JP2005229837A - 微生物分離法 - Google Patents

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琢自 中島
Yoko Kato
陽子 加藤
Tetsushi Takeshita
哲史 竹下
Naoki Matsuda
尚樹 松田
Yasushi Kodama
靖司 児玉
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Abstract

【課題】 速生育微生物の増殖を抑え、遅生育微生物を優先的に増殖させ、分離する微生物分離方法を提供する。
【解決手段】 環境中に生存する微生物の試料の中から遅生育微生物のみを分離し、確保する微生物分離方法において、前記試料に抗微生物剤を添加して速生育微生物の増殖を抑制した後、該抗微生物剤を中和剤で中和し、遅生育微生物を優先的に培養する。前記微生物として、細菌または真菌を挙げることができる。また、前記抗微生物剤としてはグルコン酸クロルヘキシジンを挙げることができる。
【選択図】 なし

Description

本発明は、微生物分離法に関し、詳しくは、生育が遅い微生物、いわゆる遅生育微生物を増殖が速い微生物、いわゆる速生育微生物より優先的に増殖させ、確保する微生物分離法に関する。
微生物は地球上のいたるところに生息していることが知られており、それら環境微生物は様々な特徴を有している。その環境微生物を分離する場合、試料中に存在する微生物をできるだけ多種類分離する方法と、特定の性質を持つ微生物を選択分離する方法と、が挙げられる。
前者の分離方法は、幅広く微生物を集め、その中から何か有用微生物を見つけ出そうとする場合に使われる。その代表的な方法が希釈平板法である。一方、後者の選択分離方法は、出現する種類は少なくてもできるだけ不必要な微生物の生育を抑え、必要な微生物のみを分離する場合に使用される。
多種類分離方法における希釈平板法は、微生物の分離にごく普通に使われており、環境中より多種類の微生物を分離するのに最も一般的な方法である。この方法の手法は、環境中から得られた微生物試料を滅菌水(環境に合わせて、海洋から得られた試料は滅菌海水を使用する)などで一定濃度まで希釈した後、シャーレ中で寒天培地と混合または無菌的にシャーレに作製した寒天培地上に綿棒等を用いて塗沫する。希釈倍率は試料中の微生物数により異なるが、一平板あたり10〜100個位のコロニーが出現するように調整される。この理由は、希釈倍率が低く、培地一面に微生物が生育してしまうと、単一のコロニーとして微生物を分離することができなくなるからである。
前記希釈平板法は、上述のように一般に広く使われているが、試料中に存在する微生物の濃度の差、菌種による生育速度の差などにより培地上にコロニーとして増殖してくる微生物に偏りが生じる。特に、生育速度の差は増殖が速い速生育微生物が優先的に増殖し、培地中の栄養分は枯渇してしまい、生育が遅い遅生育微生物は増殖できないといった問題がある。
そこで、本発明の目的は、速生育微生物の増殖を抑え、遅生育微生物を優先的に増殖させ、分離する微生物分離方法を提供することにある。
本発明者らは、環境中の微生物試料から遅生育微生物を優先的に寒天培地上に増殖させる技術を求めて鋭意研究努力を重ねた結果、環境中の試料を抗微生物剤で処理し、そのあと抗微生物剤を中和(不活性化)するための添加剤で処理を行った後、培養することにより、速生育微生物の増殖を抑え、遅生育微生物を選択的に増殖させることが可能となることを見出し、発明を完成させるに至った。
即ち、本発明の微生物の分離方法は、環境中に生存する微生物の試料の中から遅生育微生物のみを分離し、確保する微生物分離方法において、前記試料に抗微生物剤を添加して速生育微生物の増殖を抑制した後、該抗微生物剤を中和剤で中和し、遅生育微生物を優先的に培養することを特徴とするものである。
本発明によれば、生育の早い速生育微生物の増殖を抑制し、生育の遅い遅生育微生物を優先的に増殖させることが可能となる。
本発明の分離方法を適用することができる微生物試料は、環境中に生存する微生物であり、環境中からの様々なものに適応できるが、好ましくは土壌および海底土から得られる微生物である。かかる微生物試料は、例えば、土壌表面より数センチ下の部分をスパーテル等でかき集め、すぐに保冷剤等で低温保存するなどにより採取することができる。具体的な微生物としては、細菌または真菌を好適に挙げることができる。
本発明で用いられる微生物分離法としては、先ず、試料微生物に抗微生物剤を添加して速生育微生物の増殖を抑制する。具体的には、環境中から得られた微生物試料を計り取り、滅菌試験管に入れる。次いで、この滅菌試験管に適当な濃度の抗微生物剤を含んだ水溶液を添加し、好ましくは振盪器で、例えば、10分から2時間振盪させ、速生育微生物を殺菌する。使用する抗微生物剤は、特に限定されるものではなく、パラベン、塩化ベンザルコニウム、グルコン酸クロルヘキシジン等の既知の消毒剤を使用し得るが、好ましくはグルコン酸クロルヘキシジンを使用する。かかる抗微生物剤により速生育微生物を殺菌するにあたり、殺菌時間は微生物の種類もしくは量および抗微生物剤の種類もしくは濃度等の条件に応じて適宜選定すればよい。
上記振盪により速生育微生物の増殖を抑制した後、抗微生物剤を中和する中和剤を十分量加え、激しく攪拌することにより抗微生物剤を中和する。中和剤は一種類だけではなく、二種類以上用いることも可能であり、使用した抗微生物剤を中和し得るものを適宜選定すればよい。例えば、抗微生物剤がパラベンの場合は中性からアルカリ性条件下にて活性が低下するため、既知のアルカリ剤が好ましく、塩化ベンザルコニウムの場合はカチオン系界面活性剤を用いることが好ましく、更に、グルコン酸クロルヘキシジンは低濃度で細胞膜へ作用を示すという特徴を有しており、レシチンを好適に使用することができる。
中和剤を十分量加え、激しく攪拌した後は、例えば、5000rpm、20分間程度の条件下で遠心し、上清を取り除き、少量の滅菌生理食塩水(採取された試料の環境により異なり、海洋から得られた試料を用いた場合は滅菌海水を用いる)を加える。その後、その試料を、例えば、10倍又は100倍希釈を行い、原液、10倍希釈溶液あるいは100倍希釈溶液100μLを分離培地である栄養培地上に塗沫し、適温で培養することにより、遅生育微生物を優先的に増殖させることが可能となる。
以下に、実験例を挙げて本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明がこれら実験例にのみ限定されるものではない。
実験例1「消毒剤の不活性化試験」
本実験例では、レシチンが消毒剤(グルコン酸クロルヘキシジン)を不活化する能力を調べた。被検菌としては大腸菌を用いた。先ず、大腸菌を適当な液体培地で培養後、約5×106個/mlの濃度となるように滅菌生理食塩水を加え、これにグルコン酸クロルヘキシジンを最終濃度が8μg/mlとなるように加えた。添加10分後、さらに、これに最終濃度が2%となるように卵黄レシチンを添加し、30分間放置した。
不活性化試験前、卵黄レシチン添加直後および添加後30分間放置後のサンプルを一部抜き取り、大腸菌の数をコロニー形成法で確認した。その結果を図1に示す。図中の実線は卵黄レシチン添加による大腸菌数の変化を表し、点線は卵黄レシチン未添加の場合の大腸菌数の変化を表す。この図から分かるように、グルコン酸クロルヘキシジンを加えることにより、大腸菌はすぐに死滅し始めた。しかし、卵黄レシチンを添加することにより、大腸菌の死滅は止まり、その後30分間までは菌の増減は見られなかった。この結果、卵黄レシチンがグルコン酸クロルヘキシジンの活性を完全に抑制していることがわかる。
実験例2「細菌分離実験」
海洋および沿岸より得られた海洋試料を用いた。この海洋試料を、スパーテルを用いて15mlのディスポーザブル滅菌チューブに約0.5g入れたものを5本作製した。
また、グルコン酸クロルヘキシジンの濃度が2μL/ml、8μL/ml、32μL/mlおよび100μL/mlとなるように人工海水にグルコン酸クロルヘキシジンを加え、各種濃度の抗微生物剤を調製した。作製された各濃度の抗微生物剤を4.5mlずつ、前記海洋試料の入ったディスポーザブル滅菌チューブへ分注し、10分間、激しく攪拌した。なお、海洋試料の入ったディスポーザブル滅菌チューブの残りの1本はコントロールとして抗微生物剤を添加しなかった。
撹拌後、5%卵黄レシチンを1ml添加した。添加後、それぞれのサンプルから100μLを取り出し、Difco製マリンアガー2216上に塗沫、培養した。
図2は、細菌のCFU(コロニー形成単位)の経時的変化を示すグラフである。培養1日、3日、7日、14日ごとに菌数をカウントし、CFU(コロニー形成単位)を求めた。その結果、グルコン酸クロルヘキシジンの添加濃度に依存してCFUは減少することが確認された。このうち、特に、グルコン酸クロルヘキシジンの添加濃度が8μLまでは、培養3日目までに増殖してきたコロニー数が抗微生物剤無添加のコントロールと比較して減少しているものの、培養7日目以降に出現してきたコロニー数はコントロールと比較して減少していないことが分かった。
以上の結果より、抗微生物剤を添加した場合、無添加の場合と比較して生育速度の速い細菌が抑制され、生育速度の遅い細菌は8μL/mlの濃度まで影響を受けないことから、生育速度の遅い細菌を優先的に増殖させることが可能であることが分かった。
実験例3「真菌分離実験」
実験例2と同様の操作により、海洋および沿岸より得られた海洋試料を、スパーテルを用いて15mlのディスポーザブル滅菌チューブに約0.5g入れたものを5本作製した。
また、グルコン酸クロルヘキシジンの濃度が50μL/ml、100μL/ml、200μL/mlおよび1000μL/mlとなるように人工海水にグルコン酸クロルヘキシジンを加え、各種濃度の抗微生物剤を調製した。作製された各濃度の抗微生物剤を4.5mlずつ、前記海洋試料の入ったディスポーザブル滅菌チューブへ分注し、10分間、激しく攪拌した。なお、海洋試料の入ったディスポーザブル滅菌チューブの残りの1本はコントロールとして抗微生物剤を添加しなかった。
撹拌後、5%卵黄レシチンを2ml添加した。添加後、それぞれのサンプルから100μLを取り出し、Difco製サブロー寒天培地(人工海水及びクロラムフェニコール含有)上に塗沫培養した。
図3は、真菌のCFU(コロニー形成単位)の経時的変化を示すグラフである。培養3日、7日、14日、21日ごとに菌数をカウントし、CFU(コロニー形成単位)を求めた。その結果、グルコン酸クロルヘキシジンの添加濃度に依存してCFUは減少することが確認された。このうち、特に、グルコン酸クロルヘキシジンの添加濃度が100μLまでは、培養7日目までに増殖してきたコロニー数が抗微生物剤無添加のコントロールと比較して減少しているものの、培養14日目以降に出現してきたコロニー数はコントロールと比較して減少していないことが分かった。
以上の結果より、抗微生物剤を添加した場合、無添加の場合と比較して生育速度の速い真菌(糸状菌および酵母)が抑制され、生育速度の遅い細菌は100μL/mlの濃度まで影響を受けないことから、生育速度の遅い細菌を優先的に増殖させることが可能であることが分かった。
細菌の染色体の複製点あたりのDNA伸長速度はほぼ一定していて、1染色体複製が完了する時間は約40分と言われている。したがって、生育速度の遅い細菌は染色体の複製が終わってから次の複製が始まるまでにDNAの合成のない静止期が見られる。グルコン酸クロルヘキシジンの作用は細菌の膜に作用し、細胞質を漏出させ細菌を死に至らしめる。即ち、生育の早い細菌は細胞分裂も活発であるため、グルコン酸クロルヘキシジンが細菌の細胞膜に作用し、死に至らしめるが、生育の遅い菌はグルコン酸クロルヘキシジンが細胞膜に作用しても、添加される卵黄レシチンによって中和(不活性化)されるため、生存するものと考えられる。
今日、有用微生物を環境中から見つけ出す際に、幅広く微生物を集め、その中から有用微生物を採取する方法が行われているが、従来では困難であった遅生育微生物の採取が本発明の方法により可能となったため、様々な分野において有用微生物を見つけ出すことが容易になることが期待される。
実験例1において、グルコン酸クロルヘキシジンに対する大腸菌の死滅速度とグルコン酸クロルヘキシジンを不活性化する卵黄レシチンを添加したときの大腸菌の死滅速度の関係を示すグラフである。 実験例2において、グルコン酸クロルヘキシジンの添加濃度と細菌のコロニー数(CFU)の経時的変化の関係を示すグラフである。 実験例3において、グルコン酸クロルヘキシジンの添加濃度と細菌のコロニー数(CFU)の経時的変化の関係を示すグラフである。

Claims (7)

  1. 環境中に生存する微生物の試料の中から遅生育微生物のみを分離し、確保する微生物分離方法において、前記試料に抗微生物剤を添加して速生育微生物の増殖を抑制した後、該抗微生物剤を中和剤で中和し、遅生育微生物を優先的に培養することを特徴とする微生物分離法。
  2. 前記微生物が細菌である請求項1記載の微生物分離法。
  3. 前記微生物が真菌である請求項1記載の微生物分離法。
  4. 前記抗微生物剤がグルコン酸クロルヘキシジンである請求項1〜3のうちいずれか一項記載の微生物分離法。
  5. 前記中和剤がレシチンである請求項1〜4のうちいずれか一項記載の微生物分離法。
  6. 前記抗微生物剤の添加から前記中和剤の添加までの時間が5分乃至2時間である請求項1〜5のうちいずれか一項記載の微生物分離法。
  7. 前記中和を行った後、栄養培地に前記試料を塗沫する請求項1〜6のうちいずれか一項記載の微生物分離法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2015188407A (ja) * 2014-03-28 2015-11-02 国立研究開発法人理化学研究所 微生物の培養方法

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