドロキシベンゾエート、3,5−ジニトロベンゾエート、3−フルオロベンゾエート、2−ヒドロキシベンゾエート、4−ヒドロキシベンゾエート、3−メトキシベンゾエート、3−ニトロベンゾエートおよび3−スルホベンゾエートからなる群より選択される、ハイブリッドポリケチド。 - 前記ポリケチドが生成される条件下で、請求項5に記載の細胞を培養する工程を包含する、ポリケチドを生成する方法。
- Escherichia属の細胞、Streptomyces属の細胞、Bacillus属の細胞、Pseudomonas属の細胞、またはFlavobacterium属の細胞である、請求項5に記載の細胞。
- E.coliである、請求項12に記載の細胞。
- 前記細胞が、リファマイシン、ラパマイシン、FK506、アンサトリエニン、FK520、ミクロシスチン、ピマリシン、エリスロマイシン、オレアンドマイシン、メガロマイシン、ピクロマイシン、スピノサド、アベルメクチン、チロシンまたはエポチロンに由来する、完全なポリケチドを生成する、請求項5に記載の細胞。
- 改変したリファマイシンを生成する、請求項14に記載の細胞。
- 6−dEBアナログを生成する、請求項14に記載の細胞。
- 前記遺伝的改変がさらに、ポリケチドシンターゼタンパク質のための少なくとも1つの発現系の組込みを含む、請求項5に記載の細胞。
- 前記遺伝子的改変が、ホスホパンテチエニルトランスフェラーゼのための少なくとも1つの発現系の組込みを含む、請求項5に記載の細胞。
- 微生物宿主において、少なくとも1つのハイブリッドポリケチドの生成を増大する方法であって、該方法は、請求項4に記載の方法に従って、A−Tジドメインをプライムする、外因性開始単位を組込むタンパク質を生成するための発現系を有する該宿主細胞を提供する工程を包含する、方法。
- 微生物宿主細胞において、二次代謝産物の生成を増大する方法であって、該方法は、該微生物細胞が、培養中に高細胞密度に達した後に、該二次代謝産物の生成を誘導する工程を包含する、方法。
- 前記二次代謝産物がポリケチドである、請求項20に記載の方法。
- 前記誘導が、誘導性プロモーターを活性化する化合物を提供することによって誘導される、請求項20に記載の方法。
- 微生物宿主において、二次代謝産物の生成を増大する方法であって、該方法は、該二次代謝産物の生成の間、比較的一定なレベルで、該微生物に与える栄養レベルを維持する工程を包含する、方法。
- 前記二次代謝産物がポリケチドである、請求項23に記載の方法。
- 微生物においてポリケチドの生成を増大する方法であって、該方法は、チオエステラーゼII(TEII)のための発現系を含むように、該微生物を改変する工程を包含する、方法。
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