近年、急速に発達しつつある移動体通信システム(たとえば、Personal Handyphone System:以下、PHS)では、干渉波の影響を抑制して良好な通信品質を得るために、複数のアンテナからなるアレイアンテナの受信信号に対して、周知のアダプティブアレイ処理を行うことにより、所望波の信号を分離抽出するアダプティブアレイ基地局が実用化されている。
さらに、このようなアダプティブアレイ基地局を用いれば、電波の周波数利用効率を高めるために、同一周波数の同一タイムスロットを空間的に分割することにより複数ユーザの移動端末装置を無線基地システムにパス多重接続させることができるPDMA(Path Division Multiple Access)方式を実現することが可能である。なお、PDMA方式は、また、SDMA方式(Space Division Multiple Access)とも呼ばれる。
図11は、周波数分割多重接続(Frequency Division Multiple Access:FDMA),時分割多重接続(Time Division Multiple Access :TDMA)および空間多重分割接続(Space Division Multiple Access:SDMA)の各種の通信システムにおけるチャネルの配置図である。
まず、図11を参照して、FDMA,TDMAおよびSDMAについて簡単に説明する。図11(a)はFDMAを示す図であって、異なる周波数f1〜f4の電波でユーザ1〜4のアナログ信号が周波数分割されて伝送され、各ユーザ1〜4の信号は周波数フィルタによって分離される。
図11(b)に示すTDMAにおいては、各ユーザのデジタル化された信号が、異なる周波数f1〜f4の電波で、かつ一定の時間(タイムスロット)ごとに時分割されて伝送され、各ユーザの信号は周波数フィルタと基地局および各ユーザ移動端末装置間の時間同期とにより分離される。
一方、SDMA方式では、図11(c)に示すように、同じ周波数における1つのタイムスロットを空間的に分割して複数のユーザのデータを伝送するものである。このSDMAでは各ユーザの信号は周波数フィルタと基地局および各ユーザ移動端末装置間の時間同期とアダプティブアレイなどの相互干渉除去装置とを用いて分離される。
図12は、従来のSDMA用基地局の送受信システム2000の構成を示す概略ブロック図である。
図12に示した構成においては、たとえば、ユーザPS1とPS2とを識別するために、n本のアンテナ♯1〜♯n(n:自然数)が設けられている。
受信動作においては、アンテナの出力は、RF回路2101に与えられ、RF回路2101において、受信アンプで増幅され、局部発振信号によって周波数変換された後、フィルタで不要な周波数信号が除去され、A/D変換されて、デジタル信号としてデジタルシグナルプロセッサ2102に与えられる。
デジタルシグナルプロセッサ2102には、チャネル割当基準計算器2103と、チャネル割当器2104と、アダプティブアレイ2100とが設けられている。チャネル割当基準計算器2103は、2人のユーザからの信号がアダプティブアレイによって分離可能かどうかを予め計算する。その計算結果に応じて、チャネル割当器2104は、周波数と時間とを選択するユーザ情報を含むチャネル割当情報をアダプティブアレイ2100に与える。アダプティブアレイ2100は、チャネル割当情報に基づいて、アンテナ♯1〜♯nからの信号に対して、リアルタイムに重み付け演算を行なうことで、特定のユーザの信号のみを分離する。
[アダプティブアレイアンテナの構成]
図13は、アダプティブアレイ2100のうち、1人のユーザに対応する送受信部2100aの構成を示すブロック図である。図13に示した例においては、複数のユーザ信号を含む入力信号から希望するユーザの信号を抽出するため、アンテナ♯1〜♯nからの信号を受けるn個の入力ポート2020−1〜2020−nが設けられている。
各入力ポート2020−1〜2020−nに入力された信号が、スイッチ回路2010−1〜2010−nを介して、ウエイトベクトル計算機2011と乗算器2012−1〜2012−nとに与えられる。
ウエイトベクトル計算機2011は、入力信号と予めメモリ2014に記憶されている参照信号であるユニークワード信号と加算器2013の出力とを用いて、ウエイトベクトルw1i〜wniを計算する。ここで、添字iは、i番目のユーザとの間の送受信に用いられるウエイトベクトルであることを示す。したがって、ユニークワード信号は、アダプティブアレイ処理のためのトレーニング信号である。
乗算器2012−1〜2012ーnは、各入力ポート2020−1〜2020−nからの入力信号とウエイトベクトルw1i〜wniとをそれぞれ乗算し、加算器2013へ与える。加算器2013は、乗算器2012−1〜2012−nの出力信号を加算して受信信号SRX(t)として出力し、この受信信号SRX(t)は、ウエイトベクトル計算機2011にも与えられる。
さらに、送受信部2100aは、アダプティブアレイ無線基地局からの出力信号STX(t)を受けて、ウエイトベクトル計算機2011により与えられるウエイトベクトルw1i〜wniとそれぞれ乗算して出力する乗算器2015−1〜2015−nを含む。乗算器2015−1〜2015−nの出力は、それぞれスイッチ回路2010−1〜2010−nに与えられる。つまり、スイッチ回路2010−1〜2010−nは、信号を受信する際は、入力ポート2020−1〜2020−nから与えられた信号を、信号受信部1Rに与え、信号を送信する際には、信号送信部1Tからの信号を入出力ポート2020−1〜2020−nに与える。
[アダプティブアレイの動作原理]
次に、図13に示した送受信部2100aの動作原理について簡単に説明する。
以下では、数式を用いた説明にあたっては、説明を簡単にするために、アンテナ素子数を4本とし、同時に通信するユーザ数PSを2人とする。このとき、各アンテナから受信部1Rに対して与えられる信号は、以下のような式で表わされる。
ここで、信号RXj (t)は、j番目(j=1,2,3,4)のアンテナの受信信号を示し、信号Srxi (t)は、i番目(i=1,2)のユーザが送信した信号を示す。
さらに、係数hjiは、j 番目のアンテナに受信された、i 番目のユーザからの信号の複素係数を示し、nj (t)は、j番目の受信信号に含まれる雑音を示している。
上の式(1)〜(4)をベクトル形式で表記すると、以下のようになる。
なお式(6)〜(8)において、[…]T は、[…]の転置を示す。
ここで、X(t)は入力信号ベクトル、Hi はi番目のユーザの受信応答ベクトル、N(t)は雑音ベクトルをそれぞれ示している。
アダプティブアレイアンテナは、図13に示したように、それぞれのアンテナからの入力信号に重み係数w1i〜w4iを掛けて合成した信号を受信信号SRX(t)として出力する。
さて、以上のような準備の下に、たとえば、1番目のユーザが送信した信号Srx1 (t)を抽出する場合のアダプティブアレイの動作は以下のようになる。
アダプティブアレイ2100の出力信号y1(t)は、入力信号ベクトルX(t)とウエイトベクトルW1 のベクトルの掛算により、以下のような式で表わすことができる。
すなわち、ウエイトベクトルW1 は、j番目の入力信号RXj (t)に掛け合わされる重み係数wj1(j=1,2,3,4)を要素とするベクトルである。
ここで式(9)のように表わされたy1(t)に対して、式(5)により表現された入力信号ベクトルX(t)を代入すると、以下のようになる。
ここで、アダプティブアレイ2100が理想的に動作した場合、周知な方法により、ウエイトベクトルW1 は次の連立方程式を満たすようにウエイトベクトル計算機2011により逐次制御される。
式(12)および式(13)を満たすようにウエイトベクトルW1 が完全に制御されると、アダプティブアレイ2100からの出力信号y1(t)は、結局以下の式のように表わされる。
すなわち、出力信号y1(t)には、2人のユーザのうちの第1番目のユーザが送信した信号Srx1 (t)が得られることになる。
一方、図13において、アダプティブアレイ2100に対する入力信号STX(t)は、アダプティブアレイ2100中の送信部1Tに与えられ、乗算器2015−1,2015−2,2015−3,…,2015−nの一方入力に与えられる。これらの乗算器の他方入力にはそれぞれ、ウエイトベクトル計算機2011により以上説明したようにして受信信号に基づいて算出されたウエイトベクトルw1i,w2i,w3i,…,wniがコピーされて印加される。
これらの乗算器によって重み付けされた入力信号は、対応するスイッチ2010−1,2010−2,2010−3,…,2010−nを介して、対応するアンテナ♯1,♯2,♯3,…,♯nに送られ、送信される。
ここで、ユーザPS1,PS2の識別は以下に説明するように行なわれる。すなわち、携帯電話機の電波信号はフレーム構成をとって伝達される。携帯電話機の電波信号は、大きくは、無線基地局にとって既知の信号系列からなるプリアンブルと、無線基地局にとって未知の信号系列からなるデータ(音声など)から構成されている。
プリアンブルの信号系列は、当該ユーザが無線基地局にとって通話すべき所望のユーザかどうかを見分けるための情報の信号列(ユニークワード信号)を含んでいる。アダプティブアレイ無線基地局1のウエイトベクトル計算機2011は、メモリ2014から取出したユニークワード信号と、受信した信号系列とを対比し、ユーザPS1に対応する信号系列を含んでいると思われる信号を抽出するようにウエイトベクトル制御(重み係数の決定)を行なう。
なお、以上の説明では、信号の送信時には、受信時のウェイトベクトルをコピーして送信信号の指向性を形成することとしたが、送信時には、端末装置の移動速度等を考慮して、受信時のウェイトベクトルを補正したものを送信用のウェイトベクトルとして使用してもよい。
一方で、周波数の利用効率の高い通信方式として、直交周波数分割多重(OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing)方式が知られている。
OFDM方式は、1チャンネルのデータを複数の搬送波に分散させて変調を行なうマルチキャリア変調の一種である。OFDM方式では、通信に使用される信号の周波数スペクトラムは、矩形に近い形状となる。
図14は、このようなOFDM方式において使用される複数のキャリア(搬送波)の周波数スペクトラムのうち、3キャリア分を抜き出して示す図である。
OFDM方式においては、図14に示すとおり、1つの搬送波のスペクトラムに注目すると、この搬送波のスペクトラムのゼロ点が、隣接する搬送波の周波数と一致するように、複数の搬送波の周波数間隔が設定されている。言い換えると、各搬送波は互いに干渉しない周波数に配列されており、しかも、各搬送波は互いに直交している。
ここで、各搬送波の周波数の間隔Δfは、送信されるデータの1シンボルの継続時間をTsとするとき、以下の式で与えられる。
Δf=1/Ts×n(n:自然数)
図15は、このようなOFDM方式によって伝送される伝送シンボルの波形を示す図である。
i=1からi=NまでのN個の搬送波の波形を合成した結果として、図15の一番下の波形で示されるような信号が、OFDMの伝送シンボルとして用いられることになる。
OFDM方式の変調においては、各キャリア成分を得るために、ベースバンド信号に対して、逆離散フーリエ変換が行なわれる。これに対応して、受信波の復調処理においては、受信信号に対して、離散フーリエ変換が、いわゆる高速フーリエ変換(FFT)のアルゴリズムによって行なわれることになる。
ここで、図15においては、OFDMの信号波形中には、有効シンボル期間の前に、「ガードインターバル」が設けられている。このようなガードインターバルとしては、有効シンボル波形の一部、たとえば有効シンボル波形の最後尾の所定期間Tgの期間の信号がコピーされて付加されている。
このようなガードインターバルはマルチパス干渉によって生ずる干渉波信号への対策として設けられるものである。
所望波と時間遅れで到達した干渉波が合成され受信信号となった場合、干渉波の遅延時間がガードインターバルとして設定した時間内であれば、干渉波の影響はガードインターバル期間内に限定される。予め予想される干渉波の遅延時間よりもガードインターバル期間を長く設定しておけば、以下に説明するように、この干渉波の影響を排除して復調することが可能となる。
図16は、このような所望波と干渉波が受信された場合の復調動作について説明するための概念図である。
OFDM方式の復調に当っては、図16に示すように、各シンボル期間においてFFTウィンドウと称する時間窓が設けられる。この時間窓は、受信したOFDMの伝送シンボルのうち、有効シンボル区間のみを切取る処理を行なう区間を示す。ここで、このようなFFTウィンドウは有効シンボル期間長Tsと等しくする。また、ガードインターバル期間は、上述のとおり、干渉波の遅れ時間よりも長く設定されている。このようにすれば、干渉波が存在している場合でも、ガードインターバル期間に存在する信号は、同一の有効シンボル内の信号であるため、受信波の各搬送波についての直交性を維持することが可能となる。したがって、受信側では、このような干渉波の影響を排除した復調を行なうことが可能となる。
したがって、上述したようなアダプティブアレイ方式と、このようなOFDM方式とを組合せれば、より高い通信品質の実現とより周波数の利用効率の高い受信方式の実現とが期待される。
しかしながら、このような2つの方式を単純に組合せたのみでは、以下に説明するような問題点がある。
[キャリアごとに異なるアダプティブアレイを動作させる構成の問題点]
以下では、アダプティブアレイを用いて、OFDM伝送を行なうための第1の構成例について説明する。
このような構成を利用すれば、さらに、アダプティブアレイ技術の適用により、上述したようなSDMA方式の多重接続を行なうことも可能である。
図17は、このようなアダプティブアレイ基地局3000の構成を説明するための概略ブロック図である。
図17を参照して、アダプティブアレイ基地局3000は、説明の簡単のために、4本のアンテナ♯1〜♯4を有するアダプティブアレイアンテナを用いて送受信を行なっているものとする。また、図17では、アダプティブアレイ基地局の構成にうち受信を行なうための構成を抜き出して説明を行なうことにする。
図17を参照して、アダプティブアレイ基地局3000は、アダプティブアレイアンテナ♯1〜♯4からの信号を受取って、検波やアナログ・デジタル変換を行なうためのA/D変換部3010と、A/D変換部3010から出力されるデジタル信号を受取って、高速フーリエ変換を行ない、各搬送波ごとの信号を分離するためのFFT部3020とを備える。
ここで、FFT部3020から出力される信号のうち、l番目のキャリアについてのi番目のアンテナからの信号を以下、信号fl,i(l,i:自然数)と表わすことにする。
アダプティブアレイ基地局3000は、さらに、各キャリアごとに設けられ、各々が、アンテナ♯1〜♯4からの信号をFFT部3020でフーリエ変換することにより得られた、対応するキャリアの成分を受取って、アダプティブアレイ処理を行なうためのN個(N:キャリアの総数)のアダプティブアレイブロック3030.1〜3030.Nを備える。
ただし、図17においては、l番目のキャリアについてのアダプティブアレイブロック3030.lのみを抜出して示している。
アダプティブアレイブロック3030.lは、図13に示したアダプティブアレイ基地局と同様に、信号fl,1〜fl,4を受取って、受信ウエイトベクトルを計算するための受信ウエイトベクトル計算機3041と、信号fl,1〜fl,4をそれぞれ一方入力に受け、他方入力に、それぞれ受信ウエイトベクトル計算機3041からの受信ウエイトベクトルを受ける乗算器3042−1〜3042−4と、乗算器3042−1〜3042−4の出力を受けて合成するための加算器3043と、受信ウエイトベクトル計算機3041において、アダプティブアレイ処理の計算を行なう際に使用されるユニークワード信号(参照信号)を予め格納しておくためのメモリ3044とを備える。加算器3043からは、キャリアlについての所望信号Sl(t)が出力され、この所望信号Sl(t)は、受信ウエイトベクトル計算機3041に対しても与えられる。
このような構成とすることで、OFDM伝送方式によって伝送される信号をアダプティブアレイ基地局によって所望のユーザからの信号を、アダプティブアレイ処理によりキャリアごとに分離して受信することが可能となる。
しかしながら、このようなアダプティブアレイ基地局3000の構成では、以下のような問題点がある。
上述したとおり、OFDM方式においては、1チャネル分の信号を、多数のキャリアに分散して伝送する。
したがって、一般にOFDM方式で伝送される信号において、各キャリアごとに含まれる参照信号のシンボル数は十分な個数でない場合が多い。たとえば、総務省等により推進されている「マルチメディア移動アクセスシステム(MMAC:Multimedia Mobile Access Communication systems)」においては、OFDMのキャリア(サブキャリア)ごとの参照信号は2シンボルと規定されている。
このような場合、図17に示したようなアダプティブアレイ基地局3000の構成では、ウエイトを収束させることが困難となり、精度のよい指向性を形成することができないという問題がある。
さらに、図17に示したアダプティブアレイ基地局3000の構成では、以下に説明するような問題点も存在する。
図18は、図17に示したアダプティブアレイ基地局3000が受信する信号のタイミングを示す概念図である。
図18において、受信信号のうち、「G」で示した部分は、上述したようなガードインターバル期間を表わしている。
また、本来の所望波は、一般には最初に基地局に到来する信号であり、最初に到来する信号を以下、「先頭到来信号」と呼ぶことにする。
また、この先頭到来信号に対して、マルチパスの影響で、ガードインターバル期間内の遅延時間で到達する信号を「短遅延信号」と呼び、マルチパスの影響により、先頭到来信号よりもガードインターバル期間以上遅延して到来する信号を「長遅延信号」と呼ぶことにする。さらに、このような先頭到来信号、短遅延信号および長遅延信号がそれぞれ伝達された経路を「パス」と呼ぶことにする。
また、図18においては、アダプティブアレイブロック3030.lにおいて、信号のサンプリングを行なうタイミングが矢印で示されている。
アダプティブアレイ基地局3000においては、アダプティブアレイ処理は、各キャリアごとに分割された後の信号に対して行なわれるため、そのサンプリングタイミングも、この各キャリアごとの信号波形を抽出するのに十分な時間間隔であればよい。
アダプティブアレイ処理を行なうことにより、図18に示すような長遅延信号は除去することが可能である。
一方、帯域分割されたキャリアの帯域幅は、短遅延信号を分離できないほどに狭いために、先頭到来信号と短遅延信号とはアダプティブアレイ処理においては、同一信号と見なして処理が行なわれる。
図19は、このようなアダプティブアレイ通過後の各キャリアに対応する信号の強度分布を示す図である。
図19において、各キャリアの周波数f1〜fNの各々において、先頭到来信号(「先頭波」)のスペクトルと、短遅延信号(「短遅延波」)のスペクトルは、上述したように、アダプティブアレイ処理後においては、同一の信号のように見える。しかしながら、全キャリアについての帯域は非常に広いため、たとえば、図19の矢印で示したキャリアにおいては、先頭波と短遅延波が逆相になっているという場合が存在し得る。
図20は、図19で示したような場合に、各キャリアごとの信号を合成したときの強度分布を示す図である。
先頭波にタイミングを合わせた参照信号を使用してアダプティブアレイ受信を行なうと、この先頭信号と短遅延信号とが逆相になっている周波数のキャリアについては、レベルが小さい信号しか取出すことができない。つまり、各キャリアごとにアダプティブアレイ受信を行なうと、図19に示すように、先頭波と短遅延波が逆相になっている周波数のキャリアについては、極端に信号レベルが低下した信号しか取出すことができなくなってしまう。
このため、図19の矢印で示したキャリアについては、十分な信号伝達を行なうことができないため、冗長符号を使用したり、このキャリアを使わずに通信するといった制御を行なうことが必要となってしまう。後者の場合、本来、短遅延信号として基地局に到来している信号を、不要信号として除去してしまうことに相当し、受信感度の低下をもたらすことになる。
したがって、以上をまとめると、図17に示したようにキャリアごとに異なるアダプティブアレイを動作させる構成の場合、まず第1に精度よい指向性制御をするための十分な参照信号を確保することが困難であるという問題がある。
さらに、ガードインターバル以内のマルチパス信号を最大比合成できないため、受信感度が低下するという問題がある。
つまり、ガードインターバル以内の遅延時間の信号(短遅延成分)は、先頭信号と相関が高いため、先頭信号にタイミングを合わせた参照信号を使ってアダプティブアレイ合成すると、アレイ合成出力に短遅延成分が含まれることになる。しかしながら、OFDM伝送方式では、通信に使用する複数のキャリアが、非常に広帯域に分布する場合は、キャリアによっては、先頭波と短遅延波の位相が逆位相になる場合がある。この場合、キャリア全体で見ると最大比合成されないという問題が生じることになる。
[全キャリア共通のウェイトでアダプティブアレイ動作をする構成の問題点]
アダプティブアレイ基地局3000の構成では、上述したような問題があるため、他の構成として、FFT処理により帯域分割される前の信号に対して、アダプティブアレイ処理を行なうという構成も考えられる。
図21は、このようなすべてのキャリアに共通の重みを計算して、アダプティブアレイを動作させるアダプティブアレイ基地局4000の構成を説明するための概略ブロック図である。
図21を参照して、アダプティブアレイ基地局4000は、図17に示したアダプティブアレイ基地局3000と同様に、4本のアンテナ♯1〜♯4からの信号を受けて、検波やアナログ・デジタル変換を行なうためのA/D変換部4010と、A/D変換部4010の出力を受けて、各アンテナごとの信号に対する受信ウエイトベクトルを計算するための受信ウエイトベクトル計算部4041と、一方入力に各アレイアンテナからの信号受け、他方入力に受信ウエイトベクトル計算機4041からのウエイトベクトルをそれぞれ受ける乗算器4042−1〜4042−4と、乗算器4042−1〜4042−4からの出力を受けて、合成するための加算器4043と、受信ウエイトベクトル計算機4041がウエイトベクトルを計算する際に用いる参照信号を予め記憶しておくためのメモリ4044と、加算器4043の出力を受けて高速フーリエ変換処理を行ない、各キャリアごとの所望波の信号S1(t)〜SN(t)を分離するためのFFT部4050とを備える。加算器4043の出力は、受信ウエイトベクトル計算機4041に与えられ、受信ウエイトベクトルの計算に使用される。
図22は、図21に示したアダプティブアレイ基地局4000の動作を説明するための概念図である。
図22においても、「G」はガードインターバル期間を示す。また、帯域分割前の信号に対してアダプティブアレイ処理を行なうために、アダプティブアレイにおいて、たとえば受信ウエイトベクトル計算機4041のサンプリングタイミングは、図18に示したように帯域分割後の信号に対するのに比べて、より短い期間でサンプリングを行なうことが必要となる。
この場合も、長遅延信号は、アダプティブアレイブロックによるアダプティブアレイ処理により除去することが可能である。
一方、アダプティブアレイブロックに入力される信号は、帯域分割されていないため、非常に帯域が広い信号となる。つまり、先頭到来信号と短遅延信号も完全に異なる信号として受信ウエイトベクトル計算機4041では認識される。したがって、このような短遅延信号もアダプティブアレイ処理によって除去されてしまうことになる。
このような動作を行なうと、実際には、短遅延信号自体も所望波であって、有効に活用すればその特性を向上することが期待されるのに対し、このような短遅延信号自体もアダプティブアレイ処理によって除去されてしまうために、通信品質が低下してしまうという問題点がある。
さらに、短遅延信号も干渉信号と見なしてしまうため、アダプティブアレイ基地局4000から見ると、非常に多くの干渉波が到来しているように見えることになる。これらの信号を除去するために、アダプティブアレイによって指向性を形成すると、アンテナ自由度を使い切ってしまう可能性がある。
このように、アンテナ自由度を使い切ってしまった場合は、所望波方向への利得が低下する、もしくは、アンテナ自由度超える干渉が見えるためにすべての干渉を除去することができなくなるという問題がある。
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、OFDM伝送方式に対して、アダプティブアレイ受信を行なった場合においても、ガードインターバル以内のマルチパス信号については最大比合成して、受信感度を向上させることが可能なアダプティブアレイ基地局を提供することである。
この発明の他の目的は、ガードインターバル期間以内のマルチパス信号については、それらを合成する際に、アンテナ自由度を消費せず、干渉抑圧性能を維持することが可能なアダプティブアレイ基地局を提供することである。
この発明は要約すると、複数のキャリアを用いた直交周波数分割通信方式により伝送される信号の送受信を行うための無線装置であって、複数のアンテナを有するアレイアンテナと、所望波信号に対する第1の応答ベクトルを推定する受信応答ベクトル推定手段と、第1の応答ベクトルをフーリエ変換して、複数のキャリアの各々に対する成分を抽出する第1のフーリエ変換手段と、アレイアンテナからの受信信号をフーリエ変換して、アンテナごとの受信信号のキャリアそれぞれに対する成分を抽出する第2のフーリエ変換手段と、複数のキャリアごとに設けられ、各々が、アンテナごとの受信信号のキャリアに対する成分のうち、対応するキャリア成分を第2のフーリエ変換手段から受けて、所望波における対応するキャリアの成分を抽出するアダプティブアレイ処理手段とを備え、アダプティブアレイ処理手段は、第1のフーリエ変換手段からの第1の応答ベクトルの対応するキャリアに対する成分に基づいて、対応するキャリアの成分を抽出するためのウェイトベクトルを導出する。
好ましくは、無線装置は、アレイアンテナにより受信した信号から、所望波の到来タイミングを検出し、アンテナごとに、第2のフーリエ変換手段においてフーリエ変換される前の受信信号と複数のキャリアに対応するトレーニング信号成分を含む参照信号との相互相関が所定のしきい値を超えることに応じて、所望波を検知する到来タイミング検出手段をさらに備える。
好ましくは、無線装置は、アレイアンテナにより受信した信号から、所望波の到来タイミングを検出するための到来タイミング検出手段をさらに備え、受信応答ベクトル推定手段は、到来タイミング検出手段により検出された到来タイミング以外の時刻における第1の応答ベクトル中の応答のレベルを0とする。
好ましくは、無線装置は、アレイアンテナにより受信した信号から、所望波の到来タイミングを検出するための到来タイミング検出手段をさらに備え、無線装置は有効シンボル区間にガードインターバル区間が付加された信号を受信し、受信応答ベクトル推定手段は、ガードインターバル区間以降の時刻における第1の応答ベクトル中の応答のレベルを0とする。
好ましくは、無線装置は、アレイアンテナにより受信した信号から、所望波の到来タイミングを検出するための到来タイミング検出手段をさらに備え、アダプティブアレイ処理手段は、第1の応答ベクトルの対応するキャリアに対する成分に基づいて導出される、キャリアごとの相関行列により、対応するキャリアについての所望波を抽出するためのウェイトベクトルを導出する。
好ましくは、到来タイミング検出手段は、さらに、アレイアンテナにより受信した信号から、n個の干渉波(n:自然数、n≧1)の到来タイミングを検出し、受信応答ベクトル推定手段は、n個の干渉波のそれぞれについて、各信号に対する第2〜第(n+1)の応答ベクトルを推定し、第1のフーリエ変換手段は、さらに、第2〜第(n+1)の応答ベクトルをフーリエ変換して、複数のキャリアの各々に対する成分を抽出し、アダプティブアレイ処理手段は、第1のフーリエ変換手段からの第1から第(n+1)の応答ベクトルの対応するキャリアに対する成分に基づいて、対応するキャリアの成分を抽出するためのウェイトベクトルを導出する。
さらに、好ましくは、到来タイミング検出手段は、アンテナごとに、第2のフーリエ変換手段においてフーリエ変換される前の受信信号と複数のキャリアに対応するトレーニング信号成分を含む参照信号との相互相関が所定のしきい値を超えることに応じて、所望波および干渉波を検知する。
好ましくは、受信応答ベクトル推定手段は、到来タイミング検出手段により検出された到来タイミング以外の時刻における第1から第(n+1)の応答ベクトル中の応答のレベルを0とする。
好ましくは、アダプティブアレイ処理手段は、第1から第(n+1)の応答ベクトルの対応するキャリアに対する成分に基づいて導出される、キャリアごとの相関行列により、対応するキャリアについての所望波を抽出するためのウェイトベクトルを導出する。
好ましくは、アダプティブアレイ処理手段は、キャリアごとの相関行列により、対応するキャリアについての干渉波を抽出するためのウェイトベクトルを導出する。
好ましくは、受信応答ベクトル推定手段は、MMSE法により、第1から第(n+1)の応答ベクトルを推定する。
この発明の他の局面に従うと、複数のキャリアを用いた直交周波数分割通信方式により伝送される信号をアレイアンテナで受信して、アダプティブアレイ処理によりキャリアに対応する成分ごとに抽出するためのアダプティブアレイ処理方法であって、所望波信号に対する第1の応答ベクトルを推定するステップと、第1の応答ベクトルをフーリエ変換して、複数のキャリアの各々に対する成分を抽出するステップと、第1の応答ベクトルのキャリアごとの成分に基づいて、所望波についてのキャリアに対応する成分をアダプティブアレイ処理により分離するためのウェイトベクトルを導出するステップと、アレイアンテナからの受信信号をフーリエ変換して、アンテナごとの受信信号のキャリア成分を抽出するステップと、アンテナごとの受信信号のキャリア成分に対して、ウェイトベクトルを乗算することにより、所望波についての対応するキャリアの成分を抽出するステップとを備える。
好ましくは、アダプティブアレイ処理方法は、複数のアンテナにより受信した信号から、少なくとも所望波の到来タイミングを検出するとともに、少なくとも1つの干渉波の到来タイミングを検出するステップと、干渉波に対する応答ベクトルを推定するステップと、干渉波に対する応答ベクトルをフーリエ変換して、複数のキャリアの各々に対する成分を抽出するステップとをさらに備え、ウェイトベクトルを導出するステップは、干渉波に対する応答ベクトルのキャリアごとの成分に基づいて、ウェイトベクトルを導出する。
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態のアダプティブアレイ基地局1000の構成を示す概略ブロック図である。本発明のアダプティブアレイ基地局1000は、ユーザの端末などの移動局との間で、アダプティブアレイ処理により指向性を持った信号の送受信を行なう。ただし、以下の説明で明らかとなるように、アダプティブアレイ基地局1000は、空間分割多重方式により移動局との間で信号の送受信を行なうことも可能である。
図1を参照して、アダプティブアレイ基地局1000は、n本(n:自然数)のアンテナからなるアレイアンテナと、アレイアンテナ♯1〜♯nからの信号を受けて、検波やアナログ・デジタル変換を行なうためのA/D変換部1010と、n本のアンテナごとに設けられ、A/D変換部1010からの出力を受けて、対応するアンテナについての各キャリアごとの信号を分離抽出するためのFFT部1020.1〜1020.nと、A/D変換部1010からの信号を受けて、後に説明するように、所望波および干渉波の到来タイミングを検出するための相関器1030と、相関器1030において所望波および干渉波の到来タイミングを検出するために、所望波および干渉波の各々に対応する参照信号を保持しておくためのメモリ1040と、高速フーリエ変換前の信号であってA/D変換部1010から相関器1030に与えられた信号と相関器1030において検出された信号の到来タイミングに対する情報とを相関器1030から受けて、所望波および干渉波について、後に説明する手順で応答ベクトルを推定するための受信応答ベクトル推定器1050と、各アンテナごとに対応して設けられ、受信応答ベクトル推定器1050において推定された各アンテナごとの受信応答を受取って、高速フーリエ変換を行なうことにより各キャリアごとの応答ベクトルを抽出するためのFFT部1060.1〜1060.nと、キャリアごとに設けられ、FFT部1060.1〜1060.nから、アンテナ♯1〜♯nについての、対応するキャリアの応答ベクトルを受けて、アダプティブアレイ処理を行なうためのアダプティブアレイブロック1070.1〜1070.N(Nはキャリアの総数)を備える。
図1においては、k番目のキャリアに対するアダプティブアレイブロック1070.kのみを取出して示している。
アダプティブアレイブロック1070.kは、ウエイトベクトルを計算する受信ウエイト計算器1072.kと、FFT部1020.1〜1020.nからのk番目のキャリアに対する信号をそれぞれ一方入力ノードに受け、他方入力ノードには、受信ウエイト計算器1072.kからのウエイトベクトルを受ける乗算器1080−1〜1080−nと、乗算器1080−1〜1080−nからの信号を受けて加算し、k番目のキャリアについての所望信号Sk(t)を出力する加算器1090とを備える。
図2は、図1に示したアダプティブアレイ基地局1000の受信信号を説明するための概念図である。
アダプティブアレイ基地局1000は、その受信波としては、所望波Sd(t)と、所望波の遅延波Sd(t−τS)と、干渉波Su(t)と、干渉波の遅延波Su(t−τi)とがある。ここで、時間τSおよびτiは、遅延時間である。ここで、信号の添字dは、所望波の信号であることを意味する。また、干渉波の信号は添字uを付けて表わすことにする。
図3は、所望波Sd(t)および干渉波Su(t)の構成を説明するための概念図である。
所望波Sd(t)は、特に限定されないが、たとえば、その先頭に2シンボル分の参照信号区間(トレーニング信号区間)d(t)と、それに続くデータ信号区間とを有している。
ここで、参照信号d(t)は、周波数領域に並んでいる入力信号のトレーニングシンボルを逆フーリエ変換した信号であって、時間領域の信号である。
同様に、干渉波Su(t)も、たとえば、その先頭に2シンボル分の参照信号区間u(t)と、それに続くデータ信号区間とを有している。
ここで、一般性を失うことなく、所望波の参照信号区間d(t)は、干渉波の参照信号区間u(t)とは異なった信号であるものとする。
したがって、アダプティブアレイ基地局1000は、このような異なった参照信号(トレーニング信号)により、ユーザの端末等の移動局を識別することが可能である。
[相関器の動作]
図4は、図1に示したアダプティブアレイ基地局1000のうち、相関器1030の動作を説明するための概念図である。
相関器1030に入力される信号は、所望波については、先頭到来信号Sd(t)と、ガードインターバル期間よりも小さな遅延時間τ2で到来する短遅延信号Sd(t−τ2)と、ガードインターバル期間以上の遅延時間τ3で到来する長遅延信号Sd(t−τ3)とがあるものとする。干渉波についても同様に、先頭到来信号Su(t)と、ガードインターバル期間よりも小さな遅延時間τ2で到来する短遅延信号Su(t−τ2)と、ガードインターバル期間以上の遅延時間τ3で到来する長遅延信号Su(t−τ3)とがあるものとする。
アダプティブアレイ基地局1000においても、相関器1030が動作する際には、FFT処理を行なう前の信号を処理する必要があるため、このようなFFT前の信号処理を行なうために十分に短いサンプリングタイミングで相関器1030は受信信号をサンプリングする。
アンテナ♯nから相関器1030に入力される信号Xn(t)は、以下の式(16)により表わすことができる。
式(16)において、hn,1は、n番目のアンテナ♯nで受信された所望波の先頭波の応答(応答ベクトルの要素)を示し、pn,1は、n番目のアンテナ♯nで受信された干渉波(SDMAでは多重相手)の先頭波の応答を示す。
同様にして、係数hn,2およびhn,3は、n番目のアンテナ♯nで受信された所望波の遅延波の応答(応答ベクトルの要素)を示し、係数pn,2およびpn,3は、n番目のアンテナ♯nで受信された干渉波(SDMAでは多重相手)の遅延波の応答を示す。
また、上述したとおり信号sd(t)は所望波の信号であり、信号su(t)は干渉波(SDMAでは多重相手)の信号である。
ただし、干渉もしくは多重ユーザがさらに存在している場合には、式(16)において干渉波の項が増加することになる。
アンテナ♯nの受信信号Xn(t)と、所望波の参照信号sd(t)(tは参照信号区間)との相関関数ρn,d(t)と、アンテナ♯nの受信信号Xn(t)と干渉波の参照信号su(t)(tは参照信号区間)との相関関数ρn,u(t)を計算すると、以下のとおりとなる。
所望波の参照信号とアンテナ♯nの受信信号との相関関数ρn,d(t)には、所望波と参照信号との相関成分が残るが、わずかながら干渉波や雑音との相関成分Id(t)も残留している。
同様に、アンテナ♯nの受信信号と干渉波の参照信号との相関関数ρn,u(t)には、干渉波と参照信号との相関成分が残るだけではなく、わずかながら干渉波や雑音との相関成分Iu(t)も残留している。
このような相関関数ρn,d(t)または相関関数ρn,u(t)は、「スライディング相関」とも呼ばれる。
図5は、このような相関関数ρn,d(t)の時間依存性を示す図である。
なお、相関関数ρn,d(t)は、実際には複素数であるので、時間経過とともに、複素平面上でその絶対値および位相が変化する信号であるが、図5においては、簡単のために、複素平面上の所定方向の成分のみを表わしているものとする。
図5を参照して、相関関数ρn,d(t)には、まず、先頭到来信号成分として、ピークP1が存在する。このピークP1のすぐ後には、短遅延信号成分に対応してピークP2が存在する。さらに、この短遅延信号成分のピークP2から遅れた時刻には長遅延信号成分に対応するピークP3が存在する。
干渉波についての相関関数ρn,u(t)についても同様である。
図6は、図5に示した相関関数ρn,d(t)の絶対値成分の時間依存性を示す図であり、図6において、値Vtは、後に説明するような処理を行なうためのしきい値を示している。
[受信応答ベクトル推定器の動作]
上述した相関関数ρn,d(t)は、n番目のアンテナの所望波信号の受信応答(複素数)に相当するが、このような相関により求めた複素応答には、雑音や干渉の非直交成分が残留し、誤差が大きい。
ただし、この相関関数ρn,d(t)により、先頭到来信号の到来時刻や、遅延信号の到来時間の遅延時間自体は正確に求めることができる。
そこで、所望波ユーザ端末の受信応答および干渉波ユーザ端末の受信応答を相関関数ρn,d(t)や相関関数ρn,u(t)により求めた遅延時間を用いて、より正確に求める手続を、以下に説明するような手順で、受信応答ベクトル推定器1050が行なうものとする。
(ステップ1)
まず、図6に示したような相関関数の絶対値|ρn,d(t)|と|ρn,u(t)|に対して、しきい値Vtを予め設定しておき、しきい値以上となっている信号をピックアップする。ここで、このようなしきい値Vtとしては、予め所定の値としておくか、最大の信号レベルから所定値だけ低い信号までを抽出する等の基準を用いることとする。
(ステップ2)
このようにしてピックアップした信号に対して、以下に説明するように、アレー出力と参照信号との平均自乗誤差を最小とする、いわゆるMMSE(Minimum Mean Square Error)法により複素応答を正確に推定する。
ここで、あるアンテナの1つについて注目することとし、このアンテナでの受信信号をサンプリングした信号列をベクトルXとし、以下のように表わす。
特に制限されないが、このようなベクトルの要素数は、たとえば、64サンプルまたは128サンプルであるものとすることができる。
また、所望波の参照信号について逆フーリエ変換を行なった信号をsd1,sd2,sd3,…とする。所望波の遅延信号はパスkを伝達して到来するものとし、その遅延時間をτkとすると、このような所望波についての参照信号は、上述した受信信号のサンプリング値からなるベクトルに対応して、以下のように表わされる。
上述した式(20)において、□で表わした要素は、遅延時間τkに相当する個数だけ存在する。また、□で表わした要素の値としては、たとえば参照信号の前にガードインターバルが存在すると、そのガードインターバルに存在する信号の逆フーリエ変換の成分がこの部分に存在することになる。
さらに、以下では、簡単のために干渉信号が1つ存在する場合を考える。
このとき、同様にして干渉信号の参照信号についての逆フーリエ変換を行なった要素の時系列が、su1,su2,…と表わされるものとする。干渉波の遅延信号は、パスk´を伝達して到来するものとし、その遅延時間がτk'であるものとすると、受信信号のサンプリング要素からなるベクトルXに対応して、干渉信号の参照信号の時系列は、以下のように表わされる。
以下では、MMSE法により、応答ベクトルを推定するにあたり、遅延時間の異なるパスkが所望波についても複数個、たとえば3個存在し、干渉波のパスk′も複数個、たとえば3個存在するものとする。
このような条件で、たとえばn番目のアンテナの受信信号について、応答ベクトルを求める処理は、以下の式(22)で表される評価関数J1を極小化するように所望波についての応答hk、干渉波についての応答pk'を求めることに相当する。
ここで、行列Qおよびベクトルaを式(23)および(24)のように定義すると、評価関数J1は、(25)のように表わされる。
さらに、この評価関数J1かベクトルaについて極小であるという条件から、以下の手順によりベクトルaを式(26)のように求めることができる。
以上のようにして、所望信号および干渉信号について各パスの複素振幅を求めることができる。
以上の手続は、たとえば、n番目のアンテナについての導出であるが、このような処理を、他のアンテナについても同様に行ない、各アンテナごとに、所望波と干渉波の応答を求める。
(ステップ3)
以上のようにして、しきい値以上であるとしてピックアップされ、かつ、複素応答が推定された信号以外の信号レベルはすべて0と置く。
この処理により、残留した雑音や干渉成分を除去することができる。
(ステップ4)
次に、ガードインターバル時間よりも長い遅延時間については、その複素応答を0とし、ガードインターバル時間以内の遅延波に対応する成分のみからなる複素応答の信号を、所望波については受信応答ρn,dd(t)とし、干渉波についても受信応答(相関関数)ρn,ud(t)と置くことにする。ここで、添字のddは、所望波についてガードインターバル以内の信号であることを示し、添字udは、干渉波についてガードインターバル以内の信号であることを意味する。
(ステップ5)
同様にして、ガードインターバル時間よりも短い遅延波については、その複素応答をすべて0と置き、それ以外の複素応答のレベルを残した応答を新たに所望波については応答(相関関数)ρn,du(t)とし、干渉波については応答(相関関数)ρn,uu(t)とする。
ここで、添字のduは、所望波についてガードインターバル時間よりも長い遅延波であることを示し、添字uuは、干渉波についてガードインターバル時間よりも長い遅延時間を有する遅延波であることを意味する。
このようにして求められた干渉波についての応答は、SDMAでは多重ユーザに対する複素応答に相当する。
図7は、以上のようにして計算された応答ρn,dd(t)および応答ρn,du(t)の時間変化を示す図である。
図7においてはパスが3つ存在し、先頭到来波と第1番目の遅延波についてのパス1およびパス2からの信号がガードインターバル長以内に基地局に到来しており、パス3に対応する遅延波は、先頭波の到来時間から、ガードインターバル長以上の遅延時間経過した後にアダプティブアレイ基地局1000に到来している。
したがって、応答ρn,dd(t)には2つのピークが含まれ、応答ρn,du(t)には1つのピークが含まれている。
このような手続きにより、所望波については、応答ρn,dd(t)に相当する各アンテナの応答からなる第1の応答ベクトルと、応答ρn,du(t)に相当する各アンテナの応答からなる第2の応答ベクトルとが導出されることになる。
干渉波の応答についても同様に、応答ρn,ud(t)に相当する各アンテナの応答からなる第3の応答ベクトルと、応答ρn,uu(t)に相当する各アンテナの応答からなる第4の応答ベクトルとが導出されることになる。
なお、干渉波がm波(m≧2)存在する場合は、m波目の干渉波についても同様にして、ガードインターバル時間以内の遅延波に対応する成分のみからなる複素応答に相当する各アンテナの応答からなる第(2m+1)の応答ベクトルと、ガードインターバル時間以降の遅延波に対応する成分のみを残した複素応答に相当する各アンテナの応答からなる第(2m+2)の応答ベクトルとが導出されることになる。
[FFT部1060.1〜1060.nの動作]
以上のようにして、受信応答ベクトル推定器1050において、各アンテナごとに応答が求められる。
次に、FFT部1060.1〜1060.nにおいては、以下のような処理を行なう。
所望端末から送信されてガードインターバル以内に到来した信号の複素応答ρn,dd(t)を高速フーリエ変換することにより、キャリアごとの複素応答ξn,dd(k)に変換する。ここで、kは、キャリアの番号である。
図8は、複素応答ρn,dd(t)と、これに対する高速フーリエ変換により得られるキャリアごとの複素応答ξn,dd(k)を示す図である。
すべてのアンテナに対して、同様の操作を行ない、すべてのアンテナのキャリアごとの複素応答を計算する。キャリアごとに複素応答を要素とする応答ベクトルが算出される。さらに、複素応答ρn,du(t)を高速フーリエ変換することにより、キャリアごとの複素応答ξn,du(k)を得る。
このような処理を行なえば、たとえば、k番目のキャリアのガードインターバル期間以内に到達した信号に対する応答ベクトルdd(k)は式(27)のように表わされる。同様に、所望端末から送信されて、ガードインターバル以上の遅延時間で到来した信号の複素応答ρn,du(t)からk番目のキャリアの応答ベクトルdu(k)は式(28)のように計算される。
同様にして、干渉ユーザ(SDMAでは、所望ユーザ以外のすべての接続ユーザ)から送信されて、ガードインターバル以内に到来した信号の複素応答ρn,ud(t)を高速フーリエ変換することにより、キャリアごとの応答ξn,ud(k)に変換し、干渉波のk番目のキャリアの応答ベクトルid(k)が式(29)のように計算される。
同様に、干渉波について、ガードインターバル期間後に到来した信号の複素応答ρn,uu(t)を高速フーリエ変換することにより、キャリアごとの応答ξn,uu(k)に変換し、ガードインターバル以上の遅延時間で到来した干渉波についての応答ベクトルiu(k)は式(30)のように表わされる。
なお、干渉もしくは多重ユーザが複数いる場合は、各干渉波もしくは多重ユーザごとにこのような応答ベクトルが計算されることになる。
[受信ウエイト計算器の動作]
以上のようにして高速フーリエ変換により求められたアンテナごとのk番目のキャリアの応答ベクトルに基づいて、受信ウエイト計算器1070.kは、以下のようにしてk番目のキャリアについての受信ウエイトベクトルを計算する。
k番目のキャリアのガードインターバル以内の遅延時間の所望波の応答ベクトルdd(k)、ガードインターバルを超える遅延時間の所望波の応答ベクトルdu(k)、ガードインターバル以内の遅延時間の干渉波の応答ベクトルid(k)、ガードインターバルを超える遅延時間の干渉波の応答ベクトルiu(k)は、以下のとおりにFFT部1060.1〜1060.nにより求められている。
これらの信号からk番目のキャリアの相関行列Rxx (k)は、式(32)のように計算され、これに基づけば、所望信号の受信ウエイトベクトルは式(33)のように計算される。
さらに、SDMAの場合の多重信号の相手に対する受信ウエイトベクトルは式(34)のように計算される。
式(32)において、σ2は、正の実数であり、この値としては、相関行列が特異にならないように経験的に求められた値でもよいし、システムの熱雑音電力の値としてもよい。さらに、Iはn×nの単位行列を表している。
なお、干渉波が存在しない場合には、式(32)において干渉波に相当する項は0となり、所望波のみの場合でも、やはり、所望信号の受信ウエイトベクトルは式(33)のように計算されることになる。
図9および図10は、以上説明したアダプティブアレイ基地局1000の動作を全体として説明するためのフローチャートである。
図9を参照して、処理が開始されると(ステップS100)、相関器1030において、アレイアンテナの各アンテナについて受信信号と所望波の参照信号とのスライディング相関がとられる(ステップS102)。
さらに、相関器1030では、アレイアンテナの各アンテナについて受信信号と干渉波の参照信号とのスライディング相関がとられる(ステップS104)。
続いて、受信応答ベクトル推定器1050では、所望波について所定のしきい値を超える相関値の絶対値を有する信号と、干渉波について所定のしきい値を超える相関値の絶対値を有する信号とがピックアップされる(ステップS106、S108)。
さらに、受信応答ベクトル推定器1050では、所望波および干渉波について、ピックアップした信号に対する複素応答をMMSE法等により推定する(ステップS110)。そして、ピックアップされた信号以外の信号のレベルを0とする(ステップS112)。
その上で、受信応答ベクトル推定器1050では、ガードインターバルより長い遅延時間の信号成分を0として、所望波についての受信応答ρn,dd(t)と、干渉波についての受信応答ρn,ud(t)を求める(ステップS114)。さらに、受信応答ベクトル推定器1050では、ガードインターバルより短い遅延時間の信号成分を0として、所望波についての受信応答ρn,du(t)と、干渉波についての受信応答ρn,uu(t)を求める(ステップS116)。
次に、図10を参照して、FFT部1060.1〜1060.nでは、受信応答ρn,dd(t)、受信応答ρn,ud(t)、受信応答ρn,du(t)および受信応答ρn,uu(t)をフーリエ変換することにより、各アンテナについて、キャリア毎の複素応答を求める(ステップS118)。
これにより、1)所望波のうちガードインターバル以内の遅延で到来した信号に対するキャリア毎の複素応答ベクトルdd(k)、2)所望波のうちガードインターバルを超える遅延で到来した信号に対するキャリア毎の複素応答ベクトルdu(k)、3)干渉波のうちガードインターバル以内の遅延で到来した信号に対するキャリア毎の複素応答ベクトルid(k)、4)干渉波のうちガードインターバルを超える遅延で到来した信号に対するキャリア毎の複素応答ベクトルiu(k)、が導出される(ステップS120)。
さらに、受信ウェイト計算器1072.kでは、導出された複素応答ベクトルに基づいて、k番目のキャリアの相関行列RXX (k)を導出して、k番目のキャリアに対するウェイトベクトルを所望波について計算する(ステップS122)。
乗算器1080−1〜1080−nおよび加算器1090では、アレイアンテナの各アンテナからの受信信号をフーリエ変換して得られたキャリア毎の信号に対して、ウェイトベクトルを乗算して、k番目のキャリアについての所望信号を抽出する(ステップS124)。なお、SDMA方式では、必要に応じて、干渉波についてもウェイトベクトルを求め、干渉波の抽出が行われる。
さらに、キャリア毎の成分を合成すれば、OFDM方式で伝送された信号の復調を行うことができる。以上で処理が終了する(ステップS130)。
以上のような方法で短遅延信号が、先頭到来波との位相差により減衰することなく合成される理由は、キャリアごとの応答ベクトルdd(k)に先頭信号と短遅延信号との双方の成分が含まれているため、キャリアごとに先頭信号と短遅延信号のそれぞれに対してビームを向けるようにアダプティブアレイ動作が行なわれることによる。
このため、キャリアの周波数が異なっても逆位相で合成されることがない。また、相関行列RXX(k)の式より有意な信号成分の項は4つ(干渉が1つの場合)なので、消費される自由度は3であって、たとえば、4素子のアンテナであれば、完全なヌル方向制御を行なうことが可能である。
これに対して、上述のような方式によらず、すべての信号に対してヌル制御をする場合は、短遅延に対してもヌルを向けるような制御を行なうことが必要となる。この場合は4素子アンテナでは自由度が不足し十分な特性を得ることができないことになる。
[実施の形態2]
実施の形態1においては、受信応答ベクトル推定器1050の動作として、式(22)〜(26)に説明した方法にしたがって、所望信号の複素応答と干渉信号の複素応答を求めた。
しかしながら、所望信号の参照信号区間と干渉信号の参照信号区間とに重なりがない場合、式(22)〜(26)に説明した方法はそのままでは適用できない。
実施の形態2では、このような場合でも適用可能な所望信号の複素応答と干渉信号の複素応答の導出方法について説明する。
(所望信号の応答の推定)
所望信号の複素応答を求めるにあたり、以下の式(35)で与えられる評価関数J2を用いる。なお、以下の式のノーテーションは、特に断らない限り、式(22)〜(26)と同様とする。
ここで、以下の式(36)および式(37)で定義される行列Q´およびベクトルhを用いることにする。
このとき、式(35)は、以下のように書きかえられる。
ベクトルhについて、極小という条件から、式(26)と同様に、所望波のパスkに対する複素応答hkが以下の式(39)のようにして求められる。
(干渉信号の応答の推定)
干渉信号の複素応答を求めるにあたっては、以下の式(40)で与えられる評価関数J3を用いる。
ここで、以下の式(41)および式(42)で定義される行列Q″およびベクトルpを用いることにする。
このとき、式(40)は、以下のように書きかえられる。
ベクトルpについて、極小という条件から、式(39)と同様に、干渉波のパスk´に対する複素応答pk´が以下の式(44)のようにして求められる。
以上説明したような複素応答の推定方法を受信応答ベクトル推定器1050が行うことによっても、実施の形態1と同様の効果が奏される。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
以上説明したとおり、本発明によるアダプティブアレイ基地局の構成を用いれば、ガードインターバル以内のマルチパス信号を、完全に最大比合成して、受信感度を最大化することが可能となる。さらに、ガードインターバル以内のマルチパス信号を合成するときに、アンテナ自由度を消費せず、干渉抑圧性能を維持することが可能である。
1000 アダプティブアレイ基地局、♯1〜♯n アンテナ、1010 A/D変換部、1020.1〜1020.n FFT部、1030 相関器、1040 メモリ、1050 受信応答ベクトル推定器、1060.1〜1060.n FFT部、1070.1〜1070.N アダプティブアレイブロック、1072.k 受信ウエイト計算器、1080−1〜1080−n 乗算器、1090 加算器。