JP2005185218A - インスリン作用促進能力の検定方法 - Google Patents

インスリン作用促進能力の検定方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 インスリン作用促進能力を有する物質を探索するために有用な、簡便なインスリン作用促進能力の検定方法などを提供する。
【解決手段】 以下の工程:
(1)ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼと被験物質との接触系内における前記ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼの活性を測定する第一工程、及び
(2)第一工程により測定された活性と対照における活性とを比較することにより得られる差異に基づき、ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼの活性を抑制する能力を指標として前記物質のインスリン作用促進能力を評価する第二工程、
を有することを特徴とする検定方法等の、ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼの発現又は活性の低下を指標とする、インスリン作用促進能力の検定方法。
【選択図】 なし

Description

本発明は、インスリン作用促進能力の検定方法等に関する。
インスリンは、生体における糖・脂質代謝の調節に最も重要な役割を果たしており、インスリンの作用不全は直接体内の糖・脂質代謝の恒常性維持に問題を引き起こす。インスリンがその生理作用を発揮するためには、細胞膜に存在するインスリン受容体を介して、細胞内に存在するAktと呼ばれる蛋白質をリン酸化することが必要である。インスリン作用が抑制された状態、すなわちインスリン刺激によるAkt蛋白質のリン酸化が抑制された状態であるインスリン抵抗性状態は、II型糖尿病、動脈硬化、高血圧、高脂血症といった症例で見られることが知られている。このため、糖・脂質代謝調節の主要臓器である肝臓においてインスリン作用を促進させる、すなわちAkt蛋白質のリン酸化を促進させることは、インスリン抵抗性およびインスリン抵抗性に関連した疾患、具体的にはII型糖尿病、高脂血症、高血圧症、動脈硬化症等の治療または予防につながる。
一方、ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼは、ホスファチジルコリンの生合成酵素であり、S-アデノシル-L-メチオニン(SAM)のメチル基をホスファチジルエタノールアミンのアミノ基に転移させるメチル化反応を触媒する。ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ(以下、PEMTと記す)として、具体的にはホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ2(以下、PEMT2と記す)が挙げられ(非特許文献1を参照)、PEMT2を過剰発現させた場合、肝細胞からのトリグリセライド及びApoB100の分泌量が増加すること等が報告されている(非特許文献2を参照)。
しかしながら、PEMTの発現又は活性と、肝臓等におけるインスリン刺激によるAktの活性化、すなわちリン酸化との関係は知られていなかった。
J.Biol.Chem.268, 16655-16663(1993) J.Biol.Chem.277, 42358-42365(2002)
本発明の目的は、インスリン作用促進能力を有する物質を探索するために有用な、簡便なインスリン作用促進能力の検定方法などを提供することにある。
本発明者らは、かかる状況のもと鋭意検討した結果、PEMTの酵素活性を促進することによりインスリン作用が抑制され、逆にPEMTの酵素活性を阻害することによりインスリン作用が促進されるという現象を見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、
1.ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼの発現又は活性の低下を指標とする、インスリン作用促進能力の検定方法;
2.以下の工程:
(1)ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼと被験物質との接触系内における前記ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼの活性を測定する第一工程、及び
(2)第一工程により測定された活性と対照における活性とを比較することにより得られる差異に基づき、ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼの活性を抑制する能力を指標として前記物質のインスリン作用促進能力を評価する第二工程、
を有することを特徴とする前項1記載の検定方法;
3.以下の工程:
(1)ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子を含有する細胞と被験物質との接触系内における前記レポーター遺伝子の発現量を測定する第一工程、及び
(2)第一工程により測定された発現量と対照における発現量とを比較することにより得られる差異に基づき、前記レポーター遺伝子の発現量を低下させる能力を指標として前記物質のインスリン作用促進能力を評価する第二工程、
を有することを特徴とする前項1記載の検定方法;
4.以下の工程:
(1)ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ遺伝子を含有する細胞と被験物質との接触系内におけるホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ遺伝子の発現量を測定する第一工程、及び
(2)第一工程により測定された発現量と対照における発現量を比較することにより得られる差異に基づき、ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ遺伝子の発現量を低下させる能力を指標として前記物質のインスリン作用促進能力を評価する第二工程、
を有することを特徴とする前項1記載の検定方法;
5.以下の工程:
(1)ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ遺伝子を含有する細胞と被験物質との接触系内におけるホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼの発現量を測定する第一工程、及び
(2)第一工程により測定された発現量と対照における発現量を比較することにより得られる差異に基づき、ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼの発現量を低下させる能力を指標として前記物質のインスリン作用促進能力を評価する第二工程、
を有することを特徴とする前項1記載の検定方法;
6.インスリン作用促進能力が肝細胞におけるインスリン作用促進能力であることを特徴とする前項1〜5のいずれか記載の検定方法。
7.インスリン作用促進能力がAkt蛋白質リン酸化促進能力であることを特徴とする前項1〜6のいずれか記載の検定方法;
8.ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼが哺乳動物由来であることを特徴とする前項1〜7のいずれか記載の検定方法;
9.インスリン作用促進能力を評価するための指標を提供する試薬としての、ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼの使用;
10.前項1〜8のいずれか記載の検定方法により評価されたインスリン作用促進能力に基づき、ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼの発現もしくは活性を抑制する物質をインスリン作用促進能力を有する物質として選抜することを特徴とするインスリン作用促進物質の探索方法;
11.前項10記載の探索方法により選抜された物質またはその薬学的に許容される塩を含有してなる組成物;
12.前項10記載の探索方法により選抜された物質またはその薬学的に許容される塩を有効成分とすることを特徴とするインスリン作用促進剤;
13.ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ阻害能力を有する物質またはその薬学的に許容される塩を有効成分とすることを特徴とするインスリン作用促進剤;
14.ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ阻害能力を有する物質が3−デアザアデノシンであることを特徴とする前項13記載のインスリン作用促進剤;
15.肝細胞に、ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼの活性を阻害するために薬理学上有効な量のホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ阻害能力を有する物質を接触させることを特徴とするインスリン作用促進方法;
等を提供するものである。
本発明により、簡易なインスリン作用促進能力の検定方法等が提供可能となった。
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明検定方法において用いられるホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼは、下記の3段階の反応を連続して触媒する酵素である(以下、PEMTと記すこともある。)。

1.ホスファチジルエタノールアミン(PE) + S-アデノシル-L-メチオニン(SAM) → ホスファチジルモノメチルエタノールアミン(PMME) + S-アデノシルホモシステイン(AdoHcy)
2.PMME + SAM → ホスファチジルジメチルエタノールアミン(PDME) + AdoHcy
3.PDME + SAM → ホスファチジルコリン(PC) + AdoHcy
本発明において、「ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼの活性」とは、前記1〜3の少なくとも一つの反応を触媒する活性を表し、当該活性を抑制する能力とは、前記1〜3の任意の反応が進行しない状態を表す。
本発明において、ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ(PEMT)としては、前記ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼとしての酵素活性を有していれば特に限定は無く、オルソログ等のホモログ、スプライシングバリアント等の変異体、又は誘導体等を含む概念である。中でも、哺乳動物由来のホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼを好ましいものとしてあげることができる。PEMTとして具体的には、(a)配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ2(PEMT2)、(b)配列番号2で示されるアミノ酸配列において、そのアミノ末端から37個のアミノ酸を欠失させた部分アミノ酸配列からなる蛋白質(配列番号3)、(c)配列番号2で示されるアミノ酸配列又は前記(b)のアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質、(d)配列番号2で示されるアミノ酸配列又は前記(b)のアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質、(e)配列番号2で示されるアミノ酸配列又は前記(b)のアミノ酸配列をコードするDNAに対し相補性を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ活性を有する蛋白質等を好ましいものとしてあげることができる。
ここで、前記(c)にある「アミノ酸の欠失、付加もしくは置換」や前記(d)にある「80%以上の配列同一性」には、例えば、配列番号2で示されるアミノ酸配列を有する蛋白質が細胞内で受けるプロセシング、該蛋白質が由来する生物の種差、個体差、組織間の差異等により天然に生じる変異や、人為的なアミノ酸の変異等が含まれる。
前記(c)にある「アミノ酸の欠失、付加もしくは置換」(以下、総じてアミノ酸の改変と記すこともある。)を人為的に行う場合の手法としては、例えば、配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードするDNAに対して慣用の部位特異的変異導入を施し、その後このDNAを常法により発現させる手法が挙げられる。ここで部位特異的変異導入法としては、例えば、アンバー変異を利用する方法(ギャップド・デュプレックス法、Nucleic Acids Res.,12,9441-9456(1984))、変異導入用プライマーを用いたPCRによる方法等が挙げられる。
前記で改変されるアミノ酸の数については、少なくとも1残基、具体的には1若しくは数個、又はそれ以上である。かかる改変の数は、ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ活性を見出すことのできる範囲であれば良い。
また前記欠失、付加又は置換のうち、特にアミノ酸の置換に係る改変が好ましい。当該置換は、疎水性、電荷、pK、立体構造上における特徴等の類似した性質を有するアミノ酸への置換がより好ましい。このような置換としては、例えば、1)グリシン、アラニン;2)バリン、イソロイシン、ロイシン;3)アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、4)セリン、スレオニン;5)リジン、アルギニン;6)フェニルアラニン、チロシンのグループ内での置換が挙げられる。
本発明において「配列同一性」とは、2つのDNA又は2つの蛋白質間における配列の同一性及び相同性をいう。前記「配列同一性」は、比較対象の配列の領域にわたって、最適な状態にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定される。ここで、比較対象のDNA又は蛋白質は、2つの配列の最適なアラインメントにおいて、付加又は欠失(例えばギャップ等)を有していてもよい。このような配列同一性に関しては、例えば、Vector NTIを用いて、ClustalWアルゴリズム(Nucleic Acid Res.,22(22):4673-4680(1994)を利用してアラインメントを作成することにより算出することができる。尚、配列同一性は、配列解析ソフト、具体的にはVector NTI、GENETYX-MACや公共のデータベースで提供される解析ツールを用いて測定される。前記公共データベースは、例えば、ホームページアドレスhttp://www.ddbj.nig.ac.jpにおいて一般的に利用可能である。
本発明における配列同一性は、80%以上であればよいが、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。
前記(e)にある「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」に関して、ここで使用されるハイブリダイゼーションは、例えば、Sambrook J., Frisch E. F., Maniatis T.著、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行(Cold Spring Harbor Laboratory press)等に記載される通常の方法に準じて行うことができる。また「ストリンジェントな条件下」とは、例えば、6xSSC(1.5M NaCl、0.15M クエン酸三ナトリウムを含む溶液を10xSSCとする)、50%フォルムアミドを含む溶液中で45℃にてハイブリッドを形成させた後、2xSSCで50℃にて洗浄するような条件(Molecular Biology, John Wiley & Sons, N. Y. (1989), 6.3.1-6.3.6)等を挙げることができる。洗浄ステップにおける塩濃度は、例えば、2xSSCで50℃の条件(低ストリンジェンシーな条件)から0.2xSSCで50℃までの条件(高ストリンジェンシーな条件)から選択することができる。洗浄ステップにおける温度は、例えば、室温(低ストリンジェンシーな条件)から65℃(高ストリンジェンシーな条件)までの温度から選択することができる。また、塩濃度と温度の両方を変えることもできる。
PEMT2として、具体的には、配列番号2及び3で示されるヒトPEMT2(GenBank accession No. NP680477, NP009100)、配列番号5で示されるマウスPEMT2(GenBank accession No. NP032845)、及び配列番号7で示されるラットPEMT2(GenBank accession No. NP037135)等を例示することができる。
本発明において、ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ遺伝子(PEMT遺伝子)としては、前記(a)〜(e)で示されるPEMTのアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子が挙げられる。例えば、(f)配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列、(g)配列番号2で示されるアミノ酸配列において、そのアミノ末端から37個のアミノ酸を欠失させた部分アミノ酸配列をコードする塩基配列、(h)配列番号1で示される塩基配列、(i)配列番号1で示される塩基配列における第10番目のヌクレオチドから第720番目までのヌクレオチドで示される塩基配列、(j)配列番号1で示される塩基配列における第121番目のヌクレオチドから第720番目までのヌクレオチドで示される塩基配列等の塩基配列を有する遺伝子を例示することができる。
具体的には、配列番号1で示されるヒトPEMT2遺伝子(GenBank accession No. NM_007169, NM_148173, NM_148172)、配列番号4で示されるマウスPEMT2遺伝子(GenBank accession No. NM_008819)、及び配列番号6で示されるラットPEMT2遺伝子(GenBank accession No. NM_013003)等を例示することができる。
本発明において、PEMT遺伝子の発現制御領域としては、例えばPEMT遺伝子の転写開始部位上流約1kb、好ましくは約2kbを用いることができる。(Biochim. Biophys. Acta 1532, 105-114(2001))
本発明において「インスリン作用促進能力」とは、インスリンの生理作用、すなわち、肝臓における糖新生抑制作用及びリポ蛋白質分泌抑制作用、筋肉・脂肪細胞における糖取り込み促進作用、脂肪細胞における脂肪蓄積促進作用等の全身の糖・脂質代謝調節に密接に関連する生理作用を促進する能力、特には肝臓における生理作用を促進する能力を表す。インスリン作用は、インスリン受容体からのシグナル伝達によりAkt蛋白質がリン酸化されることにより生ずる。本発明者らは、PEMTがインスリン刺激によるAkt蛋白質のリン酸化を抑制することを見出した。すなわち、「インスリン作用促進能力」は、「Akt蛋白質リン酸化促進能力」を含む概念である。
ここでAkt蛋白質は公知であり、その構造や機能については、Molecular Medicine Vol.36, 110-115(1999;中山書店)に記載されている。
本発明の第1の態様は、ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ(PEMT)の発現又は活性の低下を指標とした、インスリン作用促進能力の検定方法に関する。以下、詳細に説明する。
(I)PEMTの酵素活性を指標とする検定方法
本発明検定方法は、(1)PEMTと被験物質との接触系内におけるPEMTの活性を測定する第一工程、及び(2)第一工程により測定された活性と対照における活性とを比較することにより得られる差異に基づき、PEMTの活性を抑制する能力を指標として前記物質のインスリン作用促進能力を評価する第二工程を有する。
本発明検定方法では、肝臓における糖新生抑制作用及びリポ蛋白質分泌抑制作用、筋肉・脂肪細胞における糖取り込み促進作用、脂肪細胞における脂肪蓄積促進作用等のインスリン作用やAkt蛋白質のリン酸化等の直接的な測定を行うことなく、例えば、PEMT阻害能力を評価するための指標となる阻害率(詳細は後述する)を算出することだけで被験物質のインスリン作用促進能力を評価することができるため、簡便であり、1次スクリーニング等に最適である。
ここで用いられるPEMTとしては、精製されたPEMT、部分的に精製されたPEMT、PEMTを含有するミクロソーム画分等の細胞由来画分、又はPEMTを含有する細胞が挙げられる。例えば、PEMTを含む肝臓組織を単離し、通常の細胞分画法により、PEMTを調製することができ、具体的には、Methods Enzymol., 1992, 209, 366-374に記載された方法等をあげることができる。また、PEMT遺伝子が宿主細胞中で発現できるようなプラスミドを作製し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、さらに形質転換された宿主細胞(形質転換体)を培養することで得られる培養物から取得することができる。以下詳細に説明する。
PEMT遺伝子は通常の遺伝子工学的方法[例えば、Sambrook J., Frisch E. F., Maniatis T.著、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行(Cold Spring Harbor Laboratory press)等に記載されている方法]に準じて取得することができる。
具体的には、まず、ヒト、マウス又はラット等の組織、細胞やこれらに由来する培養細胞などからRNAを調製する。例えば、ラット肝臓を塩酸グアニジンやグアニジンチオシアネート等の強力なタンパク質変性剤を含む溶液中で粉砕し、さらに該粉砕物にフェノール、クロロホルム等を加えることによりタンパク質を変性させる。変性タンパク質を遠心分離等により除去した後、回収された上清画分から塩酸グアニジン/フェノール法、SDS−フェノール法、グアニジンチオシアネート/CsCl法等の方法により全RNAを抽出する。なお、これらの方法に基づいた市販の試薬としては、例えばISOGEN(ニッポンジーン製)、トリゾル試薬(Gibco BRL)等がある。
得られた全RNAを鋳型としてオリゴdTプライマーをRNAのポリA配列にアニールさせ、逆転写酵素を作用させることにより一本鎖cDNAを合成する。次いで、該一本鎖cDNAを鋳型とし、かつPEMT遺伝子の塩基配列(例えば、配列番号1に記載の塩基配列)に基づいて設計されたオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてポリメラーゼチェイン反応(以下、PCRと記す。)を行うことにより、PEMT遺伝子を増幅し、取得することができる。また、上記の一本鎖cDNAを鋳型としてDNAポリメラーゼを作用させることにより二本鎖のcDNAを合成する。得られた二本鎖cDNAを、例えばプラスミドpUC118やファージλgt10などのベクターに挿入することによりcDNAライブラリーを作製する。このようにして得られるcDNAライブラリーや市販のcDNAライブラリーから、PEMT遺伝子の塩基配列(例えば、配列番号1で示される塩基配列)の部分塩基配列を有するDNAをプローブとして用いるハイブリダイゼーション法や、PEMT遺伝子の塩基配列(例えば、配列番号1で示される塩基配列)に基づいて設計されたオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いるPCRにより、PEMT遺伝子を取得することもできる。
PCRに用いるプライマーとしては、例えば、約15bpから約50bp程度の長さでかつGまたはC塩基の割合が約40%から約60%程度の塩基配列を、上記のような本タンパク質をコードする既知の塩基配列から選択し、該塩基配列に基いてオリゴヌクレオチドを設計し、合成するとよい。
得られたPEMT遺伝子の塩基配列は、Maxam Gilbert法 (例えば、Maxam,A.M & W.Gilbert, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 74, 560, 1977 等に記載の方法)やSanger法(例えばSanger,F. & A.R.Coulson, J.Mol.Biol., 94, 441, 1975、Sanger,F, & Nicklen and A.R.Coulson., Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 74, 5463, 1977等に記載の方法)により確認することができる。
上記のようにして得られたPEMT遺伝子は、例えば、J.Sambrook,E.F.Frisch,T.Maniatis著;モレキュラー クローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールドスプリング ハーバー ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)発行、1989年等記載の遺伝子工学的方法に準じてベクターにクローニングすることができる。すなわち、PEMT遺伝子が宿主細胞中で発現できるようなプラスミドを作製し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、さらに形質転換された宿主細胞(形質転換体)を培養することができる。
前記プラスミドとしては、例えば、宿主細胞中で複製可能な遺伝情報を含み、自立的に増殖できるものであって、宿主細胞からの単離・精製が容易であり、宿主細胞中で機能可能なプロモーターを有し、検出可能なマーカーをもつ発現ベクターに、PEMTのアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子が導入されたものを挙げることができる。
具体的には、大腸菌を宿主細胞とする場合には、例えばプラスミドpUC119(宝酒造(株)製)や、ファージミドpBluescriptII(ストラタジーン社製)等をあげることができる。出芽酵母を宿主細胞とする場合には、プラスミドpACT2(Clontech社製)などをあげることができる。また、哺乳類動物細胞を宿主細胞とする場合には、pRC/RSV、pRC/CMV(Invitrogen社製)等のプラスミド、ウシパピローマウイルスプラスミドpBPV(アマシャムファルマシア社製)、EBウイルスプラスミドpCEP4(Invitrogen社製)等のウイルス由来の自律複製起点を含むベクター、ワクシニアウイルス等のウイルスなどをあげることができる。昆虫類動物細胞(以下、昆虫細胞と記す。)を宿主細胞とする場合には、バキュロウイルス等の昆虫ウイルスをあげることができる。
PEMT遺伝子の上流に、宿主細胞で機能可能なプロモーターを機能可能な形で結合させ、これを上述のようなベクターに組み込むことにより、PEMT遺伝子を宿主細胞で発現させることの可能な発現プラスミドを構築することができる。ここで、「機能可能な形で結合させる」とは、PEMT遺伝子が宿主細胞に導入された際に、宿主細胞においてプロモーターの制御下に発現されるように、当該プロモーターとPEMT遺伝子とを結合させることを意味する。
ここで用いられるプロモーターは、PEMT遺伝子が導入される細胞で機能可能なものであればよく、宿主細胞が動物細胞もしくは分裂酵母ある場合には、SV40ウイルスプロモーター、サイトメガロウイルスプロモーター(CMVプロモーター)、Raus Sarcoma Virusプロモーター(RSVプロモーター)、βアクチン遺伝子プロモーター、aP2遺伝子プロモーター、又はマウス乳頭腫ウイルス(MMTV)プロモーター等が挙げられる。また、宿主細胞が大腸菌である場合には、大腸菌のラクトースオペロンのプロモーター(lacP)、トリプトファンオペロンのプロモーター(trpP)、アルギニンオペロンのプロモーター(argP)、ガラクトースオペロンのプロモーター(galP)、tacプロモーターもしくはtrcプロモーター等の大腸菌内で機能可能な合成プロモーター、T7プロモーター、T3プロモーター、λファージのプロモーター(λ-pL、λ-pR)等をあげることができる。また、宿主細胞が出芽酵母である場合には、ADH1プロモーター(尚、ADH1プロモーターは、例えばADH1プロモーター及び同ターミネーターを保持する酵母発現ベクターpAAH5 〔Washington Research Fundation から入手可能、Ammerer ら、Method in Enzymology、101 part(p.192-201)〕から通常の遺伝子工学的方法により調製することができる。)などをあげることができる。
尚、発現ベクターにPEMT遺伝子を導入するために用いられる制限酵素も宝酒造等から市販されているものを適宜用いればよい。又、このようなプロモーターをマルチクローニング部位の上流に含む市販のベクターを利用してもよい。
一般的には、宿主細胞で機能可能なプロモーターとPEMT遺伝子とが機能可能な形で接続されてなるDNAを、宿主細胞で利用可能なベクターに組込んで、これを宿主細胞に導入する。宿主細胞において機能可能なプロモーターをあらかじめ保有するベクターを使用する場合には、ベクター保有のプロモーターとPEMT遺伝子とが機能可能な形で結合するように、該プロモーターの下流にPEMT遺伝子を挿入すればよい。例えば、前述のプラスミドpRC/RSV,pRC/CMV等は、動物細胞で機能可能なプロモーターの下流にクローニング部位が設けられており、該クローニング部位にPEMT遺伝子を挿入し動物細胞へ導入することにより、PEMT遺伝子を発現させることができる。また、前述の酵母用プラスミドpACT2はADH1プロモーターを有しており、該プラスミドまたはその誘導体のADH1プロモーターの下流にPEMT遺伝子を挿入すれば、PEMT遺伝子を例えばCG1945(Clontech社製)等の出芽酵母内で発現させることが可能な発現ベクターが構築できる。
さらなる高発現を導くことが必要な場合には、PEMT遺伝子の上流にリボゾーム結合領域を連結してもよい。用いられるリボゾーム結合領域としては、Guarente L.ら(Cell 20, p543)や谷口ら(Genetics of Industrial Microorganisms, p202, 講談社)による報告に記載されたものを挙げることができる。
宿主細胞としては、原核生物もしくは真核生物である微生物細胞、昆虫細胞又は哺乳動物細胞等を挙げることができる。例えば、PEMTの本来の構造を維持することが期待できるという観点では、HepG2やMcA−RH7777等の哺乳動物細胞を好ましく挙げることができる。
細胞への導入法としては、哺乳類動物細胞もしくは昆虫細胞を宿主とする場合には、例えば、リン酸カルシウム法、電気導入法、DEAEデキストラン法、ミセル形成法、エレクトロポレーション法、又はリポフェクション法等を挙げることができる。リン酸カルシウム法としてはGrimm, S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93, 10923-10927等に記載される方法、電気導入法及びDEAEデキストラン法としてはTing, A. T. et al., EMBO J., 15, 6189-6196等に記載される方法、ミセル形成法としてはHawkins, C. J. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93, 13786-13790等に記載される方法を挙げることができる。ミセル形成法を用いる場合には、リポフェクトアミン(インビトロジェン製)やフュージーン(ベーリンガー製)等の市販の試薬を利用するとよい。
又、大腸菌を宿主細胞とする場合には、「モレキュラー・クローニング」(J.Sambrookら、コールド・スプリング・ハーバー、1989年)等に記載される塩化カルシウム法やエレクトロポレーション法等の通常の方法を用いることにより前記発現ベクターを宿主細胞へ導入することができる。また、酵母菌を宿主細胞とする場合には、例えば、リチウム法を基にしたYeast transformation kit(Clontech社製)などを用いて導入することができる。
前記発現ベクターが導入された形質転換体を選抜するには、例えば、前記発現ベクターと同時に下記のようなマーカー遺伝子を宿主細胞に導入し、導入されたマーカー遺伝子の性質に応じた方法で前記発現ベクターが導入された宿主細胞を培養すればよい。例えば、当該マーカー遺伝子が、宿主細胞に致死活性を示す選抜薬剤に対する薬剤耐性を付与する遺伝子(薬剤耐性付与遺伝子)である場合には、該薬剤を添加した培地を用いて、前記発現ベクターが導入された宿主細胞を培養すれば良い。薬剤耐性付与遺伝子と選抜薬剤との組み合わせとしては、例えば、ネオマイシン耐性付与遺伝子とネオマイシンとの組み合わせ、ハイグロマイシン耐性付与遺伝子とハイグロマイシンとの組み合わせ、ブラストサイジンS耐性付与遺伝子とブラストサイジンSとの組み合わせ、カナマイシン耐性付与遺伝子とカナマイシンとの組み合わせ、G418耐性付与遺伝子とG418との組み合わせ、ゼオシン耐性付与遺伝子とゼオシンとの組み合わせ等をあげることができる。
また、当該マーカー遺伝子が宿主細胞の栄養要求性を相補する遺伝子である場合には、該栄養素を含まない最少培地を用いて、前記発現ベクターが導入された細胞を培養すればよい。
上述のようにして得られた前記発現ベクターが導入された形質転換体(以下、本形質転換体と記すこともある。)を培養することによりPEMT遺伝子を発現させることができる。
前記プラスミドの導入処理を施した細胞を、例えば、当該ベクターに予め含まれる選抜マーカー遺伝子を利用し、当該選抜マーカー遺伝子に応じた選抜条件の培地で培養することにより、形質転換細胞を選抜することができる。さらに選抜を続けて、PEMT遺伝子が染色体に導入されてなる安定形質転換体となった当該形質転換細胞を取得してもよい。導入されたPEMT遺伝子が細胞中に存在する染色体上に組込まれたことを確認するには、当該細胞のゲノムDNAを通常の遺伝子工学的方法に準じて調製し、PEMT遺伝子の部分塩基配列を有するDNAをプライマーとして用いるPCRや、PEMT遺伝子の部分塩基配列を有するDNAをプローブとして用いるサザンハイブリダイゼーション等の方法を利用して、ゲノムDNA中のPEMT遺伝子の存在を検出・確認すればよい。
形質転換体の培養は、微生物培養、昆虫細胞もしくは哺乳動物細胞の培養に使用される通常の方法によって行うことができる。例えば大腸菌の場合、適当な炭素源、窒素源およびビタミン等の微量栄養物を適宜含む培地中で培養を行う。培養方法としては、固体培養、液体培養のいずれの方法でもよく、好ましくは、通気撹拌培養法等の液体培養を挙げることができる。
PEMTの取得は、一般の蛋白質の単離・精製に通常使用される方法を組み合わせて実施することができる。例えば、前記の培養により得られた形質転換体を遠心分離等で集め、該形質転換体を破砕または溶解させればよい。必要であれば蛋白質の可溶化を行い、イオン交換、疎水、ゲルろ過等の各種クロマトグラフィーを用いた工程を単独で、もしくは組み合わせることにより精製すればよい。必要であれば、精製された蛋白質の高次構造を復元する操作をさらに行ってもよい。
本発明検定方法の第一工程は、(A)2種の基質(例えば、PDME及びSAM)と被験物質との3者がPEMTと接触する形態、及び(B)2種の基質のうちの一方(例えば、PDME又はSAM)と被験物質との2者がPEMTと接触する形態(すなわち、被験物質を前記2種の基質のうちの他の一方として取り扱う場合)、のいずれの形態であってもよい。
さらに、本発明検定方法の第一工程において、PEMTに被験物質及び基質を接触させる順序は、(a)PEMTと被験物質とを先ず接触させ、一定時間保温した後、2種もしくは1種の基質を添加するような形態、(b)PEMT、被験物質及び2種もしくは1種の基質を同時に接触させるような形態、(c)PEMTと2種もしくは1種の基質とを先ず接触させ、一定時間保温した後、被験物質を添加するような形態、のいずれの形態であってもよい。
上記(a)の場合には、PEMTと被験物質との接触時間として、例えば、1分間以上を、好ましくは1分間以上1時間以内をあげることができる。当該接触系における保温温度としては、例えば、0℃〜70℃を、好ましくは4℃〜40℃をあげることができる。
また上記(c)の場合には、当該接触系における保温温度として、例えば、0℃〜70℃を、好ましくは4℃〜40℃をあげることができる。
本発明検定方法の第一工程における被験物質の濃度は、例えば、1nM〜10mMで、好ましくは0.01μM〜5mMである。基質の濃度は、例えば、0.01mM〜10mMで、好ましくは0.05mM〜5mMである。
本発明検定方法の第一工程において被験物質と接触させるPEMTの形態は、(i)PEMTの精製物、粗精製物等であってもよいし、また(ii)細胞内に含有されるPEMT(例えば、PEMTのアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子が導入されてなる形質転換細胞に被験物質を接触させる方法である場合)等であってもよい。さらに細胞は、組織から分離された状態の細胞であってもよいし、また同一の機能・形態を持つ集団を形成している状態の細胞であってもよい。
例えば、上記(i)の場合には、被験物質と接触させるPEMTの濃度は、例えば、1ng/ml以上で、好ましくは10ng/ml以上である。
また上記(ii)の場合には、被験物質と接触させるPEMTの濃度は、例えば、本形質転換細胞の濃度として1x103細胞/ml以上で、好ましくは1x104細胞/ml以上である。
上記(i)の場合には、本発明検定方法の感度を高めるために、例えば、第一工程における接触系内に、Triton X−100等の非イオン性界面活性剤を添加することがよい。例えば、Triton X−100の場合には、その添加濃度は、例えば、0.1mM以上で、好ましくは0.5mM〜2mMである。 上記(ii)の場合には、反応基質として、SAMの代わりにメチオニンを使用することも可能である。
本発明検定方法の第一工程における、ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ(即ち、PEMT)の活性を測定する方法としては、PEMT、被験物質及び基質を含有する混合液を一定時間反応させた後、当該反応における原料物の減少量を分析する方法、あるいは、当該反応における生成物の増加量を分析する方法、のいずれの方法でもよい。
PEMTの酵素活性は、例えば、以下に示すMethods Enzymol. 1992;209:366-374、又はJ. Biol. Chem. 257(11), 6362-6367(1982) 等に記載された方法で測定することができる。
まず、125mM トリス−塩酸バッファー(pH 9.2);5mM ジチオスレイトール(以下、DTTと記す);1mM Triton X-100;2mM PE、0.4mM PMMEもしくは0.4mM PDME;及び0.2mM [3H]SAMを含む反応原液に酵素標品を加え全量を0.15mlとした反応液を37℃で保温する。所定時間後に2mlのクロロホルム・メタノール(2:1)溶液を用いて該反応液から脂質成分を抽出し、該抽出液中の反応生成物(PMME、PDMEもしくはPC)を薄層クロマトグラフィー(以下、TLCと記す)を用いて分析・定量する。
あるいは、ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ活性を有する細胞(例えば、生体組織から分離した肝細胞等)の培養液に、[3H]SAM又は[3H]メチオニン(細胞内において[3H]SAMに変換される)を添加してそのまま培養し、所定時間後にクロロホルム−メタノール(2:1)溶液を用いて該細胞から脂質成分を抽出後、該抽出液中の反応生成物(PMME、PDMEもしくはPC)をTLCを用いて分析・定量してもよい。
本発明検定方法の第一工程における活性測定時の反応温度は、例えば、15℃〜70℃であればよく、好ましくは20℃〜40℃である。反応時間は、例えば、1分間以上で、好ましくは5分間〜10時間である。反応pHは、例えば、6.0〜10.0で、好ましくはpH7.0〜9.5である。
酵素反応における原料物又は生成物の検出には、反応液を、例えば、HPLC、薄層クロマトグラフィー、ペーパークロマトグラフィー等により分析する方法等を用いればよい。必要であれば、前記原料物又は生成物を、有機溶媒(例えば、クロロホルム/メタノール(2:1)混合液等)を用いて反応液から抽出してもよい。分析方法としては、例えば、前記原料物もしくは生成物のUV吸光度を測定する方法や、予めラジオアイソトープで標識した前記原料物を用いて放射活性を測定する方法等が挙げられる。
上記のようにして測定された活性と対照(即ち、基準物質、ネガティブコントロール等)における活性とを比較することにより得られる差異に基づき前記物質のインスリン作用促進能力を評価する。このようにして被験物質が有するインスリン作用促進能力の検定(本発明検定方法)を行うことができる。
本発明検定方法において、測定された活性と対照における活性とを比較する場合には、異なる2種以上の物質のうち、少なくとも一つの物質がインスリン作用促進能力を有さない物質(例えば、溶媒、バックグランドとなる試験系溶液等のネガティブコントロールであってもよい。)とすることで、他方の被験物質が有するインスリン作用促進能力を評価してもよいし、また前記異なる2種以上の物質のうち、少なくとも一つの物質(例えば、基準物質)が有するインスリン作用促進能力を基準としながら他方の被験物質が有するインスリン作用促進能力を評価してもよい。もちろん両者で評価してもよい。
より具体的には、例えば、本発明検定方法の第一工程が、前記(A)2種の基質(例えば、PDME及びSAM)と被験物質との3者がPEMTと接触する形態の場合で、対照としてネガティブコントロールを用いた場合には、下記の式に従って阻害率を求めるとよい。

阻害率(%)={対照(ネガティブコントロール)値−測定(被験物質)値}x100/対照(ネガティブコントロール)値

そして算出された阻害率によりインスリン作用促進能力を評価すればよい。
一方、本発明検定方法の第一工程が、前記(A)2種の基質(例えば、PDME及びSAM)と被験物質との3者がPEMTと接触する形態の場合であって、対照として、インスリン作用促進能力を有する物質(基準物質)を用いた場合には、対照(基準物質)値と測定(被験物質)値を比較することで、インスリン作用促進能力を評価すればよい。この場合、測定(被験物質)値が対照(基準物質)値よりも低い値であれば、該被験物質は該基準物質よりもインスリン作用促進能力が高いと評価する。
また、例えば、本発明検定方法の第一工程が、前記(B)2種の基質のうちの一方(例えば、PDME又はSAM)と被験物質との2者がPEMTと接触する形態(すなわち、被験物質を前記2種の基質のうちの他の一方として取り扱う場合)である場合には、対照としてインスリン作用促進能力を有する物質(基準物質)を用い、対照(基準物質)値と測定(被験物質)値を比較することで、インスリン作用促進能力を評価すればよい。この場合、測定(被験物質)値が対照(基準物質)値よりも高い値であれば、当該被験物質は当該基準物質よりもPEMTの基質として優れていること、すなわち、当該被験物質は当該基準物質よりもPEMTの競合阻害剤として優れていることになる。
被験物質となり得るものとしては、特に制限されないが、核酸(PEMT遺伝子のアンチセンス核酸を含む)、ペプチド、タンパク質(PEMTに対する抗体を含む)、有機化合物、無機化合物などが挙げられる。スクリーニングは、具体的にはこれらの候補物質となり得る物質を被験物質として含む試料(被験試料)を上記組織/または細胞と接触させて行うことができる。かかる被験試料としては細胞抽出液、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物、合成ペプチド、天然化合物などが挙げられるが、これに制限されない。
前記(ii)において、細胞と接触させる被験物質の濃度は、通常約0.1μM〜約100μMであればよく、約1μM〜約50μMが好ましく、約1μM〜約10μMがより好ましい。当該細胞と被験物質とを接触させる時間は、通常、約1時間以上5日程度であり、数時間から4日程度が好ましい。好ましくは、18時間以上60時間程度であり、より好ましくは24時間から40時間程度が挙げられる。
前記工程(2)における「対照」とは、前記工程(1)の接触系内において、被験物質を接触させない場合を表す。「被験物質を接触させない場合」には、被験物質の代わりに被験物質と同量の溶媒(ブランク)を添加する場合や、PEMTの活性に影響を与えないネガティブコントロール物質を添加する場合も含まれる。
(II)PEMTの発現を指標とする検定方法
PEMTの発現を指標として、インスリン作用促進能力を検定することもできる。具体的には、(1)被験物質の存在下で、PEMT遺伝子を含有する細胞におけるPEMT遺伝子もしくはPEMTの発現量、又はPEMT遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子を含有する細胞における当該レポーター遺伝子の発現量を測定し、(2)対照における発現量と比較することにより得られる差異に基づき、PEMT、PEMT遺伝子もしくは前記レポーター遺伝子の発現を抑制する能力を指標として前記物質のインスリン作用促進能力を評価することができる。
ここで「PEMT遺伝子を含有する細胞」としては、肝臓組織から調製した肝臓細胞を挙げることができる。ここで、細胞の集合体である組織(例えば肝臓組織片)も、「細胞」の範疇に含まれる。由来動物種としては、ラット、マウス、モルモット等のげっ歯類哺乳動物、イヌ、サル、ヒト等が挙げられる。例えば、ラット肝臓細胞は当業者に公知のコラゲナーゼ潅流法を用いて単離することができる(J Cell Biol., 43:506-520, 1969)。
PEMT遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子は、当業者に公知の方法で調製すればよい。すなわち、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd edition」(1989),Cold Spring Harbor Laboratory Press、「Current Protocols In Molecular Biology」(1987),John Wiley & Sons,Inc.等に記載される方法に準じてPEMT遺伝子を含むプラスミドから、プロモーター活性を維持している発現制御領域を含む部分配列を、適当な制限酵素を用いて切り出し、レポーター遺伝子を含むプラスミド上に組み込むことができる。
レポーター遺伝子としては、グルクロニダーゼ(GUS)、ルシフェラーゼ、クロラムフェニコールトランスアセチラーゼ(CAT)、β-ガラクトシダーゼ及びグリーン蛍光タンパク質(GFP)等が挙げられる。
調製したPEMT遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子を、通常の遺伝子工学的手法を用いて、当該レポーター遺伝子を導入する細胞において使用可能なベクターに挿入し、プラスミドを作製し、適当な宿主細胞へ導入することができる。レポーター遺伝子に応じた選抜条件の培地で培養することにより、形質転換細胞を得ることができる。
また、レポーター遺伝子の発現量を測定する方法としては、個々のレポーター遺伝子に応じた方法を利用すればよい。例えば、レポーター遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子を用いる場合には、前記形質転換細胞を数日間培養後、当該細胞の抽出物を得、次いで当該抽出物をルシフェリンおよびATPと反応させて化学発光させ、その発光強度を測定することによりプロモーター活性を検出することができる。この際、ピッカジーンデュアルキット(登録商標;東洋インキ製)等の市販のルシフェラーゼ反応検出キットを用いることができる。
前記「PEMT遺伝子を含有する細胞」又は「PEMT遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子を含有する細胞」と被験物質との接触は、当該細胞が成育可能な条件で培養しながら行えばよく、例えば、哺乳動物細胞を宿主とする本発明形質転換細胞の場合、適宜ウシ胎児血清等の哺乳動物由来の血清を添加したD−MEM、OPTI−MEM、RPMI1640培地(Gibco−BRL製)等の市販の培地中で培養できる。
PEMT遺伝子の発現レベルの検出及び定量は、前記細胞から調製したRNA又はそれから転写された相補的なポリヌクレオチドを用いて、ノーザンブロット法、RT-PCR法など公知の方法で実施できる。具体的には、PEMT遺伝子の塩基配列において連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/又はその相補的なポリヌクレオチドをプライマーまたはプローブとして用いることによって、RNA中のPEMT遺伝子の発現の有無やその発現レベルを検出、測定することができる。そのようなプローブもしくはプライマーは、PEMT遺伝子の塩基配列をもとに、例えばprimer 3( HYPERLINK http://www.genome.wi.mit.edu/cgi-bin/primer/primer3.cgi http://www.genome.wi.mit.edu/cgi-bin/primer/primer3.cgi)あるいはベクターNTI(Infomax社製)を利用して設計することができる。
ノーザンブロット法を利用する場合、前記プライマーもしくはプローブを放射性同位元素(32P、33Pなど:RI)や蛍光物質などで標識し、それを、常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーした細胞由来のRNAとハイブリダイズさせた後、形成された前記プライマーもしくはプローブ(DNAまたはRNA)とRNAとの二重鎖を、前記プライマーもしくはプローブの標識物(RI若しくは蛍光物質)に由来するシグナルを放射線検出器(BAS-1800II、富士フィルム社製)または蛍光検出器で検出、測定する方法を例示することができる。また、AlkPhos Direct Labelling and Detection System (Amersham PharamciaBiotech社製)を用いて、該プロトコールに従って前記プローブを標識し、細胞由来のRNAとハイブリダイズさせた後、前記プローブの標識物に由来するシグナルをマルチバイオイメージャーSTORM860(Amersham Pharmacia Biotech社製)で検出、測定する方法を使用することもできる。
RT-PCR法を利用する場合は、細胞由来のRNAから常法に従ってcDNAを調製して、これを鋳型として標的のPEMT遺伝子の領域が増幅できるように、PEMT遺伝子の配列に基づき調製した一対のプライマー(上記cDNA(−鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)をこれとハイブリダイズさせて、常法に従ってPCR法を行い、得られた増幅二本鎖DNAを検出する方法を例示することができる。なお、増幅された二本鎖DNAの検出は、上記PCRを予めRIや蛍光物質で標識しておいたプライマーを用いて行うことによって産生される標識二本鎖DNAを検出する方法、産生された二本鎖DNAを常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーさせて、標識した前記プライマーをプローブとして使用してこれとハイブリダイズさせて検出する方法などを用いることができる。なお、生成された標識二本鎖DNA産物はアジレント2100バイオアナライザ(横河アナリティカルシステムズ社製)などで測定することができる。また、SYBR Green RT-PCR Reagents (Applied Biosystems 社製)で該プロトコールに従ってRT-PCR反応液を調製し、ABI PRIME 7900 Sequence Detection System (Applied Biosystems 社製)で反応させて、該反応物を検出することもできる。
PEMTの発現レベルの検出及び定量は、PEMTを認識する抗体(以下PEMT抗体と称する場合がある)を用いたウェスタンブロット法等の公知方法に従って定量できる。ウェスタンブロット法は、一次抗体としてPEMT抗体を用いた後、二次抗体として125Iなどの放射性同位元素、蛍光物質、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)等の酵素等で標識した一次抗体に結合する抗体を用いて標識し、これら標識物質由来のシグナルを放射線測定器(BAI-1800II:富士フィルム社製など)、蛍光検出器などで測定することによって実施できる。また、一次抗体として本発明の抗体を用いた後、ECL Plus Western Blotting Detection System(アマシャム ファルマシアバイオテク社製)を利用して該プロトコールに従って検出し、マルチバイオメージャーSTORM860(アマシャム ファルマシアバイオテク社製)で測定することもできる。
抗体は、その形態に特に制限はなく、前記PEMTを免疫抗原とするポリクローナル抗体であっても、またそのモノクローナル抗体であってもよく、さらには当該PEMTを構成するアミノ酸配列のうち少なくとも連続する、通常8アミノ酸、好ましくは15アミノ酸、より好ましくは20アミノ酸からなるポリペプチドに対して抗原結合性を有する抗体も、本発明の抗体に含まれる。本発明の抗体として、例えばヒトPEMTタンパク質またはそのホモログを認識する抗体を例示することができる。
これらの抗体の製造方法は、すでに周知であり、本発明の抗体もこれらの常法に従って製造することができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.12〜11.13)。具体的には、本発明の抗体がポリクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌等で発現し精製したPEMT用いて、あるいは常法に従って当該いずれかのPEMTの部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドを合成して、家兎等の非ヒト動物に免疫し、該免疫動物の血清から常法に従って得ることが可能である。一方、モノクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌等で発現し精製したPEMT、あるいはこれらタンパク質の部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドをマウス等の非ヒト動物に免疫し、得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞の中から得ることができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.4〜11.11)。
かかるポリペプチドに対する抗体の生成は、宿主に応じて種々のアジュバントを用いて免疫学的反応を高めることによって行うこともできる。限定はされないが、そのようなアジュバントには、フロイントアジュバント、水酸化アルミニウムのようなミネラルゲル、並びにリゾレシチン、プルロニックポリオル、ポリアニオン、ペプチド、油乳剤、キーホールリンペットヘモシアニン及びジニトロフェノールのような表面活性物質、BCG(カルメット−ゲラン桿菌)やコリネバクテリウム-パルヴムなどのヒトアジュバントなどがある。
被験物質となりえるものとしては、前記(I)と同じものが挙げられる。また、前記工程(2)における「対照」とは、前記工程(1)の接触系内において、被験物質を接触させない場合を表す。「被験物質を接触させない場合」には、被験物質の代わりに被験物質と同量の溶媒(ブランク)を添加する場合や、PEMTの発現に影響を与えないネガティブコントロール物質を添加する場合も含まれる。
本発明の第2の態様は、インスリン作用促進物質を探索する方法等に関する。
すなわち、本発明検定方法により評価されたインスリン作用促進能力に基づきインスリン作用促進能力を有する物質を選抜すればよい。
例えば、上記(A)の場合であって、対照としてネガティブコントロールを用いた場合には、被験物質のインスリン作用促進能力を評価するための指標となる阻害率が、統計学的に有意な値を示す物質、具体的に好ましくは、例えば、上記の式における阻害率が30%以上を示す物質、より好ましくは50%以上を示す物質を、インスリン作用促進能力を有する物質として選抜する。一方、上記(A)の場合であって、対照としてインスリン作用促進能力を有する物質(基準物質)を用いた場合には、測定(被験物質)値が対照(基準物質)値よりも低い値を示す物質をインスリン作用促進能力を有する物質として選抜する。また、例えば、上記(B)の場合には、測定(被験物質)値が対照(基準物質)値よりも高い値を示す物質をインスリン作用促進能力を有する物質として選抜する。尚、当該物質は、インスリン作用促進能力を有する限り、低分子化合物、蛋白質又はペプチド等のいかなる物質であってもよい。
又、本発明のホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼは、上記のように、インスリン作用促進能力を評価するための指標を提供する試薬として使用することができる。
本発明探索方法によって選抜された物質はインスリン作用促進能力を有しており、インスリン作用促進剤の有効成分として使用してもよい。
このような物質(即ち、ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ阻害能力を有する物質)として、例えば、3−デアザアデノシンを挙げることができる。
ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ阻害能力を有する物質またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する組成物は、インスリン作用促進剤(即ち、本発明インスリン作用促進剤)として有用であり、その有効量を経口的または非経口的にヒト等の哺乳動物に対し投与することができる。例えば、経口的に投与する場合には、本発明インスリン作用促進剤は錠剤、カプセル剤、シロップ剤、懸濁液等の通常の形態で使用することができる。また、非経口的に投与する場合には、本発明インスリン作用促進剤を溶液、乳剤、懸濁液等の通常の液剤の形態で使用することができる。前記形態の本発明インスリン作用促進剤を非経口的に投与する方法としては、例えば注射する方法、坐剤の形で直腸に投与する方法等を挙げることができる。
前記の適当な投与剤型は許容される通常の担体、賦型剤、結合剤、安定剤、希釈剤等にホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ阻害能力を有する物質またはその薬学的に許容される塩を配合することにより製造することができる。また注射剤型で用いる場合には、許容される緩衝剤、溶解補助剤、等張剤等を添加することもできる。
投与量は、投与される哺乳動物の年令、性別、体重、疾患の程度、本インスリン作用促進剤の種類、投与形態等によって異なるが、通常は経口の場合には成人で1日あたり有効成分量として約1mg〜約2g、好ましくは有効成分量として約5mg〜約1gを投与すればよく、注射の場合には成人で有効成分量として約0.1mg〜約500mgを投与すればよい。また、前記の1日の投与量を1回または数回に分けて投与することができる。
本発明インスリン作用促進剤の適用可能な疾患としては、例えば、インスリン抵抗性に伴う耐糖能低下、II型糖尿病、高脂血症、高コレステロール血症、高血圧、動脈硬化等の代謝性疾患や、冠動脈疾患、狭心症、心筋梗塞等の心血管障害等の疾患等をあげることができる。
このように、本発明では、肝細胞に、ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼの活性を阻害するために薬理学上有効な量のホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ阻害能力を有する物質を接触させることによりインスリン作用を促進することができる。
以下に、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(PEMT遺伝子の単離:配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子の単離)
human liver cDNA library(TaKaRa社製)1μlを鋳型にし、配列番号8で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号9で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド各20pmolをプライマーとして、TaKaRa Ex-Taqポリメラーゼ2U、TaKaRa Ex-Taqポリメラーゼ添付のバッファー 5μl及びTaKaRa Ex-Taqポリメラーゼ添付のdNTP mixture(2.5mM)4μlを含む50μlの反応液を調製し、94℃で1分間保温した。続けて、94℃、30秒間、65℃、30秒間、72℃、1分間の保温を1サイクルとするPCR反応を40サイクル行った後、72℃で5分間保温した。
得られたPCR反応産物を1%アガロースゲル電気泳動に供した(電気泳動バッファー;トリス−硼酸緩衝液(ナカライテスク製))。電気泳動後、約920bpのDNAバンドをゲルから切り出し、このDNA断片をSambrook, J.、Fritsch, E. F.、Maniatis, T.著:「Molecular Cloning Second Edition」、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989年)に記載されている方法により、プラスミドベクターpT7Blue(Novagen社)のEco RVサイトにクローニングした(pT7Blue−hPEMT2)。クローニングされたDNAの塩基配列を、Taq Dye Primer Cycle Sequencing KitおよびTaq Dye Deoxy Terminator Cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステムズ製)を用いてアプライドバイオシステムズ製の373A型のDNAシークエンサーにより決定した。該DNAは配列番号1で示される塩基配列からなり、該塩基配列は、配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードしていた。
このようにして配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子を単離した。
(配列番号2で示されるアミノ酸配列及びその部分配列からなる蛋白質の発現プラスミドの調製)
実施例1で精製・単離されたDNA(pT7Blue−hPEMT2)をKpnI及びXbaIで消化し、得られた約950bpの断片をpcDNA3.1(+)(インビトロジェン社製)のKpnI、XbaIサイトにサブクローニングし、配列番号2で示されるアミノ酸配列を有する蛋白質(hPEMT2(L))を産生させるための発現プラスミドpcDNA3.1(+)−hPEMT2(L)を得た。
一方、配列番号2で示されるアミノ酸配列における第38番目のアミノ酸から第236番目までのアミノ酸で示されるアミノ酸配列を有する蛋白質(hPEMT2(S))を産生させるための発現プラスミド(pcDNA3.1(+)−hPEMT2(S))は、実施例1において精製・単離されたDNA(pT7Blue−hPEMT2)を、Ssp I及びXba Iで消化し、得られた約850bpの断片をpcDNA3.1(+)(インビトロジェン社製)のEco RV、XbaIサイトにサブクローニングすることで得た。
(PEMTの調製:配列番号2で示されるアミノ酸配列及びその部分配列からなる蛋白質を含有する細胞抽出液の調製)
実施例2で得られたPEMT発現用プラスミド(pcDNA3.1(+)−hPEMT2(L)又はpcDNA3.1(+)−hPEMT2(S))をLipofectAMINE PLUS試薬キット(インビトロジェン社)を用い、当該試薬キットに添付される手順書に従って、McA−RH7777細胞(大日本製薬社)に導入した。該発現用プラスミドが導入されたMcA−RH7777細胞を、10%のウシ胎児血清(以下、FBSと記す。)及び10%のウマ血清(以下、HSと記す。)を含有するDMEM培地(以下、増殖培地と記す。)を用い、37℃、5%二酸化炭素条件下で24時間培養した。培養後、細胞をD−PBS(インビトロジェン社製)で1回洗浄した後、セルスクレイパーによりかき集め、これを遠心分離することにより細胞を回収した。回収された細胞を、50mMトリス−塩酸(pH 7.5)、1mMエチレンジアミン四酢酸(以下、EDTAと記す。)、150mM NaClを含む緩衝液(以下、緩衝液Aと記す。)に懸濁した。該懸濁液を超音波処理(氷冷下、15秒間×5回)することにより懸濁液中の細胞を破砕した後、得られた細胞破砕液を12000回転(TOMY MRX-150)、10分間、4℃で遠心分離した。得られた上清を細胞抽出液とした。
一方、対照(ネガティブコントロール)として、PEMT発現用プラスミドの代わりにpcDNA3.1(+)(インサートを含まないもの)を用いる以外は上記と同様の方法により、対照用細胞抽出液を調製した。
(ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ活性の測定)
実施例3にて得られた細胞抽出液50μgを活性測定用緩衝液(125mM Tris-HCl, pH7.5, 1mM TritonX-100, 1mM PDME, 0.5mM [3H]SAM)に添加して全量を100μlとし、37℃で20分間反応させた。500μlのクロロホルム/メタノール(2:1)を添加し、激しく懸濁して反応を止めた。遠心分離後、下層(有機溶媒層)を抽出し、遠心エバポレーターで濃縮乾固後、5μlのクロロホルム/メタノール(2:1)で再懸濁し、該懸濁液全量を薄層クロマトグラフィーにて分離した(薄層プレート:シリカゲル60(メルク社製)、移動相:クロロホルム/メタノール/酢酸/水(50:30:5:2))。プレートをヨウ素染色した後、ホスファチジルコリン(PC)相当部分のシリカゲルを切り取って回収し、液体シンチレーションカウンターで生成した[3H]PCの放射活性を測定した。結果を表1に示した。
Figure 2005185218
以上より、PEMT発現用プラスミドが導入された試験系では、対照(ネガティブコントロール)の試験系と比較して、生成するPC量が上昇したことから、調製した蛋白質がホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼの活性を示すことが確認された。
(PEMTを安定して発現する細胞株の樹立)
実施例2で得られたPEMT発現用プラスミド(pcDNA3.1(+)−hPEMT2(S))をLipofectAMINE PLUS試薬キット(インビトロジェン社)を用い、当該試薬キットに添付される手順書に従って、McA−RH7777細胞(大日本製薬社)に導入した。発現用プラスミドが導入されたMcA−RH7777細胞を、増殖培地を用い、37℃、5%二酸化炭素条件下で24時間培養した。該細胞を、600μg/mlのG418(ナカライテスク社製)を含む増殖培地(以下、選択培地と記す。)で培養し、適宜新しい選択培地に交換しながら2週間培養を続けた。培養後、出現したコロニーを単離し、各々について選択培地を用いて拡大培養を行った。得られた細胞株の各々について、一部を緩衝液Aに懸濁し、該懸濁液から実施例3と同様の方法で細胞抽出液を調製した。該細胞抽出液20μgを用い、実施例4記載の方法(但し、PDMEは0.5mM、[H]SAMは0.25mMに変更した。また、反応時間は15分とし、クロロホルム・メタノール抽出後の有機溶媒相を直接液体シンチレーションカクテルに添加し、液体シンチレーションカウンターで生成した[3H]PCの放射活性を測定した。)にて、各々の細胞株のホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ活性を測定した。最も活性の高い細胞株をPEMTを安定して発現する細胞株(以下、A4細胞と記す。)として樹立した。
一方、対照(ネガティブコントロール)として、PEMT発現用プラスミドの代わりにpcDNA3.1(+)(インサートを含まないもの)を用いる以外は上記の方法と同様の方法により、対照(ネガティブコントロール)用細胞株(以下、対照細胞と記す。)を樹立した。
対照細胞及びA4細胞の抽出液を用いてホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ活性を測定した結果を表2に示した。
Figure 2005185218
以上より、A4細胞の抽出液では、対照細胞の抽出液と比較して、生成するPC量が上昇したことから、A4細胞はPEMTを発現している細胞であることが確認された。
(PEMTのインスリン作用抑制率の測定)
実施例5にて樹立した対照細胞及びA4細胞を、6穴プレート(住友ベークライト社製)1穴当たり1.0 x 10細胞ずつ撒きこみ、0.5%のFBSを含有するDMEM培地で一晩培養した。翌日、DMEM培地に交換して2時間培養後、100nMのインスリンを含有するDMEM培地に交換して更に30分間培養した。D−PBSで細胞を1回洗浄後、細胞溶解液(100mM Tris-HCl, pH7.4, 100mM NaCl, 1mM EDTA, 1mM EGTA, 1mM NaF, 20mM Na4P2O7, 2mM Na3VO4, 1% Triton X-100, 10% glycerol, 0.1% SDS, 0.5% deoxycholate, 1mM PMSF)100μlを添加して細胞を溶解させた。該溶解液を氷冷下で15秒間超音波処理した後、12000回転(TOMY MRX−150)、4℃、5分間遠心分離を実施し、上清を回収した。該上清13μg相当をSDS−PAGE(第一化学社製、10/20%ゲル)にて分離後、抗リン酸化Akt抗体(Cell signaling社製)及びペルオキシダーゼ標識2次抗体(Cell signaling社製)を用いたイムノブロットを実施した。ECL検出キット(アマシャム社製)を用いてリン酸化Akt蛋白質を検出・定量した。これらの定量値から、PEMTのインスリン作用抑制率((対照細胞の定量値−A4細胞の定量値)/対照細胞の定量値×100)を算出した。結果を表3に示した。
Figure 2005185218
以上の結果より、ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ活性を有するA4細胞においては、ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ活性を示さない対照細胞に比較して、インスリン刺激によるAkt蛋白質のリン酸化量が減少していることから、PEMT活性を促進することによりインスリン作用が抑制されることが確認された。
(被験物質のインスリン作用促進能力の測定)
被験物質添加区については、被験物質を添加した状態で培養する以外は実施例6記載の方法と同様に実施し、各々の細胞(対照細胞及びA4細胞)のリン酸化Akt蛋白質量を定量した。一方、被験物質無添加区については、被験物質の代わりに被験物質を溶解している溶媒(ジメチルスルフォキシド。以下、DMSOと記す。)を添加したこと以外は同様の操作を行い、リン酸化Akt蛋白質量を定量した。これらの定量値から、被験物質のインスリン作用促進能力を促進率((被験物質添加区の定量値−被験物質無加区の定量値)×100/被験物質無加区の定量値)として算出した。表4に、細胞内においてホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ阻害能力を有することが公知である3−デアザアデノシン(J. Biol. Chem.257(11):6362-6367(1982))の、インスリン作用促進能力を評価するための指標となる促進率を示した。
Figure 2005185218
以上の結果より、ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ阻害能力を有する3−デアザアデノシンは、ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ活性を示さない対照細胞におけるインスリン作用は促進しないが、ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ活性を有するA4細胞のインスリン作用を促進することから、PEMT活性を阻害することによりインスリン作用が促進されることが確認された。
配列番号8:PCRのために設計されたプライマー
配列番号9 :PCRのために設計されたプライマー

Claims (12)

  1. ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼの発現又は活性の低下を指標とする、インスリン作用促進能力の検定方法。
  2. 以下の工程:
    (1)ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼと被験物質との接触系内における前記ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼの活性を測定する第一工程、及び
    (2)第一工程により測定された活性と対照における活性とを比較することにより得られる差異に基づき、ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼの活性を抑制する能力を指標として前記物質のインスリン作用促進能力を評価する第二工程、
    を有することを特徴とする請求項1記載の検定方法。
  3. インスリン作用促進能力が肝細胞におけるインスリン作用促進能力であることを特徴とする請求項1又は2記載の検定方法。
  4. インスリン作用促進能力がAkt蛋白質リン酸化促進能力であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の検定方法。
  5. ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼが哺乳動物由来であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の検定方法。
  6. インスリン作用促進能力を評価するための指標を提供する試薬としての、ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼの使用。
  7. 請求項1〜5のいずれか記載の検定方法により評価されたインスリン作用促進能力に基づき、ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼの発現もしくは活性を抑制する物質をインスリン作用促進能力を有する物質として選抜することを特徴とするインスリン作用促進物質の探索方法。
  8. 請求項7記載の探索方法により選抜された物質またはその薬学的に許容される塩を含有してなる組成物。
  9. 請求項7記載の探索方法により選抜された物質またはその薬学的に許容される塩を有効成分とすることを特徴とするインスリン作用促進剤。
  10. ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ阻害能力を有する物質またはその薬学的に許容される塩を有効成分とすることを特徴とするインスリン作用促進剤。
  11. ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ阻害能力を有する物質が3−デアザアデノシンであることを特徴とする請求項10記載のインスリン作用促進剤。
  12. 肝細胞に、ホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼの活性を阻害するために薬理学上有効な量のホスファチジルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ阻害能力を有する物質を接触させることを特徴とするインスリン作用促進方法。
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