JP2005154826A - 被削性の優れた溶製高剛性鋼 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】純鉄又は鉄合金よりなるマトリックス相中に、4A族元素、5A族元素、6A族元素及びFeを含むグループから選択される1種以上の元素を含むホウ化物又は/及びその複合化物を5〜25体積%分散させた鋼であり、分散させた上記ホウ化物又は/及びその複合化物にTiCを主体とする4A族、5A族、6A族元素の炭化物を加えた晶出物のうち、体積率で80体積%以上がTiB2、体積率で4〜11体積%がTiCであって、鋼全体のうちのC含有率が0.08〜0.20質量%である。
【選択図】図1
Description
なぜなら、軽量化は、例えば自動車、トラックなどの製品においては、製品を使用する際のエネルギー消費量を低下させ、省エネに大きな効果の得られることが客観的に証明されているからである。
しかしながら、軽量化を達成することは、大きな困難を伴うことが多い。すなわち、軽量化の達成を検討する際には、部品寸法を小さくしても、必要な強度が確保できているかという点と、実際の使用中に負荷される力によって生じる弾性変形量(撓み、ねじれ等)が問題とならないレベル以下に抑えられているかという点の解決が避けて通れないからである。
また、鉄鋼材料以外の材料への変更も考えられないわけではないが、Mg合金、Ti合金、Al合金等鉄合金より密度の小さい他の合金は、全て鉄鋼材料に比べヤング率が著しく低く、使用合金の変更によっても問題を解決することができないのである。従って、従来の技術では、使用中の負荷応力に耐えうる強度が得られていても、弾性変形量の面で問題があると、部品寸法を大きくして弾性変形量を小さく抑えるしか方法がなかった。しかし、これは当然の結果として質量の増加を招いてしまい、結果として当初の目的である軽量化を達成できなくなった。
この慣性力、遠心力、重力等は全て構造用部材の各部品の質量が増加するほど大きくなるという問題がある。従って、各部品の撓み等の変形量を小さくするためには、部品寸法を大きくすることなく、部品の剛性を高める以外に方法はなく、そのためには、高いヤング率を有する材料の開発が不可欠であった。
これらの3件の特許は、その内容に関し互いに若干の相違はあるが、3件共に共通している点は、鉄を主成分とするマトリックス中に高いヤング率を示すことがわかっている4A族元素、5A族元素のホウ化物を分散させることによって、高いヤング率を得ることを可能にしたことを特徴とするものである。
すなわち、炭素鋼、ニッケルクロム鋼、クロム鋼、クロムモリブデン鋼、ばね鋼、軸受鋼等多数の鋼材が記載されているが、粉末の焼結による製造方法では起きなかった問題であって、溶製法による製造をする場合に起きる問題点についての検討が十分にされていない。本発明者等が、実際に試作テストを繰返して調査した結果、溶製法を適用して高剛性鋼を製造する場合においては、製造可能な範囲がかなり狭められ、その範囲内で製造しないと品質の良い高剛性鋼が得られないことが判明した。
即ち、特許文献1〜4に記載の鋼は、ヤング率の高い鋼を製造することを重点に発明の構成が検討されているが、その一方で加工性に関する検討が十分とは言えない。実際に高剛性鋼を使用する場合には、他の鋼を使用する場合と同様に最終製品形状に仕上げる際に機械加工することは必須となるため、機械加工が可能な鋼でないと実用化が難しい。
従って、高いヤング率を達成可能とするために、分散させているホウ化物の量を増加していくと、機械加工時の工具への負担は大きく増加し、工具寿命が短くなってしまうため、他の構造用鋼の被削性のレベルと比較しても、極めて機械加工が難しい材料となっていた。しかしながら、高剛性鋼の利用を広げていくためには、その被削性を改善する技術開発が不可欠であり、新技術の開発が必要となっていた。
次に請求項1で指定した各条件の限定理由について、以下に説明する。
なお、TiCは後述するようにTiB2が晶出する際に核となるため、そのために必要なTiCを生成させるためにも、Cは少量含有させておく必要がある。
これは、Ti以外のホウ化物が増加し、例えば(Mo、Fe)B2、(Cr、Fe)B等の生成量が増加すると、ホウ化物を分散させる前の鋼に比べればヤング率は上昇するが、TiB2が80体積%以上確保できている場合に比べ、ヤング率向上効果が小さくなるためである。
また、これらのホウ化物が増加すると、熱間加工性、鋳造性も低下して溶製法による製造が困難になるという問題も生じる。従って、Tiを主体とするホウ化物を主に分散させることにより、比重が小さい割に高いヤング率を有し、溶製法による製造がしやすい高剛性鋼を得ることができる。
また、ここで言うTiB2には、後述のTi炭ホウ化物は含まれない。Ti炭ホウ化物を除いて、TiB2を80体積%以上とすることが必要である。
なお、ここで言うTiCとは、EPMA分析した際にTiとCが共に高濃度で検出される領域を指し、前記したTi、C以外にBも検出される領域(すなわち、Ti炭ホウ化物が晶出している領域)も含まれる。
これに対し、粉末法の場合には、原料粉末をよく混合することにより、かなり均一にすることが可能であるので、溶製法に比べ有利である。また、溶製法では、ホウ化物を多量に添加した場合、熱間加工性が低下して、圧延、鍛造による所定形状への加工が困難になるという問題もある。従って、分散させるホウ化物量の上限を厳しく限定した点は特許文献4と全く同様である。また、多量に添加するほどヤング率、強度が共に上昇するが、伸び、絞りは低下して熱間加工性が低下するので、注意が必要である。
本発明による高剛性鋼は、真空誘導溶解炉等の減圧した閉空間内で溶解することのできる炉を用いて原料を溶解することにより製造する。具体的には、閉空間内の気圧を250Pa(約1.9torr)以下とするのが望ましい。気圧の上限を250Paとしたのは、溶鋼表面が大気と接触すると、大気との接触面において酸化膜が生成され、鋳型内への注湯が難しくなるからである。
一方、この酸化膜を溶解させようとすると、通常の鋼の溶解温度よりもかなり高温に上げなくてはならず、エネルギーを浪費するとともに、温度を上げて溶解できたとしても製造された鋼は酸化物系介在物を多く含んだ状態となるため、結果として様々な特性が低下するという問題が生じる。
この理由は、ひとつにはマトリックスとなる鋼を先に製造することにより、品質の安定した鋼を製造可能とするため、ふたつには鉄−ホウ素系に存在する比較的低温の共晶反応を利用して、容易かつ低エネルギーで溶解させるためである。さらには、特に最後にTiを多く含む合金を添加する場合、最終添加から出湯までの時間を短縮して、Tiの酸化物が生成することをできるだけ、抑制するねらいもある。
また、TiB2を微細に晶出させるためには、その核となるTiCを優先的に晶出させなければならない。このため、鋳型内での冷却速度を適切に調整する必要があり、具体的には10K/分より遅い速度とすることが好ましい。
本発明では、前記したように、TiCの生成によるTiB2の晶出形状の変化及びそれによる被削性への影響がポイントとなる。そこで、TiCの生成量に最も影響が大きいC量を変化させてその影響を調査した。また、従来から被削性向上元素として知られているS、Pb、Ca、Mgが、高剛性鋼に対しても同様に被削性改善効果を得ることができるかを確認するために、これらの元素を添加したものについても同様に評価を行った。
但し、S含有率の高い8、9鋼は、他の鋼と同様の評価は実施したものの、熱間加工性が劣るので、実際の製造は難しいと考えられる。表1に供試材の化学成分を示す。なお、マトリックス成分は、C、前記した被削性改善元素以外の成分の添加量の狙い値は一定とし、ホウ化物であるTiB2の体積分率についても、15体積%で一定とした。
そして、製造された鋼塊を後述の各試験を行うのに適した寸法まで鍛伸し、760℃×2時間加熱後空冷の焼なまし処理を行った後、所定形状に機械加工して、試験を行った。
結果を表2に示す。
しかし、7鋼のように、C含有率を0.22質量%まで高めると、ヤング率は219GPaと明らかに低下する傾向がみられた。
この結果から、Tiホウ化物によるヤング率向上効果を得るには、Cを0.20質量%以下に抑制する必要があることがわかる。また、表2には記載していないが、C含有率が0.20質量%程度になると鋳造性、熱間加工性が低下して、製造が難しくなるので、その面からもC含有率は0.20質量%以下とする必要がある。
次にC含有率及びTiCの晶出量と被削性との関係を評価した実施例について説明する。
試験は前記供試材をφ65に鍛伸した後、機械加工によりφ60の丸棒を準備し、外周旋削試験を実施して評価した。詳細な試験条件を表3に示す。
従って、C増量による効果は、工具への付着物が少ない速度の範囲の中で切削速度が遅い条件の場合(この実施例では、切削速度40m/分の場合)に大きな効果が得られるということができる。
図1〜図6は、本発明鋼である3鋼(C含有率0.10重量、TiC:5.6体積%)と比較鋼である6鋼(C含有率0.07質量%、TiC:3.7体積%)のTiB2の晶出状態を比較した写真である。
図1は3鋼のそれぞれ表層域、図2はD/4域、図3は中心域の写真である。図4は6鋼のそれぞれ表層域、図5はD/4域、図6は中心域の写真である。
これを具体的に定量的に評価するため、TiB2の長さ分布を測定した結果を表5に示す。測定は、前記した旋削試験に用いた試験片と同じ方法で準備したものを用意し、中心域、D/4域、表層域のそれぞれについて、TiB2を無作為に50個ずつ選び、その長さを測定するという方法で行った。
3鋼と6鋼のC含有率の差はわずか0.03質量%であることから、C含有率のわずかの差が、TiB2の晶出形状に大きな影響を与えたことがこの結果より確認できた。なお、ここでは、3鋼と6鋼のみしかデータを示していないが、他の鋼についても同様の結果が得られ、3鋼に比べさらにC含有率の高い4、5鋼はより一層TiB2が微粒化していることが確認できた。
本発明では、Cの増量という従来全く気づいていなかった方法によって高剛性鋼の被削性を大幅に改善することが可能となり、容易に加工ができるというレベルではないものの、切削速度等の条件の最適化によって、加工が可能なレベルまで改善することができた点でその意義は極めて大きいものである。
Claims (1)
- 純鉄又は鉄合金よりなるマトリックス相中に、4A族元素、5A族元素、6A族元素及びFeを含むグループから選択される1種以上の元素を含むホウ化物又は/及びその複合化物を5〜25体積%分散させた鋼であり、分散させた上記ホウ化物又は/及びその複合化物にTiCを主体とする4A族、5A族、6A族元素の炭化物を加えた晶出物のうち、体積率で80体積%以上がTiB2、体積率で4〜11体積%がTiCであって、鋼全体のうちのC含有率が0.08〜0.20質量%であることを特徴とする被削性の優れた溶製高剛性鋼。
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