JP2005247735A - ガラクトシルセラミド発現因子−1のc領域によるがん細胞転移抑制剤 - Google Patents

ガラクトシルセラミド発現因子−1のc領域によるがん細胞転移抑制剤 Download PDF

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Abstract

【課題】抗がん剤又はがん細胞転移抑制剤の提供。
【解決手段】ガラクトシルセラミド発現因子−1のC領域を少なくとも含み、Q領域を含まないポリペプチド又は当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む医薬組成物。さらに、ガラクトシルセラミド発現因子−1の発現抑制物質を含む医薬組成物。本発明の医薬組成物は、抗がん剤又はがん細胞転移抑制剤として有用である。
【選択図】 なし

Description

本発明は、ガラクトシルセラミド発現因子−1を含む抗がん剤又はがん細胞転移抑制剤に関する。
ガラクトシルセラミド(GalCer)は、ガラクトース1残基とセラミド1残基からなる最小のスフィンゴ糖脂質である。GalCerはミエリンのオリゴデンドロサイトや腎上皮細胞に特異的に大量発現し、絶縁機能、高塩濃度耐性機能を有する知見が得られている。本発明者らはこれまでに、GalCerの特異的発現機構及び機能を解明するために、抗GalCerモノクローナル抗体を用いた動物細胞発現クローニングを行い、COS細胞にGalCer発現を引き起こすラット脳由来のガラクトシルセラミド発現因子(GalCer Expression Factor-1(GEF-1))タンパク質のcDNAをクローニングした(非特許文献1)。
GEF-1は、HGF等の刺激によりチロシンリン酸化されるタンパク質Hrsのラットホモログであった(非特許文献2)。Hrsは酵母のタンパク質輸送関連タンパク質のVps27pの哺乳類ホモログであり、初期エンドソームに局在している(非特許文献3)。また、Hrsはインターロイキン2(IL2)によってもチロシンリン酸化を受け、過剰発現させるとIL2刺激による細胞増殖を阻害する知見や、Smadの情報伝達経路に関与している知見が得られている(非特許文献4,5)。一方、Hrsのzinc-finger領域(FYVE領域)は、ホスファチジルイノシトール−3−リン酸と結合する知見が得られており、種々のタンパク質の膜輸送に重大に関与していると考えられている(非特許文献6,7,8)。さらに、Hrsよりも約150アミノ酸残基カルボキシル末端側の長いHrs-2は、神経伝達物質の放出に大きく関わっているとする報告もある(非特許文献9)。このように、GEF-1は、小胞輸送に関わるタンパク質として現在までに研究が大きく進められている。
ところで、本発明者らは、GEF-1/Hrsは情報伝達因子として機能し、GalCer発現を誘導するものであると考察している(非特許文献1)。また、本発明者らはMDCK細胞のGEF-1安定発現細胞(MDCK/GEF-1細胞)は、GalCer及びその硫酸化誘導体サルファタイドを高発現するのみならず、線維芽細胞様の形態変化を示すことを見出した(非特許文献10)。さらに、GEF-1、アミノ末端側から順にzinc-finger配列(FYVE)を持つ領域(ドメインともいう)(Z)、高プロリン領域(P)、コイルド−コイル配列領域(C)、高プロリン2/高グルタミン領域(Q)の4つの領域から構成されており、これら領域のGEF-1欠損変異タンパク質導入MDCK細胞の研究から、GalCerおよびサルファタイドの高発現現象にはQ領域が必須であり、線維芽細胞様への形態変化にはC-Q領域が必須であることを本発明者らは明らかにした(非特許文献2)。また、C領域のみでは、線維芽細胞様への形態変化を誘導しないだけではなく、逆にHGFによる形態変化(ラッフリング)さえも誘導できなくなる知見を得ている。
Ogura, K., et al., J. Neurochem., 71, 1827-1836, 1998 Komada, M., et al., Mol. Cell Biol., 15, 6213-6221, 1995 Komada, M., et al., J. Biol. Chem., 272, 20538-20544, 1997 Asao, H., et al., J. Biol. Chem. 272, 32785-32791, 1997 Miura, S., et al., Mol. Cell Biol., 20, 9346-9355, 2000 Burd, C., et al., Mol. Cell, 2, 157-162, 1998 Gaullier, J., et al., Nature, 394, 432-433, 1998 Patki, V., et al., Nature, 394, 433-434, 1998 Bean, A., et al., Nature, 385, 826-829, 1997 Ogura, K., et al., Glycobiology, 11, 751-758, 2001
本発明は、抗がん剤又はがん細胞転移抑制剤を提供することを目的とする。
本発明者は、鋭意研究を行った結果、ガラクトシルセラミド発現因子−1のC領域が、がん細胞転移抑制作用を有することを明らかにし、本発明をするに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)ガラクトシルセラミド発現因子−1のC領域を少なくとも含み、かつQ領域を含まないポリペプチドを含有する医薬組成物。
当該ポリペプチドは、以下の(a)又は(b)のポリペプチドであってもよい。
(a)配列番号8、10若しくは12で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号8、10若しくは12で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ上皮−間葉系細胞変換抑制作用若しくはがん細胞転移抑制作用を有するポリペプチド
(2)ガラクトシルセラミド発現因子−1のC領域を少なくとも含み、かつQ領域を含まないポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含有する医薬組成物。
当該ポリヌクレオチドには、以下の(a)又は(b)のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを使用することができる。
(a)配列番号8、10若しくは12で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号8、10若しくは12で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ上皮−間葉系細胞変換抑制作用若しくはがん細胞転移抑制作用を有するポリペプチド
さらに、当該ポリヌクレオチドには、以下の(a)又は(b)のポリヌクレオチドを使用することもできる。
(a)配列番号7、9若しくは11で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド
(b)配列番号7、9若しくは11で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ上皮−間葉系細胞変換抑制作用若しくはがん細胞転移抑制作用を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(3)ガラクトシルセラミド発現因子−1の発現抑制物質を含有する医薬組成物。例えば、当該発現抑制物質は、ガラクトシルセラミド発現因子−1をコードする遺伝子に対するsiRNA又はshRNAである。
前記のガラクトシルセラミド発現因子をコードする遺伝子は、以下の(a)又は(b)のポリペプチドをコードする塩基配列を含むものであってもよい。
(a)配列番号2、4若しくは6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号2、4若しくは6で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ上皮−間葉系細胞変換誘導作用若しくはがん細胞転移作用を有するポリペプチド
あるいは、前記のガラクトシルセラミド発現因子−1をコードする遺伝子は、以下の(a)又は(b)のポリヌクレオチドを含むものであってもよい。
(a)配列番号1、3若しくは5で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド
(b)配列番号1、3若しくは5で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ上皮−間葉系細胞変換誘導作用若しくはがん細胞転移作用を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(4)(1)〜(3)記載の医薬組成物は、抗がん剤又はがん細胞転移抑制剤として用いることができる。
(5)ガラクトシルセラミド発現因子−1のC領域を少なくとも含み、かつQ領域を含まないポリペプチドを発現させることを特徴とする、がん細胞転移抑制方法。
(6)ガラクトシルセラミド発現因子−1の発現を抑制することを特徴とする、がん細胞転移抑制方法。
(7)ガラクトシルセラミド発現因子−1のC領域及びQ領域を少なくとも含むポリペプチドを含有するがん細胞高転移能誘導剤。
(8)ガラクトシルセラミド発現因子−1のC領域及びQ領域を少なくとも含むポリペプチドを発現させることを特徴とする、がん細胞高転移能誘導方法。
本発明によって、ガラクトシルセラミド発現因子−1のC領域を少なくとも含み、Q領域を含まないポリペプチド又は当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む医薬組成物を提供することができる。また、ガラクトシルセラミド発現因子−1の発現抑制物質を含む医薬組成物を提供することができる。当該医薬組成物は、抗がん剤又はがん細胞転移抑制剤として有用である。
1.概説
ガラクトシルセラミド発現因子−1(GalCer Expression Factor-1, GEF-1)は、ガラクトシルセラミドの発現を誘導する因子として本発明者によりクローニングされている(Ogura, K., et al., J. Neurochem., 71, 1827-1836, 1998)。本発明者は、GEF-1が、上皮由来細胞のMDCK細胞に対して上皮−間葉系細胞変換(EMT)を誘導し、その細胞形態を大きく変化させ、細胞運動能を昂進すること、一方、GEF-1内のコイルド−コイル配列領域(C領域)は、逆にMDCK細胞の運動能を抑制することを初めて見出した。そこで、EMTはがん細胞転移に大きく関与する過程であるという知見に鑑み、本発明者は、GEF-1及びGEF-1のC領域ががん細胞転移に影響を及ぼすと考え、転移性マウスメラノーマB16細胞を用いて転移に関する検討を行った。その結果、GEF-1を強制発現させたB16細胞はがん細胞転移能が昂進し、他方、GEF-1のC領域を強制発現させたB16細胞はがん細胞転移能が抑制されていた。従って、GEF-1はがん細胞転移を促進し、GEF-1のC領域はがん細胞転移を抑制することが示された。
2.ガラクトシルセラミド発現因子−1の機能
(1)ガラクトシルセラミド発現因子−1
ガラクトシルセラミド発現因子−1(GalCer Expression Factor-1, GEF-1)は、図1に示すように、アミノ末端側から順にzinc-finger配列(FYVE)を持つ領域(Z)、高プロリン領域(P)、コイルド−コイル配列領域(C)及び高プロリン2/高グルタミン領域(Q)の4つの領域(ドメイン)から構成されているタンパク質である。そして、欠損変異GEF-1タンパク質を用いた研究から、前記の線維芽細胞様への形態変化には、C-Q領域が必要であり、また、C領域のみでは線維芽細胞様への形態変化を誘導しないだけでなく、逆にHGFによる形態変化さえも誘導できなくなることが判明した。
さらに、GEF-1を上皮由来細胞MDCK細胞に安定発現させると、その細胞(MDCK/GEF-1細胞)は、GalCer及びその硫酸化誘導体サルファタイドを高発現するのみでなく、線維芽細胞様の形態へと変化することが判明した。
(2)上皮細胞−間葉系細胞変異(Epithelial-Mesenchymal Transition(EMT))
上皮細胞−間葉系細胞変異(Epithelial-Mesenchymal Transition(EMT))とは、Wnt等のシグナルにより誘導される胎児形態形成初期における必須の過程であり、がん細胞転移における浸潤及び血管内移行にも大きく関与している過程である(Bean, A., et al., Nature, 385, 826-829, 1997)。例えば、形態形成においては、EMTによって外胚葉由来の細胞が中胚葉由来の細胞へと変換して、器官形成が誘導される。またEMTを誘発した上皮細胞は、上皮細胞間の接着能喪失、細胞運動能の活性化、葉状仮足形成などの細胞骨格系の変換を誘導する。
そこで、本発明者はMDCK/GEF-1細胞の形態変化をEMT誘導という新しい観点から、(a) 線維芽細胞様形態変化(図2)、(b)細胞運動性の亢進(図3、図4)、(c)非上皮系細胞特異的タンパク質の発現(図5)について検証した。その結果、MDCK/GEF-1細胞はEMT誘導を受けていた。この知見は、GEF-1タンパク質がEMT誘導能を有していることを強く示している。
従って、先の欠損変異GEF-1タンパク質を用いた研究から、GEF-1のEMT誘導にはC-Q領域が必須であり、逆にC領域(Q領域を欠き、かつC領域を含む領域)は、EMT誘導をドミナントネガティブ的に阻害するといえる。
以上により、本発明のC-Q領域を少なくとも含むGEF-1は、EMT誘導剤として使用することができ、他方GEF-1のC領域はEMT誘導抑制剤として用いることができる。
さらに、EMTを誘導する方法として本発明のC-Q領域を少なくとも含むGEF-1を発現させることを挙げることができ、EMTの誘導を抑制する方法としてGEF-1のC領域を発現させることを挙げることができる。
(3)がん細胞の浸潤、転移過程におけるGEF-1の機能
がん細胞の浸潤、転移過程におけるGEF-1の機能を明らかにする目的で、本発明においては転移性マウスメラノーマB16細胞にGEF-1およびGEF-1のQ領域欠損変異タンパク質を強制発現する細胞を作製し、分析を行った。その結果、GEF-1安定発現細胞は、B16細胞の転移を促す一方、C領域安定発現細胞は転移を抑制した。
従って、本発明のGEF-1のC領域は、がん細胞転移抑制剤として使用することが可能であり、さらに、GEF-1のC領域を発現させること、あるいはGEF-1の発現を抑制することでがん細胞の転移を抑制することができる。
また、本発明のC-Q領域を少なくとも含むGEF-1は、がん細胞高転移誘導剤として使用することが可能である。さらに、C-Q領域を少なくとも含むGEF-1を発現させることでがん細胞の転移を誘導することができる。
3.ガラクトシルセラミド発現因子−1のアミノ酸及び遺伝子
(1)GEF-1ポリペプチド
以下、GEF-1ポリペプチドについて詳細に説明する。
本発明においては、使用するGEF-1は特に限定されるものではなく、ラット由来のもの、ヒト由来のもの、マウス由来のもの等を使用することができる。ラットGEF-1のアミノ酸配列を配列番号2に示す。また、ラットGEF-1をコードする遺伝子(GEF-1遺伝子という)の塩基配列を配列番号1に示す。なお、上記アミノ酸配列及び塩基配列は、GenBank(accession number AB002811)に登録されている。
また、ラットGEF-1は、Hrsのラットホモログであることが知られている。ヒトHrsのアミノ酸配列及び塩基配列をそれぞれ配列番号4及び3に示し、マウスHrsのアミノ酸配列及び塩基配列をそれぞれ配列番号6及び5に示す(GenBank accession numberU43895(ヒトHrs)、D50050(マウスHrs))。本発明に用いられるポリペプチドは、GEF-1ポリペプチドと少なくとも85%の相同性を有するポリペプチド及びその変異体も含む。ここで、ラットGEF-1、ラットHrs、ヒトHrs及びマウスHrsのアミノ酸配列の相同性を検討すると、以下の通りである。
(a) ラットGEF-1とラットHrsのアミノ酸配列相同性は99%
(b) ラットGEF-1とマウスHrsのアミノ酸配列相同性は97%
(c) ラットGEF-1とヒトHrsのアミノ酸配列相同性は93%
(d) マウスHrsとヒトHrsのアミノ酸配列相同性は93%
従って、本発明において使用されるGEF-1ポリペプチドは、上記Hrsポリペプチドを用いることができる。
また、本発明において使用されるGEF-1ポリペプチドは、GEF-1活性、すなわちEMT誘導活性又はがん細胞転移作用を有する限り、変異体でもよく、上記GEF-1ポリペプチドのアミノ酸配列とホモロジーを有するポリペプチドでもよい。本発明のGEF-1ポリペプチドには、配列番号2、4又は6で表されるアミノ酸配列のほか、配列番号2、4又は6で表されるアミノ酸配列と約85%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約93%以上の相同性を有するアミノ酸配列などがあげられる。
さらに、配列番号2、4又は6で表わされるアミノ酸配列において1個又は複数個(例えば1個又は数個)のアミノ酸に欠失、置換又は付加等の変異が生じたアミノ酸配列であって、EMT誘導活性又はがん細胞転移作用を有するポリペプチドのアミノ酸配列も本発明において使用することができる。例えば、(i)配列番号2、4又は6に示すアミノ酸配列のうち1若しくは複数個(好ましくは1個又は数個(例えば1個〜10個、さらに好ましくは1個〜5個))のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(ii) 配列番号2、4又は6に示すアミノ酸配列のうち1若しくは複数個(好ましくは1個又は数個(例えば1個〜10個、さらに好ましくは1個〜5個))のアミノ酸が他のアミノ酸で置換したアミノ酸配列、(iii) 配列番号2、4又は6に示すアミノ酸配列のうち1若しくは複数個(好ましくは1個又は数個(例えば1個〜10個、さらに好ましくは1個〜5個))の他のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列、(iv)上記(i)〜(iii)を組み合わせたアミノ酸配列からなり、かつ上記GEF-1と同様のEMT誘導活性又はがん細胞転移作用を有するGEF-1変異型のポリペプチドを使用することもできる。
このような配列番号2、4又は6で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入または付加されたアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドは、『Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed.』(Cold Spring Harbor Press (1989))、『Current Protocols in Molecular Biology』(John Wiley & Sons (1987-1997);特にSection8.1-8.5)、Hashimoto-Goto et al. (1995) Gene 152: 271-5、Kunkel (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 488-92、Kramer and Fritz (1987) Method. Enzymol. 154: 350-67、Kunkel (1988) Method. Enzymol. 85: 2763-6等に記載の部位特異的変異誘発法等の方法に従って調製することができる。
また、ポリヌクレオチドに変異を導入するには、Kunkel法や Gapped duplex法等の公知手法により、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばQuikChangeTM Site-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社製)、GeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社製)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K、Mutan-Super Express Km等:タカラバイオ社製)等を用いて行うことができる。
さらに、GEF-1ポリペプチドには他のペプチド配列により付加された融合タンパク質を含む。本発明のポリペプチドに付加するペプチド配列としては、インフルエンザ凝集素(HA)、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)、多重ヒスチジンタグ(6×His、10×His等)、マルトース結合蛋白質(MBP)、免疫グロブリン定常領域断片、β-ガラクトシダーゼ、c-myc断片、E-タグ(モノクローナルファージ上のエピトープ)、FLAG(Hopp et al. (1988) Bio/Tehcnol. 6: 1204-10)、SV40T抗原断片、T7-タグ(T7 gene10タンパク質)、等のタンパク質の識別を容易にする配列、組換え技術によりタンパク質を発現させる際に安定性を付与する配列等を選択することができる。
(2)GEF-1遺伝子
本発明において、ラットGEF-1遺伝子はHrs遺伝子のホモログである。従って本発明のGEF-1遺伝子には、Hrs遺伝子、例えば、ヒト及びマウスのHrs遺伝子(配列番号3及び5)、さらに、配列番号4及び6で表されるヒト及びマウスのHrsタンパク質をコードするポリヌクレオチドが含まれる。また、ラットHrs遺伝子、ラットHrsをコードするポリヌクレオチドも含まれる。
本発明において、GEF-1遺伝子は、配列番号1、3又は5で表される塩基配列のほか、前記本発明のGEF-1ポリペプチドをコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドであれば特に限定されない。例えば、配列番号2、4又は6で表わされるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドのほか、配列番号2、4又は6で表わされるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列からなる変異ポリペプチドであって、EMT誘導活性又はがん細胞転移作用が維持されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドも本発明において使用することができる。
ここで、「ポリヌクレオチド」とは、複数のデオキシリボ核酸 (DNA) またはリボ核酸 (RNA)等の塩基または塩基対からなる重合体を指し、DNA、cDNA、ゲノムDNA、化学合成DNA及びRNAを含む。また、天然以外の人工塩基を必要に応じて含むポリヌクレオチドも包含する。
本発明のGEF-1遺伝子は、配列番号2、4又は6で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む。このようなアミノ酸配列をコードする塩基配列は、配列番号1、3又は5で表される塩基配列に加えて、遺伝子暗号の縮重により配列番号1、3又は5で表される塩基配列とは異なる塩基配列を含むものである。本発明のポリヌクレオチドを遺伝子工学的な手法によりポリペプチドを発現させるのに用いる場合、使用する細胞のコドン使用頻度を考慮して、発現効率の高いヌクレオチド配列を選択し、設計することができる(Grantham et al. (1981) Nucleic Acids Res. 9: 43-74)。
さらに、本発明のGEF-1遺伝子は、配列番号1、3又は5で表される塩基配列を有するポリヌクレオチド、または該塩基配列に相補的な配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、EMT誘導活性又はがん細胞転移作用を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。このようなGEF-1遺伝子は、配列番号1、3又は5で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、またはその断片をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーション、サザンブロット等の公知のハイブリダイゼーション法により、ヒトのcDNAライブラリー及びゲノムライブラリーから得ることができる。cDNAライブラリーの作製方法については、『Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed.』(Cold Spring Harbor Press (1989))を参照することができる。また、市販のcDNAライブラリー及びゲノムライブラリーを用いてもよい。
本発明におけるハイブリダイゼーション条件において、ストリンジェントな条件としては、例えば、「2×SSC、0.1%SDS、25℃」、「1×SSC、0.1%SDS、25℃」、「0.2×SSC、0.1%SDS、42℃」、よりストリンジェントな条件としては、例えば「0.1×SSC、0.1%SDS、68℃」等の条件を挙げることができる。当業者であれば、このようなバッファーの塩濃度、温度等の条件に加えて、その他のプローブ濃度、プローブの長さ、反応時間等の諸条件を加味し、本発明のGEF-1遺伝子をコードするポリヌクレオチドを得るための条件を設定することができる。
ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、『Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed.』(Cold Spring Harbor Press (1989);特にSection9.47-9.58) 、『Current Protocols in Molecular Biology』(John Wiley & Sons (1987-1997);特にSection6.3-6.4)等を参照することができる。
本発明のポリヌクレオチドには、配列番号2、4又は6で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチド配列に相補的な配列が含まれる。これらのポリヌクレオチドは、前記の部位特異的変異誘発法等の公知方法に従って調製することができる。また、変異の誘発は、前記の市販のキットを用いることもできる。
本発明のGEF-1遺伝子は、配列番号1、3又は5で表される塩基配列の遺伝子多型を含む。遺伝子多型は、データベース、例えば、GenBank (http://www.ncbi.nlm.nih.gov)を利用することにより、容易に知ることができる。遺伝子多型には、一塩基多型(SNP)、及び塩基配列の繰り返し数が異なっていることにより生じる多型が含まれる。また、複数の塩基(例えば2個〜数十塩基)の欠失又は挿入による多型も遺伝子多型に含まれる。さらに、2〜数十塩基の配列が繰り返されている多型も遺伝子多型に含まれる。このような多型として、VNTR(variable number of tandem repeat)(繰り返しの単位が数塩基から数十塩基のもの)、及びマイクロサテライト多型(2〜4塩基単位程度のもの)がある。
上述のように本発明のGEF-1遺伝子には、Hrs遺伝子又はそれらに対応する上記変異体等も用いることができる。
本発明のポリヌクレオチドの塩基配列は、慣用の配列決定法により確認することができる。例えば、ジデオキシヌクレオチドチェーンターミネーション法(Sanger et al. (1977) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 74: 5463) 等により行うことができる。また、適当なDNAシークエンサー(例えば、ABI PRISM(アプライドバイオシステムズ社))を利用して配列を解析することも可能である。
4.ガラクトシルセラミド発現因子−1の C領域又はQ領域
本発明のGEF-1は、アミノ末端側から順にzinc-finger(FYVE)配列を持つ領域(Z)、高プロリン領域(P)、コイルド−コイル配列領域(C)、高プロリン2/高グルタミン領域(Q)の4つの領域から構成されている。
上記の通り、全長のGEF-1又はC-Q領域を少なくとも含むGEF-1はEMT誘導能を有しており、Q領域を含まずかつC領域を含む領域(例えば、ZPC、PC、C)は、EMT誘導阻害活性を有している。
また、トランスウェルチャンバーを用いたin vitro細胞遊走実験において、全長のGEF-1(ZPCQ)を発現する細胞は遊走性が上昇するが、一方、Q領域を欠損し、かつC領域を含むGEF-1変異体(ZPC、PC、C)では顕著にその遊走性が低下し、特にC領域を発現する細胞は遊走性の低下が顕著である。
従って、ZPC領域、好ましくはPC領域、より好ましくはC領域を細胞遊走性の抑制に用いることが可能である。
つまり、本発明のGEF-1全長、又はC及びQ領域を少なくとも含むGEF-1は、EMT誘導活性及びがん細胞転移活性を示す。その一方、本発明のGEF-1のC領域を含みQ領域を含まない領域は、EMT誘導抑制活性及びがん細胞転移抑制作用を有する。
(1)本発明の「GEF-1のC領域を少なくとも含み、かつQ領域を含まない」領域は、GEF-1のQ領域を含まず、かつC領域を含む領域であって、EMT誘導抑制活性又はがん細胞遊走抑制作用を有するポリペプチドであれば、アミノ末端側にP領域の全長又は一部を含めても良い。さらに、P領域の全長をC領域のアミノ末端側に含む場合は、さらにそのアミノ末端側にZ領域の全長又は一部を含んでいてもよい。このような領域には、例えばC、PC、ZPC等を挙げることができる。本発明においてC領域のアミノ酸配列には、配列番号8(ラットGEF-1)、配列番号10(ヒトHrs)又は配列番号12(マウスHrs)のアミノ酸配列が例示され、またC領域の塩基配列には、配列番号7(ラットGEF-1)、配列番号9(ヒトHrs)又は配列番号11(マウスHrs)の塩基配列が例示される。
表1に配列番号2(ラットGEF-1)、配列番号4(ヒトHrs)及び配列番号6(マウスHrs)のアミノ酸配列において、Z、P、C及びQ領域の表されるポリペプチドの位置を示す。これらのポリペプチドは、配列番号2、4又は6で表されるポリペプチドにおいて該当する領域を、さらに前述の欠失、置換、挿入、付加等の各変異体等を含むことができる。
Figure 2005247735
表2に配列番号1(ラットGEF-1)、配列番号3(ヒトHrs)及び配列番号5(マウスHrs)の塩基配列において、Z、P、C及びQ領域をコードするポリヌクレオチドの位置を示す。当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、配列番号1、3又は5で表されるポリヌクレオチドの該当領域を含み、さらに前述した変異ポリペプチド、例えば配列番号1、3又は5の相補配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドや配列番号1、3又は5の縮重型等も含む。
Figure 2005247735
以下、当該ポリペプチドをGEF-1のC領域等を含むペプチドともいう。
(2)本発明の「C及びQ領域(以下、「C-Q領域」ともいう)を少なくとも含むGEF-1」は、EMT誘導活性又はがん細胞高転移誘導作用を示すポリペプチドであれば、全長のGEF-1(ZPCQ)であってもよい。また、上記の機能を示す限り、C-Q領域のアミノ末端側にP領域の全長又は一部を含めてもよい。さらに、P領域の全長をC-Q領域のアミノ末端側に含む場合は、さらにそのアミノ末端側にZ領域の全長又は一部を含んでいてもよい。このような領域には、例えばCQ、PCQ、ZPCQ等を挙げることができる。
ここで、Z、P、C及びQの各領域に対応するポリペプチドおよび核酸は、上記4.(1)で示した範囲のポリペプチド及び核酸であり、(1)と同様に各変異体等を含むことができる。
5.GEF-1のC領域等を含むポリペプチドの発現
(1) GEF-1のC領域を少なくとも含み、かつQ領域を含まないポリペプチドをコードする遺伝子を含むベクター
GEF-1のC領域等を含むポリペプチドをコードする遺伝子を宿主に導入するためのベクターは、宿主細胞に保持されるものであれば特に限定されず、例えば、プラスミド DNA、バクテリオファージ等が挙げられる。
プラスミド DNAとしては、例えばpME18S、pcDNA3、pBR322、pUC18、pUC19、pUC118、pUC119、pBluescript等が挙げられるが、大腸菌由来、枯草菌由来、酵母由来等の他のプラスミドでもよい。ファージDNAとしてはλファージ(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、)等が挙げられる。
本発明の遺伝子をベクターに組み込む手法は、適当な制限酵素で切断した後にリガーゼを作用させて連結する手法などが採用される(上記Molecular cloning, CSHL Press等を参照)。
本発明のC領域等を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、例えばZ、P、Cの各領域毎にそれぞれのポリヌクレオチドを増幅させるプライマーを設計し、PCR法等を用いて当該領域を増幅した後、制限酵素やリガーゼを用いて所望の部分のみをベクターに連結させることができる。また、標的部分を増幅させるプライマーを設計しPCR法で増幅し、ベクターに連結させることもできる。
(2)形質転換
本発明において使用される宿主は、GEF-1のC領域等を含むポリペプチドをコードする遺伝子が導入された後にGEF-1のC領域等を含むポリペプチドを発現するものであればよい。例えば、哺乳動物細胞、昆虫細胞、大腸菌、酵母、カビ等を挙げることができるがこれらに限定されない。
宿主への組換えDNAの導入は、公知方法により行うことができる。上記のベクターを宿主に導入する方法として、例えば、リン酸カルシウム法、DEAE-デキストラン法、電気穿孔法、カチオン性脂質法等を挙げることができる。
また、DNAが導入されたことの確認は、選択マーカー遺伝子(例えばアンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、ブラストシジン耐性遺伝子等)を用いて行われる。
(3) GEF-1のC領域等を含むポリペプチドの産生
本発明において、GEF-1のC領域等を含むポリペプチドは、GEF-1のC領域等を含むポリペプチドをコードする遺伝子又はその変異型遺伝子を含む上記形質転換体を培養し、その培養物からGEF-1のC領域等を含むポリペプチドを採取することにより得ることができる。
「培養物」とは、培養上清、培養細胞、培養菌体、又は細胞若しくは菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。本発明の形質転換体を培養する培地、培養は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。
プロモーターとして誘導型転写プロモーターを用いた発現ベクターを導入した組換え体を培養する場合は、必要に応じて誘導剤を培地に添加してもよい。誘導剤にIPTGを用いる場合のIPTGの添加量は、0.1〜1.0 mMであり、培養開始後2〜12時間後に添加し、添加後さらに1〜12時間追加培養する。
培養後、GEF-1のC領域等を含むポリペプチドが菌体内又は細胞内に蓄積される場合には、ホモジナイザー処理などを施して菌体又は細胞を破砕することにより、目的のGEF-1のC領域等を含むポリペプチドを採取する。GEF-1のC領域等を含むポリペプチドが菌体外又は細胞外に産生される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体又は細胞を除去する。 その後、硫安沈殿操作等により前記培養液中からGEF-1のC領域等を含むポリペプチドを採取し、必要に応じてさらに各種クロマトグラフィー等を用いて単離精製する。
また、本発明においては、GEF-1のC領域等を含むポリペプチドをコードする遺伝子又は上記ベクターからGEF-1のC領域等を含むポリペプチドを採取することも可能である。すなわち、本発明においては、生細胞を全く使用することなく無細胞タンパク質合成系を採用して、GEF-1のC領域等を含むポリペプチドを産生することが可能である。
無細胞タンパク質合成系とは、細胞抽出液を用いて試験管などの人工容器内でタンパク質を合成する系であり、例えばmRNAの情報を読み取って、リボソーム上でタンパク質を合成するというものである。なお、本発明において使用される無細胞タンパク質合成系には、DNAを鋳型としてRNAを合成する無細胞転写系も含まれる。
上記細胞抽出液は、真核細胞由来又は原核細胞由来の抽出液、例えば、小麦胚芽、ウサギ網状赤血球、マウスL-細胞、HeLa細胞、CHO細胞、出芽酵母、大腸菌などの抽出液を使用することができる。なお、これらの細胞抽出液は濃縮されたものであっても濃縮されないものであってもよい。
ここで、DNA 上に暗号化された遺伝情報は、転写によりmRNAとなり、さらに翻訳されてタンパク質に変換される。人工容器内でこの翻訳過程を再現してタンパク質を合成するためには、リボソーム、tRNA、各種タンパク質因子など、翻訳因子群を安定化し、目的に応じてmRNA を生産するシステムを構築することが必要である。
細胞抽出液は、例えば限外濾過、透析、ポリエチレングリコール(PEG)沈殿等によって得ることができる。
本発明において、無細胞タンパク質合成は、市販のキットを用いて行うこともできる。そのようなキットとしては、例えば試薬キットPROTEIOSTM(東洋紡)、TNTTM System(プロメガ)、合成装置のPG-MateTM(東洋紡)、RTS(ロシュ・ダイアグノスティクス)などが挙げられる。
無細胞タンパク質合成によって得られるGEF-1のC領域等を含むポリペプチドは、前述のように適宜クロマトグラフィーを選択して、精製することができる。また、GEF-1のC領域等を含むポリペプチドが単離精製されたことの確認は、SDS-PAGE等により、活性の測定はEMT誘導抑制活性又は細胞遊走抑制作用の有無により行うことが可能である。
さらにまた、本発明においては、GEF-1のC領域等を含むポリペプチドは化学合成により得たものを用いることもできる。ペプチド合成は、既知の方法により、Model 433Aペプチドシンセサイザ(Applied Biosystems)、PSSM-8(島津製作所)等の合成装置で行うことができる。
本発明において、GEF-1のC領域等を含むポリペプチドは、全長のGEF-1等から臭化シアンやペプチダーゼ等で切断することによって得ることもできる。ペプチダーゼは、当該ポリペプチドを切断することができれば限定されないが、トリプシン、キモトリプシン、リジルエンドペプチダーゼ等を挙げることができる。
6.ガラクトシルセラミド発現因子−1の発現抑制
本発明において、EMTの誘導を抑制するために、又はがん細胞転移を抑制するために、GEF-1の発現を抑制する方法が採用される。
GEF-1の発現抑制には、例えばRNA干渉(RNAi)を利用することができるが、特にこれに限定されるものではない。GEF-1遺伝子に対するsiRNA(small interfering RNA)を設計及び合成し、これを細胞内に導入させることによって、RNAiを引き起こすことができる。
RNAiとは、dsRNA(double-strand RNA)が標的遺伝子に特異的かつ選択的に結合し、当該標的遺伝子を切断することによりその発現を効率よく阻害する現象である。例えば、dsRNAを細胞内に導入すると、そのRNAと相同配列の遺伝子の発現が抑制(ノックダウン)される。
(1)siRNA
siRNAの設計は、以下の通り行なうことができる。
(a) GEF-1をコードする遺伝子であれば特に限定されるものではなく、任意の領域を全て候補にすることが可能である。例えば、配列番号1、3、5の任意の領域を候補にすることができる。
(b) 選択した領域から、AAで始まる配列であって長さが18〜30塩基のもの、あるいは、AAを5’側に加えたときの長さが18〜30塩基、好ましくは19〜23塩基の配列を選択する。その配列のGC含量は、例えば30〜70%となるものを選択すればよく、50%前後が好ましい。また、そのGC分布に偏りがないものを選択するとよい。
(c) 選択した配列の3’側にdT又はUの2残基のオーバーハングを加えるとよい。
(d) BLASTサーチをおこない、選択した配列に類似した配列を有するタンパク質が存在しないことを確認することが好ましい。
さらに、数種類のsiRNAを同時に細胞に導入することにより、遺伝子の発現をより効果的に抑制できることがある。
siRNA合成の別法としてDicer法がある。Dicer法の概要とは以下の通りである。まず、GEF-1遺伝子配列のスタートコドンから500 bp〜1 kbpの遺伝子配列をベクター等に組み込み、その遺伝子配列のセンスRNAとアンチセンスRNAを転写させた後、アニーリングしてdsRNAを作製する。次に、RNase IIIファミリーに属するDicer Enzymeにより、このds-RNAを3'末端側に2塩基の突出末端をもつ21-23塩基のsiRNAにプロセッシングさせる。
siRNAを細胞に導入するには、in vitroで合成した2本相補鎖RNAをアニールしたds-RNAやDicer Enzymeによるds-RNAは、前述の宿主への組み換えDNAの導入方法を用いて行うことができる。別の導入方法として、2本の相補鎖RNAを別々にタンデムに発現させるプラスミドDNAを細胞に導入する方法も採用することができる。
(2)shRNA
また、本発明は、RNAi効果をもたらすためにshRNAを使用することもできる。shRNA とは、ショートヘアピンRNA(short hairpin RNA)と呼ばれ、一本鎖の一部の領域が他の領域と相補鎖を形成するためにステムループ構造を有するRNA分子である。このステムループ構造を有するRNA分子は生体内のDicer等によりプロセッシングを受け、siRNAが産生される。
shRNAは、その一部がステムループ構造を形成するように設計することができる。例えば、ある領域の配列を「配列A」とし、配列Aに対する相補鎖を「配列B」とすると、配列A、スペーサー、配列Bの順になるようにこれらの配列が一本のRNA鎖に存在するようにし、全体で42〜120塩基の長さとなるように設計する。配列Aは、標的となるGEF-1ポリペプチドをコードする遺伝子(例えば配列番号1、3、5)の一部の領域の配列であり、標的領域は特に限定されるものではなく、任意の領域を候補にすることが可能である。そして配列Aの長さは18〜50塩基、好ましくは21〜30塩基である。
7.医薬組成物
本発明において作製されたGEF-1のC領域を少なくとも含み、Q領域を含まないポリペプチド及び当該ポリペプチドを発現する発現ベクター、並びに本発明において作製されたshRNA、siRNAは、がんの転移を抑制する物質であり、薬学的に許容できる担体を含む医薬組成物(特に抗がん剤としての遺伝子治療剤)として使用することができる。
本発明の医薬組成物をがん細胞転移抑制剤又は抗がん剤として使用する場合は、転移能を有するがんを対象として適用される。
治療される好ましいがんは、例えば、脳腫瘍、胃癌、食道癌、肺癌(小および/または非小細胞)、肝臓癌、膵臓癌、腎臓癌、膀胱癌、乳癌、卵巣癌、子宮癌、精巣癌、皮膚癌、骨肉腫、結腸直腸癌、慢性リンパ性白血病、急性リンパ性白血病、急性非リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、ACTH生成腫瘍、副腎皮質癌、皮膚T細胞性リンパ腫、子宮内膜癌、ユーイング肉腫、胆嚢癌、頭頸部癌、ホジキンリンパ腫、カポジ肉腫、メラノーマ、中皮腫、多発性骨髄腫、神経芽細胞腫、非ホジキンリンパ腫、卵巣(胚細胞)癌、陰茎癌、前立腺癌、網膜芽腫、軟組織肉腫、扁平上皮細胞癌、甲状腺癌、栄養膜新生物、膣癌、外陰癌、及びウィルムス腫瘍を含むがそれらに限定されるものではない。さらに、上記のがんは、単独であっても、併発したものであってもよい。
「転移」は、がん細胞が血液やリンパ系を介して、あるいは手術の際に、原発巣から離れた他の部位に運ばれて、そこに新しい増殖巣をつくることを意味する。あるいは、「転移」は「癌細胞が伝播し、非連続部位で新たな増殖巣を形成する(すなわち転移を形成する)能力」を指す(Hill,R.P, “Metastasis”, The Basic Science of Oncology,Tannockら編、178-195(McGraw-Hill, New York, 1992)。
「薬学的に許容できる担体」とは、医薬組成物としての使用に適する任意の担体(リポソーム、脂質小胞体、ミセル等)、希釈剤、賦形剤、湿潤剤、緩衝剤、懸濁剤、潤滑剤、アジュバント、乳化剤、崩壊剤、吸収剤、保存料、界面活性剤、着色料、着香料、又は甘味料を指す。
本発明の医薬組成物は、注射剤、凍結乾燥品、錠剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、シロップ剤、坐剤、バップ剤、軟膏剤、クリーム剤、点眼剤等の剤型をとることができる。
本発明の医薬組成物は、当業者に既知である任意の手段によって局所的又は全身に投与される。投与量は、患者の年齢、体重、健康状態、性別、症状、投与経路、投与回数、剤型などの要因に応じて変化し、具体的な投与手順は当業者により設定することができる。例えば、成人には、本発明の医薬組成物を錠剤として投与する場合に0.1μg〜10 g、好ましくは1μg〜1 g、より好ましくは10μg〜100 mgを一日に1〜5回投与することができる。
さらに、本発明の医薬組成物を遺伝子治療剤として使用する場合は、本発明の医薬組成物を注射により直接投与する方法のほか、核酸が組込まれたベクターを投与する方法が挙げられる。上記ベクターとしては、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター等が挙げられ、これらのウイルスベクターを用いることにより効率よく投与することができる。
また、本発明の医薬組成物をリポソームなどのリン脂質小胞体に導入し、その小胞体を投与することも可能である。siRNAやshRNAを保持させた小胞体をリポフェクション法により所定の細胞に導入する。そして、得られる細胞を例えば静脈内、動脈内等に全身投与する。脳等に局所投与することもできる。例えば、成人に上記の医薬組成物を投与する場合は、一日あたり0.1μg/kg〜1000 mg/kg、好ましくは一日あたり1μg/kg〜100 mg/kgを投与することができる。
siRNA又はshRNAを目的の組織又は器官に導入するために、市販の遺伝子導入キット(例えばアデノエクスプレス:クローンテック社)を用いることもできる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
GEF-1及び欠損変異体の各発現ベクターの作製
GEF-1及び各欠損変異体の制限酵素EcoRIサイト及びFLAGエピトープ配列を含むセンス鎖プライマーと、制限酵素NotIサイトを含むアンチセンス鎖プライマーとを用いてGEF-1を鋳型としてPCRを行い、各変異体cDNAを作製した。PCRは変性94度30秒、アニーリング60度30秒、伸長反応72度90秒から300秒の条件で20サイクル行った。プライマーとして、以下のセンス鎖、アンチセンス鎖を用いた。
Zセンスプライマー: 5'-TTGAATTCATGGACTACAAGGACGACGATGACAAGATGGGGCGAGGCAGCGGCACC-3' (配列番号13)
Pセンスプライマー: 5'-TTGAATTCATGGACTACAAGGACGACGATGACAAGCCCCCAGAGTACCTGACCAGC-3' (配列番号14)
Cセンスプライマー: 5'-TTGAATTCATGGACTACAAGGACGACGATGACAAGTTTAGTGAGCAGTACCAGAAC-3' (配列番号15)
Qセンスプライマー: 5'-TTGAATTCATGGACTACAAGGACGACGATGACAAGCCCTTGCCTTATGCCCAGCTC-3' (配列番号16)
Z-アンチセンスプライマー: 5'-ATAGTTTATGCGGCCGCTAAGTGGTAGAGGCAGCTTT-3' (配列番号17)
P-アンチセンスプライマー: 5'-ATAGTTTATGCGGCCGCTCAGGAAGTTATGGGCTGAGA-3' (配列番号18)
C-アンチセンスプライマー: 5'-ATAGTTTATGCGGCCGCTAGGCACGCATCTGGACAGTCT-3' (配列番号19)
Q-アンチセンスプライマー: 5'-ATAGTTTATGCGGCCGCTCAGTCGAAGGAGATGAGCTGGGT-3' (配列番号20)
増幅産物の各配列を確認した後に、EcoRIとNotIによる切断フラグメントをpcDNA3動物細胞発現ベクター(インビトロジェン社)のEcoRI-NotIサイトに導入し、GEF-1及び欠損変異体の各発現ベクターを作製した。
GEF-1によるMDCK細胞の形態変化
イヌ腎臓由来のMDCK細胞は10%ウシ胎児血清、ペニシリン(100単位/mL)、ストレプトマイシン(0.1 mg/mL)含有ダルベッコ改変イーグル培地を用いて培養した。MDCK細胞のGEF-1等強制発現細胞は、公知の方法に従って作製した(Patki, V., et al., Nature, 394, 433-434, 1998)。具体的には、MDCK細胞にGEF-1(ZPCQ)又は欠損変異体の各発現ベクターをブラストシジン選択遺伝子pSV2bsrベクター(フナコシ社)と同時に導入し、ブラストシジン(フナコシ社)で選択(2 mg/L)後、安定発現細胞を得、限界希釈法を用いて各発現細胞をクローニングした。
通常MDCK細胞は、上皮細胞に特徴的な敷石状形態を見せる。MDCK細胞をHGFで刺激すると、刺激依存的に細胞運動性が亢進して細胞間の結合が切れ、敷石状形態が崩壊する。この現象はin vitro系におけるEMTモデルとして知られている。空発現ベクターとブラストシジン選択遺伝子を共導入した対照MDCK細胞 (MDCK/bsr細胞、図2上段中央パネル)は、MDCK細胞と同様に敷石状形態を示した。このMDCK/bsr細胞にHGF刺激を加えるとEMTが誘導され、敷石状形態が崩壊した(図2上段右パネル)。一方、GEF-1を安定に発現させたMDCK細胞(MDCK/GEF-1細胞、図2上段左パネル)は、HGF刺激非依存的に細胞運動性が亢進し、敷石状形態が崩壊した紡錘形の線維芽細胞様形態を示した。このことは、GEF-1を安定に発現したことによって、MDCK細胞がEMT誘導状態になったと考えられる。
さらに、GEF-1のPCQ領域、CQ領域をそれぞれ安定発現させたMDCK細胞(MDCK/PCQ細胞、MDCK/CQ細胞)は、MDCK/GEF-1細胞(MDCK/ZPCQ細胞)と同様にHGF刺激非依存的に細胞運動が亢進し、紡錘形の線維芽細胞様形態を示した(図2下左表(線維芽細胞様形態変化+))。一方、これら以外の欠損変異体発現細胞は線維芽細胞様形態変化を示さなかった(図2下左表(線維芽細胞様形態変化−))。
HGF刺激非依存的に線維芽細胞様形態変化を示さなかった細胞のうち、Q領域、ZP領域、Z領域、P領域を安定発現させたMDCK細胞(MDCK/Q細胞、MDCK/ZP細胞、MDCK/Z細胞、MDCK/P細胞)はHGF刺激依存的に細胞運動が亢進し、敷石状形態が崩壊した紡錘形の線維芽細胞様形態を示した(図2下左表(HGF刺激による形態変化+)、図2下段右上パネル)。
しかし、ZPC領域、PC領域、C領域を安定発現させたMDCK細胞(MDCK/ZPC細胞、MDCK/PC細胞、MDCK/C細胞)はHGF刺激を加えても細胞運動が亢進されず、敷石状形態が維持された。これらの細胞では、GEF-1のC領域を少なくとも含み、かつQ領域を含まない領域を安定発現することにより、HGF刺激によるEMTの誘導が阻害されていると考えられた(図2下左表(HGF刺激による形態変化−)、図2下段右下パネル)。
GEF-1によるMDCK細胞の運動性亢進(スクラッチ実験)
実施例2で作製したMDCK/GEF-1細胞及びMDCK/bsr細胞を飽和状態まで培養し、その細胞面をマイクロチィップで引っ掻き、傷をつける。次に、この傷の修復過程を時間経過ごとに観察した。
MDCK/bsr細胞は時間経過とともに傷の両側から徐々に押し出されて傷面を覆っていくのに対して、MDCK/GEF-1細胞は個々の細胞が傷面の空いているスペースに個々の細胞が勝手に移動して傷を修復する(図3)。この現象はMDCK/GEF-1細胞の運動性が際だって亢進していることを示している。
GEF-1によるMDCK細胞の運動性亢進(トランスウェル細胞遊走実験)
トランスウェルチャンバー(24ウエル、8ミクロンポア、BDファルコン)を用いて、in vitro系でのGEF-1によるMDCK細胞運動性の亢進を調べた。培地を満たしたチャンバー上層に、実施例2で作製した4×104個のMDCK/GEF-1細胞及びMDCK/bsr細胞を加えた。この時、一部のMDCK/bsr細胞にはHGFを50 ng/mLの濃度で添加した。24時間インキュベートした後、チャンバーメンブレン上層面の細胞を綿棒でぬぐい取った。チャンバーメンブレン下層に移動した細胞を4% PFA/PBSを用いて室温下で30分固定し、0.1 % Triton X-100 / PBSで処理後、ヨウ化プロピル(1 mg/L PBS)で細胞核を染色した。染色された細胞核を顕微鏡下写真撮影し、単位面積あたりのメンブレン透過細胞数を算出した。細胞数は3ウェルの平均値を用いて、細胞の運動性を比較した。
その結果、HGFの添加によりEMT誘導を受けたMDCK/bsr細胞は、細胞運動性が約2倍亢進していた(図4)。一方、MDCK/GEF-1細胞はMDCK/bsr細胞と比較して約8倍、HGF添加MDCK/bsr細胞と比較しても約4倍の細胞運動性の亢進が認められた(図4)。
GEF-1によるMDCK細胞におけるα−平滑筋アクチン発現誘導
実施例5で用いる各MDCK安定発現細胞は、実施例2で作製したものを使用した。
(1)ウエスタンブロット法
PBSで洗浄したMDCK/GEF-1細胞とMDCK/bsr細胞から、NP-40溶解緩衝液(50mM トリス塩酸緩衝液, pH8.0、150 mM NaCl、1% NP-40、タンパク質分解酵素阻害剤カクテル(シグマ社))用いてタンパク質を可溶化した。そのタンパク質をSDS-PAGEで分離後、PVDF膜に転写した。PVDF膜を5%スキムミルク含有PBSで室温下、1時間ブロッキングし、続いて抗α−平滑筋アクチン-モノクローナル抗体(シグマ社)を0.05% tween-20含有PBS(PBST)で1000倍希釈した1次抗体液と室温下で、1時間反応させた。PVDF膜をPBSTで洗浄後、PVDF膜をパーオキシダーゼ標識抗マウスIgGモノクローナル抗体(アマシャムバイオサイエンス社)をPBSTで2000倍希釈した2次抗体液と室温下で、1時間反応させた。PVDF膜を洗浄後、ECLTMウエスタンブロット分析システム試薬(アマシャムバイオサイエンス社)を用いて発色させた。
その結果、非上皮細胞に特異的なタンパク質であるα−平滑筋アクチンの発現は、MDCK/bsr細胞には認められなかったが、MDCK/GEF-1細胞には強く認められた(図5上パネル)。
(2)細胞免疫化学染色法
MDCK/GEF-1細胞とMDCK/bsr細胞をチェンバースライド(BDファルコン社)上で培養した。各細胞をPBSで洗浄した後に、4%パラホルムアルデヒド含有PBS溶液、0.1 %Triton X-100含有PBS溶液でそれぞれの細胞を室温下に20分間固定し、透過処理後、5%BSA含有PBSで4℃で一晩ブロッキングした。抗α−平滑筋アクチン-モノクローナル抗体を1%BSA含有PBSで200倍希釈した1次抗体液を4℃で、一晩、細胞と反応させ、洗浄後にAlexa Fluor 488標識抗マウスIgGモノクローナル抗体を1%BSA含有PBSで200倍希釈した2次抗体液を室温下で、1時間細胞と反応させ、化学染色を行った。洗浄後、細胞を蛍光顕微鏡で観察した。
その結果、ウエスタンブロット解析同様に、非上皮細胞のマーカータンパク質であるα−平滑筋アクチンはMDCK/bsr細胞には発現が認められなかったが、MDCK/GEF-1細胞には強発現が認められた(図5下パネル)。
GEF-1(ZPCQ)およびQ領域欠損変異体発現B16細胞の樹立
B16細胞のGEF-1等強制発現細胞は、公知の方法に従って作製した(Patki, V., et al., Nature, 394, 433-434, 1998)。具体的には、B16細胞にGEF-1(ZPCQ)又はQ領域欠損変異体(ZPC、PC、C領域)発現ベクターと選択遺伝子pSV2bsrベクターを導入した(図1のA,B)。ブラストサイジン(2mg/L)を培地に加え、安定発現細胞を得、限界希釈法を用いてクローン化した。
以下、GEF-1(ZPCQ)を強制発現させたB16細胞を「B16/ZPCQ細胞」と表記する。ZPC、PC、C領域を強制発現させたB16細胞も、B16/ZPCQ細胞と同様に表記することもある。
GEF-1(ZPCQ)を強制発現させたB16細胞(B16/ZPCQ細胞)は、親株のB16細胞やベクターのみを導入した選択薬剤対照B16細胞(B16/bsr細胞)より線維芽細胞様形態を示し、細胞−細胞間接触が少なくなっていた(図6)。一方、Q領域を欠いたGEF-1欠損変異体発現B16細胞(B16/ZPC細胞、B16/PC細胞、B16/C細胞)では、細胞−細胞間接触の多い形態を示した(図6)。
細胞増殖能
上記で作製した各Q領域欠損変異体発現B16細胞の細胞増殖能を調べた。各細胞を細胞密度が3×102 / cm2となるように96ウェル培養プレートに植え継ぎ、24時間ごとにWST-8キット(同仁化学)を用いて細胞密度を測定した。細胞数は、5ウェルの平均値を用いた。
その結果、図7に示すように各Q領域欠損変異体発現B16細胞は、対照である親株細胞のB16細胞及び選択薬剤対照のB16/bsr細胞と比較して、細胞増殖能において大きな差は認められなかった。
in vitro細胞遊走実験
トランスウェルチャンバー(ファルコンBD)を用いて、in vitroでの各変異B16細胞の運動能を調べた。 FBS不含培地を満たしたチャンバー上層に1×105個の細胞を入れ、チャンバー下層にはFBSを含む培地を満たした。24時間インキュベート後、チャンバーメンブレン上層面の細胞を綿棒でぬぐい取った。チャンバーメンブレン下層に移動した細胞を4% PFA/PBSを用いて室温下で30分固定し、0.1 % Triton X-100 / PBSで処理後、ヨウ化プロピル(1mg/L PBS)で細胞核を染色した。細胞核を顕微鏡下写真撮影し、単位面積あたりのメンブレン透過細胞数を産出した。細胞数は3ウェルの平均値を用い、親株のB16細胞の遊走性を基準として、他の細胞の遊走性を比較した。
その結果、B16/ZPCQ細胞は親株のB16細胞やB16/bsr細胞と比較して遊走性が上昇していた(図8)。一方、Q領域を欠損するGEF-1変異体を導入したB16細胞(B16/ZPC細胞、B16/PC細胞、B16/C細胞)では、顕著にその遊走性が低下していた。C領域強制発現B16細胞(B16/C細胞)では、顕著に遊走性が抑制されていた。B16/C細胞は、親株B16細胞の遊走性の1%以下の遊走性しか示さなかった。
in vivoがん細胞転移実験
上記実施例8のin vitro細胞遊走実験において、遊走性の増加が認められたB16/ZPCQ細胞と顕著な遊走性の低下が認められたB16/C細胞のin vitroでの転移能の変化を検討した。
in vivoでのB16細胞転移実験は、B16/ZPCQ細胞、B16/C細胞、B16/bsr細胞、B16細胞(1×106/0.2 mL PBS)をC57BL6マウス尾静脈より投与した後のマウスの生存日数を比較して行った。B16細胞等は肺に転移し、コロニーを形成し、個体死を引き起こす。細胞投与から個体死までの日数を計測し、50%致死日数をそれぞれの細胞の転移能の指標とした。
その結果、図9に示すように、B16細胞、選択薬剤対照B16/bsr細胞では50%生存日数が42日であったのに対し、GEF-1を導入したB16/ZPCQ細胞では25日であり、大幅に50%生存日数が減少した。また、逆にC領域強制発現B細胞のB16/C細胞では、50%生存日数は87日であり、B16細胞又は選択薬剤対照B16/bsr細胞の2倍以上大幅に延長していた。
従って、GEF-1強制発現B16細胞のB16/ZPCQ細胞は、転移性の昂進が認められた。一方、GEF-1のC領域強制発現B16細胞のB16/C細胞は、運動性、転移性の顕著な低下が認められた。以上の結果により、GEF-1タンパク質が転移性がん細胞の運動能・転移能に大きく関わっていることが示された。そして、GEF-1タンパク質の発現を減少させるか、あるいは、GEF-1タンパク質のC領域を導入することにより、がん細胞の転移を抑制できることが示された。
GEF-1構造の模式図である。パネルAはGEF-1の特殊配列、領域模式図を示す。パネルBは、GEF-1(ZPCQ)およびGEF-1/Q領域欠損変異タンパク質の模式図を示す。 GEF-1及びGEF-1の領域欠損変異タンパク質を発現するMDCK細胞の形態変化を示す図である。 GEF-1による上皮由来MDCK細胞の細胞運動性の亢進をスクラッチ実験により示す図である。 GEF-1による上皮由来MDCK細胞に対する細胞運動性の亢進をトランスウエル実験により示す図である。 GEF-1による上皮由来MDCK細胞の非上皮系細胞特異的タンパク質、α-平滑筋アクチンの発現をウエスタンブロット法、及び細胞免疫化学染色法により示す図である。 GEF-1及びQ領域欠損体を発現するB16細胞の形態変化を示す図である。 GEF-1及びGEF-1/Q領域欠損変異タンパク質発現B16細胞の細胞増殖能を示す図である。図中、「●」はB16細胞;「○」はB16/bsr細胞;「▲」はB16/ZPCQ細胞;「◇」はB16/ZPC細胞;「□」はB16/PC細胞;「■」はB16/C細胞をそれぞれ示す。 GEF-1及びGEF-1/Q領域欠損変異タンパク質発現B16細胞の運動性を示す図である。 B16/ZPCQ細胞及びB16/C細胞投与マウスの生存率を示す図である。図中、「−」(黒色)はB16細胞;「−」(灰色)はB16/bsr細胞;「●」はB16/ZPCQ細胞;及び「−」(太線)はB16/C細胞を示す。
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Claims (15)

  1. ガラクトシルセラミド発現因子−1のC領域を少なくとも含み、かつQ領域を含まないポリペプチドを含有する医薬組成物。
  2. 以下の(a)又は(b)のポリペプチドを含有する医薬組成物。
    (a)配列番号8、10若しくは12で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド
    (b)配列番号8、10若しくは12で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ上皮−間葉系細胞変換抑制作用若しくはがん細胞転移抑制作用を有するポリペプチド
  3. ガラクトシルセラミド発現因子−1のC領域を少なくとも含み、かつQ領域を含まないポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含有する医薬組成物。
  4. 以下の(a)又は(b)のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含有する医薬組成物。
    (a)配列番号8、10若しくは12で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド
    (b)配列番号8、10若しくは12で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ上皮−間葉系細胞変換抑制作用若しくはがん細胞転移抑制作用を有するポリペプチド
  5. 以下の(a)又は(b)のポリヌクレオチドを含有する医薬組成物。
    (a)配列番号7、9若しくは11で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド
    (b)配列番号7、9若しくは11で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ上皮−間葉系細胞変換抑制作用若しくはがん細胞転移抑制作用を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
  6. ガラクトシルセラミド発現因子−1の発現抑制物質を含有する医薬組成物。
  7. ガラクトシルセラミド発現因子−1の発現抑制物質が、ガラクトシルセラミド発現因子−1をコードする遺伝子に対するsiRNA又はshRNAである請求項6記載の医薬組成物。
  8. ガラクトシルセラミド発現因子−1をコードする遺伝子が、以下の(a)又は(b)のポリペプチドをコードする塩基配列を含むものである請求項7記載の医薬組成物。
    (a)配列番号2、4若しくは6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド
    (b)配列番号2、4若しくは6で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ上皮−間葉系細胞変換誘導作用若しくはがん細胞転移作用を有するポリペプチド
  9. ガラクトシルセラミド発現因子−1をコードする遺伝子が、以下の(a)又は(b)のポリヌクレオチドを含むものである請求項7記載の医薬組成物。
    (a)配列番号1、3若しくは5で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド
    (b)配列番号1、3若しくは5で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ上皮−間葉系細胞変換誘導作用若しくはがん細胞転移作用を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
  10. 抗がん剤である請求項1〜9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
  11. がん細胞転移抑制剤である請求項1〜9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
  12. ガラクトシルセラミド発現因子−1のC領域を少なくとも含み、かつQ領域を含まないポリペプチドを発現させることを特徴とする、がん細胞転移抑制方法。
  13. ガラクトシルセラミド発現因子−1の発現を抑制することを特徴とする、がん細胞転移抑制方法。
  14. ガラクトシルセラミド発現因子−1のC領域及びQ領域を少なくとも含むポリペプチドを含有するがん細胞高転移能誘導剤。
  15. ガラクトシルセラミド発現因子−1のC領域及びQ領域を少なくとも含むポリペプチドを発現させることを特徴とする、がん細胞高転移能誘導方法。


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