JP2005281291A - 新規な抗菌性ペプチド、それを産生するための組換え体植物及び該抗菌性ペプチドの製造方法 - Google Patents

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和成 増田
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Abstract

【課題】抗菌活性を有するタナチン類縁体、それを産生するための組換え体植物及び該組換え体植物を用いた該タナチン類縁体の製造方法等を提供する。
【解決手段】タナチンはカメムシ由来の22アミノ酸からなるポリペプチドであって、2個のシステイン残基が還元型である抗菌性ペプチドを提供する。前記システイン残基のSH基の水素原子はアルキル基に置換されていてもよいし、N末端のアミノ酸残基がアセチル基で修飾されていてもよい。
【選択図】なし

Description

本発明は、新規な抗菌性ペプチド、それを産生するための組換え体植物及び該抗菌性ペプチドの製造方法に関し、より詳しくは、抗菌活性を有するタナチン類縁体、それを産生するための組換え体植物及び該組換え体植物を用いた該タナチン類縁体の製造方法に関する。
抗菌性物質として放線菌類が生産する抗生物質がよく知られている。抗生物質は化学構造からβ-ラクタム系、アミノグリコシド系、マクロライド系、テトラサイクリン系、ポリエン系、ペプチド系に分類できる。その作用は細胞壁合成阻害、タンパク質合成阻害、細胞膜合成阻害、核酸合成阻害など微生物が成育するのに重要な要素を標的としている。これらは医薬、農薬などの様々な目的に利用され、大量に使用されているが、MRSAのような耐性菌の出現など様々な問題も発生している。そのために、従来にない新規な抗菌性物質の開発が求められている。
本発明の抗菌性物質を構成する主成分はアミノ酸である。ペプチド系の抗生物質には、天然の微生物から取得されたグラミシジンSやナイシンなどが知られている。これらの抗生物質の構成成分には、D-型アミノ酸や、非タンパク質系アミノ酸、オキシ酸などを含んでいる。また、環状構造をとっている場合が多い。これらの生合成には、特定の合成酵素が関与しており、通常のタンパク質(ペプチド)が合成される、リボソームでのタンパク質システムによって作られるものとは根本的に生産様式が異なる。
一方、L型のアミノ酸からなる抗菌ペプチドは微生物から哺乳類に至るまで普遍的に存在することが知られている。抗菌ペプチドは、抗原特異的な免疫機構とは異なるユニークな作用機構で、微生物に対して生育抑制あるいは殺菌活性を示す。抗菌ペプチドとして知られているものには、カイコガで発見されたセクロピン、哺乳類に存在するディフェンシン、ショウジョウバエのドロソシン、センチニクバエのザルコトキシン、ミツバチ由来のアピデシン、カメムシ由来のタナチンなどが知られている(古川誠一、山川稔、化学と生物、42, 15-21, 2004)。これらの抗菌ペプチドは、従来の抗生物質とは全く異なる作用機構を有することから、いわゆる耐性菌に対する抗菌効果が期待される。そのため、新たな抗菌性物質としての有効であり、有用性が強く期待されている。
天然型のタナチンは、分子内の2個のシステイン残基により分子内S-S結合を形成している(図1)。従来の報告では、この構造がタナチンの抗菌活性に重要な役割を果たしていることが述べられている(非特許文献1)。また、これまでの研究では、アミノ酸残基の置換などによって作られたタナチン誘導体の生理活性は天然型よりも劣ることが示されており(非特許文献2)、これまでに野生型のタナチンと構造的に異なる活性型のタナチンは知られていなかった。
タナチンのような抗菌ペプチドを生産する生物の多くは、節足動物や哺乳類などの高等真核生物であり、大量飼育が難しい。また、これらの物質の多くは細菌類の侵入が引き金となって、この物質生産に関与する遺伝子が発現するため、安定的に生産をすることが困難である。生体組織からの抽出操作も複雑な過程を経るため、大量生産に適さない。したがって、多くの抗生物質が微生物によって発酵生産されているのと異なり、これらの生物を利用した物質生産法を確立することができない。
そこで、最近、遺伝子組換え植物を利用する「分子農業」という新しい農業分野が提案されている。これは植物を食糧生産のアイテムと考えるのではなく、植物を高度なバイオリアクターとして活用し、医薬品や工業製品の原料を生産するものである。わが国では、古来、味噌、醤油、納豆などの微生物による発酵製品が盛んに作られ利用されている。この技術は、現在のアミノ酸発酵などの微生物利用技術に応用され、さらに組換え体微生物を利用した医薬原料等の生産技術へと発展している。分子農業はその流れの延長線上にあり、植物に特定の物質生産に関わる遺伝子を導入し、この植物を高機能なバイオリアクターとして機能させる。すなわち、医薬品や工業原料を農業生産するという、植物を利用した新しい概念の物質生産法である。
多くの種類の植物に外来遺伝子を導入する方法がすでに確立されている。これまでに、さまざまな植物に外来遺伝子を導入した組換え体植物が作成されており、すでに組換え体食品として実用化されているものがある。組換え体植物として開発されているものには、殺虫タンパク質遺伝子や除草剤耐性遺伝子を導入した植物などがある。
植物は、動物と同じく高等真核生物であるため、高度な遺伝子機能を有している。外来の遺伝子を組換え体植物で働かせるためには、これを植物型の遺伝子に改造する必要があるが、条件さえ整えば、大腸菌などの細菌では生産不可能な高等動物由来の遺伝子を効率よく発現させて、これらの遺伝子産物であるタンパク質を大量に作らせることが可能である。これまでに、組換え体ジャガイモなどで、インターフェロンなどの生理活性物質やウイルスに対する抗体などが作られており、これらは、動物から抽出されたものと同様な活性を有することが報告されている(非特許文献3)。
Mandard et al., Eur. J. Biochem., 256, 404-410 (1998) Taguchi et al. J. Biochem. 128, 745-754 (2000) Arakawa T and Langridge WHR, Nature Medicine, 4, 550-551 (1998)
本発明者は、カメムシ由来のタナチンに着目した新規な抗菌性物質の開発、および遺伝子組換え植物を利用した該抗菌性物質の生産法の確立を試みた。
すなわち、本発明は、抗菌活性を有するタナチン類縁体、それを産生するための組換え体植物及び該組換え体植物を用いた該タナチン類縁体の製造方法等を提供することを課題とする。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、従来から知られているタナチンとは構造的に異なるが、所望の生理活性を持つ新規なタナチン類縁体を組換え体植物で産生させることに成功し、本発明を完成させた。
本発明は、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドであって、第11位及び第18位のシステイン残基(それぞれ配列番号1の配列における12番目及び19番目のアミノ酸に相当する)が還元型である抗菌性ペプチドを提供する。
また本発明の抗菌性ペプチドは、前記システイン残基のSH基の水素原子がアルキル基に置換されていてもよい。
また本発明の抗菌性ペプチドは、N末端のアミノ酸残基がアセチル基で修飾されていてもよい。
また他の側面において、本発明は、配列番号1に記載のアミノ酸配列をコードする核酸(例えば、図2に記載の塩基配列を有する核酸)が導入されることにより、上記いずれかの抗菌性ペプチドを産生するように形質転換された組換え体植物を提供する。
また他の側面において、本発明は、上記組換え体植物から抗菌性ペプチドを抽出する工程を含む、抗菌性ペプチドの製造方法を提供する。
既に述べたようにタナチンは構造が変化すると天然型よりも活性が落ちることが報告されている(非特許文献1又は非特許文献2)。ところが、本発明の抗菌性ペプチドであるタナチン類縁体は、第11位及び第18位のシステイン残基が還元型であり分子内S-S結合を有さないが、意外なことに所望の抗菌活性が維持されていることが見出された。また場合によりシステイン残基のSH基の水素原子がアルキル基に置換されたり或いはアミノ酸配列のN末端がアセチル基で修飾されるなどの化学的修飾を受けていても所望の抗菌活性が維持されることも見出された。これまでに野生型のタナチンと構造的に異なる活性型のタナチンは知られていなかったことから、本発明は、新規な化学構造を有する抗菌性ペプチドを提供するものである。
先ず、本発明の抗菌性ペプチドは、従来の抗生物質の代替物質として使用が可能である。本発明の抗菌性ペプチドは従来型の抗生物質とは構造的に異なるため、一般的な抗菌物質としてのみならず抗生物質に耐性な微生物に対する抗菌性の薬剤として利用可能である。
また本発明の抗菌性ペプチドは、ヒトを対象とした医療用途のみならず、家禽類、養殖動物類の病気予防を目的とした飼料への添加物として利用可能である。また本発明の抗菌性ペプチドを産生する組換え体植物は、それ自体が抗菌性を獲得するため、耐病性の植物の分子育種に資するという有用性もある。
発明の実施の形態
本発明の抗菌性ペプチド
上述の通り、本発明の抗菌性ペプチドは、カメムシ類が生産するタナチンの類縁化合物であって、配列番号1のアミノ酸配列(配列番号2は配列番号1のアミノ酸配列をコードする核酸の塩基配列を示す)からなり、分子内にS-S結合を有しないポリペプチドである。より具体的には、本発明の抗菌性ペプチドには、本質的に次の化学構造式:
で表され、第11位と第18位のシステイン残基が還元型であり、分子内にS-S結合を有さないポリペプチドからなるタナチン類縁体が含まれる。
さらに他の態様では、本発明の抗菌性ペプチドは、本質的に次の化学構造式:
で表されるアセチル・タナチンからなる。このように本発明の抗菌性ペプチドには、N末端のアミノ酸残基であるグリシン残基のアミノ基がアセチル基で修飾されているものが含まれる。このような修飾がなされている点で、従来から知られているタナチンと構造的に異なるが、それでもなお有意な抗菌活性が保たれている。
また、本発明の抗菌性ペプチドには、そのアミノ酸配列(上記化学構造式又は配列番号1により特定されるアミノ酸配列)において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加され、或いは任意のアミノ酸残基が化学的に修飾されているが、それでもなお所望の抗菌活性を示す誘導体も含まれる。
特に第11位及び/又は第18位のシステイン残基は人工的な化学修飾を受けていてもよい。例えば、それらシステイン残基はSH基の水素原子がアルキル基に置換されていてもよい。そのようなアルキル基としては、典型的には低級アルキル基、例えば炭素数4のアルキル基が挙げられる(実施例6参照)。このようにSH基が保護される化学的修飾を受けてもなお活性を有するタナチンの発見は、本発明の抗菌性ペプチドが分子内S-S結合を形成しなくても所望の抗菌活性を維持できることを裏付ける結果でもある。
抗菌活性の検定には、タナチンに感受性があると報告されている公知のバクテリアを使用することができる。本発明の抗菌性ペプチドの活性の検定は、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)を使用するとよい。この細菌は、タナチンに最も感受性が高く、しかもアッセイが容易であるからである。
本発明の抗菌性ペプチドを発現する組換え体植物
上記の新規抗菌性ペプチドの発見に伴い、本発明の抗菌性ペプチドを産生することができる組換え体植物も提供される。本発明による組換え体植物は、植物内で発現した抗菌性ペプチドを抽出・精製するための供給源として利用されてもよいし、それ自体が耐病性を持つ植物として提供されてもよい。本発明による組換え体植物から量産される抗菌性ペプチドは、上述の通り、抗生物質、家畜飼料への添加剤等として利用できる。
本発明による組換え体植物は、配列番号1に記載のアミノ酸配列をコードする核酸(例えば、配列番号2に記載の塩基配列をコーディング鎖とする)を植物に発現可能に導入することにより得ることができる。その遺伝子の導入には、公知の様々な手法を使用することができる。代表的には、プロトプラストへエレクトロポレーションによる導入、プロトプラストや植物カルスへのアグロバクテリウムで媒介される導入、及びそれらを組合せた手法が挙げられるが、それらに限定されない。例えば、遺伝子をコーティングした微粒子を細胞に打ち込むパーティクルガン法又はそれに類した他の手段を使用してもよい。
形質転換される植物には、産業農業上利用可能なあらゆる植物が挙げられる。特に重要農作物であるイネ、コーン、ダイズ等が挙げられるが、これらに限定されない。また単子葉植物だけでなく、形質転換法が確立されている双子葉植物に本発明を適用してもよい。本発明により耐病性を増強させたあらゆる種類の植物を分子育種し、提供することができる。
本発明の抗菌性ペプチドの製造方法
本発明者は、上記組換え体植物から得られたタナチン調製物をHPLCで分析した結果、従来知られていたタナチンとは異なる別のピークを持つ抗菌活性物質として、本発明のタナチン類縁体を発見した(実施例3参照)。すなわち、本発明の抗菌性ペプチドは、組換え体植物においてタナチンと共にタナチン類縁体として発現する。そして、本発明の抗菌性ペプチドは、組換え体から抽出された抗菌活性画分から、本願で明らかにされた当該抗菌性ペプチドの特性データ(高速液体クロマトグラフィー(HPLC)のピーク位置等)に従って同定し、単離することが可能である。また同様にして本発明の抗菌性ペプチドを、カメムシより抽出、精製してもよい。
また、本発明の抗菌性ペプチドは、本願で明らかにされたその化学構造に従って化学合成してもよい。化学合成の場合、配列番号1に記載のアミノ酸配列のポリペプチドを固相合成法等により有機合成することができ、場合によりそのN末端をアセチル化して調製することもできる。
なお、抗菌性ペプチドを精製するための組換え体としては、組換え体大腸菌を利用してもよい。但し、この場合、宿主である大腸菌に対して強い抗菌活性が現れるので、毒性を抑えるために融合タンパク質として発現させ、且つこれを封入体として生成させるとよい。封入体からタンパク質を調製し、化学的に融合タンパク質を切り取り、HPLC等で精製する。
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、これらは本発明を限定することを意図するものではない。
実施例1:タナチン遺伝子を発現する組換え体植物の構築
カメムシ由来のタナチン(Feilbaum et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 93, 1221-1225 (1996))をコードする塩基配列を合成し、遺伝子導入に供した。塩基配列の設計に際し、タナチンに対応する塩基配列の前に開始コドンに対応する配列を、末端に終止コドンに対応する配列を、さらにこれらの配列の両末端にNcoIおよびBamHI制限酵素切断部位を付加した配列(図2)を設定し、これを有機合成した。これを一度、プラスミドベクターpUC19にクローニングした後、タナチン領域の塩基配列をNcoIおよびBamHIで切断し、断片を調製した。これをバイナリベクターpCAMBIA1302(http://www.cambia.org/)のNcoIとBglII部位の間に導入し、プラスミドpCAM-TANを得た(図3)。
pCAM-TANではタナチンをコードする塩基配列は、CAMVの35Sプロモーターの下流に位置し、このプロモーターにより植物内で発現する。タナチンの下流領域にはベクターDNAに由来するmGFP遺伝子のコード領域とその下流のNOSのターミネーターが存在する。このpCAM-TANを用いて、エレクトロポレーション法によりアグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens)を形質転換し、カナマイシン耐性となった形質転換個体を選抜した。
上記pCAM-TANで形質転換されたアグロバクテリウムを、イネ(日本晴)カルスに感染させ、植物細胞の形質転換をおこなった。イネの形質転換は常法に従った(Hiei et al. Plant J. 6, 271-282 (1994))。ハイグロマイシンを含む寒天培地でカルスを培養し、再分化してきた個体を選抜し、これを鉢上げした。組換え体植物として最終的に30個体が得られた。組換え体植物は、土に移植し、28℃、自然光条件の、組換え体温室で育成した。
実施例2:組換え体植物での導入遺伝子の発現の確認と抗菌活性の検定
実施例1で得られた組換え体植物の緑葉から、常法(渡辺格、杉浦昌弘 編集、クローニングとシーケンス、農村文化社1989年)によりゲノムDNAを調製した。制限酵素EcoRVで切断したゲノムDNAは、アガロース電気泳動をおこなって分離後、ナイロンメンブランに転写し、タナチン領域に対応する断片をプローブとしたサザン分析により、タナチン領域が導入されたことを確認した(図4)。ゲノムDNAはそれぞれを制限酵素EcoRVで切断し、アガロースゲル電気泳動で分離した。導入遺伝子を検出するために、タナチン遺伝子領域をプローブとして用いた。
さらに、緑葉よりRNAを抽出しRT-PCRにより遺伝子発現を確認した。RNAの抽出はSepasol RNA I super(ナカライテスク社製)を用いた。また図3で示したPCRプライマーを用いた。すなわち、タナチン領域を含むmRNAの発現を確認するためのRT-PCRは、タナチンの塩基配列の一部に対応する検出プライマーA(配列番号3:GAATCCATGG GCTCCAAGAA)および下流にあるmGFPの塩基配列に由来する検出プライマーB(配列番号4:ATGTCATCCA TGCCATGTGT)を用いた。なお、コントロールは親植物(日本晴)を用いた。それぞれの植物から得られたRNAの逆転写は、検出プライマーBを用いた。
その結果、組換え体植物に特異的な780bpの増幅断片が確認された(図5)。この増幅断片をクローニングし、塩基配列を決定したところ、予想される塩基配列であることが確認された。また、一部の個体ではRT-PCRにより660bpの増幅断片が合わせて増幅された。この断片も同様にクローニングし、塩基配列を決定したところ、タナチン配列の下流に位置するmGFP配列の中でスプライシングが生じておりその結果得られた短い断片であることがわかった。いずれにしても、組換え体から増幅された2つの増幅断片はいずれもタナチンの塩基配列をすべて含んでおり、導入したタナチン配列がこれらの組換え体植物で発現していることが確認された。また、これらの転写産物から目的とするペプチドが生産される可能性が高いと判断された。
そこで、これらの組換え体植物でタナチンが産生しているかどうかを調べるため、抗菌活性を検定した。試験菌はマイクロコッカス(Mycrococcus luteus JCM3347株:理研より分譲)を用いた。抗菌活性の検定は以下の方法でおこなった。
肉汁寒天培地に生育させたマイクロコッカスをYEB培地(トリプトン1.0%、ビーフエキス1.0%、酵母エキス0.2%、NaCl 0.5%、グルコース0.5%(W/V))に植え、30℃で1晩振とう培養した。この培養液より少量を取り、これをYEB培地に移植し、OD(595nm)で0.4になるまで振とう培養した。これを滅菌水を用いて10-5/mlに希釈し検定菌とした。
一方、組換え体および対象とした非組換え体イネ(コントロール)の緑葉100mgに300μlの抽出用緩衝液(50 mM Tris-HCl pH. 7.5, 1mM EDTA, 5 mM β-メルカプトエタノール, 15% グリセロール, 0.4 M NaCl)を加え、乳鉢と乳棒を用いてすり潰し、緑葉粗抽出物とした。これを遠心分離して不溶物質を除去し、さらに滅菌フィルター(0.22μm)で濾過した。これを適当に希釈し、96穴のマイクロタイタープレートにそれぞれ総タンパク質で1から10μgとなるように分注し、それぞれに上記の検定菌を100μlずつ加えた。これを30℃で2-3日間静置培養した。培養後、菌体の濁り具合により抗菌活性を検定した。その結果、幾つかの組換え体植物において、明確な試験菌の生育阻害が認められた(図6)。
実施例3:組換え体植物の緑葉より抗菌活性画分の調製
実施例2で抗菌活性の産生が認められた形質転換個体の緑葉より抗菌活性を有する物質の抽出・精製を行った。緑葉3gに実施例2で示したタンパク質の抽出用緩衝液を10 ml添加し、よく攪拌した。これにプロテアーゼ阻害剤(シグマ社製)150μlを加え、超音破砕した。この後、4℃で遠心分離し上清を得た。この上清を0.45μmのフィルターを用いて濾過し、さらに0.22μmのフィルターで濾過して滅菌した。これに50 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH. 7.0)を加えて10倍に希釈した後、陽イオン交換樹脂カラム(Hi-Trap CM FF, ファルマシア・バイオテク社製)にアプライした。カラムは50 mMリン酸ナトリウム緩衝液で洗浄後、緩衝液にNaClをそれぞれ100 mM, 250 mM, 1 Mの濃度になるように加えた緩衝液で段階的にタンパク質を溶出した。それぞれの溶出画分を集め、減圧濃縮機を用いて濃縮後、実施例2で示した方法により、それぞれの抗菌活性を検定した。その結果、250mM NaClで溶出された画分に抗菌活性が認められた(図7)。
上記の実験において抗菌活性が確認された活性画分(250mM NaClの画分)を高速液体クロマトグラフィーを用いた逆相カラムクロマトグラフィー(ナカライテスク、5C18-ARカラム)により分画した。サンプルをカラムにアプライした後、キャリアの溶媒を0.1%トリフルオロ酢酸(水溶液)から0.1%トリフルオロ酢酸(水溶液):アセトニトリル=7:3まで、徐々に溶媒中のアセトニトリル濃度を上げてゆき、これによりサンプルに含まれる物質を分画した。溶出される物質は225 nmの吸光度で検出した。その結果、多くの物質のピークが現れた。それらピークの中で、図8に示すように、標準とするタナチンとほぼ同じ溶出時間で溶出される、組換え体植物に特有な新たなピークが観察された。なお、タナチン標品は経年劣化のため2本のバンドが検出された。後方のピークは酸化反応による分解産物である。活性画分は前方のピークである。
次いで、図8の組換え体特異的なピークに対応する画分を分取し、この画分について更にHPLCを用いて抗菌活性を調べた。その結果、この画分には野生型タナチンとは別のピークを持つ抗菌活性物質、すなわち本発明の新規タナチン類縁体が含まれることが明らかとなった(図9)。少なくとも16番のピークは、タナチン類縁体を含むことが分かった。
実施例4:アセチル・タナチンの合成と抗菌活性の検定
常法(L. E. Commish & K. Kates, In: Fmoc solid phase peptides synthesis: a practical approach, W. C. Chan & P. D. White (eds), Oxford University Press, 2000, pp. 277)に従い、固相法ペプチド合成機を用いて、次の化学構造式:
で表されるアセチル・タナチンを有機合成した。合成を終了するにあたって、そのN-末端をアセチル基で修飾した。脱保護基反応後、合成したアセチル・タナチンは実施例3で用いた逆相カラムクロマトグラフィーにより精製した。この方法で合成したペプチドは、構造的にシステイン残基間でのS-S 結合は生じないため、2つのシステイン残基は還元型(-SH型)となる。これを適当に希釈し実施例2で述べた方法で抗菌活性を検定した。その結果、合成タナチンと同様に、合成アセチル・タナチンも有意な抗菌活性を有することがわかった(図10)。
実施例5:ESI-Mass分析による構造決定
実施例3及び4で得られた抗菌性物質をESI-MS(日本電子製、The AccuTOF, JMS-T700LCK)により分子量の定量を行った。先ず、実施例3において緑葉より調製したタナチン類縁体の構造を同定するため、ESI-MSによる解析を行った(図11)。緑葉より精製した物質を減圧乾固したあと、これにメタノールを加えて溶解した。同時に標準サンプルとして実施例4で調製したアセチル・タナチン合成標品も同様にメタノール溶液とし、同様の解析を行った(図12)。その結果、緑葉より調製したタナチン類縁体(図12)とアセチル・タナチン合成標品(図12)の分析パターンは完全に一致した。検出された分子量はともに2,478であり、アセチル・タナチンのものから予測される値と一致した。このことから、緑葉で産生している抗菌性物質はタナチンのN-末端がアセチル化され、かつ分子内の2つのシステイン残基はともに還元型である有機合成したアセチル・タナチンと同じものであることが明らかになった。
実施例6:システイン残基が修飾された合成タナチンの発見
上記実施例の一連の実験の中で、システイン残基がアルキル基で修飾された抗菌性ペプチドが単離された。図13は、t−ブチル化タナチンの抗菌活性を確認したとき検定結果を示す。単離されたt−ブチル化タナチンは、第11位及び第18位のシステイン残基のSH基が、次の構造式:
で表されるようにt−ブチル化されている。
一般にS-S結合の切断やアセチル化は生物作用によっても起こり得るものである。これとは異なりSH基のt−ブチル化のような修飾は実験段階で人工的に起こるものである。かくしてt−ブチル化タナチンは本実験において偶然発見されたものではあるが、この発見は、本発明により提供される合成タナチンをリード化合物としてシステイン残基を修飾することによって新たな抗菌性ペプチドを創生することが可能であることを示唆する。
野生型タナチンの二次構造を示す模式図である。 アミノ酸残基は1文字で表記してある。図中のSSはシステイン残基のS-S結合を意味する。青い線は分子内の水素結合を示す。 実施例1において、形質転換植物を作成するために合成したタナチン遺伝子の塩基配列およびそれに対応するアミノ酸配列を示す図である。 上段はコーディング鎖の塩基配列(5’→3’で示す)、次の段はそれに相補的な塩基配列(3’→5’で示す)、3段目はコードされているアミノ酸配列を示している。それぞれのアミノ酸配列は1文字で表記してある。終止コドンは*で示す。 実施例1で使用されたpCAM-TANの構造を示す模式図である。 バイナリベクターのうち、2つのT-境界領域(T-border (left)およびT-border (right))の部分の構造を模式的に示す。同図中、Hmr geneはハイグロマイシン耐性遺伝子を、mGFPはオワンクラゲの緑色蛍光タンパク質の遺伝子の構造遺伝子を、35S proはCAMVの35Sプロモーターを、35S polyAはCAMVの35S遺伝子のターミネーターを、Nos polyAはノパリン合成酵素遺伝子のターミネーターを示す。下段の塩基配列は遺伝子発現を検出際に用いたPCRプライマーの配列である。 実施例2において、タナチン遺伝子導入の確認するため、形質転換植物および親植物(日本晴)のゲノムDNAに関するサザン分析の結果を示す泳動写真である。上段にそれぞれの形質転換植物の個体番号を示す。 実施例2において、RT-PCRによる導入遺伝子の発現確認するため、mRNAの発現の検出結果を示す泳動写真である。 上段にそれぞれの形質転換植物の個体番号を示す。同図中、Mはサイズマーカー(ラムダDNAのHindIII切断物)を、導入ベクターはpCAM-TANを基質にしたPCRの結果を示す。下段のactin Iは対象としたアクチンmRNAの発現の検出結果を示す。 実施例2において、イネ緑葉粗抽出物の抗菌活性の検定結果を示すプレートの写真である。同図中、形質転換植物を#以下の番号で示す。Cはコントロールの親植物(日本晴)である。 実施例3において、陽イオン交換樹脂カラムにより溶出された各画分の抗菌活性の検定結果を示すプレートの写真である。 同図中、#5および#9は異なる形質転換体の個体番号である。FTはカラムにアプライのあと緩衝液での洗浄画分を、0.1M NaCl, 0.25M NaCl, 1M NaClはそれぞれの溶出画分の結果を示す。リファレンスは試験菌を加えない実験区を、ポジコンおよびネガコンは抗菌物質としてアンピシリンおよび水をそれぞれに加えた実験区の結果を示す。 実施例3において、形質転換体特有のピークを確認するための逆相カラムクロマトグラフィーの結果を示す図である。上段は形質転換体より得られたものの溶出結果、中段は親植物について同じ実験を行った結果、下段はタナチン標品の結果を示す。 実施例3において、形質転換体より得られた抗菌活性画分の逆相カラムクロマトグラフィーの結果を示す図である。16番のピークにタナチン類縁体が含まれる。 実施例4において、合成タナチンの抗菌活性の検定結果を示すプレートの写真である。 実施例3で形質転換体より得られたタナチン類縁体のESI-MSによる分析結果を示すチャートである。 実施例4で合成したアセチル・タナチンのESI-MSによる分析結果を示すチャートである。 t−ブチル化タナチンの抗菌活性の検定結果を示すプレートの写真である。

Claims (5)

  1. 配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドであって、第11位及び第18位のシステイン残基が還元型である抗菌性ペプチド。
  2. 前記システイン残基のSH基の水素原子がアルキル基に置換されている、請求項1に記載の抗菌性ペプチド。
  3. N末端のアミノ酸残基がアセチル基で修飾されている、請求項1又は2に記載の抗菌性ペプチド。
  4. 配列番号1に記載のアミノ酸配列をコードする核酸が導入されることにより、請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗菌性ペプチドを産生するように形質転換された組換え体植物。
  5. 請求項4に記載の組換え体植物から抗菌性ペプチドを抽出する工程を含む、抗菌性ペプチドの製造方法。
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