JP2005278711A - ハニカムフィルムを用いた機能的人工組織の生産 - Google Patents

ハニカムフィルムを用いた機能的人工組織の生産 Download PDF

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Shigeru Miyagawa
繁 宮川
Masatsugu Shimomura
政嗣 下村
Masaru Tanaka
賢 田中
Keiko Arai
景子 新井
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Abstract

【課題】
本発明は、細胞同士が生物学的に結合したような、生物学的結合が改善された人工組織を提供することを課題とする。
【解決手段】
本発明は、課題は、一部、本発明においてハニカム支持体のような規則的構造体を有する支持体を用いて特定の培養条件によって細胞を培養することによって予想外に組織化が進展し、生物学的な結合が進展した人工組織が作製されることを見出したことによっ上記課題を解決した。従って、本発明は、ハニカム構造の支持体と、細胞を含む、人工組織。
【選択図】 なし

Description

本発明は、再生医療の分野に関する。より詳細には、移植後も機能する人工組織ならびにその製造法およびその利用法に関する。
近年の組織工学の発達は、細胞外基質(ECM)に代わるいかなる生分解性代替物も用いずに細胞シートを三次元重層する、新規な技術を使用する機能性心臓組織の作製を可能にする見込みがある[非特許文献1]。この新規な技術において、細胞間接合およびコンフルエントに培養された細胞単層内の接着タンパク質の両方が、完全に保存される。そして採取法により底部を採取された細胞シートを保存した内因性ECM[非特許文献2]が、レシピエント心臓との統合のための接着因子として、重要な役割を果す。さらに、この心筋細胞シートは、電気伝達する拍動性3−D心臓構築物である[非特許文献3]。しかし、インビボ移植後に、心筋細胞シートがその機能を果すか否かは未知である。
組織工学における最近の進歩は、種々の細胞および細胞外基質から構成される、移植可能な機能的組織を提供する可能性がある。
臓器(例えば、心臓、血管など)の移植に外来性組織を使用する際の主な障害は免疫拒絶反応である。同種異系移植片(または同種移植片、allograft)と異種移植片(xenograft)で起こる変化が最初に記述されたのは90年以上前のことである(非特許文献4〜7)。動脈移植片の拒絶反応は、病理学的には移植片の拡張(破裂に至る)または閉塞のいずれかを招く。前者の場合、細胞外マトリクスの分解により生じ、一方、後者は血管内細胞の増殖により起こる(非特許文献8)。このような移植片の使用は、材料として非生体物質を使用することが多いことから、このような副作用という弊害がある。
最近、生体物質を利用した治療法として細胞移植が注目されている。しかし、梗塞心臓におけるヒト筋芽細胞移植は、1.移植細胞の障害損失、2.レシピエント心の注入時の組織障害、3.レシピエント心への組織供給効率、4.不整脈の発生、5.梗塞部位全体への治療の困難などの欠点を有する。従って、細胞移植はそれほど成功しているとはいいがたい。
従来のシートの調製方法では、あまり大型のものができないこと、生物学的結合を持った組織シートはできないことなどの欠点があり、しかもシート調製が終わった後にシャーレからはがすとぼろぼろになるなどの欠点があった。
従って、移植手術に耐え得る、実際の手術に使用可能な、培養によって生産され得る人工組織またはシートを提供することが渇望されている。
従来の技術によって調製された人工組織は、組織培養の後培養基材からの単離が困難であり、大型の組織片を作製することが実質上不可能であった。従って、従来の組織シートのような人工組織は、サイズ、構造、機械的強度などの面で医療用途における使用に耐えないという問題点があった。従来技術によって調製された人工組織は、調製自体が困難であることから、供給数が限定されているという問題点も指摘されている。
規則的構造を有する支持体が開発されてきている。しかし、そのような支持体を、人工組織に応用した例は少なく、しかも、自己支持性を有するような人工組織の開発に成功した例はない。
特に、これらの規則的構造を有する支持体を利用して筋芽細胞などを培養した場合に、配向性を有し、かつ、電気的通電性を示すような三次元組織を生成し得るかどうかは全く不明であった。
また、規則的構造を有する支持体を、配向性を有し、かつ電気的通電性を示すような細胞シートを培養するために応用するということも行われていない。
Okano T,Yamada N,Sakai H,Sakurai Y., J Biomed Mater Res.1993;27:1243−1251 Kushida A,Yamato M,Konno C,Kikuchi A,Sakurai Y,Okano T., JBiomed Mater Res 45:355−362,1999 Shimizu T,Yamato M,Akutsu T et al., Circ Res.2002 Feb 22;90(3):e40 CarrelA.,1907,J Exp Med 9:226−8 Carrel A.,1912.,J Exp Med 9:389−92 Calne RY.,1970,Transplant Proc 2:550 Auchincloss 1988, Transplantation 46: 1 UretskyBF,Mulari S,Reddy S,et al.,1987,Circulation 76:827−34
本発明は、細胞同士が生物学的に結合したような、生物学的結合が改善された人工組織を提供することを課題とする。
上記課題は、一部、本発明においてハニカム支持体のような規則的構造体を有する支持体を用いて特定の培養条件によって細胞を培養することによって予想外に組織化が進展し、生物学的な結合が進展した人工組織が作製されることを見出したことによって解決された。
上記課題はまた、本発明によって提供される人工組織が、例えば、孔が無い、伸縮性などの性質を持つことによって損傷部位を覆っても抵抗することができる強度を有することによって解決された。特に、電気的結合を有し、配向性を有し、多層で形成されるような人工組織が本発明によって提供される。
従って、本発明は、以下を提供する。
(1)ハニカム構造の支持体と、細胞とを含む、心臓再生のための人工組織。
(2)上記細胞は、配向化されている、項目1に記載の人工組織。
(3)上記細胞は、電気的に結合される、項目1に記載の人工組織。
(4)上記細胞は幹細胞または分化細胞である、項目1に記載の人工組織。
(5)上記細胞は間葉系細胞である、項目1に記載の人工組織。
(6)上記細胞は筋芽細胞に由来する、項目1に記載の人工組織。
(7)上記細胞は骨格筋芽細胞である、項目1に記載の人工組織。
(8)上記細胞は線維芽細胞である、項目1に記載の人工組織。
(9)上記細胞は滑膜細胞である、項目1に記載の人工組織。
(10)上記細胞は幹細胞に由来する、項目1に記載の人工組織。
(11)単層の細胞層を含む、項目1に記載の人工組織。
(12)複数層の細胞層を含む、項目1に記載の人工組織。
(13)上記支持体は生体分解性である、項目1に記載の人工組織。
(14)上記支持体は、両親媒性物質をさらに含む、項目1に記載の人工組織。
(15)上記支持体は、両親媒性ポリアクリルアミドをさらに含む、項目1に記載の人工組織。
(16)上記支持体は面状の形態を有し、上記細胞は上記面状の支持体の両面に存在する、項目1に記載の人工組織。
(17)上記支持体は、非両親媒性ポリマーと両親媒性ポリマーとを含むポリマー混合物、および単独の両親媒性ポリマーからなる群より選択される材料で作製される、項目1に記載の人工組織。
(18)上記非両親媒性ポリマーは、生分解性脂肪族ポリエステルおよび生分解性脂肪族ポリカーボネートからなる群より選択される、項目17に記載の人工組織。
(19)上記非両親媒性ポリマーは、ポリ乳酸、グリコール酸−乳酸共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレンアジペートおよびポリブチレンアジペートからなる群より選択される、項目17に記載の人工組織。
(20)上記非両親媒性ポリマーは、ポリブチレンカーボネートおよびポリエチレンカーボネートからなる群より選択される、項目17に記載の人工組織。
(21)上記非両親媒性ポリマーは、非生分解性である、項目17に記載の人工組織。
(22)上記両親媒性ポリマーは、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロック共重合体、アクリルアミドポリマーを主鎖骨格とし、疎水性側鎖としてドデシル基および親水性側鎖としてラクトース基またはカルボキシル基を有する両親媒性ポリマー、またはアニオン性高分子と長鎖アルキルアンモニウム塩とのイオン複合体および水溶性タンパク質からなる群より選択される、項目17に記載の人工組織。
(23)上記両親媒性ポリマーは、上記アニオン性高分子は、核酸、ヘパリン、デキストラン硫酸または核酸である、項目22に記載の人工組織。
(24)上記水溶性タンパク質は、ゼラチン、コラーゲンまたはアルブミンである、項目22に記載の人工組織。
(25)上記両親媒性ポリマーは、ポリ乳酸−ポリエチレングリコールブロック共重合体、ポリε−カプロラクトン−ポリエチレングリコールブロック共重合体およびポリリンゴ酸−ポリリンゴ酸アルキルエステルブロック共重合体からなる群より選択される、項目22に「記載の人工組織。
(26)上記支持体は、ポリウレタン、アクリル系ポリマー、メタクリル系ポリマーおよびスチレン系エラストマーからなる群より選択される熱可塑性エラストマーを含む、項目1に記載の人工組織。
(27)上記支持体は、ポリ(1,2−ブタジエン)で作製される、項目1に記載の人工組織。
(28)上記支持体は、ポリ(ε−カプロラクトン)で作製される、項目1に記載の人工組織。
(29)上記支持体は、ポリ−L−乳酸(PLLA)で作製される、項目1に記載の人工組織。
(30)自己支持性を有する、項目1に記載の人工組織。
(31)さらに、外来の細胞外マトリクスを含む、項目1に記載の人工組織。
(32)さらに、サイトカインまたはケモカインの全長もしくはその部分を含む、項目1に記載の人工組織。
(33)上記支持体は、0.25mm2〜200cmというサイズを有する、項目1に記載の人工組織。
(34)上記支持体は、25cm2〜100cmというサイズを有する、項目1に記載の人工組織。
(35)三次元方向に生物学的に結合されている、項目1に記載の人工組織。
(36)心臓の拍動運動に耐え得る、項目1に記載の人工組織。
(37)三次元方向すべて方向において、生物学的結合がある、項目1に記載の人工組織。
(38)上記生物学的結合は、細胞外マトリクスの相互結合、電気的結合および細胞間の情報伝達からなる群より選択される生物学的結合を含む、項目36に記載の人工組織。
(39)臨床適用することができる組織強度を有する、項目1に記載の人工組織。
(40)上記強度は、臨床適用が意図される部分の組織強度の少なくとも80%以上である、項目1に記載の人工組織。
(41)上記人工組織は、心不全、虚血性心疾患、心筋梗塞、心筋症、心筋炎、肥大型心筋症、拡張相肥大型心筋症および拡張型心筋症からなる群より選択される疾患または障害を伴う心臓に対して使用される、項目1に記載の人工組織。
(42)心臓再生のための人工組織を生産するための方法であって、
A)ハニカム構造の支持体を提供する工程;
B)細胞を、上記支持体に配置する工程;および
C)上記細胞が人工組織を形成するに十分な時間、上記細胞および上記支持体の混合物を培養する工程、
を包含する、方法。
(43)上記培養において、三次元化促進因子を含む培地が使用される、項目42に記載の方法。
(44)上記三次元化促進因子は、アスコルビン酸1リン酸、アスコルビン酸2リン酸、L−アスコルビン酸またはその塩を含む、項目43に記載の方法。
(45)D)上記人工組織を剥離させ自己収縮させる工程、をさらに含む、項目42に記載の方法。
(46)上記剥離および自己収縮は、容器に物理的刺激を与えることにより達成される、項目45に記載の方法。
(47)上記十分な時間は、少なくとも3日間である、項目42に記載の方法。
(48)上記培養は、上記支持体上に細胞層が形成されるに十分な条件で行われる、項目41に記載の方法。
(49)上記培養は、上記細胞が上記支持体上に少なくとも1層の細胞層を形成し、その後、上記支持体を反転させて上記細胞が上記支持体の上記少なくとも1層の細胞層が形成された面の反対側の面にさらなる少なくとも1層の細胞層を形成させることを特徴とする、項目42に記載の方法。
(50)心臓を再生することにより動物の処置または予防するための方法であって、
A)ハニカム構造の支持体と細胞とを含む心臓再生のための人工組織を、上記動物の処置されるべき部分に配置する工程;および
B)上記人工組織と上記部分とが生物学的に結合するに十分な時間保持する工程、
を包含する、方法。
(51)上記人工組織は、上記部分の伸縮に対して抵抗性を有する、項目50に記載の方法。
(52)上記人工組織は、生物学的結合を有する、項目50に記載の方法。
(53)上記生物学的結合は、細胞外マトリクスの相互結合、電気的結合および細胞間の情報伝達からなる群より選択される、項目50に記載の方法。
(54)三次元化促進因子の存在下で細胞を培養して上記人工組織を形成する工程をさらに包含する、項目50に記載の方法。
(55)上記細胞は、上記動物に由来する、項目50に記載の方法。
(56)上記心臓は、心不全、虚血性心疾患、心筋梗塞、心筋症、心筋炎、肥大型心筋症、拡張相肥大型心筋症および拡張型心筋症からなる群より選択される疾患または障害を伴う、項目50に記載の方法。
以下に、本発明の好ましい実施形態を示すが、当業者は本発明の説明および当該分野における周知慣用技術からその実施形態などを適宜実施することができ、本発明が奏する作用および効果を容易に理解することが認識されるべきである。
本発明によって、生物学的な結合が改善された人工組織が提供される。このような組織は、従来技術では達成不可能な機能(例えば、拍動性など)を達成し得、強度も優れていることから、従来人工物での移植処置が考えられなかった部位の処置が可能になった。このように、本発明の人工組織は、改善された生物学的結合(特に、電気的結合)を有しており、実際に移植治療において機能する。このような人工組織は、従来技術では提供されるものではなく、初めて提供されるものである。
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当上記分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
(再生医療)
本明細書において使用される「再生」(regeneration)とは,個体の組織の一部が失われた際に残った組織が増殖して復元される現象をいう。動物種間または同一個体における組織種に応じて、再生のその程度および様式は変動する。ヒト組織の多くはその再生能が限られており、大きく失われると完全再生は望めない。大きな傷害では、失われた組織とは異なる増殖力の強い組織が増殖し,不完全に組織が再生され機能が回復できない状態で終わる不完全再生が起こり得る。この場合には,生体内吸収性材料からなる構造物を用いて、組織欠損部への増殖力の強い組織の侵入を阻止することで本来の組織が増殖できる空間を確保し,さらに細胞増殖因子を補充することで本来の組織の再生能力を高める再生医療が行われている。この例として、軟骨、骨および末梢神経の再生医療がある。神経細胞および心筋は再生能力がないかまたは著しく低いとこれまでは考えられてきた。近年、これらの組織へ分化し得る能力および自己増殖能を併せ持った組織幹細胞(体性幹細胞)の存在が報告され、組織幹細胞を用いる再生医療への期待が高まっている。胚性幹細胞(ES細胞)はすべての組織に分化する能力をもった細胞であり、それを用いた腎臓、肝臓などの複雑な臓器の再生が試みられているが実現には至っていない。
本明細書において使用される「細胞」は、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、多細胞生物の組織の構成単位であって、外界を隔離する膜構造に包まれ、内部に自己再生能を備え、遺伝情報およびその発現機構を有する生命体をいう。本発明の方法においては、どのような細胞でも対象とされ得る。本発明で使用される「細胞」の数は、光学顕微鏡を通じて計数することができる。光学顕微鏡を通じて計数する場合は、核の数を数えることにより計数を行う。当該組織を組織切片スライスとし、ヘマトキシリン−エオシン(HE)染色を行うことにより細胞外マトリクス(例えば、エラスチンまたはコラーゲン)および細胞に由来する核を色素によって染め分ける。この組織切片を光学顕微鏡にて検鏡し、特定の面積(例えば、200μm×200μm)あたりの核の数を細胞数と見積って計数することができる。本明細書において使用される細胞は、天然に存在する細胞であっても、人工的に改変された細胞(例えば、融合細胞、遺伝子改変細胞)であってもよい。細胞の供給源としては、例えば、単一の細胞培養物であり得、あるいは、正常に成長したトランスジェニック動物の胚、血液、または体組織、または正常に成長した細胞株由来の細胞のような細胞混合物が挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「幹細胞」とは、自己複製能を有し、多分化能(すなわち多能性)(「pluripotency」)を有する細胞をいう。幹細胞は通常、組織が傷害を受けたときにその組織を再生することができる。本明細書では幹細胞は、胚性幹(ES)細胞または組織幹細胞(組織性幹細胞、組織特異的幹細胞または体性幹細胞ともいう)であり得るがそれらに限定されない。また、上述の能力を有している限り、人工的に作製した細胞もまた、幹細胞であり得る。胚性幹細胞とは初期胚に由来する多能性幹細胞をいう。胚性幹細胞は、1981年に初めて樹立され、1989年以降ノックアウトマウス作製にも応用されている。1998年にはヒト胚性幹細胞が樹立されており、再生医学にも利用されつつある。組織幹細胞は、胚性幹細胞とは異なり、分化の方向が限定されている細胞であり、組織中の特定の位置に存在し、未分化な細胞内構造をしている。従って、組織幹細胞は多能性のレベルが低い。組織幹細胞は、核/細胞質比が高く、細胞内小器官が乏しい。組織幹細胞は、概して、多分化能を有し、細胞周期が遅く、個体の一生以上に増殖能を維持する。本明細書において使用される場合は、幹細胞は好ましくは胚性幹細胞であり得るが、状況に応じて組織幹細胞も使用され得る。
由来する部位により分類すると、組織幹細胞は、例えば、皮膚系、消化器系、骨髄系、神経系などに分けられる。皮膚系の組織幹細胞としては、表皮幹細胞、毛嚢幹細胞などが挙げられる。消化器系の組織幹細胞としては、膵(共通)幹細胞、肝幹細胞などが挙げられる。骨髄系の組織幹細胞としては、造血幹細胞、間葉系幹細胞などが挙げられる。神経系の組織幹細胞としては、神経幹細胞、網膜幹細胞などが挙げられる。
本明細書において「体細胞」とは、卵子、精子などの生殖細胞以外の細胞であり、そのDNAを次世代に直接引き渡さない全ての細胞をいう。体細胞は通常、多能性が限定されているかまたは消失している。本明細書において使用される体細胞は、天然に存在するものであってもよく、遺伝子改変されたものであってもよい。
細胞は、由来により、外胚葉、中胚葉および内胚葉に由来する幹細胞に分類され得る。外胚葉由来の細胞は、主に脳に存在し、神経幹細胞などが含まれる。中胚葉由来の細胞は、主に骨髄に存在し、血管幹細胞、造血幹細胞および間葉系幹細胞などが含まれる。内胚葉由来の細胞は主に臓器に存在し、肝幹細胞、膵幹細胞などが含まれる。本明細書では、体細胞はどのような間葉由来でもよい。好ましくは、体細胞は、間葉系由来の細胞が使用され得る。
本発明の人工組織を構成する細胞としては、例えば、上述の外胚葉、中胚葉および内胚葉に由来する分化細胞または幹細胞が使用され得る。このような細胞としては、例えば、間葉系の細胞が挙げられる。ある実施形態では、このような細胞として、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞など)、線維芽細胞、滑膜細胞などが使用され得る。このような細胞としては、分化細胞をそのまま利用したり、幹細胞をそのまま利用することもできるが、幹細胞から所望される方向に分化させた細胞を使用することができる。
本明細書において「間葉系幹細胞」とは、間葉に見出される幹細胞をいう。本明細書ではMSCと略されることがある。ここで、間葉とは、多細胞動物の発生各期に認められる、上皮組織間の間隙をうめる星状または不規則な突起をもつ遊離細胞の集団と,それに伴う細胞間質によって形成される組織をいう。間葉系幹細胞は、増殖能と、骨細胞、軟骨細胞、筋肉細胞、ストローマ細胞、腱細胞、脂肪細胞への分化能を有する。間葉系幹細胞は、患者から採取した骨髄細胞等を培養または増殖、軟骨細胞あるいは骨芽細胞に分化させるために使用され、または歯槽骨、関節症等の骨、軟骨、関節などの再建材料として使用されており、その需要は大きい。また、間葉系幹細胞は、血液細胞、リンパ系細胞へも分化し得ることから、その需要がますます高まっている。従って、本発明の間葉系幹細胞または分化した間葉系幹細胞を含む人工組織は、これらの用途において構造体が必要である場合に特に有用である。
本明細書において「単離された」とは、通常の環境において天然に付随する物質が少なくとも低減されていること、好ましくは実質的に含まないことをいう。従って、単離された細胞、組織などとは、天然の環境において付随する他の物質(たとえば、他の細胞、タンパク質、核酸など)を実質的に含まない細胞をいう。組織についていう場合、単離された組織とは、その組織以外の物質(例えば、人工組織の場合は、その人工組織を作製するに際して使用された物質、足場、シート、コーティングなど)が実質的に含まれていない状態の組織をいう。核酸またはポリペプチドについていう場合、「単離された」とは、たとえば、組換えDNA技術により作製された場合には細胞物質または培養培地を実質的に含まず、化学合成された場合には前駆体化学物質またはその他の化学物質を実質的に含まない、核酸またはポリペプチドを指す。単離された核酸は、好ましくは、その核酸が由来する生物において天然に該核酸に隣接している(flanking)配列(即ち、該核酸の5’末端および3’末端に位置する配列)を含まない。
本明細書において「無傷である」とは、人工組織などについて言及する場合、物理的な外傷がないことをいい、その人工組織などを作製した後、作製に使用された環境から分離する際に与えられる物理的衝撃などによる外傷などが実質的にないことをいう。
本明細書において、「樹立された」または「確立された」細胞とは、特定の性質(例えば、多分化能)を維持し、かつ、細胞が培養条件下で安定に増殖し続けるようになった状態をいう。したがって、樹立された幹細胞は、多分化能を維持する。
本明細書において、「非胚性」とは、初期胚に直接由来しないことをいう。従って、初期胚以外の身体部分に由来する細胞がこれに該当するが、胚性幹細胞に改変(例えば、遺伝的改変、融合など)を加えて得られる細胞もまた、非胚性細胞の範囲内にある。
本明細書において「分化(した)細胞」とは、機能および形態が特殊化した細胞(例えば、筋細胞、神経細胞など)をいい、幹細胞とは異なり、多能性はないか、またはほとんどない。分化した細胞としては、例えば、表皮細胞、膵実質細胞、膵管細胞、肝細胞、血液細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、骨芽細胞、骨格筋芽細胞、神経細胞、血管内皮細胞、色素細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞などが挙げられる。
本明細書において「組織」(tissue)とは、細胞生物において、同一の機能・形態をもつ細胞集団をいう。多細胞生物では、通常それを構成する細胞が分化し、機能が専能化し、分業化がおこる。従って細胞の単なる集合体であり得ず,ある機能と構造を備えた有機的細胞集団,社会的細胞集団としての組織が構成されることになる。組織としては、外皮組織、結合組織、筋組織、神経組織などが挙げられるがそれらに限定されない。本発明の組織は、生物のどの臓器または器官由来の組織でもよい。本発明の好ましい実施形態では、本発明が対象とする組織としては、血管、血管様組織、心臓、心臓弁、心膜、硬膜、角膜、関節および骨の組織などが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「人工組織」とは、天然の状態とは異なる組織(生体組織)をいう。本明細書において、代表的には、人工組織は、人工物によって作製されるが、細胞培養によって調製されてもよい。生物の中に存在する形態の組織をそのまま取り出してきたものは本明細書では人工組織とはいわない。従って、人工組織は、生体に由来する物質および生体に由来しない物質を含み得る。本発明の人工組織は、通常細胞および/または生体物質で構成されるが、それ以外の物質(例えば、支持体)を含んでいてもよい。このような生体物質は、好ましくはその組織を構成する細胞に由来する物質(例えば、細胞外マトリクスなど)であることが好ましい。それ以外の物質として使用される支持体は、好ましくは、生体適合性である。
本明細書において「移植可能」とは、人工組織に関して使用されるとき、実際の臨床において移植することができ、移植後も少なくとも一定期間移植された部位において組織としての役割を果たすことができることをいう。移植可能な人工組織は通常、十分な強度、十分な大きさ、十分な無孔性、十分な厚み、十分な生体適合性、十分な生体定着性などを有する。
移植可能な人工組織において十分な強度は、移植を目的とする部分に依存して変動するが、当業者は適宜、その強度を設定することができる。しかし、移植される場合は少なくとも一定の強度を有することが好ましく、そのような強度は、通常、引っ張り強さについて移植を目的とする部分の天然の強度の少なくとも約50%であり、好ましくは少なくとも約60%であり、より好ましくは約70%、さらに好ましくは約80%であり、もっとも好ましくは少なくとも約100%である。そのような強度は、後述の応力、歪み特性を測定したり、クリープ特性インデンテーション試験を行うことによって測定され得る。
移植可能な人工組織において十分な大きさは、移植を目的とする部分に依存して変動するが、当業者は適宜、その大きさを設定することができる。しかし、移植される場合は少なくとも一定の大きさを有することが好ましく、そのような大きさは、通常、面積について少なくとも1cmであり、好ましくは少なくとも2cmであり、より好ましくは少なくとも3cmである。さらに好ましくは少なくとも4cmであり、少なくとも5cmであり、少なくとも6cmであり、少なくとも7cmであり、少なくとも8cmであり、少なくとも9cmであり、少なくとも10cmであり、少なくとも15cmであり、あるいは少なくとも20cmであり得る。
移植可能な人工組織において十分な無孔性は、移植を目的とする部分に依存して変動するが、当業者は適宜、その無孔性を設定することができる。本明細書において「無孔性」とは、孔がない状態をいう。ここで、孔とは、その人工組織において体液またはその同等物(例えば、水溶液など)を漏らす程度の実質的な大きさを有する穴をいう。従って、無孔性を調べるためには、その人工組織を水平に配置し、その上に体液またはその同等物を配置し、その体液またはその同等物が漏れないかどうかを確認し、このときに漏れない場合は無孔性であると判定することができる。
移植可能な人工組織において十分な厚みは、移植を目的とする部分に依存して変動するが、当業者は適宜、その厚みを設定することができる。しかし、移植される場合は少なくとも一定の厚みを有することが好ましく、そのような厚みは、通常、少なくとも約50μmであり、好ましくは少なくとも約100μmであり、より好ましくは約150μmであり、さらに好ましくは少なくとも約200μm、少なくとも約300μm、少なくとも約400μm、少なくとも約500μm、少なくとも約600μm、少なくとも約700μm、少なくとも約800μm、少なくとも約900μm、少なくとも約1mmであり得る。心臓へ移植する場合は、この最低限の厚みさえ有していればよいが、他の用途が意図される場合、厚みはより厚い方がよい場合があり得、そのような場合、例えば、少なくとも2mm、より好ましくは少なくとも3mm、さらに好ましくは5mmであることが意図される。
移植可能な人工組織において十分な生体適合性は、移植を目的とする部分に依存して変動するが、当業者は適宜、その生体適合性の程度を設定することができる。通常、所望される生体適合性としては、例えば、炎症などを起こさず、免疫反応を起こさずに、周囲組織と生物学的結合を行うことなどが挙げられるが、それらに限定されない。場合によって、例えば、角膜などでは、免疫反応を起こしにくいことから、他の臓器において免疫反応を起こす可能性がある場合でも、本発明の目的では生体適合性を有するとすることができる。生体適合性のパラメータとしては、例えば、細胞外マトリクスの存否、免疫反応の存否、炎症の程度などが挙げられるがそれらに限定されない。そのような生体適合性は、移植後における移植部位での適合性を見ること(例えば、移植された人工組織が破壊されていないことを確認する)によって判定することができる(ヒト移植臓器拒絶反応の病理組織診断基準 鑑別診断と生検標本の取り扱い(図譜)腎臓移植、肝臓移植および心臓移植 日本移植学会 日本病理学会編、金原出版株式会社(1998)を参照)。この文献によれば、Grade 0、1A、1B、2、3A、3B、4に分けられ、Grade 0(no acute rejection)は、生検標本に急性拒絶反応、心筋細胞障害などを示す所見がない状態である。Grade1A(focal, mild acute rejection)は、局所的、血管周囲または間質に大型リンパ球が浸潤しているが、心筋細胞傷害は無い状態である。この所見は、1つまたは複数の生検標本で認められる。Grade1B(diffuse, mild acute rejection)は、血管周囲、間質またはその両方に大型リンパ球がよりびまん性に浸潤しているが、心筋細胞傷害は無い状態である。Grade2(focal, moderate acute rejection)は、明瞭に周囲と境界された炎症細胞浸潤巣がただ一箇所で見出されるような状態である。炎症細胞は、大型の活性化されたリンパ球からなり、好酸球をまじえることもある。心筋構築の改変を伴った心筋細胞傷害が病変内に認められる。Grade3A(multifocal, moderate acute rejection)は、大型の活性化したリンパ球からなる炎症細胞浸潤巣が多発性に形成され、好酸球をまじえることもある状態である。これらの多発性の炎症性の炎症細胞浸潤巣の2箇所以上が心筋細胞傷害を伴っている。ときに、心内膜への粗な炎症細胞浸潤を伴っている。この浸潤巣は生検標本のひとつまたは複数の標本で認められる。Grade3B(multifocal, borderline severe acute rejection)は、3Aで見られた炎症細胞浸潤巣がより融合性またはびまん性となり、より多くの生検標本で認められる状態である。大型リンパ球および好酸球、ときに好中球を交える炎症細胞浸潤とともに、心筋細胞傷害がある。出血はない。Grade4(severe acute rejection)は、活性化したリンパ球、好酸球、好中球を含む多彩な炎症細胞浸潤がびまん性に認められる。心筋細胞傷害と心筋細胞壊死とは常に存在する。浮腫、出血、血管炎も通常認められる。「Quilty」効果とは異なる心内膜への炎症細胞浸潤が通常認められる。かなりの期間、免疫抑制剤で強力に治療されている場合には、細胞浸潤よりも浮腫と出血とが顕著となり得る。
移植可能な人工組織において十分な生体定着性は、移植を目的とする部分に依存して変動するが、当業者は適宜、その生体定着性の程度を設定することができる。生体適合性のパラメータとしては、例えば、移植された人工組織と移植された部位との生物学的結合性などが挙げられるがそれらに限定されない。そのような生体定着性は、移植後における移植部位での生物学的結合の存在によって判定することができる。本明細書において好ましい生体定着性とは、移植された人工組織が移植された部位と同じ機能を発揮するように配置されていることが挙げられる。
本明細書において「自己支持性」とは、組織(例えば、人工組織)の少なくとも1点が空間上に固定されるときに、その人工組織が実質的に破壊されない特性をいう。本明細書において、自己支持性は、0.5〜3.0mmの太さの先端を有するピンセットで組織(例えば、人工組織)をつまみあげた(好ましくは、1〜2mmの太さの先端を有するピンセット、1mmの太さの先端を有するピンセットで組織をつまむ;ここで、ピンセットは、先曲がりであることが好ましい)ときに、実質的に破壊されないことによって観察される。そのようなピンセットは、市販されており、例えば、夏目製作所などから入手可能である。ここで採用される、つまみ上げる力は、通常、医療従事者が組織をハンドリングする際に掛ける力に匹敵する。従って、自己支持性は、手でつまみあげたときに破壊されないという特長によっても表現することが可能である。そのようなピンセットとしては、例えば、先曲がり先細無鈎ピンセット(例えば、夏目製作所から販売される番号A−11(先端は1.0mmの太さ)、A−12−2(先端は0.5mmの太さ)などを挙げることができるがそれらに限定されない。先曲がりのほうがシートを摘み上げやすいが、先曲がりであることに限定されない。
本発明では、自己支持性は、実際に人工組織を作製したときの支持性を評価することも重要である。本発明の人工組織を作製する際、容器中にシート状で人工組織が作製され、その人工組織が剥がされることになるが、剥がす際に従来の技術では、人工組織が破壊されていた。従って、従来技術では、移植可能な人工組織は実質的に作製できず、特に、大型の人工組織が必要な局面では、従来技術は役に立たなかったといえる。本発明の技術を用いれば、人工組織を作製し、容器から剥がす際にも十分耐え得る強度、すなわち、自己支持性を有することから、本発明の人工組織は、実質的に任意の局面に応用可能であることが理解される。また、通常、人工組織の作製および剥離後は、その人工組織の強度および自己支持性は、上昇することが本発明において観察されたことから、本発明においては、自己支持性は、作製時における評価が一つの重要な局面であり得ることが理解される。本発明では、当然、移植局面での強度も重要であることから、作製後ある程度時間が経過した後の自己支持性を評価することも重要であり得る。
本明細書において「膜状組織」とは、「平面状組織」ともいい、膜状の組織をいう。膜状組織には、心膜、硬膜、角膜などの器官の組織が挙げられる。
本明細書において「臓器」と「器官」(organ)とは、互換的に用いられ、生物個体のある機能が個体内の特定の部分に局在して営まれ,かつその部分が形態的に独立性をもっている構造体をいう。一般に多細胞生物(例えば、動物、植物)では器官は特定の空間的配置をもついくつかの組織からなり、組織は多数の細胞からなる。そのような臓器または器官としては、皮膚、血管、角膜、腎臓、心臓、肝臓、臍帯、腸、神経、肺、胎盤、膵臓、脳、関節、骨、軟骨、四肢末梢、網膜などが挙げられるがそれらに限定されない。このような臓器または器官はまた、表皮系、膵実質系、膵管系、肝系、血液系、心筋系、骨格筋系、骨芽系、骨格筋芽系、神経系、血管内皮系、色素系、平滑筋系、脂肪系、骨系、軟骨系などの器官または臓器が挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「袋状臓器」とは、三次元方向に一定の広がりを持ち、その臓器の内部は管状の組織によって外部と接続され得る臓器をいい、例えば、心臓、肝臓、腎臓、胃、脾臓などが挙げられる。
1つの実施形態では、本発明が対象とする器官は、血管系に関連する臓器または器官、好ましくは虚血性の器官(心筋梗塞を起こした心臓、虚血を起こした骨格筋など)が挙げられる。1つの好ましい実施形態では、本発明が対象とする器官は、血管、血管様組織、心臓、心臓弁、心膜、硬膜、角膜および骨である。別の好ましい実施形態では、本発明が対象とする器官は、心臓、心臓弁、心膜および血管である。別の好ましい実施形態では、本発明が対象とする器官は、軟骨、関節、骨などが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において、ある部分(例えば損傷部位)の周囲に人工組織などを、「巻く」とは、その人工組織などを、その部分を覆うように(すなわち、損傷などがかくれるように)配置することをいい、その部分を「覆うように配置」すると交換可能に用いられる。ある部分を覆うように配置したかどうかは、その部分と配置された人工組織などとの間の空間的配置を確認することによって判定することができる。好ましい実施形態では、巻く工程によって、ある部位にはその人工組織などが一回転するように巻き付けられることができる。
本明細書において「人工組織と部分とが生物学的に結合するに十分な時間」は、その部分と人工組織との組み合わせによって変動するが、当業者であれば、その組み合わせに応じて適宜容易に決定することができる。このような時間としては、例えば、術後1週間、2週間、1カ月、2カ月、3カ月、6カ月、1年などが挙げられるがそれらに限定されない。本発明では、人工組織は、好ましくは実質的に細胞およびそれに由来する物質のみを含むことから、特に術後に摘出する物質が必要であるというわけではないので、この十分な時間の下限は特に重要ではない。従って、この場合、長ければ長いほど好ましいといえるが、実質的には極端に長い場合は、実質的に補強が完了したといえる。
本明細書において「免疫反応」とは、移植片と宿主との間の免疫寛容の失調による反応をいい、例えば、超急性拒絶反応(移植後数分以内)(β−Galなどの抗体による免疫反応)、急性拒絶反応(移植後約7〜21日の細胞性免疫による反応)、慢性拒絶反応(3カ月以降の細胞性免疫による拒絶反応)などが挙げられる。
本明細書において免疫反応を惹起するかどうかは、HE染色などを含む染色、免疫染色、組織切片の検鏡によって、移植組織中への細胞(免疫系)浸潤について、その種、数などの病理組織学的検討を行うことにより判定することができる。
本明細書において「石灰化」とは、生物体で石灰質が沈着することをいう。
本明細書において生体内で「石灰化する」かどうかは、カルシウム濃度を測定することによって判定することができ、移植組織を取り出し、酸処理などにより組織切片を溶解させ、その溶液を原子吸光度などの微量元素定量装置により測定し、定量することができる。
本明細書において「生体内」または「インビボ」(in vivo)とは、生体の内部をいう。特定の文脈において、「生体内」は、目的とする組織または器官が配置されるべき位置をいう。
本明細書において「インビトロ」(in vitro)とは、種々の研究目的のために生体の一部分が「生体外に」(例えば、試験管内に)摘出または遊離されている状態をいう。インビボと対照をなす用語である。
本明細書において「エキソビボ」(ex vivo)とは、遺伝子導入を行うための標的細胞を被験体より抽出し、インビトロで治療遺伝子を導入した後に、再び同一被験体に戻す場合、一連の動作をエキソビボという。
本明細書において「細胞に由来する物質」とは、細胞を起源とする物質すべてをいい、細胞を構成する物質の他、細胞が分泌する物質。代謝した物質などをが含まれるがそれらに限定されない。代表的な細胞に由来する物質としては、細胞外マトリクス、ホルモン、サイトカインなどが挙げられるがそれらに限定されない。細胞に由来する物質は、通常、その細胞およびその細胞の宿主に対して有害な影響をもたらさないことから、そのような物質は人工組織などに含まれていても通常悪影響を有しない。
本明細書において「細胞外マトリクス」(ECM)とは「細胞外基質」とも呼ばれ、上皮細胞、非上皮細胞を問わず体細胞(somatic cell)の間に存在する物質をいう。細胞外マトリクスは、通常細胞が産生し、従って生体物質の一つである。細胞外マトリクスは、組織の支持だけでなく、すべての体細胞の生存に必要な内部環境の構成に関与する。細胞外マトリクスは一般に、結合組織細胞から産生されるが、一部は上皮細胞や内皮細胞のような基底膜を保有する細胞自身からも分泌される。線維成分とその間を満たす基質とに大別され、線維成分としては膠原線維および弾性線維がある。基質の基本構成成分はグリコサミノグリカン(酸性ムコ多糖)であり、その大部分は非コラーゲン性タンパクと結合してプロテオグリカン(酸性ムコ多糖−タンパク複合体)の高分子を形成する。このほかに、基底膜のラミニン、弾性線維周囲のミクロフィブリル(microfibril)、線維、細胞表面のフィブロネクチンなどの糖タンパクも基質に含まれる。特殊に分化した組織でも基本構造は同一で、例えば硝子軟骨では軟骨芽細胞によって特徴的に大量のプロテオグリカンを含む軟骨基質が産生され、骨では骨芽細胞によって石灰沈着が起こる骨基質が産生される。本発明の1つの実施形態では、本発明の人工組織などは、細胞外マトリクス(たとえば、エラスチン、コラーゲン(例えば、I型、IV型など)、ラミニンなど)は、移植が企図される器官の部位における細胞外マトリクスの組成に類似することが有利であり得る。本発明において、細胞外マトリクスは、細胞接着分子を包含する。本明細書において「細胞接着分子」(Cell adhesion molecule)または「接着分子」とは、互換可能に使用され、2つ以上の細胞の互いの接近(細胞接着)または基質と細胞との間の接着を媒介する分子をいう。一般には、細胞と細胞の接着(細胞間接着)に関する分子(cell−cell adhesion molecule)と,細胞と細胞外マトリックスとの接着(細胞−基質接着)に関与する分子(cell−substrate adhesion molecule)に分けられる。本発明の人工組織は、通常、このような細胞接着分子を含む。従って、本明細書において細胞接着分子は、細胞−基質接着の際の基質側のタンパク質を包含するが、本明細書では、細胞側のタンパク質(例えば、インテグリンなど)も包含され、タンパク質以外の分子であっても、細胞接着を媒介する限り、本明細書における細胞接着分子または細胞接着分子の概念に入る。
細胞間接着に関しては、カドヘリン、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する多くの分子(NCAM、L1、ICAM、ファシクリンII、IIIなど)、セレクチンなどが知られており、それぞれ独特な分子反応により細胞膜を結合させることも知られている。従って、1つの実施形態では、本発明の人工組織などは、このようなカドヘリン、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する分子などの組成もまた、移植が意図される部位と同程度の組成であることが好ましい。
このように多種多様な分子が細胞接着に関与しており、それぞれの機能は異なっていることから、当業者は、目的に応じて、適宜本発明の人工組織に含まれるべき分子を選択することができる。細胞接着に関する技術は、上述のもののほかの知見も周知であり、例えば、細胞外マトリックス −臨床への応用― メディカルレビュー社に記載されている。
ある分子が細胞接着分子であるかどうかは、生化学的定量(SDS−PAG法、標識コラーゲン法)、免疫学的定量(酵素抗体法、蛍光抗体法、免疫組織学的検討)、PCR法、ハイブリダイゼイション法などのようなアッセイにおいて陽性となることを決定することにより判定することができる。このような細胞接着分子としては、コラーゲン、インテグリン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、フィブリノゲン、免疫グロブリンスーパーファミリー(例えば、CD2、CD4、CD8、ICAM1、ICAM2、VCAM1)、セレクチン、カドヘリンなどが挙げられるがそれに限定されない。このような細胞接着分子の多くは、細胞への接着と同時に細胞間相互作用による細胞活性化の補助シグナルを細胞内に伝達する。従って、本発明の組織片において用いられる接着因子としては、そのような細胞活性化の補助シグナルを細胞内に伝達するものが好ましい。細胞活性化により、組織片としてある組織または臓器における損傷部位に適用された後に、そこに集合した細胞および/または組織もしくは臓器にある細胞の増殖を促すことができるからである。そのような補助シグナルを細胞内に伝達することができるかどうかは、生化学的定量(SDS−PAG法、標識コラーゲン法)、免疫学的定量(酵素抗体法、蛍光抗体法、免疫組織学的検討)、PCR法、ハイブリダイゼイション法というアッセイにおいて陽性となることを決定することにより判定することができる。
細胞接着分子としては、例えば、組織固着性の細胞系に広く知られる細胞接着分子としてカドヘリンがあり、カドヘリンは、本発明の好ましい実施形態において使用することができる。一方,非固着性の血液・免疫系の細胞では,細胞接着分子としては、例えば、免疫グロブリンスーパーファミリー分子(LFA−3、CD2、CD4、CD8、ICAM1、ICAM2、VCAM1など);インテグリンファミリー分子(LFA−1、Mac−1、gpIIbIIIa、p150、95、VLA1、VLA2、VLA3、VLA4、VLA5、VLA6など);セレクチンファミリー分子(L−セレクチン,E−セレクチン,P−セレクチンなど)などが挙げられるがそれらに限定されない。従って、そのような分子は、血液・免疫系の組織または臓器を処置するための特に有用であり得る。
細胞接着分子は、非固着性の細胞が特定の組織で働くためにはその組織への接着が必要となる。その場合,恒常的に発現するセレクチン分子などによる一次接着、それに続いて活性化されるインテグリン分子などの二次接着によって細胞間の接着は段階的に強くなると考えられている。従って、本発明において用いられる細胞接着分子としては、そのような一次接着を媒介する因子、二次接着を媒介する因子、またはその両方が一緒に使用され得る。
本明細書において「組織損傷率」とは、組織または器官の機能を示すパラメータをいい、処理後の組織または器官がどの程度損なわれ傷ついているかの指標であり、その組織または器官の本来の機能を発揮することができるかどうかの指標である。本明細書において組織損傷率を測定する方法は、当該分野において公知であり、例えば、エラスチン断裂部位を計数することによって判定することができる。本明細書において用いられる方法では、一視野を100μm×100μmごとのユニットに区切り、ユニットを単位としてエラスチン断裂部位がある場合にカウントして算出した。一視野あたり24ユニットが存在した。HE染色により組織切片における細胞外マトリクスの検鏡により計数し、未処理組織を0%となるように規定し、損傷率=x/24で算出する。この場合未処理をx=0として規定する。
本明細書において「組織強度」とは、組織または器官の機能を示すパラメータをいい、その組織または器官の物理的強度である。組織強度は一般に、引っ張り強さ(例えば、破断強度、剛性率、ヤング率など)を測定することによって判定することができる。そのような一般的な引っ張り試験は周知である。一般的な引っ張り試験によって得られたデータの解析により、破断強度、剛性率、ヤング率などの種々のデータを得ることができ、そのような値もまた、本明細書において組織強度の指標として用いることができる。本明細書では、通常、臨床適用することができる程度の組織強度を有することが必要とされる。
ここで、本発明の人工組織などが有する引っ張り強さは、応力・歪み特性を測定することによって測定することができる。手短に述べると、試料に荷重を加え、例えば、1chは歪み、2chは荷重の各々のAD変換器(例えば、ELK−5000)に入力して、応力および歪みの特性を測定することによって引っ張り強さを決定することができる。引っ張り強さはまた、クリープ特性を試験することによっても達成することができる。クリープ特性インデンテーション試験とは、一定の荷重を加えた状態で時間とともにどのように伸びていくかを調べる試験である。微小な素材、薄い素材などのインデンテーション試験は、先端の半径0.1〜1μm程度の、例えば、三角錐の圧子を用いて実験を行う。まず、試験片に対して圧子を押し込み、付加を与える。そして、試験片に数十nmから数μm程度押し込んだところで、圧子を戻し除荷する。このような試験方法によって荷重除荷曲線を得る。この曲線から得られた負荷荷重と押し込み深さの挙動とによって硬さ、ヤング率などを求めることができる。
1つの好ましい実施形態では、本発明の人工組織が有する引っ張り強さは、通常移植を目的とする部分の天然の強度の少なくとも約50%であり、好ましくは少なくとも約60%であり、より好ましくは約70%、さらに好ましくは約80%であり、もっとも好ましくは少なくとも約100%である。
あるいは、ある実施形態において、本発明の人工組織は、天然の組織(例えば、臨床適用が意図される部分(例えば、心臓など))が有する組織強度の少なくとも約75%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約85%以上、さらに好ましくは約90%以上であり得、あるいは、好ましくは少なくとも約100%であり得、天然の組織が有する組織強度以上の値を有していてもよい。ここで、天然の組織が有する組織強度とは、その天然での状態で所望の目的の組織が有する組織強度をいう。十分に強い組織強度は、膜状以外の組織(例えば、管状組織)を適用する場合にも有することが好ましい特性である。管状組織の場合、組織強度は、β値で表すことができる。β値の算出方法は、本明細書の別の場所において詳述し、実施例においても例示した。ある実施形態において、本発明の人工組織は、約15以上のβ値の組織強度を有し、好ましくは、約18以上のβ値の組織強度を有し、より好ましくは約20以上のβ値の組織強度を有し、さらに好ましくは約22以上のβ値の組織強度を有する。別の実施形態において、本発明の人工組織は、処理前の組織が有していたβ値の少なくとも約75%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約85%以上、さらに好ましくは約90%以上であり得、未処理状態での(もともと有していた)β値以上の値を有していてもよい。ここで、組織が未処理状態での特性(例えば、β値)とは、その組織の処理(例えば、本発明の1,2−エポキシド高分子での処理)の前(例えば、天然での状態)で有していた特性をいう。従って、例えば、もともとの組織が25のβ値を有していた場合は、好ましくは、本発明の人工組織は、17.5以上、好ましくは20以上、より好ましくは21.25以上、さらに好ましくは22.5以上のβ値を有し得る。
本明細書において管状組織の場合、組織強度は、剛性パラメータ(β値)で表現することができる。β値は、P−D(圧力−直径)関係を作成した後、
Ln(P/Ps)=β(D/Ds−1) (1)
で算出することができる。PsおよびDsは、100mmHgでの標準値を示す。PおよびD各々のP(圧力)における直径(D)の値を示す。
血管などの管状組織の両端をパイプ状のユニットに固定し、生理食塩水中に内室および外室を満たす。この状態から、内室へ圧力を外武装置より加えていくと同時に、その加圧時の外径をモニタリングする。その測定によって得られる圧力と、外径との関係を上記(1)の式に導入して、β値を算出する(Sonoda H,Takamizawa K.,et al.J.Biomed.Matr.Res.2001:266−276)。
本明細書において「生理活性物質」(physiologically active substance)とは、細胞または組織に作用する物質をいう。生理活性物質には、サイトカインおよび増殖因子が含まれる。生理活性物質は、天然に存在するものであっても、合成されたものでもよい。好ましくは、生理活性物質は、細胞が産生するものまたはそれと同様の作用を有するものである。本明細書では、生理活性物質はタンパク質形態または核酸形態あるいは他の形態であり得るが、実際に作用する時点においては、サイトカインは通常はタンパク質形態を意味する。本発明において、生理活性物質は、本発明の人工組織の移植の際に、定着を促進するためなどに使用され得る。
本明細書において使用される「サイトカイン」は、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、細胞から産生され同じまたは異なる細胞に作用する生理活性物質をいう。サイトカインは、一般にタンパク質またはポリペプチドであり、免疫応答の制禦作用、内分泌系の調節、神経系の調節、抗腫瘍作用、抗ウイルス作用、細胞増殖の調節作用、細胞分化の調節作用などを有する。本明細書では、サイトカインはタンパク質形態または核酸形態あるいは他の形態であり得るが、実際に作用する時点においては、サイトカインは通常はタンパク質形態を意味する。
本明細書において使用される「ケモカイン」とは、ケモキネシス、化学走性があり、白血球運動、誘引などを刺激する生体物質をいう。ケモカインは、通常8〜10kDaのペプチドであることが多い。
本明細書において用いられる「増殖因子」または「細胞増殖因子」とは、本明細書では互換的に用いられ、細胞の増殖を促進または制御する物質をいう。増殖因子は、成長因子または発育因子ともいわれる。増殖因子は、細胞培養または組織培養において、培地に添加されて血清高分子物質の作用を代替し得る。多くの増殖因子は、細胞の増殖以外に、分化状態の制御因子としても機能することが判明している。
サイトカインには、代表的には、インターロイキン類、ケモカイン類、コロニー刺激因子のような造血因子、腫瘍壊死因子、インターフェロン類が含まれる。増殖因子としては、代表的には、血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝実質細胞増殖因子(HGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)のような増殖活性を有するものが挙げられる。
サイトカインおよび増殖因子などの生理活性物質は一般に、機能重複現象(redundancy)があることから、他の名称および機能で知られるサイトカインまたは増殖因子であっても、本発明に使用される生理活性物質の活性を有する限り、本発明において使用され得る。また、サイトカインまたは増殖因子は、本明細書における好ましい活性を有してさえいれば、本発明の治療法または医薬の好ましい実施形態において使用することができる。
従って、1つの実施形態において、本発明は、このようなサイトカインまたは増殖因子(例えば、HGF)を、移植部位(例えば心筋移植部位)に本発明の人工組織と同時に投与することによって、人工組織の定着および移植部位の機能向上が見られることが明らかにされ、そのような併用療法を提供する。
本明細書において「分化」とは、細胞、組織または器官のような生物の部分の状態の発達過程であって、特徴のある組織または器官を形成する過程をいう。「分化」は、主に発生学(embryology)、発生生物学(developmental biology)などにおいて使用されている。1個の細胞からなる受精卵が分裂を行い成体になるまで、生物は種々の組織および器官を形成する。分裂前または分裂が十分でない場合のような生物の発生初期は、一つ一つの細胞や細胞群が何ら形態的または機能的特徴を示さず区別することが困難である。このような状態を「未分化」であるという。「分化」は、器官のレベルでも生じ、器官を構成する細胞がいろいろの違った特徴的な細胞または細胞群へと発達する。これも器官形成における器官内での分化という。従って、本発明の人工組織は、分化した状態の細胞を含む組織を用いてもよい。
本明細書において「移植片」、「グラフト」および「組織グラフト」は、交換可能に用いられ、身体の特定部位に挿入されるべき同種または異種の組織または細胞群であって、身体への挿入後その一部となるものをいう。従って、本発明の人工組織は、移植片として用いることができる。移植片としては、例えば、臓器または臓器の一部、血管、血管様組織、皮片、心臓、心臓弁、心膜、硬膜、関節膜、骨片、軟骨片、角膜骨片、歯などが挙げられるがそれらに限定されない。従って、移植片には、ある部分の欠損部に差し込んで欠損を補うために用いられるものすべてが包含される。移植片としては、そのドナー(donor)の種類によって、自己(自家)移植片(autograft)、同種移植片(同種異系移植片)(allograft)、異種移植片が挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において自己移植片(組織、細胞、臓器など)または自家移植片(組織、細胞、臓器など)とは、ある個体についていうとき、その個体に由来する移植片(組織、細胞、臓器など)をいう。本明細書において自己移植片(組織、細胞、臓器など)というときは、広義には遺伝的に同じ他個体(例えば一卵性双生児)からの移植片(組織、細胞、臓器など)をも含み得る。本明細書では、このような自己との表現は、被験体に由来すると交換可能に使用される。従って、本明細書では、ある被験体に由来しないとの表現は、自己ではない(すなわち、非自己)と同一の意味を有する。
本明細書において同種移植片(同種異系移植片)(組織、細胞、臓器など)とは、同種であっても遺伝的には異なる他個体から移植される移植片(組織、細胞、臓器など)をいう。遺伝的に異なることから、同種異系移植片(組織、細胞、臓器など)は、移植された個体(レシピエント)において免疫反応を惹起し得る。そのような移植片(組織、細胞、臓器など)の例としては、親由来の移植片(組織、細胞、臓器など)などが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において異種移植片(組織、細胞、臓器など)とは、異種個体から移植される移植片(組織、細胞、臓器など)をいう。従って、例えば、ヒトがレシピエントである場合、ブタからの移植片(組織、細胞、臓器など)は異種移植片(組織、細胞、臓器など)という。
本明細書において「レシピエント」(受容者)とは、移植片(組織、細胞、臓器など)または移植体(組織、細胞、臓器など)を受け取る個体といい、「宿主」とも呼ばれる。これに対し、移植片(組織、細胞、臓器など)または移植体(組織、細胞、臓器など)を提供する個体は、「ドナー」(供与者)という。
本発明の人工組織生産技術を用いれば、どのような細胞に由来する人工組織でも使用することができる。なぜなら、本発明の方法により形成された人工組織(例えば、膜状組織、器官など)は、治療目的に損傷のない程度の組織損傷率を保持しつつ(すなわち、低く保ちながら)、目的の機能を発揮することができるからである。従って、従来そのままの組織または臓器自体を移植物として使用するしかなかった状況にあった。このような状況において、細胞から三次元的に結合した組織を形成することができたことによって、そのような三次元的な人工組織を用いることが可能になったことは、従来技術では達成することができなかった本発明の格別の効果の一つといえる。
本明細書において「被験体」とは、本発明の処置が適用される生物をいい、「患者」ともいわれる。患者または被験体は好ましくは、ヒトであり得る。
本発明の人工組織で使用される細胞は、同系由来(自己(自家)由来)でも、同種異系由来(他個体(他家)由来)でも、異種由来でもよい。拒絶反応が考えられることから、自己由来の細胞が好ましいが、拒絶反応が問題でない場合同種異系由来であってもよい。また、拒絶反応を起こすものも必要に応じて拒絶反応を解消する処置を行うことにより利用することができる。拒絶反応を回避する手順は当該分野において公知であり、例えば、新外科学体系、第12巻、臓器移植(心臓移植・肺移植 技術的,倫理的整備から実施に向けて)(改訂第3版)、中山書店に記載されている。そのような方法としては、例えば、免疫抑制剤、ステロイド剤の使用などの方法が挙げられる。拒絶反応を予防する免疫抑制剤は、現在、「シクロスポリン」(サンディミュン/ネオーラル)、「タクロリムス」(プログラフ)、「アザチオプリン」(イムラン)、「ステロイドホルモン」(プレドニン、メチルプレドニン)、「T細胞抗体」(OKT3、ATGなど)があり、予防的免疫抑制療法として世界の多くの施設で行われている方法は、「シクロスポリン、アザチオプリン、ステロイドホルモン」の3剤併用である。免疫抑制剤は、本発明の医薬と同時期に投与されることが望ましいが、必ずしも必要ではない。従って、免疫抑制効果が達成される限り免疫抑制剤は本発明の再生・治療方法の前または後にも投与され得る。
本発明で用いられる細胞は、どの生物(例えば、脊椎動物、無脊椎動物)由来の細胞でもよい。好ましくは、脊椎動物由来の細胞が用いられ、より好ましくは、哺乳動物(例えば、霊長類、齧歯類など)由来の細胞が用いられる。さらに好ましくは、霊長類由来の細胞が用いられる。最も好ましい実施形態において、ヒト由来の細胞が用いられる。通常は、宿主と同じ種の細胞を用いることが好ましい。
本発明が対象とする被験体と、人工組織との組合せとしては、例えば、心疾患(例えば、心不全、虚血性心疾患、心筋梗塞、心筋症、心筋炎、肥大型心筋症、拡張相肥大型心筋症および拡張型心筋症など)を起こした心臓への移植、心膜パッチ、心筋梗塞などへの移植などが挙げられるがそられに限定されない。
本発明が対象とする組織は、生物のどの臓器または器官でもよく、また、本発明が対象とする組織は、どのような種類の生物由来であり得る。本発明が対象とする生物としては、脊椎動物または無脊椎動物が挙げられる。好ましくは、本発明が対象とする生物は、哺乳動物(例えば、霊長類、齧歯類など)である。より好ましくは、本発明が対象とする生物は、霊長類である。最も好ましくは、本発明はヒトを対象とする。
本発明の人工組織などを弁として使用する場合、そのような弁の一般的使用について、当該分野において周知の技術を応用して移植などをすることができる。例えば、ステントレス異種生体弁が当該分野においてよく知られている。異種生体弁では、ステントの存在で有効な弁口面積が小さくなり、また弁葉の石灰化や変性が問題であった。最近、ブタ大動脈基部の形態を生かし、ステントを用いないステントレス異種生体弁が大動脈弁位の人工弁として注目されている(Gross C.et al.,Ann Thorac Surg 68:919,1999)。ステントがないことで、小さいサイズの弁を使用せざるを得ない場合でも弁を介した圧較差が少なく、術後の左心室肥大に対しても有効であると考えられている。また大動脈の基部の弾性が維持され、弁尖にかかるストレスが少なくステント付き生体弁に比較して耐久性の向上も期待できる。さらに、感染による心内膜炎、人工弁感染時にも使用が可能である。現在欧米でのステントレス異種生体弁の中期術後成績は十分に満足できる報告がなされており、長期成績にも期待できる(Gross C.et al.,Ann Thorac Surg 68:919,1999)。
本明細書において「大型」とは、人工組織に関して言及するとき、孔がない部分の大きさをいい、代表的には、孔がない部分の長手方向の長さが少なくとも1cm、好ましくは少なくとも1.5cm、さらに好ましくは少なくとも2cmであることを意味する。この場合、短手方向の長さもまた、少なくとも1cm、好ましくは少なくとも1.5cm、さらに好ましくは少なくとも2cmであることが好ましいが必ずしもそうである必要はない。面積で表す場合、孔がない部分の内接円の面積が通常少なくとも1cmであり、好ましくは少なくとも2cmであり、より好ましくは少なくとも3cmであり、さらに好ましくは少なくとも4cmであり、なおさらに好ましくは少なくとも5cmであり、最も好ましくは少なくとも6cmである。
本明細書において「可撓性」の人工組織とは、外的環境からの物理的刺激(例えば、圧力)などに対して、抵抗性を有することをいう。可撓性を有する人工組織は、移植される部位が、自律的にまたは他からの影響で運動したり変形したりする場合に好ましい。従って、そのような可撓性を有する人工組織は、移植された後も、可撓性を有することが好ましい。
本明細書において「伸縮性」を有する人工組織とは、外的環境からの伸縮性の刺激(例えば、拍動)に対して抵抗性を有する性質をいう。伸縮性を有する人工組織は、移植される部位が伸縮性の刺激を伴う場合好ましい。そのような伸縮性の刺激を伴う部位としては、例えば、心臓、筋肉、関節、軟骨、腱などが挙げられるがそれらに限定されない。1つの実施形態では、心臓の拍動運動に耐え得る程度の伸縮性が要求され得る。
本明細書中で使用される場合、用語「由来する」とは、ある種の細胞が、その細胞が元々存在していた細胞塊、組織、器官などから分離、単離、または抽出されたこと、あるいはその細胞を、幹細胞から誘導されたことを意味する。
本明細書中で使用される、(臓器に)「適用可能な」とは、適用された臓器が機能する(例えば、心臓であれば拍動する)ような能力を意味する。このような心臓に適用可能な組織は、拍動する場合の伸縮に耐え得る強度を有することになる。ここでは、心臓への適用可能性は、心筋への適用可能性を含む。
本明細書中で使用される場合、用語「三次元構造体」とは、細胞間の電気的結合および配向を保持している細胞を含む、三次元方向に広がる物体を指す。この用語は、任意の形(例えば、シート状など)の物体を包含する。そのようなシート状構造体は、一層でも複数層でもあり得る。従って、本発明の人工組織は、三次元構造体であるといえる。
本明細書において「細胞シート」または「細胞層」とは、層状の細胞から構成される構造体をいう。このような細胞シートは、少なくとも二次元の方向に生物学的結合を有する。生物学的結合を有するシートは、製造された後、単独で扱われる場合でも、細胞相互の結合が実質的に破壊されないことが特徴である。そのような生物学的結合には、細胞外マトリクスを介した細胞間の結合が含まれる。
本明細書において「生物学的結合」とは、細胞相互の関係に言及する場合、2つの細胞の間に生物学的になんらかの相互作用があることをいう。そのような相互作用としては、例えば、生体分子(例えば、細胞外マトリクス)を介した相互作用、情報伝達を介した相互作用、電気的相互作用(電気信号の同期などの電気的結合)が挙げられるがそれらに限定されない。相互作用を確認する場合は、その相互作用の特性によって適切なアッセイ方法を用いる。例えば、生体分子を介した物理的相互作用を確認する場合は、人工組織などの強度(例えば、引っ張り試験)を確認する。情報伝達を介した場合は、シグナル伝達がなされるかどうかを、遺伝子発現などを介して確認する。あるいは、電気的な相互作用の場合は、人工組織などにおける電位の状況を測定し、一定の波をもって電位が伝播しているかどうかを見ることによって確認することができる。従って、好ましくは、物理的結合は、スキャフォルドなしで結合しているかどうかを見ることによって判定することができる。本発明において、通常生物学的結合は、少なくとも二次元方向にあれば十分であるが、好ましい実施形態では、三次元すべての方向に生物学的結合を有することが有利であり、そのような場合、三次元構造体を形成し得る。好ましくは、三次元すべての方向にほぼ均等に生物学的結合を有することが有利であることがあるが、別の実施形態では、二次元方向にほぼ均等に生物学的結合を有するが、第三の方向にはすこし弱い生物学的結合を有する人工組織なども使用され得る。
電気的結合を証明するには、電気生理学的検討および組織学的検討を行うことが望ましい。
1.電気生理学
MEDシステムを用いて測定する。測定方法は、培養皿底面に仕込まれた64極の電極にシートをのせる。自発的に電位を発しているのであれば、電極が感知し、この電極より刺激を与えることも可能である。このシステムは、電気的結合性が定量できるというのではなく、電気的流れがどうなっているかを視覚的に捕らえるものである。電位の流れを視覚化する方法として、CSD解析というものがあり、これは動画で示すことができる。これ以外に、ある部分で刺激を与え、どのような電気興奮が伝導するかどうかを視覚化することができる。
2.組織学的評価
コネキシン43を免疫染色することによって一般的には評価される。しかし、コネキシン43の免疫に加えて、電気的結合性をタンパク質は存在することから、コネキシン43以外の電気伝導性タンパク質を染色してもよい。
3.電気的結合性の定量。
電気的閾値での測定の方法を利用することができる。閾値とは人工組織を移植した梗塞巣を刺激して、レシピエント心をペーシングできる最小の値をいう。電気的閾値を電気結合性の指標とすることが可能であり、本明細書においてこのような値も使用することができることが理解される。
本明細書において使用される「支持体」は、本明細書において、細胞を固定することができる要素(element)をいう。支持体として使用するためのそのような材料としては、固体表面を形成し得る任意の材料が使用され得るが、例えば、天然および合成のポリマー(例えば、ポリスチレン、セルロース、キトサン、デキストラン、およびナイロン)などが挙げられるがそれらに限定されない。支持体は、複数の異なる材料の層から形成されていてもよい。好ましくは、支持体は、生体適合性を有する。本明細書において「生体適合性」とは、毒性および免疫学的拒絶能がないために生体内で障害なく存在することができる性質をいう。
本明細書において「生体適合性高分子」とは、生体適合性のよい高分子をいい、具体的には、残存しても毒性を生じないことをいう。ある高分子がそのような生体適合性を有しているかどうかを判定する方法は、本明細書においては、ラット等の実験動物皮下への埋植試験等の試験法を使用する。この試験法では、皮下埋植試験の結果、比較的急性の免疫反応やアレルギー反応等が起き、腫れたり、発赤もしくは発熱したりする場合には肉眼的に生体適合性が低いことが解る。さらに人工血管を動物の血管に移植した場合など、特定の患部に移植した場合には、数日から数ヶ月後に、移植箇所を観察し、組織の生着の有無、移植組織周辺の炎症、癒着、血液凝固による血栓形成などの程度を観察して、組織適合性の判定を行う。この他、移植部位の組織切片を作成してヘマトキシリン・エオシン染色その他の染色法にて細胞を染色・観察し、組織適合性の低さの指標としては免疫系を担当する顆粒性の細胞が多く侵入しているかどうか、もしくは従来組織と移植組織の間に両者を隔てる瘢痕組織の形成が認められるか否かを判定する。また、特に脱細胞化組織の組織適合性の高さの指標としては、血管内皮細胞、繊維芽細胞、平滑筋細胞など各種の細胞が従来組織より侵入し、再細胞化が起きているかどうか(すなわち従来組織と移植組織の境界が明確でない程度に移植組織が生着しているかどうか)を判定する。
また、上記の組織や細胞の形状観察による判定以外にも、炎症反応の進行に起因する血液中のサイトカインの濃度、異物として認識された移植組織に対する抗体の濃度(力価)、補体成分の濃度、異物埋入により誘導された薬物代謝酵素(P450等)の酵素量、等の生物化学的な定量値とその移植前後の変動の追跡をもって、組織適合性の指標とする場合もある。
医療器具類の材料については、その毒性を評価して医療器具への使用を合理的に規制する為に、細胞毒性試験、感作性試験、刺激性試験、埋植試験、遺伝毒性試験、血液適合性試験、全身毒性試験、などの試験項目があり、厚生労働省のガイドライン、米国のNational Standards、国際的産業基準のISO−10993等により個別の試験法が規定されている。
生体適合性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、コラーゲン、γ−ポリグルタミン酸、シリコーン、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリウレタン、セルロース、ポリスチレン、ナイロン、ポリカーボネート、ピリサルホン、ポリアクリロニトリル、コラーゲン、ゼラチン、フィブリン、キチン、キトサン、アルギン酸、デンプン、γ-ポリグルタミン酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸などが挙げられるがそれらに限定されない。ここで、ポリビニルアルコールの中には、未修飾のものの他に、アミノ基、カルボキシル基、アセチル基などにより若干の程度化学修飾されたものもあり、市販されており、これらの改変ポリビニルアルコールもまた本発明において使用することができる。好ましくは、生体適合性高分子は、生分解性であるがそれに限定されない。
本明細書において「生分解性」とは、物質について言及するとき、生体内で,あるいは微生物の作用により分解される性質をいう。生分解性の高分子は、例えば、加水分解により,水,二酸化炭素、メタンなどに分解され得る。本明細書では、生分解性であるかどうかを判定する方法は、生分解性の一部である生体吸収性に関しては、ラット、ウサギ、イヌなど実験動物への数日間から数年間にわたる埋植試験、微生物による分解の試験に関しては、シート状の高分子の土壌中での数日間から数年間にわたる埋入・崩壊試験などの方法を使用する。移植に関する場合、動物における試験を使用することが好ましい。また、上記の試験方法に準ずるより簡便な代替試験法としては、高分子の非酵素的分解についてはリン酸緩衝液生理食塩水(PBS)などの各種緩衝液を、高分子の酵素分解については当該高分子の加水分解酵素(プロテアーゼ、グリコシダーゼ、リパーゼ、エステラーゼ等)を添加した緩衝液を、それぞれ用いて水溶液中での溶解試験を行うこともある。生分解性の高分子には、天然および合成高分子がある。天然高分子の例としては,コラーゲン,デンプンなどのタンパク質、多糖類が挙げられ、そして合成高分子の例としてはポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリエチレンスクシナートなどの脂肪族ポリエステルが挙げられるがそれらに限定されない。ポリビニルアルコールは、生分解性については、弱い生分解性を示すことから、本明細書では、生分解性を有するものとして認識され得る。
本明細書において「高分子」は、「分子」と同様の意味で用いられ、特に分子量を限定しない。高分子について分子量を限定して議論する場合、通常、分子量が500以上のものを指すがそれに限定されない。本発明において用いられる高分子の分子量の上限は、原理的には無限大であるが、本発明では、通常、溶液として取り扱い、分子量を議論できる(動的光散乱、ゲル濾過、遠心分離器による沈降平衡などの分子量測定が適用できるという意味で)のは分子量500万程度までが使用され得るがそれに限定されない。本明細書において、学会および業界での慣例と同様に、「生体高分子」、「生体適合性高分子」という用語は、「バイオマテリアル」、「医療用高分子」等の用語と同義語として使用される。
本明細書において「配向化」とは、細胞に対して用いられるとき、同じ方向に向かって細胞が整列していることをいう。紡錘形状の細胞である場合、細胞の長軸がほぼ平行に並んでいる、同じ方向に向いていることなどを観察することができれば、配向性があると判断する。このような判断は、HE染色によって行うことができる。
本発明の人工組織は、医薬品として提供され得るが、あるいは、動物薬、医薬部外品、医療器具、水産薬および化粧品等として、公知の調製法により提供され得る。
従って、本発明が対象とする動物は、臓器または器官を有するものであれば、どの生物(例えば、動物(たとえば、脊椎動物、無脊椎動物))でもよい。好ましくは、脊椎動物(たとえば、メクラウナギ類、ヤツメウナギ類、軟骨魚類、硬骨魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳動物など)であり、より好ましくは、哺乳動物(例えば、単孔類、有袋類、貧歯類、皮翼類、翼手類、食肉類、食虫類、長鼻類、奇蹄類、偶蹄類、管歯類、有鱗類、海牛類、クジラ目、霊長類、齧歯類、ウサギ目など)であり得る。例示的な被験体としては、例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ニワトリ、ネコ、イヌなどの動物が挙げられるがそれらに限定されない。さらに好ましくは、霊長類(たとえば、チンパンジー、ニホンザル、ヒト)が用いられる。最も好ましくはヒトが対象とされ得る。移植治療において限界があるからである。
本発明が医薬として使用される場合、本発明の医薬は、薬学的に受容可能なキャリアなどをさらに含み得る。本発明の医薬に含まれる薬学的に受容可能なキャリアとしては、当該分野において公知の任意の物質が挙げられる。
そのような適切な処方材料または薬学的に受容可能なキャリアとしては、抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、希釈剤、賦形剤および/または薬学的アジュバントが挙げられるがそれらに限定されない
本発明の処置方法において使用される医薬(人工組織、併用される医薬化合物など)の量は、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、組織の形態または種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。本発明の処置方法を被験体(または患者)に対して施す頻度もまた、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、および治療経過などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。頻度としては、例えば、毎日−数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回−1ヶ月に1回)の投与が挙げられる。1週間−1ヶ月に1回の投与を、経過を見ながら施すことが好ましい。
本明細書中、「投与する」とは、本発明の人工組織などまたはそれを含む医薬を、単独で、または他の治療剤と組み合わせて投与することを意味する。本発明の人工組織は、以下のような治療部位(例えば、障害心臓など)への導入方法,導入形態および導入量が使用され得る。すなわち、本発明の人工組織の投与方法としては、例えば心筋梗塞、狭心症等で虚血性の障害を受けた心筋組織の障害部位への直接貼付、貼付後に縫合、挿入等の方法があげられる。組み合わせは、例えば、混合物として同時に、別々であるが同時にもしくは並行して;または逐次的にかのいずれかで投与され得る。これは、組み合わされた薬剤が、治療混合物としてともに投与される提示を含み、そして組み合わせた薬剤が、別々であるが同時に(例えば、人工組織などが直接手術によって提供され、他の薬剤は静脈注射によって与えられる場合)投与される手順もまた含む。「組み合わせ」投与は、第1に与えられ、続いて第2に与えられる化合物または薬剤のうちの1つを別々に投与することをさらに含む。
本明細書において「補強」とは、意図される生体の部分の機能を改善させることをいう。
本明細書において「指示書」は、本発明の医薬などを投与する方法または診断する方法などを医師、患者など投与を行う人、診断する人(患者本人であり得る)に対して記載したものである。この指示書は、本発明の診断薬、医薬などを投与する手順を指示する文言が記載されている。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ(ウェブサイト)、電子メール)のような形態でも提供され得る。
本明細書において「刺激応答性高分子」とは、ある高分子について、ある刺激に対して応答して、その刺激のある前とその刺激を受けた後との形状および/または性質が変化するものをいう。そのような刺激としては、光照射、電場印加、温度変化、pH変化、化学物質の添加などが挙げられるがそれに限定されない。刺激応答性高分子としては、例えば、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−アクリル酸)共重合体、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−メチルメタクリレート)共重合体、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−アクリル酸ナトリウム)共重合体、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−ビニルフェロセン)共重合体、γ線照射したポリ(ビニルメチルエーテル)(PVME)、ポリ(オキシエチレン)、核酸などの生体物質を高分子に組み込んだ樹脂、および上記高分子に対して架橋剤によって架橋し作製したゲルなどが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「温度応答性高分子」とは、温度に応答して、その形状および/または性質を変化させる性質を有する高分子をいう。温度応答性高分子としては、例えば、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−アクリル酸)共重合体、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−メチルメタクリレート)共重合体、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−アクリル酸ナトリウム)共重合体、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−ビニルフェロセン)共重合体、γ線照射したポリ(ビニルメチルエーテル)および上記高分子に対して架橋剤によって架橋し作製したゲルなどが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、例えば、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−メチルメタクリレート)共重合体、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−アクリル酸ナトリウム)共重合体および上記高分子に対して架橋剤によって架橋し作製したゲルなどが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書において使用される温度応答性高分子としては、例えば、水に対する上限臨界溶解温度または下限臨界溶解温度が0〜80℃であるものが挙げられるがそれらに限定されない。ここで、臨界溶解温度とは、形状および/または性質を変化させる閾値の温度をいう。本明細書では、好ましくは、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)が使用され得る。
例えば、γ線照射したポリビニルメチルエーテル水溶液は,室温では水和し膨潤しているが、温度が上がると脱水和して収縮する感熱性の高分子ゲルとなることが知られている。ゼリーのように均質透明なPVMEゲルを温めると白濁し透明性が変化する。多孔質構造のゲルを調製したり、繊維または粒子などの小さな形に成形すると高速で伸縮するようになる。このような多孔質構造をもつ繊維状PVMEゲルの場合、伸縮速度は1秒末満という速さであるといわれる(http://www.aist.go.jp/NIMC/overview/v27−j.html、特開2001−213992号および特開2001−131249号参照)。N−イソプロピルアクリルアミドゲル(すなわち、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド))もまた、温度応答性ゲルとして知られる。ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)に対して、疎水性のモノマーを共重合させると、形状および/または性質が変化する温度を低下させることができ、親水性のモノマーを共重合させると形状および/または性質が変化する温度を上げることができる。これを利用して、所望の刺激に応答した充填剤を調製することができる。このような手法は、他の温度応答性高分子に対しても適用することができる。
本明細書において「タンパク質分解酵素」とは、当該分野における通常の意味で用いられ、タンパク質の分解を触媒する酵素をいう。
本明細書において「規則的配列」フィルムとは、ある一定の規則によって配列される構造を有するフィルムをいう。このようなフィルムには、ハニカム構造、ライン構造、ドット構造などが挙げられるがそれらに限定されない。本発明の人工組織は、好ましくは、このような規則的配列を用いて生産される。このようなフィルムは、生分解性材料(例えば、ポリ−L−乳酸(PLLA)など)を用いて構成することができる。伸展性のフィルムを作製するためには、ポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)などを使用することができる。
本明細書において「ハニカム」とは、蜂の巣状の構造をいい、代表的には、六角形が連続した形状を示す。従って、多孔質ハニカム構造体とは、上下2枚のフィルムが重ね合わさったものであり、1つの細孔が6本の支柱で支えられた2層構造を有しており、その支柱は中心でくびれた構造をいう。これは、キャストした高分子溶液表面に、溶媒の蒸発潜熱によって空気中の水分が結露し、六方細密充填した水滴が細密充填した結果、水滴以外の空間で高分子の析出が生じるためと考えられている。
細胞工学、組織工学等において細胞培養を行う場合、細胞の足場となる基材が必要であることが多く、細胞との相互作用において細胞は最良表面の化学的な性質のみならず微細な形状によっても影響を受けることが知られている。細胞の機能制御を目指すとき、細胞と接触する材料表面の化学的性質および細胞の微細な構造の双方の設計が重要となる。ハニカム構造を有する多孔性フィルムではハニカムパターンが細胞接着面を提供し、多孔質構造が細胞の支持基盤へのアクセス、栄養の供給ルートとなることが示されている。従って、本発明において、このようなハニカム構造を利用することが好ましい。
このハニカム構造フィルムをベースに細胞を組織化すれば、その1つの利用方法として人工臓器または人工組織が提供される。人工臓器または人工組織等にしたときには体内に吸収される可能性があることから、この基材は長期的には生体内へ吸収されることが望ましい。これまでのハニカム構造を与えるのに適切な材料であって細胞培養に要する時間は安定に構造を維持し、それ以上では分解するような生分解性材料から作られたものは、例えば、特開2001−157574号、特開2002−335949号などに記載されている
特開2001−157574号には、生分解性ポリマーが50〜99w/w%および両親媒性ポリマーが50〜1w/w%からなるポリマーの疎水性有機溶媒溶液を、相対湿度50〜95%の大気下で基板上にキャストし、この有機溶媒を徐々に蒸散させると同時に該キャスト液表面で結露させ、該結露により生じた微小水滴を蒸発させることで得られるハニカム構造体、並びに該ハニカム 構造体からなるフィルムが開示されている。また、特開2002−335949号には、この方法で作製したハニカム 構造を有するフィルムを用いて、生体組織に類似した秩序だった細胞の三次元集合体の形成することができることが記載されている。
本発明において用いられるフィルムは、生分解性かつ両親媒性を有する単独のポリマーまたは生分解性ポリマーと両親媒性ポリマーとを含むポリマー混合物の疎水性有機溶媒溶液を基板上にキャストし、該有機溶媒を蒸散させると同時にこのキャスト液表面で結露させ、該結露により生じた微小水滴を蒸発させることにより得られる。
本発明では、生分解性かつ両親媒性を有する単独のポリマーを使用してもよいし、あるいは、生分解性を有するポリマーと両親媒性を有するポリマーから成る複数のポリマーの混合物を使用してもよい。両親媒性ポリマーは、製膜時に結露した水滴の安定化効果を有することから好ましいがそれに限定されない。
本発明で用いることができる生分解性ポリマーとしては、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペートなどの生分解性脂肪族ポリエステル、並びにポリブチレンカーボネート、ポリエチレンカーボネート等の脂肪族ポリカーボネート等が、有機溶媒への溶解性の観点から好ましい。中でも、ポリ乳酸、ポリカプロラクトンが入手の容易さ、価格等の観点から望ましい。
本発明で用いることができる両親媒性ポリマーとしては、細胞培養基材として利用することを考慮すると毒性のないことが好ましく、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロック共重合体、アクリルアミドポリマーを主鎖骨格とし、疎水性側鎖としてドデシル基と親水性側鎖としてラクトース基或いはカルボキシル基を併せ持つ両親媒性ポリマー、或いはヘパリンやデキストラン硫酸、核酸(DNA、RNAなど)などのアニオン性高分子と長鎖アルキルアンモニウム塩とのイオンコンプレックス、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン等の水溶性タンパク質を親水性基とした両親媒性ポリマー等を利用することが望ましい。生分解性かつ両親媒性を有する単独のポリマーとしては、例えば、ポリ乳酸−ポリエチレングリコールブロック共重合体、ポリε−カプロラクトン−ポリエチレングリコールブロック共重合体、ポリリンゴ酸−ポリリンゴ酸アルキルエステルブロック共重合体などが挙げられる。
本明細書中で使用される場合、用語「障害心臓」および「障害心筋層」とは、障害(例えば、虚血性障害が挙げられるが、これに限定されない)を受けた心臓および心筋層を指す。そのような虚血性障害としては、心筋梗塞、狭心症等が挙げられるが、これらに限定されない。
本明細書において「三次元化促進因子」とは、細胞シートを構成した後、そのようなシートが三次元方向に生物学的結合することを促進させる因子をいう。そのような因子としては、代表的には、細胞マトリクスの分泌を促進するような因子が挙げられる。そのような三次元化促進因子としては、例えば、アスコルビン酸またはその誘導体(例えば、アスコルビン酸2リン酸、アスコルビン酸1リン酸、L−アスコルビン酸ナトリウムなど)などが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、このような三次元化促進因子は、適用が意図される部分の細胞外マトリクスの組成成分および/またはその量に類似するように細胞外マトリクスの分泌を促す成分(単数または複数)であることが好ましい。そのような三次元化促進因子が複数の成分を含む場合は、そのような複数成分は、適用が意図される部分の細胞外マトリクスの組成成分および/またはその量に類似するように組成され得る。
本明細書において「アスコルビン酸またはその誘導体」には、アスコルビン酸およびその類似体(例えば、アスコルビン酸2リン酸、アスコルビン酸1リン酸など)、およびその塩(例えば、ナトリウム塩、マグネシウム塩など)が含まれる。
(発明を実施するための最良の形態)
以下に本発明の最良の形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。
以下に本発明の最良の形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。
1つの局面において、本発明は、規則的配列構造(好ましくは、ハニカム構造)の支持体と、細胞を含む、人工組織を提供する。本発明は、このような規則的配列構造を有する支持体の存在という培養条件下、生物学的結合が改善された人工組織を提供することができるという効果を有する。このような人工組織は、細胞および支持体、ならびに必要に応じて他の成分(例えば、細胞外マトリクスなど)から構成される。このように、本発明の人工組織は、生物学的結合が改善されていることから、従来の人工組織よりも定着性が良いなどの利点がある。この人工組織は、心臓再生のために特に用いられる。本発明の人工組織は、規則的配列を有する支持体であれば、どのようなものを使用することができ、ハニカム構造に限定されないことが理解される。
1つの好ましい実施形態において、本発明の人工組織が含む細胞は、幹細胞であっても分化細胞であっても両方を含んでいてもよい。好ましい実施形態では、本発明の人工組織人工組織が含む細胞は、間葉系細胞である。理論に束縛されないが、間葉系細胞が好ましいのは、間葉系細胞自体が種々の組織と適合性が優れているからであり、種々の組織へ分化する能力を有し得るからである。また、間葉系の細胞は、供給源が豊富であるからである。そのような間葉系細胞は、間葉系幹細胞であっても間葉系の分化細胞であってもよい。
本発明において使用される間葉系細胞としては、例えば、骨髄、脂肪細胞、滑膜細胞、などが挙げられるがそれらに限定されない。
より好ましい実施形態では、本発明において使用される細胞は、筋芽細胞に由来することが好ましい。筋芽細胞を用いた人工組織が規則的構造を有する支持体とともに構成されることによって、生物学的結合(例えば、電気的結合、配向化など)が強化されるということは、従来予測不可能であったことであり、驚くべき効果であるといえる。筋芽細胞が好ましい理由としては、例えば、供給源が豊富であることが挙げられるがそれに限定されない。
さらに好ましい実施形態では、本発明において使用される細胞は、骨格筋芽細胞である。骨格筋芽細胞は、豊富に存在することから容易に入手可能な供給源として好ましい。また、骨格筋芽細胞は、本発明において初めて実証されるように、心臓を含む種々の臓器に対する移植可能性が示されたことから、実際の医療に使用可能である。
別の実施形態において、本発明において使用される細胞は、線維芽細胞であってもよい。線維芽細胞もまた、人工組織において三次元方向に生物学的結合を有し得るからである。線維芽細胞を用いた人工組織は、心臓への適用の他、他の用途(例えば、整形外科用)にも用いることができる。
別の実施形態において、本発明において使用される細胞は、滑膜細胞であってもよい。滑膜細胞もまた、人工組織において、顕著に三次元方向の生物学的結合を有する。従って、このような滑膜細胞から構成される人工組織もまた、心臓用途に使用することができる。あるいは、このような滑膜細胞から構成される人工組織は、心臓の他、心臓用途以外の用途、例えば、骨、軟骨、関節、筋肉などの補強に用いることができる。
別の実施形態において、本発明において使用される細胞は、幹細胞に由来する。幹細胞に由来する細胞から構成される人工組織は、所望の方向に分化させた細胞を利用することができるからである。従って、心臓に用いる場合は、心臓の分化細胞への分化の方向に分化させた幹細胞を用いることが好ましくあり得る。そのような分化の手法としては、LIFを用いて分化させることなどが挙げられるがそれらに限定されない。
好ましい実施形態において、本発明において使用される細胞は、人工組織が適用される被験体に由来する細胞であることが有利である。このような場合、本明細書において使用される細胞は自己細胞ともいわれるが、自己細胞を用いることによって、免疫拒絶反応を防ぐかまたは低減することができる。
あるいは、別の実施形態では、本発明において使用される細胞は、人工組織が適用される被験体に由来しない細胞であってもよい。この場合、好ましくは、免疫拒絶反応を防ぐ手段が講じられることが好ましい。
細胞の由来は、特異的なマーカーを用いて行うことができる。そのようなマーカーのレベルを確認する方法としては、例えば、PCR、ノーザンブロッティングなどのmRNA発現量を確認するブロッティング、あるいはウェスタンブロッティングなどの発現タンパク質の量を確認するブロッティングなどが挙げられる。PCRを利用する場合、上述の非成体心臓マーカーのうち、特異的なプライマーを当該分野において周知の方法によって(例えば、市販のPCRプライマー設計装置を利用する)設計し、対象となる組織または細胞からmRNAを含む試料を抽出しcDNAを当該分野において周知の手法によって調製し、これを用いて特異的発現の検出を可能にするPCRサイクルを行い、その後増幅された産物を例えば電気泳動およびその後の染色によって確認することによって発現レベルを測定することができる。ノーザンブロッティングの場合は、上述の非成体心臓マーカーの核酸配列全部または一部(特に、特異的検出を可能にするもの)をプローブとして調製し、対象となる組織または細胞からmRNAを含む試料を抽出し電気泳動によって分離した後、上述のプローブを用いて発現を検出することができる。マーカーがタンパク質発現を伴う場合は、それに対する特異的抗体を調製し、その抗体を用いてウェスタンブロッティングなどの抗原抗体反応を用いることによって発現を検出することができる。
1つの実施形態において、本発明の人工組織は、少なくとも単層の細胞層または複数の細胞層によって構成されていてもよい。好ましい実施形態において、本発明の三次元構造体は、複数層の細胞層を含む。好ましくは、この複数層の細胞層は、互いに生物学的に結合していることが有利である。生物学的に結合とは、この場合、細胞外マトリクスを介した物理的結合、あるいは、拍動などの電気的結合であることが好ましいが、それらの結合は、所望とされる部位に応じて変動する。心臓への移植が意図される場合、このような生物学的結合は、通常電気的結合を含む。あるいは、このような生物学的結合は、スキャフォルドなしでの結合という側面で記載することができる。電気的結合を有することによって、電気信号が重要な役割を果たす場面(例えば、心臓、神経など)において、より適合性の人工組織を提供することが可能である。
好ましい実施形態では、本発明の人工組織は、配向化されていることが有利である。配向化されることによって、例えば、筋肉細胞であれば、収縮方向が同方向に向くことから、収縮組織として最大の収縮力を発揮することができるという効果がもたらされるからである。
好ましい実施形態では、本発明の人工組織を構成する支持体は、生体分解性の材料から作製される。生体分解性の材料を有することによって、移植後に正常な組織または臓器となることが容易となるからである。
好ましい実施形態では、本発明の人工組織を構成する支持体は、両親媒性物質を有する。両親媒性物質を有することによって、人工組織中の細胞と支持体との結合が安定になるからである。好ましくは、この両親媒性物質は、両親媒性ポリアクリルアミドであり得る。
好ましい実施形態では、支持体は、非両親媒性ポリマーと両親媒性ポリマーとを含むポリマー混合物、および単独の両親媒性ポリマーからなる群より選択される材料で作製される。
本発明で用いられ得る非両親媒性ポリマーとしては、例えば、ポリ乳酸、グリコール酸−乳酸共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレンアジペートおよびポリブチレンアジペートのような生分解性脂肪族ポリエステル;ならびにポリブチレンカーボネートおよびポリエチレンカーボネートのような生分解性脂肪族ポリカーボネートなどが、好ましい。有機溶媒への溶解性が有利であるからである。中でもポリ乳酸、ポリカプロラクトンなどが、入手の容易さおよび価格などの観点から好ましい。
本発明において使用される非両親媒性ポリマーは、ポリ(1,2−ブタジエン)であってもよい。
両親媒性ポリマーとしては、細胞培養基材として利用することを考慮すると、細胞毒性のないことが好ましく、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロック共重合体、アクリルアミドポリマーを主鎖骨格とし、疎水性側鎖としてドデシル基および親水性側鎖としてラクトース基またはカルボキシル基を有する両親媒性ポリマー、またはアニオン性高分子(例えば、ヘパリン、デキストラン硫酸、DNAまたはRNAのような核酸)と長鎖アルキルアンモニウム塩とのイオン複合体および水溶性タンパク質(例えば、ゼラチン、コラーゲン、アルブミンなど)などを挙げることができる。
本発明において使用される生分解性の両親媒性ポリマーは、ポリ乳酸−ポリエチレングリコールブロック共重合体、ポリε−カプロラクトン−ポリエチレングリコールブロック共重合体およびポリリンゴ酸−ポリリンゴ酸アルキルエステルブロック共重合体などを挙げることができるがそれらに限定されない。
本発明で用いられる支持体は、ポリウレタン、アクリル系ポリマー、メタクリル系ポリマーおよびスチレン系エラストマーなどの熱可塑性エラストマーを含んでいてもよいことが理解される。
特に好ましくは、好ましくは、そのような支持体は、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ−L−乳酸(PLLA)などで作製され得る。
別の好ましい実施形態において、本発明の人工組織を構成する支持体は、面状の形態を有し、前記細胞は該面状の支持体の両面に存在することが有利である。このような組織は、本明細書において「両面培養」組織ともいう。本発明は、このような両面培養をした人工組織を提供することによって、生物学的結合が改善されたという効果が提供される。
好ましい実施形態において、本発明の人工組織は、さらに細胞外マトリクスまたはケモカインを含んでいても良い。含まれることが好ましい細胞外マトリクスまたはケモカインとしては、例えば、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、むlち-CSF(IL−3)、白血病抑制因子(LIF)、c−kitリガンド(SCF)、免疫グロブリンファミリーメンバー、CD2、CD4、CD8、CD44、コラーゲン、エラスチン、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、フィブロネクチン、ラミニン、シンデカン、アグリカン、インテグリンファミリーメンバー、インテグリンα鎖、インテグリンβ鎖、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、セレクチン、カドヘリン、ICAM1、ICAM2、VCAM1、血小板由来増殖因子(PDGF)、表皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、および血管内皮増殖因子(VEGF)などを挙げることができるがそれらに限定されない。
本発明において用いられる支持体は、基本的に、移植部位によって異なるが、例示すると以下のとおりである:ラット心臓5mm角、ラット背部1cm角、ヒト心臓:10cm角程度、ラット心臓1cm角程度。
本発明の人工組織は、臨床適用できる組織強度を有することが好ましい。そのような強度は、引っ張り試験で試験することができる。そのような強度としては、例えば、臨床適用が意図される部分の組織強度の少なくとも80%以上である、好ましくは、少なくとも90%以上、さらに好ましくは、少なくとも100%以上であり得る。
本発明の人工組織が意図する対象としては、例えば、心臓、骨、軟骨、腱、靭帯、肝臓、腎臓および筋肉などを挙げることができるがそれらに限定されない。
好ましい実施形態において、本発明の人工組織は、三次元方向に生物学的に結合されていることが有利である。1つの好ましい実施形態では、本発明の人工組織は、心臓に用いられ、その場合、心臓の拍動運動に耐え得るような構造をしていることが有利である。拍動運動に耐え得る人工組織は、通常、電気的結合を有していることが好ましい。より好ましくは、三次元方向すべて方向において、生物学的結合(例えば、細胞間の情報伝達、細胞外マトリクスの相互結合、配向、電気的結合など)があることが有利である。
本発明の人工組織は、医薬として提供されていてもよい。あるいは、本発明の三次元構造体は、医師などが医療現場で調製してもよく、または、医師が細胞を調製した後、その細胞を第三者が培養して三次元構造体として調製し、手術に用いてもよい。この場合、細胞の培養は、医師でなくても、細胞培養の当業者であれば実施することができる。従って、当業者であれば、本明細書における開示を読めば、細胞の種類および目的とする移植部位に応じて、培養条件を決定することができる。
別の局面において、本発明は、人工組織を生産するための方法を提供する。この方法は、A)ハニカム状の支持体を提供する工程;B)細胞を、該支持体に配置する工程;およびC)該細胞が人工組織を形成するに十分な時間、該細胞および該支持体の混合物を培養する工程、を包含する。ここで用いられる細胞は、どのような細胞であってもよい。したがって、使用される細胞、支持体などは、本明細書において説明される任意の形態を採ることができることが理解される。細胞を提供する方法は、当該分野において周知であり、例えば、組織を摘出してその組織から細胞を分離する方法、あるいは、血液細胞などを含む体液から細胞を分離する方法、あるいは、細胞株を人工培養によって調製する方法などが挙げられるがそれらに限定されない。この人工組織は、心臓再生のために特に用いられる。
好ましい実施形態において、本発明の方法の培養工程では、三次元化促進因子を含む培地が使用される。このような三次元化促進因子としては、例えば、アスコルビン酸またはその誘導体などが挙げられ、例えば、アスコルビン酸1リン酸、アスコルビン酸2リン酸、L−アスコルビン酸などが挙げられるがそれらに限定されない。
本発明において使用される培地は、目的とする細胞が増殖する限りどのような培地であってもよいが、例えば、DMEM、MEM、F12、DME、RPMI1640、MCDB104、199、MCDB153、L15、SkBM、Basal培地などを適宜グルコース、FBS(ウシ胎仔血清)、抗生物質(ペニシリン、ストレプトマイシンなど)を加えてたものが使用され得る。
本発明の方法において使用される容器は、所望の人工組織のサイズを収容するに十分な底面積を有する限り、当該分野において通常使用されるような容器を用いることができ、例えば、シャーレ、フラスコ、型容器など、好ましくは底面積が広い(例えば、1cm以上)容器が使用され得る。その容器の材質もまた、どのような材料を利用してもよく、ガラス、プラスチック(例えば、ポリスチレン、ポリカーボネートなど)、シリコーンなどが用いられ得るがそれらに限定されない。
好ましい実施形態では、本発明の人工組織生産法に用いられる三次元化促進因子は、アスコルビン酸2リン酸を含む。従来アスコルビン酸を細胞培養に用いることは知られていたが、アスコルビン酸2リン酸を意図的に加えて組織形成を行ったという報告はなされていない。本発明では、アスコルビン酸2リン酸を一定量加えることによって、生産される細胞外マトリクスが多すぎず、その組成も移植可能にする程度となり、従って、細胞と細胞外マトリクスとの比率が移植可能な程度の強度などを保持させることを達成したという予想外の効果が奏される。
好ましい実施形態では、本発明において使用されるアスコルビン酸2リン酸は、通常少なくとも0.01mMで存在し、好ましくは少なくとも0.05mMで存在し、さらに好ましくは少なくとも0.1mMで存在する。より好ましくは少なくとも0.2mMの濃度で存在することが好ましい。さらに好ましくは、0.5mMの濃度、さらにより好ましくは1.0mMの濃度で存在することが好ましい。
あるいは、本発明において使用されるアスコルビン2リン酸は、アスコルビン1リン酸と共存して用いられる。この場合、使用されるアスコルビン酸1リン酸とアスコルビン酸2リン酸とは、特定の比率で用いることが好ましくあり得る。そのような好ましい比率としては、例えば、1:10〜10:1の範囲内が挙げられる。あるいは、好ましい比率としては、アスコルビン酸1リン酸のモル量がアスコルビン酸2リン酸よりも少ないという関係を挙げることができる。
別の実施形態において、本発明において使用される三次元化促進因子は、アスコルビン酸2リン酸を含む。アスコルビン酸2リン酸を明示的に加えて組織形成を行ったという報告はなされていない。本発明では、アスコルビン酸2リン酸を一定量加えることによって、生産される細胞外マトリクスが多すぎず、その組成も移植可能にする程度となり、従って、細胞と細胞外マトリクスとの比率が移植可能な程度の強度などを保持させることを達成したという予想外の効果が奏される。
好ましい実施形態では、アスコルビン酸1リン酸のモル量がアスコルビン酸2リン酸よりも少ない場合、本発明において使用されるアスコルビン酸2リン酸は、通常少なくとも0.01mMで存在し、好ましくは少なくとも0.05mMで存在し、さらに好ましくは少なくとも0.1mMで存在する。より好ましくは少なくとも0.2mMの濃度で、さらに好ましくは少なくとも0.5mMの濃度で存在することが好ましい。さらにより好ましくは1.0mMの濃度で存在することが好ましい。
ある好ましい実施形態では、本発明において使用される三次元化促進因子は、アスコルビン酸1リン酸またはその塩、アスコルビン酸2リン酸またはその塩およびL−アスコルビンまたはその塩を含む。
本発明の人工組織生産法において使用される容器は、温度応答性高分子でコーティングされることが好ましい。あるいは、別の好ましい実施形態では、この容器は、ハニカム構造をした足場が敷かれていることが好ましいがそれに限定されない。ハニカム構造の利用については、例えば、田中賢ら、「新しいバイオメディカルインターフェイス」化学工業2002年12月号 901−906、化学工業社に記載されており、これを参照することができる。
本発明の人工組織生産法において使用され得る温度応答性高分子は、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)を含む。
好ましい実施形態では、本発明の方法は、a)温度応答性高分子を含む、ハニカム構造を有する支持体上で細胞を培養する工程;b)培養温度をその温度応答性高分子の臨界溶解温度の外側にする工程(この場合、上限がある場合、上限以上であり、下限がある場合下限以下);およびc)培養した細胞を人工組織として剥離する工程を含む。ここで、細胞は、例えば、間葉系の細胞(例えば、筋芽細胞、骨格筋芽細胞、滑膜細胞、線維芽細胞)などであり得る。好ましくは、臨界溶解温度の外側とは、水に対する上限臨界溶解温度または下限臨界溶解温度が0〜80℃である。温度応答性高分子を含む支持体は、好ましくは、そのような温度応答性高分子がグラフティングされている。
好ましい実施形態では、本発明の人工組織の生産法において剥離またはその前に、タンパク質分解酵素による処理がなされないことが好ましい。従来の細胞シートなどの調製方法では、タンパク質分解酵素による処理を行うことによって剥離を容易にしていたが、これにより細胞シートが損傷を受け、三次元構造体とはなっていなかったという問題があった。本発明は、上記のような方法を用いることによって、タンパク質分解酵素による処理を省くことができ、その結果、損傷のない三次元構造体が提供されたという効果をもたらす。
好ましい実施形態では、温度応答性高分子は、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)である。ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)は、20℃強という下限臨界溶解温度を有することから、この場合、通常の培養温度(例えば、37℃前後)から培養液を20℃前後にすることによって、容易に三次元構造体を調製することができるという効果がもたらされる。これによって、移植手術に適用可能な、成体心筋以外に由来する細胞から構成される三次元構造体が提供された。これにより、従来心臓移植しか助かる道の無かった数多くの疾患(例えば、拡張型心筋症など)にとって、実質的に臓器移植以外の手法が提供されるという従来の方法では不可能であった治療法を提供する。
別の局面において、本発明が提供する人工組織は、培養時にディスパーゼ、トリプシン等で代表されるタンパク質分解酵素による損傷を受けていないものである。そのため、基材から剥離された人工組織は、細胞、細胞間のタンパク質(例えば、細胞外マトリクス)が保持された強度ある細胞塊として回収することができ、心筋細胞特有の収縮弛緩機能、細胞間の電気的結合、および配向性等の機能を何ら損なうことなく保有している。また、三次元構造体においては、例えば、結合組織からなる膜形成、血管内皮細胞による管腔形成等の生体組織様の幾つかの特徴ある細胞の配列も認められる。トリプシン等の通常のタンパク質分解酵素を使用した場合、細胞、細胞間のデスモソーム構造、および細胞、基材間の基底膜様タンパク質等は殆ど保持されておらず、従って細胞は個々に5分かれた状態となって剥離される。その中でタンパク質分解酵素であるディスパーゼに関しては、細胞、基材間の基底膜様タンパク質を殆ど破壊してしまうものの、デスモソーム構造については10℃〜60℃に保持した状態で剥離させることができることで知られているが、得られる三次元構造体および人工組織は強度の弱いものである。それに対し、本発明の三次元構造体および人工組織は、デスモソーム構造、基底膜様タンパク質が共に80%以上残存された状態のものであり、その結果上述したような種々の効果を得ることができるようになる。細胞培養支持体において基材の被覆に用いられる温度応答性ポリマーは、水溶液中で上限臨界溶解温度または下限臨界溶解温度0℃〜80℃、より好ましくは20℃〜50℃を有する。上限臨界溶解温度または下限臨界溶解温度が80℃を越えると細胞が死滅する可能性があるので好ましくない。また、上限臨界溶解温度または下限臨界溶解温度が0℃より低いと一般に細胞増殖速度が極度に低下するか、または細胞が死滅してしまうため、やはり好ましくない。
本発明に用いる温度応答性重合体はホモポリマー、コポリマーのいずれであってもよい。このような重合体としては、上述のほかに、例えば、特開平2−211865号公報に記載されいる重合体が挙げられる。具体的には、例えば、以下のモノマーの単独重合または共重合によって得られる。使用し得るモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N一(若しくはN,N一ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、またはビニルエーテル誘導体が挙げられ、コ重合体の場合は、これらのうちの任意の2種以上を使用することができる。さらには、上記モノマー以外のモノマー類との共重合、重合体同士のグラフトまたは共重合、あるいはホモポリマー、コポリマーの混合物を用いてもよい.また、重合体本来の性質を損なわない範囲で架橋することも可能である。被覆を施される基材としては、通常細胞培養に用いられるガラス、改質ガラス、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等の化合物を初めとして、一般に形態付与が可能である物質、例えば、上記以外の高分子化合物、セラミックス類など全て用いることができる。
温度応答性重合体の支持体への被覆方法は、特に制限されないが、例えば、特開平2−211865号公報に記載されている方法に従ってよい。すなわち、被覆は、基材と上記モノマーまたは重合体を、電子線照射(EB)、γ線照射、紫外線照射、プラズマ処理、コロナ処理、有機重合反応のいずれかにより、または塗布、混線等の物理的吸着等により行うことができる。
本発明において、細胞の培養は上述のようにして製造された細胞培養支持体上(例えば、細胞培養皿)で行われる。培地温度は、基材表面に被覆された前記重合体が上限臨界溶解温度を有する場合はその温度以下、また前記重合体が下限臨界溶解温度を有する場合はその温度以上であれば特に制限されない。しかし、培養細胞が増殖しないような低温域、あるいは培養細胞が死滅するような高温域における培養が不適切であることは言うまでもない。温度以外の培養条件は、当該分野において周知の技術を用いることができ、特に制限されるものではない。例えば、使用する培地については、公知のウシ胎仔血清(FCS)等の血清が添加されている培地でもよく、また、このような血清が添加されていない無血清培地でもよい。
本発明の方法においては、上記方法に従い、人工組織の使用目的に合わせて培養時間を設定すれぱよい。培養した人工組織を支持体材料から剥離回収するには、培養された人工組織もしくは三次元構造体をそのまま、またはは必要に応じ高分子膜に密着させ、細胞の付着した支持体材料の温度を支持体基材の被覆重合体の上限臨界溶解温度以上若しくは下限臨界溶解温度以下にすることによって、培養された細胞シートまたは三次元構造体を単独で、若しくは高分子膜に密着させた場合はそのまま高分子膜とともに剥離することができる。なお、人工組織を剥離することは細胞を培養していた培養液において行うことも、その他の等張液において行うことも可能であり、目的に合わせて選択することができる。また、必要に応じ細胞シートまたは三次元構造体を密着させる際に使用する高分子膜としては、例えば、親水化処理が施されたポリビニリデンジフルオライド(PVDF)、ポリプロピレン、ポリエチレン、セルロースおよびその誘導体、キチン、キトサン、コラーゲン、和紙等の紙類、ウレタン、スパンデックス等のネット状・スリキネット状高分子材料を挙げることができる。ここで、ネット状、ストッキネット状高分子材料であれば人工組織は自由度が増し、収縮弛緩機能をさらに増大させることができる。本発明における細胞の人工組織の製法は特に限定されるものではないが、例えば、上記した高分子膜に密着した培養細胞シートを利用することで製造することができる。
人工組織を高収率で剥離、回収する目的で、細胞培養支持体を軽くたたいたり、ゆらしたりする方法、さらにはピペットを用いて培地を撹拌する方法等を単独で、あるいは併用して用いてもよい。加えて、必要に応じて人工組織は、等張液等で洗浄して剥離回収してもよい。基材から剥離された人工組織、または三次元構造体は、特定方向に引き伸ばすことで、さらに配向された細胞シートまたは三次元構造体となる。その引き伸ばす方法は、何ら制約されるものではないが、テンシロンなどの引っ張り装置を用いる方法、あるいは、単純にピンセットで引っ張る方法等が挙げられる。配向させることで、細胞シートおよび三次元構造体自身の動きに方向性を持たせることができ、このことは、例えば、特定の臓器の動きに合わせて、人工組織あるいは三次元構造体を重ね合わせることを可能とするため、人工組織あるいは三次元構造体を臓器に適用する場合に効率が良い。
上述の方法により得られた人工組織は、従来の方法では得られなかった程度の生物学的結合を有している。得られた人工組織は従来技術では断絶された基底膜を保持している為、心臓、骨、筋肉、腕、肩、足、その他のいかなる臓器等、生体内のどこに埋入しても、周囲の組織に良く生着し、それぞれの場合で脈を打ち続ける。理論に束縛されないが、これは、生体内に埋入された人工組織あるいは三次元構造体が、生体組織に生着すると同時に、収縮弛緩することで低酸素状態となり、それを補うために生体組織側より積極的に血管内皮細胞が進入し、血管が形成され、血液を介して酸素のみならず栄養分も十分に補給された結果と考えられる。以上より、生体内に埋入された人工組織により、生体内で機能性組織が形成されることとなる。それらは移植用等の臨床応用が強く期待される。具体的には、本発明の人工組織を心臓の収縮力の弱まった部位に移植することで、心筋梗塞等の心疾患等に対する治療用用具として、使用され得る。
好ましい実施形態では、本発明の人工組織生産法では、培養した工程に続き、D)人工組織を剥離させ自己収縮させる工程、をさらに含む。剥離は、物理的な刺激(例えば、容器の角に棒などで物理的刺激を与えるなど)を行うことによって促進することができる。温度応答性高分子を用いる場合、その臨界溶解温度よりも高いまたは低い温度に環境を操作することによって、剥離を促進することができる。自己収縮は、このような剥離の後自然に起こる。自己収縮により、特に第三次元方向(シート上の組織に関する場合、二次元方向と鉛直な方向)の生物学的結合が促進される。このようにして製造されることから、本発明の人工組織は、三次元構造体という形態をとるといえる。
本発明の人工組織生産法では、十分な時間とは、目的とする人工組織の用途によって変動するが、好ましくは少なくとも3日間(例えば、3〜10日間)-+*を意味するが、それ以上であってもよく、それ以下であってもよい。3日間培養することによって、少なくとも心臓の補強に使用することができる程度の移植片を調製することができるからである。
本発明の人工組織生産法では、培養は、支持体上に細胞層が形成されるに十分な条件で行われる。そのような条件としては、例えば、温度として20℃〜45℃;湿度として95−100%;pHとしてpH6〜9(より好ましくは、6.5〜7.5);塩濃度として生理的濃度付近;培地としてDMEMおよびSkBM;などを挙げることができるがそれらに限定されない。より好ましくは湿度100%、pH7.3を挙げることができるがそれに限定されない。
別の実施形態において、本発明の人工組織生産法における培養は、培養は、前記細胞が前記支持体上に少なくとも1層の細胞層を形成し、その後、該支持体を反転させて該細胞が該支持体の該少なくとも1層の細胞層が形成された面の反対側の面にさらなる少なくとも1層の細胞層を形成させることによって達成される。このような方法によって、両面培養が達成される。これらを繰り返すことによって、多層化することも可能である。
本発明が提供する人工組織は、生物学的結合性が改善され、強度も改善されていることから、臓器移植のみに頼っていた疾患(例えば、難治性心疾患(心筋炎、肥大型心筋症、拡張相肥大型心筋症、拡張型心筋症など))にとっては、それ以外の汎用性のある治療法が提供されることになり、その有用性は計り知れない。
本発明が対象とする「疾患」は、組織に傷害がある任意の心疾患であり得る。そのような心疾患としては、心不全、心筋梗塞、心筋症などが挙げられる。本発明の併用療法は、組織傷害の再生を目的とする限り、心臓以外の臓器の傷害を再生するためにも適用され得る。特定の実施形態において、本発明の方法が対象とする疾患は、難治性心不全である。
本明細書において「心不全」とは、心機能不全、循環機能不全、収縮力減退など心臓自体に障害があって、全身の臓器へ必要な量および質の血液を循環し得なくなった状態をいう。心不全は、心筋梗塞、心筋症などの心臓疾患の末期の症状である。重症心不全とは、その程度が重症であるものをいい、末期心不全ともいう。
本明細書において「難治性心不全」とは、内科的治療、薬物治療では改善が困難な治療抵抗性心不全をいい、慢性心不全または末期的心不全とほぼ同義に用いられる。このような難治性心不全は、通常のジギタリス薬、利尿薬、ACE阻害薬などを用いるトリプルセラピー、β遮断薬を加えた薬物治療ではコントロールできない。これらの治療には、IABP(intra−aortic balloon pumping)またはPCPS(percutaneous cardiopulmonary support)などによる機械的循環補助、あるいは心臓移植を必要とすることから、簡便でかつ根本的な治療の開発が求められていた。特に、心臓移植は、ドナー不足が深刻であり、心臓移植適応除外症例(たとえば、高齢者、透析症例など)の場合は難治性心不全は大きな問題となっており、心臓移植代替治療が切望されている。
本明細書において「心筋梗塞」とは、冠状動脈の種々の病変による高度狭窄、閉塞によってその灌流領域に虚血性壊死が生じる疾患である。心筋梗塞の重傷度判定には、種々の分類がある。そのような分類としては、例えば、時間的経過による分類、形態学的分類(心筋層内範囲、部位、壊死の大きさなど)、心筋の壊死形態、梗塞後の心室再構築、血行動態的分類(治療、予後などに関連する)、臨床的重症度による分類などが挙げられる。ここで重症度が高いものを特に重症心筋梗塞という。
本明細書において「心筋症」とは、心筋の器質的および機能的な異常に起因する疾患の総称であり、高血圧、代謝異常症、虚血などの基礎疾患に続発する二次性心筋症、および見かけ上の基礎疾患なしに発症する突発性心筋症に分類される。病理的変化としては、心筋肥大、線維化、変性などが認められる。
本明細書において「拡張型心筋症」とは、左室の拡張を伴った左心室の機能不全をいい、「うっ血性心筋症」とも言われる。本明細書において「DCM」(dilated cardiomyopathy)と略することがある。拡張型心筋症では、収縮不全が伴い、慢性心不全をきたす。病因としては、たとえば、ウイルス感染、遺伝子変異など多様なものが挙げられる。一般的には、他に明らかな一義的原因のある虚血性心筋症、代謝異常などに伴う心筋疾患などの特定心筋疾患(従来、二次性心筋疾患と称されていた疾患)は含まれないとされるが、本発明の目的では、その治療効果が示される限り、本発明の範囲内に入る。大部分の患者は全体に収縮力低下を示すが孤立性に部分的壁運動異常が起こることもあるといわれる。通常はうっ血を伴う心不全徴候を示すが,低心拍出量状態を現す倦怠感を示すこともある。拡張型心筋症は、原因不明で、特発性の心筋疾患である。主な病態は心筋収縮力の低下であり、その結果左室内腔の拡大をきたす。左室拍出血液量の減少、左室拡張期圧の上昇などを起こす。発症は急性または潜行性であり、末期では難治性心不全を呈することが多い。病理組織学的には,びまん性にあるいは局所的に心筋組織の変性、線維化、萎縮が認められる。残存心筋細胞が肥大している例も多い。心不全のほか重篤な不整脈、血栓塞栓症をきたし,予後はきわめて不良である。診断上とくに有用なものは心エコー図であり、びまん性壁運動の低下、心室壁の菲薄化、心室内腔の拡大を証明する。これに冠動脈造影術にて冠動脈病変の否定、心筋生検(心筋バイオプシー)を行うことによりより確実に診断することができる。従って、本発明では、心臓超音波検査、心臓カテーテル検査、核医学検査(心筋シンチ検査)、心筋生検など当該分野において周知の検査手法を行うことによって拡張型心筋症の改善を確認することができる。
従来、拡張型心筋症では、ACE阻害薬、利尿薬、β遮断薬、強心薬などによる薬物療法、塩分・水分摂取制限、運動制限などの生活指導が行われているが、いずれも疾患そのもののに対する治療ではない。不整脈に対してはアミオダロンなどの抗不整脈投与が行われているが、これも対症療法としかなり得ない。血栓、塞栓にはワルファリンなどの抗凝固薬が使用されるが、これも対症療法に過ぎない。外科的療法として、ペースメーカー、埋め込み型除細動器、補助循環装置(バイパス)、心臓移植などが行われているが、心臓移植以外は根治的とはいえず、ドナー不足が深刻な現在、心臓移植にも限界が存在する。本発明の治療技術は、このような拡張型心筋症などにも有効であり、画期的な治療効果をもたらす。
本明細書において「肥大型心筋症」(hypertrophic cardiomyopathy;HCM)は、心筋の異常な肥厚および左心室肥大による拡張期コンプライアンスの低下を主な症状とする心筋症をいう。心収縮機能は通常保たれている。5年および10年の生存率は、それぞれ約90%、約80%であり、良好であるが、突然死の原因とされており、臨床上の問題となっていることから、その根治的治療が求められている。本発明の治療技術は、このような肥大型心筋症などにも有効であり、画期的な治療効果をもたらす。
本明細書において「拡張相肥大型心筋症」とは、肥大型心筋症のうち、経過中に心筋の線維化が進み、心室壁の菲薄化、収縮力の低下が生じ、心室内腔の拡張をきたして拡張型心筋症のような症状を呈したものをいう。きわめて予後不良といわれているが、無症状のものも多数存在しており、臨床上の問題となっている。従って、この拡張相肥大型心筋症もまた、根治的治療が求められている。本発明の治療技術は、このような拡張相肥大型心筋症などにも有効であり、画期的な治療効果をもたらす。
上述のような難治性心不全の従来の治療および診断法などについては、循環器疾患最新の治療2002−2003、篠山重威、矢崎義雄編、南江堂、2002などに記載されている。つい最近に刊行された循環器疾患最新の治療2002−2003、篠山重威、矢崎義雄編、南江堂、2002に記載されているように、難治性心不全については、根治的治療法がなく、本発明はこのような心疾患、特に難治性心不全に対して初めて治療法を提供したという効果を奏する。
本明細書において「予防」(prophylaxisまたはprevention)とは、ある疾患または障害について、そのような状態が引き起こされる前に、そのような状態が起こらないようにするか、そのような状態を低減した状態で生じさせるかまたはその状態が起こることを遅延させるように処置することをいう。
本明細書において「治療」とは、ある疾患または障害について、そのような状態になった場合に、そのような疾患または障害の悪化を防止、好ましくは、現状維持、より好ましくは、軽減、さらに好ましくは消長させることをいう。本明細書では「根治的治療」とは、病的過程の根源または原因の根絶を伴う治療をいう。従って、根治的治療がなされる場合は、原則として、その疾患の再発はなくなる。
本明細書において「予後」とは、予後の処置ともいい、ある疾患または障害について、治療後の状態を診断または処置することをいう。
好ましい実施形態において、本発明の人工組織は、大型である。大型とは、通常移植対象の部位を覆うに十分な面積を有することをいう。そのような面積は、例えば、少なくとも1cm以上であり、より好ましくは、少なくとも2cm以上であり、少なくとも3cm以上であり、少なくとも4cm以上であり、さらに好ましくは少なくとも5cm以上であり、あるいは少なくとも6cm以上であることがさらに好ましい。ハニカムなどの規則的構造を有する支持体を用いることによって、大型化は容易になる。
好ましい実施形態において、本発明の人工組織は、肉厚である。肉厚とは、通常移植対象の部位を覆うに十分な強度を有する程度の厚みをいう。そのような面積は、例えば、少なくとも約50μm以上であり、より好ましくは、少なくとも約100μm以上であり、少なくとも約200μm以上であり、少なくとも約300μm以上であり、さらに好ましくは少なくとも約400μm以上であり、あるいは少なくとも約500μmまたは約1mmであることがさらに好ましい。ハニカムなどの規則的構造を有する支持体を用いることによって肉厚化は容易になる。
本発明の人工組織は、無孔であることが好ましい。無孔の人工組織は、移植に適しているからである、特に、覆う必要がある袋状組織の欠損部位を補強するために好ましい。
別の実施形態において、本発明の人工組織は、可撓性である。可撓性であることによって、特に、運動性の臓器の補強に適切となる。そのような臓器としては、例えば、心臓、血管、筋肉などが挙げられるがそれらに限定されない。
別の実施形態において、本発明の人工組織は、伸縮性を有する。伸縮性を有することによって、伸び縮みする臓器、例えば、心臓、筋肉などにおける適用が可能となる。このような伸縮性は、従来の方法で調製された細胞シートなどでは達成されなかった性質である。好ましくは、本発明の人工組織は、心臓の拍動運動に耐え得る強度を有する。そのような拍動運動に耐え得る強度とは、例えば、少なくとも天然の心筋が有する強度の少なくとも約50%以上、好ましくは少なくとも約75%以上、より好ましくは少なくとも約100%以上であることが挙げられるがそれらに限定されない。ハニカムなどの規則的構造を有する支持体を用いることによって伸縮性を有する組織は容易に作製される。
好ましい実施形態において、本発明の人工組織は、三次元方向すべてに生物学的結合がある。従来の方法で調製された人工組織は、二次元方向には生物学的結合がある程度見られるものがあったが、三次元方向にあった組織は調製されていない。従って、本発明の人工組織は、このように三次元方向すべての生物学的結合を有することによって、どのような用途においても実質的に移植可能という性質がもたらされる。ハニカムなどの規則的構造を有する支持体を用いることによってこのような組織を作製することが容易になる。
本発明の人工組織において指標となる生物学的結合としては、細胞外マトリクスの相互結合、電気的結合、細胞間情報伝達の存在が挙げられるがそれらに限定されない。細胞外マトリクスの相互作用は細胞間の接着を顕微鏡で適宜染色して観察することができる。電気的結合は、電位を測定することによって観察することができる。特に、本発明のようなハニカムなどの規則的構造を有する支持体を用いることによって電気的結合が改善される。
好ましい実施形態において、本発明の人工組織は、臨床適用することができる組織強度を有する。臨床適用することができる組織強度は、適用が意図される部位に応じて変動する。そのような強度は、当業者が本明細書の開示を参照して、当該分野における周知技術を参酌することによって決定することができる。例えば、好ましい実施形態では、本発明において要求される強度は、臨床適用が意図される部分の組織強度の少なくとも80%以上である。好ましくは、90%以上、さらに好ましくは100%以上であり得る。
特定の実施形態に置いて、上記臨床適用が意図される部分としては、心臓、骨、関節、軟骨、腎臓、肝臓、腱、靭帯などが挙げられるがそれらに限定されない。
(治療および予防)
別の局面において、本発明は、動物の処置または予防するための方法を提供する。この方法は、A)ハニカム構造の支持体と細胞とを含む人工組織を、該動物の処置されるべき部分に配置する工程;およびB)該人工組織と該部分とが生物学的に結合するに十分な時間保持する工程、を包含する。ここで、処置されるべき部分への配置は、当該分野において周知技術を用いて行うことができる。ここで、十分な時間は、その部分と人工組織との組み合わせによって変動するが、当業者であれば、その組み合わせに応じて適宜容易に決定することができる。このような時間としては、例えば、術後1週間、2週間、1カ月、2カ月、3カ月、6カ月、1年などが挙げられるがそれらに限定されない。本発明では、人工組織は、好ましくは実質的に細胞およびそれに由来する物質のみを含むことから、特に術後に摘出する物質が必要であるというわけではないので、この十分な時間の下限は特に重要ではない。従って、この場合、長ければ長いほど好ましいといえるが、実質的には極端に長い場合は、実質的に補強が完了したといえ、特に限定する必要はない。この人工組織は、心臓再生のために特に用いられる。
別の実施形態において、本発明の治療または予防方法では、上記部分は、袋状臓器(例えば、心臓、肝臓、腎臓など)を含むことが好ましい。そのような袋状組織の補強には、巻くこと(損傷部分を覆うこと)が必要である。巻く用途で抵抗可能な人工組織は、本発明によって初めて提供された。従って、本発明の補強方法は、従来達成されなかった画期的な方法を提供することになる。
特に、本発明の治療または予防方法では、本発明の人工組織は、上記部分の伸縮に対して抵抗性を有する。このような伸縮の例としては、心臓の拍動運動、筋肉の収縮などが挙げられるがそれらに限定されない。
別の好ましい実施形態では、本発明の治療または予防方法では、本発明の人工組織は、生物学的結合(例えば、細胞外マトリクスの相互結合、電気的結合、細胞間の情報伝達など)を含む。この生物学的結合は、三次元方向すべてにおいて有されていることが好ましい。
別の好ましい実施形態において、本発明の治療または予防方法は、三次元化促進因子の存在下で細胞を培養して本発明の人工組織を形成する工程をさらに包含する。このような三次元化促進因子の存在下での培養を包含する方法の移植・再生技術は、従来提供されていなかった方法であり、このような方法によって、従来治療が不可能とされていた疾患(例えば、難治性心疾患(例えば、拡張型心筋症など))を治療することができるようになった。
好ましい実施形態において、本発明の治療または予防方法において、本発明の人工組織において使用される細胞は、移植が意図される動物に由来する細胞(すなわち、自己細胞)である。自己細胞の使用により、免疫拒絶反応などの有害な副作用を回避することができる。
本発明の治療または予防方法は、処置または予防は、心臓、肝臓、腎臓、腱、靭帯、骨、軟骨および筋肉からなる群より選択される臓器の疾患、障害または状態を処置または予防するためであるに用いられ得るが、それらに限定されない。
別の好ましい実施形態では、上記部分は心臓である。この心臓は、心筋症、心筋炎、肥大型心筋症、拡張相肥大型心筋症、拡張型心筋症などの疾患または障害を伴う。
一部の臓器について、特定の疾患、障害および状態は、その治療について根本的な治療が困難といわれるものがある(例えば、難治性心疾患など)。しかし、本発明の上述のような効果によって、従来では不可能とされていた処置が可能となり、根本的な治療にも応用することができることが明らかとなった。したがって、本発明は、従来の医薬で達成不可能であった有用性を有するといえる。
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、実施例のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
本実施例において、動物の取り扱いは、大阪大学において規定される基準を遵守し、動物愛護精神に則って実験を行った。
(実施例1:自己支持性ハニカムフィルムの心筋細胞培養基材への応用)
両親媒性高分子溶液を高湿度下で基板上にキャストすることにより、規則的配列(ハニカム構造、ライン構造、ドット構造等)を有するパターン化フィルムを作製することができる。このパターン化フィルムは、水面上で作製することにより、孔が貫通したハニカム構造を形成し、さらに自己支持性のフィルムにすることが可能である。これらの自己組織化的形成によるパターン化フィルムには様々な応用が期待されており、その一つとして細胞培養基材としての応用が考えられてきた。フィルムの両面への接着が可能であり、かつフィルムの両面における細胞間コミュニケーションの可能な自己支持性ハニカムフィルムを細胞培養基材とすることで、形態配向性を有する細胞の三次元的な組織形成と機能発現が期待できる。これまでに自己支持性フィルム上において肝細胞を用いた細胞培養が試みられ、細胞の接着、伸展の制御や機能発現の誘導を見出した。
本研究では生分解性高分子を含む自己支持性ハニカムフィルム上における心筋細胞培養を行い、フィルム両面における心筋細胞の挙動を観察し、培養基材としての可能性を検討した。さらに心筋細胞の伸展方向に配向性を与えることを試みた。生体内における心筋細胞は本来、繊維状の組織を形成し、同一方向への配向性を有する。そこで、本発明者らは自己支持性フィルム上の心筋細胞を心筋の本来の形状に近づけるため、培養機材となるハニカムフィルムを伸展させることによって、ハニカム構造に規則的な配向性を与え、そのフィルム上で心筋細胞を培養した。
(自己支持性フィルムの作製)
生分解性材料として使用されているポリ−L−乳酸(PLLA)とハニカム構造を形成しやすい両親媒性ポリアクリルアミド(Cap)(化1)の混合溶液を高湿度下で水面上にキャストし、自己支持性ハニカムフィルム、平膜を作製した(図1A)。また、伸展ハニカムフィルムを作製するために同じく生分解性材料である柔軟性の高いポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)(化1および図1A)とCapの混合溶液より自己支持性ハニカムフィルムを作製し、さらにこれを一方向に延伸させ、延伸ハニカムフィルムとした(図1B)。また、PCL含有の伸展させていない自己支持性ハニカムフィルム、平膜も作製した。
フィルム上における心筋細胞の培養作製した自己支持性フィルムの片面、両面にラット胎児の心筋細胞(1.0×106, 0.5×106cells/mL)を播種し、37℃、5% CO2インキュベーター中で培養した。その後、各フィルム上における心筋細胞の形態、挙動を観察、比較した。これらの細胞は、培養7日目にローダミン結合ファロイディンで染色し、蛍光顕微鏡観察を行った。
上記化学式において、1は、ポリL−乳酸(PLLA)を示し、2は、ポリ(ε−カプロラクトン;PCL)を示し、3は、両親媒性アクリルアミドポリマー(Cap)を示す。なお、nは任意の整数を示す。
以上の要領で、ハニカムフィルムとして、PLLA、PCLを試した。
ハニカムのサイズとして、5、10、15、20、25、30、40、50および60μmのものを使用した。
ハニカムは、貫通性および非貫通性のものを試した。
(結果・考察)
光学顕微鏡(図1A)、AFM観察の結果、水面上で作製した自己支持性のPCL含有ハニカムフィルムの孔径は、約4−5μmであり、同条件でのPLLA含有ハニカムフィルムの孔径が約5−6μmであるのに対して若干小さかった。PCL含有ハニカムフィルムを伸展させた結果、孔の大きさは、長軸、短軸それぞれ、約4−5μm、10μmとなり、フィルムの厚さは2倍程度の伸展ではほとんど変化がなかった。
作製したPLLAから成る自己支持性フィルム、平膜上に直径約10〜15μmのラット胎児心筋細胞を播種した結果、心筋細胞は、ハニカム構造の有無にかかわらず、24時間後には自己支持性フィルム上において接着、伸展し、個々に自己拍動する細胞が見られ、48時間後には連結した心筋細胞が同期して自己拍動を行った。また、自己支持性ハニカムフィルム上において細胞が同期して収縮をすると、フィルムも細胞の収縮に引っ張られて収縮する様子が観察された。ハニカムフィルムの両面に播種された細胞は全体が同期して拍動するのに対して、平膜の両面では拍動のリズムがずれている細胞が観察された。従って、心筋細胞はハニカムフィルム上で培養することによって両面での細胞間コミュニケーションが可能となることが示唆された。フィルム上の細胞の分布密度が低い時には、ハニカムフィルム上における細胞の伸展は平膜上の細胞よりも制限されていた。これより、ハニカム構造は細胞の伸展に多少の影響を与えることが示唆された。
上述の結果より、細胞の伸展方向を統一するために、PCLから成る自己支持性の伸展ハニカムフィルムに心筋細胞を播種した。同様にハニカムフィルム、平膜上においても、心筋細胞を培養した。その結果、PLLA上と同様に24時間後には接着、伸展し、個々に自己拍動を初めた細胞が観られた。さらに、伸展フィルム上における心筋細胞は、既に同一方向に配向した伸展を開始していた。48時間後には連結した細胞が同期して自己拍動しているのが観察された。PLLA含有自己支持性フィルム上での培養時と同様に、PCL含有自己支持性ハニカムフィルム上における心筋細胞の伸展は、平膜上よりも制御された(図1B)。さらに、伸展ハニカムフィルム上においては、伸展の大きさが制御されるだけでなく、伸展方向も制御され、ほとんどの心筋細胞は同一方向に伸展し、配向が統一されていた。伸展ハニカムフィルムの厚さは約1.5μmであることから、心筋細胞の伸展範囲は、わずかな凹凸でコントロールできることが示された。
細胞の蛍光観察の結果、伸展ハニカムフィルム上において細胞の分布密度が高く、細胞が多層になっていても、フィルムの形状に配向があれば上層にある細胞も配向性を有することが示された。
以上、ハニカム構造は心筋細胞の伸展に影響を与え、その機能を利用することによって、心筋細胞の伸展方向も制御することが可能であることが示された。また、心筋細胞は自己支持性ハニカムフィルムの両面に接着、伸展し、同期して拍動することができ、さらに両面の細胞間コミュニケーションが可能であるため、心筋細胞培養基材として利用できることが示唆された。
(実施例2:筋芽細胞の培養)
本実施例では、筋芽細胞を調製した。そのプロトコールは以下に示す。ブタまたはラット(日本動物株式会社)の下肢骨格筋を採取し、Trypsin、Collagenaseにて筋芽細胞を単離した。2回の継代を経た後、10細胞/ディッシュにて細胞を温度応答性培養皿に播種した。これを4日間培養し、低温にてブタ筋芽細胞の脱着した。
(実施例3:ハニカム上で筋芽細胞での人工組織生産(両面培養))
ラット(日本動物株式会社)下肢骨格筋を採取し、Trypsin、Collagenaseにて筋芽細胞を単離した。次に、ハニカムフィルム上面に細胞を播種した。1日後ハニカムフィルムを裏返し、裏面に細胞を播種した。その後、中空にて培養した。
(Vitroでの筋芽細胞培養)
貫通型
・2PCL(ポリε−カプロラクトン) 4μm ・4PCL 6μm ・11RB(ポリ1,2ブタジエン)4μm ・14RB 12μm
・0.9−5T 08−8 ・1−4−Hi 5μ−5 ・0.8−5−Hi 6−5μ
・1−5−Hi 5−4μ ・1−5 09−9 ・PCL 0.5・5 8−8μ0 ・1−5 08−8
非貫通型
・PCL 9−8 ・PCL 8−8 ・PCL6−8 ・PCL 7−8 ・PCL 6−7
・PCL6−8
ハニカムフィルムを利用した人工組織の作製を模式的に図2A上に示し、図2A下には、実際の写真を示す。
図2Bには、ハニカム上で筋芽細胞を培養した結果を示す。PCLを用いて、4μm、6μmおよび12μmの貫通型のハニカムフィルムを用いた結果を示す。細胞数は、剥がした後でも変動していなかった。
(実施例4:細胞の形態変化)
次に、本発明の人工組織について病理組織染色を行う。
<マッソントリクローム染色>
マッソントリクローム染色法は以下のとおりである:マッソントリクローム染色では、鉄ヘマトキシリンで核が染められ、その後に拡散速度の大きい小色素分子(酸フクシン、ポンソーキシリジン)が細胞の細網孔へ浸透し、次いで拡散速度の小さい大色素分子(アニリン青)が膠原線維の粗構造に入り込み青色に染め出す。
マッソントリクローム染色で使用される試薬
A)媒染剤
10%トリクロル酢酸水溶液 1容
10%重クロム酸カリウム水溶液 1容
B)ワイゲルトの鉄ヘマトキシリン液(使用時に1液と2液を等量混合)
1液
ヘマトキシリン 1g
100%エタノール 100ml
2液
塩化第二鉄 2.0g
塩酸(25%) 1ml
蒸留水 95ml
C)1%塩酸70%アルコール
D)I 液
1%ビーブリッヒスカーレット 90ml
1%酸性フクシン 10ml
酢酸 1ml
E)II液
リンモリブデン酸 5g
リンタングステン酸 5g
蒸留水 200ml
F)III液
アニリン青 2.5g
酢酸 2ml
蒸留水 100ml
G)1%酢酸水
マッソントリクローム染色法の手順
1.脱パラ、水洗、蒸留水
2.媒染(10〜15分)
3.水洗(5分)
4.ワイゲルトの鉄ヘマトキシリン液(5分)
5.軽く水洗
6.1%塩酸70%アルコールで分別
7.色出し、水洗(10分)
8.蒸留水
9.I 液(2〜5分)
10.軽く水洗
11.II液(30分以上)
12.軽く水洗
13.III液(5分)
14.軽く水洗
15.1%酢酸水(5分)
16.水洗(すばやく)
17.脱水、透徹、封入。
マッソントリクローム染色法では、膠原線維、細網線維、糸球体基底膜は、鮮やかな青に染まり、核は黒紫色に染まり、細胞質は淡赤色に染まり、赤血球は橙黄色〜深紅色に染まり、粘液は青色に染まり、細胞分泌顆粒は好塩基性が青に好酸性が赤に染まり、線維素は赤に染まる。従って、青く染まった面積を線維化した部位として算出することができる。
<ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色>
細胞における支持体の定着・消長を観察するために、HE染色を行った。その手順は以下のとおりである。必要に応じて脱パラフィン(例えば、純エタノールにて)、水洗を行い、オムニのヘマトキシリンでサンプルを10分浸した。その後流水水洗し、アンモニア水で色出しを30秒間行った。その後、流水水洗を5分行い、塩酸エオジン10倍希釈液で2分間染色し、脱水し、透徹し、封入する。
(結果)
染色結果を、図3に示す。マッソントリクローム染色(図3)およびHE染色の結果、本発明の人工組織は正常な状態を保っていることが明らかになる。
(実施例5:電気生理測定)
次に、本発明の人工組織内の各々の細胞が電気的に結合しているかどうかを確認する。
電気的な特性は、MEDsystemによる機能性評価を用いて評価した。
MEDシステム(マルチチャネル細胞外記録システム)(Panasonic MED systemTM
アルファメッドサイエンス株式会社(東京、日本)を用いた。
MEDシステムは、4つのコンポーネント(MEDプローブ、コネクタ、アンプ、ソフトウェア)から構成される。測定試料を64点の微小電極がパターニングされているプローブ上におくことによって、その64点から記録および刺激を行うことが可能である。試料ののったプローブをコネクタに接続するだけで簡単に実験できることが特徴である。
MEDプローブは、神経細胞の電気的活動を同時に多数の点から、長時間にわたって測定することができる電気生理測定用プローブであり、急性切片試料の測定から、分散培養および器官培養への応用が可能である。
基板中央部には64個の微小電極が8×8でアレイ状に配置されており、その外側に4個の基準電極が配置されている。この4つの電極電位を基準にして64個の微小電極との間で細胞の電気的活動の測定および細胞への刺激入力を行うことが可能である。
(プロトコール)
(A)筋芽細胞の場合
1)シリコンチャンバーをo-とクレー部処理する。
2)フィブロネクチンを、PBS20mlに希釈して溶液とする(0.05mg/ml)
3)シリコンチャンバ1個あたり3ml注ぐ。
4)37℃で30分以上インキュベートする。
5)希釈溶液は、3〜4回程度再利用する。
6)細胞を播く。
7)MEDシステム(MED64 system)にて測定を行う。
(B)急性切片による実験
1.MEDプローブ表面を0.15Mホウ酸緩衝液(pH8.4)に溶解した。
0.1%ポリエチレンイミンで、室温で8時間処理する。
2.滅菌蒸留水で3回すすぐ。
3.さらに、10%ウシ胎仔血清(FBS)と10%ウマ血清(HS)とを含むDMEM/F−12混合培地で、37℃で1時間以上インキュベートする。
4.通常の方法に従って、心筋切片(筋芽細胞ハニカムシート移植部位)を調製する。
5.8×8の電極アレイ上に該切片を置く。
6.該切片の回復および切片をMEDプローブ表面へしっかりと接着させるために、直ちに95% Oおよび5%COを満たした箱の中にプローブをいれ、37℃で1時間インキュベートする。
ポリエチレンイミンはSigma P3143(50%水溶液)を使用した。
DMEM/F−12は、Dulbecco’s Modified Eagle’s MediumとHam’s F−12の1:1混合培地(GIBCO:D/F−12培地、12400−024)、N2補充物(GIBCO,17502−014)、ヒドロコルチゾン(20nM、Sigma,H0888)、グルコース(3mg/ml、Sigma,G7021)を含む。
ウシ胎仔血清(FBS):GIBCO:16141−020
ウマ血清(HS) :GIBCO:16050−122
を使用した。
その結果、電気的結合が生じていることが確認される。
(実施例6:動物への移植)
次に、実施例3において作製した、ハニカム人工組織を動物に移植した。その手順を以下に示す。
(材料および方法)
(心筋梗塞モデル)
30匹のLewis系統の雄性ラット(300g、8週齢;Seac Yoshitomi Ltd, Fukuoka, Japan)を、本研究のために使用した。人道的な動物の世話は、NationalSocity for Medical researchにより規定された「Principles of Laboratory Animal Care」およびInstituteof Laboratory Animal Resourceにより準備されNational Institute of Healthにより刊行された「Guidefor the Care and Use of Laboratory Animals」(NIH Publication No.86−23、1985年改訂)に従った。急性心筋梗塞を、他所[Weisman HF,Bush DE,Mannisi JA,Weisfeldt ML,Healy B.Cellularmechanism of myocardial infarct expansion.Circulation.1988;78:186−201]で記載されたようにして誘導した。簡単に述べると、ラットを、ペントバルビタールナトリウムで麻酔し、そして気管内チューブを通して、陽圧呼吸を適用した。第4左肋間隙にて胸郭を開胸し、8−0ポリプロピレン結紮糸によって、LADの起点から3mm遠位にて、LADを完全に結紮した。
(人工組織の移植)
実施例3で生産した人工組織の移植を、LewisラットのLAD結紮の2週間後に実施した。全身麻酔下に、この調査中のラットを、第4左肋間隙を介して曝した。その梗塞領域を、表面瘢痕および壁運動の異常を基にして可視的に同定した。心筋細胞シートまたは線維芽細胞シートを、梗塞心筋層中に移植した。コントロール群には、処置しなかった。
移植の2週間後、4週間後、および8週間後に、心機能を評価した。移植の8週間後、心臓を採取し、切片化し、そして組織学的検査および免疫組織学的検査のために処理した。
移植した心筋細胞シートの同定のために、EGFP新生児ラット心筋細胞を、同じプロトコルにより単離し、そして心筋細胞シートを作製した。本発明者らは、EGFP新生児ラット心筋細胞シートを、ヌードラットの梗塞心筋層に移植した。本発明者らは、その梗塞心筋層において、EGFP陽性心筋細胞を検出し得た。
(ラット心臓の心機能の測定)
ラットに、ペントバルビタールナトリウムで麻酔した。麻酔にエタノールを補充して、軽度の麻酔を維持した。ラットを、仰臥位で軽く固定し、前胸部を剃毛した。心臓超音波検査を、市販の心エコーSONOS 5500(PHILIPS Medical Systems,USA)を用いて実施した。12−MHzの環状アレイ変換器を、左半胸郭に適用した音響カップラーゲル層上に配置した。胸部への過度の圧力を避けつつ十分な接触を維持するように、注意を払った。ラットを、浅い左側面位で画像化した。まず、心臓を、最大左心室(LV)直径のレベルで、短軸断面にて2次元モードで画像化した。収縮左心室(LV)面積および拡張左心室(LV)面積を、同じ時間で決定した。左心室(LV)容量を、左心室(LV)短軸面積により評価した[非特許文献15:Gorcsan J 3rd,Morita S,Mandarino WA,Deneault LG,Kawai A,Kormos RL,Griffith BP,Pinsky MR.Two−dimensional Echocardiographic Automated Border Detection Accurately Reflects Changes in Left ventricular Volume.J Am Soc Echocardiogr.1993;6:482−9]。この画像は、左心室(LV)前壁および左心室(LV)後壁に対して垂直にMモードカーソルを位置付けるために使用した。すべての測定は、モニターを使用してオンラインで行った。拡張測定は、見かけの最大左心室(LV)拡張寸法の時期に行った。左心室(LV)収縮末期寸法を、左心室(LV)後壁の最も前方に収縮した軌跡の時期に測定した。左心室(LV)拡張寸法(LVDd)および左心室(LV)収縮寸法(LVDs)を測定した。寸法データおよび面積データは、選択した2拍動または3拍動の測定値の平均として表す。左心室(LV)駆出率(EF)を、
LVEF(%)=[(LVDd−LVDs)/LVDd]×100
として計算した。LV%内径短縮率(FS)を、
LV%FS=[(LVDd−LVDs)/LVDd]×100
として計算した。
(カラーキネシスを用いる、局所的左心室壁運動のエンドカルジオグラフィ定量)
カラーキネシスは、この技術の拡大部分である。カラーキネシスは、リアルタイムで心臓内運動を自動的に探知しそして提示する手段として、連続的音波フレーム間の組織の後方散乱値を比較する。カラーキネシスを、市販の超音波システム(SONOS 5500,PHILIPS Medical Systems,USA)に組み込んだ[非特許文献16:Robert ML,Philippe V,Lynn W,James B,Claudia K,Joanne S,Rick K,David P,Victor MA,et al.Echocardiographic quantification of regional left ventricular wall motion with color kinesis.Circulation.1996;93:1877−1885]。
すべての研究対象において、12−MHz環状アレイ変換器を用いて超音波画像化を実施した。側面位にて呼気終期の間に、胸骨傍短軸を得た。画像の質を最適にした後、心臓境界検出のための超音波定量システムを起動させた。利得制御(全利得および側方利得、時間利得補償)を調整して、予め規定した目的の領域内の血液−心臓内境界面の探知を最適にした。その後、カラーキネシスを、心収縮期全体を通して心臓内軌跡のオンラインカラーコード化のために起動した。心周期全体を通してカラーキネシスデータを含む画像系列を得、そのデータを、オフライン分析のために光学ディスクにデジタル形式で格納した。
(組織学)
左心室心筋層検体を、人工組織移植後2週間目および8週間目に得た。各検体を、10%中性ホルムアルデヒド中に配置し、そしてパラフィン中に包埋した。各検体から、2〜3個の連続切片を切断し、そして光学顕微鏡検査のためにヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。
血管内皮細胞を標識するために、第VIII因子関連抗原の免疫組織化学染色を実施した。凍結切片を、PBS中の2%パラホルムアルデヒド溶液を用いて、室温にて5分間固定し、3%過酸化水素を含むメタノール中に15分間浸漬させ、その後、PBSで洗浄した。そのサンプルを、ウシ血清アルブミン溶液(DAKO LASB Kit,DAKO CORPORATION,Denmark)を用いて10分間カバーして、非特異的反応を脚ブロックした。この検体を、HRPと結合したEPOS結合体化抗第VIII関連抗原抗体(DAKO EPOS Anti−Human Von Wile brand Factor/HRP、DAKO Denmark)とともに一晩インキュベートした。このサンプルをPBSで洗浄した後、これらを、ジアミノベンジジン溶液(PBS中0.3mg/mlのジアミノベンジジン)中に浸漬して、陽性染色を得た。
コネキシン43を検出するために、コネキシン43関連抗原の免疫組織化学染色を実施した。凍結切片を、3%過酸化水素を含むメタノール中に5分間浸漬し、その後、PBSで洗浄した。この検体を、コネキシン43に対するマウスモノクローナル抗体(CHEMICON International,Inc.,USA)とともに20分間インキュベートした。このサンプルをPBSで洗浄した後、このサンプルを、ビオチン化抗マウス免疫グロブリン(DAKO,Denmark)中に10分間浸漬し、その後、PBSで洗浄した。このサンプルを、ペルオキシダーゼ結合体化ストレプトアビジン(DAKO,Denmark)中に10分間浸漬した。サンプルをPBSで洗浄した後、このサンプルを、ジアミノベンジジン溶液(PBS中0.3mg/mlのジアミノベンジジン)中に浸漬して、陽性染色を得た。
(電気組織学的分析)
電位の捕捉のための1つの微小電極(直径100μm、Unique Medical Co.Ltd.,Tokyo)を、人工組織を移植した瘢痕の上、または処置していない瘢痕の上に、配置した。他の2つの電極を、左肋骨下領域および右大腿領域に配置した。宿主心筋層の刺激のために、2つの微小電極を、心房上に配置した。宿主心電図の検出のために、3つの電極を、胸部右上領域、左肋骨下領域および右大腿領域に取り付けた。両方の電位図を、生体電気増幅器(UA−102、Unique Medical Co.,Ltd.,Tokyo)により増幅し、そしてデータ収集システム(UAS−108S,Unique Medical Co.,Ltd.,Tokyo)により記録した。心房を、刺激器(NIHON KODEN,Japan)によって、速度300bpmで刺激した。その後、電位を、目的の領域中で捕捉した。
その後、その閾値を分析するために、刺激用の2つの微小電極を、処置していない瘢痕上、心筋細胞シートを移植した瘢痕上、または線維芽細胞シートを移植した瘢痕上に、配置した。ペーシングした宿主心電図の検出のために、1つの電極を、正常な心筋層に取り付け、そして他の2つの電極を、左肋骨下領域および右大腿領域に配置した。その後、本発明者らは、同じ刺激器によって、速度300bpmにて、処置していない瘢痕、および人工組織を移植した瘢痕を刺激した。
(データの分析)
データを、平均±標準偏差(SD)として表す。個々の群の間の差異の有意性を評価するために、ノンパラメトリック・マン−ホイットニー二標本検定を用いて、統計学的評価を実施した。統計学的有意性は、0.05未満のp値と決定した。
(使用したサンプル)
本実施例では、以下のサンプルを使用した。
(正常心、背中)
貫通型
・PCL 3μm ・PCL 5μm ・PCL 8μm ・RB 5μm ・PCL 10μm
・PCL 10−8
非貫通型
・PCL 4μm ・
PGLA孔3μm、4μm、5μm、6μm、7μm、8μm、9μm、10μm、12μm、14μm、16μm、18μm、20μmの孔のサイズのもの
これらは、いずれも、強度が増していることが明らかになる。
(実施例7:骨格筋グラフトとレシピエント組織との各種接着タンパク質/細胞構造タンパク質の発現)
実施例11に記載されるようにして動物に移植した実施例3で生産した人工組織を、デスミン、コネクシン43、第VIII因子、slow myosinおよびfast myosinについて染色した。
本発明の人工組織を標識するために、第VIII因子関連抗原の免疫組織化学染色を実施した。本発明の人工組織を、PBS中の2%パラホルムアルデヒド溶液を用いて、室温にて5分間固定し、3%過酸化水素を含むメタノール中に15分間浸漬させ、その後、PBSで洗浄した。そのサンプルを、ウシ血清アルブミン溶液(DAKO LASB Kit,DAKO CORPORATION,Denmark)を用いて10分間カバーして、非特異的反応を脚ブロックした。この検体を、HRPと結合したEPOS結合体化抗第VIII関連抗原抗体(DAKO EPOS Anti−Human Von Wile brand Factor/HRP、DAKO Denmark)とともに一晩インキュベートした。このサンプルをPBSで洗浄した後、これらを、ジアミノベンジジン溶液(PBS中0.3mg/mlのジアミノベンジジン)中に浸漬して、陽性染色を得た。
コネキシン43を検出するために、コネキシン43関連抗原の免疫組織化学染色を実施した。本発明の人工組織を、3%過酸化水素を含むメタノール中に5分間浸漬し、その後、PBSで洗浄した。この検体を、コネキシン43に対するマウスモノクローナル抗体(CHEMICON International,Inc.,USA)とともに20分間インキュベートした。このサンプルをPBSで洗浄した後、このサンプルを、ビオチン化抗マウス免疫グロブリン(DAKO,Denmark)中に10分間浸漬し、その後、PBSで洗浄した。このサンプルを、ペルオキシダーゼ結合体化ストレプトアビジン(DAKO,Denmark)中に10分間浸漬した。サンプルをPBSで洗浄した後、このサンプルを、ジアミノベンジジン溶液(PBS中0.3mg/mlのジアミノベンジジン)中に浸漬して、陽性染色を得た。
デスミンの染色は以下のとおりである。
1)5μmに薄切り
2)風乾30分以上
3)4%パラホルムアルデヒド固定 10分間
4)蒸留水 1分
5)流水水洗 2分
6)PBS 5分
7)5%スキムミルク(PBS)でブロッキング 2日間(4℃)
8)PBS洗浄 5分間×3
9)一次抗体「ダコENVISIONキット/HRP(DAB)デスミン、D33 Dako Cytomation code No. N1526) 4℃ 一晩
10)0.2%Tween 20(PBS) 5分×3
11)蒸留水によりTween20の泡をとる
12)PBS 5分
13)二次抗体「赤→alexa546(最終1μ/ml)を使用: 2時間(室温)
14)0.2%Tween20(PBS)で洗浄、5分×3
15)蒸留水でTween20の泡をとる
16)PBS 5分
17)核染色「青→DAPI」(最終100ng/ml)を使用 30分
18)流水水洗
19)封入。
<MHC fastおよびslow染色の手順>
(MHC fast)
1)本発明の人工組織から、5μm厚の切片を作製する。
2)−20℃で5−10分間にわたり、アセトン中でこの切片を固定する(パラフィンブロックがある場合は、パラフィン除去し再水和する必要がある)
3)内因性ペルオキシド活性は、メタノール中0.3%H中で20分間室温でブロックする(1ml 30%H+99mlメタノール)
4)PBSで洗浄する(3×5分)。
5)モノクローナル一次抗体(MY−32)(1μl抗体+200μlPBS/スライド)と4℃で湿式チャンバー内で一晩インキュベートする。
6)翌日PBSで洗浄する(3×5分)。
7)抗マウスおよび抗ウサギのビオチン化結合を、30分−1時間室温で適用する(3滴を直接スライドにたらす)。
8)PBSで洗浄する(3×5分)。
9)ストレプトアビジンHRPを、LSABについてたらし10〜15分間浸す。
10)PBSで洗浄する(3×5分)。
11)DABをたらす(5ml DAB+5μl H
12)茶っぽい色を顕微鏡で観察する。
13)水中に5分ほど浸す。
14)HEを30秒−1分間浸す。
15)数回洗浄する。
16)イオン交換水で1回洗浄する。
17)80%エタノールで1分洗浄する。
18)90%エタノールで1分洗浄する。
19)100%エタノールで1分洗浄する。(3回)
20)キシレンで3回×1分間洗浄する。その後カバースリップをかける。
21)発色を見る。
(MHC slow)
1)本発明の人工組織から、5μm厚の切片を作製する。
2)−20℃で5−10分間にわたり、アセトン中でこの切片を固定する(パラフィンブロックがある場合、パラフィン除去し再水和する必要がある)
3)内因性ペルオキシド活性は、メタノール中0.3%H2O2中で20分間室温でブロックする(1ml 30%H2O2+99mlメタノール)
4)PBSで洗浄する(3×5分)。
5)モノクローナル一次抗体(NOQ7)(1μl抗体+200μlPBS/スライド)と4℃で湿式チャンバー内で一晩インキュベートする。
6)翌日PBSで洗浄する(3×5分)。
7)抗マウスおよび抗ウサギのno.1ビオチン化結合を、30分−1時間室温で適用する(3滴を直接スライドにたらす)。
8)PBSで洗浄する(3×5分)。
9)ストレプトアビジンHRP no.2を、LSABについてたらし1015分間浸す。
10)PBSで洗浄する(3×5分)。
11)DABをたらす(5ml DAB+5μl H2O2)
12)茶っぽい色を顕微鏡で観察する。
13)水中に5分ほど浸す。
14)HEを30秒−1分間浸す。
15)数回洗浄する。
16)イオン交換水で1回洗浄する。
17)80%エタノールで1分洗浄する。
18)90%エタノールで1分洗浄する。
19)100%エタノールで1分洗浄する。(3回)
20)キシレンで3回×1分間洗浄する。その後カバースリップをかける。
21)発色を見る。
その結果、動物に移植した人工組織は、以下であった。
コネクシン43、デスミンおよびトロポニン陽性の細胞を認めた。さらに、トロポニンについてでの染色では、図4に示されるように、正常心に移植したときに、筋構造を発現する細胞を認めた。
コネクシン43およびデスミンは構造タンパク質であり、デスミンは介在板での発現が見られ、刺激伝道障害または収縮能に関与するといわれている。トロポニンおよびトロポミオシンは、調節タンパク質と呼ばれ、トロポニンはカルシウムと結合して、筋肉の収縮を開始させる必要がある。ハニカムフィルム上での培養により、構造に関与するタンパク質のみならず、調節タンパク質の発現が上昇し、電気的(イオンの流入による)刺激が隣接した筋細胞同士でも伝達されるようになったと推察される。
(実施例8:細胞の形態的変化)
上記実施例に記載されるようにして動物に移植した実施例3で生産した人工組織を、上記実施例に記載されるように、マッソントリクローム染色およびHE染色を確認する。
その結果、図5および図6に示されるように、正常心に移植した場合でも、図7に示されるように、背部に移植した場合でも、正常に染色されることが明らかになった。HE染色、マッソントリクローム染色にて移植したハニカムフィルムに接して、線維芽細胞とは異なった染色性を示す細胞が層状に集積していることが確認された。
(実施例9:レシピエントとの電気的結合)
上記実施例に記載されるようにして動物に移植した実施例3で生産した人工組織を、上記実施例に記載されるように、電気的結合について確認する。
その結果、本発明の人工組織は移植先の組織と電気的に結合するようになることが確認される。従って、心筋細胞シートと同等の電気的閾値の低下およびR波の増高を認めた。
(実施例10:移植した人工組織の機能評価)
上記実施例に記載されるようにして動物に移植した実施例3で生産した人工組織の収縮能、拡張能、壁厚および左室容積について、上記実施例に記載されるように評価する。
その結果、本発明の人工組織は、心臓超音波検査で、左心壁運動改善が認められ、収縮能改善が認められ、拡張能改善が認められ、壁厚が厚くなり、左心室容積拡大の現象が見られた。
(実施例11:人工組織の強度評価)
次に、ハニカムフィルムで作製した人工組織の強度を評価した。
(応力−歪み試験(引っ張り試験))
強度を確かめるために、引っ張り試験により、物体を引っ張ったときの荷重−時間(応力歪み)曲線を得る。この曲線から比例限度、弾性係数、降伏点、最大強さ、破談点、弾性エネルギーおよび靭性を得る。
(クリープ特性(インデンテーションテスト))
クリープ特性を測定するインデンテーション試験は、粘弾性を測定することによって実施する。歪みが増加する現象を観察することができる。棒のようなものでゲル状物質を一定圧で押し込み、変形をモニターする。
(結果)
ハニカムフィルムを用いて作製した人工組織は、強度の点でも使用しないものよりも優れていることが明らかになる。生物学的結合を見たところ、細胞外マトリクスによる相互作用も遜色なく進んでいることが明らかになる。
(実施例12:人工組織における細胞の配向化)
次に、人工組織における細胞の配向化を確認する。筋芽細胞は紡錘形状の細胞であることから、細胞の長軸がほぼ平行に並んでいる、同方向に向いていることが観察されれば、配向性があると判断する。判断の根拠は、HE染色による。
観察の結果、この判定法によって、細胞がハニカムフィルム使用時には、より配向性が伸展していることが明らかになった。
以上のように、本発明の好ましい実施形態および実施例を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
本発明は、従来治療が困難であった疾患の根本的な治療方法、技術、医薬を提供するという有用性を有する。特に、強度などの点で改善された人工組織が提供される。
図1Aは、ハニカム構造を示す。ハニカムフィルムの光学顕微鏡写真を示す(a)。bは、ストレッチしたハニカムフィルムを示す。 図1Bは、延伸ハニカムフィルムを示す。自己支持性ハニカムフィルム上での心筋細胞の光学顕微鏡写真である(a)。bは、自己支持性のストレッチしたハニカムフィルムを示す。、 図2Aは、本発明のハニカムフィルムを利用した人工組織の作製を模式的に示す。 図2Bは、本発明のハニカムフィルムを利用した人工組織の作製の様子を写真で示す。左はPCL4μm貫通を示し、中はPCL6μm貫通を示し、右はPCL12μm貫通を示す。 図3は、本発明のハニカムフィルムを用いた人工組織をマッソントリクローム染色した結果を示す。左上は、筋芽細胞4週を示す(×200)。中上は、筋芽細胞4週(×400)を示す。右上は、筋芽細胞4週(両面)を示す。左下は、筋芽細胞4週(両面)を示す。中下は筋芽細胞4週(両面)を示す。 図4は、本発明のハニカムフィルムを用いた人工組織のトロポニン染色を示す。正常心への移植を示す。 図5は、本発明のハニカムフィルムを用いた人工組織を正常心に移植した後の、HE染色を示す。左上は、×100を示し、左下は、×200を示し、右上は、×400を示す。 図6は、本発明のハニカムフィルムを用いた人工組織を正常心に移植した後の、マッソントリクローム染色を示す。左上は、×100を示し、左下は、×200を示し、右上は、×400を示す。 図7は、本発明のハニカムフィルムを用いた人工組織を背部に移植した後の、マッソントリクローム染色(左、×400)およびHE染色(右、×400)を示す。

Claims (56)

  1. ハニカム構造の支持体と、細胞とを含む、心臓再生のための人工組織。
  2. 前記細胞は、配向化されている、請求項1に記載の人工組織。
  3. 前記細胞は、電気的に結合される、請求項1に記載の人工組織。
  4. 前記細胞は幹細胞または分化細胞である、請求項1に記載の人工組織。
  5. 前記細胞は間葉系細胞である、請求項1に記載の人工組織。
  6. 前記細胞は筋芽細胞に由来する、請求項1に記載の人工組織。
  7. 前記細胞は骨格筋芽細胞である、請求項1に記載の人工組織。
  8. 前記細胞は線維芽細胞である、請求項1に記載の人工組織。
  9. 前記細胞は滑膜細胞である、請求項1に記載の人工組織。
  10. 前記細胞は幹細胞に由来する、請求項1に記載の人工組織。
  11. 単層の細胞層を含む、請求項1に記載の人工組織。
  12. 複数層の細胞層を含む、請求項1に記載の人工組織。
  13. 前記支持体は生体分解性である、請求項1に記載の人工組織。
  14. 前記支持体は、両親媒性物質をさらに含む、請求項1に記載の人工組織。
  15. 前記支持体は、両親媒性ポリアクリルアミドをさらに含む、請求項1に記載の人工組織。
  16. 前記支持体は面状の形態を有し、前記細胞は該面状の支持体の両面に存在する、請求項1に記載の人工組織。
  17. 前記支持体は、非両親媒性ポリマーと両親媒性ポリマーとを含むポリマー混合物、および単独の両親媒性ポリマーからなる群より選択される材料で作製される、請求項1に記載の人工組織。
  18. 前記非両親媒性ポリマーは、生分解性脂肪族ポリエステルおよび生分解性脂肪族ポリカーボネートからなる群より選択される、請求項17に記載の人工組織。
  19. 前記非両親媒性ポリマーは、ポリ乳酸、グリコール酸−乳酸共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレンアジペートおよびポリブチレンアジペートからなる群より選択される、請求項17に記載の人工組織。
  20. 前記非両親媒性ポリマーは、ポリブチレンカーボネートおよびポリエチレンカーボネートからなる群より選択される、請求項17に記載の人工組織。
  21. 前記非両親媒性ポリマーは、非生分解性である、請求項17に記載の人工組織。
  22. 前記両親媒性ポリマーは、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロック共重合体、アクリルアミドポリマーを主鎖骨格とし、疎水性側鎖としてドデシル基および親水性側鎖としてラクトース基またはカルボキシル基を有する両親媒性ポリマー、またはアニオン性高分子と長鎖アルキルアンモニウム塩とのイオン複合体および水溶性タンパク質からなる群より選択される、請求項17に記載の人工組織。
  23. 前記両親媒性ポリマーは、前記アニオン性高分子は、核酸、ヘパリン、デキストラン硫酸または核酸である、請求項22に記載の人工組織。
  24. 前記水溶性タンパク質は、ゼラチン、コラーゲンまたはアルブミンである、請求項22に記載の人工組織。
  25. 前記両親媒性ポリマーは、ポリ乳酸−ポリエチレングリコールブロック共重合体、ポリε−カプロラクトン−ポリエチレングリコールブロック共重合体およびポリリンゴ酸−ポリリンゴ酸アルキルエステルブロック共重合体からなる群より選択される、請求項22に「記載の人工組織。
  26. 前記支持体は、ポリウレタン、アクリル系ポリマー、メタクリル系ポリマーおよびスチレン系エラストマーからなる群より選択される熱可塑性エラストマーを含む、請求項1に記載の人工組織。
  27. 前記支持体は、ポリ(1,2−ブタジエン)で作製される、請求項1に記載の人工組織。
  28. 前記支持体は、ポリ(ε−カプロラクトン)で作製される、請求項1に記載の人工組織。
  29. 前記支持体は、ポリ−L−乳酸(PLLA)で作製される、請求項1に記載の人工組織。
  30. 自己支持性を有する、請求項1に記載の人工組織。
  31. さらに、外来の細胞外マトリクスを含む、請求項1に記載の人工組織。
  32. さらに、サイトカインまたはケモカインの全長もしくはその部分を含む、請求項1に記載の人工組織。
  33. 前記支持体は、0.25mm2〜200cmというサイズを有する、請求項1に記載の人工組織。
  34. 前記支持体は、25cm2〜100cmというサイズを有する、請求項1に記載の人工組織。
  35. 三次元方向に生物学的に結合されている、請求項1に記載の人工組織。
  36. 心臓の拍動運動に耐え得る、請求項1に記載の人工組織。
  37. 三次元方向すべて方向において、生物学的結合がある、請求項1に記載の人工組織。
  38. 前記生物学的結合は、細胞外マトリクスの相互結合、電気的結合および細胞間の情報伝達からなる群より選択される生物学的結合を含む、請求項36に記載の人工組織。
  39. 臨床適用することができる組織強度を有する、請求項1に記載の人工組織。
  40. 前記強度は、臨床適用が意図される部分の組織強度の少なくとも80%以上である、請求項1に記載の人工組織。
  41. 前記人工組織は、心不全、虚血性心疾患、心筋梗塞、心筋症、心筋炎、肥大型心筋症、拡張相肥大型心筋症および拡張型心筋症からなる群より選択される疾患または障害を伴う心臓に対して使用される、請求項1に記載の人工組織。
  42. 心臓再生のための人工組織を生産するための方法であって、
    A)ハニカム構造の支持体を提供する工程;
    B)細胞を、該支持体に配置する工程;および
    C)該細胞が人工組織を形成するに十分な時間、該細胞および該支持体の混合物を培養する工程、
    を包含する、方法。
  43. 前記培養において、三次元化促進因子を含む培地が使用される、請求項42に記載の方法。
  44. 前記三次元化促進因子は、アスコルビン酸1リン酸、アスコルビン酸2リン酸、L−アスコルビン酸またはその塩を含む、請求項43に記載の方法。
  45. D)該人工組織を剥離させ自己収縮させる工程、をさらに含む、請求項42に記載の方法。
  46. 前記剥離および自己収縮は、容器に物理的刺激を与えることにより達成される、請求項45に記載の方法。
  47. 前記十分な時間は、少なくとも3日間である、請求項42に記載の方法。
  48. 前記培養は、前記支持体上に細胞層が形成されるに十分な条件で行われる、請求項41に記載の方法。
  49. 前記培養は、前記細胞が前記支持体上に少なくとも1層の細胞層を形成し、その後、該支持体を反転させて該細胞が該支持体の該少なくとも1層の細胞層が形成された面の反対側の面にさらなる少なくとも1層の細胞層を形成させることを特徴とする、請求項42に記載の方法。
  50. 心臓を再生することにより動物の処置または予防するための方法であって、
    A)ハニカム構造の支持体と細胞とを含む心臓再生のための人工組織を、該動物の処置されるべき部分に配置する工程;および
    B)該人工組織と該部分とが生物学的に結合するに十分な時間保持する工程、
    を包含する、方法。
  51. 前記人工組織は、前記部分の伸縮に対して抵抗性を有する、請求項50に記載の方法。
  52. 前記人工組織は、生物学的結合を有する、請求項50に記載の方法。
  53. 前記生物学的結合は、細胞外マトリクスの相互結合、電気的結合および細胞間の情報伝達からなる群より選択される、請求項50に記載の方法。
  54. 三次元化促進因子の存在下で細胞を培養して前記人工組織を形成する工程をさらに包含する、請求項50に記載の方法。
  55. 前記細胞は、前記動物に由来する、請求項50に記載の方法。
  56. 前記心臓は、心不全、虚血性心疾患、心筋梗塞、心筋症、心筋炎、肥大型心筋症、拡張相肥大型心筋症および拡張型心筋症からなる群より選択される疾患または障害を伴う、請求項50に記載の方法。
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