JP2005246504A - 銅の鏡面切削加工におけるダイヤモンド工具の損耗抑制方法 - Google Patents

銅の鏡面切削加工におけるダイヤモンド工具の損耗抑制方法 Download PDF

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誠宏 樋口
Shoichi Shimada
尚一 島田
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Abstract

【課題】無酸素銅などの被削材の超精密切削加工において、ダイヤモンド工具の損耗を抑制し、工具寿命を向上させることが可能な切削加工方法を提案する。
【解決手段】ダイヤモンド工具として単結晶ダイヤモンド工具を用い、少なくとも切削点周辺を酸素分圧8KPa程度の雰囲気にして、切削加工を行う。切削点周辺を酸素分圧の低い雰囲気に変える方法として、前記単結晶ダイヤモンド工具の刃先周辺に窒素ガスを噴射する。また、前記単結晶ダイヤモンド工具の切刃稜線の凹凸は1μm以下とすることが好ましい。
【選択図】図4

Description

本発明は、ダイヤモンド工具により銅を切削加工する方法に関するものであり、銅を超精密切削加工する際に生じる刃先の摩耗だけでなくチッピングの発生をも抑制し、ダイヤモンド工具の寿命を向上させることが可能な切削加工方法に関する。
一般的に、ダイヤモンド工具を用いる超精密切削加工の分野では切削液を工具の刃先に供給し、潤滑性の向上や切削温度上昇の抑制、切屑排出性の向上などが図られている。しかしながら、切削液の処理など環境問題が取りざたされ、コーティング超硬工具などを用いる通常の切削加工ではドライ切削加工が増えつつある。ドライ切削加工は低温の空気を工具刃先に吹き付けて切削する方法であるが、この方法では被削材の酸化が促進され、良好な仕上げ面が得られないことや、切削液を用いる場合に比べて冷却効果が低く、工具刃先の摩耗が著しく加工面の精度を早期に低下させるという問題点が指摘されている。
この問題点を解決するものとして、特許文献1に記載の切削方法がある。この切削方法は、切削工具として超硬の基材上にTiCやTiCNなどの被覆層を設けたものを用い、マグネシウムやチタン、あるいはアルミニウムなどの金属を切削するもので、窒素ガスを刃先周辺に噴射しながら、刃先は500℃以上の加工温度状態にて切削加工を行うものである。
また、上記とは別に雰囲気を制御しながら切削する方法として、特許文献2に記載の切削方法がある。この切削方法は、切削工具として硬質窒化物を硬質分散相とする硬質材料よりなる切削工具を用い、切削点付近の雰囲気の酸素含有量を2容量%以下としてドライ切削加工を行うものである。酸素雰囲気での切削加工では、硬質の窒化物が高温の酸素雰囲気に長時間晒されて表面が酸化され、その表面の酸化物は被削材との接触により容易に剥がれ、再び表面が酸化されるというように、常に酸化雰囲気に晒されることになり、工具の摩耗が進展する。そのため、切削点付近の雰囲気の酸素含有量を2容量%以下としてドライ切削加工を行うことで工具の摩耗を低減し、寿命を向上させるものである。
特開平11−197988号公報 特開昭63−102844号公報
ところで、近年、素粒子物理学の実験的研究に必要な線形加速器に用いる、約100万枚の加速管ディスクをダイヤモンド切削工具により加工する要求があり、大量の無酸素銅を超精密切削加工する必要性に迫られている。この超精密切削加工においては、上記の特許文献1および特許文献2に記載されているような切削工具では所望の精度や鏡面を得ることができず、単結晶ダイヤモンド工具の利用が不可欠となる。
この単結晶ダイヤモンド工具は、軟質金属の鏡面切削加工に非常に適した工具ではあるが、無酸素銅などの切削加工を行うと、純アルミニウムや無電解ニッケルメッキ面の切削加工時に比べて刃先のチッピングが起こりやすく、寿命が短くなるという問題が発生する。
このようなことから、本発明は、無酸素銅などの被削材の超精密切削加工において、ダイヤモンド工具の損耗を抑制することの可能な切削加工方法を提案するものである。
本発明の第1の特徴は、単結晶ダイヤモンド工具により銅の鏡面切削加工を行う方法において、
少なくとも切削点周辺を酸素分圧の低い雰囲気にして、工具損耗を抑制しながら切削加工を行うことである。
本発明は、銅の鏡面切削加工を対象としているので、工具として単結晶ダイヤモンド工具を使用する。銅の切削におけるダイヤモンド工具の損耗形態には、すくい面のクレータ摩耗や刃先の境界摩耗などの漸進的なすり減り摩耗と、チッピングや欠損などの突発的な脆性損傷がある。前者は銅表面の酸化とダイヤモンドによる酸化銅の還元という熱化学的反応が原因であると考えられている。また後者は、工具切刃に先在する微小クラックなどの欠陥がすり減り摩耗と同様の熱化学的な作用によって大きくなり、ダイヤモンドの強度を低下させることが原因であると考えられる。銅を鏡面切削加工する場合、すくい面に発生するクレータ摩耗は工具寿命に関与しないが、刃先に生じる境界摩耗はチッピングを誘発する原因になる。ダイヤモンドを破壊させるような応力が発生する可能性の極めて低い超精密切削加工において、境界摩耗の発達とダイヤモンドの強度低下が相乗的に作用し、チッピングが生じやすくなり、工具寿命が短くなることが多い。このようなことを避ける対策として、切削点周辺を酸素分圧の低い雰囲気にすることは有効である。この根拠として、つぎの実験結果を示すことができる。
図1はダイヤモンド工具による銅の切削状態を模擬したモデル実験を空気中と窒素中で行い、ダイヤモンドの強度変化を比較したものである。モデル実験は、工具のすくい面と同等の研磨仕上げを行ったダイヤモンド試料の(100)面を純銅粉末と接触させて、約250℃の温度で一定時間加熱する方法によった。そして、ダイヤモンドの強度を先端半径50μmのダイヤモンド圧子を取り付けた微小圧縮試験器を用いて、リングクラック発生時の平均接触圧力を測定する方法で求めた。図示するように、ダイヤモンドの強度分布はWeibull分布に従うので、累積確率50%における値を平均強度として、強度の加熱時間に対する変化を図2に示すように調べた。いずれの加熱雰囲気においてもダイヤモンドの強度の低下が認められるが、窒素雰囲気中で加熱されたダイヤモンドの強度低下が空気中のそれに比べて少ないことがわかる。さらに、リングクラック発生時の破壊荷重で伸展するクラック長さを、線形破壊力学に基づく解析により求めた結果を図3に示す。窒素雰囲気中で加熱されたダイヤモンドでもクラック長さは伸展するが、空気中のそれに比べて小さい。このことより、ダイヤモンドの強度低下の原因は、ダイヤモンド中に先在する微小クラックの先端部の炭素原子が酸化した銅粉末を還元し、一酸化炭素や二酸化炭素となって気化する結果、クラックが伸展するためであると考えられる。このモデル実験の結果より、ダイヤモンドの切削点周辺を酸素分圧の低い雰囲気にすることで、触媒作用を持つ銅を切削する際のダイヤモンドの強度低下を抑え、チッピングの発生を抑制することができる。
第2の特徴は、前記単結晶ダイヤモンド工具の刃先周辺に窒素ガスを噴射することにより、酸素分圧の低い雰囲気にすることである。
切削点周辺を酸素分圧の低い雰囲気に変える方法として、ダイヤモンド工具の刃先周辺に窒素ガスを噴射することが好適である。しかし、単に酸素濃度の少ないガスを噴射しても、噴射圧力が高ければ酸素分子の絶対量は増えることになる。本発明の場合、刃先周辺の酸素分子の絶対量を少なくすることで、ダイヤモンドの強度低下を抑制し、チッピングを防止するものであるので、酸素濃度のみならずガスの噴射圧力にも細心の考慮を払っている。
第3の特徴は、前記単結晶ダイヤモンド工具の切刃稜線の凹凸は1μm以下であることである。
このような工具を使用することで、長時間の銅の鏡面切削加工を行うことができる。
本発明の切削加工方法は、単結晶ダイヤモンド工具を用い、その切削点周辺を酸素分圧の低い雰囲気にしているので、切削界面における熱化学的相互作用が抑えられ、工具刃先の境界摩耗が発達しにくくなる。また、ダイヤモンドの強度の低下が少なく、チッピングの発生を減少させることができる。
本発明の例として、単結晶ダイヤモンドバイトを用いて無酸素銅の切削加工を行う方法を説明する。この加工に使用した装置は、単結晶ダイヤモンドの真剣バイト、被削材として無酸素銅、およびそれらに相対運動を与えた超精密旋盤である。そして、単結晶ダイヤモンド工具のすくい面上から刃先先端方向に向かって窒素ガスを噴射できるようにノズルが取り付けられており、加工時にこのノズルから切削点に向かって窒素ガスが噴射される。なお、本願で切削点とは、工具刃先と被削材とが接触する部分を指し、切削点周辺とは、切削点を含むその周辺部を指す。
ノズルから窒素ガスが噴射されると、切削点周辺の酸素分圧が下がり、酸素分子の少ない雰囲気になっている。低酸素雰囲気を表す量として、本願では酸素分圧を用いる。酸素分圧とは、酸素濃度と圧力の積である。切削点の圧力は、窒素ガスの噴射により0.14MPaと大気圧に比べて高い状態になっている。たとえ酸素濃度の低い窒素ガスを噴射したとしても、高圧であると酸素分子の数は増え、切削界面での熱化学的作用に起因するダイヤモンドの強度低下を招くことになる。従って、圧力を考慮した酸素分圧を制御することで、ダイヤモンドの強度低下が減少し、チッピングを防止することが可能になる。この酸素分圧が8KPa以下になっていることは、ダイヤモンドの強度低下を抑制する効果の点から好ましい。
本発明の切削加工方法により、単結晶ダイヤモンドバイトを用いて円板状の無酸素銅の正面切削加工を行った。また比較例として、工具刃先に空気を吹き付ける方法により加工を行った。これらの加工条件を表1に示す。
Figure 2005246504
本発明の切削加工方法では、窒素ガスの噴射により、切削点周辺の酸素分圧を8KPaに設定して加工を行った。また、比較例として工具刃先に空気を吹き付ける切削加工では、空気の噴射により切削点周辺の酸素分圧を31KPaに設定した。そして、一定切削距離ごとに工具すくい面のクレータ摩耗と境界摩耗の大きさおよびチッピングや欠損の発生の有無をレーザー顕微鏡により観察した。
比較例の方法によりダイヤモンド工具で銅を切削すると、すくい面にはクレータ摩耗が生じ、刃先には境界摩耗が生じる。その一例を図4に示す。また、工具寿命まで切削した時の工具のそれぞれの摩耗量を測定した結果を図5に示す。クレータ深さKは切削初期に増加するが、その後はあまり変化しない。境界摩耗深さKと境界摩耗幅Kは切削距離の増加とともに増大する。境界摩耗深さの増大はダイヤモンドの強度低下と相まって、刃先のチッピングや欠損などの脆性損傷に大きな影響を与え、その量的変化は工具寿命を左右する。
図6は本発明と比較例の方法により切削加工を行った場合において、クレータ深さK=3μmに達するまでの切削距離の分布を示したものである。ダイヤモンド工具の摩耗の進行は個々に異なるため、一定のクレータ深さに達する切削距離は図のように変動する。図中の2本の分布曲線を比べると、酸素分圧の低い雰囲気で切削すると、一定摩耗量に達するまでの切削距離が約2倍弱程度伸びていることから、クレータ摩耗が抑制されることは明らかである。
図7は境界摩耗深さK=0.5μmに達するまでの切削距離の分布を示したものであり、図8は境界摩耗幅K=5μmに達するまでの切削距離の分布を示したものである。いずれの結果からも酸素分圧の低い雰囲気が境界摩耗を抑制させることは明らかである。
図9は工具が寿命になるまでに切削した距離の分布を示したものである。工具の寿命は刃先に発生したチッピングの確認と被削材の仕上げ面粗さの悪化から判断した。低酸素分圧条件におけるデータは少ないが、低酸素雰囲気が工具寿命を長くする効果が認められる。これは、銅とダイヤモンドとの接触加熱実験で明らかにしたように、酸素分圧の低い雰囲気中ではダイヤモンドの強度低下が少なく、また境界摩耗深さも小さいことがチッピングや欠損の発生を抑制したものと考えられる。
本発明の工具損耗の抑制方法は、銅をダイヤモンド工具で超精密切削する加工に利用できる。
雰囲気の違いによるダイヤモンドの強度分布を示した図。 ダイヤモンドと銅との接触加熱によるダイヤモンドの強度変化を示した図。 ダイヤモンドと銅との接触加熱によるダイヤモンド中のクラック長さの伸展状況を示す図。 ダイヤモンド工具の摩耗の状況を示す図。 比較例での摩耗の進行状態を示す図。 クレータ深さK=3μmに達するまでの切削距離の分布を示す図。 境界摩耗深さK=0.5μmに達するまでの切削距離の分布を示す図。 境界摩耗幅K=5μmに達するまでの切削距離の分布を示す図。 工具寿命に達するまでの切削距離の分布を示す図。
符号の説明
1 ダイヤモンド
2 前切れ刃
3 横切れ刃
4 境界摩耗

Claims (3)

  1. 単結晶ダイヤモンド工具により銅の鏡面切削加工を行う方法において、
    少なくとも切削点周辺を酸素分圧の低い雰囲気にして、工具損耗を抑制しながら切削加工を行うことを特徴とする銅の鏡面切削加工方法。
  2. 前記単結晶ダイヤモンド工具の刃先周辺に窒素ガスを噴射することにより、酸素分圧の低い雰囲気を生成し、工具損耗を抑制することを特徴とする請求項1に記載の鏡面切削加工方法。
  3. 前記単結晶ダイヤモンド工具の切刃稜線の凹凸は1μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の鏡面切削加工方法。
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