JP2005228707A - 燃料電池用電解質材料 - Google Patents

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Abstract

【課題】 燃料電池に供給する燃料等への加湿を低減あるいは不要とし、低加湿あるいは無加湿条件下において優れたプロトン伝導性を有し、高出力での発電運転を可能とする。
【解決手段】 パーフルオロスルホン酸膜に存在する親水性のイオンクラスターチャネル2の部位に、水酸基を有する有機分子3が選択的に導入されている。
【選択図】 図1

Description

本発明は、燃料電池用電解質材料に係り、特に、固体高分子形燃料電池(PEFC)や直接メタノール形燃料電池(DMFC)など、燃料電池の発電セルを構成する高分子の電解質材料に関する。
近年、水素と酸素の電気化学反応によって発電する燃料電池がエネルギー供給源として注目されている。イオン交換樹脂膜を用いた燃料電池などは一般に、高分子電解質であるイオン交換樹脂膜がアノード極とカソード極の両電極間に狭持された膜電極接合体に、さらに膜電極接合体の各電極との間に燃料(例えば水素ガス)を挿通する燃料流路(アノード側)と酸化剤ガスを挿通する酸化剤ガス流路(カソード側)とを形成するセパレータを設けて構成される。
そして、燃料電池を発電運転させる場合、アノード側、カソード側にそれぞれ必要に応じて加湿された燃料(例えばH2密度の高い加湿水素ガス)、酸化剤ガス(例えば酸素(O2)を含む加湿空気)が供給され、下記式(1)〜(3)で表される電気化学反応(電池反応)によって起電力を生ずる。なお、式(1) 、式(2)は各々アノード側、カソード側での反応を示し、式(3)は燃料電池の全反応である。
2 → 2H++2e- …(1)
(1/2)O2+2H++2e- → H2O …(2)
2+(1/2)O2 → H2O …(3)
イオン交換樹脂膜としては、電気抵抗が小さいこと、電気抵抗を低く維持するために高い保水性を有すること等が求められ、一般にポリマー主鎖であるフッ素樹脂に副鎖としてスルホン酸基を分岐して有する、ナフィオン(Nafion)をはじめとするパーフルオロスルホン酸ポリマー(Nafion系電解質)が使用されている。このNafion系電解質で構成された膜内の微小構造は、相分離によってフッ素樹脂の主鎖が集まって構成された撥水性の骨格チャネルの中に親水性のイオンクラスターチャネルが形成されており、膜中におけるプロトンの伝導メカニズムは水分子を介して行なわれるものであるため、イオンクラスターチャネルに水分子が充填されている状態において初めて充分な伝導性能を得ることができる。
そのため、イオン交換樹脂膜においては保水力は重要な要素の一つであると共に、発電運転中には厳密な湿度管理が不可欠であり、また、構成上水分が気化する100℃以上の温度領域では所定のプロトン伝導を維持できず使用が困難となる。電池反応を担う電極部(電極反応場)は、セル内温度よりも高温になる傾向にあると予想されるが(例えば80℃に設定した場合、電極界面では120℃を超えることが予想される)、この傾向は電流をひいたときにより顕著となる。そして将来的には、燃料電池の作動時の設定温度は更に高くなる方向にあるものと考えられる。
ナフィオン膜を使用した燃料電池として、イオン交換容量(EW値)の異なる複数のナフィオン膜を部分的に積層することで高いプロトン伝導性を保持しつつ、機械的強度を増大させる技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、保水性の重要なナフィオン膜では、かかる構成としても発電運転中の膜内湿度を常に厳密に制御しなければならないのは同様であり、高温に達する条件下では特性維持が難しく、特に100℃以上となる温度領域での使用は困難である。
上記以外に、イオン交換膜を水や水に可溶な有機溶媒で膨潤処理することで含水率を向上させる技術に関する開示がある(例えば、特許文献2参照)。また、ガス拡散電極の製造においてフッ素樹脂に特定のソルビトール脂肪酸エステル(界面活性剤)を混合する例がある(例えば、特許文献3参照)。
特開平6−251780号公報 特開平6−342665号公報 特開平6−36771号公報
上記のように、一般に使用されるNafion系電解質を利用して燃料電池を構成し、電池反応におけるプロトン伝導を充分に確保するには、一定の加湿を行なうことが不可欠で、電解質中の含水度を厳密に管理しなければ安定した発電性能を確保できず、また、使用温度領域が100℃以上となる場合には発電性能を維持できず発電不能となる課題があった。
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、バブラー等による燃料や酸化剤ガスへの加湿を低減あるいは不要とし、低加湿あるいは無加湿条件下において優れたプロトン伝導性を有し、高温領域を含めた広い温度領域において高出力での発電運転を可能とする燃料電池用電解質材料を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
本発明は、プロトン伝導性を示す高分子電解質材に親水基を有する有機分子(特に低分子物質)を複合化させた構成とすることが、保水力の向上及び、水を随伴したプロトン伝導以外の水に代わるプロトン輸送経路の形成に有用であるとの知見を得、かかる知見に基づいてなされたものである。前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
上記目的を達成するために、本発明の燃料電池用電解質材料は、プロトン伝導性高分子材料と、親水基を含むと共にプロトン伝導性高分子材料の親水性部位に選択的に導入された有機分子とで構成したものである。
プロトン伝導性高分子材料の親水性部位に親水基を含む有機分子を選択的に導入する、すなわち例えば、ナフィオン(Nafion)をはじめとするパーフルオロスルホン酸ポリマー(Nafion系電解質)は主鎖であるフッ素樹脂で膜骨格を構成する疎水性チャネル、主鎖から伸びる側鎖にあるスルホン酸基及び対イオン並びに水和する水分子で構成される親水性のイオンクラスターチャネル、及びこれらチャネル間に存在する側鎖エーテルチャネルの三つに相分離した構造を有しており、このうち親水性のイオンクラスターチャネルの部位に選択的に親水基を含む有機分子を導入することで、水を保持する能力が向上すると共に、水に代わるプロトン輸送経路を形成し得るので、低加湿条件あるいは無加湿条件における発電運転時の発電性能を飛躍的に向上させることができ、高出力を安定的に得ることが可能となる。また、100℃以上となる高温条件下での膜中のプロトン伝導性が改善され、発電性能を安定的に維持することができる。これにより、バブラー等による燃料や酸化剤ガスへの加湿を低減あるいは不要化でき、低加湿あるいは無加湿条件下での発電運転を安定的に行なうことが可能である。
本発明の燃料電池用電解質材料は、有機分子として、少なくとも二つの水酸基を有し、かつ分子量が1000以下の低分子物質を用いて構成することができる。
親水基として二以上の水酸基を有する有機分子を導入することで、保水力が向上するので、厳密な加湿制御あるいは加湿動作を不要化でき、低加湿化あるいは無加湿化された条件下において安定したプロトン伝導性、すなわち発電性能を確保することができる。
また、分子量が1000以下の低分子物質で構成することで、プロトン伝導性高分子材料のスルホン酸基等の親水基近傍に配置され易く、プロトン伝導性高分子材料の親水性部位、すなわち親水性のイオンクラスターチャネルに選択的に配置された構成とするのに効果的である。さらに、プロトン伝導性高分子材料中の疎水性チャネル及び親水性のイオンクラスターチャネルの相分離構造(相形状や配向など)を制御しやすく、膜中の親水性のイオンクラスターチャネルに連続性を持たせることができるので、プロトン伝導性を効果的に向上させることができる。
上記の低分子物質の中でも、メチロール化合物より選択される少なくとも一種を用いて構成されるのが望ましく、好ましいメチロール化合物にはトリメチロールプロパンなどが含まれる。特にトリメチロールプロパンなどのメチロール化合物が導入された構成にすると、膜中の含水分が飛躍的に向上し、発電運転時の膜内湿度の影響が抑えられ、所望のプロトン伝導性を保持できる湿度条件の幅を拡げることができる。
また、親水基としてカルボキシル基を有する低分子物質も効果的である。好ましくは、二以上の水酸基を有すると共に更にカルボキシル基を有する低分子物質によって構成することができる。このような低分子物質には、例えばグルコン酸などが含まれる。この場合もまた、膜中の含水分が飛躍的に向上し、発電運転時の膜内湿度の影響を受けずに所望のプロトン伝導性を保持できる湿度条件の幅が拡がる点で有用である。
保水力を向上すると共にさらに無加湿条件下において水を随伴しないプロトン伝導を可能とする観点からは、上記の有機分子、特に低分子物質として、水酸基の重量密度(EW)が30〜40であり、かつ炭素数5〜9の直鎖状化合物を導入するのが特に効果的である。
すなわち、加湿条件下であるときは、水分子を介したプロトン伝導が可能で、より優れたプロトン伝導を確保することができると共に、低湿状態あるいは無加湿状態であるときには、水を介したプロトン伝導と共にあるいは水を介したプロトン伝導を伴なうことなく、水に代わるプロトン輸送経路によるプロトン伝導が可能となる。したがって、100℃以上の高温条件など加湿条件が不安定になる場合や低湿条件とする場合の発電性能を安定化し、高出力が得られると共に、加湿を行なわない無加湿での発電運転が可能となる。
上記の直鎖状化合物としては、キシリトール及びソルビトールから選択される少なくとも一種であるのが特に効果的である。これらは、膜中の含水分を向上させると共に、無加湿状態でのプロトン伝導度をナフィオン等のパーフルオロスルホン酸ポリマーの数十〜数百倍(例えば40〜300倍)にまで向上させることができる。
100℃以上の高温条件下におけるプロトン伝導性を向上させる観点からは、プロトン伝導性高分子材料に融点が150℃以上の有機分子を導入するの効果的である。かかる有機分子には、例えばペンタエリスリトールが含まれる。
保水力を向上すると共に水素ガスバリア性を向上させる観点からは、プロトン伝導性高分子材料に分子量が300以上の有機分子を導入するの効果的である。かかる有機分子には、例えばマルチトールが含まれる。
保水力を向上すると共に耐久性を向上させる観点からは、プロトン伝導性高分子材料に水溶解性が1質量%以下の有機分子を導入するの効果的である。かかる有機分子には、例えばジペンタエリスリトールが含まれる。
本発明によれば、燃料や酸化剤ガスへの加湿を低減あるいは不要とし、低加湿あるいは無加湿条件下において優れたプロトン伝導性を有し、高温領域を含めた広い温度領域において高出力での発電運転を可能とする燃料電池用電解質材料を提供することができる。
以下、本発明の燃料電池用電解質材料について詳述する。
本発明の燃料電池用電解質材料は、プロトン伝導性高分子材料と親水基を含む有機分子とで構成され、前記有機分子がプロトン伝導性高分子材料の親水性部位に選択的に導入されていることを特徴とするものである。
前記プロトン伝導性高分子材料としては、イオン導電性を有する電解質が一般的であり、例えばパーフルオロスルホン酸ポリマーやポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミドスルホン酸などの強酸性ポリマーが挙げられる。市販品として、デュポン社製のナフィオン膜や、ナフィオンソリューション(Nafion Solution、Aldrich Chemical社製)などを適宜選択して使用することができる。
前記有機分子は、親水基を有する有機物質であり、公知の化合物より適宜選択することができるが、好ましくは分子量が1000以下の低分子の有機物質である。特に有機分子が低分子量であると、プロトン伝導性高分子材料の親水性部位への選択的導入が容易であり、親水性部位に特に有機分子が導入された構成が本発明の効果を奏するのに特に効果的である。
ここで、本発明の燃料電池用電解質材料の膜構造を、パーフルオロスルホン酸ポリマーを例に図1を参照して概説する。図1は、膜中に構成されている相分離構造の一部を示している。
パーフルオロスルホン酸ポリマーは、パーフルオロアルキレン基を主骨格(主鎖)とし、その主骨格から分岐するパーフルオロビニルエーテルアルキレン鎖(側鎖)の末端にスルホン酸基を有している。そして、これよりなるパーフルオロスルホン酸膜は一般に、図1−(a)に示すように、骨格をなすパーフルオロアルキレン鎖が集まって構成された疎水性チャネル1と、側鎖末端のスルホン酸基及び対イオン並びにこれらと水和する水分子で構成された親水性のイオンクラスターチャネル2と、これらチャネル間に存在する図示しない側鎖エーテルチャネルの3相構造をなしている。本発明では、このような3相構造において、図1−(b)に示すように、膜中の親水性部位であるイオンクラスターチャネル2に選択的に有機分子3を導入し、パーフルオロスルホン酸膜と有機分子3とが複合化された構造としたものである。
ここでの複合化は、化学結合によるか否かに関わらず、プロトン電導性高分子材料(ここではパーフルオロスルホン酸ポリマー)に有機分子が固定化された状態である。
イオンクラスターチャネル2に選択的に有機分子3を導入するには、上記のように低分子量の有機分子が好ましいが、低分子量の有機分子を選択することによって、疎水性チャネル1及びイオンクラスターチャネル2の相分離構造を所望により制御し、膜中に存在する親水性部位が連続する膜構造に構成することができる。親水性部位の連続性を確保することで、プロトンの伝導性が向上する。なお一方、逆にポリビニルアルコールやシリカゲル等の高分子ポリマー材料を導入しようとすると、水酸基は多く有するものの、上記のように相分離構造を自由に制御することは難しくなる傾向にあり、親水性部位の連続性が阻害されやすく充分なプロトン伝導性が得られない場合が生じ得る。
なお、有機分子は、必ずしも親水性のイオンクラスターチャネル2のみに存在する必要はなく、イオンクラスターチャネル2への導入と共に更に、例えばパーフルオロスルホン酸膜の場合は疎水性チャネル1や図示しない側鎖エーテルチャネルに存在していてもよい。
導入される有機分子の親水基には、水酸基、カルボキシル基、ホスホン酸基、スルホン酸基などが含まれ、複数種の親水基を有する有機分子で構成することができる。
前記有機分子の中でも、プロトンの伝導性が飛躍的に良化する点で、親水基として水酸基を有する有機分子が好ましく、水酸基を有する場合には一分子中に二以上の水酸基を有する有機分子が好ましい。また、有機分子の構造は、直鎖状、分岐状、環状のいずれの分子構造を有していてもよい。
前記有機分子の中でも、特にメチロール化合物に含まれる低分子量の有機分子(低分子物質)より選択される少なくとも一種を用いるのが好適である。メチロール化合物は、メチロール基(−CH2OH基)を一つもしくは二つ以上有する化合物であり、具体的な例として、トリメチロールプロパン、グルコン酸、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、及びガラクトース、キシリトール、マルチトール(α−D−グルコピラノシル4−D−ソルビトール)、ソルビトール等などが好適に挙げられる。
なお、前記マルチトールは、原料成分であるマルトースを水素添加して得られる甘味材であり、例えば高純度のマルトースを水添したり、マルトース含有の糖液に水素添加した後クロマトグラフィーで分離する等して得られるものである。
有機分子の分子量の下限値としては50以上であるのが望ましく、燃料電池用電解質材料に水素ガスバリア性を付与する観点からは、300以上であるのが望ましい。分子量300以上の有機分子の例としては、マルチトールなどが挙げられる。前記分子量は特に、300〜1000の範囲がより好ましく、300〜500の範囲が最も好ましい。
また、有機分子として、水酸基と共に一つもしくは二つ以上のカルボキシル基を有するものは、カルボキシル基を有しない有機分子に比し、燃料電池用電解質材料の保水性をより飛躍的に向上させ得る点で好適である。水酸基と共に一つもしくは二つ以上のカルボキシル基を有する有機分子の例としては、グルコン酸などが挙げられる。
有機分子中の水酸基の重量密度(EW)としては、30〜40が好ましく、低加湿あるいは無加湿条件での発電が可能な非水系の燃料電池用電解質材料に構成することができる。すなわち、水酸基の重量密度が上記範囲であると、プロトン伝導性が飛躍的に向上し、膜中の水分子を介したプロトン伝導が阻害される程度の低湿度条件となる場合でも高出力に発電可能なプロトン伝導性を保持できる。
上記の重量密度EWは、水酸基1つあたりの分子量によって求められる値であり、EWの値が大きくなると、燃料電池用電解質材料における単位質量当りの水酸基含量が大きくなる。したがって、EWの値の増加に伴なって、プロトン伝導は増大する。
水酸基の重量密度が上記範囲の有機分子の例としては、キシリトール、ソルビトールなどが挙げられる。水酸基の重量密度としては20〜40の範囲が特に好ましい。
水酸基の重量密度が上記範囲にある場合には、炭素数5〜9の有機分子が特に好ましい。すなわち、炭素数が5〜9の低分子物質でありながら多くの水酸基を有しており、既述のように親水性部位の連続性を確保することによるプロトンの伝導性の向上効果に加え、更なるプロトン導電性の向上効果が期待できる。
有機分子の融点としては、150℃以上が好ましく、高温での発電運転が可能な燃料電池用電解質材料に構成することができる。融点150℃以上の有機分子の例としては、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどが挙げられる。より好ましくは150〜250℃である。
有機分子の水に対する溶解性(水溶解性)としては、1質量%以下であるのが好ましく、長期発電に伴なう燃料電池用電解質材料のプロトン伝導性の悪化を抑制し、長期耐久性を具えた燃料電池用電解質材料に構成することができる。水溶解性が上記範囲の有機分子としては、例えばジペンタエリスリトールなどが挙げられる。
プロトン伝導性高分子材料に有機分子を導入する方法としては、プロトン伝導性高分子材料の溶液〔例えばNafion Solution(Aldrich Chemical社製の電解質溶液)〕と所望の有機分子とを混合して調製した混合溶液を用いて成膜する方法や、既成のプロトン伝導性高分子材料からなる膜を所望の有機分子が溶解もしくは分散された溶液中に浸漬する方法、等が挙げられる。
本発明の燃料電池用電解質材料においては、単一の有機分子を導入して構成する以外に、複数種の有機分子を導入して構成することもできる。複数種の導入により、プロトン伝導性の向上のみならず種々の性能向上が期待できる。
有機分子の燃料電池用電解質材料中における導入量としては、燃料電池の構成や発電運転時の温度や湿度等の諸条件、運転条件などを考慮して適宜選択することができ、プロトン伝導性高分子材料の100質量部に対し、0.1〜10質量部が好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。導入量が上記範囲であると、高温領域での発電運転や湿度条件が不安定になる場合など低加湿あるいは無加湿条件下において、発電に要するプロトン伝導性を保持することができ、安定的に高い発電出力を得ることができる。
本発明の燃料電池用電解質材料は、所望の形状に成形して使用することができ、例えば膜状、板状、棒状など適宜選択すればよい。また、例えば膜状や板状に成形した場合、その厚みは5〜200μmの範囲から選択できる。
本発明の燃料電池用電解質材料は、固体高分子形燃料電池(PEFC)や直接メタノール形燃料電池(DMFC)などの燃料電池を構成するのに好適である。具体的な例として、PEFCに構成する場合には例えば、アノード極、カソード極、及び前記アノード極と前記カソード極との間に狭持された燃料電池用電解質材料(高分子電解質膜)を有する膜電極接合体、並びに前記膜電極接合体を更に狭持すると共に、前記アノード極との間に燃料が通過する燃料流路と前記カソード極との間に酸化ガスが通過する酸化ガス流路とを形成する一対のセパレータを備えた単セルを含み、所望によりこの単セルを複数積層したスタック構造に構成することができる。上記のアノード極及びカソード極は、電気化学反応を担う触媒層と集電体として機能する拡散層とで構成することができる。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
室温下で、ナフィオンソリューション(Nafion Solution、Aldrich Chemical社製;電解質溶液)を水、エタノール、及びプロパノールの混合溶媒(水:エタノール:プロパノール=1:2:2)で希釈した10%溶液10gに、トリメチロールプロパン〔C2H5C(CH2OH)3〕の10%水溶液1.3gを加えて1時間攪拌し、均一な溶液とした。この溶液をプラシャーレに適量キャストし、25℃、60%RHの環境条件に管理された乾燥室に入れて12時間乾燥させて成膜した。溶媒が揮発した後、シャーレから慎重に膜を剥離し、さらに50℃下で24時間風乾させることによって、トリメチロールプロパンが導入された本発明のナフィオン膜A(燃料電池用電解質材料)を得た。
このナフィオン膜Aは、その親水性部位であるイオンクラスターチャネルに、二以上の水酸基を有する高保水性の有機分子としてトリメチロールプロパン分子を導入してなるものである。
なお、乾燥室での乾燥処理は、被乾燥物の溶媒揮発に要する条件に応じ12時間〜数日間の所望期間かけて行なうようにすることができる(以下の実施例において同様である)。
(実施例2)
実施例1において、トリメチロールプロパンの10%水溶液1.3gをキシリトールの1%水溶液15gに代えたこと以外、実施例1と同様にして、本発明のナフィオン膜B(燃料電池用電解質材料)を得た。このナフィオン膜Bは、その親水性部位であるイオンクラスターチャネルに、二以上の水酸基を含み水酸基の重量密度EWが30〜40で炭素数5の直鎖状の有機分子としてキシリトール分子を導入してなるものである。
(実施例3)
実施例1において、トリメチロールプロパンの10%水溶液1.3gをグルコン酸の1%水溶液20gに代えたこと以外、実施例1と同様にして、本発明のナフィオン膜C(燃料電池用電解質材料)を得た。このナフィオン膜Cは、その親水性部位であるイオンクラスターチャネルに、二以上の水酸基及びカルボキシル基を有する有機分子としてグルコン酸分子を導入してなるものである。
(実施例4)
実施例1において、トリメチロールプロパンの10%水溶液1.3gをペンタエリスリトール(融点268〜269℃)の1%水溶液14gに代えたこと以外、実施例1と同様にして、本発明のナフィオン膜D(燃料電池用電解質材料)を得た。このナフィオン膜Dは、その親水性部位であるイオンクラスターチャネルに、二以上の水酸基を有する融点150℃以上の有機分子としてペンタエリスリトール分子を導入してなるものである。
(実施例5)
実施例1において、トリメチロールプロパンの10%水溶液1.3gをソルビトールの1%水溶液18gに代えたこと以外、実施例1と同様にして、本発明のナフィオン膜E(燃料電池用電解質材料)を得た。このナフィオン膜Eは、その親水性部位であるイオンクラスターチャネルに、二以上の水酸基を含み水酸基の重量密度EWが30〜40で炭素数6の直鎖状の有機分子としてソルビトール分子を導入してなるものである。
(実施例6)
実施例1において、トリメチロールプロパンの10%水溶液1.3gをマルチトールの1%水溶液34gに代えたこと以外、実施例1と同様にして、本発明のナフィオン膜F(燃料電池用電解質材料)を得た。このナフィオン膜Fは、その親水性部位であるイオンクラスターチャネルに、二以上の水酸基を有する分子量300以上の有機分子としてマルチトール分子を導入してなるものである。
(実施例7)
実施例1において、トリメチロールプロパンの10%水溶液1.3gをジペンタエリスリトールの0.5%水溶液50gに代えたこと以外、実施例1と同様にして、本発明のナフィオン膜G(燃料電池用電解質材料)を得た。このナフィオン膜Gは、その親水性部位であるイオンクラスターチャネルに、二以上の水酸基を有する水溶解性が1質量%の有機分子としてジペンタエリスリトール分子を導入してなるものである。
(比較例1)
実施例1において、ナフィオンソリューションを水、エタノール、及びプロパノールの混合溶媒で希釈した10%溶液を、そのままプラシャーレに適量(実施例1と同量)キャストするようにし、トリメチロールプロパンを加えなかったこと以外、実施例1と同様にして、比較のナフィオン膜H(燃料電池用電解質材料)を得た。
(評価)
上記の実施例1〜7で得た本発明のナフィオン膜A〜G、及び比較のナフィオン膜Hについて、以下のようにして含水量、プロトン伝導度、及び水素ガス透過率を測定し、各測定値を指標として評価を行なった。測定した結果は図2〜11に示す。
(1)ナフィオン膜A及びCの評価
本発明のナフィオン膜A及びC、並びに比較のナフィオン膜Hを80℃、90%RHの環境条件下に1時間放置し、その後更に80℃、20%RHの環境条件下に5時間放置した後、各ナフィオン膜について、含水量をTG−MS(RIGAKU社製)により、プロトン伝導度を交流インピーダンス2端子法(100kHz〜0.1mHz)により、各々測定した。測定した結果を図2〜図3に示す。
トリメチロールプロパン又はグルコン酸を導入したナフィオン膜A、Cではいずれも、図2に示すように、有機分子が導入されていない従来同様のナフィオン膜Hに対して4〜約9倍の含水量を示し、結果として図3に示すように、プロトン伝導度を9〜40倍向上させることができた。特に、水酸基と共に更にカルボキシル基を持つグルコン酸が導入されたナフィオン膜C(実施例3)では、保水性及びプロトン伝導性の向上効果が顕著であった。
このように、トリメチロールプロパン又はグルコン酸を導入しナフィオン膜の保水性を高めることによって、プロトン伝導性を効果的に向上させることができた。これにより、燃料電池を構成した場合に低湿条件(高温条件下を含む)あるいは無加湿条件における発電性能を安定化、高出力化することが可能である。
(2)ナフィオン膜B及びEの評価
本発明のナフィオン膜B及びE、並びに比較のナフィオン膜Hを、80℃、無加湿(5%RH以下)の環境条件下に5時間放置した後、各ナフィオン膜の含水量及びプロトン伝導度の測定を上記評価(1)と同様にして行なった。測定した結果を図4〜図5に示す。
キシリトール又はソルビトールを導入したナフィオン膜B、Eではいずれも、図4に示すように、有機分子が導入されていない従来同様のナフィオン膜Hに対して2〜3.6倍の含水量を示し、結果として図5に示すように、無加湿状態の極少な含水条件下においてプロトン伝導度を40〜300倍にまで向上させることができた。特にソルビトールが導入されたナフィオン膜E(実施例5)において、より保水性が高く、無加湿(低湿)でのプロトン伝導性の向上効果が顕著であった。
このように、低分子量でありながら水酸基の重量密度の高いキシリトール又はソルビトールの導入によって、保水性を向上すると共に更に、ナフィオン膜自体のプロトン伝導能を高めることができた。これにより、燃料電池を構成した場合に、低湿条件や高温条件での発電運転時など湿度変化し易い条件、あるいは無加湿条件での発電性能を安定化、高出力化することが可能である。
(3)ナフィオン膜Dの評価
本発明のナフィオン膜D及び比較のナフィオン膜Hを、120℃、無加湿(1%RH以下)の環境条件下に5時間放置した後、各ナフィオン膜の含水量及びプロトン伝導度の測定を上記評価(1)と同様にして行なった。測定した結果を図6〜図7に示す。
ペンタエリスリトールを導入したナフィオン膜Dは、図6に示すように、有機分子が導入されていない従来同様のナフィオン膜Hに対して3倍の含水量を示し、結果として図7に示すように、高温かつ無加湿状態の極少な含水条件下においてプロトン伝導度を25倍にまで向上させることができた。
このように、融点の高い(150℃以上の)有機分子の導入によって、高温条件での保水性を高めると共に、ナフィオン膜自体のプロトン伝導能を高めることができた。これにより、燃料電池を構成した場合に、高温条件で発電運転するときの湿度変動や湿度低下の影響を回避し、発電性能の安定化、高出力化を図ることができる。
(4)ナフィオン膜Fの評価
本発明のナフィオン膜F及び比較のナフィオン膜Hを、80℃、90%RHの環境条件下に1時間放置し、その後更に80℃、20%RHの環境条件下に12時間放置した後、各ナフィオン膜の含水量及びプロトン伝導度の測定を上記評価(1)と同様にして行なった。これとは別に、ナフィオン膜F及びナフィオン膜Hについて、JIS−K7126に規定された等圧法に基づいて水素ガス透過率[cm3/cm・s・cmHg]を求めた。なお、水素ガスの定量は、アルゴンガスをキャリアガスとしてガスクロマトグラフにより行ない、検出器にはTCDを用いた。測定した結果を図8〜図10に示す。
マルチトールを導入したナフィオン膜Fは、図10に示すように、有機分子が導入されていない従来同様のナフィオン膜Hに対して水素ガスの透過抵抗を1/20に低減することができた。また、図8に示すように、有機分子が導入されていない従来同様のナフィオン膜Hに対し3.5倍以上の含水量を示し、結果として図9に示すように、プロトン伝導度をも10倍向上させることができた。
このように、水酸基を複数含んで300以上の分子量を有する分子内水素結合性の有機分子の導入によって、保水性及びプロトン伝導能を向上すると共に、水素ガスバリア性を高めることができた。これにより、燃料電池を構成した場合に、低湿条件(高温条件下を含む)あるいは無加湿条件における発電性能を安定化、高出力化しつつ、アノード側の水素ガスがカソード側に漏洩する、いわゆるクロスリークの防止に効果的である。すなわち、クロスリークは水素ガスとカソード側に供給された酸素とが直接反応する現象であり、クロスリークが発生した場合に発生する電圧低下、並びに燃料電池内部の電解質膜、触媒等の劣化や炭素部材の腐食等を回避し、安定した発電供給を行なうことができる。
(5)ナフィオン膜Gの評価
本発明のナフィオン膜G及び比較のナフィオン膜Hを、80℃、無加湿(5%RH以下)の環境条件下で0.1V印加した状態で5時間、300時間放置し、5時間後の電流値(i5h)及び300時間後の電流値(i300h)をクロノアンペロメトリーにより測定した。得られた電流値i5h及びi300hからプロトン伝導度を概算して求めた。このとき、作用電極には白金を用い、測定は水素雰囲気を常圧に調整して0.1Vの定電位のもとで行なった。測定した結果を図11に示す。
図11は、5時間後と300時間後との間のプロトン伝導度の変化率(低下率)を評価の指標とするものである。ジペンタエリスリトールを導入したナフィオン膜Gでは、図11に示すように、経時でのプロトン伝導度の低下率が小さく抑えられ、有機分子が導入されていない従来同様のナフィオン膜Hに対して膜の耐久性を10倍に向上させることができた。
このように、二以上の水酸基を有するものの水溶解性の小さい(1質量%以下の)有機分子の導入によって、保水性及びプロトン伝導能を向上すると共に、ナフィオン膜自体の耐久性を向上させることができた。これにより、燃料電池を構成した場合に、低湿条件(高温条件下を含む)あるいは無加湿条件における発電性能を安定化、高出力化することができ、しかも長期間にわたる発電運転が可能となる。
上記の実施例では、ナフィオンソリューションに所望の有機分子を混合して調製された溶液を用いてナフィオン膜を作製するようにしたが、混合による以外に、既成のナフィオン膜を所望の有機分子が溶解もしくは分散された溶液中に浸漬する等して、有機分子を導入することもできる。
(a)は従来のプロトン伝導性高分子材料における膜中の相分離構造を説明するための概念図であり、(b)は本発明のプロトン伝導性高分子材料における膜中の相分離構造を説明するための概念図である。 実施例のナフィオン膜A及びCの含水量の向上効果を示す図である。 実施例のナフィオン膜A及びCのプロトン伝導度の向上効果を示す図である。 実施例のナフィオン膜B及びEの含水量の向上効果を示す図である。 実施例のナフィオン膜B及びEのプロトン伝導度の向上効果を示す図である。 実施例のナフィオン膜Dの含水量の向上効果を示す図である。 実施例のナフィオン膜Dのプロトン伝導度の向上効果を示す図である。 実施例のナフィオン膜Fの含水量の向上効果を示す図である。 実施例のナフィオン膜Fのプロトン伝導度の向上効果を示す図である。 実施例のナフィオン膜Fの水素ガスバリア性の向上効果を示す図である。 実施例のナフィオン膜Gの耐久性の向上効果を示す図である。
符号の説明
2…親水性のイオンクラスターチャネル(親水性部位)
3…有機分子

Claims (10)

  1. プロトン伝導性高分子材料と、親水基を含むと共に前記プロトン伝導性高分子材料の親水性部位に選択的に導入された有機分子とを含む燃料電池用電解質材料。
  2. 前記有機分子は、少なくとも二つの水酸基を有し、かつ分子量が1000以下の低分子物質である請求項1に記載の燃料電池用電解質材料。
  3. 前記低分子物質はメチロール化合物の少なくとも一種である請求項2に記載の燃料電池用電解質材料。
  4. 前記低分子物質は、更にカルボキシル基を有する請求項2又は3に記載の燃料電池用電解質材料。
  5. 前記有機分子は、少なくともカルボキシル基を有し、かつ分子量が1000以下の低分子物質である請求項1に記載の燃料電池用電解質材料。
  6. 前記低分子物質は、水酸基の重量密度が30〜40であり、かつ炭素数5〜9の直鎖状である請求項2〜5のいずれか1項に記載の燃料電池用電解質材料。
  7. 前記有機分子は、融点が150℃以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池用電解質材料。
  8. 前記有機分子は、分子量が300以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池用電解質材料。
  9. 前記有機分子は、水溶解性が1質量%以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池用電解質材料。
  10. 前記有機分子が、トリメチロールプロパン、グルコン酸、キシリトール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、マルチトール、及びジペンタエリスリトールより選択される少なくとも一種である請求項1〜3に記載の燃料電池用電解質材料。
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