JP2005503559A - 鉄代謝異常の判別診断 - Google Patents
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Abstract
Description
【0001】
本発明は鉄代謝異常を検出する方法、特に3つの独立したパラメーターを用いる鉄代謝異常の判別診断に関する。判別診断は、鉄代謝異常を分類するため、および必要な治療を提言するため、および経過および治療に対する反応をモニターするために用いることができる。
【背景技術】
【0002】
鉄は、ヘモグロビンおよび細胞ヘミンの成分として、ヒトにおいて最も重要な生体触媒の1つである。鉄代謝異常、特に鉄欠乏、および慢性的全身疾患における鉄の分布および利用の変動は、もっとも頻繁に見落とされる、または誤って解釈される疾患の中に入っている。この主な原因の1つは、通常の診断に用いられる血清または血漿中の輸送鉄の測定では、短期間の変動のために身体総鉄貯蔵量の代表的な評価ができないことである。
【0003】
血漿中の鉄貯蔵タンパク質フェリチンの正確な測定が可能になったので、身体総鉄貯蔵量を決定する方法が得られ、それにより、特に鉄欠乏状態のより迅速で信頼性の高い診断が可能になった。フェリチンは貯蔵鉄の量の指標である。可溶性トランスフェリン受容体(sTfR)は細胞の鉄要求性および赤血球形成活性を示す。sTfR/logフェリチン指数は、貯蔵鉄および機能鉄画分の枯渇の尺度である。感染症および特に腫瘍疾患のような慢性炎症性疾患において、鉄は、赤血球形成細胞への鉄供給の相対的欠乏を伴う、鉄貯蔵の相対的過剰として再分配される。
【0004】
鉄を吸収する能力が非常に限られているために、鉄要求性は機能鉄を再利用することにより満たされているに過ぎない。これはフェリチンおよびヘモシデリンの形で貯蔵される。各細胞はフェリチンを合成することにより過剰の鉄を取り込むことができ、この基本的メカニズムはすべての型の細胞において同一である。トランスフェリン-鉄3 +複合体は、細胞膜のトランスフェリン受容体に結合する。鉄の取り込みはトランスフェリン受容体発現により調節される。さらに、鉄はアポフェリチンの合成を誘導する。このようにして、大部分の代謝的状況において、合成されたフェリチンの大部分は血漿中に放出される。
【0005】
けれども、上記のパラメーターを採用したとしても、さまざまな鉄の状態を日常的に決定および判別することは、実際上不可能であるか非常に困難である。
【発明の開示】
【0006】
したがって、本発明の目的は、鉄代謝異常の簡単で信頼性の高い検出を可能にする方法を提供することであった。
【0007】
この目的は、本発明の、鉄の状態を決定する方法、特に、
(i) 身体総鉄貯蔵量の決定を可能にするパラメーター、
(ii) 赤血球成熟過程および/またはその活性の決定を可能にするパラメーター、および、
(iii) 非特異的鉄代謝異常の決定を可能にするパラメーター
の決定を含む鉄代謝異常を検出する方法により達成される。
【0008】
したがって、本発明は3つの独立したパラメーターを用いる鉄代謝異常の判別診断に関する。
【0009】
身体総鉄貯蔵量の決定は、たとえば、赤血球フェリチン、亜鉛プロトポルフィリン、ヘモグロビン、ミオグロビン、トランスフェリンおよびトランスフェリン飽和、フェリチン、ヘモシデリンまたは/および酵素カタラーゼ、ペルオキシダーゼもしくは/およびシトクロムのパラメーターを測定することにより実施することができる。これらのパラメーターの濃度または活性の測定により、本発明の方法のパラメーター(i)として決定される身体総鉄貯蔵量の決定が可能になる。フェリチンまたはトランスフェリン、特に好ましくはフェリチンがパラメーターとして用いられる。
【0010】
赤血球成熟過程および/または赤血球形成活性は、たとえば、赤血球指数、網状赤血球指数、FS-e(前方散乱赤血球)および/または可溶性トランスフェリン受容体(sTfR)を用いて確認または決定することができる。可溶性トランスフェリン受容体(sTfR)の量または濃度は、本発明の方法におけるパラメーター(ii)として特に好ましく決定され、赤血球成熟過程またはその活性のパラメーターとして用いられる。
【0011】
非特異的鉄代謝異常を決定するためのパラメーターとして、生化学的パラメーターおよび血液学的パラメーターを用いることができる。急性期タンパク質および急性期タンパク質合成の調節因子は、生化学的パラメーターとして好ましく用いられ、網状赤血球合成の障害は、血液学的パラメーターとして好ましく用いられる。非特異的鉄代謝異常を決定するためにその量または濃度を測定する急性期タンパク質の例として、C-反応性タンパク質(CRP)、血清アミロイドA (SAA)、α1-抗キモトリプシン、酸性α1-糖タンパク質、α1-抗トリプシン、ハプトグロビン、フィブリノーゲン、補体成分C3、補体成分C4または/およびコエルロプラスミン(coeruloplasmin)が挙げられる。急性期タンパク質合成の調節因子の例は、インターロイキン6 (IL-6)、白血病阻害因子(LIF)、オンコスタチンM、インターロイキン11 (IL-11)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、インターロイキン1α(IL-1α)、インターロイキン1β(IL-1β)、腫瘍壊死因子α(TNFα)、腫瘍壊死因子β(TNFβ)、インスリン、繊維芽細胞成長因子(FGF)、肝細胞成長因子、トランスグロース(transgrowth)因子β(TGFβ)または/およびインターフェロンである。
【0012】
CH2、網状赤血球計数、網状赤血球のHb含有量(CHr)、IRF(未成熟網状赤血球画分)、新RBCおよび網状赤血球蛍光パラメーターおよび/またはFS-r(前散乱網状赤血球)のような網状赤血球合成の異常は、特に本発明の方法のパラメーター(iii)として用いることができる血液学的パラメーターである。CRP、SAAまたは/およびCHrが好ましい。
【0013】
本発明によれば、驚くべきことに、3つの独立したパラメーターを組み合わせることにより、患者の鉄の状態に関する迅速で信頼性の高い情報を得ることができることが見出された。特に、生化学的または血液学的マーカー、および特に非特異的な炎症マーカーを、他のパラメーターと適切に組み合わせて鉄の状態を決定するために用いることができる。
【0014】
特に、本発明の方法は、鉄の状態および特に鉄代謝異常の分類を可能にする。
【0015】
3つの独立したパラメーターの組合せは、正常な鉄の状態、鉄欠乏、鉄分布異常および/または鉄過剰の間の日常的な判別を可能にする。特に、本発明の方法は、正常な鉄の状態と鉄過剰との判別を可能にする。さらに、本発明の方法は、鉄欠乏と鉄分布異常の状態との判別を可能にする。鉄分布の変動は、リウマチ、喘息または腫瘍のような慢性疾患の原因となり得るので、鉄分布異常の早期の検出は特に重要である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
特に好ましい実施形態において、本発明の方法により決定される鉄の状態は下記の群のうちの1つに分類される。
【0017】
(A) 急性期反応を伴う鉄分布異常または/および鉄利用異常、
(B) 鉄過剰、
(C) 正常な鉄の状態、および
(D) 貯蔵鉄の欠乏
決定されたパラメーターの評価は、好ましくはコンピューターを用いて、たとえば、貧血プログラムの使用により行うことができる。さらに、決定された測定値は、測定範囲を容易にさまざまな鉄の状態に特定するために、グラフの形で図示されることが好ましい。たとえば、パラメーター(iii)を縦座標にプロットし、パラメーター(ii)のパラメーター(i)に対する比を横座標にプロットすることができる。これにより、さまざまな鉄の状態に対応するさまざまな測定範囲(図中の領域)が得られ、鉄過剰を正常な鉄の状態と識別することができ、また正常な鉄の状態を、鉄欠乏と、および、腫瘍貧血、慢性貧血、慢性関節リウマチまたは腎性貧血のような鉄分布障害と識別することができる。
【0018】
本発明の方法はまた、決定された鉄の状態に基づいて、それぞれの患者に必要な治療を簡単な方法で特定するために用いることができる。たとえば、群(A)の分類にはエリスロポエチン(EPO)治療が指示され、群(B)の分類には瀉血が指示され、群(C)の分類には治療は指示されず、群(D)の分類には鉄置換が指示される。これらの治療の提言は、赤血球形成は主に成長因子EPOおよび鉄により調節されるという事実に基づいている。さまざまなタイプの鉄代謝異常は異なる治療を必要としており、それを本発明の方法により決定することができる。鉄欠乏により、特にヘモグロビン形成の欠損、および低色素性小球(mycrocytes)/環状赤血球が生じ、それにより、鉄欠乏および慢性出血として現れる貧血を生じる。エリスロポエチン(EPO)の欠乏により、増殖の減少が引き起こされ、それにより、鉄分布障害、急性期状態、感染、慢性炎症、腫瘍性貧血および腎性貧血として現れる貧血が引き起こされる。
【0019】
鉄代謝異常の治療に加えて、本発明の方法は、経過および治療に対する応答性の観察または/およびモニタリングをも可能にし、それにより個々の患者におけるEPOまたは鉄剤(たとえば、経口または非経口鉄剤)の最適の使用を保証する。
【0020】
上記のパラメーターの選択された特性値に基づいて、本発明の方法はまた、個々の鉄の状態の性特異的な識別または判別をも可能にし、個々の鉄の状態について、後にそれぞれの性別(男性または女性)に対する正常値およびカットオフ値を確立することができる。
【0021】
驚くべきことに、慢性疾患は、その非常に初期でさえも、群(A)の分類に入ることが見出された。そこで、慢性疾患および慢性炎症性疾患を本発明の方法により診断することができる。特に、腎不全、悪性腫瘍、慢性関節リウマチ、糖尿病、心不全、心血管病、血栓症、神経性疾患(neurogenerative diseases)または障害のある妊娠のような疾病を同定することができ、本発明の方法によりそれぞれの治療を指示することができる。
【0022】
鉄過剰を示す群(B)には、鎌状赤血球貧血またはHFE遺伝子修飾のような血色素症(haemochromatosis)が含まれる。
【0023】
以下に本発明を特に好ましい実施形態に基づいて説明するが、本発明の方法は例として記載されたパラメーターに限定されないことに留意すべきである。
【0024】
第1の好ましい実施形態において、パラメーター(ii)としてsTfRを決定する。驚くべきことに、可溶性トランスフェリン受容体(sTfR)は以下の3つのタイプの鉄の状態のパラメーターであることが見出された。
【0025】
(a) ヘモグロビン合成速度、
(b) 鉄貯蔵(フェリチン)の豊富な状態および
(c) 非フェリチン鉄蓄積(分布、鉄蓄積の障害)
さらに、パラメーター(i)としてフェリチン含有量を決定することが好ましい。sTfRおよびフェリチンの組合せは、図1に示されるように、鉄貯蔵、ヘモグロビン合成および鉄蓄積物の枯渇に関する情報を与える。
【0026】
本発明の方法の好ましい実施形態において、鉄の状態を決定するこれら2つのパラメーター、すなわちsTfRおよびフェリチンを、さらに生化学的マーカーまたは血液学的マーカーと組み合わせることができる。
【0027】
炎症マーカーCRPまたはマーカーSAA、最も好ましくはマーカーCRPを、生化学的マーカーとして用いる。
【0028】
この組合せは、特にリウマチ性疾患における慢性貧血(ACD)の診断マーカーとして用いることができる。
【0029】
貧血の種類を効率的に判別するために、sTfR/logフェリチンの比を計算することにより分類を実施する。これはCRPの値を基準にして標準化される。グラフに表すために、sTfR/logフェリチンの比をX軸上にプロットし、CRPの値をY軸上にプロットする。この結果、下記のように表1に示すさまざまなタイプの鉄の状態の分類が得られた。
【表1】
【0030】
* 図2参照
表1に示したカットオフ値は、女性(閉経前)に対してsTfRが1.9から4.4mg/l、フェリチンが15から150μg/l、およびCRPが5mg/l未満、男性に対してsTfRが2.2から5.0mg/l、フェリチンが30から400μg/l、およびCRPが5mg/l未満の基準範囲から導かれる。これをグラフに表すと、CRPの5mg/l、およびsTfR/logフェリチンの比の3.4(男性)および3.7(女性)および0.9のカットオフ値により定められる4つの象限が得られる。これにより、鉄分布の変動(A)、鉄欠乏(D)、および鉄過剰(B)により引き起こされる貧血を正常な鉄の状態(C)と識別することが可能になる。
【0031】
本発明の特に有利な実施形態において、重大な鉄代謝異常の判別診断は、上記の3つの独立したパラメーターの数学的連関を可能にするソフトウエアプログラムを用いておこなう。好ましくは、以下の独立したパラメーターが用いられる。
【0032】
(i) 実際の身体鉄貯蔵(貯蔵鉄)の算出を可能にするパラメーターとしてフェリチン、
(ii) 赤血球形成活性(機能鉄)の算出を可能にするパラメーターとしてsTfR、および、
(iii) たとえば炎症のプロセスにより引き起こされる、非特異的鉄代謝異常の診断のためのパラメーターとしてCRP。
【0033】
このようにして、本発明の方法により、鉄代謝異常を、鉄貯蔵タンパク質フェリチンおよび細胞の鉄要求性の指標としての可溶性トランスフェリン受容体を用いることにより表現することが可能になる。これに加えて、可溶性トランスフェリン受容体の測定は、赤血球形成活性の算出を可能にする。CRPは持続する急性期反応の指標として用いられる。CRPとsTfR/logフェリチンの比との間の相関関係は、鉄欠乏、鉄分布異常および鉄過剰のような貧血の、正常な鉄の状態との効率的な判別診断を可能にする。この判別診断は、コンピューターの利用による評価プログラムによりユーザーにとってさらに簡易化することができる。
【0034】
たとえば、可溶性トランスフェリン受容体を測定するためにラテックス増強免疫比濁分析を用いて、その結果をフェリチンおよびCRPの測定と組み合わせる方法に使用することができる。本明細書においてsTfR、フェリチンおよびCRPを用いる方法に関して述べるsTfRの値は、ラテックス増強免疫比濁分析により測定された値を指す。ラテックス増強免疫比濁分析は、血漿中の比較的低濃度の可溶性トランスフェリン受容体(<10mg/l、または<100nmol/l)を検出するのに十分な感度の測定精度を有する。sTfRについては国際標準法および基準標品がまだ利用できないので、本明細書に記載された試験のためにCOBAS INTEGRA(登録商標)およびRoche/Hitachiの基準範囲を決定した。sTfR基準範囲は、男性に対して2.2から5.0 (2.5から97.5パーセンタイル)、女性に対して1.9から4.4であった。
【0035】
本発明によれば、鉄過剰の状態と正常な鉄の状態を識別するsTfR/logフェリチンのカットオフ値は0.7から1.4、特に0.8から1.0、最も好ましくは0.9である。鉄欠乏を鉄分布異常および正常な鉄の状態と区別するカットオフ値は、好ましくは3.0から4.0、より好ましくは3.4から3.7、最も好ましくは男性では約3.4、女性では約3.7である。これらの値を決定するための目盛り定めを、S.Kolbe-Buschら、Clin. Chem. Lab. Med. 40(5)(2002), 529-536に記載される方法でおこなった。上記に従って、胎盤からのsTfRを標準として用いた。それより上では急性期反応がある境界であるCRPのカットオフ値は、好ましくは約1から10mg/l、より好ましくは4から6mg/l、特に約5mg/lである。
【0036】
別の最も好ましい実施形態において、パラメーター(iii)として血液学的パラメーター、特に、低色素赤血球の割合(HRC%)または網状赤血球のヘモグロビン含有量(CHr)が測定される。驚くべきことに、これらのパラメーターは機能鉄の欠乏の新規の指標であることが見出された。これらのパラメーターは、鉄欠乏(ID)を同定するために、フェリチン、トランスフェリン飽和(TfS)およびトランスフェリン受容体(TfR)のような生化学的マーカーに加えて用いることができる。
【0037】
血液学的パラメーターは赤血球形成活性のいかなる変化をも迅速かつ直接的に示す。
【0038】
APR(急性期反応)のない貧血でない患者は、CHrが28pg以上であり、HCRが5%以下である。28pg未満のCHrまたは5%より大きいHCRを有する患者は機能鉄の欠乏として分類された。血清フェリチン、TfS、TfRおよび計算されたパラメーターのTfR-F指数(TfR/logフェリチンの比)およびTf-Tf-R産物は、HCR%およびCHrと比較して、APRのない患者において信頼性の高い鉄欠乏の診断を可能にする。感染、炎症または腫瘍においてしばしば観察されるAPRを示さない貧血の場合は上記の生化学的マーカーのフェリチンおよびトランスフェリン受容体の診断上の有効性はしばしば不十分である。これらの生化学的マーカーをCHrのような血液学的マーカーと組み合わせて用いることは、結果を著しく改善する。CHrをTfR-F指数に対して、またはTf-TfR産物に対してプロットした場合、APRのある患者およびない患者における貧血を、とりわけ、以下のカテゴリーに分類することが可能である。すなわち、機能鉄の欠乏がない場合、貯蔵鉄の枯渇と機能鉄の欠乏との組合せ、および貯蔵鉄の豊富な状態と機能鉄の欠乏との組合せである。
【0039】
本発明のこの実施形態は、鉄欠乏の同定を可能にし、鉄欠乏と他の鉄代謝異常、特にいわゆる貧血から、また、感染、炎症または腫瘍を伴う慢性疾患(ACD)から区別することを可能にする。ACDは不十分な赤血球形成、骨髄における赤血球前駆細胞の増殖の阻害、および鉄利用の障害を特徴とする。鉄欠乏性貧血(IDA)と同様に、ACDにおいて、機能鉄の欠乏は、赤血球形成との主な識別要素の1つである。これは、赤血球骨髄における鉄要求性と、赤血球の正常なヘモグロビン化を保証するのに十分でない鉄の供給の間の不均衡であると定義される。これは、網状赤血球および赤血球におけるヘモグロビン濃度の減少を引き起こす。IDAにおいて、鉄の供給は貯蔵鉄の含有量に依存し、ACDの場合にはその動態化の速度に依存する。ACDにおいて、鉄の放出が損なわれていれば、大量の貯蔵鉄が存在している場合であっても機能鉄の欠乏が生じ得る。
【0040】
機能鉄の欠乏の診断は患者の正しい治療のために重要である。しかしながら、実際には通常、患者を鉄欠乏、非鉄欠乏または潜在的鉄欠乏に分類することができるのみである。典型的には急性期反応(APR)または癌関連貧血(CRA)を有する人々である第3群の患者は、以前は病気のタイプを決定するために骨髄の検査を必要としてきた。
【0041】
通常、血清または血漿鉄、トランスフェリン、%トランスフェリン飽和(TfS)、フェリチンおよび血清循環トランスフェリン受容体(TfR)のような鉄代謝の生化学的マーカーが用いられる。IDAの診断は、低い血清フェリチンおよびトランスフェリン飽和の減少と同時に起こる、貧血の存在および赤血球の形態学的特徴(高色素、小球症(mycrocytosis))に基づいておこなわれる。けれども、正常な血清フェリチン含有量と同時に起こるIDの診断は、ACDの場合には困難である。フェリチンは急性期の反応物であり、トランスフェリンは負の急性期の反応物であって、両方のタンパク質の濃度はさまざまな状態により影響を受ける。鉄欠乏の有用な指標であるTfRの増大は、骨髄における赤血球前駆細胞の数が増加した患者においても生じ得る。これらの困難のために、特に赤血球およびその前駆体におけるヘモグロビン合成のための鉄の機能的アベイラビリティーを測定する臨床検査室試験を提供することが必要である。
【0042】
機能鉄の状態を評価するために用いることができるマーカーは、低色素赤血球の割合(HRC%)の測定である。赤血球の寿命が約120日であるために、HCR%は、長期間の情報を集約するので、鉄を制限された赤血球形成の後期の指標である。低い血清フェリチンおよび10%未満のHCRの値が同時に得られる場合は、赤血球形成のための鉄の供給が十分であって、赤血球の正常なヘモグロビン化が可能であることを示す。
【0043】
網状赤血球は1から2日の短い循環で存在するので、網状赤血球の細胞ヘモグロビン含有量(CHr)は機能鉄欠乏の初期のマ―カーである。鉄の状態の評価、鉄欠乏の診断、およびさまざまな血液疾患の診断および治療の目的で赤血球形成機能をモニターするためのこの指数の有用性は公知である。
【0044】
血液学的指数HRC%または/およびCHrと生化学的マーカーとの組合せは、本明細書に初めて記載されることである。
【0045】
対照群の2.5から97.5のパーセンタイルを用いて、本発明について以下のカットオフ値を決定した。すなわち、HCRでは、3から7%、特に4から6%、最も好ましくは約5%、CHrでは、25から30pg、特に27から29pg、特に好ましくは約28pgである。鉄の状態は、好ましくは、CHrをTfR-FまたはTf-Tf-Rに対してプロットした診断用プロットを用いて分類される。このようにして、鉄の状態はさまざまなカテゴリー、特に4つのカテゴリー、すなわち、正常な鉄の状態、鉄欠乏(CRP正常)、鉄欠乏(CRP増加)および鉄分布の異常に分類される。
【0046】
別の好ましい実施形態において、本発明は鉄の状態を決定する方法、および、特に、
(i) 身体総鉄貯蔵量の決定を可能にするパラメーター、
(ii) 赤血球成熟過程および/またはその活性の決定を可能にするパラメーター、
(iii) 非特異的鉄代謝異常の決定を可能にするパラメーター、特に、生化学的パラメーター、および、
(iv) 血液学的パラメーター、特にMCHまたはCHr
を決定することを含む鉄代謝異常を検出するための方法に関する。
【0047】
この実施形態において、おそらく鉄分布の障害(機能鉄の急性欠乏)を有する患者に関する群(A)はさらに2つの群に分割することができる。具体的には、機能鉄の急性欠乏のない患者を、実際に機能鉄の欠乏または鉄分布の障害を有する患者と識別することができる。MCHまたはCHrは血球計数から決定することができる。MCHは赤血球細胞の平均ヘモグロビン含有量で、機能鉄の急性欠乏およびそれによる鉄分布の障害が起こった場合に減少する。したがって、MCHは機能鉄の欠乏を他の状態と識別するために用いることができる。28pg/細胞がMCHおよびCHrの限界値であると考えられ、機能鉄の急性欠乏の場合はこの値より上の値を示さないので、値がこれよりも低ければ、機能鉄の欠乏と診断される。
【0048】
本発明はさらに、本発明の方法を実施するためのテストストリップに関する。上記のテストストリップは、
(i) 身体総鉄貯蔵量の決定を可能にするパラメーター、
(ii) 赤血球成熟過程および/またはその活性の決定を可能にするパラメーター、および、
(iii) 非特異的鉄代謝異常の決定を可能にするパラメーター
の決定のための手段を含む。
【0049】
好ましい実施形態において、たとえば、CRPを競合的に測定し、他の2つのパラメーターをサンドウィッチアッセイを用いて測定する。
【0050】
本発明を添付した図面および実施例によりさらに説明する。
【実施例1】
【0051】
パラメーターCRPおよびsTfR/logフェリチンを用いて163人の患者を検査して、得られた結果に従って、正常な鉄の状態、鉄欠乏、鉄分布の障害または鉄過剰に分類した。3つのパラメーター、sTfR、フェリチンおよびCRPを組み合わせて決定することは、判別診断に高度に適していることが証明された。
【実施例2】
【0052】
血液学的パラメーターおよび生化学的パラメーターを組み合わせて用いて373人の患者を検査して4つの群に分類した。群Nは対照群で、APRのない貧血でない患者を含む。群Aは、APRのない貧血の患者からなる。群AAは、CRA、ACDまたは急性感染または炎症性疾患と合わせてAPRを有する貧血の患者を含む。患者群NAは、APRを有する貧血でない患者を含む。
【0053】
フェリチンを、Roche Diagnostics(Mannheim, ドイツ)製のCobascore分析機により測定し、基準範囲を女性では20から150μg/l、男性では20から350μg/lと決定した。市販のアッセイを用いてそれぞれのサンプルについてTfRを測定した。アッセイ(Dadebehring, Marburg)の分析原理は、モノクローナル抗TfR抗体によりコーティングされたラテックス粒子の微凝集に基づくものである。この方法でラテックス増強比濁試験を実施した。基準範囲(2.5から97.5パーセンタイル)は0.4から1.8mg/lであった。
【0054】
TfSは、TfS (%) = Fe (μg/l) × 7.09/Tf (g/l) の式を用いて計算した。
【0055】
鉄代謝異常を決定するために、鉄欠乏性赤血球形成の指標としてCHrおよびHRC%を決定し、TfR-F指数に対してプロットした。以下の結果は個々の患者群について得られたものである。
【0056】
N 群( APR のない貧血でない群)
対照群は、71人の患者からなり、4つの象限からなる診断プロットの中の象限1(図3、左上)に見いだされる。
【0057】
A 群( APR のない貧血群)
79人のAPRのない貧血患者を検査して、象限2(図3)に特定した。
【0058】
NA 群( APR を有する貧血でない群)
この群は80人の患者からなり、象限4(図3)に分類された。
【0059】
AA 群( APR を有する貧血群)
この群は143人の患者からなり、象限3(図3)に分類された。
【0060】
象限1にデータポイントを有する患者は28pg以上のCHrを有していた。
【0061】
象限2の患者はTfR-F指数によれば鉄欠乏である。この象限の中のすべての患者は5%より大きいCAAおよびHRCを有する。CHr>288pg、HRC>5%、上昇したTfRおよび正常なまたは上昇したフェリチンのパターンは、CRAおよびAPRを示すこれらの患者が、 TfRの増加により示される鉄供給の減少を有するが、これは機能鉄の欠乏を起こす程ではないことを示していた。
【0062】
象限3にデータポイントを有する患者は、フェリチン濃度が最も低く、Tf濃度が最も高かった。Tfは負の急性期反応物であり、その平均濃度は象限1および4の鉄の豊富な状態の患者では減少していた。それに対して、血液学的および生化学的に同定された鉄欠乏を有する象限3の患者において、APRは血清Tfの減少をおこさなかった。これは、Tf合成に対して、鉄欠乏の正の刺激がAPRの負の刺激よりも大きいことを示す。
【0063】
象限4にデータポイントを有する患者は、28pg未満のCHrおよび5%よりも大きいHRCを有していた。
【0064】
要約すると、診断プロットの象限1から4のうちの1つにデータポイントを配置することは、CHRのTfR/logフェリチンに対するグラフにおける鉄欠乏の同定について、以下のことを意味する:
象限 1:生化学的または血液学的に同定される鉄欠乏がない
象限 2:生化学的に同定される鉄欠乏のみ
象限 3:生化学的および血液学的に同定される鉄欠乏
象限 4:血液学的に同定される鉄欠乏のみ。
【0065】
患者群は血液学的および生化学的結果により以下のように細分することができる:
群 N:貧血でない、APRなし;Hb(男性)≧140g/l、Hb(女性)≧123g/l、CRP ≦5mg/l、WBC ≦10,000/μl、ESR(赤血球沈降速度)≦30mm/h、RDW(赤血球分布幅)≦15%;
群 A:貧血、APRなし;Hb(男性)<140g/l、Hb(女性)<123g/l、CRP ≦5mg/l、WBC ≦10,000/μl、ESR ≦30mm/h;
群 NA:貧血でない、APRあり;Hb(男性)≧140g/l、Hb(女性)≧123g/l、CRP >5mg/lまたはWBC >10,000/μlまたはESR >30mm/hまたはRDW >15%;
群 AA:貧血、APRあり;Hb(男性)<140g/l、Hb(女性)<123g/l、CRP >5mg/lまたはWBC >10,000/μlまたはESR >30mm/h。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】可溶性トランスフェリン受容体(sTfR)が3つのタイプの鉄の状態のパラメーターであることを示す。(A)(鉄分布障害)についてはHb合成プラス鉄蓄積を、(B)(鉄過剰)についてはHb合成プラス鉄蓄積を、(C)(正常な鉄の状態)についてはHb合成を、(D)(鉄欠乏)についてはHb合成プラス貯蔵鉄を意味する。
【図2】貧血プログラムへの入力、sTfR/logフェリチンに対するCRPのグラフにおける4つの象限A、B、C、Dの分類、ますの分類およびそれぞれの場合に提言される治療の例を示す。
【図3】血液学的マーカーおよび生化学的マーカーの組合せに用いられる分類を示す。
【図4】本発明の好ましい実施形態を示し、 群Aが血液学的パラメーター、特にMCHまたはCHrの決定によりさらに分割される。
Claims (13)
- (i) 身体総鉄貯蔵量の決定を可能にするパラメーター、
(ii) 赤血球成熟過程および/またはその活性の決定を可能にするパラメーター、および、
(iii) 非特異的鉄代謝異常の決定を可能にするパラメーター
を決定することを含む、鉄の状態を決定するための、特に鉄代謝異常を検出するための方法。 - パラメーター(i)が、赤血球フェリチン、亜鉛プロトポルフィリン、ヘモグロビン、ミオグロビン、トランスフェリン、トランスフェリン飽和、フェリチン、ヘモシデリン、カタラーゼ、ペルオキシダーゼまたは/およびシトクロムから選択されることを特徴とする、請求項1記載の方法。
- パラメーター(ii)が、赤血球指数、網状赤血球指数、FS-e(前散乱赤血球)および/または可溶性トランスフェリン受容体(sTfR)から選択されることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
- パラメーター(iii)が、急性期タンパク質、特にC-反応性タンパク質(CRP)、血清アミロイドA (SAA)、α1-抗キモトリプシン、酸性α1-糖タンパク質、α1-抗トリプシン、ハプトグロビン、フィブリノーゲン、補体成分C3、補体成分C4もしくはコエルロプラスミン(coeruloplasmin)、または/および急性期タンパク質合成の調節因子、特にインターロイキン6 (IL-6)、白血病阻害因子(LIF)、オンコスタチンM、インターロイキン11 (IL-11)、繊毛神経親和性因子(CNTF)、インターロイキン1α (IL-1α)、インターロイキン1β (IL-1β)、腫瘍壊死因子α(TNFα)、腫瘍壊死因子β(TNFβ)、インスリン、繊維芽細胞成長因子(FGF)、肝細胞成長因子、トランスグロース(transgrowth)因子β(TGFβ)、もしくはインターフェロン(INF)、または/および網状赤血球合成の異常、特に網状赤血球計数、網状赤血球のHb含有量(CHr)、未成熟網状赤血球画分(IRF)、新赤血球(RBC)および網状赤血球蛍光パラメーターもしくは前散乱網状赤血球(FS-r)から選択されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
- (iii)において、血液学的パラメーター、好ましくはCHrを決定することを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項記載の方法。
- 判別診断を実施することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
- 鉄の状態、特に鉄代謝異常を分類することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
- 鉄の状態が、以下の群:
(A) 急性期反応を有する鉄分布異常または/および鉄利用異常、
(B) 鉄過剰、
(C) 正常な鉄の状態、および、
(D) 貯蔵鉄の欠乏
の1つに分類されることを特徴とする、請求項7記載の方法。 - 鉄代謝異常の分類に基づいて必要な治療が提言されることを特徴とする、請求項7または8記載の方法。
- 群(A)の分類にはEPO治療が指示され、群(B)の分類には瀉血が指示され、群(C)の分類には治療が指示されず、群(D)に分類された場合には鉄置換が指示されることを特徴とする、請求項9記載の方法。
- 経過または/および治療への反応を観察または/およびモニターすることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項記載の方法。
- (i) 身体総鉄貯蔵量の決定を可能にするパラメーター、
(ii) 赤血球成熟過程および/またはその活性の決定を可能にするパラメーター、
(iii) 非特異的鉄代謝異常の決定を可能にするパラメーター、特に、生化学的パラメーター、および、
(iv) 血液学的パラメーター
を決定することを含む、請求項1〜11のいずれか1項記載の方法。 - 請求項1〜12のいずれか1項記載の方法を実施する手段を含むテストストリップ。
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